(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】窒化物半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/337 20060101AFI20221012BHJP
H01L 21/338 20060101ALI20221012BHJP
H01L 29/808 20060101ALI20221012BHJP
H01L 29/812 20060101ALI20221012BHJP
H01L 29/778 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
H01L29/80 V
H01L29/80 H
(21)【出願番号】P 2020507466
(86)(22)【出願日】2019-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2019007406
(87)【国際公開番号】W WO2019181391
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2021-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2018054381
(32)【優先日】2018-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、環境省、未来のあるべき社会ライフスタイルを創造する技術イノベーション事業委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】小川 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】柴田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】田村 聡之
【審査官】恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/138505(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/122135(WO,A1)
【文献】特開2011-082397(JP,A)
【文献】国際公開第2012/049892(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/337
H01L 21/338
H01L 29/778
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに背向する第1の主面及び第2の主面を有する基板と、
前記第1の主面の上方に設けられた、第1の導電型を有する第1の窒化物半導体層と、
前記第1の窒化物半導体層の上方に設けられた、前記第1の導電型とは異なる第2の導電型を有する第2の窒化物半導体層と、
前記第2の窒化物半導体層を貫通し、前記第1の窒化物半導体層にまで達する第1の開口部と、
前記第2の窒化物半導体層の上方に、及び、前記第1の開口部の内面に沿って設けられた電子走行層と、
前記電子走行層の上方で、かつ、前記第1の開口部を覆うように設けられたゲート電極と、
前記第2の窒化物半導体層に接続されたソース電極と、
前記第2の主面側に設けられたドレイン電極と、
前記第1の開口部において前記第2の窒化物半導体層と前記電子走行層との間に設けられた、窒化物半導体からなり、前記第2の窒化物半導体層よりも抵抗値が高い高抵抗層とを備える
窒化物半導体装置。
【請求項2】
前記高抵抗層は、鉄を含む
請求項1に記載の窒化物半導体装置。
【請求項3】
前記高抵抗層は、炭素を含む
請求項1に記載の窒化物半導体装置。
【請求項4】
前記高抵抗層の炭素濃度は、前記電子走行層の炭素濃度より高い
請求項3に記載の窒化物半導体装置。
【請求項5】
前記第1の開口部は、底部と、側壁部とを含み、
前記高抵抗層は、前記側壁部から前記底部の一部に亘って設けられている
請求項1~4のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項6】
さらに、
前記ゲート電極と前記電子走行層との間に設けられた、前記第2の導電型の第3の窒化物半導体層を備える
請求項1~5のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項7】
前記基板を平面視した場合に、前記ゲート電極の端部は、前記第1の開口部の端部よりも前記ソース電極に近い位置に位置している
請求項1~6のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項8】
さらに、
前記ゲート電極から離れた位置において、前記電子走行層を貫通し、前記第2の窒化物半導体層にまで達する第2の開口部を備え、
前記ソース電極は、前記第2の開口部に設けられている
請求項1~7のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化物半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN(窒化ガリウム)などの窒化物半導体は、バンドギャップが大きいワイドギャップ半導体であり、絶縁破壊電界が大きく、電子の飽和ドリフト速度がGaAs(ヒ化ガリウム)半導体又はSi(シリコン)半導体などに比べて大きいという特長を有している。このため、高出力化、かつ、高耐圧化に有利な窒化物半導体を用いたパワートランジスタの研究開発が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、GaN系積層体に形成された半導体装置が開示されている。特許文献1に記載の半導体装置は、GaN系積層体に設けられた開口部を覆うように位置する再成長層と、再成長層に沿って再成長層上に位置するゲート電極とを備える縦型の電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)である。再成長層に発生する二次元電子ガス(2DEG:2-Dimensional Electron Gas)によってチャネルが形成され、移動度が高く、オン抵抗が低いFETが実現されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
縦型の電界効果トランジスタでは、ゲート電極とソース電極とが近くに設けられているため、ゲート-ソース間にリーク電流が流れる恐れがある。
【0006】
そこで、本開示は、リーク電流が抑制された窒化物半導体装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本開示の一態様に係る窒化物半導体装置は、互いに背向する第1の主面及び第2の主面を有する基板と、前記第1の主面の上方に設けられた、第1の導電型を有する第1の窒化物半導体層と、前記第1の窒化物半導体層の上方に設けられた、前記第1の導電型とは異なる第2の導電型を有する第2の窒化物半導体層と、前記第2の窒化物半導体層を貫通し、前記第1の窒化物半導体層にまで達する第1の開口部と、前記第2の窒化物半導体層の上方に、及び、前記第1の開口部の内面に沿って設けられた電子走行層と、前記電子走行層の上方で、かつ、前記第1の開口部を覆うように設けられたゲート電極と、前記第2の窒化物半導体層に接続されたソース電極と、前記第2の主面側に設けられたドレイン電極と、前記第1の開口部において前記第2の窒化物半導体層と前記電子走行層との間に設けられた、窒化物半導体からなり、前記第2の窒化物半導体層よりも抵抗値が高い高抵抗層とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、リーク電流が抑制された窒化物半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施の形態1に係る窒化物半導体装置の平面レイアウトを示す平面図である。
【
図2】
図2は、実施の形態1に係る窒化物半導体装置の断面図である。
【
図3】
図3は、実施の形態1に係る窒化物半導体装置の高抵抗層のFeドーズ量とチャネルを流れる電流値との関係を示す図である。
【
図4A】
図4Aは、実施の形態1に係る窒化物半導体装置の製造方法において、窒化物半導体の積層工程を示す断面図である。
【
図4B】
図4Bは、実施の形態1に係る窒化物半導体装置の製造方法において、レジストのパターニング工程を示す断面図である。
【
図4C】
図4Cは、実施の形態1に係る窒化物半導体装置の製造方法において、ゲート開口部の形成工程を示す断面図である。
【
図4D】
図4Dは、実施の形態1に係る窒化物半導体装置の製造方法において、イオン注入時のマスク用のレジストのパターニング工程を示す断面図である。
【
図4E】
図4Eは、実施の形態1に係る窒化物半導体装置の製造方法において、イオン注入工程を示す断面図である。
【
図4F】
図4Fは、実施の形態1に係る窒化物半導体装置の製造方法において、窒化物半導体の再成長工程を示す断面図である。
【
図4G】
図4Gは、実施の形態1に係る窒化物半導体装置の製造方法において、ゲート電極の形成工程を示す断面図である。
【
図5】
図5は、実施の形態1の変形例に係る窒化物半導体装置の断面図である。
【
図6】
図6は、実施の形態2に係る窒化物半導体装置の断面図である。
【
図7A】
図7Aは、実施の形態2に係る窒化物半導体装置の製造方法において、高抵抗層の成膜工程を示す断面図である。
【
図7B】
図7Bは、実施の形態2に係る窒化物半導体装置の製造方法において、レジストのパターニング工程を示す断面図である。
【
図7C】
図7Cは、実施の形態2に係る窒化物半導体装置の製造方法において、高抵抗層のエッチング工程を示す断面図である。
【
図7D】
図7Dは、実施の形態2に係る窒化物半導体装置の製造方法において、窒化物半導体の再成長工程を示す断面図である。
【
図7E】
図7Eは、実施の形態2に係る窒化物半導体装置の製造方法において、ゲート電極の形成工程を示す断面図である。
【
図8】
図8は、実施の形態2の変形例に係る窒化物半導体装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の概要)
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る窒化物半導体装置は、互いに背向する第1の主面及び第2の主面を有する基板と、前記第1の主面の上方に設けられた、第1の導電型を有する第1の窒化物半導体層と、前記第1の窒化物半導体層の上方に設けられた、前記第1の導電型とは異なる第2の導電型を有する第2の窒化物半導体層と、前記第2の窒化物半導体層を貫通し、前記第1の窒化物半導体層にまで達する第1の開口部と、前記第2の窒化物半導体層の上方に、及び、前記第1の開口部の内面に沿って設けられた電子走行層と、前記電子走行層の上方で、かつ、前記第1の開口部を覆うように設けられたゲート電極と、前記第2の窒化物半導体層に接続されたソース電極と、前記第2の主面側に設けられたドレイン電極と、前記第1の開口部において前記第2の窒化物半導体層と前記電子走行層との間に設けられた、窒化物半導体からなり、前記第2の窒化物半導体層よりも抵抗値が高い高抵抗層とを備える。
【0011】
これにより、第2の窒化物半導体層と電子走行層との間に高抵抗層が設けられているので、ソース電極から第2の窒化物半導体層及び電子走行層を介してゲート電極に至るリーク電流が高抵抗層によって抑制される。例えば、高抵抗層が絶縁層として機能することで、リーク電流の経路が実質的に遮断され、リーク電流を十分に低減することができる。したがって、本態様によれば、リーク電流が抑制された窒化物半導体装置が提供される。
【0012】
また、例えば、前記高抵抗層は、鉄を含んでもよい。
【0013】
これにより、窒化物半導体に鉄を含ませることにより、高抵抗層の抵抗を高くすることができるので、リーク電流をより低減することができる。また、高抵抗層は、イオン注入などによって所望の領域に所望の形状で容易に形成することができる。例えば、イオン注入によれば、鉄イオンが注入された領域の窒化物半導体の結晶構造が破壊されるので、当該領域を高抵抗化することができる。イオン注入によれば、高抵抗層の抵抗値及び形状などを精度良く調整できるので、リーク電流の抑制効果の信頼性を高めることができる。
【0014】
また、例えば、前記高抵抗層は、炭素を含んでもよい。
【0015】
これにより、窒化物半導体に炭素を含ませることにより、不純物を含まない窒化物半導体よりも抵抗が高い高抵抗層が形成されるので、リーク電流を低減することができる。例えば、炭素を含む窒化物半導体は、再成長によって所望の領域に均一な厚さで容易に形成することができる。
【0016】
また、例えば、前記高抵抗層の炭素濃度は、前記電子走行層の炭素濃度より高くてもよい。
【0017】
これにより、炭素濃度が高い程、高抵抗層の抵抗を高めることができる。したがって、リーク電流の低減効果を高めることができる。
【0018】
また、例えば、前記第1の開口部は、底部と、側壁部とを含み、前記高抵抗層は、前記側壁部から前記底部の一部に亘って設けられていてもよい。
【0019】
これにより、第1の開口部の内面の側壁部から底部の一部に亘って設けられているので、側壁部と底部との境界部分に電界が集中するのを抑制することができる。電界集中が抑制されることで、窒化物半導体装置の耐圧を高めることができる。
【0020】
また、例えば、本開示の一態様に係る窒化物半導体装置は、さらに、前記ゲート電極と前記電子走行層との間に設けられた、前記第2の導電型の第3の窒化物半導体層を備えてもよい。
【0021】
これにより、第3の窒化物半導体層によってゲート電極の直下のキャリア濃度を低減することができ、窒化物半導体装置の閾値電圧を正側にシフトさせることができる。したがって、本態様に係る窒化物半導体装置を、ノーマリオフ型のFETとして実現することができる。
【0022】
また、例えば、前記基板を平面視した場合に、前記ゲート電極の端部は、前記第1の開口部の端部よりも前記ソース電極に近い位置に位置していてもよい。
【0023】
これにより、再成長層に形成されるチャネルの制御性を高めることができる。
【0024】
また、例えば、本開示の一態様に係る窒化物半導体装置は、さらに、前記ゲート電極から離れた位置において、前記電子走行層を貫通し、前記第2の窒化物半導体層にまで達する第2の開口部を備え、前記ソース電極は、前記第2の開口部に設けられていてもよい。
【0025】
これにより、ソース電極及びドレイン電極間に印加される電圧によって、第2の窒化物半導体層と第1の窒化物半導体層との界面近傍に空乏層を形成することができる。空乏層が形成されることにより、ソース-ドレイン間のリーク電流の発生を抑制することができる。したがって、窒化物半導体装置の耐圧を高めることができる。
【0026】
以下では、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0027】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0028】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、例えば、各図において縮尺などは必ずしも一致しない。また、各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0029】
また、本明細書において、平行又は垂直などの要素間の関係性を示す用語、及び、長方形又は円形などの要素の形状を示す用語、並びに、数値範囲は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する表現である。
【0030】
また、本明細書において、「上方」及び「下方」という用語は、絶対的な空間認識における上方向(鉛直上方)及び下方向(鉛直下方)を指すものではなく、積層構造における積層順を基に相対的な位置関係により規定される用語として用いる。本明細書では、基板を基準としてゲート電極及びソース電極などが設けられた側を「上方」、ドレイン電極が設けられた側を「下方」としている。また、「上方」及び「下方」という用語は、2つの構成要素が互いに間隔を空けて配置されて2つの構成要素の間に別の構成要素が存在する場合のみならず、2つの構成要素が互いに密着して配置されて2つの構成要素が接する場合にも適用される。
【0031】
また、本明細書において、AlGaNとは、三元混晶AlxGa1-xN(0≦x≦1)のことを表す。以下、多元混晶は、それぞれの構成元素の配列、例えば、AlInN、GaInNなどのように略記される。例えば、窒化物半導体の1つであるAlxGa1-x-yInyN(0≦x≦1、0≦y≦1、x+y=1)は、AlGaInNと略記される。
【0032】
(実施の形態1)
[構成]
まず、実施の形態1に係る窒化物半導体装置の構成について、
図1及び
図2を用いて説明する。
【0033】
図1は、本実施の形態に係る窒化物半導体装置10の平面レイアウトを示す平面図である。
図2は、本実施の形態に係る窒化物半導体装置10の断面図である。
【0034】
ここで、また、
図1の(a)は、窒化物半導体装置10を上方から見たときの平面図である。
図1の(b)は、窒化物半導体装置10の1つの単位セル11を拡大して示している。
図2は、
図1のII-II線における本実施の形態に係る窒化物半導体装置10の断面を示している。
【0035】
図1の(a)に示すように、窒化物半導体装置10は、複数の単位セル11を備える。複数の単位セル11は、二次元状に並んで設けられている。複数の単位セル11はそれぞれ、互いに同じ構成を有する。1つの単位セル11の平面視形状は、六角形である。複数の単位セル11は、平面視において、充填配置された正六角形の頂点に複数の単位セル11の各々の中心が位置するように配置されている。
【0036】
単位セル11は、1つのソース電極34を中心に構成されている。
図2は、隣り合う2つの単位セル11の中心を通るII-II線における断面を示している。
【0037】
図2に示すように、窒化物半導体装置10は、基板12と、ドリフト層14と、第1の下地層16と、第2の下地層18と、第3の下地層20と、ゲート開口部22と、高抵抗層24と、電子走行層26と、電子供給層28と、ゲート電極30と、ソース開口部32と、ソース電極34と、ドレイン電極36とを備える。さらに、
図1の(a)に示すように、窒化物半導体装置10は、ゲート電極パッド38と、ソース電極パッド40とを備える。なお、
図1の(a)では、ソース電極パッド40の外形を破線で模式的に表している。
【0038】
窒化物半導体装置10は、GaN及びAlGaNなどの窒化物半導体を主成分とする半導体層の積層構造を有するデバイスである。具体的には、窒化物半導体装置10は、AlGaN膜とGaN膜とのヘテロ構造を有する。
【0039】
AlGaN膜とGaN膜とのヘテロ構造において、(0001)面で表されるc面上での自発分極又はピエゾ分極によって、ヘテロ界面には高濃度の二次元電子ガス(2DEG)42が発生する。このため、アンドープ状態であっても、当該界面には、1×1013cm-2以上のシートキャリア濃度が得られる特徴を有する。
【0040】
本実施の形態に係る窒化物半導体装置10は、AlGaN/GaNのヘテロ界面に発生する二次元電子ガス42をチャネルとして利用した電界効果トランジスタ(FET)である。具体的には、窒化物半導体装置10は、いわゆる縦型FETである。
【0041】
基板12は、窒化物半導体からなる基板であり、
図2に示すように、互いに背向する第1の主面12a及び第2の主面12bを有する。第1の主面12aは、ドリフト層14が形成される側の主面である。具体的には、第1の主面12aは、c面に略一致する。第2の主面12bは、ドレイン電極36が形成される側の主面である。基板12の平面視形状は、例えば矩形であるが、これに限らない。
【0042】
基板12は、例えば、厚さが300μmであり、キャリア濃度が1×1018cm-3であるn型のGaNからなる基板である。なお、n型及びp型は、半導体の導電型を示している。本実施の形態では、n型は、窒化物半導体の第1の導電型の一例である。p型は、第1の導電型とは極性が異なる第2の導電型の一例である。
【0043】
ドリフト層14は、基板12の第1の主面12aの上方に設けられた、第1の導電型を有する第1の窒化物半導体層の一例である。ドリフト層14は、例えば、厚さが8μmであり、キャリア濃度が1×1016cm-3であるn型のGaNからなる膜である。ドリフト層14は、基板12の第1の主面12aに接触して設けられている。
【0044】
第1の下地層16は、ドリフト層14の上方に設けられた、第1の導電型とは異なる第2の導電型を有する第2の窒化物半導体層の一例である。第1の下地層16は、例えば、厚さが400nmであり、キャリア濃度が1×1017cm-3であるp型のGaNからなる膜である。第1の下地層16は、ドリフト層14の上面に接触して設けられている。
【0045】
第1の下地層16は、ソース電極34とドレイン電極36との間のリーク電流を抑制する。例えば、第1の下地層16とドリフト層14とで形成されるpn接合に対して逆方向電圧が印加された場合、具体的には、ソース電極34よりもドレイン電極36が高電位となった場合に、ドリフト層14に空乏層が延びる。これにより、窒化物半導体装置10の高耐圧化が可能である。
【0046】
第2の下地層18は、第1の下地層16上に配置されている。第2の下地層18は、絶縁性又は半絶縁性の窒化物半導体により形成されている。第2の下地層18は、例えば、厚さが200nmであるアンドープGaNからなる膜である。第2の下地層18は、第1の下地層16に接触して設けられている。
【0047】
なお、ここで“アンドープ”とは、GaNの極性をn型又はp型に変化させるシリコン(Si)又はマグネシウム(Mg)などのドーパントがドープされていないことを意味する。本実施の形態では、第2の下地層18には、炭素がドープされている。具体的には、第2の下地層18の炭素濃度は、第1の下地層16の炭素濃度より高い。
【0048】
また、第2の下地層18には、成膜時に混入する珪素(Si)又は酸素(O)が含まれる場合がある。この場合に、第2の下地層18の炭素濃度は、珪素濃度又は酸素濃度より低い。例えば、第2の下地層18の炭素濃度は、例えば3×1017cm-3以上であるが、1×1018cm-3以上でもよい。第2の下地層18の珪素濃度又は酸素濃度は、例えば、5×1016cm-3以下であるが、2×1016cm-3以下でもよい。
【0049】
ここで、仮に、窒化物半導体装置10が第2の下地層18を備えない場合、ソース電極34とドレイン電極36との間には、n型の電子供給層28、電子走行層26及び第3の下地層20/p型の第1の下地層16/n型のドリフト層14という積層構造を有する。この積層構造は、寄生npn構造からなる寄生バイポーラトランジスタとなっている。
【0050】
窒化物半導体装置10がオフ状態である場合、第1の下地層16に電流が流れると、この寄生バイポーラトランジスタがオンしてしまい、窒化物半導体装置10の耐圧を低下させる場合がある。この場合、窒化物半導体装置10の誤動作が生じやすい。
【0051】
第2の下地層18は、この寄生npn構造が形成されることを抑制する。このため、寄生npn構造が形成されることによる、窒化物半導体装置10の誤動作を低減することができる。
【0052】
第3の下地層20は、第2の下地層18上に配置されている。第3の下地層20は、例えば、厚さが20nmのAl0.2Ga0.8Nからなる膜である。第3の下地層20は、第2の下地層18に接触して設けられている。
【0053】
第3の下地層20は、第1の下地層16からのMgなどのp型不純物の拡散を抑制する。仮にMgが電子走行層26中のチャネルにまで拡散した場合、二次元電子ガス42のキャリア濃度が低下してオン抵抗が増加する恐れがある。なお、Mgの拡散の程度は、エピタキシャル成長の成長条件などによっても異なる。このため、Mgの拡散が抑制されている場合には、窒化物半導体装置10は、第3の下地層20を備えなくてもよい。
【0054】
また、第3の下地層20は、電子走行層26と電子供給層28との界面に形成されるチャネルへの電子の供給機能を有してもよい。第3の下地層20は、例えば、電子供給層28よりもバンドギャップが大きい。
【0055】
ゲート開口部22は、第1の下地層16を貫通し、ドリフト層14にまで達する第1の開口部の一例である。具体的には、ゲート開口部22は、第3の下地層20の上面から、第3の下地層20、第2の下地層18及び第1の下地層16をこの順で貫通し、ドリフト層14まで達している。ゲート開口部22の底部22aは、ドリフト層14の上面である。本実施の形態では、
図2に示すように、ゲート開口部22の底部22aは、ドリフト層14と第1の下地層16との界面よりも下側に位置している。
【0056】
本実施の形態では、ゲート開口部22は、基板12から遠ざかる程、開口面積が大きくなるように形成されている。具体的には、ゲート開口部22の側壁部22bは、斜めに傾斜している。例えば、ゲート開口部22の断面形状は、逆台形、より具体的には、逆等脚台形である。なお、
図1の(b)では、ゲート開口部22の上端の輪郭を破線で示している。ゲート開口部22の底部22aの輪郭は、
図1の(b)に示す輪郭よりも一回り小さくなる。
【0057】
高抵抗層24は、ゲート開口部22において第1の下地層16と電子走行層26との間に設けられている。本実施の形態では、高抵抗層24は、ゲート開口部22の側壁部22bから底部22aの一部に亘って設けられている。具体的には、高抵抗層24は、ゲート開口部22の上端部、すなわち、第3の下地層20の上面の一部から、底部22aの一部に至るまで、側壁部22bの全面を覆うように設けられている。つまり、高抵抗層24は、第1の下地層16、第2の下地層18及び第3の下地層20の各々と電子走行層26との間に設けられている。
【0058】
より具体的には、
図2に示すように、高抵抗層24の上端部の上面は、第3の下地層20の上面と面一である。また、高抵抗層24の下端部の上面は、ドリフト層14の上面のうち、底部22aを形成する部分と面一である。高抵抗層24は、第3の下地層20の表層部分及び端面部分、第2の下地層18の端面部分、第1の下地層16の端面部分、並びに、ドリフト層14の表層部分の各々に埋め込まれたように形成されている。
【0059】
高抵抗層24は、第1の下地層16よりも抵抗値が高い。本実施の形態では、高抵抗層24は、第2の下地層18よりも抵抗値が高い。
【0060】
高抵抗層24は、窒化物半導体からなる。本実施の形態では、高抵抗層24は、鉄(Fe)を含んでいる。高抵抗層24は、例えば、鉄がドープされ、高抵抗化されたGaNからなる。高抵抗層24の厚さは、例えば50nmである。
【0061】
電子走行層26は、第1の下地層16の上方に、及び、ゲート開口部22の内面に沿って設けられた第1の再成長層である。具体的には、電子走行層26は、第3の下地層20の上面と、ゲート開口部22の側壁部22b及び底部22aとに沿って略均一な厚さで形成されている。電子走行層26は、例えば、厚さが100nmであるアンドープGaNからなる膜である。
【0062】
電子走行層26は、ゲート開口部22の底部22aにおいてドリフト層14に接触している。電子走行層26は、ゲート開口部22の側壁部22bにおいて高抵抗層24に接触している。さらに、電子走行層26は、第3の下地層20の上面に接触している。
【0063】
電子走行層26は、チャネルを有する。具体的には、電子走行層26と電子供給層28との界面の近傍には、二次元電子ガス42が発生する。二次元電子ガス42が電子走行層26のチャネルとして機能する。
図2では、二次元電子ガス42を模式的に破線で図示している。電子走行層26は、アンドープであるが、Siドープなどにより、n型化してもよい。
【0064】
また、図示しないが、本実施の形態では、電子走行層26と電子供給層28との間に、厚さが1nm程度のAlN膜が第2の再成長層として設けられている。AlN膜は、合金散乱を抑制し、チャネルの移動度を向上させることができる。
【0065】
電子供給層28は、第1の下地層16の上方に、及び、ゲート開口部22の内面に沿って設けられた第3の再成長層である。なお、電子走行層26と電子供給層28とは、基板12側からこの順で設けられている。電子供給層28は、電子走行層26の上面に沿った形状で略均一な厚さで形成されている。電子供給層28は、例えば、厚さが50nmのアンドープAl0.2Ga0.8Nからなる膜である。
【0066】
電子供給層28は、厚さが1nmのAlN膜を挟んで、電子走行層26との間でAlGaN/GaNのヘテロ界面を形成している。これにより、電子走行層26内に二次元電子ガス42が発生する。
【0067】
電子供給層28は、電子走行層26に形成されるチャネル(すなわち、二次元電子ガス42)への電子の供給を行う。なお、上述したように、本実施の形態では、第3の下地層20も電子の供給機能を有している。電子供給層28及び第3の下地層20はいずれも、AlGaNから形成されているが、このときのAl組成比は特に限定されない。例えば、電子供給層28のAl組成比は20%であってもよく、第3の下地層20のAl組成比は25%であってもよい。
【0068】
ゲート電極30は、電子走行層26の上方で、かつ、ゲート開口部22を覆うように設けられている。本実施の形態では、ゲート電極30は、電子供給層28の上面に沿った形状で、電子供給層28の上面に接触して略均一な厚さで形成されている。
【0069】
ゲート電極30は、金属などの導電性の材料を用いて形成されている。例えば、ゲート電極30は、パラジウム(Pd)を用いて形成されている。なお、ゲート電極30の材料としては、n型の半導体に対してショットキー接続される材料を用いることができ、例えば、ニッケル(Ni)系材料、タングステンシリサイド(WSi)、金(Au)などを用いることができる。
【0070】
ゲート電極30は、ソース電極34と接触しないように、平面視において離間させて形成されている。具体的には、
図1の(b)に示すように、ゲート電極30は、平面視において、ソース電極34を囲むように設けられている。より具体的には、ゲート電極30は、六角形のソース電極34に相当する開口が複数設けられた一枚の板状に形成されている。
【0071】
本実施の形態では、平面視において、ゲート電極30の端部は、ゲート開口部22の端部よりもソース電極34に近い位置に位置している。具体的には、平面視において、ゲート電極30の内側に、ゲート開口部22が設けられている。
【0072】
ソース開口部32は、ゲート電極30から離れた位置において、電子走行層26を貫通し、第1の下地層16にまで達する第2の開口部の一例である。具体的には、ソース開口部32は、電子供給層28、電子走行層26、第3の下地層20及び第2の下地層18をこの順で貫通し、第1の下地層16まで達している。本実施の形態では、
図2に示すように、ソース開口部32の底部32aは、第1の下地層16の上面である。底部32aは、第1の下地層16と第2の下地層18との界面よりも下側に位置している。ソース開口部32は、平面視において、ゲート開口部22から離れた位置に配置されている。
【0073】
図2に示すように、ソース開口部32は、開口面積が略一定に形成されている。具体的には、ソース開口部32の側壁部32bは、基板12の厚み方向に沿って略平行である。例えば、ソース開口部32の断面形状は、矩形である。あるいは、ソース開口部32の断面形状は、ゲート開口部22と同様に、逆台形であってもよい。
【0074】
本実施の形態では、ソース開口部32の開口形状、すなわち、平面視形状は、
図1の(b)に示すように、正六角形である。ソース開口部32の外周を囲むように設けられたゲート電極30との距離は略一定である。ソース開口部32の側壁部32bは、{1-100}面を有する。ここで、{1-100}面は、(1-100)面と、(1-100)面に等価な面とを総称したものである。
【0075】
ソース電極34は、ソース開口部32に設けられている。具体的には、ソース電極34は、ソース開口部32内を充填するように設けられている。
【0076】
ソース電極34は、第1の下地層16に接続されている。ソース電極34は、具体的には、電子供給層28、電子走行層26、第3の下地層20及び第2の下地層18の各々の端面に接続されている。ソース電極34は、電子走行層26及び電子供給層28に対してオーミック接続されている。
【0077】
ソース電極34は、金属などの導電性の材料を用いて形成されている。ソース電極34の材料としては、例えば、Ti/Alなど、n型の半導体層に対してオーミック接続される材料を用いることができる。
【0078】
ソース電極34が第1の下地層16に接続されていることで、第1の下地層16の電位を固定することができる。これにより、窒化物半導体装置10の動作を安定させることができる。
【0079】
また、Alは、p型の窒化物半導体からなる第1の下地層16に対してショットキー接続される。このため、ソース電極34の下層部分には、p型の窒化物半導体に対して低コンタクト抵抗となるPd又はNiなどの仕事関数の大きい金属材料を設けてもよい。これにより、第1の下地層16の電位をより安定させることができる。
【0080】
ドレイン電極36は、基板12の第2の主面12b側に設けられている。具体的には、ドレイン電極36は、第2の主面12bに接触して設けられている。ドレイン電極36は、金属などの導電性の材料を用いて形成されている。ドレイン電極36の材料としては、ソース電極34の材料と同様に、例えばTi/Alなど、n型の半導体層に対してオーミック接続される材料を用いることができる。
【0081】
ゲート電極パッド38は、ゲート電極30と電気的に接続されている。ゲート電極パッド38は、例えば、ゲート電極30より上方に設けられている。本実施の形態では、ゲート電極30が一枚の板状に形成されているので、
図1の(a)に示すように、ゲート電極パッド38は、窒化物半導体装置10の平面視における一部の領域のみに設けられている。ゲート電極パッド38には、ゲート電極30の制御用の電源が接続される。
【0082】
ソース電極パッド40は、複数のソース電極34の各々に電気的に接続されている。ソース電極パッド40は、ソース電極34の上方に設けられている。本実施の形態では、複数のソース電極34がそれぞれ、六角形の島状に形成されている。このため、ソース電極パッド40は、複数のソース電極34の各々を覆うように、窒化物半導体装置10の平面視において、ゲート電極パッド38を除いた大部分の領域に設けられている。
【0083】
以上のように、本実施の形態に係る窒化物半導体装置10では、電子走行層26と電子供給層28との界面がAlGaN/GaNのヘテロ界面となる。これにより、電子走行層26中に二次元電子ガス42が発生し、チャネルが形成される。二次元電子ガス42は、キャリア濃度が高いので、チャネルの移動度が高くなり、オン抵抗が低減される。
【0084】
また、本実施の形態では、電子走行層26と第1の下地層16との間に高抵抗層24が設けられているので、ソース電極34から、第1の下地層16及び電子走行層26を通ってゲート電極30に至るリーク電流を抑制することができる。このように、本実施の形態によれば、リーク電流が抑制された窒化物半導体装置10が実現される。
【0085】
図3は、本実施の形態に係る窒化物半導体装置10の高抵抗層24のFeドーズ量とチャネルを流れる電流値との関係を示す図である。
図3において、横軸は高抵抗層24のFeドーズ量(単位:cm
-2)を表し、縦軸は所定の電圧を印加した時にチャネルを流れるドレイン電流の最大値Imax(単位:A)を示している。
【0086】
図3に示されるように、高抵抗層24にFeを添加していない場合、すなわち、Feドーズ量が0の場合、ドレイン電流の最大値Imaxが約22Aであった。これに対して、高抵抗層24にFeを添加した場合、具体的には、Feドーズ量が3×10
13cm
-2及び1×10
14cm
-2の場合、ドレイン電流の最大値Imaxが27A~29A程度の値になった。このように、高抵抗層24にFeを添加し、高抵抗層24の抵抗値を高めることにより、ドレイン電流の最大値Imaxが約1.2倍増加していることが分かる。つまり、高抵抗層24を設けることにより、窒化物半導体装置10の大電流化を実現することができる。
【0087】
[製造方法]
続いて、本実施の形態に係る窒化物半導体装置10の製造方法について、
図4A~
図4Gを用いて説明する。
図4A~
図4Gは、本実施の形態に係る窒化物半導体装置10の製造方法の各工程を示す断面図である。
【0088】
以下では、窒化物半導体装置10を構成する各窒化物半導体層を、有機金属気相成長(MOVPE:Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)法によって成膜する場合を説明する。なお、窒化物半導体層の成膜方法は、これに限らず、例えば、分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法によって成膜してもよい。
【0089】
また、n型の窒化物半導体は、例えばシリコン(Si)を添加することにより形成される。p型の窒化物半導体は、マグネシウム(Mg)を添加することにより形成される。なお、n型不純物及びp型不純物は、これらに限られない。
【0090】
まず、第1の主面12aが(0001)面、すなわち、c面であるn型GaNからなる基板12を準備する。
図4Aに示すように、基板12の第1の主面12a上に、Siをn型不純物として添加したn型GaN膜13、Mgをp型不純物として添加したp型GaN膜15、アンドープGaN膜17、及び、アンドープAl
0.2Ga
0.8NからなるアンドープAlGaN膜19をこの順で成膜する。なお、n型GaN膜13、p型GaN膜15、アンドープGaN膜17及びアンドープAlGaN膜19はそれぞれ、所定形状にパターニングされることで、
図2に示すドリフト層14、第1の下地層16、第2の下地層18及び第3の下地層20になる。
【0091】
各層の厚さ及びキャリア濃度は、例えば、次の通りである。n型GaN膜13は、厚さが8μmであり、キャリア濃度が1×1016cm-3である。p型GaN膜15は、厚さが400nmであり、キャリア濃度が1×1017cm-3である。アンドープGaN膜17は、厚さが200nmである。アンドープAlGaN膜19は、厚さ20nmである。なお、これらの数値は一例に過ぎない。
【0092】
図4Bに示すように、アンドープAlGaN膜19上にレジストを塗布し、塗布したレジストをフォトリソグラフィによってパターニングすることで、レジストマスク90を形成する。レジストマスク90は、ゲート開口部22を形成するためのマスクであり、ゲート開口部22の平面視形状に応じた開口91を有する。
【0093】
次に、
図4Cに示すように、ドライエッチングによって、ゲート開口部22を形成する。ゲート開口部22は、アンドープAlGaN膜19、アンドープGaN膜17及びp型GaN膜15を貫通しており、n型GaN膜13が露出している。このとき、ゲート開口部22の底部22aは、基板12の第1の主面12aに平行である。ゲート開口部22の側壁部22bは、底部22aに対して、所定の傾斜角で傾斜している。傾斜角は、例えば、20°以上80°以下の範囲である。これにより、側壁部22b上に再成長層を均一な厚さで形成することができるので、チャネルの狭窄が抑えられ、キャリア濃度の低下及びオン抵抗の増加の両方を抑制することができる。
【0094】
次に、レジストマスク90を除去した後、アンドープAlGaN膜19上、及び、ゲート開口部22内に再びレジストを塗布する。
図4Dに示すように、塗布したレジストをフォトリソグラフィによってパターニングすることで、レジストマスク92を形成する。
【0095】
レジストマスク92は、高抵抗層24を形成するためのマスクである。レジストマスク92は、ゲート開口部22の側壁部22bより大きな開口93を有する。開口93は、側壁部22bの上端からアンドープAlGaN膜19の上面の一部から底部22aの一部にかけて設けられ、平面視において、少なくとも側壁部22bを露出させている。
【0096】
次に、レジストマスク92の開口93に露出した部分に、鉄イオンのイオン注入を行うことで、
図4Eに示すように、高抵抗層24を形成する。高抵抗層24は、アンドープAlGaN膜19、アンドープGaN膜17、p型GaN膜15及びn型GaN膜13の各々の、開口93に露出した部分に鉄がドープされた層である。なお、n型GaN膜13の高抵抗層24を除いた部分がドリフト層14になる。
【0097】
イオン注入の注入条件は、例えば加速エネルギー40keV、ドーズ量1×1014cm-2である。これにより、約50nmの厚さの高抵抗層24が形成される。鉄イオンが注入された領域、すなわち、高抵抗層24は、結晶構造が破壊されることにより、高抵抗化される。
【0098】
このとき、鉄イオンの代わりに、例えば、チタンイオン、クロムイオン、銅イオン又はニッケルイオンなどの、原子番号が大きい金属のイオンを利用してもよい。これにより、後工程における加熱処理による高抵抗層24の再結晶化を抑制することができ、高抵抗層24の抵抗値が大きくなる。
【0099】
次に、レジストマスク92を除去した後、
図4Fに示すように、ゲート開口部22の形状に沿って全面に、アンドープGaN膜25、アンドープAlN膜(図示せず)、及び、アンドープAlGaN膜27を、MOVPE法によってこの順で成膜する。アンドープGaN膜25及びアンドープAlGaN膜27はそれぞれ、所定形状にパターニングされることで電子走行層26及び電子供給層28になる。
【0100】
各層の厚さは、略均一であり、例えば、次の通りである、アンドープGaN膜25は、厚さが100nmである。アンドープAlN膜は、厚さが1nmである。アンドープAlGaN膜27は、厚さが50nmである。なお、これらの数値は一例に過ぎない。
【0101】
なお、高抵抗層24が窒化物半導体で形成されているので、アンドープGaN膜25、アンドープAlN膜(図示せず)及びアンドープAlGaN膜27の再成長による膜質が高められる。
【0102】
次に、ゲート開口部22を覆うように、Pdからなるゲート金属膜を蒸着法又はスパッタリング法などによって成膜する。
図4Gに示すように、成膜したゲート金属膜をパターニングすることで、ゲート電極30を形成する。
【0103】
さらに、ゲート電極30から離れた位置に、アンドープAlGaN膜27、アンドープAlN膜(図示せず)、アンドープGaN膜25、アンドープAlGaN膜19、及び、アンドープGaN膜17を貫通し、p型GaN膜15にまで達するソース開口部32を形成する。ソース開口部32の形成は、ゲート開口部22と同様に、フォトリソグラフィ及びドライエッチングによって形成される。アンドープAlGaN膜27、アンドープGaN膜25、アンドープAlGaN膜19、アンドープGaN膜17及びp型GaN膜15がそれぞれパターニングされることで、電子供給層28、電子走行層26、第3の下地層20、第2の下地層18及び第1の下地層16が形成される。
【0104】
続いて、ソース開口部32を埋めるように、TiとAuとからなるソース金属膜を蒸着法又はスパッタリング法などによって成膜し、パターニングすることで、ソース電極34を形成する。さらに、基板12の第2の主面12bに、TiとAlとからなるドレイン金属膜を蒸着法又はスパッタリング法などによって成膜し、必要に応じてパターニングすることで、ドレイン電極36を形成する。
【0105】
以上の工程を経て、
図2に示す窒化物半導体装置10が形成される。
【0106】
なお、ゲート電極30及びソース電極34を形成した後、絶縁膜を成膜し、複数のソース電極34の各々の一部、及び、ゲート電極30の一部を露出させるコンタクトホールを、成膜した絶縁膜に形成する。その後、金属膜を成膜してパターニングすることで、ゲート電極パッド38及びソース電極パッド40が形成される。
【0107】
[変形例]
ここで、本実施の形態に係る窒化物半導体装置10の変形例について、
図5を用いて説明する。
【0108】
図5は、本変形例に係る窒化物半導体装置110の断面図である。
図5に示されるように、窒化物半導体装置110は、
図2に示す窒化物半導体装置10と比較して、閾値制御層144を備える点が相違する。以下では、実施の形態との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略又は簡略化する。
【0109】
閾値制御層144は、ゲート電極30と電子走行層26との間に設けられた、第2の導電型の第3の窒化物半導体層の一例である。閾値制御層144は、電子供給層28上に設けられ、電子供給層28とゲート電極30とに接触している。
【0110】
本変形例では、基板12を平面視した場合に、閾値制御層144の端部は、ゲート電極30の端部よりもソース電極34に近い位置に位置している。閾値制御層144とソース電極34とは離間しており、接触していない。
【0111】
閾値制御層144は、例えば、厚さが100nmであり、キャリア濃度が1×1017cm-3であるp型のGaNからなる窒化物半導体層である。閾値制御層144は、電子供給層28を形成するアンドープAlGaN膜27の成膜から引き続いてMOVPE法によって成膜され、パターニングされることで形成される。
【0112】
本変形例によれば、閾値制御層144によって、チャネル部分の伝導帯端のポテンシャルが持ち上げられる。このため、窒化物半導体装置110の閾値電圧を大きくすることができる。したがって、窒化物半導体装置110をノーマリオフ型のFETとして実現することができる。
【0113】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。以下では、実施の形態1との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略又は簡略化する。
【0114】
[構成]
まず、本実施の形態に係る窒化物半導体装置の構成について、
図6を用いて説明する。
図6は、本実施の形態に係る窒化物半導体装置210の断面図である。
【0115】
図6に示すように、本実施の形態に係る窒化物半導体装置210は、実施の形態1に係る窒化物半導体装置10と比較して、高抵抗層24の代わりに、高抵抗層224を備える点が相違する。高抵抗層224は、実施の形態1に係る高抵抗層24と比較して、その形成方法が相違する。
【0116】
なお、高抵抗層224の形成方法の相違に伴って、ドリフト層14、第1の下地層16、第2の下地層18、第3の下地層20及び電子走行層26も実施の形態1とは、形状及び大きさが異なる場合があるが、以下では説明を省略する。
【0117】
高抵抗層224は、ゲート開口部22において第1の下地層16と電子走行層26との間に設けられている。本実施の形態では、高抵抗層224は、ゲート開口部22の側壁部22bから底部22aの一部に亘って設けられている。具体的には、高抵抗層224は、第3の下地層20の上面の全体を覆い、かつ、ゲート開口部22の上端から底部22aの一部に至るまで、側壁部22bの全面を覆うように設けられている。つまり、高抵抗層224は、第1の下地層16、第2の下地層18及び第3の下地層20の各々と電子走行層26との間に設けられている。高抵抗層24の端部は、ソース開口部32に露出しており、ソース電極34に接触している。
【0118】
高抵抗層224は、第1の下地層16よりも抵抗値が高い。本実施の形態では、高抵抗層224は、第2の下地層18よりも抵抗値が高い。
【0119】
高抵抗層224は、窒化物半導体からなる。本実施の形態では、高抵抗層224は、炭素(C)を含んでいる。高抵抗層224の炭素濃度は、例えば、電子走行層26の炭素濃度より高い。例えば、高抵抗層224の炭素濃度は、2×1018cm-3である。これに対して、電子走行層26の炭素濃度は、例えば、2×1016cm-3である。高抵抗層224の厚さは、例えば50nmである。高抵抗層224に含まれる炭素濃度が高い程、高抵抗層224を高抵抗化できる。
【0120】
以上のように、本実施の形態に係る窒化物半導体装置210によれば、実施の形態1と同様に、電子走行層26と第1の下地層16との間に高抵抗層224が設けられているので、ソース電極34から、第1の下地層16及び電子走行層26を通ってゲート電極30に至るリーク電流を抑制することができる。このように、本実施の形態によれば、リーク電流が抑制された窒化物半導体装置210が実現される。
【0121】
[製造方法]
続いて、実施の形態2に係る窒化物半導体装置210の製造方法について、
図7A~
図7Eを用いて説明する。
図7A~
図7Eは、本実施の形態に係る窒化物半導体装置210の製造方法の各工程を示す断面図である。
【0122】
本実施の形態に係る窒化物半導体装置210の製造方法は、
図4A~
図4Cを用いて説明したゲート開口部22の形成工程までは、実施の形態1に係る窒化物半導体装置10の製造方法と同じである。
【0123】
ゲート開口部22を形成し、レジストマスク90(
図4Cを参照)を除去した後、本実施の形態では、
図7Aに示すように、アンドープAlGaN膜19上、及び、ゲート開口部22内に、炭素濃度が高いGaN膜223をMOVPE法によって成膜する。GaN膜223の厚さは、例えば50nmであり、炭素濃度は2×10
18cm
-3である。
【0124】
なお、炭素濃度の高低は、例えば、MOVPE法に用いる原料を調整することで制御される。GaN膜の形成には、例えば、トリメチルガリウムが利用される。トリメチルガリウムに含まれるメチル基の炭素原子がGaN膜に多く取り込まれることによって、GaN膜の炭素濃度を高めることができる。例えば、結晶成長温度を下げることで、又は、原料の量を増やすことで、炭素濃度を高めることができる。
【0125】
次に、
図7Bに示すように、GaN膜223上にレジストを塗布し、塗布したレジストをフォトリソグラフィによってパターニングすることで、レジストマスク192を形成する。
【0126】
レジストマスク192は、GaN膜223をパターニングすることで、高抵抗層224を形成するためのマスクである。レジストマスク192は、ゲート開口部22の底部22aより小さい開口193を有する。
【0127】
次に、
図7Cに示すように、ドライエッチングによって、GaN膜223の一部を除去することによって、高抵抗層224を形成する。高抵抗層224の取り除かれた部分が、ドレイン電極36とソース電極34との間で、電子走行層26を介して流れる電流の経路となる。
【0128】
なお、高抵抗層224の、アンドープAlGaN膜19の上面に設けられた部分を除去してもよい。つまり、実施の形態1と同様に、アンドープAlGaN膜19の上面が露出していてもよい。
【0129】
次に、レジストマスク192を除去した後、
図7Dに示すように、ゲート開口部22の形状に沿って全面に、アンドープGaN膜25、アンドープAlN膜(図示せず)、及び、アンドープAlGaN膜27を、MOVPE法によってこの順で成膜する。アンドープGaN膜25及びアンドープAlGaN膜27はそれぞれ、所定形状にパターニングされることで電子走行層26及び電子供給層28になる。
【0130】
各層の厚さは、例えば、略均一であり、次の通りである、アンドープGaN膜25は、厚さが100nmである。アンドープAlN膜は、厚さが1nmである。アンドープAlGaN膜27は、厚さが50nmである。なお、これらの数値は一例に過ぎない。
【0131】
なお、高抵抗層224が窒化物半導体で形成されているので、アンドープGaN膜25、アンドープAlN膜(図示せず)及びアンドープAlGaN膜27の再成長による膜質が高められる。
【0132】
次に、ゲート開口部22を覆うように、Pdからなるゲート金属膜を蒸着法又はスパッタリング法などによって成膜する。
図7Eに示すように、成膜したゲート金属膜をパターニングすることで、ゲート電極30を形成する。
【0133】
さらに、ゲート電極30から離れた位置に、アンドープAlGaN膜27、アンドープAlN膜(図示せず)、アンドープGaN膜25、アンドープAlGaN膜19、及び、アンドープGaN膜17を貫通し、p型GaN膜15にまで達するソース開口部32を形成する。ソース開口部32の形成は、ゲート開口部22と同様に、フォトリソグラフィ及びドライエッチングによって形成される。アンドープAlGaN膜27、アンドープGaN膜25、アンドープAlGaN膜19、アンドープGaN膜17及びp型GaN膜15がそれぞれパターニングされることで、電子供給層28、電子走行層26、第3の下地層20、第2の下地層18及び第1の下地層16が形成される。
【0134】
続いて、ソース開口部32を埋めるように、TiとAuとからなるソース金属膜を蒸着法又はスパッタリング法などによって成膜し、パターニングすることで、ソース電極34を形成する。さらに、基板12の第2の主面12bに、TiとAlとからなるドレイン金属膜を蒸着法又はスパッタリング法などによって成膜し、必要に応じてパターニングすることで、ドレイン電極36を形成する。
【0135】
以上の工程を経て、
図6に示す窒化物半導体装置210が形成される。
【0136】
[変形例]
ここで、本実施の形態に係る窒化物半導体装置210の変形例について、
図8を用いて説明する。
【0137】
図8は、本変形例に係る窒化物半導体装置211の断面図である。
図8に示されるように、窒化物半導体装置211は、
図6に示す窒化物半導体装置210と比較して、閾値制御層144を備える点が相違する。以下では、実施の形態との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略又は簡略化する。
【0138】
閾値制御層144は、ゲート電極30と電子走行層26との間に設けられた、第2の導電型の第3の窒化物半導体層の一例であり、実施の形態1の変形例に係る閾値制御層144と同じである。
【0139】
したがって、本変形例によれば、閾値制御層144によって、チャネル部分の伝導帯端のポテンシャルが持ち上げられる。このため、窒化物半導体装置211の閾値電圧を大きくすることができる。したがって、窒化物半導体装置211をノーマリオフ型のFETとして実現することができる。
【0140】
(他の実施の形態)
以上、1つ又は複数の態様に係る窒化物半導体装置について、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、これらの実施の形態に限定されるものではない。本開示の主旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したもの、及び、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本開示の範囲内に含まれる。
【0141】
例えば、上記の各実施の形態では、第1の導電型がn型であり、第2の導電型がp型である例について示したが、これに限らない。第1の導電型がp型であり、第2の導電型がn型でもよい。
【0142】
また、例えば、高抵抗層24又は224は、電子走行層26と第1の下地層16との間にのみ設けられていてもよい。例えば、高抵抗層24又は224は、ゲート開口部22の側壁部22bの一部にのみ設けられていてもよく、第2の下地層18及び第3の下地層20の端面を覆っていなくてもよい。
【0143】
また、例えば、平面視において、ゲート電極30の端部は、ゲート開口部22の端部と一致していてもよい。あるいは、平面視において、ゲート電極30は、ゲート開口部22の内側に設けられていてもよい。
【0144】
また、例えば、上記の実施の形態では、第1の下地層16にまで達するソース開口部32を設けたが、これに限らない。例えば、ソース開口部32は、電子走行層26にまで達する開口部であってもよく、ソース電極34は、電子走行層26に接続され、第1の下地層16には接続されていなくてもよい。
【0145】
また、上記の各実施の形態は、請求の範囲又はその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本開示は、リーク電流が抑制された窒化物半導体装置として利用でき、例えば、テレビなどの民生機器の電源回路などで用いられるパワートランジスタなどに利用することができる。
【符号の説明】
【0147】
10、110、210、211 窒化物半導体装置
11 単位セル
12 基板
12a 第1の主面
12b 第2の主面
13 n型GaN膜
14 ドリフト層
15 p型GaN膜
16 第1の下地層
17、25 アンドープGaN膜
18 第2の下地層
19、27 アンドープAlGaN膜
20 第3の下地層
22 ゲート開口部
22a、32a 底部
22b、32b 側壁部
24、224 高抵抗層
26 電子走行層
28 電子供給層
30 ゲート電極
32 ソース開口部
34 ソース電極
36 ドレイン電極
38 ゲート電極パッド
40 ソース電極パッド
42 二次元電子ガス
90、92、192 レジストマスク
91、93、193 開口
144 閾値制御層
223 GaN膜