(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】液圧ブレーキシステムのためのブレーキ圧を生成する液圧ユニット
(51)【国際特許分類】
B60T 11/16 20060101AFI20221012BHJP
B23B 35/00 20060101ALI20221012BHJP
B60T 11/20 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
B60T11/16 Z
B23B35/00
B60T11/20 A
(21)【出願番号】P 2020524793
(86)(22)【出願日】2018-10-15
(86)【国際出願番号】 EP2018078044
(87)【国際公開番号】W WO2019096513
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2020-05-07
【審判番号】
【審判請求日】2021-12-22
(31)【優先権主張番号】102017220207.6
(32)【優先日】2017-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】399023800
【氏名又は名称】コンティネンタル・テーベス・アクチエンゲゼルシヤフト・ウント・コンパニー・オッフェネ・ハンデルスゲゼルシヤフト
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ローケ・イェルク
(72)【発明者】
【氏名】クレーマー・ホルスト
(72)【発明者】
【氏名】リュファー・マンフレート
(72)【発明者】
【氏名】ビショッフ・アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ゲルバー・サシャ
(72)【発明者】
【氏名】クネーヴィッツ・インゴ
【合議体】
【審判長】平瀬 知明
【審判官】岡本 健太郎
【審判官】内田 博之
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-519441(JP,A)
【文献】特開2011-51461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 11/16
B23B 35/00
B60T 11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体容器(4)の接続管片(5)を収容する収容キャビティ(3)を備え、接続管片(5)は、挿入軸線(S)に沿って収容キャビティ(3)に挿入可能である、鋳造素材(2’)において、
鋳造素材(2’)
の収容キャビティ(3)
は、半円を超える欠け円形状であるD形状の底部(16)と、円筒側面状の内側の周方向面(13)と、D形状の底部(16)の直線部分より内側の周方向面(13)に向かって立ち上がるD形状の傾斜平面の面(6)
とを持ち、面(6)における法線ベクトル(N)が挿入軸線(S)に対して傾斜角度(W)をなしていることにより、穿孔工具(14)の先端が面(6)に対して直交して当接することを特徴とする、鋳造素材(2’)。
【請求項2】
傾斜角度(W)は、30°~60°の範囲にあることを特徴とする、請求項1に記載の鋳造素材(2’)。
【請求項3】
鋳造素材(2’)から液圧ユニット(1)のためのハウジング(2)を製造する方法において、
鋳造素材(2’)は、流体容器(4)の接続管片(5)を収容する収容キャビティ(3)を備え、接続管片(5)は、挿入軸線(S)に沿って収容キャビティ(3)に挿入可能であり、鋳造素材(2’)
の収容キャビティ(3)
は、半円を超える欠け円形状であるD形状の底部(16)と、円筒側面状の内側の周方向面(13)と、D形状の底部(16)の直線部分より内側の周方向面(13)に向かって立ち上がるD形状の傾斜平面の面(6)を持ち、面(6)における法線ベクトル(N)が挿入軸線(S)に対して傾斜角度(W)をなしていることにより、穿孔工具(14)の先端が面(6)に対して直交して当接する、鋳造素材(2’)を用意し、
穿孔工具(14)の先端を面(6)に当接させ、内側の周方向面(13)を有する収容キャビティ(3)に、法線ベクトル(N)に対して平行に整列されている孔軸線(B)を有する接続孔(9)を、穿孔工具(14)を用いて形成し、接続孔(9)の形成後、収容キャビティ(3)の内側の周方向面(13)を少なくとも部分的に切削することによって収容キャビティ(3)の内側成形部を形成するとともに、切削によりピストン孔(7)及び径方向内溝(12)を形成することを特徴とする、方法。
【請求項4】
面(6)を、接続孔(9)の形成後に少なくとも部分的に切削によって除去することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
孔軸線(B)は、収容キャビティ(3)の内側の周方向面(13)に対して、接続孔(9)の半径よりも大きい最小距離(A)を置いて延在することを特徴とする請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
請求項3から5のいずれか1項に記載の方法によって製造された、液圧ユニット(1)のためのハウジング(2)において、
ハウジング(2)は、少なくとも1つのプライマリピストン(8)を収容する少なくとも1つのピストン孔(7)を有し、接続孔(9)は、収容キャビティ(3)をピストン孔(7)に接続していて、接続孔(9)の入口部(10)が、面(6)に開口していて、接続孔(9)の出口部(11)が、ピストン孔(7)の周方向面に配置された径方向内溝(12)に開口していることを特徴とする、ハウジング(2)。
【請求項7】
請求項6に記載のハウジング(2)を備える、液圧ユニット(1)。
【請求項8】
液圧ユニット(1)は、ピストン孔(7)内にタンデム構造で相前後して配置されたプライマリピストン(8)及びセカンダリピストン(15)を有するマスタブレーキシリンダであることを特徴とする、請求項7に記載の液圧ユニット(1)。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の液圧ユニット(1)を備える、液圧式自動車用ブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項1の上位概念に記載の構成を有する、ブレーキ圧を生成する液圧ユニット、特に液圧式自動車用ブレーキシステムのためのメインブレーキシリンダ及び対応するブレーキシステムに関する。
【0002】
そのようなユニットのハウジングは、多くの場合、軽金属合金から製造される。その際、通常、まずは成形法によって、たとえば金属鋳造法で、鋳造素材が製造される。このように製造された鋳造素材は、製造に起因して、まずは比較的広い寸法公差及び表面公差を有し、その後で、鋳造材料に、切削法によって、必要とされる機能要素、たとえば各種の接続部、接続チャネル、孔、シール面、溝などが設けられ、場合によっては続いて保護層が設けられる。
【0003】
そのような機能要素は、公差が狭く、複数のプロセスステップで実施しなければならないような高い要求を製造工具及びプロセスに課すことが多い。ゆえにたとえば、通常、まずは広い公差の前穿孔、いわゆるパイロット孔が作製され、これにより、狭い公差の機能孔を作製する穿孔工具のための最適な当接面が提供される。それに伴う工具交換が、工具マガジン内の長い滞留時間と相俟って、製造コストを増大させてしまう。
【0004】
重量及び外寸の削減を目指す当然の努力が、精度要求、製造の手間及び製造コストをさらに増大させてしまう。
【0005】
したがって、本発明の課題は、改善された、特に製造技術的に最適化された液圧ユニットを提供することである。
【0006】
この課題は、本発明によれば、独立請求項1に記載の特徴の組み合わせを有する液圧ユニットによって解決される。従属請求項は、図面に関する説明と相俟って、本発明のさらに好適な構成及び改良形態を提供する。
【0007】
本発明によれば、鋳造材料が、収容キャビティに、法線ベクトルが挿入軸線に対して斜めの傾斜角度に向けられた実質的に平面の少なくとも1つの面を有することが想定されている。好適な改良形態によれば、傾斜角度は、30°~60°の範囲にあってよい。
【0008】
このように構成された鋳造輪郭によって、穿孔工具を垂直に載置するための最適化された当接面を実現することができるので、必要とされる接続孔を、直接に、狭い公差を維持しつつ直に穿孔するとともに、付加的なパイロット孔を省くことができる。加工時間及びコストは、これに伴う工具交換の回避によって大幅に削減される。
【0009】
工具の自由なアクセスを保証するために、本発明によれば、孔軸線が、収容キャビティの内側の周方向面に対して、接続孔の半径よりも大きい最小距離を置いて延在することもまた想定されている。接続管片の最適な、増大された挿入深さを得るために、平面の面を、接続孔の穿孔後、部分的に又は完全に除去することができる。
【0010】
特に好適には、本発明は、タンデムマスタブレーキシリンダのハウジングにおいて適用することができ、これにより、対応付けられた収容キャビティに対して相対的な、径方向内溝の、コンパクト性を促進する大きな軸方向の変位が実現される。
【0011】
さらに、本発明は、本発明に係る液圧ユニットが装着された、液圧式自動車用液圧ユニットを権利請求する。
【0012】
本発明のさらなる特徴及び利点は、以下の実施の形態の説明及び図面から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】未加工状態の鋳造素材として(a)、後加工された、略示された別のコンポーネントとともに(b)、本発明に係る液圧ユニットのハウジングを縮尺通りではなく大幅に簡略化し、例示して軸方向断面図で示す。
【
図2】収容キャビ
ティの領域において本発明による実施形態の鋳造素材の拡大された一部を軸方向断面図(a)と平面図(b)で示す。
【
図3】
図2による実施形態の切削式に後加工されたハウジングを同一の図で示す。
【0014】
図1
図1は、bで、切削によって別の機能要素が設けられた、本発明に係るユニット1のハウジング2を示し、aで、ユニット1の未加工状態の鋳造素材2’を示す。図示された実施形態では、液圧ユニット1は、タンデム構造で相前後して配置されたプライマリピストン8とセカンダリピストン15とを有するマスタブレーキシリンダとして構成されている。本発明の範囲内で、別の実施形態もまた許容される。
【0015】
ハウジング2内にピストン孔7が配置されていて、このピストン孔7内で、ここでは略示されただけのプライマリピストン8及びセカンダリピストン15が軸方向に摺動可能にガイドされている。ピストン孔の周方向面には、複数の径方向溝が設けられている。この場合、少なくとも1つの径方向内溝12が、流体容器4から到来するブレーキフルードを、ここでは代表例として図示されたプライマリピストン8を径方向に囲んで濡らすように均一に供給するために用いられる。そのために、径方向内溝12は、接続孔9を介して、収容キャビティ3に接続されていて、収容キャビティ3には、流体容器4に液圧接続された接続管片5が、挿入軸線Sに沿って挿入されていて、収容キャビティ3の内側の周方向面13のアンダカットに係合する、ここでは図示されていないシール要素によってシールされている。
【0016】
鋳造素材2’において、収容キャビティ3の内側の周方向面13は、まずは略円筒形に、又は必要とされる離型傾斜のために円錐形に設けられている。収容キャビティ3の底部16からその周方向面13へ実質的に平面の面6が延在し、面6の直交ベクトル又は法線ベクトルNは、挿入軸線Sに対して約45°の傾斜角度Wで傾斜している。傾斜角度Wの値は、本発明の範囲内で、ハウジング2の構成に応じて、原則として自由に変更することができるが、ただし、技術的にかつ経済的に特に有利に適用可能な値範囲として、30°~60°の範囲が判明している。
【0017】
図2及び
図3
面6は、接続孔9を穿孔するために用いられる穿孔工具14の先端の最適化された当接に役立つ。ゆえに、接続孔9は、鋳造素材2’の収容キャビ
ティ3に直接に作製することができ、その際、収容キャビティ3の周方向面13を事前に何らかの形で切削、たとえば前穿孔する必要がない。この場合、面6の傾斜角度Wは、穿孔工具14が、直角に直接に面6に当接することができるように選択されて
いて、これにより、接続孔9が径方向内溝12における所定の出口部11まで通じる。この場合、傾斜角度W
及び接続孔9の入口部10の位置を設計する際に、穿孔工具14が収容キャビティ3の上縁の傍を通過することができるとともに、これに接触しないように、孔軸線Bと収容キャビティ3の内側の周方向面13との間に、接続孔9の半径よりも大きな最小距離Aが残るように留意しなければならない。
【0018】
接続孔9の作製後、鋳造素材2’に、ピストン孔7、径方向内溝12、収容キャビティ3の内側成形部が切削により作製される。その際、本発明の範囲内で、接続管片5のための増大された挿入深さを実現するために、面6を部分的に又は完全に除去することが許容されるのみならず所望される。
【符号の説明】
【0019】
1 液圧ユニット
2 ハウジング
2’ 鋳造素材
3 収容キャビティ
4 流体容器
5 接続管片
6 面
7 ピストン孔
8 プライマリピストン
9 接続孔
10 孔端部
11 孔端部
12 径方向内溝
13 周方向面
14 穿孔工具
15 セカンダリピストン
16 底部
A 最小距離
B 孔軸線
S 挿入軸線
N 法線ベクトル
W 傾斜角度