(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】熱膨張性耐火シート
(51)【国際特許分類】
E06B 5/00 20060101AFI20221012BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20221012BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20221012BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20221012BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
E06B5/00 C
C08L101/00
C08K3/04
C08J5/18 CEQ
E04B1/94 U
(21)【出願番号】P 2021017015
(22)【出願日】2021-02-05
(62)【分割の表示】P 2018199503の分割
【原出願日】2018-01-24
【審査請求日】2021-02-12
(31)【優先権主張番号】P 2017010948
(32)【優先日】2017-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島本 倫男
(72)【発明者】
【氏名】土肥 彰人
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-107655(JP,A)
【文献】特開2002-146942(JP,A)
【文献】特開2003-192840(JP,A)
【文献】特開2001-073480(JP,A)
【文献】特開2006-274134(JP,A)
【文献】国際公開第2016/182059(WO,A1)
【文献】特開2000-034365(JP,A)
【文献】特開2013-227685(JP,A)
【文献】特開2005-290152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
C08L 101/00
C08K 3/04
E04B 1/94
A62C 2/00
E06B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム物質及び熱膨張性黒鉛を含有し、60℃で1週間純水浸漬した後の溶出率が3%以下であり、
前記ゴム物質がクロロプレンゴムを含有し、
前記熱膨張性黒鉛の含有量が15質量%以上60質量%未満である
窓用熱膨張性耐火シート(但し、亜リン酸アルミニウム又はポリリン酸塩を含有するも
のを除く。)。
【請求項2】
リン含有量が10質量%以下である請求項1に記載の
窓用熱膨張性耐火シート。
【請求項3】
600℃で30分間加熱した後の膨張残渣物の圧縮強度が0.2kgf/cm
2以上である請求項1又は2に記載の
窓用熱膨張性耐火シート。
【請求項4】
水難溶性リン化合物を含有し、水難溶性リン化合物の含有量が3質量%以上である請求項1~3のいずれか一項に記載の
窓用熱膨張性耐火シート。
【請求項5】
ゴム物質、熱膨張性黒鉛及び水難溶性リン化合物を含有し、60℃で1週間純水浸漬した後の溶出率が3%以下であり、前記熱膨張性黒鉛の含有量が15質量%以上60質量%未満である建具用熱膨張性耐火シート(但し、亜リン酸アルミニウム又はポリリン酸塩を含有するものを除く。)。
【請求項6】
リン含有量が10質量%以下である請求項5に記載の建具用熱膨張性耐火シート。
【請求項7】
600℃で30分間加熱した後の膨張残渣物の圧縮強度が0.2kgf/cm
2
以上である請求項5又は6に記載の建具用熱膨張性耐火シート。
【請求項8】
水難溶性リン化合物を含有し、水難溶性リン化合物の含有量が3質量%以上である請求項5~7のいずれか一項に記載の建具用熱膨張性耐火シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱膨張性耐火シートに関する。
【背景技術】
【0002】
建築分野において、防火のため、建具、柱、壁材等の建築材料に、マトリックス樹脂に加熱により膨張する無機質材料を混入した熱膨張性耐火シートが用いられるようになっている。このような熱膨張耐火性シートは、加熱により膨張して燃焼残渣が耐火断熱層を形成し、耐火断熱性能を発現する。
【0003】
ところで、熱膨張耐火性シートが風雨に晒される部位又は結露等で湿度が高い部位に用いられた場合、成分が溶出し、性能低下及び外観不良を起こす場合があった。
【0004】
特許文献1は、熱可塑性樹脂に、リン化合物、中和処理された熱膨張性黒鉛、及び、無機充填剤を含有してなり、それぞれの含有量が、前記熱可塑性樹脂100重量部に対して、リン化合物と中和処理された熱膨張性黒鉛との合計量が20~200重量部、無機充填剤が50~500重量部、中和処理された熱膨張性黒鉛:リン化合物の重量比が、9:1~1:100である耐火性樹脂組成物であって、リン化合物が、ポリリン酸アンモニウムである耐火性樹脂組成物について開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1におけるように、従来の熱膨張耐火性シートは熱膨張性黒鉛に加え、リン化合物を含有するのが通常であるが、リン化合物は水に弱く、溶解及び加水分解するため、水又は湿気が存在する部位では使用できず、使用部位が制限されていた。
【0007】
本発明の目的は、耐火性に優れ、かつ水分に暴露されても性能の低下が起こりにくい熱膨張耐火性シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の以下の態様が提供される。
【0009】
項1.マトリックス樹脂及び熱膨張性黒鉛を含有し、60℃で1週間純水浸漬した後の溶出率が3%以下である熱膨張性耐火シート。
【0010】
項2.600℃で30分間加熱した後の膨張残渣物の圧縮強度が0.2kgf/cm2以上である項1に記載の熱膨張性耐火シート。
【0011】
項3.リン含有量が10質量%以下である項1又は2に記載の熱膨張性耐火シート。
【0012】
項4.熱膨張性黒鉛の含有量が15質量%以上60質量%未満である項1~3のいずれか一項に記載の熱膨張性耐火シート。
【0013】
項5.水難溶性リン化合物を含有し、リン含有量が0.5質量%以上である請求項1~
4のいずれか一項に記載の熱膨張性耐火シート。
【0014】
項6.水難溶性リン化合物を含有し、水難溶性リン化合物の含有量が3質量%以上である請求項1~5のいずれか一項に記載の熱膨張性耐火シート。
【0015】
項7.前記水難溶性リン化合物がポリリン酸アンモニウム、亜リン酸アルミニウム、第1リン酸アルミニウム、第2リン酸アルミニウム、第3リン酸アルミニウム、メタリン酸アルミニウム、縮合リン酸アルミニウム、ポリリン酸メラム、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メレム及び水難溶性のリン酸エステルから選択される少なくとも一つである項5又は6に記載の熱膨張性耐火シート。
【0016】
項8.ポリリン酸アンモニウム、亜リン酸アルミニウム、第1リン酸アルミニウム、第2リン酸アルミニウム、第3リン酸アルミニウム、メタリン酸アルミニウム、縮合リン酸アルミニウム、ポリリン酸メラム、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メレム及び水難溶性のリン酸エステルから選択される少なくとも一つである水難溶性リン化合物を含有する項1~4のいずれか一項に記載の熱膨張性耐火シート。
【発明の効果】
【0017】
本発明の膨張耐火性シートによれば、優れた耐火性能を維持しつつ、水分への暴露に対する性能の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の熱膨張性耐火シートをドアに施工した例を示す略図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を熱膨張性耐火シートに具体化した一実施形態について説明する。
【0020】
本発明の熱膨張性耐火シートは、マトリックス樹脂及び熱膨張性黒鉛を含有し、60℃で1週間純水浸漬した後の溶出率が3%以下である熱膨張性耐火シートである。溶出率は、
(浸漬水への析出物の質量)/(浸漬前の熱膨張性耐火シートの質量)×100(%)
で計算される。
【0021】
本発明の熱膨張性耐火シートを60℃で1週間純水浸漬した後の溶出率は3%以下であるが、60℃で1週間純水浸漬した後の溶出率が1.5%以下であることが好ましい。かかる構成により、優れた耐火性能を維持しつつ、水分に暴露されても性能の低下がより抑制された熱膨張性耐火シートとすることができる。
【0022】
マトリックス樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、エラストマー、ゴム物質、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0023】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ(1-)ブテン樹脂、ポリペンテン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、塩素化塩化ビニル樹脂(CPVC)、ノボラック樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイソブチレン等の合成樹脂が挙げられる。
【0024】
熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド等の合成樹脂が挙げられる。
【0025】
エラストマーの例としてはオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、エステル系エラストマー、アミド系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、これらの組み合わせ等が挙げられる。
【0026】
ゴム物質としては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2-ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多加硫ゴム、非加硫ゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等のゴム物質等が挙げられる。
【0027】
これらの合成樹脂、エラストマー及び/又はゴム物質は、一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0028】
これらの合成樹脂、エラストマー及び/又はゴム物質の中でも、柔軟でゴム的性質を得るためには、ブチルゴム等の非加硫ゴム、ポリオレフィン樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、及びエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)が好ましい。耐火性の点では、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、塩素化ポリ塩化ビニル(CPVC)、及びEVA樹脂が好ましい。樹脂自体の難燃性を上げて防火性能を向上させるという観点からは、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂が好ましい。
【0029】
熱膨張性耐火シートにおけるマトリックス樹脂の含有量は特に限定されないが、機械的強度、成形性及び耐火性の観点から10~60質量%であることが好ましく、20質量~60質量%であることがより好ましく、20質量~50質量%であることがさらに好ましい。マトリックス樹脂の含有量が10質量%以上であると機械的強度及び成形性の点で有利であり、60質量%以下であると耐火性の点で有利である。
【0030】
熱膨張性黒鉛は、加熱時に膨張する従来公知の物質である。熱膨張性黒鉛は、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を無機酸と強酸化剤とで処理してグラファイト層間化合物を生成させたものである。無機酸としては濃硫酸、硝酸、セレン酸等が挙げられる。強酸化剤としては、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等が挙げられる。熱膨張性黒鉛は炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物である。
【0031】
熱膨張性黒鉛は任意選択で中和処理されてもよい。つまり、上記のように酸処理して得られた熱膨張性黒鉛を、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等で中和する。
【0032】
熱膨張性耐火シートにおける熱膨張性黒鉛の含有量は特に限定されないが、5~60質量%であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。熱膨張性黒鉛の含有量が15質量%以上であると、火の通過を阻止するのにより適した膨張が得られる。熱膨張性黒鉛の含有量が60質量%未満であると、熱膨張性耐火シートの耐火性及び機械的強度の点で好ましい。
【0033】
熱膨張性黒鉛の粒度は、20~200メッシュが好ましい。粒度が200メッシュかそれより値が小さいと、黒鉛の膨張度が膨張断熱層を得るのに十分であり、また粒度が20
メッシュかそれより値が大きいと、樹脂に配合する際の分散性が良い。
【0034】
また、熱膨張性黒鉛の平均粒径は、特に限定されないが、200~1000μm、好ましくは200~600μmが好ましい。熱膨張性黒鉛の平均粒径は、市販のレーザ回折/散乱式粒度測定装置を用いて測定することができる。
【0035】
本発明の熱膨張性耐火シートは、配合する熱膨張性黒鉛の膨張開始温度よりもマトリックス樹脂の熱分解温度が高いことが好ましい。膨張性黒鉛の膨張開始温度が樹脂成分の分解開始温度よりも低いことにより、高い膨張性と燃焼後の高い圧縮強度とが得られる。マトリックス樹脂の熱分解温度は、固体の樹脂成分が分解し、質量減少が確認され始める温度を指す。この理由として、熱膨張性耐火シートを加熱した場合、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が樹脂成分の熱分解温度よりも低い。このため、樹脂成分が分解するよりも先に膨張性黒鉛が膨張を開始し、膨張性黒鉛の硬い断熱層が形成される。そして、樹脂成分の分解が遅延化し、断熱層の隙間を埋めるように樹脂成分が配置されるため、高い膨張性を確保しつつ、高い圧縮強度も保持すると考えられる。
【0036】
熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比は限定されないが、20以上であることが好ましい。熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比が20以上であることにより、耐火樹脂組成物の耐水性をより向上させることができる。
【0037】
熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比は、20以上であることが好ましく、25以上であることがより好ましいが、平均アスペクト比が高すぎると割れが発生することがあるため、1000以下が好ましい。
【0038】
なお、平均アスペクト比は、鉛直方向の厚さに対する水平方向の平均径の割合である。熱膨張性黒鉛は概ね平板状をしているため、鉛直方向が厚み方向、水平方向が径方向に一致すると見ることができるため、水平方向の最大寸法を鉛直方向の厚みで除した値をアスペクト比とする。
【0039】
そして、十分大きな数、すなわち10個以上の黒鉛片につきアスペクト比を測定し、その平均値を平均アスペクト比とする。熱膨張性黒鉛の平均粒径も、水平方向の最大寸法の平均値として求めることができる。
【0040】
熱膨張性黒鉛の水平方向における最大寸法及び薄片化黒鉛の厚みは、例えば電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて測定することができる。
【0041】
本発明の熱膨張性耐火シートは、水及び湿気等の水分への暴露に対する性能の低下を抑制するためには、リンの含有量ができるだけ少ない方が好ましく、熱膨張性耐火シートにおけるリンの含有量は10質量%以下であることが好ましい。代わりに、熱膨張性耐火シートが水難溶性リン化合物を含有する場合、熱膨張性耐火シートにおける水難溶性リン化合物に由来するリンの含有量又は熱膨張性耐火シートにおけるリン含有量を0.5質量%以上、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上とすることができる。
【0042】
熱膨張性耐火シートにおける水難溶性リン化合物に由来するリン含有量又は熱膨張性耐火シートにおけるリン含有量が0.5質量%以上である場合、水分への暴露に対する性能の低下が抑制される。
【0043】
また、熱膨張性耐火シートにおける水難溶性リン化合物の含有量は3質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上とされる。熱膨張性耐火シートにおける水難溶性リン化合物の含有量は30質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ま
しくは10質量%以下とされる。熱膨張性耐火シートにおける水難溶性リン化合物の含有量が上記範囲内であると、水分への暴露に対する性能の低下が抑制される。
【0044】
なお、リン含有量は配合量からの算出、又は蛍光X線測定及びICP分析等の公知の測定方法により測定することができる。
【0045】
水難溶性難燃剤は、以下に定義される。マトリックス樹脂が塩化ビニル樹脂又は塩素化塩化ビニル樹脂以外の場合、マトリックス樹脂50質量%、膨張黒鉛25質量%、及び水難溶性難燃剤25質量%を配合した配合物を、60℃で1週間純水浸漬した場合の溶出率が3%以下である化合物と定義する。マトリックス樹脂が塩化ビニル樹脂又は塩素化塩化ビニル樹脂の場合、塩化ビニル樹脂又は塩素化塩化ビニル樹脂30質量%、DIDP20質量%、膨張黒鉛25質量%、及び水難溶性難燃剤25質量%を配合した配合物を、60℃で1週間純水浸漬した場合の溶出率が3%以下である化合物を水難溶性難燃剤と定義する。該化合物がリン化合物である場合、水難溶性難燃剤は水難溶性リン化合物である。
【0046】
水難溶性リン化合物には水難溶性無機リン化合物及び水難溶性有機リン化合物が含まれる。水難溶性無機リン化合物としては、ポリリン酸アンモニウム、亜リン酸アルミニウム、第1リン酸アルミニウム、第2リン酸アルミニウム、第3リン酸アルミニウム、メタリン酸アルミニウム、縮合リン酸アルミニウム及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。水難溶性有機リン化合物としては、ポリリン酸メラム、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メレム、リン系可塑剤として作用する水難溶性のリン酸エステル及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。
【0047】
水難溶性のリン酸エステルとしては、トリメチルフォスフェート(TMP)、トリエチルフォスフェート(TEP)、トリブチルフォスフェート(TBP)、トリス(2-エチルヘキシル)フォスフェート(TOP)、トリフェニルフォスフェート(TPP)、トリクレジルフォスフェート(TCP)、トリキシレニルフォスフェート(TXP)、クレジルフェニルフォスフェート(CDP)、2-エチルヘキシルジフェニルフォスフェート、スピロ環ジホスフォネート化合物等を例示することができる。
【0048】
好ましくは、水難溶性リン化合物は、ポリリン酸アンモニウム、亜リン酸アルミニウム、第1リン酸アルミニウム、第2リン酸アルミニウム、第3リン酸アルミニウム、メタリン酸アルミニウム、縮合リン酸アルミニウム、ポリリン酸メラム、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メレム及び水難溶性のリン酸エステルから選択される少なくとも一つである。より好ましくは、水難溶性リン化合物は、亜リン酸アルミニウム、ポリリン酸メラム、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メレム及び水難溶性のリン酸エステルから選択される少なくとも一つである。さらに好ましくは、水難溶性リン化合物は、亜リン酸アルミニウム、ポリリン酸メラム、ポリリン酸メラミン及び水難溶性のリン酸エステルから選択される少なくとも一つである。
【0049】
これらの化合物は、熱膨張性耐火シートに難燃性及び耐水性を付与する。
【0050】
熱膨張性耐火シートにおけるリン化合物を始めとするリンの含有量は特に限定されないが、水及び湿気等の水分への暴露に対する性能の低下を抑制するためには、リンの含有量は10質量%以下、好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下であることが好ましい。なお「リンの含有量」は、リンの部分の含有量を指し、例えばリンがリン化合物に由来する場合、リン化合物中のリンの含有量を指す。
【0051】
本発明の熱膨張性耐火シートは、無機充填剤をさらに含むことができる。無機充填剤は
、膨張断熱層が形成される際、熱容量を増大させ伝熱を抑制するとともに、骨材的に働いて膨張断熱層の強度を向上させる。無機充填剤としては特に限定されず、例えば、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト等の金属酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等の金属水酸化物;塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の金属炭酸塩;難燃剤としての無機リン酸塩;硫酸カルシウム、石膏繊維、ケイ酸カルシウム等のカルシウム塩;シリカ、珪藻土、ドーソナイト、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルーン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルーン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、脱水汚泥等が挙げられる。これらの無機充填剤は一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0052】
無機充填剤の平均粒径は、0.5~100μmが好ましく、より好ましくは1~50μmである。無機充填剤は、添加量が少ないときは、分散性が性能を大きく左右するため、平均粒径の小さいものが好ましいが、0.5μm未満では二次凝集が起こり分散性が悪くなるため、0.5μm以上であることが好ましい。添加量が多いときは、高充填が進むにつれて、樹脂組成物の粘度が高くなり成形性が低下するが、平均粒径を大きくすることで樹脂組成物の粘度を低下させることができる点から、平均粒径の大きいものが好ましいが、平均粒径が100μmを超えると、成形体の表面性や樹脂組成物の力学的性能が低下するため、100μm以下であることが望ましい。無機充填剤の平均粒径は、市販のレーザ回折/散乱式粒度測定装置を用いて十分大きな数、すなわち10個以上の無機充填剤の平均粒径を求めることにより測定することができる。
【0053】
上記無機充填剤の市販品では、例えば、水酸化アルミニウムとして、粒径1μmの「H-42M」(昭和電工社製)、粒径18μmの「H-31」(昭和電工社製);炭酸カルシウムとして、粒径1.8μmの「ホワイトンSB赤」(白石カルシウム社製)、粒径8μmの「BF300」(白石カルシウム社製)等が挙げられる。また、粒径の大きい無機充填剤と粒径の小さいものを組み合わせて使用することがより好ましく、組み合わせることによって、さらに高充填化が可能となる。
【0054】
熱膨張性耐火シートにおける無機充填剤の含有量は特に限定されないが、1~50質量%であることが好ましい。
【0055】
また、熱膨張性耐火シートにおける熱膨張性黒鉛及び無機充填剤の合計含有量は、5~80質量%であることが好ましい。燃焼後の残渣量を満足して十分な耐火性能が得る点で5質量%以上であることが好ましく、機械的物性を維持する点で80質量%以下であることが好ましい。
熱膨張性耐火シートは、可塑剤をさらに含有することができる。
【0056】
前記可塑剤は、一般にポリ塩化ビニル樹脂成形体を製造する際に使用されている可塑剤であれば、特に限定されない。具体的には、例えば、
ジ-2-エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジヘプチルフタレート(DHP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)等のフタル酸エステル可塑剤;
ジ-2-エチルヘキシルアジペート(DOA)、ジイソブチルアジペート(DIBA)、ジブチルアジペート(DBA)等の脂肪酸エステル可塑剤;
エポキシ化大豆油等のエポキシ化エステル可塑剤;
アジピン酸エステル、アジピン酸ポリエステル等のポリエステル可塑剤;
トリー2-エチルヘキシルトリメリテート(TOTM)、トリイソノニルトリメリテート(TINTM)等のトリメリット酸エステル可塑剤;
鉱油等のプロセスオイルなどが挙げられる。可塑剤は一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0057】
前記可塑剤の添加量は、少ないと押出成形性が低下する傾向があり、多くなると得られた成形体が柔らかくなり過ぎる傾向がある。このため可塑剤の含有量は限定されないが、熱膨張性耐火シート中に好ましくは0~40質量%、より好ましくは5~35質量%である。
【0058】
本発明の熱膨張性耐火シートは、難燃性有機充填剤をさらに含むことができる。難燃性有機充填剤は、炭素及び水素に加えて、窒素、リンなどのヘテロ原子を有する有機化合物であり、熱膨張性シートに難燃性を付与できる化合物である。
【0059】
難燃性有機充填剤を構成する化合物は、化合物中における炭素原子の割合が好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下の有機材料である。炭素の割合をこれら上限値以下とすることで、熱膨張性シートに耐火性を付与しやすくなる。また、炭素の割合は、3質量%以上がより好ましく、7質量%以上がさらに好ましく、12質量%以上がさらに好ましい。炭素数をこれら下限値以上とすることで、加工性を向上させやすい。
【0060】
なお、炭素原子の割合は、化学構造から算出でき、また、高分子化合物においては、公知の元素分析などにより測定できる。
【0061】
難燃性有機充填剤は、好ましくは含窒素難燃剤が挙げられる。より具体的には、メラミン系化合物及びグアニジン系化合物から選択される少なくとも1種が挙げられる。難燃性有機充填剤は水難溶性リン化合物を含まない。
【0062】
メラミン系化合物としては、メラミン、メレム、メラム、メロンなどのメラミン又はメラミン誘導体、又はこれらの塩が挙げられる。メラミン又はメラミン誘導体の塩としては、メラミンシアヌレート、硫酸メラミン、ピロ硫酸メラム、有機スルホン酸メラム、有機ホスホン酸メラミン、有機ホスフィン酸メラミン、ホウ酸メラミン等が挙げられる。
【0063】
グアニジン系化合物としては、スルファミン酸グアニジン、リン酸グアニジン、リン酸グアニル尿素等が挙げられる。
【0064】
これらの化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0065】
また、上記した中では、メラミン又はメラミン誘導体の塩、又はグアニジン系化合物が好ましく、具体的には、メラミンシアヌレート、硫酸メラミン、スルファミン酸グアニジン、及びリン酸グアニジンから選択される少なくとも1種がより好ましく、さらに好ましくはメラミンシアヌレートである。
【0066】
本発明では、難燃性有機充填剤として上記したメラミン系化合物又はグアニジン系化合物、中でもメラミンシアヌレートを使用することで、加工性を良好に維持しつつ、耐火性をより優れたものにしやすくなる。
【0067】
本発明において、熱膨張性シートにおける難燃性有機充填剤の含有量は、好ましくは熱膨張性シート全量基準で、3~30質量%である。難燃性有機充填剤の含有量が3質量%
以上では、例えば可燃成分となるマトリックス成分の割合が相対的に低いため、無機充填剤の割合を所定の範囲としても、耐火性を十分に向上させることができる。また、難燃性有機充填剤が30質量%以下であると、マトリックス成分の割合が相対的に高いため加工性が良好であり、無機充填剤の量を多く含有できるため耐火性の点で好ましい。
【0068】
難燃性有機充填剤の含有量は、加工性及び難燃性の観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、また、25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0069】
熱膨張性耐火シートに含有することができる上記その他の成分の例としては、更に、フェノール系、アミン系、イオウ系等の酸化防止剤、金属害防止剤、帯電防止剤、安定剤、架橋剤、滑剤、軟化剤、顔料等が挙げられる。これらはその物性を損なわない範囲で用いられる。
【0070】
熱膨張性耐火シートは、火災時などの高温にさらされた際にその膨張層により断熱し、かつその膨張層の強度があるものであれば特に限定されない。50kW/m2の加熱条件
下で30分間加熱した後の膨張倍率が3~50倍のものであれば好ましい。膨張倍率が3倍以上であると、膨張倍率がマトリックス成分の焼失部分を十分に埋めることができ、また50倍以下であると、膨張層の強度が維持され、火炎の貫通を防止する効果が保たれる。なお、膨張倍率は熱膨張性耐火シートの試験片の(加熱後の試験片の厚さ)/(加熱前の試験片の厚さ)として算出される。
【0071】
熱膨張性耐火シートは、上記のマトリックス成分、熱膨張性黒鉛、及び任意選択のその他の成分を混合した耐火性樹脂組成物を、塗工又は成形することにより製造することができる。成形にはプレス成形、押し出し成形、射出成形が含まれる。塗工又は成形は当該技術分野において周知である。
【0072】
熱膨張性耐火シートは、基材とさらに積層されてもよい。基材は熱膨張性耐火シートの片面又は両面に積層される。基材は通常、織布又は不織布であり、上記織布又は不織布に使用される繊維としては、特に限定はされないが、不燃材料又は準不燃材料のものが好ましく、例えば、ガラス繊維、セラミック繊維、セルロース繊維、ポリエステル繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、熱硬化性樹脂繊維等が好ましい。
【0073】
ここで、「不燃材料」とは、通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後20分間は、燃焼しない材料である(建築基準法第2条第9号、建築基準法施行令第108条の2第1号参照)。不燃材料は、例えば炭素繊維、金属、ガラス等を挙げることができる。「準不燃材料」とは、通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後10分間は、燃焼しない材料(建築基準法施行令第1条第5号参照)である。
【0074】
本発明の熱膨張性耐火シートの厚みは特に限定されないが、0.2~10mmが好ましい。0.2mm以上であると断熱性を発現し、10mm以下であると質量の点で取り扱い性が良好である。
【0075】
本発明の熱膨張性耐火シートは、600℃で30分間加熱したときの圧縮強度(残渣硬さとも言う)が0.2kgf/cm2以上であることが好ましい。より好ましい実施形態
では、圧縮強度は0.3kgf/cm2以上2kgf/cm2以下である。さらに好ましい
実施形態では、圧縮強度は0.5kgf/cm2以上2kgf/cm2以下である。
【0076】
膨張倍率は樹脂組成物の試験片の(加熱後厚み)/(加熱前厚み)として算出される。本発明の熱膨張性耐火シートは、600℃で30分間加熱したときの膨張倍率が10倍以上で
あることが好ましい。より好ましい実施形態では、膨張倍率は15倍以上、60倍以下である。さらに好ましい実施形態では、膨張倍率は20倍以上50倍以下である。
【0077】
膨張残渣物の圧縮強さは、加熱後の試験片を公知の圧縮試験機にかけて圧縮し、残渣上面からの10mm圧縮時の圧縮応力の最大値を測定することにより算出されるが、本発明では圧縮試験機で直径1mmの3点圧子で0.1cm/秒の速度で圧縮し、残渣上面からの10mm圧縮時の応力の最大値を測定したものを指す。
【0078】
本発明の熱膨張性耐火シートは、建築材料に耐火性能を与えるために使用することができる。例えば、窓(引き違い窓、開き窓、上げ下げ窓等を含む)、障子、扉(すなわちドア)、戸、ふすま等の建具;柱;鉄骨コンクリート等の壁に配置して、火災及び煙の侵入を低減又は防止することができる。特に、本発明の熱膨張性耐火シートは形状保持性に優れているため、例えば
図1に示すように熱膨張性耐火シート1をドア10の本体部分12に設置すれば、垂直方向に設置しても燃焼後に燃焼残渣が崩れ落ちにくく、優れた耐火性を発揮する。
【0079】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0080】
上述の実施形態において挙げた構成、方法、工程、形状、材料及び数値などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料及び数値などを用いてもよい。
【0081】
また、上述の実施形態の構成、方法、工程、形状、材料及び数値などは、本発明の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0082】
例えば、本発明は以下の構成を採用することもできる。
(1)マトリックス樹脂及び熱膨張性黒鉛を含有し、60℃で1週間純水浸漬した後の溶出率が3%以下である熱膨張性耐火シート。
かかる構成により、優れた耐火性能を維持しつつ、水分に暴露されても性能の低下が抑制された熱膨張性耐火シートとすることができる。
【0083】
(2)60℃で1週間純水浸漬した後の溶出率が1.5%以下である(1)に記載の熱膨張性耐火シート。
かかる構成により、優れた耐火性能を維持しつつ、水分に暴露されても性能の低下がより効果的に抑制された熱膨張性耐火シートとすることができる。
【0084】
(3)600℃で30分間加熱した後の膨張残渣物の圧縮強度が0.2kgf/cm2以上である(1)又は(2)に記載の熱膨張性耐火シート。
かかる構成により、燃焼後の圧縮強度が高い熱膨張性耐火シートとすることができる。
【0085】
(4)600℃で30分間加熱した後の膨張残渣物の圧縮強度が0.3kgf/cm2以
上2kgf/cm2以下である(1)又は(2)に記載の熱膨張性耐火シート。
かかる構成により、燃焼後の圧縮強度が適度に高い熱膨張性耐火シートとすることができる。
【0086】
(5)600℃で30分間加熱した後の膨張残渣物の圧縮強度が0.5kgf/cm2以
上2kgf/cm2以下である(1)又は(2)に記載の熱膨張性耐火シート。
かかる構成により、燃焼後の圧縮強度が適度に高い熱膨張性耐火シートとすることができる。
【0087】
(6)リン含有量が10質量%以下である(1)~(5)のいずれかに記載の熱膨張性耐火シート。
かかる構成により、熱膨張性耐火シートの水及び湿気等の水分への暴露に対する性能の低下が抑制される。
【0088】
(7)リン含有量が8質量%以下である(1)~(5)のいずれかに記載の熱膨張性耐火シート。
かかる構成により、熱膨張性耐火シートの水及び湿気等の水分への暴露に対する性能の低下がより効果的に抑制される。
【0089】
(8)リン含有量が5質量%以下である(1)~(5)のいずれかに記載の熱膨張性耐火シート。
かかる構成により、熱膨張性耐火シートの水及び湿気等の水分への暴露に対する性能の低下がより効果的に抑制される。
【0090】
(9)リン含有量が1質量%以下である(1)~(5)のいずれかに記載の熱膨張性耐火シート。
かかる構成により、熱膨張性耐火シートの水及び湿気等の水分への暴露に対する性能の低下がより効果的に抑制される。
【0091】
(10)熱膨張性黒鉛の含有量が15質量%以上60質量%未満である(1)~(9)のいずれかに記載の熱膨張性耐火シート。
かかる構成により、火の通過を阻止するのにより適した膨張が得られ、かつ十分な耐火性及び機械的強度を有する熱膨張性耐火シートが得られる。
【0092】
(11)水難溶性リン化合物を含有し、水難溶性リン化合物の含有量が3質量%以上である(1)~(10)のいずれかに記載の熱膨張性耐火シート。
かかる構成により、熱膨張性耐火シートにおける水分への暴露に対する性能の低下が抑制される。
【0093】
(12)水難溶性リン化合物を含有し、水難溶性リン化合物の含有量が5質量%以上である(1)~(10)のいずれかに記載の熱膨張性耐火シート。
かかる構成により、熱膨張性耐火シートにおける水分への暴露に対する性能の低下がより効果的に抑制される。
【0094】
(13)水難溶性リン化合物を含有し、水難溶性リン化合物の含有量が8質量%以上である(1)~(10)のいずれかに記載の熱膨張性耐火シート。
かかる構成により、熱膨張性耐火シートにおける水分への暴露に対する性能の低下がより効果的に抑制される。
【0095】
(14)水難溶性リン化合物の含有量が30質量%以下である(11)~(13)のいずれかに記載の熱膨張性耐火シート。
かかる構成により、熱膨張性耐火シートの機械的強度及び耐火性が良好となる。
【0096】
(15)水難溶性リン化合物の含有量が20質量%以下である(11)~(13)のいずれかに記載の熱膨張性耐火シート。
かかる構成により、熱膨張性耐火シートの機械的強度及び耐火性が良好となる。
【0097】
(16)水難溶性リン化合物の含有量が10質量%以下である(11)~(13)のいず
れかに記載の熱膨張性耐火シート。
【0098】
(17)水難溶性リン化合物に由来するリン含有量が0.5質量%以上である(1)~(16)のいずれかに記載の熱膨張性耐火シート。
かかる構成により、熱膨張性耐火シートにおける水分への暴露に対する性能の低下が抑制される。
【0099】
(18)水難溶性リン化合物に由来するリン含有量が3質量%以上である(1)~(16)のいずれかに記載の熱膨張性耐火シート。
かかる構成により、熱膨張性耐火シートにおける水分への暴露に対する性能の低下がより効果的に抑制される。
【0100】
(19)水難溶性リン化合物に由来するリン含有量が5質量%以上である(1)~(16)のいずれかに記載の熱膨張性耐火シート。
かかる構成により、熱膨張性耐火シートにおける水分への暴露に対する性能の低下がより効果的に抑制される。
【0101】
(20)水難溶性リン化合物が、ポリリン酸アンモニウム、亜リン酸アルミニウム、第1リン酸アルミニウム、第2リン酸アルミニウム、第3リン酸アルミニウム、メタリン酸アルミニウム、縮合リン酸アルミニウム、又はこれらの組み合わせである水難溶性無機リン化合物;ポリリン酸メラム、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メレム、水難溶性のリン酸エステル、又はこれらの組み合わせである水難溶性有機リン化合物;もしくは前記水難溶性無機リン化合物と水難溶性無機リン化合物の組み合わせである(11)~(20)のいずれかに記載の熱膨張性耐火シート。
かかる構成により、熱膨張性耐火シートにおける水分への暴露に対する性能の低下がより効果的に抑制される。
【0102】
(21)水難溶性リン化合物が、ポリリン酸アンモニウム、亜リン酸アルミニウム、第1リン酸アルミニウム、第2リン酸アルミニウム、第3リン酸アルミニウム、メタリン酸アルミニウム、縮合リン酸アルミニウム、ポリリン酸メラム、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メレム及び水難溶性のリン酸エステルから選択される少なくとも一つ(11)~(20)のいずれかに記載の熱膨張性耐火シート。
かかる構成により、熱膨張性耐火シートにおける水分への暴露に対する性能の低下がより効果的に抑制される。
【0103】
(22)ポリリン酸アンモニウム、亜リン酸アルミニウム、第1リン酸アルミニウム、第2リン酸アルミニウム、第3リン酸アルミニウム、メタリン酸アルミニウム、縮合リン酸アルミニウム、又はこれらの組み合わせである水難溶性無機リン化合物;ポリリン酸メラム、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メレム、水難溶性のリン酸エステル、又はこれらの組み合わせである水難溶性有機リン化合物;もしくは前記水難溶性無機リン化合物と水難溶性無機リン化合物の組み合わせである水難溶性リン化合物を含有する(1)~(10)のいずれかに記載の熱膨張性耐火シート。
かかる構成により、熱膨張性耐火シートにおける水分への暴露に対する性能の低下がより効果的に抑制される。
【0104】
(23)ポリリン酸アンモニウム、亜リン酸アルミニウム、第1リン酸アルミニウム、第2リン酸アルミニウム、第3リン酸アルミニウム、メタリン酸アルミニウム、縮合リン酸アルミニウム、ポリリン酸メラム、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メレム及び水難溶性のリン酸エステルから選択される少なくとも一つである水難溶性リン化合物を含有する(1)~(10)のいずれかに記載の熱膨張性耐火シート。
かかる構成により、熱膨張性耐火シートにおける水分への暴露に対する性能の低下がより効果的に抑制される。
【0105】
(24)マトリックス樹脂が、ポリ塩化ビニル樹脂、塩素化塩化ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、エポキシ樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、またはポリエチレン又はブチルゴムである(1)~(23)のいずれかに記載の熱膨張性耐火シート。
【0106】
(25)熱膨張性耐火シート中に10~60質量%のマトリックス樹脂を含む(1)~(24)のいずれかに記載の熱膨張性耐火シート。
かかる構成により、機械的強度、成形性及び耐火性に優れた熱膨張性耐火シートとすることができる。
【0107】
(26)熱膨張性耐火シート中に、前記マトリックス樹脂としての10~60質量%のポリ塩化ビニル樹脂又は塩素化塩化ビニル樹脂と、5~35質量%の可塑剤と、5~60質量%の熱膨張性黒鉛と、ポリリン酸アンモニウム、亜リン酸アルミニウム、第1リン酸アルミニウム、第2リン酸アルミニウム、第3リン酸アルミニウム、メタリン酸アルミニウム、縮合リン酸アルミニウム、ポリリン酸メラム、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メレム及び水難溶性のリン酸エステルから選択される少なくとも一つである水難溶性リン化合物とを含み、熱膨張性耐火シートにおけるリンの含有量は10質量%以下である(1)~(25)のいずれかに記載の熱膨張性耐火シート。
かかる構成により、膨張耐火性シートは優れた耐火性能を維持しつつ、水分への暴露に対する性能の低下を抑制できる。
【0108】
(27)前記可塑剤はジ-2-エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジヘプチルフタレート(DHP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)等のフタル酸エステル可塑剤;ジ-2-エチルヘキシルアジペート(DOA)、ジイソブチルアジペート(DIBA)、ジブチルアジペート(DBA)等の脂肪酸エステル可塑剤;エポキシ化大豆油等のエポキシ化エステル可塑剤;アジピン酸エステル、アジピン酸ポリエステル等のポリエステル可塑剤;トリー2-エチルヘキシルトリメリテート(TOTM)、トリイソノニルトリメリテート(TINTM)等のトリメリット酸エステル可塑剤;又は鉱油等のプロセスオイルである(26)に記載の熱膨張性耐火シート。
【0109】
(28)熱膨張性耐火シート中に、前記マトリックス樹脂としての10~60質量%のポリ塩化ビニル樹脂又は塩素化塩化ビニル樹脂と、5~35質量%の可塑剤と、5~60質量%の熱膨張性黒鉛と、1~50質量%の無機充填剤とを含み、熱膨張性耐火シートにおけるリンの含有量は10質量%以下である(1)~(25)のいずれかに記載の熱膨張性耐火シート。
かかる構成により、膨張耐火性シートは優れた耐火性能を維持しつつ、水分への暴露に対する性能の低下を抑制できる。
【0110】
(29)熱膨張性耐火シート中に、前記マトリックス樹脂としての10~60質量%のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、エポキシ樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、ポリエチレン又はブチルゴムと、5~60質量%の熱膨張性黒鉛と、ポリリン酸アンモニウム、亜リン酸アルミニウム、第1リン酸アルミニウム、第2リン酸アルミニウム、第3リン酸アルミニウム、メタリン酸アルミニウム、縮合リン酸アルミニウム、ポリリン酸メラム、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メレム及び水難溶性のリン酸エステルから選択される少なくとも一つである水難溶性リン化合物とを含み、熱膨張性耐火シ
ートにおけるリンの含有量は10質量%以下である(1)~(25)のいずれかに記載の熱膨張性耐火シート。
かかる構成により、膨張耐火性シートは優れた耐火性能を維持しつつ、水分への暴露に対する性能の低下を抑制できる。
【0111】
(30)熱膨張性耐火シート中に、1~50質量%の無機充填剤をさらに含む(29)に記載の熱膨張性耐火シート。
かかる構成により、膨張耐火性シートは優れた耐火性能を維持しつつ、水分への暴露に対する性能の低下を抑制できる。
【0112】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例】
【0113】
1.実施例2~5、8~10及び16~20、並びに比較例1及び5の熱膨張性耐火シートの製造
表1の組成からなる組成物を150℃に設定したロールに投入し、5分間ロール混練することにより、配合物を得た。得られた配合物を130℃で、1.5mmのスペーサーを用いて圧力10MPaでプレス成型を実施し、厚み1.5mmのシート状の成型体を得た。なお、表中の各成分は質量部で示す。
【0114】
2.実施例11~13及び21~23、並びに比較例2~3の熱膨張性耐火シートの製造
表1の組成からなる組成物を遊星式攪拌機(シンキー社製ARE500)に供給し、常温下で700rpmで3分間混練し、混合物を得た。その後、PETフィルム上に混合物を塗布し、20℃にて10MPaでプレス成型を実施し、厚み1.5mmのシート状の成型体を得た。その後、その成型体を90℃の恒温層に10時間配置し、シートを硬化させ、熱膨張性耐火シートを製造した。
【0115】
3.実施例24~41の熱膨張性耐火シートの製造
表2の組成からなる組成物を、150℃に設定したロールに投入し、5分間ロール混練することにより、配合物を得た。得られた配合物を130℃で、1.5mmのスペーサーを用いて圧力10MPaでプレス成型を実施し、厚み1.5mmのシート状の成型体を得た。なお、表中の各成分は質量部で示す。
【0116】
4.実施例42~56の熱膨張製耐火シートの製造
表2及び表3の組成からなる組成物を、150℃に設定したロールに投入し、5分間ロール混練することにより、配合物を得た。得られた配合物を130℃で、1.5mmのスペーサーを用いて圧力10MPaでプレス成型を実施し、厚み1.5mmのシート状の成型体を得た。なお、表中の各成分は質量部で示す。
【0117】
表1~3中の各成分としては、以下のものを使用した。
【0118】
ポリ塩化ビニル樹脂(製品名:TK-1000、信越化学工業株式会社)
塩素化塩化ビニル樹脂(製品名:HA-53、徳山積水化学工業株式会社)
EVA樹脂 (製品名:EV460、三井デュポンポリケミカル株式会社)
エポキシ樹脂(製品名:FL-079、三菱化学株式会社)
エポキシ樹脂(製品名:E-807、三菱化学株式会社)
TPO(製品名:ミラストマー5020BS、三井化学株式会社)
EPDM(製品名:ENB-EPT X-3012P、三井化学株式会社)
クロロプレンゴム(製品名:デンカクロロプレンMT-100、デンカ社)
シリコーンゴム(製品名:HCR SH502U、東レ・ダウコーニング株式会社)
ポリエチレン(製品名:ノバテックLD ZE41K、三菱ケミカル株式会社)
ブチルゴム(製品名:JSR BUTYL065、株式会社JSR)
可塑剤 ジイソデシルフタレート(製品名:DIDP、ジェイ・プラス社)
熱膨張性黒鉛(製品名:CA-60N、エア・ウォーター社)
熱膨張性黒鉛(製品名:EXA50SE160、富士黒鉛工業株式会社)
熱膨張性黒鉛(製品名:ADT351、及び膨張開始温度約200℃、ADT社)
無機充填剤 炭酸カルシウム(製品名:ホワイトンBF-300、備北粉化工業株式会社)
難燃剤 ポリリン酸アンモニウム(製品名:AP-422、クラリアント社)
難燃剤 ポリリン酸アンモニウム(製品名:AP-462、クラリアント社)
難燃剤 亜リン酸アルミニウム(製品名:APA100、太平化学産業株式会社)
難燃剤 第1リン酸アルミニウム(製品名:100P、多木化学株式会社)
難燃剤 ポリリン酸メラミン (製品名:MPP-A、株式会社三和ケミカル)
難燃剤 ポリリン酸メラム(製品名:Phosmel (登録商標) 200、日産化学株式会社)
難燃剤 水難溶性有機リン化合物(製品名:Exolit OP1230、クラリアント社製)
難燃剤 第2リン酸アルミニウム(太平化学産業株式会社)
難燃剤 第3リン酸アルミニウム(太平化学産業株式会社)
難燃剤 メタリン酸アルミニウム(太平化学産業株式会社)
難燃剤 縮合リン酸アルミニウム(製品名:K-WHITE #85、テイカ株式会社)
難燃剤 縮合リン酸アルミニウム(製品名:K-BOND #90、テイカ株式会社)
難燃剤 縮合リン酸アルミニウム(製品名:K-FRESH MZO、テイカ株式会社)
難燃剤 リン酸トリクレジル(製品名:サンソサイザー TCP、新日本理化株式会社)
難燃剤 スピロ環ジホスフォネート化合物(製品名:FCX-210、帝人社製)
【0119】
5.試験の評価基準
(溶出率)
得られた実施例2~5、8~13、16~56及び比較例1~3、5の成形シートから作製した試験片(長さ50mm、幅50mm、厚さ1.5mm)の各々5枚を200gの純水に浸漬し、60℃で密閉容器にて1週間浸漬した後、サンプルを取り出し、浸漬した純水を60℃にて96時間、蒸発、乾燥させ、発生した析出物の質量を測定した。その値を用い溶出率を測定した。
【0120】
(膨張倍率)
得られた実施例2~5、8~13、16~56及び比較例1~3、5の成形シートから作製した試験片(長さ100mm、幅100mm、厚さ1.5mm)及び同形状の試験片を500mLの純水に60℃で密閉容器にて1週間浸漬した後、サンプルを取り出した。該サンプルを60℃にて96時間、蒸発、乾燥させて作成した試験片をステンレス製のホルダー(101mm角・高さ80mm)の底面に設置し、電気炉に供給し、600℃で30分間加熱した。その後、試験片の高さ(一番高い部分)横幅・縦幅・厚さを測定し、((加熱後の試験片の厚さ)/(加熱前の試験片の厚さ))により、膨張倍率を算出した。
【0121】
(圧縮強度)
膨張倍率を測定した加熱後の試験片を圧縮試験機(カトーテック社製、「フィンガーフイリングテスター」)に供給し、直径1mmの3点圧子で0.1cm/秒の速度で圧縮し、残渣上面からの10mm圧縮までの最大応力を測定し、燃焼後の試験片の圧縮強度を測定した。
【0122】
(判定)
溶出率が3質量%を超えた試験片はCとした。溶出率が3.0質量%を超えず、1.5質量%を超えた試験片はB、溶出率が1.5質量%を超えなかったものをAとした。
【0123】
6.試験結果
実施例2~5、8~13、16~56及び比較例1~3、5の試験片の膨張倍率、圧縮強度及び溶出率の測定結果は、表1に示す通りである。
【0124】
実施例19の熱膨張製耐火シートはリン化合物を含有しない。実施例2,8,11,18,20,21,24,27,30,33,36,39,49,50の熱膨張製耐火シートは亜リン酸アルミニウムを含有する。実施例3,9,17,25,28,31,34,37,40,55,56の熱膨張製耐火シートはポリリン酸メラミンを含有する。実施例4,10,12,16,20,26,29,32,35,38,41,51,52の熱膨張製耐火シートはポリリン酸メラムを含有する。実施例5,13,23,53,54の熱膨張製耐火シートは水難溶性有機リン化合物を含有する。実施例22の熱膨張製耐火シートは第1リン酸アルミニウムを含有する。実施例42の熱膨張製耐火シートは第2リン酸アルミニウムを含有する。実施例43の熱膨張製耐火シートは第3リン酸アルミニウムを含有する。実施例44の熱膨張製耐火シートはメタリン酸アルミニウムを含有する。実施例45~47の熱膨張製耐火シートは縮合リン酸アルミニウムを含有する。実施例48はリン酸トリクレジルを含有する。
【0125】
実施例2~5、8~13、16~56の熱膨張製耐火シートは、膨張倍率、圧縮強度及び溶出率ともに良好であったが、比較例1~3、5の熱膨張製耐火シートは溶出率が大きく、耐水性に乏しいことがわかった。また、溶出率の小さいものは溶出後の圧縮強度の変化が少なく、圧縮強度の維持ができていた。
【0126】
【0127】
【0128】