(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】カルテリドールの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 257/02 20060101AFI20221012BHJP
C07F 3/04 20060101ALN20221012BHJP
【FI】
C07D257/02
C07F3/04
(21)【出願番号】P 2021037983
(22)【出願日】2021-03-10
【審査請求日】2021-03-10
(31)【優先権主張番号】10-2020-0030266
(32)【優先日】2020-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518161905
【氏名又は名称】エンジーケム ライフサイエンシーズ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】イ ジョンス
(72)【発明者】
【氏名】ユン テミョン
(72)【発明者】
【氏名】イ ビョンウ
【審査官】早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-503238(JP,A)
【文献】国際公開第2019/143074(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第110835326(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 257/02
C07F 3/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式1で表わされるガドテリドールと脱錯化剤
である酒石酸とを反応させて、下記の一般式2で表わされるテリドールを得るステップと、
【化1】
【化2】
テリドールを得る前記ステップの反応物をイオン交換樹脂を用いて精製および分離することにより、ガドリニウムの除去されたテリドールを得るステップと、
残っている脱錯化剤および副産物を除去できるようにナノフィルターを用いてテリドールをろ過し且つ精製するステップと、
前記一般式2で表わされるテリドールにカルシウムイオンを反応させて、下記の一般式3で表わされるカルテリドールを得るステップと、
【化3】
を含む、カルテリドールの製造方法。
【請求項2】
前記脱錯化剤の含量は、ガドテリドールに対して、2.0~6.0当量である、請求項1に記載のカルテリドールの製造方法。
【請求項3】
前記カルシウムイオンは、カルシウムカーボネート、カルシウムヒドロキシド、カルシウムクロリドおよびこれらの混合物よりなる群から選ばれるものである、請求項1に記載のカルテリドールの製造方法。
【請求項4】
前記カルシウムイオンの含量は、テリドールに対して、0.9~1.1当量であり、前記カルシウムイオンとテリドールとの当量比が1:1であるカルテリドールである、請求項1に記載のカルテリドールの製造方法。
【請求項5】
前記カルシウムイオンの含量は、テリドールに対して、1.5~1.8当量であり、前記カルシウムイオンとテリドールとの当量比が2:3であるカルテリドールである、請求項1に記載のカルテリドールの製造方法。
【請求項6】
前記カルテリドールは、メタノール、エタノール、イソプロパノールまたはアセトンにより結晶化されるものである、請求項1に記載のカルテリドールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルテリドールの製造方法に係り、さらに詳しくは、MRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像)造影剤に用いられるカルテリドールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガドテリドール(Gadoteridol)は、ガドリニウム(Gadolinium)含有造影剤(Contrastagent)分野において、プロハンス(ProHance(登録商標))という商品名で全世界に市販されている。
【0003】
ガドリニウム含有造影剤の場合、微量の自由ガドリニウムの放出を防ぐために、過剰量の錯体形成配位子をカルシウム錯体の形態で適用する。これは、ガドリニウム陽イオンの毒性による腎性全身性線維症(Nephrogenic Systemic Fibrosis;NSF)に対する安全性の問題を解消することができる。
【0004】
例えば、下記の特許文献1の実施例7に開示されている下記の反応式1によれば、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリ酢酸(以下、DO3Aという。)を製造した後、プロピレンオキシドと反応させて10-(2-ヒドロキシプロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリ酢酸(以下、テリドールという。)を製造する。その後、カルシウムカーボネートを取り込んで10-(2-ヒドロキシプロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリ酢酸カルシウム塩(以下、カルテリドールという。)を製造する方法を開示する。
【0005】
【0006】
しかしながら、この方法では、高純度のDO3Aを得難く、最後のステップにおいてプロピレンオキシドを用いることにより、これを除去する工程が追加されることを余儀なくされるというデメリットがある。
【0007】
この理由から、経済性に富んでおり、しかも、簡素化された工程を通じて高純度のカルコブトロールを製造する方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、ガドテリドール中間体(テリドール)を用いて、高い純度を有し、工程が単純である他、経済的にカルテリドールを製造することのできる方法を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、既存に知られているDO3Aを出発物質とする方法よりも工程が単純であり、しかも、経済的にカルテリドールを製造することのできる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明は、下記の一般式1で表わされるガドテリドールと脱錯化剤とを反応させて、下記の一般式2で表わされるテリドールを得るステップ、および下記の一般式2で表わされるテリドールにカルシウムイオンを反応させて、下記の一般式3で表わされるカルテリドールを得るステップを含むカルテリドールの製造方法を提供する。
【0012】
【0013】
【0014】
【発明の効果】
【0015】
以上述べたように、本発明に係るカルテリドールの製造方法は、既存に知られているDO3Aを出発物質として製造する方法よりも工程が単純であり、しかも、経済的にカルテリドールを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
【0017】
本発明に係るカルテリドールの製造方法は、下記の反応式2に示すように、ガドテリドールを出発物質として用いて、カルテリドールを製造する方法を開示する。前記ガドテリドールから有機酸とイオン交換樹脂とを用いてガドリニウムを除去し、ナノフィルターを用いて不純物を除去して高純度のテリドールを得ることができ、ここにカルシウムカーボネートを用いてカルシウムイオンを供し、結晶化させて高純度のカルテリドールを製造することができる。
【0018】
【0019】
具体的に、本発明に従いテリドールを製造するためには、まず、出発物質としての下記の一般式1で表わされる2,2′,2″-[10-(2-ヒドロキシプロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリイル]トリアセテートのガドリニウム錯体(以下、ガドテリドールという。)と脱錯化剤とを反応させると、下記の一般式2で表わされる2,2′,2″-[10-(2-ヒドロキシプロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリイル]トリ酢酸(以下、ブトロールという。)を得ることができる。
【0020】
【0021】
【0022】
前記脱錯化剤は、ガドテリドールのガドリニウムを脱錯体化させて、水に対して難溶性であるガドリニウム塩を形成するので、ろ過工程を通じてテリドールを単離することができる。前記脱錯化剤としては、酒石酸、コハク酸、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、シュウ酸などを用いることができ、好ましくは、酒石酸を用いる。前記脱錯化剤の使用量は、ガドテリドール1.0当量に対して、2.0~6.0当量であり、好ましくは、3.0~4.0当量である。前記脱錯化剤の使用量が少な過ぎると、反応性が低下して反応時間が長引いたり歩留まり率が減少したりするという問題が生じる虞がある。また、類縁物質の生成に伴い品質に問題が生じる虞がある。脱錯化剤の使用量が多過ぎると、反応が終わってから未反応の脱錯化剤を除去することを余儀なくされるため、工程が複雑になり、しかも、さらなるコストがかかる虞がある。
【0023】
前記反応には精製水を用い、反応温度は、80~90℃である。反応温度に応じて、品質に問題が生じ、かつ、コストアップの問題が生じる虞がある。反応時間は、1~2時間であり、反応時間が未短過ぎると、未反応物が発生し、かつ、品質に問題が生じる虞があり、長過ぎると、作業時間の増加に伴いさらなるコストがかかってしまう。
【0024】
前記反応物をイオン交換樹脂などを用いるなどの方法で精製および分離して、ガドリニウムの除去されたテリドールを得ることができる。前記イオン交換樹脂は、陽イオンと陰イオンのレジンをこの順に通過させて用いることができる。前記反応から生成された塩を含む反応物を再びろ過すると、残っている脱錯化剤および副産物を除去することができる。前記精製されたろ過液を濃縮すると、純度90%以上のテリドールを得ることができる。
【0025】
具体的に、ナノフィルターを用いてろ過し、前記ナノフィルターシステムは、有機膜のらせん状のタイプ(Spiral type)であり、200~300Dalton以上のモル質量を有する物質をろ過または濃縮するために設計された逆浸透圧装置であって、塩およびその他の低分子量を有する水溶性有機または無機物質を有機膜を用いて分離および精製して所望の物質のみを回収することができる。
【0026】
前記一般式2で表わされるテリドールとカルシウムイオンを反応させて結晶化させると、下記の一般式3で表わされる2,2′,2″-[10-(2-ヒドロキシプロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリイル]トリアセテートカルシウム錯体(以下、カルテリドールという。)を得ることができる。
【0027】
【0028】
前記反応は、精製水を用いて行い、カルシウムイオン供給源としては、カルシウムカーボネート、カルシウムヒドロキシド、カルシウムクロリドなどを用いることができ、好ましくは、カルシウムカーボネートを用いる。
【0029】
本発明に係るカルテリドールとしては、テリドールとカルシウムイオンとの当量比が1:1であるカルテリドールだけではなく、テリドールとカルシウムイオンとの当量比が2:3であるカルテリドールカルシウムの形態をもさらに挙げられる。前記カルテリドールカルシウムは、カルテリドールよりもカルシウムイオンをさらに含む場合に生じる形態である。
【0030】
具体的に、前記カルシウムイオン供給源の使用量は、テリドール1.0当量に対して、0.8~2.5当量であり、好ましくは、0.9~1.8当量である。より具体的に、前記カルシウムイオンの含量がテリドールに対して0.9~1.1当量であるカルテリドール、およびカルシウムイオンの含量がテリドールに対して1.5~1.8当量であるカルテリドールカルシウムを含むことができる。ここで、前記カルシウム供給源の当量が少な過ぎると、錯体が完全に形成されず、歩留まり率が減少するという問題が生じ、多過ぎると、残留しているカルシウムカーボネートのろ過が円滑に行われないという問題がある。そして、カルシウムイオンの含量が1.5当量を超えると、テリドールとカルシウムとの比が2:3であるカルテリドールカルシウムが生成される。
【0031】
前記反応は、一般に、80~90℃の温度で行われ、温度が低過ぎると、未反応物による歩留まり率の減少の問題が生じる虞があり、高過ぎると、製品の品質に問題が生じる虞がある。また、前記テリドールとカルシウムイオンとの反応時間は、1時間~2時間であり、反応時間が短過ぎると、未反応物による歩留まり率の減少の問題および結晶化時の問題が生じる虞があり、長過ぎると、類縁物質の生成など品質に問題が生じる虞がある。
【0032】
前記反応物を濃縮した後、精製水に溶解し、アセトンで結晶化および単離を行ってもよい。前記結晶化溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトンなどの有機溶媒を用いることができ、好ましくは、アセトンを用いることができる。具体的に、 前記反応物を濃縮した母液を、一般に、45~55℃で精製水-アセトンの条件で結晶化させることができる。結晶化させた混合物を乾燥させると、カルテリドールを得ることができる。
【0033】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳述するが、本発明は、下記の実施例により限定されるものではない。
【0034】
[実施例1]一般式2で表わされるテリドールの製造
2,2′,2″-[10-(2-ヒドロキシプロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリイル]トリアセテートのガドリニウム錯体(以下、ガドテリドールという。)200.0g、酒石酸102.1gと精製水600mlを反応器に投入し、90℃まで昇温させて反応を行った。反応が終わった後、20℃まで冷却し、ろ過した。ろ液は、陽イオンと陰イオンのレジンをこの順に通過させて精製した。精製されたろ液に対してナノろ過(ナノフィルトレーション)を行い、減圧濃縮して2,2′,2″-[10-(2-ヒドロキシプロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリイル]トリ酢酸(テリドール)132.52g(歩留まり率:91.5%)を得た。
【0035】
[実施例2]一般式3で表わされるカルテリドールの製造
2,2′,2″-[10-(2-ヒドロキシプロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリイル]トリ酢酸(テリドール)132.52g、カルシウムカーボネート32.81gと精製水530mlを反応器に投入した後、75℃まで昇温させて3時間攪拌した後、反応を終結し、10℃まで冷却した後、ろ過した。ろ過されたろ液を濃縮した後、精製水265mlを投入し、40℃まで昇温させてアセトン1325mlを投入した。結晶が生成されれば、20℃まで冷却して生成された結晶をろ過し且つ乾燥させて、2,2′,2″-[10-(2-ヒドロキシプロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリイル]トリアセテートカルシウム錯体(以下、カルテリドールという。)137.62g(歩留まり率:91.0%)を得た。