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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】接点材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/00 20060101AFI20221012BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20221012BHJP
   C25D 15/02 20060101ALI20221012BHJP
   H01R 13/03 20060101ALN20221012BHJP
【FI】
C23C28/00 A
C25D7/00 H
C25D15/02 J
C25D15/02 N
H01R13/03 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021057353
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2021-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221589
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 俊博
(72)【発明者】
【氏名】桂 翔生
(72)【発明者】
【氏名】山本 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 弘高
(72)【発明者】
【氏名】湖山 貴之
(72)【発明者】
【氏名】鶴 将嘉
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-129949(JP,A)
【文献】特開2002-030489(JP,A)
【文献】特開2010-254738(JP,A)
【文献】特開2018-053315(JP,A)
【文献】特開2008-192610(JP,A)
【文献】特開2008-273189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D
H01H
H01R
C10M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀含有膜を含む接点材料であって、
前記銀含有膜は、銀を50質量%以上含む銀含有層と、前記銀含有層に接触した非導電性有機化合物からなる円相当直径が50μm以下の粒子とを含み、
前記銀含有膜に対して摺動処理を施すことにより、前記非導電性有機化合物の一部が分解されるとともに、 前記銀含有層上に炭素、銀および前記非導電性有機化合物を構成する元素を含む炭素含有反応層形成される、接点材料
【請求項2】
前記非導電性有機化合物が、単位分子構造内に、カルボニル基(-C(=O)-)、アミノ基(-NRであって、RおよびRは水素または炭化水素基であり、RおよびRは同じでも異なっていてもよい)およびヒドロキシ基(-OH)のいずれか1つ以上を含む請求項1に記載の接点材料
【請求項3】
銀含有膜を含む接点材料であって、
前記銀含有膜は、銀を50質量%以上含む銀含有層と、前記銀含有層に接触した非導電性有機化合物からなる円相当直径が50μm以下の粒子とを含み、前記非導電性有機化合物の一部は分解されており、
前記銀含有層上に、炭素、銀および前記非導電性有機化合物を構成する元素を含む炭素含有反応層を含む、接点材料
【請求項4】
請求項1または2に記載の接点材料に対して摺動処理を行う工程を含む、請求項3に記載の接点材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は銀含有膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CO排出規制の強化に伴い、化石燃料への依存度が低い電気自動車(EV)およびプラグインハイブリッド自動車(PHEV)の増加が予想されている。これらの自動車は、日常的にバッテリーへの充電を必要とするため、外部電源と自動車を接続する接点端子材料においては、従来自動車に用いられているものに比べても大幅に多い回数の挿抜を想定する必要がある。本分野においては通常導電性の高い(低接触抵抗の)銀(Ag)めっきが適用されることが多いが、一般的にAgめっき膜の硬度は低いうえ、Ag同士の摺動時に「焼き付き」を生じ易いことから、繰り返しの挿抜(摺動)を実施した際に摩耗が容易に進行することが課題となる。
【0003】
古くからAgめっき膜の高硬度化による耐摩耗性の改善を目的とし、
(1)結晶粒微細化によるAgめっき膜の高硬度化
(2)Agと、Se(セレン)またはSb(アンチモン)等との合金化による高硬度化等の検討が行われてきた。しかしながら、上記(1)および(2)のいずれの手法によっても耐摩耗性の改善は不十分であった。また、SeおよびSbは有毒な元素であり、管理に注意を要するうえ、合金化に伴って電気伝導度の低下を招くという問題もある。
【0004】
また、めっき膜の高硬度化以外の着想による耐摩耗性の改善も種々検討されており、主には、非特許文献1および2に開示されるように、
(3)炭素系粒子のAgめっき膜中への共析(分散めっき)による耐摩耗性の改善
の検討が行われてきた。これらの検討には、主にグラファイト・カーボンブラック(CB)・カーボンナノチューブ(CNT)が用いられてきた。その理由としては、(i)グラファイト等の炭素系粒子は、固体潤滑剤として作用することから耐摩耗性改善効果が期待できること、および(ii)炭素系粒子は導電性を有するため、Agマトリクス中に共析(分散)させた際に接点との接触抵抗を阻害する恐れがないことが考えられる。実際、非特許文献1においては、Agめっき液中にグラファイト粒子を懸濁させてめっき処理を行ったAg-グラファイト複合めっき膜により、Agめっき膜だけでなく、硬質Ag-Sb合金めっき膜と比較しても良好な耐摩耗性を実現できることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】まてりあ、第58巻、第1号(2019)、p41-43
【文献】表面技術協会、第81回講演大会要旨集、27A-1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記(3)については、非特許文献2のように非常に古くから検討が行われており、Agめっき膜等の銀含有膜の耐摩耗性改善手法としてはごく一般的なものであると言える。しかしながら、EVおよびPHEVの増加予測に伴い耐摩耗性と導電性を両立した接点材料への需要が高まっているにもかかわらず、上記(3)の活用は進んでいない。この理由は、炭素粒子分散めっきを実際の端子材料に適用して摺動(挿抜)を繰り返すと、接点部の摩耗に従ってめっき膜中に保持されていた炭素粒子が脱落するという懸念によるものと考えられる。炭素系粒子は良好な導電性をもつため、銀含有膜中に共析させたとしても接点部における通電を阻害する恐れが少ないと考えられる一方で、これらの粒子が端子表面から脱落して接点周囲に堆積すると、接点の短絡を招くおそれがある。特に高電圧・大電流での通電を必要とするEVおよびPHEV用の端子部においては安全性に重大な懸念を生じる場合がある。
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、導電性粒子の脱落による接点の短絡を十分に抑制でき、かつ十分な耐摩耗性および導電性を有する銀含有膜およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様1は、
銀を50質量%以上含む銀含有層と、前記銀含有層に接触した非導電性有機化合物からなる粒子とを含み、
前記銀含有層上に炭素含有反応層を形成可能な銀含有膜である。
【0009】
本発明の態様2は、
前記非導電性有機化合物が、単位分子構造内に、カルボニル基(-C(=O)-)、アミノ基(-NRであって、RおよびRは水素または炭化水素基であり、RおよびRは同じでも異なっていてもよい)およびヒドロキシ基(-OH)のいずれか1つ以上を含む態様1に記載の銀含有膜である。
【0010】
本発明の態様3は、
前記銀含有層上に前記炭素含有反応層を含む態様1または2に記載の銀含有膜である。
【0011】
本発明の態様4は、
態様1または2に記載の銀含有膜に対して摺動処理を行う工程を含む、態様3に記載の銀含有膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態によれば、導電性粒子の脱落による接点の短絡を十分に抑制でき、かつ十分な耐摩耗性および導電性を有する銀含有膜およびその製造方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A図1Aは、本発明の実施形態に係る銀含有膜(摺動処理前)の一例の模式断面図である。
図1B図1Bは、本発明の実施形態に係る銀含有膜(摺動処理後)の一例の模式断面図である。
図2A図2Aは、本発明の実施形態に係る銀含有膜(摺動処理前)の他の一例の模式断面図である。
図2B図2Bは、本発明の実施形態に係る銀含有膜(摺動処理後)の他の一例の模式断面図である。
図3A図3Aは、本発明の実施形態に係る銀含有膜(摺動処理前)の他の一例の模式断面図である。
図3B図3Bは、本発明の実施形態に係る銀含有膜(摺動処理後)の他の一例の模式断面図である。
図4図4は、耐摩耗性評価後の実施例2のNo.13の銀含有膜の断面TEM像である。
図5図5は、実施例1のNo.1の銀含有膜の耐摩耗性評価結果である。
図6図6は、実施例1のNo.2の銀含有膜の耐摩耗性評価結果である。
図7図7は、実施例1のNo.3の銀含有膜の耐摩耗性評価結果である。
図8図8は、実施例1のNo.4の銀含有膜の耐摩耗性評価結果である。
図9図9は、実施例1のNo.5の銀含有膜の耐摩耗性評価結果である。
図10図10は、実施例1のNo.6の銀含有膜の耐摩耗性評価結果である。
図11図11は、実施例1のNo.7の銀含有膜の耐摩耗性評価結果である。
図12図12は、実施例1のNo.8の銀含有膜の耐摩耗性評価結果である。
図13図13は、実施例1のNo.9の銀含有膜の耐摩耗性評価結果である。
図14図14は、実施例1のNo.10の銀含有膜の耐摩耗性評価結果である。
図15図15は、実施例1のNo.11の銀含有膜の耐摩耗性評価結果である。
図16図16は、実施例1のNo.12の銀含有膜の耐摩耗性評価結果である。
図17図17は、実施例2のNo.13の銀含有膜の耐摩耗性評価結果である。
図18図18は、実施例2のNo.14の銀含有膜の耐摩耗性評価結果である。
図19A図19Aは、図4の一部領域のSTEM-HAADF像である。
図19B図19B図19A中の「1」で示された箇所のEDX分析結果である。
図19C図19C図19A中の「2」で示された箇所のEDX分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、導電性粒子の脱落による接点の短絡を十分に抑制でき、かつ十分な耐摩耗性および導電性を有する銀含有膜を実現するべく、様々な角度から検討した。非特許文献1に記載されるような従来の共析めっき技術の検討では、大部分が劈開作用を持つ固体潤滑材(かつ、良好な導電性を持つもの)としてグラファイト等の炭素系粒子が用いられてきた。しかしながら、本発明者らが検討を進めた結果、固体潤滑作用を有する無機粒子である滑石(タルク)を銀含有層に接触させても十分な耐摩耗性が得られないのに対し、必ずしも固体潤滑作用を有しない非導電性有機化合物粒子を接触(担持)させることにより、十分な耐摩耗性が得られることがわかった。これは、非導電性有機化合物粒子を接触させた銀含有層上に、当該銀含有層とは成分が異なりかつ炭素を含む層(以下「炭素含有反応層」と称する)が形成され、当該炭素含有反応層により十分な耐摩耗性が得られたと考えられる。さらに、当該炭素含有反応層は導電性をあまり阻害しないため、結果として、導電性粒子の脱落による接点の短絡のおそれを十分に抑制でき、かつ十分な耐摩耗性および導電性を有する銀含有膜を実現することができた。
【0015】
以下に、本発明の実施形態が規定する各要件の詳細を示す。
【0016】
本発明の実施形態に係る銀含有膜は、銀含有層と、前記銀含有層に接触した非導電性有機化合物からなる粒子とを含む。本発明の実施形態に係る銀含有膜は、後述するような摺動処理を施すことで、炭素含有反応層を銀含有層上に形成することができる。炭素含有反応層は、有機化合物の一部が摺動処理を介して分解することに起因して銀含有層上に形成されるものと考えられ、これにより、銀含有膜の導電性を低下させることなく摩擦係数を低減させ耐摩耗性を付与することが可能である。
【0017】
図1Aは、本発明の実施形態に係る銀含有膜の一例の模式断面図を示す。図1Aにおいて、銀含有膜1は、銀含有層2と、銀含有層2に接触(付着)した非導電性有機化合物からなる粒子3(以下単に「粒子3」と称することがある)とを含む。
銀含有膜1に対して摺動処理を施すことにより、(粒子3の非導電性有機化合物の一部が分解することに起因して)銀含有層2上に炭素含有反応層を形成できる。図1Bに、銀含有膜1に摺動処理を施した後の模式断面図を示す。銀含有膜11は、摺動処理部分11Aにおいて、銀含有層2上に、炭素含有反応層4が形成される。なお、図1Bのように、摺動処理部分11Aにおいて、粒子3は摺動処理により脱落し得るため、例えば端子接点材料として使用した際に通電しやすい形態となり得る。また、図1Bにおいて摺動処理部分11Aの端部と炭素含有反応層4の端部とが一致しているが、必ずしも一致していなくてもよい。
本発明の実施形態に係る銀含有膜は、炭素含有反応層4を形成可能であり、この「炭素含有反応層4を形成可能」とは、銀含有膜1(および後述する銀含有膜21、41)のように炭素含有反応層4形成前の状態と、銀含有膜11(および後述する銀含有膜31、51)のように実際に炭素含有反応層4が形成された状態と、を含むことを意味する。
【0018】
銀含有層2は、銀を50質量%以上含む層である。銀含有層2としては、通常の端子表面処理に使用される軟質Agめっき、硬質Agめっき、光沢Agめっきおよび半光沢Agめっき等の他に、マトリクスの耐食性(耐硫化性など)改善および耐摩耗性改善等を目的として合金めっきを使用することも可能である。ただし、耐摩耗性は炭素含有反応層4により付与できるため、耐食性改善等他の目的がない場合は、導電性に優れる純Agめっき層を担体として使用することが好ましく、例えば銀を90質量%以上含むことが好ましく、95質量%以上含むことがより好ましく、99質量%以上含むことがさらに好ましい。
なお、後述するような銀含有層2中に非導電性有機化合物からなる粒子3を共析した場合の、銀含有層2の銀含有量は、非導電性有機化合物からなる粒子3を除いた部分の組成分析をすることで求めることができる。
【0019】
銀含有層2の厚さは特に制限されず、用途に応じて適宜調整され得るが、例えば100μm以下、さらには50μm以下の厚さであってもよい。
【0020】
非導電性有機化合物からなる粒子3について、「非導電性」とは、導電性を示さないことを意味し、例えばASTM D257に基づき測定した体積抵抗率が、概ね10[Ω・cm]以上の値を示すものをいう。
【0021】
非導電性有機化合物からなる粒子3について、「有機化合物」とは、炭素を含む化合物のうち、一酸化炭素、二酸化炭素、炭酸塩、青酸、シアン酸塩、チオシアン酸塩、BCおよびSiC等のように簡単な構造の化合物を除いたものを指す。例えばシロキサン結合(-Si-O-Si-)が主鎖であって側鎖に有機基を有するシリコーン樹脂は、本明細書における「有機化合物」に含むものとする。有機化合物であることにより、その一部が摺動処理を介して分解されて炭素含有反応層4を形成することができる。
【0022】
非導電性有機化合物は、単位分子構造内に、カルボニル基(-C(=O)-)、アミノ基(-NRであって、RおよびRは水素または炭化水素基であり、RおよびRは同じでも異なっていてもよい)およびヒドロキシ基(-OH)のいずれか1つ以上を含むことが好ましい。これらの所定の官能基を含むことにより、有機化合物の分解が促進されて炭素含有反応層4が容易に形成され得る。ここで、「単位分子構造」とは、高分子(重合体)の場合にはその1繰り返し単位、非重合体の場合には個々の分子を意味する。
【0023】
非導電性有機化合物からなる粒子3について、「粒子」とは、円相当直径が50μm以下の比較的小さな物質を意味し、形状はどのようなものであってもよい。
【0024】
本発明の実施形態に係る銀含有膜において「粒子が接触している」とは、例えば図1Aのように粒子3が銀含有層2表面に接触(付着)していてもよく、例えば粒子3が銀含有層2中に共析して(埋没して)いてもよい。その場合、粒子3は、後述する図3Aのように銀含有層2中に完全に埋没していてもよく、後述する図2Aのように一部銀含有層2表面に露出していてもよく、容易に炭素含有反応層4が容易に形成する観点では、粒子3が一部銀含有層2表面に露出している方が好ましい。粒子3が銀含有層2中に完全に埋没している場合は、粒子3が露出するように摺動処理を施すことにより、炭素含有反応層4を形成できる。
図2Aは、本発明の実施形態に係る銀含有膜の他の一例の模式断面図を示しており、銀含有膜21において、粒子3は銀含有層2中に埋没しており且つ一部銀含有層2表面に露出している。この銀含有膜21に対して摺動処理を施すことにより、(粒子3の非導電性有機化合物の一部が分解することに起因して)銀含有層2上に炭素含有反応層を形成できる。図2Bに、銀含有膜21に摺動処理を施した後の模式断面図を示す。銀含有膜31は、摺動処理部分31Aにおいて、銀含有層2上に、炭素含有反応層4が形成される。なお、図2Bにおいて摺動処理部分31Aの端部と炭素含有反応層4の端部とが一致しているが、必ずしも一致していなくてもよい。
図3Aは、本発明の実施形態に係る銀含有膜の他の一例の模式断面図を示しており、銀含有膜41において、粒子3は、銀含有層2中に完全に埋没している。この銀含有膜41に対して粒子3が露出するように摺動処理を施すことにより、(粒子3の非導電性有機化合物の一部が分解することに起因して)銀含有層2上に炭素含有反応層を形成できる。図3Bに、銀含有膜41に摺動処理を施した後の模式断面図を示す。銀含有膜51は、摺動処理部分51Aにおいて、粒子3が露出するように銀含有層2が摺動されており、その銀含有層2上に、炭素含有反応層4が形成される。なお、図3Bにおいて摺動処理部分51Aの端部と炭素含有反応層4の端部とが一致しているが、必ずしも一致していなくてもよい。
なお「粒子が接触している」か否かは、例えば、銀含有膜1(11、21、31、41および51)の断面を観察することで判断できる。なお銀含有膜11(31および51)の摺動部分11A(31Aおよび51A)については、粒子3が脱落している可能性があるため、摺動部分11A(31Aおよび51A)以外の断面を観察することで判断できる。
【0025】
本発明の実施形態に係る銀含有膜において「粒子が接触している」必要があるが、一方で非導電性有機化合物からなる「膜が接触している」態様であっても、銀含有層2上に炭素含有反応層4が形成され得る。ただし、「膜が接触している」態様であれば、銀含有層2表面が当該膜により被覆されて、銀含有膜の初期の接触抵抗を阻害するおそれがあるため、本発明の実施形態のように「粒子が接触している」態様が好ましい。
粒子3の大きさおよび接触形態は、使用する有機化合物の種類および求める特性に応じて最適な状態が変化するが、いずれの場合においても、銀含有層2に接触させた際に端子接点間の通電をより阻害しにくい状態であることが望ましい。例えば、銀含有層2中に粒子3を共析させた(取り込ませた)態様では、銀含有層2中に粒子が完全に埋没しうる大きさであることが望ましく、すなわち、粒子3の平均粒径(円相当直径)は、銀含有層2の厚さ未満であることが好ましい。
【0026】
本発明の実施形態に係る銀含有膜1(11、21、31、41および51)において、耐摩耗性改善効果を発現させ、長期的に維持するという観点では、接触させる粒子は多いほうが望ましいが、一方で摺動処理時に銀含有層2の表面に存在する粒子が除去されなかった場合に端子接点間の通電を阻害しやすくなる。このため、図1Aおよび図1B図2Aおよび図2B、ならびに図3Aおよび図3B)において上方から観察したときの、銀含有層2の表面の露出率(粒子の被覆率)を一定の範囲に管理することにより、良好な導電性を発現することが可能となる。銀含有層2の露出率は、使用する粒子の粒径および/または硬度によっても変化するが、概ね50面積%以上が露出していることが望ましい。
【0027】
本発明の実施形態に係る銀含有膜1(11、21、31、41および51)は、場合によっては導電性粒子が接触していてもよいが、少なければ少ない程導電性粒子の脱落による接点の短絡を抑制でき好ましい。そのため、本発明の実施形態に係る銀含有膜1(11、21、31、41および51)に接触している粒子の、50体積%以上が非導電性有機化合物からなる粒子3であることが好ましく、60体積%以上、70体積%以上、80体積%以上、90体積%以上がより好ましく、全て(100体積%)が非導電性有機化合物からなる粒子3であることがさらに好ましい。また、本発明の実施形態に係る銀含有膜1(11、21、31、41および51)は、場合によっては無機粒子が接触していてもよい。
【0028】
本発明の実施形態に係る銀含有膜は、銀含有層2上に炭素含有反応層4を形成可能である。この「炭素含有反応層4を形成可能」とは、銀含有膜1(21および41)のように炭素含有反応層4形成前(すなわち摺動処理前)の状態と、銀含有膜11(31および51)のように実際に炭素含有反応層4が形成された(すなわち摺動処理後の)状態と、を含むことを意味する。銀含有膜1(21および41)が、「炭素含有反応層4を形成可能」であるか否かは、銀含有膜1(21および41)に対して、例えば以下の条件Aで摺動処理を行い(銀含有膜41については、粒子3が露出するように摺動処理を施した上で、さらに以下の条件Aで摺動処理を行い)、その後断面TEM観察(およびEDX分析)を行い、図1B図2Bおよび図3B)に示すような炭素含有反応層4の有無を調べることで判断できる。銀含有膜11(31および51)が、「炭素含有反応層4を形成可能」であるか否かは、断面TEM観察(および組成分析)を行い、図1B図2Bおよび図3B)に示すような炭素含有反応層4の有無を調べることで判断できる。なお、下記摺動処理条件A後には、銀含有膜の硬さによって違いは出るものの、銀含有膜がおおよそ5μm以上摩耗し得るため、例えば粒子3が露出するように摺動処理する際も、下記摺動処理条件Aのサイクル数等を適宜制御することによって、容易に粒子3を露出させることができる。
<摺動処理条件A>
ハンドプレスによってR=1.8mmのエンボス形状を形成したものを基材とし、硬質Agめっき層(ビッカース硬さHV:160以上)を40μm以上形成したサンプルを相手材とし、対象となる銀含有膜1に対し500サイクルの摩擦摺動試験(アイコーエンジニアリング製、横型荷重試験機、印加する垂直荷重:3N、摺動距離:10mm、摺動速度:80mm/min)を行う。
【0029】
一例として、図4に、銀含有層2に接触した非導電性有機化合物(メラミンシアヌレート)からなる粒子3とを含む銀含有膜に対して、摺動処理を施した後の銀含有膜の断面TEM像を示す。図4に示すように、銀含有層2上に、炭素含有反応層4が形成されている。なお、TEM観察のために炭素含有反応層4上にはOs保護膜5およびC保護膜6が積層されている。当該炭素含有反応層4を組成分析(例えばEDXまたはEELS分析等)したときに、炭素が検出される。なお、例えばEDXまたはEELS分析等の際は、後述する実施例のように他の層等から信号を拾わないように、ビーム径を(例えば1nm程度に)絞って測定する必要がある。炭素含有反応層4の炭素含有量は例えば50原子%以上でありうる。
【0030】
炭素含有反応層4は、炭素の他、銀を含み得る。これは、非導電性有機化合物と銀含有層2との反応、および/または銀含有層2からの銀原子の拡散に起因し得る。また炭素含有反応層4は、非導電性有機化合物由来の元素を含み得る。例えば、非導電性有機化合物が酸素原子および/または窒素原子を含むようであれば、炭素含有反応層4もまた、酸素原子および/または窒素原子を含み得る。これらの原子を含むか否かはEDX分析を行うことで確認できる。また炭素含有反応層4は、非晶質炭素を含み得る。非晶質炭素を含むか否かはラマン分析を行うことで確認することができる。
【0031】
炭素含有反応層4の厚さは、200nm以下であることが好ましく、100nm以下がより好ましい。これにより、銀含有膜11(31および51)の導電性を低下させにくくなる。一方で、炭素含有反応層4の厚さは、1nm以上であることが好ましく、2nm以上がより好ましい。これにより、耐摩耗性をより高くすることができる。
【0032】
本発明の実施形態に係る銀含有膜1(11、21、31、41および51)は、本発明の目的を達成する上で他の層(例えば基材層、ストライクめっき層等)を含んでいてもよい。
【0033】
本発明の実施形態に係る銀含有膜1は、例えば、銅板などの基材上に、一般的な条件で銀(または銀合金)めっき液に通電して銀めっき処理を施して銀含有層2を形成した後、非導電性有機化合物からなる粒子3の分散液を表面に塗布することにより製造することができる。これにより、銀含有層2表面に非導電性有機化合物からなる粒子3が接触した銀含有膜1が得られる。さらに、銀含有膜1に対して、上記摺動処理条件Aの摺動処理を施すことにより、銀含有層2上に炭素含有反応層4が形成された銀含有膜11を製造できる。なお、場合によっては、銀めっき処理を施す前に、ストライク銀めっき処理を施してもよい。
または、銀(または銀合金)めっき液中に非導電性有機化合物からなる粒子3を分散させて、攪拌しながら電気めっき処理を行うことで、非導電性有機化合物からなる粒子3が銀含有層2中に共析した銀含有膜(銀含有層2表面に粒子3の一部が露出した銀含有膜21または銀含有層2中に粒子3が完全に埋没した銀含有膜41)が得られる。銀含有膜21については、上記摺動処理条件Aの摺動処理を施すことにより、銀含有層2上に炭素含有反応層4を形成でき、銀含有膜41については、粒子3が露出するように摺動処理を施した上で、さらに上記摺動処理条件Aの摺動処理を施すことにより、銀含有層2上に炭素含有反応層4を形成できる。
なお、めっき液中に粒子3を分散させて電気めっきを行い、銀含有膜中に粒子3を共析させるプロセスにおいては、以下の反応(1)および(2)が同時に進行する。
(1)基材表面に、液中分散粒子が静電気的または物理的に吸着(接触)する反応
(2)基材表面に、銀含有層2が堆積(成長)する反応
(1)で吸着した粒子3が(2)の銀含有層2中に取り込まれることで「共析」が生じる。共析めっきが定常的に進行する条件においては、反応最初期に吸着した粒子3が銀含有層2中に取り込まれるのと同時に、新たな粒子3の吸着が発生する。このため、めっき処理を停止した場合にも、多くの場合で最表面に粒子3の露出が見られ、通常の共析めっきプロセスにおいて、銀含有層2表面に粒子3の一部が露出した銀含有膜21を容易に製造することができる。
ここで、銀含有層2中への粒子3の共析量は、(1)の吸着頻度と(2)のめっき膜成長速度とのバランスで決定されるため、めっき条件(およびめっき浴条件)を変化させることで共析量を変化させることが可能となる。例えば、めっき処理の終盤において、めっき液中に分散した粒子3を含まないめっき液を用いて処理を行う、あるいはめっき液の攪拌速度を変化させて(1)の吸着頻度を低下させるなどの手段を取ることで、めっきの最表面側に粒子3を共析させない層を設けることで、銀含有層2中に粒子3が完全に埋没した銀含有膜41を製造することが可能となる。
【0034】
本発明の実施形態に係る銀含有膜1(21および41)は、例えば上記摺動処理条件Aの摺動処理を施すことにより(銀含有膜41であれば粒子3を露出させてから摺動処理条件Aの摺動処理を施すことにより)、銀含有層2上に炭素含有反応層4が形成された銀含有膜11(31および51)が得られ、十分な導電性だけでなく、十分な耐摩耗性を有するようになる。具体的には、上記摺動処理条件Aの500サイクル後の接触抵抗が0.50[mΩ]以下であり、摩擦係数(垂直荷重に対する水平荷重の比)が0.30以下である。
本発明の実施形態に係る銀含有膜1(21および41)は、接点端子材料としての取扱性の観点から、容易に炭素含有反応層4が形成されて摩擦係数が低下する態様が好ましく、具体的には上記摺動処理条件Aの100サイクル後の摩擦係数が0.30以下であることが好ましい。
【実施例
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明の実施形態をより具体的に説明する。本発明の実施形態は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前述および後述する趣旨に合致し得る範囲で、適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の実施形態の技術的範囲に包含される。
【実施例1】
【0036】
厚さ0.3mmの純銅板をめっき基材とし、アセトン洗浄にて表面を脱脂した後、めっき処理の下地として、市販のストライクAgめっき液(大和化成株式会社製、ダインシルバー GPE-ST)を用い、純Ag板を対極として5A/dmの電流密度で1分間の通電を行い、厚さ約0.1μmのストライクAgめっき処理を施したものを基材として用いた。その後、市販の非シアン系半光沢Agめっき液(大和化成株式会社製、ダインシルバー GPE-SB)を用い、純Ag板を対極として3A/dmの電流密度で5分間の通電を行い、厚さ約10μmの半光沢Agめっき層(銀含有量99質量%以上)を形成させた。その後Agめっき層表面に、表1に示す種々の粒子(又は粒子の分散液)をアルコール中に20mg/mlの割合で懸濁させた液を0.2ml/cm滴下し、乾燥させることで、種々の粒子がAgめっき層表面に接触した以下のNo.1~No.12の銀含有膜を作製した。
【0037】
【表1】
【0038】
No.1~No.12の銀含有膜に対して、耐摩耗性評価および接触抵抗評価を行った。
【0039】
<耐摩耗性評価>
ハンドプレスによってR=1.8mmのエンボス形状を形成した厚さ0.25mmの純銅板上に、硬質Agめっき(ビッカース硬さHv:約165)層を約50μm形成したサンプルを相手材とし、No.1~No.12との間で最大500サイクルの摩擦摺動試験を行った(アイコーエンジニアリング製横型荷重試験機を使用、印加する垂直荷重:3N、摺動距離:10mm、摺動速度:80mm/min)。結果を図5図16に示す。図5図16は、それぞれ、試験No.1~12の銀含有膜に対して摩擦摺動試験を行った結果であり、横軸がサイクル数(Cycles)、縦軸が摩擦係数(Friction coefficient)を示している。
各摺動サイクルにおける摩擦係数(垂直荷重に対する水平荷重の比)の最大値を測定し、500サイクル後の摩擦係数が0.30以下のものを耐摩耗性が十分(〇)であるとした。また100サイクル後の摩擦係数が0.30以下のものを好ましい態様として(◎)とした。なお複数回測定したものについては、その平均値で判断した。
【0040】
<接触抵抗評価>
耐摩耗性評価後の摩耗痕(摺動された部分)を対象とし、電気接点シミュレータ(山崎精機研究所製)を使用して、接点における接触抵抗を測定した。印加荷重は5Nとし、3箇所測定した平均値を、接触抵抗として判定に用いた。摩擦試験後の接触抵抗が0.50[mΩ]以下となるものを、導電性が十分(〇)であるとした(なお耐摩耗性が不十分であった場合、接触抵抗測定は割愛した)。
以上の結果を表2にまとめた。なお、「短絡防止」の欄には、銀含有層に接触している粒子の50体積%以上が非導電性粒子である場合、粒子の脱落による接点の短絡を十分に抑制できる(〇)とし、銀含有層に接触している粒子の50体積%未満が非導電性粒子である場合(すなわち銀含有層に接触している粒子の50体積%超が導電性粒子である場合)、粒子の脱落による接点の短絡のおそれがある(×)とした。「総合判定」の欄には、「短絡防止」、「耐摩耗性」および「導電性」の欄において全て「〇」判定の場合、「〇」と記載し、その上で「耐摩耗性」の欄が「◎」判定の場合「◎」と記載し、「短絡防止」、「耐摩耗性」および「導電性」の欄において「×」判定が1つでもある場合、「×」と記載した。
【0041】
【表2】
【0042】
表2の結果より、次のように考察できる。表2のNo.1~7の銀含有膜は、いずれも本発明の実施形態で規定する要件を満足しており、導電性粒子の脱落による接点の短絡を十分に抑制でき、かつ十分な耐摩耗性および導電性を有していた。そのうちNo.1~4の銀含有膜は、非導電性有機化合物が、単位分子構造内に、カルボニル基(-C(=O)-)、アミノ基(-NR)およびヒドロキシ基(-OH)のいずれか1つ以上を含む、という好ましい要件を満たしていたため、100サイクル後の摩擦係数が0.30以下であり、好ましい結果であった。
No.5の銀含有膜は、0~約120サイクルの間、No.6の銀含有膜は0~約250サイクルの間、No.7の銀含有膜は0~約400サイクルの間で、それぞれ一旦摩擦係数が1.0以上に上昇して、その後低下するという現象が見られた。これらは、恐らく摺動処理により粒子が除去される過程で一定の摩擦抵抗を有していること、およびこれらのサイクルの間ではまだ炭素含有反応層を形成できていないことを示していると考えられる。一方で、No.1~4の銀含有膜は、そのような現象は見られず(または摩擦係数の上昇は小さく)、No.5~7の銀含有膜と比較して炭素含有反応層がより少ないサイクルで形成されたことに起因すると考えられる。
一方、表2のNo.8~12の銀含有膜は、いずれも本発明の実施形態で規定する要件を満たしておらず、導電性粒子の脱落による接点の短絡のおそれがあるか、耐摩耗性が不十分であった。
【0043】
No.8の銀含有膜は、グラファイト粒子の固体潤滑作用が作用したためか摩擦係数が低かったものの、全ての粒子がグラファイト粒子であって導電性を有するため、導電性粒子の脱落による接点の短絡のおそれがあった。
【0044】
No.9~11の銀含有膜は、非導電性の無機粒子を用いており、耐摩耗性が不十分であった。これは、No.1~7の銀含有膜とは異なり、炭素含有反応層が形成されなかったことによると考えられる。
【0045】
No.12の銀含有膜は、粒子を塗布しておらず、耐摩耗性が不十分であった。これは、相手材との間に焼き付きが発生したことによると考えられる。
【実施例2】
【0046】
厚さ0.3mmの純銅板をめっき基材とし、アセトン洗浄にて表面を脱脂した後、めっき処理の下地として、市販のストライクAgめっき液(大和化成株式会社製、ダインシルバー GPE-ST)を用い、純Ag板を対極として5A/dmの電流密度で1分間の通電を行い、厚さ約0.1μmのストライクAgめっき処理を施したものを基材として用いた。その後、市販の非シアン系半光沢Agめっき液(大和化成株式会社製、ダインシルバー GPE-SB)を用い、めっき液中に種々の粒子と界面活性剤を所定量分散させ、攪拌を行いながら、純Ag板を対極として3A/dmの電流密度で5分間の通電を行い、厚さ約10μmのAgめっき層(銀含有量99質量%以上)中に各粒子が共析した(埋没した)No.13およびNo.14の銀含有膜を得た。なお、No.13は実施例1のNo.1と同じメラミンシアヌレートからなる粒子を用いており、液中の分散量は30g/Lとした。またNo.13は界面活性剤にナフタレンスルホン酸ソーダ、分散剤(安定剤)としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を用いた。No.14は実施例1のNo.2と同じナイロン12からなる粒子を用いており、液中の分散量は70g/Lとした。またNo.14は界面活性剤としてサーフロンS231(AGXセイミケミカル製)を用いており添加量は50g/Lとした。
上記No.13およびNo.14の銀含有膜に対して、実施例1と同様に耐摩耗性評価および接触抵抗評価を行った。耐摩耗性評価結果を図17(No.13)および図18(No.14)に示し、表3に結果をまとめた。
【0047】
【表3】
【0048】
表3の結果より、次のように考察できる。表3のNo.13~14の銀含有膜は、いずれも本発明の実施形態で規定する要件を満足しており、導電性粒子の脱落による接点の短絡を十分に抑制でき、かつ十分な耐摩耗性および導電性を有していた。さらにNo.13~14の銀含有膜は、100サイクル後の摩擦係数が0.30以下であり、好ましい結果であった。これは、摺動処理前に非導電性有機化合物からなる粒子が一部銀めっき層表面に露出していたこと、ならびに非導電性有機化合物が、単位分子構造内に、カルボニル基(-C(=O)-)、アミノ基(-NR)およびヒドロキシ基(-OH)のいずれか1つ以上を含む、という好ましい要件を満たしたこと等に起因すると考えられる。
【0049】
本発明の実施形態に係る銀含有膜(No.1~7、13および14)について、上記耐摩耗性評価を行った後炭素含有反応層が形成されていることを確認した。一例として、No.13の断面TEM像を図4に示す。図4は、No.13の銀含有膜に上記耐摩耗性評価を行った後の摺動部分の断面TEM像である。なお、断面TEM像の試料はFIB加工により以下の条件で作製した。
作製装置:日立製作所製、集束イオンビーム加工観察装置 FB-2000A
:日本エフイー・アイ製、Dual Beam(FIB/SEM)システム
Nova200
加速電圧:30kV(取り上げ加工)、5kV(仕上げ加工)
イオン源:Ga
また、TEM観察装置には、日本電子製、電界放出形透過電子顕微鏡JEM-2100Fを用いた。
【0050】
図4に示すように、銀含有層2上に、炭素含有反応層4が形成されている。なお炭素含有反応層4上にはTEM観察のためにOs保護膜5およびC保護膜6が積層されている。図19A図4の一部領域のSTEM-HAADF像を示し、図19B図19A中の「1」で示された箇所(炭素含有反応層4の上部)のEDX分析結果を示し、図19C図19A中の「2」で示された箇所(炭素含有反応層4の下部)のEDX分析結果を示す。なお、TEM観察装置には、日本電子製、電界放出形透過電子顕微鏡JEM-2100Fを用いた。EDX分析装置には日本電子製、JED-2300T SSD(JEM-2100F付属)を用い、加速電圧は200kVとし、ビーム径はφ約1nmとした。図19Bおよび図19Cのスペクトル中にみられるCuのピークは試料保持用メッシュによるシステムノイズである。図19A中の「1」および「2」のいずれの箇所においても炭素が多く検出され、銀も検出されたが、「1」よりも「2」で示された箇所(炭素含有反応層4の下部)の方が銀が多く検出された。
表4に、EDXによる原子比率の定量評価結果について示す。なお、表4は軽元素を含む定量のため参考値であり得る。
【0051】
【表4】
【符号の説明】
【0052】
1 銀含有膜(摺動処理前)
2 銀含有層
3 非導電性有機化合物からなる粒子
4 炭素含有反応層
5 Os保護膜
6 C保護膜5
11 銀含有膜(摺動処理後)
11A 摺動処理部分
21 銀含有膜(摺動処理前)
31 銀含有膜(摺動処理後)
31A 摺動処理部分
41 銀含有膜(摺動処理前)
51 銀含有膜(摺動処理後)
51A 摺動処理部分
【要約】
【課題】導電性粒子の脱落による接点の短絡を十分に抑制でき、かつ十分な耐摩耗性および導電性を有する銀含有膜およびその製造方法を提供する。
【解決手段】銀を50質量%以上含む銀含有層と、前記銀含有層に接触した非導電性有機化合物からなる粒子とを含み、前記銀含有層上に炭素含有反応層を形成可能な銀含有膜。
【選択図】図4
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19A
図19B
図19C