IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ クラリアント・インターナシヨナル・リミテツドの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】低粘度機能性流体組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 105/18 20060101AFI20221012BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20221012BHJP
   C10M 129/28 20060101ALN20221012BHJP
   C10M 137/04 20060101ALN20221012BHJP
   C10M 137/02 20060101ALN20221012BHJP
   C10M 133/08 20060101ALN20221012BHJP
   C10M 133/06 20060101ALN20221012BHJP
   C10M 159/08 20060101ALN20221012BHJP
   C10M 129/72 20060101ALN20221012BHJP
   C10M 113/12 20060101ALN20221012BHJP
   C10M 139/04 20060101ALN20221012BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20221012BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20221012BHJP
【FI】
C10M105/18
C10M169/04
C10M129/28
C10M137/04
C10M137/02
C10M133/08
C10M133/06
C10M159/08
C10M129/72
C10M113/12
C10M139/04
C10N30:00 Z
C10N40:08
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2021526499
(86)(22)【出願日】2020-12-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-14
(86)【国際出願番号】 EP2020084290
(87)【国際公開番号】W WO2021213693
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】20171070.4
(32)【優先日】2020-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】596081005
【氏名又は名称】クラリアント・インターナシヨナル・リミテツド
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ヘーヴェルマン・フェリックス
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-227690(JP,A)
【文献】特開平2-22390(JP,A)
【文献】特開昭50-64675(JP,A)
【文献】特開平5-59380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)50~85質量%、好ましくは60~82質量%の式(I)によるアルコキシグリコール
CH-O-(CH-CH-O)-H (I)
ここで、nは2~5の数であり、ただし、式(I)によるすべての化合物の少なくとも30質量%において、nは3であり、
および、
(B)1~15質量%、好ましくは1.5~10質量%の式(II)によるアルコキシグリコール
-O-(CH-CH-O)-H (II)
ここで
はC~Cのアルキル残基であり
mは2~6の数であり、
ここで、式(II)によるすべての化合物の少なくとも65質量%において、mは3であり、
および、
(C)6~35質量%、好ましくは10~25質量%の式(III)による少なくとも1つの化合物
H-O-(CH-CH-O)-H (III)
ここで、kは2以上の数であり、ただし、式(III)によるすべての化合物の少なくとも80質量%において、kは2または3である、
(D)腐食防止剤、アミン、安定剤、消泡剤および潤滑剤からなる群から選択される、少なくとも1つの添加剤、
を含む機能性流体であって、前記流体が、ホウ酸とグリコールまたはアルキルポリグリコール化合物とのエステルを最大でも3質量%しか含まない、前記機能性流体。
【請求項2】
成分(A)~(D)の合計が100質量%である、請求項1に記載の流体。
【請求項3】
式(I)によるすべての化合物の50~90質量%が、n=3である、請求項1または2に記載の流体。
【請求項4】
式(I)によるすべての化合物の10~50質量%が、n=4または5である、請求項1~3のいずれか1つに記載の流体。
【請求項5】
式(I)によるすべての化合物の2.5質量%以下が、n=2である、請求項1~4のいずれか1つに記載の流体。
【請求項6】
n=1である式(I)による化合物の成分(A)での含有量が、1質量%以下である、請求項1~5のいずれか1つに記載の流体。
【請求項7】
n=6以上である式(I)による化合物の成分(A)での含有量が3質量%以下である請求項1~6のいずれか1つに記載の流体。
【請求項8】
ホウ酸エステルの流体での総含有量が、最大で0.3質量%である、請求項1~7のいずれか1つに記載の流体。
【請求項9】
式(II)によるすべての化合物の10質量%以上が、m=4である、請求項1~8のいずれか1つに記載の流体。
【請求項10】
がC~Cアルキル、好ましくはエチルまたはブチルである、請求項1~9のいずれか1つに記載の流体。
【請求項11】
式(II)によるすべての化合物の少なくとも75質量%において、m=3である、請求項1~10のいずれか1つに記載の流体。
【請求項12】
式(II)によるすべての化合物の3質量%以下が、m=2である、請求項1~11のいずれか1つに記載の流体。
【請求項13】
式(II)によるすべての化合物の5質量%以下が、m=5以上である、請求項1~12のいずれか1つに記載の流体。
【請求項14】
k=2である式(III)による化合物の総量が、流体全体の1~15質量%、好ましくは6~12質量%である、請求項1~13のいずれか1つに記載の流体。
【請求項15】
k=3である式(III)による化合物の総量が、流体全体の5~15質量%である、請求項1~14のいずれか1つに記載の流体。
【請求項16】
k=4以上である式(III)による化合物の総量が、流体全体の7質量%以下、好ましくは5質量%以下である、請求項1~15のいずれか1つに記載の流体。
【請求項17】
成分(A)と成分(B)の質量比が、(A):(B)=82:1~6:1である、請求項1~16のいずれか1つに記載の流体。
【請求項18】
n=3とn=4以上である式(I)による化合物間の質量比が、(n=3):(n=4以上)=1:1~6:1である、請求項1~17のいずれか1つに記載の流体。
【請求項19】
成分(A)と成分(C)との質量比が、(A):(C)=2.0:1~8.2:1である、請求項1~18のいずれか1つに記載の流体。
【請求項20】
成分(D)が、0.4~6質量%、好ましくは0.5~5.5質量%の量で存在し、かつ、
前記腐食防止剤が、C ~C 22 脂肪酸、リンまたはリン酸とC ~C 18 脂肪族アルコールとのエステル、少なくとも1つのC ~C 12 炭化水素残基を有するホスフィット;ヘテロ原子として少なくとも1つの窒素原子を有する複素環式有機化合物、およびそれらの混合物からなる群から選択され、
前記安定剤が、置換フェノール、立体障害アミンおよびそれらの混合物からなる群から選択され、前記消泡剤が、天然油、グリセリド、ワックス、粉末シリカ、エチレンオキシド/プロピレンオキシドブロックコポリマー、シリコーンベースの消泡剤、およびそれらの混合物からなる群から選択され、
前記潤滑剤が、ポリプロピレンオキシド、ランダムポリ(C ~C -アルキレン)オキシド、ランダムモノC ~C 置換ポリ(C ~C -アルキレン)オキシド、ヒマシ油、リシノール酸、ヒマシ油またはリシノール酸のエトキシレート、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~19のいずれか1つに記載の流体。
【請求項21】
前記アミンが、アルキルまたはシクロアルキルアミン、アルカノールアミン、アルキルアミンエトキシレートおよびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~20のいずれか1つに記載の流体。
【請求項22】
成分(D)内に0.3~2質量%のアミンを含み、質量%は流体質量に対するものである、請求項1~21のいずれか1つに記載の流体。
【請求項23】
ホウ酸とグリコールまたはアルキルポリグリコール化合物とのエステルの流体での含有量が、3質量%未満、好ましくは1質量%未満、より好ましくは0.1質量%であり、流体は、最も好ましくは、そのようなホウ酸エステルを本質的に含まない、請求項1~22のいずれか1つに記載の流体。
【請求項24】
-40℃で800センチストークス未満の動粘度、少なくとも250℃の乾式平衡還流沸点、および少なくとも160℃の湿式平衡還流沸点を有する、請求項1~23のいずれか1つに記載の流体。
【請求項25】
ブレーキ液としての、請求項1~24のいずれか1つに記載の流体の使用。
【請求項26】
請求項1~24のいずれか1つに記載の流体によって油圧を伝達することを含む車両用ブレーキを操作する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、アルキルポリグリコール、ポリグリコールおよび添加剤の混合物からなる低粘度機能性流体組成物に関し、この流体は、グリコールまたはアルキルポリグリコールのホウ酸エステルの含有量が少ない。この流体は、連邦自動車安全基準(FMVSS)No116に記載されている方法によれば、-40℃で測定し800センチストークス未満の低温動粘度を示し、少なくとも250℃の平衡還流沸点(ERBP)、および、少なくとも160℃の湿潤平衡還流沸点(WERBP)を示す。
【背景技術】
【0002】
本発明による低粘度の機能性流体組成物は、様々な用途に有用であり、特にブレーキ液として、特に、低温での満足な動作のために低粘度の流体を必要とする新しい電子式または自動式のアンチロックブレーキシステムに有用である。
【0003】
ホウ酸エステルをベースにした機能性流体組成物は、当技術分野でよく知られている。DOT4またはDOT5.1ブレーキ流体として有用であるためには、これらのホウ酸エステルベースの組成物は、温度に対する適切な耐性を維持し、安定性を保ち、pH、予備アルカリ度、腐食防止、ゴム膨潤などの他の物理的特性の要件を満たしながら、特に最小乾燥平衡還流沸点(ERBP)、最小湿潤平衡還流沸点(WERBP)、最大低温動粘度(例えば-40℃で決定)に関して、厳しい物理的特性および性能要件を満たさなければならない。
【0004】
ホウ酸エステルは、連邦自動車安全基準(FMVSS、Federal Motor Vehicle Safety Standards)No116によるDOT4およびDOT5.1の基準、特に非常に高いウェット沸点(WERBP)を満たすのには有利であるが、ホウ酸エステルを含むブレーキ液には2つの問題がある。連邦自動車安全基準(FMVSS)No116とは、10-1-2016版の49 CFR§571.116を指し、本明細書中ではFMVSSと表記する。
【0005】
1.)ホウ酸はCMR-化合物(repro tox category 1、生殖毒性カテゴリー1)であることが知られている。したがって、そのエステルも同様に健康への脅威の疑いがあり(現在、repro tox category 2、生殖毒性カテゴリー2)に分類されている)。したがって,ブレーキ流体の保管、取り扱い、充填時に潜在的な危険性がある。
【0006】
2.)ブレーキ流体に含まれるホウ素は、特にブレーキ流体の経年劣化により、無機質のホウ素塩の塩形成によるゲル形成や沈殿のリスクが存在する。その結果、ブレーキ流体内に粒子が発生し、重要な状況下でその性能が制限される可能性がある。
【0007】
WO00/65001には、アルコキシグリコールボレートエステル、アルコキシグリコール成分および腐食防止剤を含む作動液で、さらに環状カルボン酸誘導体を含むものが記載されている。
【0008】
WO02/38711には、アルコキシグリコールボレートエステル、アルコキシグリコール成分、および腐食防止剤などの添加剤を含む低粘度の機能性流体組成物を記載しており、アルコキシグリコールボレートエステルおよびアルコキシグリコールのアルコキシル化度は、ある狭いパターンに制限されている。
【0009】
US4371448Aは、正式にDOT5の仕様を満たす作動液を教示している。この作動液は本質的に、(A)オルトホウ酸、ジエチレングリコールおよびエチレングリコールモノアルキルエーテルから得られる少なくとも1つの約20~40質量%のホウ酸エステル、(B)30~60質量%の少なくとも1つのエチレングリコールモノアルキルエーテル、(C)10~40質量%の少なくとも1つのビス(エチレングリコールモノアルキルエーテル)ホルマール;(D)0.1~5質量%の少なくとも1つのアルキルアミン;および(E)0.05~5質量%の少なくとも1つの安定剤および/または阻害剤;各場合の質量パーセントは、流体の総質量に対するものである。
【0010】
EP0750033A1は、グリコールエーテルのホウ酸エステルをベースとし、腐食防止システムを含む、油圧流体組成物、特にブレーキ流体組成物を教示し、以下を含む:(1)脂肪アミンまたは1つ以上のカルボン酸と前記アミンとの塩から選ばれる少なくとも1つの成分(A)、および(2)1つ以上のカルボン酸とポリオキシアルキレングリコールとの反応から得られる生成物、または1つ以上のカルボン酸のエステルとポリオキシアルキレングリコールとのトランスエステル化反応から得られる生成物から選ばれる少なくとも1つの成分(B)。
【0011】
EP0617116A1は、高沸点、特に高平衡還流沸点と低粘度を有する作動液組成物を教示している。この組成物は、添加剤として、120から300の間の分子量を有し、以下の式を有する少なくとも1つのエーテルアミンを含み、
【化1】
ここで
は、少なくとも1つのエーテル官能基を有し、アルコール官能基を有さない直鎖状または分岐状の基である。
Rは、メチル基または水素原子であり
pは1から3までの整数であり
qは0から2までの整数である。
【0012】
WO2012/003117A1は、機能性流体組成物を開示しており、
i)機能性流体組成物の約38質量%~47質量%の量のアルコキシグリコール混合物であって、アルコキシグリコール混合物が、以下の式を有するアルコキシグリコールで構成されている
【化2】
以下の繰り返し単位を有する。
【化3】
ここで、
、R、R、R、Rの各々は、水素(H)または1~8個またはそれ以上の炭素原子を含むアルキル基またはそれらの混合物であり、前記混合物は、n=3の場合は前記混合物の約36質量%~約73質量%の量の第1アルコキシグリコール成分、n=4の場合は前記混合物の17質量%~約43質量%の量の第2アルコキシグリコール成分、nが5以上の場合は前記混合物の約2質量%~約10質量%の量の第3アルコキシグリコール成分を有しており
ii)機能性流体組成物の約53質量%~約62質量%の量のグリコールボレートエステルとを含む。
【0013】
DE2253888は、(a)45~60部のテトラエチレングリコール、またはテトラエチレングリコールと40~60部の式(I)H-(OCHCHX)y-OH(XはHまたはMe、y≧2)の少なくとも1つのグリコールの混合物を含む作動液を教示しており、ただし、X=Meの場合、(I)は0.5~5.0質量%の量で存在し;および(b)(i)式(II):H-(OCH2CHX)-OR(ここでRは低級アルキル)の少なくとも1つの化合物、(ii)少なくとも1つの化合物(II)と式(III)H-(OCH2CH2)2-OR1(ここでR1は低級アルキル)の少なくとも一つの化合物の混合物、および(iii)R1=Buである化合物(III)から選択された60~20質量%の希釈剤を含み、油圧ブレーキ液、自動変速機液、およびその他の様々な用途の作動液として使用することができる。の流体は水分に対する感度が低く、湿った状態での最小沸点は155℃である。
【0014】
DE3627432は、グリコールおよびグリコールエーテルをベースにしたブレーキ流体を教示しており、これは本質的に以下から成る、A)ブレーキ流体の総質量を基準にして30~80質量%のグリコール成分、これは、グリコールの混合物に基づき、a)0~80質量%のジエチレングリコールおよび/またはジプロピレングリコールと、b)20~100質量%のトリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、および/またはテトラプロピレングリコールから成り、B)ブレーキ流体の総質量を基準とした20~70質量%のグリコールエーテル成分、これは、これらのグリコールエーテルの混合物に基づき、a)10~100質量%の以下の式R-(OAlk1)x-OR1の少なくとも1つのグリコールジアルキルエーテル、ここで、RおよびR1は、1~4個のC原子を有するアルキル基であり、Alk1は、エチレンまたはプロピレン基であり、xは、3~6の整数である、および、b)0~90質量%の以下の式R2-(OAlk2)y-OHの少なくとも1つのグリコールモノアルキルエーテルから成り、ここで、ここでR2は1~4個の炭素原子を有するアルキル基であり、Alk2はエチレン基またはプロピレン基であり、yは2~4の整数である、並びに、C)ブレーキ流体の総質量に基づいて0~5質量パーセントのグリコールおよびグリコールエーテルをベースとする流体用の少なくとも1つの阻害剤から成り、ただし、ブレーキ液の総質量を基準にして少なくとも14質量%のグリコール成分b)がブレーキ液中に含まれる。
【0015】
一般的に使用されている作動液組成物やブレーキ液が満たしている最低ERBP、特にWERBPの温度要件を同時に満たし、または超える一方で、低温粘度を有する改良された高性能の作動液組成物やブレーキ液が強く求められている。
【0016】
ホウ酸塩を含まないブレーキ液の例が文献に記載されている
1.) DOT3/クラス3の流体であり、FMVSSによれば、一般的に低ERBP、低WERBPが低く、および-40℃での高い粘度)。
2.) DE3627432C2(Hoechst社)およびUS2006/0264337(BASF社)は、ジエチレングリコール/トリエチレングリコールおよびジプロピレングリコールをベースにしたブレーキ流体を開示しているが、これはDOT4およびISO4925クラス4規格の最低限の要件を満たすものである。
3.) WO2007/005593A2(DOW)は、0~10質量%のボレートエステルを含むブレーキ流体の組成物と、より多量のブトキシ-グリコール、主にブトキシ-トリグリコールの使用について記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】WO00/65001
【文献】WO02/38711
【文献】US4371448A
【文献】EP0750033A1
【文献】EP0617116A1
【文献】WO2012/003117A1
【文献】DE2253888
【文献】DE3627432
【文献】WO2007/005593A2
【文献】US2006/0264337
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
これらの開発は、高いERBPを可能にするが、-40℃において依然高粘度であり、低いWERBPという問題がある。本発明が解決しようとする課題は、以下に述べる特性を有し、本質的にまたは完全にホウ酸塩を含まない作動液を提供することである。
【0019】
しかし、これらの基準を満たすホウ酸塩不含の組成物は知られていない。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明によれば、優れた耐腐食性、高安定性を維持し、pH、予備アルカリ度(reserve alkalinity)、ゴム膨潤性などの他の物性要件を満たしながら、ERBPおよびWERBPの優れた値、および低温動粘度を示す機能性流体組成物が見出された。特に非常に高いWERBP値が達成される。
【0021】
第1の形態において、本発明は、
A)50~85質量%、好ましくは60~82質量%の式(I)によるアルコキシグリコール
CH-O-(CH-CH-O)-H (I)
ここで、nは2~5の数であり、ただし、式(I)によるすべての化合物の少なくとも30質量%において、nは3であり、
および、
B)1~15質量%、好ましくは1.5~10質量%の、式(II)によるアルコキシグリコール
-O-(CH-CH-O)-H (II)
ここで
は、C~Cのアルキル残基であり
mは2~6の数であり、
ここで、式(II)によるすべての化合物の少なくとも65質量%において、mは3であり、
および、
C)6~35質量%、好ましくは10~25質量%、の式(III)による少なくとも1つの化合物
H-O-(CH-CH-O)-H (III)
ここで、kは2以上の数であり、ただし、式(III)によるすべての化合物の少なくとも80質量%において、kは2または3である、
D)腐食防止剤、アミン、安定剤、消泡剤および潤滑剤からなる群から選択される、少なくとも1つの添加剤、
を含む機能性流体であって、前記流体が、ホウ酸とグリコールまたはポリグリコール化合物とのエステルを最大で3質量%含む機能性流体に関する。
【0022】
第2の形態では、本発明は、第1の形態の機能性流体の、車両ブレーキ用のブレーキ液としての使用を提供する。
【0023】
第3の形態では、この発明は、油圧システムを介して制動力を伝達する車両用ブレーキを操作する方法であって、油圧システムに第1の形態に記載の機能性流体を充填することを含む方法を提供する。
【0024】
以下では、機能性流体を「流体」と呼ぶことがある。
【0025】
本発明による機能性流体の成分(A)は、式(I)によるメチル末端のポリグリコールである。式(I)による適切な化合物は、2、3、4または5個のエトキシ単位からなる。5よりも多い数のエトキシ単位を有する化合物、すなわち6個以上のエトキシ単位を有する化合物が存在してもよいが、式(I)によるすべての化合物の総質量に対して、最大でも3質量%の含有量に制限されるべきである。
【0026】
流体中の式(I)による全ての化合物の総量は、流体の質量に対して、50~85質量%であり、好ましくは60~82質量%、より好ましくは65~81質量%、例えば好ましくは68~80質量%である。n=2の任意の式(I)成分の相対量は、好ましくは2.5質量%以下である。n=3の任意の式(I)成分の相対的な量は、少なくとも30質量%、好ましくは50~90質量%である。n=4および5の任意の式(I)成分の相対量は、好ましくは10~50質量%であり、より好ましくは13~49質量%である。このような相対的な量はすべて、式(I)化合物の総量に対するものであり、このような総量は100質量%である。成分(A)において、n=1の種は、好ましくは1質量%を超える量で存在しない。成分(A)において、n=6以上の種は、好ましくは3質量%を超える量では存在しない。
【0027】
n=4以上の式(I)成分の量を増やすことにより、流体の粘度を上昇させることができる。
【0028】
式(II)による機能性流体組成物の成分(B)は、エトキシル化度がm=2~m=6、好ましくはm=2~m=4の種を含む。成分(B)は、エトキシル化度および/または基Rに関して、単一の種であってもよいし、異なる種の混合物であってもよい。基Rは、好ましくはC~C-アルキル基である。Rは、より好ましくは、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチルであってもよい。エチル、特にブチルが最も好ましい。
【0029】
本発明の成分(B)に有用なアルコキシグリコールの例としては、エチルジグリコール、エチルトリグリコール、エチルテトラグリコール、エチルペンタグリコール、エチルヘキサグリコール、n-プロピルジグリコール、n-プロピルトリグリコール、n-プロピルテトラグリコール、n-プロピルペンタグリコール、n-プロピルヘキサグリコール、n-ブチルジグリコール、n-ブチルトリグリコール、n-ブチルテトラグリコール、n-ブチルペンタグリコール、n-ブチルヘキサグリコール、およびこれらの混合物。混乱を避けるために、「グリコール」は常に「エチレングリコール」を意味する。好ましいのは、ブチルトリグリコールおよびブチルテトラグリコールである。
【0030】
成分(B)は、好ましくは、m=3の種を単独または主に含む一般式(II)のアルコキシグリコールの混合物からなる。主にとは、成分(B)の少なくとも65質量%、より好ましくは少なくとも75質量%がm=3の種からなることを意味する。m=4の種は、好ましくは10質量%以上の量で存在する。いずれにしても、m=2および/またはm=5および/またはm=6のアルコキシグリコール種は、微量に存在してもよい。m=2の種は、好ましくは3質量%を超えない量で存在する。m=5、6またはそれ以上の種は、好ましくは、合計で5質量%以下の量で存在する。成分(B)の種の質量%は、成分(B)の総量を100質量%として、質量%で与えられる。流体中の式(II)によるすべての化合物の合計量は、1~15、好ましくは1.5~10質量%である。
【0031】
成分(C)は、式(III)によるポリエチレングリコールである。式(III)において、kは2以上の数である。好ましくは、kが2~4の数である。より好ましくは、kは2または3である。
【0032】
式(III)によるすべての化合物の少なくとも80質量%において、kが2または3であることが必要であり、質量%は、式(III)によるすべての化合物の総質量に対するものである。これは、kが2または3である式(III)による化合物が、流体の4.8~28質量%、好ましくは8~20質量%を占め、流体の総質量は100質量%であることを意味する。
【0033】
好ましい一実施形態では、成分(C)は、kが2または3である式(III)による化合物の混合物である。
【0034】
流体中の成分(C)の総量は、流体の質量の6~35質量%、好ましくは10~25質量%、より好ましくは16~23質量%であり、すなわち、流体の総質量は100質量%である。
【0035】
1つの好ましい実施形態では、k=2である式(III)の種の量は、6~12質量%である。他の1つの好ましい実施形態では、k=3である式(III)の種の量は、5~15質量%である。他の1つの好ましい実施形態では、kが4以上である式(III)の種の総量は、最大で8質量%、より好ましくは最大で5質量%である。式(III)による種について提供される前記質量パーセントは、流体の質量パーセントとして提供され、すなわち、流体の総質量は100質量%である。それらは、成分(C)の総質量の質量パーセントとしては提供されない。
【0036】
成分(D)は、現行の規範および規格FMVSS、SAE J 1703およびISO 4925に従ったブレーキ流体に対して満たすべき仕様で実行するために、機能性流体に特定の特性を付与するために必要とされる添加剤である。流体中のすべての成分(D)の好ましい合計量は、0.4~6質量%であり、より好ましくは0.5~5.5質量%である。
【0037】
成分(D)は、腐食防止剤、予備アルカリ剤としてのアミン類、安定化酸化防止剤、消泡剤、潤滑剤および染料からなる群から選択される1つ以上の添加剤を含む。
【0038】
成分(D)は、アミンを含んでいてもよい。アミンは、好ましくはアルキルまたはシクロアルキルアミン、アルカノールアミン、アルキルアミンエトキシレートおよびそれらの混合物である。好ましいシクロアルキル基は、5~12個の炭素原子を有する。好ましいアルキルアミンは、モノ-およびジ-(C-~C20-アルキル)アミンである。好適なアルキルまたはシクロアルキルアミンの例は、n-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、イソノニルアミン、n-デシルアミン、n-ドデシルアミン、オレイルアミン、d-n-プロピルアミン、ジ-イソプロピルアミン、ジ-n-ブチルアミン、トリ-n-ブチルアミン、ジ-n-アミルアミン、シクロヘキシルアミン、およびこれらのアミンの塩である。好適なアルカノールアミンの例は、モノ-、ジ-およびトリメタノールアミン、モノ-、ジ-およびトリエタノールアミン、モノ-、ジ-およびトリ-n-プロパノールアミン、およびモノ-、ジ-およびトリイソプロパノールアミンである。適切なアルキルアミンエトキシレートの例は、1.5~5個のEO部位と8~18個の炭素原子を有するアルキル鎖を有する、そのような直鎖状または分枝状のアルキルアミンエトキシレートである。好ましいアルカノールアミンは、アミン窒素原子に結合した1つ、2つまたは3つのヒドロキシ脂肪族基を有し、これらのヒドロキシ脂肪族基は2~6の炭素原子を有する。特に好ましいのは、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンおよびジイソプロパノールアミンである。
【0039】
本発明の機能性流体組成物の成分(D)は、アルキルアミンエトキシレートがそれ自体で腐食抑制特性を示す一方で、アミンの他に、腐食抑制作用を有する少なくとも1つの添加剤を含んでいてもよい。腐食抑制作用を有する適切な慣用的な添加剤としては、脂肪酸、例えば、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸;リンまたはリン酸と脂肪族アルコールまたは脂肪族アルコールエトキシレートとのエステル;ホスフィット、例えば、リン酸エチル、リン酸ジメチル、リン酸イソプロピル、リン酸n-ブチル、亜リン酸トリフェニル、亜リン酸ジイソプロピル;複素環式窒素含有有機化合物、例えば、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、1,2,4-トリアゾール、ベンゾイミダゾール、プリン、アデニン;およびこれらの複素環式有機化合物の誘導体などである。もちろん、腐食抑制作用を有する上記添加剤の混合物を使用することもできる。
【0040】
消泡剤は、油性消泡剤、例えば、天然油、グリセリドまたはワックス、粉末シリカ、EO/POブロック共重合体などのアルコキシレート、シリコーン系消泡剤、好ましくはポリエーテル変性またはシリコーン誘導体、およびこれらの混合物の群から選択することができる。
【0041】
流体は、組成物の総質量を基準にして、0~5質量%の潤滑剤を含んでいてもよい。適切な潤滑剤は、例えば、ポリプロピレン酸化物、ランダムポリ(C~C-アルキレン)酸化物、ランダムモノC~C置換ポリ(C~C-アルキレン)酸化物、ヒマシ油、リシノレイン酸、およびヒマシ油またはリシノレイン酸のエトキシレート、およびそれらの混合物である。
【0042】
酸化防止剤または老化防止剤とも呼ばれる適切な安定剤は、置換フェノール類、例えば、ビスフェノール類(例えばビスフェノールAまたはビスフェノールM)、ブチルヒドロキシトルエン、メトキシフェノール、ブチル化ヒドロキシアニソール、ハイドロキノン誘導体;立体障害アミン類、例えば、ベンジル化、アルキル化またはスチレン化ジフェニルアミン、スチレン化フェニルアミン、置換ピペリジン誘導体、フェノチアジン誘導体またはキノリン誘導体、およびそれらの混合物である。一般に、ここでは、任意の文献で知られるグリコール安定化剤を使用することができる。
【0043】
好ましい一実施形態では、%値(A)~(D)の合計が100質量%になる。
【0044】
ホウ酸エステルの流体での総含有量は、最大でも3質量%であり、好ましくは0.3質量%未満である。
【0045】
好ましい一実施形態では、成分(A)と成分(B)の質量比は、(A):(B)=82:1~6:1である。
【0046】
好ましい一実施形態では、n=3およびn=4以上の式(I)による化合物間の質量比は、(n=3):(n=4、またはそれ以上)=1:1~6:1である。
【0047】
好ましい一実施形態では、成分(A)と成分(C)の間の質量比は、(A):(C)=2.0:1~8.2:1である。
【0048】
一実施形態では、本発明の主題は、以下を含む機能性流体に対応する。
A)50~85質量%、好ましくは60~82質量%の式(I)によるアルコキシグリコール
CH-O-(CH-CH-O)-H (I)
ここで、nは2~5の数であり、ただし、式(I)によるすべての化合物の少なくとも30質量%において、nは3であり、
および、
B)1~15質量%、好ましくは1.5~10質量%の、式(II)によるアルコキシグリコール
-O-(CH-CH-O)-H (II)
ここで
は、C~Cのアルキル残基であり
mは2~6の数であり、
ここで、式(II)によるすべての化合物の少なくとも65質量%において、mは3であり、
および、
C)6~35質量%、好ましくは10~25質量%、の式(III)による少なくとも1つの化合物
H-O-(CH-CH-O)-H (III)
ここで、kは2以上の数であり、ただし、式(III)によるすべての化合物の少なくとも80質量%において、kは2または3である、
D)腐食防止剤、アミン、安定剤、消泡剤および潤滑剤からなる群から選択される、少なくとも1つの添加剤、
を含む機能性流体であって、前記流体が、ホウ酸とグリコールまたはアルキルポリグリコール化合物とのエステルを最大で3質量%含み、
ここで、成分(D)が、0.4~6質量%、好ましくは0.5~5.5質量%の量で存在し、
腐食防止剤が、C~C22脂肪酸、リンまたはリン酸とC~C18脂肪族アルコールとのエステル、少なくとも1つのC~C12炭化水素残基を有するホスフィット
;ヘテロ原子として少なくとも1つの窒素原子を有する複素環式有機化合物、およびそれらの混合物からなる群から選択され、
前記アミンが、アルキルまたはシクロアルキルアミン、アルカノールアミン、アルキルアミンエトキシレートおよびそれらの混合物からなる群から選択され、
前記安定剤が、置換フェノール、立体障害アミンおよびそれらの混合物からなる群から選択され、前記消泡剤が、天然油、グリセリド、ワックス、粉末シリカ、エチレンオキシド/プロピレンオキシドブロックコポリマー、シリコーンベースの消泡剤、およびそれらの混合物からなる群から選択され、
前記潤滑剤が、ポリプロピレンオキシド、ランダムポリ(C~C-アルキレン)オキシド、ランダムモノC~C置換ポリ(C~C-アルキレン)オキシド、ヒマシ油、リシノール酸、ヒマシ油またはリシノール酸のエトキシレート、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0049】
本発明の機能性流体組成物は、ERBPおよびWERBPの温度で優れた挙動を示し、同時に低温粘度性能にも優れている。それは、少なくとも250℃のERBP、より好ましくは少なくとも260℃のERBP、および少なくとも160℃のWERBP、より好ましくは少なくとも165℃のWERBPを示す。本発明の機能性流体組成物は、-40℃の温度での測定により、それぞれ800センチストークス(「cSt」)(=mm/s)未満、より好ましくは750cSt未満の低温動粘度を示す。本発明の機能性流体組成物の選択された例は、ISO4925クラス6のブレーキ液の要件である、ERBPが250℃以上、WERBPが165℃以上、-40℃における最大粘度が750cStであることを満たすことができる。分析方法はFMVSSに記載されているおり、そちらを参照されたい。一般に、流体の粘度は、その成分の粘度に依存する。本発明による流体が800センチストークス未満の動粘度を示さない場合、成分(B)および(C)の一部を、nが3以下である成分(A)で置き換えると、動粘度が低下する。このような置き換えの際には、ERBPが250℃超、WERBPが160℃超であることに注意する必要がある。置き換えに適した成分(A)を選択し、ERBPおよびWERBPが所望の範囲内になるように(B)と(C)の比率を調整する必要がある。
【0050】
本発明の低粘度機能液組成物は、例えば、乗用車やトラックなどの車両、特に、低温での満足な動作のために低粘度液を必要とする新しい電子式または自動式のアンチロックブレーキシステム用のブレーキ液として特に有用である。
【0051】
本発明の機能性流体組成物は、ERBPおよびWERBP温度での優れた挙動と低温粘度性能の他に、良好な腐食防止性(防錆性)、良好な水適合性、穏やかなpH値、低温および高温に対する良好な安定性、良好な酸化安定性、良好な化学的安定性、ゴムおよびエラストマーに対する良好な挙動、良好な潤滑性能および良好な発泡挙動を示す。
【実施例
【0052】

表1に機能性流体組成物とその性能を示す。特に断りのない限り、数字は質量%で示されている。
【0053】
【表1】