(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】セルロースエステル位相差フィルム
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20221012BHJP
B32B 23/14 20060101ALI20221012BHJP
B32B 23/20 20060101ALI20221012BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20221012BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20221012BHJP
C08L 1/10 20060101ALI20221012BHJP
C08K 5/12 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
G02B5/30
B32B23/14
B32B23/20
B32B7/023
C08J5/18 CEP
C08L1/10
C08K5/12
(21)【出願番号】P 2021527092
(86)(22)【出願日】2019-03-19
(86)【国際出願番号】 KR2019003128
(87)【国際公開番号】W WO2020105810
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-05-17
(31)【優先権主張番号】10-2018-0142553
(32)【優先日】2018-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0142554
(32)【優先日】2018-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】519044014
【氏名又は名称】ヒョスン ケミカル コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100147935
【氏名又は名称】石原 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100080230
【氏名又は名称】石原 詔二
(72)【発明者】
【氏名】セオ、チャン ウォン
【審査官】中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2002/033454(WO,A1)
【文献】特開2012-136699(JP,A)
【文献】特開平11-198285(JP,A)
【文献】特開2000-284124(JP,A)
【文献】特開2003-103693(JP,A)
【文献】国際公開第2010/001677(WO,A1)
【文献】特開2008-031319(JP,A)
【文献】特開2004-067984(JP,A)
【文献】特開2006-317813(JP,A)
【文献】国際公開第2016/031946(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式6において、R
1~R
3から選択された1種または2種以上が酢酸(Acetic acid)、プロピオン酸(Propionic acid)及び酪酸(butyric acid)からなる群から選択された1種に置換されたセルロースエステル樹脂、及び
下記化学式2~5から選択された構造を有する位相差制御剤を含むドープをソルベントキャスティングして
なるドープ層を含み、
前記位相差制御剤の含有量は、位相差フィルム100質量%中、0.1~35質量%であり、
厚さは25~80μmであり、
波長550nmで測定した場合の面方向の位相差値(Ro)は0~30
nmであり、厚さ方向の位相差値(Rth)は-10~-105
nmであることを特徴とする、ポジティブCプレートの光学特性を有するセルロースエステル位相差フィルム。
【化1】
(R
1~R
3はそれぞれ独立的に酢酸、プロピオン酸、酪酸または水素原子であり、nは1以上である)
【化2】
(ジメチル-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸塩、Dimethyl-5-Norbornene-2,3-Dicarboxylate)
【化3】
(モノ-メチル-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸塩、Mono-Methyl-5-norbornene-2,3-dicarboxylate)
【化4】
(5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸、5-norbornene-2,3-dicarboxylic acid)
【化5】
(ジメチル-オキサビシクロへプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸、Dimethyl-Oxabicyclohept-5-ene-2,3-dicarboxylic acid)
【請求項2】
前記位相差フィルムは、1層または2層以上であることを特徴とする、請求項1に記載のポジティブCプレートの光学特性を有するセルロースエステル位相差フィルム。
【請求項3】
一つ以上のアセチルを含み、アセチル置換度が0.5~2.9であるセルロースエステル樹脂、及び
下記化学式
2~5から選択された構造を有する位相差制御剤を含むドープをソルベントキャスティングして
なるドープ層を含み、
前記位相差制御剤の含有量は、位相差フィルム100質量%中、0.1~35質量%であることを特徴とする、ポジティブCプレートの光学特性を有するセルロースエステル位相差フィルム。
【化6】
(ジメチル-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸塩、Dimethyl-5-Norbornene-2,3-Dicarboxylate)
【化7】
(モノ-メチル-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸塩、Mono-Methyl-5-norbornene-2,3-dicarboxylate)
【化8】
(5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸、5-norbornene-2,3-dicarboxylic acid)
【化9】
(ジメチル-オキサビシクロへプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸、Dimethyl-Oxabicyclohept-5-ene-2,3-dicarboxylic acid)
【請求項4】
前記位相差フィルムの厚さは25~80μmであり、
波長550nmで測定した場合の面方向の位相差値(Ro)は0~30nmであり、厚さ方向の位相差値(Rth)は-10~-105nmであることを特徴とする、請求項3に記載のポジティブCプレートの光学特性を有するセルロースエステル位相差フィルム。
【請求項5】
前記位相差フィルムは1層または2層以上であることを特徴とする、請求項3に記載のポジティブCプレートの光学特性を有するセルロースエステル位相差フィルム。
【請求項6】
下記化学式6において、R
1~R
3から選択された1種または2種以上が酢酸、プロピオン酸及び酪酸で構成された群から選択された1種に置換された第1セルロースエステル樹脂、及び
下記化学式2~5から選択された構造を有する位相差制御剤を含む第1ドープをソルベントキャスティングして
なる第1ドープ層、及び
下記化学式6において、R
1~R
3から選択された1種または2種以上が炭素数5~15である炭化水素に置換された第2セルロースエステル樹脂を含む第2ドープをソルベントキャスティングして
なる第2ドープ層、を含み、
前記位相差制御剤の含有量は、第1ドープの総質量%を基準として0.01~10質量%であり、多層位相差フィルム100質量%基準としては0.1%~35%であり、
前記第1ドープ層の厚さは、フィルム全体の総厚と比較して10~90%であることを特徴とする、セルロースエステル多層位相差フィルム。
【化10】
(R
1~R
3は、それぞれ独立的に水素原子または炭素数が1~15である炭化水素であり、nは1以上である)
【化11】
(ジメチル-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸塩、Dimethyl-5-Norbornene-2,3-Dicarboxylate)
【化12】
(モノ-メチル-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸塩、Mono-Methyl-5-norbornene-2,3-dicarboxylate)
【化13】
(5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸、5-norbornene-2,3-dicarboxylic acid)
【化14】
(ジメチル-オキサビシクロへプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸、Dimethyl-Oxabicyclohept-5-ene-2,3-dicarboxylic acid)
【請求項7】
前記セルロースエステル多層位相差フィルムの総厚さは20~80μmであり、
波長550nmで測定した場合の面方向の位相差値(Ro)は0~30nmであり、厚さ方向の位相差値(Rth)は-5~-105nmであることを特徴とする、請求項
6に記載のセルロースエステル多層位相差フィルム。
【請求項8】
前記セルロースエステル多層位相差フィルムは、3層以上の構造であることを特徴とする、請求項
6に記載のセルロースエステル多層位相差フィルム。
【請求項9】
前記セルロースエステル多層位相差フィルムは、
第1ドープ層の両面に第2ドープ層が備えられ、
第2ドープ層、第1ドープ層及び第2ドープ層が順次に積層された3層構造であることを特徴とする、請求項
8に記載のセルロースエステル多層位相差フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年11月19日付の韓国特許出願第2018-0142553号および2018年11月19日付の韓国特許出願第2018-0142554号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は、本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、ポジティブCプレートの光学特性を有するセルロースエステル位相差フィルムに関するものであって、より詳細には、セルロースエステル及び特定の添加剤を含むドープをソルベントキャスティングして製造される位相差フィルム及び位相差の均一性が向上され、トリアセチルセルロース(TAC)との相溶性が高くて優れた品質の偏光板を製造し得る位相差フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0003】
最近になって、ディスプレイは、液晶表示装置とOLEDを中心に開発が進められている。それにつれ、偏光板の保護フィルムは益々より薄膜化、高性能化への要求が強くなってきている。液晶表示装置は、液晶による偏光制御によって表示を示すものであるため、偏光板が必要であり、通常はヨウ素を含むPVAフィルムを延伸したものが偏光板として用いられる。この偏光板は脆弱であるため、これを保護するものとして偏光板保護フィルムが用いられる。偏光板保護フィルムには、通常、トリアセチルセルロースフィルムが広く使われている。これらの偏光板保護フィルムとは別途に偏光の位相差を制御するための位相差フィルムというものも用いられる。このような液晶表示装置などに使われている位相差フィルムは、偏光板と組み合わせて使用することで、色補償、視野角拡大などの問題を解決するために用いられており、OLED装置において使われている位相差フィルムは、反射防止の機能を有している。
【0004】
このように、偏光板保護フィルムは偏光板の保護が目的であり、水分を含むPVAからなる偏光板を保護するためには、セルロースアセテートからなるフィルムを用いることが偏光板の製造工程を考える場合に最も好ましい。一方、位相差フィルムとしては、光学的な性能を発現するためにセルロースアセテート以外の材料が用いられてきた。即ち、従来から位相差フィルムの材料としては、例えば、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、非晶質ポリオレフィンなどがある。これらの高分子フィルムは、波長が長いほど位相差が小さくなる特性を有しており、可視光領域の全波長に対して理想的な位相差特性を付与することは困難であった。
【0005】
可視光領域の波長に対して直線偏光を円偏光に変換したり、逆に円偏光を直線偏光に変換したりする場合、1枚の位相差フィルムで上記効果を得るためには、位相差フィルムに入射する波長(λ)において位相差がλとなることが好ましい。このような位相差フィルムは、例えば、位相差がλの位相差フィルムと偏光板を1枚のみ使用してOLED画像表示装置で反射防止機能を具現し得る。しかし、視野角が増加するほど、対角線に沿ってかなりの感光が存在(不良なコントラスト比を誘発する)し、光学フィルムの多様な組み合わせが、このような感光を補正したり、「補償」するために使われたりし得るものとして公知されている。また、使われる液晶の類型に応じて特定の複屈折率(または位相差)を有しなければならない。特に、OLED液晶において、対角視感度を改善するためには、ポジティブCの挙動を見せる位相差フィルムが適用される。
【0006】
補償及び光学フィルムは、通常、屈折率(n)に関連する複屈折率の面において定量化される。nx、nyおよびnzとして指定された問題の3つの屈折率が存在し、これらはそれぞれ、機械方向(MD)、横方向(TD)及び厚さ方向に対応する。上記物質が更に異方性になると(例えば、上記物質の延伸によって)、任意の2つの屈折率の差は増加する。このような差が「複屈折率」と称される。選択し得る物質方向の多くの組み合わせが存在するため、これに対応する複屈折率の異なる値が存在する。二つの複屈折率、すなわち、下記数学式1aで定義される平面複屈折率(Δe)及び下記数学式1bで定義される厚さ複屈折率(Δth)が最も通常である。
【0007】
[数式1a]
Δe=nx-ny
【0008】
[数式1b]
Δth=(nx+ny)/2-nz
【0009】
平面複屈折率(Δe)は、MDとTDとの間の平面内の相対的な配向の尺度であり、単位がない。逆に、Δthは平均平面配向に対する厚さ方向配向の尺度を提供する。光学フィルムを特徴づけるのによく使われる他の用語は、光学位相差(R)である。Rは簡単に、下記の数学式2aと2bのように、対象フィルムの複屈折率と厚さ(d)を掛け算したものである。
【0010】
[数式2a]
Re=Δed=(nx-ny)d
【0011】
[数式2b]
Rth=Δthd=[(nx+ny)/2-nz]d
【0012】
位相差は、二つの直交光波間の相対的な相の移動の直接的な尺度であり、普通は、ナノメートル(nm)単位で報告される。Rthの定義は、特に±サインに対して、一部の技術者によって異なることに留意する。
【0013】
また、物質の複屈折率/位相差の挙動は変化するものとして公知されている。たとえば、殆どの物質は、延伸された場合、延伸方向に沿ってより高い屈折率を示し、延伸方向の垂直にはより低い屈折率を示すものである。これは、分子レベルでの屈折率が、普通、ポリマー鎖の軸に沿ってより高く、上記鎖の垂直にはより低いためである。このような物質は、通常、「ポジティブの複屈折性」と称され、すべての商業的なセルロースエステルを初めとする殆どの標準ポリマーを示す。
【0014】
ポジティブの複屈折性の他に「ネガティブの複屈折性」および「ゼロ(zero)複屈折性」物質が存在する。ネガティブの複屈折性ポリマーは、延伸方向の垂直に(平行方向に対し)より高い屈折率を示し、結果的に陰の固有複屈折率を有する。特定のスチレン及びアクリルは、これらの比較的バルキーな側部基により、ネガティブの複屈折性の挙動を有するものとして公知されている。その反面、ゼロ複屈折率は特別なケースであり、延伸時に複屈折率を示してないので、ゼロの固有複屈折率を有する物質を示す。このような物質は、加工中に任意の光学位相差または歪み(distortion)を示さずに、成形または延伸されるか、別の方法でストレッシングされ(stressed)得るので、光学用途として理想的である。このような物質は、また、極めて珍しい。大事なところは、製造され得る補償フィルムの種類がポリマーの複屈折率の特性(即ち、正または負)によって制限されるということである。
【0015】
上記の例として、下記数学式3aの関係式を有する屈折率を有するフィルムは「ポジティブA」プレートと称される。
【0016】
[数式3a]
nx>ny=nz
【0017】
このようなフィルムにおいて、上記フィルムのx方向は高い屈折率を有し、yおよび厚さ方向は、大体同一(及びnxより低い)サイズを有する。このような類型のフィルムは、また、x-方向に沿って光学軸を有するポジティブの1軸結晶構造と称される。このようなフィルムは、例えば、フィルムドラフターを使ってポジティブの複屈折性の物質を1軸延伸することで、容易に製造される。
【0018】
一方、「ネガティブA」プレート1軸フィルムは、下記数式3bで定義される。
【0019】
[数式3b]
nx<ny=nz
【0020】
上記式において、x-軸の屈折率は、他の方向の屈折率(これらは大体同じである)より更に低い。ネガティブAプレートを製造する最も通常的な方法は、ネガティブの複屈折性ポリマーを延伸するか、別の方法としては分子が望ましい方向に整列されるようにネガティブの複屈折性の液晶ポリマーを表面にコーティングすることである。
【0021】
他の部類の1軸の光学フィルムはCプレートであり、これは、また「ポジティブC」または「ネガティブC」であり得る。CプレートとAプレートとの違いは、下記数式4aおよび4bのように、Cプレートの場合に特有の屈折率(または光学軸)が、上記フィルムの平面内ではなく、厚さ方向に存在するということである。
【0022】
[数式4a]
nz>ny=nx (“ポジティブC”プレート)
【0023】
[数式4b]
nz<ny=nx (“ネガティブC”プレート)
【0024】
Cプレートは、x方向およびy方向において、相対延伸が一定に維持される場合の2軸延伸によって製造され得、別の方法としては圧縮成形によって製造し得る。初期に等方性である正(positive)の固有複屈折性物質を圧縮または等-2軸(equibiaxial)延伸すると、効果的な配向方向がフィルムの平面内に存在するため、ネガティブCプレートを提供するのである。逆に、ポジティブCプレートは、ネガティブの固有複屈折性物質で製造された初期の等方性フィルムを圧縮または等2軸延伸して製造し得る。2軸延伸の場合、MD方向およびTD方向において配向レベルが同一に維持されないと、それにより、物質は、もはや真性(true)Cプレートではなく、単に2つの光学軸を有する2軸フィルムである。
【0025】
Cプレートを製造するための3番目の更に通常的なオプションは、フィルムのソルベントキャスティング中に形成される応力を利用することである。キャスティングベルト(これもまた特性上、等-2軸である)によって付加される拘束(restraint)に起因してフィルムの平面内に引張応力が形成される。これは、フィルムの平面内で鎖らを配向させ、正及びネガティブの固有複屈折性物質に対してネガティブCフィルムとポジティブCフィルムをそれぞれ提供する傾向がある。ディスプレイに用いられる殆どのセルロースエステルフィルムはソルベントキャスティングされ、これらのすべてが本質的にポジティブの複屈折性を有するため、ソルベントキャスティングされたセルロースエステルは一般的にネガティブCプレートのみを生成するということが明らかである。このようなフィルムは、また、1軸延伸されて、ポジティブAプレートを生成し得るが(初期キャスティング時の位相差が非常に低いと仮定する)、セルロースエステルを用いてポジティブCプレートまたはネガティブAプレートを製造する能力は極めて制限される。
【0026】
このような理由から、ポジティブCフィルムのように陰の複屈折によって発生した位相差に基づくフィルムは、基材フィルム上に液晶コーティングを1~3micronの厚さにするが、ここで、微細なコーティングの厚さの違いによって、位相差Ro、Rthの値の位相差均一性が低下されるという問題があった。また、ポジティブCプレートの挙動を示す商業的なフィルムは、ネマチック液晶コーティングを使用し、後続的に重合工程を使用して製造される。しかし、このようなコーティング工程及び液晶物質は非常に高価であり、フィルムをコーティングして目的とする特性を達成するための追加の加工ステップを必要とする。現在までに、セルロースエステル及び添加剤に基づいて、高いポジティブCプレートの挙動を示す商業的なフィルムは存在しない。
【0027】
したがって、当分野においては、液晶物質を用いず、また、追加的なコーティングステップを必要としなくても、対角視感度が改善されたポジティブCプレートの挙動を示すフィルムが必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するために案出されたものであって、複数のアセチルを含み、アセチル置換度が0.5~2.9であるセルロースエステル樹脂と、特定の添加剤を含むドープをソルベントキャスティングして製造し、セルロースエステル位相差フィルムを製造する。
【0029】
また、酢酸とプロピオン酸または酪酸に置換されたセルロースエステル樹脂と特定の構造の位相差制御剤を含む第1ドープをソルベントキャスティングした第1ドープ層と、セルロースエステル樹脂を含む第2ドープをソルベントキャスティングした第2ドープ層とを含む、セルロースエステル多層位相差フィルムを製造する。
【0030】
これにより、ポジティブCプレートの挙動を示し、高価な液晶物質を使用せずにも、簡単な工程で製造が可能であり、位相差の均一度も優れたセルロースエステル多層位相差フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明の一実施形態によると、一つ以上のアセチルを含み、アセチル置換度も0.5~2.9であるセルロースエステル樹脂と、下記化学式1の構造を有する位相差制御剤とを含むドープをソルベントキャスティングして製造したことを特徴とするポジティブCプレートの光学特性を有するセルロースエステル位相差フィルムを提供する。
【0032】
【化1】
(5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸塩、5-Norbornene-2,3-Dicarboxylate)
(上記R
1、R
2は、それぞれ独立的に水素、C1~C20のアルキル、アルコール、酸、エステル、芳香族系炭化水素の中の一つ以上である)
【0033】
上記位相差制御剤の含有量は、位相差フィルム100質量%のうち、0.1~35質量%であり、その構造は下記化学式2~5から選択された一つであることを特徴とする。
【0034】
【化2】
(ジメチル-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸塩、Dimethyl-5-Norbornene-2,3-Dicarboxylate)
【0035】
【化3】
(モノ-メチル-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸塩、Mono-Methyl-5-norbornene-2,3-dicarboxylate)
【0036】
【化4】
(5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸、5-norbornene-2,3-dicarboxylic acid)
【0037】
【化5】
(ジメチル-オキサビシクロへプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸、Dimethyl-Oxabicyclohept-5-ene-2,3-dicarboxylic acid)
【0038】
一方、本発明に係る位相差フィルムの厚さは25~80μmであり、面方向の位相差値(Ro)は、0~30nmであり、厚さ方向の位相差値(Rth)は、-10~-105nmであることが特徴であり、上記位相差フィルムは1層または2層以上であることを特徴とする。
【0039】
本発明の他の実施形態によると、下記化学式6において、R1~R3から選択された1種または2種以上が酢酸(Acetic acid)、プロピオン酸(Propionic acid)及び酪酸(butyric acid)で構成された群から選択された1種に置換された第1セルロースエステル樹脂と位相差制御剤とを含む第1ドープをソルベントキャスティングして製造した第1ドープ層と、下記化学式6において、R1~R3から選択された1種または2種以上が炭素数5~15である炭化水素に置換された第2セルロースエステル樹脂を含む第2ドープをソルベントキャスティングして製造した第2ドープ層と、を含み、上記第1ドープ層の厚さは、全体フィルムの総厚と比較して10~90%であることを特徴とするセルロースエステル多層位相差フィルムを提供する。
【0040】
【化6】
(R
1~R
3は、それぞれ独立的に水素原子または炭素数が1~15である炭化水素であり、nは1以上である)
【0041】
上記位相差制御剤の含有量は、第1ドープの総質量%を基準として0.01~10質量%、好ましくは0.03~9.94質量%であり、上記多層位相差フィルム100質量%基準としては0.1%~35%であり、下記化学式1のような構造であることを特徴とする。
【0042】
【化7】
(5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸塩、5-Norbornene-2,3-Dicarboxylate)
(上記R
1、R
2は、それぞれ独立的に水素、C1~C20のアルキル、アルコール、酸、エステル、芳香族系炭化水素の中の一つ以上である)
【0043】
更に具体的に、位相差制御剤は、下記化学式2~5から選択された一つであることを特徴とする。
【0044】
【化8】
(ジメチル5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸塩、Dimethyl5-Norbornene-2,3-Dicarboxylate)
【0045】
【化9】
(モノ-メチル-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸塩、Mono-Methyl-5-norbornene-2,3-dicarboxylate)
【0046】
【化10】
(5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸、5-norbornene-2,3-dicarboxylic acid)
【0047】
【化11】
(ジメチル-オキサビシクロへプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸、Dimethyl-Oxabicyclohept-5-ene-2,3-dicarboxylic acid)
【0048】
本発明に係るセルロースエステル多層位相差フィルムの総厚さは20~80μmであり、面方向の位相差値(Ro)は0~30nmであり、厚さ方向の位相差値(Rth)は-5~-105nmであることを特徴とする。
【0049】
本発明の他の好ましい実施形態によると、セルロースエステル多層位相差フィルムは、3層以上の構造であることを特徴とし、具体的には、第1ドープ層の両面に第2ドープ層が備えられ、第2ドープ層、第1ドープ層及び第2ドープ層が順次に積層された3層構造であることを特徴とするセルロースエステル多層位相差フィルムを提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0050】
上記のような構成を有する本発明は、従来にポジティブCプレートの挙動を示す商業的なフィルムに用いられてきた高価の素材である液晶物質を使用しない。そのため、経済性の確保された単層または多層の位相差フィルムの製造が可能である。
【0051】
また、ソルベントキャスティング(Solvent Casting)工程の設備は、非常に高価の投資費が求められるため、開発製品ごとに設備の変更とそれに投資することが困難である。そこで、本発明は、単層または多層位相差フィルムの製造において、本発明のドープは、トリアセテートセルロース(Tri Acetate Cellulose;TAC)と混用時に相溶性が優れ(Hazeの上昇無し)、本発明のドープを適用時にソルベントキャスティング設備を別に増設せずに一つの工程において2つのレシピ(Recipe)を運営し得るという長所がある。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】本発明の一実施様態に係るセルロースエステル多層位相差フィルムの構造を示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、下記の実施形態を通じて本発明をより具体的に説明するが、これに本発明の範疇が限定されるものではない。
【0054】
本発明の一実施形態に係る位相差フィルムは、一つ以上のアセチルを含み、アセチル置換度は0.5~2.9であるセルロースエステル樹脂と化学式1の構造を有する位相差制御剤とを含むドープをソルベントキャスティングして製造することを特徴とするポジティブCプレートの光学特性を有するセルロースエステル位相差フィルムを提供する。
【0055】
【化12】
(5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸塩、5-Norbornene-2,3-Dicarboxylate)
(上記R
1、R
2は、それぞれ独立的に水素、C1~C20のアルキル、アルコール、酸、エステル、芳香族系列の炭化水素のうちの一つ以上である)
【0056】
ここで、上記セルロースエステル位相差フィルムの厚さは25~80μmであり、面方向の位相差値(Ro)は0~30nm、好ましくは2.7~8.6nmであり、厚さ方向の位相差値(Rth)は-10~-105nm、好ましくは-30~-102nm、さらに好ましくは-50~-80nmである。
【0057】
上記一実施形態に係る位相差フィルムは、1層または2層以上が積層された多層構造であり得る。
【0058】
一方、本発明の他の一実施形態に係る位相差フィルムは、下記化学式6において、R1~R3から選択された1種または2種以上が酢酸(Acetic acid)、プロピオン酸(Propoinic acid)と酪酸(butyric acid)で構成された群から選択された1種に置換された第1セルロースエステル樹脂と位相差制御剤とを含む第1ドープをソルベントキャスティングして製造した第1ドープ層と、下記化学式6において、R1~R3から選択された1種または2種以上が炭素数5~15である炭化水素で置換された第2セルロースエステル樹脂を含む第2ドープをソルベントキャスティングして製造した第2ドープ層と、を含み、上記第1ドープ層の厚さは全体フィルムの総厚と比較して10~90%であることを特徴とするセルロースエステル多層位相差フィルムを提供する。
【0059】
【化13】
(R
1~R
3は、それぞれ独立的に水素原子または炭素数が1~15である炭化水素であり、nは1以上である。)
【0060】
ここで、上記セルロースエステル多層位相差フィルムの総厚さは20~80μm、好ましくは40~80μmであり、面方向の位相差値(Ro)は、0~30nm、好ましくは1.4~7.5nmであり、厚さ方向の位相差値(Rth)は-5~-105nm、好ましくは-7~-102nmである。
【0061】
また、上記第1ドープ層は、第1セルロースエステル樹脂が溶媒に18~28質量%溶解された第1ドープで製造されたものであり、上記第2ドープ層は、第2セルロースエステル樹脂が溶媒に10~20質量%溶解された第2ドープで製造されることが望ましい。
【0062】
すなわち、本発明の一実施形態においては、セルロースエステル樹脂と位相差制御剤とを含むドープをソルベントキャスティングして製造した単層のセルロースエステル位相差フィルムを提供し得、
本発明の他の一実施形態においては、第1セルロースエステル樹脂と位相差制御剤が含まれた第1ドープと第2セルロースエステル樹脂を含む第2ドープとをそれぞれソルベントキャスティング及び積層することで製造した多層のセルロースエステル位相差フィルムを提供することを特徴とする。
【0063】
まず、本発明において利用可能なセルロースエステル(樹脂)について説明する。
【0064】
一般的に使用されるセルロースエステルは、好ましくは、セルロースの低級脂肪酸エステルである。セルロースの低級脂肪酸エステルの製造に使用された低級脂肪酸は、炭素の原子数が6個以下である脂肪酸を意味する。低級脂肪酸エステルの例としては、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、およびセルロースアセテートプロピオネートまたはセルロースアセテートブチレートのような混合されたセルロースの脂肪酸エステルが望ましい。上記セルロースの低級脂肪酸エステルの中で、セルローストリアセテート(Tri acetate Cellulose、TAC)またはセルロースアセテートプロピオネート(Cellulose acetate propionate、CAP)が特に好ましい。
【0065】
セルロースエステルの構造は、通常、下記化学式6の通りである。
【0066】
【化14】
(R
1~R
3は、それぞれ独立的に水素原子または炭素数が1~15である炭化水素であり、nは1以上である)
【0067】
本発明の位相差フィルムに使用されるセルロースエステル樹脂は、一つ以上のアセチル基を含み、アセチル置換度は0.5~2.9であるセルロースエステルを使用することが望ましい。上記アセチル置換度が0.5未満であれば、未置換OH基によってフィルムがヘイズ(Haze)となる問題が発生し得、2.9を超える場合には、溶媒に対する溶解度が落ち、未溶媒物が発生するという問題がある。
【0068】
また具体的に、セルロースエステルは、三つの置換基(R1、R2およびR3)のうち、一つ以上に酢酸及びプロピオン酸を置換した樹脂を使用することが望ましい。
【0069】
言い換えると、セルロースエステルの三つの置換基がすべてアセチル基を有することは、セルローストリアセテート(Tri acetate Cellulose、TAC)とし、三つの置換基がすべてプロピオニル基を有することをセルローストリプロピオネート(Cellulose Tripropionate、CTP)とするが、本発明においては、セルロースエステルの三つの置換基が少なくとも一つのアセチル基と少なくとも一つのプロピオニル基を有するセルロースアセトプロピオネート(Cellulose acetate propionate、CAP)を用いることが特徴である。
【0070】
一方、本発明の他の一実施形態であるセルロースエステル多層位相差フィルムに使用される第1セルロースエステル樹脂は、セルロースエステルの三つの置換基のうち、1種または2種以上が酢酸(Acetic acid)、プロピオン酸(Propionic acid)及び酪酸(butyric acid)で構成された群から選択された1種に置換された樹脂を使用することが望ましい。第2セルロースエステル樹脂としては、上記化学式6のR1~R3のうちから選択された1種または2種以上が炭素数5~15である炭化水素で置換された樹脂を使用することが望ましい。
【0071】
すなわち、上記セルロースエステル樹脂に置換し得る酢酸、プロピオン酸、酪酸の構造は以下の通りである。
【化15】
【0072】
上記セルロースエステル樹脂の分子量の範囲は、限定されるものではないが、質量平均分子量が150,000~220,000の範囲にあることが望ましい。上記分子量を一定レベルの以上にすることで、フィルムの強度が低下されることを効果的に防止し得る。また、分子量を一定レベルの以下にすることで、セルロースエステル溶液(ドープ)の粘度を一定レベル以下に維持してソルベントキャスティング法による位相差フィルムの作製が容易になる。セルロースエステル樹脂の分子量分布の程度(質量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)は、2.0~4.5、好ましくは2.0~3.0の範囲にある。分子量分布は、ドープの粘度と製造されるフィルムの機械的物性に影響を及ぼすが、分子量分布の値が2.0未満の場合には機械的物性(特に、モジュラス)が低下される。そして、4.5を超える場合にはドープの粘度が過度に高くて、ドープをダイに吐出する場合に、圧力が上昇することによって工程性の問題が生じる。
【0073】
本発明では、セルロースエステル樹脂と特定の構造の位相差制御剤とを含むドープをソルベントキャスティングをすることで、位相差フィルムを製造することを特徴とする。
【0074】
本発明に使用される位相差制御剤は、下記化学式1の構造を有することを特徴とする。
【0075】
【化16】
(5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸塩、5-Norbornene-2,3-Dicarboxylate)
(上記R
1、R
2は、それぞれ独立的に水素、C1~C20のアルキル、アルコール、酸、エステル、芳香族系炭化水素の中の一つ以上である)
【0076】
具体的に、上記5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸塩は下記化学式2~5の構造であることが望ましい。
【0077】
【化17】
(ジメチル-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸塩、Dimethyl-5-Norbornene-2,3-Dicarboxylate)
【0078】
【化18】
(モノ-メチル-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸塩、Mono-Methyl-5-norbornene-2,3-dicarboxylate)
【0079】
【化19】
(5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸、5-norbornene-2,3-dicarboxylic acid)
【0080】
【化20】
(ジメチル-オキサビシクロへプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸、Dimethyl-Oxabicyclohept-5-ene-2,3-dicarboxylic acid)
【0081】
本発明の一実施形態であるセルロースエステル位相差フィルムを製造する装置において、上記位相差制御剤の含有量は、位相差フィルム100質量%に対して0.1~35質量%、好ましくは0.1~20質量%、さらに好ましくは0.1~10質量%であり、
ドープ100質量%に対して0.01~10質量%、好ましくは0.03~9.94質量%、さらに好ましくは0.03~5.7質量%であるものがよい。
【0082】
上記位相差制御剤の含有量が位相差フィルム100質量%に対して0.1質量%未満であるか、ドープ100質量%に対して0.01質量%未満の場合には、高いネガティブのRth値を得ることができず、視野角の改善には不十分であるという問題があり、フィルム内の含有量が35質量%を超えるか、ドープ内の含有量が10質量%を超える場合のフィルム製造時に位相差制御剤の蒸発が深化され、工程の汚染に深刻な問題が生じる。
【0083】
また、本発明の他の一実施形態であるセルロースエステル多層位相差フィルムを製造することにおいて、上記位相差制御剤の含有量は、多層位相差フィルム100質量%に対して0.1~35質量%、好ましくは0.1~20質量%、より好ましくは0.1~10質量%であり、
第1ドープ100質量%に対して0.01~10質量%、好ましくは0.03~9.94質量%、より好ましくは0.03~5.7質量%であるのがよい。
【0084】
上記位相差制御剤の含有量が多層位相差フィルム100質量%に対して0.1質量%未満であるか、第1ドープ100質量%に対して0.01質量%未満の場合には、高いネガティブのRth値を得ることができなくて、視野角の改善には不十分であるという問題があり、多層位相差フィルム内の含有量が35質量%を超えるか、第1ドープ内の含有量が10質量%を超える場合、フィルム製造時の位相差制御剤の蒸発が深化され、工程の汚染に深刻な問題が生じる。
【0085】
一方、本発明に係るセルロースエステル位相差フィルムまたはセルロースエステル多層位相差フィルムは、上記セルロースエステルと位相差制御剤とを含むドープ(第1ドープ及び第2ドープを含む)をソルベントキャスティング(Solvent Casting)して製造し得る。ソルベントキャスティング法は、セルロースエステルと位相差制御剤及び可塑剤、UV吸収剤、マット剤等の添加剤、ジクロロメタンとメタノールなどの混合溶媒を用いて撹拌機にて溶解させ、ドープ(第1ドープおよび第2ドープ)を製造し、ろ過装置を用いてろ過して使用し得る。
【0086】
一方、ソルベントキャスティング法で位相差フィルムを製造する場合、ドープを製造するための溶媒としては、有機溶媒が好ましい。有機溶媒としては、ハロゲン化炭化水素を用いることが好ましく、ハロゲン化炭化水素としては塩素化炭化水素、ジクロロメタンおよびクロロホルムがあり、このうちジクロロメタンを用いることが最も好ましい。
【0087】
また、必要に応じて、ハロゲン化炭化水素以外の有機溶媒を混合して使用することもできる。ハロゲン化炭化水素以外の有機溶媒としては、エステル、ケトン、エーテル、アルコールおよび炭化水素を含む。エステルには、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ペンチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、酢酸ペンチルなどが使用可能であり、ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンなどが使用可能である。エーテルには、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソルラン、テトラヒドロフラン、アニソール、フェネトールなどが使用可能である。アルコールには、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール、1-ペンタノール、2-メチル-2-ブタノール、シクロヘキサノール、2-フルオロエタノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、2,2,3,3-テトラフルオロ-1-プロパノールなどを使用する。
【0088】
より好ましくは、ジクロロメタンを主溶媒として使用し、アルコールを副溶媒として使用し得る。具体的には、ジクロロメタンとアルコールを80:20~95:5の質量比に混合して使用し得る。最も適切には、クロロメタンとメタノールを80:20~90:10の混合比で使用することが望ましい。
【0089】
本発明の他の一実施形態のセルロースエステル多層位相差フィルムでは、セルロースエステル樹脂の三つの置換基のうち1種または2種以上が酢酸(Acetic acid)、プロピオン酸(Propionic acid)または酪酸(Butyric acid)で構成された群から選択された1種に置換された第1セルロースエステル樹脂を溶媒に18~28質量%で溶解した第1ドープを利用することを特徴とするが、好ましくは25質量%を溶解させるのがよい。
【0090】
また、セルロースエステルの三つの置換基のうち一つ以上で、炭素数が5~15である炭化水素が置換された第2セルロースエステル樹脂を溶媒に対して10~20質量%を溶解して、第2ドープを利用することを特徴とするが、好ましく15~18質量%、より好ましくは17質量%であることがよい。
【0091】
上記第1セルロースエステル樹脂を溶媒に18質量%未満を溶解するか、第2のセルロースエステル樹脂を10質量%未満に溶解する場合には、各ドープの粘度が低く、ドープをT-Dieから吐出さ時にしっかりとしたフィルム成形が難しく、第1セルロースエステル樹脂を溶媒に28質量%を超える溶解したり、第2セルロースエステル樹脂を溶媒に20質量%を超えて溶解すると、溶解性が落ちて未溶解物が増加する。
【0092】
本発明のセルロースエステル位相差フィルム及びセルロースエステル多層位相差フィルムの製造には、多様な添加剤、例えば、UV遮断剤、可塑剤、劣化防止剤、微粒子、光学特性調節剤などを添加することができる。
【0093】
具体的には、ソルベントキャスティング法に用いるセルロースエステルを含むドープ(第1ドープ及び第2ドープを含む)に、各調剤工程において用途に応じた各種の添加剤、例えば、可塑剤、劣化防止剤、マット剤微粒子、剥離剤、紫外線安定剤、UV遮断剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤等の波長分散調整剤、光学異方性調節剤などの添加剤を添加し得る。このような添加剤の具体的な種類は、当該分野において、通常、使われるものであれば限定されずに使用され得、その含有量は、フィルムの物性を低下させない範囲に使用することが望ましい。添加剤を添加する時期は、添加剤の種類によって決定することができる。ドープ(第1ドープおよび第2ドープを含む)調剤の最後に添加剤を添加する工程を行うこともできる。
【0094】
一方、セルロースエステル位相差フィルム及びセルロースエステル多層位相差フィルムは、機械的強度の向上、良好なキャスティング性及び耐吸収性の付与、水分透過率の減少などのために可塑剤を含有する。可塑剤としては、通常、使用されるものであれば限定されずに使用し得、例えば、リン酸エステルおよびフタル酸エステルまたはクエン酸エステルから選択されるカルボン酸エステルなどがあり、末端非対称芳香族化合物と末端対称脂肪族化合物を使用することも可能である。また、多価アルコールエステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤と多価カルボン酸系可塑剤を使用することも好ましい。
【0095】
上記ポリエステル可塑剤としては、脂肪族ポリエステル系可塑剤と芳香族ポーレエステル系可塑剤を使用することが好ましく、質量平均分子量が500~1500であることが好ましい。より好ましくは、質量平均分子量が550~650である。
【0096】
上記可塑剤を含有する場合、その含有量は寸法安定性、加工性を考えると、ドープと比較して2質量%~15質量%であることが好ましい。もし、可塑剤の含有量が過度に少ないと、フィルムの透湿度を低減させる効果が少なく、スリット加工やパンチング加工を行なったときに滑らかな切断面を得ることができず、切削屑の発生が多くなる傾向がある。即ち、可塑剤を含有させる効果を十分に発揮し得ない。また、可塑剤の含有量が過渡に多いと、樹脂フィルムから可塑剤がブリードアウトしてフィルムの物性が劣化する傾向がある。
【0097】
上記UV遮断剤としては、透明性が高く、偏光板や液晶素子の劣化を防止する効果が優れたベンゾトリアゾール系UV遮断剤やトリアジン系UV遮断剤が好ましく、分光吸収スペクトルがより好適なベンゾトリアゾール系UV遮断剤が特に好ましい。
【0098】
本発明に関するUV遮断剤と共に、特に好ましく使用される従来公知のベンゾトリアゾール系UV遮断剤は、ビス化したものでも良く、例えば、6,6’-メチレンビス(2-(2H-ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール-2-イル))-4-(2,4,4-トリメチルペンタン-2-イル)フェノール、6,6’-メチレンビス(2-(2H-ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール-2-イル))-4-(2-ヒドロキシエチル)フェノールなどが挙げられる。本発明においては、UV遮断剤は、ドープと比べて0.1質量%~20質量%を添加することが好ましく、また、0.5質量%~10質量%を添加することが好ましく、また、1質量%~5質量%を添加することが好ましい。これらは2種以上を併用してもよい。
【0099】
本発明のセルロースエステル位相差フィルム及びセルロースエステル多層位相差フィルムの製造に利用されるソルベントキャスティング法は、他の製造方法と比較して光学的性質などの物性に優れたフィルムを製造することができるという長所がある。ソルベントキャスティング法では、まず、ジクロロメタンを主溶媒とする混合溶媒にセルロースエステル樹脂、UV吸収剤、マット剤、位相差制御剤及び可塑剤などの各種添加剤を混合してドープ(第1ドープおよび第2ドープを含む)を調剤する。
【0100】
具体的に、本発明の一実施形態によると、上記のようにアセチル置換度が0.5~2.9であるセルロースエステル樹脂と化学式(1)の構造を有する位相差制御剤を含むドープをソルベントキャスティングすることで、セルロースエステル位相差フィルムを製造することができる。
【0101】
具体的に、上記ドープは、セルロースエステルの三つの置換基のうち一つ以上に酢酸及びプロピオン酸が置換されたセルロースエステル樹脂を溶媒に18~28質量%溶解し、好ましくは25質量%を溶解させるのがよい。位相差制御剤は、ドープ内に0.01~10質量%、好ましくは0.03~9.94質量%を含むのがよい。
【0102】
上記セルロースエステル樹脂を18質量%未満に溶解する場合には、粘度が低くて、ドープをT-Dieから吐出する時にしっかりとしたフィルムの成形が難しく、セルロースエステル樹脂を28質量%を超えて溶解すると、溶解性が落ちて非溶解物が増加する。
【0103】
また、本発明の他の実施形態によると、上記のように第1セルロースエステル樹脂を含む第1ドープをソルベントキャスティングして第1ドープ層を製造し、第2セルロースエステル樹脂を含む第2ドープをソルベントキャスティングして2層構造のセルロースエステル多層位相差フィルムを製造することができる。
【0104】
具体的に、上記第1ドープは、セルロースエステルの三つの置換基のうち一つ以上に酢酸、プロピオン酸または酪酸が置換された第1セルロースエステル樹脂を溶媒に18~28質量%溶解し、好ましくは25質量%を溶解させるのがよい。上記第2ドープは、セルロースエステルの三つの置換基のうち一つ以上に炭素数が5~15である炭化水素が置換された第2セルロースエステル樹脂は、溶媒に対して10~20質量%溶解し、好ましくは15~18質量%、より好ましくは17質量%であるのがよい。
【0105】
本発明でドープ(第1ドープおよび第2ドープを含む)を柔軟ダイまたはT-ダイから支持体上に柔軟に形成されたセルロースエステルのシートは、溶媒が揮発されて自己支持性を得ると、支持体から剥離して延伸工程に搬送される。延伸工程は、一般的に、ガラス転移温度(Tg)-50℃~Tg+50℃の温度範囲に行われ、延伸率は幅方向または長さ方向に100~150%の範囲にすることになる。しかし、伸びが高いほど辺部と中央部の延伸不均一による位相差値が不均一であるので、無延伸が望ましい。
【0106】
このように形成されたセルロースエステル位相差フィルム及びセルロースエステル多層位相差フィルムは、Tg以下のドライヤ(Dryer)内部で乾燥されるが、これはドライヤの熱固定効果を同時に得ることができるので、フィルムのしわなどの外観を制御し、熱収縮及び湿熱膨張率などの寸法安定性を増加させ得る。
【0107】
上述した製造方法において、本発明の一実施形態であるセルロースエステル位相差フィルムは、ドープを利用した単層構造で製造され得、2層以上の構造で製造することも好ましい。上記ドープをソルベントキャスティングすることで、少なくとも一層以上を含み得るのが好ましい。
【0108】
また、本発明の他の一実施形態であるセルロースエステル多層位相差フィルムも、第1ドープ及び第2ドープを利用した2層構成の多層位相差フィルムのみならず、3層をなすことも好ましい。第1セルロースエステル樹脂と第2セルロースエステル樹脂が多層位相差フィルムのうちに少なくとも一つの層以上を含むと好ましく、総フィルムの厚さは20~80μmであることが望ましい。
【0109】
本発明の一実施形態によると、
図1に係る3層構造のセルロースエステル多層位相差フィルムを開示しており、コア層(Core)としての第1ドープをソルベントキャスティングして製造した第1ドープ層が位置し、上記第1ドープ層の両面にスキン層(Skin)としての第2ドープをソルベントキャスティングして製造した第2ドープ層がそれぞれ位置する構造を開示している。
【0110】
本発明の一実施形態に係るセルロースエステル位相差フィルムは、好ましくは25μm~80μmの厚さを有する。特に厚さが25μm未満の場合には物性が低下し、80μm超過の場合には産業上の利用可能性が低下する。
【0111】
また、本発明の他の一実施形態によるセルロースエステル多層位相差フィルムは、20μm~80μmの総厚さを有する。厚さが20μm未満の場合には物性が低下し、80μm超過の場合には産業上の利用可能性が低下する。
【0112】
上記セルロースエステルの位相差フィルム及び上記セルロースエステル多層位相差フィルムは、位相差がポジティブCプレートの特性を満たせる。液晶に応じて最適な位相差値は異なるが、Roは0~30nmであり、Rthは-5~-105nm、好ましくは-7~-102nmである範囲にあるのがよい。
【0113】
具体的には、セルロースエステル位相差フィルムの場合はRthが-10~-105nm、セルロースエステル多層位相差フィルムの場合はRthが-5~-105nm、より好ましくは-7~-102nmであることがよい。
【0114】
本発明の位相差フィルムは、上記のような条件を満たすとき、対角視感度が改善されたポジティブCプレートの特性が発現される。特に好ましく、OLED液晶においては、Roが0~10nm、Rthが-50~-80nmにて最も対角視感度が良いと知られている。
【0115】
上記Ro及びRthは、それぞれ面方向の位相差値、厚さ方向の位相差値として、次の数学式(1)及び(2)で表される。
数学式(1) Ro=(Nx-Nx-Ny)×d
数学式(2) Rth=(Nx+Ny)/2-Nz×d
ポジティブC:Nz>Nx=Ny
(ただし、dはフィルムの厚さ(nm)、Nxはフィルム面内の最大屈折率、Nyはフィルム面内においてのNxに直核である方向の屈折率、Nzは厚さ方向においてのフィルムの屈折率である)
【0116】
本発明によって製造されたセルロースエステル位相差フィルムと、セルロースエステル多層位相差フィルムは、上記式によれば、ポジティブCプレート特性を有する位相差フィルムの製造が可能となる。
【0117】
これにより、従来ポジティブCプレート特性を有する液晶コーティング方式によるポジティブCフィルムに比べて素材低コスト化が可能であり、従来の液晶コーティング方式に比べてソルベントキャスティング法は、工程上の効率性が高まるという長所がある。
【0118】
また、本発明のセルロースエステル位相差フィルム及びセルロースエステル多層位相差フィルムは、偏光板及び液晶表示装置に適用され得る。上記偏光板及び液晶表示装置は、位相差フィルムを含んで成されることが特徴である。上記偏光板は、偏光子の両側に保護フィルムを貼ったものであり、保護フィルムのうち少なくとも1枚が本発明の位相差フィルムであることが特徴である。上記液晶表示装置は、液晶セル及びその液晶セルの両側に配置された2枚の偏光板を有するものであって、上記液晶セルが垂直配向モードであることを特徴とする。
【0119】
上記のような偏光板は、通常の方法によって製造することができる。例えば、本発明の位相差フィルムをアルカリ鹸化させ、生成されたポリビニルアルコール(PVA)フィルムをヨウ素溶液に浸漬させてフィルムを延伸して製造された偏光フィルムの両面に、完全に鹸化されたポリビニルアルコール水溶液を用いて接合させる。アルカリ鹸化とは、水性接着剤に対するフィルムの湿潤性を向上させ、フィルムに対する良好な接着性を提供するために位相差フィルムを高温の強アルカリ溶液に浸漬させる処理をいう。
【0120】
以下、下記の実施例を通じて本発明をより具体的に説明するが、本発明の範疇がこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0121】
<セルロースエステル位相差フィルム>
[実施例1]
<ステップ1>セルロースエステル樹脂
セルロースエステル樹脂としては、下記化学式6においてR1~R3が酢酸とプロピオン酸であるセルロースエステル樹脂(Cellulose Acetate Propionate;CAP)を用いた。
【0122】
【0123】
<ステップ2>ドープの製造
ステップ1において製造したセルロースエステル樹脂(CAP;Cellulose Acetate Propionate)22.7質量%、下記化学式2の構造を有する位相差制御剤5.7質量%及び塩化メチレンとメタノールを80:20の割合で混合した混合溶媒(71.6質量%)で構成されたドープを製造した。
【0124】
【化22】
(ジメチル-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸塩、Dimethyl-5-Norbornene-2,3-Dicarboxylate)
【0125】
<ステップ3>セルロースエステル位相差フィルムの製造
ステップ2において製造したドープを、ベルト柔軟装置を利用して幅800mmのステンレスバンド支持体に均一に柔軟にした。ステンレスバンド支持体上で溶媒を蒸発させ、ステンレスバンド支持体から剥離した。その次に、150℃に設定されたテンタ(Tenter)区間にて3分間搬送させ、ドライヤ(Dryer)100℃にて乾燥を行い、膜厚40μmのセルロースエステル位相差フィルムを製造した。
【0126】
[実施例2]
膜厚を25μmに変更することを除いては、実施例1と同様のプロセスを実施してセルロースエステル位相差フィルムを製造した。
【0127】
[実施例3]
膜厚を60μmに変更することを除いては、実施例1と同様のプロセスを実施してセルロースエステル位相差フィルムを製造した。
【0128】
[実施例4]
膜厚を80μmに変更することを除いては、実施例1と同様のプロセスを実施してセルロースエステル位相差フィルムを製造した。
【0129】
[実施例5]
ドープの位相差制御剤の含有量を0.03質量%に変更したことを除いては、実施例1と同様のプロセスを実施してセルロースエステル位相差フィルムを製造した。
【0130】
[実施例6]
ドープの位相差制御剤の含有量を2.84質量%に変更したことを除いては、実施例1と同様のプロセスを実施してセルロースエステル位相差フィルムを製造した。
【0131】
[実施例7]
ドープの位相差制御剤の含有量を9.94質量%に変更したことを除いては、実施例1と同様のプロセスを実施してセルロースエステル位相差フィルムを製造した。
【0132】
[実施例8]
位相差制御剤として下記化学式4の構造を有する物質を用いることを除いては、実施例1と同様のプロセスを実施してセルロースエステル位相差フィルムを製造した。
【0133】
【化23】
(5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸、5-norbornene-2,3-dicarboxylic acid)
【0134】
[比較例1]
位相差制御剤を入れないことを除いては、実施例1と同様のプロセスを実施してセルロースエステル位相差フィルムを製造した。
1.位相差の測定
Axoscan装置を利用し、23℃、55%RHの環境下において、波長550nmで面内方向の位相差値であるRoと厚さ方向の位相差値であるRthを測定して表1に表した。
【0135】
【0136】
表1によると、本発明の実施例1~実施例8によって製造されたセルロースエステル位相差フィルムの場合、比較例1に比べてネガティブのRth値が高く、ポジティブCプレートの挙動を効果的に示していることが分かる。特に、実施例の添加剤を適用して添加剤の含有量及びフィルムの厚さを制御すると、従来の液晶コーティングを使用しなくてもOLEDに最適な位相差Rth値(-50nm~-80nm)を具現し得ることを確認することができる。
【0137】
<セルロースエステル多層位相差フィルム>
[実施例9]
<ステップ1>セルロースエステル樹脂
第1セルロースエステル樹脂及び第2セルロースエステル樹脂を準備する。
まず、第1セルロースエステル樹脂としては、下記化学式6においてR1~R3が酢酸とプロピオン酸に置換された樹脂を用い、
第2セルロースエステル樹脂としては、セルローストリアセテート(TAC;Cellulose Triacetate)を用いた。
【0138】
【化24】
(R
1~R
3は、それぞれ独立的に水素原子または炭素数が1~15である炭化水素であり、nは1以上である)
【0139】
<ステップ2>第1ドープ及び第2ドープの製造
ステップ1で製造した第1セルロースエステル樹脂22.7質量%及び下記化学式2の構造を有する位相差制御剤5.7質量%を塩化メチレンとメタノールを80:20の割合で混合した混合溶媒に溶解して第1ドープを製造した。
【0140】
また、ステップ1で製造した第2セルロースエステル樹脂を塩化メチレンとメタノールを90:10の割合で混合した混合溶媒に17質量%を溶解し、質量平均分子量が550~650であるポリエステル系可塑剤8%及びEVONIC社のR972(マット剤)450ppmを溶解することで、第2ドープを製造した。
【0141】
【化25】
(ジメチル-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸塩、Dimethyl-5-Norbornene-2,3-Dicarboxylate)
【0142】
<ステップ3>セルロースエステル多層位相差フィルムの製造
ステップ2で製造された第1ドープを36μmの厚さで第1ドープ層を製造し、上記第1ドープ層の両面にステップ2で製造された第2ドープを各2μmの厚さに導出して無延伸及び乾燥工程を経てフィルムを製造した。
【0143】
上記第1ドープ及び第2ドープは、ベルト柔軟装置を利用して幅800mmのステンレスバンド支持体に均一に柔軟にした。ステンレスバンド支持体上で溶媒を蒸発させ、ステンレスバンド支持体から剥離した。その次に、110℃に設定された乾燥区間で35分間搬送させて乾燥を行い、膜厚40μmのセルロースエステル3層位相差フィルムを製造した。このとき、第1ドープ層と第2ドープ層の厚さ計の割合は90:10とした。
【0144】
[実施例10]
第1ドープを18μmの厚さで第1ドープ層を製造し、上記第1ドープ層の両面に第2ドープを各1μmの厚さに導出して無延伸及び乾燥工程を経て、最終厚さ20μmであるフィルムを製造することを除いて実施例9と同様のステップを実施することで、セルロースエステル多層位相差フィルムを製造した。
【0145】
[実施例11]
第1ドープを72μmの厚さで第1ドープ層を製造し、上記第1ドープ層の両面に第2ドープを各4μmの厚さに導出して無延伸及び乾燥工程を経て、最終厚さ80μmであるフィルムを製造することを除いて実施例9と同様のプロセスを実施することで、セルロースエステル多層位相差フィルムを製造した。
【0146】
[実施例12]
第1ドープに位相差制御剤の含有量を0.03質量%に変更したことを除いては、実施例9と同様のプロセスを実施することで、セルロースエステル多層位相差フィルムを製造した。
【0147】
[実施例13]
第1ドープを72μmの厚さで第1ドープ層を製造し、上記第1ドープ層の両面に第2ドープを各4μmの厚さに導出して無延伸及び乾燥工程を経て、最終厚さ80μmであるフィルムを製造することを除いて実施例12と同様のプロセスを実施することで、セルロースエステル多層位相差フィルムを製造した。
【0148】
[実施例14]
第1ドープの位相差制御剤の含有量を2.84質量%に変更したことを除いては、実施例9と同様のプロセスを実施することで、セルロースエステル多層位相差フィルムを製造した。
【0149】
[実施例15]
第1ドープを72μmの厚さで、第1ドープ層を製造し、上記第1ドープ層の両面に第2ドープを各4μmの厚さに導出して無延伸及び乾燥工程を経て、最終厚さ80μmであるフィルムを製造することを除いて実施例14と同様のプロセスを実施することで、セルロースエステル多層位相差フィルムを製造した。
【0150】
[実施例16]
第1ドープの位相差、制御剤の含有量を9.94質量%に変更したことを除いては、実施例9と同じ手順を実施することで、セルロースエステル多層位相差フィルムを製造した。
【0151】
[実施例17]
第1ドープを72μmの厚さで、第1ドープ層を製造し、上記第1ドープ層の両面に第2ドープを各4μmの厚さに導出して無延伸及び乾燥工程を経て、最終厚さ80μmであるフィルムを製造することを除いて実施例16と同様のプロセスを実施することで、セルロースエステル多層位相差フィルムを製造した。
【0152】
[比較例2]
第1ドープで使用される第1セルロースエステル樹脂において、R
1~R
3がすべてナフトイル基(Naphthoyl)で置換されたセルロース樹脂を適用し、位相差制御剤を投入しないことを除いては、実施例9と同様のプロセスを実施することで、セルロースエステル多層位相差フィルムを製造した。
【化26】
(2-ナフトエ酸、2-Naphthoic acid)
【0153】
1.位相差の測定
Axoscan装置を用いて23℃、55%RHの環境下において、波長550nmで面内方向の位相差値であるRoと厚さ方向の位相差値であるRthを測定し、表2に表した。
【0154】
2.ヘイズ(Haze)の測定
実施例及び比較例の第1ドープと第2ドープを80:20の割合で混合した後、15時間の間をミキシングし、22℃、26%RHの環境下でフィルムキャスティング(Casting)後の曇り度計(Hazemeter)で測定した。
【0155】
【0156】
表2によると、本発明の実施例9~17で製造されたセルロースエステル多層位相差フィルムの場合、比較例2に比べて位相差の偏差値が小さく、全体的に位相差の均一度が高いことがわかる。また、比較例2においての第1セルロースエステル樹脂と第2セルロースエステル樹脂が混合される時に急激なヘイズ(Haze)の上昇を誘発させ、偏光板に適用するのは難しい。