IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JFEスチール株式会社の特許一覧 ▶ JFEアドバンテック株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-部分放電監視装置及び部分放電監視方法 図1
  • 特許-部分放電監視装置及び部分放電監視方法 図2
  • 特許-部分放電監視装置及び部分放電監視方法 図3
  • 特許-部分放電監視装置及び部分放電監視方法 図4
  • 特許-部分放電監視装置及び部分放電監視方法 図5
  • 特許-部分放電監視装置及び部分放電監視方法 図6
  • 特許-部分放電監視装置及び部分放電監視方法 図7
  • 特許-部分放電監視装置及び部分放電監視方法 図8
  • 特許-部分放電監視装置及び部分放電監視方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】部分放電監視装置及び部分放電監視方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/12 20200101AFI20221012BHJP
【FI】
G01R31/12 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021570793
(86)(22)【出願日】2021-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2021029428
(87)【国際公開番号】W WO2022054482
(87)【国際公開日】2022-03-17
【審査請求日】2021-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2020150801
(32)【優先日】2020-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390000011
【氏名又は名称】JFEアドバンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼田 泰範
(72)【発明者】
【氏名】森 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】小田 将広
(72)【発明者】
【氏名】田村 有為
(72)【発明者】
【氏名】末長 清佳
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-5698(JP,A)
【文献】特開2020-101488(JP,A)
【文献】特開2004-239735(JP,A)
【文献】特開2016-61733(JP,A)
【文献】特開平11-352179(JP,A)
【文献】特開平7-49362(JP,A)
【文献】特開2001-249157(JP,A)
【文献】特開2018-151345(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0241372(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/12
G01R 31/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
点検する電気機器で部分放電が発生した際に生じる物理量を電気信号として検出可能なセンサ部と、
上記センサ部が検出した上記電気信号から、部分放電によって生じる信号波形の振幅の時間変化を検波処理信号として抽出する処理を行う検波処理部と、
上記検波処理部で処理された検波処理信号について、各時刻で測定した信号と当該時刻に対し上記電気機器の電源周波数のm周期(m:1以上の整数)ずらした信号とに基づき当該時刻での信号が部分放電由来の部分放電信号であるか否かを判別することで、上記電気信号又は上記検波処理信号から部分放電信号を抽出する部分放電信号抽出部と、
上記部分放電信号抽出部が抽出した部分放電信号に基づき、上記点検する電気機器の部分放電発生の状況を評価する部分放電評価部と、
を備え
上記部分放電信号抽出部は、
上記検波処理部で処理された検波処理信号に対して、当該検波処理信号と、当該検波処理信号を上記電気機器の電源周波数のm周期(m:1以上の整数)ずらした信号との振幅の差分からなる差分波形を演算する差分波形演算部と、
上記差分波形演算部が演算した差分波形に基づき、上記差分波形のうちの振幅が小さい外乱ノイズ信号と、当該外乱ノイズ信号よりも上記差分波形で振幅が大きな部分放電信号とを分ける振幅である振幅閾値を設定する振幅閾値設定部と、
上記差分波形演算部が演算した差分波形において上記振幅閾値を超える時刻を抽出し、上記センサ部が検出した電気信号又は上記検波処理部で処理された検波処理信号から、上記抽出した時刻に対応する信号を部分放電信号として抽出する信号抽出本体部と、
を備える
ことを特徴とする部分放電監視装置。
【請求項2】
上記振幅閾値設定部は、上記差分波形演算部が演算した差分波形の振幅分布におけるゼロ近傍の分布を正規分布とみなし、その正規分布の標準偏差に基づき上記振幅閾値を設定することを特徴とする請求項に記載した部分放電監視装置。
【請求項3】
上記振幅閾値設定部は、上記標準偏差に対し2以上4以下の範囲から選択した倍率を掛けた値を、上記振幅閾値として設定することを特徴とする請求項に記載した部分放電監視装置。
【請求項4】
点検する電気機器で部分放電が発生した際に生じる物理量を電気信号として検出可能なセンサ部と、
上記センサ部が検出した上記電気信号から、部分放電によって生じる信号波形の振幅の時間変化を検波処理信号として抽出する処理を行う検波処理部と、
上記検波処理部で処理された検波処理信号について、各時刻で測定した信号と当該時刻に対し上記電気機器の電源周波数のm周期(m:1以上の整数)ずらした信号とに基づき当該時刻での信号が部分放電由来の部分放電信号であるか否かを判別することで、上記電気信号又は上記検波処理信号から部分放電信号を抽出する部分放電信号抽出部と、
上記部分放電信号抽出部が抽出した部分放電信号に基づき、上記点検する電気機器の部分放電発生の状況を評価する部分放電評価部と、
を備え、
上記部分放電信号抽出部は、上記検波処理部で処理された検波処理信号について、各時刻で測定した信号振幅と、当該時刻に対して上記電気機器の電源周波数のm周期(m:1以上の整数)ずらした信号振幅との散布図を表現するデータ若しくは関数を求め、上記散布図を表現するデータ若しくは関数によって、判別する時刻の信号が上記散布図における予め定めた領域にあると判定すると、その信号を部分放電信号と判別する
ことを特徴とする記載した部分放電監視装置。
【請求項5】
上記予め定めた領域は、上記検波処理部で処理された検波処理信号の頻度分布を計算し、最大頻度となる振幅μ以下の振幅範囲における頻度分布を正規分布に近似し、その正規分布の標準偏差に基づき振幅閾値を設定し、各時刻で測定した信号振幅が振幅閾値以上且つm周期ずらした信号振幅が振幅閾値未満となる領域、及び、各時刻で測定した信号振幅が振幅閾値未満且つm周期ずらした信号が振幅閾値以上となる領域として規定されることを特徴とする請求項に記載した部分放電監視装置。
【請求項6】
上記振幅閾値は、上記標準偏差に2以上4以下の範囲から選択した倍率を掛けた値と、最大頻度となる振幅μとを加算した値とすることを特徴とする請求項に記載した部分放電監視装置。
【請求項7】
上記センサ部は、上記点検する電気機器から発生するTEV(過渡接地電圧)変化を検出するTEVセンサ、接地線に流れる電流パルスを測定する高周波CTセンサ、部分放電に伴い発生する電磁波を検出する電磁波センサ、若しくは上記点検する電気機器から発生する超音波を検出する超音波センサ、のうちのいずれかであることを特徴とした請求項1~請求項のいずれか1項に記載した部分放電監視装置。
【請求項8】
点検する電気機器で部分放電が発生した際に生じる物理量を電気信号として検出し、
検出した上記電気信号から、部分放電によって生じる信号波形の振幅の時間変化を検波処理信号として抽出し、抽出した検波処理信号について、各時刻で測定した信号と当該時刻に対し上記電気機器の電源周波数のm周期(m:1以上の整数)ずらした信号とに基づき当該時刻での信号が部分放電由来の部分放電信号であるか否かを判別して、上記電気信号又は上記検波処理信号から部分放電信号を抽出し、
上記抽出した部分放電信号に基づき、上記点検する電気機器の部分放電発生の状況を評価し、
上記部分放電発生の有無の判別は、各時刻で測定した信号と当該時刻に対して上記電気機器の電源周波数のm周期(m:1以上の整数)ずらした信号との振幅差に基づき行い、
上記部分放電信号の抽出は、
上記検波処理信号に対して、当該検波処理信号と、当該検波処理信号を上記電気機器の電源周波数のm周期(m:1以上の整数)ずらした信号との振幅の差分からなる差分波形を演算し、演算した差分波形に基づき、上記差分波形のうちの振幅が小さい外乱ノイズ信号と、当該外乱ノイズ信号よりも上記差分波形で振幅が大きな部分放電信号とを分ける振幅である振幅閾値を設定し、上記演算した差分波形において上記振幅閾値を超える時刻を抽出し、上記電気信号又は上記検波処理信号から、上記抽出した時刻に対応する信号を部分放電信号として抽出する、
ことを特徴とする部分放電監視方法。
【請求項9】
点検する電気機器で部分放電が発生した際に生じる物理量を電気信号として検出し、
検出した上記電気信号から、部分放電によって生じる信号波形の振幅の時間変化を検波処理信号として抽出し、抽出した検波処理信号について、各時刻で測定した信号と当該時刻に対し上記電気機器の電源周波数のm周期(m:1以上の整数)ずらした信号とに基づき当該時刻での信号が部分放電由来の部分放電信号であるか否かを判別して、上記電気信号又は上記検波処理信号から部分放電信号を抽出し、
上記抽出した部分放電信号に基づき、上記点検する電気機器の部分放電発生の状況を評価し、
上記判別は、上記検波処理信号について、各時刻で測定した信号振幅と、当該時刻に対して上記電気機器の電源周波数のm周期(m:1以上の整数)ずらした信号振幅との散布図を表現するデータ若しくは関数を求め、散布図を表現するデータ若しくは関数に基づき、判別する時刻の信号振幅が上記散布図における予め定めた領域にある場合、その時刻の信号を部分放電信号と判別する
ことを特徴とする部分放電監視方法。
【請求項10】
上記予め定めた領域を、上記検波処理信号の頻度分布を計算し、最大頻度となる振幅μ以下の振幅範囲における頻度分布を正規分布に近似し、その正規分布の標準偏差に基づき振幅閾値を設定し、各時刻で測定した信号振幅が振幅閾値以上且つm周期ずらした信号振幅が振幅閾値未満となる領域、及び、各時刻で測定した信号振幅が振幅閾値未満且つm周期ずらした信号が振幅閾値以上となる領域とすることを特徴とする請求項に記載した部分放電監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個人若しくは会社が保有する交流の電気機器が、悪環境などや劣化などによって故障することを防止するための技術に関する。そして本発明は、電気機器での部分放電の発生状況を評価するための技術に関する。
本発明は、特に、400V以上の配電盤(特に3kV以上の配電盤)や変圧器、それらに関わる電線ケーブル等の電気機器に対し好適に適用できる。
【背景技術】
【0002】
部分放電とは、導体近傍の絶縁体中を部分的に橋絡する現象である。部分放電は、高圧の絶縁回路において、事故の前駆現象として出現する。このため、部分放電の発生状況の評価などを実行することにより、事前に絶縁材料の劣化を検知できる。そして、その検知に基づき、補修などの対応を実行することで、事故の未然防止ができる。
このため、例えば稼働中の電力設備において、部分放電を検知することにより、絶縁劣化等の異常を検出・診断可能な電力設備の監視技術が求められている。
【0003】
交流電気機器において、部分放電は、電源周期又はその2倍の周期性を持って発生することが広く知られている。そして、部分放電を検出可能なセンサで測定した波形に対して、上記周期性を抽出して部分放電を検知することが行われている。部分放電の検知に、例えば、下記式で算出される放電成分比率を用いる方法が知られている。下記式の放電成分比率は、信号波形中に含まれる電源周波数(fv成分)及び、その2倍成分(2fv成分)から求められる。
放電成分比率[%]
={(fv成分 +2fv成分)/全データ}×100
ここで、上記fv成分や2fv成分は、部分放電信号のみからなる波形を周波数解析して、電源周波数又はその2倍の周波数の成分強度として求めることができる。なお、放電成分比率の算出に、2fv成分のみを用いても良く、あるいは電源周波数の3倍以上の整数倍成分を加算しても良い。
【0004】
一方、交流電気機器が動作する環境においては、部分放電以外にも、電気的に励磁する振動や磁歪音などの外乱ノイズが発生することもある。そして、その外乱ノイズが、電源周期又はその整数倍の周期性を持つこともある。そのため、部分放電用のセンサで受信した信号の周期性が、電源周期又はその整数倍に一致するということだけでは、外乱ノイズを部分放電発生として誤検知する恐れがある。
【0005】
そこで例えば、特許文献1には、部分放電が発生した時に生じる音響を検出し、電源周期を有する外乱ノイズは厳密に電源周期間隔で発生するのに対し、部分放電起因信号は発生タイミングにばらつきがあることを利用する技術が開示されている。具体的には、特許文献1では、検出信号から抽出された高周波成分の信号波形と、当該高周波成分の信号波形に対して電源周波数の1周期遅れた信号波形との相関係数を演算する。そして、特許文献1には、上記相関係数と電源周波数の2倍周波数成分とから上記放電音を検出/同定する放電検出/同定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5092878号公報
【発明の概要】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の方法は、一測定で得られる波形全体の相関性を見ている。このため、特許文献1では、検出すべき部分放電による信号と除外すべき外乱ノイズ信号が重畳していても、波形内の両者の信号を区別あるいは分離することをしていない。そのため、特許文献1では、例えば重畳している外乱ノイズ信号に対して部分放電信号が小さい場合に、部分放電信号を見逃す恐れがある。また、特許文献1では、外乱ノイズが重畳している場合に部分放電の有無は判断できるものの、部分放電の程度・発生頻度を評価することができない。
【0008】
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、一測定で得られる波形内の両者の信号を区別あるいは分離することで部分放電の程度・発生頻度の評価を外乱ノイズ下でも可能にすることを目的とする。そして、本発明は、部分放電発生の有無の判断精度や部分放電検知による電気機器の監視精度を向上させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は、次のような知見を見出した。
すなわち、発明者は、特許文献1で示された電源周期を有する外乱ノイズは厳密に電源周期間隔で発生するのに対し、部分放電起因信号は発生タイミングにばらつきがあることを利用することを考えた。そして、発明者は、これを利用して、一測定全体ではなく個々の信号に対し判定を行うことで、部分放電信号の抽出精度を向上できるとの知見を得た。具体的には、発明者は、検出した信号に対し整数周期ずれた信号との差分を取ると、電源周期に厳密に同期する外乱ノイズ信号は、部分放電信号に比べ、相対的に振幅が小さくなる、との知見を見いだした。そして、その知見に基づき、本発明をなした。
【0010】
課題解決のために、本発明の一態様の部分放電監視装置は、点検する電気機器で部分放電が発生した際に生じる物理量を電気信号として検出可能なセンサ部と、上記センサ部が検出した上記電気信号から、部分放電によって生じる信号波形の振幅の時間変化を検波処理信号として抽出する処理を行う検波処理部と、上記検波処理部で処理された検波処理信号について、各時刻で測定した信号と当該時刻に対し上記電気機器の電源周波数のm周期(m:1以上の整数)ずらした信号とに基づき当該時刻での信号が部分放電由来の部分放電信号であるか否かを判別することで、上記電気信号又は上記検波処理信号から部分放電信号を抽出する部分放電信号抽出部と、上記部分放電信号抽出部が抽出した部分放電信号に基づき、上記点検する電気機器の部分放電発生の状況を評価する部分放電評価部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の他の態様である部分放電監視方法は、点検する電気機器で部分放電が発生した際に生じる物理量を電気信号として検出し、検出した上記電気信号から、部分放電によって生じる信号波形の振幅の時間変化を検波処理信号として抽出し、抽出した検波処理信号について、各時刻で測定した信号と当該時刻に対し上記電気機器の電源周波数のm周期(m:1以上の整数)ずらした信号とに基づき当該時刻での信号が部分放電由来の部分放電信号であるか否かを判別して、上記電気信号又は上記検波処理信号から部分放電信号を抽出し、上記抽出した部分放電信号に基づき、上記点検する電気機器の部分放電発生の状況を評価することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の態様によれば、センサにより検出した電気信号から、電源周期に同期した外乱ノイズ分が大幅に除去可能であるため、部分放電信号の抽出精度が向上する。この結果、本発明の態様によれば、部分放電の発生に基づく電気機器の監視精度をより向上させる。また、外乱ノイズが重畳している場合でも部分放電の程度・発生頻度の評価が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に基づく実施形態に係る部分放電監視装置の構成を示す図である。
図2】部分放電が発生している場合における、検波波形の例を示す図である。
図3】検波波形の相関図の例を示す図である。
図4】検波波形の一周期差分波形における振幅の絶対値の頻度分布の例である。
図5】検波波形の一周期差分波形における頻度分布の例を示す図である。
図6】検波波形とそこに含まれる部分放電信号のみを抽出した波形(部分放電信号)との例を示す図である。
図7】検波波形とそこに含まれる部分放電信号のみを抽出した波形(部分放電信号)との例を示す図である。
図8】変形例2を説明するための検波波形の頻度分布である。
図9】変形例2における部分放電信号とみなす領域(ハッチング部分)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明者は、差分波形のデータにおいて、ゼロ近傍に現れる電源周期に同期した外乱ノイズ分のデータが、平均ゼロの正規分布で近似できることを見いだした。なお、上記の差分波形のデータは、測定した信号を検波処理した波形と、当該検波処理波形に対し電源周波数の整数周期分ずらした信号との振幅の差からなる差分波形のデータである。この知見に基づき、以下の本実施形態では、上記の差分波形において、振幅が小さいゼロ近傍部分のデータを正規分布として近似する。このことにより、電源周期に厳密に同期した外乱ノイズと部分放電信号との閾値を決定する。そして、その閾値を超える時刻を抽出することにより、測定した信号波形又はその検波処理波形から、部分放電による信号のみを抽出する。
【0015】
ここで、本実施形態は、整数周期ずらした信号波形と比較することで外乱ノイズ信号の識別性を高める。この観点では、本実施形態は特許文献1と同様である。しかしながら、本実施形態では、観測波形に含まれる個々のデータに対して、電源周期に同期した外乱ノイズ信号と部分放電信号との分離識別を行っている。この結果、本実施形態では、電源周期同期ノイズと部分放電信号が混在している場合でも、部分放電信号のみを抽出することを可能とする。これによって、本実施形態は、部分放電発生状況の監視精度を向上させるものである。
【0016】
以下、発明の実施形態について図面を参照して、より具体的に説明する。
ただし、本発明は、種々の形態で具体化することができ、本明細書に記載される実施形態に限定されるものではない。本実施形態は、明細書の開示を十分にすることによって、当業者が発明の範囲を十分に理解できるようにする意図をもって提供されるものである。
【0017】
(構成)
<部分放電監視装置10>
本実施形態の部分放電監視装置10は、図1に示すように、センサ部10A、検波処理部10B、部分放電信号抽出部10C、及び部分放電評価部10Dを備える。
なお、部分放電監視装置10は、部分放電発生の監視のために、連続して作動しても良いし、間欠的に作動してもよい。
【0018】
<センサ部10A>
センサ部10Aは、点検する電気機器1で部分放電が発生した際に生じる物理量を、電気信号として検出可能な測定装置である。
本実施形態では、センサ部10Aは、点検する電気機器1にて発生するTEV(過渡接地電圧)の変化を検出するTEVセンサとする。センサ部10Aは、TEVセンサに限定されない。センサ部10Aは、点検する電気機器1から部分放電に伴い発生する電磁波を検出する電磁波センサ、超音波を検出する超音波センサであっても良い。また、センサ部10Aは、HFCT(高周波変流器)やAEセンサ(音響センサ)などであって構わない。
センサ部10Aは、点検する電気機器1から放出される部分放電に関わる物理量を、電気信号として検知可能な測定装置であれば、特に問題がない。
センサ部10Aは、部分放電が発生した際に生じる物理量を、電気信号として連続的に計測する。
【0019】
<検波処理部10B>
検波処理部10Bは、センサ部10Aが連続的に検出した電気信号に対し、例えばハイパスフィルターによって、低周波数のノイズ成分を除去する。
さらに、検波処理部10Bでは、最大値を一定の時間保持するピークホールドによる検波処理を実行し、予め設定したサンプリング周波数でAD変換を行い数値化する処理を実行する。なお、検波処理部10Bは、センサ部10Aが検出したデータの全てを使用する必要はない。
【0020】
<部分放電信号抽出部10C>
部分放電信号抽出部10Cは、検波処理部10Bで処理された検波処理信号について、各時刻で測定した信号と、当該時刻に対し電気機器1の電源周波数のm周期(m:1以上の整数)ずらした信号とに基づき、当該時刻での部分放電発生の有無を判別する。そして、部分放電信号抽出部10Cは、電気信号又は検波処理信号から部分放電信号を抽出する処理を実行する。
上記部分放電発生の有無の判別は、例えば、各時刻で測定した信号と、当該時刻に対して上記電気機器1の電源周波数のm周期(m:1以上の整数)ずらした信号との振幅差に基づき行う。
本実施形態の部分放電信号抽出部10Cは、差分波形演算部10CA、振幅閾値設定部10CB、及び信号抽出本体部10CC、を備える。
【0021】
<差分波形演算部10CA>
差分波形演算部10CAは、検波処理部10Bが処理した信号波形(検波処理信号)に基づき、差分波形を演算する処理を実行する。差分波形は、検波処理信号と、当該信号を上記電気機器1の電源周波数のm周期(m:1以上の整数)ずらした信号との振幅の差分からなる。
この処理によって、電源周期に厳密に同期する信号の振幅が、ゼロ若しくは小さくなる。
本実施形態の差分波形演算部10CAでは、検波処理部10Bにて処理した信号波形と当該信号波形を電源周波数の1周期ずらした信号波形との振幅の差分からなる差分波形を演算する。
ここで、電気機器1の電源周波数は、通常、60Hz若しくは50Hzであるが、本発明は、これに限定されない。
【0022】
<振幅閾値設定部10CB>
本実施形態では、差分波形演算部10CAが演算した差分波形のデータの振幅分布のうち、ゼロ近傍の分布が平均ゼロの正規分布に従うと仮定する。そして、振幅閾値設定部10CBは、その正規分布における標準偏差σを求め、その標準偏差σに基づき振幅閾値TAを設定する。
一つの正規分布において、平均値との差が標準偏差のz倍以下である点が全体の何割を占めるかは、標準正規分布表等を用いて知ることができる。例えば平均値との差が標準偏差の半分以下である点は、全体の38.3%を占める。
これを利用し、例えば、次のように処理する。すなわち、差分波形演算部10CAが演算した差分波形について、その振幅の絶対値の下位38.3%がちょうど含まれる振幅値を求める。そして、その振幅値を2倍することで、差分波形演算部10CAが演算した差分波形のデータの振幅分布のうち、ゼロ近傍の分布が従う正規分布の標準偏差σを求めることができる。
【0023】
本実施形態では、zの値を0.1から0.1刻みで増やして逐次、標準偏差を推定していく。そして、zが十分に小さければそれぞれで推定した標準偏差σは一定の値をとることを確認し、その値を、差分波形の振幅ゼロ近傍の分布が従う正規分布の標準偏差σとした。
上記zは、差分波形の振幅ゼロ近傍の分布が従う正規分布の標準偏差σを求めるために用いられる。そのzとして、0から1の間から一つを選んで、上記演算を実施しても良い。この場合、好ましくはzを0.5とすればよい。
振幅閾値TAは、例えば標準偏差σに対し倍率Xを掛けた値とする。倍率Xは、2以上4以下の範囲から選択した値が好ましい。より好ましくは、倍率Xは、3若しくは3前後(例えば2.5以上3.5以下)とする。
本実施形態では、振幅閾値TAを3σに設定する場合で例示する。
【0024】
<信号抽出本体部10CC>
信号抽出本体部10CCは、差分波形演算部10CAが演算した差分波形において上記振幅閾値TAを超える時刻を抽出する。そして、信号抽出本体部10CCは、検波処理信号において当該時刻に対応する信号を部分放電信号、それ以外を外乱ノイズによる信号と判別する。これによって、信号抽出本体部10CCは、外乱ノイズによる信号をゼロ置換することで、部分放電信号波形のみを抽出する処理を実行する。
【0025】
<部分放電評価部10D>
部分放電評価部10Dは、信号抽出本体部10CCが抽出した部分放電信号に基づき、点検する電気機器1における部分放電発生の有無や、部分放電発生の程度を評価する処理を実行する。
部分放電評価部10Dは、例えば、PDパルス割合(%)で、電気機器1の部分放電発生の状況を評価する。PDパルス割合(%)は、信号抽出本体部10CCが抽出した部分放電信号波形におけるゼロ以外の信号の割合である。評価は、例えば、PDパルス割合が大きいほど、部分放電が多く発生していると診断する。そして、PDパルス割合が予め設定した境界値以上の場合には、電気機器1のメンテナンスが必要であると判定する。
【0026】
PDパルス割合は、例えば数%~10%以上であれば、部分放電が確実に発生していると判定可能である。
PDパルス割合の判定閾値PTは、例えば、下記の(a)に基づき設定することが好ましい。倍率Xを2より小さい範囲で設定する場合には、下記の(b)も考慮し、いずれか大きい方によって設定することが望ましい。
【0027】
(a)PDパルス割合の判定閾値PT[%]
=(電源周波数[Hz]/サンプリング周波数[Hz])×100
この値は、電源1周期毎にちょうど部分放電1発(1データ)発生時のPDパルス割合である。例えば、電源周波数:60Hz、サンプリング周波数:2.56kHzの場合には、PDパルス割合は2.34%となる。
(b)部分放電がない時、つまり検波処理された波形の頻度分布が正規分布に従う時に生じ得る過誤の確率q
【0028】
また、部分放電評価部10Dは、例えば、信号抽出本体部10CCにて抽出した部分放電信号波形に対して、従来から行われている電源周期性を抽出する処理によって、電気機器1の部分放電発生の状況を監視しても良い。
この場合、電源周期性を表す指標として、例えば放電成分比率を用いても良い。
また、点検する電気機器1に対して、例えば、経時的に複数測定したPDパルス割合や信号抽出本体部10CCにて抽出した部分放電信号波形に対する放電成分比率の増加状況によって、監視処理を実施しても良い。
【0029】
<評価のための計測データのサンプリング量について>
1回の部分放電の評価に用いるセンサ部10Aでの測定時間は、例えば、電源周期の3倍以上とする。その測定時間は、好ましくは抽出後の部分放電信号の周期性を見るために、電源周期の10倍以上が望ましい。
そして、1回の部分放電の評価に用いる検波処理後の波形データは、少なくとも6点以上が好ましい。その検波処理後の波形データは、より好ましくは400点以上が好ましい。波形データのデータ量に上限値はない。
例えば、電源周期10周期分の長さで400点ならば、1周期当たり40点(例えば、0.4~0.5msに1点)なので、十分に放電信号の揺らぎを観測可能となる。また例えば、電源周期約100周期分で、1周期当たりは約40点のデータを取得する。
ここで、振幅閾値TAを3σとする。この場合、平均がμ、標準偏差がσである正規分布N(μ、σ)に従って生成される点が400点以上あれば、平均から3σ以上離れた点が1点以上あることが期待できる。このため、σの推定が精度良く行えると期待できる。
【0030】
<予め設定する倍率Xの好ましい範囲について>
ここでは、電源周期τに対して3周期以上のデータがあるとする。
このとき、検波処理後の時刻tでの測定値f(t)に対して、1周期前との差f(t)-f(t-τ)、及び1周期後との差f(t)-f(t+τ)のどちらもが振幅閾値TA以上ならば、部分放電信号と推定する。
また、時刻t-τ、t、t+τのいずれにおいても部分放電が発生していない場合を考える。また、差f(t)-f(t-τ)、差f(t)-f(t+τ)が偶然、振幅閾値TA以上になる確率をともにpとする。この場合、確率p(=q)で、部分放電でない信号f(t)を部分放電としてしまう。
部分放電でない信号同士の差が振幅閾値TA以上になる確率pを決めるのが、倍率Xとなる。
そこで、倍率Xの範囲について、次に考察する。
あるσに対して、平均ゼロの正規分布N(0、σ)に従う信号がnσ以上の範囲に入る確率pと、その時のpは、表1の通りである。
【0031】
【表1】
【0032】
この表1から分かるように、1σならp=10%となる。1割の過誤が許容できるなら倍率Xを1としてもよい。しかし、1割の過誤は、ノイズ除去としては不十分と思われる。
一方、2σでの過誤は0.2%以下なので、倍率Xを2以上とすれば十分にノイズ除去できる。逆に、nσのnを上げ過ぎると、部分放電信号を見落とす可能性が高まる。
このように、倍率Xは、2以上4以下の範囲が好ましい。
【0033】
(動作その他)
センサ部10Aが測定した測定波形について検波処理部10Bでの検波処理後の波形は、例えば、図2のようになっている。図2は、横軸が時刻であり、縦軸が振幅である。
図2に示す測定波形は、部分放電のデータを有する場合の例である。
図2に示す波形f(t)について、横軸に波形f(t)の各データを、縦軸に1周期ずらした測定波形f(t-τ)の各データをとった相関図は、図3のように記載される。
ここで、磁歪音などの外乱ノイズは、電源周期に厳密に同期したノイズ(電源周期同期ノイズ)である。このことから、当該外乱ノイズの信号は、図3中、符号Aのように45度の直線に近づいた位置となっている。一方、部分放電由来の信号は、電源周期に対し揺らぎをもって発生する。このため、図3中、符号Bのように、部分放電由来の信号は、45度の直線から両側に振れた位置となっている。なお、45度の直線の位置は、測定波形と1周期ずらした測定波形との振幅の差分がゼロの位置である。その45度の直線から離れるほど振幅の差分が大きい。
【0034】
このように、測定波形について、差分波形のデータにおいては、電源周期同期ノイズは、振幅がゼロ近傍に集まり、部分放電由来の信号は、所定以上の振幅位置に存在することが分かる。ここで、差分波形のデータは、元波形と1周期ずらした波形との振幅の差分をとったデータである。
すなわち、差分波形の振幅を絶対値として、その頻度分布を取ると、図4のようになる。図4では、横軸を振幅の絶対値とし、縦軸を度数とした。
上記の説明から分かるように、図4の分布のうち、ゼロ近傍のデータは、電源周期同期ノイズのデータであり、所定振幅以上のデータが部分放電由来の信号と推定される。この所定振幅が、本実施形態における振幅閾値TAに対応する。
【0035】
なお、差分波形の振幅データの頻度分布は、図5のようになっている。
この振幅閾値TAを求めるために、本実施形態では、図4に基づき、差分波形の頻度分布のうち、外乱ノイズ分は急峻な正規分布に近似できると仮定する。そして、差分波形のデータのうち、ゼロ近傍の分布を正規分布とみなす。更に、当該正規分布の標準偏差σと設定した倍率Xとを用いて、振幅閾値TAを求める。
本実施形態では、例えば、倍率Xを3としている。この場合には、差分波形のデータのうち、ゼロ近傍の分布を正規分布とみなしたときの3σ相当の振幅を、振幅閾値TA(絶対値)としている。
【0036】
そして、差分を取る前の波形f(t)に対して、f(t)-f(t+τ)が、求めた振幅閾値TA以上、かつf(t)-f(t-τ)が、振幅閾値TA以上を満たす時刻tにて、部分放電を観測したと判断し、部分放電信号として抽出する。これによって、本実施形態では、外乱ノイズ分を大幅に除去した部分放電信号を得ることが可能となる。
これによって、本実施形態では、従来に比べて、精度よく部分放電由来の信号を抽出することが可能となる。
そして、本実施形態では、精度良く抽出した部分放電由来の信号によって、電気機器1の部分放電の発生状況を監視する。この結果、その監視の精度が向上することが分かる。
【0037】
図6及び図7は、検波処理後の観測波形、観測波形に対する周期性解析結果、及び観測波形の相関図、放電のみを抽出した波形(抽出した部分放電信号の波形)、その評価例であるPDパルス割合、を求めた場合について、例示している。図6は、所定以上の部分放電が発生している場合の例である。図7は、部分放電の発生が小さい場合の例である。
この図6(所定以上の部分放電が発生している場合)及び図7(部分放電の発生が小さい場合)のように、周期性解析の結果(観測波形に対して電源周期性を見る従来の方法)では、電源周波数(60Hz)の整数倍の周期性を持つ。このために、部分放電の発生の有無が区別できない場合であっても、PDパルス割合を用いることで、部分放電の発生の有無を区別することが出来ることが分かる。このように、PDパルス割合を用いることで、点検する電気機器1の部分放電の発生状況を精度良く監視できることが分かる。
【0038】
(効果)
本実施形態は、例えば次の効果を奏する。
(1)本実施形態の部分放電監視方法は、点検する電気機器で部分放電が発生した際に生じる物理量を電気信号として検出し、検出した上記電気信号から、部分放電によって生じる信号波形の振幅の時間変化を検波処理信号として抽出し、抽出した検波処理信号について、各時刻で測定した信号と当該時刻に対し上記電気機器の電源周波数のm周期(m:1以上の整数)ずらした信号とに基づき当該時刻での信号が部分放電由来の部分放電信号であるか否かを判別して、上記電気信号又は上記検波処理信号から部分放電信号を抽出し、上記抽出した部分放電信号に基づき、上記点検する電気機器の部分放電発生の状況を評価する。
【0039】
例えば、本実施形態の部分放電監視装置10は、点検する電気機器で部分放電が発生した際に生じる物理量を電気信号として検出可能なセンサ部と、上記センサ部が検出した上記電気信号から、部分放電によって生じる信号波形の振幅の時間変化を検波処理信号として抽出する処理を行う検波処理部と、上記検波処理部で処理された検波処理信号について、各時刻で測定した信号と当該時刻に対し上記電気機器の電源周波数のm周期(m:1以上の整数)ずらした信号とに基づき当該時刻での信号が部分放電由来の部分放電信号であるか否かを判別することで、上記電気信号又は上記検波処理信号から部分放電信号を抽出する部分放電信号抽出部と、上記部分放電信号抽出部が抽出した部分放電信号に基づき、上記点検する電気機器の部分放電発生の状況を評価する部分放電評価部と、を備える。
【0040】
この構成によれば、測定波形から、外乱ノイズ分を分離することで、大幅に精度良く部分放電のデータを抽出可能となる。この結果、本実施形態では、磁歪音などの電源と同期して発生する外乱ノイズと間違えやすい部分放電信号を、精度良く検出できる。したがって、部分放電の発生状況をリアルタイムで監視ができるようになる。
上記実施形態では、上記部分放電発生の有無の判別は、判別する時刻で測定した信号と当該時刻に対して上記電気機器の電源周波数のm周期(m:1以上の整数)ずらした信号との振幅差に基づき行う。
【0041】
例えば、上記部分放電信号抽出部は、上記検波処理部で処理された検波処理信号に対して、当該検波処理信号と、当該検波処理信号を上記電気機器の電源周波数のm周期(m:1以上の整数)ずらした信号との振幅の差分からなる差分波形を演算する差分波形演算部と、上記差分波形演算部が演算した差分波形に基づき、上記差分波形のうちの振幅が小さい外乱ノイズ信号と、当該外乱ノイズ信号よりも上記差分波形で振幅が大きな部分放電信号とを分ける振幅である振幅閾値を設定する振幅閾値設定部と、上記差分波形演算部が演算した差分波形において上記振幅閾値を超える時刻を抽出し、上記センサ部が検出した電気信号又は上記検波処理部で処理された検波処理信号から、上記抽出した時刻に対応する信号を部分放電信号として抽出する信号抽出本体部と、を備える構成とした。
【0042】
(2)上記振幅閾値設定部は、上記差分波形演算部が演算した差分波形のデータの振幅分布のうち、ゼロ近傍の分布を正規分布とみなし、その正規分布の標準偏差σに基づき上記振幅閾値を設定する。
この構成によれば、より精度良くノイズ成分を分離することが可能となる。
【0043】
(3)上記振幅閾値設定部は、例えば、上記標準偏差σに対し2以上4以下の範囲から選択した倍率Xを掛けた値を、上記振幅閾値として設定する。
この構成によれば、より精度の良い部分放電信号を抽出可能となる。
なお、上記倍率Xは2以上4以下の範囲外でも、従来に比べ、精度良く部分放電信号を抽出可能である。
【0044】
(4)上記物理量は、例えば、上記点検する電気機器1から部分放電により発生するTEV(過渡接地電圧)変化、電流、電磁波若しくは超音波である。すなわち、上記センサ部10Aは、例えば、上記点検する電気機器1から部分放電により生じるTEV(過渡接地電圧)変化を検出するTEVセンサ、上記点検する電気機器1から部分放電により発生する電流を検出するHFCTセンサ、電磁波を検出する電磁波センサ、若しくは上記点検する電気機器1から部分放電により発生する超音波を検出する超音波センサである。
この構成によれば、確実に点検する電気機器1で部分放電が発生した際に生じる物理量を電気信号として検出することができる。
【0045】
(変形例)
<変形例1>
上記説明では、振幅閾値TAを予め設定した倍率Xと正規分布の標準偏差σから定める値としているが、これに限定されない。
例えば、図4のデータの絶対値の頻度分布において、簡易的に、分布の勾配の急峻度が緩和すると推定される振幅値を、振幅閾値TAとして設定してもよい。
【0046】
<変形例2>
また、次のようにして部分放電信号を抽出してもよい。
上記の実施形態では、差分波形を求め、その差分波形のゼロ付近の振幅分布を正規分布と仮定する。その正規分布により、標準偏差σ及び振幅閾値TAを決定して、部分放電信号を抽出する。
これに対し、変形例2では、次のようにして部分放電信号を抽出する。
すなわち、上記部分放電信号の抽出は、上記検波処理信号に対して、当該検波処理信号と、当該検波処理信号を上記電気機器の電源周波数のm周期(m:1以上の整数)ずらした信号との振幅の差分からなる差分波形を演算する。演算した差分波形に基づき、上記差分波形のうちの振幅が小さい外乱ノイズ信号と、当該外乱ノイズ信号よりも上記差分波形で振幅が大きな部分放電信号とを分ける振幅である振幅閾値を設定する。上記演算した差分波形において上記振幅閾値を超える時刻を抽出し、上記電気信号又は上記検波処理信号から、上記抽出した時刻に対応する信号を部分放電信号として抽出する。
【0047】
例えば、上記部分放電信号抽出部10Cは、上記検波処理部で処理された検波処理信号について、各時刻で測定した信号振幅と、当該時刻に対して上記電気機器の電源周波数のm周期(m:1以上の整数)ずらした信号振幅との散布図を表現するデータ若しくは関数を求める。そして、上記散布図を表現するデータ若しくは関数によって、判別する時刻の信号が上記散布図における予め定めた領域にあると判定すると、その信号を部分放電信号と判別する構成とする。
【0048】
このとき、上記予め定めた領域は、例えば、上記検波処理部10Bで処理された検波処理信号の頻度分布を計算し、最大頻度となる振幅μ以下の振幅範囲における頻度分布を正規分布に近似する。そして、その正規分布の標準偏差σに基づき振幅閾値を設定する。そして、各時刻で測定した信号振幅が、振幅閾値以上且つm周期ずらした信号振幅が振幅閾値未満となる領域、及び、各時刻で測定した信号振幅が振幅閾値未満且つm周期ずらした信号が、振幅閾値以上となる領域として規定する。
【0049】
例えば、各時刻で測定した信号振幅a(t)と、m周期ずらした信号振幅b(t)(=a(t+τ))の組み合わせ(a(t)、b(t))が、予め定めた所定の条件を満足すると判定すると、その時刻の信号を部分放電信号と判別する、構成とする。そして、例えば、上記予め定めた所定の条件は、上記検波処理部で処理された検波処理信号の頻度分布を計算し、最大頻度となる振幅μ以下の振幅範囲における頻度分布を正規分布に近似する。そして、その正規分布の標準偏差に基づき振幅閾値を設定する。そして、各時刻で測定した上記信号振幅a(t)が上記振幅閾値以上、且つm周期ずらした上記信号振幅b(t)が上記振幅閾値未満となる組み合わせ、及び、各時刻で測定した上記信号振幅a(t)が上記振幅閾値未満、且つ、m周期ずらした上記信号振幅b(t)が上記振幅閾値以上となる条件として規定する。
【0050】
また、例えば、上記振幅閾値は、上記標準偏差σに2以上4以下の範囲から選択した倍率を掛けた値と、最大頻度となる振幅μとを加算した値とする。
すなわち、この変形例2では、次のように処理が実行される。
まず、点検する電気機器1で部分放電が発生した際に生じる物理量を電気信号として検出し、検出した上記電気信号に対して、ハイパスフィルターにより低周波数成分を除去した後、検波処理を行い、検波波形を抽出する。
【0051】
次に、検波波形の振幅分布を求め、最頻振幅より低い振幅の振幅分布を正規分布の片側とみなして近似する(図8参照)。
次に、得られた近似正規分布に基づいて、予め設定した設定方法(μ+nσ)により演算される振幅を、振幅閾値として設定する。
次に、当該検波処理後の信号と電源周波数の1周期遅れた信号に対して、図9のような散布図で考える。この場合、領域1=元波形が振幅閾値以上で1周期ずらし波形が振幅閾値以下、領域2=元波形が振幅閾値以下で1周期ずらし波形が振幅閾値以上、のいずれかの領域に含まれる点(データ)を、元波形に含まれる部分放電信号として抽出する。領域1、領域2は、図9では、ハッチングで示される領域である。
【0052】
変形例2で抽出した部分放電信号は、実施形態が抽出した部分放電信号に比べて個々の部分放電信号を外乱ノイズとして誤判定する割合が増える。しかし、変形例2で抽出した部分放電信号も、主要な外乱ノイズを除去しており、従来に比べて精度良く抽出することができる。
【0053】
ここで、本願が優先権を主張する、日本国特許出願2020-150801(2020年09月08日出願)の全内容は、参照により本開示の一部をなす。ここでは、限られた数の実施形態を参照しながら説明したが、権利範囲はそれらに限定されるものではなく、上記の開示に基づく各実施形態の改変は当業者にとって自明なことである。
【符号の説明】
【0054】
1 電気機器
10 部分放電監視装置
10A センサ部
10B 検波処理部
10C 部分放電信号抽出部
10CA 差分波形演算部
10CB 振幅閾値設定部
10CC 信号抽出本体部
10D 部分放電評価部
TA 振幅閾値
X 倍率
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9