(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】スタイレットおよびカテーテル組立体
(51)【国際特許分類】
A61M 25/00 20060101AFI20221012BHJP
A61M 25/01 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
A61M25/00 624
A61M25/00 610
A61M25/01 510
(21)【出願番号】P 2022543110
(86)(22)【出願日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 JP2022000180
【審査請求日】2022-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2021003399
(32)【優先日】2021-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】宮田 昌和
【審査官】今関 雅子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-19851(JP,A)
【文献】特開平5-253304(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0063480(US,A1)
【文献】特開2018-50722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00-25/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液を流通可能なルーメンを備えたカテーテルに挿入可能に構成されるスタイレットであって、
軸方向に延在する外層チューブと、
前記外層チューブの内周に配置されるとともに、中空形状を備え、前記外層チューブよりも硬質な内層チューブと、を有し、
前記内層チューブは、前記内層チューブの先端部の内周面に、前記軸方向の基端側に向けて縮径した縮径部を有
し、
前記外層チューブは、前記外層チューブの内周面の少なくとも一部に、径方向外方に凹む凹部を有し、
前記内層チューブの前記先端部が、前記外層チューブの前記凹部の先端部に突き当たった状態で、前記内層チューブは前記外層チューブに対して固定されてい
る、スタイレット。
【請求項2】
前記縮径部は、直線形状を備える、請求項
1に記載のスタイレット。
【請求項3】
前記縮径部は、基端側に向けて凸となるように湾曲形状を備える、請求項
1に記載のスタイレット。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載のスタイレットと、
前記スタイレットが挿入可能に構成されるカテーテルと、を有するカテーテル組立体。
【請求項5】
血液を流通可能なルーメンを備えたカテーテルに挿入可能に構成されるスタイレットであって、
軸方向に延在する外層チューブと、
前記外層チューブの内周に配置されるとともに、中空形状を備え、前記外層チューブよりも硬質な内層チューブと、を有し、
前記内層チューブは、前記内層チューブの先端部の内周面に、前記軸方向の基端側に向けて縮径した縮径部を有するスタイレットと、
前記スタイレットが挿入可能に構成されるカテーテルと、を有し、
前記スタイレットを前記カテーテルに挿入した状態で、
前記内層チューブの先端は、前記カテーテルの先端よりも、基端側に配置される、カテーテル組立体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタイレットおよびカテーテル組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、救急治療における心肺蘇生や、循環補助、呼吸補助を行うため、経皮的心肺補助法(PCPS:percutaneous cardiopulmonary support)による治療が行われている。この経皮的心肺補助法とは、体外循環装置を用いて、一時的に心肺機能の補助・代行を行う方法である。
【0003】
体外循環装置は、遠心ポンプ、人工肺、脱血路および送血路等から構成される体外循環回路を備え、脱血した血液に対してガス交換を行い送血路へ送血するものである。
【0004】
このような体外循環回路の脱血路および送血路には、例えば特許文献1に開示された高性能カニューレを用いることができる。特許文献1に開示された高性能カニューレ(カテーテル組立体)は、心棒(スタイレット)をカニューレ本体(カテーテル)に挿入した状態で、生体内に挿入される。
【0005】
このようなスタイレットでは、経皮的にカテーテル組立体を生体内に挿入する際に、血管を傷つけることを防止するために、先端側を柔軟にする必要がある一方、手元側(基端側)は操作性の観点から、所定の硬度を保った状態にする必要がある。
【0006】
これに関連して、例えば下記の特許文献2には、材質および硬度の異なる樹脂同士を接合することによって、先端側に柔軟性を持たせつつ基端側の硬度を保ったカテーテルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5059305号明細書
【文献】特開平1-310666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に開示されているカテーテルをスタイレットとして用いる場合、材質の異なる樹脂同士を接合することによって構成されているため、材質の異なる材料同士の相性によっては好適に接合できず、接合部においてキンクや破損の虞がある。
【0009】
一方、接合部におけるキンクや破損を防止しつつ、先端側に柔軟性を持たせ基端側の硬度を所望の硬度に保つ構成としては、外層チューブの内周面に、外層チューブの先端から所定の距離だけ基端側に離間した位置に内層チューブを配置する構成が考えられる。しかしながら、この構成のスタイレットをチューブに挿入した状態で、ガイドワイヤーに沿って生体内に挿入する際に、内層チューブの肉厚によって生じる段差にガイドワイヤーが衝突して、カテーテル組立体を好適に挿入できない虞がある。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、キンクや破損の発生を防止しつつ、先端側に柔軟性を持たせ基端側の硬度を所望の硬度に保つとともに、ガイドワイヤーに沿ってカテーテル組立体を好適に挿入することのできる、スタイレットおよびカテーテル組立体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するスタイレットは、血液を流通可能なルーメンを備えたカテーテルに挿入可能に構成されるスタイレットである。スタイレットは、軸方向に延在する外層チューブと、前記外層チューブの内周に配置されるとともに、中空形状を備え、前記外層チューブよりも硬質な内層チューブと、を有する。前記内層チューブは、前記内層チューブの先端部の内周面に、前記軸方向の基端側に向けて縮径した縮径部を有する。
【0012】
また、上記目的を達成するカテーテル組立体は、上記のスタイレットと、前記スタイレットが挿入可能に構成されるカテーテルと、を有する。
【発明の効果】
【0013】
上記のように構成したスタイレットおよびカテーテル組立体によれば、軸方向に延在する外層チューブと、外層チューブの内周に配置され、外層チューブよりも硬質な内層チューブとを有するため、キンクや破損の発生を防止しつつ、先端側に柔軟性を持たせ基端側の硬度を所望の硬度に保つことができる。また、内層チューブは縮径部を有するため、カテーテル組立体をガイドワイヤーに沿って生体内に挿入する際に、ガイドワイヤーは縮径部に沿って内層チューブのルーメンを通過することができる。以上から、キンクや破損の発生を防止しつつ、先端側に柔軟性を持たせ基端側の硬度を所望の硬度に保つとともに、ガイドワイヤーに沿ってカテーテル組立体を好適に挿入することのできる、スタイレットおよびカテーテル組立体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る経皮カテーテルが適用されている体外循環装置の一例を示す系統図である。
【
図2】本実施形態に係るスタイレットをカテーテルに挿通する前の様子を示す側面図である。
【
図4】本実施形態に係るスタイレットをカテーテルに挿通した後の様子を示す側面図である。
【
図5】第1補強体の編み角度を説明するための図である。
【
図6】第2補強体の編み角度を説明するための図である。
【
図7】本実施形態に係るスタイレットの構成を示す概略断面図である。
【
図9】外層チューブに凹部が設けられない場合の
図8に対応する図である。
【
図10】縮径部および外層チューブの凹部が設けられない場合の
図8に対応する図である。
【
図11】本実施形態に係るスタイレットをダブルルーメンカテーテルに挿通する前の様子を示す平面図である。
【
図12】ダブルルーメンカテーテルを示す側面断面図である。
【
図13】本実施形態に係るスタイレットをダブルルーメンカテーテルに挿通した後の様子を示す平面図である。
【
図14】変形例に係るカテーテル組立体の使用状態を示す概略図である。
【
図15】比較例に係るカテーテル組立体の使用状態を示す概略図である。
【
図16】変形例に係るスタイレットの
図8に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、以下の説明は特許請求の範囲に記載される技術的範囲や用語の意義を限定するものではない。また、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る経皮カテーテルが適用され、患者の心臓が弱っているときに、心機能が回復するまでの間、一時的に心臓と肺の機能を補助・代行する経皮的心肺補助法(PCPS)として使用される体外循環装置の一例を示す系統図である。
【0017】
体外循環装置1によれば、ポンプを作動して患者の静脈(大静脈)から脱血して、人工肺により血液中のガス交換を行って血液の酸素化を行った後に、この血液を再び患者の動脈(大動脈)に戻す静脈-動脈方式(Veno-Arterial,VA)の手技を行うことができる。この体外循環装置1は、心臓と肺の補助を行う装置である。以下、患者から脱血して体外で所定の処置を施した後、再び患者の体内に送血する手技を「体外循環」と称する。
【0018】
図1に示すように、体外循環装置1は、血液を循環させる循環回路を有している。循環回路は、人工肺2と、遠心ポンプ3と、遠心ポンプ3を駆動するための駆動手段であるドライブモータ4と、静脈側カテーテル(脱血用の経皮カテーテル)5と、動脈側カテーテル(送血用カテーテル)6と、制御部としてのコントローラ10と、を有している。
【0019】
静脈側カテーテル(脱血用カテーテル)5は、大腿静脈より挿入され、下大静脈を介して静脈側カテーテル5の先端が右心房に留置される。静脈側カテーテル5は、脱血チューブ(脱血ライン)11を介して遠心ポンプ3に接続されている。脱血チューブ11は、血液を送る管路である。
【0020】
動脈側カテーテル(送血用カテーテル)6は、大腿動脈より挿入される。
【0021】
ドライブモータ4がコントローラ10の指令SGにより遠心ポンプ3を作動させると、遠心ポンプ3は、脱血チューブ11から脱血して血液を人工肺2に通した後に、送血チューブ(送血ライン)12を介して患者Pに血液を戻すことができる。
【0022】
人工肺2は、遠心ポンプ3と送血チューブ12との間に配置されている。人工肺2は、血液に対するガス交換(酸素付加および/または二酸化炭素除去)を行う。人工肺2は、例えば膜型人工肺であるが、特に好ましくは中空糸膜型人工肺を用いる。この人工肺2には、酸素ガス供給部13から酸素ガスがチューブ14を通じて供給される。送血チューブ12は、人工肺2と動脈側カテーテル6を接続している管路である。
【0023】
脱血チューブ11および送血チューブ12としては、例えば、塩化ビニル樹脂やシリコーンゴムなどの透明性の高い、弾性変形可能な可撓性を有する合成樹脂製の管路を使用することができる。脱血チューブ11内では、液体である血液はV1方向に流れ、送血チューブ12内では、血液はV2方向に流れる。
【0024】
図1に示す循環回路では、超音波気泡検出センサ20が、脱血チューブ11の途中に配置されている。ファストクランプ17は、送血チューブ12の途中に配置されている。
【0025】
超音波気泡検出センサ20は、体外循環中に三方活栓18の誤操作やチューブの破損等により循環回路内に気泡が混入された場合に、この混入された気泡を検出する。超音波気泡検出センサ20が、脱血チューブ11内に送られている血液中に気泡があることを検出した場合には、超音波気泡検出センサ20は、コントローラ10に検出信号を送る。コントローラ10は、この検出信号に基づいて、アラームによる警報を報知するとともに、遠心ポンプ3の回転数を低くする、あるいは、遠心ポンプ3を停止する。さらに、コントローラ10は、ファストクランプ17に指令して、ファストクランプ17により送血チューブ12を直ちに閉塞する。これにより、気泡が患者Pの体内に送られることを阻止する。コントローラ10は、体外循環装置1の動作を制御して、気泡が患者Pの身体に混入することを防止する。
【0026】
体外循環装置1の循環回路のチューブ11(12、19)には、圧力センサが設けられる。圧力センサは、例えば、脱血チューブ11の装着位置A1、循環回路の送血チューブ12の装着位置A2、あるいは遠心ポンプ3と人工肺2との間を接続する接続チューブ19の装着位置A3のいずれか1つあるいは全部に装着することができる。これにより、体外循環装置1によって患者Pに対して体外循環を行っている際に、圧力センサによって、チューブ11(12、19)内の圧力を測定することができる。なお、圧力センサの装着位置は、上記装着位置A1、A2、A3に限定されず、循環回路の任意の位置に装着することができる。
【0027】
次に、
図2~
図6を参照して、本発明の実施形態に係るスタイレット50が挿通される経皮カテーテル(以下、「カテーテル」と称する)30の構成について説明する。
図2~
図6は、カテーテル30の構成の説明に供する図である。このカテーテル30は、
図1の静脈側カテーテル(脱血用カテーテル)5として使用されるものである。なお、以下説明するカテーテル30の構成は一例であって、本実施形態に係るスタイレット50が挿通されるカテーテルは以下の構成に限定されるものではない。
【0028】
カテーテル30は、
図2に示すように、第1側孔63および第2側孔46を備えるカテーテルチューブ31と、カテーテルチューブ31の先端に配置され貫通孔47を備える先端チップ41と、カテーテルチューブ31の基端側に配置されるクランプ用チューブ34と、カテーテルチューブ31およびクランプ用チューブ34を接続するカテーテルコネクター35と、ロックコネクター36と、を有している。
【0029】
なお、本明細書では、生体内に挿入する側を「先端」若しくは「先端側」、術者が操作する手元側を「基端」若しくは「基端側」と称する。先端部とは、先端(最先端)およびその周辺を含む一定の範囲を意味し、基端部とは、基端(最基端)およびその周辺を含む一定の範囲を意味する。
【0030】
カテーテル30は、
図3に示すように、先端から基端まで貫通したルーメン30Aを有している。先端チップ41が備える貫通孔47およびカテーテルチューブ31が備える第1側孔63、ならびに第2側孔46は、生体内の互いに異なる脱血対象に配置されて効率的に脱血を行えるように構成されている。
【0031】
カテーテル30を生体内に挿入する際には、
図2に示すスタイレット50を使用する。スタイレット50をカテーテル30のルーメン30Aに挿通して、カテーテル30とスタイレット50とを予め一体化させた状態で生体内に挿入する。本明細書において、カテーテル30およびスタイレット50を一体化させた構成を、カテーテル組立体7と称する。
【0032】
以下、カテーテル30の各構成について説明する。なお、カテーテル30の構成は下記に限定されるものでない。
【0033】
カテーテルチューブ31は、
図2に示すように、拡張部32と、拡張部32の基端側に連結されたシャフト部33と、を有している。
【0034】
拡張部32は、シャフト部33よりも伸縮性が高くなるように構成されている。また、拡張部32は、シャフト部33よりも外径および内径が大きくなるように構成されている。
【0035】
拡張部32およびシャフト部33の長さは、先端チップ41の貫通孔47、ならびにカテーテルチューブ31の第1側孔63および第2側孔46を所望の脱血対象に配置するために必要な長さに構成されている。拡張部32の長さは、例えば、20~40cm、シャフト部33の長さは、例えば、20~30cmとすることができる。
【0036】
本実施形態では、脱血対象は、右心房および下大静脈の2箇所である。カテーテル30は、先端チップ41の貫通孔47、およびカテーテルチューブ31の第2側孔46が右心房に、カテーテルチューブ31の第1側孔63が下大静脈に配置されるように生体内に挿入して留置される。
【0037】
貫通孔47、第2側孔46、および第1側孔63が脱血対象に配置された状態で、拡張部32は比較的太い血管である下大静脈に配置され、シャフト部33は比較的細い血管である大腿静脈に配置される。
【0038】
また、スタイレット50をカテーテル30のルーメン30Aに挿通すると、伸縮性が高い拡張部32は、
図4に示すように、軸方向に伸長して外径および内径が小さくなる。このとき、拡張部32の外径はシャフト部33の外径と略同一になる。拡張部32を軸方向に伸長させて外径および内径が小さくなった状態で、カテーテル30を生体内に挿入するため、低侵襲にカテーテル30の挿入を行うことができる。
【0039】
また、カテーテル30を生体内に留置した後、スタイレット50をカテーテル30のルーメン30Aから抜去すると、拡張部32は軸方向に伸長した状態から収縮して、内径が大きくなる。ここで、拡張部32は、比較的太い血管である下大静脈に配置される。したがって、拡張部32の外径を大きくすることができ、これに伴って内径を大きくすることができる。
【0040】
ここで、拡張部32内の圧力損失は、それぞれ拡張部32の全長×(平均)通路断面積となる。すなわち、拡張部32の内径を大きくすることによって、拡張部32内の圧力損失が低減される。拡張部32内の圧力損失が低減されると、循環回路を流れる血液の流量は増加する。このため、十分な血液の循環量を得るためには、拡張部32の内径を大きくする必要がある。
【0041】
一方で、肉厚が略一定の場合、拡張部32、シャフト部33の内径を大きくすると、外径が大きくなるため、生体内へカテーテル30を挿入する際に患者の負担が大きくなり、低侵襲な手技の妨げとなる。
【0042】
以上の観点から、拡張部32の内径は、例えば、9~11mm、シャフト部33の内径は、例えば、4~8mmとすることができる。また、拡張部32およびシャフト部33の肉厚は、例えば、0.4~0.5mmとすることができる。
【0043】
また、
図2に示すように、拡張部32の先端部は、拡張部32の中央から軸方向の先端側に向かってそれぞれ徐々に細くなるテーパー部を形成することが好ましい。これにより、拡張部32の先端の内径が、先端側に配置される先端チップ41の内径と連続するようになっている。
【0044】
拡張部32は、
図5に示すように、交差するように編組されたワイヤーWからなる第1補強体321と、第1補強体321を被覆するように設けられた第1樹脂層322と、を有する。
【0045】
シャフト部33は、
図6に示すように、交差するように編組されたワイヤーWからなる第2補強体331と、第2補強体331を被覆するように設けられた第2樹脂層332と、を有する。
【0046】
第1補強体321は、
図5に示すように、編み角度θ1となるように、ワイヤーWが編組されて構成している。また、第2補強体331は、
図6に示すように、編み角度θ2となるように、ワイヤーWが編組されて構成している。
【0047】
本明細書において、編み角度θ1、θ2は、
図5、
図6に示すように、交差するワイヤーWがなす角度のうち、軸方向の内角として定義する。
【0048】
第1補強体321の編み角度θ1は、
図5、
図6に示すように、第2補強体331の編み角度θ2よりも小さく構成されている。このため、第1補強体321を構成するワイヤーWの軸方向に対する傾斜角度は、第1補強体321の編み角度が第2補強体331の編み角度より大きい場合と比較して、小さくなる。なお、第1補強体321の編み角度θ1は、第2補強体331の編み角度θ2よりも大きく構成されてもよい。
【0049】
ここで、拡張部32の軸方向の伸長に伴って、拡張部32の第1補強体321を構成するワイヤーWは、軸方向に対する傾斜角度が徐々に小さくなるように変形する。そして、拡張部32の第1補強体321を構成するワイヤーWの軸方向に対する傾斜角度がおよそゼロになったときに、拡張部32の軸方向の伸長が規制される。
【0050】
したがって、第1補強体321の編み角度θ1を第2補強体331の編み角度θ2よりも小さく構成することによって、第1補強体321の編み角度が第2補強体331の編み角度より大きい場合と比較して、カテーテル30にスタイレット50を挿通するのに伴う拡張部32の軸方向に沿う伸長距離は短くなる。
【0051】
第1補強体321の編み角度θ1は、特に限定されないが、100度~120度である。また、第2補強体331の編み角度θ2は、特に限定されないが、130度~150度である。このように第2補強体331の編み角度θ2を、第1補強体321の編み角度θ1よりも大きくすることによって、第2補強体331の耐キンク性を向上させることができる。このため、入り組んだ構成となっている大腿静脈において、好適に、カテーテル30を生体内に挿入することができる。
【0052】
拡張部32の第1補強体321は、
図5、
図6に示すように、シャフト部33の第2補強体331よりも、疎となるように編組されて構成している。この構成によれば、シャフト部33に比較して、拡張部32を柔らかくすることができ、伸縮性を高めることができる。
【0053】
本実施形態においてワイヤーWは、公知の形状記憶金属や形状記憶樹脂の形状記憶材料によって構成される。形状記憶金属としては、例えば、チタン系(Ni-Ti、Ti-Pd、Ti-Nb-Sn等)や、銅系の合金を用いることができる。また、形状記憶樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、トランスイソプレンポリマー、ポリノルボルネン、スチレンーブタジエン共重合体、ポリウレタンを用いることができる。
【0054】
ワイヤーWが形状記憶材料によって構成されるため、カテーテル30からスタイレット50を抜去するのに伴う拡張部32の軸方向に沿う収縮距離は、カテーテル30にスタイレット50を挿通するのに伴う拡張部32の軸方向に沿う伸長距離と同一になる。
【0055】
ワイヤーWの線径としては、0.1mm~0.2mmであることが好ましい。
【0056】
ワイヤーWの線径を0.1mm以上にすることによって、強度を向上する補強体としての機能を好適に発揮することができる。
【0057】
一方、ワイヤーWの線径を0.2mm以下にすることによって、拡張部32の外径を小さくしつつ内径を大きくすることができるため、カテーテル30挿入時の患者の身体に対する負担抑制、および圧力損失の低減を両立することができる。本実施形態においては、ワイヤーWの断面は、円形であるが、これに限定されず、長方形、正方形、楕円形等であってもよい。
【0058】
拡張部32の第1樹脂層322は、シャフト部33の第2樹脂層332よりも、硬度の低い柔らかい材料によって構成される。この構成によれば、シャフト部33に比較して、拡張部32を柔らかくすることができ、伸縮性を高めることができる。
【0059】
第1、第2樹脂層322、332は、塩化ビニル、シリコン、ポリエチレン、ナイロン、ウレタン、ポリウレタン、フッ素樹脂、熱可塑性エラストマー樹脂等を使用して、もしくはこれらの複合材料を用いて形成できる。
【0060】
シリコン素材は、生体適合性が高く、素材自体も柔らかいため、血管を傷つけにくい特長がある。ポリエチレン素材は、柔らかく、且つ、圧力に耐える硬さを有している。しかもポリエチレン素材は、シリコン素材に匹敵する生体適合性を持つ。ポリエチレン素材は、シリコンよりも硬く、細い血管に挿入し易い特長がある。また、ポリウレタン素材は、挿入後には柔らかくなる特長がある。第1、第2樹脂層322、332の材料としては、これらの素材の特長を生かして適用可能な材料を使用することができる。
【0061】
また、ポリウレタン素材に親水性のコーティングを施してもよい。この場合チューブ表面が滑らかで、血管挿入が行い易く、血管壁を傷つけにくい。血液やタンパク質が付着しにくく、血栓の形成を防ぐことが期待できる。
【0062】
拡張部32、シャフト部33を形成する方法は特に限定されないが、例えばディップコート(浸漬法)やインサート成形などにより形成することができる。なお、補強体321、331は、少なくとも外表面が樹脂層322、332によって被覆されていればよい。
【0063】
拡張部32は、
図2に示すように、第2側孔46を有する。第2側孔46は、
図2に示すように、軸方向に沿って複数(
図2では4つ)設けられている。第2側孔46は、周方向にも複数設けられていることが好ましい。第2側孔46は、脱血孔として機能する。
【0064】
シャフト部33は、
図2に示すように、第1側孔63を有する。第1側孔63は脱血孔として機能する。第1側孔63は、周方向に複数有することが好ましい。本実施形態では、シャフト部33には、周方向に4つの第1側孔63が設けられている。これにより、脱血により、一の第1側孔63が血管壁に吸着して塞がれても、他の第1側孔63により脱血を行うことができるため、血液循環を安定して行うことができる。
【0065】
先端チップ41は、
図2~
図4に示すように、拡張部32の先端に配置される。先端チップ41は、先端側に向かって徐々に縮径された先が細い形状を備えている。
【0066】
先端チップ41の内側には、カテーテル30の生体内への挿入に先立って使用されるスタイレット50の平坦面51Dと当接する平坦な受け面48が形成されている。
【0067】
先端チップ41は、
図3に示すように、ワイヤーWの先端が収納されるように構成されている。先端チップ41は、貫通孔47を有している。貫通孔47は、脱血用の孔として機能する。先端チップ41の貫通孔47は、カテーテル30のルーメン30Aの一部を構成している。先端チップ41は、例えば、ウレタンによって形成することができる。
【0068】
クランプ用チューブ34は、
図2~
図4に示すように、シャフト部33の基端側に設けられる。クランプ用チューブ34の内側には、スタイレット50が挿通可能なルーメンが設けられている。クランプ用チューブ34は、カテーテルチューブ31と同様の材料を用いて形成することができる。
【0069】
カテーテルコネクター35は、
図2、
図4に示すように、シャフト部33およびクランプ用チューブ34を接続する。カテーテルコネクター35の内側には、スタイレット50が挿通可能なルーメンが設けられている。
【0070】
ロックコネクター36は、
図2~
図4に示すように、クランプ用チューブ34の基端側に接続されている。ロックコネクター36の内側には、スタイレット50が挿通可能なルーメンが設けられている。ロックコネクター36の基端側の外表面には、ネジ山が設けられた雄ネジ部36Aが設けられている。
【0071】
次に、
図7~
図10を参照して、本実施形態に係るスタイレット50の構成について説明する。
図7、
図8は、本実施形態に係るスタイレット50の構成の説明に供する図である。
図9は、外層チューブに凹部が設けられない場合の
図8に対応する図である。
図10は、縮径部および外層チューブの凹部が設けられない場合の
図8に対応する図である。
【0072】
スタイレット50は、
図7、
図8に示すように、軸方向に延在する外層チューブ51と、外層チューブ51の内周に配置される内層チューブ52と、を有する。
【0073】
外層チューブ51の外径は、シャフト部33の内径と同一となるように構成されている。なお、シャフト部33の内径と同一とは、完全に同一だけでなく、多少の誤差も含まれるものとする。外層チューブ51は、内層チューブ52が配置されるルーメン55を有する。
【0074】
外層チューブ51の先端部51Aは、
図7に示すように、先端に向けて徐々に小さくなるように先細りされている。この構成によれば、外層チューブ51の先端部51Aの外周がなだらかなテーパー形状を備えているため、スタイレット50をカテーテル30に挿通して一体化した状態において、カテーテル30は、先端部51Aの形状に追従して、先細りした形状となる。したがって、カテーテル30の生体内への挿入性が向上する。
【0075】
外層チューブ51の内周面には、
図7、
図8に示すように、径方向の外方に凹む凹部51Bが形成されている。外層チューブ51の凹部51Bの内径は、内層チューブ52の外径よりもわずかに大きくなるように構成されている。内層チューブ52の縮径部52Bの先端部52Cが、外層チューブ51の凹部51Bの先端部51Cに突き当たった状態で、内層チューブ52は、外層チューブ51に対して固定されている。
【0076】
外層チューブ51の先端は、
図2に示すように、先端チップ41の受け面48が当接する平坦面51Dを備えている。
【0077】
外層チューブ51の軸方向に沿う全長は、拡張部32が伸長する前のカテーテル30の軸方向に沿う全長よりも長く構成されている。また、外層チューブ51の軸方向に沿う全長は、拡張部32が伸長した後のカテーテル30の軸方向に沿う全長と同一となるように構成されている。
【0078】
外層チューブ51の外径は、特に限定されないが、4.0~9.0mmである。外層チューブ51の内径は、特に限定されないが、1.2~7.0mmである。外層チューブ51の内周面に形成された凹部51Bの凹み量C1は、特に限定されないが、0.9~3.4mmである。また、外層チューブ51の凹部51Bの先端部51Cから外層チューブ51の平坦面51Dまでの長さL1(
図7参照)は、特に限定されないが、50~150mmである。
【0079】
外層チューブ51は、比較的剛性の高い長尺体である。外層チューブ51を構成する材料としては、特に限定されないが、上述した第1、第2樹脂層322、332と同様のものを用いることができる。
【0080】
内層チューブ52は、外層チューブ51の内周に設けられる。
【0081】
内層チューブ52は、
図8に示すように、ガイドワイヤーGWが挿通可能なルーメン52Aを備えている。外層チューブ51および内層チューブ52は、ガイドワイヤーGWに導かれて、カテーテル30とともに生体内へ挿入される。
【0082】
内層チューブ52は、軸方向に沿って、外径が一様となるように構成されている。
【0083】
内層チューブ52は、
図7、
図8に示すように、先端部52Cの内周面に、基端側に向けて縮径した縮径部52Bを有する。本実施形態において、縮径部52Bは、
図8に示すように、直線形状を備えている。縮径部52Bのテーパー角θは、特に限定されないが、80度以下であることが好ましい。このようにテーパー角を80度以下にすることによって、カテーテル組立体7をガイドワイヤーGWに沿って生体内に挿入する際に、ガイドワイヤーGWは縮径部52Bに沿って、内層チューブ52のルーメン52A内に案内されて、内層チューブ52のルーメン52A内を通過することができる。
【0084】
縮径部52Bの先端部52Cは、
図8に示すように、所定の肉厚D1を有する。肉厚D1は、
図8に示すように、外層チューブ51の内周面に形成された凹部51Bの凹み量C1と略同一であることが好ましい。この構成によれば、内層チューブ52の先端部52Cにおいて段差が生じないため、カテーテル組立体7をガイドワイヤーGWに沿って生体内に挿入する際に、ガイドワイヤーGWは縮径部52Bに沿って、内層チューブ52のルーメン52Aを通過することができる。なお、凹み量C1が肉厚D1よりも大きい構成であっても、上記の効果を備える。
【0085】
ここで、例えば、
図9に示すように、外層チューブ151に凹部51Bが設けられない場合、縮径部52Bの先端部52Cの肉厚D1だけ、段差が形成される。このため、カテーテル組立体7をガイドワイヤーGWに沿って生体内に挿入する際に、ガイドワイヤーGWが縮径部52Bの先端部52Cに接触して、カテーテル組立体を好適に挿入できない虞がある。これに対して、本実施形態に係るスタイレット50によれば、
図8に示すように、外層チューブ51に凹部51Bが形成されているため、カテーテル組立体7を好適に挿入することができる。なお、外層チューブ151に凹部51Bが設けられない構成は、下記で説明する縮径部52Bが存在しない構成と比較すると、ガイドワイヤーGWの内層チューブ52に対する衝突を抑制することができるため、本発明に含まれるものとする。
【0086】
図10では、比較例として、縮径部52Bが設けられない内層チューブ952および凹部51Bが設けられない外層チューブ151のカテーテル組立体90が開示されている。比較例に係るカテーテル組立体90のように縮径部52Bが設けられない場合、内層チューブ952の厚さ分だけ、段差が形成される。このため、カテーテル組立体90をガイドワイヤーGWに沿って生体内に挿入する際に、ガイドワイヤーGWが内層チューブ952に接触して、カテーテル組立体90を挿入することが困難である。
【0087】
内層チューブ52の外径は、特に限定されないが、1.3~7.0mmである。内層チューブ52の内径は、特に限定されないが、1.1~5.0mmである。
【0088】
内層チューブ52は、比較的剛性の高い長尺体である。内層チューブ52は、外層チューブ51よりも硬質な材料から構成される。内層チューブ52を構成する材料としては、特に限定されないが、上述した第1、第2樹脂層322、332と同様のものを用いることができる。この構成によれば、スタイレット50の先端を柔らかくしつつ、スタイレット50の基端の剛性を高くすることができる。したがって、カテーテル組立体7を生体内に挿入する際に、生体組織を傷つけることを防止できるとともに、手元の操作による先端側への押し込み力を先端チップ41へ伝達することを可能にするコシを備える。
【0089】
スタイレット50は、
図2に示すように、外層チューブ51および内層チューブ52の基端が固定されるスタイレットハブ53と、スタイレットハブ53の先端に設けられたネジリング54と、をさらに有する。
【0090】
スタイレットハブ53は、外層チューブ51および内層チューブ52の基端に設けられ、把持可能に構成されている。スタイレット50は、カテーテル30を生体内に留置した後に、スタイレットハブ53を基端側に引き抜くことでカテーテル30から抜去される。
【0091】
ネジリング54は、内腔の内表面にネジ溝が設けられた雌ネジ部(図示せず)を有している。ネジリング54の雌ネジ部を、ロックコネクター36の雄ネジ部36Aに対してねじ込むことによって、スタイレット50をカテーテル30に対して取り付け可能に構成されている。
【0092】
<スタイレットの使用方法>
次に、上述したスタイレット50の使用方法について説明する。
【0093】
まず、内層チューブ52を外層チューブ51に対して固定して、スタイレット50を製造する。そして、カテーテル30のルーメン30Aに対してスタイレット50を挿通する。スタイレット50は、シャフト部33、拡張部32の内部を順に通過し、スタイレット50の外層チューブ51の平坦面51Dが先端チップ41の受け面48に当接する。
【0094】
ここで、
図2に示すように、外層チューブ51の軸方向の全長は、拡張部32が伸長する前のカテーテル30の軸方向の全長よりも長く構成されている。このため、スタイレット50の外層チューブ51の平坦面51Dが先端チップ41の受け面48に当接した状態で、拡張部32が先端側に押圧される。
【0095】
そして、拡張部32の先端が先端側に引っ張られる。これにより、カテーテル30は、軸方向に伸長する力を受け、カテーテル30のうち比較的伸縮性が高い拡張部32が軸方向に伸長する。
【0096】
その後、カテーテルのロックコネクター36に設けられた雄ネジ部36Aに対して、ネジリング54の雌ネジ部をねじ込むことによって、スタイレット50をカテーテル30に対して取り付ける。
【0097】
次に、スタイレット50が挿通されたカテーテル30を、予め生体内の対象部位に挿入されているガイドワイヤーGWに沿って挿入する。ここで、本実施形態に係るスタイレット50であれば、内層チューブ52に縮径部52Bが構成されるとともに、外層チューブ51に凹部51Bが設けられるため、ガイドワイヤーGWに沿ってカテーテル組立体7を好適に挿入することができる。また、スタイレット50がカテーテル30に挿通されているため、拡張部32の外径はシャフト部33の外径と略同一になっており、カテーテル30の生体内への挿入を低侵襲で行うことができ、患者の身体に対する負担を抑制することができる。
【0098】
また、先端チップ41の貫通孔47、およびカテーテルチューブ31の第2側孔46が右心房に、カテーテルチューブ31の第1側孔63が下大静脈に配置されるまでカテーテル30を生体内に挿入し、留置する。貫通孔47、第1側孔63、および第2側孔46が脱血対象に配置された状態で、拡張部32は比較的太い血管である下大静脈に配置され、シャフト部33は比較的細い血管である大腿静脈に配置される。
【0099】
次に、スタイレット50およびガイドワイヤーをカテーテル30から抜去する。この際、スタイレット50およびガイドワイヤーは、一旦カテーテル30のクランプ用チューブ34の箇所まで抜いて鉗子(図示せず)によりクランプした後、カテーテル30から完全に抜去する。スタイレット50がカテーテル30のルーメンから抜去されることによって、カテーテル30は、カテーテル30がスタイレット50から受けていた軸方向に伸長する力から開放される。このため、拡張部32が軸方向に収縮し、拡張部32の内径は大きくなる。これにより、拡張部32内の圧力損失を低減し必要とする液体の流量を確保することができる。
【0100】
次に、カテーテル30のロックコネクター36を
図1の体外循環装置の脱血チューブ11に接続する。送血側のカテーテルの接続が完了したことを確認後、クランプ用チューブ34の鉗子を解放して、体外循環を開始する。
【0101】
体外循環が終了したら、カテーテル30を血管から抜去し、挿入箇所必要に応じて外科的手技により止血修復する。
【0102】
以上のように、本実施形態に係るスタイレット50は、血液を流通可能なルーメン30Aを備えたカテーテル30に挿入可能に構成されるスタイレット50である。スタイレット50は、軸方向に延在する外層チューブ51と、外層チューブ51の内周に配置されるとともに、中空形状を備え、外層チューブ51よりも硬質な内層チューブ52と、を有する。内層チューブ52は、内層チューブ52の先端部の内周面に、軸方向の基端側に向けて縮径した縮径部52Bを有する。このように構成されたスタイレット50によれば、軸方向に延在する外層チューブ51と、外層チューブ51の内周に配置され、外層チューブ51よりも硬質な内層チューブ52と、を有するため、キンクや破損の発生を防止しつつ、先端側に柔軟性を持たせ基端側の硬度を所望の硬度に保つことができる。また内層チューブ52は、縮径部52Bを有するため、カテーテル組立体7をガイドワイヤーGWに沿って生体内に挿入する際に、ガイドワイヤーGWは縮径部52Bに沿って内層チューブ52のルーメン52Aを通過することができる。以上から、キンクや破損の発生を防止しつつ、先端側に柔軟性を持たせ基端側の硬度を保つとともに、ガイドワイヤーGWに沿ってカテーテル組立体7を好適に挿入することのできる、スタイレット50を提供することができる。
【0103】
また、上記のように構成されたスタイレット50によれば、内層チューブ52の外層チューブ51に対する軸方向の先端位置を適宜変更することによって、スタイレット50の先端の柔軟性を備える範囲を適宜コントロールすることができる。
【0104】
また、外層チューブ51は、外層チューブ51の内周面に、径方向外方に凹む凹部51Bを有し、内層チューブ52の先端部52Cが、外層チューブ51の凹部51Bの先端部51Cに突き当たった状態で、内層チューブ52は外層チューブ51に対して固定されている。このように構成されたスタイレット50によれば、ガイドワイヤーGWに沿ってカテーテル組立体7をより好適に挿入することができる。
【0105】
また、縮径部52Bは、直線形状を備える。このように構成されたスタイレット50によれば、容易に縮径部52Bを形成することができる。
【0106】
<カテーテルの変形例>
次に、カテーテルの変形例について説明する。上述した実施形態では、スタイレット50は、1つのルーメン30Aを備えるカテーテル30に対して適用された。しかしながら、
図11~
図13に示すような、ダブルルーメンを備えるカテーテル60に対しても用いることができる。以下、
図11~
図13を参照して、ダブルルーメンを備えるカテーテル60の構成について説明する。
【0107】
カテーテル60はいわゆるダブルルーメンカテーテルであって、同時に送血と脱血の双方を行うことができるものである。したがって、本実施形態では、
図1の体外循環装置においては、静脈側カテーテル(脱血用カテーテル)5と、動脈側カテーテル(送血用カテーテル)6の2つのカテーテルを用いることはなく、1つのカテーテル60のみを用いて手技を行う。
【0108】
カテーテル60では、
図11、
図12に示すように、送血用側孔163に連通する第1ルーメン61を備える第3チューブ161が、シャフト部133の内腔に配置された二重管構造を有する。
【0109】
カテーテル60によれば、体外循環装置のポンプを作動して患者の静脈(大静脈)から脱血して、人工肺により血液中のガス交換を行って血液の酸素化を行った後に、この血液を再び患者の静脈(大静脈)に戻す静脈-静脈方式(Veno-Venous,VV)の人工肺体外血液循環を行うことができる。
【0110】
カテーテル60は、
図11~
図13に示すように、拡張部32と、シャフト部133と、拡張部32の先端に配置される先端チップ41と、シャフト部133の内腔に配置された第3チューブ161と、を有している。拡張部32および先端チップ41の構成は、第1実施形態のカテーテル30と同じ構成であるため、説明は省略する。
【0111】
カテーテル60は、
図12に示すように、送血路として機能する第1ルーメン61と、脱血路として機能する第2ルーメン62と、を有している。
【0112】
第1ルーメン61は、第3チューブ161の内腔に形成される。第2ルーメン62は、拡張部32およびシャフト部133の内腔に形成され、先端から基端まで貫通している。
【0113】
シャフト部133には、送血路である第1ルーメン61に連通する送血用側孔163が設けられている。
【0114】
シャフト部133は、脱血路である第2ルーメン62に連通する脱血用側孔164を備えている。
【0115】
送血用側孔163および脱血用側孔164は、楕円形状に構成されている。
【0116】
第3チューブ161は、シャフト部133の基端側から第2ルーメン62に挿入されて送血用側孔163に連結している。
【0117】
送血用側孔163は、生体内の送血対象に配置され、人工肺により酸素化が行われた血液は送血用側孔163を介して生体内に送出される。
【0118】
先端チップ41が備える貫通孔47、拡張部32が備える第2側孔46、およびシャフト部133が備える脱血用側孔164は、生体内の異なる脱血対象に配置されて効率的に脱血を行えるように構成されている。また、貫通孔47、第2側孔46、または脱血用側孔164が血管壁に吸着して塞がれても、塞がれていない方の孔から脱血を行うことができるため、体外循環を安定して行うことができる。
【0119】
本実施形態では、カテーテル60は、首の内頸静脈から挿入され、上大静脈、右心房を介して先端が下大静脈に留置される。送血対象は、右心房であり、脱血対象は、上大静脈および下大静脈の2箇所である。
【0120】
カテーテル60は、
図13に示すように、スタイレット50が挿入された状態で、先端チップ41の貫通孔47、拡張部32の第2側孔46が下大静脈に、シャフト部133の脱血用側孔164が内頸静脈に配置されるように生体内に挿入して留置される。
【0121】
拡張部32は、シャフト部133よりも内径が大きくなるように構成されている。貫通孔47、第2側孔46、および脱血用側孔164が脱血対象に配置された状態で、拡張部32は比較的太い血管である下大静脈に配置され、シャフト部133は比較的細い血管である大腿静脈に配置される。
【0122】
図12に示すように、ロックコネクター136は、第1ルーメン61に連通する第1ロックコネクター137と、第1ロックコネクター137に対して並列に設けられ、第2ルーメン62に連通する第2ロックコネクター138と、を有している。ロックコネクター136は、第1ロックコネクター137が第2ロックコネクター138から分岐して形成されたY字状のYコネクターである。
【0123】
第1ロックコネクター137は、第3チューブ161の基端部に連結されている。第2ロックコネクター138は、シャフト部133の基端部に同軸的に連結されている。第1ロックコネクター137には、送血チューブ(送血ライン)が接続され、第2ロックコネクター138には脱血チューブ(脱血ライン)が接続される。
【0124】
以上のように、本実施形態に係るカテーテル60によれば、一つのカテーテルで脱血と送血の両方の機能を果たすことができる。
【0125】
<カテーテル組立体の変形例>
次に、
図14、
図15を参照して、変形例に係るカテーテル組立体8の構成について説明する。上述した実施形態に係るカテーテル組立体7では、スタイレット50の外層チューブ51の平坦面51Dが先端チップ41の受け面48に当接して、カテーテル30の拡張部32を伸長させる、いわゆる拡張カテーテルに採用された。
【0126】
これに対して変形例に係るカテーテル組立体8は、
図14に示すようなスタイレット250が、カテーテル30の先端から突出する構成を備えている。この構成では、外層チューブ51の先端は平坦面51Dを備えていなくてもよく、エッジの無い形状であってもよい。
【0127】
ここで、例えば、スタイレット81が軸方向に沿って一様に比較的硬い構成の場合、
図15に示すように、ガイドワイヤーGWに沿って、カテーテル組立体80を挿入すると、スタイレット81が曲がりにくく、ガイドワイヤーGWへの追従性が悪く、血管に意図せず接触してしまう可能性がある。これに対して、変形例に係るカテーテル組立体8によれば、先端側に柔軟性を持たせ基端側の所望の硬度を備えるスタイレット250が用いられるため、
図14に示すように、スタイレット250が曲がりやすく、ガイドワイヤーGWへの追従性がよく、血管を損傷するリスクが低減される。
【0128】
このとき、スタイレット250をカテーテル30に挿入した状態で、内層チューブ52の先端は、カテーテル30の先端よりも、基端側に配置されることが好ましい。この構成によれば、術者は内層チューブ52が配置された硬度の高い基端側を把持することができるため、手術が容易となる。
【0129】
以上、実施形態を通じて本発明に係るカテーテルを説明したが、本発明は実施形態および変形例において説明した構成のみに限定されることはなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0130】
例えば上述した実施形態では、縮径部52Bは、直線形状を備えた。しかしながら、縮径部152Bは、
図16に示すように、基端側に向けて凸となるように湾曲形状を備える構成であってもよい。このように構成されたスタイレット150によれば、カテーテル組立体をガイドワイヤーGWに沿って生体内に挿入する際に、ガイドワイヤーGWは縮径部152Bに沿って内層チューブ152のルーメン52Aに好適に案内される。
【0131】
また、ワイヤーWを構成する材料は、変形して元の形状に戻る復元力を備え、かつ、樹脂層を補強する機能を備える材料であれば形状記憶材料にさせる構成に限定されず、例えば、公知の弾性材料により構成することができる。
【0132】
本出願は、2021年1月13日に出願された日本国特許出願第2021-003399号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。
【符号の説明】
【0133】
7、8 カテーテル組立体、
30、60、230 カテーテル(経皮カテーテル)、
30A カテーテルのルーメン、
50、150、250 スタイレット、
51、151 外層チューブ、
51B 凹部、
51C 凹部の先端部、
52、152 内層チューブ、
52B、152B 縮径部、
52C 内層チューブの先端部。
【要約】
【課題】キンクや破損の発生を防止しつつ、先端側に柔軟性を持たせ基端側の硬度を所望の硬度に保つとともに、ガイドワイヤーに沿ってカテーテル組立体を好適に挿入することのできるスタイレットを提供する。
【解決手段】スタイレット50は、軸方向に延在する外層チューブ51と、外層チューブの内周に配置されるとともに、中空形状を備え、外層チューブよりも硬質な内層チューブ52と、を有する。内層チューブは、内層チューブの先端部の内周面に、軸方向の基端側に向けて縮径した縮径部52Bを有する。
【選択図】
図8