(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-12
(45)【発行日】2022-10-20
(54)【発明の名称】故障検知・予知装置及び故障検知・予知用プログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20221013BHJP
【FI】
G05B23/02 R
(21)【出願番号】P 2021044858
(22)【出願日】2021-03-18
【審査請求日】2021-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】391016358
【氏名又は名称】東芝情報システム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100074147
【氏名又は名称】本田 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】飯田 勉
(72)【発明者】
【氏名】三分一 修
(72)【発明者】
【氏名】大塚 陽子
(72)【発明者】
【氏名】島村 徹也
(72)【発明者】
【氏名】安井 希子
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 陽介
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-176545(JP,A)
【文献】特開2002-323371(JP,A)
【文献】特開2019-212195(JP,A)
【文献】特開2019-60828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/00-23/02
G01M 1/00-99/00
G06Q 10/00
G10L 13/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象装置から、第1の所定時間間隔で、音響信号のサンプリングを複数回行って、この複数回のサンプリングを基礎期間サンプリングとし、この基礎期間サンプリングを第2の所定時間間隔で繰り返し行う音響信号サンプリング手段により得られた音響信号を用いて、前記対象装置の故障検知・予知を行う故障検知・予知装置において、
前記基礎期間サンプリング内の各サンプリング毎に音響信号からパワースペクトル密度を求めるパワースペクトル密度算出手段と、
前記求めたパワースペクトル密度毎に、中心周波数データ及びまたはパワー分散値データを検査対象データとして求める検査対象データ生成手段と、
前記求められた検査対象データの所定期間の時系列データについて統計処理を行って統計処理結果データを求める統計処理手段と、
前記統計処理結果データについて閾値と比較して前記対象装置の故障検知・予知を行う比較手段と
を具備することを特徴とする故障検知・予知装置。
【請求項2】
前記統計処理手段は、時間的に前後する検査対象データの差分を求め、統計処理結果データとすることを特徴とする請求項1に記載の故障検知・予知装置。
【請求項3】
前記統計処理手段は、時間的に前後する検査対象データの差分を求め、この差分を時間的に後の検査対象データで除したデータを統計処理結果データとすることを特徴とする請求項1または2に記載の故障検知・予知装置。
【請求項4】
前記統計処理手段は、前記基礎期間サンプリングに対応する検査対象データの最大値と最小値の差分を求め、この差分を統計処理結果データとすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の故障検知・予知装置。
【請求項5】
前記統計処理手段は、前記基礎期間サンプリングに対応する検査対象データの中央値の平均値を求め、この平均値に対して前記基礎期間サンプリングに対応する検査対象データの値が上回った或いは下回った回数を求め、この回数を統計処理結果データとすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の故障検知・予知装置。
【請求項6】
前記比較手段は、前記統計処理結果データについて閾値と比較して異常か否かを判定し、異常との判定の回数と頻度に基づき故障発生と故障予知を行うことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の故障検知・予知装置。
【請求項7】
前記対象装置から、第1の所定時間間隔で、音響信号のサンプリングを複数回行って、この複数回のサンプリングを基礎期間サンプリングとし、この基礎期間サンプリングを第2の所定時間間隔で繰り返し行う音響信号サンプリング手段を備えることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の故障検知・予知装置。
【請求項8】
対象装置から、第1の所定時間間隔で、音響信号のサンプリングを複数回行って、この複数回のサンプリングを基礎期間サンプリングとし、この基礎期間サンプリングを第2の所定時間間隔で繰り返し行う音響信号サンプリング手段によって、サンプリングされた音響信号を用いて前記対象装置の故障検知・予知を行う装置のコンピュータを、
前記基礎期間サンプリング内の各サンプリング毎に音響信号からパワースペクトル密度を求めるパワースペクトル密度算出手段、
前記求めたパワースペクトル密度毎に、中心周波数データ及びまたはパワー分散値データを検査対象データとして求める検査対象データ生成手段、
前記求められた検査対象データの所定期間の時系列データについて統計処理を行って統計処理結果データを求める統計処理手段、
前記統計処理結果データについて閾値と比較して前記対象装置の故障検知・予知を行う比較手段
として機能させることを特徴とする故障検知・予知用プログラム。
【請求項9】
前記コンピュータを前記統計処理手段として、時間的に前後する検査対象データの差分を求め、統計処理結果データとするように機能させることを特徴とする請求項8に記載の故障検知・予知用プログラム。
【請求項10】
前記コンピュータを前記統計処理手段として、時間的に前後する検査対象データの差分を求め、この差分を時間的に後の検査対象データで除したデータを統計処理結果データとするように機能させることを特徴とする請求項8または9に記載の故障検知・予知用プログラム。
【請求項11】
前記コンピュータを前記統計処理手段として、前記基礎期間サンプリングに対応する検査対象データの最大値と最小値の差分を求め、この差分を統計処理結果データとするように機能させることを特徴とする請求項8乃至10のいずれか1項に記載の故障検知・予知用プログラム。
【請求項12】
前記コンピュータを前記統計処理手段として、前記基礎期間サンプリングに対応する検査対象データの中央値の平均値を求め、この平均値に対して前記基礎期間サンプリングに対応する検査対象データの値が上回った或いは下回った回数を求め、この回数を統計処理結果データとするように機能させることを特徴とする請求項8乃至11のいずれか1項に記載の故障検知・予知用プログラム。
【請求項13】
前記コンピュータを前記比較手段として、前記統計処理結果データについて閾値と比較して異常か否かを判定し、異常との判定の回数と頻度に基づき故障発生と故障予知を行うように機能させることを特徴とする請求項8乃至12のいずれか1項に記載の故障検知・予知用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、故障検知・予知装置及び故障検知・予知用プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
モーターなど軸を中心に動力で回転する装置については、当該装置から発生する音を解析し故障検知・予知を行うことが考えられる。従来の音によって装置の故障検知・予知の手法としては、音の振幅変化を時間方向に並べた波形データを用いて分析することが考えられる。
【0003】
例えば装置からマイクロフォンなどにより音をサンプリングし、縦方向に音データの振幅(パワー(dB))をとり、横方向を時間軸として正規化した信号データは、
図1に示すような波形となる。このように正規化変換した波形データは、装置が故障に近づくにつれて振幅値が大きくなる傾向にはあるが、
図1に見られるように故障検知・予知に結び付く目立った特徴を見出すことができない。つまり、際立った特徴を捉えることはできず、故障検知・予知の判断は容易ではないものであった。
【0004】
特許文献1には、小規模なポンプ・モーター・機械・精密機器の故障予兆を検知する手法が開示されている。具体的には、センサから収集したデータをスペクトログラム生成した後、周波数クラスタと時系列クラスタを抽出し異常があるか分析する。異常判定には、スペクトルデータのパワー総量の所定のしきい値を超えるピークを求め、ピーク分散とピーク均等度合いのロジスティック回帰を行うものである。また、先行文献はIoTゲートウェイ機器を介してクラウド上からデータを分析している。
【0005】
特許文献2には、カバーからモーターなどの破断やクッション部分の摩耗や破損などの異常の発生を予知する方法が開示されている。この方法は、取得した物理量から抽出された特徴量と、異常に関する情報とに基づいた教師あり学習を行うことで異常を推定するものである。この推定方法の特徴量とは、駆動モーター音の波形データの最大値、最小値、平均値、分散値、傾きの物理量の値(時刻や位置)を統計的手法で数値化したものであり、音圧の変化を表す波形データを時間軸で分けFFT処理を行い得られた複数の周波数特性の最大値や平均値を特徴量として用いている。異常の判定には、この特徴量を使用し教師あり機械学習に使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-67197号公報
【文献】特開2018-86715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、この特許文献1の発明では、パワー総量のしきい値を超えるピークを求め、ピーク分散とピーク均等度合いのロジスティック回帰を行うため、処理が煩雑であるという問題がある。上記の特許文献2の発明は、カバーに関する異常という特殊機器に対する異常予測であり、必ずしも汎用性があるものではないという問題がある。更に、機械学習にニューラルネットワークを使用するなど処理が大掛かりとなる虞がある。
【0008】
本発明は上記のような従来の故障検知・予知の技術に関する問題点を解決せんとしてなされたもので、その目的は、汎用性があり構成の簡素化を図ることが期待できる故障検知・予知装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態に係る故障検知・予知装置は、対象装置から、第1の所定時間間隔で、音響信号のサンプリングを複数回行って、この複数回のサンプリングを基礎期間サンプリングとし、この基礎期間サンプリングを第2の所定時間間隔で繰り返し行う音響信号サンプリング手段により得られた音響信号を用いて、前記対象装置の故障検知・予知を行う故障検知・予知装置において、前記基礎期間サンプリング内の各サンプリング毎に音響信号からパワースペクトル密度を求めるパワースペクトル密度算出手段と、前記求めたパワースペクトル密度毎に、中心周波数データ及びまたはパワー分散値データを検査対象データとして求める検査対象データ生成手段と、前記求められた検査対象データの所定期間の時系列データについて統計処理を行って統計処理結果データを求める統計処理手段と、前記統計処理結果データについて閾値と比較して前記対象装置の故障検知・予知を行う比較手段とを具備することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】装置からマイクロフォンなどにより音をサンプリングし、縦方向に音データの振幅(パワー(dB))をとり、横方向を時間軸として正規化した信号データの波形を示す図。
【
図2】本発明の実施形態に係る故障検知・予知装置の機能ブロック図。
【
図3】FFTによる演算結果をスペクトログラムとして示した一例の図。
【
図4】本発明の実施形態により得た周波数分布の中心周波数を検査対象データとした結果を示す図。
【
図5】本発明の実施形態により得たパワー分散を検査対象データとした結果を示す図。
【
図6】本発明の実施形態1により得た統計結果データを示す図。
【
図7】本発明の実施形態2により得た統計結果データを示す図。
【
図8】本発明の実施形態3により得た統計結果データを示す図。
【
図9】本発明の実施形態4により得た統計結果データを示す図。
【
図10】本発明の実施形態5により得た統計結果データを示す図。
【
図11】本発明の実施形態6により得た統計結果データを示す図。
【
図12】本発明の実施形態に係る故障検知・予知装置をコンピュータシステムによって実現した場合のブロック図。
【
図13】本発明の実施形態に係る故障検知・予知装置をコンピュータシステムによる故障検知・予知動作を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下添付図面を参照して、本発明の実施形態に係る故障検知・予知装置及び故障検知・予知用プログラムを説明する。各図において、同一の構成要素には同一の符号を付して重複する説明を省略する。
図2に、本発明の実施形態に係る故障検知・予知装置の機能ブロック図を示す。本発明の実施形態に係る故障検知・予知装置100は、音響信号サンプリング手段110、パワースペクトル密度算出手段120、検査対象データ生成手段130、統計処理手段140、比較手段150を備える。
【0012】
音響信号サンプリング手段110は、対象装置200から、第1の所定時間間隔で、音響信号のサンプリングを複数回行って、この複数回のサンプリングを基礎期間サンプリングとし、この基礎期間サンプリングを第2の所定時間間隔で繰り返し行うものである。上記の第1の所定時間間隔とは、例えば、0.1秒間隔(100ms)とすることができ、複数回は100回とすることができる。つまり、100msのサンプリングを10秒間行うようにすることができる。これが基礎期間サンプリングであり、これを第2の時間間隔として90分間隔で繰り返すようにすることができる。
【0013】
対象装置200は、例えば、モーターなど軸を中心に動力で回転する装置であって、当該装置からは音が発生される。また、音響信号サンプリング手段110には、マイクロフォンなどの収音装置と収音装置により収音して信号化したアナログ信号をコンピュータ処理が可能なようにA/D変換するA/D変換回路などが含まれる。
【0014】
パワースペクトル密度算出手段120は、上記基礎サンプリング内の各サンプリング毎に音響信号からパワースペクトル密度を求める。本実施形態では、100ms毎の音響信号に適宜なハニング窓関数を乗じた信号を作成し、この信号をFFT(fast Fourier transform)処理することにより、パワースペクトル密度(PSD)を算出する。
【0015】
FFTによって周波数スペクトルが時間ごとに得られることから、これを表示する場合には、横軸に時間をとり、縦軸に周波数をとり、スペクトル強度を色の違いなどで表現して表示するのが通例である。これはスペクトログラムと呼ばれている。
図3に、スペクトログラムの一例を示す。この例は、11秒程度に亘って信号の周波数変化を観測した例である。スペクトル強度の変化は右側のバーカタログに示されるように、下端の濃い青色(若しくは、紺色)から上端の薄い黄色まで変化するとして、示したものである。スペクトル強度を「パワー/周波数(dB/Hz)」としてある。この例では、周波数が1kHz~7kHz付近に、緑色に近い黄色の帯状の強度域(60~70dB/Hz)が存在しており、周波数が17kHz付近以上の範囲に、緑色に近い青色の帯状の強度域(100~110dB/Hz)が存在している。
【0016】
検査対象データ生成手段130は、上記求めたパワースペクトル密度毎に、中心周波数データ及びまたはパワー分散値データを検査対象データとして求めるものである。即ち、パワースペクトル密度は、本実施形態では上述の通り100ms毎に求められているから、この100ms毎に中心周波数(周波数分布の中心周波数)データを求め、例えば10秒間(100個)の平均を検査対象データとする。このように10秒間で1つの中心周波数データが求まるので、90分毎の時系列データとなる。このように求められた時系列データを
図4に示す。これは一例であり、原則的には100ms毎の中心周波数(周波数分布の中心周波数)データが検査対象データである。
【0017】
検査対象データ生成手段130は、上記のように10秒間で1つの中心周波数データを求め、及びまたは10秒間で1つのパワー分散値データを求める。即ち、パワースペクトル密度は、本実施形態では上述の通り100ms毎に求められているから、100ms毎のパワースペクトル密度は、横軸を周波数とし縦軸をスペクトル強度とする分布曲線として描くことができる。この100ms毎の分布曲線を求め、強度の分散値(パワー分散値)を求めることができる。このように100msで1つのパワー分散値が求まるので、10秒間で100のパワー分散値が得られ、10秒間の平均を求めると、90分毎に1ずつの時系列のパワー分散値データが並ぶことになる。このように求められたパワー分散値データを
図5に示す。これは一例であり、原則的には100ms毎のパワー分散値データが検査対象データである。
【0018】
<実施形態1>
この実施形態1では、検査対象データ生成手段130は、100ms毎に中心周波数(周波数分布の中心周波数)データを求め、例えば10秒間(100個)の平均を検査対象データとする。統計処理手段140は、上記求められた検査対象データ(ここでは、
図4の90分毎のデータ)について統計処理を行って統計処理結果データを求める。統計データの求め方としては、時間的に前後する検査対象データの差分(例えば、絶対値)を求め、統計処理結果データとする手法を採用することができる。また、時間的に前後する検査対象データの差分(例えば、絶対値)を求め、この差分を時間的に後の検査対象データで除したデータを統計処理結果データとする手法を採用することも可能である。
【0019】
更に、検査対象データを平滑化してから、この平滑化された新検査対象データについて時間的に前後する新検査対象データの差分(例えば、絶対値)を求め、統計処理結果データとする手法を採用することできる。ここに、平滑化としては移動平均を求めるものとすることができ、例えば5回分(90分毎の5回分)のデータの移動平均をとることとする。移動平均の値の時系列データが新検査対象データとなるので、時間的に前後する新検査対象データの差分を求め、これを統計処理結果データとする。この統計処理結果データの時系列を
図6に示す。
【0020】
比較手段150は、上記統計処理結果データについて閾値と比較して上記対象装置200の故障検知・予知を行うものである。上記のように時間的に前後する検査対象データ(新検査対象データ)の差分を計算する実施形態にあっては、その差分の時系列データの中央値(或いは、平均値)を閾値として、閾値以下の場合に正常状態とし、閾値を超える場合を異常状態とする。異常状態の連続回数等をもって、装置の故障と判断することができる。
【0021】
より具体的には、
図6に示す差分の時系列データを統計処理結果データとした場合に、この時系列データの中央値の433Hzを第1閾値とし、この時系列データは図から判るように通常600Hzを超えていないので、この600Hzを第2閾値とする。第1閾値以下を正常とし、第1閾値を超えて第2閾値以下を異常度1とし、第2閾値を超えた場合を異常度2とする。そして、異常度1が単発で生じる場合を偶発故障、異常度1が2回以上連続する場合を劣化故障とし、異常度2が1度以上生じると本故障とする。偶発故障の場合は例えば1か月程度で本故障となる可能性が高いなどと予知し、劣化故障の場合は例えば2週間程度で本故障となるなどと予知し、本故障の場合には装置の稼働を停止し、いずれの場合にも必要なメンテナンスを行うように警告する報知出力を行う。本実施形態及び他の実施形態において、上記各故障までの時間は、実験によりまた実際の対象装置を実際に運転してデータを集め統計的に求めた値やこれらのデータを基に機械学習を行って得た値とし、各実施形態の故障検知・予知装置に備えさせておくものとする。
【0022】
<実施形態2>
この実施形態2においては、音響信号サンプリング手段110、パワースペクトル密度算出手段120の処理は、実施形態1と同じである。検査対象データ生成手段130は、原則通り100ms毎の中心周波数(周波数分布の中心周波数)データを検査対象データとする。統計処理手段140は、上記基礎期間サンプリングに対応する検査対象データの最大値と最小値の差分を求め、この差分を用いて統計処理結果データを得る。本実施形態では上述の通り100ms毎にパワースペクトル密度が求められているから、この100ms毎に中心周波数(周波数分布の中心周波数)データを求め、0.5秒間毎に(5個毎に)最大値と最小値を求め、その最大値と最小値の差分を求める。更に、上記で0.5秒ごとに1個の差分値が求まるから、上記基礎期間の10秒間に20個の差分値を求め、その平均値を統計処理結果データとする。従って、本実施形態では、90分毎に1つの差分値による時系列データが統計処理結果データとなる。この統計処理結果データの時系列を
図7に示す。
【0023】
比較手段150は、上記統計処理結果データについて閾値と比較して前記対象装置200の故障検知・予知を行うものである。具体的には、本実施形態の実験に用いた対象装置200においては、上記差分の値が5000Hz未満であったため、この1/6程度の値である830Hzを第1の閾値とし、第1の閾値の概ね2倍の1500Hzを第2の閾値とした。そして、第1の閾値の830Hz以下の場合を正常値とし、830Hzを超えて1500Hz以下の場合を異常度1、第2の閾値1500Hzを超える場合を異常度2とする。
【0024】
そして、異常度1が連続2回以下で生じる場合を偶発故障、異常度1が連続3回以上で生じる場合を劣化故障とし、異常度2が連続2回以上生じると本故障とする。偶発故障の場合は例えば1か月程度で本故障となる可能性が高いなどと予知し、劣化故障の場合は例えば2週間程度で本故障となるなどと予知し、本故障の場合には装置の稼働を停止し、いずれの場合にも必要なメンテナンスを行うように警告する報知出力を行う。
【0025】
<実施形態3>
この実施形態3においては、音響信号サンプリング手段110、パワースペクトル密度算出手段120の処理は、実施形態1及び実施形態2と同じである。検査対象データ生成手段130は、原則通り100ms毎の中心周波数(周波数分布の中心周波数)データを検査対象データとする。統計処理手段140は、上記基礎期間サンプリング毎に求められた検査対象データについて統計処理を行ってその基礎期間毎の閾値を求め、統計処理を行って統計処理結果データを求める。閾値は、基礎期間サンプリング毎に求められた検査対象データの中央値の平均を求めることにより得るものとする。上記統計処理手段140は、前記基礎期間サンプリングに対応する検査対象データの中央値の平均値を上記の閾値として求め、この平均値に対して上記基礎期間サンプリングに対応する検査対象データの値が上回った或いは下回った回数を求め、この回数を統計処理結果データとする。本実施形態では、上記基礎期間の10秒間に閾値を上回った回数が求められ、これが統計処理結果データとなる。
【0026】
具体的には、本実施形態の実験に用いた対象装置200においては、上記上回り回数が3回を第1の閾値とし、第1の閾値の概ね2倍の5回を第2の閾値とした。そして、第1の閾値の3回未満の場合を正常値とし、3回以上で5回以下の場合を異常度1、第2の閾値である5回を超える場合を異常度2とする。
【0027】
そして、異常度1が連続2回以下で生じる場合を偶発故障、異常度2が3回連続する場合を劣化故障とし、異常度2が連続4回以上生じると本故障とする(
図8)。偶発故障の場合は例えば1か月程度で本故障となる可能性が高いなどと予知し、劣化故障の場合は例えば2週間程度で本故障となるなどと予知し、本故障の場合には装置の稼働を停止し、いずれの場合にも必要なメンテナンスを行うように警告する報知出力を行う。
【0028】
<実施形態4>
この実施形態4では、検査対象データ生成手段130は、100ms毎にパワー分散値データを求め、例えば10秒間(100個)の平均を検査対象データとする。統計処理手段140は、上記基礎期間サンプリング毎に求められた検査対象データ(
図5のデータ)について統計処理を行って統計処理結果データを求める。上記実施形態1、実施形態2及び実施形態3では、中心周波数(周波数分布の中心周波数)データを検査対象データとしたが、本実施形態4では、パワー分散値データが検査対象データである。
【0029】
本実施形態では検査対象データを平滑化してから、この平滑化された新検査対象データについて時間的に前後する新検査対象データの差分(例えば、絶対値)を求め、統計処理結果データとする手法を採用することできる。ここに、平滑化としては移動平均を求めるものとすることができ、例えば5回分のデータの移動平均をとることとする。移動平均の値の時系列データが新検査対象データとなるので、時間的に前後する新検査対象データの差分を求め、これを統計処理結果データとする。この統計処理結果データの時系列を
図9に示す。
【0030】
比較手段150は、上記統計処理結果データについて閾値と比較して上記対象装置200の故障検知・予知を行うものである。上記のように時間的に前後する検査対象データ(新検査対象データ)の差分を計算する実施形態にあっては、その差分の時系列データの中央値(或いは、平均値)を閾値として、閾値以下の場合に正常状態とし、閾値を超える場合を異常状態とする。異常状態の連続回数等をもって、装置の故障と判断する。
【0031】
より具体的には、
図9に示す差分の時系列データの場合に、中央値の0.15を第1閾値とし、図から判るように通常は当該時系列データは0.6を超えていないので、この0.6を第2閾値とする。第1閾値以下を正常とし、第1閾値を超えて第2閾値以下を異常度1とし、第2閾値を超えた場合を異常度2とする。そして、異常度1が単発で生じる場合を偶発故障、異常度1が2回以上連続する場合を劣化故障とし、異常度2が1度以上生じると本故障とする。偶発故障の場合は例えば1か月程度で本故障となる可能性が高いなどと予知し、劣化故障の場合は例えば2週間程度で本故障となるなどと予知し、本故障の場合には装置の稼働を停止し、いずれの場合にも必要なメンテナンスを行うように警告する報知出力を行う。
【0032】
<実施形態5>
本実施形態5においても、パワー分散値データが検査対象データである。本実施形態において、統計処理手段140は、上記基礎期間サンプリング毎に求められた検査対象データについて統計処理を行って統計処理結果データを求める。また、上記本実施形態においても第4の実施形態と同様に、パワー分散値データが検査対象データである。検査対象データ生成手段130は、原則通り100ms毎のパワー分散データを検査対象データとする。
【0033】
本実施形態の統計処理手段140は、上記基礎期間サンプリングに対応する検査対象データの最大値と最小値の差分を求め、この差分を統計処理結果データとする。本実施形態では上述の通り100ms毎にパワースペクトル密度が求められているから、この100ms毎にパワー分散データを求め、0.5秒間毎に(5個毎に)最大値と最小値を求め、その最大値と最小値の差分を求め検査対象データとする。本実施形態では、0.5秒ごとに1個の差分値が求まるから、上記基礎期間の10秒間に20個の差分値が求められ、これが統計処理結果データとなる。この統計処理結果データの時系列を
図10に示す。
【0034】
比較手段150は、上記統計処理結果データについて閾値と比較して上記対象装置200の故障検知・予知を行うものである。具体的には、本実施形態の実験に用いた対象装置200においては、上記パワー分散値の差分の値が0.5未満であったため、この値0.5からマージン分を差し引いた0.3を第1の閾値とし、この第1の閾値の概ね6倍の1.9を第2の閾値とした。そして、第1の閾値の0.3以下の場合を正常値とし、0.3を超えて1.9以下の場合を異常度1、第2の閾値1.9を超える場合を異常度2とする。
【0035】
そして、異常度1が1回生じる場合を偶発故障、異常度1が2回以上で連続する場合を劣化故障とし、異常2が連続2以上生じると本故障とする。偶発故障の場合は例えば1~3か月程度で本故障となる可能性が高いなどと予知し、劣化故障の場合は例えば2週間程度で本故障となるなどと予知し、本故障の場合には装置の稼働を停止し、いずれの場合にも必要なメンテナンスを行うように警告する報知出力を行う。
【0036】
<実施形態6>
統計処理手段140は、上記基礎期間サンプリング毎に求められた検査対象データについて統計処理を行ってその基礎期間毎の閾値を求め、統計処理を行って統計処理結果データを求める。また、上記本実施形態においても第4、第5の実施形態と同様に、パワー分散値データが検査対象データである。閾値は、基礎期間サンプリング毎に求められた検査対象データの中央値の平均を求めることにより得るものとする。上記統計処理手段140は、前記基礎期間サンプリングに対応する検査対象データの中央値の平均値を上記の閾値として求め、この平均値に対して上記基礎期間サンプリングに対応する検査対象データの値が上回った或いは下回った回数を求め、この回数を統計処理結果データとする。本実施形態では、上記基礎期間の10秒間に閾値を上回った回数が求められ、これが統計処理結果データとなる。
【0037】
具体的には、本実施形態の実験に用いた対象装置200においては、上記上回り回数が3回を第1の閾値とし、第1の閾値の概ね2倍の7回を第2の閾値とした。そして、第1の閾値の3回未満の場合を正常値とし、3回以上で7回以下の場合を異常度1、第2の閾値である7回を超える場合を異常度2とする。
【0038】
そして、異常度1が連続2回以下で生じる場合を偶発故障、異常度2が3回連続する場合を劣化故障とし、異常度2が連続4回以上生じると本故障とする(
図11)。偶発故障の場合は例えば1か月程度で本故障となる可能性が高いなどと予知し、劣化故障の場合は例えば2週間程度で本故障となるなどと予知し、本故障の場合には装置の稼働を停止し、いずれの場合にも必要なメンテナンスを行うように警告する報知出力を行う。
【0039】
以上の実施形態は、いずれか1つが採用されて故障検知・予知装置とされるだけではなく、2つ以上の実施形態を採用した故障検知・予知装置とすることができる。2つ以上の実施形態を採用した故障検知・予知装置における故障検知・予知においては、検査対象データとして中心周波数データ及びまたはパワー分散値データのいずれを用いたのか、どの様な手法で検知・予測を行ったのかについて、結果と共に報知するようにすることができる。
【0040】
以上の各実施形態では、故障検知・予知装置が音響信号サンプリング手段110を備えているが、音響信号サンプリング手段110は他の装置が備え、この音響信号サンプリング手段110が得た音響信号を用いて故障検知・予知を行うようにしても良い。また、上記において検知・予知に用いた偶発故障、劣化故障、本故障の区分と用語は一例過ぎず、故障を二段階、四段階以上に分けて適宜な名称を用いて検知・予知を行っても良い。斯くして、本実施形態は、軸を中心に動力で回転する物音の故障検知・予知に汎用的に利用できる。また、本実施形態は、判定対象を特定した固有のアルゴリズムを必要とせず汎用可能な特徴量判定方式を提供することができる。
【0041】
本発明の実施形態に係る故障検知・予知装置は、
図12に示されるようなパーソナルコンピュータ、サーバコンピュータ、その他のコンピュータシステムによって実現することができる。即ち、本システムはCPU30を中心とするものであって、CPU30に接続された主メモリ31に格納されている各種のプログラムやデータをCPU30が用いて各部を制御して故障検知・予知装置を実現する。
【0042】
CPU30からはバス32が延びており、バス32には、外部記憶インタフェース33、表示インタフェース35、入力インタフェース34、I/Oポート36が接続されている。外部記憶インタフェース33には、外部記憶装置330が接続されており、外部記憶装置330には、主メモリ31に読み出して実行するプログラムや各種のデータなどが記憶されている。表示インタフェース35には、LEDやLCDなどの表示装置350が接続され、表示装置350には各種の情報が表示される。
【0043】
入力インタフェース34には、キーボードなどの入力装置341やポインティングディバイス342などが接続され、各種の情報の入力が可能となっている。I/Oポート36には、音響センサ360等が接続されている。そして、音響センサ360は、対象装置200から音響信号を取り込む。I/Oポート36はA/D変換回路を備えており、対象装置200から、第1の所定時間間隔で、音響信号のサンプリングを複数回行って、この複数回のサンプリングを基礎期間サンプリングとし、この基礎期間サンプリングを第2の所定時間間隔で繰り返し行うことが可能である。
【0044】
本来上記
図12のシステムにはFFT処理を行うシグナルプロセッサなどを含むものであるが、ここでは構成の図示を省略し、CPU30が処理を行うものとして説明する。また、本実施形態では、I/Oポート36がA/D変換回路を備えており、対象装置200から、第1の所定時間間隔で、音響信号のサンプリングを複数回行って、この複数回のサンプリングを基礎期間サンプリングとし、この基礎期間サンプリングを第2の所定時間間隔で繰り返し行う構成を採用するが、この音響信号は他の装置で得ておき、この音響信号を用いて故障検知・予知を行うようにしても良い。
【0045】
上記
図12のシステムでは、
図13に示すフローチャートのプログラムにより故障検知・予知を行う。即ち、CPU30は、I/Oポート36を制御して、対象装置200から、第1の所定時間間隔で、音響信号のサンプリングを複数回行って、この複数回のサンプリングを基礎期間サンプリングとし、この基礎期間サンプリングを第2の所定時間間隔で繰り返し行う(S11)。次に、CPU30はパワースペクトル密度算出手段として、上記基礎サンプリング内の各サンプリング毎に音響信号からパワースペクトル密度を求める(S12)。
【0046】
パワースペクトル密度が算出されると、CPU30は検査対象データ生成手段として、上記で求めたパワースペクトル密度毎に、中心周波数データ及びまたはパワー分散値データを検査対象データとして求める(S13)。次に、CPU30は統計処理手段として、上記求められた検査対象データの所定期間の時系列データについて統計処理を行って統計処理結果データを求める(S14)。この統計処理結果データは、上記の実施形態1~6等の実施形態において説明した如きデータである。
【0047】
更に、CPU30は比較手段として、上記統計処理結果データについて閾値と比較して上記対象装置200の故障検知・予知を行う(S15)。即ち、上記実施形態1~6において説明した如く、故障をいくつかの段階に分け、その後の故障までの期間などを検知予知して必要なメンテナンスの報知を表示装置350において行うことができる。
【符号の説明】
【0048】
30 CPU 31 主メモリ
32 バス 33 外部記憶インタフェース
35 表示インタフェース 34 入力インタフェース
36 I/Oポート 100 故障検知・予知装置
110 音響信号サンプリング手段 120 パワースペクトル密度算出手段
130 検査対象データ生成手段 140 統計処理手段
150 比較手段 200 対象装置
330 外部記憶装置 341 入力装置
342 ポインティングディバイス 350 表示装置
360 音響センサ