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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-12
(45)【発行日】2022-10-20
(54)【発明の名称】一方向凝固装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 27/04 20060101AFI20221013BHJP
   B22D 21/00 20060101ALN20221013BHJP
【FI】
B22D27/04 C
B22D21/00 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021200422
(22)【出願日】2021-11-18
(62)【分割の表示】P 2021067999の分割
【原出願日】2021-02-24
(65)【公開番号】P2022130287
(43)【公開日】2022-09-06
【審査請求日】2021-11-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】595086982
【氏名又は名称】株式会社エビス
(72)【発明者】
【氏名】戎 嘉男
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/126114(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0127032(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0290896(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0132906(US,A1)
【文献】Yuanyuan Lian et al.,Static solid cooling: A new directional solidification technique,Journal of Alloys and Compounds,ELSEVIER,2016年,vol.687,pp.674-682,http://dx.doi.org/10.1016/j.jallcom.2016.06.165
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 27/00-27/20
B22C 5/00-9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一結晶組織(SX材と称す)または多結晶柱状デンドライト組織(DS材と称す)または前記SXと前記DSの混合組織から成る結晶組織を有する鋳物またはインゴットを製造するための一方向凝固装置において、鋳型を加熱・保温する加熱領域と鋳型を冷却する強冷却領域、及びこれら両域を熱的に分離・遮断する断熱領域を一つのchamber内に収め、このchamber内には、
前記鋳物またはインゴットを鋳造するための前記鋳型と、
前記鋳型の底部に設置され凝固を開始するための冷却チルと、
前記鋳型を加熱・保温するための摺動式抵抗加熱主ヒーターと、
前記主ヒーターを支持し外部への熱放射を遮断するための断熱スリーブと、
前記鋳型を冷却するための鋳型冷却手段としての鋳型冷却ガスノズルと、
前記鋳型冷却手段の上部に近接配置される断熱手段としての断熱バッフルと、
を備え、
前記断熱バッフルと前記鋳型冷却ガスノズルは同期・一体的に上下動できる構成とし、
前記主ヒーターは前記断熱スリーブの内面に取り付けられて支持されており、
また、前記主ヒーターは前記鋳型全体を包含して配されており、
前記主ヒーターと前記断熱スリーブには、前記断熱スリーブの外側に設けた冷却ガス導入パイプと、この冷却ガス導入パイプに繋がり、前記主ヒーターの内側に設けられた前記冷却ガスノズルを上下動させるために必要な通路を設け、
前記主ヒーターに繋がる摺動接触端子を前記主ヒーターの上下方向、各周毎に前記断熱スリーブの外側に設けてあり、また、この前記摺動接触端子に摺動接触する摺動ブラシを設けて、
前記主ヒーターの上端-前記摺動ブラシ間を通電区間とすることにより前記通電区間を可変可能な構成としており、且つこの摺動ブラシは前記断熱バッフルと前記鋳型冷却ガスノズルと同期・一体的に上下動が可能な構成となっており、
操業開始時には前記摺動ブラシと前記断熱バッフルと前記鋳型冷却ガスノズルは前記鋳型の下端に位置させ、前記通電区間に電力を供給して前記鋳型を金属材料の融点以上の所定の温度に加熱・保温し前記金属材料の溶解・鋳造の後、前記断熱バッフルと前記鋳型冷却ガスノズルと同期・一体的に上下動可能な前記摺動ブラシを所定の速度で上方に移動させることにより加熱・保温領域を縮小させつつ、前記断熱バッフル直下に位置する前記鋳型冷却ガスノズルに冷却ガスを供給することにより前記鋳物または前記インゴットの一方向凝固を行う構成とすることを特徴とする一方向凝固装置。
【請求項4】
単一結晶組織(SX材と称す)または多結晶柱状デンドライト組織(DS材と称す)または前記SXと前記DSの混合組織から成る結晶組織を有する鋳物またはインゴットを製造するための一方向凝固方法において、鋳型を加熱・保温する加熱領域と前記鋳型を冷却する強冷却領域、及びこれら両域を熱的に分離・遮断する断熱領域を一つのchamber内に収め、
溶融金属を鋳型に鋳込んで凝固させる過程において、前記鋳型を加熱・保温する方法は前記加熱領域の上端に固定した位置と上下動可能とした下端の間の区間を通電区間として前記加熱領域を抵抗加熱・保温するに際して、前記通電区間を縮小可変するとともに前記強冷却領域に対しては前記鋳型の側面に対し不活性ガスを噴射し冷却するようにし、操業開始時、前記通電区間は前記鋳型の側面全域を囲んで鋳型を所定の温度に加熱・保温し、時間の経過につれて前記通電区間の下端側所定の速度で上端に向けて移動させることにより前記加熱領域を縮小させるとともに、前記断熱領域直下の前記冷却領域を前記強冷却により冷却しつつ前記所定の速度で上端に向けて移動・拡大させることにより、前記鋳型に鋳込んだ溶融金属を凝固させることを特徴とする一方向凝固方法。
【請求項6】
請求項4における前記鋳型には高熱伝導性を有するグラファイトと断熱性を有する断熱材の層を高さ方向に交互に積層した鋳型を用いることを特徴とする一方向凝固方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋳造技術に関わるものであって、特に多結晶粒から成る柱状デンドライト組織(DS材と称す)、単一粒から成るデンドライト組織(Mono-crystalあるいはSX材と称す)を有する鋳物及びインゴットの製造における改良を図った一方向凝固装置及び一方向凝固方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
DS材やSX材の典型的な製造方法として従来よりブリッジマン(Bridgeman)法、リキッドメタルクーリング(Liquid Metal Cooling)法、ガスクーリングキャスティング(Gas Cooling Casting)法が知られている。以下、その概要を説明する。
【0003】
Bridgeman法
典型的なBridgeman法(本明細書においてStandard Bridgeman、標準ブリッジマン法と称す)による一方向凝固装置は加熱炉、冷却chamber、鋳型を加熱炉から冷却chamberへ引き出すための引出機構、加熱炉と冷却chamberを分離する断熱バッフル、凝固を開始するための冷却チルから構成される(例えば非特許文献1参照、また本願明細書の図1に示す)。鋳型は抵抗加熱ヒーターあるいは誘導加熱により溶融温度以上に予熱され、溶融金属を鋳込んだ後、所定の速度で冷却chamberへ引出される。鋳型は冷却チル上にセットされチルへの熱伝導により凝固を開始するが、チルによる冷却効果の及ぶ範囲は小さく、大型鋳物になるとほぼセレクタ(図1参照、SX組織を得るための凝固の道筋)の範囲に限られる(例えば、非特許文献2、Konter et al参照)。鋳物は冷却chamberにおける鋳型側面からの輻射冷却によって凝固する。輻射による冷却能はかなり小さくこのためフレックル(マクロ偏析欠陥の一種でタービン翼の早期破損の原因となる)あるいは異方位結晶欠陥(misoriented grain defects)等の鋳造欠陥が生じやすいという欠点がある(例えば非特許文献1のp.321参照)。
【0004】
Liquid Metal Cooling法(以下LMC法と称す)
標準ブリッジマン法における上述の欠点を解消するため、冷却領域において放射冷却によるのではなく、低融点材料による溶融金属浴に浸漬することによって冷却する方法(以降Liquid Metal Cooling,略してLMC法と呼ぶ)が考案された。当該LMC法は、鋳型の引出過程において当該鋳型を錫あるいはアルミニウム等の低融点材料による溶融金属浴中に徐々に浸漬させることにより冷却能を高めつつ鋳型冷却を行い、一方向凝固させるものである(図面は省略する)。
【0005】
例えばUS Patent 6,276,433B1(2001)(特許文献1)は冷却金属浴の媒体としてAl共晶合金を用いている。さらにElliottら(非特許文献3)は冷却媒体としてさらに融点の低い溶融Snを用いることにより、凝固時の冷却速度を大きくしNi基合金タービンブレードの品質改善を図ることができることを示した。また、Liuら(非特許文献4及び非特許文献5)は当該LMC法を採用し、結晶組織を微細化し、一方向凝固Ni基超合金の高温クリープ強度を高めることができることを示した(例えば、1050℃、160Mpaのクリープ破断時間が84hrsから131hrsへ約2倍に伸びた。非特許文献5参照)。
【0006】
Gas Cooling Casting法(以下、GCC法と称す)
GCC法は、冷却領域において引出した鋳型の冷却能を高めるべく不活性ガス(アルゴン、ヘリウム等)で冷却するようにしたガス強制冷却方式を採用した技術である(非特許文献2及び特許文献2参照)。すなわち、図1において加熱領域と冷却領域とを熱的に分離するために設けられている断熱バッフルの直下に冷却ガス吹き付け用の冷却ガス噴出ノズルを配置し、一方向凝固の作業期間中、冷却ガスを鋳型に吹き付けて冷却するものである(図面は省略する)。冷却ガスは冷却ガス循環ポンプシステムにより循環・冷却される。上記文献によれば、LMC法に匹敵またはそれ以上の冷却能を得ることができると述べている。
【0007】
しかしながら、LMC法あるいはGCC法においても不可避的に存在する液相及び固液共存相(所謂mushy zone)における有害な液相の流れ(流れの乱れ)を無くすことはできずフレックル等のマクロ偏析あるいは異方位結晶欠陥を完全になくすことは困難である。実際、発電用大型単結晶ブレードの鋳造歩留りは極めて低く実用化されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】US Patent 6,276,433B1(2001)
【文献】US Patent 5921310(Filed Sep.26,1997)
【非特許文献】
【0009】
【文献】ASM Handbook,Vol.15,Casting(1988),p.320,Fig.3あるいはp.321,Fig.4
【文献】M.Konter,et al:“A Novel Casting Process for Single Crystal Gas Turbine Components”,Superalloy 2000,TMS 2000,p.189
【文献】A.J.Elliot et al:“Directional Solidification of Large Superalloy Castings with Radiation and Liquid-Metal Cooling”,Metallurgical and Materials Transactions A,Vol.35A,Oct.,2004,pp3221-3231
【文献】Lin Liu,et al:“The Effects of Withdrawal and Melt Overheating Histories on the Microstructure of a Ni-based Single Crystal Superalloy”,TMS Superalloy 2008,pp287-293
【0010】
【文献】Lin Liu,et al:“High Thermal Gradient Directional Solidification and its Application in the Processing of Ni-based Superalloys”,J.Materials Processing Technology 210(2010),pp159-165
【文献】Y.Ebisu:’A Numerical Method of Macrosegregation Using a Dendritic Solidification Model,and Its Applications to Directional Solidification via the use of Magnetic Fields’,Metallurgical and Materials Transactions B,vol.42b(2011),pp341-369
【文献】M.C.Flemings:”Solidification Processing”,McGraw-Hill,Inc.,(1974)
【文献】P.C.Carman:Trans.Inst.Chem.Eng.,Vol.15(1937),p.150
【文献】Y.Lian,et al:‘Static Solid Cooling:A new directional solidification technique’,J.Alloys and Compounds,Vol.687(2016),pp.674-682
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
DS材あるいはSX材一方向凝固鋳物あるいはインゴットの製造において標準的なBridgeman法に比べて冷却能を高めた上記LMC法あるいはGCC法を適用してもフレックル等のマクロ偏析あるいは異方位結晶などの鋳造欠陥を本質的に解消することは難しい。特にサイズの大きい発電用単結晶ブレードになると鋳造歩留りは極めて低くなり実用化されていないのが現状である。その理由は、後ほど実施例で述べるごとく、液相領域において不可避的に存在する横方向温度勾配によって対流を生じ、凝固界面にヒートパルスをもたらし、固液共存相(mushy zone)の形に影響を及ぼしmushy zoneにおける液相の流動パターン(flow pattern)を乱す。その結果マクロ偏析を生ずる。さらに、デンドライトの枝が分離され異方位結晶の種になる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これら従来法による上記課題を解決するため、固相領域を強冷することによりマクロ偏析の原因となる固液共存相中の有害な横方向液相流れを軽減することができる。この知見は後述する凝固シミュレーションによって理論的・定量的に初めて裏付けられた現象であり、本発明の重要なポイントとなる。これによりマクロ偏析あるいは不整方位結晶欠陥を低減することができる。
【0013】
このための手段として、本明細書において新しい一方向性凝固方法を提案する。その概要を図2に示す。本願発明装置は溶融金属2で満たされた鋳型1、該鋳型の底部に配置された冷却チル3、該鋳型の側面を囲むように定位置に配置された鋳型加熱用の主ヒーターとなる抵抗加熱ヒーター5及び移動式で比較的小領域の範囲を対象にした鋳型加熱用の副ヒーター10及び鋳型1への冷却ガス吹き付け用の移動式冷却ガスノズル15から成る。
【0014】
前記副ヒーター10及び移動式冷却ガスノズル15はリング状であり、これらは一体的に且つ、鋳型1に対して同軸的に、冷却チル3側から上端側へ移動できる構成としてある。前記移動式冷却ガスノズル15は鋳型外周に対して冷却ガスを斜め下方に吹き付けることができる構成である。副ヒーター10と冷却ガスノズル15の間に断熱バッフル13を配置する。前記抵抗加熱ヒーター5は、一例として図2(b)に示すごとく帯状の抵抗加熱体を周方向にほぼ一周巻いては立上げ、逆方向にほぼ一周巻くことを繰り返すことにより成形される。これによりスリット状のギャップが形成され、このギャップを通じて冷却ガス導入パイプ14、断熱バッフル13及び副ヒーター10の上下動を可能にしている。
【0015】
加熱ヒーター5は、たとえばカーボングラファイトなどの抵抗発熱体で作られており筒状の断熱スリーブ6の内側に取り付けられる。また、この断熱スリーブ6の外側には抵抗加熱主ヒーター5に繋がる摺動接触端子7が設けられており、最上端の摺動接触端子7と現在位置における摺動接触端子7に摺動接触できるようにしたブラシ8を通じて該ヒーター5に電力を供給できる仕組みとなっている。
本明細書において上記の加熱方法を摺動抵抗加熱法と称する。
【0016】
操業開始時、前記ブラシ8は最下端に位置させ、前記抵抗加熱主ヒーター5は上から下まで全領域に亘り発熱・保温することになる。そして、操業の進行とともに前記ブラシ8を前記冷却ガスノズル15及び前記副ヒーター10と同期・所定の速度で上方向に摺動させる。これにより、前記抵抗加熱主ヒーター5は前記ブラシ8の現在位置から上端までの区間が通電区間となり、加熱状態に保持され、前記ブラシ8の現在位置から下端までの区間は、電力を受けられず冷却ゾーンとなる。すなわち、時間の経過とともに加熱・保温領域は縮小し冷却領域は拡大して行く。そして、最終的に加熱領域は消滅し、全てが冷却領域となって操業を終了する。
【0017】
図3は当該装置を組み込んだ装置全体の概略図である。
9は主ヒーター電源であり上端接触端子とブラシ8を通じて電力を供給する。副ヒーター用銅ケーブル11は、前記副ヒーター用電源12と前記副ヒーター10とを繋いで電力供給するための電源ケーブルである。18は真空ポンプである。
【0018】
冷却ガス循環ポンプシステム17は冷却ガスを冷却ガス導入パイプ14を介して冷却ガスノズル15に供給し、吸込口16は前記加熱炉外筒19内に吹き出された冷却ガスを循環利用するための吸気口であり、冷却ガス循環ポンプシステム17にパイプで繋がっていて炉内部に吹き出された冷却ガスがこの冷却ガス循環ポンプシステム17により吸引/フィルタリング/冷却/供給/吸引と言う経路を辿って循環されて冷却領域での鋳型冷却に供される構成である。尚、誘導溶解炉21を収納する溶解室と鋳型1を収納する鋳型室は分離できる構成となっており、操業終了後両室を分離して鋳型1を取り出せる構造となっている(簡単のため示さず)。
以後、当該一方向凝固法を摺動抵抗加熱-GCC法(Sliding Resistor Heating-Gas Cooling Casting,略して、SRH_GCC法)と称す。
【発明の効果】
【0019】
本発明では次のような効果が得られる。
(1)凝固中、固液共存相における横方向の流れが低減される。その結果、マクロ偏析が改善されるとともに、異方位結晶欠陥が生じ難くなる。[mushy zone中の液相流れが軸方向に整流化するとマクロ偏析を生じないことはよく知られている(例えば、非特許文献7のp.252,Fig.7-35参照)]
【0020】
(2)また、後述の実施例で述べるごとく、引出速度に対応する摺動ブラシの移動速度を上げることにより生産性を上げることができる。
【0021】
(3)標準ブリッジマン法に比べてはるかに大きい冷却能が得られるので段落0005で述べたごとく微細な結晶組織を得ることが可能となり、Ni基超合金ブレードの溶体化処理に要する加熱時間を大幅に短縮できるという経済的効果を生む。また、クリープ破断強度の高い製品を作ることが可能となる(上述の非特許文献5参照)。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1はブリッジマン法による一方向凝固装置を示す図である。
図2図2は本発明の摺動抵抗加熱法による一方向凝固装置の概要を示す図である(SRH_GCC法と称す)。
図3】摺動抵抗加熱法(SRH_GCC法と称す)の応用例を示す概略図である。真空容器22、誘導溶解炉21、冷却ガス循環システム17を示す。
図4図4は標準ブリッジマン法及びSRH_GCC法(摺動ブラシ移動速度40cm/h)によるIN718ブレードの偏析標準偏差を示す図である(各元素の標準偏差(表5)をそれぞれの元素の初期濃度で正規化した)。
図5図5は標準ブリッジマン法及びSRH_GCC法(摺動ブラシ移動速度40cm/h)によるIN718ブレードのDAS分布を示す図である(横断面中心Z方向)。注:底面ダミーチルの厚さ0.15cm(表4より)。
【0023】
図6図6は標準ブリッジマン法及びSRH_GCC法(摺動ブラシ移動速度40cm/h)によるIN718ブレードのNb分布を示す図である(横断面中心Z方向)。注:底面ダミーチルの厚さ0.15cm(表4より)。
図7図7はStatic Solid Cooling法の概略図(非特許文献9参照)である。
図8図8は本発明のSRH_GCC法による一方向凝固装置にStatic Solid Cooling法による鋳型を採用した概略図である(ただし、加熱及び冷却手段は本願発明手段による)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本願発明は標準ブリッジマン法に比べて凝固時の冷却速度を高めることにより凝固組織を微細化するとともに、マクロ偏析あるいは異方位結晶などの鋳造欠陥を低減するようにした。
また、本願発明は、加熱領域、強冷却領域、及び断熱領域を一つのchamber内に収めるようにし、加熱領域を縮小可変できるようにしたことにより、装置を簡略・小型化できるようにした技術であり、制作コスト及びランニングコストを大幅に低減できるものと期待される。すなわち、通常のブリッジマン法の場合(図1参照)、装置全体の高さは鋳型の高さの大略3倍(加熱領域+冷却領域+鋳型引出し装置)となるのに対して本発明の場合装置全体の高さは、大略鋳型の高さに小型化できる。
【実施例
【0025】
A.マクロ偏析形成のメカニズムについて
フレックル偏析をはじめとする種々のマクロ偏析は固液共存相における液相の流動に起因することはよく知られている。この流動を生ぜしめる駆動力として、凝固収縮、デンドライト間液相の密度差による対流、電磁力等外部からの力がある。
及び温度Tの函数として表されることから
【数1】
で与えられる(表2中の液相密度計算式参照)。
【0026】
凝固の進行につれてρが減少する合金を浮上型合金、逆にρが増す合金を沈降型合金と呼ぶ。浮上型合金となるかまたは沈降型合金となるかあるいはこれらの混合型合金(液相密度が凝固の進行とともに減少し再び増加するあるいはその逆となる合金)となるかは合金成分によって決まる。Ni-10wt%Alは浮上型合金、IN718は沈降型合金である(非特許文献6のFig.13参照)。マクロ偏析は本来浮上型/沈降型に限らず鋳造条件によって様々な形態を呈するものである。
【0027】
また、対流によるヒートパルスによってデンドライトの溶断・分離(grain multiplication mechanismと呼ばれる。非特許文献7のp.154参照)を生じデンドライト成長が破れ、そこからランダムな方位を有する異方位結晶欠陥を生じやすくなる。
【0028】
B.凝固解析手段
凝固現象を解析するために本発明者が開発した汎用凝固シミュレーションシステム(システム名CPRO)による数値解析方法の概要を以下に述べる。
凝固現象を記述するための物理変数は温度、凝固中液相及び固相中に再分配される元素の濃度(合金元素数分、n個とする)、温度と固相率の関係を与える液相温度、液相及び固液共存相における液相の流速(3つのベクトル成分)及び圧力によって与えられる。これらを本明細書では巨視的スケールにおける物理変数と呼ぶ。これらn+6個の物理変数に対応する支配方程式を表1に示す。
【表1】
【0029】
固液共存相における流れはDarcyの式(2)によって記述されることが知られている(非特許文献7のp.234参照)。Darcy流れ現象は表1の運動方程式中に流動抵抗項として含まれている。
【数2】
ここに、ベクトルvはデンドライト間の液相流れ速度、μは液相の粘度、gは液相の体積率、Kは透過率、Pは液相の圧力、Xは重力、遠心力等の物体力ベクトルである。Kはデンドライトの幾何学的構造によって決まりKozney-Carmanの式(非特許文献8参照)より次式で与えられる。
【0030】
【数3】
はデンドライト結晶の単位体積あたりの表面積(比表面積)であり、デンドライトの成長時における形態解析(本明細書において微視的スケールと呼ぶ)により求められる。すなわち、凝固は液相及び固相における一種の拡散律速過程であることからデンドライトを円柱形の枝及び幹と半円球の先端部からなるモデル化を行い固相及び液相における溶質の拡散方程式を解いて求めた。尚、デンドライトの方向によるKの異方性はないものと仮定した。無次元定数fは多孔質媒体中の流動実験により5の値を持つことがわかっている。
【0031】
以上、巨視的スケールにおける物理変数はすべて相互作用を有しており、さらに微視的スケールにおけるデンドライト成長とも深く関わっている(すなわち連成している)ので繰返し収束計算を行った。本数値解析法については本発明者の論文(非特許文献6)において詳細に記述されている。
【0032】
【表2】
【0033】
実施例:IN718合金短尺ブレード
次に、IN718短尺ブレードに対して標準ブリッジマン法(R=15cm/h)及び摺動抵抗加熱-GCC法(SRH_GCC法)(R=40cm/h)を適用した場合のシミュレーションについて説明する。表2にIN718の物性値、表3に標準ブリッジマン法による鋳造パラメータ、及び表4に本発明のSRH_GCC法による鋳造パラメータを示す。計算の準備として予備的計算を行い、固液共存相(mushy zone)が断熱バッフルとほぼ同じ水平位置になるよう鋳造パラメータを調整した。標準ブリッジマン法の場合引出速度R=15cm/h、SRH_GCC法の場合R=40cm/h(及びHGCC=600W/(m・K))とした。
【0034】
【表3】
【0035】
【表4】
【0036】
計算結果
計算結果を表5(a)及び(b)にまとめて示す。
【表5(a)】
【表5(b)】
【0037】
偏析の程度を表す指標として各合金元素の標準偏差σ(wt%)(各要素の合金濃度と平均濃度値との差の2乗和の平方根)を用いた。σが大きいほど合金元素の変動、すなわちマクロ偏析の程度が大きいことを示す。
表5(a)より、SRH_GCC法では各合金元素の標準偏差は標準ブリッジマン法に比べて半減していることから、凝固界面前方におけるthermal fluctuationはあるものの、固液共存相における液流の整流化がかなり促進されていることがわかる。
表5(b)に標準偏差の最少、最大、及び平均値を示す。SRH_GCC法では最少-最大の幅が小さくなっているのがわかる。
各合金元素の正規化標準偏差(元素間の相対値を見やすくするためσをC0で正規化した)に及ぼすSRH_GCC法の効果を図4に示す。図4より引出し速度を15cm/hから40cm/h(摺動ブラシの移動速度)へ上げ、強冷(Hgcc=600W/m2/K)すると標準偏差は大幅に小さくなる(No.1→No.8への変化)。すなわちマクロ偏析は大幅に改善される。
【0038】
凝固界面の移動速度を15cm/hから40cm/hに上げると(No.1とNo.8の比較)、σが減少するのはMushy zone中のflow patternの乱れが減少するためである。しかしながら凝固界面前方のThermal fluctuationはそれぞれ±20℃(No.1)及び±23℃(No.8)のオーダーであり、顕著な対流を生じている(1/2凝固時・肉厚方向中心(Y,Z)断面)。
【0039】
図5にそれぞれのプロセスに対するDASの比較を示す(XY横断面中心位置におけるZ方向分布)。No.1(標準ブリッジマン法、15cm/h)の場合DAS≒180μに対して、No.8(SRH_GCC法、40cm/h、HGCC=600W/(m・K))、では115~120μへ微細化しており、且つ変動巾も20μmから5μmのオーダーに減少している。
【0040】
図6には当該位置におけるNb分布の比較を示す。No.1に対してNo.8では偏析の変動巾が改善すると同時に初期濃度(4.85wt%)へ近づいており均質性が改善されている。
【0041】
液相のflow patternとマクロ偏析について
段落0037で述べた如く、SRH_GCC法では標準ブリッジマン法に比べて、凝固界面前方におけるthermal fluctuationはあるものの、固液共存相における液流の整流化がかなり促進されていることがわかる。すなわちマクロ偏析はかなり改善される。
【0042】
凝固組織について
結晶組織の微細化及び均一性の向上はクリープ強度を向上させるとともに、Ni基合金において鋳造後に行う溶体化(デンドライトアームスペーシング範囲におけるミクロ偏析あるいはγ’相(gamma prime)、炭化物等の第2相をγ相中に固溶させる熱処理)、及びその後に行う時効処理時間(γ相からγ’相を析出させる熱処理)を短縮できる。例えば、溶体化の際の所要時間は概略DAS/Ds(Dsは固相中の合金元素の拡散係数)に比例するのでDASを1/2に小さくすれば所要時間は1/4へ減少する(非特許文献7のP.332,Eq.(10-6)参照)。
【0043】
本発明の原理
Mushy zoneにおける流れは液相と固相の密度差に基く凝固収縮によって生ずる(mushy zone中の流れの扱いについてここでは凝固収縮に注目して述べる)。すなわち、流れを生ずる駆動力は凝固収縮に伴う吸引力(suction)であり、それはデンドライトの根元から順次先端側に伝わる。従って、固相領域の冷却能を高めmushy zoneの移動速度Rを速くするとこの傾向は強くなり、その結果、flow patternは軸方向への流れが強くなると考えられる。実地例のシミュレーションにおいて、強冷しRを増すと偏析標準偏差σが小さくなるのはflow patternが軸方向に整列化しようとすることを示すものであり上記のメカニズムの妥当性を理論的・定量的に証明するものである。[注:以上の原理は浮上型、沈降型にかかわらず適用される]
【0044】
その他の事項
(1)Static Solid Cooling(SSC)について
最近、Lianら(非特許文献9)は、高熱伝導率及び高熱拡散率を有するPyrolytic Graphite(PG,熱分解グラファイト)鋳型を用いて冷却能を強化する方法を提案している。その概略図を図7に示す。本法は熱伝達層(PG層)と断熱層を交互に積層した固体によって鋳型を囲み、その内側にブレードの形状にフォローアップするよう前記積層固体を配置するものである。鋳型そのものは極薄い塗型を施されている。加熱と冷却はそれぞれ熱伝達層の外周に配された抵抗加熱ヒーター及び水冷により行われる。一方向凝固は加熱-冷却サイクルを電気的ネットワークによって一層ごとに上方に動かすことによって行われる。しかしながら、これら加熱/冷却機能を実際の装置に実装するのは極めて困難と思われる。
【0045】
これに対して本願発明のSRH_GCC法においては摺動抵抗加熱法による加熱方法及びGas cooling冷却法を用いており、上記のSSC法とはそれぞれ加熱方法及び冷却方法において構造が異なるものである。すなわち、SSC法では一層ごとに上方に動かすので温度変化、マクロ偏析を決定する液相の流動パターンの変化が不連続的になるのに対して、SRH_GCC法にでは摺動抵抗加熱により連続的に行うので、温度変化、液相の流動パターンの変化がより連続的(よりなめらか)になると考えられる。
【0046】
不連続的な変化は凝固界面の進行速度の変動の度合いをより強くするので合金濃度の変動、すなわちbanding偏析を生じやすくなる(bandingのメカニズムについては非特許文献7のp.39、Figure2-6参照)。これに対して本願によるSRH_GCC法では変化がより連続的(なめらか)になるのでbandingは緩和されると考えられる。当該法による副ヒーター10を実装することにより、さらにこの緩和効果を高めることができる。
以上の如く、SSC法とSRH_GCC法は加熱方法及び冷却方法が異なり、凝固に及ぼす影響も異なるものである。
【0047】
本発明による強冷手段として当該SSC法による鋳型を用いることも可能である。ただし、加熱及び冷却手段は本願発明手段による。本願発明に対してSSC法による鋳型を用いた例を図8に示す。
【0048】
(2)加熱手段における副ヒーターの目的は固液共存相の凝固界面温度の温度低下を防ぎ固液共存相の軸方向温度勾配の低下を防ぐとともに温度変化をよりなめらかにするためである。
【0049】
(3)一方向凝固における冷却能に関して、明瞭な定義はないが、一例として非特許文献2では単純な熱伝達モデルを仮定し、大型ブレードに対する熱流束Qを概略試算している:すなわち、Bridgeman法の場合Q=60kW/m(弱冷)に対して;溶融錫を用いたLMC法の場合Q=86kW/m;GCC法の場合Q=101kW/m。本明細書ではLMC、GCC、及び前記SSC法鋳型による冷却を強冷と呼ぶこととする。
【0050】
(4)その他凝固に及ぼす要因として、鋳物のサイズ・形状(断面の拡大・縮小)、断熱バッフルの厚さ等が指摘される。固液共存相の形はこれらの鋳造条件によって決まるが、出来るだけフラットであることが望ましい。これらの事項についてはCPROシミュレーションを行い凝固界面の移動速度、加熱・冷却条件などを調整すればよい。
【0051】
まとめ
本発明によるSRH_GCC法の特徴・メリットをまとめると以下の通りである。
(1)マクロ偏析及び異方位結晶欠陥の低減:固相領域を強冷却するとともに凝固界面の移動速度を速くすることにより、有害な横方向液相流れが抑制され、軸方向への整流化が促進される。これによってマクロ偏析が低減されるとともに、凝固がより安定するので異方位結晶欠陥発生の危険性が減少する。
【0052】
(2)結晶組織の微細化・均質化:固相領域の強冷により結晶組織を微細且つ均質化することができるので、鋳造後に行う溶体化熱処理時間を大巾に短縮することができる(生産性の向上)。
【0053】
(3)経済性、生産性の向上:従来の標準ブリッジマン法の引出速度に比べて、凝固界面の移動速度の向上により生産性を上げることができる。
【0054】
(4)装置の小型化による経済性の向上:本願発明のSRH_GCC法は、標準ブリッジマン法に比べて装置を簡略・小型化した技術であり、制作コスト及びランニングコストを大幅に低減できるものと期待される。
【0055】
上記の特徴・メリットは、従来の標準ブリッジマン法に比べて、大きく進歩した改良点であり、本願において初めて明らかにされた知見である。
【0056】
本実施例では強冷方法としてGCC法を用いたが、さらに高い冷却能を有するStatic Solid Cooling法による鋳型(ただし、鋳型の加熱/冷却方法が異なる)を用いても同様の効果が得られることは原理的に明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明ではIN718 Ni基超合金について述べたが本発明は凝固過程においてデンドライトあるいはセル組織を生ずる合金系、例えば、Ni基超合金、チタン合金、Co基合金、Fe基合金等に対して同様の凝固現象と効果を発揮することは原理的に明らかである。従ってこれらの合金系は本発明の適用対象となる。
【0058】
以上の如く、本願発明によればNi基超合金タービンブレード等の各種タービンブレードの品質の向上、鋳造歩留りの向上に資するものである。これら重要部品の安全性、長寿命化及びガスタービンの効率向上による省エネルギー及び温暖化対策に大いに貢献できるようになる。
【0059】
特に、航空機用ジェットエンジンの分野においては、Ni基超合金単結晶タービンブレードが実用されているが、本願発明を適用することにより鋳造歩留りをさらに向上させることが可能となり、燃料効率、CO2削減に貢献するものである。
【符号の説明】
【0060】
1 鋳型
2 鋳物またはインゴット(溶融金属)
3 冷却チル(水冷チル)
4 セレクタ
5 主ヒーター
6 断熱スリーブ
7 主ヒーター摺動接触端子
8 主ヒーターブラシ
9 主ヒーター電源
10 副ヒーター
【0061】
11 副ヒーター用銅ケーブル
12 副ヒーター電源
13 断熱バッフル
14 冷却ガス導入パイプ
15 冷却ガスノズル
16 冷却ガス吸込口
17 冷却ガス循環ポンプシステム
18 真空ポンプ
19 外筒
20 断熱上蓋
21 誘導溶解炉
22 真空容器
図1
図2(a)】
図2(b)】
図3
図4
図5
図6
図7
図8