(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-12
(45)【発行日】2022-10-20
(54)【発明の名称】酸フッ化金属の処理方法及びクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/44 20060101AFI20221013BHJP
H01L 21/302 20060101ALI20221013BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20221013BHJP
H01L 21/285 20060101ALI20221013BHJP
H01L 21/28 20060101ALI20221013BHJP
【FI】
C23C16/44 J
H01L21/302 201A
H01L21/302 101H
H01L21/285 C
H01L21/28 301R
(21)【出願番号】P 2017137765
(22)【出願日】2017-07-14
【審査請求日】2020-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】長友 真聖
(72)【発明者】
【氏名】八尾 章史
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-086187(JP,A)
【文献】特開昭63-241185(JP,A)
【文献】特開2012-251212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/44
H01L 21/302
H01L 21/3065
H01L 21/285
H01L 21/28
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式MO
(6-x)/2F
x(0<x<6、M=W又はMo)で表される酸フッ化金属を
、フッ素含有ガスとしてF
2
ガス、NF
3
ガス、ClF
3
ガス、及びIF
7
ガスからなる群より選ばれる少なくとも一種のガスと温度
10℃以
上200
℃以下で接触させて、化学反応によって一般式MF
6(M=W又はMo)で表される六フッ化金属へ変換することを特徴とする酸フッ化金属の処理方法。
【請求項2】
前記酸フッ化金属と前記フッ素含有ガスを接触させる際の圧力が、絶対圧で0.01kPa以上300kPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の酸フッ化金属の処理方法。
【請求項3】
前記酸フッ化金属を、不活性ガスで希釈された前記フッ素含有ガスと接触させることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸フッ化金属の処理方法。
【請求項4】
前記酸フッ化金属を、前記フッ素含有ガスと接触させる際に、プラズマを発生させないことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の酸フッ化金属の処理方法。
【請求項5】
一般式MF
6(M=W又はMo)で表される六フッ化金属を製造するフッ化金属製造装置の内面に堆積した一般式MO
(6-x)/2F
x(0<x<6、M=W又はMo)で表される酸フッ化金属を、請求項1に記載の処理方法で六フッ化金属へ変換して除去することを特徴とするフッ化金属製造装置のクリーニング方法。
【請求項6】
一般式MF
6(M=W又はMo)で表される六フッ化金属を使用する成膜装置の内面に堆積した一般式MO
(6-x)/2F
x(0<x<6、M=W又はMo)で表される酸フッ化金属を、請求項1に記載の処理方法で六フッ化金属へ変換して除去することを特徴とする成膜装置のクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸フッ化金属、MO(6-x)/2Fx(0<x<6、M=W又はMo)をフッ素含有ガスと化学反応させて、MF6へ変換させる処理方法及びこの処理方法を用いて酸フッ化金属の堆積物等を除去するクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タングステンおよびタングステン化合物、モリブデン又はモリブデン化合物を化学気相蒸着する際の前駆体として、六フッ化タングステン又は六フッ化モリブデンが知られている。これら前駆体の工業的な製造方法として、金属タングステンとフッ素又は三フッ化窒素、金属モリブデンとフッ素又は三フッ化窒素を接触させる方法が知られている。その際の反応式は以下の通りである。
W(s)+3F2(g)→WF6(g) …反応式(1-1)
W(s)+2NF3(g)→WF6(g)+N2(g) …反応式(1-2)
Mo(s)+3F2(g)→MoF6(g) …反応式(2-1)
Mo(s)+2NF3(g)→MoF6(g)+N2(g) …反応式(2-2)
【0003】
六フッ化タングステンと六フッ化モリブデンは、工業的な製造方法では、金属タングステン又は金属モリブデンが使用されているが、金属タングステン又は金属モリブデンには、不純物として酸化物、及び表面酸化物が含まれており、原料のフッ素又は三フッ化窒素とこれらの酸化物が反応して、不純物としてWOF4やMoOF4などの酸フッ化金属MO(6-x)/2Fx(0<x<6、M=W又はMo)が生成する。
WO3(s)+2F2(g)→WOF4+O2(g) ・・・反応式(3-1)
WO3(s)+4/3NF3(g)→WOF4+O2(g)+2/3N2(g) ・・・反応式(3-2)
MoO3(s)+2F2(g)→MoOF4+O2(g) ・・・反応式(4-1)
MoO3(s)+4/3NF3(g)→MoOF4+O2(g)+2/3N2(g) ・・・反応式(4-2)
【0004】
酸フッ化金属は、生成物である六フッ化タングステン又は六フッ化モリブデンと金属酸化物が接触することによっても生成する。
WO3(s)+2WF6(g)→3WOF4 ・・・反応式(3-3)
WO3(s)+2WF6(g)→3WOF4 ・・・反応式(4-3)
【0005】
さらに、酸フッ化金属は、生成物である六フッ化タングステン又は六フッ化モリブデンと水(H2O)が接触することによっても生成する。
H2O+WF6(g)→WOF4+2HF ・・・反応式(3-4)
H2O+MoF6(g)→MoOF4+2HF ・・・反応式(4-4)
【0006】
また、六フッ化タングステン又は六フッ化モリブデンを、タングステン又はタングステン化合物、モリブデン又はモリブデン化合物を化学気相蒸着する際の前駆体として使用する場合は、被処理基板となるSiウェハのSiと反応させる方法(反応式(5-1))や、添加したH2と反応させる方法(反応式(5-2))などを用いる。しかし、被処理基板となるSiウェハに自然酸化膜などでSiO2が存在する場合、酸フッ化金属が生成する(反応式(5-3))。また、チャンバー内の水分によっても、上記の反応式(3-4)により、酸フッ化金属が生成する。なお、六フッ化モリブデンを使用した場合も同様の反応により、酸フッ化金属が生成する。
2WF6+3Si→2W+3SiF4 ・・・反応式(5-1)
WF6+3H2→W+6HF ・・・反応式(5-2)
2WF6+SiO2→2WOF4+3SiF4 ・・・反応式(5-3)
2MoF6+3Si→2Mo+3SiF4 ・・・反応式(6-1)
MoF6+3H2→Mo+6HF ・・・反応式(6-2)
2MoF6+SiO2→2MoOF4+3SiF4 ・・・反応式(6-3)
【0007】
表1に酸フッ化金属の1気圧での沸点と融点を示す。
【0008】
【0009】
酸フッ化金属は、沸点と融点が高く、常温常圧で固体であるため、装置内で白色の固体として析出し易く、装置や配管の閉塞などのトラブルの原因となる。これらの酸フッ化金属MO(6-x)/2Fx(0<x<6、M=W又はMo。例えばMOF4である)は吸湿性が高く、例えば、大気開放や水を含む湿式洗浄による除去を試みる場合、反応式(7-1)~(7-2)、反応式(8-1)~(8-2)に示すように、加水分解により、酸フッ化金属(MO(6-y)/2Fy(0<y<6、但し、yは、反応前の酸フッ化金属の一般式中のxよりも小さい。M=W又はMo。例えばMO2F2である)及びフッ化水素を生成させながら、最終的に除去が難しい酸化物になる。酸化物となった場合、アルカリ性の水溶液による湿式洗浄が必要となる。
WOF4+H2O→WO2F2+2HF ・・・反応式(7-1)
WO2F2+H2O→WO3+2HF ・・・反応式(7-2)
MoOF4+H2O→MoO2F2+2HF ・・・反応式(8-1)
MoO2F2+H2O→MoO3+2HF ・・・反応式(8-2)
【0010】
乾式で酸フッ化金属の析出を除去する方法として、装置を加熱して酸フッ化金属を気化させることで除去する方法が考えられる。例えば、特許文献1には、化学気相蒸着装置内でWOF4による排気系の閉塞を防止する方法として、20~260℃の加熱気体(乾燥空気、窒素、不活性ガス)を10~300L/min(標準状態)を流通させる方法が開示されている。又は、特許文献2には、化学気相蒸着装置内において、WF6を用いてタングステン膜を成膜する際の副生生物であるWOF4などを、成膜工程後に300~600℃に加熱することで除去する方法が開示されている。
【0011】
乾式で酸フッ化金属を除去するための別の方法として、酸フッ化金属を蒸気圧の高い化合物に転化させることで除去する方法が考えられる。例えば、特許文献3には、タングステンの製膜工程中に化学気相蒸着装置内に堆積した副生成物を気体の物質へと変化させて除去する方法として、プラズマ支援下でフルオロカーボンガス(C3F8)を用いて、WF5
+、WOF4
+、およびCO+の少なくとも一種のイオンピーク強度を検出しながら除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国特許第6090208号明細書
【文献】特開昭63-241185号公報
【文献】特開2004-137556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、WOF4の除去に大量の加熱ガスを使用するため、工業的規模の連続的な製造を行う装置に導入する場合、製造を停止する、又はプロセス圧力中の不活性ガスの濃度を増加させる必要があるため適用することが難しい。また、特許文献2に記載の方法は、装置の加熱と冷却に時間がかかり、装置後段の排出先まで加熱する必要があるため、工業的規模の装置に適用することが難しい。また、特許文献3に記載の方法は、六フッ化金属の製造装置においては、フルオロカーボンが不純物として混入するという問題がある上に、プラズマ発生装置を製造装置全域に設置する必要があるため、工業的規模の連続的な製造を行う装置に導入することが難しい。
【0014】
本発明の課題は、プラズマ発生装置を使用せずに、酸フッ化金属を蒸気圧の高い物質へ変換することのできる酸フッ化金属の処理方法及び、その処理方法を用いて乾式で酸フッ化金属を除去するクリーニング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、酸フッ化金属をフッ素含有ガスと接触させると、蒸気圧の高い六フッ化金属に転化できることに着目し、本発明に至った。すなわち、反応式(9-1)~(9-4)に示すように、酸フッ化タングステン又は酸フッ化モリブデンを、フッ素含有ガスと接触させることで反応させ、六フッ化タングステン(融点2.3℃、沸点17.1℃)又は六フッ化モリブデン(融点17.5℃、沸点34.0℃)に変換することで、上記課題を解決できることを見出した。
MOF4+2F2(g)→MF6(g)+1/2O2(g)…反応式(9-1)
MOF4+2/3NF3(g)→MF6(g)+1/2O2(g)+1/3N2(g)…反応式(9-2)
MOF4+ClF3(g)→MF6(g)+1/2O2(g)+ClF(g)…反応式(9-3)
MOF4+IF7(g)→MF6(g)+1/2O2(g)+IF5(g)…反応式(9-4)
但し、Mはタングステン又はモリブデンである。
【0016】
即ち、本発明は、一般式MO(6-x)/2Fx(0<x<6、M=W又はMo)で表される酸フッ化金属を、フッ素含有ガスと温度0℃以上400℃未満で接触させて、一般式MF6(M=W又はMo)で表される六フッ化金属へ変換することを特徴とする酸フッ化金属の処理方法である。
【0017】
また、本発明は、一般式MF6(M=W又はMo)で表される六フッ化金属を製造するフッ化金属製造装置の内面に堆積した一般式MO(6-x)/2Fx(0<x<6、M=W又はMo)で表される酸フッ化金属を、上記の処理方法で六フッ化金属へ変換して除去することを特徴とするフッ化金属製造装置のクリーニング方法である。
【0018】
また、本発明は、一般式MF6(M=W又はMo)で表される六フッ化金属を使用する成膜装置の内面に堆積した一般式MO(6-x)/2Fx(0<x<6、M=W又はMo)で表される酸フッ化金属を、上記の処理方法で六フッ化金属へ変換して除去することを特徴とする成膜装置のクリーニング方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の酸フッ化金属の処理方法を用いて堆積物を除去する方法によれば、大量の加熱ガスやプラズマ発生装置を使用せずとも、堆積した酸フッ化金属を除去できることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】フッ化金属の製造装置のクリーニング方法を示した説明図である。
【
図2】成膜装置のクリーニング方法を示した説明図である。
【
図3】実施例における酸フッ化金属の処理方法を評価する実験装置を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の酸フッ化金属の処理方法及び除去方法の実施形態を、詳細に説明する。しかしながら、本発明は、以下に示す実施の形態に限定されるものではない。
【0022】
本発明の酸フッ化金属の処理方法及び除去方法は、一般式MO(6-x)/2Fx(0<x<6、M=W又はMo)で表される酸フッ化金属を、フッ素含有ガスと温度0℃以上400℃未満で接触させて、化学反応によって一般式MF6(M=W又はMo)で表される六フッ化金属へ変換することを特徴とする。
【0023】
酸フッ化金属をフッ素含有ガスと接触させると、前述の反応式(9-1)~(9-4)に示すように、化学反応によって六フッ化金属に変換することができる。酸フッ化金属であるWOF4(融点106℃、沸点187℃)とMoF4(融点98℃、沸点186℃)を、六フッ化金属である六フッ化タングステン(融点2.3℃、沸点17.1℃)又は六フッ化モリブデン(融点17.5℃、沸点34.0℃)に転化することにより、蒸気圧が高くなる。そのため、装置内に堆積した酸フッ化金属を六フッ化金属に変換することで乾式でのクリーニングが可能となる。
【0024】
フッ素含有ガスが、F2ガス、NF3ガス、ClF3ガス、IF7ガスのいずれかであることが好ましい。F2ガスとNF3ガスは、ガスとして分離が容易な酸素ガス、窒素ガスのみが発生する点で好ましい。また、ClF3ガスとIF7ガスは、酸フッ化金属との反応が早いため、酸フッ化金属の六フッ化金属への変換及び除去を迅速に行うことが可能である。
【0025】
また、酸フッ化金属とフッ素含有ガスと接触させて化学反応させる際の温度が0℃以上400℃以下であることが好ましく、10℃以上200℃以下であることがより好ましい。0℃以下では、生成した六フッ化金属MF6(M=W又はMo)が、酸フッ化金属上で液化又は固化してフッ素含有ガスと酸フッ化金属との接触が効率よく行われなくなるため好ましくない。また、50℃以下では、フッ素含有ガスとしてClF3ガスを使用したときClO2Fが、IF7ガスを使用したときIOF5が、各々副生物として発生することがあるが、本発明を実施する上で支障はない。400℃以上では、フッ素含有ガスによって装置が腐食するおそれがあるため好ましくない。特に、本発明では、フッ素含有ガスを用いて酸フッ化金属をフッ素化することで、酸フッ化金属を沸点以下の低温でも除去できる。
【0026】
また、酸フッ化金属とフッ素含有ガスと接触させる際の圧力が、絶対圧で0.01kPa以上300kPa以下であることが好ましく、絶対圧で0.01kPa以上100kPa以下であることがより好ましい。絶対圧0.01kPa未満では、圧力を保持するための設備の負荷が大きくなるため、好ましくない。300kPa以上では、装置からフッ素含有ガスが漏えいするおそれがあるため好ましくない。
【0027】
フッ素含有ガス、酸フッ化金属及び六フッ化金属の分圧を下げて、これらのガスの液化及び固化を防止するため、及び、フッ素含有ガスと酸フッ化金属との反応を穏やかにするため、不活性ガスによってフッ素含有ガスを希釈してもよい。不活性ガスとしては、フッ素含有ガス、酸フッ化金属及び六フッ化金属と反応しないガス、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどが好ましく、安価であることから、特に窒素ガスが好ましい。
【0028】
ガス中の水分は、酸フッ化金属と反応して、酸化物に転化するため、フッ素含有ガス、及び不活性ガス中の水分が少ないことが好ましく、例えば100体積ppm未満が好ましい。また、フッ素含有ガスを供給する方法として、連続式、回分式の何れでもよく、適宜選択すればよい。
【0029】
本発明の酸フッ化金属の処理方法及び除去方法は、プラズマを使用せずに乾式で酸フッ化金属を除去できるため、低コストで酸フッ化金属を除去でき、プラズマ発生装置の設置が難しい箇所における酸フッ化物も除去することができる。
【0030】
本発明の酸フッ化金属の処理方法及び除去方法は、特許文献1記載の方法のような大量の加熱ガスを使用して、化学反応を利用せずに酸フッ化金属を除去する方法とは異なり、化学反応を利用してフッ素含有ガスにより酸フッ化金属を六フッ化金属に転換してから六フッ化金属として除去する方法を用いるため、フッ素含有ガスの使用量が少なく、装置を流通するガスの総量も少なくて済み、本発明の処理方法及び除去方法を適用する装置に対する負担が少ない。
【0031】
(フッ化金属製造装置のクリーニング方法)
本発明の酸フッ化金属の処理方法を用いた、フッ化金属製造装置のクリーニング方法を、
図1を用いて説明する。
図1に示すフッ化金属製造装置11は、反応器13を有する。フッ化金属を製造する際には、反応器13内に粉末状、粒状又は塊状の金属タングステン又は金属モリブデンを充填し、フッ素ガスや三フッ化窒素ガスなどを反応器13内に供給して、六フッ化金属などのガス状のフッ化金属を得る。その際に、前述の反応式(3-1)などにより酸フッ化金属が生成するため、反応器13や配管の内面に付着物17として付着する。以下、反応器13の内面の付着物17を有するフッ化金属製造装置11のクリーニング方法を説明する。
【0032】
反応器13には、周囲にヒータ15が設けられており、反応器の内部が加熱可能である。また、反応器13には、フッ素含有ガス供給部21からフッ素含有ガスが供給され、不活性ガス供給部31から不活性ガスが供給され、ガス排出装置45を通じてガス排出ライン41から排気される。
【0033】
クリーニングを行う際には、必要に応じて反応器13の内面を所定の温度までヒータ15により加熱するか、常温のままで、反応器13にフッ素含有ガスと、必要に応じて不活性ガスを供給する。フッ素含有ガスが付着物17の酸フッ化金属と反応して、酸フッ化金属を六フッ化金属に変換し、揮発性のガスとして除去する。
【0034】
本発明により、フッ化金属の製造装置11の内部の付着物17を、プラズマ発生装置などを用いずに、また、反応器13を開放せずに、乾式で除去することができる。
【0035】
(成膜装置のクリーニング方法)
本発明の酸フッ化金属の処理方法を用いた、成膜装置のクリーニング方法を、
図2を用いて説明する。
図2に示す成膜装置51は、チャンバー53を有する。成膜装置を使用する際には、チャンバー53の内部にあるステージ57に、シリコンウェハなどの被処理物を載置し、そこに六フッ化タングステンガス又は六フッ化モリブデンガスを供給し、必要に応じてH
2なども供給し、被処理物にタングステン、モリブデン又はこれらの化合物を成膜する。その際に、水や酸化物の影響により酸フッ化金属が生成するため、チャンバー53や配管の内面、ステージ57の表面に付着物59として付着する。以下、チャンバー53の内面とステージ57の表面に付着物59を有する成膜装置51のクリーニング方法を説明する。
【0036】
チャンバー53の周囲や、ステージ57にはヒータ55が設けられており、反応器の内部が加熱可能となる。また、チャンバー53には、フッ素含有ガス供給部61からフッ素含有ガスが供給され、不活性ガス供給部71から不活性ガスが供給され、ガス排出装置85を通じてガス排出ライン81から排気される。
【0037】
クリーニングを行う際には、必要に応じてチャンバー53の内面とステージ57の表面を所定の温度までヒータ55により加熱するか、常温のままで、チャンバー53にフッ素含有ガスと、必要に応じて不活性ガスを供給する。フッ素含有ガスが付着物59の酸フッ化金属と反応して、酸フッ化金属を六フッ化金属に変換し、揮発性のガスとして除去する。また、チャンバー53に接続された、ガス排出ライン81などの配管の内面に付着物がある場合は、配管の周囲にヒータを設けて加熱するか、又は常温のままで、配管にフッ素含有ガスと、必要に応じて不活性ガスを供給する。
【0038】
本発明により、成膜装置51の内部の付着物59を、プラズマ発生装置などを用いずに、また、チャンバー53を開放せずに、乾式で除去することができる。
【実施例】
【0039】
具体的な実施例により、本発明の酸フッ化金属の処理方法を説明する。実施例における酸フッ化金属の処理方法を評価する実験装置を
図3に示す。しかしながら、本発明の酸フッ化金属の処理方法は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
容積100cm3の容器103に、酸フッ化金属105としてタングステン酸フッ化物を33g充填した。不活性ガス供給部102から窒素ガスを供給し、ガス排出装置104で真空脱気により置換した。フッ素含有ガス供給部101から、図示しない圧力計で絶対圧100kPaとなるまで、フッ素ガスを導入し、酸フッ化金属105と接触させた。フッ素含有ガスに対する酸フッ化金属のモル比を30とした。ヒータ106で容器103を20℃にして、2時間静置させた後、反応器103中のガスの一部を抜出して、赤外分光光度計で六フッ化タングステンの濃度を測定して、フッ素含有ガスの転化率を算出した。転化率は、容器内に導入したフッ素ガスのうち、2時間の反応時間で六フッ化タングステンの転化に消費されたフッ素ガスの割合を示す。その結果、フッ素の転化率は1%だった。ただし、反応時間をより長くすれば、転化率はより高くなる。
【0041】
[実施例2]
フッ素含有ガスを三フッ化窒素とする以外は、実施例1と同様に、フッ素含有ガスと酸フッ化金属を接触させた。その結果、三フッ化窒素の転化率は、1%だった。
【0042】
[実施例3]
フッ素含有ガスを三フッ化塩素とする以外は、実施例1と同様に、フッ素含有ガスと酸フッ化金属を接触させた。その結果、三フッ化塩素の転化率は、53%だった。
【0043】
[実施例4]
フッ素含有ガスを七フッ化ヨウ素とする以外は、実施例1と同様に、フッ素含有ガスと酸フッ化金属を接触させた。その結果、七フッ化ヨウ素の転化率は、43%だった。
【0044】
[実施例5]
酸フッ化金属をモリブデン酸フッ化物とする以外は、実施例1と同様に、フッ素含有ガスと酸フッ化金属を接触させた。その結果、フッ素の転化率は、1%だった。
【0045】
[実施例6]
酸フッ化金属をモリブデン酸フッ化物とする以外は、実施例2と同様に、フッ素含有ガスと酸フッ化金属を接触させた。その結果、三フッ化窒素の転化率は、1%だった。
【0046】
[実施例7]
酸フッ化金属をモリブデン酸フッ化物とする以外は、実施例3と同様に、フッ素含有ガスと酸フッ化金属を接触させた。その結果、三フッ化塩素の転化率は、65%だった。
【0047】
[実施例8]
酸フッ化金属をモリブデン酸フッ化物とする以外は、実施例4と同様に、フッ素含有ガスと酸フッ化金属を接触させた。その結果、七フッ化ヨウ素の転化率は、57%だった。
【0048】
[実施例9]
ヒータ106で容器103を150℃にする以外は、実施例1と同様に、フッ素含有ガスと酸フッ化金属を接触させた。その結果、フッ素の転化率は、19%だった。
【0049】
[実施例10]
ヒータ106で容器103を150℃にする以外は、実施例2と同様に、フッ素含有ガスと酸フッ化金属を接触させた。その結果、三フッ化窒素の転化率は、14%だった。
【0050】
[実施例11]
ヒータ106で容器103を150℃にする以外は、実施例3と同様に、フッ素含有ガスと酸フッ化金属を接触させた。その結果、三フッ化窒素の転化率は、86%だった。
【0051】
[実施例12]
ヒータ106で容器103を150℃にする以外は、実施例9と同様に、フッ素含有ガスと酸フッ化金属を接触させた。その結果、七フッ化ヨウ素の転化率は、78%だった。
【0052】
[実施例13]
酸フッ化金属をモリブデン酸フッ化物とする以外は、実施例10と同様に、フッ素含有ガスと酸フッ化金属を接触させた。その結果、フッ素の転化率は、25%だった。
【0053】
[実施例14]
酸フッ化金属をモリブデン酸フッ化物とする以外は、実施例11と同様に、フッ素含有ガスと酸フッ化金属を接触させた。その結果、三フッ化窒素の転化率は、16%だった。
【0054】
[実施例15]
酸フッ化金属をモリブデン酸フッ化物とする以外は、実施例12と同様に、フッ素含有ガスと酸フッ化金属を接触させた。その結果、三フッ化塩素の転化率は、89%だった。
【0055】
[実施例16]
酸フッ化金属をモリブデン酸フッ化物とする以外は、実施例13と同様に、フッ素含有ガスと酸フッ化金属を接触させた。その結果、七フッ化ヨウ素の転化率は、80%だった。
【0056】
[比較例1]
フッ素含有ガスの代わりに不活性ガス供給部から窒素を供給する以外は、実施例1と同様に、窒素ガスと酸フッ化金属を接触させた。その結果、六フッ化タングステンの生成は認められず、転化率を算出することはできなかった。
【0057】
[比較例2]
フッ素含有ガスの代わりに不活性ガス供給部から窒素を供給する以外は、実施例5と同様に、窒素ガスと酸フッ化金属を接触させた。その結果、六フッ化モリブデンの生成は認められず、転化率を算出することはできなかった。
【0058】
[比較例3]
ヒータ106で容器103を150℃にする以外は、比較例1と同様に、窒素ガスと酸フッ化金属を接触させた。その結果、六フッ化タングステンの生成は認められず、転化率を算出することはできなかった。
【0059】
[比較例4]
ヒータ106で容器103を150℃にする以外は、比較例2同様に、窒素ガスと酸フッ化金属を接触させた。その結果、六フッ化モリブデンの生成は認められず、転化率を算出することはできなかった。
【0060】
以上の実施例、比較例を以下の表にまとめた。
【0061】
【0062】
以上の通り、F2ガスやNF3ガス、ClF3ガス及びIF7ガスは、20℃でもタングステン酸フッ化物及びモリブデン酸フッ化物と反応したが、N2ガスは150℃でもタングステン酸フッ化物及びモリブデン酸フッ化物と反応しなかった。即ち、F2ガスなどのフッ素含有ガスにて、これらの金属酸フッ化物を、六フッ化金属に転化して除去することができた。特に、150℃に加熱すると、20℃の場合に比べて転化率が高く、反応速度が速かった。なお、ClF3ガス又はIF7ガスを用いると、F2ガス又はNF3ガスを使用する場合に比べて、転化率が高く、反応速度が速かった。
【符号の説明】
【0063】
11 フッ化金属製造装置
13 反応器
15 ヒータ
17 付着物
21 フッ素含有ガス供給部
23 バルブ
31 不活性ガス供給部
33 バルブ
41 ガス排出ライン
43 バルブ
45 ガス排出装置
51 成膜装置
53 チャンバー
55 ヒータ
57 ステージ
59 付着物
61 フッ素含有ガス供給部
63 バルブ
71 不活性ガス供給部
73 バルブ
81 ガス排出ライン
83 バルブ
85 ガス排出装置
100 実験装置
101 フッ素含有ガス供給部
102 不活性ガス供給部
103 容器
104 ガス排出装置
105 酸フッ化金属
106 ヒータ
111、112、113 バルブ