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71573023点接触玉軸受、自動車用差動装置、自動車用トランスミッション
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  • -3点接触玉軸受、自動車用差動装置、自動車用トランスミッション 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-12
(45)【発行日】2022-10-20
(54)【発明の名称】3点接触玉軸受、自動車用差動装置、自動車用トランスミッション
(51)【国際特許分類】
   F16C 19/16 20060101AFI20221013BHJP
   F16C 33/32 20060101ALI20221013BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20221013BHJP
   F16H 48/38 20120101ALI20221013BHJP
   F16H 57/021 20120101ALI20221013BHJP
【FI】
F16C19/16
F16C33/32
F16C33/58
F16H48/38
F16H57/021
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018005381
(22)【出願日】2018-01-17
(65)【公開番号】P2019124295
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】110000349
【氏名又は名称】特許業務法人 アクア特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺田 貴雄
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-204122(JP,A)
【文献】特開2005-321064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/14-19/18
F16C 33/32
F16C 33/58-33/64
F16H 48/00-48/42
F16H 57/00-57/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用差動装置において、
駆動輪へとつながる動力伝達軸の両側またはその片側に3点接触玉軸受を備え、
前記3点接触玉軸受は、
内輪と、外輪と、該外輪に2点で接触し該内輪に1点で接触する玉とを有し、
前記玉の半径をrとし、
前記玉の中心と前記外輪の外径面との間のラジアル距離をhとし、
基本動定格荷重をCrとし、
動等価荷重をPrとしたとき、
前記外輪の前記玉との寸法比率である外輪断面比(r/h)が、
r/h≦-0.25×Pr/Cr+0.75
の関係を満たすことを特徴とする自動車用差動装置。
【請求項2】
自動車用トランスミッションにおいて、
駆動輪へとつながる動力伝達軸の両側またはその片側に3点接触玉軸受を備え、
前記3点接触玉軸受は、
内輪と、外輪と、該外輪に2点で接触し該内輪に1点で接触する玉とを有し、
前記玉の半径をrとし、
前記玉の中心と前記外輪の外径面との間のラジアル距離をhとし、
基本動定格荷重をCrとし、
動等価荷重をPrとしたとき、
前記外輪の前記玉との寸法比率である外輪断面比(r/h)が、
r/h≦-0.25×Pr/Cr+0.75
の関係を満たすことを特徴とする自動車用トランスミッション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3点接触玉軸受、自動車用差動装置、自動車用トランスミッションに関するものである。
【背景技術】
【0002】
差動装置およびトランスミッションは、共にエンジンの回転運動を駆動輪へと伝える、自動車にとって重要な構成要素である。差動装置およびトランスミッションは、複数のギアと軸とが複雑に組み合わされ、各所に軸受を備えている。このような軸受としては、従来は剛性の高い円すいころ軸受を採用することが多かった。一方で、円すいころ軸受は、玉軸受と比べると、剛性は高いもののトルクの損失も大きいという点に懸念がある。そこで、近年では、損失低減を目的として、剛性を工夫した玉軸受で代用する場合も多くなっている。例えば特許文献1では、自動車のトランスミッションに、外輪の肉厚を所定の値に設定した4点接触玉軸受を使用している。
【0003】
玉軸受は、円すいころ軸受に比べて、軌道輪と転動体との接触面積が小さいため、軌道輪が弾性変形しやすい傾向がある。ここで、例えば外輪に弾性変形が生じることで起こる現象として、クリープと呼ばれる現象が知られている。クリープとは、外輪をハウジングに挿入して内輪を回転させた場合に、外輪のうち玉になぞられて変形する位置が連続的に移動することにより、ハウジング内で外輪が回転してしまう現象である。このようなクリープは、ハウジングの摩耗を招き、摩耗粉を生じさせて軸受の早期破損を引き起こしたり、ガタを増加させてノイズや振動の要因となったりするおそれがある。
【0004】
上述した特許文献1では、主な目的として、外輪と機器のハウジングとの間のクリープを防ぐことを掲げている。特許文献1の技術では、外輪の肉厚を所定の値に設定することで、外輪の波打ち変形を抑制し、クリープを防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-218787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に例示される4点接触玉軸受は、その接触点の多さから、剛性は補えるものの、損失低減を図るうえでは改善の余地を残している。また、4点接触玉軸受は、ハウジングや軸に対しての許容できる取付誤差(許容できる傾き角度)が狭いため、この点にもさらなる配慮が求められている。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、寸法の増大を抑えつつ軌道輪の変形抑制およびさらなる損失低減を図ることが可能な3点接触玉軸受、自動車用差動装置、および自動車用トランスミッションを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる3点接触玉軸受の代表的な構成は、内輪と、外輪と、内輪に1点で接触し外輪に2点で接触する玉とを備える3点接触玉軸受において、玉の半径をrとし、玉の中心と外輪の外径面との間のラジアル距離をhとし、基本動定格荷重をCrとし、動等価荷重をPrとしたとき、外輪の玉との寸法比率である外輪断面比(r/h)が、r/h≦-0.25×Pr/Cr+0.75の関係を満たすことを特徴とする。
【0009】
上記構成の3点接触玉軸受によれば、外輪の過度の厚肉化を避けつつその変形を抑制し、クリープを防ぐことが可能になる。特に、3点接触であるため、円すいころ軸受や4点接触玉軸受に比べてトルクのさらなる損失低減を図ることが可能になり、許容傾き角も大きくなる。したがって、上記構成であれば、剛性や寿命を確保したうえでトルクを下げ、自動車の燃費向上などにも役立てることが可能である。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明にかかる自動車用差動装置の代表的な構成は、駆動輪へとつながる動力伝達軸の両側またはその片側に3点接触玉軸受を備え、3点接触玉軸受は、内輪と、外輪と、外輪に2点で接触し内輪に1点で接触する玉とを有し、玉の半径をrとし、玉の中心と外輪の外径面との間のラジアル距離をhとし、基本動定格荷重をCrとし、動等価荷重をPrとしたとき、外輪の玉との寸法比率である外輪断面比(r/h)が、r/h≦-0.25×Pr/Cr+0.75の関係を満たすことを特徴とする。
【0011】
上述した3点接触玉軸受における技術的思想に対応する説明は、当該自動車用差動装置にも適用可能である。したがって、上記構成においても、外輪の過度の厚肉化を避けつつその変形を抑制し、クリープを防ぐことが可能になる。そのため、ハウジング側や軸側の寸法の変更もなるべく抑えたうえで、軸受の剛性や寿命を確保してトルクも下げ、燃費向上を図ることが可能になっている。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明にかかる自動車用トランスミッションの代表的な構成は、駆動輪へとつながる動力伝達軸の両側またはその片側に3点接触玉軸受を備え、3点接触玉軸受は、内輪と、外輪と、外輪に2点で接触し内輪に1点で接触する玉とを有し、玉の半径をrとし、玉の中心と外輪の外径面との間のラジアル距離をhとし、基本動定格荷重をCrとし、動等価荷重をPrとしたとき、外輪の玉との寸法比率である外輪断面比(r/h)が、r/h≦-0.25×Pr/Cr+0.75の関係を満たすことを特徴とする。
【0013】
上述した3点接触玉軸受における技術的思想に対応する説明は、当該自動車用トランスミッションにも適用可能である。したがって、上記構成においても、外輪の過度の厚肉化を避けつつその変形を抑制し、クリープを防ぐことが可能になる。そのため、ハウジング側や軸側の寸法の変更もなるべく抑えたうえで、軸受の剛性や寿命を確保してトルクも下げ、燃費向上を図ることが可能になっている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、寸法の増大を抑えつつ軌道輪の変形抑制およびさらなる損失低減を図ることが可能な3点接触玉軸受、自動車用差動装置、および自動車用トランスミッションを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態にかかる自動車用差動装置の概要を示す図である。
図2】本発明の実施形態にかかる自動車用トランスミッションの概要を示す図である。
図3】クリープ解析の概要を示す図である。
図4】クリープ解析の結果を示す図である。
図5図4(a)の各試験体の軸受形式と角すきまの関係を示す図である。
図6】クリープ発生確認試験の結果である。
図7図6(b)の各試験体におけるPr/Crと外輪断面比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示または説明を省略する。
【0017】
(自動車用差動装置)
図1は、本発明の実施形態にかかる自動車用差動装置(以下、差動装置100)の概要を示す図である。図1(a)に示す差動装置100は、駆動輪に動力を伝達し、さらには左右の駆動輪の速度差を吸収する装置である。差動装置100は、ハウジング102の内側にドライブピニオンギア104およびリングギア106を備えている。ドライブピニオンギア104は、エンジンからの動力をプロペラシャフト(図示省略)およびピニオン軸108で受け、リングギア106を回転させる。リングギア106は、ディファレンシャルケース110と一体になっていて、ディファレンシャルケース110ごと回転する。この回転力がシャフト(後述するファイナル軸120、122)を通じて駆動輪へと伝えられる。
【0018】
本実施形態では、中央のリングギア106側から左右の駆動輪側に向かって延びるシャフトを、ファイナル軸120、122と称する。ファイナル軸120、122は、サイドギア116、118に直接つながっているサイドギアシャフトや、駆動輪に直接つながっているドライブシャフトなどを含む、動力伝達軸の総称とする。
【0019】
差動装置100は、ファイナル軸120、122をリングギア116、118側にてそれぞれ軸受130、132で支えている。軸受130、132は、ハウジング102に対して、ディファレンシャルケース110およびファイナル軸120、122を回転可能に支えている。特に、従来では寿命、剛性等の観点からこの箇所には円すいころ軸受を配置するのが一般的であったところ、本実施形態では3点接触の軸受130、132を配置していることに特徴がある。なお、本実施形態ではファイナル軸120、122の両方に軸受130、132を取り付けているが、片方のファイナル軸のみに当該軸受を取り付ける構成とすることも可能である。
【0020】
図1(b)は、図1(a)の3点接触玉軸受(軸受130)の拡大図である。軸受130、132は同じ構成であるため、以下では軸受130を例に挙げて説明を行う。図1(b)に示すように、3点接触玉軸受である軸受130は、内輪134と外輪136との間に、玉138を有している。玉138は、3点接触であって、内輪134に1点で接触し外輪136に2点で接触する。
【0021】
一般に、転動体と軌道輪とが点接触する玉軸受は、転動体と軌道輪とが線接触する円すいころ軸受と比べて、トルクが低い。当該差動装置100では、軸受130として3点接触玉軸受を配置することで、従来の円すいころ軸受を配置していた場合と比較して、トルクを下げ、車両の燃費向上を図ることが可能になっている。
【0022】
当該3点接触玉軸受(軸受130)には、全体的な寸法の増大をなるべく抑えながら、外輪136の変形を抑制する対策を施している。具体的には、軸受130は、外輪136を機器のハウジング102に挿入して使用される。その場合、外輪136が弾性変形するような薄い肉厚であると、クリープ現象を招きかねない。しかし、外輪136の肉厚をむやみに増やすと、ハウジング102の大幅な設計変更も必要になってしまう。そこで、当該玉軸受130では、外輪136の過度の肉厚化を避けつつも、荷重が適切に受けられるよう、外輪の肉厚について、外輪136と玉138との寸法比率である外輪断面比r/hを基にした独自の設定を行っている。
【0023】
軸受130の外輪断面比r/hを決定する詳しい条件について説明する。まず、図1(b)中に示す符号rは、玉138の半径である。符号hは、玉138の中心C1と外輪136の外径面137とのラジアル距離である。半径rとラジアル距離hとによって、外輪136の玉138との断面の寸法比率は外輪断面比r/hと示すことができる。以下、この外輪断面比r/hの条件を数式で表現する。
【0024】
本実施形態では、外輪断面比r/hを決定するにあたって、軸受自体の基本動定格荷重Crと動等価荷重Prを利用している。
【0025】
基本動定格荷重Crとは、100万回転の基本定格寿命が得られるような、大きさと方向が一定の静止荷重のことである。一般に、基本動定格荷重(Cr)は、いわゆるカタログ値として仕様書にて公表される。ここで、基本定格寿命とは、一群の同じ軸受を同じ条件で個々に運転したとき、そのうちの90%の軸受が、転がり疲れによる損傷を起こさずに回転できる総回転数のこと、すなわち信頼度90%の寿命のことである。基本定格寿命は、一定速度で運転する場合、総回転時間で表されることもある。
【0026】
動等価荷重Prとは、軸受の疲れ寿命を計算する際に用いられる仮想荷重のことである。通常、実際に軸受に作用する荷重は、ラジアル荷重とアキシアル荷重とが同時にかかる合成荷重であり、大きさや方向が変動することもある。そのため、実際の荷重は、疲れ寿命の計算にはそのまま用いることができない。そこで、軸受の疲れ寿命と等しい寿命を与えられる、大きさが一定で軸受中心に作用する仮想的な荷重(動等価荷重Pr)が計算に用いられる。動等価荷重Prは、軸受にかかるラジアル荷重およびアキシアル荷重と、玉の列の数やその接触角等から算出される所定の系数(カタログ値)とを利用して計算することができる。
【0027】
本実施形態では、上記の基本動定格荷重Crおよび動等価荷重Prを利用し、軸受の外輪断面比r/hを、以下の式1で表す条件によって決定している。
【0028】
r/h≦-0.25×Pr/Cr+0.75…(式1)
【0029】
上記式1のうち、系数(-0.25)および定数は(0.75)は、後述する本願発明者らによる実験から得た一次関数y=-0.25x+0.75(図7参照)から得た値である。
【0030】
上記式1の関係を満たす3点接触の軸受130によれば、外輪136の過度の厚肉化を避けつつその変形を抑制し、クリープを防ぐことが可能になることが分かっている。この軸受130であれば、適用するにあたって差動装置100のハウジング102やファイナル軸120軸などの寸法の変更をなるべく抑えることができるため、汎用性やコストの面で有益である。また、軸受130は3点接触であるため、円すいころ軸受や4点接触玉軸受の場合に比べて、トルクのさらなる損失低減を図ることができ、許容傾き角も大きくなる。すなわち、上記構成の軸受130および差動装置100であれば、軸受130の剛性や寿命を確保したうえでトルクを下げることができるため、自動車の燃費向上に役立てることが可能である。
【0031】
(自動車用トランスミッション)
図2は、本発明の実施形態にかかる自動車用トランスミッション(以下、トランスミッション150)の概要を示す図である。トランスミッション150は、例えば前輪駆動車(FF車)に用いられるトランスミッションとディファレンシャルギアとを一体化したトランスアクスルなどを想定した機構である。トランスミッション150は、エンジンの動力をトルクや回転数、回転方向などを変えて駆動輪に伝達する。トランスミッション150は、複数のギアや軸を備えている。概要として、クラッチを介してエンジンの動力を受け取るインプットシャフト152、インプットシャフト152から各ギアを介して動力を受け取るアウトプットシャフト154、およびアウトプットシャフト154からファイナルギア156を介して駆動輪へと動力を伝えるディファレンシャルシャフト158などを備えている。また、後退を操作するリバースアイドルギア160なども備えられている。
【0032】
当該トランスミッション150では、駆動輪へとつながる動力伝達軸であるディファレンシャルシャフト158において、ファイナルギア156の両側に軸受162、164として3点接触玉軸受が配置されている。これら軸受162、164は、上記で図1(b)を参照して説明した3点接触玉軸受である軸受130と同じ構成である。当該トランスミッション150においても、従来では円すいころ軸受を配置していた箇所に、3点接触の軸受162、164を配置していることに特徴がある。なお、当該軸受は、ディファレンシャルシャフト158の片側のみに設ける構成とすることも可能である。また、当該軸受は、インプットシャフト152やアウトプットシャフト154など、ディファレンシャルシャフト158以外の他の動力伝達軸に適用することも可能である。
【0033】
図1を参照して説明した差動装置100および軸受130それぞれの技術的思想に対応する説明は、当該自動車用トランスミッション150にも適用可能である。したがって、トランスミッション150においても、前述した式1(r/h≦-0.25×Pr/Cr+0.75)の関係を満たす3点接触の軸受162、164によって、外輪の過度の厚肉化を避けつつその変形を抑制し、クリープを防ぐことが可能になることが分かっている。また、軸受162、164を適用するにあたって、トランスミッション150のハウジングや動力伝達軸の寸法の変更をなるべく抑えることができ、汎用性やコストの面で有益となっている。そして、3点接触の軸受162、164によって、従来の円すいころ軸受や4点接触玉軸受に比べて、トルクのさらなる損失低減を図ることができ、許容傾き角も大きくなる。すなわち、本実施形態のトランスミッション150によっても、軸受162、164の剛性や寿命を確保したうえでトルクを下げ、自動車の燃費向上に役立てることが可能になっている。
【0034】
(外輪断面比r/h)
以下、本発明の実施形態にかかる3点接触玉軸受の性能について、コンピュータ上で行ったクリープ解析(シミュレーション解析)、および実際に試験装置を使用して行ったクリープ発生確認試験(実機試験)の結果を交えて説明する。
【0035】
図3は、クリープ解析の概要を示す図である。図3(a)は本実施形態にかかる3点接触玉軸受の3Dモデル(軸受180)の側面を示した図であり、図3(b)は軸受180の外輪182の外径面184を示した斜視図である。外輪182のクリープは、歪クリープ(ひずみクリープ)とも呼ばれ、外輪182の連続的な弾性変形に由来して生じる、外輪182がハウジングに対して回転してしまう現象である。クリープ解析では、外輪182のクリープを、内輪186の1回転あたりにおける移動量として算出する。
【0036】
図3(a)に示すように、クリープ解析では、所定の玉188がA地点から隣の玉190のB地点まで移動する範囲について解析を行う。まず、玉がA地点からB地点まで移動したときにおいて、その間の範囲における外輪182の外径面184の点Cの移動量xを算出する。図3(b)に示すように、点Cは、外輪182の外径面184のうち、その内側を玉188になぞられる点である。
【0037】
点Cの移動量x(図3(a)参照)を得た後、その移動量xを玉の数で整数倍して、玉の1公転あたりの移動量に換算する。そして、その値をさらに内輪1回転あたりの移動量に換算することで、「内輪1回転あたりのクリープ量(μm/rev)」を得ることができる。
【0038】
図4は、クリープ解析(シミュレーション解析)の結果を示す図である。図4(a)は、各試験体の条件とその測定結果の表である。試験体の内訳は、名称および軸受形式の欄に記載している通り、左から順に、比較例1が単列の深溝玉軸受、比較例2が4点接触玉軸受、実施例1が本願の実施形態にかかる外輪2点の3点接触玉軸受、比較例3が内輪2点の3点接触玉軸受である。その下には、概略図とサイズを記載している。サイズは、左から内径、外径、幅である。
【0039】
解析条件として、荷重は、13,000Nのラジアル荷重(Fr)をかけて行った。各試験体のPr/Crは、仕様書にて公表される基本動定格荷重Crと、接触角等から設定される係数とFr(13,000N)とから得られる動等価荷重Prとを用いて算出した。解析は外輪の歪クリープに関するものであり、外輪の構成に着目すると比較例1と比較例3は共に外輪1点接触の同じ構成であるため、これらはPr/Crも同じ値となっている。同様に、比較例2と実施例1においても、共に外輪2点接触の同じ構成であるため、Pr/Crは同じ値となっている。外輪断面比(r/h)は、各試験体とも、すべて同じ値に設定した。
【0040】
図4(a)のうち、前述した式1(r/h≦-0.25×Pr/Cr+0.75)の条件を満たすのは、比較例2と実施例1であった。一方、式1の条件を満たさないのは、比較例1と比較例3であった。最下段の判定(OK/NG)は、後述する図6(a)の比較例6のシミュレーション解析時のクリープ量を閾値とし、その値を超えるクリープ量が測定された場合をNG、超えない場合をOKとした場合の判定結果である。
【0041】
図4(b)は、図4(a)のPr/Crとクリープ量の関係を示すグラフである。横軸がPr/Cr(比)であり、縦軸が内輪1公転あたりのクリープ量(μm/rev)である。このグラフは、式1の条件を満たす比較例2および実施例1が、式1の条件を満たさない比較例1、3に比べて、クリープ量が少ないことを表わしている。
【0042】
図5は、図4(a)の各試験体の軸受形式と角すきまの関係を示す図である。図5では、縦軸は各試験体の角すきまの比率(deg比)であり、比較例1を1とした比率で示している。角すきまとは、内外のどちらか一方の軌道輪を固定し、非固定側の軌道輪を左右に傾けたときの、自由に傾き得る角度の事である。実際に装置に軸受を使用したとき、荷重による軸のたわみやハウジングの円筒度などによって、軸受は傾きをもって使用されることがある。このときの傾きが、各々の軸受形式によって定まる許容角すきまを超えると、内外の軌道輪と玉との間には異常なモーメント荷重が発生し、発熱や寿命低下の原因となる。
【0043】
図5に示すように、角すきまは、4点接触の比較例2がもっとも小さい(約0.20)。次いで、外輪2点の実施例1(約0.54)および内輪2点の比較例3(約0.66)の順に大きくなり、単純な深溝玉軸受である比較例1が最も大きくなっている。
【0044】
図5の結果と、図4(b)の結果とを照らし合わせると、共にクリープ量の少なかった比較例2と実施例1とでは、より角すきまの大きい実施例1のほうが、比較例2よりも許容できる傾きが大きいことが分かる。そのため、実施例1のほうが、比較例2よりも傾きが負荷された条件下であっても寿命を長く保つことができると予想される。
【0045】
図6は、クリープ発生確認試験(実機試験)の結果である。図6(a)は、各試験体の条件とその測定結果の表である。試験体の内訳は、名称および軸受形式の欄に記載している通り、左から順に、比較例4が4点接触玉軸受、比較例5~8が単列の深溝玉軸受である。軸受形式の下にはサイズ、Pr/Cr等の各条件を記載している。
【0046】
図6(a)のうち、前述した式1(r/h≦-0.25×Pr/Cr+0.75)の条件を満たすのは、比較例6~8であり、それら試験体にはクリープは確認されなかった。一方、式1の条件を満たさない比較例4、5には、クリープが発生した。その下に記載する判定結果は、コンピュータ上で行ったシミュレーション解析(図4(a)と同じ条件での解析)に関するものである。この解析では、各試験体の内輪1公転あたりのクリープ量を測定したところ、そのクリープ量の大小関係に、実機試験におけるクリープの発生の有無との関連がみられた。そこで、実機試験でクリープの発生しなかった試験体のうち、シミュレーション解析におけるクリープ量が最も大きかった比較例6を基準とし、クリープ量が比較例6以下のものをOKと判定し、超えるものをNGと判定している。
【0047】
図6(b)は、図6(a)の各試験体のクリープ解析におけるPr/Crとクリープ量の関係を示すグラフである。横軸がPr/Cr(比)であり、縦軸が内輪1公転あたりのクリープ量(μm/rev)である。上述したように、実機試験においてクリープの発生しなかった試験体のうち、シミュレーション解析時のクリープ量が最も大きかったのは比較例6であった。そこで、図6(b)では、比較例6を判定OKの上限ラインに定めている。そして、上限ライン以下、すなわち判定OKであった比較例6~8は〇で示し、判定NGであった比較例4、5は×で示している。その他、深溝玉軸受および4点接触玉軸受についてシミュレーション解析のみを行った他の試験体も●(OKの範囲内のもの)および■(NGの範囲内のもの)でプロットしてある。
【0048】
図7は、図6(b)の各試験体におけるPr/Crと外輪断面比との関係を示すグラフである。横軸がPr/Cr(比)であり、縦軸が外輪断面比r/hである。図7に破線で示す直線は、図6(b)の判定OKのプロットと判定NGのプロットとの境界線であり、図7のグラフにおける判定OKの上限ラインでもある。この上限ラインは、右下がりの一次関数(y=-0.25x+0.75)として得ることができた。このyとxを外輪断面比r/hおよびPr/Crで表現した式が(r/h=-0.25×Pr/Cr+0.75)である。すなわち、外輪断面比r/hが、この上限ラインより下の範囲内(r/h≦-0.25×Pr/Cr+0.75)に収まる試験体であれば、シミュレーション解析において判定OKとなり、実機試験においてもクリープを抑えることができると予想される。
【0049】
以上説明した図4(b)、図5、および図7の結果によって、図1(b)の3点接触玉軸受(軸受130)は、外輪断面比r/hを式1(r/h≦-0.25×Pr/Cr+0.75)の条件に設定することで、外輪のむやみな肉厚化に頼らずにクリープを防ぐことが可能になる。
【0050】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、3点接触玉軸受、自動車用差動装置、自動車用トランスミッションに利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
C1…玉の中心、100…差動装置、102…ハウジング、104…ドライブピニオンギア、106…リングギア、108…ピニオン軸、110…ディファレンシャルケース、116…左側のサイドギア、118…右側のサイドギア、120…左側のファイナル軸、122…右側のファイナル軸、130…左側の軸受、134…内輪、136…外輪、137…外径面、138…玉、150…トランスミッション、152…インプットシャフト、154…アウトプットシャフト、156…ファイナルギア、158…ディファレンシャルシャフト、160…リバースアイドルギア、162…左側の軸受、164…右側の軸受、180…3Dモデルの軸受、182…外輪、184…外径面、186…内輪、188…玉、190…玉
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7