(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-12
(45)【発行日】2022-10-20
(54)【発明の名称】撥水性保護膜形成剤、撥水性保護膜形成用薬液、及びウェハの表面処理方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20221013BHJP
【FI】
H01L21/304 647A
(21)【出願番号】P 2020500408
(86)(22)【出願日】2019-02-05
(86)【国際出願番号】 JP2019003965
(87)【国際公開番号】W WO2019159749
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2018023330
(32)【優先日】2018-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】奥村 雄三
(72)【発明者】
【氏名】近藤 克哉
(72)【発明者】
【氏名】山田 周平
(72)【発明者】
【氏名】両川 敦
(72)【発明者】
【氏名】福井 由季
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-168554(JP,A)
【文献】特開2014-102420(JP,A)
【文献】国際公開第2017/119350(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0210856(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
H01L 21/027
C11D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン元素を含むウェハの表面に撥水性保護膜を形成するための撥水性保護膜形成剤であって、前記剤が、下記一般式[1]で表されるグアニジン誘導体、及び、下記一般式[2]で表されるアミジン誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種のケイ素化合物である、撥水性保護膜形成剤。
【化7】
【化8】
[式[1]、[2]中、R
1は、それぞれ互いに独立して、水素原子、-C≡N基、-NO
2基、及び、一部又は全ての水素元素がフッ素元素に置き換えられていても良い炭化水素基から選択され、前記炭化水素基は酸素原子及び/又は窒素原子を有していてもよい。R
2は、それぞれ互いに独立して、一部又は全ての水素元素がフッ素元素に置き換えられていても良い炭素数が1~18の1価の炭化水素基であり、aは、1~3の整数、bは0~2の整数であり、aとbの合計は3である。]
【請求項2】
前記一般式[1]、及び[2]において、bが0である、請求項1に記載の撥水性保護膜形成剤。
【請求項3】
前記一般式[1]、及び[2]において、3つのR
2のうち、少なくとも2つがメチル基である、請求項2に記載の撥水性保護膜形成剤。
【請求項4】
前記一般式[1]、及び[2]のR
1が、それぞれ互いに独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、及び炭素数1~6のアルコキシ基からなる群から選ばれる基である、請求項1~3のいずれかに記載の撥水性保護膜形成剤。
【請求項5】
前記ケイ素化合物がプロトンを受容した際に副生する化合物が、25℃、1.0気圧で液体である、請求項1~4のいずれかに記載の撥水性保護膜形成剤。
【請求項6】
前記ケイ素化合物が、前記一般式[1]で表される化合物である、請求項1~5のいずれかに記載の撥水性保護膜形成剤。
【請求項7】
前記ケイ素化合物が、前記一般式[1]において、R
1がすべてメチル基であり、aが3であり、bが0であり、3つのR
2のうち2つがメチル基であり、残りのR
2が一部又は全ての水素元素がフッ素元素に置き換えられていても良い炭素数が1~18の1価の炭化水素基である化合物である、請求項6に記載の撥水性保護膜形成剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の撥水性保護膜形成剤を有機溶媒に溶解した、撥水性保護膜形成用薬液。
【請求項9】
前記撥水性保護膜形成剤と前記有機溶媒の総量100質量%に対する該撥水性保護膜形成剤の濃度が0.01~25質量%である、請求項8に記載の撥水性保護膜形成用薬液。
【請求項10】
前記有機溶媒が、非プロトン性溶媒である、請求項8又は9に記載の撥水性保護膜形成用薬液。
【請求項11】
前記撥水性保護膜形成用薬液を調製する前の、前記撥水性保護膜形成剤と前記有機溶媒に含まれる水分の総量が、該撥水性保護膜形成剤と有機溶媒の総量に対し5000質量ppm以下である、請求項8~10のいずれかに記載の撥水性保護膜形成用薬液。
【請求項12】
請求項1~7のいずれかに記載の液体状態の撥水性保護膜形成剤を用いる、シリコン元素を含むウェハの表面処理方法。
【請求項13】
請求項8~11のいずれかに記載の撥水性保護膜形成用薬液を用いる、シリコン元素を含むウェハの表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェハの表面に撥水性保護膜を形成するための撥水性保護膜形成剤、撥水性保護膜形成用薬液、及び、液体状態の該剤や該薬液を用いるウェハの表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ネットワークやデジタル家電用の半導体デバイスにおいて、さらなる高性能・高機能化や低消費電力化が要求されている。そのため、回路パターンの微細化が進行しており、微細化が進行するに伴って、回路パターンのパターン倒れが問題となっている。半導体デバイス製造においては、パーティクルや金属不純物の除去を目的とした洗浄工程が多用されており、その結果、半導体製造工程全体の3~4割にまで洗浄工程が占めている。この洗浄工程において、半導体デバイスの微細化に伴うパターンのアスペクト比が高くなると、洗浄またはリンス後、気液界面がパターンを通過する時にパターンが倒れる現象がパターン倒れである。パターン倒れの発生を防止するためにパターンの設計を変更せざるを得なかったり、また生産時の歩留まりの低下に繋がったりするため、洗浄工程におけるパターン倒れを防止する方法が望まれている。
【0003】
パターン倒れを防止する方法として、パターン表面に撥水性保護膜を形成することが有効であることが知られている。この撥水化はパターン表面を乾燥させずに行う必要があるため、洗浄液等を保持した状態のパターン表面に、当該パターン表面を撥水化することができる撥水性保護膜形成用薬液を供給して、洗浄液等から上記薬液へ置換することにより撥水性保護膜を形成する。
【0004】
本出願人は、特許文献1において、表面に微細な凹凸パターンを有するシリコンウェハの製造方法において、パターン倒れを誘発しやすい洗浄工程を改善するためのシリコンウェハ用洗浄剤として、少なくとも水系洗浄液と、洗浄過程中に凹凸パターンの少なくとも凹部を撥水化するための撥水性洗浄液とを含み、該撥水性洗浄液は、シリコンウェハのSiと化学的に結合可能な反応性部位と疎水性基を含む撥水性化合物からなるもの、又は、該撥水性洗浄液の総量100質量%に対して0.1質量%以上の撥水性化合物と、有機溶媒とが混合されて含まれるものとすることで、該撥水性洗浄液により撥水化されたシリコンウェハ表面の凹部に水が保持されたと仮定したときの毛細管力を2.1MN/m
2以下とせしめるものであることを特徴とするシリコンウェハ用洗浄剤と、それを用いたウェハの洗浄方法について開示しており、該撥水性洗浄液では、撥水性化合物として、下記一般式[A]、[B]および[C]からなる群から選ばれる少なくとも一つを用いている。
【化1】
【化2】
【化3】
(式[A]、[B]、[C]中、R
1、R
2、および、R
3は、それぞれ、炭素数が1~18の炭化水素基を含む1価の有機基、または、炭素数が1~8のパーフルオロアルキル鎖を含む1価の有機基である。また、Xは、クロロ基、イソシアネート基、または、アルコキシ基を示し、Yは、Siと結合する元素が窒素の1価の有機基を示す。aは1~3の整数、bおよびcは0~2の整数であり、aとbとcの合計は1~3である。さらに、dは0~2の整数で、eは1~3の整数である。)
【0005】
また、本出願人は、特許文献2において、表面に微細な凹凸パターンを有し該凹凸パターンの少なくとも一部がシリコン元素を含むウェハの製造方法において、スループットが損なわれることなく、パターン倒れを誘発しやすい洗浄工程を改善するための、ウェハの凹凸パターン表面に撥水性保護膜を形成する保護膜形成用薬液として、表面に微細な凹凸パターンを有し該凹凸パターンの少なくとも一部がシリコン元素を含むウェハの洗浄時に、該凹凸パターンの少なくとも凹部表面に撥水性保護膜を形成するための薬液であり、下記一般式[D]で表されるケイ素化合物A、および、プロトンをケイ素化合物Aに供与する酸又は/および電子をケイ素化合物Aから受容する酸を含み、前記薬液の出発原料中の水分の総量が、該原料の総量に対し5000質量ppm以下であることを特徴とする、撥水性保護膜形成用薬液と、それを用いたウェハの洗浄方法について開示している。
【化4】
(式[D]中、R
4は、それぞれ互いに独立して、炭素数が1~18の炭化水素基を含む1価の有機基、および、炭素数が1~8のフルオロアルキル鎖を含む1価の有機基から選ばれる少なくとも1つの基であり、Zは、それぞれ互いに独立して、ハロゲン基、Siに結合する元素が酸素または窒素の1価の有機基、ニトリル基から選ばれる少なくとも1つの基であり、fは1~3の整数、gは0~2の整数であり、fとgの合計は3以下である。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-192878号公報
【文献】特開2012-033873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
半導体ウェハの材質や膜構成は、デバイスの高性能・高機能化に伴って、その組合せは数多く増加している。表面にシリコン元素を含むウェハにおいても、シリコン元素を含む層に加え、例えば、金属配線層や電極層、キャパシタ層、誘電体層、デバイス形成層などの様々な材質によってウェハの回路パターンが構成されている。上述のように、今後も増え続ける数多くの組合せの半導体ウェハに対して、該ウェハ表面に撥水性保護膜を形成して、洗浄工程におけるパターン倒れを防止するための好適な薬液を適用するために、従来の撥水性保護膜形成用薬液に加え、できるだけ多くの新規の撥水性保護膜形成用薬液の選択肢を確保することが望まれている。
【0008】
また、ウェハ構成によっては、撥水性保護膜形成用薬液の構成成分がウェハに悪影響を及ぼす可能性がある。例えば、クロロシラン、ブロモシラン、ヨードシランのようなシランは、ウェハ構成によっては塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が悪影響を及ぼす可能性がある。例えば、特許文献1の撥水性洗浄液はシリコンウェハの表面に優れた撥水性を付与することができるものの、特許文献1の実施例22のように撥水性化合物としてクロロシラン化合物を含む撥水性洗浄液を用いると、ウェハ構成によっては塩素原子が悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、撥水性保護膜を形成する成分は塩素原子を含まないものが望ましい場合がある。
【0009】
さらに、特許文献2の保護膜形成用薬液はシリコン元素を含むウェハの表面に優れた撥水性を付与することができるものの、薬液の調製時に、保護膜を形成するケイ素化合物Aと、保護膜形成を促進する酸をそれぞれ正確に秤量し、濃度を管理する必要がある。調液操作や薬液の濃度管理の負荷の観点では、保護膜形成を促進する成分を必須としないような撥水性保護膜形成用薬液が望ましい。
【0010】
そこで本発明は、撥水性保護膜を形成する成分が塩素原子を含まず、保護膜形成を促進する成分を必須としないような、シリコン元素を含むウェハの表面に撥水性保護膜を形成するための、新規の撥水性保護膜形成剤(以降、単に「保護膜形成剤」や「剤」と記載する場合がある)又は新規の撥水性保護膜形成用薬液(以降、単に「保護膜形成用薬液」や「薬液」と記載する場合がある)、及び、液体状態の該剤又は該薬液を用いるウェハの表面処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、シリコン元素を含むウェハの表面に撥水性保護膜を形成するための撥水性保護膜形成剤であって、上記剤が、下記一般式[1]で表されるグアニジン誘導体、及び、下記一般式[2]で表されるアミジン誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種のケイ素化合物である、撥水性保護膜形成剤である。
【化5】
【化6】
[式[1]、[2]中、R
1は、それぞれ互いに独立して、水素原子、-C≡N基、-NO
2基、及び、一部又は全ての水素元素がフッ素元素に置き換えられていても良い炭化水素基から選択され、上記炭化水素基は酸素原子及び/又は窒素原子を有していてもよい。R
2は、それぞれ互いに独立して、一部又は全ての水素元素がフッ素元素に置き換えられていても良い炭素数が1~18の1価の炭化水素基であり、aは、1~3の整数、bは0~2の整数であり、aとbの合計は3である。]
【0012】
上記一般式[1]、及び[2]において、bが0であると、後述の保護膜形成後の洗浄において撥水性を維持しやすいため好ましい。
このとき、上記一般式[1]、及び[2]において、3つのR2のうち、少なくとも2つがメチル基であると、上記保護膜を均質に形成できるので好ましい。なお、上記R2が、2個のメチル基と1個の直鎖状アルキル基の組合せであると、上記保護膜をより均質に形成できるので特に好ましい。
【0013】
また、上記一般式[1]、及び[2]のR1が、それぞれ互いに独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、及び炭素数1~6のアルコキシ基からなる群から選ばれる基であることが好ましい。
【0014】
また、上記ケイ素化合物がプロトンを受容した際に副生する化合物が、25℃、1.0気圧で液体であることが好ましい。
【0015】
また、上記ケイ素化合物が、上記一般式[1]で表される化合物であることが好ましい。
【0016】
また、上記ケイ素化合物が、上記一般式[1]において、R1がすべてメチル基であり、aが3であり、bが0であり、3つのR2のうち2つがメチル基であり、残りのR2が一部又は全ての水素元素がフッ素元素に置き換えられていても良い炭素数が1~18の1価の炭化水素基である化合物であることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、上記のいずれかに記載の撥水性保護膜形成剤を有機溶媒に溶解した、撥水性保護膜形成用薬液である。
【0018】
上記撥水性保護膜形成剤と上記有機溶媒の総量100質量%に対する該撥水性保護膜形成剤の濃度が0.01~25質量%であることが好ましい。
【0019】
上記有機溶媒が、非プロトン性溶媒であることが好ましい。
【0020】
上記撥水性保護膜形成用薬液を調製する前の、上記撥水性保護膜形成剤と上記有機溶媒に含まれる水分の総量が、該撥水性保護膜形成剤と有機溶媒の総量に対し5000質量ppm以下であることが好ましい。
【0021】
また本発明は、上記のいずれかに記載の液体状態の撥水性保護膜形成剤を用いる、シリコン元素を含むウェハの表面処理方法である。
【0022】
また本発明は、上記のいずれかに記載の撥水性保護膜形成用薬液を用いる、シリコン元素を含むウェハの表面処理方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の撥水性保護膜形成剤又は撥水性保護膜形成用薬液は、シリコン元素を含むウェハの表面に撥水性保護膜を形成させることができ、ひいては該ウェハの凹凸パターン表面の毛細管力を低下させ、パターン倒れ防止効果を示す。本発明の撥水性保護膜形成剤又は撥水性保護膜形成用薬液によって、今後も増え続ける数多くの組合せの半導体ウェハ構成に対する撥水性保護膜形成用薬液の新たな選択肢を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】表面が微細な凹凸パターン2を有する面とされたウェハ1の斜視模式図である。
【
図2】
図1中のa-a’断面の一部を示したものである。
【
図3】洗浄工程にて凹部4が液体の撥水性保護膜形成剤又は保護膜形成用薬液8を保持した状態の模式図である。
【
図4】保護膜が形成された凹部4に液体が保持された状態の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
1.撥水性保護膜形成剤又は撥水性保護膜形成用薬液について
(1)ケイ素化合物について
本発明の撥水性保護膜形成剤は、上記一般式[1]で表されるグアニジン誘導体、及び、上記一般式[2]で表されるアミジン誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種のケイ素化合物である。
上記一般式[1]、及び[2]のR2基は、撥水性の官能基である。そして、上記グアニジン誘導体のグアニジル基、及び、アミジン誘導体のアミジニル基がウェハ表面のシラノール基と反応し、上記撥水性の官能基を有する部位がウェハ表面に固定されることにより、該ウェハ表面に撥水性の保護膜が形成する。
なお、上記一般式[1]で表されるグアニジン誘導体、及び、上記一般式[2]で表されるアミジン誘導体は25℃、1.0気圧で液体状態の化合物である。液体状態の撥水性保護膜形成剤を用いてシリコン元素を含むウェハの表面処理を行う場合、温度を調整することで当該液体状態の撥水性保護膜形成剤の粘度を調節することが好ましい。
【0026】
上記R1における炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の直鎖又は分岐状の基や、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基やシクロヘキシル基等の環状の基が挙げられ、その一部又は全ての水素元素がフッ素元素に置き換えられていても良い。
なお、上記R1に係る炭化水素基は酸素原子を有していてもよい。この場合は、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の直鎖、分岐状、又は環状のアルコキシ基が挙げられる。また、上述の炭化水素基の炭素原子間に酸素原子を介在させたエーテル結合を有するものであってもよい。
また、炭化水素基は窒素原子を有していてもよい。この場合は、例えば、炭化水素基中に1~3級のアミノ基を有するものが挙げられる。
【0027】
上記一般式[1]のグアニジン誘導体の具体例としては、
2-トリメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-エチルジメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-ジエチルメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-トリエチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-プロピルジメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-ジプロピルメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-トリプロピルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-ブチルジメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-ペンチルジメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-ヘキシルジメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-ヘプチルジメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-オクチルジメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-ノニルジメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-デシルジメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-ウンデシルジメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-ドデシルジメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-トリデシルジメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-テトラデシルジメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-ペンタデシルジメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-ヘキサデシルジメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-ヘプタデシルジメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-オクタデシルジメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-ジメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-メチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-ジエチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-エチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-エチルメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-ジプロピルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン等の上記R2がアルキル基であるグアニジン誘導体や、
2-トリフルオロプロピルジメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-ペンタフルオロブチルジメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-ヘプタフルオロペンチルジメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-ノナフルオロヘキシルジメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-ウンデカフルオロヘプチルジメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-トリデカフルオロオクチルジメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-ペンタデカフルオロノニルジメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-ヘプタデカフルオロデシルジメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-トリフルオロプロピルメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン等の上記R2がフルオロアルキル基とアルキル基の組み合わせであるグアニジン誘導体や、
上記のグアニジン誘導体の1,1,3,3-テトラメチルグアニジル基のメチル基部分を、それぞれ互いに独立して、水素原子、-C≡N基、-NO2基、及び、一部又は全ての水素元素がフッ素元素に置き換えられていても良いメチル基以外の炭化水素基等に置き換えた化合物が挙げられる。なお、上記炭化水素基は酸素原子及び/又は窒素原子を有していてもよい。
【0028】
上記一般式[2]のアミジン誘導体の具体例としては、上述の一般式[1]のグアニジン誘導体の具体例として挙げた化合物のグアニジル基部分を、アミジニル基に置き換えた化合物が挙げられる。
【0029】
撥水性付与効果の観点から、上記一般式[1]、及び[2]のR1基は電子供与性の基であることが好ましく、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、及び炭素数1~6のアルコキシ基から選ばれる基が好ましい。ここで炭素数1~6のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。また、炭素数1~6のアルコキシ基としては、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、sec-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0030】
また、上記一般式[1]、及び[2]においてbが0であると、後述の保護膜形成後の洗浄において撥水性を維持しやすいため好ましい。
このとき、上記一般式[1]、及び[2]において、3つのR2のうち、少なくとも2つがメチル基であると、上記保護膜を均質に形成できるので好ましい。なお、上記R2が、2個のメチル基と1個の直鎖状アルキル基の組合せであると、上記保護膜をより均質に形成できるので特に好ましい。
【0031】
さらに、表面処理の際のウェハ表面の清浄性、液体状態の撥水性保護膜形成剤や撥水性保護膜形成用薬液の清浄性や安定性、表面処理後の液体状態の該剤や該薬液(以降、「廃薬液」と総称する)を排出する際の配管等の清浄性の観点から、上記ケイ素化合物がプロトンを受容した際に副生する化合物が、25℃、1.0気圧で液体であることが好ましい。例えば、一般式[1]のR1がすべてメチル基であるケイ素化合物は、プロトンを受容すると、25℃1.0気圧で液体である1,1,3,3-テトラメチルグアニジンが副生する。
【0032】
上記ケイ素化合物が、上記一般式[1]で表される化合物であることが、良好な撥水性付与効果を得られる点から好ましい。
【0033】
上記ケイ素化合物は25℃、1.0気圧で液体状態の化合物であるため、当該ケイ素化合物のみからなる液を撥水性保護膜形成剤としてウェハ表面に供給することができる。また、上記の液体状態のケイ素化合物は、温度を調整することで該剤の粘度を調節してウェハ表面に供給することができる。また、上記の液体状態のケイ素化合物は有機溶媒によって溶解し希釈された薬液としてウェハ表面に供給することができる。
【0034】
(2)有機溶媒について
上記撥水性保護膜形成用薬液において、上記ケイ素化合物は、有機溶媒によって希釈されている。上記ケイ素化合物と有機溶媒の総量100質量%に対して、該ケイ素化合物の濃度が、0.01~25質量%であると、シリコン元素を含むウェハの表面に均一に保護膜を形成しやすくなるため好ましい。0.01質量%未満では、撥水性付与効果が不十分となる傾向がある。また、25質量%以下であるとコスト的な観点から好ましい。さらに好ましくは0.1~15質量%、より好ましくは0.5~10質量%である。
【0035】
上記撥水性保護膜形成用薬液に含まれる有機溶媒は、例えば、炭化水素類、エステル類、エーテル類、ケトン類、含ハロゲン溶媒、スルホキシド系溶媒、ラクトン系溶媒、カーボネート系溶媒、多価アルコールの誘導体のうちOH基を持たないもの、N-H基を持たない窒素元素含有溶媒、シリコーン溶媒などの非プロトン性溶媒、チオール類、あるいは、それらの混合液が好適に使用される。この中でも、炭化水素類、エステル類、エーテル類、含ハロゲン溶媒、多価アルコールの誘導体のうちOH基を持たないもの、あるいは、それらの混合液を用いると、シリコン元素を含むウェハの表面に撥水性保護膜を短時間に形成できるためより好ましい。
【0036】
上記炭化水素類の例としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、イソドデカン、テトラデカン、ヘキサデカン、オクタデカン、アイコサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジエチルベンゼン等があり、上記エステル類の例としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、アセト酢酸エチル等があり、上記エーテル類の例としては、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、エチルブチルエーテル、ジブチルエーテル、エチルアミルエーテル、ジアミルエーテル、メチルシクロペンチルエーテル、エチルヘキシルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジオクチルエーテル、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メチルパーフルオロプロピルエーテル、メチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロブチルエーテル、メチルパーフルオロヘキシルエーテル、エチルパーフルオロヘキシルエーテル等があり、上記ケトン類の例としては、アセトン、アセチルアセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等があり、上記含ハロゲン溶媒の例としては、パーフルオロオクタン、パーフルオロノナン、パーフルオロシクロペンタン、パーフルオロシクロヘキサン、ヘキサフルオロベンゼン等のパーフルオロカーボン、1、1、1、3、3-ペンタフルオロブタン、オクタフルオロシクロペンタン、2,3-ジハイドロデカフルオロペンタン、ゼオローラH(日本ゼオン製)等のハイドロフルオロカーボン、メチルパーフルオロイソブチルエーテル、メチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロイソブチルエーテル、アサヒクリンAE-3000(旭硝子製)、Novec7100、Novec7200、Novec7300、Novec7600(いずれも3M製)等のハイドロフルオロエーテル、テトラクロロメタンなどのクロロカーボン、クロロホルム等のハイドロクロロカーボン、ジクロロジフルオロメタン等のクロロフルオロカーボン、1,1-ジクロロ-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパン、1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン等のハイドロクロロフルオロカーボン、パーフルオロエーテル、パーフルオロポリエーテル等があり、上記スルホキシド系溶媒の例としては、ジメチルスルホキシド等があり、上記ラクトン系溶媒の例としては、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-ヘキサノラクトン、γ-ヘプタノラクトン、γ-オクタノラクトン、γ-ノナノラクトン、γ-デカノラクトン、γ-ウンデカノラクトン、γ-ドデカノラクトン、δ-バレロラクトン、δ-ヘキサノラクトン、δ-オクタノラクトン、δ-ノナノラクトン、δ-デカノラクトン、δ-ウンデカノラクトン、δ-ドデカノラクトン、ε-ヘキサノラクトン等があり、上記カーボネート系溶媒の例としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート等があり、上記多価アルコールの誘導体のうちOH基を持たないものの例としては、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールジアセテート、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、テトラエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、テトラエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、テトラエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルプロピルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、トリプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリプロピレングリコールジアセテート、テトラプロピレングリコールジメチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、テトラプロピレングリコールジアセテート、ブチレングリコールジメチルエーテル、ブチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチレングリコールジアセテート、グリセリントリアセテート等があり、上記N-H基を持たない窒素元素含有溶媒の例としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、トリエチルアミン、ピリジン等があり、シリコーン溶媒の例としては、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、ドデカメチルペンタシロキサン等があり、上記チオール類の例としては、1-ヘキサンチオール、2-メチル-1-ペンタンチオール、3-メチル-1-ペンタンチオール、4-メチル-1-ペンタンチオール、2,2-ジメチル-1-ブタンチオール、3,3-ジメチル-1-ブタンチオール、2-エチル-1-ブタンチオール、1-ヘプタンチオール、ベンジルチオール、1-オクタンチオール、2-エチル-1-ヘキサンチオール、1-ノナンチオール、1-デカンチオール、1-ウンデカンチオール、1-ドデカンチオール、1-トリデカンチオール等がある。
【0037】
(3)添加剤について
本発明の液体状態の保護膜形成剤又は薬液には、該剤又は該薬液の安定性をさらに高めるために、重合禁止剤や連鎖移動剤、酸化防止剤等の添加剤を含んでいてもよい。例えば、4-メトキシフェノール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、1,4-ベンゼンジオール、2-(1,1-ジメチルエチル)-1,4-ベンゼンジオール、1,4-ベンゾキノン、1-オクタンチオール、1-ノナンチオール、1-デカンチオール、1-ウンデカンチオール、1-ドデカンチオール、オクチル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロ肉桂酸(BASF製、Irganox1135)、6-tert-ブチル-2,4-キシレノール等が挙げられる。
【0038】
また、液体状態の保護膜形成剤又は薬液の清浄性の観点から上記の添加剤は液体が好ましく、例えば、25℃、1.0気圧で液体の1-ドデカンチオール、オクチル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロ肉桂酸(BASF製、Irganox1135)、6-tert-ブチル-2,4-キシレノール等が好ましい。
【0039】
(4)薬液(薬液原料)の清浄度について
また、上記薬液を調製する前の、上記撥水性保護膜形成剤と上記有機溶媒に含まれる水分の総量が、該撥水性保護膜形成剤と有機溶媒の総量に対し5000質量ppm以下であることが好ましい。水分量の総量が5000質量ppm超の場合、上記ケイ素化合物の撥水性付与効果が低下する傾向がある。このため、上記水分量の総量は少ないほど好ましく、特に500質量ppm以下、さらには200質量ppm以下が好ましい。さらに、水の存在量が多いと、上記薬液の保管安定性が低下しやすいため、水分量は少ない方が好ましく、100質量ppm以下、さらには50質量ppm以下が好ましい。なお、上記水分量は少ないほど好ましいが上記の含有量範囲内であれば、0.1質量ppm以上であってもよい。従って、上記薬液を調製する前の、ケイ素化合物や有機溶媒は水を多く含有しないものであることが好ましい。
なお、上述の水分の総量となるように、予め薬液原料に、例えば、蒸留精製を施したり、モレキュラーシーブ等で脱水処理を施したりしてもよい。また薬液原料として含水量が低く抑えられたグレードの市販品を用いてもよい。
【0040】
また、上記薬液中の液相での光散乱式液中粒子検出器によるパーティクル測定における0.2μmより大きい粒子の数が該薬液1mL当たり100個以下であることが好ましい。上記0.2μmより大きい粒子の数が該薬液1mL当たり100個超であると、パーティクルにより、シリコン元素を含むウェハのパターンダメージを誘発する恐れがありデバイスの歩留まり低下及び信頼性の低下を引き起こす原因となるため好ましくない。また、0.2μmより大きい粒子の数が該薬液1mL当たり100個以下であれば、上記保護膜を形成した後の、溶媒や水による洗浄を省略又は低減できるため好ましい。なお、上記0.2μmより大きい粒子の数は少ないほど好ましいが上記の含有量範囲内であれば該薬液1mL当たり1個以上あってもよい。なお、本発明における薬液中の液相でのパーティクル測定は、レーザを光源とした光散乱式液中粒子測定方式における市販の測定装置を利用して測定するものであり、パーティクルの粒径とは、PSL(ポリスチレン製ラテックス)標準粒子基準の光散乱相当径を意味する。
ここで、上記パーティクルとは、原料に不純物として含まれる塵、埃、有機固形物、無機固形物などの粒子や、薬液の調製中に汚染物として持ち込まれる塵、埃、有機固形物、無機固形物などの粒子などであり、最終的に薬液中で溶解せずに粒子として存在するものが該当する。
【0041】
また、上記薬液中のNa、Mg、K、Ca、Mn、Fe、Cu、Li、Al、Cr、Ni、Zn及びAgの各元素(金属不純物)の含有量が、該薬液総量に対し各0.1質量ppb以下であることが好ましい。上記金属不純物含有量が、該薬液総量に対し0.1質量ppb超であると、デバイスの接合リーク電流を増大させる恐れがありデバイスの歩留まりの低下及び信頼性の低下を引き起こす原因となるため好ましくない。また、上記金属不純物含有量が、該薬液総量に対し各0.1質量ppb以下であると、上記保護膜をウェハ表面に形成した後の、溶媒や水による該ウェハ表面(保護膜表面)の洗浄を省略又は低減できるため好ましい。このため、上記金属不純物含有量は少ないほど好ましいが、上記の含有量範囲内であれば該薬液の総量に対して、各元素につき、0.001質量ppb以上であってもよい。
なお、液体状態の撥水性保護膜形成剤でウェハの表面処理を行う場合の、当該液体状態の撥水性保護膜形成剤の清浄度も上述の薬液の場合と同様である。
【0042】
2.撥水性保護膜について
本発明において、撥水性保護膜とは、ウェハ表面に形成されることにより、該ウェハ表面の濡れ性を低くする膜、すなわち撥水性を付与する膜のことである。本発明において撥水性とは、物品表面の表面エネルギーを低減させて、水やその他の液体と該物品表面との間(界面)で相互作用、例えば、水素結合、分子間力などを低減させる意味である。特に水に対して相互作用を低減させる効果が大きいが、水と水以外の液体の混合液や、水以外の液体に対しても相互作用を低減させる効果を有する。該相互作用の低減により、物品表面に対する液体の接触角を大きくすることができる。なお、撥水性保護膜は、上記ケイ素化合物から形成されたものであってもよいし、ケイ素化合物を主成分とする反応物を含むものであっても良い。
【0043】
3.ウェハについて
上記のウェハとしては、ウェハ表面にシリコン、酸化ケイ素、又は窒化ケイ素などケイ素元素を含む膜が形成されたもの、あるいは、上記凹凸パターンを形成したときに、該凹凸パターンの表面の少なくとも一部がシリコン、酸化ケイ素、又は窒化ケイ素などケイ素元素を含むものが含まれる。また、少なくともケイ素元素を含む複数の成分から構成されたウェハに対しても、ケイ素元素を含む成分の表面に保護膜を形成することができる。該複数の成分から構成されたウェハとしては、シリコン、酸化ケイ素、及び、窒化ケイ素などケイ素元素を含む成分がウェハ表面に形成したもの、あるいは、凹凸パターンを形成したときに、該凹凸パターンの少なくとも一部がシリコン、酸化ケイ素、及び、窒化ケイ素などケイ素元素を含む成分となるものも含まれる。なお、上記薬液や液体状態の撥水性保護膜形成剤で保護膜を形成できるのは上記凹凸パターン中のケイ素元素を含む部分の表面である。
【0044】
一般的に、表面に微細な凹凸パターンを有するウェハを得るには、まず、平滑なウェハ表面にレジストを塗布したのち、レジストマスクを介してレジストに露光し、露光されたレジスト、又は、露光されなかったレジストをエッチング除去することによって所望の凹凸パターンを有するレジストを作製する。また、レジストにパターンを有するモールドを押し当てることでも、凹凸パターンを有するレジストを得ることができる。次に、ウェハをエッチングする。このとき、レジストパターンの凹の部分に対応するウェハ表面が選択的にエッチングされる。最後に、レジストを剥離すると、微細な凹凸パターンを有するウェハが得られる。
【0045】
上記ウェハ表面を微細な凹凸パターンを有する面とした後、水系洗浄液で表面の洗浄を行い、乾燥等により水系洗浄液を除去すると、凹部の幅が小さく、凸部のアスペクト比が大きいと、パターン倒れが生じやすくなる。該凹凸パターンは、
図1及び
図2に記すように定義される。
図1は、表面が微細な凹凸パターン2を有する面とされたウェハ1を斜視したときの模式図を示し、
図2は
図1中のa-a’断面の一部を示したものである。凹部の幅5は、
図2に示すように隣り合う凸部3と凸部3の間隔で示され、凸部のアスペクト比は、凸部の高さ6を凸部の幅7で割ったもので表される。洗浄工程でのパターン倒れは、凹部の幅が70nm以下、特には45nm以下、アスペクト比が4以上、特には6以上のときに生じやすくなる。
【0046】
4.ウェハの表面処理方法について
上記のようにエッチングによって得られた、表面に微細な凹凸パターンを有するウェハは、本発明の表面処理方法に先立って、エッチングの残渣などを除去するために、水系洗浄液で洗浄されてもよいし、該洗浄後に凹部に保持された水系洗浄液を該水系洗浄液とは異なる洗浄液(以降、「洗浄液A」と記載する)に置換してさらに洗浄されてもよい。
【0047】
上記水系洗浄液の例としては、水、あるいは、水に有機溶媒、過酸化水素、オゾン、酸、アルカリ、界面活性剤のうち少なくとも1種が混合された水溶液(例えば、水の含有率が10質量%以上)とするものが挙げられる。
【0048】
また、上記洗浄液Aとは、有機溶媒、該有機溶媒と水系洗浄液の混合物、それらに酸、アルカリ、界面活性剤のうち少なくとも1種が混合された洗浄液を示す。
【0049】
本発明において、ウェハの凹凸パターンの少なくとも凹部に上記液体状態の保護膜形成剤や薬液や洗浄液を保持できる処理装置を用いるのであれば、該ウェハの処理方式は特に限定されない。ウェハの処理方式としては、ウェハをほぼ水平に保持して回転させながら回転中心付近に液体を供給してウェハを1枚ずつ処理するスピン処理装置を用いる方法に代表される枚葉方式や、槽内で複数枚のウェハを浸漬し処理したり、チャンバー内で複数枚のウェハに蒸気やミストを供給して処理したりするバッチ方式が挙げられる。なお、ウェハの凹凸パターンの少なくとも凹部に上記液体状態の保護膜形成剤や薬液や洗浄液を供給するときの該保護膜形成剤や薬液や洗浄液の形態としては、該凹部に保持された時に液体になるものであれば特に限定されず、たとえば、液体、蒸気などがある。
【0050】
上記洗浄液Aの好ましい例の一つである有機溶媒の例としては、炭化水素類、エステル類、エーテル類、ケトン類、含ハロゲン溶媒、スルホキシド系溶媒、ラクトン系溶媒、カーボネート系溶媒、アルコール類、多価アルコールの誘導体、窒素元素含有溶媒等が挙げられる。
【0051】
本発明の液体状態の保護膜形成剤又は保護膜形成用薬液は、上記の水系洗浄液や洗浄液Aを該剤又は該薬液に置換して使用される。また、上記の置換した剤又は薬液は、該剤又は該薬液とは異なる洗浄液(以降、「洗浄液B」と記載する)に置換されてもよい。
【0052】
上記のように水系洗浄液や洗浄液Aでの洗浄の後に、該洗浄液を液体状態の保護膜形成剤又は保護膜形成用薬液に置換し、凹凸パターンの少なくとも凹部に該剤又は該薬液が保持されている間に、該凹凸パターンの少なくとも凹部表面に上記保護膜が形成される。本発明の保護膜は、必ずしも連続的に形成されていなくてもよく、また、必ずしも均一に形成されていなくてもよいが、より優れた撥水性を付与できるため、連続的に、また、均一に形成されていることがより好ましい。
【0053】
図3は、凹部4が液体の保護膜形成剤又は保護膜形成用薬液8を保持した状態の模式図を示している。
図3の模式図のウェハは、
図1のa-a’断面の一部を示すものである。この際に、凹部4の表面に保護膜が形成されることにより該表面が撥水化される。
【0054】
液体の保護膜形成剤又は保護膜形成用薬液は、温度を高くすると、より短時間で上記保護膜を形成しやすくなる。均質な保護膜を形成しやすい温度は、10℃以上、該剤又は該薬液の沸点未満であり、特には15℃以上、該剤又は該薬液の沸点よりも10℃低い温度以下で保持されることが好ましい。上記液体の保護膜形成剤又は薬液の温度は、凹凸パターンの少なくとも凹部に保持されているときも当該温度に保持されることが好ましい。なお、該薬液の沸点は該保護膜形成用薬液に含まれる成分のうち、質量比で最も量の多い成分の沸点を意味する。
【0055】
上記のように保護膜を形成した後で、凹凸パターンの少なくとも凹部に残った上記液体の保護膜形成剤又は薬液を、洗浄液Bに置換した後に、乾燥工程に移ってもよい。該洗浄液Bの例としては、水系洗浄液、有機溶媒、水系洗浄液と有機溶媒の混合物、又は、それらに酸、アルカリ、界面活性剤のうち少なくとも1種が混合されたもの、並びに、それらと液体の保護膜形成剤又は保護膜形成用薬液の混合物等が挙げられる。上記洗浄液Bは、パーティクルや金属不純物の除去の観点から、水、有機溶媒、又は水と有機溶媒の混合物がより好ましい。
【0056】
上記洗浄液Bの好ましい例の一つである有機溶媒の例としては、炭化水素類、エステル類、エーテル類、ケトン類、含ハロゲン溶媒、スルホキシド系溶媒、アルコール類、多価アルコールの誘導体、窒素元素含有溶媒等が挙げられる。
【0057】
また、本発明の液体の保護膜形成剤又は薬液によりウェハ表面に形成された保護膜は、上記洗浄液Bとして有機溶媒を用いると、該洗浄液Bの洗浄によって撥水性が低下しにくい場合がある。
【0058】
液体の保護膜形成剤又は保護膜形成用薬液により撥水化された凹部4に液体が保持された場合の模式図を
図4に示す。
図4の模式図のウェハは、
図1のa-a’断面の一部を示すものである。凹凸パターン表面は上記液体の保護膜形成剤又は薬液により保護膜10が形成され撥水化されている。そして、該保護膜10は、液体9が凹凸パターンから除去されるときもウェハ表面に保持される。
【0059】
ウェハの凹凸パターンの少なくとも凹部表面に、液体の保護膜形成剤又は保護膜形成用薬液により保護膜10が形成されたとき、該表面に水が保持されたと仮定したときの接触角が50~130°であると、パターン倒れが発生し難いため好ましい。接触角が大きいと撥水性に優れるため、60~130°が更に好ましく、65~130°が特に好ましい。また、洗浄液Bでの洗浄の前後で上記接触角の低下量(洗浄液Bの洗浄前の接触角-洗浄液Bの洗浄後の接触角)が10°以下であることが好ましい。
【0060】
次に、上記液体の保護膜形成剤又は薬液により保護膜が形成された凹部4に保持された液体を乾燥により凹凸パターンから除去する。このとき、凹部に保持されている液体は、上記液体の保護膜形成剤又は薬液、上記洗浄液B、又は、それらの混合液でも良い。上記混合液は、保護膜形成剤と洗浄液Bを混合したものや、保護膜形成用薬液に含まれる各成分が該薬液よりも低濃度になるように含有されたものであり、該混合液は、上記液体の保護膜形成剤又は薬液を洗浄液Bに置換する途中の状態の液でも良いし、あらかじめ上記ケイ素化合物を洗浄液Bに混合して得た混合液でも良い。ウェハの清浄度の観点からは、水、有機溶媒、又は、水と有機溶媒の混合物が好ましい。また、上記凹凸パターン表面から液体が一旦除去された後で、上記凹凸パターン表面に洗浄液Bを保持させて、その後、乾燥しても良い。
【0061】
なお、保護膜形成後に洗浄液Bで洗浄する場合、該洗浄の時間、すなわち洗浄液Bが保持される時間は、上記凹凸パターン表面のパーティクルや不純物の除去の観点から、10秒間以上、より好ましくは20秒間以上行うことが好ましい。上記凹凸パターン表面に形成された保護膜の撥水性能の維持効果の観点から、洗浄液Bとして有機溶媒を用いると、該洗浄を行ってもウェハ表面の撥水性を維持し易い傾向がある。一方、上記洗浄の時間が長くなりすぎると、生産性が悪くなるため15分間以内が好ましい。
【0062】
上記乾燥によって、凹凸パターンに保持された液体が除去される。当該乾燥は、スピン乾燥法、IPA(2-プロパノール)蒸気乾燥、マランゴニ乾燥、加熱乾燥、温風乾燥、送風乾燥、真空乾燥などの周知の乾燥方法によって行うことが好ましい。
【0063】
上記乾燥の後で、さらに保護膜10を除去してもよい。撥水性保護膜を除去する場合、該撥水性保護膜中のC-C結合、C-F結合を切断することが有効である。その方法としては、上記結合を切断できるものであれば特に限定されないが、例えば、ウェハ表面を光照射すること、ウェハを加熱すること、ウェハをオゾン曝露すること、ウェハ表面にプラズマ照射すること、ウェハ表面にコロナ放電すること等が挙げられる。
【0064】
光照射で保護膜10を除去する場合、該保護膜10中のC-C結合、C-F結合の結合エネルギーである83kcal/mol、116kcal/molに相当するエネルギーである340nm、240nmよりも短い波長を含む紫外線を照射することが好ましい。この光源としては、メタルハライドランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、エキシマランプ、カーボンアークなどが用いられる。紫外線照射強度は、メタルハライドランプであれば、例えば、照度計(コニカミノルタセンシング製照射強度計UM-10、受光部UM-360〔ピーク感度波長:365nm、測定波長範囲:310~400nm〕)の測定値で100mW/cm2以上が好ましく、200mW/cm2以上が特に好ましい。なお、照射強度が100mW/cm2未満では保護膜10を除去するのに長時間要するようになる。また、低圧水銀ランプであれば、より短波長の紫外線を照射することになるので、照射強度が低くても短時間で保護膜10を除去できるので好ましい。
【0065】
また、光照射で保護膜10を除去する場合、紫外線で保護膜10の構成成分を分解すると同時にオゾンを発生させ、該オゾンによって保護膜10の構成成分を酸化揮発させると、処理時間が短くなるので特に好ましい。この光源として、低圧水銀ランプやエキシマランプなどが用いられる。また、光照射しながらウェハを加熱してもよい。
【0066】
ウェハを加熱する場合、400~1000℃、好ましくは、500~900℃でウェハの加熱を行うことが好ましい。この加熱時間は、10秒~60分間、好ましくは30秒~10分間の保持で行うことが好ましい。また、当該工程では、オゾン曝露、プラズマ照射、コロナ放電などを併用してもよい。また、ウェハを加熱しながら光照射を行ってもよい。
【0067】
加熱により保護膜10を除去する方法は、ウェハを熱源に接触させる方法、熱処理炉などの加熱された雰囲気にウェハを置く方法などがある。なお、加熱された雰囲気にウェハを置く方法は、複数枚のウェハを処理する場合であっても、ウェハ表面に保護膜10を除去するためのエネルギーを均質に付与しやすいことから、操作が簡便で処理が短時間で済み処理能力が高いという工業的に有利な方法である。
【0068】
ウェハをオゾン曝露する場合、低圧水銀灯などによる紫外線照射や高電圧による低温放電等で発生させたオゾンをウェハ表面に供することが好ましい。ウェハをオゾン曝露しながら光照射してもよいし、加熱してもよい。
【0069】
上記の光照射、加熱、オゾン曝露、プラズマ照射、コロナ放電を組み合わせることによって、効率的にウェハ表面の保護膜を除去することができる。
【実施例】
【0070】
以下、本発明の実施形態をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0071】
ウェハの表面を凹凸パターンを有する面とすること、凹凸パターンの少なくとも凹部に保持された洗浄液を他の洗浄液で置換することは、他の文献等にて種々の検討がなされ、既に確立された技術であるので、本発明では、液体の保護膜形成剤又は保護膜形成用薬液の撥水性付与効果について、評価を行った。なお、実施例において、接触角を評価する際にウェハ表面に接触させる液体としては、水系洗浄液の代表的なものである水を用いた。
ただし、表面に凹凸パターンを有するウェハの場合、該凹凸パターン表面に形成された上記保護膜10自体の接触角を正確に評価できない。
【0072】
水滴の接触角の評価は、JIS R 3257「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」にもあるように、サンプル(基材)表面に数μlの水滴を滴下し、水滴と基材表面のなす角度の測定によりなされる。しかし、パターンを有するウェハの場合、接触角が非常に大きくなる。これは、Wenzel効果やCassie効果が生じるからで、接触角が基材の表面形状(ラフネス)に影響され、見かけ上の水滴の接触角が増大するためである。
【0073】
そこで、本実施例では上記液体の保護膜形成剤又は薬液を表面が平滑なウェハに供して、ウェハ表面に保護膜を形成して、該保護膜を表面に凹凸パターンが形成されたウェハの表面に形成された保護膜とみなし、種々評価を行った。なお、本実施例では、表面が平滑なウェハとして、表面が平滑なシリコンウェハ上にSiO2層を有する「SiO2膜付きウェハ」を用いた。
【0074】
詳細を下記に述べる。以下では、評価方法、保護膜形成用薬液の調製、液体の保護膜形成剤又は保護膜形成用薬液を用いたウェハの表面処理方法、そして、ウェハに保護膜を形成した後の評価結果を記載する。
【0075】
〔評価方法〕
(A)ウェハ表面に形成された保護膜の接触角評価
保護膜が形成されたウェハ表面上に純水約2μlを置き、水滴とウェハ表面とのなす角(接触角)を接触角計(協和界面科学製:CA-X型)で測定した。
【0076】
(B)廃薬液容器投入口への固形物付着有無の評価
ウェハへの表面処理後の液体状態の撥水性保護膜形成剤や撥水性保護膜形成用薬液(廃薬液)を、廃薬液容器に回収した。該容器の蓋を開放したまま、環境温度を25℃、湿度を50%RHに維持したドラフト内で1日静置したのち、廃薬液容器の投入口への固形物付着の様子を目視で観察した。
上記廃薬液中では、ウェハの表面処理工程におけるシラノール基や、iPA等の洗浄液から、ケイ素化合物がプロトンを受容し、副生物が増加している。特に、上述のような廃薬液投入口付近においては、空気中の水分(H2O)から、ケイ素化合物がプロトンを受容し、副生物が付着し易くなることが予想される。当然ながらこの副生物が固体である場合、容器投入口への固形物の付着が生じやすい。粉塵による周囲環境への汚染を防ぐ観点から、固形物の付着はない方が好ましい。
【0077】
[実施例1]
(1)保護膜形成用薬液の調製
環境温度を25℃に設定したグローブボックス内で、1.0気圧の窒素ガス雰囲気の下、有機溶媒であるプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以降、「PGMEA」と記載する)に、ケイ素化合物である2-トリメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン〔(CH3)2N-C(=N-Si[CH3]3)-N(CH3)2〕を0.2質量%の濃度となるように溶解して、保護膜形成用薬液を得た。
このとき、原料のPGMEAと2-トリメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジンの総量に対する、該PGMEA及び2-トリメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン中の水分の総量は、10質量ppmであった。
【0078】
(2)シリコンウェハの洗浄
平滑な熱酸化膜付きシリコンウェハ(表面に厚さ1μmの熱酸化膜層を有するSiウェハ)を1質量%のフッ酸水溶液に25℃で10分浸漬し、純水に25℃で1分、2-プロパノール(iPA)に25℃で1分浸漬した。
【0079】
(3)シリコンウェハ表面への保護膜形成用薬液による表面処理
上記洗浄後のシリコンウェハを、上記「(1)保護膜形成用薬液の調製」で調製した保護膜形成用薬液に25℃で1分浸漬し、iPAに25℃で1分、純水に25℃で1分浸漬した。最後に、シリコンウェハを純水から取出し、エアーを吹き付けて、表面の純水を除去した。
【0080】
得られたウェハを評価したところ、表1に示すとおり、表面処理前の初期接触角が10°未満であったものが、表面処理後の接触角は85°となり、撥水性付与効果を示した。また、上述の固形物の付着は確認されず、廃薬液容器投入口の清浄性が優れた結果であった。
【0081】
【0082】
[実施例2~15]
実施例1で用いたケイ素化合物の種類、有機溶媒の種類、ケイ素化合物の濃度、原料中の水分の総量などの条件を変更して、それ以外は実施例1と同様にウェハの表面処理を行い、さらにその評価を行った。結果を表1に示す。
なお、表中で、「DnBE」はジノルマルブチルエーテルを意味し、「DiAE」はジイソアミルエーテルを意味し、(Ph)HN-C(=N-Si[CH3]3)-NH(Ph)はケイ素化合物である2-トリメチルシリル-1,3-ジフェニルグアニジンを意味する。
【0083】
いずれの実施例においても、表面処理前の初期接触角が10°未満であったものが、表面処理後に撥水性付与効果を示した。なお、実施例5、12~14の結果から分かるように、撥水性保護膜形成用薬液を調製する前の、撥水性保護膜形成剤(ケイ素化合物)と有機溶媒に含まれる水分の総量が、該撥水性保護膜形成剤と有機溶媒の総量に対し少ないほど、より優れた撥水性付与効果を示すことが確認された。また、実施例5及び15の結果から分かるように、ケイ素化合物がプロトンを受容した際に副生する化合物が、固体である実施例15では、上述の固形物の付着が僅かに確認された一方で、副生する化合物が液体である実施例5では固形物の付着が確認されず、廃薬液容器投入口の清浄性がより優れた結果であった。
【0084】
[比較例1]
表2に示すように、ケイ素化合物の種類や濃度などの条件を変更して、それ以外は実施例1と同様にウェハの表面処理を行い、さらにその評価を行った。なお、本比較例1において表2中の出発原料とは、薬液調製前のケイ素化合物と有機溶媒のことを意味する。
比較例1は、2-トリメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジンの代わりにトリメチルメトキシシランを含有させた保護膜形成用薬液を用いた実験例であり、表面処理後の接触角が10°未満と低く、撥水性付与効果は見られなかった。
【0085】
【0086】
[参考例1~2]
参考例として、特許文献1、2の実施例に示す保護膜形成用薬液を用いて、それ以外は実施例1と同様にウェハの表面処理を行い、さらにその評価を行った。結果を表2に示す。
参考例1は、特許文献1の実施例22を参考とし、トリメチルクロロシラン〔(CH3)3SiCl〕;3g、トルエン;97gを混合して得られた保護膜形成用薬液を用いてウェハの表面処理を行ったところ、表面処理後の接触角が65°であり、撥水性付与効果を示した。なお、本参考例1において表2中の出発原料とは、薬液調製前のトリメチルクロロシランとトルエンのことを意味する。
参考例2は、特許文献2の実施例4を参考とし、トリメチルメトキシシラン〔(CH3)3Si-OCH3〕;3g、トリフルオロメタンスルホン酸〔CF3SO3H〕;1g、PGMEA;96gを混合して得られた保護膜形成用薬液を用いてウェハの表面処理を行ったところ、表面処理後の接触角が84°であり、撥水性付与効果を示した。なお、本参考例2において表2中の出発原料とは、薬液調製前のトリメチルメトキシシランとトリフルオロメタンスルホン酸とPGMEAのことを意味する。
【0087】
[実施例16]
保護膜形成用薬液の代わりに、液体状態の保護膜形成剤として2-トリメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジンを用いた以外は実施例1と同様にウェハの表面処理を行い、さらにその評価を行った。なお、2-トリメチルシリル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジンは、25℃、1.0気圧で液体状態である。
その結果、表面処理前の初期接触角が10°未満であったものが、表面処理後の接触角は92°となり、優れた撥水性付与効果を示した。また、上述の固形物の付着は確認されず、廃薬液容器投入口の清浄性が優れた結果であった。
【0088】
本発明の液体の撥水性保護膜形成剤又は保護膜形成用薬液の撥水性付与効果は、参考例の保護膜形成用薬液の撥水性付与効果と同等であった。よって、従来の保護膜形成用薬液と同等の撥水性付与効果を示す、撥水性保護膜を形成する成分が塩素原子を含まず、保護膜形成を促進する成分を必須としないような、新規の保護膜形成剤又は新規の保護膜形成用薬液を見出すことができた。
【符号の説明】
【0089】
1: ウェハ
2: ウェハ表面の微細な凹凸パターン
3: パターンの凸部
4: パターンの凹部
5: 凹部の幅
6: 凸部の高さ
7: 凸部の幅
8: 凹部4に保持された液体の撥水性保護膜形成剤又は保護膜形成用薬液
9: 凹部4に保持された液体
10: 保護膜