(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-12
(45)【発行日】2022-10-20
(54)【発明の名称】鉄系焼結体とそのレーザーマーキング方法並びに製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/00 20140101AFI20221013BHJP
B41M 5/26 20060101ALI20221013BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20221013BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20221013BHJP
【FI】
B23K26/00 B
B41M5/26
C22C33/02 Z
C22C38/00 304
(21)【出願番号】P 2019552735
(86)(22)【出願日】2018-10-30
(86)【国際出願番号】 JP2018040311
(87)【国際公開番号】W WO2019093194
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2017214263
(32)【優先日】2017-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139387
【氏名又は名称】森田 剛史
(74)【代理人】
【識別番号】100149191
【氏名又は名称】木村 成利
(72)【発明者】
【氏名】寺井 寛明
(72)【発明者】
【氏名】田内 正之
(72)【発明者】
【氏名】縄稚 賢治
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-206130(JP,A)
【文献】特開2017-014552(JP,A)
【文献】特開2008-189956(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00
B22F 3/24
B41M 5/26
C22C 33/02
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のレーザー光により、鉄系焼結体表面の識別マーク用のエリアに、所定深さのドット状の凹部を複数個形成する第1工程と、
第2のレーザー光により、前記ドット状の凹部以外の前記識別マーク用のエリアの表面を平坦化する第2工程と、を含み、
前記第1のレーザー光の単位面積あたりの照射エネルギーが、前記第2のレーザー光の単位面積あたりの照射エネルギーよりも大きく、
前記第1工程は、前記識別マーク用のエリア内の一部領域であるセルの内部を、前記第1のレーザー光を外側から内側へ向かって、円形状または多角形状の渦巻き状に回転させて、複数回照射する工程を含む、鉄系焼結体のレーザーマーキング方法。
【請求項2】
前記第1のレーザー光は、単位スポットあたりの平均出力が20W以上でかつ50W以下、スポット径が0.010mm以上でかつ0.060mm以下、走査速度が250mm/s以上でかつ320mm/s以下であり、
前記第2のレーザー光は、単位スポットあたりの平均出力が10W以上でかつ25W以下、スポット径が0.010mm以上でかつ0.060mm以下、走査速度が1700mm/s以上でかつ3000mm/s以下である、請求項
1に記載の鉄系焼結体のレーザーマーキング方法。
【請求項3】
前記第1のレーザー光は、単位面積あたりの照射エネルギーが1.0J/mm
2
以上でかつ7.0J/mm
2
以下であり、
前記第2のレーザー光は、単位面積あたりの照射エネルギーが0.05J/mm
2
以上でかつ0.50J/mm
2
以下である、請求項1に記載の鉄系焼結体のレーザーマーキング方法。
【請求項4】
圧粉成形体の表面の第1のエリアに、第1の識別マークを形成する工程と、
前記圧粉成形体を焼結してなる鉄系焼結体の表面の第2のエリアに、第2の識別マークを形成する工程と、を含み、
前記第2の識別マークは、第1のレーザー光により、前記第2のエリアに、所定深さのドット状の凹部を複数個形成する第1工程と、
第2のレーザー光により、前記ドット状の凹部以外の前記第2のエリアの表面を平坦化する第2工程と、を含み、
前記第1のレーザー光の単位面積あたりの照射エネルギーが、前記第2のレーザー光の単位面積あたりの照射エネルギーよりも大きいレーザーマーキング方法によって形成される、鉄系焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記第1の識別マークの形成方法が、レーザーマーキング方法である請求項4に記載の鉄系焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記第1の識別マークの形成方法が、第3のレーザー光により、前記圧粉成形体の表面の前記第1のエリアに所定深さのドット状の第1の凹部を複数個形成する1-1工程と、
第4のレーザー光により、前記ドット状の第1の凹部以外の前記第1のエリアの表面を平坦化する1-2工程と、を含み、
前記第3のレーザー光の単位面積あたりの照射エネルギーが、前記第4のレーザー光の単位面積あたりの照射エネルギーよりも大きい請求項4または請求項5に記載の鉄系焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄系焼結体とそのレーザーマーキング方法並びに製造方法に関する。
本出願は、2017年11月7日出願の日本出願第2017-214263号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、シリコン基板の表面にレーザービームを照射して、半円球状の凹部であって平面円形のドットを形成し、明暗模様のマトリックスによる二次元コードを形成する方法が記載されている。特許文献2には、アルミナチタンカーバイドから成る焼結体にレーザー光を照射することによって、焼結体に凹部を形成し、それによって識別情報を書き込む焼結体へのマーキング方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-238656号公報
【文献】特開2001-334753号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様に係る方法は、第1のレーザー光により、鉄系焼結体表面の識別マーク用のエリアに、所定深さのドット状の凹部を複数個形成する第1工程と、第2のレーザー光により、前記ドット状の凹部以外の前記エリア内表面を平坦化する第2工程とを含み、第1のレーザー光の単位面積あたりの照射エネルギーが、第2のレーザー光の単位面積あたりの照射エネルギーよりも大きい鉄系焼結体のレーザーマーキング方法である。
【0005】
本開示の一態様に係る鉄系焼結体は、表面の一部に識別マーク用のエリアを備え、前記エリア内に識別マークを構成するドット状の凹部を有し、前記識別マーク用のエリア外の表面であって前記識別マーク用のエリアの外周をなす表面を基準高さとした場合に、凹部の深さが70μm以上で200μm以下であり、凹部の外周縁部には、高さが0μm以上で300μm以下である凸部を有する鉄系焼結体である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態に係る鉄系焼結体の製造工程を説明するフロー図である。
【
図2A】
図2Aは、識別マーク形成前の鉄系焼結体を説明する斜視図である。
【
図2B】
図2Bは、識別マークが形成された鉄系焼結体の斜視図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る識別マークの一態様を説明する図である。
【
図4】
図4は、第1および第2のレーザー光の走査軌跡の一例を説明する模式図である。
【
図5A】
図5Aは、第1工程前の識別マーク用のエリアの鉄系焼結体表面を表す平面図である。
【
図6A】
図6Aは、
図5Aの表面に対して第1工程を施した後の鉄系焼結体の表面を表す平面図である。
【
図7A】
図7Aは、
図6Aの表面に対して第2工程を施した後の鉄系焼結体の表面を表す平面図である。
【
図8A】
図8Aは、識別マーク用のエリア、その外周部分、およびドット状の凹部を含む鉄系焼結体の表面を表す平面図である。
【
図8B】
図8Bは、
図8A中の直線L上に沿ったドット状の凹部とその周辺の表面凹凸プロファイルを表す図である。
【
図9】
図9は、鉄系焼結体の製造工程における識別マーク形成方法の別の態様を説明するフロー図である。
【
図10A】
図10Aは、第1の識別マークが形成された圧粉成形体を説明する斜視図である。
【
図10B】
図10Bは、第1の識別マークが消失または劣化した鉄系焼結体を説明する斜視図である。
【
図10C】
図10Cは、第2の識別マークが形成された鉄系焼結体を説明する斜視図である。
【
図11】
図11は、鉄系焼結体表面に形成された識別マークの一例の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
金属粉末を原料に用いた焼結体については、発明者らの焼結製品工場において、市販のレーザーマーカー装置等を用いて、焼結製品の表面に直接レーザー光を照射し、二次元コードを有する識別マークを形成する方法が、製品の出荷情報管理用に検討されている。
【0008】
レーザー光を製品等に照射して識別マークを形成する方法(以下、「レーザーマーキング方法」という。)は、レーザーエネルギーによって所定の表面にドット状の凹部を複数形成させることにより構成される。これらのドット状の凹部を暗部、それ以外の部分を明部として、明瞭なコントラストを形成できれば、例えば二次元コードのような識別情報として使用することができる。
【0009】
識別マークに求められる最も重要な品質のひとつは、形成したドットがコードリーダー等によって確実に読み取られることである(以下、「可読性」という)。ドットの位置を正確に認識するための暗部と明部のコントラストが不明瞭、すなわち暗部であるべきドット部分が明るくなったり、逆に明部であるべき部分が暗くなったりすると、コードリーダーはそのドットを認識することができない。
識別マークの読み取り不能または不調が起こると、収集データや情報の欠落が発生する。すると、出荷品管理、生産管理、トレーサビリティや品質・工程管理において、管理システムの信頼性や健全性が損なわれ、製造現場において本来の目的や機能を十分に発揮することができない。
したがって、その可読性は100%であること、あるいは100%に限りなく近いという高く安定した品質が求められる。
【0010】
鉄系材料を含む金属粉末を原料に用いた焼結体(以下、単に「鉄系焼結体」という。)の従来のレーザーマーキング方法は、例えば市販のレーザーマーカー装置等を用い、ドットを形成する位置に所定のエネルギーを有するレーザー光を照射して、所定の深さと外径を有する凹部を形成させる方法である。
しかしながら、従来の方法によって形成された識別マークの可読性には、改善の余地がある。
【0011】
鉄系焼結体は、鉄系材料の粒子同士が焼結によって強固に結合しているため、表面に凹部を形成するために必要なレーザー光のエネルギーは、樹脂やシリコンなどの他の材料に比べて大きい。その結果、加工時の揮発物または飛散物の発生も顕著に多くなり、加工部周辺にそれらの再析出または再付着が起こる。
【0012】
発明者らは、鉄系焼結体の従来のレーザーマーキング方法によって得られた識別マークの可読性が低下する要因を調査した。その結果、ドット以外の部分、特にドットの外周縁部が暗くなる傾向があり、それによりドットとそれ以外とのコントラストが不明瞭になること、そしてその原因が、外周縁部に堆積した再析出物・再付着物にあることを明らかにした。
【0013】
本開示は、かかる従来の問題点に鑑み、コードリーダー等による可読性の良い識別マークを形成するための鉄系焼結体のレーザーマーキング方法、製造方法及び鉄系焼結体を提供することを目的とする。
【0014】
[本開示の効果]
本開示によれば、コードリーダー等による可読性の良い識別マークを形成するための鉄系焼結体のレーザーマーキング方法、製造方法及び鉄系焼結体を提供することができる。
【0015】
[本開示の実施形態の概要]
以下、本開示の実施形態の概要を列記して説明する。
【0016】
(1)本開示の実施形態に係る方法は、鉄系焼結体のレーザーマーキング方法であって、第1のレーザー光により、鉄系焼結体表面の識別マーク用のエリアに、所定深さのドット状の凹部を複数個形成する第1工程と、第2のレーザー光により、前記ドット状の凹部以外の前記識別マーク用のエリア内表面を平坦化する第2工程とを含み、第1のレーザー光の単位面積あたりの照射エネルギーが、第2のレーザー光の単位面積あたりの照射エネルギーよりも大きい。
【0017】
本開示の実施形態に係るレーザーマーキング方法によれば、第1工程にて前記識別マーク用のエリアに上記ドット状の凹部を形成する際に、第1のレーザー光により加工時に発生する揮発物または飛散物が、前記凹部以外の表面部分、特に前記凹部の外周縁部に再析出または再付着し堆積する。これらを第2のレーザー光により除去して、前記凹部以外の表面部分をより平坦にする。この際、第2のレーザー光の単位面積あたりの照射エネルギーを第1のレーザー光の単位面積あたりの照射エネルギーよりも小さくすることにより、前記凹部と前記凹部以外の表面部分のコントラストがより明瞭になる。その結果、コードリーダーによる可読性の良い識別マークを形成することができる。
【0018】
(2)本開示の実施形態に係るレーザーマーキング方法において、前記第1工程は、前記識別マーク用のエリア内の一部領域であるセルの内部を、前記第1のレーザー光を外側から内側へ向かって、円形状または多角形状の渦巻き状に回転させて、複数回照射する工程を含むことが好ましい。
【0019】
上記の回転照射を複数回実行すれば、ほぼ円形のドット状の凹みが得られ、光の反射率の差で前記凹部を暗部として、明確に識別できるようになり、コードリーダーで読み取ることが容易になるからである。
【0020】
(3)本開示の実施形態に係るレーザーマーキング方法において、前記第1のレーザー光は、単位面積あたりの照射エネルギーが1.0 J/mm2以上でかつ7.0 J/mm2以下であることが好ましい。さらに、前記第2のレーザー光は、単位面積あたりの照射エネルギーが0.05 J/mm2以上でかつ0.50 J/mm2以下であることが好ましい。
【0021】
レーザー光の単位面積あたりの照射エネルギー(単位:J/mm2、以下、「単位:」は省略)とは、レーザー光の単位スポットあたりの平均出力(W)に単位面積あたりを走査するのにかかる照射時間(s/mm2、以下、「単位面積あたりの照射時間)という)を乗じたものとして定義される。単位スポットあたりの平均出力は、CWレーザーの場合は単位時間当たりのエネルギー、パルスレーザーの場合はパルスエネルギー(J)に繰返し周波数(1/s)を乗じたものとして定義される。
【0022】
第1のレーザー光の単位面積あたりの照射エネルギーが1.0 J/mm2未満の場合には、所望深さの前記凹部を形成できない可能性がある。より好ましくは2.0J/mm2以上である。7.0 J/mm2を超える場合には、揮発物または飛散物が多くなりすぎて再析出物または再付着物が顕著に増加し、後の第2のレーザー光で十分除去できない可能性があるので、好ましくない。より好ましくは5.0J/mm2以下である。
第2のレーザー光の単位面積あたりの照射エネルギーが0.05 J/mm2未満の場合には、前記凹部の外周縁部に堆積した再析出物または再付着物を十分除去できない、あるいは表面の平坦化が十分になされない可能性がある。より好ましくは0.10J/mm2以上である。0.50 J/mm2を超える場合には、前記凹部以外の表面部分が黒色化する可能性があり、明部となるべき部分が暗くなるため、第1のレーザー光で形成した前記凹部との区別が付き難くなるから、好ましくない。より好ましくは0.30J/mm2以下である。
【0023】
(4)本開示の実施形態に係るレーザーマーキング方法において、前記第1のレーザー光は、単位スポットあたりの平均出力が20W以上でかつ50W以下、スポット径が0.010mm以上でかつ0.060mm以下、走査速度が250mm/s以上でかつ320mm/s以下であり、前記第2のレーザー光は、単位スポットあたりの平均出力が10W以上でかつ25W以下、スポット径が0.010mm以上でかつ0.060mm以下、走査速度が1700mm/s以上でかつ3000mm/s以下であることが好ましい。
【0024】
レーザー光の単位スポットあたりの平均出力をp、スポット径をr、走査速度をv、単位面積あたりの照射時間をt、そして単位面積あたりの照射エネルギーをeとすると、これらの関係は、次式であらわされる。
e=p×t ・・・(式1)
ここで、t=1/(r×v)より、
e=p/(r×v)・・・(式2)
式2より、eの値の範囲は、p、r、およびvの値によって決まることから、eについて好適な範囲を実現するために必要なp、r、およびvの好適な範囲を規定する。
【0025】
第1のレーザー光の単位スポットあたりの平均出力pが20W未満の場合には、パワーが弱いために所望深さの前記凹部を形成できない可能性があり、好ましくない。より好ましくは30W以上である。50Wを超える場合には、パワーが強いために揮発物または飛散物が多くなりすぎて再析出物または再付着物が顕著に増加し、後の第2のレーザー光で十分除去できない可能性があるので、好ましくない。より好ましくは40W以下である。
また、第2のレーザー光の平均出力pが10W未満の場合には、パワーが弱いために前記凹部の外周縁部に堆積した再析出物または再付着物を除去できない可能性があるため、表面の平坦化に不適であり、好ましくない。より好ましくは13W以上である。25Wを超える場合には、パワーが強いために前記凹部以外の部分が黒色化する可能性があり、第1のレーザー光で形成するドットとの区別が付き難くなるので好ましくない。より好ましくは20W以下である。
【0026】
第1のレーザー光の走査速度vが250mm/s未満の場合には、速度が遅いために揮発物または飛散物が顕著に増加する可能性があり好ましくない。より好ましくは、270mm/s以上である。走査速度vが320mm/sを超える場合には、速度が速いために所望深さの前記凹部を形成できない可能性があり好ましくない。より好ましくは、300mm/s以下である。
第2のレーザー光の走査速度vが1700mm/s未満の場合には、速度が遅いために前記凹部以外の部分が黒色化する可能性があり、第1のレーザー光で形成した前記凹部との区別が付き難くなり好ましくない。より好ましくは2000mm/s以上である。走査速度が3000mm/sを超える場合には、速度が速いために前記凹部の外周縁部に堆積した再析出物または再付着物を、十分に除去できない可能性があるので好ましくない。より好ましくは、2700mm/s以下である。
【0027】
第1のレーザー光のスポット径rが0.010mm未満の場合には、スポット径rが小さいため、式2に示すように単位面積あたりの照射エネルギーeが大きくなり、揮発物または飛散物が顕著に増加する可能性があり、スポット径rが0.060mmを超える場合には、単位面積あたりの照射エネルギーeが小さくなり、所望深さの前記凹部を形成できない可能性があるため、好ましくない。
第2のレーザー光のスポット径rが0.010mm未満の場合には、単位面積あたりの照射エネルギーeが大きくなり、前記凹部以外の表面部分が黒色化する可能性があり、第1のレーザー光で形成した前記凹部との区別が付き難くなり、スポット径rが0.060mmを超える場合には、単位面積あたりの照射エネルギーeが小さくなるため、前記凹部の外周縁部に堆積した再析出物または再付着物を、十分に除去できない可能性があるので、好ましくない。
【0028】
(5)本開示の一形態に係る鉄系焼結体の製造方法は、圧粉成形体の表面の第1のエリアに、第1の識別マークを形成する工程と、前記圧粉成形体を焼結してなる焼結体の表面の第2のエリアに、第2の識別マークを形成する工程とを含み、前記第2の識別マークは、本開示の形態に係るレーザーマーキング方法によって形成される。
【0029】
すなわち、圧粉成形体および焼結体のいずれにも識別マークを付与することにより、中間製品から完成品までの工程ごと、および個々の製品ごとの品質管理や工程管理等が可能になる。圧粉成形体の表面に形成された第1の識別マークが完成品まで消滅せずに鮮明に残っていれば、第2の識別マークをあえて形成する必要はない。しかしながら1000℃以上の焼結工程を経ると、第1の識別マークが消失したり見えにくくなったりする場合がある。そういった場合には、焼結後に第2の識別マークを新たに形成する必要がある。その際の第2の識別マークを、本発明の形態に係るレーザーマーキング法によって形成することにより、焼結工程後にコードリーダー等による可読性の良い識別マークを確保することができる。
【0030】
(6)前記第1の識別マークの形成方法は、レーザーマーキング方法であることが好ましい。圧粉成形体において、識別マークをコードリーダー等による可読性の良いものにすることができ、また焼結工程を経ても消失しにくいものにすることができるからである。焼結後に第1の識別マークが完全に消失しない場合でも、それが見えにくくなったり、別の目的で新たな識別情報の表示が必要になったりした場合には、第2の識別マークを形成することができる。
【0031】
(7)前記第1の識別マークの形成方法は、前記第1の識別マークの形成方法が、第3のレーザー光により、前記圧粉成形体の表面の前記第1のエリアに所定深さのドット状の第1の凹部を複数個形成する1-1工程と、第4のレーザー光により、前記ドット状の第1の凹部以外の前記第1のエリアの表面を平坦化する1-2工程と、を含み、前記第3のレーザー光の単位面積あたりの照射エネルギーが、前記第4のレーザー光の単位面積あたりの照射エネルギーよりも大きいことがより好ましい。
すなわち、圧粉成形体に前記第1の識別マークを形成するレーザーマーキング方法は、本発明の形態に係る鉄系焼結体へのレーザーマーキング方法と同一の方法とすることがより好ましい。それによって圧粉成形体の段階でのコードリーダーの可読性が良く、焼結後も消失や劣化しにくい識別マークとすることができる。
【0032】
(8)本開示の実施形態に係る鉄系焼結体は、表面の一部に識別マーク用のエリアを備え、前記識別マーク用のエリア内に識別マークを構成するドット状の凹部を有し、前記識別マーク用のエリア外の表面であって、前記識別マーク用のエリアの外周をなす前記表面を基準高さとした場合に、前記凹部の深さが70μm以上で200μm以下であり、前記凹部の外周縁部には、高さが0μm以上で300μm以下である凸部を有する鉄系焼結体である。0μm以上としたのは、0μmすなわち凸部を有しない場合をも含む意味である。
【0033】
前記識別マークは、前記凹部を暗部、前記凹部以外の表面部分を明部として構成される。凹部の深さ、凹部の外周縁部の凸部の高さを所定の大きさに調節することにより、明暗のコントラストを高め、コードリーダーの可読性を良くすることができる。
前記凹部の深さが70μm未満だとその暗さが目立たず、深さが200μmを超えると析出物又は付着物により、前記凹部の外周縁部も暗くなるため好ましくない。また、前記凹部の外周縁部の凸部の高さが300μmを超えると、前記凹部の周辺部分も暗くなり、ドットが暗部としてクリアに認識できなくなるため好ましくない。
【0034】
(9)前記凹部の形状は、開口端部の平面視が円形であり、かつ側壁部は底部に向かって開口径が単調減少する曲線形状であることが好ましい。ここで円形とは、厳密な意味での完全な円では無く、概ね角が明瞭では無い多角形状や不定形状をも含む広い概念としての略円形を意味する。
これによって前記凹部が暗部として安定し、その結果コードリーダーの可読性が安定する。
【0035】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面を参照しつつ、本実施形態に係る鉄系焼結体および圧粉成形体のレーザーマーキング方法、前記凹部および凸部の測定方法、コードリーダーによる可読性の評価方法、並びに鉄系焼結体の製造工程の詳細について具体例を説明する。
図面は特に記載がない限り、説明を明確にするための概略図である。よって、部材の大きさや位置関係等は、誇張したり見やすい比率で記載されたりしている。複数の図面に表れる同一符号の部分は同一の部分又は部材を示す。なお、図面の参照や説明の都合において必要に応じて上下左右の方向や位置関係を示す用語を用いるが、それらの用語の使用は発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本開示の技術的範囲が制限されるものではない。
【0036】
[鉄系焼結体の識別マークとそのレーザーマーキング方法]
図1は、本発明の実施形態に係る鉄系焼結体の製造工程を説明するフロー図である。
鉄系焼結体の原料から完成品までの製造工程は、主として金属粉末10aに潤滑剤10bを添加する混合工程20、圧粉成形体を作製するプレス成形工程30、圧粉成形体を焼結する焼結工程40、得られた焼結体に識別マークを形成する識別マーク形成工程41、その後焼結体を再度圧縮することにより寸法精度を高めるサイジング工程50及び熱処理工程60などから成る。
【0037】
ここで、識別マーク形成工程41は、具体的にはレーザーマーキング工程41aによって行われ、第1のレーザー光を用いる第1工程41bと第2のレーザー光を用いる第2工程41cを含む。識別マーク形成工程41は、焼結工程40の直後に行うことが最も好ましいが、これに限定されず、目的、用途によっては、サイジング工程50または熱処理工程60の後に行うこともできる。
【0038】
図2Aは、識別マーク形成前の鉄系焼結体G10を説明する斜視図であり、
図2Bは識別マークC1が形成された鉄系焼結体G11の斜視図である。鉄系焼結体G10、G11は、識別マークが形成可能な表面部分を有する。ここでは焼結製品の一例として、スプロケットが例示されているが、スプロケット以外の製品であってもよい。
【0039】
本実施形態に係るレーザーマーキング方法は、焼結工程後の鉄系燒結体G11の表面に識別マークC1が形成されることを特徴の一つとする。識別マークとしては、単純な番号や記号の他、バーコードのような一次元コード、データマトリックス型の二次元コード又はQRコード(「QR コード」は登録商標である。) などが挙げられる。本実施形態の識別マークC1では、1つの製品に対する識別マークの大きさ、範囲をなるべく小さくする観点から、二次元コードよりなる識別マークを採用している。
【0040】
図3は、本実施形態に係る識別マークC1の一態様を説明する図である。鉄系焼結体表面上の前記識別マーク用のエリア1の領域内に、二次元コード2が存在する。すなわち、前記識別マーク用のエリア1のサイズは、二次元コード2と同等サイズ、あるいは二次元コード2より大きい。二次元コード2は、所定サイズに仕切られた升目状の区画を一単位とした複数のセル3の集合体として構成されており、そのうちの所定位置のセル3の内側に、前記凹部4が形成されている。
図3において二点鎖線と矢印によって示されるのは、複数のセル3の内の1つを拡大したものである。
【0041】
二次元コード2には、1つの鉄系焼結体G11をユニークに特定可能であり、焼結工程の前後に定義可能な種々の履歴情報が記録される。例えば、製品シリアル番号、ロット番号、焼結工程における焼結時間や温度、時刻、焼結炉のコード番号、図面のコード番号、または工場のコード番号などを含むことができる。これらの情報は、前工程の成形工程における成形時間、成形時刻(年月日とその日の時分秒)、プレス成形機のコード番号などの情報と、蓄積されたデータベース上でネットワークを通じてリンクさせることができる。
【0042】
レーザーマーキングの装置としては、例えば市販のレーザーマーカーやその他のレーザー加工装置が用いられる。
【0043】
図2Bを参照し、鉄系焼結体G11(外径約100mm)の表面部分に形成される識別マークC1の形状は特に限定されないが、四角形状が通常用いられる。
図3を参照し、識別マークC1用のエリア1の大きさは、コードに含ませるセル数によって異なるが、縦の長さをH、横の長さをWとすると、それらの数値範囲は、例えば、2.5mm≦H≦3.5mm、8mm≦W≦11mmとすることが好ましい。
【0044】
図4は、第1および第2のレーザー光の走査軌跡の一例を説明する模式図である。
図4は
図3に対応しており、下段部分に前記識別マーク用のエリア1を、上段部分に二点鎖線と矢印によって示されたその1つのセルを示している。
図4上段の図は、セル3の内部での第1のレーザー光の走査軌跡5を示しており、
図4下段の図は、前記識別マーク用のエリア1内での第2のレーザー光の走査軌跡6を示している。
【0045】
図4上段を参照し、第1工程では、セル3に第1のレーザー光を照射する際に、走査軌跡5のように、セル3の内部を外側から内側へ向かって渦巻き状に回転するように照射する。その結果、セル3の内部に前記凹部4が形成される。前記凹部4のより好ましい形状は、開口端部の平面視がほぼ円形であり、かつ側壁部は底部に向かって開口径が単調減少する曲線形状である。ここで円形とは、既述の通り厳密な意味での完全な円では無く、概ね角が明瞭では無い多角形状や不定形状をも含む広い概念としての略円形を意味する。
【0046】
ここで、セル3のサイズは、例えば1辺が150~270μmの正方形である。第1のレーザー光の回転照射の走査軌跡5は、四角形の渦巻き状が望ましいが、多角形の渦巻き状であってもよいし、円形の渦巻き状であってもよい。セル内に描かれる渦巻き状の軌跡が1個できるレーザー光の走査を、1回の回転照射とした場合、その回転照射は一つのセルに複数回、重ねて行うのが好ましい。より好ましくは、2~3回である。
【0047】
前記凹部4の直径は、コードリーダーによる読み取りが容易で、かつセル3からはみ出さず、かつ隣接する凹部に悪影響を及ぼさなければ、特に限定されない。具体的には、その直径は、50μm以上でかつ140μm 以下であることが好ましい。50μm未満だとサイズが小さく、通常のコードリーダーで暗部として認識しにくくなるため、好ましくない。140μmより大きいと、第1工程で前記凹部4の外周縁部に生じる再析出物または再付着物が、隣接する凹部の内部にも析出又は付着し、その形成に悪影響を及ぼすおそれが高くなるため、好ましくない。より好ましくは、下限は70μm以上、上限は120μm以下である。
【0048】
図4下段を参照し、第2工程では、前記凹部4形成後の前記識別マーク用のエリア1全体にわたって、第2のレーザー光を走査軌跡6のように直線状に往復させて走査する。
これにより、第1工程で生じる前記凹部4の外周縁部の再析出物または再付着物を除去し、前記凹部4以外の表面部分を平坦化することができる。
本実施形態では第2のレーザー光の走査軌跡6として、前記識別マーク用のエリア1の長辺方向に往復する形態としたが、前記識別マーク用のエリア1全体を走査できる方法であれば特に限定されない。短辺方向での往復でも良いし、往復走査とせずに同方向に繰り返す操作であっても良い。
【0049】
第2のレーザー光は、第1のレーザー光に比べて高い走査スピードで、縞模様を描くように行う。レーザー光のスポット径を小さくして、きめ細かく塗りつぶすことにより、前記凹部以外の部分がよりきれいに滑らかに仕上がる。もっとも、スポット径の小径化には限界があり、細か過ぎると走査時間も長くなるため、用途に応じてレーザー光のスポット径を調整し、加工線幅や、本数を設定すればよい。
【0050】
なお、走査軌跡6に示すような線状(縞模様状)走査による処理は、第1工程の前に、前記識別マーク用のエリア1の下地処理に用いることもできる。このような下地処理をすると、前記識別マーク用のエリア1全体の表面がより平坦になり明るく見えるので、前記凹部形成後の明部としてコントラストがより明瞭になるため、より好ましい。
【0051】
図5A、
図5B、
図6A、
図6B、
図7A、および
図7Bは、本発明の実施形態に係るレーザーマーキング法の一態様を説明する一連の模式図である。
図5Aは第1工程前の前記識別マーク用のエリア1の鉄系焼結体表面を表す平面図、
図5Bは
図5AにおけるS1-S2断面を表す断面図である。
図6Aは
図5Aの表面に対して第1工程を施した後の鉄系焼結体の表面を表す平面図、
図6Bは
図6AにおけるS3-S4断面を表す断面図である。
図7Aは
図6Aの表面に対して第2工程を施した後の鉄系焼結体の表面を表す平面図、
図7Bは
図7AにおけるS5-S6断面を表す断面図である。
【0052】
図5Aおよび
図5Bを参照し、前記識別マーク用のエリア1は、鉄系焼結体の表面の一部である。表面の凹凸状態に応じて、あらかじめレーザー光による下地処理を行ってもよい。その際のレーザー加工条件は特に限定されないが、好ましくは、
図4で説明したような第2のレーザー光と同様の条件が採用される。その場合は、前記識別マーク用のエリア1の全体にわたって、レーザー光を直線状(縞模様状)に往復させて走査することができる。
【0053】
図6Aおよび
図6Bを参照し、第1工程において、第1のレーザー光により、鉄系焼結体表面の前記識別マーク用のエリア1に、前記凹部4を形成する。その際、前記凹部4の外周縁部には、レーザー加工時に生成する鉄系焼結体特有の揮発物または飛散物が、再析出または再付着により堆積し、凸部7が形成される。
【0054】
図7Aおよび
図7Bを参照し、第2の工程において、第2のレーザー光を前記識別マーク用のエリア1内の全体にわたって走査することにより、前記凹部4以外の表面を平坦化する。その際、第1工程で生成した再析出物または再付着物が除去され、凸部7の高さが減少する。
その際に、第2のレーザー光の単位面積あたりの照射エネルギーを、第1のレーザー光の単位面積あたりの照射エネルギーよりも小さくなるように設定する。その結果、凸部7の高さが減少すると同時に、前記凹部の暗部とそれ以外の部分の明部とのコントラストが明瞭になり、コードリーダーの可読性が良くなる。
【0055】
第1工程および第2工程において、第1のレーザー光および第2のレーザー光の単位面積あたりの照射エネルギーの好ましい数値範囲は、次の通りである。例えば、第1のレーザー光は、単位面積あたりの照射エネルギーが1.0J/mm2以上でかつ7.0J/mm2以下であり、前記第2のレーザー光は、単位面積あたりの照射エネルギーが0.05 J/mm2以上でかつ0.50 J/mm2以下であることが好ましい。
【0056】
単位面積あたりの照射エネルギーは、単位スポットあたりの平均出力、スポット径、走査速度により定義される(既述、式2)。
第1および第2のレーザー光の単位面積あたりの照射エネルギーを好適な範囲とするために、好ましい数値範囲は以下の通りである。
第1のレーザー光は、単位スポットあたりの平均出力が20W以上でかつ50W以下、スポット径が0.010mm以上でかつ0.060mm以下、走査速度が250mm/s以上でかつ320mm/s以下である。
第2のレーザー光は、単位スポットあたりの平均出力が10W以上でかつ25W以下、スポット径が0.010mm以上でかつ0.060mm以下、走査速度が1700mm/s以上でかつ3000mm/s以下である。
【0057】
[ドット状の凹部の深さおよび外周縁部の凸部の高さの定義]
図8Aおよび
図8Bは、前記凹部4の深さおよびその外周縁部の凸部7の高さの定義を説明する模式図である。このうち、
図8Aは、前記識別マーク用のエリア1、その外周部分8、および前記凹部4を含む鉄系焼結体の表面を表す平面図であり、
図8Bは、
図8A中の直線L上に沿った前記凹部4とその周辺の表面凹凸プロファイルを表す図である。
【0058】
図8Aおよび
図8Bを参照し、前記凹部4の深さおよび凸部7の高さの測定方法を説明する。前記識別マーク用のエリア1内の前記凹部4の深さおよび凸部7の高さを測定するための基準面は、前記識別マーク用のエリア1の外周をなす外周部分8の表面とする
【0059】
前記識別マーク用のエリア1内の前記凹部4の表面の内接円の中心を通り、境界cおよび外周部分8を横切る直線Lに沿って、表面の凹凸プロファイルを測定する。表面の凹凸プロファイルの測定には、市販のマイクロスコープ装置、3次元形状測定機、レーザー変位計または非接触式表面粗さ計等、測定対象サンプルの表面凹凸状態に応じて測定可能な3次元形状測定装置が適宜選択され、用いられる。
【0060】
図8Bを参照し、外周部分8の凹凸プロファイルを最小二乗法によって近似した直線L1を基準高さとする。直線L1の長さは、境界cに最も近い測定対象となる前記凹部4を選定し、境界cから測定対象の前記凹部4までの距離と同等以上2倍以下程度とすればよい。凹部4の深さdは、凹部の最底部aと接しかつL1と平行な直線L2とL1との距離とし、凸部7の高さhは、凸部の最頂部bと接しかつL1と平行な直線L3とL1との距離とする。
【0061】
第1工程および第2工程において、第1のレーザー光で形成される前記凹部4の深さは、その暗さが暗部としてより目立つためには、できるだけ深いことが好ましい。一方、第2のレーザー光で平坦化される凸部7の高さは、明部としてより目立つためには、できるだけ低く平坦な方が好ましい。
【0062】
このようにして測定した本実施形態に係る鉄系焼結体の前記凹部4の深さは、70μm以上で200μm以下であることが好ましく、凸部7の高さは0μm以上で300μm以下であることが好ましい。
【0063】
図6A、
図7Aおよび
図8Aの平面図に模式的に示したように、前記凹部4は開口端部の平面視がほぼ円形であることが好ましいが、例えば四角形状のような多角形であってもよい。また、
図6B、
図7Bの断面図および
図8Bの表面凹凸プロファイルに模式的に示したように、前記凹部4の側壁部は底部に向かって開口径が単調減少する形状であることが好ましい。これによって、前記凹部4の暗部としての状態が安定する。
【0064】
[鉄系焼結体の製造工程における識別マーク形成方法の別の態様]
図9は、鉄系焼結体の製造工程における識別マーク形成方法の別の態様を説明する フロー図である。
図1のフロー図との違いは、識別マークの形成を焼結工程40の後だけでなく、プレス成形工程30の後にも行うことであり、第1の識別マーク形成工程31と第2の識別マーク形成工程42以外の製造工程は
図1と同じである。第1の識別マーク形成工程31は、プレス成形工程30後の圧粉成形体表面の第1のエリア9に、第1の識別マークを形成する工程である。その後、焼結工程40後の焼結体表面の第2のエリア10に、第2の識別マークを形成する。第2の識別マーク形成工程42は、本発明の実施形態に係るレーザーマーキング工程42aを含み、さらに第1工程42bおよび第2工程42cを含む。
これらは、
図1のレーザーマーキング工程41a、第1工程41b、第2工程41cと実質同一の工程である。なお、前記第1のエリア9と前記第2のエリア10は同じ場所であってもよいし異なる場所であってもよい。
【0065】
第1の識別マーク形成工程31について、第1の識別マークが焼結後に消失してもよい場合は、例えば二次元コードに紙製の粘着シールを使用するなど、その形成方法は特に限定されないが、第1の識別マークを焼結後も使用する場合は、焼結後も形成したマークの劣化や変質の起こりにくいレーザーマーキング法を用いることが好ましい。より好ましくは、本発明の実施形態に係る鉄系焼結体のレーザーマーキング法を、圧粉成形体にも適用するのがよい。
【0066】
第1の識別マーク形成工程31におけるレーザーマーキング工程31aのより好ましい実施形態を以下に説明する。
第3のレーザー光により、圧粉成形体表面の前記第1のエリア9に、所定深さのドット状の第1の凹部を複数個形成する1-1工程31bと、第4のレーザー光により、前記第1の凹部以外の前記第1のエリア9内表面を平坦化する1-2工程31cとを含み、第3のレーザー光の単位面積あたりの照射エネルギーが、第4のレーザー光の単位面積あたりの照射エネルギーよりも大きいことがより好ましい。
【0067】
前記1-1工程31bは、前記第1のエリア9内にあるセルの内部を、第3のレーザー光を外側から内側へ向かって、円形状または多角形状の渦巻き状に回転させて、複数回照射する工程を含むことがより好ましい。
前記第3のレーザー光は、単位面積あたりの照射エネルギーが1.0 J/mm2以上で7.0 J/mm2以下であり、前記第4のレーザー光は、単位面積あたりの照射エネルギーが0.05 J/mm2以上で0.50 J/mm2以下であることがより好ましい。
【0068】
前記第3のレーザー光は、単位スポットあたりの平均出力が20W以上で50W以下、スポット径が0.010mm以上で0.060mm以下、走査速度が250mm/s以上で320mm/s以下であり、前記第4のレーザー光は、単位スポットあたりの平均出力が10W以上で25W以下、スポット径が0.010mm以上で0.060mm以下、走査速度が1700mm/s以上で3000mm/s以下であることがより好ましい。
【0069】
図10Aは、第1の識別マークが形成された圧粉成形体を説明する斜視図である。
図10Bは、第1の識別マークが消失または劣化した鉄系焼結体を説明する斜視図である。
図10Cは、第2の識別マークが形成された鉄系焼結体を説明する斜視図である。
【0070】
図10Aを参照し、圧粉成形体G01は第1の識別マークC0が形成された圧粉成形体であり、
図9に示す第1の識別マーク形成工程31によって作製される。圧粉成形体G01は、第1の識別マークC0が形成可能な表面部分を有する。
図10Bを参照し、鉄系焼結体G12は、第1の識別マークC0が
図9に示す焼結工程40を経ることによって消失または劣化して薄くなった鉄系焼結体である。
図10Cを参照し、鉄系焼結体G13は第2の識別マークC1が形成された鉄系焼結体であり、
図9に示す第2の識別マーク形成工程42によって作製される。
【0071】
図10Aに示す識別マークC0の付与または形成方法として、粘着シールの貼り付け、スタンプによる刻印、レーザーマーキングなどが可能である。焼結後も識別マークC0が消失せずにその機能が有効なまま維持されれば、中間製品(圧粉成形体~焼結体)から完成品までの一貫した生産管理、品質管理、製造履歴管理等に有効であることはいうまでもない。この場合は、識別マークC0が含む情報については、焼結後にあらためて識別マークを形成する必要はない。
【0072】
しかしながら、識別マークC0は、たとえレーザーマーキングで形成されたものであっても、1000℃を超える焼結条件によっては、消失したり、劣化してコントラストが不明瞭になったりして、コードリーダーで認識できなくなる場合がある(
図10B)。あるいは、識別マークC0に加えて、焼結後の履歴情報などを含む識別マークを新たに追加する場合も起こり得る。そういった場合には、焼結後にあらたに第2の識別マークC1を焼結体表面に形成する必要があり、本発明の形態に係る鉄系焼結体へのレーザーマーキング方法が有効となる。
【0073】
消失した第1の識別マークC0と同じ内容または新たな情報(焼結工程など)を含んだ第2の識別マークC1をレーザーマーキング方法で形成する際、識別マークC1の形成位置は、識別マークC0が形成されていた箇所には特に制約を受けず、必要に応じて決められる。ただし、識別マークC0が完全には消失せず、薄く残存している場合、あるいは識別マークC0と識別マークC1を共存させて使用する場合は、識別マークC1は識別マークC0との混同が生じないよう、識別マークC0と明確に区別できるような位置に形成される。
【0074】
[焼結製品に形成した識別マークのコードリーダーによる可読性の評価]
図11は、鉄系焼結体表面に形成された識別マークの一例の拡大写真である。前記識別マーク用のエリア1において、黒く見える部分が暗部(セルの内側に形成されたドット状の凹部)に相当し、これらが二次元コード2を形成している。この例の場合、第1のレーザー光をセルの内部で渦巻き状ではなく、直線状に往復させて走査したため、暗部のドットは四角形状になっている。このような二次元コードは、市販のコードリーダー(バーコードリーダー、QRコードリーダーなど)によって読み取ることができる。しかしながら、レーザー加工条件によっては、暗部と明部とのコントラストが明瞭でない状態が生じ得る。そうなると、コードリーダーは、二次元コードの情報を認識できずに反応しなかったり、エラー表示が出たり(いずれも認識不可)、誤った情報を認識したり(誤認識)して、読み取り不良となる。
【0075】
形成された識別マークは、いかなる場合でもコードリーダーの可読性に不良や不具合がないことが理想であり、読み取り対象製品の数量すなわち生産量が増えても、常に安定的かつ正確に読み取れなければならない。したがって、可読性の評価は、一定の母集団について読み取りテストをした際に、読み取り不良(認識不可、誤認識)がゼロか否か、で合否が評価される。例えば、母集団のn数を500個とした場合、読み取りテストで1個でも不良が出れば、その識別マークの形成方法・条件は適当とはいえず、不合格となる。評価の際の母集団の大きさ(n数)は、識別マークの品質レベル、対象製品の生産数量やロットの大きさなどを考慮して決められ、通常100個~5000個である。
【0076】
[鉄系焼結体の製造工程の詳細]
図1および
図9に示した鉄系焼結体の製造工程において、プレス成形工程30、焼結工程40、サイジング工程50、および熱処理工程60の各工程について以下に詳細を説明する。
【0077】
(プレス成形)
プレス成形工程30は、金属粉末10aに潤滑剤10bを添加した原料粉末を、プレス成形して圧粉成形体を作製する工程である。
圧粉成形体は、焼結製品の中間製品であり、焼結製品に対応した形状に成形される。
【0078】
原料粉末:
金属粉末10aの材質は、鉄系材料が挙げられる。鉄系材料とは、鉄又は鉄を主成分とする鉄合金のことである。鉄合金としては、例えば、Ni,Cu,Cr,Mo,Mn,C,Si,Al,P,B,N及びCo から選択される1種以上の添加元素を含有するものが挙げられる。
【0079】
具体的な鉄合金としては、ステンレス鋼、Fe-C系合金、Fe-Cu-Ni-Mo系合金、Fe-Ni-Mo-Mn系合金、Fe-P 系合金、Fe-Cu系合金、Fe-Cu-C 系合金、Fe-Cu-Mo系合金、Fe-Ni-Mo-Cu-C系合金、Fe-Ni-Cu系合金、Fe-Ni-Mo-C 系合金、Fe-Ni-Cr系合金、Fe-Ni-Mo-Cr系合金、Fe-Cr系合金、Fe-Mo-Cr系合金、Fe-Cr-C系合金、Fe-Ni-C 系合金、Fe-Mo-Mn-Cr-C系合金などが挙げられる。
【0080】
鉄系材料の粉末を主体とすることで、鉄系焼結体が得られる。鉄系材料の粉末を主体とする場合、鉄系材料の粉末の含有量は、原料粉末を100質量% とするとき、例えば90質量%以上、更に95質量%以上とすることが挙げられる。
鉄系材料の粉末、特に鉄粉を主体とする場合は、合金成分としてCu,Ni,Moなどの金属粉末を添加することが好ましい。
【0081】
Cu,Ni,Moは、焼き入れ性を向上させる元素である。Cu,Ni,Moの含有量は、原料粉末を100質量% とするとき、例えば0質量%超5質量%以下、更に0. 1質量%以上2質量%以下とすることが挙げられる。
なお、原料粉末は、上述の金属粉末を主体とするが、微量な不可避の不純物を含むことは許容される。
【0082】
鉄系材料の粉末、特に鉄粉を主体とする場合は、炭素(黒鉛)粉などの非金属無機材料を添加してもよい。Cは、焼結体やその熱処理体の強度を向上させる元素である。
Cの含有量は、原料粉末を100質量% とするとき、例えば0質量%超2質量%以下、更に0 .1 質量% 以上1質量%以下とすることが挙げられる。
【0083】
原料粉末は、潤滑剤10bを含有することが好ましい。潤滑剤を含有することで、圧粉成形体をプレス成形する際の潤滑性が高められ、成形性が向上する。この場合、プレス成形の圧力を低くしても、緻密な圧粉成形体が得られ易く、圧粉成形体の密度が高まることで、高密度の鉄系焼結体が得られ易い。
潤滑剤としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウムなどの金属石鹸、ステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドなどの高級脂肪酸アミドなどが挙げられる。
【0084】
潤滑剤10bは、固体状や粉末状、液体状など形態を問わない。潤滑剤の含有量は、原料粉末を100質量% とするとき、例えば2質量%以下、更に1質量%以下とすることが挙げられる。潤滑剤の含有量が2質量%以下であれば、圧粉成形体に含まれる金属粉末の割合を多くできる。
【0085】
このため、プレス成形の圧力を低くしても、緻密な圧粉成形体が得られ易い。更に、プレス成形後の工程で圧粉成形体を焼結した際に、潤滑剤が消失することによる体積収縮を抑制することができ、寸法精度が高く、高密度の鉄系焼結体が得られ易い。
潤滑剤10bの含有量は、潤滑性の向上効果を得る観点から、0 .1 質量%以上、更に0 .5質量% 以上が好ましい。
【0086】
原料粉末は、有機バインダーを含有してよいが、本実施形態の圧粉成形体の原料粉末には、有機バインダーが含まれていないことが好ましい。
原料粉末に有機バインダーを含有しないことで、圧粉成形体に含まれる金属粉末の割合を多くできる。このため、プレス成形の圧力を低くしても、緻密な圧粉成形体が得られ易い。更に、圧粉成形体を後工程で脱脂する必要もない。
【0087】
上述の金属粉末は、水アトマイズ粉、還元粉、ガスアトマイズ粉などが利用できる。この中でも、水アトマイズ粉又は還元粉が好適である。
その理由は、水アトマイズ粉や還元粉は、粒子表面に凹凸が多く形成されていることから、成形時に粒子同士の凹凸が噛み合って、圧粉成形体の保形力を高められるからで
ある。一般に、ガスアトマイズ粉では、表面に凹凸の少ない粒子が得られ易いのに対し、水アトマイズ粉又は還元粉では、表面に凹凸が多い粒子が得られ易い。
【0088】
金属粉末の平均粒径は、例えば20μm以上でかつ200μm以下とすることが挙げられる。平均粒径は、50μm以上170μm以下であってもよいし、80μm以上140μm 以下であってもよい。
金属粉末の平均粒径とは、ふるい分け試験方法(JIS Z8815)の乾式ふるい分け試験法により測定した質量粒度分布における累積質量が、50%となる粒径(D50)のことである。金属粉末の平均粒径が上記範囲内であれば、粉末の流動度が良いため取り扱い易くプレス成形が行い易い。
【0089】
プレス成形:
プレス成形工程30には、完成品である焼結製品に対応した形状に成形できる成形装置(成形用金型) が用いられる。
図10Aに例示する圧粉成形体G01(スプロケット)では、すべての部分を成形時に一体に形成している。
【0090】
成形装置(図示略)は、例えば、上下のパンチと、上下パンチの内側に挿通されて、圧粉成形体G01のボス部の内周面を形成する内側ダイと、上下パンチの外周を囲み、圧粉成形体G01 のギア部分を形成する挿通孔が形成された外側ダイとを備える。
圧粉成形体G01 の軸方向両端面は、上下のパンチでプレスされる面である。圧粉成形体G01の内周面と外周面は内外のダイとの摺接面である。成形工程におけるプレス成形の加圧力は、例えば400 MPa以上1000MPa以下とすることが挙げられる。
【0091】
(焼結工程)
焼結工程40は、圧粉成形体を焼結させる工程である。焼結工程には、温度雰囲気制御が可能な焼結炉(図示略)が用いられる。焼結条件は、圧粉成形体の材質などに応じて、焼結に必要な条件を適宜設定すればよい。
焼結温度は、主たる金属粉末の融点以下(例えば1400℃ 以下)に設定され、例えば1000℃ 以上に設定することが好ましい。焼結温度は、1100℃以上又は1200℃以上であってもよい。
焼結時間は、例えば15分以上150分以下、或いは20分以上60分以下とすることが挙げられる。
【0092】
(サイジング)
サイジング工程50は、圧粉成形体を焼結した後の中間素材(焼結体)を再度圧縮することにより、焼結体の寸法精度を高める工程である。
サイジングに用いるプレス成形機は、例えば、ロボットアームなどにより焼結体がセットされる下型と、セットされた焼結体を上方からプレスする上型とを有する、ターンテーブル方式のプレス成形機よりなる。
サイジングにおけるプレス成形の加圧力は、焼結製品の種類によって異なるが、例えば250MPa以上800MPa以下とすることが挙げられる。
【0093】
(熱処理)
熱処理工程60は、サイジング後の焼結体に所定の熱処理を行うことにより、焼結体の表面を硬化させる工程である。
熱処理工程に用いる熱処理装置は、連続式及びバッチ式のいずれでもよい。バッチ式の熱処理装置は、焼結体に浸炭焼き入れを施す焼き入れ炉と、焼き入れ後の焼結体を焼き戻す焼き戻し炉などが含まれる。熱処理装置の浸炭方式は、ガス浸炭、真空浸炭、イオン浸炭のいずれであってもよい。
【0094】
なお、
図1および
図9に示す鉄系焼結体の製造工程において、サイジング後でかつ熱処理前の焼結体に所定の切削処理や穿孔処理を行う工程や、熱処理後の焼結体に表面処理を施す工程など、その他の工程が含まれていてもよい。
【0095】
[実施例]
焼結製品として、スプロケットの製造工程を例にとって実施例を示す。
(実施例I)
Fe-2質量%Cu-0.8質量%Cの組成の金属粉末100質量部に対し、潤滑剤(ステアリン酸亜鉛)0.5質量部を添加した原料粉末を、成形装置を用いて加圧力500MPaで製品形状にプレス成形し、圧粉成形体を得た。さらに焼結炉で焼結温度1100℃、焼結時間30分で処理し、鉄系焼結体を得た。
【0096】
得られた鉄系焼結体の表面に、レーザーマーカー装置(パナソニック社製FAYbレーザーマーカー MP-M500、パルスレーザー方式)を用いて、識別マーク用のエリアに複数のドット状の凹部を有する二次元コードをレーザーマーキングした。表1は、各試料No.について、焼結工程後のレーザーマーキング条件と識別マークの特性評価結果を示している。
【0097】
【0098】
レーザー光の平均出力(表1中p1、p2)、スポット径(表1中r1、r2)、および走査速度(表1中s1、s2)を、表1に示す試料No.I-1~I-12の“焼結工程後のレーザーマーキング条件”に記載した値に設定し、これらによって導出される第1のレーザー光および第2のレーザー光の単位面積あたりの照射エネルギー(表1中e1、e2)に基づいて、第1工程および第2工程を実施した。
【0099】
ここで、平均出力とは既述の通り、パルスエネルギー(J)に繰返し周波数(1/s)を乗じたものである。そこで、繰り返し周波数を、第1工程は50kHz、第2工程は100kHzに固定し、パルスエネルギーを、試料No.に応じて変えることにより、表1に示す平均出力の値を設定した。
【0100】
各試料No.のn数は、同一のレーザーマーキング条件あたり製品500個とし、製品1個につき1か所に所定の情報を有する識別マークを形成した。マーキング後のドット状の凹部の深さおよび凹部外周縁部の凸部高さは、三次元形状測定機(KEYENCE VR-3000)を用いて、本発明の実施形態の詳細において
図8A、
図8Bを例にとって説明した方法に従って測定した。測定数については、各試料No.につき製品500個の中からランダムに3個を選び、製品1個中の識別マーク内から3か所のドット状の凹部を無作為に選んで測定した。得られた合計9か所の測定値の中から、ドット状の凹部の最小値および最大値、凹部外周縁部の凸部高さの最大値をその試料No.の測定値として表1に記載した。
【0101】
コードリーダーは、COGNEX製 Dataman 362Xを用い、鉄系焼結体に形成した識別マークの可読性を評価した。各試料No.につき製品500個に形成した二次元コードを読み取り、読み取り不良(認識不可または誤認識)がゼロの場合はその試料No.は「合格」、読み取り不良が1個以上出た場合は「不合格」とした。
【0102】
表1を参照して、試料No.I-1~I-9は実施例、試料No.I-10~I-12は比較例である。試料No.I-1~I―9はいずれも、第1のレーザー光の単位面積あたりの照射エネルギーe1が、第2のレーザー光の単位面積あたりの照射エネルギーe2よりも大きい(e1>e2)。これに対し、試料No.I-10~I―12は、その逆となっている(e1<e2)。コードリ-ダーの可読性は、e1>e2である試料I―1~I-9はいずれも「合格」であったのに対し、試料No.I-10~I―12はいずれも「不合格」であった。
【0103】
第1のレーザー光の平均出力が20Wより小さく(15W)、かつ第2のレーザー光の平均出力が25Wよりも大きい(50W)試料No.I―10は、ドット状の凹部の深さが最大45μmと、70μmより浅く、暗部としてのコントラストが不明瞭になり、コードリーダーの読み取り不良が多発した(その結果「不合格」)。
【0104】
第1のレーザー光のe1が7.0 J/mm2より高く(10.0J/mm2)、かつ第2のレーザー光のe2が0.05J/mm2より低い(0.03J/mm2)試料I―9は、可読性の評価結果は「合格」であり、比較例に比べて効果はあったが、他の実施例(I―1~I―8)に比べると安定性に欠け、別の製造ロットで評価した際に読み取り不良が発生する場合も見受けられた。
【0105】
試料No.I―11は、ドット状の凹部の深さが最大102μm、最小87μm、凹部外周縁部の凸部高さが最大95μmと、それぞれの数値は好ましい範囲に入っているが、コードリーダーの可読性は「不合格」となった。これは、第2のレーザー光のe2が1.76J/mm2と、0.50 J/mm2に比べて大幅に高いため、ドット状凹部以外の表面部分が黒色化してしまい、コントラストが不明瞭になったためと考えられる。
【0106】
(実施例II)
実施例Iと同様の原料粉末を、成形装置を用いて加圧力500MPaで製品形状にプレス成形した後、得られた圧粉成形体の表面に、レーザーマーカー装置(パナソニック社製FAYbレーザーマーカー MP-M500)を用いて、表2に示す条件にて、第1の識別マーク(複数のドット状の第1の凹部を有する二次元コードを含む)をレーザーマーキングした。成形後の圧粉成形体の第1の識別マークをコードリーダーの可読性を評価した後、焼結炉で焼結温度1100℃、焼結時間30分で処理し、得られた鉄系焼結体の表面に、実施例Iと同様に、レーザーマーカー装置を用いて、第2の識別マークを形成した。第2の識別マークのレーザーマーキング条件は、表2のすべての試料について、実施例Iにおける表1中の試料No.I―4と同じ条件とした。その後、焼結後の鉄系焼結体での第1の識別マークおよび第2の識別マークのコードリーダー可読性を、各試料について実施例Iと同様のn数、方法でそれぞれ評価した。
【0107】
表2は、各試料の第1の識別マークのレーザーマーキング条件、およびコードリーダーの可読性の評価結果を示している。
【0108】
【0109】
第1の識別マークについて、パルスレーザーの繰り返し周波数は、1-1工程は50kHz、1-2工程は100kHzに固定し、パルスエネルギーを、試料No.に応じて変えることにより、表2に示す試料No.II-1~II-6の“成形後のレーザーマーキング条件”に記載した平均出力p1、p2の値を設定した。レーザー光のスポット径r1、r2、および走査速度s1、s2を設定し、これらによって導出される第3のレーザー光および第4のレーザー光の単位面積あたりの照射エネルギーe1、e2に基づいて、1-1工程および1-2工程を実施した(試料No.II―5は、1-2工程は実施せず)。
【0110】
表2を参照して、試料No.II―1~II―3は第1の識別マークと第2の識別マークが焼結後も共存するケースである。No.II―4は、第1の識別マークが圧粉成形体では良好だったが、焼結後に消失または劣化して認識不能になり、焼結体では第2の識別マークのみが機能するケースである。No.II―5、II―6は、第1の識別マークが圧粉成形体ですでに可読性が「不合格」で機能しないケースを示している。
いずれのケースにおいても、第1の識別マーク形成の後に、第2の識別マークを形成することによって、第1の識別マークと第2の識別マークを共存させることにより、管理できる情報の選択肢を増やすことができる。また、第1の識別マークが製造工程中に不良になったり、焼結後に消失したり、劣化したりする場合でも、鉄系焼結体に必要な識別マークを第2の識別マークによって確保することができる。
【0111】
上述の実施形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0112】
1 エリア
2 二次元コード
3 セル
4 凹部
5、6 走査軌跡
7 凸部
8 外周部分
9 第1のエリア
10第2のエリア
a 凹部の最底部
b 凸部の最頂部
c 境界
d 凹部の深さ
h 凸部の高さ
H 縦の長さ
W 横の長さ
L、L1、L2、L3 直線
C0、C1 識別マーク
G01 圧粉成形体
G10、G11、G12、G13 鉄系焼結体