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特許7157414トンネル切羽安全監視システム及びトンネル切羽安全監視方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-12
(45)【発行日】2022-10-20
(54)【発明の名称】トンネル切羽安全監視システム及びトンネル切羽安全監視方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/89 20060101AFI20221013BHJP
   G01S 13/88 20060101ALI20221013BHJP
   E21D 9/093 20060101ALN20221013BHJP
   G01C 7/06 20060101ALN20221013BHJP
   G01C 15/00 20060101ALN20221013BHJP
   G01D 21/00 20060101ALN20221013BHJP
【FI】
G01S13/89
G01S13/88
E21D9/093 F
G01C7/06
G01C15/00 104A
G01D21/00 D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018118330
(22)【出願日】2018-06-21
(65)【公開番号】P2019219333
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510189374
【氏名又は名称】アルウェットテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】多田 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】岩城 英朗
(72)【発明者】
【氏名】能美 仁
【審査官】九鬼 一慶
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-203328(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0233242(US,A1)
【文献】特開2005-331363(JP,A)
【文献】特開昭62-156498(JP,A)
【文献】特開2000-088572(JP,A)
【文献】能美仁,他2名,振動可視化レーダ(VirA)によるインフラ等大規模建造物の振動・微少変位計測 ,第18回システムインテグレーション部門講演会,日本,2017年12月20日,頁3149-3152
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
G01S 13/00 -13/95
E21D 9/093
G01C 15/00
G01D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削を行うトンネルの切羽の状態を監視するトンネル切羽安全監視システムであり、
前記切羽の全面が計測ビームの照射範囲に含まれる位置に配置されたアンテナ多ビーム化による実開口レーダーと、
前記切羽の切羽面からの前記計測ビームに対する反射ビームの計測結果から前記切羽面の全面の変位量、変位速度、周波数、及び振幅を検出する変位検出サーバと
を備えることを特徴とするトンネル切羽安全監視システム。
【請求項2】
複数の前記実開口レーダーが前記切羽面に前記計測ビームを照射可能な前記トンネルの内周面に設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載のトンネル切羽安全監視システム。
【請求項3】
前記変位検出サーバが、
複数の前記実開口レーダーのレーダー座標系から生成した、前記切羽面の所定の位置各々の凹凸を示す切羽面座標系を合成して生成する際、前記レーダー座標系において前記切羽近傍にある掘削用機械により前記計測ビームが遮蔽されて欠損した領域を、それぞれ他のレーダー座標系により補完して合成する
ことを特徴とする請求項2に記載のトンネル切羽安全監視システム。
【請求項4】
前記実開口レーダーの放射する前記計測ビームの各々が、それぞれ異なる周波数の電波が用いられている
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載のトンネル切羽安全監視システム。
【請求項5】
前記実開口レーダーが第1実開口レーダー及び第2実開口レーダーの各々であり、前記トンネルの左右の側壁にそれぞれ設けられ、前記計測ビームの放射方向が前記切羽の面である前記切羽面に向けられている
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のトンネル切羽安全監視システム。
【請求項6】
前記実開口レーダーが、前記トンネルの坑内に設けられた前記切羽面の近傍の支保工に固定された取り付け部材に備えられている
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のトンネル切羽安全監視システム。
【請求項7】
前記取り付け部材がロックボルトの頭部に取り付けた釣り下げ部材に懸架された配置台である
ことを特徴とする請求項6に記載のトンネル切羽安全監視システム。
【請求項8】
前記計測ビームの放射方向が前記切羽面に対して所定の角度を有するように、前記実開口レーダーを配置する
ことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のトンネル切羽安全監視システム。
【請求項9】
掘削を行うトンネルの切羽の状態を監視するトンネル切羽安全監視方法であり、
前記切羽の全面が計測ビームの照射範囲に含まれる位置に配置されたアンテナ多ビーム化による実開口レーダーから前記計測ビームを放射する過程と、
前記切羽の切羽面からの前記計測ビームに対する反射ビームの計測結果から前記切羽面の全面の変位量、変位速度、周波数、及び振幅を検出する過程と
を含むことを特徴とするトンネル切羽安全監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル切羽安全監視システム及びトンネル切羽安全監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、山岳トンネルを掘削する工法としては、切羽観察による地質調査ができるNATM(New Austrian Tunneling Method)工法が、先進ボーリングなどの調査と併せてある程度の前方の地質が予測できるために良く用いられている。
一方、NATM工法による山岳トンネルの施工においては、発破(あるいは機械掘削)直後からコンクリートの二次吹付けまでの間、切羽の領域における地山がほぼ露出された状態となっている。
【0003】
例えば、トンネルを掘削する場合、ンネルにおける上または横からの荷重を支えるために、支保工(荷重を支えるために用いる仮設構造物)の建て込み等の作業を行う必要がある。
この支保工の建て込みを行う際、作業者が切羽に接近せざるを得ず、作業者は切羽(正確には切羽面)の崩落などの危険を有する状態下にて建て込みを行うことになる。
【0004】
また、近年の建設業界における労働人口の減少に伴い、ICT(Information and Communication Technology)技術を積極的に用い、トンネル施工においても、施工現場におけるより高度な省人化や、建設生産プロセスにおける施工の情報化(情報化施工)の推進が求められている。
さらに、施工現場の安全管理においても、ICT技術を活用することで、山岳トンネルの施工における切羽の状態に対するより安全な管理手法の構築が求められている。
【0005】
山岳トンネル工事において、上述したトンネルを掘削した切羽面から岩石等が落下する肌落ちの防止対策として、肌落ちの発生を予測するための切羽面の変位計測がある。
すなわち、トンネルの切羽面の経時的な変位を計測機器により測定し、作業者の目視では確認できない、切羽面における微少な変位を捉える。
そして、切羽監視担当者が、微少な変位が計測機器により検出することにより、肌落ちの発生を予測する等などが行え、崩落の監視の精度を上げることができる。
【0006】
上述した切羽の変位計測に関しては、レーザー変位計測器を用いて、トンネルの切羽面の変位計測を行い、計測結果において、切羽面に所定の変位が検出された際、警報を出力するトンネル崩壊予知方法がある(例えば、特許文献1参照)。
この手法において、レーザースキャナを用いることにより、切羽面における多くの位置の変位計測を1度のスキャンで行うことができる。
【0007】
一方、画像処理技術を用いて、切羽面を撮像した撮像画像から、変位による状態変化に伴う色の変化により、この切羽面からの微少な落石などの移動体を検出することができる。また、この画像処理技術による切羽の切羽面における移動体の検出を、上述した変位計測と組み合わせることで、より切羽面の崩落の監視の精度を上げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平09-287948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、引用文献1のように、切羽面の変位計測において、レーザー変位計測器を用いる場合、一台のレーザ変位計測器が切羽面の一箇所の変位を測定する。このため、切羽面の全体における変位を一括して検出するには、多数のレーザー変位計測器が必要となり、面としての変位を検出することは困難である。
【0010】
また、一台のレーザー変位計測器により、面としての変位を検出させるためには、水平方向及び垂直方向にレーザー光の放射角度を変える必要がある。レーザー変位計測器のレーザー光の射出口の方向を水平方向及び垂直方向に変更させるため、水平方向及び垂直方向に回転可能な角度変更機構を有する台に、レーザー変位計測器を搭載させる構成もある。これにより、レーザー変位計測器のレーザー光が切羽面の異なる位置に照射されるように、放射角度を角度変更機構により変更しつつ、切羽面の多くの地点を計測する構成がある。
【0011】
レーザー光の放射角度を角度変更機構により変位計測を行う場合、切羽面の全体をスキャンするためには多くの時間を有し、切羽面の全面を一つの面として、リアルタイムに変位の状態を計測することができない。また、レーザースキャナを用いた変位計測の場合、リアルタイムに計測が可能な機器が開発されているが、変位の計測精度がcm単位であり、切羽面の崩落を予測するために必要な精度であるmm単位の変位を検出できない。
画像処理技術を用いて落石などの移動体を検出する場合、落石の検出は、切羽において崩落する岩塊が動いている可能性を示している。このため、切羽がいつ崩落しても良い状態とならないと検出されず、予測を行う際に用いるデータとして用いることができない。
【0012】
本発明は、上記の事情を考慮してなされたものであり、切羽面の面全体を一つの測定面として、この測定面の変位の状態をリアルタイムに、切羽面における崩落を予測する程度の精度を有して検出するトンネル切羽安全監視システム及びトンネル切羽安全監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明のトンネル切羽安全監視システムは、掘削を行うトンネルの切羽の状態を監視するトンネル切羽安全監視システムであり、前記切羽の全面が計測ビームの照射範囲に含まれる位置に配置されたアンテナ多ビーム化による実開口レーダーと、前記切羽面からの前記計測ビームに対する反射ビームの計測結果から前記切羽の切羽面の全面の変位量、変位速度、周波数、及び振幅を検出する変位検出サーバとを備えることを特徴とする。
【0014】
本発明のトンネル切羽安全監視方法は、掘削を行うトンネルの切羽の状態を監視するトンネル切羽安全監視方法であり、前記切羽の全面が計測ビームの照射範囲に含まれる位置に配置されたアンテナ多ビーム化による実開口レーダーから前記計測ビームを放射する過程と、前記切羽面からの前記計測ビームに対する反射ビームの計測結果から前記切羽の切羽面の全面の変位量、変位速度、周波数、及び振幅を検出する過程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、切羽面の面全体を一つの測定面として、この測定面の変位の状態をリアルタイムに、切羽面における崩落を予測する程度の精度を有して検出するトンネル切羽安全監視システム及びトンネル切羽安全監視方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態のトンネル切羽安全監視システムが配置されたトンネルの坑内を示す概念図である。
図2】振動可視化レーダーの配置を説明する、トンネルを上部から見た平面視の図である。
図3】トンネルの側壁に対する振動可視化レーダーの設置について説明する、トンネルの断面を示す概念図である。
図4】切羽面の計測結果及び切羽面の振動及び変位を観察する際の座標系について説明する図である。
図5】切羽面座標系における切羽面の各観測点における振動及び変位について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。以下の例では、NATM(New Austrian Tunneling Method)でトンネル掘削を行う場合について説明する。NATMは、発破や機械を使ってトンネルの断面を掘削した後、掘削した土砂や岩石を移送するズリ出し処理を行い、支保工を設置し、壁面や天井面にコンクリートを吹き付けた後、トンネル内から地山に向かって、ロックボルトの打設を行う。そして、防水のためにシートをトンネル内に取り付け、型枠を組み、コンクリートを打設してコンクリート覆工を行い、トンネルを仕上げていく。なお、本発明は、NATMでトンネル掘削を行うものに限定されるものではない。
【0018】
以下、本発明によるトンネル切羽安全監視システムの実施形態について、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態のトンネル切羽安全監視システムが配置されたトンネルの坑内を示す概念図である。この図1において、トンネル10内の切羽15の状態の監視のために、振動可視化レーダー21及び22の各々が設けられている。切羽15が、振動可視化レーダー21及び22の各々の観測対象である。
【0019】
振動可視化レーダー21及び22の各々は、切羽15の全面に対して所定の周波数の電波を計測ビームとして放射し、切羽15の面からの反射ビームを計測する。
計測制御サーバ40は、例えば、パーソナルコンピュータであり、振動可視化レーダー21及び22の各々から反射ビームのデータを取得し、切羽15の全面における振動及び変位を計測する。また、計測制御サーバ40は、切羽15における面の振動及び変位の各々が、それぞれに設定された振動閾値(また、振幅閾値)及び変位閾値を超えた際、警告灯などの警告通知装置51や、作業者30(掘削に用いる施工機械(掘削機械)のオペレータや坑内作業者など)の携帯するスマートフォンなどの携帯端末52に対して警告信号を送信する。
【0020】
警告通知装置51は、例えば警告灯の場合、避難を示す音声とともに赤色灯を点滅させて、作業者30に対して切羽15から遠ざかることを通知する。また、携帯端末52は、インストールされている警告アプリケーションにより、避難を示す音声あるいはアラームを鳴らし、作業者30に対して切羽15から遠ざかることを通知する。
また、計測制御サーバ40は、現場詰め所や現場事務所の管理センター70に設けられたパーソナルコンピュータなどの端末71や、警告灯などの警告通知装置72に対し、無線ルーター60を介して、警告信号を送信する。また、計測制御サーバ40と、警告通知装置51、端末71及び警告通知装置72の各々とのデータの送受信は、無線あるいは有線のいずれを用いても良い。また、トンネルを掘削する作業現場以外の掘削作業に関連する部署の端末に、インターネット回線などを介して、危険信号や切羽面座標系における切羽面の状態を示す画像を送信する構成としても良い。
【0021】
上述したように、本実施形態によるトンネル切羽安全監視システムは、切羽15の全面の振動の振動特性や、切羽面の各位置の微少な変位を、振動可視化レーダー21及び22により、高速に(ほぼ同時、すなわちリアルタイムに)検出することにより、切羽作業中のトンネルの切羽15における地山の地盤の緩みや、崩落の予兆を事前に検出する。トンネル切羽安全監視システムは、少なくとも、振動可視化レーダー21及び22の各々と、計測制御サーバ40を備えている。
【0022】
一般に、NATM工法において、山岳でのトンネルの施工は、火薬を入れる孔を形成する「発破削孔」、削孔した孔への「装薬」、発生したずりを坑外に搬出する「ずり出し」、掘削面の地山が緩んで崩落しそうな浮き石を鉄棒などで落とす「こそく」、切羽の状態を観察する「切羽観察」、地山の緩みの抑制などのため、吹付けコンクリートを施工する「一次吹付けコンクリート」、トンネルの内面に対して鋼製支保工の建込みを行う「鋼製支保工建込み」、鋼製支保工背面に金網を設置し、2回目の吹付けコンクリートを施工する「二次吹付けコンクリート」、トンネルの内面からロックボルトを放射状に打設する「ロックボルト打設」などの一連の工程を繰り返して行う。本実施形態においては、上述した各工程を繰り返す掘削サイクルにおいて、掘削サイクルにおける工程の各々に対して継続的に、切羽15の全面の監視を行う。
【0023】
図2は、振動可視化レーダーの配置を説明する、トンネルを上部から見た平面視の図である。図2には、掘削機械の一例としてドリルジャンボ80が配置されているトンネル坑内が示されている。以下の説明において、前方とは切羽面15A方向を示し、後方とはトンネル10の入り口方向を示す。振動可視化レーダー21は、前方に対して、トンネル10の左側壁10Lにおいて、例えば切羽面15Aから後方に10mから20mの範囲に設置されている。また、振動可視化レーダー22は、前方に対して、トンネル10の右側壁10Rにおいて、例えば切羽面15Aから後方に10mから20mの範囲に設置されている。また、計測制御サーバ40は、例えば振動可視化レーダー21の後方10m程度に設置されている。
【0024】
図2に示す様に、振動可視化レーダー21及び22の2つの振動可視化レーダーを同時に使用する際、同一の周波数の計測ビーム(電波)を使用した場合、反射ビームの受信において、それぞれが他の振動可視化レーダーの計測ビームそのものあるいは計測ビームの反射波である反射ビームを受信してしまう恐れがある。このため、異なる振動可視化レーダー間における電波の干渉を防止するため、複数の振動可視化レーダーの各々が放射する計測ビームの周波数を異ならせる必要がある。
【0025】
図2(a)は、ドリルジャンボ80のドリルやデッキなどの突出物81により、振動可視化レーダー21の計測ビームの一部が遮蔽される状態を示している。図2(b)は、ドリルジャンボ80の突出物81により、振動可視化レーダー22の計測ビームの一部が遮蔽される状態を示している。本実施形態においては、トンネルを掘削するために用いるドリルジャンボ80などの掘削装置により、計測ビームが遮蔽されて切羽面15Aのいずれかの位置の振動及び変位が検出できないことが無いように、複数台の振動可視化レーダーにより、トンネル10の切羽面15Aの観察を行う。また、振動可視化レーダーと切羽面との間に遮蔽物がなく、計測ビームが遮蔽されることがない場合、振動可視化レーダーを一台のみで上記トンネル切羽安全監視システムを運用することも可能である。
【0026】
図3は、トンネルの側壁に対する振動可視化レーダーの設置について説明する、トンネルの断面を示す概念図である。図3(a)は、鋼製支保工(あるいは支保工)10_1に対して、取付治具92により配置台91を取り付けて固定し、かつこの配置台91を支持部材93により、振動可視化レーダー21の加重に耐えられる強度に補強する例を示している。図3(b)は、一次吹付けコンクリート及び二次吹付けコンクリートの各々により、トンネルの内周面に形成されたコンクリート層10_2に対して、取付治具94により配置台91を取り付け、かつこの配置台91を懸架部材95により釣り下げて固定し、振動可視化レーダー21の加重に耐えられる強度に補強する例を示している。懸架部材95は、一端が配置台91に接続され、他端がロックボルト101の頭部101Bに接続されている。また、振動可視化レーダー22及び計測制御サーバ40の各々の設置の構成も上述した構成と同様である。
【0027】
また、配置台91に対して振動可視化レーダー21(また振動可視化レーダー22)を上述のように設置する際、トンネル10の切羽面15Aの各観測点に対する距離が異なるように、振動可視化レーダー21を設置する。すなわち、レーダーの測定原理上において、レーダーから等距離にある観測対象からは、計測ビームの当該観測対象における反射である反射ビームを同時に受信することで、この2点を識別することができない。このため、振動可視化レーダー21と切羽面15Aの観測点の各々との距離が異なる(距離差が生じる)ように、切羽面15Aに対して後方の左側壁10Lのトンネルの底部近傍に設置する。これにより、下(トンネル底部)から上(トンネル頂部)に向かって、切羽面15Aに対して計測ビームが放射される角度を有するように振動可視化レーダー21を設置する。
また、切羽面15Aに対して後方のトンネルの頂部近傍の左側壁10Lの領域に設置する。これにより、上(トンネル頂部)から下(トンネル底部)に向かって、切羽面15Aに対して計測ビームが放射される角度を有するように振動可視化レーダー21を設置しても良い。
【0028】
また、本実施形態においては、振動可視化レーダーを支保工に設置する構成を説明したが、例えばトンネルの底面(トンネルの路面)に三脚台などの固定具を用いて設置しても良いし、トンネル工事に用いられる施工機械の切羽面が観察できる位置に設置しても良いし、振動可視化レーダーを搭載して移動する特殊車両として構成しても良い。
また、本実施形態においては、振動可視化レーダー21及び振動可視化レーダー22の2台による構成を説明したが、2台に限定させるものではなく、遮蔽される状態を抑止するために複数台を配置し、切羽崩落の予測を高精度に行う構成としても良い。
【0029】
以下に、振動可視化レーダー21及び22を用いて行うの計測制御サーバ40による切羽面15Aの監視制御について説明する。
本実施形態における振動可視化レーダー21及び22の各々は、DBF(Digital Beamforming)技術を用いたアンテナ多ビーム化による実開口レーダーである。以下、振動可視化レーダー21の制御を例として説明する。
計測制御サーバ40は、所定の測定周期によって、振動可視化レーダー21を制御して、複数のアンテナの各々から計測ビームをそれぞれ放射させる。そして、計測制御サーバ40は、振動可視化レーダー21からレーダー座標系における切羽面15Aの計測データを読み込む。
【0030】
図4は、切羽面の計測結果及び切羽面の振動及び変位を観察する際の座標系について説明する図である。図4(a)は、振動可視化レーダーの計測結果を示すレーダー座標系を示している。レーダー座標系は、レンジ方向のレンジ距離、クロスレンジ方向のクロスレンジ角度により決まる位置の2軸で構成されており、その位置における計測値は送信波と受信波(散乱波)の間の位相差と散乱強度の複素振幅データとして記録される。
一方、図4(b)は、切羽面の振動及び変位を観察する際の切羽面座標系を示している。この切羽面座標系は、上記レンジ距離及びクロスレンジ角度の各々と、位相差とにより求められる、切羽面15Aの各観測点の空間座標における座標値を示している。この図4(b)において、切羽面座標系における切羽面データは、各観測点の切羽面15Aにおける位置がX軸及びY軸からなる二次元平面15H上の座標値で示され、各観測点における切羽面15Aの凹凸を示す(高さデータz)がZ軸により示されている。
すなわち、計測制御サーバ40は、レーダー座標系を、切羽面15Aの各観測点における高さデータを示す切羽面座標系に変換する処理を行う。
【0031】
図5は、切羽面座標系における切羽面の各観測点における振動及び変位について説明する図である。図5(a)は、切羽面座標系におけるX軸及びY軸からなる二次元座標系における切羽面15Aの各観測点としての格子状画素200を示している。高さデータzが、切羽面15Aの各格子状画素200のZ軸方向に対する座標を示す。そして、計測制御サーバ40は、測定周期毎に上記切羽面座標系における切羽面データを、内部の記憶部に書き込んで記憶させていく。
【0032】
図5(b)は、計測制御サーバ40の切羽面15Aの格子状画素200の変位Δdの求め方を示す図である。レーダーの原理として、レーダーと格子状画素200との距離は、送信アンテナから電波を照射した時刻と、各々の画素から反射(散乱)した電波を受信アンテナで受信した時刻との差から求めることができる。一方、さらにn-1回目とn回目の計測で得られた送信波と受信波の位相差(φ1,φ2)の差分が、格子状画素200の変位に対応することになる。
これら(φ1,φ2)を用いて、二次元座標系における同一の座標値(x,y)の格子状画素200において、n回目の高さデータznから、n-1回目の高さデータzn-1を減算することにより、n-1回目の計測周期と、n回目の計測周期とにおける格子状画素200の高さデータを比較することにより、格子状画素200の変位Δdを求めることができる。
【0033】
これにより、初期t0の測定周期の切羽面データにおける高さデータzt0と、所定の測定周期の切羽面データにおける高さztnとを比較することにより、切羽面15Aにおける各観測点の初期の測定周期t0から所定の測定周期tnにおいて発生した変位Δd(ztn-zt0)を求める。また、計測制御サーバ40は、隣接する測定周期毎の変位Δdを求めて経時的に変位を観察することにより切羽面15Aの振動の周期を求める。
【0034】
計測制御サーバ40は、初期t0の測定周期の高さデータzt0と、直近の測定周期における高さデータztnとを順次比較し、予め設定されている変位閾値、変位速度閾値を超えた場合、警告信号を警告通知装置51及び携帯端末52の各々に対して出力する。また、計測制御サーバ40は、初期t0の測定周期から直近の測定周期までの、各々の測定周期間の変位Δdの変化を時系列に配列させて測定周期間の変位Δdの補完を行い曲線のグラフとし、この曲線の周波数(振動の周波数)及び振幅値を求め、周波数が予め設定されている周波数閾値を超えた場合、または(及び)曲線の振幅が予め設定されている振幅閾値を超えた場合に、警告信号を警告通知装置51及び携帯端末52の各々に対して出力する。
【0035】
上述した変位閾値及び変位速度閾値と、周波数閾値及び振幅閾値とは、切羽崩落の予兆を検出(切羽崩落の予知)に用いる評価指標(変位量、変位速度、周波数、振幅)に対する閾値である。この評価指標は、振動を与える作業が行われる加振時(発破削孔、ずり出し、こそく、鋼製支保工建込み、ロックボルト打設など)と、振動を与えない作業が行われる無加振時(装薬、切羽観察、一次及び二次吹付けコンクリートなど)とに分けて設定する。例えば、発破削孔を形成する削孔加振時では、主に切羽面15Aの振動特性(振動の周波数及び振幅)を評価指標として使用する。具体的には、卓越振動数(周波数)や累積振幅(振幅)等の変化によって切羽崩落の可能性を判断する。一方、装薬及び切羽観察などの無加振時については、主に切羽面15Aの変位量、変位速度を評価指標として使用する。変位量については上述した変位Δdの大きさ、変位速度についてはその速度の増減によって切羽崩落の可能性を判断する。そして、計測制御サーバ40は、上述した各々の評価指標が、それぞれ設定された所定の閾値を超えると、警告通知装置51や携帯端末52に対して、切羽15が危険な状態にあることを通知する。
【0036】
ここで、崩落予知のための評価指標の基準値となる所定の閾値は地山性状によって異なる。基準値については、掘削作業中の切羽において変位挙動計測を行い、崩落現象に関するデータを蓄積して設定することが妥当である。しかしながら、崩落現象に関するデータが十分に蓄積されてない地山の場合には、既往の他の地山で観測された切羽崩壊事例における切羽の計測データや、岩盤斜面等で計測されている不安定岩塊の振動特性データ、あるいは岩塊の崩落予測に関する実験例などを参考にして、当該地山のトンネル現場の地質状況等を考慮した適切な基準値を設定することも可能である。
また、切羽面における肌落ち現象を模擬した実験や、コンピュータシミュレーションによる解析的検討などを実施して基礎データを蓄積し、切羽崩落を予測する評価指標の基準値の設定に反映させることも可能である。
【0037】
上述したように、本実施形態によれば、地山におけるトンネル掘削において、トンネルにおける切羽面の面全体を一つの測定面として、この測定面の変位の状態(変位量、変位速度、振動の周波数、振幅)をリアルタイムに、切羽面の崩落を予測する程度の精度を有して検出することができる。
すなわち、本実施形態によれば、トンネルの掘削における切羽面を一つの面とし、この面における複数の観測点(多点)の各々の変位及び振動などの状態を、所定の周期で連続的(時系列)に測定することにより、この測定結果をそれぞれの評価指標と比較しているため、切羽面における岩塊や土砂などが動き出す前の緩み状態を推定し、切羽面の崩落の予兆を事前に検知(あるいは推定)することが可能となり、切羽近傍における作業の安全性を向上させることができる。
【0038】
また、本実施形態によれば、2台以上の複数の振動可視化レーダーにより切羽面を監視するため、施工機械により計測ビームあるいは反射ビームが遮蔽される振動可視化レーダーがあっても、他の振動可視化レーダーの計測ビーム及び反射ビームにより補完することが可能であり、計測不能となる領域の範囲を最小限とするように抑制でき、高精度に確実に切羽面の崩落の予兆を検知することができる。
また、本実施形態によれば、ミリ波の電波としての計測ビームを放射する振動可視化レーダーを用いることにより、切羽面での空間分解能が5cm程度の間隔(図5(a)における格子状の観測点の分解能)で計測結果が得られ、切羽面における観測点の分解能を向上させることが可能となり、切羽面における微少な変位も検出することにより、高精度に確実に切羽面の崩落の予兆を検知することができる。
【0039】
また、本実施形態によれば、切羽面の崩落予知に対する評価指標が所定の閾値を超えた場合、作業者等にその危険を知らせるための危険信号を発信するため、切羽崩壊などによる事故が発生する前に、防止策工や作業者の非難等を迅速に行うことが可能となり、安全なトンネル施工が可能となる。
また、本実施形態によれば、振動可視化レーダーが切羽後方の支保工などに取り付けられていることにより、トンネル施工に使用される施工機械及び運搬機械等の移動や、トンネル内における各種配管や配線設備等の設置等への障害とはならず、かつ振動可視化レーダーによる計測が可能な距離内であれば、トンネル切羽面の進行とともに振動可視化レーダーを移動する必要はなく、振動可視化レーダーを含むトンネル切羽安全監視システムの各々の装置の設置に要する時間及び人手を省略することが可能である。
【0040】
また、本実施形態によれば、振動可視化レーダーによる切羽面の観測作業を、計測制御サーバを用いて予め設定したプログラムによる制御により行うため、高精度な切羽面の状態の観測を短時間で行うことができ、計測結果の即時表示も可能なため、切羽面の観察や状態の計測のために、トンネル工事を一時停止する必要が無く、トンネルの掘削の施工期間に影響を与えることがない。
また、本実施形態によれば、計測制御サーバにより取得された切羽面の観測における計測データを、データベースなどに電子データとして保存しておくことにより、後に行う他の地山でのトンネル工事における切羽崩落の予知の精度向上に資する基礎資料として活用することが可能となる。
【0041】
なお、本発明における図1の計測制御サーバ40の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、トンネル工事における切羽面の状態の観測を、振動可視化レーダーの測定値を用いて行い、切羽面の崩落の予測処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWW(World Wide Web)システムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM(Read Only Memory)、CD-ROM(Compact Disc - Read Only Memory)等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM(Random Access Memory))のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0042】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【符号の説明】
【0043】
21,22…振動可視化レーダー 30…作業者 40…計測制御サーバ 51,72…警告通知装置 52…携帯端末 71…端末
図1
図2
図3
図4
図5