(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-12
(45)【発行日】2022-10-20
(54)【発明の名称】導電性潤滑剤
(51)【国際特許分類】
C10M 105/18 20060101AFI20221013BHJP
C07C 43/215 20060101ALI20221013BHJP
C10M 129/16 20060101ALI20221013BHJP
C10N 20/06 20060101ALN20221013BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20221013BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20221013BHJP
C10N 30/08 20060101ALN20221013BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20221013BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20221013BHJP
C10N 40/08 20060101ALN20221013BHJP
C10N 40/12 20060101ALN20221013BHJP
C10N 40/18 20060101ALN20221013BHJP
C10N 40/20 20060101ALN20221013BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20221013BHJP
C10N 40/30 20060101ALN20221013BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20221013BHJP
【FI】
C10M105/18
C07C43/215
C10M129/16
C10N20:06 Z
C10N30:00 Z
C10N30:06
C10N30:08
C10N40:02
C10N40:04
C10N40:08
C10N40:12
C10N40:18
C10N40:20
C10N40:25
C10N40:30
C10N50:10
(21)【出願番号】P 2018133840
(22)【出願日】2018-07-17
【審査請求日】2021-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000229335
【氏名又は名称】日本トムソン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506103636
【氏名又は名称】ウシオケミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】原本 雄一郎
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-105874(JP,A)
【文献】特開2019-112495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N 10/00- 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】
[式中、
R
11
及びR
21
は水素であり、
R
12
、R
13
、R
22
及びR
23
は同一又は異なり、基-OCH
2
CH
2
CH(R’)CH
2
CH
2
OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
n
H
2n+1
であり、4≦n≦12であり、R’はメチル又はエチルである)である]
で表される化合物(1)を少なくとも一種含む導電性潤滑剤。
【請求項2】
R
12及びR
13が-CH=CH-基に対してパラ位及び1個所のメタ位に置換し、R
22及びR
23が-CH=CH-基に対してパラ位及び1個所のメタ位に置換する、式(1)で表される化合物(1)を少なくとも一種含む、請求項
1に記載の導電性潤滑剤。
【請求項3】
式(1)における-CH=CH-に結合する基がトランスの位置関係にある、請求項1
又は2に記載の導電性潤滑剤。
【請求項4】
式(1)で表される化合物(1)が-50℃から+300℃の温度範囲においてスメクチック液晶相を呈する、請求項1に記載の導電性潤滑剤。
【請求項5】
電極面積1cm
2、電極間距離5μmのセルに注入し、電極間に5Vの電圧を印加したとき、30℃~300℃の温度範囲において0.07μA以上の導電性を有する、請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の導電性潤滑剤。
【請求項6】
カーボン及び金属のいずれも含まない、請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の導電性潤滑剤。
【請求項7】
式(1)で表される化合物(1)が蛍光物質である、請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の導電性潤滑剤。
【請求項8】
式(1)で表される化合物(1)が式(1’):
【化2】
[式中、R
11、R
12、R
13、R
21、R
22及びR
23は式(1)中のR
11、R
12、R
13、R
21、R
22及びR
23と同義である]
で表されるトランス体である、請求項1乃至
7のいずれか一項に記載の導電性潤滑剤。
【請求項9】
式(1):
【化3】
[式中、
R
11
及びR
21
は水素であり、
R
12
、R
13
、R
22
及びR
23
は同一又は異なり、基-OCH
2
CH
2
CH(R’)CH
2
CH
2
OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
n
H
2n+1
であり、4≦n≦12であり、R’はメチル又はエチルである)である]
で表される化合物(1)の導電性潤滑剤の製造のための使用。
【請求項10】
互いに接触して相対運動する複数の機械要素と、該機械要素の接触面の少なくとも一部に配置された請求項1乃至
8のいずれか一項に記載の導電性潤滑剤とを有する機械装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性潤滑剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
潤滑剤とは、一般に、機械の可動部分に塗布し、相接する部品間の摩擦を低減し、摩擦熱の発生を防ぎ、部品同士の接触部分に応力が集中するのを抑制するほか、密封、防錆、防塵などの役割をも担う物質である。潤滑剤には潤滑油やグリースが含まれ、潤滑油は通常、石油精製物等の混合油であるが、グリースは、潤滑剤膜が付着した状態に保つのが困難な摺動面(例えば、すべり軸受や転がり軸受)に適用する目的で、潤滑油を増ちょう剤に保持させ、チクソトロピー性を付与したものである。
【0003】
このような潤滑剤には、低摩擦係数を示すことは言うまでもなく、使用可能な温度範囲の広いこと、長期間にわたって蒸発、分解等による損失の少ないことなど様々な特性が要求される。また、潤滑剤が回転摩擦により部品間で発生する静電気を逃がしてやることができるような導電性を有することは有利なことであるところ、カーボンや金属粉等を混入しなくても、導電性を有する潤滑剤が得られれば非常に有用であろう。
【0004】
特許文献1及び2には、分子両末端にエステル構造を有するジエステル型の潤滑油化合物が開示されている。また、特許文献3~6には、液晶化合物を潤滑剤として使用することが提案されている。特許文献7には、導電性を有する液晶化合物を含む潤滑剤が記載されているが、室温において液晶性を示す化合物とは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】再公表特許WO2011/125842号公報
【文献】特開2013-82900号公報
【文献】特開平6-128582号公報
【文献】特開2004-359848号公報
【文献】特開2005-139398号公報
【文献】特開2008-214603号公報
【文献】特開2017-105874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら慣用のグリースに代わる潤滑剤としては、潤滑性(低摩擦係数)、耐熱性、長期間にわたって蒸発量の少ない耐久性、回転摩擦により部品間で発生する静電気を逃がしてやることができる導電性、カーボンや金属粉等を含まないことによる清潔な外観などの特性において改善が不十分であった。
【0007】
そこで本発明は、カーボンや金属粉等を配合しなくても導電性を有し、広い温度範囲において有効であり、かつ、長期間にわたって蒸発、分解等による損失の少ない潤滑剤を提供することを目的とする。
【0008】
具体的には、耐熱性については、140℃以上、好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上、更に好ましくは250℃以上、最も好ましくは300℃以上の温度において安定であることが望ましい。一方、低温特性としては、30℃以下、好ましくは-50℃程度まで使用可能であることが望ましい。また、導電性については、少なくとも回転摩擦により部品間で発生する静電気を逃がしてやることができる程度が必要であり、例えば、電極面積1cm2、電極間距離5μmのセルに注入し、電極間に5Vの電圧を印加したとき、30℃~300℃の範囲において0.001μA以上、より好ましくは0.01μA以上、更に好ましくは0.07μA以上の導電性を有することが望ましい。
【0009】
更に、導電性を付与するためにカーボンや金属を加える必要がないことにより、経済合理性を満たすと共に、使用開始時には清潔な外観を呈するため、酸化劣化(黄変)が発生した場合に早期に発見できる利点がある。更にまた、化合物自体が蛍光物質であることにより、例えば、長波長の紫外線を放射する電灯であるブラックライトからの光を当てることにより、潤滑剤漏れのような不具合を直ちに発見できる利点もある。言うまでもなく、本来の潤滑性能を満たす必要があり、動摩擦係数が0.13以下であることが望ましい。
【0010】
しかも、潤滑性液晶化合物を何種類も混合して使用するのではなく、できるだけ少数、好ましくは1種又は2種、究極的には1種の液晶化合物の配合で上記のような特性が達成できることが望ましい。このためには、広い温度範囲において液晶性を示す化合物の化学構造を適切に設計することが重要である。
【0011】
また、風力発電、極地、宇宙関連用途のように、潤滑剤の交換が極めて困難な環境下において使用される場合、長期間にわたって蒸発、分解等による損失の少ない潤滑剤は非常に有用である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、一分子中に、導電性を担う特定の芳香族環構造と、当該環構造に連結した潤滑性を担う特定の鎖状基とを適切に配した化合物が上記目的を達成することを見出し、本発明を完成するにいたった。
【0013】
すなわち本発明は、以下を包含する。
[1] 式(1):
【化1】
[式中、
R
11及びR
21は同一又は異なり、水素、基-OR又は基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、4≦n≦12であり、R’はメチル又はエチルである)であり、
R
12、R
13、R
22及びR
23は同一又は異なり、基-OR又は基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、4≦n≦12であり、R’はメチル又はエチルである)である]
で表される化合物(1)を少なくとも一種含む導電性潤滑剤。
[2] R
11、R
12、R
13、R
21、R
22及びR
23は同一又は異なり、基-OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、4≦n≦12である)である、式(1)で表される化合物(1)を一種含む、[1]に記載の導電性潤滑剤。
[3] R
11、R
12及びR
13が-CH=CH-基に対してパラ位及び2個所のメタ位に置換し、R
21、R
22及びR
23が-CH=CH-基に対してパラ位及び2個所のメタ位に置換する、式(1)で表される化合物(1)を一種含む、[2]に記載の導電性潤滑剤。
[4] R
11及びR
21は水素であり、
R
12、R
13、R
22及びR
23は同一又は異なり、基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、4≦n≦12であり、R’はメチル又はエチルである)である、
式(1)で表される化合物(1)を二種以上含む、[1]に記載の導電性潤滑剤。
[5] R
12及びR
13が-CH=CH-基に対してパラ位及び1個所のメタ位に置換し、R
22及びR
23が-CH=CH-基に対してパラ位及び1個所のメタ位に置換する、式(1)で表される化合物(1)を二種以上含む、[4]に記載の導電性潤滑剤。
[6] 式(1)における-CH=CH-に結合する基がトランスの位置関係にある、[1]乃至[5]のいずれか一項に記載の導電性潤滑剤。
[7] 式(1)で表される化合物(1)が-50℃から+300℃の温度範囲においてスメクチック液晶相を呈する、[1]に記載の導電性潤滑剤。
[8] 電極面積1cm
2、電極間距離5μmのセルに注入し、電極間に5Vの電圧を印加したとき、30℃~300℃の温度範囲において0.07μA以上の導電性を有する、[1]乃至[7]のいずれか一項に記載の導電性潤滑剤。
[9] 電極面積1cm
2、電極間距離5μmのセルに注入し、電極間に5Vの電圧を印加したとき、30℃~90℃の温度範囲において10,000μA以上の導電性を有する、[2]又は[3]に記載の導電性潤滑剤。
[10] カーボン及び金属のいずれも含まない、[1]乃至[9]のいずれか一項に記載の導電性潤滑剤。
[11] 式(1)で表される化合物(1)が蛍光物質である、[1]乃至[10]のいずれか一項に記載の導電性潤滑剤。
[12] 式(1)で表される化合物(1)が式(1’):
【化2】
[式中、R
11、R
12、R
13、R
21、R
22及びR
23は式(1)中のR
11、R
12、R
13、R
21、R
22及びR
23と同義である]
で表されるトランス体である、[1]乃至[11]のいずれか一項に記載の導電性潤滑剤。
[13] 式(1):
【化3】
[式中、
R
11及びR
21は同一又は異なり、水素、基-OR又は基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、4≦n≦12であり、R’はメチル又はエチルである)であり、
R
12、R
13、R
22及びR
23は同一又は異なり、基-OR又は基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、4≦n≦12であり、R’はメチル又はエチルである)である]
で表される化合物(1)の導電性潤滑剤の製造のための使用。
[14] 互いに接触して相対運動する複数の機械要素と、該機械要素の接触面の少なくとも一部に配置された[1]乃至[12]のいずれか一項に記載の導電性潤滑剤とを有する機械装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低摩擦係数を示し、耐熱性に優れ、広い温度範囲(少なくとも-50℃から+300℃まで)で潤滑効果を有し、長期間にわたって損失が少なく、カーボン粉や金属粉等を混入しなくても導電性を有し、紫外線の照射により蛍光を発し、増ちょう剤を用いることなく慣用のグリースに代替可能な、新規な潤滑剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る導電性潤滑剤用化合物の示差熱分析データである。
【
図2】本発明に係る導電性潤滑剤用化合物の導電性を示す図である。
【
図3】本発明に係る導電性潤滑剤用化合物の蛍光スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明によれば、
式(1):
【化4】
[式中、
R
11及びR
21は同一又は異なり、水素、基-OR又は基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、4≦n≦12であり、R’はメチル又はエチルである)であり、
R
12、R
13、R
22及びR
23は同一又は異なり、基-OR又は基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、4≦n≦12であり、R’はメチル又はエチルである)である]
で表される化合物(1)を少なくとも一種含む導電性潤滑剤が提供される。
【0017】
式(1)で表される化合物(1)は、一分子中に、導電性を担う特定のπ電子共役系コア構造(1,4-ビス[(フェニル)エテニル]ベンゼン、以下、「3環骨格構造」と称する場合がある)と、コア構造に連結した潤滑性を担う特定の鎖状基とを適切に配した化合物である。
【0018】
式(1)において、3環骨格構造はπ電子が22個の共役系を含み、π電子共役系が広がっていることにより剛直な平板構造をとり、このため、化合物(1)の各分子はπ電子共役系が相互に重なり合うように薄く重なり合って集合することになる。その結果、化合物(1)は所望の温度範囲(後記する実施例において具体的に示す)で液晶相(特にスメクチック液晶相)を形成することができる。このように、3環骨格構造は化合物(1)における液晶形成要素(コア構造)となるが、化合物(1)は重なり合ったπ電子共役系を介して導電性を発揮する。
【0019】
[鎖状基R11、R12、R13、R21、R22及びR23]
式(1)において、R11、R12、R13、R21、R22及びR23はコア構造に連結し、分子の潤滑性を担う鎖状基である。
【0020】
R11及びR21は同一又は異なり、水素、基-OR又は基-OCH2CH2CH(R’)CH2CH2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のCnH2n+1であり、4≦n≦12であり、好ましくは6≦n≦10であり、R’はメチル又はエチルであり、好ましくはメチルである)であり、
R12、R13、R22及びR23は同一又は異なり、基-OR又は基-OCH2CH2CH(R’)CH2CH2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のCnH2n+1であり、4≦n≦12であり、好ましくは6≦n≦10であり、R’はメチル又はエチルであり、好ましくはメチルである)である。
【0021】
Rの例としては、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、1-メチル-n-ブチル基、2-メチル-n-ブチル基、3-メチル-n-ブチル基、1,1-ジメチル-n-プロピル基、1,2-ジメチル-n-プロピル基、2,2-ジメチル-n-プロピル基、1-エチル-n-プロピル基、n-ヘキシル基、1-メチル-n-ペンチル基、2-メチル-n-ペンチル基、3-メチル-n-ペンチル基、4-メチル-n-ペンチル基、1,1-ジメチル-n-ブチル基、1,2-ジメチル-n-ブチル基、1,3-ジメチル-n-ブチル基、2,2-ジメチル-n-ブチル基、2,3-ジメチル-n-ブチル基、3,3-ジメチル-n-ブチル基、1-エチル-n-ブチル基、2-エチル-n-ブチル基、1,1,2-トリメチル-n-プロピル基、1,2,2-トリメチル-n-プロピル基、1-エチル-1-メチル-n-プロピル基、1-エチル-2-メチル-n-プロピル基、n-ヘプチル基、1-メチル-n-ヘキシル基、2-メチル-n-ヘキシル基、3-メチル-n-ヘキシル基、1,1-ジメチル-n-ペンチル基、1,2-ジメチル-n-ペンチル基、1,3-ジメチル-n-ペンチル基、2,2-ジメチル-n-ペンチル基、2,3-ジメチル-n-ペンチル基、3,3-ジメチル-n-ペンチル基、1-エチル-n-ペンチル基、2-エチル-n-ペンチル基、3-エチル-n-ペンチル基、1-メチル-1-エチル-n-ブチル基、1-メチル-2-エチル-n-ブチル基、1-エチル-2-メチル-n-ブチル基、2-メチル-2-エチル-n-ブチル基、2-エチル-3-メチル-n-ブチル基、n-オクチル基、1-メチル-n-ヘプチル基、2-メチル-n-ヘプチル基、3-メチル-n-ヘプチル基、1,1-ジメチル-n-ヘキシル基、1,2-ジメチル-n-ヘキシル基、1,3-ジメチル-n-ヘキシル基、2,2-ジメチル-n-ヘキシル基、2,3-ジメチル-n-ヘキシル基、3,3-ジメチル-n-ヘキシル基、1-エチル-n-ヘキシル基、2-エチル-n-ヘキシル基、3-エチル-n-ヘキシル基、1-メチル-1-エチル-n-ペンチル基、1-メチル-2-エチル-n-ペンチル基、1-メチル-3-エチル-n-ペンチル基、2-メチル-2-エチル-n-ペンチル基、2-メチル-3-エチル-n-ペンチル基、3-メチル-3-エチル-n-ペンチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基等が挙げられる。
【0022】
Rは分岐鎖であってもよいが、化合物(1)の分子の緊密な集合を妨げ、上記したとおりの3環骨格構造の機能、すなわち、重なり合ったπ電子共役系を介して導電性を発揮する機能を損なわない程度の嵩高さにとどめることが望ましい。
【0023】
鎖状基R11、R12、R13、R21、R22及びR23を適切に選択することにより、分子全体のサイズ(長径)や極性を調節することができる。以下に、特に好ましい選択について説明する。
【0024】
[R11及びR21が水素であり、R12、R13、R22及びR23が基-OCH2CH2CH(R’)CH2CH2ORである化合物]
R11及びR21が水素の場合、3環骨格構造の両端にあるベンゼン環の置換基は合計で4個となる。以下、このような化合物を「4置換化合物」と称することがある。
【0025】
水素でない4個の置換基(R12、R13、R22及びR23)は、3環骨格構造の一端にあるベンゼン環に3個、他端にあるベンゼン環に1個というように非対象に配置することも可能であるが、合成上の都合等により、3環骨格構造の一端にあるベンゼン環に2個、他端にあるベンゼン環に2個というように対象に配置する方が便宜である。
【0026】
このような場合、置換位置は各ベンゼン環の2,3-、2,4-、2,5-、2,6-、3,4-、3,5-があるが、3,4位の置換が好ましい。
【0027】
各ベンゼン環の3,4位に置換基を有する4置換化合物には、以下の立体異性体が存在するが、本発明においてはこれらの一方を用いてもよく、両方の混合物を用いてもよい。
【化5】
【化6】
【0028】
[R11、R12、R13、R21、R22及びR23が基-ORである化合物]
R11、R12、R13、R21、R22及びR23が基-ORの場合、3環骨格構造の両端にあるベンゼン環の置換基は合計で6個となる。以下、このような化合物を「6置換化合物」と称することがある。
【0029】
6個の置換基(R11、R12、R13、R21、R22及びR23)は、3環骨格構造の一端にあるベンゼン環に4個、他端にあるベンゼン環に2個というように非対象に配置することも可能であるが、合成上の都合等により、3環骨格構造の一端にあるベンゼン環に3個、他端にあるベンゼン環に3個というように対象に配置する方が便宜である。
【0030】
このような場合、置換位置は各ベンゼン環の2,3,4-、2,3,5-、2,4,5-、3,4,5-、2,3,6-、2,4,6-があるが、以下のように3,4,5位の置換が好ましい。
【化7】
【0031】
本発明において、式(1)で表される化合物(1)は、単独で使用してもよいが、2種以上を混合して使用してもよい。例えば、4置換化合物の2種以上を混合して使用する態様、4置換化合物1種以上と6置換化合物1種以上とを混合して使用する態様、4置換化合物又は6置換化合物をそれぞれ単独で使用する態様等が挙げられる。
【0032】
[化合物の合成]
本発明に係る式(1)で表される化合物(1)の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の反応を組み合わせることにより合成することができる。
【0033】
アルコール化合物(例えばR12-OH)やフェノール化合物(例えばHO-[3環骨格構造]-OH)とアルカリ金属やアルカリ金属アルコラートを用い、ハロゲン化合物(例えばR12-XやX-[3環骨格構造]-X(Xは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子などのハロゲン原子))と反応させる方法が利用できる。例えば、特許第5916916号に記載の方法に準じて調製することができる。
【0034】
特に、本発明に係る式(1)で表される化合物(1)は、以下のようにして調製することができる。
式
【化8】
[式中、
R
11は水素、基-OR又は基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、4≦n≦12であり、R’はメチル又はエチルである)であり、
R
12及びR
13は同一又は異なり、基-OR又は基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、4≦n≦12であり、R’はメチル又はエチルである)である]
で表される化合物を少なくとも一種、
式
【化9】
[式中、
R
21は水素、基-OR又は基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、4≦n≦12であり、R’はメチル又はエチルである)であり、
R
22及びR
23は同一又は異なり、基-OR又は基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、4≦n≦12であり、R’はメチル又はエチルである)である]
で表される化合物を少なくとも一種、及び
式
【化10】
で表される化合物を適切な反応条件下に反応させて、下記化合物
【化11】
[式中、R
11、R
12、R
13、R
21、R
22及びR
23は上に定義したとおりである]
のモル比1:2:1の混合物を得る。
【0035】
なお、前記アルカリ金属としては、炭酸カリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。また前記アルカリ金属アルコラートとしては、ナトリウムエチラート、ナトリウムメチラート、tert-ブトキシナトリウム、tert-ブトキシカリウムなどが挙げられる。
【0036】
また、上記の反応には従来公知の各種有機溶媒が使用可能であり、例えばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、トルエンが使用可能である。
【0037】
別法として、以下のようにして調製することもできる。
式
【化12】
[式中、
R
11は水素、基-OR又は基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、4≦n≦12であり、R’はメチル又はエチルである)であり、
R
12及びR
13は同一又は異なり、基-OR又は基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、4≦n≦12であり、R’はメチル又はエチルである)である]
で表される化合物を少なくとも一種、
式
【化13】
[式中、
R
21は水素、基-OR又は基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、4≦n≦12であり、R’はメチル又はエチルである)であり、
R
22及びR
23は同一又は異なり、基-OR又は基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、4≦n≦12であり、R’はメチル又はエチルである)である]
で表される化合物を少なくとも一種、及び
式
【化14】
で表されるテレフタルアルデヒドを適切な反応条件下に反応させて、下記化合物
【化15】
[式中、R
11、R
12、R
13、R
21、R
22及びR
23は上に定義したとおりである]
のモル比1:2:1の混合物を得る。
【0038】
[導電性潤滑剤の特徴]
本発明に係る導電性潤滑剤の平均動摩擦係数は、100℃で測定したとき、好ましくは0.13以下である。
【0039】
本発明に係る導電性潤滑剤は、電極面積1cm2、電極間距離5μmのセルに注入し、電極間に5Vの電圧を印加したとき、好ましくは30℃~300℃の範囲において0.001μA以上、より好ましくは0.01μA以上、更に好ましくは0.07μA以上の導電性を有する。このような導電性を発揮させるために、わざわざカーボンや金属粉等を配合する必要はない。このため、本発明に係る導電性潤滑剤の外観は極めて清潔であり、長期間連続使用により酸化劣化(黄変)が発生した場合に早期に発見することができる。更にまた、化合物自体が蛍光物質であることにより、例えば、長波長の紫外線を放射する電灯であるブラックライトからの光を当てることにより、潤滑剤漏れのような不具合を直ちに発見することもできる。
【0040】
また、本発明に係る導電性潤滑剤は揮発性が非常に小さく(例えば、100℃で1か月加熱後の重量減少が1%以下)、慣用のグリース等に比較して長期間補充することなく使用継続が可能という利点も有する。
【0041】
本発明に係る導電性潤滑剤を、慣用のグリースが適用されている用途に供する場合、本発明に係る導電性潤滑剤には増ちょう剤を用いる必要がない。このことにより製造工程が短縮されるばかりでなく、増ちょう剤の不適切な選択に起因して発生しがちであった耐水性やせん断安定性の低下の問題を避けることができる。
【0042】
[導電性潤滑剤の調製]
本発明の導電性潤滑剤が、本発明の効果を損なわない範囲において含んでもよい、その他の成分について、順に説明する。これらは基本的に潤滑剤の含有成分として従来公知の物質であって、その含有量は、特にほかに言及しない限り、従来公知の範囲で当業者が適宜選択することができる。また、いずれの成分も1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
(液晶化合物)
本発明に係る化合物(1)は液晶化合物であるが、本発明の導電性潤滑剤は、それ以外の液晶化合物を含有してもよい。
【0044】
そのような液晶化合物としては、スメクチック相あるいはネマチック相を示す液晶化合物、アルキルスルホン酸、ナフィオン膜系の構造を持つ化合物、アルキルカルボン酸、アルキルスルホン酸等を挙げることができる。また、特許第5916916号や特開2017-105874号明細書に記載の液晶化合物も好適に配合することができる。
【0045】
これらの成分の併用は、本発明の導電性潤滑剤に含まれる液晶化合物が液晶相を形成する温度範囲を更に広げ得るものであり、上述の液晶相形成による利点を広い温度範囲にて享受できる可能性がある。
【0046】
(基油)
本発明の化合物(1)を添加剤として導電性潤滑剤に含める場合、基油としては、従来公知の各種の潤滑剤基油を使用することができる。
【0047】
前記基油としては、特に限定されないが、例えば、鉱油、高精製鉱油、合成炭化水素油、パラフィン系鉱油、アルキルジフェニルエーテル油、エステル油、シリコーン油、ナフテン系鉱油及びフッ素油等が使用できる。このような基油の本発明の導電性潤滑剤における含有量は、通常80~99重量%である。
【0048】
(その他の添加剤)
本発明の化合物を基油として潤滑剤に含める場合、従来公知の各種添加剤を添加可能である。
【0049】
その他、本発明の導電性潤滑剤に添加可能な添加剤としては、軸受油、ギヤ油及び作動油などの潤滑剤に用いられている各種添加剤、すなわち極圧剤、配向吸着剤、摩耗防止剤、摩耗調整剤、油性剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄分散剤、金属不活性化剤、腐食防止剤、防錆剤、消泡剤、固体潤滑剤等が挙げられる。
【0050】
前記極圧剤の例としては、塩素系化合物、硫黄系化合物、リン酸系化合物、ヒドロキシカルボン酸誘導体、及び有機金属系極圧剤が挙げられる。極圧剤を添加することにより、本発明の導電性潤滑剤の耐摩耗性が向上する。
【0051】
前記配向吸着剤の例としては、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミニウムカップリング剤などの各種カップリング剤に代表される有機シランや有機チタン、有機アルミニウム等が挙げられる。配向吸着剤を添加することにより、本発明の導電性潤滑剤に含まれる液晶化合物の液晶配向を強め、本発明の導電性潤滑剤から形成される被膜の厚さとその強度が強化され得る。
【0052】
本発明の導電性潤滑剤は、以上説明した本発明の化合物やその他の成分を、従来公知の方法で混合することによって、調製することができる。本発明の導電性潤滑剤の調製方法の一例を示せば、以下のとおりである。
【0053】
導電性潤滑剤の構成成分を常法で混合し、その後、必要に応じて、ロールミル、脱泡処理、フィルター処理等を行って本発明の導電性潤滑剤を得る。あるいは、導電性潤滑剤の油成分を先に混合し、続いて添加剤等のその他の成分を加えて混合し、必要に応じて上記の脱泡処理等を行うことによっても、導電性潤滑剤を調製することができる。
【0054】
〔導電性潤滑剤の用途〕
本発明の導電性潤滑剤は、上述の通り広い温度範囲において良好な低粘度を示し、また動摩擦係数も小さいので、従来はグリースが適用されていた各種の機械装置における潤滑剤として使用可能である。
【0055】
機械装置は一般に、互いに接触して相対運動する複数の機械要素を有するが、この機械要素の接触面の少なくとも一部に本発明の導電性潤滑剤を配置することで、前記複数の機械要素の接触による摩擦を低減し、相対運動を円滑にすることができる。
【0056】
本発明において前記接触とは、複数の物体が直接接している場合だけでなく、本発明の導電性潤滑剤により形成される被膜など、何らかの物質の介在を受けて間接的に接している場合を含む。すなわち、本発明の導電性潤滑剤が複数の機械要素の接触面に配置された場合、当該組成物からなる被膜が複数の機械要素の間に形成されて、機械要素の直接的接触がなくなる。これにより、機械要素同士の摩擦による摩耗や焼き付きを好適に防止することができる。
【0057】
本発明の導電性潤滑剤を前記複数の機械要素の接触面に配置する方法は当業者に公知である。そのような方法として例えば、前記接触面への組成物の塗布、前記機械要素の接触面を含む、機械要素が近接している一定領域への前記組成物の充填が挙げられる。
【0058】
また、前記機械要素とは、各種の機械装置を構成する要素(部品等)であり、従来潤滑剤による潤滑が行われているもの、特にグリースが適用されているもの、及び、将来潤滑剤、特にグリースによる潤滑が行われる可能性のあるものを含む。
【0059】
前記複数の機械要素の接触面、より広く言えば機械要素の接触部位は平面であっても曲面であってもよいし、そのような面の少なくとも一部に凹凸があってもよいし、孔部が存在してもよい。また機械要素の接触部位を構成する各機械要素の部位には、各種改質など、表面処理がなされていてもよい。機械要素の材質も特に限定されず、金属材料、あるいは有機・無機材料など、いずれの材料で構成されていてもよい。また、機械要素の一方と他方とで、構成材料の種類が異なっていてもよい。
【0060】
このような各種機械要素を有する機械装置の例としては、運送用機械、加工用機械、コンピュータ関連機器、複写機等の事務関連機器並びに家庭用製品などが挙げられ、本発明の導電性潤滑剤は、例えばこれら各種機械装置の軸受けの潤滑のために好適に利用することができる。
【0061】
前記軸受けの具体例としては、電動ファンモータ及びワイパーモータ等の自動車電装品に使用される軸受;水ポンプ及び電磁クラッチ装置等の自動車エンジン補機等や駆動系に使用される転がり軸受;産業機械装置用の小型ないし大型の汎用モータ等の回転装置に使用される転がり軸受;工作機械の主軸軸受等の高速高精度回転軸受、エアコンファンモータ及び洗濯機等の家庭電化製品のモータや回転装置に使用される転がり軸受;HDD装置及びDVD装置等のコンピュータ関連機器の回転部に使用される転がり軸受;複写機及び自動改札装置等の事務機の回転部に使用される転がり軸受;並びに、電車及び貨車の車軸軸受が挙げられる。
【0062】
また、本発明の導電性潤滑剤は、自動車のCVJ装置や電子電気制御のパワーステアリング装置等に使用される樹脂プーリの潤滑、並びに、リニアガイドやボールねじなどの各種転動装置の機械要素の潤滑に使用することができる。
【0063】
本発明の導電性潤滑剤は、例えば、自動車等の車両のエンジン油、ギヤ油、自動車用作動油、船舶・航空機用潤滑油、マシン油,タービン油、油圧作動油、スピンドル油、圧縮機・真空ポンプ油、冷凍機油及び金属加工用潤滑油剤、また、ヒンジ油、ミシン油及び摺動面油、さらには、HDD装置のプラッタ用潤滑剤(水平磁気記録方式及び熱アシスト記録技術等を利用した垂直磁気記録方式に使用されるものを含む)、磁気記録媒体用潤滑剤、マイクロマシン用潤滑剤や人工骨用潤滑剤等にも利用することができる。また、風力発電、極地、宇宙関連用途のように、潤滑剤の交換が極めて困難な環境下において使用される場合、長期間にわたって蒸発、分解等による損失の少ない本発明の潤滑剤は特に有用である。
【実施例】
【0064】
以下、実施例によりさらに本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0065】
[各種物性の測定]
試験品の各種物性は以下の方法により行った。
【0066】
(化合物の構造確認)
1H-NMRにて行った。
【0067】
(化合物の動摩擦係数)
化合物の動摩擦係数は、市販の動摩擦係数測定装置で測定できるが、本明細書において動摩擦係数は、新東科学株式会社製表面性測定機「TYPE:14FW」を使用して測定する。
【0068】
本発明に係る化合物の動摩擦係数は、温度により影響を受けるため、前記動摩擦係数は所定の測定温度(100℃)で測定する。
【0069】
具体的には、前記表面性測定機の移動台にステンレス板を固定して試料をたらし、以下の条件で、固定したボールで点圧を加え往復運動による摩耗を繰り返し、往復回数100回ごとにおける動摩擦係数を1800回まで測定し、それらの平均値(平均動摩擦係数)を算出する。この平均値を、本発明に係る化合物の平均動摩擦係数とする。
【0070】
測定条件は以下のとおりである。
垂直荷重:100g
摩擦速度:600mm/min
往復回数:1800
往復ストローク:5mm
加重変換器容量:19.61N
摩擦相手材:SUS304 ステンレス球 直径10mm
サンプル量:0.2mL
【0071】
(化合物の液晶性)
偏光顕微鏡を用いた観察により、ガラス状態、液晶状態(スメクチック相)等を判断した。
【0072】
(化合物の導電性)
電極間距離を5μmに設定した面積1cm2のITO電極間に試料を注入し、電圧印加電流測定装置としてアドバンテストADCMT 6241A、温度コントローラーとしてメトラーFP900サーモシステムをそれぞれ用いて、印加電圧5V、30℃から300℃の温度範囲で電流値を測定した。測定は液晶の固定化を確認するため、各2回行った。
【0073】
(化合物の蛍光スペクトル)
F-7000型分光蛍光光度計(株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用い、下記条件にて行った。
励起波長:371.0nm
蛍光開始波長:200.0nm
蛍光終了波長:700.0nm
スキャンスピード:240nm/min.
励起側スリット:5.0nm
蛍光側スリット:5.0nm
ホトマル電圧:400V
【0074】
[化合物の合成]
本発明に係る化合物の合成例を以下に示す。
【0075】
[合成例1 液晶化合物(9-1)の合成]
初めに、アルデヒド原料を調製する。
【化16】
500mLの三角フラスコに、3,4-ジヒドロキシベンズアルデヒド(5)5.5g(0.040mol)、炭酸カリウム16.6g(0.12mol)をDMF150mLに溶解させ、窒素雰囲気下、シリコン浴にて50℃で1時間攪拌した。その後、臭素化合物(4-1)27.0g(0.10mol)を加え、シリコン浴中80℃で48時間攪拌した。
反応溶液を10%冷希塩酸300mLに注ぎ、1Lの分液漏斗を用いてジエチルエーテル300mLで抽出した。得られたエーテル層は蒸留水300mLで洗浄した。水層はジエチルエーテル100mLで再抽出した。得られたエーテル層を合わせ、無水硫酸ナトリウムを加え、一晩脱水した。
吸引濾過により無水硫酸ナトリウムを除去し、エバポレーターで溶媒を減圧除去した。未反応の臭素化合物(4-1)をエバポレーター(200℃油浴)で減圧除去した。残渣をメタノールで洗浄し、可溶部から目的物(6-1)を得た。
結果は以下のとおりである。
理論収量:20.3g
収量:19.8g
収率:98%
形状:茶色の固体
【0076】
次に、上記アルデヒド原料から液晶化合物を得る。
【化17】
【0077】
300mLの三角フラスコにアルデヒド化合物(6-1)を4.1g(0.0080mol)、化合物(8)を1.5g(0.0040mol)、溶媒としてTHFを50mL加えた。そこにTHF50mLに溶解させたカリウム-t-ブトキシド1.4g(0.012mol)を一滴ずつ滴下し、窒素雰囲気下30℃で24時間攪拌した。
塩酸を5mL加えてからTHFをエバポレーションで減圧除去した。その後、得られた固体をメタノール、ヘキサンで洗浄を行った。
その後、残渣をTHF10~20mLに溶解し、蒸留水200mLを加えて超音波洗浄を行い、冷蔵庫に一晩入れた。容器の壁面に析出した目的物をデカンテーションによって得た。なお、目的物の量が不足するようであれば、蒸留水をエバポレーターで濃縮してから、もう一晩冷蔵庫に入れて目的物を得ても良い。必要によりカラムクロマトグラフィーを行い、目的物(9-1)を得た。
結果は以下のとおりである。
理論収量:4.3g
収量:1.7g
収率:40%
形状:黄色、粘性のある固体
【0078】
上記方法に準じて合成された式(9-1)の化合物の構造を下記に示す。
【表1】
【0079】
[合成例2 液晶化合物の合成]
ハロゲン化物原料を調製し、テレフタルアルデヒドを用いてカップリングして液晶化合物を得る。
【化18】
【0080】
300mLの三角フラスコを用いてテレフタルアルデヒド(1-8)1.94g(0.015mol)と化合物(3-6)19.93g(0.03mol)をTHFに溶解した。塩基としてカリウム―t―ブトキシド6.8g(0.06mol)をTHF50mLに溶解させ、室温で40分かけて滴下した。その後、窒素雰囲気下で一晩攪拌した。
反応後、THFをエバポレーターで減圧除去し、残渣にはメタノール150mLを加えて濾過によってメタノール不溶部を得た。これを、更にメタノール100mLで超音波洗浄を数回繰り返し、得られた目的物(3-7)は真空で一晩乾燥させた。
結果は以下のとおりである。
収量:18.2g
収率:99.4%
形状:淡黄色固体
更にアセトンにより精製することにより、2個の-CH=CH-に結合する基がいずれもトランスの位置関係にある化合物(1H-NMRにより確認した)が淡黄色粉末固体として得られた。なお、トランス体のみで構成することにより、集合体を生成しやすくなり、蒸発しにくく、導電性も向上できる。一方、シス体が含まれると当該作用が阻害されるおそれがある。
【0081】
[化合物の液晶性]
偏光顕微鏡により液晶性を観察した結果を下表に示す。
【表2】
(低温側のスメクチック相をSm1、高温側のスメクチック相をSm2とする)
-50℃から+300℃以上の広い範囲でスメクチック液晶相を呈することがわかった。常温で液晶相を示すことは本発明に係る化合物の顕著な特徴の一つである。
【0082】
化合物番号[9-1-1]の示差熱分析の結果を
図1に示す。59.59℃に変曲点を有する曲線がDTA曲線であり、400℃付近から下降している曲線がTG曲線である。60℃付近と420℃付近で構造の変化が生じるが、その間では安定であることを示す。30℃から300℃の温度範囲で蒸発、分解等を起こさないことも本発明に係る化合物の顕著な特徴の一つである。
【0083】
[化合物の導電性]
化合物番号[9-1-1]、[9-1-2]、[9-1-3]、[9-1-4]、[9-1-5]の導電性の温度による変化を下記表3~7に示す。
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
このように、30℃から300℃という広い温度範囲において導電性を示すことは本発明に係る化合物の顕著な特徴の一つである。化合物番号[3-7]の導電性の温度による変化は
図2に示す。両端のベンゼン環に各3個の置換基を有するこの化合物は、30℃から90℃の範囲で10,000μA以上、30℃から100℃の範囲でも7,500μA以上の高い導電性を発現する点に顕著な特徴を有する。
【0090】
[化合物の動摩擦係数]
化合物番号[9-1-6]及び従来広く潤滑油として使用されているDOS(下記構造式:ジオクチルセバケート)について動摩擦係数の測定を行った。結果を下記表8に示す。
【0091】
【0092】
【0093】
[化合物の蛍光スペクトル]
化合物番号[9-1-3]及び[9-1-4]の蛍光スペクトルの測定結果をそれぞれ
図3(A)及び(B)に示した。420.8nm及び443.6nmにピークが観察され、青色蛍光を発することがわかる。長波長の紫外線を放射する電灯であるブラックライトからの光を当て、化合物番号[9-1-3]及び[9-1-4]を発光させ、その発光の有無を確認することで潤滑剤漏れのような不具合を直ちに発見できることは本発明に係る化合物の顕著な特徴の一つである。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明に係る液晶化合物は、広い温度範囲において液晶性を示し、低い動摩擦係数を保持し、導電性を有し、蒸発、分解等による損失がほとんどなく、清潔な外観を有し、蛍光を発するため、劣化や漏れが直ちに発見できる、といった特性を併せ持つため、導電性潤滑剤原料としてきわめて有用である。