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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-12
(45)【発行日】2022-10-20
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/02 20060101AFI20221013BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20221013BHJP
   B60K 6/50 20071001ALI20221013BHJP
   B60K 17/04 20060101ALI20221013BHJP
   B60L 7/14 20060101ALI20221013BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20221013BHJP
   B60W 10/10 20120101ALI20221013BHJP
   B60W 20/10 20160101ALI20221013BHJP
   F16H 37/02 20060101ALI20221013BHJP
【FI】
B60W10/02 900
B60K6/48 ZHV
B60K6/50
B60K17/04 G
B60L7/14
B60L50/16
B60W10/10 900
B60W20/10
F16H37/02 Q
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018140412
(22)【出願日】2018-07-26
(65)【公開番号】P2020015446
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110003410
【氏名又は名称】弁理士法人テクノピア国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100116942
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 雅信
(74)【代理人】
【識別番号】100167704
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 裕人
(72)【発明者】
【氏名】川原崎 洋文
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-056366(JP,A)
【文献】特開2012-192856(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0145679(US,A1)
【文献】特開2011-037359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/02
B60K 6/48
B60K 6/50
B60K 17/04
B60L 7/14
B60L 50/16
B60W 10/10
B60W 20/10
F16H 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ・ジェネレータと、
前記モータ・ジェネレータからの動力が入力される変速機構と、を備え、
前記モータ・ジェネレータからの動力を前記変速機構から駆動軸を介して車輪に伝達する第一伝達経路と、前記車輪から前記駆動軸に伝達される動力を前記変速機構を介さず増速部を介して前記モータ・ジェネレータに伝達する第二伝達経路との切り替えを、前記第一、第二伝達経路ごとに設けられたワンウェイクラッチにより行うと共に、
前記増速部における前記車輪から前記モータ・ジェネレータ側へのギヤ比が前記第一伝達経路における前記車輪から前記モータ・ジェネレータ側への最大ギヤ比よりも大きく、
前記第一伝達経路は、前記変速機構の入力軸の回転方向とは逆方向の回転動力を前記駆動軸に伝達し、
前記増速部が二枚一組のヘリカルギヤで構成された
車両。
【請求項2】
前記変速機構に動力が入力されるエンジンを備える
請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記変速機構が無段変速機構とされた
請求項1又は請求項2に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪の駆動源としてモータ・ジェネレータを備えた車両についての技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車輪の駆動源として電動モータを備えた電動車両が実用化されている。電動車両としては、駆動源として電動モータとエンジンとを備えたハイブリッド車(HEV)や、電動モータのみを備えた電気自動車(EV)がある。
【0003】
電動車両において、電動モータとしては、発電機としても機能するモータ・ジェネレータが用いられる場合もあり、モータ・ジェネレータは、車両の加速時にはモータとして使用され、車両の減速時(回生時)には車輪から伝達されるトルクを受けて発電を行う発電機として使用される。
【0004】
ここで、車両の加速時には駆動源の発生トルクに対し大きな駆動力が必要とされるため、駆動源からの動力について減速することを要する。そのため、電動車両としては、モータ・ジェネレータからの動力を、例えばCVT(Continuously Variable Transmission)等の変速機構を介して車輪に伝達するように構成される場合がある。
【0005】
しかしながら、上記のように変速機構を介して車輪に動力伝達を行う電動車両では、車両の加速時と回生時の双方で、変速機構を介して動力伝達が行われるため、回生量(回生効率)の低下を招く虞がある。これは、変速機構のギヤ比は車輪の駆動に要するトルクに応じて定められており、必ずしも回生に適したギヤ比とはならないためである。
【0006】
そこで、例えば下記特許文献1に開示されるように、車両の加速時と回生時とで異なる動力伝達経路を使用する構成が提案されている。具体的には、車両の加速時はモータ・ジェネレータからの動力を変速機構を介して車輪に伝達する経路(以下「第一伝達経路」と表記)を、また、回生時には車輪からの動力を変速機構を介さず増速ギヤを介してモータ・ジェネレータに伝達する経路(以下「第二伝達経路」と表記)をそれぞれ使用するように、動力伝達経路の切り替えを行う構成である(特許文献1の図9図10参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-56366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、第一伝達経路と第二伝達経路の切り替えを、油圧駆動のクラッチ(第3クラッチCL3、第4クラッチCL4)により行っている。このため、回生効率の向上を図るにあたって車両の構成複雑化、及びコストアップを助長するものとなる。
【0009】
本発明は上記事情に鑑み為されたものであり、モータ・ジェネレータを備えた車両について、回生効率の向上を構成複雑化やコストアップの抑制を図りつつ実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る車両は、モータ・ジェネレータと、前記モータ・ジェネレータからの動力が入力される変速機構と、を備える。そして、前記モータ・ジェネレータからの動力を前記変速機構を介して車輪に伝達する第一伝達経路と、前記車輪からの動力を前記変速機構を介さず増速部を介して前記モータ・ジェネレータに伝達する第二伝達経路との切り替えを、前記第一、第二伝達経路ごとに設けられたワンウェイクラッチにより行うものである。
【0011】
これにより、第一、第二伝達経路の切り替えを行うためのクラッチとして、油圧式のクラッチや電動式のクラッチを設ける必要がなくなり、経路切り替えのための構成が簡略化される。
【0012】
上記した本発明に係る車両においては、前記増速部を構成するギヤの枚数が二枚とされた構成とすることが可能である。
【0013】
これにより、第二伝達経路における噛み合い数が最小限に抑えられる。
【0014】
上記した本発明に係る車両においては、前記増速部のギヤ比が前記第一伝達経路における最大ギヤ比よりも大きい構成とすることが可能である。
【0015】
これにより、車輪からの動力を第一伝達経路を介してモータ・ジェネレータに伝達する場合よりも増速比が高められる。
【0016】
上記した本発明に係る車両においては、前記変速機構に動力が入力されるエンジンを備える構成とすることが可能である。
【0017】
これにより、ハイブリッド車としての構成が採られる場合に対応して、第一、第二伝達経路の切り替えのための構成の複雑化防止が図られる。
【0018】
上記した本発明に係る車両においては、前記変速機構が無段変速機構とされた構成とすることが可能である。
【0019】
これにより、無段変速機構が用いられる場合に対応して第一、第二伝達経路の切り替えのための構成の複雑化防止が図られる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、回生効率の向上を車両の構成複雑化やコストアップの抑制を図りつつ実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態としての車両の要部の構成例を示した図である。
図2】実施形態の車両が備えるワンウェイクラッチの構造例を示した断面図である。
図3】実施形態としての車両における加速時の動力伝達経路(第一伝達経路)についての説明図である。
図4】実施形態としての車両における回生時の動力伝達経路(第二伝達経路)についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<1.車両の構成>
以下、添付図面を参照して本発明に係る実施形態としての車両1について説明する。
図1は、実施形態としての車両1の要部の構成例(本発明に係る要部の構成例)を示した図である。
図1に示すように車両1は、エンジン2と、エンジン2の出力軸a1と、第一クラッチ3と、変速機構4と、変速機構4の入力軸a2及び出力軸a3と、ギヤ5及びギヤ6と、駆動軸a4と、ディファレンシャル機構7と、右ドライブシャフト8R及び右駆動輪WRと、左ドライブシャフト8L及び左駆動輪WLと、モータ・ジェネレータ(MG:Motor Generator)9と、モータ・ジェネレータ9の入出力軸a5と、第二クラッチ10と、第一OWC(ワンウェイクラッチ)11及び第二OWC12と、増速部13とを備えている。また車両1は、電気的な構成として、インバータ20、モータコントローラ21、及びバッテリ22を備えている。
【0023】
エンジン2は、車両1を走行させる走行用動力源(原動機)であり、燃料を消費して車両1の駆動輪(右駆動輪WR、左駆動輪WL)に作用させる動力を発生させる。エンジン2は、燃料を燃焼させて機関出力軸であるクランクシャフト(不図示)に機械的な動力(エンジントルク)を発生させる。
出力軸a1には、このようにクランクシャフトに生じるエンジン2の動力が伝達される。
【0024】
第一クラッチ3は、出力軸a1と入力軸a2との間に配置され、出力軸a1と入力軸a2とを連結状態とする締結状態と、出力軸a1と入力軸a2とを非連結状態とする非締結状態との切り替えが可能に構成されている。これにより、エンジン2から変速機構4への動力伝達について、伝達状態と非伝達状態との切り替えを行うことが可能とされる。換言すれば、動力の入力状態/非入力状態の切り替えを行うことが可能とされる。
本例では、第一クラッチ3には油圧クラッチが用いられる。
【0025】
変速機構4は、運転者の操作によらず自動的な変速が可能とされた自動変速機構とされ、本例では、CVT(Continuously Variable Transmission)が用いられている。具体的に、本例の変速機構4は、入力軸a2(プライマリシャフト)に連結されたプライマリプーリ4aと、出力軸a3(セカンダリシャフト)に連結されたセカンダリプーリ4b、プライマリプーリ4aとセカンダリプーリ4bとの間に掛け渡された(巻き掛けられた)ベルトやチェーン等の巻き掛け部材4cとを含んで構成される巻き掛け式の無段変速機構が用いられる。
CVTとしての変速機構4においては、油圧により巻き掛け部材4cを挟み込む力(挟圧力:クランプ力)をプライマリプーリ4a及びセカンダリプーリ4bの個々で制御することが可能とされる。これにより、プライマリプーリ4a及びセカンダリプーリ4bのそれぞれにおいて、V字の溝幅を変更して巻き掛け部材4cの回転半径(巻き掛け径)を調節することができ、プライマリプーリ4aの入力回転速度に相当する入力回転数(プライマリ回転数)とセカンダリプーリ4bの出力回転速度に相当する出力軸回転数(セカンダリ回転数)との比である変速比を無段階に変更することが可能とされている。また、プライマリプーリ4a、セカンダリプーリ4bそれぞれにおいて巻き掛け部材4cの挟圧力が調整されることで、これに応じたトルク容量で動力を伝達することが可能となっている。
【0026】
変速機構4を介し出力軸a3に伝達された動力は、出力軸a3に同軸に連結されたギヤ5を介し、該ギヤ5と噛合するギヤ6に伝達される。ここで、「同軸」とは、互いの回転軸が一致していることを意味する。
【0027】
ギヤ6は、中央部が軸方向に貫通され、該貫通された部分が空隙S1として形成されている。図示のように、この空隙S1に駆動軸a4が挿通されている。
また、ギヤ6は、第一OWC11の内周側回転部材11aと同軸に連結され、該内周側回転部材11aと同軸に回転する。
【0028】
ここで、図2の断面図に示すように、第一OWC11は、内周側回転部材11aと、外周側回転部材11bと、内周側回転部材11aと外周側回転部材11bとの間に配置された複数のスプラグ11cとを有するスプラグ式のワンウェイクラッチとされている。各スプラグ11cは、内周側回転部材11aの外周面と外周側回転部材11bの内周面とに接している。
本例の第一OWC11においては、内周側回転部材11aの中央部が軸方向に貫通され、該貫通された部分が空隙S2として形成されている(図1及び図2参照)。
図1に示すように、この空隙S2に、駆動軸a4が挿通されている。
第一OWC11の外周側回転部材11bは、駆動軸a4に対し同軸に連結されている。
【0029】
第一OWC11が締結状態とされることで、変速機構4に入力された動力がギヤ5、ギヤ6、内周側回転部材11a、スプラグ11c、及び外周側回転部材11bを介して駆動軸a4に伝達される。
【0030】
駆動軸a4に伝達された動力は、ディファレンシャル機構7を介して右ドライブシャフト8R、左ドライブシャフト8Lに伝達される。右ドライブシャフト8Rに伝達された動力は、右ドライブシャフト8Rに連結された右駆動輪WRに、また左ドライブシャフト8Lに伝達された動力は左ドライブシャフト8Lに連結された左駆動輪WLにそれぞれ伝達される。
この結果、車両1は、右駆動輪WR、左駆動輪WLの路面との接地面に駆動力[N]が生じ、これにより走行することができる。
【0031】
また、実施形態の車両1は、車輪(本例では右駆動輪WR及び左駆動輪WL)の駆動源として、モータ・ジェネレータ9を備えている。
モータ・ジェネレータ9は、例えば三相交流式の同期型電動発電機とされ、永久磁石が埋設されたロータ(回転子)と、ロータの外周に位置されコイルが巻き付けられたステータ(固定子)とを有する。ロータには、モータ・ジェネレータ9の入出力軸a5が同軸に連結されている。
【0032】
モータ・ジェネレータ9は、バッテリ22の出力電圧に基づいて回転駆動される電動機(モータ)としての機能と、入出力軸a5に入力された回転エネルギーを受けて発電を行う(つまりステータのコイルに起電力を生じさせる)機能とを兼ね備えている。なお以下、モータ・ジェネレータ9が電動機として機能する状態を「力行状態」、発電機として機能する状態を「回生状態」と表記する。
【0033】
インバータ20は、力行状態では、バッテリ22の出力電圧に基づき生成する三相交流電圧によりモータ・ジェネレータ9を回転駆動し、回生状態では、モータ・ジェネレータ9で発電された電力に基づいてバッテリ22を充電する。
【0034】
モータコントローラ21は、例えばCPU(Central Processing Unit)やROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)を有するマイクロコンピュータを備えて構成され、インバータ20に対する指示を行って、モータ・ジェネレータ9の出力制御や、力行状態/回生状態の切り替え制御等を行う。
【0035】
第二クラッチ10は、モータ・ジェネレータ9の入出力軸a5と変速機構4の入力軸a2との間に配置され、入出力軸a5と入力軸a2とを連結状態とする締結状態と、入出力軸a5と入力軸a2とを非連結状態とする非締結状態との切り替えが可能に構成されている。
第二クラッチ10が締結状態とされることで、モータ・ジェネレータ9が力行状態であれば、モータ・ジェネレータ9から変速機構4に対する動力伝達が行われる。すなわち、このとき第一クラッチ3側も締結状態であれば、変速機構4はエンジン2とモータ・ジェネレータ9の双方からの動力が入力される。換言すれば、モータ・ジェネレータ9によってエンジン2についてのトルクアシストが行われるものである。
なお、第二クラッチ10についても、本例では第一クラッチ3と同様に油圧クラッチが用いられる。
【0036】
また、車両1において、駆動軸a4に対しては、第二OWC12の外周側回転部材12bが同軸に連結されている。
第二OWC12としても、第一OWC11と同様、例えばスプラグ式のワンウェイクラッチとされ(図2を参照)、外周側回転部材12bの内周に位置する内周側回転部材12aと、外周側回転部材12bと内周側回転部材12aとの間に位置されそれぞれが外周側回転部材12bの内周面と内周側回転部材12aの外周面に接する複数のスプラグ12c(不図示)とを有している。
図示のように、内周側回転部材12aは中央部が軸方向に貫通され、該貫通された部分が空隙S3として形成されており、この空隙S3に駆動軸a4が挿通されている。
【0037】
増速部13は、モータ・ジェネレータ9の入出力軸a5と同軸に連結されたギヤ14と、ギヤ14と噛合するギヤ15とを備えている。本例では、ギヤ14及びギヤ15にはヘリカルギヤが用いられている。
【0038】
ギヤ15は、中央部が軸方向に貫通され、該貫通された部分が空隙S4として形成されており、図示のようにこの空隙S4に駆動軸a4が挿通されている。
また、ギヤ15は、第二OWC12の内周側回転部材12aと同軸に連結されており、該内周側回転部材12aと同軸に回転する。
【0039】
<2.動力伝達経路の切り替え>
図3及び図4を参照して、車両1における動力伝達経路の切り替えについて説明する。 図3は、車両1の加速時における動力伝達経路(以下「加速時伝達経路」と表記)を、図4は車両1の減速時(回生時)における動力伝達経路(以下「減速時伝達経路」と表記)をそれぞれ示している。
なお図3図4では、インバータ20、モータコントローラ21、及びバッテリ22の図示は省略している。
【0040】
図3に示す加速時においては、第一クラッチ3及び第二クラッチ10が締結状態とされて、変速機構4にはエンジン2とモータ・ジェネレータ9の双方からの動力が入力される。
第一OWC11は、このように変速機構4に動力が入力されている、すなわちギヤ6を介して内周側回転部材11aに動力が伝達されているときに、外周側回転部材11bの回転速度が内周側回転部材11aの回転速度以下であれば締結状態となるように構成されている。従って、車両1の加速時には、内周側回転部材11aに入力された動力がスプラグ11cを介して外周側回転部材11bに伝達され、これにより図中の梨地部分が表すように、エンジン2とモータ・ジェネレータ9の動力を変速機構4、ギヤ5、ギヤ6、第一OWC11、ディファレンシャル機構7、右ドライブシャフト8R、左ドライブシャフト8Lを介して右駆動輪WR、左駆動輪WLに伝達する加速時伝達経路が形成される。
【0041】
ここで、第二OWC12は、第一OWC11とはスプラグ12cの向きが逆とされていることから、モータ・ジェネレータ9からの動力が増速部13を介して内周側回転部材12aに伝達されても、締結状態とはならない(内周側回転部材12aが内周側回転部材11aと逆方向に回転されなければ締結状態とはならい)。
【0042】
第二OWC12は、上記のスプラグの向きの設定により、外周側回転部材12bが駆動軸a4と連動して回転している状態において、内周側回転部材12aがモータ・ジェネレータ9の動力により駆動されず、且つ内周側回転部材12aの回転速度が外周側回転部材12bの回転速度以下である場合に、締結状態となるように構成されている。
【0043】
図4に示す回生時、すなわち第一クラッチ3及び第二クラッチ10の双方が非締結状態とされ、車両1が減速しているときには、右駆動輪WR及び左駆動輪WLからの動力が、右ドライブシャフト8R、左ドライブシャフト8L、及びディファレンシャル機構7を介して駆動軸a4に伝達され、駆動軸a4に連結された第二OWC12の外周側回転部材12bが回転される。
このとき、モータ・ジェネレータ9は回生状態にあり力行状態ではないため、モータ・ジェネレータ9の入出力軸a5と増幅部13を介して連結された第二OWC12の内周側回転部材12aの回転速度は、外周側回転部材12bの回転速度を超えないものとなる。すなわち、上述した第二OWC12の締結条件(内周側回転部材12aがモータ・ジェネレータ9の動力により駆動されず、且つ内周側回転部材12aの回転速度が外周側回転部材12bの回転速度以下であるとの条件)を満たす状態になる。
一方、図4に示す減速時には、内周側回転部材11aに対しエンジン2やモータ・ジェネレータ9からの動力は伝達されないため、第一OWC11は非締結状態とされる。
【0044】
この結果、図4に示す減速時においては、図中の梨地部分で表すように、右駆動輪WR及び左駆動輪WLからの動力を右ドライブシャフト8R、左ドライブシャフト8L、ディファレンシャル機構7、駆動軸a4、第二OWC12、増速部13、及び入出力軸a5を介してモータ・ジェネレータ9に伝達する減速時伝達経路が形成される。
すなわち、減速時において、車輪からの動力は変速機構4を介さず、増幅部13で増速されてモータ・ジェネレータ9に伝達される。
【0045】
ここで、本例の車両1において、増幅部13のギヤ比は、加速時伝達経路における最大ギヤ比よりも大きくされている。加速時伝達経路における最大ギヤ比とは、変速機構4において変速比が最大とされた際の加速時伝達経路におけるギヤ比である。
このように増幅部13のギヤ比を加速時伝達経路における最大ギヤ比よりも大きくすることで、変速機構4で設定される変速比によらず、車輪からの動力を加速時伝達経路を介して(変速機構4を介して)モータ・ジェネレータ9に伝達する場合よりも増速比を高めることができ、回生効率の向上を図ることができる。
【0046】
また、本例の車両1では、増速部13を構成するギヤの枚数、すなわち車輪からモータ・ジェネレータ9に伝達される動力について増速を行うためのギヤの枚数が2枚(ギヤ14及びギヤ15)とされているが、このような構成により、減速時伝達経路における噛み合い数が最小限に抑えられ、回生効率の向上を図ることができる。
本例の車両1において、上記のように増速部13のギヤ枚数を二枚とすることができるのは、加速時伝達経路において、変速機構4からの動力を駆動軸a4に伝達するにあたり、ギヤ5及びギヤ6によって回転方向を変換するように構成したことによる。仮に、ギヤ5及びギヤ6を省略し、出力軸a3と同軸に第一OWC11及び第二OWC12を設けた場合には、該出力軸a3とモータ・ジェネレータ9の入出力軸a5との回転方向を合わせるために、増幅部13には最少でも三枚のギヤを設けることが必要となる。
【0047】
なお、図3では、加速時の例として、第一クラッチ3と第二クラッチ10の双方を締結状態としてエンジン2とモータ・ジェネレータ9の双方から変速機構4に動力を入力する例を挙げたが、加速時の例としては、第一クラッチ3側を非締結状態とし、モータ・ジェネレータ9からの動力のみを変速機構4に入力する例や、逆に、第二クラッチ10側を非締結状態としエンジン2からの動力のみを変速機構4に入力する例もあり得る。
ここで、後者の例、すなわち第二クラッチ10側を非締結状態とする例では、加速時にモータ・ジェネレータ9を回転駆動しないことになる。この場合には、第二OWC12において上述した締結条件が満たされることになり、加速時においても駆動軸a4の回転に連動してモータ・ジェネレータ9(ロータ)が回転されることになる。
<3.変形例>
ここで、実施形態としての車両1は上記した具体例に限定されず、多様な構成を採り得る。
例えば、上記では、第一OWC11、第二OWC12としてスプラグ式のワンウェイクラッチを用いる例を挙げたが、これら第一OWC11、第二OWC12についてはカム式等の他の形式によるワンウェイクラッチを用いることもできる。
【0048】
また、上記では、変速機構4が無段変速機構とされる場合を例示したが、変速機構4としては、例えば遊星歯車機構を用いた有段式の自動変速機構とすることもできる。
或いは、ヘリカルギヤを用いたMT(Manual Transmission)としての変速機構やDCT(Dual Clutch Transmission)としての変速機構とすることもできる。
【0049】
また、車両1としては、車輪の駆動源としてエンジン2とモータ・ジェネレータ9(電動モータ)の双方を備えたハイブリッド車に限定されず、駆動源として電動モータのみを備えた電気自動車としての構成も採り得る。その場合の車両1としては、例えば、図1に示した構成からエンジン2と第一クラッチ3とを省略した構成として実現することができる。
【0050】
<4.実施形態のまとめ>
以上説明したように、実施形態の車両(同1)は、モータ・ジェネレータ(同9)と、モータ・ジェネレータからの動力が入力される変速機構(同4)と、を備え、モータ・ジェネレータからの動力を変速機構を介して車輪に伝達する第一伝達経路(加速時伝達経路)と、車輪からの動力を変速機構を介さず増速部(同13)を介してモータ・ジェネレータに伝達する第二伝達経路(減速時伝達経路)との切り替えを、第一、第二伝達経路ごとに設けられたワンウェイクラッチ(第一OWC11、第二OWC12)により行うものである。
【0051】
これにより、第一、第二伝達経路の切り替えを行うためのクラッチとして、油圧式のクラッチや電動式のクラッチを設ける必要がなくなり、経路切り替えのための構成が簡略化される。
従って、回生効率の向上を車両の構成複雑化やコストアップの抑制を図りつつ実現することができる。
なお、第一クラッチ3、第二クラッチ10は、変速機構4に対する動力の入力/非入力を切り替えるためのクラッチであり、第一、第二伝達経路の切り替えを行うためのクラッチとは異なる。
【0052】
また、実施形態の車両においては、増速部を構成するギヤの枚数が二枚とされている(ギヤ14、ギヤ15)。
【0053】
これにより、第二伝達経路における噛み合い数が最小限に抑えられる。
従って、回生効率の向上を図ることができる。
【0054】
さらに、実施形態の車両においては、増速部のギヤ比が第一伝達経路における最大ギヤ比よりも大きい。
【0055】
これにより、車輪からの動力を第一伝達経路を介してモータ・ジェネレータに伝達する場合よりも増速比が高められる。
従って、回生効率の向上を図ることができる。
【0056】
さらにまた、実施形態の車両においては、変速機構に動力が入力されるエンジン(同2)を備えている。
【0057】
これにより、ハイブリッド車としての構成が採られる場合に対応して、第一、第二伝達経路の切り替えのための構成の複雑化防止が図られる。
従って、ハイブリッド車について、回生効率の向上を車両の構成複雑化やコストアップの抑制を図りつつ実現することができる。
【0058】
また、実施形態の車両においては、変速機構が無段変速機構とされている。
【0059】
これにより、無段変速機構が用いられる場合に対応して第一、第二伝達経路の切り替えのための構成の複雑化防止が図られる。
従って、無段変速機構を有する車両について、回生効率の向上を車両の構成複雑化やコストアップの抑制を図りつつ実現することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 車両、2 エンジン、3 第一クラッチ、4 変速機構、8R 右ドライブシャフト、8L 左ドライブシャフト、WR 右駆動輪、WL 左駆動輪、9 モータ・ジェネレータ、10 第二クラッチ、11 第一OWC(ワンウェイクラッチ)、11a 内周側回転部材、11b 外周側回転部材、11c スプラグ、12 第二OWC、12a 内周側回転部材、12b 外周側回転部材、12c スプラグ、13 増速部、14 ギヤ、15 ギヤ、S1~S4 空隙
図1
図2
図3
図4