(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-12
(45)【発行日】2022-10-20
(54)【発明の名称】無電解ニッケルめっき液及び無電解ニッケルめっき方法
(51)【国際特許分類】
C23C 18/36 20060101AFI20221013BHJP
C23C 18/52 20060101ALI20221013BHJP
H05K 3/18 20060101ALI20221013BHJP
【FI】
C23C18/36
C23C18/52
H05K3/18 F
(21)【出願番号】P 2018093319
(22)【出願日】2018-05-14
【審査請求日】2021-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津野 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】梶山 笑理
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 佳
(72)【発明者】
【氏名】村田 俊也
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-199887(JP,A)
【文献】特開昭60-036353(JP,A)
【文献】特開昭58-019468(JP,A)
【文献】特開平09-049085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00-18/54
H05K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】
[式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、又は下記一般式(II):
【化2】
(式中、R
5は、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基である)で示される基であり、且つ、R
1、R
2、R
3及びR
4からなる群より選択される少なくとも1つは前記一般式(II)で示される基であり、互いに結合して環状になっていてもよく、nは3~5の整数である。]で表されるアルキレンアミン化合物を含有することを特徴とする、無電解ニッケルめっき液。
【請求項2】
下記一般式(I)
【化3】
[式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、又は下記一般式(II):
【化4】
(式中、R
5は、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基である)で示される基であり、且つ、R
1、R
2、R
3及びR
4からなる群より選択される少なくとも1つは前記一般式(II)で示される基であり、互いに結合して環状になっていてもよく、nは2~5の整数である。]で表されるアルキレンアミン化合物を含有し、
前記R
1
及びR
2
は互いに結合して環状になっており、
フレキシブル基板用であることを特徴とする、無電解ニッケルめっき液。
【請求項3】
前記無電解ニッケルめっき液中の前記一般式(I)で表されるアルキレンアミン化合物の含有量は、7g/L未満である、請求項1又は2に記載の無電解ニッケルめっき液。
【請求項4】
前記一般式(I)で表されるアルキレンアミン化合物は、nが3又は4である、請求項1~3のいずれかに記載の無電解ニッケルめっき液。
【請求項5】
前記一般式(I)で表されるアルキレンアミン化合物が、R
1、R
2、R
3及びR
4のうちの2個が水素原子であるアルキレンアミン化合物、及び、R
1、R
2、R
3及びR
4のうちの3個が水素原子であるアルキレンアミン化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~4のいずれかに記載の無電解ニッケルめっき液。
【請求項6】
更に、水溶性ニッケル化合物、還元剤及び錯化剤を含有する、請求項1~5のいずれかに記載の無電解ニッケルめっき液。
【請求項7】
下記一般式(I)
【化5】
[式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、又は下記一般式(II):
【化6】
(式中、R
5は、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基である)で示される基であり、且つ、R
1、R
2、R
3及びR
4からなる群より選択される少なくとも1つは前記一般式(II)で示される基であり、互いに結合して環状になっていてもよく、nは3~5の整数である。]で表されるアルキレンアミン化合物を含有する無電解ニッケルめっき液に、被めっき物を接触させることを特徴とする、無電解ニッケルめっき方法。
【請求項8】
下記一般式(I)
【化7】
[式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、又は下記一般式(II):
【化8】
(式中、R
5は、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基である)で示される基であり、且つ、R
1、R
2、R
3及びR
4からなる群より選択される少なくとも1つは前記一般式(II)で示される基であり、互いに結合して環状になっていてもよく、nは2~5の整数である。]で表されるアルキレンアミン化合物を含有する無電解ニッケルめっき液に、被めっき物であるフレキシブル基板を接触させることを特徴とする、無電解ニッケルめっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解ニッケルめっき液及び無電解ニッケルめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品、特にプリント配線板において、はんだ付け、ボンディング等を行う部分には、表面処理として無電解ニッケルめっき皮膜を形成した後、金めっきを施すことが多い。この場合、通常、厚さ1~5μm程度の無電解ニッケルめっき皮膜を形成した後、置換めっき法により0.03~0.1μm程度の金皮膜が形成されている。また、金ワイヤボンディングにおける優れた耐熱性を付与するためには、置換金めっき法または還元金めっき法によって、厚さ0.2~0.7μm程度の金皮膜を形成する場合もある。
【0003】
上記したプリント配線板の基板材料は、主にガラスエポキシ樹脂を用いたいわゆるリジッド基板と主にポリイミド等を用いたフレキシブル基板に大別される。これらの内で、フレキシブル基板では、形状変化に対応するためにめっき皮膜に柔軟性が要求されるが、上記したニッケルめっき/金置換処理を行った場合には、ニッケルめっき皮膜の柔軟性が悪く、基板のパターン部を形成する銅と比較して耐折り曲げ性に劣るという欠点がある。例えば、下記特許文献1には、ニッケル系下地層上にパラジウムを還元析出させてパラジウムバリア層を形成し、該パラジウムバリア層上に置換金めっきによりハンダ接合部を形成する方法が記載されているが、この方法では、ニッケル系下地層の厚さを0.5μm以下とすることが望ましく、0.5μmを超えると、フレキシブル基板での折り曲げに対してクラックが発生し易くなることが記載されている。
【0004】
また、携帯機器の軽薄短小化によりリジッド基板も軽く薄いものが使用されるようになり、耐折り曲げ性に優れたニッケルめっき皮膜が強く要望されている。
【0005】
また、下記特許文献1では、ニッケルめっきの析出速度については十分に検討されていない。プリント配線板の製造においては、生産効率の観点からニッケルめっきの析出速度が速いことが要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、耐折り曲げ性に優れたニッケルめっき皮膜を形成することができ、且つ、ニッケルめっきの析出速度に優れた無電解ニッケルめっき液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の一般式で表されるアルキレンアミン化合物を無電解ニッケルめっき液の添加剤として用いることによって、ニッケルめっき皮膜の耐折り曲げ性が大きく向上し、更に、析出皮膜のファインパターン性や銅素地に対する密着性も向上させることが可能であることを見出した。
【0009】
即ち、本発明は、下記の無電解ニッケルめっき液及び無電解ニッケルめっき方法に関する。
1.下記一般式(I)
【化1】
[式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、又は下記一般式(II):
【化2】
(式中、R
5は、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基である)で示される基であり、且つ、R
1、R
2、R
3及びR
4からなる群より選択される少なくとも1つは前記一般式(II)で示される基であり、互いに結合して環状になっていてもよく、nは2~5の整数である。]で表されるアルキレンアミン化合物を含有することを特徴とする、無電解ニッケルめっき液。
2.前記無電解ニッケルめっき液中の前記一般式(I)で表されるアルキレンアミン化合物の含有量は、7g/L未満である、項1に記載の無電解ニッケルめっき液。
3.前記一般式(I)で表されるアルキレンアミン化合物は、nが2又は3である、項1又は2に記載の無電解ニッケルめっき液。
4.前記一般式(I)で表されるアルキレンアミン化合物が、R
1、R
2、R
3及びR
4のうちの2個が水素原子であるアルキレンアミン化合物、及び、R
1、R
2、R
3及びR
4のうちの3個が水素原子であるアルキレンアミン化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、項1~3のいずれかに記載の無電解ニッケルめっき液。
5.更に、水溶性ニッケル化合物、還元剤及び錯化剤を含有する、項1~4のいずれかに記載の無電解ニッケルめっき液。
6.下記一般式(I)
【化3】
[式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、又は下記一般式(II):
【化4】
(式中、R
5は、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基である)で示される基であり、且つ、R
1、R
2、R
3及びR
4からなる群より選択される少なくとも1つは前記一般式(II)で示される基であり、互いに結合して環状になっていてもよく、nは2~5の整数である。]で表されるアルキレンアミン化合物を含有する無電解ニッケルめっき液に、被めっき物を接触させることを特徴とする、無電解ニッケルめっき方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の無電解ニッケルめっき液は、耐折り曲げ性に優れたニッケルめっき皮膜を形成することができ、且つ、ニッケルめっきの析出速度に優れている。また、本発明の無電解ニッケルめっき方法によれば、耐折り曲げ性に優れたニッケルめっき皮膜を形成することができ、且つ、ニッケルめっきの析出速度に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の無電解ニッケルめっき液について詳細に説明する。
【0012】
1.無電解ニッケルめっき液
本発明の無電解ニッケルめっき液は、下記一般式(I)
【0013】
【0014】
[式中、R1、R2、R3及びR4は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、又は下記一般式(II):
【0015】
【0016】
(式中、R5は、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基である)で示される基であり、且つ、R1、R2、R3及びR4からなる群より選択される少なくとも1つは前記一般式(II)で示される基であり、互いに結合して環状になっていてもよく、nは2~5の整数である。]で表されるアルキレンアミン化合物を含有することを特徴とする。上記構成を備える本発明の無電解ニッケルめっき液は、上記特定の一般式で表されるアルキレンアミン化合物を含有することにより、形成されるニッケルめっき皮膜が優れた耐折り曲げ性を示すことができる。また、本発明の無電解ニッケルめっき液は、上記特定の一般式で表されるアルキレンアミン化合物を用いることにより、当該アルキレンアミン化合物を無電解ニッケルめっき液中に多量に添加する必要がなく、このため、ニッケルめっき皮膜の析出速度に優れている。
【0017】
(アルキレンアミン化合物)
本発明の無電解ニッケルめっき液は、下記一般式(I)
【0018】
【0019】
[式中、R1、R2、R3及びR4は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、又は下記一般式(II):
【0020】
【0021】
(式中、R5は、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基である)で示される基であり、且つ、R1、R2、R3及びR4からなる群より選択される少なくとも1つは前記一般式(II)で示される基であり、互いに結合して環状になっていてもよく、nは2~5の整数である。]で表されるアルキレンアミン化合物を含有する。
【0022】
上記nは、2~5の整数である。上記nは、2~4の整数が好ましく、2又は3がより好ましい。nが上記範囲であることにより、本発明の無電解ニッケルめっき液が耐折り曲げ性により一層優れたニッケルめっき皮膜を形成することができ、且つ、ニッケルめっきの析出速度がより一層向上する。
【0023】
一般式(I)で表されるアルキレンアミン化合物は、R1、R2、R3及びR4のうちの2個が水素原子であるアルキレンアミン化合物、又は、R1、R2、R3及びR4のうちの3個が水素原子であるアルキレンアミン化合物であることが好ましい。当該アルキレンアミン化合物を用いることにより、本発明の無電解ニッケルめっき液が耐折り曲げ性により一層優れたニッケルめっき皮膜を形成することができ、且つ、ニッケルめっきの析出速度がより一層向上する。これらのアルキレンアミン化合物は1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0024】
上記一般式(I)中、R1、R2、R3、R4が直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基である場合、アルキル基の炭素数は、1~3が好ましく、1又は2がより好ましく、1が更に好ましい。アルキル基の炭素数が上記範囲であることにより、本発明の無電解ニッケルめっき液が耐折り曲げ性により一層優れたニッケルめっき皮膜を形成することができ、且つ、ニッケルめっきの析出速度がより一層向上する。
【0025】
上記一般式(I)で表されるアルキレンアミン化合物は、R1、R2、R3及びR4からなる群より選択される少なくとも1つは下記一般式(II)で示される基である。R1、R2、R3及びR4のうち1つ又は2つが下記一般式(II)で示される基であることが好ましい。
【0026】
【0027】
上記一般式(II)中、R5は、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基である。上記アルキレン基の炭素数は、2~4が好ましく、2又は3がより好ましい。上記アルキレン基の炭素数が上記範囲であることにより、本発明の無電解ニッケルめっき液が耐折り曲げ性により一層優れたニッケルめっき皮膜を形成することができ、且つ、ニッケルめっきの析出速度がより一層向上する。
【0028】
上記一般式(II)において、R5のアルキレン基の具体例としては、メチレン、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン等の直鎖メチレンやイソプロピレン、イソブチレン等の分岐鎖メチレン等を挙げることができる。
【0029】
上記R1、R2、R3及びR4で示される基は、互いに結合して、環状になっていてもよい。
【0030】
上記一般式(I)で表されるアルキレンアミン化合物の内で、特に、R1、R2、R3及びR4で表される基の少なくとも一個が水素原子であるアルキレンアミン化合物を用いる場合には、形成されるニッケル皮膜は、耐折り曲げ性が良好であることに加えて、微細なパターンを有する被めっき物に対しても、パターン上にのみ良好なめっき被膜を形成できる特性、即ち、ファインパターン性が良好となる。
【0031】
また、R1、R2、R3及びR4で表される基の内で、1~3個が水素原子であるアルキレンアミン化合物を用いる場合には、上記した性能に加えて、下地が銅金属である場合に、特に密着性に優れたニッケル皮膜を形成することが可能となる。
【0032】
上記一般式(I)で表されるアルキレンアミン化合物としては、具体的には、トリス(2-アミノエチル)アミン、N-(2-アミノエチル)ピペラジン、3,3’-ジアミノ-N-メチルジプロピルアミン、3,3’-ジアミノジプロピルアミン等が挙げられ、これらの中でも、本発明の無電解ニッケルめっき液が耐折り曲げ性により一層優れたニッケルめっき皮膜を形成することができ、且つ、ニッケルめっきの析出速度がより一層向上する点で、トリス(2-アミノエチル)アミンが好ましい。
【0033】
本発明の無電解ニッケルめっき液では、一般式(I)で表されるアルキレンアミン化合物の濃度は、7g/L未満が好ましく、6g/L未満がより好ましく、1g/L以下が更に好ましく、0.5g/L以下が特に好ましく、0.3g/L以下が最も好ましい。また、アルキレンアミン化合物の濃度は、0.01g/L以上が好ましく、0.05g/L以上がより好ましく、0.07g/L以上が更に好ましく、0.1g/L以上が特に好ましい。アルキレンアミン化合物の濃度の上限が上記範囲であることにより、ニッケルめっきの析出速度がより一層向上する。また、アルキレンアミン化合物の下限が上記範囲であることにより、耐折り曲げ性により一層優れたニッケルめっき皮膜を形成することができ、且つ、ニッケルめっきの析出速度がより一層向上する。
【0034】
本発明の無電解ニッケルめっき液は、上記アルキレンアミン化合物を含有していればよく、上記アルキレンアミン化合物を含有する水溶液であることが好ましい。また、本発明の無電解ニッケルめっき液は、上記アルキレンアミン化合物の他に、更に、水溶性ニッケル化合物、還元剤及び錯化剤を含有することが好ましい。以下、これらの成分について説明する。
【0035】
水溶性ニッケル化合物としては、めっき液に可溶性であって、所定の濃度の水溶液が得られるものであれば特に限定なく使用できる。例えば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、スルファミン酸ニッケル、次亜リン酸ニッケル等を用いることができる。特に、溶解性が良好である点で硫酸ニッケルが好ましい。水溶性ニッケル化合物は、1種単独又は2種以上混合して用いることができる。水溶性ニッケル化合物の濃度は、0.5~50g/L程度とすることが好ましく、2~30g/L程度とすることがより好ましく、5~25g/L程度とすることが更に好ましい。
【0036】
還元剤についても特に限定はなく、無電解ニッケルめっき液で用いられている公知の還元剤を用いることができる。この様な還元剤としては、次亜リン酸、次亜リン酸塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩)、ジメチルアミンボラン、ヒドラジン等を例示できる。還元剤は1種単独又は2種以上混合して用いることができる。還元剤の濃度は、0.01~100g/L程度とすることが好ましく、0.1~50g/L程度とすることがより好ましく、5~25g/L程度とすることが更に好ましい。
【0037】
錯化剤についても特に限定はなく、無電解ニッケルめっき液で用いられている公知の錯化剤を用いることができる。この様な錯化剤としては、酢酸、蟻酸等のモノカルボン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等;マロン酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、フマール酸等のジカルボン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等;リンゴ酸、乳酸、グリコール酸、グルコン酸、クエン酸等のヒドロキシカルボン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等;エチレンジアミンジ酢酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等、エチレンジアミンテトラ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸等のアミノポリカルボン酸やそれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等を例示できる。更に、ホスホン酸類、アミノ酸類等も錯化剤として用いることができる。これらの錯化剤は1種単独又は2種以上混合して用いることができる。
【0038】
錯化剤の配合量は、5~180g/L程度とすることが好ましく、10~120g/L程度とすることがより好ましく、10~80g/L程度とすることがより好ましい。
【0039】
本発明の無電解ニッケルめっき液では、特に、上記した錯化剤の内で、ホスホン酸類及びアミノ酸類からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分を含む場合には、上記アルキレンアミン化合物による効果を阻害せずに、めっき浴の安定性をより一層向上させることができる。特に、ホスホン酸類を用いる場合には、更に、ファインパターン性もより一層向上させることができる。
【0040】
ホスホン類としては、各種のホスホン酸、その塩等を用いることができる。この様なホスホン酸類の具体例としては、アミノトリメチレンホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジメチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、ニトリロトリメチレンホスホン酸、フェニルホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4トリカルボン酸、下記式で表されるN-ヒドロキシアルキルアミノメチルホスホン酸
【0041】
【0042】
(式中、nは2~6の整数である)、下記式で表されるN-ホスホノメチルアミノカルボン酸
【0043】
【0044】
(式中、nは2~6の整数である)、およびこれらのホスホン酸の塩(ナトリウム塩、カリウム塩等の金属塩、アンモニウム塩等)等を例示できる。
【0045】
アミノ酸類の具体例としては、グリシン、アラニン、イミノジ酢酸、ニトリロトリ酢酸、L-グルタミン酸、L-グルタミン酸2酢酸、L-アスパラギン酸、タウリン等を挙げることができる。
【0046】
上記したホスホン酸類とアミノ酸類については、それぞれ2種以上を併用することも可能である。めっき浴の安定性を向上させる効果を発揮させるためには、ホスホン酸類及びアミノ酸類からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物の濃度は、一般式(I)で表されるアルキレンジアミン化合物1モルに対して0.01~10モル程度とすることが好ましい。
【0047】
本発明の無電解ニッケルめっき液には、その他必要に応じて、通常用いられている各種の添加剤を配合することができる。例えば、安定剤として、硝酸鉛、酢酸鉛等の鉛塩;硝酸ビスマス、酢酸ビスマス等のビスマス塩;チオジグリコール酸、チオ硫酸ナトリウム等の硫黄化合物等を1種単独又は2種以上混合して添加することができる。安定剤の添加量は、特に限定的ではないが、例えば、0.01~100mg/L程度とすることができる。
【0048】
また、pH緩衝剤として、ホウ酸、リン酸、亜リン酸、炭酸、それらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等を配合することができる。緩衝剤の配合量は特に限定的ではないが、例えば0.1~200g/L程度とすることができる。
【0049】
更に、めっき液の浸透性を向上させるために、界面活性剤を配合することができる。界面活性剤としては特に限定はなく、ノニオン性、カチオン性、アニオン性、両性等の各種界面活性剤を1種単独又は2種以上混合して添加することができる。添加量としては、例えば、0.1~100mg/L程度とすればよい。
【0050】
本発明の無電解ニッケルめっき液のpHは、通常、2~9程度とすればよく、3~8程度とすることが好ましい。pH調整には、硫酸、リン酸等の無機酸および水酸化ナトリウム、アンモニア水等を使用することができる。
【0051】
無電解ニッケルめっき方法
本発明の無電解ニッケルめっき液を用いて無電解ニッケルめっきを行うには、常法に従って、該無電解ニッケルめっき液を被めっき物に接触させればよい。通常は、該無電解ニッケルめっき液中に被めっき物を浸漬することによって、効率よくニッケルめっき皮膜を形成することができる。
【0052】
無電解ニッケルめっき液の液温は、通常、40~98℃程度とすればよく、60~95℃程度とすることが好ましい。また必要に応じて、めっき液の撹拌や被めっき物の揺動を行うことができる。
【0053】
被めっき物の材質については特に限定はない。例えば、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム等の金属やこれらの合金等は無電解ニッケルめっきの還元析出に対して触媒性を有するので、常法に従って前処理を行った後、直接無電解ニッケルめっき皮膜を形成することができる。銅等の触媒性のない金属や、ガラス、セラミックス等については、常法に従ってパラジウム核などの金属触媒核を付着させた後に、無電解ニッケルめっき処理を行えばよい。
【0054】
特に、本発明の無電解ニッケルめっき液は、ポリイミド等を用いたフレキシブル基板を被めっき物として、はんだ付け、ボンディング等を行う部分における表面処理用のめっき液として用いる場合に、耐折り曲げ性に優れ、クラックの生じ難い信頼性に優れたニッケルめっき皮膜を形成できる。この場合、ニッケルめっき皮膜の膜厚は、通常、0.2~10μm程度である。また、ニッケルめっき皮膜上には、常法に従って金めっき皮膜を形成することが多い。例えば、置換めっき法により0.03~0.1μm程度の金皮膜を形成することができ、更に、耐熱金ワイヤボンディング性のためには、置換金めっき法または還元金めっき法によって、厚さ0.2~0.7μm程度の金皮膜を形成する場合もある。本発明の無電解ニッケルめっき液を用いて形成されたニッケルめっき皮膜は、これらの金めっき皮膜を形成する場合にも、良好な密着性を発揮することができ、耐折り曲げ性が良好であり、ハンダ付性、ワイヤボンディング性などについても良好な特性を発揮できる。
【実施例】
【0055】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0056】
下記表1に示す配合の各成分を水に順次添加して混合することにより、実施例及び比較例の無電解ニッケルめっき液を調製した。
【0057】
上記した各無電解ニッケルめっき液を用いて下記の方法でめっき試験を行った。
【0058】
被めっき物としては、大きさ2×7cmのポリイミド樹脂(厚さ25μm)上に線幅75μm、スリット幅75μmの銅パターン(銅厚18μm)を40本と、1×4cmの銅パッドを形成したものを用いた。
【0059】
この被めっき物について、脱脂処理を行った後、過硫酸Na溶液で0.5μm程度のエッチングを行い、ICPアクセラ(奥野製薬工業(株)製、Pd含有触媒液)を200ml/L含む触媒液を用いて、室温で1分間触媒付与を行った後、上記しためっき浴1リットル中に被めっき物を浸漬し、表1に示す浴温度及びめっき処理時間で無電解ニッケルめっき皮膜を形成した。
【0060】
得られた各試料について、下記の方法で耐折り曲げ性(皮膜の柔軟性)、ファインパターン性(めっきの拡がりの有無)及び銅素材に対する密着性を評価した。
【0061】
(耐折り曲げ性)
線幅75μmの配線パターン部分について、めっき面が表面となるようにして、直径0.8mmのステンレス製棒に約180度の角度まで巻き付けることによって、無電解ニッケルめっき皮膜の耐折り曲げ性試験を行った。試験後の各試料について、顕微鏡観察(1000倍)を行い、めっき皮膜の割れの有無を調べた。結果については、クラックが認められない場合を○印、クラックの発生が認められた場合を×印で示す。
【0062】
(ファインパターン性)
めっき後の各試料の線幅75μmの配線パターン部分について、顕微鏡観察(1000倍)によって、銅パターン外へのめっき拡がりの有無を調べた。結果については、めっき拡がりが全くない場合を◎印、僅かにめっき拡がりが認められた場合を○印、めっき拡がりが多数生じた場合を△印で示す。
【0063】
(銅素材との密着性)
面積1×4cmのパッド部分について、カッターナイフを用いてニッケルめっき皮膜の表面に切り込みを入れて、1mm角のマス目を100個形成し、粘着テープを貼り付けて、垂直方向に引き剥がした。この際に剥離したマス目の数を計測することによってニッケルめっき皮膜の密着性を評価した。剥離したマス目が0の場合を○印、1~10個の場合を△印で示す。
【0064】
(析出速度)
蛍光X線膜厚計を用いて析出膜厚を測定し、単位時間あたりのニッケルめっき皮膜の析出速度を算出した。
【0065】
【0066】
以上の結果から明らかなように、上記一般式(I)で表されるアルキレンアミン化合物を添加剤として含む実施例1~4の無電解ニッケルめっき浴から形成されたニッケルめっき皮膜は、耐折り曲げ性試験においてクラックが全く発生せず、耐折り曲げ性に優れた柔軟なめっき皮膜であることが確認できた。
【0067】
また、実施例1~4の無電解ニッケルめっき液を用いると、ニッケルめっきの析出速度が速いことが確認できた。
【0068】
更に、実施例1~4の無電解ニッケルめっき液は、窒素原子に少なくとも一個の水素原子が結合したアルキレンアミン化合物を含有しており、ファインパターン性が良好であり、且つ、ニッケルめっき皮膜の銅素材との密着性が良好であった。