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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-12
(45)【発行日】2022-10-20
(54)【発明の名称】易剥離性接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/00 20060101AFI20221013BHJP
   C09J 125/08 20060101ALI20221013BHJP
   C09J 133/04 20060101ALI20221013BHJP
   C09J 167/00 20060101ALI20221013BHJP
   C09J 123/00 20060101ALI20221013BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20221013BHJP
【FI】
C09J133/00
C09J125/08
C09J133/04
C09J167/00
C09J123/00
C09J11/06
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019133681
(22)【出願日】2019-07-19
(65)【公開番号】P2021017491
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2021-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】390028233
【氏名又は名称】常盤化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081547
【弁理士】
【氏名又は名称】亀川 義示
(72)【発明者】
【氏名】吉原 正貴
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-193011(JP,A)
【文献】特開平08-302318(JP,A)
【文献】特開2001-335770(JP,A)
【文献】特開2003-327930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00 - 201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂、アクリル酸エステル、アクリル系共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂の1種又はこれらの混合物である合成樹脂エマルジョン又は合成樹脂水溶液の水性ポリマー成分と、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ウレタン会合型増粘剤の少なくとも1種以上である増粘剤と、非イオン界面活性剤を含み、乾燥重量で上記水性ポリマー成分を100重量部、増粘剤を20~120重量部、界面活性剤を1~30重量部含有し、全水分量を52~93重量%とし、上記水性ポリマー成分の最低造膜温度(MFT)が28℃以上である湿潤時接着型の易剥離性接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿潤時において接着性があり、接着後の所望時間経過後において容易に剥すことができる易剥離性接着剤組成物の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、接着剤分野において再剥離可能な様々な種類の接着剤が提案され、使用されている。
こうした中で、易剥離性接着剤として主に採用されているものは、被着体両者間に介在する接着剤被膜が乾燥後にも粘着性を有するものであり、その粘着力を適度に設計することにより、接着後に接着状態を確実に保持することができ、また、剥離時には接着剤被膜と被着体との間の界面剥離によって再剥離性を得るようにしたものがある。
また、被着体間に介在する接着剤被膜が乾燥後に粘着性を有しないものであって、その接着剤の凝集力を適度に設計することにより、接着後に接着状態を確実に保持することができ、また、剥離時には接着剤被膜の凝集破壊によって再剥離性を得るようにしたものもある。
【0003】
上記接着剤被膜が乾燥後にも粘着性を有するものとしては、付箋等に使用されているものがある。これは被着体の一方に予め接着剤を塗布し、乾燥させて粘着性を有する接着剤層(粘着剤層)を形成し、これを他方の被着体に貼り付けて圧着することにより接着するもので、剥離時には接着剤層と被着体との界面剥離によって再剥離することができる。この場合、上記接着剤層(粘着剤層)を形成する時に被着体の一方に強く接着し、被着体の他方には弱く接着するような接着剤(粘着剤)を選定することによって、上記再剥離を行うことができるようになる。
【0004】
上記接着剤被膜が乾燥後には粘着性を有しないものとしては、ダイレクトメール等に使用されているものがあり、多くは被着体として紙と紙の接着に用いられるものである。これは被着体の一方に接着剤を塗布し、接着剤が未だ湿潤状態にあるときに他方の被着体と貼り合せ、これを加熱して接着剤層の膜にして被着体間を接着させるものがある。
また、被着体の一方に接着剤を塗布し、接着剤が未だ湿潤状態にあるときに他方の被着体と貼り合せ、これを静置しておくことによって接着剤の水分などの溶媒を揮散させ、被着体間を接着させるものがある。
これらは何れも剥離時には接着剤被膜(接着剤層)の凝集破壊によって再剥離性を得ることができるものである。
【0005】
更に、接着剤層に発泡剤を含有させ、接着されているものを再剥離する場合には、接着されているものに光とか、熱とか、電磁気とかのエネルギーを照射して、上記発泡剤を発泡させて易剥離性を得るようにしたものも知られている。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特願2003-286471号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した付箋等に使用されている粘着剤型の再剥離剤は、接着力(粘着力)をあまり大きくできないので、用途が自ずと限られたものとなる。
本発明は、凝集破壊型の接着剤層を容易に造膜することができ、また、多様な被着体間の接着に用いることができるような、改良された湿潤時接着型の易剥離性接着剤組成物を得ようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、合成樹脂エマルジョン又は合成樹脂水溶液などの水性ポリマー成分と、増粘剤と、界面活性剤を含有させて湿潤時接着型の易剥離性接着剤組成物とするものである。上記各成分は、乾燥重量で上記の水性ポリマー成分を100重量部と、増粘剤を20~120重量部と、界面活性剤を1~30重量部とを含有している。そして、上記水性ポリマー成分は、その最低造膜温度(MFT:Minimum Film-forming Temperature)が28℃以上とされているものである。
【0009】
上記水性ポリマー成分の合成樹脂としては、アクリル樹脂、スチレンーアクリル樹脂、アクリル酸エステル、アクリル系共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂の1種又はこれらの混合物が使用される。
また、上記増粘剤には、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ウレタン会合型増粘剤の少なくとも1種以上が用いられる。
そして上記界面活性剤としては、各種のものが使用できるが、特に、非イオン界面活性剤が有効に使用できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、この接着剤を湿潤状態で使用し、接着剤の水分を揮散させて接着剤層を形成することによって確実に接着することができるし、その最低造膜温度(MFT)が
28℃以上と常温よりもやや高い温度程度であるから温度管理も容易であって使い易いものである。
また、この接着剤は紙、段ボール紙、木質片などの接着剤の水分を揮散させることができる多孔質材の被着体同士を接着することができるし、ガラス、金属板、合成樹脂板などの非多孔質材にも接着可能であるので、多孔質材と非多孔質材の被着体間で接着することができる。そして、接着後には接着剤層の凝集破壊によって易剥離することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0011】
水性ポリマー成分としては、合成樹脂の水性エマルジョンとか、合成樹脂の水溶液を使用することができ、適宜に両者を併用することもできる。
上記合成樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂、アクリル酸エステル、アクリル系共重合体樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂を使用することができる。
これらのエマルジョンとか水溶液の濃度は特に限定を受けないが、一般的に約20~70重量%程度の濃度としたものを使用することが多い。
【0012】
上記ポリマー成分には増粘剤が使用されるが、その増粘剤としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリル酸ナトリウム、ウレタン会合型増粘剤などがあり、これらを1種使用したり、2種以上を併用したりする。
【0013】
この接着剤には界面活性剤が使用される。この界面活性剤としては非イオン界面活性剤が好ましく用いられ、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどのエーテル型、グリセリン脂肪酸エステルなどのエステル型、エステル・エーテル型、脂肪酸アルカノールアミド型、特殊フェノール型などがあり、これらのものを1種使用したり、2種以上を混合使用したりする。
【0014】
上記水性ポリマー成分は、その最低造膜温度(MFT)が、28℃以上となっているものである。そして、このMFTは、好ましくは100℃以下であると良く、またそうしたものであると使い易くもある。
このMFTは、合成樹脂エマルジョンや合成樹脂水溶液中に存在する合成樹脂粒子同士が融着したり、水などの溶媒の蒸発によって膜化したりして、成膜するために必要な最低温度を示すものである。
【0015】
本接着剤には上記した各成分が含有されているが、その含有比率は乾燥重量として、水性ポリマー成分の100重量部に対して、増粘剤が20~120重量部、界面活性剤が1~30重量部含まれるように使用すると好ましい。
そして、本接着剤の全水分量は被着体の種類等によって適宜のものとされるが、通例、約52~93重量%程度、好ましくは60~85重量%程度、更に好ましくは65~80重量%にするとよい。
【0016】
また、本接着剤には、上記の他に必要に応じて更に消泡剤、防腐剤、防かび剤その他の成分を適宜使用することができる。
【実施例
【0017】
以下に本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例によってその内容が何等限定されるものではない。
(実施例1)
MFTが70℃のスチレン-アクリル樹脂の水性エマルジョンを乾燥重量(以下同じ。)として100重量部に対して、増粘剤として30重量%濃度の部分ケン化ポリビニルアルコール(ケン化度が86~90)を乾燥重量として44重量部と、非イオン界面活性剤のポリオキシアルキレンアルキルエーテル16重量部を加え、全水分量が619重量部となるように水を加えて、全体を良く混合して接着剤組成物を得た。
【0018】
(実施例2)
MFTが70℃のスチレン-アクリル樹脂の代りに、MFTが57℃のアクリル樹脂を使用した以外は、上記実施例1と同様にして接着剤組成物を得た。
【0019】
(実施例3)
MFTが35℃のアクリル樹脂の水性エマルジョンを乾燥重量として100重量部に対して、増粘剤として30重量%濃度の部分ケン化ポリビニルアルコール(ケン化度が86~90)を乾燥重量として44重量部と、非イオン界面活性剤のポリオキシアルキレンアルキルエーテル16重量部を加え、全水分量が619重量部となるように水を加えて、全体を良く混合して接着剤組成物を得た。
【0020】
(実施例4)
MFTが35℃のアクリル樹脂の代りに、MFTが28℃のアクリル樹脂を使用した以外は、上記実施例3と同様にして接着剤組成物を得た。
【0021】
(実施例5)
増粘剤として上記ポリビニルアルコール44重量部の代りに、上記ポリビニルアルコール22重量部を使用した以外は、上記実施例3と同様にして接着剤組成物を得た。
【0022】
参考例
増粘剤として上記ポリビニルアルコール44重量部の代りに、カルボキシメチルセルロ-スナトリウム22重量部を使用した以外は、上記実施例3と同様にして接着剤組成物を得た。
【0023】
本発明の上記各実施例と比較するために以下の比較例を作製した。
(比較例1)
MFTが70℃のスチレン-アクリル樹脂の代りに、MFTが23℃のアクリル樹脂を使用した以外は、上記実施例1と同様にして接着剤組成物を得た。
【0024】
(比較例2)
MFTが70℃のスチレン-アクリル樹脂の代りに、MFTが0℃のアクリル樹脂を使用した以外は、上記実施例1と同様にして接着剤組成物を得た。
【0025】
(比較例3)
界面活性剤を使用しない以外は上記実施例3と同様にして接着剤組成物を得た。
(比較例4)
MFTが70℃のスチレン-アクリル樹脂の代りに、MFTが0℃以下のポリ酢酸ビニル樹脂を使用した以外は、上記実施例1と同様にして接着剤組成物を得た。
【0026】
(比較例5)
MFTが70℃のスチレン-アクリル樹脂の代りに、MFTが0℃以下の粘着系アクリル樹脂を使用した以外は、上記実施例1と同様にして接着剤組成物を得た。
【0027】
(試験及びその評価)
上記実施例及び比較例の性状、性能を知るために以下の試験を行った。
(上質紙同士の接着性及び再剥離性試験)
半自動ラベラー(田村機械工業株式会社製、BRL-3515W)を用いて斤量が70kgの上質紙(50×100mm)に30g/mの塗布量で接着剤を塗布し、接着剤が湿潤状態にあるときに直ちに接着剤未塗布の上記上質紙を貼り合せ、ゴムハンドローラーにて約3kgの加圧状態で2往復して圧着し、20℃の雰囲気温度下にて24時間静置した後に、接着性の状態を評価した。また、接着状態にある上質紙の再剥離性を評価した。
※接着性の評価方法
試料の上質紙に親指を押し付けてせん断力をかけた時の接着状態を評価した。
※接着性の評価基準
上質紙間の接着状態が保持されているもの・・・・・○
上質紙間で紙がずれたり又は剥れたりしたもの・・・×
【0028】
※再剥離性の評価方法
接着状態にある試料の上質紙を手で剥して再剥離性の状態を評価した。
※再剥離性の評価基準
剥離感が良くスムーズに剥がれた・・・○
剥離感がやや強い又はやや弱い・・・・△
剥離感が強く紙が破れた又は剥離感が弱すぎる・・・×
【0029】
(片アート紙同士の接着性及び再剥離性試験)
上記上質紙の代りに、斤量が73kgの片アート紙(60×100mm)を使用し、片アート紙の非コート面同士を貼り合せてその接着性及び再剥離性を上記した試験と同様に行って評価をした。
【0030】
(非多孔質体と片アート紙との接着性及び再剥離性試験)
(1.硝子板と片アート紙との接着性及び再剥離性試験)
半自動ラベラー(田村機械工業株式会社製、BRL-3515W)を用いて斤量が73kgの片アート紙(60×100mm)の非コート面に20g/mの塗布量で接着剤を塗布し、接着剤が湿潤状態にあるときに直ちに硝子板に貼り合せ、ゴムハンドローラーにて約3kgの加圧状態で2往復して圧着し、20℃の雰囲気温度下にて24時間静置した後、その接着性について評価した。
※接着性の評価方法
上記と同様に片アート紙に親指を押し付けてせん断力をかけたときの接着状態を評価した。
※接着性の評価基準
上記と同様に、接着性について評価した。
片アート紙と非多孔質体の接着状態が保持されているもの・・・・○
片アート紙が非多孔質体からずれたり又は剥れたりしたもの・・・×
また、再剥離性については、上記と同様の評価方法及び評価基準によって評価した。
【0031】
(2.アクリル板と片アート紙との接着性及び再剥離性試験)
上記硝子板の代りにアクリル板を用いた他は、上記1.と同様に接着性、再剥離性の試験、評価を行った。
(3.ポリカーボネート板と片アート紙との接着性及び再剥離性試験)
上記硝子板の代りにポリカーボネート板を用いた他は、上記1.と同様に接着性、再剥離性の試験、評価を行った。
【0032】
(4.ポリエチレンテレフタレート板と片アート紙との接着性及び再剥離性試験)
上記硝子板の代りにアポリエチレンテレフタレート板(PET板)を用いた他は、上記1.と同様に接着性、再剥離性の試験、評価を行った。
(5.ポリ塩化ビニル板と片アート紙との接着性及び再剥離性試験)
上記硝子板の代りにポリ塩化ビニル板を用いた他は、上記1.と同様に接着性、再剥離性の試験、評価を行った。
【0033】
(6.ブリキ板と片アート紙との接着性及び再剥離性試験)
上記硝子板の代りにブリキ板を用いた他は、上記1.と同様に接着性、再剥離性の試験、評価を行った。
【0034】
上記各試験の結果を表1~表3に示す。
【0035】
(考察)
上質紙同士、片アート紙同士の接着性及び再剥離性においては、実施例1~実施例のものは、何れも良好な結果が得られている。一方比較例では、接着性においていずれも良好な結果が得られているが、上質紙同士の再剥離性については比較例1、2、4、5で満足な結果が得られていない。また、片アート紙同士の再剥離性については比較例1~5のいずれにおいても満足な結果が得られていない。
【0036】
非多孔質体である、硝子板、アクリル板、ポリカーボネート板、PET板、ポリ塩化ビニル板、ブリキ板と片アート紙の各接着において、実施例1~実施例のものでは、その接着性及び再剥離性の何れにおいても良好な結果が得られている。
一方、比較例1~5において、その接着性においては何れも良好な結果が得られている。しかし、再剥離性においては、片アート紙と硝子板との接着において比較例1、2、5において再剥離がうまく行っていない。アクリル板との接着では、比較例4を除いて良好な結果が得られていない。ポリカーボネート板との接着では、比較例1~5の何れでも再剥離性が良くない。
【0037】
同じく片アート紙とPET板及びポリ塩化ビニル板との接着では、比較例2、4、5において何れも好ましい再剥離性が得られていない。また、ブリキ板との接着では比較例1、2、4、5において再剥離性において劣っている。
このように、比較例のものではその再剥離性において、充分に満足できるような結果が得られていないことが判る。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】