(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-12
(45)【発行日】2022-10-20
(54)【発明の名称】光学測定方法および光学測定システム
(51)【国際特許分類】
G01J 9/02 20060101AFI20221013BHJP
G01N 21/45 20060101ALI20221013BHJP
G01B 11/24 20060101ALI20221013BHJP
G03H 1/04 20060101ALI20221013BHJP
【FI】
G01J9/02
G01N21/45 A
G01B11/24 D
G03H1/04
(21)【出願番号】P 2022521142
(86)(22)【出願日】2021-11-08
(86)【国際出願番号】 JP2021040987
【審査請求日】2022-04-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000206967
【氏名又は名称】大塚電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下田 健作
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/044336(WO,A1)
【文献】特開2013-221770(JP,A)
【文献】国際公開第2014/054776(WO,A1)
【文献】特開2019-012270(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111751012(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 9/00 - G01J 9/02
G01N 21/45
G01B 9/00 - G01B 9/10
G01B 11/00 - G01B 11/30
G03H 1/00 - G03H 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明光でサンプルを照明して得られる物体光を前記照明光とコヒーレントな参照光で変調して生成されるホログラムを記録するための光学系を構成するステップと、
前記サンプルが存在しない状態で、前記照明光の光学経路上に、既知の光波分布を発生する光学系を含む校正ユニットを配置するステップとを備え、前記校正ユニットは、発生する光波分布を空間的に移動できるように構成されており、さらに
前記校正ユニットが光波分布を発生している状態で生じる第1のホログラムを記録するステップと、
前記校正ユニットの配置位置を示す情報と、前記既知の光波分布と、前記第1のホログラムとに基づいて、前記参照光の光波分布の情報を算出するステップとを備える、光学測定方法。
【請求項2】
前記光学測定方法は、
発生する光波分布を前記第1のホログラムを記録した位置とは異なる複数の位置に移動させるとともに、前記複数の位置においてそれぞれ生じる複数の第2のホログラムを記録するステップと、
既知の光波分布から算出されるスペクトルと前記複数の第2のホログラムに対応する光波分布から算出されるスペクトルとから波面収差を算出するステップと、
前記波面収差を最小化するように、前記校正ユニットの配置位置を示す情報を調整するステップとをさらに備える、請求項1に記載の光学測定方法。
【請求項3】
前記複数の第2のホログラムの各々に空間周波数フィルタリングを適用し、フィルタリング結果と前記参照光の光波分布の情報とに基づいて、前記複数の第2のホログラムにそれぞれ対応する複数の物体光ホログラムを算出する
ステップと、
前記既知の光波分布に基づいて、前記複数の物体光ホログラムをそれぞれ修正することで、前記複数の第2のホログラムに対応する複数の光波分布をそれぞれ算出するステップとをさらに備える、請求項2に記載の光学測定方法。
【請求項4】
前記波面収差を算出するステップは、
前記既知の光波分布から算出されるスペクトルと前記第2のホログラムに対応する光波分布から算出されるスペクトルとの位相差分布である位相差分布スペクトルを算出するステップと、
前記位相差分布スペクトル全体の平均値に対する二乗平均平方根を誤差として算出するステップとを含む、請求項2または3に記載の光学測定方法。
【請求項5】
前記照明光で前記サンプルを照明して得られる前記物体光を前記参照光で変調して生成される第3のホログラムを記録するステップと、
前記第3のホログラムに空間周波数フィルタリングを適用し、フィルタリング結果と前記参照光の光波分布の情報とに基づいて、物体光ホログラムを算出するステップとをさらに備える、請求項1~4のいずれか1項に記載の光学測定方法。
【請求項6】
前記参照光の光波分布の情報は、前記参照光の光波分布の複素共役を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の光学測定方法。
【請求項7】
照明光でサンプルを照明して得られる物体光を前記照明光とコヒーレントな参照光で変調して生成されるホログラムを記録するための光学系を構成するステップと、
前記サンプルが存在しない状態で、前記照明光の光学経路上に、既知の光波分布を発生する光学系を含む校正ユニットを配置するステップと、
前記校正ユニットが光波分布を発生している状態で生じる第1のホログラムを記録するステップと、
前記校正ユニットの配置位置を示す情報と、前記既知の光波分布と、前記第1のホログラムとに基づいて、前記参照光の光波分布の情報を算出するステップとを備える、光学測定方法。
【請求項8】
照明光でサンプルを照明して得られる物体光を前記照明光とコヒーレントな参照光で変調して生成されるホログラムを記録するための光学系を構成するステップと、
前記光学系における前記参照光の光波分布の情報を取得するステップと、
照明光でサンプルを照明して得られる物体光を前記照明光とコヒーレントな参照光で変調して生成されるホログラムを記録するステップと、
前記ホログラムに空間周波数フィルタリングを適用し、フィルタリング結果と前記参照光の光波分布の情報とに基づいて、物体光ホログラムを算出するステップとを備え、
前記参照光の光波分布の情報を取得するステップは、前記サンプルが存在しない状態で、前記照明光の光学経路上
に既知の光波分布を発生する光学系を含む校正ユニットが配置されたときに記録されるホログラムと、前記校正ユニットの配置位置を示す情報と、前記既知の光波分布とに基づいて、前記参照光の光波分布の情報を算出するステップを含み、
前記校正ユニットは、発生する光波分布を空間的に移動できるように構成されている、光学測定方法。
【請求項9】
コヒーレント光を発生する光源と、
前記光源からのコヒーレント光から照明光および参照光を生成するビームスプリッタと、
照明光でサンプルを照明して得られる物体光を前記照明光とコヒーレントな参照光で変調して生成されるホログラムをイメージセンサで記録するための光学系と、
前記光学系における前記参照光の光波分布の情報を格納する格納部を有する処理装置とを備え、
前記処理装置は、前記イメージセンサで記録されたホログラムに空間周波数フィルタリングを適用し、フィルタリング結果と前記参照光の光波分布の情報とに基づいて、物体光ホログラムを算出し、
前記参照光の光波分布の情報は、前記サンプルが存在しない状態で、前記照明光の光学経路上
に既知の光波分布を発生する光学系を含む校正ユニットが配置されたときに記録されるホログラムと、前記校正ユニットの配置位置を示す情報と、前記既知の光波分布とに基づいて予め算出され、
前記校正ユニットは、発生する光波分布を空間的に移動できるように構成されている、光学測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルホログラフィを利用する光学測定方法および光学測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
サンプルの形状をより高い精度で測定する方法として、デジタルホログラフィが提案および実用化されている。デジタルホログラフィは、参照光とサンプルに光を照明して生じる物体光とを重ね合わせて生じる干渉縞を観測することで、物体光の波面の形状を取得して、サンプルの形状などを測定する技術である。典型的には、以下のような先行技術が存在する。
【0003】
米国特許第6411406号明細書(特許文献1)は、ホログラフィック画像を再構成する方法などを開示する。
【0004】
国際公開第2013/047709号(特許文献2)は、反射モードと透過モードの双方を行う実用的なデジタルホログラフィ方法を開示する。
【0005】
国際公開第2011/089820号(特許文献3)は、複素振幅インラインホログラムの作成方法などを開示する。
【0006】
国際公開第2012/005315号(特許文献4)は、インライン球面波光を用いて求められた微小被写体の複素振幅インラインホログラムから分解能を高めた画像を再生するための高分解能画像再生用ホログラム作成方法などを開示する。
【0007】
国際公開第2020/045584号(特許文献5)は、光学系を構成するキューブ型のビーム結合器が有する屈折率の影響が考慮され性能が向上されたホログラフィック撮像装置などを開示する。より具体的には、インライン球面波参照光の集光点から放たれる球面波について、ビーム結合器の屈折率を考慮してビーム結合器の内部の伝播を含む光伝播計算を行うことにより、ホログラム面における光波を表すインライン参照光ホログラムを生成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第6411406号明細書
【文献】国際公開第2013/047709号
【文献】国際公開第2011/089820号
【文献】国際公開第2012/005315号
【文献】国際公開第2020/045584号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
米国特許第6411406号明細書(特許文献1)に開示される方法は、共役像の重畳により正確な物体光が得られないという課題が存在する。
【0010】
国際公開第2013/047709号(特許文献2)に開示される方法は、結像光学系を用いた構成であるため、結像光学系において収差が発生して、三次元分布を正確に記録できないという課題が存在する。
【0011】
国際公開第2011/089820号(特許文献3)は、参照光の決定が完全ではないため、記録される物体光データに歪みが生じ得るという課題が存在する。
【0012】
国際公開第2012/005315号(特許文献4)、および、国際公開第2020/045584号(特許文献5)は、インライン球面波光をインラインの軸に正確に調整する必要があり、調整に手間を要するという課題が存在する。
【0013】
本発明は、調整の手間を削減しつつ、より高精度にサンプルを測定できる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のある局面に従う光学測定方法は、照明光でサンプルを照明して得られる物体光を照明光とコヒーレントな参照光で変調して生成されるホログラムを記録するための光学系を構成するステップと、サンプルが存在しない状態で、照明光の光学経路上に、既知の光波分布を発生する光学系を含む校正ユニットを配置するステップと、校正ユニットが光波分布を発生している状態で生じる第1のホログラムを記録するステップと、校正ユニットの配置位置を示す情報と、既知の光波分布と、第1のホログラムとに基づいて、参照光の光波分布の情報を算出するステップとを含む。
【0015】
校正ユニットは、発生する光波分布を空間的に移動できるように構成されていてもよい。光学測定方法は、発生する光波分布を第1のホログラムを記録した位置とは異なる複数の位置に移動させるとともに、複数の位置においてそれぞれ生じる複数の第2のホログラムを記録するステップと、既知の光波分布から算出されるスペクトルと複数の第2のホログラムに対応する光波分布から算出されるスペクトルとから波面収差を算出するステップと、波面収差を最小化するように、校正ユニットの配置位置を示す情報を調整するステップとをさらに含んでいてもよい。
【0016】
光学測定方法は、複数の第2のホログラムの各々に空間周波数フィルタリングを適用し、フィルタリング結果と参照光の光波分布の情報とに基づいて、複数の第2のホログラムにそれぞれ対応する複数の物体光ホログラムを算出するステップと、既知の光波分布に基づいて、複数の物体光ホログラムをそれぞれ修正することで、複数の第2のホログラムに対応する複数の光波分布をそれぞれ算出するステップとをさらに含んでいてもよい。
【0017】
波面収差を算出するステップは、既知の光波分布から算出されるスペクトルと第2のホログラムに対応する光波分布から算出されるスペクトルとの位相差分布である位相差分布スペクトルを算出するステップと、位相差分布スペクトル全体の平均値に対する二乗平均平方根を誤差として算出するステップとを含んでいてもよい。
【0018】
光学測定方法は、照明光でサンプルを照明して得られる物体光を参照光で変調して生成される第3のホログラムを記録するステップと、第3のホログラムに空間周波数フィルタリングを適用し、フィルタリング結果と参照光の光波分布の情報とに基づいて、物体光ホログラムを算出するステップとをさらに含んでいてもよい。
【0019】
参照光の光波分布の情報は、参照光の光波分布の複素共役を含んでいてもよい。
本発明の別の局面に従う光学測定方法は、照明光でサンプルを照明して得られる物体光を照明光とコヒーレントな参照光で変調して生成されるホログラムを記録するための光学系を構成するステップと、光学系における参照光の光波分布の情報を取得するステップと、照明光でサンプルを照明して得られる物体光を照明光とコヒーレントな参照光で変調して生成されるホログラムを記録するステップと、ホログラムに空間周波数フィルタリングを適用し、フィルタリング結果と参照光の光波分布の情報とに基づいて、物体光ホログラムを算出するステップとを含む。
【0020】
参照光の光波分布の情報は、サンプルが存在しない状態で、照明光の光学経路上に、既知の光波分布を発生する光学系を含む校正ユニットが配置されたときに記録されるホログラムと、校正ユニットの配置位置を示す情報と、既知の光波分布とに基づいて予め算出されてもよい。
【0021】
本発明のさらに別の局面に従う光学測定システムは、コヒーレント光を発生する光源と、光源からのコヒーレント光から照明光および参照光を生成するビームスプリッタと、照明光でサンプルを照明して得られる物体光を照明光とコヒーレントな参照光で変調して生成されるホログラムをイメージセンサで記録するための光学系と、光学系における参照光の光波分布の情報を格納する格納部を有する処理装置とを含む。処理装置は、イメージセンサで記録されたホログラムに空間周波数フィルタリングを適用し、フィルタリング結果と参照光の光波分布の情報とに基づいて、物体光ホログラムを算出する。
【0022】
参照光の光波分布の情報は、サンプルが存在しない状態で、照明光の光学経路上に、既知の光波分布を発生する光学系を含む校正ユニットが配置されたときに記録されるホログラムと、校正ユニットの配置位置を示す情報と、既知の光波分布とに基づいて予め算出されてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明のある実施の形態によれば、調整の手間を削減しつつ、より高精度にサンプルを測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本実施の形態に従う光学測定システムの構成例(測定処理用)を示す模式図である。
【
図2】本実施の形態に従う光学測定システムの構成例(校正処理)を示す模式図である。
【
図3】本実施の形態に従う光学測定システムのプロファイル生成部の構成例を示す模式図である。
【
図4】本実施の形態に従う光学測定システムに含まれる処理装置のハードウェア構成例を示す模式図である。
【
図5】本実施の形態に従う光学測定システムにおいて実行される測定処理の処理手順を示すフローチャートである。
【
図6】本実施の形態に従う光学測定システムにおいて実行される校正処理の処理手順を示すフローチャートである。
【
図7】本実施の形態に従う光学測定システムにおいて実行される校正処理の別の処理手順を示すフローチャートである。
【
図8】本実施の形態に従う光学測定システムの校正処理の初期段階における測定例を示す図である。
【
図9】本実施の形態に従う光学測定システムの校正処理の処理後における測定例を示す図である。
【
図10】本実施の形態に従う光学測定システムによるサンプルの測定例を示す図である。
【
図11】本実施の形態の変形例1に従う光学測定システムの構成例を示す模式図である。
【
図12】本実施の形態の変形例2に従う光学測定システムの構成例を示す模式図である。
【
図13】本実施の形態の変形例3に従う光学測定システムの構成例を示す模式図である。
【
図14】本実施の形態の変形例4に従う光学測定システムの構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0026】
<A.光学測定システムの構成例>
本実施の形態に従う光学測定システムは、点光源のような発散光を参照光として使用するデジタルホログラフィを利用する。本実施の形態に従う光学測定システムは、サンプルとイメージセンサとの間にレンズが存在しない、レンズレスディジタルホログラフィの構成を採用する。
【0027】
図1は、本実施の形態に従う光学測定システム1の構成例(測定処理用)を示す模式図である。
図1に示す構成例を用いることで、サンプルの形状を示す光波分布を記録する。より具体的には、
図1に示す光学系は、照明光QでサンプルSを照明して得られる物体光Oを、オフアクシス配置された参照光Rで変調して生成されるホログラムI
ORを記録するための光学系に相当する。
【0028】
図1を参照して、光学測定システム1は、光源10と、ビームエキスパンダBEと、ビームスプリッタBS1,BS2と、ミラーM1,M2と、視野マスクA1と、集光レンズL1,L2と、イメージセンサDとを含む。
【0029】
光源10は、レーザなどで構成され、コヒーレント光を発生する。
ビームエキスパンダBEは、光源10からの光の断面径を所定サイズに拡大する。
【0030】
ビームスプリッタBS1は、ビームエキスパンダBEにより拡大された光を2つに分岐する。ビームスプリッタBS1により分岐される一方の光(ビームスプリッタBS1の反射側の光)が照明光Qに相当し、他方の光(ビームスプリッタBS1の透過側の光)がオフアクシス配置された参照光Rに相当する。そのため、照明光Qと参照光Rとは互いにコヒーレントである。このように、ビームスプリッタBS1は、光源10からのコヒーレント光から照明光Qおよび参照光Rを生成する。
【0031】
照明光Qは、ミラーM1で反射されて伝搬方向を変えられた後に、視野マスクA1を通過する。
【0032】
視野マスクA1は、照明光QでサンプルSを照明する範囲を所定範囲に制限する。制限部の一例として、遮光部材に所定範囲に対応する開口SP1が形成されている視野マスクA1を用いてもよい。照明光Qは、開口SP1に対応する領域を通過する。
【0033】
視野マスクA1の開口SP1の像は、集光レンズL1を通過して、サンプルSに結像する。すなわち、視野マスクA1を照明する光のうち、開口SP1に対応する部分の光のみが視野マスクA1を通過することになる。これにより、視野マスクA1を通過した照明光QがサンプルSを照明する範囲を制限できる。
【0034】
サンプルSを照明する範囲は、物体光Oの情報を含む成分と、光強度成分および共役光成分との間で、フーリエ空間(空間周波数領域)における重複を回避できるように決定される。このような照明光Qの照明範囲を制限によって、成分間の重複によるノイズを抑制でき、より高精度な測定を実現できる。但し、視野マスクA1を省略してもよい。
【0035】
照明光QがサンプルSを透過することで物体光Oが生成される。物体光Oは、ビームスプリッタBS2のハーフミラーHM2を透過して、イメージセンサDに入射する。
【0036】
一方、参照光Rは、ミラーM2で反射されて伝搬方向を変えられた後に、集光レンズL2によって集光される。集光レンズL2による集光点FP1が点光源の位置に相当する。すなわち、オフアクシス配置された参照光Rは、点光源から照射された光とみなすことができる。最終的に、参照光Rは、ハーフミラーHM2で反射されてイメージセンサDに入射する。
【0037】
このように、ハーフミラーHM2において、照明光QでサンプルSを照明して得られる物体光Oがオフアクシス配置された参照光Rで変調される。変調によって生じたホログラムIORがイメージセンサDで記録される。
【0038】
処理装置100は、イメージセンサDで記録されるホログラムIORと、校正によって得られた参照光Rの光波分布の複素共役R*を含む校正情報114とを用いて、サンプルSの像再生に必要な情報を算出する。
【0039】
図1には、キューブ型のビームスプリッタBS2を採用する構成例を示すが、開口数を高める目的や作動距離を確保する目的で、ビームスプリッタBS2の屈折率を相対的に高くしてもよいし、立方体の形状を他の任意の形状に変形してもよい。
【0040】
ホログラムIORを記録するためのビームスプリッタは、異なる媒質同士が接する面である境界面が平面とみなせる限り、どのような形状を採用してもよい。例えば、キューブ型ではなく、板状のビームスプリッタを採用してもよい。
【0041】
また、物体光の光波面に対してビームスプリッタBS2を傾斜させてもよい。このような傾斜によって、迷光を抑制できる。また、ビームスプリッタBS2を挟んで、サンプルSとイメージセンサDとが対向配置された構成例を示すが、ビームスプリッタBS2を挟んで、集光レンズL2とイメージセンサDとが対向配置された構成例を採用してもよい。
【0042】
図2は、本実施の形態に従う光学測定システム1の構成例(校正処理)を示す模式図である。
図2に示す光学測定システム1は、
図1に示す構成において、サンプルS、視野マスクA1および集光レンズL1に代えて、校正ユニット20を配置したものである。なお、参照光Rに関する構成(ミラーM2および集光レンズL2)は、
図1のまま維持される。
【0043】
図2に示す構成例を用いることで、校正用ホログラムI
PiRを記録する。校正用ホログラムI
PiRは、既知の光波分布P(x,y,z)を複数の位置に平行移動させたものを、オフアクシス配置された参照光Rでそれぞれ変調して生成されるホログラムの集合である。
【0044】
本明細書において、「既知の光波分布」とは、要求される測定性能に必要な精度で特定可能な光波分布を意味する。そのため、校正用ホログラムIPiRの生成に用いられる光の光波分布は、必要な精度で近似表現できればよく、一切の誤差なく完全に記述できなくてもよい。但し、光波分布自体は、平行移動に伴って変化しないものとする。
【0045】
校正用ホログラムIPiRを記録することで、上述の特許文献4および特許文献5に開示される構成とは異なり、インライン球面波光をインラインの軸に正確に調整する必要がない。校正用ホログラムIPiRを用いた像再生の処理については後述する。
【0046】
校正ユニット20は、プロファイル生成部30と視野制限マスクFAとを含む。
プロファイル生成部30は、既知の光波分布を発生する光学系である。このように、サンプルSが存在しない状態で、照明光Qの光学経路上に、既知の光波分布を発生する光学系(プロファイル生成部30)を含む校正ユニット20が配置される。
【0047】
プロファイル生成部30は、発生する光波分布を空間的に移動できるように構成されていてもよい。より具体的には、プロファイル生成部30は、光波分布をx軸方向、y軸方向、z軸方向にそれぞれ平行移動(シフト)できる機能を有していてもよい。ビームスプリッタBS1により分岐される照明光Qが、ミラーM1で反射されて伝搬方向を変えられた後に、プロファイル生成部30に入射することで、空間的に移動可能な既知の光波分布Pが生成される。
【0048】
視野制限マスクFAは、イメージセンサDで記録可能な視野範囲に対応する開口SP2を有している。なお、視野制限マスクFAの位置は、固定されている。プロファイル生成部30が生成する光波分布Pは、x軸方向、y軸方向、z軸方向にそれぞれ平行移動可能であるが、視野制限マスクFAの開口SP2は、プロファイル生成部30が生成する光波分布Pを遮らないように設計される。すなわち、光波分布Pは、視野制限マスクFAの開口SP2を通過できる範囲で平行移動することになる。但し、視野制限マスクFAを省略してもよい。
【0049】
<B.プロファイル生成部30の構成例>
次に、校正ユニット20のプロファイル生成部30の構成例について説明する。上述したように、プロファイル生成部30は、既知の光波分布を生成できれば、どのような光学系を採用してもよい。プロファイル生成部30の典型的ないくつかの構成例について説明する。
【0050】
図3は、本実施の形態に従う光学測定システム1のプロファイル生成部30の構成例を示す模式図である。
図3(A)~
図3(D)に示す光学系は、いずれも平面波である照明光Qが入射すると、既知の光波分布Pを生成する。
【0051】
図3(A)に示すプロファイル生成部30Aは、ピンホールを用いる光学系であり、3軸にそれぞれ平行移動可能な遮光板31を含む。遮光板31の照明光Qの照明範囲内にピンホール32が設けられている。照明光Qのビーム径は、ピンホール32を含む範囲を十分照明できるような大きさに設定される。
【0052】
図3(B)に示すプロファイル生成部30Bは、ピンホールおよび集光レンズを用いる光学系であり、3軸にそれぞれ平行移動可能な遮光板33および遮光板34を含む。遮光板33および遮光板34は、互いに連結されており、一体となって平行移動する。遮光板33の照明光Qの照明範囲内に集光レンズ35が設けられており、遮光板34を通過した照明光Qの照明範囲内にピンホール36が設けられている。照明光Qのビーム径は、集光レンズ35およびピンホール36を十分な光量が通過できるような大きさに設定される。
【0053】
図3(C)に示すプロファイル生成部30Cは、ピンホールを使用せず、収差が既知の集光レンズを使用する光学系である。プロファイル生成部30Cは、3軸にそれぞれ平行移動可能な遮光板31を含む。遮光板31の照明光Qの照明範囲内に集光レンズ37が設けられている。照明光Qのビーム径は、集光レンズ37を含む範囲を十分照明できるような大きさに設定される。
【0054】
図3(D)に示すプロファイル生成部30Dは、ピンホールを使用せず、収差が既知の対物レンズを使用する光学系である。プロファイル生成部30Dは、3軸にそれぞれ平行移動可能な遮光板31を含む。遮光板31の照明光Qの照明範囲内に対物レンズ38が設けられている。照明光Qのビーム径は、対物レンズ38を含む範囲を十分照明できるような大きさに設定される。
【0055】
なお、
図3(A)~
図3(D)に示される構成例に限られず、既知の光波分布を生成できる任意の光学系を採用できる。
【0056】
<C.測定処理>
次に、光学測定システム1によるサンプルSの測定処理について説明する。以下の説明においては、イメージセンサDの受光面を「記録面」とし、記録面とビームスプリッタBS2の中心光軸との交点を「原点」とする。光軸方向をz軸とし、z軸に直交する2つの軸をそれぞれx軸およびy軸とする。すなわち、光軸は、イメージセンサDの記録面に対して垂直となり、x軸およびy軸は、イメージセンサDの記録面に対して平行となる。
【0057】
また、記録面から所定距離だけ離れた注目している面を「サンプル面」と称す。
図1に示す光学系において、イメージセンサDで記録される物体光Oおよび参照光Rの光波分布は、以下の(1)および(2)式のような一般式で表現できる。
【0058】
【0059】
なお、物体光Oおよびオフアクシス配置された参照光Rは、角周波数ωをもつ、互いにコヒーレントな光である。説明の便宜上、以下の式においては、座標(x,y)を適宜省略することがある。
【0060】
イメージセンサDが1回の撮像で記録するホログラムIORは、(1)式で表現される光と(2)式で表現される光との合成光の光強度として、以下の(3)式のように算出される。
【0061】
【0062】
(3)式に空間周波数フィルタリングを適用することで、複素振幅ホログラムJORは、以下の(4)式のように算出される。
【0063】
【0064】
複素振幅ホログラムJORを校正処理により得られる参照光Rの光波分布の複素共役R*(=R0exp(-iφR))で除算することで、物体光ホログラムUは、以下の(5)式のように算出される。
【0065】
【0066】
(5)式に示す物体光ホログラムUは、イメージセンサDの記録面における物体光Oの光波分布から時間項(-ωt)を除いたものに相当する。そのため、平面波展開といった近似を用いない回折計算を用いることで、収差のない正確な像再生を行うことができる。
【0067】
なお、物体光ホログラムUが標本化定理を満たさない周波数成分を含む場合には、参照光Rの光波分布の複素共役R*で除算する前に、補間処理により複素振幅ホログラムJORのサンプリング数(画素数)を増加させてもよい。サンプリング数を増加させた後に、増加させた複素振幅ホログラムJORを格子状に分割し、分割した格子同士を重ね合わせることで複素振幅ホログラムJOR
を縮小してもよい。なお、格子のサイズは、ホログラムから再生される像のサイズよりも大きくすることが好ましい。このようなサンプリング数の増加および重ね合わせを行うことで、演算量の増加を抑制できる。
【0068】
また、フーリエ変換の性質を利用して、フーリエスペクトル上でサンプリング点数の増加と重ね合わせに相当する処理を実現してもよい。
【0069】
サンプリング数の増加および重ね合わせによって得られた複素振幅分布を再生用物体光ホログラムUΣとする。但し、サンプリング数の増加および重ね合わせが必要ない場合には、物体光ホログラムUをそのまま再生用物体光ホログラムUΣとして扱う。
【0070】
再生用物体光ホログラムUΣは、サンプル面の状態を再生可能な情報をもつホログラムである。
【0071】
次に、媒質内の回折計算と傾斜面の像再生について説明する。
再生用物体光ホログラムUΣについて平面波展開による回折計算を行うことで、任意のサンプル面における光波分布を再生できる。平面波展開によって再生用物体光ホログラムUΣを距離dだけ伝搬させた(記録面から距離dだけ離れたサンプル面における)光波分布を複素振幅分布Udとする。
【0072】
イメージセンサDの記録面から再生される距離dまでに含まれるM個の媒質(m=1,2,・・・,M)の距離をdm、屈折率をnmとすれば、複素振幅分布Udは、以下の(6)式のように一般化できる。但し、式中のkzmは(7)式に従って算出される。
【0073】
【0074】
なお、複数の媒質が存在する場合には、媒質間の境界面は記録面に対して平行であるとする。また、媒質mから媒質m+1に入射するときの透過係数をTm,m+1(kx,ky)と表現する。但し、TM,M+1(kx,ky)については常に1であるとみなす。
【0075】
例えば、空気中のみを距離dだけ伝搬させる場合には、M=1で、d1=d,nm=1となる。
【0076】
なお、媒質mから媒質m+1に入射するときの透過係数が波数kx,kyに依存せずにほぼ一様とみなせる場合には、Tm,m+1≡1として計算を簡略化してもよい。
【0077】
さらに、媒質間の境界面が光波面と一致していない場合には、光波面が境界面と一致するように座標系を回転変換する。この場合には、媒質間の境界面は記録面に対して平行でなくてもよい。回転変換の操作は、空間周波数スペクトル上で行うことができる。以下の(8)式および(9)式に従って、屈折率nの媒質における光波面をフーリエ変換することで、空間周波数スペクトルの座標(u,v)における空間周波数ベクトルν=(u,v,w)を算出する。
【0078】
【0079】
以下の(10)式に従って、新たな座標系への回転変換を定義する行列Aを用いて空間周波数ベクトルνを回転変換することで、新たな空間周波数ベクトル(u’,v’,w’)を算出する。
【0080】
【0081】
算出された空間周波数ベクトルの座標u’および座標v’は、回転変換後の空間周波数スペクトルの座標に相当する。境界面前の波面の全データについて、上述したような回転変換の操作を行うことで、境界面後の波面の空間周波数スペクトルを算出できる。
【0082】
さらに、傾斜面の像を再生するために用いることもできる。回転変換後の波面の空間周波数スペクトルを逆フーリエ変換することで、回転変換後の面における光波分布を算出できる。
【0083】
回折計算の結果として得られる光波分布が物体光の複素振幅分布Udとなる。そのため、複素振幅分布Udは、任意の演算処理によって視覚化できる。例えば、複素振幅分布Udから振幅成分を抽出して画像化することで、光学顕微鏡の明視野に相当する像が得られる。
【0084】
<D.校正処理>
次に、
図2に示す構成例を用いた校正処理について説明する。校正処理においては、参照光Rの光波分布の情報が決定される。参照光Rの光波分布の情報は、参照光Rの光波分布の複素共役R
*を含む。
【0085】
図2に示す構成例において、校正ユニット20が生成する既知の光波分布Pを任意のオフセット座標(x
pi,y
pi,z
pi)(i=0~N-1)に平行移動することで、光波分布P
i(i=0~N-1)を生成する。例えば、
図3(A)~
図3(D)に示すように、プロファイル生成部30をx軸方向、y軸方向、z軸方向のうち1または複数の方向に任意に移動させることで(すなわち、光波分布Pを生成する光学ユニットを任意のオフセット座標に配置することで)、光波分布P
iを生成できる。
【0086】
光波分布Piは、既知の光波分布Pを各軸方向に沿って平行移動させたものである。そのため、イメージセンサDの記録面(z=0)における光波分布Piは、イメージセンサDの記録面(z=0)における光波分布P(既知である)と、オフセット座標(xpi,ypi,zpi)とを用いて、以下の(11)式のように表現できる。
【0087】
【0088】
イメージセンサDが記録する校正用ホログラムIPiRは、以下の(12)式のように表現できる。(12)式の第3項をフィルタリングすることで、複素振幅ホログラムJPiRは、以下の(13)式のように算出される。
【0089】
【0090】
オフセット座標(xpi,ypi,zpi)が既知であれば、参照光Rの光波分布の複素共役R*(=R0exp(-iφR))は、以下の(14)式のように算出される。
【0091】
【0092】
この場合には、1つのオフセット座標(xp0,yp0,zp0)に対応する光波分布P0から参照光Rの光波分布の複素共役R*を算出できる。プロファイル生成部30が既知の光波分布Pを複数の位置に平行移動させる機能を有しておく必要はない。
【0093】
一方で、オフセット座標が不明、または、必要な精度のオフセット座標が得られない場合には、以下のようなパラメータフィッティングを用いて、参照光Rの光波分布の複素共役R*を決定する。
【0094】
より具体的には、番号i=0の光波分布P0に対応するオフセット座標(xp0,yp0,zp0)として、適切な初期値を設定する。設定される初期値は、校正ユニット20の光学的な位置関係を考慮して決定される。任意の番号iについての物体光ホログラムUiは、(14)式に示される参照光Rの光波分布の複素共役R*を用いて、以下の(15)式のように表現できる。
【0095】
【0096】
このとき、すべての番号i(i=0~N-1)について、以下の(16)式の関係が成立しなければならない。
【0097】
【0098】
番号i=0において、(16)式の関係が成立することは明らかである。番号i≠0において、(14)式に示される参照光Rの光波分布の複素共役R*が正しく算出されていれば、(16)式は(17)式のように変形できるので、(16)式の関係は成立することになる。
【0099】
【0100】
つまり、すべての番号i(i=0~N-1)について、(16)式の関係が成立しない場合には、参照光Rの光波分布の複素共役R*が正しく算出されていないことを意味する。参照光Rの光波分布の複素共役R*が正しく算出されない理由は、オフセット座標(xp0,yp0,zp0)が正しくないからであり、オフセット座標(xp0,yp0,zp0)を正しい値に調整する必要がある。
【0101】
オフセット座標(xp0,yp0,zp0)の調整に先立って、校正用ホログラムIPiRから算出される光波分布を修正することが好ましい。
【0102】
より具体的には、番号i=1~N-1の各々について、物体光ホログラムUiから再生される像の光波分布が記録面における既知の光波分布Pと一致するように、光波分布Piを修正する。修正後の光波分布を修正光波分布Pi’と称す。
【0103】
(11)式および(15)~(17)式から、以下の(18)式に示す関係が成立する。但し、参照光Rの光波分布の複素共役R*が正しく算出されていないと想定している。この状態において、以下の(19)式に示すように、既知の光波分布Pと一致するように、物体光ホログラムUiをx軸、y軸、z軸にそれぞれ修正することで、修正光波分布Pi’を決定する。
【0104】
【0105】
x軸方向およびy軸方向の調整は、物体光ホログラムUi(x,y)に対応するイメージセンサDの対象画素群をずらす(オフセットを与える)ことで実現される。z軸方向(フォーカス位置)の修正は、(6)式に示す平面波展開による回折計算により実現される。すなわち、z軸方向の修正は、イメージセンサDで記録される物体光ホログラムUiを回折計算する際に、像再生される距離を変化させることで実現される。
【0106】
なお、光波分布Pi(i=1~N-1)がハーフミラーなどの媒質を透過する場合には、上述した媒質内の回折計算と傾斜面の像再生の処理と同様の処理を適用することが好ましい。
【0107】
このようにして、番号i=1~N-1について、光波分布を修正した修正光波分布Pi’を算出する。
【0108】
最終的に、参照光Rの光波分布の複素共役R*を決定する処理が実行される。具体的には、すべての番号i(i=0~N-1)について、既知の光波分布Pおよび修正光波分布Pi’をそれぞれフーリエ変換して、スペクトルF[P]およびスペクトルF[Pi’]を算出する。そして、スペクトルF[P]とスペクトルF[Pi’]との位相差分布を示す位相差分布スペクトルWi(u,v)(=arg(F[Pi’]/F[P]))を算出する。ここで、arg()は、複素数の偏角(位相)を算出する関数である。
【0109】
なお、位相差分布スペクトルWi(u,v)のうち、位相周期性の影響で位相の不連続(ギャップ)が生じている部分については、位相を連続させるための処理を行うことが好ましい。
【0110】
位相差分布スペクトルWi(u,v)を用いて、以下の(20)式に示すように、波面収差Wi_errを算出できる。波面収差Wi_errは、位相差分布スペクトルWi全体の平均値Waveを真値とし、真値に対する二乗平均平方根を誤差として算出したものである。
【0111】
【0112】
ここで、平均値Waveは、位相差分布スペクトルWi(u,v)の平均値であり、SWは、位相差分布スペクトルWi(u,v)を積分する範囲の面積である。積分範囲は、位相差分布スペクトルWi(u,v)のうち、有効なデータが存在する部分であり、波面収差Wi_errおよび平均値Waveの算出において共通である。
【0113】
なお、狭義の「波面収差」は、上述の波面収差W
i_errにλ/2π(λ:波長)を乗じた値を意味する。そのため、W
i_err×λ/2πを波面収差と称してもよい。但し、λ/2πは固定値の係数であるため、以下の処理については、係数であるλ/2πを省略した形で説明する。但し、後述の
図8および
図9に示す測定例においては、狭義の波面収差を用いて評価を行っている。
【0114】
正しい参照光Rの光波分布の複素共役R*に基づいて光波分布が再生されている場合には、波面収差Wi_errは0となる。一方、参照光Rの光波分布の複素共役R*に誤差がある場合には、波面位相に歪みが生じるので波面収差Wi_errは0にならない。
【0115】
そのため、すべての番号i(i=0~N-1)についての波面収差Wi_err(絶対値)の総和(=ΣWi_err)を最小化するように、オフセット座標(xp0,yp0,zp0)を調整する。パラメータフィッティングの手法には、一般的な最適化アルゴリズムを用いることができる。
【0116】
なお、生成する光波分布Piの数は多いほど、パラメータフィッティングの信頼性を向上できる。また、光波分布Piは、イメージセンサDで記録可能な視野範囲の全域にわたって偏りなく設定することが好ましい。
【0117】
<E.処理装置100>
次に、光学測定システム1に含まれる処理装置100のハードウェア構成例について説明する。
【0118】
図4は、本実施の形態に従う光学測定システム1に含まれる処理装置100のハードウェア構成例を示す模式図である。
図4を参照して、処理装置100は、主要なハードウェア要素として、プロセッサ102と、主メモリ104と、入力部106と、表示部108と、ストレージ110と、インターフェイス120と、ネットワークインターフェイス122と、メディアドライブ124とを含む。
【0119】
プロセッサ102は、典型的には、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)などの演算処理部であり、ストレージ110に格納されている1または複数のプログラムを主メモリ104に読み出して実行する。主メモリ104は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)またはSRAM(Static Random Access Memory)といった揮発性メモリであり、プロセッサ102がプログラムを実行するためのワーキングメモリとして機能する。
【0120】
入力部106は、キーボードやマウスなどを含み、ユーザからの操作を受け付ける。表示部108は、プロセッサ102によるプログラムの実行結果などをユーザへ出力する。
【0121】
ストレージ110は、ハードディスクやフラッシュメモリなどの不揮発性メモリからなり、各種プログラムやデータを格納する。より具体的には、ストレージ110は、オペレーティングシステム111(OS:Operating System)と、測定プログラム112と、校正プログラム113と、校正情報114と、ホログラムデータ115と、測定結果116とを保持する。
【0122】
オペレーティングシステム111は、プロセッサ102がプログラムを実行する環境を提供する。測定プログラム112は、プロセッサ102によって実行されることで、本実施の形態に従う測定処理などを実現する。校正プログラム113は、プロセッサ102によって実行されることで、本実施の形態に従う校正処理などを実現する。校正情報114は、校正処理によって決定されるパラメータであり、測定処理において参照される。ホログラムデータ115は、イメージセンサDから出力されるイメージデータに相当する。測定結果116は、測定プログラム112の実行によって得られる測定結果を含む。
【0123】
このように、ストレージ110は、
図1および
図2に示す光学系における参照光Rの光波分布の情報(校正情報114)を格納する。
【0124】
インターフェイス120は、処理装置100とイメージセンサDとの間でのデータ伝送を仲介する。ネットワークインターフェイス122は、処理装置100と外部のサーバ装置との間でのデータ伝送を仲介する。
【0125】
メディアドライブ124は、プロセッサ102で実行されるプログラムなどを格納した記録媒体126(例えば、光学ディスクなど)から必要なデータを読出して、ストレージ110に格納する。なお、処理装置100において実行される測定プログラム112および/または校正プログラム113などは、記録媒体126などを介してインストールされてもよいし、ネットワークインターフェイス122などを介してサーバ装置からダウンロードされてもよい。
【0126】
測定プログラム112および/または校正プログラム113は、オペレーティングシステム111の一部として提供されるプログラムモジュールのうち、必要なモジュールを所定の配列で所定のタイミングで呼び出して処理を実行させるものであってもよい。そのような場合、当該モジュールを含まない測定プログラム112および/または校正プログラム113についても本発明の技術的範囲に含まれる。測定プログラム112および/または校正プログラム113は、他のプログラムの一部に組み込まれて提供されるものであってもよい。
【0127】
なお、処理装置100のプロセッサ102がプログラムを実行することで提供される機能の全部または一部をハードワイヤードロジック回路(例えば、FPGA(Field-Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)など)によって実現してもよい。
【0128】
説明の便宜上、
図4には、測定処理および校正処理の両方を実行可能な処理装置100の構成例を示すが、測定処理および校正処理の一方のみを実行可能にしてもよい。例えば、光学測定システム1の工場出荷前に校正処理が実行されて、参照光Rの光波分布の複素共役R
*が予め決定される。そのため、工場出荷後には校正処理が実行される必要はなく、測定処理のみが実行されることもある。このような場合には、校正処理を実行可能な処理装置と、測定処理を実行可能な処理装置をそれぞれ用意してもよい。
【0129】
<F.処理手順>
次に、光学測定システム1において実行される測定処理および校正処理について説明する。
【0130】
(f1:測定処理)
図5は、本実施の形態に従う光学測定システム1において実行される測定処理の処理手順を示すフローチャートである。
図5に示す測定処理においては、
図1および
図2に示す光学系における参照光Rの光波分布の情報である複素共役R
*が何らかの方法で予め取得されている。
図5に示す処理装置100が実行するステップは、典型的には、処理装置100のプロセッサ102が測定プログラム112を実行することで実現される。
【0131】
図5を参照して、
図1に示す光学系を構成するとともに、サンプルSを配置する(ステップS100)。そして、光源10からコヒーレント光を発生させて、処理装置100は、イメージセンサDでホログラムI
ORを記録する(ステップS102)。このように、照明光QでサンプルSを照明して得られる物体光Oを参照光Rで変調して生成されるホログラムI
OR(第3のホログラム)を記録する処理が実行される。
【0132】
処理装置100は、記録したホログラムIORに空間周波数フィルタリングを適用することで、複素振幅ホログラムJORを算出する(ステップS104)(上述の(4)式参照)。続いて、処理装置100は、算出した複素振幅ホログラムJORを参照光Rの光波分布の複素共役R*で除算することで、物体光ホログラムUを算出する(ステップS106)(上述の(5)式参照)。このように、ホログラムIOR(第3のホログラム)に空間周波数フィルタリングを適用し、フィルタリング結果と参照光Rの光波分布の複素共役R*(参照光Rの光波分布の情報)とに基づいて、物体光ホログラムUを算出する処理が実行される。
【0133】
なお、処理装置100は、物体光ホログラムUに対して、サンプリング点数の増加と重ね合わせの処理を行うことで、再生用物体光ホログラムUΣを算出してもよい。サンプリング点数の増加と重ね合わせの処理を省略する場合には、物体光ホログラムUをそのまま再生用物体光ホログラムUΣとして扱う。
【0134】
処理装置100は、算出した再生用物体光ホログラムUΣをサンプル面まで回折計算することで、複素振幅分布Udを算出する(ステップS108)(上述の(6)式および(7)式参照)。そして、処理装置100は、算出した複素振幅分布Udの一部または全部の情報を用いて測定結果を生成する(ステップS110)。例えば、複素振幅分布Udから振幅成分を抽出して画像化することで、光学顕微鏡の明視野に相当する像が生成される。
【0135】
図5に示されるステップS102~S110の処理は、サンプルS毎に実行される。なお、複数のサンプルSにそれぞれ対応するホログラムI
ORを先に記録しておき、事後的に測定結果を生成する処理を実行してもよい。
【0136】
(f2:校正処理)
図6は、本実施の形態に従う光学測定システム1において実行される校正処理の処理手順を示すフローチャートである。
図6に示す校正処理は、既知の光波分布Pおよび正しいオフセット座標が得られる場合の処理手順である。
図6に示す処理装置100が実行するステップは、典型的には、処理装置100のプロセッサ102が校正プログラム113を実行することで実現される。
【0137】
図6を参照して、
図2に示す光学系を構成するとともに、校正ユニット20を配置する(ステップS200)。このとき、校正ユニット20のオフセット座標(x
p0,y
p0,z
p0)は正確に設定される(ステップS202)。このように、照明光QでサンプルSを照明して得られる物体光Oを参照光Rで変調して生成されるホログラムを記録するための光学系(
図1および
図2に示す光学測定システム1)を構成する処理と、サンプルSが存在しない状態で、照明光Qの光学経路上に、既知の光波分布Pを発生する光学系(プロファイル生成部30)を含む校正ユニット20を配置する処理が実行される。
【0138】
そして、光源10からコヒーレント光を発生させて、処理装置100は、イメージセンサDで校正用ホログラムIP0Rを記録する(ステップS204)。このように、校正ユニット20が光波分布P0を発生している状態で生じる校正用ホログラムIP0R(第1のホログラム)を記録する処理が実行される。
【0139】
処理装置100は、既知の光波分布Pおよびオフセット座標(xp0,yp0,zp0)を用いて、光波分布P0を算出し(ステップS206)(上述の(11)式参照)、算出した光波分布P0および記録された校正用ホログラムIP0Rを用いて、参照光Rの光波分布の複素共役R*を算出する(ステップS208)(上述の(14)式参照)。このように、校正ユニット20の配置位置を示す情報(オフセット座標)と、既知の光波分布Pと、校正用ホログラムIP0R(第1のホログラム)とに基づいて、参照光Rの光波分布の情報である複素共役R*を算出する処理が実行される。
【0140】
そして、処理装置100は、算出した参照光Rの光波分布の複素共役R*を含む校正情報114を出力する(ステップS210)。以上で、校正処理は終了する。
【0141】
図7は、本実施の形態に従う光学測定システム1において実行される校正処理の別の処理手順を示すフローチャートである。
図7に示す校正処理は、正しいオフセット座標が得られない場合の処理手順である。
図7に示す処理装置100が実行するステップは、典型的には、処理装置100のプロセッサ102が校正プログラム113を実行することで実現される。
【0142】
図7を参照して、
図2に示す光学系を構成するとともに、校正ユニット20を配置する(ステップS250)。このように、照明光QでサンプルSを照明して得られる物体光Oを参照光Rで変調して生成されるホログラムを記録するための光学系(
図1および
図2に示す光学測定システム1)を構成する処理と、サンプルSが存在しない状態で、照明光Qの光学経路上に、既知の光波分布Pを発生する光学系(プロファイル生成部30)を含む校正ユニット20を配置する処理が実行される。
【0143】
続いて、プロファイル生成部30を順次平行移動させて、N個の校正用ホログラムIPiRを記録する処理が実行される。より具体的には、校正ユニット20を番号iに対応するオフセット座標(xpi,ypi,zpi)に設定する(ステップS252)。そして、光源10からコヒーレント光を発生させて、処理装置100は、イメージセンサDで校正用ホログラムIPiRを記録する(ステップS254)。ステップS252およびS254の処理は、番号iが0からN-1まで繰り返される。
【0144】
このように、校正ユニット20が光波分布P0を発生している状態で生じる校正用ホログラムIP0R(第1のホログラム)を記録する処理が実行される。また、校正ユニット20が発生する光波分布を校正用ホログラムIP0R(第1のホログラム)を記録した位置(オフセット座標(xp0,yp0,zp0))とは異なる複数の位置(オフセット座標(xpi,ypi,zpi:i>0))に移動させるとともに、複数の位置においてそれぞれ生じる複数の校正用ホログラムIPiR(複数の第2のホログラム)を記録する処理が実行される。
【0145】
続いて、参照光Rの光波分布の複素共役R*を暫定的に算出する処理が実行される。より具体的には、番号i=0の光波分布P0に対応するオフセット座標(xp0,yp0,zp0)として、適切な初期値を設定する(ステップS256)。そして、処理装置100は、既知の光波分布Pおよびオフセット座標(xp0,yp0,zp0)の初期値を用いて、光波分布P0を算出し(ステップS258)(上述の(11)式参照)、算出した光波分布P0および記録された校正用ホログラムIP0Rを用いて、参照光Rの光波分布の複素共役R*を暫定的に算出する(ステップS260)(上述の(14)式参照)。
【0146】
このように、校正ユニット20の配置位置を示す情報(オフセット座標の初期値)と、既知の光波分布Pと、校正用ホログラムIP0R(第1のホログラム)とに基づいて、参照光Rの光波分布の情報である複素共役R*を算出する処理が実行される。
【0147】
続いて、光波分布を修正する処理が実行される。より具体的には、処理装置100は、記録した校正用ホログラムIPiRに空間周波数フィルタリングを適用することで、複素振幅ホログラムJPiRを算出する(ステップS262)(上述の(4)式参照)。続いて、処理装置100は、算出した複素振幅ホログラムJPiRを現在の複素共役R*で除算することで、物体光ホログラムUiを算出する(ステップS264)(上述の(6)式および(7)式参照)。このように、複数の校正用ホログラムIPiR(複数の第2のホログラム)の各々に空間周波数フィルタリングを適用し、フィルタリング結果と複素共役R*(参照光Rの光波分布の情報)とに基づいて、複数の校正用ホログラムIPiRにそれぞれ対応する複数の物体光ホログラムUiを算出する処理が実行される。
【0148】
続いて、処理装置100は、算出した物体光ホログラムUiから光波分布Piを決定する(ステップS266)。そして、処理装置100は、既知の光波分布Pと一致するように物体光ホログラムUiを修正することで、修正光波分布Pi’を算出する(ステップS268)(上述の(18)式および(19)式参照)。このように、処理装置100は、既知の光波分布Pに基づいて、複数の物体光ホログラムUiをそれぞれ修正することで、複数の校正用ホログラムIPiRに対応する複数の修正光波分布Pi’をそれぞれ算出する。
【0149】
続いて、処理装置100は、既知の光波分布Pから算出されるスペクトルと複数の校正用ホログラムIPiR(複数の第2のホログラム)に対応する修正光波分布Pi’から算出されるスペクトルとから波面収差を算出する。
【0150】
より具体的には、処理装置100は、既知の光波分布Pおよび修正光波分布Pi’をそれぞれフーリエ変換して、スペクトルF[P]およびスペクトルF[Pi’]を算出する(ステップS270)。そして、処理装置100は、スペクトルF[P]とスペクトルF[Pi’]との位相差分布を示す位相差分布スペクトルWi(u,v)(=arg(F[Pi’]/F[P]))を算出する(ステップS272)。このように、処理装置100は、既知の光波分布Pから算出されるスペクトルF[P]と校正用ホログラムIPiR(第2のホログラム)に対応する修正光波分布Pi’から算出されるスペクトルF[Pi’]との位相差分布である位相差分布スペクトルWi(u,v)を算出する。
【0151】
最終的に、処理装置100は、算出した位相差分布スペクトルWi(u,v)を用いて、波面収差Wi_errを算出する(ステップS274)。上述の(20)式に示すように、処理装置100は、波面収差Wi_errの算出処理において、位相差分布スペクトルWi全体の平均値Waveに対する二乗平均平方根を誤差として算出する。
【0152】
ステップS262~S274の処理は、番号iが1からN-1まで繰り返される。
続いて、処理装置100は、波面収差Wi_errを最小化するように、校正ユニット20のオフセット座標(xp0,yp0,zp0)の値(配置位置を示す情報)を調整する。
【0153】
より具体的には、処理装置100は、ステップS274において算出された波面収差Wi_errの総和(=ΣWi_err)を算出し(ステップS276)、算出した波面収差Wi_errの総和が収束条件を満たしているか否かを判断する(ステップS278)。収束条件は、例えば、波面収差Wi_errの総和が予め定められた値以下であることを含んでいてもよい。
【0154】
波面収差Wi_errの総和が収束条件を満たしていなければ(ステップS278においてNO)、処理装置100は、オフセット座標(xp0,yp0,zp0)の値を変更し(ステップS280)、ステップS260以下の処理を繰り返す。
【0155】
波面収差Wi_errの総和が収束条件を満たしていれば(ステップS278においてYES)、処理装置100は、現在の複素共役R*を含む校正情報114を出力する(ステップS282)。そして、校正処理は終了する。
【0156】
<G.測定例>
次に、本実施の形態に従う光学測定システムによる測定例を示す。以下の測定例は、校正ユニット20を用いて参照光Rの光波分布の複素共役R*を決定することによる高精度化を説明するためのものである。
【0157】
まず、
図2に示す光学系を構成した。光源10の波長は532nmとし、記録開口数NA=0.5の光学系を構成した。そして、校正ユニット20が生成する光波分布P
i(i=0~N-1)を記録した。
図8および
図9に示す測定例においては、光波分布P
iを11地点(N=11;i=0~10)で記録した。
【0158】
上述したように、光波分布Piは、イメージセンサDの視野範囲内において、既知の光波分布Pをx軸方向、y軸方向、z軸方向にそれぞれ平行移動させたものである。既知の光波分布Pとしては、点光源を使用した。
【0159】
光波分布P0に対応するオフセット座標(xp0,yp0,zp0)として、校正ユニット20の光学的な位置関係を考慮して決定された初期値を設定し、設定された初期値を用いて参照光Rの光波分布の複素共役R*を算出した。
【0160】
図8は、本実施の形態に従う光学測定システム1の校正処理の初期段階における測定例を示す図である。
図8(A)には、オフセット座標の初期値を用いて再生された物体光ホログラムU
1の集光点付近の振幅分布を示す。
図8(B)には、物体光ホログラムU
1の集光点付近の振幅分布を用いて算出された波面収差W
1_errの分布を示す。オフセット座標の初期値を用いた場合の波面収差W
1_errは、2.924λであった。
【0161】
オフセット座標の初期値は、校正ユニット20の光学的な位置関係を正しく反映したものではないので、参照光Rの光波分布の複素共役R
*も不正確である。その結果、
図8(A)に示すように、集光点(エアリーディスクのスポット)もスポット状にはならず、ばらついている。また、
図8(B)に示すように、物体光ホログラムU
1には大きな波面収差が生じている。
【0162】
次に、上述の手順に従って、波面収差の総和を最小化するように、オフセット座標(xp0,yp0,zp0)を調整した結果を示す。調整されたオフセット座標(xp0,yp0,zp0)を用いて参照光Rの光波分布の複素共役R*を算出した。
【0163】
図9は、本実施の形態に従う光学測定システム1の校正処理の処理後における測定例を示す図である。
図9(A)には、調整後のオフセット座標を用いて再生された物体光ホログラムU
1の集光点付近の振幅分布を示す。
図9(B)には、物体光ホログラムU
1の集光点付近の振幅分布を用いて算出された波面収差W
1_errの分布を示す。オフセット座標の初期値を用いた場合の波面収差W
1_errは、0.023λであった。
図9(A)に示すように、参照光Rの光波分布の複素共役R
*を正確に決定することで、物体光ホログラムU
1には集光点(エアリーディスクのスポット)が形成されており、
図9(B)に示すように、明らかな波面収差は見られない。
【0164】
一般的に、波面収差が0.07λ以下の状態は回折限界とみなされており、波面収差W1_errが0.023λであるので、十分な結像性能を有しているといえる。また、番号i=2~10の場合についても波面収差を算出すると、すべての再生像について、波面収差Wi_errは0.07λ以下となり、視野内全域にわたって回折限界の結像性能を有している。
【0165】
図10は、本実施の形態に従う光学測定システム1によるサンプルの測定例を示す図である。
図10には、
図1に示す光学測定システム1を用いて記録したホログラムI
ORから再生されたサンプル(USAF 1951分解能テストターゲット)の再生像を示す。
【0166】
図10(A1)および
図10(A2)には、オフセット座標の初期値を用いた再生像を示す。
図10(A1)には、分解能テストターゲットの全体像を示し、
図10(A2)には、分解能テストターゲットの部分拡大図を示す。
【0167】
図10(A1)および
図10(A2)に示す再生像においては、大きな歪が生じているとともに、分解能テストターゲットのグループ9にあるパターン線は十分に分解できていない。
【0168】
図10(B1)および
図10(B2)には、調整後のオフセット座標を用いた再生像を示す。
図10(B1)には、分解能テストターゲットの全体像を示し、
図10(B2)には、分解能テストターゲットの部分拡大図を示す。
【0169】
図10(B1)に示す再生像においては、大きな歪は生じていない。また、
図10(B2)において矩形枠線で示したテストターゲットの9-6パターンの線(幅0.548μm)が3本の線として分解できており、光学系から決まる理論分解能0.532μmと同程度の性能が得られていることが分かる。
【0170】
このように、上述したような校正処理により参照光Rの光波分布の複素共役R*を正確に決定することで、高精度にサンプルを測定できることが分かる。
【0171】
<H.変形例>
図1および
図2には、透過型の光学系を採用した光学測定システム1の構成例を例示したが、この構成例に限定されず、以下のような各種の変形が可能である。
【0172】
(h1:変形例1)
本実施の形態の変形例1として、参照光をサンプルに近傍して配置した構成例について説明する。
【0173】
図11は、本実施の形態の変形例1に従う光学測定システム1Aの構成例を示す模式図である。
図11(A)には測定処理用の構成例を示し、
図11(B)には校正処理用の構成例を示す。
【0174】
図11(A)を参照して、光学測定システム1Aにおいては、ハーフミラーHM2に代えて、ミラーM3が配置されている。ミラーM3は、サンプルSから物体光Oから照射される範囲外に配置されている。参照光Rは、ミラーM4で反射されて伝搬方向を変えられてミラーM3へ導かれる。参照光Rは、ミラーM3でさらに反射されて、イメージセンサDの受光面へ導かれる。すなわち、イメージセンサDの受光面において、照明光QでサンプルSを照明して得られる物体光Oが参照光Rで変調される。
【0175】
このように、作動距離を確保する必要がない場合には、ハーフミラーHM2に代えて、ミラーM3を採用してもよい。ミラーM3は、平面鏡、凸面鏡、凹面鏡のいずれであってもよい。
【0176】
図11(B)を参照して、光学測定システム1Aにおいて、校正ユニット20を含むプロファイル生成部30は、照明光学系である視野マスクA1および集光レンズL1を置き換える形で配置される。校正処理については、上述した処理と同様である。
【0177】
(h2:変形例2)
本実施の形態の変形例2として、照明光学系を省略した構成例について説明する。
【0178】
図12は、本実施の形態の変形例2に従う光学測定システム1Bの構成例を示す模式図である。
図12(A)には測定処理用の構成例を示し、
図12(B)には校正処理用の構成例を示す。
【0179】
図12(A)を参照して、光学測定システム1Bにおいては、サンプルSの近傍に視野制限マスクFAが配置されている。このような視野制限マスクFAを用いることで、照明光学系を簡略化あるいは省略できる。
図12(A)には、照明光学系に相当する結合光学系(視野マスクA1および集光レンズL1)を省略した構成例を示す。
【0180】
さらに、照明光Qと参照光Rとの間で干渉性を維持できる限りにおいて、照明光QでサンプルSを照明する光学系はどのようなものであってもよい。例えば、照明光Qを斜めに入射させてもよいし、照明光Qとして拡散照明を採用してもよい。
【0181】
図12(B)を参照して、光学測定システム1Bにおいて、校正ユニット20を含むプロファイル生成部30は、サンプルSを取り除いた上で、照明光Qの光路上に配置される。なお、照明光学系が省略されているので、校正ユニット20を配置する際に、照明光学系を取り除く必要はない。校正処理については、上述した処理と同様である。
【0182】
(h3:変形例3)
本実施の形態の変形例3として、反射型光学系を採用した構成例について説明する。
【0183】
図13は、本実施の形態の変形例3に従う光学測定システム1Cの構成例を示す模式図である。
図13(A)には測定処理用の構成例を示し、
図13(B)には校正処理用の構成例を示す。
【0184】
図13(A)を参照して、光学測定システム1Cにおいては、ビームスプリッタBS1で分岐された照明光Qは、ミラーM1およびミラーM5でそれぞれ反射されて伝搬方向を変えられた後に、集光レンズL3、視野マスクA1、集光レンズL4を通過して、ハーフミラーHM2へ導かれる。さらに、照明光Qは、ハーフミラーHM2で反射されてサンプルSを照明する。照明光QでサンプルSを照明して得られる物体光O(すなわち、サンプルSで反射された光)は、ハーフミラーHM2を透過して、イメージセンサDに入射する。
【0185】
一方、参照光Rは、ミラーM2で反射されて伝搬方向を変えられた後に、集光レンズL2によって集光される。集光レンズL2による集光点FP1が点光源の位置に相当する。最終的に、参照光Rは、ハーフミラーHM2で反射されてイメージセンサDに入射する。
【0186】
図13(B)を参照して、光学測定システム1Cにおける校正処理は、
図2および
図12(B)と同様に、透過型の光学系を用いて行われる。より具体的には、校正ユニット20を含むプロファイル生成部30は、サンプルSを取り除いた上で、照明光Qの光路上に配置される。校正処理については、上述した処理と同様である。
【0187】
(h4:変形例4)
本実施の形態の変形例4として、サンプルSからの散乱光の測定に適した構成例について説明する。
【0188】
図14は、本実施の形態の変形例4に従う光学測定システム1Dの構成例を示す模式図である。
図14(A)には測定処理用の構成例を示し、
図14(B)には校正処理用の構成例を示す。
【0189】
図14(A)を参照して、光学測定システム1Dにおいては、ビームスプリッタBS1で分岐された照明光Qは、ミラーM6で反射されて伝搬方向を変えられた後に、サンプルSを照射する。照明光QでサンプルSを照明することで生じる散乱光が、物体光OとしてイメージセンサDに入射する。
【0190】
光学測定システム1Dにおいては、サンプルSで生じる散乱光を測定できる。なお、サンプルSの近傍には、必要に応じて視野制限マスクFAを配置してもよい。視野制限マスクFAを配置することで、ノイズを抑制できる。
【0191】
図14(B)を参照して、光学測定システム1Dにおける校正処理は、
図2および
図12(B)と同様に、透過型の光学系を用いて行われる。より具体的には、校正ユニット20を含むプロファイル生成部30は、サンプルSを取り除いた上で、照明光Qの光路上に配置される。校正処理については、上述した処理と同様である。
【0192】
(h5:変形例5)
上述の説明においては、特定の波長帯域のコヒーレント光を発生する光源10を用いる構成について主として説明したが、複数の波長帯域のコヒーレント光を発生する光源10を用いてもよい。例えば、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)のそれぞれに対応する波長帯域のコヒーレント光を発生させるとともに、それぞれの色に受光感度をもつイメージセンサDを採用することで、各色のホログラムを記録できる。
【0193】
また、イメージセンサDとして偏光イメージセンサを採用することで、偏光ホログラムを記録できる。
【0194】
<I.利点>
本実施の形態に従う光学測定システムは、サンプルとイメージセンサとの間にレンズなどの結像光学系が存在しない、レンズレスディジタルホログラフィの構成を採用する。そのため、照明光でサンプルを照明して得られる物体光に収差などの誤差が生じない。
【0195】
本実施の形態に従う光学測定システムは、校正処理によって参照光の光波分布の情報(例えば、参照光Rの光波分布の複素共役R*)を予め取得する。光学測定システムは、照明光でサンプルを照明して得られる物体光を参照光で変調して生成されるホログラムと、参照光の光波分布の情報とに基づいて、物体光ホログラムを算出することで、サンプルの任意の位置の形状(光波振幅および位相)などを事後的に算出あるいは測定できる。
【0196】
本実施の形態に従う光学測定システムは、物体光に代えて、既知の光波分布を既知の配置位置(座標)から照明することで、参照光の光波分布の情報を算出できる。そのため、インライン球面波光をインラインの軸に正確に調整する必要がなく、調整に手間を要することもない。
【0197】
本実施の形態に従う光学測定システムは、物体光に代えて、既知の光波分布を複数の配置位置(座標)から照明することで、パラメータフィッティングにより参照光の光波分布の情報を算出できる。そのため、インライン球面波光をインラインの軸に正確に調整する必要がなく、調整に手間を要することもない。加えて、既知の光波分布を照明する配置位置を正確に知らなくても、正確な参照光の光波分布の情報を算出できる。
【0198】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0199】
1,1A,1B,1C,1D 光学測定システム、10 光源、20 校正ユニット、30,30A,30B,30C,30D プロファイル生成部、31,33,34 遮光板、32,36 ピンホール、35,37,L1,L2,L3,L4 集光レンズ、38 対物レンズ、100 処理装置、102 プロセッサ、104 主メモリ、106 入力部、108 表示部、110 ストレージ、111 オペレーティングシステム、112 測定プログラム、113 校正プログラム、114 校正情報、115 ホログラムデータ、116 測定結果、120 インターフェイス、122 ネットワークインターフェイス、124 メディアドライブ、126 記録媒体、A1 視野マスク、BE ビームエキスパンダ、BS1,BS2 ビームスプリッタ、D イメージセンサ、FA 視野制限マスク、FP1 集光点、M1,M2,M3,M4,M5,M6 ミラー、O 物体光、Q 照明光、R 参照光、S サンプル、SP1,SP2 開口。
【要約】
光学測定方法は、照明光でサンプルを照明して得られる物体光を照明光とコヒーレントな参照光で変調して生成されるホログラムを記録するための光学系を構成するステップと、サンプルが存在しない状態で、照明光の光学経路上に、既知の光波分布を発生する光学系を含む校正ユニットを配置するステップと、校正ユニットが光波分布を発生している状態で生じる第1のホログラムを記録するステップと、校正ユニットの配置位置を示す情報と、既知の光波分布と、第1のホログラムとに基づいて、参照光の光波分布の情報を算出するステップとを含む。