(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-12
(45)【発行日】2022-10-20
(54)【発明の名称】運動案内装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 29/06 20060101AFI20221013BHJP
B23Q 1/40 20060101ALI20221013BHJP
【FI】
F16C29/06
B23Q1/40
(21)【出願番号】P 2018018682
(22)【出願日】2018-02-05
【審査請求日】2020-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】特許業務法人 インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】古澤 竜二
(72)【発明者】
【氏名】宮島 綾子
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/093479(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/126508(WO,A1)
【文献】特開平5-60129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 29/00-31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿って転動体転走面が形成される軌道部材と、
前記転動体転走面と対向する位置に形成された負荷転動体転走面と、前記負荷転動体転走面と平行して形成された無負荷転動体転走路が形成された移動部材と、
前記転動体転走面と前記負荷転動体転走面とによって形成される負荷転走路内に転走自在に配置される複数の転動体を介して前記移動部材が前記軌道部材の長手方向に往復移動可能に組み付けられ、
前記移動部材は、前記負荷転動体転走面と前記無負荷転動体転走路が形成されると共に、前記軌道部材の上面と対向する中央部と前記軌道部材の左右両側面にそれぞれ対向する一対の脚部を有する移動部材本体と、
前記負荷転走路と前記無負荷転動体転走路の端同士を連通する方向転換路が形成されると共に前記移動部材本体の両端にそれぞれ装着される一対の側蓋と、を備え、
前記負荷転走路、前記無負荷転動体転走路及び一対の前記方向転換路によって形成される無限循環路を有する運動案内装置において、
前記中央部の前記軌道部材の上面との対向部分には、前記上面と
第1の所定の隙間を有する減衰材が取り付けられ、
前記減衰材は、前記移動部材本体の長手方向の両端部及び幅方向の両端部にそれぞれ
第2の所定の隙間を介して取り付けられ、
前記減衰材の少なくとも幅方向の両端に密封部材が配置されることを特徴とする運動案内装置。
【請求項2】
請求項1に記載の運動案内装置において、
前記減衰材の前記上面との対向面には、凹凸形状が形成されることを特徴とする運動案内装置。
【請求項3】
請求項2に記載の運動案内装置において、
前記凹凸形状は互いに交差する複数の溝からなる幾何学模様であることを特徴とする運動案内装置。
【請求項4】
軌道部材と、複数の転動体を介して前記軌道部材に対して相対移動可能に組み付けられる移動部材と、前記移動部材に一体に設けられる減衰材を備える運動案内装置の製造方法であって、
平滑な転写面を有する基準軌道部材に基準転動体を組付けた移動部材本体を組付ける第1の工程と、
前記移動部材本体と前記転写面の間に前記減衰材を注入し、固化させる第2の工程を有することを特徴とする運動案内装置の製造方法。
【請求項5】
請求項
4に記載の運動案内装置の製造方法において、
前記第2の工程は、前記移動部材本体の長手方向の両端に一組の端部治具を組み付ける工程を備えることを特徴とする運動案内装置の製造方法。
【請求項6】
請求項
4又は
5に記載の運動案内装置の製造方法において、
前記第2の工程は、前記移動部材本体に領域制限部材を組み付ける工程を備えることを特徴とする運動案内装置の製造方法。
【請求項7】
請求項
4から
6の何れか1項に記載の運動案内装置の製造方法において、
前記移動部材本体は、鍛造によって製造されることを特徴とする運動案内装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動案内装置及びその製造方法に関し、特に減衰機能を有する運動案内装置及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軌道部材に沿った移動部材の直線往復運動を転動体の回転を介して案内する運動案内装置は、現在あらゆる分野の機械装置で使用されている。このような運動案内装置は、移動部材の案内精度の更なる高精度化が望まれており、種々の構成が提案されている。
【0003】
このような案内精度の向上のための改良として、下記特許文献1に記載された運動案内装置は、緩衝部材が縦方向でみて移動部材の前方または後方に設けられていて、しかも軌道部材を取り囲むスライダとして形成されており、このスライダが軌道部材に関して移動部材の固定面と面一の固定面を有しており、スライダの内輪郭はその大部分にわたって軌道部材の輪郭に、0から40μmまでの緩衝ギャップが形成されるように適合しているという構成を備えている。この緩衝ギャップに油膜を形成し、該油膜の作用によって制振作用を発揮させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した特許文献1に記載された運動案内装置は、移動部材の前方または後方にスライダを取り付けるという構成を備えていることにより、制振を行うスライダと案内を行う移動部材と、各部材がそれぞれの作用を奏する構成となっており、移動部材を直接制振することができないという問題があった。また、移動部材にスライダを取り付ける構成であるため、運動案内装置の小型化を図ることが難しいという問題もあった。さらに、従来の緩衝部材を備えた運動案内装置においては、緩衝ギャップを0から40μmに設定する必要があり、軌道部材に転動体を介して移動部材を組付けている構成上、移動部材に取り付けられたスライダと軌道部材の間の緩衝ギャップを上述した範囲に設定するために、転動体の径を調整したり、軌道部材とスライダの対向面を加工するなど、この緩衝ギャップの寸法の調整を厳しく管理する必要があり、工数の削減を図ることが難しく、これに伴って製造コストの抑制を図ることが難しいという問題もあった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために成されたものであって、案内精度を向上させると共に、複雑な加工を必要とせずに所定の寸法管理を行うことができる運動案内装置及び運動案内装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明に係る運動案内装置は、長手方向に沿って転動体転走面が形成される軌道部材と、前記転動体転走面と対向する位置に形成された負荷転動体転走面と、前記負荷転動体転走面と平行して形成された無負荷転動体転走路が形成された移動部材と、前記転動体転走面と前記負荷転動体転走面とによって形成される負荷転走路内に転走自在に配置される複数の転動体を介して前記移動部材が前記軌道部材の長手方向に往復移動可能に組み付けられ、前記移動部材は、前記負荷転動体転走面と前記無負荷転動体転走路が形成されると共に、前記軌道部材の上面と対向する中央部と前記軌道部材の左右両側面にそれぞれ対向する一対の脚部を有する移動部材本体と、前記負荷転走路と前記無負荷転動体転走路の端同士を連通する方向転換路が形成されると共に前記移動部材本体の両端にそれぞれ装着される一対の側蓋と、を備え、前記負荷転走路、前記無負荷転動体転走路及び一対の前記方向転換路によって形成される無限循環路を有する運動案内装置において、前記中央部の前記軌道部材の上面との対向部分には、前記上面と第1の所定の隙間を有する減衰材が取り付けられ、前記減衰材は、前記移動部材本体の長手方向の両端部及び幅方向の両端部にそれぞれ第2の所定の隙間を介して取り付けられ、前記減衰材の少なくとも幅方向の両端に密封部材が配置されることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る運動案内装置の製造方法は、軌道部材と、複数の転動体を介して前記軌道部材に対して相対移動可能に組み付けられる移動部材と、前記移動部材に一体に設けられる減衰材を備える転がり案内装置の製造方法であって、平滑な転写面を有する基準軌道部材に基準転動体を組付けた移動部材本体を組付ける第1の工程と、前記移動部材本体と前記転写面の間に前記減衰材を注入し、固化させる第2の工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る運動案内装置によれば、移動部材本体の長手方向の両端部及び幅方向の両端部にそれぞれ所定の隙間を介して減衰材が取り付けられているので、直接移動部材を制振することができ、減衰材と軌道部材の間に形成された油膜を密封する密封手段を減衰材の周囲に形成された隙間に形成することができるので、油膜を形成する油が移動部材本体に形成された負荷転動体転走面に侵入して転動体の円滑な転走に悪影響を与えることなく高精度の案内を実現することが可能となる。
【0010】
また、本発明に係る運動案内装置の製造方法によれば、軌道部材と、複数の転動体を介して前記軌道部材に対して相対移動可能に組み付けられる移動部材と、前記移動部材に一体に設けられる減衰材を備える転がり案内装置の製造方法であって、平滑な転写面を有する基準軌道部材に基準転動体を組付けた移動部材本体を組付ける第1の工程と、前記移動部材本体と前記転写面の間に前記減衰材を注入し、固化させる第2の工程を有するので、手間のかかる加工を行うことなく、軌道部材と減衰材の間に形成される隙間を精度良く形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る運動案内装置の斜視図。
【
図3】本発明の実施形態に係る運動案内装置の移動部材本体の底面図。
【
図4】本発明の実施形態に係る運動案内装置の移動部材本体の変形例を示す底面図。
【
図5】本発明の実施形態に係る運動案内装置の製造方法における基準転動体及び仮循環部材を取り付けた移動部材本体を基準軌道部材に組み付けた状態を示す断面図。
【
図6】本発明の実施形態に係る運動案内装置の製造方法における基準転動体及び仮循環部材を取り付けた移動部材本体を基準軌道部材に組み付けた状態を示す斜視図。
【
図7】本発明の実施形態に係る運動案内装置の製造方法における領域制限部材を取り付ける工程を説明するための斜視図。
【
図8】本発明の実施形態に係る運動案内装置の製造方法における端部治具を取り付ける工程を説明するための斜視図。
【
図10】本発明の実施形態に係る運動案内装置の製造方法における減衰材を注入する工程を説明するための斜視図。
【
図11】本実施形態に係る運動案内装置の転動体の変形例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る運動案内装置及びその製造方法の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る運動案内装置の斜視図であり、
図2は、
図1におけるA-A断面図であり、
図3は、本発明の実施形態に係る運動案内装置の移動部材本体の底面図であり、
図4は、本発明の実施形態に係る運動案内装置の移動部材本体の変形例を示す底面図であり、
図5は、本発明の実施形態に係る運動案内装置の製造方法における基準転動体及び仮循環部材を取り付けた移動部材本体を基準軌道部材に組み付けた状態を示す断面図であり、
図6は、本発明の実施形態に係る運動案内装置の製造方法における基準転動体及び仮循環部材を取り付けた移動部材本体を基準軌道部材に組み付けた状態を示す斜視図であり、
図7は、本発明の実施形態に係る運動案内装置の製造方法における領域制限部材を取り付ける工程を説明するための斜視図であり、
図8は、本発明の実施形態に係る運動案内装置の製造方法における端部治具を取り付ける工程を説明するための斜視図であり、
図9は、
図8におけるB-B断面図であり、
図10は、本発明の実施形態に係る運動案内装置の製造方法における減衰材を注入する工程を説明するための斜視図であり、
図11は、本実施形態に係る運動案内装置の転動体の変形例を示す断面図である。
【0014】
図1及び2に示すように、本実施形態に係る運動案内装置1は、長手方向に転動体転走面11を有する軌道部材10と、複数の円柱状の転動体30を介して前記軌道部材10に組み付けられると共に前記転動体転走面11に沿って直線状に往復移動する移動部材20とを備えている。
【0015】
軌道部材10には、複数のボルト孔が上面12から底面に向かって形成されている。本実施形態に係る運動案内装置1は、軌道部材10に形成されたこれら複数のボルト孔にボルトを挿通し基台等の相手部品に締結されている。この軌道部材10は、断面略矩形状に形成された長尺部材であり、その表面に長手方向に延びる転動体転走面11が形成された部材であり、転動体転走面11は、後述する移動部材20との間に配置された複数の転動体30からの負荷を受けることができるようになっている。なお、転動体30は、軌道部材10の両側面に上下一対となるように、転動体転走面11が合計4条形成されている。
【0016】
移動部材20は、軌道部材10の上面12及び左右両側面13,13に跨るように、断面略コ字状をしており、移動部材本体21と、この移動部材本体21の往復移動方向である両端面に取り付けられた一対の側蓋22とを備えている。なお、移動部材本体21は、鋼などの強度の高い材料で構成されており、好ましくは鍛造によって構成されると好適である。また、側蓋22は、合成樹脂などによって構成されると好適である。なお、側蓋22の移動部材本体21との組付け面には、図示しない方向転換路が形成されており、転動体転走面11と負荷転動体転走面23とからなる負荷転走路と無負荷転動体転走路24の端部同士を連通させて転動体転走路、無負荷転動体転走路及び方向転換路からなる無限循環路を構成している。
【0017】
移動部材本体21及び側蓋22は、軌道部材10の上面12に対向する中央部21aと、軌道部材10の左右両側面13,13に対向する一対の脚部21b,21bとを有している。
図2に示すように、移動部材本体21には、軌道部材10の転動体転走面11と対向するように軌道部材10の長手方向に延びる例えば合計4条の負荷転動体転走面23が形成されている。
【0018】
また、移動部材本体21には、負荷転動体転走面23と平行に延びる無負荷転動体転走路24が合計4条形成されている。無負荷転動体転走路24には、循環する転動体30を案内することができる案内部材25が組み付けられている。この場合、移動部材本体21に無負荷転動体転走路24を加工し、無負荷転動体転走路24に合成樹脂等で形成した案内部材25を組付けることで、簡単な加工で容易に無負荷転動体転走路24内に転動体を案内することが可能となる。
【0019】
また、移動部材本体21の中央部21aにおける軌道部材10の上面12との対向面には、減衰材40が上面12と所定の隙間を介して取り付けられている。減衰材40と上面12との隙間は、20~40μmに設定すると好適である。
図3に示すように、減衰材40は、移動部材本体21の中央部21aの長手方向の両端部及び幅方向の両端部にそれぞれ所定の隙間を介して取り付けられており、該隙間には、減衰材40の外周縁に沿うように密封部材42が取り付けられている。密封部材42は、
図2に示すように、減衰材40の両側面から軌道部材10の上面に向かって延びると共に、移動部材本体21の長手方向に沿って延設されており、移動部材20の移動方向に沿って連続して形成されている。密封部材42の先端は先細り状に形成されて軌道部材10の上面に接触しており、軌道部材10に接した際の面圧の上昇が抑えられている。このように密封部材42を備えることで減衰材40と上面12の間に介在させた油膜を保持している。減衰材40は、低摩擦摺動面材料として用いられる合成樹脂材を用いると好適である。
【0020】
なお、減衰材40の上面12との対向面は、
図3に示すように平滑に形成しても構わないが、
図4に示すように、互いに交差する複数の溝41からなる幾何学的な模様を付した凹凸形状としても構わない。この場合、複数の溝41内に上述した油膜を保持することができるので、より多くの油を保持して油膜を形成することが可能となる。この場合、減衰材40´に凹凸形状を形成する方法としては、減衰材40´にきさげ加工を施しても構わないし、後述する基準軌道部材51の上面に形成する凹凸形状を転写することによって形成しても構わない。
【0021】
また、複数の転動体30は、隣り合う転動体30間に配置された図示しない間座部と、その長手方向に沿って配列された間座部を繋ぐ図示しない帯状の連結部とからなる連結帯により保持されていると好適である。このように、転動体30間に配置された間座部により転動体30同士の衝突を防止することができる。また、転動体30は、連結帯によって一連に連結保持することができるので、転動体30を整列させたまま、回転軸に傾きを生じさせることなく円滑に転走させることができる。
【0022】
このように構成された本実施形態に係る運動案内装置1は、移動部材20が軌道部材10と所定の隙間を有する減衰材40を備えているので、運動案内装置1を大型にすることなく運動案内装置1本来の構成部材である移動部材20に制振機能を持たせることができ、減衰材40と上面12との間に適切な油膜を形成することができるので、制振精度を向上させることが可能となる。
【0023】
次に、
図5から
図10を参照して本実施形態に係る運動案内装置1の製造方法について説明を行う。
図5に示すように、まず、移動部材本体21を準備する。移動部材本体21は、上述したように、平板状の中央部21aと中央部21aの幅方向の両端から垂下して延設される一対の脚部21b,21bを備えている。また、一対の脚部21bには、長手方向に沿って負荷転動体転走面23が形成されている。なお、移動部材本体21は、鍛造によって形成されると、後述する減衰材の注入の際に減衰材の食いつきが良くなるため、好適である。
【0024】
次に、移動部材本体21の負荷転動体転走面23に基準転動体52を取り付ける。基準転動体52は、運動案内装置1に組み込まれる転動体30と同様の転動体を用いても構わないが、移動部材本体21を軌道部材10に組み付けた際の移動部材本体21と軌道部材10の相対的な位置を規定できればよいので、無限循環路を構成する必要はなく、負荷転動体転走面23のみに基準転動体52を配置しても構わない。
【0025】
その後、
図6に示すように、基準転動体52が脱落しないように、脚部21bの長手方向に沿った端部に仮循環部材53をそれぞれ取り付ける。仮循環部材53は、上述した側蓋22の脚部21bに対応する部分のみで構成した分割体として構成すると好適である。このように構成することで、左右の仮循環部材53の間、側蓋22の中央部21aに対応する部分は後述する端部治具55a,55bを組付けることが可能となる。
【0026】
次に、基準転動体52及び仮循環部材53を組付けた移動部材本体21を基準軌道部材51に組み付ける(第1の工程)。基準軌道部材51は、軌道部材10と同様に長手方向に沿って転動体転走面が形成された部材であるが、軌道部材10とは異なり、上面51aに取付孔が形成されておらず、平滑に形成されている。また、上面51aには、
図4に示した凹凸形状に対応した凹凸形状を形成した転写面を形成することで、減衰材を注入した際に、該凹凸形状を減衰材40の表面に転写することが可能となっている。また、基準軌道部材51の上面51aは、減衰材を注入した後に減衰材40の軌道部材10との対向面と同位置になるため、減衰材40と軌道部材10の上面12に所定の隙間を形成するために、基準軌道部材51の上面51aは、軌道部材10の上面12よりも高く形成すると好適である。なお、この隙間の調整方法は、基準軌道部材51の上面51a位置による調整方法の他、例えば、基準転動体52を転動体30よりも小径にして減衰材40と軌道部材10の上面12との隙間を調整しても構わない。
【0027】
その後、基準軌道部材51と移動部材本体21の間に領域制限部材54を挿入して取り付ける。領域制限部材54は、中央部21aと一対の脚部21bの連続部分に取り付けられる。この領域制限部材54によって、減衰材を注入した際に、減衰材が基準軌道部材51の側面側まで漏れ出すことを防止すると共に、減衰材40の幅方向の両端部に所定の隙間を形成することが可能となる。
【0028】
次に、移動部材本体21の長手方向の両端に一組の端部治具55a,55bを取り付ける。
図9に示すように、端部治具は、移動部材本体21の一方端に取り付けられると共に、注入口56を備えた第1の端部治具55aと、移動部材本体21の他方端に取り付けられる第2の端部治具55bとから構成されている。第1の端部治具55aは、上述したように、減衰材原料を注入する注入器43を組付ける挿入孔を有する注入口56と、移動部材本体21と基準軌道部材51の上面51aに形成された転写面の間に挿入されると共に注入口56と連通する注出口58が形成された挿入片57を備えている。第2の端部治具55bは、減衰材が漏れ出さないように移動部材本体21の端部を閉塞できる部材であり、第1の端部治具55aと同様に、移動部材本体21と基準軌道部材51の上面51aの間に挿入される挿入片57が形成されている。このように、端部治具55a,55bが挿入片57を有しているので、減衰材が固化した際に、減衰材40の長手方向の両端に所定の隙間を形成することが可能となる。
【0029】
次に、
図10に示すように、第1の端部治具55aの注入口56に減衰材原料が封入された注入器43を取り付けて注出口58から減衰材原料を基準軌道部材51の上面に形成された転写面と移動部材本体21の間に注入する。注入器43は、ピストンとシリンダとから成る従来周知の注入器を適宜採用することが可能であり、減衰材原料は、所定の時間で固化する粘性のある原料であると好適である。また、第2の端部治具55bには、確認孔59が形成されており、注出口58から注出された減衰材原料が確認孔59から排出されるまで注入することで基準軌道部材51の上面51aと移動部材本体21の間に隙間なく減衰材原料を注入することができる。
【0030】
その後、基準転動体52,仮循環部材53、領域制限部材54及び端部治具55a,55bを取り付けた移動部材本体21を基準軌道部材51に組み付けたままの状態で、減衰材原料が固化するまでの間保持する(第2の工程)。なお、第2の工程の前に、第1の端部治具55aを注入器43と共に移動部材本体21から取り外し、基準軌道部材51に付着した減衰材原料を拭き取ったうえで、第2の端部治具55bと同様の部材を第1の端部治具55aと組み替えて減衰材原料の固化まで保持しても構わない。
【0031】
減衰材原料が固化したところで、移動部材本体21を基準軌道部材51から取り外し、後、基準転動体52,仮循環部材53、領域制限部材54及び端部治具55a,55bを取り外すことで、移動部材本体21の中央部21aにおける軌道部材10の上面12との対向面に軌道部材10の上面12から所定の隙間を有すると共に、外周縁に所定の隙間を有する減衰材40を有する移動部材本体21を製造することができる。その後、当該移動部材本体21に転動体30や側蓋22などを取り付けて移動部材20を構成し、この移動部材20を軌道部材10に組み付けて運動案内装置1を製造することができる。
【0032】
このように、運動案内装置1を製造することで、減衰材40と軌道部材10の上面12との間の隙間寸法を調整するために、減衰材40の研削や運動案内装置1に組み込まれる転動体30の直径の調整といった、煩雑な調整工程を削減することができ、複雑な加工を必要とせずに所定の寸法管理を行うことができる。また、減衰材40の注入以外の工程は、既存の運動案内装置の製造方法と同一であるので、既存の製造工程に大幅な変更を加えることなく容易に本実施形態に係る運動案内装置1を製造することが可能となる。
【0033】
また、上述した実施形態においては、転動体30に円柱状のローラを用いた場合について説明を行ったが、転動体はローラに限らず、
図11に示すように、球状のボール300を用いても構わない。
【0034】
また、減衰材40の取付位置は、移動部材本体21の中央部21aにおける軌道部材10の上面12との対向面に形成した場合について説明を行ったが、減衰材の取り付ける位置は、軌道部材10と対向する位置であれば、どのように形成してもよく、例えば、
図2における脚部21bの上下の転動体30の間や、下側の転動体30の下方に減衰材を取り付けても構わない。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0035】
1 運動案内装置、 10 軌道部材、 11 転動体転走面、 20 移動部材、 21 移動部材本体、 21a 中央部、 21b 脚部、 23 負荷転動体転走面、 24 無負荷転動体転走路、 30 転動体、 40 減衰材、 41 溝、 51 基準軌道部材、 52 基準転動体、 53 仮循環部材、 54 領域制限部材、 55a 第1の端部治具、 55b 第2の端部治具。