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特許7157517回転電機の余寿命診断方法および回転電機の余寿命診断装置
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  • 特許-回転電機の余寿命診断方法および回転電機の余寿命診断装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-12
(45)【発行日】2022-10-20
(54)【発明の名称】回転電機の余寿命診断方法および回転電機の余寿命診断装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/34 20200101AFI20221013BHJP
【FI】
G01R31/34 F
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020558351
(86)(22)【出願日】2019-11-15
(86)【国際出願番号】 JP2019044882
(87)【国際公開番号】W WO2020105557
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2018217170
(32)【優先日】2018-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599041606
【氏名又は名称】三菱電機プラントエンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100188514
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】大谷 忠男
(72)【発明者】
【氏名】林 和男
(72)【発明者】
【氏名】藤田 祐成
(72)【発明者】
【氏名】長谷 渉
(72)【発明者】
【氏名】三木 伸介
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-061901(JP,A)
【文献】特公昭58-29873(JP,B1)
【文献】特開平03-060351(JP,A)
【文献】特開2015-128182(JP,A)
【文献】特開2002-297709(JP,A)
【文献】特開2006-170721(JP,A)
【文献】特開2000-214212(JP,A)
【文献】特開2013-024669(JP,A)
【文献】特開平05-264645(JP,A)
【文献】芳賀弘二,タービン発電機の絶縁診断技術,火力原子力発電,第51巻第8号,社団法人火力原子力発電技術協会,2000年08月15日,p.24-30
【文献】上野忠則,タービン発電機の余寿命診断と改修,火力原子力発電,第52巻第1号,社団法人火力原子力発電技術協会,2001年01月15日,p.17-25
【文献】寺瀬斉,発電機コイルの第2電流急増点と交流破壊電圧の関係,電気学会雑誌,第81巻第872号,電気学会,1961年05月,p.84-91
【文献】宮尾博,高圧回転機絶縁診断へのエキスパートシステムの応用,電気学会論文誌B,日本,社団法人電気学会,1990年04月20日,第110巻第4号,p.267-276
【文献】滝川嘉夫,電力設備の予防保全技術,日立評論,日立評論社,1990年08月25日,第72巻第8号,p.35-42
【文献】発電設備の予防保全と余寿命診断,火力原子力発電,第51巻第12号,社団法人火力原子力発電技術協会,2000年12月15日,p.77-105
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体を含む回転電機の余寿命を診断する回転電機の余寿命診断方法であって、
診断対象である前記回転電機に関する運転実績データとして前記回転電機の運転時間、起動停止回数を取得するとともに、前記回転電機に関する電気的データとして、誘電正接、電流急増電圧値、電流増加率、および最大放電電荷量を取得する取得ステップと、
前記最大放電電荷量と残存耐電圧値との対応関係を第1のテーブルとし、前記電流急増電圧値と残存耐電圧値との対応関係を第2のテーブルとし、記憶部にあらかじめ記憶させておく記憶ステップと、
前記取得ステップで取得された前記運転実績データに基づいて前記回転電機の残存耐電圧値の推定値を第1の指標値として算出する第1推定ステップと、
前記第1のテーブルを用いて、前記取得ステップで取得された前記最大放電電荷量から前記回転電機の残存耐電圧値の推定値を第2の指標値として算出する第2推定ステップと、
前記第2のテーブルを用いて、前記取得ステップで取得された前記電流急増電圧値から前記回転電機の残存耐電圧値の推定値を第3の指標値として算出する第3推定ステップと、
前記取得ステップで取得された前記電気的データのそれぞれをMT法を用いて解析することで、前記回転電機の残存耐電圧値の推定値を第4の指標値として算出する第4推定ステップと、
前記第1の指標値から前記第4の指標値の4つの指標値と、対サージ電圧保護限界を示す値および安全運転限界を示す値のそれぞれとの比較結果に基づいて、前記回転電機の余寿命を推定することで、前記回転電機の余寿命を診断する余寿命診断ステップと、
を有し、
前記余寿命診断ステップは、
前記4つの指標値のそれぞれを、前記残存耐電圧値の大きさに応じて複数のカテゴリに分類する分類ステップと、
前記複数のカテゴリのそれぞれに割り付けられた点数を用いて、前記4つの指標値のそれぞれに点数を割り付け、割り付けた点数の合計点を算出する合計点算出ステップと、
前記合計点算出ステップで算出された前記合計点の大きさに応じて割り付けられたレベルを特定し、特定した前記レベルから前記回転電機の余寿命を推定する推定ステップと、
を有し、
前記分類ステップは、前記対サージ電圧保護限界を示す値、および前記安全運転限界を示す値のそれぞれと、前記残存耐電圧値の大きさとの比較結果により、前記複数のカテゴリに分類する
余寿命診断方法。
【請求項2】
絶縁体を含む回転電機の余寿命を診断する回転電機の余寿命診断装置であって、
診断対象である前記回転電機に関する運転実績データとして前記回転電機の運転時間、起動停止回数を取得するとともに、前記回転電機に関する電気的データとして、誘電正接、電流急増電圧値、電流増加率、および最大放電電荷量を取得するデータ取得部と、
前記最大放電電荷量と残存耐電圧値との対応関係を第1のテーブルとしてあらかじめ記憶するとともに、前記電流急増電圧値と残存耐電圧値との対応関係を第2のテーブルとしてあらかじめ記憶する記憶部と、
前記データ取得部で取得された前記運転実績データに基づいて前記回転電機の残存耐電圧値の推定値を第1の指標値として算出し、
前記第1のテーブルを用いて、前記データ取得部で取得された前記最大放電電荷量から前記回転電機の残存耐電圧値の推定値を第2の指標値として算出し、
前記第2のテーブルを用いて、前記データ取得部で取得された前記電流急増電圧値から前記回転電機の残存耐電圧値の推定値を第3の指標値として算出し、
前記データ取得部で取得された前記電気的データのそれぞれをMT法を用いて解析することで、前記回転電機の残存耐電圧値の推定値を第4の指標値として算出する
指標値算出部と、
前記第1の指標値から前記第4の指標値の4つの指標値と、対サージ電圧保護限界を示す値および安全運転限界を示す値のそれぞれとの比較結果に基づいて、前記回転電機の余寿命を推定することで、前記回転電機の余寿命を診断する絶縁劣化推定部と、
を備え
前記絶縁劣化推定部は、
前記4つの指標値のそれぞれを、前記残存耐電圧値の大きさに応じて、前記対サージ電圧保護限界を示す値、および前記安全運転限界を示す値のそれぞれと、前記残存耐電圧値の大きさとの比較結果により、複数のカテゴリに分類し、
前記複数のカテゴリのそれぞれに割り付けられた点数を用いて、前記4つの指標値のそれぞれに点数を割り付け、割り付けた点数の合計点を算出し、
前記合計点の大きさに応じて割り付けられたレベルを特定し、特定した前記レベルから前記回転電機の余寿命を推定する
回転電機の余寿命診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁体を含むモータ(電動機)や発電機といった回転電機の残存耐電圧値を推定することで余寿命を診断する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機に使用される絶縁物は、周囲環境、電気的ストレス、機械的ストレス等により経年劣化する。回転電機の事故を未然に防ぎ、効率的な保全、および回転電機の適切な更新計画を立案するためには、回転電機の巻線絶縁物の残存耐電圧値を推定する技術が必須である。
【0003】
例えば、現在の空冷タービン発電機の保全対象機は、1970年代後半までに納入された絶縁種別としてのB種絶縁機が主流となっている。このB種絶縁機の劣化診断評価技術は、すでに確立されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-61901号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】「発電機絶縁の経年劣化」:電気学会、絶縁材料研究会資料(資料番号 EIM-87-103)、1987年11月17日
【文献】「高電圧発電機絶縁の経年変化」:三菱電機技報、Vol54,No.3、1980、p26~30
【文献】「発電機コイルの第2電流急増点と交流破壊電圧の関係」:電気学会雑誌、81巻、872号、1961年5月、p808~816
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、今後、絶縁更新の主ターゲットは、1970年代後半以降納入されたF種絶縁機となっていく。このため、F種絶縁機の絶縁劣化診断に関する評価技術の確立が急務な状況にある。
【0007】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、F種絶縁機の絶縁劣化診断にも対応できる回転電機の余寿命診断装置および回転電機の余寿命診断方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る回転電機の余寿命診断方法は、絶縁体を含む回転電機の余寿命を診断する回転電機の余寿命診断方法であって、診断対象である回転電機に関する運転実績データとして回転電機の運転時間、起動停止回数を取得するとともに、回転電機に関する電気的データとして、誘電正接、電流急増電圧値、電流増加率、および最大放電電荷量を取得する取得ステップと、最大放電電荷量と残存耐電圧値との対応関係を第1のテーブルとし、電流急増電圧値と残存耐電圧値との対応関係を第2のテーブルとし、記憶部にあらかじめ記憶させておく記憶ステップと、取得ステップで取得された運転実績データに基づいて回転電機の残存耐電圧値の推定値を第1の指標値として算出する第1推定ステップと、第1のテーブルを用いて、取得ステップで取得された最大放電電荷量から回転電機の残存耐電圧値の推定値を第2の指標値として算出する第2推定ステップと、第2のテーブルを用いて、取得ステップで取得された電流急増電圧値から回転電機の残存耐電圧値の推定値を第3の指標値として算出する第3推定ステップと、取得ステップで取得された電気的データのそれぞれをMT法を用いて解析することで、回転電機の残存耐電圧値の推定値を第4の指標値として算出する第4推定ステップと、第1の指標値から第4の指標値の4つの指標値と、対サージ電圧保護限界を示す値および安全運転限界を示す値のそれぞれとの比較結果に基づいて、回転電機の余寿命を推定することで、回転電機の余寿命を診断する余寿命診断ステップと、を有し、余寿命診断ステップは、4つの指標値のそれぞれを、残存耐電圧値の大きさに応じて複数のカテゴリに分類する分類ステップと、複数のカテゴリのそれぞれに割り付けられた点数を用いて、4つの指標値のそれぞれに点数を割り付け、割り付けた点数の合計点を算出する合計点算出ステップと、合計点算出ステップで算出された合計点の大きさに応じて割り付けられたレベルを特定し、特定したレベルから回転電機の余寿命を推定する推定ステップと、を有し、分類ステップは、対サージ電圧保護限界を示す値、および安全運転限界を示す値のそれぞれと、残存耐電圧値の大きさとの比較結果により、複数のカテゴリに分類するものである。
【0009】
また、本発明に係る回転電機の余寿命診断装置は、絶縁体を含む回転電機の余寿命を診断する回転電機の余寿命診断装置であって、診断対象である回転電機に関する運転実績データとして回転電機の運転時間、起動停止回数を取得するとともに、回転電機に関する電気的データとして、誘電正接、電流急増電圧値、電流増加率、および最大放電電荷量を取得するデータ取得部と、最大放電電荷量と残存耐電圧値との対応関係を第1のテーブルとしてあらかじめ記憶するとともに、電流急増電圧値と残存耐電圧値との対応関係を第2のテーブルとしてあらかじめ記憶する記憶部と、データ取得部で取得された運転実績データに基づいて回転電機の残存耐電圧値の推定値を第1の指標値として算出し、第1のテーブルを用いて、データ取得部で取得された最大放電電荷量から回転電機の残存耐電圧値の推定値を第2の指標値として算出し、第2のテーブルを用いて、データ取得部で取得された電流急増電圧値から回転電機の残存耐電圧値の推定値を第3の指標値として算出し、データ取得部で取得された電気的データのそれぞれをMT法を用いて解析することで、回転電機の残存耐電圧値の推定値を第4の指標値として算出する指標値算出部と、第1の指標値から第4の指標値の4つの指標値と、対サージ電圧保護限界を示す値および安全運転限界を示す値のそれぞれとの比較結果に基づいて、回転電機の余寿命を推定することで、回転電機の余寿命を診断する絶縁劣化推定部と、を備え、絶縁劣化推定部は、4つの指標値のそれぞれを、残存耐電圧値の大きさに応じて、対サージ電圧保護限界を示す値、および安全運転限界を示す値のそれぞれと、残存耐電圧値の大きさとの比較結果により、複数のカテゴリに分類し、複数のカテゴリのそれぞれに割り付けられた点数を用いて、4つの指標値のそれぞれに点数を割り付け、割り付けた点数の合計点を算出し、合計点の大きさに応じて割り付けられたレベルを特定し、特定したレベルから回転電機の余寿命を推定するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、MT法による推定結果を考慮して絶縁劣化診断を行う構成を備えている。この結果、F種絶縁機の絶縁劣化診断にも対応できる回転電機の余寿命診断装置および回転電機の余寿命診断方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態1における発電機の余寿命診断装置の構成図である。
図2】本発明の実施の形態1における発電機の余寿命診断装置による推定処理内容を説明するための図である。
図3】本発明の実施の形態1における余寿命診断装置により実行される余寿命診断方法の一連処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の回転電機の余寿命診断方法および回転電機の余寿命診断装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。なお、以下の説明では回転電機の一つである発電機を例として説明する。また、以下の説明で用いる余寿命とは、診断対象である発電機における固定子巻線の残存破壊電圧値(BDV:Break Down Voltage)を意味しており、後述する残存耐電圧値Vr(%)と対応して推定される値である。
【0013】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における発電機の余寿命診断装置の構成図である。本実施の形態1に係る余寿命診断装置10は、絶縁体を含む発電機に関して取得した種々のデータに基づいて、巻線絶縁物の残存耐電圧値を複数の指標値として推定し、複数の指標値の推定結果から余寿命に関する診断結果を出力する。
【0014】
具体的には、本実施の形態1に係る余寿命診断装置10は、データ取得部11、指標値算出部12、絶縁劣化推定部13、および記憶部14を備えて構成される。
【0015】
データ取得部11は、診断対象である発電機の運転実績データとして、発電機の運転時間および発電機の起動停止回数を取得する。これらの運転実績データは、例えば、定期点検時に客先から取得することができる。
【0016】
さらに、データ取得部11は、診断対象である発電機の電気的データとして、以下の4つを取得する。
Δtanδ:誘電正接
Pi:電流急増電圧値
ΔI:電流増加率
Qmax:最大放電電荷量
これらの電気的データは、例えば、診断対象である発電機の絶縁試験を実施することで取得することができる。
【0017】
指標値算出部12は、データ取得部11で取得された運転実績データおよび電気的データに基づいて、以下の4つの指標値を算出することで、診断対象である発電機の巻線絶縁物に関する残存耐電圧値の推定値を、4つの指標値として算出する。
第1の指標値:発電機の運転時間および発電機の起動停止回数に基づいて算出される残存耐電圧値の推定値。
第2の指標値:Qmaxと残存耐電圧値との対応関係から算出される残存耐電圧値の推定値。
第3の指標値:Piと残存耐電圧値との対応関係から算出される残存耐電圧値の推定値。
第4の指標値:Δtanδ、Pi、ΔI、Qmaxの4項目について、MT法を用いた解析を行うことで算出される残存耐電圧値の推定値。
【0018】
ここで、第1の指標値、第2の指標値、および第3の指標値は、残存耐電圧値を算出するために、従来から用いられている方法である。第1の指標値の算出方法に関しては、非特許文献1の図3に例示されており、第2の指標値の算出方法に関しては、非特許文献2の図5に例示されている。また、第3の指標値の算出方法に関しては、非特許文献3の図3に例示されている。
【0019】
一方、第4の指標値は、残存耐電圧値を推定するために新たに採用した手法である。第4の指標値を算出する際に用いられているMT法とは、マハラノビス・タグチ法のことである。2003年ごろから、三菱電機製スイッチギヤの絶縁余寿命診断にMT法が採用されている(例えば、特許文献1参照)。そこで、このMT法を、発電機の巻線絶縁物の残存耐電圧値を推定するために適用する具体的な手法を確立したので、以下に詳細を説明する。
【0020】
MT法は、複数のパラメータにより構成される多次元空間の中に、基準となる点の座標を決め、その座標と各データの座標との距離を計算することで、劣化診断あるいはパターン認識を実施するものである。
【0021】
発電機として、正常品7台と、フィールドで実際に稼働した使用品4台の合計11台をサンプルとして、MT法を適用して、発電機の巻線絶縁物に関する残存耐電圧値を推定するための適切なパラメータの選定を行った。この結果、Δtanδ1、Pi1、ΔI、Qmax1の4項目の電気的データをパラメータとして用いることが適切であるとの結論に至った。
【0022】
さらに、絶縁劣化推定部13は、指標値算出部12により算出された4つの指標値に基づいて、余寿命に関する診断処理を行い、診断結果を出力する。そこで、絶縁劣化推定部13により実行される診断処理について、図2図3、および表1~表5を用いて、以下に詳細に説明する。
【0023】
図2は、本発明の実施の形態1における発電機の余寿命診断装置による診断処理内容を説明するための図である。具体的には、図2は、発電機の固定子コイルに関する絶縁劣化特性を示しており、4つの指標値の算出結果が図2中に示されている。縦軸は、診断対象である発電機の残存耐電圧値Vrであり、発電機の初期平均耐電圧値を100(%)としてパーセント表示を行っている。また、横軸は、発電機の累積運転時間ΣT(Hr)である。
【0024】
図2中には、対サージ電圧保護限界を意味する直線L1と、安全運転限界を意味する直線L2が示されている。ここで、対サージ電圧保護限界とは、雷などによって生じる異常電圧から系統を保護するために、サージ保護装置が動作する電圧である。発電機回路の絶縁協調は、発電機コイル絶縁が(2E+3)kVの絶縁耐力を有することを基本に設計されており、これは、初期平均耐電圧値の約40%に相当する。ここで、記号Eは、定格電圧を意味している。
【0025】
また、安全運転限界とは、系統事故から発電機を守るために必要な最低の残存耐電圧値に相当する。この値は、発電機コイル絶縁が(1.5E)kVの絶縁耐力を有する場合に相当し、初期平均耐電圧値の約26.4%(11kVの場合)に相当する。
【0026】
直線L1および直線L2に対応する残存耐電圧値との大小関係の比較結果により、残存耐電圧値Vr(%)の推定値は、表1に示すように、A、B、Cの3つのカテゴリに分けることができる。
【0027】
【表1】
【0028】
算出された残存耐電圧値Vr(%)がカテゴリAに含まれる場合には、残存耐電圧値Vr(%)が対サージ電圧保護限界以上であることを意味する。また、算出された残存耐電圧値Vr(%)がカテゴリBに含まれる場合には、残存耐電圧値Vr(%)が対サージ電圧保護限界未満であるが、安全運転限界以上であることを意味する。さらに、算出された残存耐電圧値Vr(%)がカテゴリCに含まれる場合には、残存耐電圧値Vr(%)が安全運転限界未満となっていることを意味する。
【0029】
従って、カテゴリA~Cに対して、表2のような点数分けを行うことが考えられる。
【0030】
【表2】
【0031】
残存耐電圧値Vr(%)の算出結果に応じて分類されたカテゴリに応じて、この表2のような点数を割り付けることで、点数が高いほど、絶縁更新の緊急度が低く、逆に、点数が低いほど、絶縁更新の緊急度が高いことを定量的に評価することが可能となる。
【0032】
図2において、余寿命を判断した時点の累積運転時間ΣTは、
T1=21.0×104(Hr)
である。累積運転時間T1においては、指標値算出部12により算出された4つの指標値がプロットされている。具体的な数値は、後述する表5に示している。
【0033】
また、T1よりも短い累積運転時間T2においては、指標値算出部12により算出された3つの指標値がプロットされている。また、T2よりも短い累積運転時間T3においては、指標値算出部12により算出された1つの指標値がプロットされている。指標値算出部12により算出された指標値は、記憶部14に記憶させておくことができる。
【0034】
それぞれの累積運転時間T1、T2、T3において、発電機の運転時間および発電機の起動停止回数に基づいて算出された第1の指標値から、99.9%信頼下限値としての運転実績劣化特性が得られる。図2においては、運転実績劣化特性が右下がりの直線として示されている。
【0035】
運転実績劣化特性を示す直線と、対サージ電圧保護限界を示す直線L1との交点における累積運転時間T4は、
T4=19.7×104(Hr)
である。
【0036】
累積運転時間T1において、指標値算出部12により4つの指標値が、以下の(1)~(4)のような値として具体的に算出された場合を考える。
第1の指標値=37.5% (1)
第2の指標値=35.8% (2)
第3の指標値=23.6% (3)
第4の指標値=30.0% (4)
【0037】
この場合、絶縁劣化推定部13は、表1に示したカテゴリの分類と、表2に示した各点数分けを参照することで、4つの指標値に対応するカテゴリと点数を特定することができる。さらに、絶縁劣化推定部13は、4つの指標値に対応する点数の合計点Pを算出することができる。
【0038】
そして、絶縁劣化推定部13は、合計点Pの大きさに応じて、診断対象である発電機の絶縁更新の必要性をレベル分けすることができる。一例として、絶縁劣化推定部13は、合計点Pをレベル分けする3つの閾値としてあらかじめ設定された、X点、Y点、Z点を用いることで、表3に従って、4つのレベル分けを行うことができる。
【0039】
【表3】
【0040】
例えば、
X=31(点)
Y=26(点)
Z=12(点)
と設定した場合には、絶縁劣化推定部13は、合計点Pの大きさに応じて、表4に従って、絶縁更新の必要性をレベル分けすることができる。
【0041】
【表4】
【0042】
絶縁劣化推定部13は、(1)~(4)に示した4つの指標値が得られた場合には、表1に従ったカテゴリ分け、表2に従った点数割り付け、および表4に従ったレベル分けを実行する。
【0043】
例えば、(1)に示した第1の指標値、(2)に示した第2の指標値、および(4)で示した第4の指標値のそれぞれは、表1に従ってカテゴリBに分類され、表2に従って7点が割り付けられる。また、(3)に示した第3の指標値は、表1に従ってカテゴリCに分類され、表2に従って1点が割り付けられる。従って、4つの指標値の合計点Pは、22点となり、表4に従ってレベル3としてレベル分けされる。
【0044】
このような処理内容を整理すると、表5に示すようになり、絶縁劣化推定部13は、累積運転時間T1におけるレベルをレベル3として特定することができる。
【0045】
【表5】
【0046】
なお、表1~表4の内容は、テーブルデータとしてあらかじめ記憶部14に記憶させておくこととなる。
【0047】
次に、先の図1に示した余寿命診断装置10により実行される余寿命診断方法の流れについて、フローチャートを用いて具体的に説明する。図3は、本発明の実施の形態1における余寿命診断装置10により実行される余寿命診断方法の一連処理を示すフローチャートである。
【0048】
ステップS301において、データ取得部11は、診断対象である発電機の運転実績データとして、発電機の運転時間および発電機の起動停止回数を取得する。さらに、データ取得部11は、診断対象である発電機の電気的データとして、以下の4つを取得する。
Δtanδ:誘電正接
Pi:電流急増電圧値
ΔI:電流増加率
Qmax:最大放電電荷量
【0049】
次に、ステップS302において、指標値算出部12は、ステップS301で取得したデータに基づいて、上述した第1の指標値、第2の指標値、および第3の指標値を算出する。
【0050】
さらに、ステップS303において、指標値算出部12は、上述した第4の指標値を算出する。
【0051】
次に、ステップS304において、絶縁劣化推定部13は、ステップS302、S303で算出された4つの指標値、および記憶部14に記憶された表1に相当するテーブル情報に基づいて、4つの指標値のそれぞれについて、対応するカテゴリを特定する。
【0052】
次に、ステップS305において、絶縁劣化推定部13は、ステップS304で特定された各カテゴリ、および記憶部14に記憶された表2に相当するテーブル情報に基づいて、各カテゴリに対応する点数を割り付けた後、合計点Pを算出する。
【0053】
次に、ステップS306において、絶縁劣化推定部13は、ステップS305で算出された合計点P、および記憶部14に記憶された表3あるいは表4に相当するテーブル情報に基づいて、合計点Pに対応するレベルを特定し、診断対象である発電機の余寿命を推定する。
【0054】
そして最後に、ステップS307において、絶縁劣化推定部13は、ステップS306における推定内容を診断結果として出力し、一連処理を終了する。
【0055】
以上のように、実施の形態1によれば、残存耐電圧値を、従来の手法およびMT法により、複数の指標値として推定し、複数の指標値のそれぞれの大きさに応じて、絶縁更新の必要性のレベルを特定し、余寿命を診断する構成を備えている。
【0056】
このような構成を備えることで、F種絶縁機の絶縁劣化診断にも対応できる発電機の余寿命診断装置および発電機の余寿命診断方法を得ることができる。この結果、発電機の事故を未然に防ぎ、効率的な保全、および適切な更新計画を立案することが可能となる
【0057】
特に、第4の指標値を算出するにあたっては、MT法を用いている。従って、取得できる電気的データのサンプル数が少ない場合にも、比較的良好な診断精度の確保が可能となる。この結果、MT法により得られた残存耐電圧値の推定値を活用することで、余寿命の診断精度を向上させることが可能となる。
【0058】
なお、上述した実施の形態1において示した表1~表4の構成は、一例であり、他の構成を採用することによっても、同様の効果を得ることができる。
【0059】
カテゴリに関しては、対サージ電圧保護限界を示す直線L1と、安全運転限界を示す直線L2を閾値として用いて、A、B、Cの3つに分類する場合について説明した。しかしながら、さらに細分化して4つ以上のカテゴリに分類することも可能である。
【0060】
さらに、カテゴリの分類は、4つの指標値に対して共通の閾値を用いる必要はない。4つの指標値に関して、個別の閾値を用いて、個別の数のカテゴリに分類することも可能である。
【0061】
また、カテゴリに対する点数の割り付けに関しても、4つの指標値に対して共通の割り付けを行う必要はない。例えば、表2に相当するテーブル情報を、それぞれの指標値毎に個別に準備し、それぞれの指標値毎に個別に点数を割り付けることも可能である。
【0062】
また、レベル分けに関しては、表3あるいは表4を用いて4レベルに分類する場合について説明した。しかしながら、さらに細分化して5つ以上のレベルに分類することも可能である。
【0063】
診断対象である発電機に使用される絶縁物は、冒頭で説明したように、周囲環境、電気的ストレス、機械的ストレス等により経年劣化する。従って、周囲環境等の条件に応じて、カテゴリ数、点数割り付け、レベル数を適切に設定することで、設置場所に応じて、より高精度に劣化診断を行うことができる。
【0064】
なお、本実施の形態1においては、回転電機として発電機について説明したが、発電機以外の回転電機である電動機(モータ)、発電電動機にも適用できる。本実施の形態1に記載した余寿命診断を電動機、発電電動機に適用した場合でも、電流の流れる向きが変わるだけで、同様の手法で発電機の場合と同様にF種絶縁機の絶縁劣化診断を行うことができる。また、電動機や発電機は、同期型でも誘導型でも同様の手法で絶縁劣化診断を行うことができる。
【符号の説明】
【0065】
10 余寿命診断装置、11 データ取得部、12 指標値算出部、13 絶縁劣化推定部、14 記憶部。
図1
図2
図3