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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-12
(45)【発行日】2022-10-20
(54)【発明の名称】焼菓子の割れ防止方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/18 20060101AFI20221013BHJP
   A21D 13/047 20170101ALI20221013BHJP
   A21D 13/062 20170101ALI20221013BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20221013BHJP
   A23G 3/34 20060101ALI20221013BHJP
   A23G 3/42 20060101ALI20221013BHJP
【FI】
A21D2/18
A21D13/047
A21D13/062
A21D13/80
A23G3/34 104
A23G3/42
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018078737
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019180359
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-02-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】下田 芙雪
(72)【発明者】
【氏名】本永 麻依子
(72)【発明者】
【氏名】先本 正規
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-092859(JP,A)
【文献】特公昭47-013699(JP,B1)
【文献】国際公開第2016/196101(WO,A1)
【文献】特開2013-099268(JP,A)
【文献】特開2016-086810(JP,A)
【文献】特開2006-050926(JP,A)
【文献】特表2011-517928(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
A23G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスケット類または米菓の生地において、小麦粉または米粉100重量部に対してマルチトールを6重量部以上100重量部以下含有させることを特徴とする、ビスケット類または米菓の生地焼成後の落下または衝撃による割れを防止する方法。
【請求項2】
ビスケット類が、クッキーである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ビスケット類または米菓の生地中の小麦粉または米粉100重量部に対してマルチトールを6重量部以上100重量部以下含有させることでビスケット類または米菓の生地焼成後の落下または衝撃による割れを防止するための、マルチトールを有効成分とするビスケット類または米菓の割れ防止剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼菓子の品質改良に関する。
【背景技術】
【0002】
焼菓子は、焼いて作る菓子の総称であって、ポテトチップスやポップコーンのような例外はあるが、小麦粉や米粉等の穀粉等を主原料とする生地を焼いて作られるものが多い。焼菓子はさらに生菓子、半生菓子、干菓子に大別される。干菓子は水分含量が少なく乾いた菓子の総称であって、焼菓子では、クラッカー、クッキー(ビスケット)、ウエハースなどのビスケット類、せんべい、あられ、かきもちなどの米菓があげられる。ポテトチップスやポップコーンなども、スナック類として干菓子に分類される。
【0003】
ビスケット類に分類されるクッキーやビスケットは、穀粉である小麦粉、甘味料である砂糖、油脂であるバター、マーガリン、ショートニング等、さらに卵等を含む生地を焼成して作られる焼菓子である。なお、クッキーとビスケットは、国により定義が異なることもあるが基本的には同義語であるとされている(非特許文献1参照)ため、本明細書においてはいずれもクッキーと称する。
【0004】
クッキーは干菓子に分類され、水分含量が少なく硬めの物性である。その反面、割れやすい、または欠けやすいという特徴があり、製造や流通の際にこの「割れ」や「欠け」を回避することが課題の一つとなっている。
【0005】
この「割れ」または「欠け」(以下、「割れ」として統一して表記する)の対策として、クッキーの生地に単独で、または砂糖等の甘味料と併用して水飴を含有させることが知られている。しかし、水飴は砂糖と同様、焼成により褐変するため、製品として焼き色の薄いものが要求される場合は使いづらいという問題がある。
【0006】
また、セルロースまたはセルロース複合体を製品に含有させることで製造時や流通時の割れが低減されること(特許文献1参照)や、焼菓子にグリセリンを含有させることでひび割れが少なくなることが報告されている(特許文献2参照)。
しかし、甘味料代替物として飲食品の低カロリー化にも貢献できる糖アルコールと割れの防止効果の関係は知られておらず、報告もなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-87313号公報
【文献】特開2010-104259号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】丸善食品総合辞典(普及版)、2005年、第883~884ページ(ビスケットの項)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、クッキー等の焼菓子の割れを防止する方法、または該方法に用いることのできる剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の(1)~(5)に関する。
(1)焼菓子の生地において、穀粉100重量部に対して単糖または二糖の糖アルコールを6重量部以上含有させることを特徴とする、焼菓子の割れを防止する方法。
(2)焼菓子が、クッキーである、上記(2)の方法。
(3)糖アルコールが、マルチトールである、上記(1)または(2)の方法。
(4)単糖または二糖の糖アルコールを有効成分とする焼菓子の割れ防止剤。
(5)穀粉100重量部に対して単糖または二糖の糖アルコールを6重量部以上含有させた生地を焼成する工程を含む、焼菓子の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、クッキー等の焼菓子の割れを防止する方法、または該方法に用いることのできる剤を提供することができる。糖アルコールは、砂糖等の甘味料を使用する飲食品の甘味料代替物として使用した場合、割れ防止の効果に加えて焼菓子の低カロリー化を図ることもできるという長所もある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に用いられる単糖の糖アルコールとしては、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マンニトール等があげられ、二糖の糖アルコールとしては、マルチトール、パラチニット(還元パラチノース)、ラクチトール等があげられるが、焼菓子の味等への影響を考慮すると、より影響の少ない二糖の糖アルコールが好ましく用いられる。二糖の糖アルコールとしては、マルチトールまたはパラチニットが好ましく用いられ、マルチトールがより好ましく用いられる。糖アルコールは、市販されているものを入手して用いると簡便である。
【0013】
単糖または二糖の糖アルコールは、二種以上を併用してもよく、マルトトリイトール等、オリゴ糖由来の糖アルコールを併用してもよい。また、単糖または二糖の糖アルコールは、還元水飴、還元澱粉糖化物等、単糖または二糖の糖アルコールの含有物に含有されていてもよい。単糖または二糖の糖アルコール含有物は、二糖の糖アルコールの含有量が多いものが好ましく用いられる。単糖または二糖の糖アルコール含有物は市販されているので容易に入手できる。単糖もしくは二糖の糖アルコール、またはこれらの含有物の形状は、液状であっても粉体、粒体または粉粒体等の固体状のいずれであってもよい。
【0014】
単糖または二糖の糖アルコールは、そのまま本発明の焼菓子の割れ防止剤として用いることができるが、本発明の効果、すなわち焼菓子の割れ防止の効果を損なわない限り、必要に応じて焼菓子の生地原料として使用し得るものを含有してもよい。該成分は焼菓子の種類により異なるが、例えば、塩化ナトリウム等の無機塩、アスコルビン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、脂肪酸等のカルボン酸等の酸およびこれらの塩、グルタミン酸ナトリウム、グリシン、アラニン等のアミノ酸、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウム等の核酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸、カテキン、ジブチルヒドロキシトルエン、トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール等の抗酸化剤、スパイス類、ハーブ類等の香辛料、調味料、乳製品、各種澱粉等の賦形剤、小麦粉等の穀粉、バター、マーガリン、ショートニング等の油脂、膨張剤、香料、着色剤等、飲食品に使用可能なものがあげられる。
【0015】
また、必要に応じて砂糖、ぶどう糖、麦芽糖、乳糖、アセスルファムカリウム、アスパルテーム、カンゾウ抽出物、サッカリン、サッカリンナトリウム、スクラロース、ステビア、グリチルリチン二カリウム、ソーマチン等の糖アルコール以外の甘味料を含有させてもよい。
【0016】
これらの成分を必要に応じて配合する場合は、単糖または二糖の糖アルコールとこれらの成分を混合する等の方法で、単糖または二糖の糖アルコールを1重量%以上、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上含有する組成物とし、該組成物を本発明の焼菓子の割れ防止剤とする。
【0017】
本発明の焼菓子の割れを防止する方法としては、本発明の焼菓子の割れ防止剤を焼菓子の生地に含有させる方法があげられる。含有させる方法としては、焼菓子の他の原料と同時に配合する等いずれの方法であってもよい。
【0018】
本発明の方法を適用し得る焼菓子は、生菓子、半生菓子および干菓子のいずれでもよいが、製造時や輸送時の割れ(欠けも含む)の発生頻度の高い干菓子が好ましくあげられる。
【0019】
本発明における干菓子としては、オーブンやトースターで生地を焼成して製造する水分含量10%以下の焼菓子があげられる。本発明における干菓子としては、あられ、かきもちなどの米菓でもよいが、砂糖等の甘味料を多く用いるもの、例えば、クラッカー、クッキー(ビスケット)、ウエハースなどのビスケット類が好ましくあげられ、クッキーがより好ましくあげられる。
【0020】
焼菓子の生地は、小麦粉、米粉等の穀粉、砂糖等の甘味料、バター、マーガリン等の油脂の他、卵、膨張剤等を含有してもよい。また、上記焼菓子の割れ防止剤に含有させ得る成分としてあげたもの、さらにチョコレート、種子類、フルーツ、野菜等を含有してもよい。
【0021】
生地に含有させる焼菓子の割れ防止剤の量は、生地中の単糖または二糖の糖アルコールの含有量を指標として、焼菓子の種類や求める甘味の度合い等によって適宜設定する。例えばクッキーにおいては、単糖または二糖の糖アルコールの合計乾燥重量として生地中の穀粉100重量部に対して、少なくとも6重量部以上となるように含有させるが、割れ防止効果の観点では、8重量部以上となるように含有させることがより好ましく、13重量部以上となるように含有させることがさらに好ましく、25重量部以上となるように含有させることが特に好ましい。上限は特にないが、味への影響を考慮すると、通常100重量部以下であり、80重量部以下が好ましい。
【0022】
糖アルコールによる味の悪化が懸念される場合は、求める割れ防止効果の度合いと味への影響とのバランスを考慮し、下限(穀粉100重量部に対して6重量部)未満とならない範囲で適宜設定すればよい。
【0023】
生地を焼成する条件は、焼菓子の種類や求める焼き色の度合いによって異なるが、それぞれの焼菓子の通常の焼成条件に準じて設定する。
【0024】
例えば通常のクッキーでは、小麦粉、砂糖、バター、卵および必要に応じて膨張剤と本発明の割れ防止剤とを混合して得た生地を適当な厚さに伸ばして型抜きし、170~180℃のオーブンで10~20分間程度焼成する。
【0025】
単糖または二糖の糖アルコールは低カロリー化を主な目的として砂糖の代替物としても用いられるものであるため、本発明の効果としては、焼菓子の割れ防止に加えて、適用する焼菓子の低カロリー化も期待できるほか、単糖または二糖の糖アルコールは熱による褐変も生じにくいので焼き色が望ましくない焼菓子にも好適に用いることができるという効果もある。
【0026】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0027】
(1)マルチトール含有クッキーの調製
第1表に記載の量のバターと糖質(砂糖または糖アルコール)とをミキサーで混合し、さらに第1表に記載の量の全卵を入れて混合した。つぎに、第1表に記載の量のベーキングパウダーと薄力粉を篩にかけた後、先の混合物に添加し、混合して生地を調製した。該生地を厚さ4mmになるように延ばし、直径40mmの丸型抜き器を用いて型抜きし、オーブンで170℃、11分間焼成して比較区1および試験区1~6のクッキーを調製した。なお、マルチトールとしては、「レシス」(三菱商事フードテック社製)を用いた(以下、同じ。)。また、「膨張剤」はベーキングパウダーを示す(以下、同じ。)。
【0028】
【表1】
【0029】
(2)落下試験
【0030】
上記(1)で調製した各クッキー(比較区1ならびに試験区1~6のクッキー)を紙箱(5.3cm×9.3cm×3cm。厚さ0.4mmの紙を使用。)に3枚入れ、木製のまな板の上に80cmの高さから落下させる操作を10箱について行った。合計10箱の試験のうちの割れた枚数の割合の平均を第2表に示す。(以下、この試験を落下試験という。)
(3)衝撃試験
【0031】
また、上記(1)で調製した各クッキー3枚を重ねて木製のまな板に置き、2cmの高さから1kgの重りを落下させる操作を30枚のクッキーについて行った。合計10回の試験のうち割れた枚数の割合の平均を第2表に示す。(以下、この試験を衝撃試験という。)
なお、第2表には、マルチトールの配合量について、薄力粉の配合量に対する重量比(%)および砂糖に対する置換率も参考のため表示した。
【0032】
【表2】
【0033】
第2表に示すとおり、マルチトールを薄力粉100重量部に対して8重量部以上配合したクッキー(試験区2~6のクッキー)は、砂糖を使用したクッキーと比較して、落下試験および衝撃試験のいずれにおいても、割れた枚数が減少していた。特にマルチトールを薄力粉100重量部に対して13重量部以上配合したクッキー(試験区4~6のクッキー)は、落下試験および衝撃試験のいずれにおいても、砂糖を使用したクッキーと比較して、割れた枚数が有意に減少していた。
【0034】
また、マルチトールを配合したクッキーの焼き色は、いずれも、砂糖のみ使用したクッキーと比べて同等または薄かった。
(4)マルチトール以外の糖アルコールの割れ防止効果
【0035】
上記(1)でのクッキーの調製において、二糖の糖アルコールであるマルチトールの代わりに単糖の糖アルコールであるエリスリトール(三菱ケミカルフーズ社製)、ソルビトール(三菱商事フードテック社製)およびキシリトール(三菱商事フードテック社製)を、それぞれ第3表に記載の量用いる以外は同様の操作を行ってクッキー(試験区7~15のクッキー)を調製した。また、調製したそれぞれのクッキーについて、上記(2)および(3)に準じて落下試験および衝撃試験を行った。結果として、割れた枚数の割合を第4表に示す。
【0036】
なお、第4表には、エリスリトール、ソルビトールおよびキシリトールの配合量について、薄力粉の配合量に対する重量比(%)および砂糖に対する置換率も参考のため表示した。
【0037】
【表3】
【0038】
【表4】
【0039】
第4表に示すとおり、エリスリトール、ソルビトールおよびキシリトールを薄力粉100重量部に対してそれぞれ13.6重量部以上配合したクッキー(試験区8、9、11、12、14および15のクッキー)は、砂糖を使用したクッキーと比較して、落下試験および衝撃試験のいずれにおいても、割れた枚数が有意に減少していた。
【0040】
また、エリスリトール、ソルビトールおよびキシリトールをそれぞれ配合したクッキーの焼き色は、いずれも砂糖のみを配合したクッキーと比較して同等または薄かったが、食感はマルチトールを配合したクッキーの方がやや優れていた。
(5)クッキーの原料組成変更および試験
【0041】
クッキーの原料組成を第5表に記載の組成とし、上記(1)記載のクッキーの調製方法に準じてクッキーを調製し、上記(2)および(3)の方法で落下試験および衝撃試験をそれぞれ行った。結果として、割れた枚数の割合を第6表に示す。
【0042】
なお、第6表には、マルチトールの配合量について、薄力粉の配合量に対する重量比(%)および砂糖に対する置換率も参考のため表示した。
【0043】
【表5】
【0044】
【表6】
【0045】
第6表に示すとおり、薄力粉量を変更(試験区16および17)または配合油脂を変更(バターをマーガリンに変更:試験区18および19)した場合であっても、マルチトールによる割れ防止効果は認められた。
(6)マルチトール含有ラングドシャクッキーの調製および試験
【0046】
第7表に記載の量の糖質(砂糖または糖アルコール)と卵白を用いてメレンゲを調製した。第7表に記載の量のバターをペースト状になるまでほぐした後、メレンゲの約3分の1量を加えて混合し、さらに第7表に記載の量の薄力粉(篩にかけたもの)を加えて混合し、メレンゲの残り(約3分の2)を加えて混合して生地を調製した。
【0047】
生地を4gずつ直径20mmとなるように絞り出し、オーブンで150℃、15分間焼成してラングドシャを比較区1および試験区1~3の、クッキーの一種であるラングドシャクッキーを調製した。なお、糖アルコールとしては、マルチトールである「レシス」(三菱商事フードテック社製)を用いた。
【0048】
調製した各ラングドシャクッキー(比較区4ならびに試験区20~22のクッキー)について、上記(2)および(3)の方法で落下試験および衝撃試験をそれぞれ行った。結果として、割れた枚数の割合を第8表に示す。
【0049】
なお、第8表には、マルチトールの配合量について、薄力粉の配合量に対する重量比(%)および砂糖に対する置換率も参考のため表示した。
【0050】
【表7】
【0051】
【表8】
【0052】
第7表に示すとおり、ラングドシャクッキーにおいても、マルチトールによる割れ防止効果は認められた。