(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-12
(45)【発行日】2022-10-20
(54)【発明の名称】電力変換装置、およびそれを用いたシステム
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20221013BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02M7/48 E
(21)【出願番号】P 2018140468
(22)【出願日】2018-07-26
【審査請求日】2021-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岩路 善尚
(72)【発明者】
【氏名】戸張 和明
(72)【発明者】
【氏名】小沼 雄作
(72)【発明者】
【氏名】ハディナタ アグネス
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-240238(JP,A)
【文献】特開2015-106930(JP,A)
【文献】特開2016-010200(JP,A)
【文献】特開2008-099518(JP,A)
【文献】特開平11-304864(JP,A)
【文献】特開2006-161677(JP,A)
【文献】特開2005-346463(JP,A)
【文献】特開平06-197469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子を有する電力変換器と、
前記電力変換器を制御する制御器とを有する電力変換装置であって、
前記制御器は、
第1の処理周期に基づいて、前記電力変換器への制御信号を生成する指令演算部と、
前記第1の処理周期より短い第2の処理周期で、監視項目に応じた、電流または電圧の特徴量を抽出する特徴量抽出部と、
前記特徴量抽出部で抽出した特徴量に基づいて異常であるかを判定する監視処理部とを有
し、
前記監視処理部は、前記指令演算部に補正量を出力し、前記補正量に基づいて、前記指令演算部は、高調波成分の含有率を変更あるいは制御系の応答劣化を修正するように、前記電力変換器への制御信号を生成することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記監視処理部は、
前記特徴量と閾値とに基づいて、前記監視項目について異常が有るかを判定することを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記第1の処理周期は、前記半導体素子のスイッチングの指令に同期しており、
前記指令演算部は、前記スイッチングの制御信号を生成することを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電力変換装置において、
割り込み信号発生部が、
前記第2の処理周期の整数倍の前記第1の処理周期の信号を生成することを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記特徴量抽出部は、前記監視項目に応じて、実効値演算、平均値演算、ピーク値演算、あるいは予め設定された周波数成分の抽出演算のいずれか、もしくは複数の演算を組み合わせた演算処理を実行することを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記監視処理部は、インダクタンスを算出することを特徴とする電力変換装置。
【請求項7】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記監視処理部は、前記電力変換器と接続した機器の絶縁劣化の異常を判定することを特徴とした電力変換装置。
【請求項8】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記監視処理部は、前記電力変換装置における前記電流もしくは前記電圧の脈動成分の異常を判定することを特徴とした電力変換装置。
【請求項9】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記特徴量抽出部は、前記電力変換器と接続した機器の有効電力もしくは無効電力を抽出することを特徴とした電力変換装置。
【請求項10】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記特徴量抽出部は、推定温度を抽出することを特徴とした電力変換装置。
【請求項11】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記監視処理部は、前記指令演算部に信号を出力し、前記信号に基づいて、前記指令演算部は、前記電力変換器への制御信号を生成することを特徴とした電力変換装置。
【請求項12】
電源と、負荷装置と、電力変換装置とを有する電力変換システムにおいて、
前記電力変換装置は、
半導体素子を有する電力変換器と、
前記電力変換器を制御する制御器とを有し、
前記制御器は、
第1の処理周期に基づいて、前記電力変換器への制御信号を生成する指令演算部と、
前記第1の処理周期より短い第2の処理周期で、監視項目に応じた、電流または電圧の特徴量を抽出する特徴量抽出部と、
前記特徴量抽出部で抽出した特徴量に基づいて異常であるかを判定する監視処理部とを有
し、
前記監視処理部は、前記指令演算部に補正量を出力し、前記補正量に基づいて、前記指令演算部は、高調波成分の含有率を変更あるいは制御系の応答劣化を修正するように、前記電力変換器への制御信号を生成することを特徴とする電力変換システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置、およびそれを用いたシステムに関し、特に、異常動作の監視技術に関する。
【背景技術】
【0002】
産業、家電、輸送などの分野では、製品に用いる制御用マイクロプロセッサが高速化・高性能化し、同時にネットワークによる情報通信も急速に発達している。これらの結果、モノをネットワークに接続して、膨大な情報を役立てる取り組みであるIoT(Internet of Things)が注目を集めている。産業分野であれば、工作機械などにセンサーを多数配置し、その情報を分析することで、製造プロセスの生産性を向上させたり、工作機械の異常を逸早く検知してメンテナンス作業に役立てようとしている。機器のメンテナンス作業は、従来の動作時間に基づく監視作業から、センサー信号を拠り所とした状態監視に基づく作業へと移行しつつある。
【0003】
電動機を用いた機器の監視を行うには、電流センサーを新たに取り付けたり、あるいは電動機に温度や振動などのセンサーを取り付けて、それらを一定周期でサンプルして、得られたデータを分析して状態監視を行う傾向にある。
【0004】
特許文献1では、電力変換器からモータに流れる電流を、従来のサンプル処理周期よりも短い周期で検出し、モータの制御の応答の向上と電流リップルの低減をする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、短いサンプリングの例が示されているが、モータの制御性能(過渡応答や定常偏差)を改善する機能であり、電力変換器やそのシステムの監視に係わる発明ではない。
【0007】
そのため、特許文献1では、電流リップルの影響が少なくなるように、電流サンプルタイミングを求めている。しかしながら、電流リップルの影響を少なくするようにサンプリングすることで応答性能は向上するとしても、異常を精度よく予兆する観点からは、サンプリングすべきタイミングを除く可能性があり望ましくない。
【0008】
本発明の目的は、電力変換装置、およびそれを用いたシステムの異常動作、異常に至る兆候をより高精度に検知することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の好ましい一例としては、半導体素子を有する電力変換器と、前記電力変換器を制御する制御器とを有する電力変換装置であって、前記制御器は、第1の処理周期に基づいて、前記電力変換器への制御信号を生成する指令演算部と、前記第1の処理周期より短い第2の処理周期で、監視項目に応じた、電流または電圧の特徴量を抽出する特徴量抽出部と、前記特徴量抽出部で抽出した特徴量に基づいて異常であるかを判定する監視処理部とを有する電力変換装置である。
【0010】
また、本発明の好ましい他の例としては、電源と、負荷装置と、電力変換装置とを有する電力変換システムにおいて、前記電力変換器装置は、半導体素子を有する電力変換器と、前記電力変換器を制御する制御器とを有し、前記制御器は、第1の処理周期に基づいて、前記電力変換器への制御信号を生成する指令演算部と、前記第1の処理周期より短い第2の処理周期で、監視項目に応じた、電流または電圧の特徴量を抽出する特徴量抽出部と、前記特徴量抽出部で抽出した特徴量に基づいて異常であるかを判定する監視処理部とを有する電力変換システムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電力変換装置、およびそれを用いたシステムにおいて、異常動作、異常に至る兆候をより高精度に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1における電力変換装置の全体構成を示すブロック図。
【
図2】実施例1における制御器の動作を説明する波形図。
【
図3】実施例1における高速サンプル演算器と監視処理器のブロック図。
【
図4】実施例2における電力変換装置を用いた電力変換システムの構成を示すブロック図。
【
図5】実施例3における割込み信号発生器の信号と相電流を説明する図。
【
図6】実施例3における割込み信号発生器の構成を示すブロック図。
【
図7】実施例4における特徴量抽出器の構成を示すブロック図。
【
図8】実施例5における高速サンプル演算器と監視処理器のブロック図。
【
図9】実施例6における高速サンプル演算器と監視処理器のブロック図。
【
図11】実施例7における制御器の構成を示すブロック図。
【
図12】実施例7における高速サンプル演算器と監視処理器のブロック図。
【
図13】実施例8における高速サンプル演算器と監視処理器のブロック図。
【
図14】実施例9における制御器の構成を示すブロック図。
【
図15】実施例9における高速サンプル演算器と監視処理器の構成を示すブロック図。
【
図16】実施例10における制御器の構成を示すブロック図。
【
図17】実施例10における電圧指令演算器の構成を示すブロック図。
【
図18】実施例10における監視処理器の構成を示すブロック図。
【
図19】実施例11における制御器の構成を示すブロック図。
【
図20】実施例11における電圧指令演算器の構成を示すブロック図。
【
図21】実施例11における高速サンプル演算器と監視処理器のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図を用いて実施例を説明する。
【実施例1】
【0014】
図1~
図3を用いて、実施例1の電力変換装置について説明する。実施例1における電力変換装置の全体構成を示すブロック図である。
【0015】
図1において、三相交流電源1は入力電源であり、この三相交流電源の電力を、直流電源に電力変換する装置が電力変換装置2である。この電力変換装置2は、ハードウエアを主体とした電力変換器3と、それを制御する制御器4、電力変換装置2の負荷である負荷装置5から構成されている。この負荷装置5としては、例えばインバータが挙げられる。
【0016】
電力変換器3は、6素子のパワー半導体素子によって構成される電力変換器・主回路部31と、この電力変換器・主回路部31の各パワー半導体素子のオン・オフ信号を発生するゲート・ドライバ32、フィルタコンデンサ33、入力のACリアクトル34a~34c、交流の相電流を検出する電流センサー10a~10b、交流の線間電圧を検出する電圧センサー11a~11bにより構成される。電力変換器3は、制御器4が出力するPWM信号に基づいて制御される。
【0017】
制御器4では、割込み信号発生器6が出力するトリガー信号TRG1によって、電圧指令演算器7が制御処理を開始し、電流センサー10a~10bによって検出された相電流Iu、Iwが所望の値になるように、電力変換器3の入力電圧指令を演算する。最終的には、電力変換器への制御信号であるPWM信号を生成して、ゲート・ドライバ32へ出力する。
【0018】
一方、高速サンプル演算器8は、割込み信号発生器6が出力するトリガー信号TRG2によって演算処理を開始する。また、高速サンプル演算器8は、電流センサー10a~10bによって検出された相電流Iu、Iw、ならびに電圧センサー11a、11bによって検出された線間電圧Vuv、Vwvをサンプリングし、電力変換装置の動作状態、あるいはパラメータの変動を監視する特徴信号Fxを演算する。監視処理器9では、その特徴信号Fxに基づいて、装置の異常を検知する。
【0019】
次に、
図2、
図3を用いて実施例1の特徴部である制御器4について詳しく説明する。
【0020】
図2は、制御器4における電圧指令演算器7、ならびに高速サンプル演算器8の動作を示す波形図である。
図2(a)は、割込み信号発生器6が出力する周期T1のトリガー信号TRG1を示している。電圧指令演算器7では、TRG1の立ち上がりのタイミングで、電流、ならびに電圧センサーの信号をサンプリングする。
【0021】
図2(b)は、相電流Iuをサンプリングしている様子を示している。サンプリングの終了後、
図2(c)に示すように、時間T1vをかけて電圧指令の演算を実施し、PWM信号を生成するために電圧指令をセットする。通常、T1vは演算処理周期T1よりも短くなければならない。近年のマイクロプロセッサの進歩は著しく、T1vの処理時間は短くなる傾向にある。
【0022】
ゲート・ドライバに送られるPWM信号は、
図2(d)に示すように、三角波キャリアと電圧指令とを比較することで、その大小関係から生成する(
図2(e))。通常、TRG1の信号は、三角波キャリアの山、谷、それぞれの頂点に同期して生成されるようになっている。電圧指令の更新は、この三角波キャリアの山と谷ピークで更新する。
【0023】
一方、高速サンプル演算器8は、T1よりも短い周期T2の間隔で割り込みがかけられ、
図2(f)に示すように、トリガー信号TRG2によって処理が開始される。相電流Iuは、
図2(g)に示すように、細かいサンプリング周期での検知が可能となり、電流に含まれるリプル成分の検出も可能になる。
図2(h)の監視処理のタイミングに示すように、電圧指令演算器7では無視せざるを得ない電流リプルも、T1よりも短いT2の処理周期で検出することで、検知や監視をすることが可能である。
【0024】
PWM信号によって、電力変換器を制御する場合、制御器が出力する電圧の分解能は、キャリア波の半周期(
図2におけるT1)が最小単位であり、これ以上の分解能を上げる意味はない。よって、従来はすべての演算処理を、三角波キャリアを基準にしたT1周期のトリガーで動いている。しかし、マイクロプロセッサの進展は著しく、もっと短い時間での処理が可能になっている。
【0025】
そこで、実施例1では、電圧指令の演算は、従来通りの三角波キャリアをベースにしたトリガーによって処理し、同時並行に高速サンプル演算器8を動作させ、機器の状態監視、パラメータ変動を検知して、新しい機能を提供する。
【0026】
図3は、実施例1における高速サンプル演算器8、ならびに監視処理器9のブロック図である。
図3に示すように、高速サンプル演算器8は、特徴量抽出部の一例としての実効値演算器81a~81dによって構成され、実効値演算器81a~81dは、乗算器12、ローパスフィルタ(LPF)13、ルート演算器14からなる。実効値演算器81a~81dは、トリガー信号TRG2でサンプリングした波形に対して、二乗演算を実施し、LPFによって平均化して、それをルート演算することで、実効値と等価な値を計算している。高速サンプル演算器8では、電流や電圧に含まれる脈動成分をも含めての演算が可能となり、より高精度な監視が可能となる。これは従来型のIoT機器のように、数100ms程度の周期でしかサンプルできないシステムとは異なり、大きなメリットである。
【0027】
監視処理器9は、監視器91a~91dにおいて各特徴量を監視している。監視器91a~91dは、閾値設定器16と、異常判定器15からなる。監視処理器9では、高調波成分を含めての実効値の大きさを、閾値設定器16において予め設定した閾値と比較し、異常が起きてないかどうかを確認する。閾値は、管理者が変更できるようにしてもよいし、異常判定の評価について機械学習などを使い、自動的に変更するようにしてもよい。
【0028】
本実施例では、高調波を含めた実効値演算が可能であり、より高精度な監視や異常検知が実現できる。また、高速サンプル演算器8は、サンプル処理周期は短いが、その中で監視に必要な状態量に変換するため、データ量が大幅に削減でき、また、分析/診断作業も容易となる。
【0029】
尚、実施例1においては、高速サンプル演算器8では、検出した電流、および電圧のすべてについて処理を行っているが、条件によっては電流のみ、あるいは電圧のみを検出するようにしてもよい。
【実施例2】
【0030】
図4を用いて、実施例2の電力変換装置ならびに、それを用いた電力変換システムについて説明する。
図4は、実施例2の電力変換装置を用いた電力変換システムのブロック構成図を示す。
図4は、負荷として交流電動機5Bが用いられており、三相交流電源1Bの後、電力変換器3Bの内部に設けた整流器35によって直流電源が生成されている。実施形態1とは電力の流れが逆になっており、直流から任意の周波数の交流を生成する電力変換装置となっている。
【0031】
実施例2では、電圧指令演算器7Bにおいて、交流電動機5Bを駆動するためのベクトル制御演算が行われるが、動作信号としては、
図2と同様の波形となる。また、高速サンプル演算器8、監視処理器9は、
図1および
図3と同じものが使用でき、電流リプル成分なども加味した交流電動機5Bの電流、あるいは電圧の実効値の監視が可能となる。尚、この高速サンプル演算器8、ならびに監視処理器9の動作を変更することで、様々な効果が得られるが、その件に関してはこの後の実施例にて説明する。
【実施例3】
【0032】
図5を用いて、実施例3の電力変換装置、ならびにそれを用いた電力変換システムについて説明する。
図5は、前述の実施例(
図1、ならびに
図4)における割込み信号発生器6のトリガー信号TRG1とTRG2、ならびに相電流Iuを示した図である。
【0033】
図5(a)に示すように、TRG1は、前述の通りに三角波キャリアに同期した信号である。よって、このT1の周期は、電力変換器・主回路がスイッチング動作する周期であり、T1の期間内に、最低1回のオン、あるいはオフの動作が伴う。
【0034】
その結果、
図5(b)に示した相電流Iuに含まれる脈動成分は、このT1を基準とした周期の成分となる。この脈動成分には、後述する通りに様々な情報が含まれているため、できるだけ精度よく検出したい。
【0035】
そのためには、
図5(c)に示したように、周期T1の中に、TRG2を生成する周期T2が、常に整数個となるように同期されることが望ましい。すなわち、T2の整数倍がT1となるように、TRG1とTRG2の信号を生成する。
【0036】
図6は、実施例3の条件のトリガー信号を生成する割込み信号発生器6Cの構成を示す。
発振器61では、TRG2の信号を周期T1で生成しており、その信号をカウンタ62でカウントして、周期T2の信号を生成する。カウンタ62の設定で、T1をT2の何倍にするかの設定が可能である。
【0037】
以上、実施例3によれば、フーリエ変換の処理をする場合には、誤差を小さくでき、より高精度にシステムの監視が可能となる。
【実施例4】
【0038】
図7は、実施例4における特徴量抽出器の構成を示すブロック図を示す。実施例4は、
図3における高速サンプル演算器8における実効値演算器81a~81dを、
図7に示す特徴量抽出器82aに置き換えることで実現できる。
【0039】
図7は、
図3における実効値演算器81aを含む構成となっており、それに加えて、平均値演算器821、ピーク検出器822、特定周波数領域検出器823、周波数成分分析器824、の5種類の演算器を、選択スイッチ825にて切り替えて、監視項目に応じた特徴量を選択的に抽出する実施例である。
【0040】
平均値演算器821は、時定数の長いローパスフィルタ13で構成され、ローパスフィルタ13を設けることで、直流成分の有無を検知することができる。交流を扱う場合、理想的には直流分は零であるが、電力変換器や負荷装置に異常が発生した場合に、直流成分が増加する可能性が高く、診断によく用いられる。
【0041】
ピーク検出器822は、信号の最大値を記録する最大値検出器17と、同様に最小値を記録する最小値検出器18により構成され、さらにこれらの差分を演算する加算器19からなる。この結果演算される波形は、入力される波形のピークtoピーク値となる。ピーク値は、たとえば交流電動機の負荷が異常になったときなどに、高い感度で検知できる
特定周波数領域検出器823は、実効値演算器81aの前段にバンドパスフィルタ20を設けることで、任意の周波数領域の信号のみを抽出することができる。よって、単なる実効値だけでなく、ある周波数領域の信号のみを抽出し、その実効値を演算することができる。例えば、電動機に取り付けられた負荷装置意(機械装置)などを起因とした脈動が発生した場合、その近傍成分のみを抽出することが可能になる。
【0042】
周波数成分分析器824は、相電流Iuに含まれる高調波電流の特定成分のみを選択して抽出するものである。構成要素は、角周波数ωの正弦波を発生するSIN波発生器21、同様に余弦波を発生するCOS波発生器22、乗算器23、ローパスフィルタ(LPF)13、絶対値演算器24である。
【0043】
相電流Iuに対して、正弦波、ならびに余弦波を乗ずることで、それぞれ角周波数ωの成分が直流量となって抽出できる。例えば、電動機の軸偏芯の発生する恐れがある場合に、回転数とほぼ等しい脈動成分が生じるため、予め回転周波数に合わせてωを設定しておけば、即座に以上の検知が可能となる。
【0044】
これらの5つの演算器の信号は、監視項目に応じて選択スイッチ825にて切り替えて利用することができる。尚、本実施例は、これまで説明した実施例の高速サンプル演算器8を置き換えることで実現するが、必ずしもすべての電流検出値、あるいは電圧検出値に使用する必要は無く、用途に応じて使用すべき信号に使用すれば、異常検知が可能である。
【実施例5】
【0045】
図8は、実施例5における高速サンプル演算器と監視処理器のブロック図を示す。
実施例5の構成は、これまで説明した実施例における高速サンプル演算器8、ならびに監視処理器9を、
図8に置き換えることで実現できる。本実施例は、電力変換装置におけるインダクタンスの値を自動計測するものである。
【0046】
インダクタンスの値を監視して、状態を観測する。電源コンバータであれば、電源側に配置されインダクタンスと、さらには系統のインダクタンスの両者が計測でき、電源側のインダクタンスの異常、あるいは系統の異常を検知できる。
【0047】
また、交流電動機を駆動する場合には、交流電動機のインダクタンスの変化により、例えば巻線の異常や、永久磁石モータの場合には磁石磁束の減磁などの影響もインダクタンスの変化に現れるため、監視することは有効である。
【0048】
図8に示すように、高速サンプル演算器8Eは、前述の周波数成分分析器824を用いて特定周波数ωの成分のみを抽出する演算をしている。ωは、PWMによって発生する高調波成分の周波数に合わせて設定すると、感度よく高調波電流、ならびに電圧が抽出できる。
【0049】
監視処理器9Eでは、インダクタンス演算器92において、高速サンプル演算器8Eで得られた電流(FIu、ならびにFIw)と電圧(Fvuv、ならびにFvwv)からインダクタンス値を計算する。
【0050】
u相の巻線のインダクタンスLu_cと、w相の巻線のインダクタンスLw_cの値は、次の式(1)に示すように、演算できる。
Lu_c=Fvu/(ω・FIu)、Lw_c=Fvu/(ω・FIw)…(1)
【0051】
相電圧演算器94では、線間電圧FvuvとFvwvから、相電圧Fvu、Fvwを導出する演算を行っている。演算されたインダクタンスは、メモリ93a、メモリ93bに保存され、経時変化や突発事故の検知に利用する。監視処理器9Eにおける異常判定については、実施例1で説明したように、演算されたインダクタンスを、予め設定した閾値と比較して、異常が起きていないかを判定する。
【0052】
以上、実施例5により、特別な検出信号を付加することなく、高速サンプル演算器を用いることでリアルタイムでのパラメータ推定が可能になり、システムの監視に役立てることができる。
【実施例6】
【0053】
図9は、実施例6における高速サンプル演算器と監視処理器のブロック図を示す。
実施例6の構成は、これまで説明した実施例における高速サンプル演算器8、ならびに監視処理器9を、
図9に置き換えることで実現できる。
【0054】
実施例6は、電力変換装置に接続された誘導性の電気機器(インダクタンス、変圧器、電動機など)の絶縁劣化を検知する実施例である。
図9において、高速サンプル演算器8Fは、前述した実効値演算器81a、ならびにピーク検出器822を同時に動作させ、各々の出力FIu0、FIu1の差分を加算器19で減算し、それを特徴量FIuとして、監視処理器9Fへ送る。ここでは電流センサーからの値IuとIwに対してのみ処理を行っており、電圧センサーの値Vuv、Vwvは使用していない。
【0055】
図10は、絶縁劣化を説明するための波形図である。絶縁劣化が進んだ場合、通常の波形(
図10(a))に比べて、電力変換器のスイッチング時における電流の跳ね上がりが大きくなる(
図10(b))。この跳ね上がりは、絶縁劣化に伴い巻線の高周波域のインピーダンスが変化したことによるものである。
【0056】
従来の電流サンプルでは、この跳ね上がりを捕らえるのは困難であったが、高速サンプル演算器を用いれば、この跳ね上がった部分をサンプルする確立が大きく増えるため、結果的にピーク値に変化が生じる。ただし、実効値としては微小な変化しかないため、これらピーク値と実効値の差分を取ることで、絶縁劣化を検知することが可能である。
【0057】
また、特徴量FIuとFIwは、経時的に変化するものであるため、データの蓄積を行い、通常の値を記憶しておく必要がある。それらとの差を監視処理器9Fにおける異常判定器15Fa~15Fbで実行する。
【0058】
以上、実施例6により、特別な検出信号を付加することなく、高速サンプル演算器を用いることで電力変換器に接続された誘導性負荷の絶縁劣化検知が可能となる。
【実施例7】
【0059】
図11は、実施例7における制御器4Gの構成を示すブロック図である。
実施例7の構成は、実施例2(
図4)における制御器4を、
図11に置き換えることで実現できる。
【0060】
実施例7では、電力変換装置の負荷として、交流電動機を駆動する際のトルク振動、電圧振動などの異常を検知するものである。
図11に示すように、電圧指令演算器7Gから位相情報θdが出力され、高速サンプル演算器8Gでその値を利用している。
【0061】
位相θdは、交流電動機をベクトル制御する際の座標変換位相であり、交流電動機の制御には不可欠な状態量である。その位相θdを利用して、電流、もしくは電圧の監視を行う。
【0062】
図12は、高速サンプル演算器8Gと、監視処理器9Gの構成を示したものである。
図12において、dq座標変換器85a~85bが備えられており、位相θdを用いてdq座標上の値に電流と電圧が変換されている。この座標変換は、交流座標のものを直流に変換するものであり、交流電動機のベクトル制御では極一般的に用いられている。
【0063】
座標変換した結果、交流電流はId、Iq、交流電圧はVd、Vqに変換され、いずれも直流量の値になる。しかし、この直流量に対して、負荷変動やその他の異常がある場合には、脈動成分が含まれることになる。
【0064】
その脈動成分の抽出に、前述の特定周波数領域検出器823を導入している。バンドパスフィルタ20が備えられることで、直流成分以外の変動分を抽出することができる。もちろん、変動周波数が予めわかっている場合には、周波数成分分析器824を導入してもよい。
【0065】
これらの特徴量をFId、FIq、FVd、FVqとして監視処理器9Gへ送り、ここで異常判定を行う。ここでは閾値設定器16Gの値と特徴量とを比較して、異常判定器15Gにて異常判定を行う。
【0066】
実施例7によって、電流、電圧に含まれる様々な振動要因を検知することが可能である。ただし、トルク脈動に関しては、トルクに寄与する電流はq軸の電流値(Iq)であるので、FIqのみを観測していても回転脈動異常は抽出できる。
【0067】
以上、実施例7により、高速サンプル演算器を用いることで、様々な振動成分をリアルタイムに検出することが可能であり、システムの監視に役立てることができる。
【実施例8】
【0068】
図13は、実施例8における高速サンプル演算器8Hと監視処理器9Hのブロック図を示す。
実施例8の構成は、これまで説明した実施例における高速サンプル演算器8、ならびに監視処理器9を、
図13に置き換えることで実現できる。
本実施形態は、電力変換装置に接続された機器の有効電力、ならびに無効電力を、高調波成分を含めて演算することが可能である。
【0069】
図13において、高速サンプル演算器8Hでは、前述のdq変換器を用いて、交流電流、ならびに交流電圧をdq座標変換して、各々d軸、q軸の成分を乗算する。有効電力Pと、無効電力Qは、以下の式(2)と式(3)によって求めることができる。
P = Vd・Id + Vq・Iq…(2)
Q = Vd・Iq - Vq・Id…(3)
監視処理器9Hでは、これら有効電力、無効電力に対して閾値設定器16Hを設け、異常判定器15Hで異常を判定する。
【0070】
以上、実施例8によると、高調波に起因した電力も含めて計測可能であり、市販のパワーメータと同様な監視が電力変換装置本体で実現可能となる。
【実施例9】
【0071】
図14は、実施例9における制御器4Jの構成を示すブロック図である。
図15は、実施例9における高速サンプル演算器8Jと監視処理器9Jの構成を示すブロック図である。
【0072】
実施例9の構成は、これまで説明した実施例2(
図4)における制御器4、高速サンプル演算器8、ならびに監視処理器9を、
図14、ならびに
図15に置き換えることで実現できる。
【0073】
実施例9は、電力変換装置に接続された交流電動機の監視として、特に温度推定を行うものである。
【0074】
図14において、制御器4Jの中の電圧指令演算器7Jでは、交流電動機のベクトル制御が行われており、そこから内部情報量である位相θdと、交流電動機の一次角周波数であるω1を出力して、高速サンプル演算器8Jに与えている。
【0075】
図15に示すように、高速サンプル演算器8Jでは、検出電流、電圧を座標変換し、それらdq軸上の値と、電圧指令演算器7Jからの信号ω1を使って交流電動機の温度推定器へ入力する。温度推定器は、交流電動機の電気パラメータや機械パラメータ、熱伝導モデルを組み合わせて交流電動機の動作をシミュレーションする。高速サンプル演算器によって、高調波成分を正確に模擬できるため、高精度な温度推定が実現でき、回転子、ならびに固定子の温度が推定可能である。監視処理器9Jでは、推定温度値を用いて異常判定器15Jにおいて異常状態を判定する。
【0076】
尚、温度推定器の説明として、交流電動機の例で述べたが、他の例として、電力変換装置に接続された変圧器や発電機、あるいは電力変換器自体に関しても、温度推定器で用いる温度推定モデルを作成しておくことで、温度推定器で推定可能である。
以上、実施例9により、電力変換装置に接続された機器の、高精度な温度推定が実現可能となる。
【実施例10】
【0077】
図16は、実施例10における制御器の構成を示すブロック図を示す。
図17は、実施例10における電圧指令演算器の構成を示すブロック図を示す。
図18は、実施例10における監視処理器の構成を示すブロック図である。
【0078】
実施例10の構成は、すでに説明した実施例5(
図8における制御器4、高速サンプル演算器8、ならびに監視処理器9を、
図16~
図18に置き換えることで実現できる。
【0079】
本実施形態は、電力変換装置に接続された機器のパラメータを検知したあと、それらを制御にフィードバックして制御ゲインを更新し、システム全体の性能を向上させるものである。
【0080】
図16に示す制御器4Kでは、電圧指令演算器7Kの制御ゲインを、監視装置9Kからの信号で修正を行っている。高速サンプル演算器8Eは、
図8のものと同一のものである。
【0081】
図17の電圧指令演算器7Kでは、dq座標変換後の電流であるId、Iqに対して電流制御を行う、一般的なベクトル制御の構成となっている。ここで、Id*発生器71、Iq*発生器72より、電流指令であるId*、Iq*が出力され、それと検出値Id、Iqが一致するように電流制御器(ACR)73a~73bが動作する。電流制御器73の出力がdq逆変換器74にて交流電圧に変換され、その後、PWM信号(パルス幅変調信号)への変換されて、ゲート・ドライバへと送られる。尚、座標変換に使用される位相θdは、位相演算器74から出力されているが、ここでの位相演算器74は、交流電動機の回転子位置センサー、あるいはセンサーレス制御による位相推定演算器を意味している。実施例10の内容には直接には関係ないため、詳細な説明を省略する。
【0082】
ここで、電流制御器73a a~73bの制御ゲインは、モータの電気時定数(L/R)によって決定される。よって、インダクタンスが変動した場合には、それに応じて制御ゲインも変更されるべきである。
図17に示す電圧指令演算器7Kでは、監視処理器9Kから出力される信号GACRによってゲインの値を修正するようになっている。
【0083】
監視処理器9Kは、
図18に示すように、
図8に記載のものとほとんど同じであるが、U相とW相のインダクタンスの算出値の平均値に基づいて、電流制御ゲインであるGACRを、ゲイン決定器(Kacr)95にて演算処理している。異常判定については、監視処理器9kは、高速サンプル演算器8Eからの演算結果に基づいて、異常が起きていないかを判定しており、異常の程度に応じて、GACRの出力を変更する構成である。
【0084】
以上、実施例10により、インダクタンスが変動した際の制御系の応答劣化を、自動的に修正することが可能となる。本実施例によれば、状態を監視するだけでなく、システムの挙動の改善も行うことが可能である。
【実施例11】
【0085】
図19は、実施例11における制御器の構成を示すブロック図である。
図20は、実施例11における電圧指令演算器の構成を示すブロック図である。
図21は、実施例11における高速サンプル演算器と監視処理器のブロック図である。
【0086】
実施例11の構成は、すでに説明した実施例5(
図8)における制御器4、高速サンプル演算器8、ならびに監視処理器9を、
図19~
図21に置き換えることで実現できる。
【0087】
本実施例は、電力変換装置に接続された機器の高調波損失を演算し、それを最小化するようにPWM波形を修正して、システム全体の効率を改善するものである。
【0088】
図19において、電圧指令演算器7Lに対して、補正量ΔVが監視処理器9Lから送られている。このΔVによって電圧指令が修正されて、波形が改善される。
【0089】
図20は、電圧指令演算器7Lのブロック構成図である。この電圧指令演算器7Lを構成する部品は、これまで説明してきた部品のみであるため、ここの説明は省略するが、電圧指令演算器7Lでは、交流電圧指令Vu、Vv、Vwに対して、監視処理器9Lからの補正量ΔVを加算している点が特徴である。
【0090】
三相すべての交流電圧指令に対して、同時に同じ電圧を加えるということは、線間電圧自体にはなんら影響を及ぼさない。ただし、この零相成分であるΔVによって、PWM後の高調波電圧の周波数分布が変化することが知られている。よって、ΔVを最適に選択することで、高調波の含有率を変えることが可能である。
【0091】
図21に示す高速サンプル演算器8Lでは、ここでもこれまでに説明した座標変換と特定周波数領域検出器823を用いて、IdならびにIqに含まれる高調波成分の大きさを算出している。この算出値FIhが最小になるように、監視処理器9Lでは、電圧指令への補正量ΔVを、電圧補正演算器96にて演算して求める。
【0092】
具体的には、予め算出していたマップを使用したり、あるいはFEMも用いたモータの損失マップなどを利用してΔVを決定する。異常判定については、
図21では、省略したが、実施例1で説明したように、算出値FIhを、予め設定した閾値と比較して、異常が起きていないかを判定し、異常と判定した場合には、補正量ΔVを算出するようにしてもよい。
【0093】
以上、実施例11によれば、高調波損失をリアルタイムで検知して、それを自動的にオンラインで最小化することが可能である。
【0094】
以上、実施例を具体的に説明したが、上記の実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは言うまでもない。上記した負荷装置の例としては、工作機械、スピンドルモータ、ファン、ポンプ(油圧ポンプ、水ポンプ)、圧縮機、冷暖房機器などの産業用途から、電気自動車、鉄道車両用モータがある。
【符号の説明】
【0095】
1…三相交流電源、2…電力変換装置、3…電力変換器、4…制御器、5…負荷装置、
6…割込み信号発生器、7…電圧指令演算器、8…高速サンプル演算器、9…監視処理器