(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-12
(45)【発行日】2022-10-20
(54)【発明の名称】クランク角検出装置及びパワートレーン制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20221013BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20221013BHJP
B60W 10/00 20060101ALI20221013BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20221013BHJP
B60W 10/30 20060101ALI20221013BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20221013BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20221013BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20221013BHJP
【FI】
F02D45/00 362
F02D29/02 321C
F02D45/00
B60W10/00 148
B60W10/04 ZHV
B60W10/30
B60K6/48
B60W10/08 900
B60W20/00 900
(21)【出願番号】P 2018158936
(22)【出願日】2018-08-28
【審査請求日】2021-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【氏名又は名称】稲田 弘明
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】望月 浩
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-207885(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0066357(US,A1)
【文献】特開昭57-018433(JP,A)
【文献】特開2005-132147(JP,A)
【文献】特開2016-002992(JP,A)
【文献】特開2009-144564(JP,A)
【文献】特開平09-219906(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00 - 45/00
G01M 15/00
G01P 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのクランクシャフトの角度位置を検出するクランク角検出装置であって、
前記クランクシャフトの回転に応じた信号を出力するクランク角センサと、
前記クランクシャフトの回転と連動してオイルを吐出するオイルポンプと、
前記オイルポンプが吐出した前記オイルの油圧を検出する油圧センサと、
前記クランク角センサの出力に異常が生じた場合又は前記異常が生じる可能性が高い場合に、前記クランク角センサが正常であるときに前記クランク角センサの出力により検出された前記クランクシャフトの過去の角度位置、及び、前記油圧センサにより検出された前記油圧に基づいて、前記クランクシャフトの現在の角度位置を推定する油圧式角度位置推定部と
、
前記エンジンの停止動作開始時に前記クランクシャフトの回転速度及び前記油圧を記憶する記憶部とを備え、
前記油圧式角度位置推定部は、前記記憶部に記憶された前記油圧と現在の油圧との差分を用いて、前記クランクシャフトの回転速度の低下量を推定し、前記回転速度の低下量に基づく前記クランクシャフトの回転周期から前記クランクシャフトが所定の角度位置となるタイミングを推定し、前記回転周期及び前記タイミングに基づいて前記クランクシャフトの現在の角度位置を推定すること
を特徴とするクランク角検出装置。
【請求項2】
前記クランク角センサの出力により検出される前記クランクシャフトの角度位置と、前記油圧式角度位置推定部により推定される前記クランクシャフトの角度位置とを、前記クランク角センサの出力の状態に応じて切換えて出力する出力選択部を有すること
を特徴とする請求項
1に記載のクランク角検出装置。
【請求項3】
前記クランク角センサの出力により検出される前記クランクシャフトの角度位置と、前記油圧式角度位置推定部により推定される前記クランクシャフトの角度位置とを、前記エンジンの運転状態に応じて切換えて出力する出力選択部を有すること
を特徴とする請求項
1に記載のクランク角検出装置。
【請求項4】
前記エンジンの吸気管圧力を検出する吸気圧センサと、
前記吸気圧センサにより検出された前記吸気管圧力に基づいて、前記クランクシャフトの角度位置を推定する吸気圧式角度位置推定部とを備え、
前記クランク角センサの出力により検出される前記クランクシャフトの角度位置と、前記油圧式角度位置推定部により推定される前記クランクシャフトの角度位置と、前記吸気圧式角度位置推定部により推定される前記クランクシャフトの角度位置とを、前記クランク角センサの出力の状態及び前記吸気圧センサの検出状態に応じて切換えて出力する出力選択部を有すること
を特徴とする請求項
1に記載のクランク角検出装置。
【請求項5】
前記エンジンの吸気管圧力を検出する吸気圧センサと、
前記吸気圧センサにより検出された前記吸気管圧力に基づいて、前記クランクシャフトの角度位置を推定する吸気圧式角度位置推定部とを備え、
前記クランク角センサの出力により検出される前記クランクシャフトの角度位置と、前記油圧式角度位置推定部により推定される前記クランクシャフトの角度位置と、前記吸気圧式角度位置推定部により推定される前記クランクシャフトの角度位置とを、前記エンジンの運転状態に応じて切換えて出力する出力選択部を有すること
を特徴とする請求項
1に記載のクランク角検出装置。
【請求項6】
前記クランク角センサの出力により検出される前記クランクシャフトの角度位置と、前記油圧式角度位置推定部により推定される前記クランクシャフトの角度位置とに、前記クランク角センサの出力の状態に応じた所定の重み付けをして得た前記クランクシャフトの
角度位置を出力する重み付け演算部を有すること
を特徴とする請求項
1に記載のクランク角検出装置。
【請求項7】
前記クランク角センサの出力により検出される前記クランクシャフトの角度位置と、前記油圧式角度位置推定部により推定される前記クランクシャフトの角度位置とに、前記エンジンの運転状態に応じた所定の重み付けをして得た前記クランクシャフトの角度位置を出力する重み付け演算部を有すること
を特徴とする請求項
1に記載のクランク角検出装置。
【請求項8】
前記エンジンの吸気管圧力を検出する吸気圧センサと、
前記吸気圧センサにより検出された前記吸気管圧力に基づいて、前記クランクシャフトの角度位置を推定する吸気圧式角度位置推定部とを備え、
前記クランク角センサの出力により検出される前記クランクシャフトの角度位置と、前記油圧式角度位置推定部により推定される前記クランクシャフトの角度位置と、前記吸気圧式角度位置推定部により推定される前記クランクシャフトの角度位置とに、前記クランク角センサの出力の状態及び前記吸気圧センサの検出状態に応じた所定の重み付けをして得た前記クランクシャフトの角度位置を出力する重み付け演算部を有すること
を特徴とする請求項
1に記載のクランク角検出装置。
【請求項9】
前記エンジンの吸気管圧力を検出する吸気圧センサと、
前記吸気圧センサにより検出された前記吸気管圧力に基づいて、前記クランクシャフトの角度位置を推定する吸気圧式角度位置推定部とを備え、
前記クランク角センサの出力により検出される前記クランクシャフトの角度位置と、前記油圧式角度位置推定部により推定される前記クランクシャフトの角度位置と、前記吸気圧式角度位置推定部により推定される前記クランクシャフトの角度位置とに、前記エンジンの運転状態に応じた所定の重み付けをして得た前記クランクシャフトの角度位置を出力する重み付け演算部を有すること
を特徴とする請求項
1に記載のクランク角検出装置。
【請求項10】
エンジン及び前記エンジンのクランクシャフトに負荷トルクを与えることが可能な回転電機を有するパワートレーンを制御するパワートレーン制御装置であって、
前記エンジンを停止する際に前記回転電機が前記エンジンに与える負荷トルクを制御する回転電機制御部を備え、
前記回転電機制御部は、前記エンジンの停止直前における前記クランクシャフトの回転速度降下中に、請求項1から請求項
9までのいずれか1項に記載のクランク角検出装置により検出されたクランクシャフトの角度位置に基づいて前記回転電機により前記クランクシャフトに周期的に負荷トルクを与える負荷トルク制御を行なうこと
を特徴とするパワートレーン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのクランク角(クランクシャフトの回転角度位置)を検出するクランク角検出装置、及び、エンジン及び回転電機を有するパワートレーンを制御するパワートレーン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば乗用車等の自動車に搭載されるエンジンにおいて、運転を停止する際に、出力軸であるクランクシャフトの回転数(回転速度)が、アイドル状態から停止状態まで下降する途中で、エンジンと車体との共振が発生し、振動が大きくなる領域が存在する。
このような振動が発生すると、車体振動によって車両の快適性が損なわれ、特に走行中頻繁にエンジンの停止及び再始動を行うエンジン電気ハイブリッド車両においては問題となりやすい。
これに対し、エンジンのクランクシャフトに負荷トルク(バックトルク・逆転方向のトルク)を与えることが可能なモータジェネレータ等の回転電機を有するエンジン-電気ハイブリッド車両において、エンジンの停止時にクランクシャフトに所定波形の負荷トルクを周期的に与えることにより、振動の抑制を図ることが提案されている。
【0003】
モータジェネレータの制御によりエンジン停止時の共振を防止すること等に関する従来技術として、例えば、特許文献1には、ハイブリッド車両におけるアイドルストップによるエンジン停止時の共振による車体の振動を抑制するため、エンジン回転数と発生する振動周波数との関係、エンジン回転数とオイルポンプ発生可能油圧との関係、及び、制動力が大きい場合のエンジン回転数とトルクとの関係により、モータジェネレータのトルク制御を行うことが記載されている。
特許文献2には、ハイブリッド車両の走行モードの切り換え時に、共振を抑制しつつエンジンを停止させるため、エンジン回転数が閾値以下となるようにトルク制御を行ない、エンジンの逆回転側へのオーバーシュートを防止することが記載されている。
特許文献3には、電動機との協調制御で内燃機関を迅速に停止させるため、エンジン回転数が停止直前回転数に達するまでエンジンの回転を抑制するよう電動機のトルクを設定し、回転数が停止直前回転数に達したタイミングでピストンを保持するトルクに切り替わるよう設定することが記載されている。
特許文献4には、低回転域のモータ回転数を検出不能な回転センサを用いた場合であっても良好なモータ制御を可能とするため、モータ回転数が所定回転数よりも低い場合には回転センサレス制御部にて制御するように切り替えるとともに、回転センサレス制御部は高速直接トルク制御を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-132147号公報
【文献】特開2016- 2992号公報
【文献】特開2009-144564号公報
【文献】特開平 9-219906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エンジンの運転を停止するときに、クランクシャフトの角度位置(クランク角)をクランク角センサの出力により検出し、角度位置に基づいて推定される周期的なフリクション変化に応じて、クランクシャフトに付加されるバックトルクを可変させることにより、早期に回転速度を降下させるとともに回転速度変動を抑制し、振動の抑制を図ることができる。
クランク角センサは、一般にクランクシャフトに取り付けられるセンサプレートの外周縁部に形成される凹凸の通過を、クランクケース側に固定された磁気ピックアップにより検出することによって、クランクシャフトの回転に応じて電圧が周期的に変動する信号を発生する磁気式の角度センサである。
【0006】
しかし、クランクシャフトの回転速度が減速する過程で、エンジンと車体との共振が発生し、クランク角センサのセンサプレートに過大な振動が発生すると、クランク角センサの出力信号に乱れが生じ、クランク角の検出不良が発生する場合があった。
クランク角センサの検出不良が発生すると、クランクシャフトに負荷トルクを与える制御の精度が悪化し、過度な負荷トルクによってクランクシャフトが逆回転してしまうなどの問題が懸念される。
【0007】
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、過大な振動が発生した場合であっても適切にクランクシャフトの角度位置を検出することが可能なクランク角検出装置を提供することである。
また、他の課題は、過大な振動が発生した場合であってもクランクシャフトに適切な負荷トルクを与えることが可能なパワートレーン制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1に係る発明は、エンジンのクランクシャフトの角度位置を検出するクランク角検出装置であって、前記クランクシャフトの回転に応じた信号を出力するクランク角センサと、前記クランクシャフトの回転と連動してオイルを吐出するオイルポンプと、前記オイルポンプが吐出した前記オイルの油圧を検出する油圧センサと、前記クランク角センサの出力に異常が生じた場合又は前記異常が生じる可能性が高い場合に、前記クランク角センサが正常であるときに前記クランク角センサの出力により検出された前記クランクシャフトの過去の角度位置、及び、前記油圧センサにより検出された前記油圧に基づいて、前記クランクシャフトの現在の角度位置を推定する油圧式角度位置推定部と、前記エンジンの停止動作開始時に前記クランクシャフトの回転速度及び前記油圧を記憶する記憶部とを備え、前記油圧式角度位置推定部は、前記記憶部に記憶された前記油圧と現在の油圧との差分を用いて、前記クランクシャフトの回転速度の低下量を推定し、前記回転速度の低下量に基づく前記クランクシャフトの回転周期から前記クランクシャフトが所定の角度位置となるタイミングを推定し、前記回転周期及び前記タイミングに基づいて前記クランクシャフトの現在の角度位置を推定することを特徴とするクランク角検出装置である。
クランクシャフトと連動するオイルポンプを用いる場合、吐出されるオイルの油圧は、クランクシャフトの回転速度と相関(例えば比例関係)を有する。したがって、油圧の低下量から、クランクシャフトの回転速度の低下を算出することができる。クランクシャフトの回転速度低下量を得られれば、クランクシャフトが特定の角度位置となる周期を演算することが可能である。
例えば、ある気筒が圧縮上死点となるタイミングを、ある時点までクランク角センサの出力により検出していれば、その後クランク角センサの出力に問題が生じたとしても、油圧に基づいて算出されるクランクシャフトの回転速度変化を用いて、クランクシャフトが例えば720°回転するのに必要な時間を算出し、次に当該気筒が圧縮上死点となるタイミングを推定することができる。
したがって、本発明によれば、エンジンの共振などにより、エンジンに過大な振動が発生してクランク角センサの出力によるクランクシャフトの角度位置の検出に支障が生じた場合であっても、油圧センサにより検出されたオイルポンプの吐出油圧に基づいて、クランクシャフトの回転速度を推定することにより、クランクシャフトが所定の角度位置となる周期を予測してクランクシャフトの角度位置を適切に推定することができる。
【0009】
また、エンジンの停止動作開始時に記憶されたクランクシャフトの回転速度及び油圧をもとに、クランクシャフトの回転速度低下に起因する油圧の低下量からクランクシャフトの回転速度を精度よく推定し、推定された回転速度を用いてクランクシャフトの角度位置を適切に推定することができる。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記クランク角センサの出力により検出される前記クランクシャフトの角度位置と、前記油圧式角度位置推定部により推定される前記クランクシャフトの角度位置とを、前記クランク角センサの出力の状態に応じて切換えて出力する出力選択部を有することを特徴とする請求項1に記載のクランク角検出装置である。
これによれば、クランク角センサの出力の状態に異常が発生した場合には、クランク角検出装置の出力を油圧に基づいて推定されるクランクシャフトの角度位置に切り換えることにより、検出状態が正常なセンサの出力に基づくクランクシャフトの角度位置を選択し
、過大な振動が発生した場合であっても、クランクシャフトの角度位置を適切に出力することができる。
【0011】
請求項3に係る発明は、前記クランク角センサの出力により検出される前記クランクシャフトの角度位置と、前記油圧式角度位置推定部により推定される前記クランクシャフトの角度位置とを、前記エンジンの運転状態に応じて切換えて出力する出力選択部を有することを特徴とする請求項1に記載のクランク角検出装置である。
これによれば、エンジンの運転状態が、過大な振動が発生し得る状態である場合には、クランク角検出装置の出力を油圧に基づいて推定されるクランクシャフトの角度位置に切り換えることにより、検出状態が正常である可能性が高いセンサの出力に基づくクランクシャフトの角度位置を選択し、過大な振動が発生した場合であっても、クランクシャフトの角度位置を適切に出力することができる。
エンジンの運転状態を示すパラメータとして、例えば、クランクシャフトの回転速度(いわゆるエンジン回転数)を利用することができる。
例えば、クランクシャフトの回転速度がエンジンの共振が発生し得る範囲である場合には、油圧式角度位置推定部により推定されるクランクシャフトの角度位置を選択し、それ以外の場合にはクランク角センサにより検出されるクランクシャフトの角度位置を選択することができる。
【0012】
請求項4に係る発明は、前記エンジンの吸気管圧力を検出する吸気圧センサと、前記吸気圧センサにより検出された前記吸気管圧力に基づいて、前記クランクシャフトの角度位置を推定する吸気圧式角度位置推定部とを備え、前記クランク角センサの出力により検出される前記クランクシャフトの角度位置と、前記油圧式角度位置推定部により推定される前記クランクシャフトの角度位置と、前記吸気圧式角度位置推定部により推定される前記クランクシャフトの角度位置とを、前記クランク角センサの出力の状態及び前記吸気圧センサの検出状態に応じて切換えて出力する出力選択部を有することを特徴とする請求項1に記載のクランク角検出装置である。
吸気管内圧力は、各気筒における吸気バルブの開弁時期、閉弁時期に応じて周期的な変動を示し、特にエンジン停止直前のように、スロットルバルブが閉じられて負圧が深い状態においては圧力変動が顕著となることから、吸気管内圧力の変動パターンに基づいてクランクシャフトの角度位置を推定することが可能である。
一方で、クランクシャフトの回転速度等のエンジンの運転状態によっては、吸気管内の圧力変動に乱れが生じ、クランクシャフトの角度位置の角度位置の推定に支障が生じる場合もあり得る。
この点、本発明によれば、クランク角センサの出力の状態、吸気圧センサの検出状態に応じて、クランク角センサにより検出されるクランクシャフトの角度位置、吸気管圧力に基づいて推定されるクランクシャフトの角度位置、油圧に基づいて推定されるクランクシャフトの角度位置を切り換えることにより、検出状態が正常なセンサの出力に基づくクランクシャフトの角度位置を選択し、過大な振動が発生した場合であっても、クランクシャフトの角度位置を適切に出力することができる。
【0013】
請求項5に係る発明は、前記エンジンの吸気管圧力を検出する吸気圧センサと、前記吸気圧センサにより検出された前記吸気管圧力に基づいて、前記クランクシャフトの角度位置を推定する吸気圧式角度位置推定部とを備え、前記クランク角センサの出力により検出される前記クランクシャフトの角度位置と、前記油圧式角度位置推定部により推定される前記クランクシャフトの角度位置と、前記吸気圧式角度位置推定部により推定される前記クランクシャフトの角度位置とを、前記エンジンの運転状態に応じて切換えて出力する出力選択部を有することを特徴とする請求項1に記載のクランク角検出装置である。
これによれば、エンジンの運転状態に応じて、クランク角センサにより検出されるクラ
ンクシャフトの角度位置、吸気管圧力に基づいて推定されるクランクシャフトの角度位置、油圧に基づいて推定されるクランクシャフトの角度位置を切り換えることにより、検出状態が正常である可能性が高いセンサの出力に基づくクランクシャフトの角度位置を選択し、過大な振動が発生した場合であっても、クランクシャフトの角度位置を適切に出力することができる。
【0014】
請求項6に係る発明は、前記クランク角センサの出力により検出される前記クランクシャフトの角度位置と、前記油圧式角度位置推定部により推定される前記クランクシャフトの角度位置とに、前記クランク角センサの出力の状態に応じた所定の重み付けをして得た前記クランクシャフトの角度位置を出力する重み付け演算部を有することを特徴とする請求項1に記載のクランク角検出装置である。
これによれば、クランク角センサの出力の状態に異常が発生した場合には、油圧に基づいて推定されるクランクシャフトの角度位置の重み(重み係数)を大きくすることにより、検出状態が正常であるセンサの出力に基づくクランクシャフトの角度位置の重みを大きくし、過大な振動が発生した場合であっても、クランクシャフトの角度位置を適切に出力することができる。
【0015】
請求項7に係る発明は、前記クランク角センサの出力により検出される前記クランクシャフトの角度位置と、前記油圧式角度位置推定部により推定される前記クランクシャフトの角度位置とに、前記エンジンの運転状態に応じた所定の重み付けをして得た前記クランクシャフトの角度位置を出力する重み付け演算部を有することを特徴とする請求項1に記載のクランク角検出装置である。
これによれば、エンジンの運転状態が、過大な振動が発生し得る状態である場合には、油圧に基づいて推定されるクランクシャフトの角度位置の重みを大きくすることにより、検出状態が正常である可能性が高いセンサの出力に基づくクランクシャフトの角度位置の重みを大きくし、過大な振動が発生した場合であっても、クランクシャフトの角度位置を適切に出力することができる。
【0016】
請求項8に係る発明は、前記エンジンの吸気管圧力を検出する吸気圧センサと、前記吸気圧センサにより検出された前記吸気管圧力に基づいて、前記クランクシャフトの角度位置を推定する吸気圧式角度位置推定部とを備え、前記クランク角センサの出力により検出される前記クランクシャフトの角度位置と、前記油圧式角度位置推定部により推定される前記クランクシャフトの角度位置と、前記吸気圧式角度位置推定部により推定される前記クランクシャフトの角度位置とに、前記クランク角センサの出力の状態及び前記吸気圧センサの検出状態に応じた所定の重み付けをして得た前記クランクシャフトの角度位置を出力する重み付け演算部を有することを特徴とする請求項1に記載のクランク角検出装置である。
これによれば、クランク角センサの出力の状態、吸気圧センサの検出状態に応じて、クランク角センサにより検出されるクランクシャフトの角度位置、吸気管圧力に基づいて推定されるクランクシャフトの角度位置、油圧に基づいて推定されるクランクシャフトの角度位置の重みを変化させることにより、検出状態が正常であるセンサの出力に基づくクランクシャフトの角度位置の重みを大きくし、過大な振動が発生した場合であっても、クランクシャフトの角度位置を適切に出力することができる。
【0017】
請求項9に係る発明は、前記エンジンの吸気管圧力を検出する吸気圧センサと、前記吸気圧センサにより検出された前記吸気管圧力に基づいて、前記クランクシャフトの角度位置を推定する吸気圧式角度位置推定部とを備え、前記クランク角センサの出力により検出される前記クランクシャフトの角度位置と、前記油圧式角度位置推定部により推定される前記クランクシャフトの角度位置と、前記吸気圧式角度位置推定部により推定される前記クランクシャフトの角度位置とに、前記エンジンの運転状態に応じた所定の重み付けを
して得た前記クランクシャフトの角度位置を出力する重み付け演算部を有することを特徴とする請求項1に記載のクランク角検出装置である。
これによれば、エンジンの運転状態に応じて、クランク角センサにより検出されるクランクシャフトの角度位置、吸気管圧力に基づいて推定されるクランクシャフトの角度位置、油圧に基づいて推定されるクランクシャフトの角度位置の重みを変化させることにより、検出状態が正常である可能性が高いセンサの出力に基づくクランクシャフトの角度位置の重みを大きくし、過大な振動が発生した場合であっても、クランクシャフトの角度位置を適切に出力することができる。
【0018】
請求項10に係る発明は、エンジン及び前記エンジンのクランクシャフトに負荷トルクを与えることが可能な回転電機を有するパワートレーンを制御するパワートレーン制御装置であって、前記エンジンを停止する際に前記回転電機が前記エンジンに与える負荷トルクを制御する回転電機制御部を備え、前記回転電機制御部は、前記エンジンの停止直前における前記クランクシャフトの回転速度降下中に、請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載のクランク角検出装置により検出されたクランクシャフトの角度位置に基づいて前記回転電機により前記クランクシャフトに周期的に負荷トルクを与える負荷トルク制御を行なうことを特徴とするパワートレーン制御装置である。
これによれば、エンジンの共振などに起因する過大な振動により、クランク角センサ等によってクランクシャフトの角度位置を直接検出できない場合であっても、上記各手法により適切に検出(推定)されたクランクシャフトの角度位置に基づいて負荷トルクを制御することにより、オーバーシュートによるエンジンの逆回転を防止するとともに、エンジン停止時の振動を効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、過大な振動が発生した場合であっても適切にクランクシャフトの角度位置を検出することが可能なクランク角検出装置を提供することができる。
また、本発明によれば、過大な振動が発生した場合であってもクランクシャフトに適切な負荷トルクを与えることが可能なパワートレーン制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明を適用したクランク角検出装置の第1実施形態が設けられるエンジンの構成を示す図である。
【
図2】
図1のエンジンを有する車両のパワートレーンの構成を示す図である。
【
図3】
図1のエンジンの潤滑装置の構成を模式的に示すブロック図である。
【
図4】第1実施形態におけるエンジン停止時のエンジンフリクションとモータトルクの推移の一例を示すグラフである。
【
図5】クランク角センサの出力値(電圧)及びデジタル変換値の推移の一例を示すグラフである。
【
図6】第1実施形態のクランク角検出装置及びパワートレーン制御装置におけるエンジン停止時のクランク角検出及び負荷トルク制御を示すフローチャートである。
【
図7】エンジン停止時のエンジン回転数及び油圧の推移の一例を模式的に示す図である。
【
図8】本発明を適用したクランク角検出装置及びパワートレーン制御装置の第2実施形態における吸気圧センサの出力波形の一例を示すグラフである。
【
図9】第2実施形態のクランク角検出装置及びパワートレーン制御装置におけるエンジン停止時のクランク角検出及び負荷トルク制御を示すフローチャートである。
【
図10】本発明を適用したエンジン制御装置の第3実施形態におけるクランクシャフト回転数に応じた制御領域分けを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を適用したクランク角検出装置及びパワートレーン制御装置の実施形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態のクランク角検出装置及びパワートレーン制御装置が設けられるエンジンの構成を示す図である。
エンジン1は、例えば乗用車等の自動車に走行用動力源として搭載される4ストローク水平対向4気筒の直噴(筒内噴射)ガソリンエンジンである。
エンジン1の出力は、後述する動力伝達機構を介して、車両の駆動輪に伝達される。
【0022】
エンジン1は、出力軸である図示しないクランクシャフトの前端部側(変速機と反対側・縦置き搭載時における前側・
図1における上側)から、順次配列された第1気筒10、第2気筒20、第3気筒30、第4気筒40を有する。
エンジン1は、例えば、クランクシャフトが車両の前後方向に沿って縦置き配置される。
第1気筒10、第3気筒30は、車幅方向右側に配置された右バンク、第2気筒20、第4気筒40は、車幅方向左側に配置された左バンクに設けられている。
【0023】
第1気筒10と第2気筒20、第3気筒30と第4気筒40は、各気筒のクランクピンのオフセット量だけずらした状態で、クランクシャフトを挟んで対向して配置されている。
エンジン1における点火順序(爆発順序)は、第1気筒10、第3気筒30、第2気筒20、第4気筒40の順に設定され、クランク角において180°毎に等間隔で点火(燃焼)するようになっている。
【0024】
第1気筒10、第2気筒20、第3気筒30、第4気筒40は、それぞれシリンダ、ピストン、燃焼室、吸排気ポート、吸排気バルブ、動弁駆動機構などの他、インジェクタ11,21,31,41、点火栓12,22,32,42等を有する。
インジェクタ11,21,31,41は、各気筒の燃焼室内に、霧化されたガソリンを直接噴射する噴射装置である。
インジェクタ11,21,31,41の燃料噴射量及び燃料噴射時期は、エンジン1の運転状態に応じてエンジン制御ユニット100によって制御されている。
インジェクタ11,21,31,41は、図示しない燃料ポンプによって加圧された燃料が導入され蓄圧されるとともに、エンジン制御ユニット100から与えられる噴射信号に応じて開弁し、燃料を噴射する。
【0025】
点火栓12,22,32,42は、各気筒内で形成された混合気を、電気的なスパークによって着火させるものである。
点火栓12,22,32,42の点火時期は、エンジン制御ユニット100によって制御されている。
【0026】
また、エンジン1は、吸気装置50、排気装置60、さらに図示しないバルブタイミング可変装置、冷却装置、EGR装置等を有する。
吸気装置50は、各気筒に燃焼用空気(新気)を導入するものである。
吸気装置50は、外気(大気)を燃焼用空気として導入する図示しないインテークダクト、ダスト等の異物を濾過する図示しないエアクリーナ、さらにスロットルバルブ51、インテークマニホールド52、吸気圧センサ53等を有する。
【0027】
スロットルバルブ51は、エンジン1の出力調整のため空気流量を制御するものである。
スロットルバルブ51は、電動アクチュエータによって開閉されるバタフライバルブ(スロットルバルブ)を有する電動スロットルであり、ドライバのアクセル操作に応じて設定される要求トルクに応じて、エンジン制御ユニット100によって開度を制御される。
インテークマニホールド52は、スロットルバルブ51を通過した空気を、各気筒の吸気ポートに導入する分岐管である。
吸気圧センサ53は、インテークマニホールド52内の圧力(吸気管負圧)を検出する圧力センサである。
吸気圧センサ53の出力は、逐次エンジン制御ユニット100に伝達される。
【0028】
排気装置60は、各気筒10,20,30,40の燃焼室から、排気ポートを経由して排出される排ガス(既燃ガス)を排出するものである。
排気装置60は、エキゾーストマニホールド61、エキゾーストパイプ62、触媒コンバータ63、サイレンサ64、空燃比センサ65、リアO2センサ66等を有して構成されている。
【0029】
エキゾーストマニホールド61は、各気筒10,20,30,40の排気ポートから出た排ガスを集合させる集合管である。
エキゾーストパイプ62は、エキゾーストマニホールド61において集合した排ガスを外部へ排出する管路である。
【0030】
触媒コンバータ63は、エキゾーストパイプ62の中間部に設けられた排ガス後処理装置である。
触媒コンバータ63は、例えばアルミナ等の担体に白金、ロジウム、パラジウム等の貴金属を担持させた三元触媒である。
触媒コンバータ63は、エンジン1の空燃比がストイキ近傍となる所定の活性領域において、排ガス中のHC、CO、NOXを低減する機能を有する。
【0031】
サイレンサ64は、エキゾーストパイプ62における触媒コンバータ63の下流側(出口側)に設けられ、音響エネルギを低減させる消音器である。
【0032】
空燃比センサ65は、触媒コンバータ63の入口近傍に設けられ、エンジン1における空燃比に応じて異なった出力電圧を発生するものである。
エンジン制御ユニット100は、空燃比センサ65の出力に応じて、エンジン1における空燃比が三元触媒の活性範囲内となるように燃料噴射量を設定する空燃比フィードバック制御を行う。
【0033】
リアO2センサ66は、触媒コンバータ63の出口近傍に設けられ、排ガス中のO2濃度に応じて異なった出力電圧を発生するものである。
リアO2センサ66の出力はエンジン制御ユニット100に伝達される。
【0034】
エンジン1は、さらに、クランク角センサ70、水温センサ80等を有する。
クランク角センサ70は、エンジン1の出力軸である図示しないクランクシャフトの角度位置(クランク角・CA)を検出するための信号を出力する磁気式のセンサである。
クランク角センサ70は、センサプレート71、ポジションセンサ72等を有して構成されている。
【0035】
センサプレート71は、クランクシャフトの後端部に固定された円盤状の部材であって、外周縁部には所定の角度間隔で複数のベーン(歯)が放射状に突き出して形成されたスプロケット状の形状となっている。
ポジションセンサ72は、センサプレート71の外周縁部に対向して配置された磁気ピックアップであり、マグネット、コア、コイル、ターミナル等を有する。
ポジションセンサ72は、直前をセンサプレート71のベーンが通過した際に、出力電圧が変動するようになっている。この出力電圧がクランク角センサ70の出力信号となる。この出力電圧を二値化することにより、パルス状の信号を生成することが可能である。
パルス信号の周期は、クランクシャフトの回転速度に反比例することから、エンジン制御ユニット100は、クランク角センサ70の出力に基づいて、エンジン1の回転数(クランクシャフト回転速度)を演算可能となっている。
また、エンジン制御ユニット100は、基準となるクランク角において得られるパルス信号からのパルス信号の個数をカウントすることによって、クランクシャフトの角度位置を検出可能となっている。
【0036】
水温センサ80は、シリンダヘッド及びシリンダに形成された冷却水流路であるウォータージャケット内を流れる冷却水(クーラント)の温度を検出するものである。
クランク角センサ70、水温センサ80の出力は、エンジン制御ユニット100に伝達される。
【0037】
エンジン制御ユニット(ECU)100は、エンジン1及びその補器類を統括的に制御する制御装置である。
また、エンジン制御ユニット100は、エンジン1の停止時に車体の振動を抑制するために、モータジェネレータ制御ユニット220と協調制御を行い、モータジェネレータ190によりクランクシャフトに負荷トルクを与える機能を備えている。この点に関しては、後に詳しく説明する。
エンジン制御ユニット100は、例えば、CPU等の情報処理装置、RAMやROM等の記憶装置、入出力インターフェイス及びこれらを接続するバス等を有して構成されている。
エンジン制御ユニット100は、例えば、ドライバのアクセル操作等に基づいて設定される要求トルクに応じて、実際のトルクが要求トルクに達するようスロットルバルブの開度、燃料噴射量、燃料噴射時期、点火時期、バルブタイミング等を制御する。
【0038】
エンジン制御ユニット100は、クランク角検出部101(
図2参照)を有する。
クランク角検出部101は、クランク角センサ70、油圧センサ350等の出力に基づいて、クランクシャフトの角度位置を検出又は推定するクランク角検出装置である。
クランク角検出部101の機能については、後に詳しく説明する。
【0039】
エンジン1の出力は、以下説明する動力伝達機構を介して各車輪に伝達される。
図2は、
図1のエンジンを有する車両のパワートレーンの構成を示す図である。
図2に示すように、車両は、トルクコンバータ110、エンジンクラッチ120、前後進切替部130、バリエータ140、出力クラッチ150、フロントディファレンシャル160、リアディファレンシャル170、トランスファクラッチ180、モータジェネレータ190、トランスミッション制御ユニット210、モータジェネレータ制御ユニット220等を備えたエンジン電気ハイブリッドのAWD車両である。
【0040】
トルクコンバータ110は、エンジン1の出力をエンジンクラッチ120に伝達する流体継手である。
トルクコンバータ110は、車両が停止状態からエンジントルクを伝達可能な発進デバイスとしての機能を有する。
また、トルクコンバータ110は、トランスミッション制御ユニット210によって制御され、入力側(インペラ側)と出力側(タービン側)とを直結する図示しないロックアップクラッチを備えている。
【0041】
エンジンクラッチ120は、トルクコンバータ110と前後進切替部130との間に設けられ、これらの間の動力伝達経路を接続又は切断するものである。
エンジンクラッチ120は、例えば、車両がモータジェネレータ190の出力のみによって走行するEV走行モード時等において、トランスミッション制御ユニット210からの指令に応じて切断される。
【0042】
前後進切替部130は、エンジンクラッチ120とバリエータ140との間に設けられ、トルクコンバータ110とバリエータ140とを直結する前進モードと、トルクコンバータ110の回転出力を逆転させてバリエータ140に伝達する後退モードとを、トランスミッション制御ユニット210からの指令に応じて切り換えるものである。
前後進切替部130は、例えば、プラネタリギヤセット等を有して構成されている。
【0043】
バリエータ140は、前後進切替部130から伝達されるエンジン1の回転出力、及び、モータジェネレータ190の回転出力を、無段階に変速する変速機構部である。
バリエータ140は、例えば、プライマリプーリ141、セカンダリプーリ142、チェーン143等を有するチェーン式無段変速機(CVT)である。
プライマリプーリ141は、車両の駆動時におけるバリエータ140の入力側(回生発電時においては出力側)に設けられ、エンジン1及びモータジェネレータ190の回転出力が入力される。
セカンダリプーリ142は、車両の駆動時におけるバリエータ140の出力側(回生発電時においては入力側)に設けられている。
セカンダリプーリ142は、プライマリプーリ141と隣接しかつプライマリプーリ141の回転軸と平行な回転軸回りに回動可能となっている。
チェーン143は、環状に形成されてプライマリプーリ141及びセカンダリプーリ142に巻き掛けられ、これらの間で動力伝達を行うものである。
プライマリプーリ141及びセカンダリプーリ142は、それぞれチェーン143を挟持する一対のシーブを有するとともに、トランスミッション制御ユニット210による変速制御に応じて各シーブ間の間隔を変更することによって、有効径を無段階に変更可能となっている。
【0044】
出力クラッチ150は、バリエータ140のセカンダリプーリ142と、フロントディファレンシャル160及びトランスファクラッチ180との間に設けられ、これらの間の動力伝達経路を接続又は切断するものである。
出力クラッチ150は、車両の走行時には通常接続状態とされるとともに、例えば車両の停車中にエンジン1の出力によってモータジェネレータ190を駆動してバッテリの充電を行う場合等に切断される。
【0045】
フロントディファレンシャル160は、出力クラッチ150から伝達される駆動力を、左右の前輪に伝達するものである。
フロントディファレンシャル160は、最終減速装置、及び、左右前輪の回転速度差を吸収する差動機構を備えている。
出力クラッチ150とフロントディファレンシャル160との間は、直結されている。
【0046】
リアディファレンシャル170は、出力クラッチ150から伝達される駆動力を、左右の後輪に伝達するものである。
リアディファレンシャル170は、最終減速装置、及び、左右後輪の回転速度差を吸収する差動機構を備えている。
【0047】
トランスファクラッチ180は、出力クラッチ150からリアディファレンシャル170へ駆動力を伝達する後輪駆動力伝達機構の途中に設けられ、これらの間の動力伝達経路を接続又は切断するものである。
トランスファクラッチ180は、例えば、接続時の締結力(伝達トルク容量)を無段階に変更可能な油圧式あるいは電磁式の湿式多板クラッチである。
トランスファクラッチ180の締結力は、トランスミッション制御ユニット210によって制御されている。
トランスファクラッチ180は、締結力を変更することによって、前後輪の駆動トルク配分を調節可能となっている。
また、トランスファクラッチ180は、車両の旋回時や、ブレーキのアンチロック制御、車両挙動制御などの実行時に、前後輪の回転速度差を許容する必要がある場合には、締結力を低下(開放)させスリップさせることによって回転速度差を吸収する。
【0048】
モータジェネレータ190は、車両の駆動力を発生するとともに、減速時に車輪側から伝達されるトルクによって回生発電を行い、エネルギ回生を行う回転電機である。
モータジェネレータ190は、バリエータ140のプライマリプーリ141と同心(同軸上)に設けられている。
プライマリプーリ141は、モータジェネレータ190の図示しないロータと回転軸を介して接続されている。
モータジェネレータ190として、例えば、永久磁石式同期電動機が用いられる。
モータジェネレータ190は、モータジェネレータ制御ユニット220によって駆動時の出力トルクや回生発電時の回生エネルギ量(入力トルク)を制御されている。
【0049】
トランスミッション制御ユニット210は、トルクコンバータ110のロックアップクラッチ、エンジンクラッチ120、前後進切替部130、バリエータ140、出力クラッチ150、トランスファクラッチ180等を統括的に制御するものである。
モータジェネレータ制御ユニット220は、モータジェネレータ190の出力トルクや回生エネルギ量等を制御する回転電機制御部である。
これらの各ユニットは、それぞれCPU等の情報処理手段、RAMやROM等の記憶手段、入出力インターフェイス、及び、これらを接続するバス等を有して構成されている。
また、エンジン制御ユニット100、トランスミッション制御ユニット210、モータジェネレータ制御ユニット220は、例えば車載LANシステムの一種であるCAN通信システム等を介して、相互に通信し、必用な情報の伝達が可能となっている。
エンジン制御ユニット100、トランスミッション制御ユニット210、モータジェネレータ制御ユニット220は、協働して本発明を適用したパワーユニット制御装置の第1実施形態を構成する。
【0050】
また、エンジン1は、以下説明する潤滑装置を備えている。
潤滑装置は、エンジン1内の軸受部や摺動部に潤滑油(エンジンオイル)を供給するものである。
図3は、
図1のエンジンの潤滑装置の構成を模式的に示すブロック図である。
図3に示すように、潤滑装置300は、オイルパン310、オイルストレーナ320、オイルポンプ330、オイルフィルタ340、油圧センサ350等を有して構成されている。
【0051】
オイルパン310は、エンジン1のシリンダブロック(右側シリンダブロックRB、左側シリンダブロックLB)の下部に設けられたトレイ状の部材である。
オイルパン310は、エンジン1の潤滑油であり、かつ、可変バルブタイミング機構やハイドロリックラッシュアジャスタの作動油であるオイルが貯留されるものである。
オイルパン310には、オイルの温度(油温)を検出する油温センサ311が設けられている。
油温センサ311の出力は、エンジン制御ユニット100に伝達される。
【0052】
オイルストレーナ320は、オイルポンプ330の吸入口に接続されたオイルの取入部である。
オイルストレーナ320の入口側の端部は、オイルパン310の内部に配置されている。
オイルストレーナ320は、例えば金網等のスクリーンによって、オイル中の比較的大きい異物片を除去する機能を有する。
【0053】
オイルポンプ330は、オイルストレーナ320を介して取り入れられたオイルを、加圧してエンジン1の各部に搬送(圧送)するものである。
オイルポンプ330は、例えば、エンジン1のクランクシャフトによって駆動され、クランクシャフトの回転速度に比例する吐出量を有するトロコイドロータ型のものである。
オイルポンプ330は、ポンプボディ内で組み合わされたインナロータ、及び、アウタロータを有する。
インナロータは、クランクシャフトの回転と連動して、アウタロータに対して回転するようになっている。
また、オイルポンプ330は、吐出側の油圧が過大となることを防止する図示しないリリーフバルブを備えている。
【0054】
オイルフィルタ340は、例えばペーパエレメントを用いて、オイルポンプ330が吐出するオイルを濾過するフルフロー・カートリッジ式のものである。
オイルフィルタ340から出たオイルは、右側シリンダブロックRB、左側シリンダブロックLBの内部に形成されたオイルギャラリ(油路)にそれぞれ圧送される。
【0055】
油圧センサ350は、オイルポンプ330からオイルフィルタ340にオイルを搬送する油路に設けられ、オイルポンプ350が吐出するオイルの圧力(油圧)を検出する圧力センサである。
油圧センサ350の出力は、エンジン制御ユニット100に伝達される。
【0056】
右側シリンダブロックRB、左側シリンダブロックLBに供給されたオイルの一部は、ジャーナルベアリング、及び、コネクティングロッドベアリングに供給されてこれらのベアリングを潤滑する。
その後、このオイルは、潤滑対象部から漏出した後に、自然落下によってオイルパン310に戻る。
また、一部のオイルは、飛沫によってコネクティングロッドの小端部や、シリンダ内壁部を潤滑する。
【0057】
右側シリンダブロックRBに供給されたオイルの他の一部は、右側シリンダヘッドRHにも供給され、動弁駆動系等を潤滑した後、オイルパン310に戻る。
左側シリンダブロックLBに供給されたオイルの他の一部は、左側シリンダヘッドLHにも供給され、動弁駆動系等を潤滑した後、オイルパン310に戻る。
【0058】
以上説明したパワートレーンにおいて、エンジン制御ユニット100は、例えばエンジン1の動力を利用した走行モードから、モータジェネレータ190の動力のみによって走行するEV走行モードに切り替える場合等に、エンジン1の運転を自動的に停止する。
エンジン制御ユニット100は、エンジン1の運転を停止する際に、モータジェネレータ制御ユニット220と協働し、モータジェネレータ190によってクランクシャフトに負荷トルク(バックトルク)を周期的に付加し、車体振動を抑制する負荷トルク制御を実行する。モータジェネレータ制御ユニット220は、本発明にいう負荷トルク制御手段として機能する。
この点について、以下詳細に説明する。
【0059】
図4は、第1実施形態におけるエンジン停止時のエンジンフリクションとモータトルクの推移の一例を示すグラフである。
縦軸はエンジンのクランクシャフトを回転させる際のフリクション、及び、モータジェネレータからクランクシャフトに付加されるバックトルク(逆転方向のトルク)を示し、横軸はクランクシャフトの角度位置(クランク角)を示している。
上図に示すように、エンジンのフリクションは周期的に変動し、いずれかの気筒における圧縮上死点近傍において極大となる。
【0060】
第1実施形態の場合には、エンジン1は、等間隔爆発の水平対向4気筒であることから、クランク角にして180°ごとにフリクションは極大となる。
これに対し、下図に示すように、クランクシャフトに負荷(バックトルク)を与えるモータトルクは周期的に変動し、例えばクランク角にして180°周期の三角波状となるように制御される。
このような制御により、効果的に振動を抑制するためには、モータトルクを発生させるタイミングは、エンジンフリクションの増減と極力正確に同期させる必要がある。
【0061】
通常は、クランク角センサ70の出力により検出されるクランク角に基づいてフリクションの増減を予測し、モータトルクを付加するタイミングを制御すればよいが、クランクシャフトの回転速度がアイドル回転から降下する過程で、エンジン1と車体との共振が発生すると、クランク角センサ70のセンサプレート71が激しく振動してクランク角を正常に検出できない場合がある。
図5は、クランク角センサの出力(電圧)及びデジタル変換値の推移の一例を示すグラフである。
縦軸はクランク角センサ70のポジションセンサ72の出力電圧及びこれを二値化したデジタル変換値を示し、横軸は実際のクランク角を示している。
【0062】
クランク角センサ70が正常な状態(センサプレート71の振動が比較的小さい状態)においては、ポジションセンサ72の出力(電圧)は、センサプレート71の外周縁部に形成された凹凸に対応した信号となる。
この信号を二値化してカウントすることによって、クランク角を検出することができる。
しかし、
図5における領域Aにおいては、センサプレート71に比較的大きい振動が発生し、ポジションセンサ72の出力波形は不規則な状態となってデジタル変換値が正常に得られなくなっている。
このような状態になると、クランク角を正常に検出することが困難となり、オーバーシュートによりクランクシャフトに対して過剰なバックトルクを付加してエンジン1を逆回転させてしまう等の問題が懸念される。
【0063】
上述した問題に対応するため、第1実施形態においては、クランク角センサ70によるクランク角の検出に支障が生じた場合に、油圧センサ350により検出される油圧を利用してクランク角を推定している。
クランク角検出部101は、油圧に基づいてクランク角を推定する油圧式角度位置推定部、及び、クランク角センサ70の出力により検出されるクランク角と、油圧に基づいて推定されるクランク角とを、クランク角センサ70の出力の状態に応じて切換えて出力する出力選択部として機能する。
図6は、第1実施形態のクランク角検出装置及びパワートレーン制御装置におけるエンジン停止時のクランク角検出及び負荷トルク制御を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0064】
<ステップS101:エンジン停止フラグ判断>
クランク角検出部101は、エンジン制御ユニット100においてエンジン停止動作時に設定されるエンジン停止フラグが、オフからオンへ推移したか否かを判別する。
エンジン停止フラグは、例えば、車両の停車時に自動的にエンジンを停止するアイドルストップ制御の実行時や、エンジンを用いたHV走行モードから電動モータのみを用いたEV走行モードへの切り換え時等にオフからオンへ推移する。
エンジン停止フラグがオフからオンへ推移している場合はステップS102に進み、その他の場合はS103に進む。
【0065】
<ステップS102:エンジン回転数・油圧検出値保持>
クランク角検出部101は、クランク角センサ70の出力に基づいて算出される現在のエンジン回転数(クランクシャフトの回転速度)、及び、油圧センサ350により検出された現在の油圧の検出値を、メモリに保持する。
その後、ステップS103に進む。
【0066】
<ステップS103:クランクシャフト減速中判断>
クランク角検出部101は、クランクシャフトがエンジン停止に伴う減速中(回転速度低下中)であるか否かを判別する。
例えば、エンジン停止フラグがオフである場合や、エンジン停止が完了しクランクシャフトが停止した場合等は、クランクシャフトの回転速度が減速中でないと判定される。
クランクシャフトの回転速度が減速中である場合はステップS104に進み、その他の場合は一連の処理を終了する。
【0067】
<ステップS104:クランク角センサ出力取得>
クランク角検出部101は、クランク角センサ70の出力信号を取得し、その履歴をメモリに記録する。
その後、ステップS105に進む。
【0068】
<ステップS105:クランク角センサ出力判断>
クランク角検出部101は、クランク角センサ70の出力履歴において、
図5の領域Aのような異常がないか判別する。
クランク角センサ70の出力履歴が正常である場合はステップS106に進み、異常が発生している場合はステップS108に進む。
【0069】
<ステップS106:クランク角センサの出力によりクランク角を検出>
クランク角検出部101は、クランク角センサ70の出力に基づいて検出されたクランクシャフトの角度位置(クランク角)をエンジン制御ユニット100に出力する。
その後、ステップS107に進む。
【0070】
<ステップS107:モータ負荷トルク制御実行>
エンジン制御ユニット100は、クランク角検出部101が出力したクランク角に基づいて予測されるエンジン1のフリクションに応じて、モータジェネレータ制御ユニット220に負荷トルク(バックトルク)を指示する。
モータジェネレータ制御ユニット220は、エンジン制御ユニット100からの指示に応じてモータジェネレータ190に負荷トルクを発生させる。
このとき、トランスミッション制御ユニット210は、エンジンクラッチ120を締結しかつ出力クラッチ150を開放された状態とする。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0071】
<ステップS108:油圧センサ出力取得>
クランク角検出部101は、現在の油圧センサ350の出力(油圧)を取得し、メモリに保持する。
その後、ステップS109に進む。
【0072】
<ステップS109:油圧センサ出力判断>
クランク角検出部101は、油圧センサ350の出力に異常があるか否かを判別する。
例えば、現在のエンジン回転数において想定される出力値の範囲を逸脱している場合には、油圧センサ350自体や、その配線等に何らかの異常(故障)が発生していると判別する。
油圧センサ350の出力が正常である場合はステップS110に進み、異常である場合は一連の処理を終了(リターン)する。
【0073】
<ステップS110:油圧に基づくエンジン回転数推定>
クランク角検出部101は、油圧センサ350の出力に基づいて、エンジン回転数を推定する。
図7は、エンジン停止時のエンジン回転数及び油圧の推移の一例を模式的に示す図である。
図7において、横軸は時間を示し、縦軸はエンジン回転数及び油圧を示している。
例えば600乃至800rpm程度のアイドル回転数でのアイドリング状態から、燃料噴射及び点火を中止してエンジンを停止した場合、エンジン回転数と油圧とは、比例した状態でともに降下する。
このような特性を利用して、例えば、ステップS102において取得された油圧に対する現在の油圧の低下量(メモリに保持された油圧と現在の油圧との差分)に応じて算出されるエンジン回転数低下量を、ステップS102において取得されたエンジン回転数から減じることによって、現在のエンジン回転数を推定することができる。
エンジン回転数を推定した後、ステップS111に進む。
【0074】
<ステップS111:推定されたエンジン回転数に基づくクランク角算出>
クランク角検出部101は、ステップS110において推定されたエンジン回転数に基づいて、クランク角を算出する。
例えば、ステップS104において、クランク角センサ70の出力が正常であるうちに取得した出力信号に基づいて検出されたクランク角を基準として、ステップS110において推定されたエンジン回転数から求められる回転周期を利用して、現在のクランク角を算出し、所定の気筒が上死点、下死点となるタイミングを算出することができる。
クランク角検出部101が油圧に基づいて算出したクランク角をエンジン制御ユニット100に出力した後、ステップS107に進む。
【0075】
以上説明した第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)エンジン1の共振などにより、エンジン1に過大な振動が発生してクランク角センサ70の出力によるクランクシャフトの角度位置の検出に支障が生じた場合であっても、油圧センサ350により検出されたオイルポンプの吐出油圧に基づいてクランクシャフトの回転速度を推定することにより、クランクシャフトが所定の角度位置となる周期を予測することが可能となり、クランクシャフトの角度位置を適切に推定することができる。
(2)エンジン1の停止動作開始時すなわちクランク角の推定を行う直前に記憶されたクランクシャフトの回転速度及び油圧を基準として、クランクシャフトの回転速度低下に起因する油圧の低下量からクランクシャフトの回転速度を精度よく推定し、推定された回転速度を用いてクランクシャフトの角度位置を適切に推定することができる。
(3)クランク角センサ70の出力信号に異常が発生した場合には、クランク角検出部101の出力を、油圧に基づいて推定されるクランクシャフトの角度位置に切り換えることにより、過大な振動が発生した場合であっても適切なクランクシャフトの角度位置の検出(推定)を行なうことができる。
(4)エンジン1の共振などに起因する過大な振動により、クランク角センサ70の出力によってクランクシャフトの角度位置を検出できない場合であっても、油圧に基づいて適切に検出(推定)されるクランクシャフトの角度位置に基づいて負荷トルクを制御することにより、オーバーシュートによるエンジン1の逆回転を防止するとともに、エンジン停止時の振動を効果的に抑制することができる。
【0076】
<第2実施形態>
次に、本発明を適用したクランク角検出装置及びパワートレーン制御装置の第2実施形態について説明する。
以下説明する各実施形態において、従前の実施形態と共通する箇所については同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
【0077】
第2実施形態においては、クランク角センサ70、油圧センサ350に加えて、吸気圧センサ53の出力も利用してクランク角を検出(推定)することを特徴とする。
クランク角検出部101は、吸気管圧力に基づいてクランク角を推定する吸気圧式角度位置推定部としての機能を有する。
図8は、吸気圧センサの出力波形の一例を示すグラフである。
図8において、縦軸は吸気圧センサ53の出力電圧(上方ほど負圧大)、横軸はクランク角を示している。
インテークマニホールド52内の吸気管負圧は、いずれかの気筒が吸気行程にあるときに周期的に増大する。
負圧が極大となるタイミングは特定のクランク角と一致することから、吸気圧センサ53の出力値を利用して、クランク角(ピストンの位置)を推定することが可能である。
クランク角が推定できれば、エンジン1のフリクションが変化するタイミングを推定することが可能となる。
特に、エンジン停止動作中のように、スロットルバルブ51が全閉であるときは、各気筒の吸気負圧が大きく、またクランクシャフト回転数もアイドル回転以下の低回転であることから、吸気圧センサ53の出力を利用したクランク角のセンシングは比較的容易であり、クランク角センサ70の正常時よりは劣るものの、モータジェネレータ190の負荷トルク制御には十分な精度を有する。
【0078】
図9は、第2実施形態のクランク角検出装置及びパワートレーン制御装置におけるエンジン停止時のクランク角検出及び負荷トルク制御を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0079】
<ステップS201:エンジン停止フラグ判断>
クランク角検出部101は、エンジン停止フラグがオフからオンへ推移したか否かを判別する。
エンジン停止フラグがオフからオンへ推移している場合はステップS202に進み、その他の場合はS203に進む。
【0080】
<ステップS202:エンジン回転数・油圧検出値保持>
クランク角検出部101は、クランク角センサ70の出力に基づいて算出される現在のエンジン回転数、及び、油圧センサ350により検出された現在の油圧の検出値を、メモリに保持する。
その後、ステップS203に進む。
【0081】
<ステップS203:クランクシャフト減速中判断>
クランク角検出部101は、クランクシャフトの回転速度がエンジン停止に伴う減速中であるか否かを判別する。
クランクシャフトの回転速度が減速中である場合はステップS204に進み、その他の場合は一連の処理を終了する。
【0082】
<ステップS204:クランク角センサ出力取得>
クランク角検出部101は、クランク角センサ70の出力信号を取得し、その履歴をメモリに記録する。
その後、ステップS205に進む。
【0083】
<ステップS205:クランク角センサ出力判断>
クランク角検出部101は、クランク角センサ70の出力履歴に異常がないか判別する。
クランク角センサ70の出力履歴が正常である場合はステップS206に進み、異常が発生している場合はステップS208に進む。
【0084】
<ステップS206:クランク角センサの出力によりクランク角を検出>
クランク角検出部101は、クランク角センサ70の出力により検出されたクランクシャフトの角度位置(クランク角)をエンジン制御ユニット100に出力する。
その後、ステップS207に進む。
【0085】
<ステップS207:モータ負荷トルク制御実行>
エンジン制御ユニット100は、クランク角検出部101が出力したクランク角に基づいて予測されるエンジン1のフリクションに応じて、モータジェネレータ制御ユニット220に負荷トルク(バックトルク)を指示する。
モータジェネレータ制御ユニット220は、エンジン制御ユニット100からの指示に応じてモータジェネレータ190に負荷トルクを発生させる。
このとき、トランスミッション制御ユニット210は、エンジンクラッチ120を締結しかつ出力クラッチ150を開放された状態とする。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0086】
<ステップS208:吸気圧センサ出力取得>
クランク角検出部101は、現在の吸気圧センサ53の出力(吸気管圧力)を取得し、メモリに保持する。
その後、ステップS209に進む。
【0087】
<ステップS209:吸気圧センサ出力判断>
クランク角検出部101は、吸気圧センサ53の出力に異常があるか否かを判別する。
例えば、インテークマニホールド52内で一部の気筒からの吹き返しなどによる圧力の乱れ等があり、クランク角の推定が困難である場合には、吸気圧センサ53の出力に異常が発生していると判別する。
また、現在のエンジン回転数やスロットル開度において想定される出力値の範囲を逸脱している場合には、吸気圧センサ53自体や、その配線等に何らかの異常(故障)が発生していると判別する。
吸気圧センサ53の出力が正常である場合はステップS210に進み、異常である場合はステップS211に進む。
【0088】
<ステップS210:吸気管圧力に基づくクランク角推定>
クランク角検出部101は、ステップS208において取得された吸気圧センサ53の出力履歴に基づいて、クランク角を推定する。
その後、ステップS207に進む。
【0089】
<ステップS211:油圧センサ出力取得>
クランク角検出部101は、現在の油圧センサ350の出力(油圧)を取得し、メモリに保持する。
その後、ステップS212に進む。
【0090】
<ステップS212:油圧センサ出力判断>
クランク角検出部101は、油圧センサ350の出力に異常があるか否かを判別する。
油圧センサ350の出力が正常である場合はステップS213に進み、異常である場合は一連の処理を終了(リターン)する。
【0091】
<ステップS213:油圧に基づくエンジン回転数推定>
クランク角検出部101は、油圧センサ350の出力に基づいて、エンジン回転数を推定する。
エンジン回転数を推定した後、ステップS214に進む。
【0092】
<ステップS214:推定されたエンジン回転数に基づくクランク角算出>
クランク角検出部101は、ステップS213において推定されたエンジン回転数に基づいて、クランク角を算出する。
クランク角検出部101が油圧に基づいて算出したクランク角をエンジン制御ユニット100に出力した後、ステップS207に進む。
【0093】
以上説明した第2実施形態によれば、上述した第1実施形態の効果と同様の効果に加えて、吸気管圧力に基づくクランクシャフトの角度位置推定を併用するとともに、クランク角センサ70の出力の状態、吸気圧センサ53の検出状態に応じて、クランク角センサ70の出力により検出されるクランクシャフトの角度位置、吸気管圧力に基づいて推定されるクランクシャフトの角度位置、油圧に基づいて推定されるクランクシャフトの角度位置を切り換えることにより、クランクシャフトの角度位置の検出及び推定精度を高め、より適切なエンジン停止時の負荷トルク制御を行なうことができる。
【0094】
<第3実施形態>
次に、本発明を適用したクランク角検出装置及びパワートレーン制御装置の第3実施形態について説明する。
第3実施形態においては、エンジン停止時にクランクシャフトの回転速度(回転数)に応じて、クランク角センサ70の出力により検出されるクランク角と、油圧センサ350の出力から推定されるクランク角とに、所定の重み付けを行って演算したクランク角に基づいて負荷トルク制御を行っている。
第3実施形態においては、クランク角検出部101は、重み付け演算部としての機能を有する。
【0095】
図10は、本発明を適用したエンジン制御装置の第3実施形態におけるクランクシャフト回転数に応じた制御領域分けを示す図である。
第3実施形態においては、クランクシャフト回転数の低下による領域1~4の推移に応じて、クランク角検出手法及び負荷トルク制御の内容を順次変更している。
【0096】
領域1(例えば、800~500rpm)は、エンジン1の共振域に入っていない領域である。
領域1においては、第1実施形態のステップS106と同様に、クランク角センサ70の出力により検出されるクランク角に基づいて負荷トルク制御を行う。
【0097】
領域2(例えば、500~300rpm)は、エンジンの共振点を通過する領域である。
この領域では、クランク角センサ70のセンサプレート71がエンジン1の振動の影響を受け、クランク角の検出が困難となることが懸念される。
この領域では、第1実施形態のステップS111と同様に、油圧センサ350の出力に基づいて推定されるクランク角に基づいて負荷トルク制御を行う。
【0098】
領域3(例えば、300~150rpm)は、エンジン1の共振点を通過する領域から脱する過渡領域である。
この領域では、クランク角センサ70の出力によりクランク角を検出するとともに、油圧センサ350の出力に基づいてクランク角を推定し、それらを併用して、負荷トルク制御に用いるクランク角を演算する。
例えば、以下のように回転領域により各クランク角の重み(重視度合)を変更する。
(1)300~250rpm クランク角センサ:油圧センサ=3:7
(2)250~200rpm クランク角センサ:油圧センサ=5:5
(3)200~150rpm クランク角センサ:油圧センサ=7:3
例えば、重みが3:7である場合、クランク角センサ70の出力により検出されたクランク角と、油圧センサ350の出力に基づいて推定されたクランク角との間を、7:3に内分する点に相当する値を制御に用いるクランク角とする。
【0099】
領域4(例えば、150~0rpm)は、エンジン1の共振域に入っていないエンジン停止直前の領域である。
領域1においては、第1実施形態のステップS106と同様に、クランク角センサ70の出力により検出されるクランク角に基づいて負荷トルク制御を行う。
【0100】
以上説明した第3実施形態によれば、上述した第1実施形態の効果と同様の効果に加え、エンジン1の運転状態が、過大な振動が発生し得る状態である場合には、予め油圧に基づいて推定されたクランクシャフトの角度位置の重みを大きくすることにより、過大な振動が発生した場合であっても適切な出力を行なうことができる。
【0101】
<第4実施形態>
次に、本発明を適用したクランク角検出装置及びパワートレーン制御装置の第4実施形態について説明する。
第4実施形態においては、吸気圧センサ53の出力(吸気管圧力)に基づくクランク角の推定を行うとともに、クランク角センサ70の出力によるクランク角の検出、及び、油圧センサ350の出力(油圧)に基づくクランク角の推定を行い、それらにエンジン回転数に応じた所定の重み付けを行って合成し、得られたクランク角に基づいて、モータ負荷トルク制御を行っている。
【0102】
例えば、エンジン1が共振域に入っていない場合には、クランク角センサ70の出力により検出されたクランク角の重みを大きくし、共振域に入っている場合には、油圧、吸気管圧力に基づいて推定されたクランク角の重みを大きくする。
エンジン1が共振域に入っている場合であって、吸気管圧力の乱れが比較的軽微である場合には、吸気管圧力に基づいて推定されたクランク角の重みを大きくし、油圧に基づいて推定されたクランク角の重みを小さくする。
また、エンジン1が共振域に入っている場合であって、吸気管圧力に乱れが発生する領域においては、吸気管圧力に基づいて推定されたクランク角の重みを小さくし、油圧に基づいて推定されたクランク角の重みを大きくする。
【0103】
以上説明した第4実施形態によれば、上述した第3実施形態の効果と同様の効果に加え、クランク角センサ70によるクランクシャフトの角度位置検出に支障がある場合に、吸気管圧力に基づくクランクシャフトの角度位置の推定精度が高い場合にはその重みを大きくして油圧に基づく推定値の重みを小さくし、吸気管圧力に乱れがあり吸気管圧力に基づくクランクシャフトの角度位置の推定精度が低い場合にはその重みを小さくして油圧に基づく推定値の重みを大きくすることにより、クランクシャフトの角度位置の検出及び推定精度を高め、より適切な負荷トルク制御を行なうことができる。
【0104】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)エンジン、モータジェネレータ等のパワートレーンの構成や、クランク角検出装置、パワートレーン制御装置の構成は、上述した実施形態に限定されず適宜変更することができる。
例えば、各実施形態においてエンジンはガソリンエンジンであったが、本発明はエンジンとしてガソリン以外の燃料を用いる予混合火花点火エンジンや、予混合圧縮着火(HCCI)エンジン、ディーゼルエンジン等の各種エンジンのクランク角検出や、このようなエンジンとモータジェネレータとを有するパワートレーンの制御にも用いることができる。
また、エンジンの気筒数、シリンダレイアウト、燃料噴射方式、過給の有無、過給機の種類等も特に限定されない。
(2)第1、第2実施形態においては、クランク角センサの出力や吸気圧センサの出力に異常があった場合に、負荷トルク制御に用いるクランク角を油圧等に基づいて推定されるクランク角に切り換える構成としているが、クランク角センサの出力や吸気圧センサの出力に異常が発生するエンジンの運転状態(例えばエンジン回転数)が既知である場合には、エンジンの運転状態に応じて切り換えるようにしてもよい。
(3)第3、第4実施形態においては、エンジンの運転状態(エンジン回転数)に応じて、クランク角センサの出力により検出されるクランク角、油圧等に基づいて推定されるクランク角の重みを変化させているが、クランク角センサの出力や吸気圧センサの出力に異常があった場合に、異常がないセンサに基づいて検出、推定されるクランク角の重みを大きくするようにしてもよい。
(4)各実施形態においては、車両の駆動力発生及び回生発電を行なうモータジェネレータによりエンジンのクランクシャフトに負荷トルクを与えているが、回転電気を有するパワーユニットの構成はこれに限定されず、例えば発電のみを行なうジェネレータや、充電制御機能を有するオルタネータによりバックトルクを発生させるようにしてもよい。
また、バックトルクの波形も一例として
図4に示したような三角波状に限らず、適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0105】
1 エンジン 10 第1気筒
11 インジェクタ 12 点火栓
20 第2気筒 21 インジェクタ
22 点火栓 30 第3気筒
31 インジェクタ 32 点火栓
40 第4気筒 41 インジェクタ
42 点火栓 50 吸気装置
51 スロットルバルブ 52 インテークマニホールド
53 吸気圧センサ 60 排気装置
61 エキゾーストマニホールド 62 エキゾーストパイプ
63 触媒コンバータ 64 サイレンサ
65 空燃比センサ 66 リアO2センサ
70 クランク角センサ 71 センサプレート
72 ポジションセンサ 80 水温センサ
100 エンジン制御ユニット(ECU)
101 クランク角検出部 110 トルクコンバータ
120 エンジンクラッチ 130 前後進切替部
140 バリエータ 141 プライマリプーリ
142 セカンダリプーリ 143 チェーン
150 出力クラッチ
160 フロントディファレンシャル 170 リアディファレンシャル
180 トランスファクラッチ 190 モータジェネレータ
210 トランスミッション制御ユニット
220 モータジェネレータ制御ユニット
300 潤滑装置 310 オイルパン
311 油温センサ 320 ストレーナ
330 オイルポンプ 340 オイルフィルタ
350 油圧センサ
RB 右側シリンダブロック LB 左側シリンダブロック
RH 右側シリンダヘッド LH 左側シリンダヘッド