(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-12
(45)【発行日】2022-10-20
(54)【発明の名称】二重鋼管コンクリート杭およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/30 20060101AFI20221013BHJP
【FI】
E02D5/30 A
(21)【出願番号】P 2019167515
(22)【出願日】2019-09-13
【審査請求日】2021-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000228660
【氏名又は名称】日本コンクリート工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【氏名又は名称】山田 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【氏名又は名称】樺澤 襄
(72)【発明者】
【氏名】本間 雅人
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】実開昭53-001904(JP,U)
【文献】特開昭63-007497(JP,A)
【文献】特開2016-223208(JP,A)
【文献】特開2018-003433(JP,A)
【文献】特開昭57-143011(JP,A)
【文献】特開2018-184822(JP,A)
【文献】特開2019-105156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/22- 5/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外殻鋼管と、
この外殻鋼管の内部に位置する内殻鋼管と、
前記外殻鋼管と前記内殻鋼管との間の少なくとも一方の端部を閉塞する端板と、
前記外殻鋼管と、前記内殻鋼管と、前記端板とにより囲まれる空間部にセメント系材料が充填されて形成された杭本体部と
、
板状に形成され、前記外殻鋼管と前記内殻鋼管との間にて径方向に放射状となるように前記内殻鋼管の外周面に軸方向に沿って配置されて前記杭本体部に埋め込まれた軸方向鋼材と、
を備えることを特徴とする二重鋼管コンクリート杭
。
【請求項2】
外殻鋼管と内殻鋼管との間に周方向に沿って配置されて杭本体部に埋め込まれた周方向鋼材を備える
ことを特徴とする請求項
1記載の二重鋼管コンクリート杭
。
【請求項3】
外殻鋼管の内部に内殻鋼管を配置するとともに、前記外殻鋼管および前記内殻鋼管の一方の端部に、これら外殻鋼管および内殻鋼管の間を閉塞する端板を取り付け、
前記外殻鋼管および前記内殻鋼管の他方の端部にこれら外殻鋼管と内殻鋼管との間隔を保持する治具を取り付け、
前記内殻鋼管の外周面に軸方向に沿って板状の軸方向鋼材を径方向に放射状に組み付けて直立状態とした前記外殻鋼管および前記内殻鋼管の
上側となる他方の端部から、前記外殻鋼管と、前記内殻鋼管と、前記端板とにより囲まれる空間部に
注入手段によりセメント系材料を注入し、前記空間部に充填した前記セメント系材料を固化させる
ことを特徴とする二重鋼管コンクリート杭の製造方法
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント系材料により形成された杭本体部と鋼管とを組み合わせた二重鋼管コンクリート杭およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、外殻鋼管の内側にコンクリート層を形成する鋼管複合杭(SC杭)が知られている。このような鋼管複合杭の強度をさらに高める方法としては、外殻鋼管の内面に遠心力によりコンクリートを形成し、その中空部に内殻鋼管を挿入し、コンクリート層と内殻鋼管との隙間にモルタルを充填したもの(例えば、特許文献1参照)、あるいは、コンクリート層の内側に全長の1/4以上の長さを有する円筒補強部材を配置し、円筒補強部材とコンクリート層との隙間に低強度のセメント系充填材を充填することで円筒補強部材とコンクリート層とを一体化したものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
これらの鋼管複合杭の場合、鋼管の製作、コンクリートの打設、遠心力成形および養生、鋼管の挿入および保持、充填材の漏れ防止用の治具の設置、充填材の充填および養生などの工程が必要であり、製造工程が複雑になるうえに製造期間が長くなる。
【0004】
また、外殻鋼管内にコンクリートを打設し、遠心力成形を行うため、コンクリート層の内面にはコンクリートの分離によるレイタンス層が形成される。そのため、コンクリート層と充填材との十分な付着を得るために、レイタンス層を除去する工程などがさらに必要になる。
【0005】
他方、閉鎖断面の中空鋼製柱内にコンクリートを充填した、コンクリート充填鋼管構造(CFT)も知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
しかしながら、この構成の場合、中空構造となっていないため、既製杭として杭穴に挿入することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】実開昭54-58619号公報
【文献】特許第6542035号公報
【文献】実開昭49-53508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、製造期間を短縮し、強度を向上しつつ、既製杭として使用可能な杭が求められている。
【0009】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、短期で容易に製造でき、十分な強度を確保できるとともに、既製杭として使用できる二重鋼管コンクリート杭およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の二重鋼管コンクリート杭は、外殻鋼管と、この外殻鋼管の内部に位置する内殻鋼管と、前記外殻鋼管と前記内殻鋼管との間の少なくとも一方の端部を閉塞する端板と、前記外殻鋼管と、前記内殻鋼管と、前記端板とにより囲まれる空間部にセメント系材料が充填されて形成された杭本体部と、板状に形成され、前記外殻鋼管と前記内殻鋼管との間にて径方向に放射状となるように前記内殻鋼管の外周面に軸方向に沿って配置されて前記杭本体部に埋め込まれた軸方向鋼材と、を備えるものである。
【0011】
請求項2記載の二重鋼管コンクリート杭は、請求項1記載の二重鋼管コンクリート杭において、外殻鋼管と内殻鋼管との間に周方向に沿って配置されて杭本体部に埋め込まれた周方向鋼材を備えるものである。
【0012】
請求項3記載の二重鋼管コンクリート杭の製造方法は、外殻鋼管の内部に内殻鋼管を配置するとともに、前記外殻鋼管および前記内殻鋼管の一方の端部に、これら外殻鋼管および内殻鋼管の間を閉塞する端板を取り付け、前記外殻鋼管および前記内殻鋼管の他方の端部にこれら外殻鋼管と内殻鋼管との間隔を保持する治具を取り付け、前記内殻鋼管の外周面に軸方向に沿って板状の軸方向鋼材を径方向に放射状に組み付けて直立状態とした前記外殻鋼管および前記内殻鋼管の上側となる他方の端部から、前記外殻鋼管と、前記内殻鋼管と、前記端板とにより囲まれる空間部に注入手段によりセメント系材料を注入し、前記空間部に充填した前記セメント系材料を固化させるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、二重鋼管コンクリート杭を短期で容易に製造でき、十分な強度を確保できるとともに、既製杭として使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(a)は本発明の第1の実施の形態の二重鋼管コンクリート杭を示す横断面図、(b)は同上二重鋼管コンクリート杭を示す縦断面図である。
【
図2】同上二重鋼管コンクリート杭の製造方法を示す断面図である。
【
図3】(a)は本発明の第2の実施の形態の二重鋼管コンクリート杭を示す横断面図、(b)は同上二重鋼管コンクリート杭を示す縦断面図である。
【
図4】(a)は本発明の第3の実施の形態の二重鋼管コンクリート杭を示す横断面図、(b)は同上二重鋼管コンクリート杭を示す縦断面図である。
【
図5】(a)は本発明の第4の実施の形態の二重鋼管コンクリート杭を示す横断面図、(b)は同上二重鋼管コンクリート杭を示す縦断面図である。
【
図6】(a)は本発明の第5の実施の形態の二重鋼管コンクリート杭を示す横断面図、(b)は同上二重鋼管コンクリート杭を示す縦断面図である。
【
図7】同上二重鋼管コンクリート杭の製造方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の第1の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
図1(a)および
図1(b)において、1は二重鋼管コンクリート杭である。二重鋼管コンクリート杭1は、外殻鋼管2と、内殻鋼管3とを備え、これら外殻鋼管2および内殻鋼管3の少なくとも一方の端部、本実施の形態では両端部が端板4によって閉塞されているとともに、これら外殻鋼管2と、内殻鋼管3と、端板4とにより囲まれる空間部5に杭本体部6が充填されている。
【0017】
外殻鋼管2は、所定の厚さおよび強度、所定の径寸法、および、所定の長さを有する直線円筒状に形成されている。
【0018】
内殻鋼管3は、所定の厚さおよび強度、外殻鋼管2よりも小さい所定の径寸法、および、外殻鋼管2と等しいまたは略等しい所定の長さを有する直線円筒状に形成されている。
【0019】
外殻鋼管2と内殻鋼管3とは、互いに同軸または略同軸で、かつ、両端部が互いに一致または略一致するように配置されている。すなわち、外殻鋼管2の内方に内殻鋼管3が離れて位置している。そのため、二重鋼管コンクリート杭1の中央部には、内殻鋼管3により周囲が囲まれる中空部8が形成されている。つまり、中空部8は、二重鋼管コンクリート杭1の中心軸に沿って位置している。中空部8は、二重鋼管コンクリート杭1の両端部間に亘り直線状に形成されており、両端部が二重鋼管コンクリート杭1の外部と連通している。
【0020】
端板4は、円環状に形成された円板部材である。端板4は、外縁部4aが外殻鋼管2の外径と同一寸法、内縁部4bが内殻鋼管3の外径と同一寸法となっている。端板4は、外殻鋼管2と内殻鋼管3との両端部にそれぞれ溶接などによって一体的に固定されている。端板4は、二重鋼管コンクリート杭1の使用状態において、この二重鋼管コンクリート杭1の上端部と下端部とに位置する。各端板4は、例えば二重鋼管コンクリート杭1を他の杭と接続する際に用いられる接続体となる。
【0021】
杭本体部6は、セメント系材料Cが空間部5に充填されて硬化されて形成されている。すなわち、杭本体部6は、空間部5全体に充填されている。杭本体部6の外周は、外殻鋼管2の内周面全体に隙間なく密着し、杭本体部6の内周は、内殻鋼管3の外周面全体に隙間なく密着し、かつ、杭本体部6の両端部は、端板4全体にそれぞれ隙間なく密着している。つまり、空間部5の内部には、杭本体部6との間に空隙部などが形成されていない。杭本体部6は、外殻鋼管2、内殻鋼管3、および、端板4と一体化されている。杭本体部6の厚さは、外殻鋼管2の内径寸法と、内殻鋼管3の外径寸法とに応じて決定される。
【0022】
本実施の形態において、セメント系材料Cは、コンクリートまたはモルタルが使用される。好ましくは、セメント系材料Cは、中流動あるいは高流動コンクリートといった、流動性と分離抵抗性との高いコンクリートが使用される。セメント系材料Cは、60~140N/mm2の圧縮強度を有している。また、セメント系材料Cは、スランプが18cm以上、または、スランプフローが50cm以上である。セメント系材料Cは、好ましくは膨張性を有している。
【0023】
次に、第1の実施の形態の二重鋼管コンクリート杭1の製造方法について説明する。
【0024】
まず、
図2に示すように、予め形成された外殻鋼管2の内部に、別途予め形成された内殻鋼管3を同軸状に配置するとともに、外殻鋼管2および内殻鋼管3の両端部に、別途予め形成された端板4をそれぞれ取り付けて、二重管構造の中間体M1を形成する。
【0025】
この中間体M1の外殻鋼管2と、内殻鋼管3と、端板4,4とにより囲まれる空間部5に対し、脱気しつつセメント系材料Cを注入する。空間部5内の空気や余剰水は、中間体M1の一方の端板4に設けた排出口11から排出される。また、セメント系材料Cは、他方の端板4に設けた注入口12から空間部5内に注入される。排出口11と注入口12とは、好ましくは外殻鋼管2の中心軸、内殻鋼管3の中心軸、または、中間体M1の中心軸に対し、互いに反対側に位置している。つまり、排出口11が外殻鋼管2の中心軸、内殻鋼管3の中心軸、または、中間体M1の中心軸に対し一側にある場合、注入口12は外殻鋼管2の中心軸、内殻鋼管3の中心軸、または、中間体M1の中心軸に対し他側にあることが好ましい。
【0026】
そして、中間体M1は、一方の端板4側を上側とし、他方の端板4側を下側とする。好ましくは、中間体M1は、注入口12を中心軸の下側、排出口11を中心軸の上側とする。すなわち、中間体M1は、注入口12を排出口11よりも下側とする。さらに好ましくは、中間体M1は、注入口12が他方の端板4の最下部に位置し、排出口11が一方の端板4の最上部に位置するように配置する。図示される例では、中間体M1は、例えば支持体15を用い、一方の端板4側を上側とし、他方の端板4側を下側とするように傾斜させ、注入口12を排出口11よりも下側とした状態で支持する。これにより、下側の端板4に設けた注入口12からセメント系材料Cが空間部5に充填されるにしたがい、空間部5内の空気や余剰水がセメント系材料Cによって排出口11から徐々に押し出され、セメント系材料Cが外殻鋼管2および内殻鋼管3に対し密着していく。
【0027】
排出口11や注入口12は、パイプ状に形成されて端板4に着脱可能に接続されてもよいし、端板4に直接開口されていてもよい。
【0028】
この後、排出口11および注入口12を閉塞し、空間部5に充填したセメント系材料Cを養生し、固化させて杭本体部6を形成する。
【0029】
このように、第1の実施の形態によれば、外殻鋼管2の内部に内殻鋼管3を配置し、外殻鋼管2および内殻鋼管3の両端部に端板4を取り付け、一方の端板4に設けた排出口11から、外殻鋼管2と、内殻鋼管3と、端板4とにより囲まれる空間部5を脱気しつつ、他方の端板4に設けた注入口12から、空間部5にセメント系材料Cを注入し、空間部5に充填したセメント系材料Cを固化させて杭本体部6を形成することで二重鋼管コンクリート杭1を製造する。そのため、遠心力成形、鋼管の挿入、充填材の充填などの工程が必要ないので、二重鋼管コンクリート杭1を短期で容易に製造できる。
【0030】
また、空間部5にセメント系材料Cを注入するときに、注入口12を設けた他方の端板4側を下側とすることで、注入口12からセメント系材料Cが空間部5に注入されるにしたがい、セメント系材料Cよりも比重が小さい空気や余剰水を、上側に位置する一方の端板4に設けた排出口11から容易に排出できる。特に、空間部5にセメント系材料Cを注入するときに、注入口12を排出口11よりも下側とすることで、注入口12からセメント系材料Cが空間部5に注入されるにしたがい、セメント系材料Cよりも比重が小さい空気や余剰水を、排出口11から、より確実に排出できる。そのため、杭本体部6と空間部5を囲む外殻鋼管2、内殻鋼管3、および、端板4との間に空隙が生じにくく、杭本体部6を外殻鋼管2、内殻鋼管3および端板4に対して確実に密着させることができる。
【0031】
さらに、杭本体部6を非遠心成形するため、セメント系材料Cは、含まれるセメント、混和材および減水剤の種類と量を適宜選択することで容易に高流動化することが可能であり、セメント系材料Cを自重によって空間部5に空隙を残すことなく確実に充填でき、良好な作業性を得ることができる。
【0032】
すなわち、外殻鋼管2、杭本体部6および内殻鋼管3が確実に一体化されるため、優れた耐力および変形性能を有し、十分な強度を確保できる。
【0033】
しかも、外殻鋼管2および内殻鋼管3の厚さおよび強度、杭本体部6の厚さおよび強度を設計に応じて任意に選択できるので、経済的である。
【0034】
さらに、遠心力成形を行わないので、遠心力に起因するコンクリートの分離によるレイタンス層が形成されず、レイタンス層を除去する工程も不要であり、さらに短期で製造できる。
【0035】
そして、内殻鋼管3の内方は中空部8となっているため、杭穴に埋設されて基礎杭構造を構成する既製杭として使用できる。
【0036】
次に、第2の実施の形態について
図3を参照して説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成および作用については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0037】
図3(a)および
図3(b)に示される本実施の形態の二重鋼管コンクリート杭1は、軸方向鋼材17を備えている。軸方向鋼材17は、外殻鋼管2と内殻鋼管3との間に軸方向に沿って配置されている。つまり、軸方向鋼材17は、空間部5内に配置される。軸方向鋼材17は、杭本体部6に埋め込まれて配置されている。図示される例では、軸方向鋼材17は、内殻鋼管3の外周面に沿う位置に形成されている。
【0038】
本実施の形態において、軸方向鋼材17は、鉄筋などの棒状の鋼材である。また、本実施の形態において、軸方向鋼材17は、周方向に均等に複数配置されている。すなわち、軸方向鋼材17は、周方向に略等間隔に互いに離れて位置している。図示される例では、軸方向鋼材17は、6つ配置されている。また、軸方向鋼材17は、両端部が端板4に対して離れて位置している。
【0039】
そして、二重鋼管コンクリート杭1を製造する際、軸方向鋼材17は、注入口12からセメント系材料Cを空間部5に充填する前の工程において、予め中間体M1に組み付けておく。その後、中間体M1の外殻鋼管2と、内殻鋼管3と、端板4とにより囲まれる空間部5に対し、脱気しつつセメント系材料Cを注入し、セメント系材料Cを養生し、固化させることにより、軸方向鋼材17が埋め込まれた杭本体部6を形成する。
【0040】
このように、外殻鋼管2と内殻鋼管3との間に軸方向に沿って、杭本体部6に埋め込まれる軸方向鋼材17を備えることで、二重鋼管コンクリート杭1を軸方向鋼材17によって補強し、二重鋼管コンクリート杭1の耐力および変形性能をより向上できる。
【0041】
次に、第3の実施の形態について
図4を参照して説明する。なお、各実施の形態と同様の構成および作用については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0042】
図4(a)および
図4(b)に示される本実施の形態の軸方向鋼材17は、板状の鋼材である。
【0043】
軸方向鋼材17は、好ましくは、径方向に沿って放射状に延びるように配置されている。また、軸方向鋼材17は、内殻鋼管3の外周面に取り付けられている。軸方向鋼材17は、外殻鋼管2の内周面に対して離間されていてもよいし、外殻鋼管2の内周面に接続されていてもよい。
【0044】
このように、軸方向鋼材17を板状に形成しても、第2の実施の形態と同様に、二重鋼管コンクリート杭1の耐力および変形性能を向上できる。
【0045】
また、軸方向鋼材17が径方向に延びているため、軸方向鋼材17と杭本体部6との接触面積を増加させることができ、外殻鋼管2と内殻鋼管3との少なくともいずれか、本実施の形態では内殻鋼管3に対して杭本体部6の付着性を向上できる。
【0046】
次に、第4の実施の形態について
図5を参照して説明する。なお、各実施の形態と同様の構成および作用については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0047】
図5(a)および
図5(b)に示される本実施の形態の二重鋼管コンクリート杭1は、周方向鋼材21を備えている。周方向鋼材21は、外殻鋼管2と内殻鋼管3との間に周方向に沿って配置されている。つまり、周方向鋼材21は、空間部5内に配置される。周方向鋼材21は、杭本体部6に埋め込まれて配置されている。図示される例では、周方向鋼材21は、内殻鋼管3の外周面に沿う位置に形成されている。
【0048】
本実施の形態において、周方向鋼材21は、鉄筋などの棒状の鋼材である。周方向鋼材21は、軸方向に所定のピッチを有する螺旋状に形成されていてもよいし、円環状に形成されて、軸方向に所定のピッチ毎に複数配置されていてもよい。すなわち、周方向鋼材21は、軸方向の複数箇所に配置されている。
【0049】
そして、二重鋼管コンクリート杭1を製造する際、周方向鋼材21は、注入口12からセメント系材料Cを空間部5に充填する前の工程において、予め中間体M1に組み付けておく。その後、中間体M1の外殻鋼管2と、内殻鋼管3と、端板4とにより囲まれる空間部5に対し、脱気しつつセメント系材料Cを注入し、セメント系材料Cを養生し、固化させることにより、周方向鋼材21が埋め込まれた杭本体部6を形成する。
【0050】
このように、外殻鋼管2と内殻鋼管3との間に周方向に沿って、杭本体部6に埋め込まれる周方向鋼材21を備えることで、外殻鋼管2と内殻鋼管3との少なくともいずれか、本実施の形態では内殻鋼管3に対して杭本体部6の付着性を向上できる。
【0051】
なお、上記の各実施の形態は、互いに組み合わせてもよい。つまり、軸方向鋼材17、および、周方向鋼材21を組み合わせて空間部5に配置する構造としてもよい。
【0052】
次に、第5の実施の形態について
図6および
図7を参照して説明する。なお、各実施の形態と同様の構成および作用については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0053】
図6(a)および
図6(b)に示される本実施の形態の二重鋼管コンクリート杭1は、外殻鋼管2および内殻鋼管3の一方の端部にのみ端板4が取り付けられ、他方の端部には端板4が取り付けられていない。
【0054】
この二重鋼管コンクリート杭1を製造する際には、
図7に示すように、予め形成された外殻鋼管2の内部に、別途予め形成された内殻鋼管3を同軸状に配置するとともに、外殻鋼管2および内殻鋼管3の一方の端部に、別途予め形成された端板4を取り付け、さらに、外殻鋼管2および内殻鋼管3の他方の端部に、外殻鋼管2と内殻鋼管3との間隔を保持する治具25を取り付けて、二重管構造の中間体M2を形成する。治具25は、外殻鋼管2と内殻鋼管3とに亘り、例えば鉄筋を溶接するなどして形成される。治具25は、着脱可能でもよいし、外殻鋼管2と内殻鋼管3とに取り外しできないように固定されてもよい。
【0055】
次いで、この中間体M2の外殻鋼管2と、内殻鋼管3と、端板4とにより囲まれる空間部5に対し、中間体M2の端板4が取り付けられていない外殻鋼管2および内殻鋼管3の他方の端部からセメント系材料Cを注入する。このとき、中間体M2は、外殻鋼管2および内殻鋼管3の他方の端部側を上側とし、端板4を有する一方の端部側を下側とする。好ましくは、中間体M2は、軸方向を重力方向上下に沿わせて、つまり直立させた状態に支持してセメント系材料Cを空間部5に注入する。これにより、空間部5内の空気や余剰水は、上側に位置する中間体M2の外殻鋼管2および内殻鋼管3の他方の端部間からセメント系材料Cと交換で排出され、セメント系材料Cが外殻鋼管2および内殻鋼管3に対し密着していく。
【0056】
セメント系材料Cを注入する際には、所定の注入手段が用いられる。本実施の形態において、例えば注入手段としてはトレミー管27が好適に用いられる。トレミー管27は、漏斗状の受け部27aと、この受け部27aと連通する長尺のパイプ部27bとを備える。そして、受け部27aを治具25に支持し、パイプ部27bを空間部5に挿入して、受け部27aからパイプ部27bを介してセメント系材料Cを空間部5に充填していく。パイプ部27bを外殻鋼管2および内殻鋼管3の軸寸法の半分以上の長さとすることで、セメント系材料Cを空間部5の下側寄りの位置から空間部5に充填できる。
【0057】
この後、空間部5に充填したセメント系材料Cを養生し、固化させて杭本体部6を形成する。セメント系材料Cの空間部5への注入から固化の間、治具25により外殻鋼管2と内殻鋼管3との間隔が一定に保持される。なお、杭本体部6が形成された後、外殻鋼管2および内殻鋼管3の他方の端部に端板4を取り付けてもよい。
【0058】
このように、第5の実施の形態によれば、外殻鋼管2の内部に内殻鋼管3を配置し、外殻鋼管2および内殻鋼管3の一方の端部に端板4を取り付け、外殻鋼管2および内殻鋼管3の他方の端部に外殻鋼管2と内殻鋼管3との間隔を保持する治具25を取り付け、外殻鋼管2および内殻鋼管3の他方の端部から、外殻鋼管2と、内殻鋼管3と、端板4とにより囲まれる空間部5にセメント系材料Cを注入し、空間部5に充填したセメント系材料Cを固化させて杭本体部6を形成することで二重鋼管コンクリート杭1を製造する。そのため、遠心力成形を用いる必要がないので、二重鋼管コンクリート杭1を短期で容易に製造できる。
【0059】
二重鋼管コンクリート杭1は、非遠心成形であるため、遠心力によるセメント系材料Cの流出を防止するための端板4は不要であり、空間部5を囲むための一方の端板4のみあればよい。特に、複数本の杭を接続して用いる基礎杭の最上部は、基礎のフーチング内に杭頭部が埋め込まれるため、下杭と接続されない杭頭部の端板は不要である。そのため、本実施の形態の二重鋼管コンクリート杭1は、端板4が取り付けられていない端部を上側とすることにより、基礎杭の最上部として好適に用いることができ、端板4を一方の端部にのみ取り付け、他方の端部には端板4(端面金具)を取り付けなくてよいから、構造を簡略化できるとともに、端板4を取り付ける作業を軽減でき、材料コストも低減できるなど、生産コストを低減できる。
【0060】
また、治具25は、杭本体部6が固化した後に取り外してもよいし、そのまま残してもよい。そのまま残した場合、治具25は、端板4と同様に、二重鋼管コンクリート杭1を他の杭と接続する際の接続体などとして利用できる。
【0061】
さらに、空間部5にセメント系材料Cを注入するときに、端板4が取り付けられていない外殻鋼管2および内殻鋼管3の他方の端部側を上側とすることで、この他方の端部側からセメント系材料Cが空間部5に外殻鋼管2および内殻鋼管3の一方の端部寄りの位置に注入されるにしたがい、セメント系材料Cよりも比重が小さい空気や余剰水を、端板4が取り付けられていない上側から容易に排出できる。そのため、杭本体部6と空間部5を囲む外殻鋼管2、内殻鋼管3、および、端板4との間に空隙が生じにくく、杭本体部6を外殻鋼管2、内殻鋼管3および端板4に対して確実に密着させることができる。
【0062】
なお、第5の実施の形態に対し、第2ないし第4の実施の形態の軸方向鋼材17、および、周方向鋼材21の少なくともいずれかを組み合わせて空間部5に配置する構造としてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 二重鋼管コンクリート杭
2 外殻鋼管
3 内殻鋼管
4 端板
5 空間部
6 杭本体部
17 軸方向鋼材
21 周方向鋼材
25 治具
C セメント系材料