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特許7157727エレベーター安全作業管理システムおよびエレベーター安全作業管理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-12
(45)【発行日】2022-10-20
(54)【発明の名称】エレベーター安全作業管理システムおよびエレベーター安全作業管理装置
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/00 20060101AFI20221013BHJP
   B66B 3/00 20060101ALI20221013BHJP
【FI】
B66B5/00 G
B66B5/00 D
B66B3/00 R
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019209809
(22)【出願日】2019-11-20
(65)【公開番号】P2021080076
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】特許業務法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田苗 俊一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一朗
【審査官】加藤 三慶
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-198609(JP,A)
【文献】特開2017-141081(JP,A)
【文献】特開2015-224932(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0077631(US,A1)
【文献】特開2013-171383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00
B66B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサを備えたスマートデバイスと、前記スマートデバイスとネットワークで接続されたセンタ装置とからなり、前記スマートデバイスからのセンサ情報に基づいて、エレベーターの保守作業を実施する作業者の安全行動を監視するエレベーターの安全作業管理システムであって、
前記スマートデバイスは、
前記センサが計測した測定値を受け取り、前記スマートデバイス内の記憶部に格納するセンサ値登録部と
前記センサ測定値を前記センタ装置に送信する送受信部と、を備え、
前記センタ装置は、
作業者の作業スケジュールを受け付け、前記作業スケジュールおよび作業場所を前記センタ装置内の記憶部に格納する作業スケジュール処理部と
作業者が取得したデータをモデルデータ情報として前記センタ装置内の記憶部に格納するモデルデータ登録部と
作業者が前記スマートデバイスによって収集したデータの有無を、前記センタ装置内の記憶部に格納されているモデルデータと照合し、前記センタ装置内の記憶部のモデルデータ情報の中に前記収集したデータに対応するモデルデータが格納されていない場合には、前記取得したデータを前記センタ装置内の記憶部にモデルデータとして格納するモデルデータ照合部と、
かご上の作業者が危険な状態になったときに、エレベーターを停止する信号を、エレベーターの遠隔監視装置に送信してエレベーターを停止させるエレベーター緊急停止処理部と、を備える
エレベーター安全作業管理システム。
【請求項2】
前記センサは、磁力センサ、電子コンパスおよび気圧センサを含み、前記測定値は、磁力センサ値、方位計測値および気圧センサ値である、
請求項1に記載のエレベーター安全作業管理システム。
【請求項3】
さらに、前記スマートデバイスは、グローバル座標変換部を備え、
前記グローバル座標変換部は、前記磁力センサで測定された磁力センサ値を受け取り、前記磁力センサをグローバル座標に変換する、
請求項2に記載のエレベーター安全作業管理システム。
【請求項4】
さらに、前記センタ装置は、安全/危険エリア・ゾーン判定処理部を備え、
前記安全/危険エリア・ゾーン判定処理部は、前記磁力センサ値、前記方位計測値および前記気圧センサ値に基づいて、エレベーターの保守作業を行う場所を特定し、当該場所のモデルデータがあるか否かを判定する、
請求項2に記載のエレベーター安全作業管理システム。
【請求項5】
さらに、前記センタ装置は、アラート実行処理部を備え、
前記アラート実行処理部は、かご上の作業者が危険な状態になったときに、前記スマートデバイスのアラート出力部に信号を送り、前記アラート出力部から音声および/または映像によるアラートを発生させる、
請求項に記載のエレベーター安全作業管理システム。
【請求項6】
磁力センサ、電子コンパスおよび気圧センサを備えたスマートデバイスとネットワークで接続されたセンタ装置から構成されたエレベーター安全作業管理装置であって、
作業者の作業スケジュールを受け付け、前記作業スケジュールおよび作業場所を前記センタ装置内の記憶部に格納する作業スケジュール処理部と
作業者が取得したデータをモデルデータ情報として前記センタ装置内の記憶部に格納するモデルデータ登録部と
作業者が現場で収集したデータと、前記センタ装置内の記憶部に記憶されているモデルデータを比較し、前記センタ装置内の記憶部のモデルデータ情報の中に前記現場と対応するモデルデータが入っていない場合には、前記現場で取得したデータを前記センタ装置内の記憶部に格納するモデルデータ照合部と、
磁力センサ値、方位計測値および気圧センサ値に基づいて、エレベーターの保守作業を行う場所を特定し、当該場所のモデルデータがあるか否かを判定する安全/危険エリア・ゾーン判定処理部と、
かご上の作業者が危険な状態になったときに、エレベーターを停止する信号を、エレベーターの遠隔監視装置に送信してエレベーターを停止させるエレベーター緊急停止処理部と、
かご上の作業者が危険な状態になったときに、アラート出力部に信号を送り、音声および/または映像によるアラートを発生させるアラート実行処理部と、を備える、
エレベーター安全作業管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーター安全作業管理システムおよびエレベーター安全作業管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エレベーターが敷設される建物内において、エレベーターの点検・整備作業を実施する作業者の行動を監視しようとする場合、作業者が所持するスマートデバイス(スマートフォン、スマートウォッチ、またはウェアラブルデバイス等)に搭載されるGPS(Global Positioning System)を使用し、作業者の行動追跡を推定する技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、設備機器の点検作業を行う作業者が所有するスマートデバイスの3軸の磁力センサおよび方位センサから位置情報および方位情報を取得して作業者を誘導し、作業者が点検ポイントに到着した際に、携帯端末の画面上に点検情報を表示して作業者の作業履歴を精密な判定によって管理する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-138813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される技術は、作業者の安全性向上のための考慮がなされていない。すなわち、作業者が昇降機のかご上で点検作業を行う場合、作業者の安全性のために、かご上の正しい位置で作業しているか否かの監視や、点検作業以外のエリアで作業しているか否かの監視が必要になるが、特許文献1に開示される技術は、そのような監視を行っていない。したがって、特許文献1に記載の技術を用いた場合でも、作業者の監督者が自ら作業者の安全行動の管理と指示を行う必要がある。
【0006】
上述したように、従来のシステムでは、作業者の安全性向上という課題に対して十分な解決方法が考慮されていなかった。また、スマートデバイスのGPS情報や3次の磁力センサおよび方位センサを使用して、作業者の点検作業を監視することは難しく、スマートデバイスのGPS情報や3次の磁力センサおよび方位センサを使用することは容易ではなかった。
【0007】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、本発明の目的は、建物内に敷設されたエレベーターの点検・整備作業において、作業者の安全行動を監視することが可能なエレベーター安全作業管理システムおよびエレベーター安全作業管理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
本願は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、本発明は、センサを備えたスマートデバイスと、前記スマートデバイスとネットワークで接続されたセンタ装置とからなり、前記スマートデバイスからのセンサ情報に基づいて、エレベーターの保守作業を実施する作業者の安全行動を監視するエレベーターの安全作業管理システムである。
本発明のエレベーターの安全作業管理システムにおけるスマートデバイスは、センサが計測した測定値を受け取り、スマートデバイス内の記憶部に格納するセンサ値登録部と、センサの測定値をセンタ装置に送信する送受信部と、を備える。
また、本発明のエレベーターの安全作業管理システムにおける記センタ装置は、作業者の作業スケジュールを受け付け、作業スケジュールおよび作業場所をセンタ装置内の記憶部に格納する作業スケジュール処理部と作業者が取得したデータをモデルデータ情報としてセンタ装置内の記憶部に格納するモデルデータ登録部と作業者がスマートデバイスによって収集したデータの有無を、センタ装置内の記憶部に格納されているモデルデータと照合し、センタ装置内の記憶部のモデルデータ情報の中に収集したデータに対応するモデルデータが格納されていない場合には、取得したデータをセンタ装置内の記憶部にモデルデータとして格納するモデルデータ照合部と、かご上の作業者が危険な状態になったときに、エレベーターを停止する信号を、エレベーターの遠隔監視装置に送信してエレベーターを停止させるエレベーター緊急停止処理部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、作業者が保持するスマートデバイスから発せられるアラートにより作業者の安全性を向上させることができる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1の実施の形態に係るエレベーター安全作業管理システムの構成例を示すブロック図である。
図2】本発明の第1の実施の形態に係るエレベーター安全作業管理システムのスマートデバイス(A)およびセンタ装置(B)のハードウェア構成を示す図である。
図3】エレベーターの昇降路の天井からかご上の作業者を見た平面図であり、ドアまわりを点検する作業者の向きが方位0°の場合を示す図である。
図4】エレベーターの昇降路の天井からかご上の作業者を見た平面図であり、ロープを点検する作業者の向きが方位270°の場合を示す図である。
図5】エレベーターの昇降路の天井からかご上の作業者を見た平面図であり、カウンターウェイトを点検する作業者の向きが方位180°の場合を示す図である。
図6】エレベーターの昇降路の天井から見たかご上の危険エリア・ゾーンのモデルデータの決定範囲を示す図である。
図7】本発明の第1の実施の形態に係るエレベーター安全作業管理システムにおいて、安全/危険エリア・ゾーンの判定処理の処理手順の例を示すフローチャートである。
図8】本発明の第1の実施の形態に係るエレベーター安全作業管理システムにおいて、センタ装置の磁力センサ判定処理の処理手順の例を示すフローチャートである。
図9】本発明の第1の実施の形態に係るエレベーター安全作業管理システムにおいて、センタ装置の電子コンパス判定処理の処理手順の例を示すフローチャートである。
図10】本発明の第1の実施の形態に係るエレベーター安全作業管理システムにおいて、作業者の安全/危険エリア・ゾーン判定処理の処理手順の例を示すフローチャートである。
図11】本発明の第1の実施の形態に係るエレベーター安全作業管理システムにおける、かご上作業点検・整備作業の危険エリア・ゾーンとモデルデータ(a)~(d)を作成するための図である。
図12】本発明の第1の実施の形態に係るエレベーター安全作業管理システムにおける、かご上作業点検・整備作業の危険エリア・ゾーンとモデルデータ(e)~(h)を作成するための図である。
図13】本発明の第1の実施の形態に係るエレベーター安全作業管理システムにおける、かご上作業点検・整備作業の危険エリア・ゾーンとモデルデータの登録例と判定表(その1)である。
図14】本発明の第1の実施の形態に係るエレベーター安全作業管理システムにおける、かご上作業点検・整備作業の危険エリア・ゾーンとモデルデータの登録例と判定表(その2:図13の続き)である。
図15】本発明の第2の実施の形態に係るエレベーター安全作業管理システムの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の第1の実施の形態例(以下、「本例」と称する)に係るエレベーター安全作業管理システムについて詳細に説明する。
<第1の実施形態例のエレベーター安全作業管理システムの構成と機能>
図1は、本例に係るエレベーター安全作業管理システム1の構成例を示すブロック図である。
図1に示すように、本例のエレベーター安全作業管理システム1は、スマートデバイス10、センタ装置20および遠隔監視装置40を備える。スマートデバイス10、センタ装置20および遠隔監視装置40は、広域ネットワーク30を介して通信可能に接続されている。
【0012】
[スマートデバイス10の構成と機能]
まず、スマートデバイス10の構成とその機能について説明する。
スマートデバイス10は、エレベーターの点検・整備作業(以下、単に「作業」ということもある)に従事する作業者60(図3参照)が作業中に常に携帯(携行)している情報端末であって、例えば、スマートフォン、スマートウォッチ、またはウェアラブルデバイス等である。
【0013】
図1に示すように、スマートデバイス10は、送受信部11、磁力センサ12、電子コンパス13、気圧センサ14、センサ値登録部16、表示部17、アラート出力部18、および記憶部19を備える。
記憶部19には、センサ値登録部16によって、磁力センサ12、電子コンパス13および気圧センサ14で測定された磁力センサ値191、方位計測値192および気圧センサ値193が登録され、記録される。
【0014】
ここで、磁力センサ12は、周辺の磁力を収集するセンサであり、磁力センサ値191には、磁力センサ12によって作業者のいる場所の磁力が測定され、後述するようにそれによって作業者の存在する位置が特定される。
すなわち、磁力センサ値191は、作業者60の作業完了後に、磁力センサ12によって測定された値によって示される作業者の位置座標に相当する。すなわち、記憶部19には、この作業者の位置座標が磁力センサ値191として、記録・収集され、登録される。
【0015】
なお、この磁力センサ値191には、スマートデバイス10に搭載された不図示の時計による時刻情報が付与されている。この時計の時刻は、例えば携帯電話会社の通信機器との通信によって定期的に補正されることが好ましく、このような補正が行われることによって、誤差範囲を所定量(例えば1秒未満)にすることができる。
この磁力センサ値191は、磁力センサ12で測定される毎に、送受信部11により広域ネットワーク30を経由して後述するセンタ装置20に送信される。
【0016】
電子コンパス13は、スマートデバイス10の向きを収集する方位計である。この電子コンパス13で測定されたスマートデバイス10の向きは、作業者60が向いている向きを示し、方位計測値192として記憶部19に格納される。
すなわち、方位計測値192は、作業者60の作業完了後に、電子コンパス13で測定された計測値が連続的に記録・収集され、記憶部19に登録されるデータである。この記憶部19に登録される方位計測値192も、磁力センサ値191と同様に、電子コンパス13で測定される毎に、センタ装置20に送信される。
【0017】
気圧センサ14は、作業者のいる場所の気圧を測定するためのセンサである。気圧センサ14によって測定されるセンサ値は、作業者60が作業する位置の高さ(高度)に関係し、記憶部19に気圧センサ値193として格納される。すなわち、気圧センサ値193は、気圧センサ14で測定された気圧の値が、作業者60の作業完了後に、連続的に記憶部19に記録・収集され、登録される。この気圧センサ値193も、磁力センサ値191や方位計測値192と同様に、気圧センサ14で測定される毎に、センタ装置20に送信される。
【0018】
表示部17は、例えば液晶ディスプレイであり、通常の表示機能の他、スマートフォンのように数字や文字情報を入力可能なキーボード機能(入力機能)も備えている。作業者60は、表示部17を操作することによって、センタ装置20の記憶部28に格納されている作業スケジュール・作業場所281を確認することができる。このように、作業者60は、センタ装置20から作業スケジュールを確認することで、作業先の情報や作業内容を知ることができる。
【0019】
グローバル座標変換部15は、磁力センサ12で計測した値(測定値)をグローバル座標系に変換する。グローバル座標系は、3次元の位置(X、Y、Z)を示す数値である。作業者60はスマートデバイス10を携帯しているが、作業者の姿勢により、スマートデバイス10は、あらゆる方向に傾いてしまう。そのため、グローバル座標変換部15は、磁力センサ12で計測した値を、スマートデバイス10の向きに関係しない絶対的な座標(X、Y,Z)に変換する。そして、磁力センサ12は、グローバル座標系に変換された磁力センサ値を連続的に捕捉する。
【0020】
センサ値登録部16は、グローバル座標変換部15によって変換された磁力センサ12で測定した垂直方向の計測値を磁力センサ値191として記憶部19に記憶する。
また、センサ値登録部16は、電子コンパス13で測定した方位のデータを方位計測値192として記憶部19に登録し、気圧センサ14で測定した気圧データを気圧センサ値193として記憶部19に登録する。
【0021】
送受信部11は、通信インタフェースであり、広域ネットワーク30を介して、記憶部19に記憶されている磁力センサ値191、方位計測値192、および気圧センサ値193をセンタ装置20に送信する。また、後述するように、送受信部11はセンタ装置20の記憶部28に格納されている作業スケジュール・作業場所281等の情報を受信する。
【0022】
[センタ装置20の構成と機能]
次に、センタ装置20の構成とその機能について説明する。
センタ装置20は、複数箇所のエレベーターを統合的に管理する管理装置であり、広域ネットワーク30を介してスマートデバイス10に接続されている。したがって、センタ装置20は、通常は、スマートデバイス10を携帯する作業者60が点検・整備作業を実施する場所からは、遠隔の地(例えば、作業者60の所属会社の建物等)に設置される。
【0023】
図1に示すように、センタ装置20は、送受信部21、作業スケジュール処理部22、安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23、モデルデータ登録部24、エレベーター緊急停止処理部25、アラート実行処理部26、モデルデータ照合部27および記憶部28を備える。
送受信部21は、通信インタフェースであり、広域ネットワーク30を介してスマートデバイス10との間および遠隔監視装置40との間で各種データの送受信を行う。
【0024】
作業スケジュール処理部22は、作業者60が複数の作業先を巡回する中で、どの作業先にいつ訪問するかといった、管理者が作成した作業スケジュール計画を受け付け、記憶部28に登録する。例えば、作業者60が初回点検時にモデルデータを取得済みであって、既に記憶部28に登録されている場合には、作業スケジュール処理部22は、記憶部28に登録されている作業スケジュールと取得したモデルデータを照合して、記憶部28からモデルデータ情報285を得る。
【0025】
すなわち、作業スケジュール処理部22は、作業者60の作業先のモデルデータ情報285を記憶部28から読み出す一方で、作業者60の作業スケジュールと作業場所を、記憶部28の作業スケジュール・作業場所281に格納する。この作業スケジュール・作業場所281は、広域ネットワーク30を介してスマートデバイス10からも参照することができる。
【0026】
安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23は、記憶部28に格納されている時系列の磁力センサ値282、方位計測値283および気圧センサ値284に基づいて、作業者60がエレベーターの点検・整備作業を行っている作業場所を把握する。また、安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23は、作業者60によるエレベーターの初回点検の作業がどこで行われたかを判定する。
【0027】
詳細は図6で後述するが、安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23は、記憶部28に格納された磁力センサ値282、方位計測値283、気圧センサ値284から、作業者60がエレベーターの点検・整備作業をどの位置で行っているかを推定し、作業者60の現時点でいる場所が安全エリアであるか、あるいは危険エリア・ゾーンであるかを判断する。また、安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23は、安全エリアか危険エリアのどちらであるかを判断できない場合は、現在行われている点検が初回点検の作業場所であると判断する。
【0028】
なお、作業スケジュールは、記憶部28の作業スケジュール・作業場所281に格納されているデータである。作業スケジュール・作業場所281の作業場所に関するデータは、初回点検時にスマートデバイス10で収集されて格納される。磁力センサ値282、方位計測値283および気圧センサ値284は、それぞれスマートデバイス10の磁力センサ12、電子コンパス13および気圧センサ14で測定され、センタ装置20に送信されたデータである。
【0029】
エレベーター緊急停止処理部25は、図8図9で後述するように、かご上の作業者60がカウンターウェイト53に近づいた場合などに、危険と判断して、強制的にエレベーターを停止する信号を、エレベーターの遠隔監視装置40に送信する。
一方、アラート実行処理部26は、かご上の作業者に危険が迫ってくる場合に、作業者60が保持しているスマートデバイス10のアラート出力部18に信号を送り、スマートデバイス10の不図示のスピーカーから警報音を鳴らし、さらに表示部17に警報画面を表示させる。
【0030】
また、モデルデータ照合部27は、スマートデバイス10によって作業者60が現場で収集したモデルデータの有無を、記憶部28のモデルデータ情報285を検索することで確認する。記憶部28のモデルデータ情報285にモデルデータが入っていない場合には、モデルデータ照合部27は、スマートデバイス10から取得したモデルデータをモデルデータ情報285にダウンロードする。
【0031】
なお、すでに説明しているように、記憶部28には、作業スケジュール・作業場所281、磁力センサ値282、方位計測値283、気圧センサ値284、モデルデータ情報285が格納されている。これら磁力センサ値282、方位計測値283、気圧センサ値284は、スマートデバイス10の記憶部19に格納されている磁力センサ値191、方位計測値192および気圧センサ値193と同じものである。
【0032】
言い換えると、スマートデバイス10に格納されている磁力センサ値191、方位計測値192、気圧センサ値193は、広域ネットワーク30を経由して、センタ装置20に送信され、センタ装置20の記憶部28に磁力センサ値282、方位計測値283、気圧センサ値284として格納される。
【0033】
エレベーターの遠隔監視装置40は、広域ネットワーク30との通信を行う送受信部41と、エレベーターを強制的に停止させるためのエレベーター強制停止部42を備えている。
すなわち、センタ装置20のエレベーター緊急停止処理部25は、作業者60が作業している位置にカウンターウェイトが近づいているなどの、作業者60に危険が迫っていることが検知された場合に、エレベーターの遠隔監視装置40に信号を送り、エレベーター強制停止部42により作業者60が作業しているエレベーターを強制停止させる。なお、エレベーターの強制停止については、図8で後述する。
【0034】
[スマートデバイス10のハードウェア構成]
図2(A)は、本例のエレベーターの安全作業管理システムに用いられるスマートデバイス10ハードウェア構成を示す。
【0035】
図2(A)に示すように、スマートデバイス10は、バス31に接続されたCPU(Central Processing Unit)32、ROM(Read Only Memory)33、RAM(Random Access Memory)34、不揮発性ストレージ35を備える。また、外部との通信を行うための通信インタフェース(通信IF)36を備える。また、バス31には、入力部37、表示部17、アラート出力部18が接続されている。入力部37には、図1で説明した磁力センサ12、電子コンパス13および気圧センサ14からのセンサ入力が供給される。
【0036】
CPU32は、スマートデバイス10の各部の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードをROM33から読み出して実行する。RAM34には、スマートデバイス10内で行われる演算処理の途中で発生した変数等が一時的に書き込まれる。CPU32がROM33に記録されているプログラムコードを実行することにより、スマートデバイス10の各種機能が実現される。なお、CPU32は、表示部17における表示機能や入力部37の入力機能も制御する。
【0037】
通信インタフェース(I/F)36は、図1に示す送受信部11と同じものであり、通信I/F36には、例えば、NIC(Network Interface Card)等が用いられる。この通信I/F36を通して、スマートデバイス10は図1に示す広域ネットワーク30を介してセンタ装置20との通信を行う。なお、広域ネットワーク30は、インターネットやLTE(Long Term Evolution)、LAN(Local Area Network)等に代表される広域通信回線網であり、スマートデバイス10とセンタ装置20との間で各種データをやり取りする通信手段である。
【0038】
不揮発性ストレージ35は、SSD(Solid State Drive)等の不揮発性のメモリで構成され、CPU32が動作するために必要なプログラムやデータ等が記憶され格納される。この不揮発性ストレージ35には、図1に示す記憶部19の中の磁力センサ値191、方位計測値192および気圧センサ値193の各記憶領域が設けられる。
【0039】
また、スマートデバイス10は、入力部37と、図1で示した表示部17およびアラート出力部18を備える。入力部37は、例えば図1のスマートデバイス10の構成要素である磁力センサ12、電子コンパス13、気圧センサ14からのデータをバス31経由で不揮発性ストレージ35に格納する。表示部17とアラート出力部18は図1で説明したとおりである。
【0040】
[センタ装置20のハードウェア構成]
図2(B)は、本例のエレベーターの安全作業管理システムに用いられるセンタ装置20のハードウェア構成を示す。センタ装置20のハードウェア構成も、図2(A)に示したスマートデバイス10のハードウェア構成とほぼ同じであり、同様な説明は省略するがそれぞれの機能は異なる。
例えば、図2(B)に示すCPU44は、図1で説明した作業スケジュール処理部22、安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23、モデルデータ登録部24、エレベーター緊急停止処理部25、アラート実行処理部26の各機能を実現する。このセンタ装置20に搭載されているCPU44も、スマートデバイス10のCPU32と同様に、ROM45に格納されている所定のプログラムをRAM46に読み出して実行することによって上述した各機能を実現する。
【0041】
不揮発性ストレージ47は、SSD等の不揮発性のメモリで構成され、不揮発性ストレージ47内に、図1に示す記憶部28の作業スケジュール・作業場所281、磁力センサ値282、方位計測値283、気圧センサ値284およびモデルデータ情報285の各記憶領域が設けられている。また、ROM45と不揮発性ストレージ47には、CPU44が動作するために必要なプログラムやデータ等が格納されている。
【0042】
通信インタフェース(通信IF)48には、例えば、NIC等が用いられ、この通信インタフェース48を通して、広域ネットワーク30を経由してスマートデバイス10との通信が行われる。入力部49は、図1では図示されていないが、上述したようにセンタ装置20側で、管理者等が作業スケジュールを入力したりする場合に用いられる。
【0043】
[エレベーターの方位計測の説明]
以上、本例のエレベーター安全作業管理システム1の構成およびその機能についてソフト面とハード面から説明した。
次に図3図6を参照して、本例のエレベーター安全作業管理システム1におけるエレベーターの方位計測について説明する。
本例のエレベーター安全作業管理システム1では、図3に示す作業者60が携帯するスマートデバイス10は、作業者60と同じ方向を向くようにセットされている。例えば、作業者60は、胸ポケットにスマートデバイス10の画面を必ず胸側に向けて固定する。スマートデバイス10の電源が入っている間は、スマートデバイス10に内蔵されている電子コンパス13が作業者60の向きを測定している。つまり、スマートデバイス10の電源が入っている状態は、スマートデバイス10で所定のアプリケーションが動作している状態であるということができる。
【0044】
そして、エレベーターの点検・整備作業が実施されるときには、作業者60は、かご上に乗ってから点検・整備作業を実施する。この点検・整備作業の間は、電子コンパス13によって方位計測値192が連続的に測定され捕捉される。このとき、例えばかご上からドア方面を基準点とし、基準点における方位計測値192が基準値「0°」として記憶部19に記録される。
【0045】
エレベーターの点検作業には、ドア点検、カウンターウェイト点検、ロープ点検の3種類の点検があるが、作業者60はこれら3つの点検作業を乗りかごの上で実施するように指示されているものとする。
図3図5は、これら3つの点検作業を示しているが、図3図5は、それぞれの点検位置および作業者60の方位が異なっている。すなわち、電子コンパス13のXY平面において,エレベーターかご上において、図3では作業者60がエレベーターのドア方向を向いており、その向きは「0°」である。図4では、作業者60は右側ロープを向いており、その向きは「270°」、図5では、作業者60はカウンターウェイト53を向いており、その向きは「180°」になっている。
【0046】
図3は、ドアまわり点検時の作業者60の位置である。上述したように、図3では、エレベーターの点検・整備の作業時の作業者60の向き「0°」の例が示されている。
エレベーターは、かご50、ホールドア51、ハッチドア52、カウンターウェイト53、ロープ54、マシン55から構成されている。そして、作業者60が点検する対象は、ハッチドア52(図3)、ロープ54(図4)、カウンターウェイト53(図5)である。
【0047】
図3に示すように、作業者60がハッチドア52に向けて作業しているときのスマートデバイス10の電子コンパス13は、方位計測値「0°」を示している。作業者60がハッチドア52に背を向けているときは、電子コンパス13の方位計測値は「180°」となる。この状態でかご50が移動すると、かご50の上にいる作業者60は、ハッチドア52の周辺が視野に入らないため、ハッチドア52が何かに引っかかって、巻き込み事故を発生する危険性がある。そのため、センタ装置20の安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23は、この作業者60の位置を危険と判断し、センタ装置20のアラート実行処理部26は、スマートデバイス10のアラート出力部18にアラートを出すように指示する。
【0048】
図4は、ロープ54の点検時の作業者60の位置と向きである。図4には、エレベーターの点検・整備の作業時の向きが「270°」の例が示されている。
図4の例では、作業者60が右側のロープ54に向けて作業しているときを示している。この場合には、スマートデバイス10の電子コンパス13の方位計測値は「270°」となる。作業者60が右側のロープに背を向けていると、電子コンパス13の方位計測値は「90°」となる。したがって、かご50が移動する場合、近くにある右側ロープに背を向けることになるので、安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23により、危険と判断される。そして、アラート実行処理部26からスマートデバイス10のアラート出力部18にアラートを出すように指示がなされる。
【0049】
図5は、カウンターウェイト53の点検時の作業者60の位置と向きである。図5には、作業者60のエレベーターの点検・整備作業の作業時の向きが「180°」の例が示されている。
すなわち、作業者60はカウンターウェイト53を向いて作業しているときは、スマートデバイス10の電子コンパス13の方位計測値は「180°」となる。
しかし、作業者60がカウンターウェイト53に背を向けている場合には、電子コンパス13の方位計測値は「0°」となる。この場合、かご50が移動すると、近くにあるカウンターウェイト53に背を向けることになるので、安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23は危険と判断し、アラート実行処理部26はスマートデバイス10のアラート出力部18に向けてアラートを出すように指示する。
【0050】
図6は、作業者60が作業する場合の危険エリア・ゾーンをモデル的に決定した範囲を示す図である。図6には、本例のエレベーター安全作業管理システム1で対象とされるエレベーターの危険エリア・ゾーンの範囲が斜線で示されている。作業者60が携帯しているスマートデバイス10の電源が入っている間は、内蔵される磁力センサ12が作業者60の位置(磁力センサ12の位置データXYZ)を測定している。
なお、この磁力センサ12の位置測定は、作業者60のスマートデバイス10で所定のアプリケーションが動作している間に行うようにしてもよい。
【0051】
そして、作業者60がかご上に入ってから点検・整備を実施している間、磁力センサ12によって測定された位置データは、グローバル座標変換部15によりグローバル座標に変換され、磁力センサ値191として記憶部19に記録される。つまり、この磁力センサ値191は、グローバル座標である純粋な垂直方向計測値として記録される。
【0052】
作業者60が携帯するスマートデバイス10は、「作業開始」から「作業終了」まで、磁力センサ12、電子コンパス13および気圧センサ14で測定した値をセンタ装置20へ逐次アップロードする。
また、作業者60のスマートデバイス10は、初回点検時、点検項目であるドア(ハッチドア52)の点検(各階)、カウンターウェイト53の点検およびロープ54の点検(数か所)のそれぞれの位置に合わせてスマートデバイス10によりモデルデータを取得する。
ここで、スマートデバイス10で取得したモデルデータには、磁力センサ12の位置データ(XYZ)、電子コンパス13の方位データ、気圧センサ14により測定される気圧データが含まれる。
【0053】
スマートデバイス10は、初回点検時に取得したこれらのモデルデータをセンタ装置20へアップロードする。磁力センサ12のモデルデータを測定する際には、より精度を上げるため、気圧センサ値が併用される。すなわち、磁力センサ12の値は、カウンターウェイト53の動きで変動する。場合によっては磁力センサ12が異なる高さにあっても、カウンターウェイト53の位置によって、磁力センサ12の値が同じデータになる場合もある。そこで、高さを確実に測定できる気圧センサ14を用いることにより、磁力センサ12の測定精度を上げることが可能となる。
【0054】
図6は、作業者60がかご50の上で作業する時に、かご50の上の作業場所を天井から見た平面図である。かご50の上には落下防止の安全柵がある。
安全柵の端点は、A-B-G-H点であり、カウンターウェイト53に近いA-B-C-D点では、カウンターウェイト53とかご50のすれ違い時に風圧が発生し、この発生した風圧による巻き込みが起こる場合がある。
【0055】
そのため、作業者60がカウンターウェイト53の近くで作業中である場合には、カウンターウェイト53の接近時、作業者60とカウンターウェイト53の接触の危険性が生じる可能性がある。そこで、かご50にカウンターウェイト53が接近するときには、A-B-C-D点内のエリアは「危険」と判断される。
【0056】
これに対し、カウンターウェイト53がかご50に接近する時でも、E-F-G-H点内のエリアは安全な場所となり、作業者60がこのエリアにいた場合には、センタ装置20の安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23は、「安全」と判断する。なお、作業者60は、カウンターウェイト53のかご50への接近または通過に関しては、目視確認で安全を確保することができる。
【0057】
したがって、作業者60がカウンターウェイト53側(180°の方向)を向いているときには、安全であるということができる。しかし、作業者60がE-F-G-H点内のエリアにいても、作業者60の向きが、電子コンパス13の方位計測値でカウンターウェイト53の反対側「0°」に向いた場合には、安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23は、「危険」と判断し、アラート実行処理部26からスマートデバイス10のアラート出力部18に対してアラートを発生する指示がなされる。
なお、安全柵のA点からH点のモデルデータは、作業者60による初回点検時に取得されるが、この点についての詳細は図7にて説明する
【0058】
上述したように、上記ハッチドア52、ロープ54、カウンターウェイト53の3項目の点検・整備作業の間、作業者60が携帯しているスマートデバイス10に内蔵されている気圧センサ14により、作業者60がいる位置の気圧が測定される。そして、基準点(例えば入館時の1階)における気圧センサ値を基準値「0」として、相対的な気圧値の時系列変化が気圧センサ値193として記憶部19に記録される。さらに、記憶部19に記録された相対的な気圧値の時系列変化は、スマートデバイス10からセンタ装置20に送信され、センタ装置20の記憶部28において気圧センサ値284として格納される。
【0059】
ここで、気圧センサ値284は、高さの違い、つまり垂直方向で変動する変動情報であることから、一連の点検・整備作業における相対的気圧値の時系列変化は、点検・整備作業における作業者60の垂直方向の移動と関係している。したがって、センタ装置20において、作業者60がどの階にいたかという、作業者60の行動履歴を高精度に追跡・把握することができる。
【0060】
[初回点検時のモデルデータの取得のための処理手順]
図7は、初回点検時のモデルデータ取得の処理手順の例を示すフローチャートである。
図7に示すように、初回点検時のモデルデータ取得の処理は、センタ装置20のモデルデータ登録部24によって実施される。
作業者60による初回点検・整備作業において、スマートデバイス10の磁力センサ12、電子コンパス13および気圧センサ14により測定された磁力センサ値191、方位計測値192および気圧センサ値193が記憶部19に記録されるが、スマートデバイス10の通信環境の影響により、スマートデバイス10からセンタ装置20への送信ができない場合がある。
【0061】
このため、エレベーターの昇降路内では、スマートデバイス10でセンサ値を収集しておき、通信環境が整ったときに送信するようにする。すなわち、初回点検のモデルデータ取得時には、リアルタイムでスマートデバイス10からセンタ装置20に送信する必要はなく、初回点検が終了してから送信してもよい。
したがって、モデルデータの取得の処理は、点検作業に関する磁力センサ値191、方位計測値192および気圧センサ値193がセンタ装置20の記憶部28に記憶されたタイミング、つまり作業者60による点検・整備作業の前にモデルデータの登録が完了した時点で、モデルデータ登録部24によって実行される。
【0062】
すなわち、作業者60の初回点検時に、磁力センサ12、電子コンパス13および気圧センサ14で測定したモデルデータはスマートデバイス10からセンタ装置20に送られ、センタ装置20のモデルデータ登録部24により、モデルデータ情報285として記憶部28に格納される。
【0063】
通常では、作業者60のスマートデバイス10からセンタ装置20への通信は、リアルタイムで常時アップロードされる。しかし、既に述べたように、作業者60のスマートデバイス10からセンタ装置20への通信ができない環境では、スマートデバイス10の磁力センサ12、電子コンパス13および気圧センサ14で測定した値は、スマートデバイス10の記憶部19に磁力センサ値191、方位計測値192および気圧センサ値193として格納される。
そして、作業者60の作業完了後にセンタ装置20へ一括送信され、センタ装置20の記憶部28に情報がアップロードされた後、センタ装置2においてモデルデータ取得処理が行われる。
【0064】
以下、図7を参照して、スマートデバイス10とセンタ装置20の間でリアルタイム通信ができる環境であるという前提で、初回点検時のモデルデータ取得の処理手順について説明する。
図7に示すように、まず、作業者60はエレベーターのかご50の上に入った時に、スマートデバイス10の表示部17を操作して、センタ装置20の記憶部28に記録されている作業スケジュール・作業場所281に、点検・整備する作業場所の所在情報を登録する(ステップS101)。
【0065】
既に述べたように、作業者60のスマートデバイス10は、作業者60の胸ポケットにスマートデバイス10の画面側を必ず胸側にして挿入されている。
スマートデバイス10のセンサ値登録部16は、磁力センサ12、電子コンパス13および気圧センサ14のそれぞれが計測した値を抽出する。そして、センサ値登録部16は、これらの値を磁力センサ値191、方位計測値192および気圧センサ値193として記憶部19に格納する。
【0066】
まず、各階ドア周辺の点検を行う度に、磁力センサ12の測定値が抽出され、磁力の変化のログを時系列に記録した磁力センサ値(X、Y、Z)191が取得される(ステップS102)。次に、各階ドア周辺の点検を行う度に電子コンパス13で測定した方位が抽出され、電子コンパス13の変化であるログが方位計測値192として取得される(ステップS103)。次に、各階ドア周辺の点検を行う度に気圧センサ14による計測値が抽出され、気圧センサ14による測定値の変化のログが気圧センサ値193として時系列に取得される(ステップS104)。
【0067】
続いて、カウンターウェイト53の点検を行う際の磁力センサ12の測定値が抽出され、磁力の変化のログが、磁力センサ値191として時系列に取得される(ステップS105)。また、同様にカウンターウェイト53の点検を行う際の電子コンパス13の値が抽出され、電子コンパス13の値の変化のログが方位計測値192として取得される(ステップS106)。
さらに、カウンターウェイト53の点検を行う際の気圧センサ14の測定値が抽出され、気圧センサ14の測定値の変化を示すログが、気圧センサ値193として時系列に取得される(ステップS107)。
【0068】
次に、各ロープ54の点検を行う度に、磁力センサ12の測定値が抽出され、磁力センサ12の磁力の変化を示すログが、磁力センサ値191として時系列に取得される(ステップS108)。また、各ロープ54の点検を行う度に、電子コンパス13の値が抽出され、電子コンパス13の値の変化のログが、方位計測値192として時系列に取得される(ステップS109)。さらに、各ロープ点検を行う度に、気圧センサ14の測定値が抽出され、気圧センサ14の変化のログが、気圧センサ値193として時系列に取得される(ステップS110)。
【0069】
さらに、カウンターウェイト53のかご50への接近時の気圧センサ14の値が抽出され、このときの気圧の変化のログが気圧センサ値193として時系列に取得される(ステップS111)。このように取得された、磁力センサ値191、方位計測値192および気圧センサ値193は、作業者60のスマートデバイス10からセンタ装置20へ送信され、センタ装置20でアップロードされて、記憶部28に記録される(ステップS112)。
【0070】
センタ装置20のモデルデータ登録部24は、モデルデータ情報が決定するまで作業者60のスマートデバイス10の磁力センサ値191、方位計測値192および気圧センサ値193の収集を続ける。そして、センタ装置20は、作業者60のスマートデバイス10の磁力センサ値191、方位計測値192および気圧センサ値193をモデルデータ情報285として、記憶部28に登録する(ステップS113)。また、安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23は、収集したモデルデータ情報285を閲覧し、作業者60の現時点の状況が「安全か」あるいは「危険か」を判断する。
【0071】
[安全/危険エリア・ゾーンの判定処理の処理手順]
図8は、センタ装置20における磁力センサ判定処理の処理手順の例を示すフローチャートである。図8に示す磁力センサ判定処理の処理は、作業者60が危険エリア・ゾーンに立ち入りをした場合に、センタ装置20が行う処理である。
まず、センタ装置20の安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23は、作業者60がエレベーターのかご上に乗った時、記憶部28のモデルデータ情報285に、初回点検時の収集データがアップロードされているか否かを確認する(ステップS201)。ここで、初回点検時の収集データには、記憶部28に格納されている磁力センサ値282、方位計測値283、気圧センサ値284およびモデルデータ情報285が含まれる。
【0072】
ステップS201で、記憶部28のモデルデータ情報285に、初回点検時の収集データがアップロードされていない場合(ステップS201のNO)には、初回点検としてステップS201の作業を繰り返す。
一方、ステップS201で、モデルデータ情報285に初回点検時の収集データがアップロードされていると判定された場合(ステップS201のYES)には、作業者60のスマートデバイス10からセンタ装置20への通信は、リアルタイムでアップロードされていることになる。この場合には、安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23は、記憶部28に記録されている磁力センサ値282および方位計測値283と、記憶部28に記憶されているモデルデータ情報285との比較を行う(ステップS202)。
【0073】
次に、安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23は、作業者60のスマートデバイス10の数値が、作業者60の点検位置以外の危険エリア・ゾーンの数値になっているか否かの判断を行う(ステップS203)。このステップS203で、作業者60が危険エリア・ゾーン立ち入ったと判断された場合(ステップS203のYES)には、続いて気圧センサ値193の収集によるかご50の動きを確認する(ステップS204)。ここで、作業者60が危険エリア・ゾーン立ち入った場合というのは、モデルデータの危険エリア・ゾーンの磁力センサ値と作業者60のスマートデバイス10からアップロードされた磁力センサ値が近い値(近傍)になった場合などが該当する。例えば、かご50が下降している場合には下方からカウンターウェイト53が近づいてくるし、かご50が上昇している場合は、上方からカウンターウェイト53が近づいてくる。
【0074】
ステップS204でかごが上昇中または下降中であると判定された場合(ステップS204のYES)には、続いてカウンターウェイトが接近しているかどうか、つまりカウンターウェイト接近の危険エリア・ゾーンの数値になっているか否かが判断される(ステップS205)。
ステップS205で、作業者60がかご50の上の位置でカウンターウェイト53側に近づいていると判定された場合(ステップS205のYES)には、かご50とカウンターウェイト53のすれ違いで作業者60が巻き込まれる危険がある。
【0075】
そこで、センタ装置20の安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23は、カウンターウェイト53とかご50が接近してくるのを感知し、エレベーター緊急停止処理部25とアラート実行処理部26に信号を送る。その結果、エレベーター緊急停止処理部25は、図1に示す遠隔監視装置40のエレベーター強制停止部42に信号を送り、エレベーターを停止させる(ステップS206)。また、同時にセンタ装置20のアラート実行処理部26は作業者60が保持しているスマートデバイス10のアラート出力部18に信号を送り、スマートデバイス10のスピーカーから警報音を鳴らし、さらに表示部17上に警報画面を表示する(ステップS206)。
【0076】
ステップS203で、モデルデータの危険エリア・ゾーンの磁力センサ値191と作業者60のスマートデバイス10からアップロードされた磁力センサ値191が近い値(近傍)ではない場合、つまり作業者60が危険エリア・ゾーン立ち入らなかったと判断された場合(ステップS203のNO)には、ステップS201に戻り、作業者60のスマートデバイス10からアップロードを継続し、照合を続ける。
【0077】
ステップS204で、かごが上昇中または下降中ではないと判定された場合(ステップS204のNO)、およびステップS205で作業者60がかご50の上の位置でカウンターウェイト53側に近づいていないと判定された場合には、ステップS201に戻り、作業者60のスマートデバイス10からアップロードを継続し、照合を続ける。
【0078】
[方位計測判定処理の処理手順]
図9は、センタ装置20の電子コンパス13による方位計判定処理の処理手順の例を示すフローチャートである。図9に示すように、方位計判定処理の処理は作業者60がかご50の上の危険エリア・ゾーンに立ち入りをした場合のセンタ装置20の判定処理である。センタ装置20は、作業者60がかご50の上の危険エリア・ゾーンに立ち入りをした場合に、エレベーター強制停止と、スマートデバイス10にアラートする処理を行う。以下、リアルタイム的な通信が行われる環境で実施した場合について説明する。
【0079】
まず、センタ装置20の安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23は、作業者60がエレベーターのかご50の上に乗った時、作業者60のスマートデバイス10の電子コンパス13からの方位計測値を、センタ装置20への通信をリアルタイム的にアップロードする。そして、安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23は、方位計測値192とモデルデータ情報285との比較を行う(ステップS301)。
【0080】
そして、モデルデータの危険エリア・ゾーンの磁力センサ値191と作業者60のスマートデバイス10からアップロードされた磁力センサ値191が近い値(近傍)になっているか否か、さらに、気圧センサ値193の収集によるかご50の動きにおいて、下の方からカウンターウェイト53が近づいてくるか否かについて判定する(ステップS302)。
【0081】
ステップS302で、カウンターウェイト53が接近していると判定された場合(ステップS302のYES)には、続いてスマートデバイス10に内蔵されている電子コンパス13により、作業者の向きが危険であるか否かの判定を行う(ステップS303)。
既に説明したように、かご50とカウンターウェイト53のすれ違いに発生する危険性は、かご50が動いた時の振動とカウンターウェイト53の接近による風圧があるため、作業者60が立った状態ではこの衝撃でバランスが崩れて転倒、転落する可能性があることである。
【0082】
このため、作業者60は通常、カウンターウェイト53の接近時には目視確認の行動を行っている。すなわち、作業者60がカウンターウェイト53側に向いた場合、カウンターウェイト53が近づいてくることの目視確認を行うことができるので、注意を払い、事故を防ぐことができる。逆に、作業者60がカウンターウェイト53側に背を向けて作業している場合には、カウンターウェイト53が来るとわかっていても、作業者60はカウンターウェイト53を見ていないから、カウンターウェイト53がどの位置に置かれているかわからない。このため、作業者60は、誤ってカウンターウェイト53に接触したり、巻き込まれたりする危険性が高くなる。
【0083】
したがって、安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23は、ステップS303で、作業者60の向きは危険でないか(安全でない方向を向いていないか)の確認をし、危険だと判断した場合、アラート実行処理部26に信号を送る。アラート実行処理部26は、作業者60が保持しているスマートデバイス10のアラート出力部18に信号を送り、スマートデバイス10はスピーカーから警報音を出すとともに、表示部17に警報画面を表示する(ステップS304)。
【0084】
ステップS302で、作業者60が危険エリア・ゾーンにいないか、カウンターウェイト53がエレベーターかご50に接近していないと判定された場合、またステップS303で、作業者60の向きがカウンターウェイト53に背を向けるなどの危険な向きではないと判定された場合には、ステップS301に戻って、ステップS301~S303の処理を継続する。
【0085】
[安全/危険エリア・ゾーン判定処理の処理手順]
図10は、安全/危険エリア・ゾーン判定処理の処理手順例を示すフローチャートである。図10に示すように、安全/危険エリア・ゾーン判定処理は、作業者60がかご50の上の危険エリア・ゾーンに立ち入りをした場合のセンタ装置20における判定処理である。この判定処理では、エレベーター強制停止とスマートデバイス10にアラートする処理が行われる。以下、リアルタイム的な通信ができる環境で実施した場合について説明する。
【0086】
センタ装置20の安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23は、作業者60がエレベーターかご50の上のA-B-C-D点内に立ち入ったか否かの判定をリアルタイムで行う(ステップS401)。このステップS401では、作業者60のかご上の位置データをスマートデバイス10からセンタ装置20にリアルタイムでアップロードして、作業者60が存在している場所が危険エリアA-B-C-D点で囲まれた領域内に入ったか否かの判定が行われる。
【0087】
ステップS401で、作業者60が危険エリア・ゾーンに立ち入ったと判定された場合(ステップS401のYES)、安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23は、気圧センサ値193による判定を行う(ステップS402)。このステップS402では、エレベーターかご50とカウンターウェイト53のすれ違いのゾーンは高さから、危険エリア・ゾーンに入ったことに加えて、気圧センサ値193とを併用した判定が行われる。
【0088】
図13図14で後述するが、気圧値が860~905となった場合、安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23は、カウンターウェイト53が近くあることで危険エリア・ゾーン内と判定し、作業者60にとって危険だと判断した場合に、アラート実行処理部26に信号を送る。
すると、アラート実行処理部26は、作業者60が保持しているスマートデバイス10のアラート出力部18にカウンターウェイト53の接近を知らせる信号を送り、スマートデバイス10はスピーカーから警報音を発生させるとともに、表示部17に警報画面を表示させる(ステップS403)。
【0089】
次に、安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23は、作業者60の方位(向き)は危険でないか(不安全な方向に向いていないか)の確認をする(ステップS404)。そして、安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23は、作業者60の方位(向き)が危険だと判断した場合(ステップS404のYES)には、作業者60にたいして危険な方向を向いている旨のアラートを送る(ステップS405)。すなわち、安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23は、アラート実行処理部26を作動して、作業者60が保持しているスマートデバイス10のアラート出力部18に信号を送り、スマートデバイス10のスピーカーから警報音を発生させるとともに、表示部17に警報画面を表示させる。
【0090】
上記ステップS403とステップS405でスピーカーから発生させるアラートの音色は、その違いが分かるように異ならせて設定するようにすると効果的である。
図7図10で説明した4つの作業の処理フローにより、作業者60の点検作業の行動が明らかになり、点検・整備作業の安全行動を把握することができる。したがって、管理者等は作業者60の安全行動を管理することができる。
【0091】
図11図12は、かご上作業点検・整備作業の危険エリア・ゾーンとモデルデータの決定方法を説明するための図である。図11図12は、作業者60がかご50の上に立ち入りをし、作業時の安全/危険の切り替えのタイミングを示している。
図11の「危険エリア・ゾーン モデルデータ決定(a)」の場合は、かご50とカウンターウェイト53の距離が離れており、保全作業のため、エレベーターは低速運転で運行している。この状態は、図13のNo.8~15に対応しているが、図13のNo.8~11では、作業者60が図5のA-B-C-D点と危険エリア・ゾーンに立ち入りしているにも関わらず、カウンターウェイト53がかご50から離れていることにより、安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23は、「安全」と判定している。
【0092】
図11の「危険エリア・ゾーン モデルデータ決定(b)」は、かご50とカウンターウェイト53の距離が図11の(a)より近づいている。この状態では、図13のNo.16~19では、作業者50が危険エリアA-B-C-D内に立ち入ったことを示しており、安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23は、この領域を「危険」と判定している。
また、図11の「危険エリア・ゾーン モデルデータ決定(c)」では、カウンターウェイト53通過による危険があるので、安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23は、危険エリアA-B-C-Dの領域に作業者60が入った状態を「危険」と判定している。
【0093】
また、図11の「危険エリア・ゾーン モデルデータ決定(d)」でも、カウンターウェイト53通過による危険があるので、安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23は、危険エリアA-B-C-Dの領域に作業者60が入った状態を「危険」と判定している。
【0094】
同様に、図12の「危険エリア・ゾーン モデルデータ決定(e)」、「危険エリア・ゾーン モデルデータ決定(f)」、および「危険エリア・ゾーン モデルデータ決定(g)」も、カウンターウェイト53の通過による危険があるので、安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23は、「危険」と判定している。
【0095】
また、図12の「危険エリア・ゾーン モデルデータ決定(h)」は、かご50とカウンターウェイト53の距離が図12の(g)より離れているので、図14のNo.64~67では、磁力センサ12の値は作業者60が危険エリアに立ち入っているにも関わらず、安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23は、「安全」と判定している。
【0096】
以上説明したように、作業者60がかご上の危険エリアに立ち入りをした場合でかつセンタ装置20が「危険」の判定を行った場合には、安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23は、エレベーター緊急停止処理部25にエレベーターの強制停止を行わせ、さらにスマートデバイス10のアラート出力部18にアラートする処理を行わせる。以上は、エレベーターの下降運転の場合を例にして説明したが、エレベーターが上昇運転する場合には、下降運転とは逆の手順で制御がなされる。
【0097】
図13図14は、本例のエレベーター安全作業管理システムにおける、かご上作業点検・整備作業の危険エリアとモデルデータの登録例と判定表である。
位置の欄には、ドアと階床、カウンターウェイト、ロープ、および図11図12に示した危険エリア・ゾーン(a)から(h)と、図6に示すエリアAからHが記載されている。
磁力センサモデルデータ登録結果の欄には、グローバル座標で示した磁力センサ12の位置データと電子コンパス13の方位データが記載されている。特に電子コンパス13による方位については、ドア(ハッチドア)の方位は0°(図3参照)、カウンターウェイトの方位は180°(図5参照)、ロープの方位270°(図4参照)と記載されている。
気圧センサの欄には、気圧センサ14で測定された気圧値が記載されている。また、判定の欄には、「安全」か「危険」かの判定が記載されている。
【0098】
既に、図11図12で説明したことではあるが、「危険エリア・ゾーン モデルデータ決定(a)」と「危険エリア・ゾーン モデルデータ決定(h)」では、カウンターウェイト53がかご50から離れているため、かご上のすべての場所(A~H)で「安全」と判定されている。
これに対して「危険エリア・ゾーン モデルデータ決定(b)」から「危険エリア・ゾーン モデルデータ決定(g)」では、カウンターウェイト53が比較的かご50に迫っているため、かご上で危険エリア・ゾーンとされているA、B、C、Dの範囲では「危険」と判定され、それ以外のE、F、G、Hの範囲では「安全」と判定されている。これらの判定処理は、図1に示すセンタ装置20の安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23によって行われる。
【0099】
以上、本例のエレベーター安全作業管理システムによれば、図11図14を参照して詳述したように、磁力センサ値191、方位計測値192の変化をログとして時系列変化に記録して、エレベーターの点検・整備作業における作業者60の安全行動を追跡・把握するようにしたので、危険エリア・ゾーンに入った作業者60に対して適切なタイミングでアラートを出すことができる。
【0100】
さらに、本例のエレベーター安全作業管理システムでは、図8図10のフローチャートで説明したように、センタ装置20において磁力センサ値の判定処理、電子コンパスの判定処理に続いて気圧センサ値の判定を行って、安全/危険エリア・ゾーン判定処理が実行されるようにした。そして、作業者60の作業場所の高さに関して気圧センサ値193の収集を併用して、アラートを出すタイミングの精度を上げるようにした。
【0101】
以上から、本例のエレベーター安全作業管理システム1によれば、点検・整備作業の行動履歴の分析が正確に把握することができる。また、管理者は、作業者60の高精度な行動履歴から問題点を把握することができるため、作業実施のエビデンスや教育活動等に活用することができる。
【0102】
<本発明の第2の実施の形態例のエレベーター安全作業管理装置の構成と機能>
図15は、本発明の第2の実施の形態に係るエレベーター安全作業管理装置の構成および機能を表す機能ブロック図である。
既に説明したように、図1に示す本発明の第1の実施形態(本例)では、センタ装置20に、安全/危険エリア・ゾーン判定処理部23、エレベーター緊急停止処理部25、アラート実行処理部26およびモデルデータ照合部27が設けられていた。
【0103】
これらの機能ブロックは、必ずしもセンタ装置20内に設ける必要はない。図15に示す第2の実施形態では、スマートデバイス10側に、安全/危険エリア・ゾーン判定処理部18A、アラート実行処理部18B、モデルデータ照合部18Cおよびエレベーター緊急停止処理部18Dが設けられている。また、記憶部19にはモデルデータ情報194が保管されている。このモデルデータ情報194は、センタ装置20でも共有され、記憶部28にモデルデータ情報285として保管される。
【0104】
図15に示す第2の実施形態のモデルデータ照合部18Cについて、さらに詳しく説明する。作業者60は、安全点検の現場に到着すると、モデルデータ有無の確認を行う必要がある。スマートデバイス10にモデルデータが入っていない場合には、センタ装置20のモデルデータ情報285をスマートデバイス10の記憶部19にモデルデータ情報194としてダウンロードする。そして、ダウンロードしたモデルデータ情報194をモデルデータ照合部18Cに保管する。
【0105】
既にスマートデバイス10側の記憶部19に複数の現場のモデルデータ情報194が入っている場合には、スマートデバイス10の安全/危険エリア・ゾーン判定処理部18Aは、記憶部19のモデルデータ情報194を検索するが、この検索には時間がかかるので他の処理に影響を与えてしまう。
そこで、このような問題を解決するために、対象となる現場のモデルデータ情報が、モデルデータ照合部18Cに保管される。
【0106】
そして、安全/危険エリア・ゾーン判定処理部18Aは、モデルデータ照合部18Cに保管されているモデルデータ情報と、磁力センサ12、電子コンパス13および気圧センサ14を用いて現場で収集した磁力センサ値191、方位計測値192および気圧センサ値193とを照合して判定する。この判定の結果、「危険」と判断した場合には、安全/危険エリア・ゾーン判定処理部18Aは、アラート実行処理部18Bに対して、アラート信号を出すように指示し、これを受けてアラート実行処理部18Bは、アラート出力部18に、音声または映像によるアラートを作業者60に伝えるように指示する。
【0107】
図15のスマートデバイス10に示す機能ブロックの多くは、図1に示す第1の実施形態では、センタ装置20側に設けられていたものであるが、第2の実施形態では、スマートデバイス10側に設けることで、スマートデバイス10からセンタ装置20へ送信する情報量を減らすことができる。そのため、エレベーター安全作業管理システム全体として、データの読み書きの処理時間の短縮を図ることができ、作業者60に対してより早い危険性のアナウンスが可能になる。
【0108】
また、モデルデータ照合部18Cをスマートデバイス10側に設けることで、作業者60は、現場でモデルデータの有無を確認することができるので、作業者60自身がモデルデータの再登録をする作業を省くことができる。
【0109】
なお、本発明は前述した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形態様が含まれる。前述した実施の形態は、本発明を分かりやすく説明するために説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではなく、適宜、その他の構成にも応用できる。
【0110】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0111】
また、図面において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実施には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0112】
1…安全作業管理システム、10…スマートデバイス、11、21…送受信部、12…磁力センサ、13…電子コンパス、14…気圧センサ、15…グローバル座標変換部、16…センサ値登録部、17…表示部、18…アラート出力部、19、28…記憶部、191、282…磁力センサ値、192、283…方位計測値、193、284…気圧センサ値、20…センタ装置、22…作業スケジュール処理部、23、18A…安全/危険エリア・ゾーン判定処理部、24…モデルデータ登録部、25、18D…エレベーター緊急停止処理部、26、18B…アラート実行処理部、27、18C…モデルデータ照合部、281…作業スケジュール・作業場所、30…広域ネットワーク、40…遠隔監視装置、41…送受信部、42…エレベーター強制停止部、50…かご、51…ホールドア、52…ハッチドア、53…カウンターウェイト、54…ロープ、55…マシン、56…ジープ、60…作業者、61…作業者の向き(0°)、62…作業者の向き(270°)、63…作業者の向き(180°)、70…方位角度
図1
図2
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図15