(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-12
(45)【発行日】2022-10-20
(54)【発明の名称】鎖状粒子分散液の製造方法および鎖状粒子の分散液
(51)【国際特許分類】
C01B 33/18 20060101AFI20221013BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20221013BHJP
【FI】
C01B33/18 Z
H01L21/304 622B
(21)【出願番号】P 2019562162
(86)(22)【出願日】2018-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2018048128
(87)【国際公開番号】W WO2019131874
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-10-01
(31)【優先権主張番号】P 2017251910
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134119
【氏名又は名称】奥町 哲行
(72)【発明者】
【氏名】江上 美紀
(72)【発明者】
【氏名】谷口 正展
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 光章
(72)【発明者】
【氏名】村口 良
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-186435(JP,A)
【文献】特開2015-029965(JP,A)
【文献】特開平11-061043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/18
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアの存在下、アルコキシシランを加水分解して、シリカ粒子を含む分散液を調製する分散液調製工程と、
前記分散液のアンモニアを除去して、アンモニア量を前記分散液に含まれるシリカに対して0.3質量%以下にするアンモニア除去工程と、
前記アンモニア除去工程の後、前記分散液を、シリカ濃度が12質量%以上の状態で、150℃以上250℃未満で水熱処理する水熱処理工程と、を有することを特徴とする鎖状粒子分散液の製造方法。
【請求項2】
前記アンモニア除去工程において、加熱処理と減圧処理の少なくとも一方により前記分散液からアンモニアを除去することを特徴とする請求項1に記載の鎖状粒子分散液の製造方法。
【請求項3】
前記水熱処理工程により作製される鎖状粒子は、平均連結数が7以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の鎖状粒子分散液の製造方法。
【請求項4】
前記シリカ粒子の平均粒子径が5~300nmであることを特徴とする請求項1に記載の鎖状粒子分散液の製造方法。
【請求項5】
連結数が「平均連結数±1」である鎖状粒子が50%以上存在することを特徴とする
請求項1に記載の鎖状粒子分散液の製造方法。
【請求項6】
シリカ粒子以外の珪素を含む化合物の含有量が200ppm以下であることを特徴とする
請求項1に記載の鎖状粒子分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
鎖状粒子の分散液とその製造方法に関する。シリカ粒子を一次粒子として形成された鎖状粒子の分散液は、半導体集積回路の金属配線層の基板形成等における研磨材として有用である。
【背景技術】
【0002】
コンピューター等の電子機器には、各種の集積回路が用いられている。電子機器の小型化、高性能化に伴い、回路の高密度化と高性能化が求められている。
例えば、半導体集積回路は、シリコンウエハー等の基材上に配線層間膜(絶縁膜)を成膜し、その配線層間膜上に金属配線用の溝をパターニングしている。これに、スパッタリング法などによって窒化タンタル(TaN)等のバリアメタル層を必要に応じて形成し、次いで金属配線用の銅を化学蒸着(CVD)法等により成膜する。バリアメタル層を設ける場合には、層間絶縁膜への銅や不純物などの拡散や侵食に伴う絶縁性の低下などを防止することができ、また層間絶縁膜と銅の接着性を高めることができる。
次いで、溝以外に成膜された不要な銅及びバリアメタル(犠牲層ということがある)を化学機械研磨(CMP)法により研磨して除去するとともに上部表面を可能な限り平坦化して、溝内にのみ金属膜を残して銅の配線・回路パターンを形成する。
【0003】
このCMP法で使用される研磨材として用いるシリカ粒子には、真球状のものと異形状のものが知られている。異形状のシリカ粒子は、研磨速度を求める研磨材に好適に用いられる。
【0004】
このような異形状のシリカ粒子の製造方法としては、まず、水、有機溶媒及びアルコキシシランを含む混合溶液に、触媒を添加してアルコキシシランの加水分解反応を行い、粒径10~30nmのシリカ微粒子を生成させる。その後、反応後の混合溶液から、未反応のアルコキシシラン、有機溶媒及び触媒を除去して、シリカ微粒子の水分散液を作製し、水分散液中のシリカ微粒子の固形分濃度が0.1~5質量%、アンモニア濃度が50~400ppmとなるように調整する。その後、この水分散液を250℃以上の温度で水熱処理する方法が提案されている。この製造方法によると、平均直径(D)10~30nm、長さ(L)30~100nm、アスペクト比(L/D)3~10の短繊維状シリカが得られる(特許文献1及び2参照)。
【0005】
また、原料に珪酸液を用いた異形状のシリカ粒子の製造方法として、pH1.0~7.0、シリカ濃度0.05~3.0質量%の珪酸液を、1~98℃で熟成することにより、珪酸液の粘度が0.9~100mPa・sの範囲にある重合珪酸液を調製し、さらにアルカリを加えて加熱することによりシード液を調製し、得られたシード液をビルドアップさせる方法が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-061043号公報
【文献】特開2003-133267号公報
【文献】特開2013-032276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2の製造方法では、固形分濃度が0.1~5質量%という低濃度の分散液を250℃以上の高温度で水熱処理する必要がある。このため、製造効率が悪く、製造コストも高くなるという課題がある。また、シリカ濃度の高い分散液をこれらの特許文献の方法を用いて水熱処理すると、シリカ粒子がゲル化してしまい、所望の鎖状粒子が得られない。
【0008】
また、特許文献3の製造方法は、原料として珪酸液を用いるため、高純度のシリカ粒子が得られにくい。
【0009】
そこで、高純度で高濃度の鎖状シリカ粒子を効率よく製造する方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の鎖状粒子分散液の製造方法によれば、高純度のシリカ粒子分散液を特定のアンモニア濃度及びシリカ濃度に調整して、特定の温度で水熱処理することとした。これにより、高純度で高濃度な鎖状粒子分散液を効率よく製造できる。
【0011】
この製造方法は、以下の工程を含む。
(1)分散液調製工程:アンモニアの存在下、アルコキシシランを加水分解して、高純度なシリカ粒子を含む分散液を調製する。
(2)アンモニア除去工程:この分散液からアンモニアを除去し、分散液に含まれるシリカに対するアンモニアの量を0.3質量%以下とする。
(3)水熱処理工程:アンモニア除去工程後に分散液を150℃以上250℃未満の温度で水熱処理して、シリカ粒子を鎖状に連結させる。なお、この工程で用いられる分散液のシリカ濃度は、12質量%以上である。
【0012】
また、本発明による分散液は、シリカ粒子(一次粒子)の平均連結数が7以上の鎖状粒子を含んでいる。この鎖状シリカ粒子を使用した研磨材は、研磨速度が速く、研磨特性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】鎖状粒子の外観を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による鎖状粒子分散液の製造方法を説明する。まず、アンモニアの存在下でアルコキシシランを加水分解し、高純度なシリカ粒子を含む分散液を調製する(分散液調製工程)。その後、この分散液からアンモニアを除去し、分散液に含まれるシリカに対するアンモニアの量を0.3質量%以下とする(アンモニア除去工程)。その後、この分散液を、シリカ濃度が12質量%以上の状態で、150℃以上250℃未満の温度で水熱処理する(水熱処理工程)。
【0015】
このように、アンモニア除去処理と、特定温度での水熱処理によって、シリカ濃度が12質量%以上という高濃度のシリカ粒子分散液でもゲル化させることなく、高純度の鎖状粒子を効率的に製造できる。ここでは、一次粒子(シリカ粒子)が2個以上連結した粒子を鎖状粒子と称している。本発明によれば、従来の製造方法に比して、連結数の多い鎖状粒子が得られやすい。鎖状粒子は、直鎖状に連結した形状でも、屈曲形状でも、粒子が分岐状に連結した形状でもよい。鎖状粒子を走査型電子顕微鏡で撮影した写真を
図1に例示する。走査型電子顕微鏡で任意の100個の粒子について連結数(連結した一次粒子の個数)を確認し、その平均値を平均連結数とした。
このような鎖状粒子を用いて研磨材を作製すると、平均連結数が多いほど、研磨速度が速くなる傾向がある。このため、平均連結数は7以上が好ましく、10以上が更に好ましい。平均連結数の上限は、鎖状粒子が液中で分散している状態が維持できれば特に制限されない。その上限値は、一次粒子の粒子径にもよるが、例えば、30程度である。
また、分散液には、(平均連結数±1)個の一次粒子が連結した鎖状粒子が50%以上存在することが好ましい。この割合は、連結個数の分布を反映している。この割合が高いほど、より均一な連結個数を有するため、より均質な研磨が可能となる。この割合は、70%以上、80%以上、90%以上、100%と、高いほど好ましい。
【0016】
ここで、分散液内の全ての一次粒子が鎖状粒子となるとは限らず、連結していない一次粒子も単独で存在する可能性がある。ただ、鎖状粒子の割合が多いほど、研磨速度が速くなる傾向がある。このため、鎖状粒子の割合は70%以上、90%以上、100%と、高いほど好ましい。
【0017】
なお、分散液調製工程、アンモニア除去工程、水熱処理工程の間に、その他の各種工程を設けてもよい。例えば、水熱処理工程で用いられる分散液は、アンモニア除去工程直後の分散液だけでなく、アンモニア除去工程後に他の工程を経て得られた分散液でもよい。
【0018】
ここで、水熱処理時のシリカ粒子分散液のシリカ濃度は12質量%以上である必要がある。シリカ濃度を12質量%以上とする調整は、分散液調製工程で行っても、アンモニア除去工程で行っても、水熱処理中に行っても、水熱処理工程前のそれ以外の工程で行ってもよい。水熱処理工程前にシリカ濃度を12質量%以上にすることが好ましい。
【0019】
以下、各工程を詳細に説明する。
[分散液調製工程]
ここでは、原料であるアルコキシシランを、アンモニアの存在下で加水分解してシリカ粒子を形成させ、シリカ粒子を含んだ分散液を調製する。アルコキシシランは、1種類でも2種類以上でもよい。また、テトラメトキシシラン(TMOS)やテトラエトキシシラン(TEOS)等のアルキル鎖が短いものが好ましい。これは、加水分解速度が速く、緻密化が進みやすく、炭素含有量の少ないシリカ粒子が得られる傾向にあるからである。
【0020】
アルコキシシランの加水分解によるシリカ粒子分散液の調製方法としては、次の2つが例示できる。
(方法I)水、有機溶媒及び触媒(アンモニア)を含む敷液に対して、アルコキシシラン及び有機溶媒の混合溶液を添加する方法。
(方法II)実質的に有機溶媒からなる液に対して、アルコキシシランを含有する液Aと、触媒及び水を含有する液Bとを同時に添加する方法。ここで、液Aは有機溶媒を含んでいても良い。「実質的に有機溶媒からなる」とは、有機溶媒の製造過程から不可避的に含まれる不純物等は含まれ得るが、それ以外は含まないことを意味し、例えば、有機溶媒が99質量%以上であり、好ましくは99.5質量%以上である。
【0021】
なお、両方法とも敷液中に予め準備したシード粒子に対して、アルコキシシランを加えて加水分解する、所謂シード法を採用することもできる。
アルコキシシランの加水分解は、通常、常圧下で、使用する溶媒の沸点以下の温度で行われる。
【0022】
この工程により得られるシリカ粒子(一次粒子)の平均粒子径は5~300nmが好ましい。平均粒子径が5nm未満だと、シリカ粒子分散液の安定性が不十分となる傾向にある。また、粒子径が小さすぎるために研磨材として十分な研磨速度が得られないおそれがある。平均粒子径が300nmを超える場合は、粒子の連結が進みにくく、所望の鎖状粒子が得られないおそれがある。平均粒子径は、5~100nmがより好ましい。
【0023】
また、このシリカ粒子は、アスペクト比が1.00~1.20の真球状が好ましく、粒子の変動係数(CV値)は30%以下が好ましい。このようなシリカ粒子によれば、製造される鎖状粒子の連結個数を制御しやすい。変動係数は、20%以下がより好ましく、10%以下が更に好ましい。
【0024】
なお、有機溶媒としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類などが挙げられる。より具体的には、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノプロピルエーテルなどのグリコールエーテル類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコールなどのグリコール類、酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチルなどのエステル類が用いられる。これらの中でも、メタノール又はエタノールがより好ましく、メタノールが特に好ましい。これらの有機溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0025】
加水分解に用いる触媒の添加量は、アルコキシシラン1モル当たり、0.005~1モルが好ましい。0.005モル未満だと加水分解が生じにくく、粒度分布が広くなるおそれがある。1モルを超えると、加水分解速度が著しく速くなるため、粒子になりにくく、ゲル状物となるおそれがある。触媒の添加量は、アルコキシシラン1モル当たり、0.01~0.8モルがより好ましい。
【0026】
加水分解に用いる水の量は、アルコキシシランを構成するSi-OR基1モル当たり0.5~10モルが好ましく、1~5モルがより好ましい。
【0027】
[アンモニア除去工程]
本工程では、分散液からアンモニアを除去し、分散液に含まれるシリカに対するアンモニアの量(以下、本発明に関しては、単にアンモニア量と称す)を0.3質量%以下とする。水熱処理工程前にアンモニアを所定量以下に低減させる重要な工程である。
【0028】
例えば、上述の特許文献1及び2では、水熱処理前に分散液のアンモニア濃度を50~400ppmとすることを必須の条件としている(特許文献1の段落0030)。本発明では、これとは逆に、アンモニアを極力低減させる。これにより、水熱処理時にシリカ粒子分散液がゲル化することを抑制できる。特許文献1の実施例では、イオン電極で測定したシリカ粒子分散液(シリカ濃度1質量%)のアンモニア濃度(粒子に含まれるアンモニアは含まれない)が83ppmとなっている。すなわち、シリカに対するアンモニア量は0.83質量%である。なお、特許文献1及び2では、粒子に含まれるアンモニア量が考慮されていないが、本発明ではこれを考慮している。すなわち、本発明では、シリカ粒子に含まれるアンモニア量も含めて、分散液におけるアンモニア量としている。
【0029】
本発明では、アンモニア量は0.3質量%以下で水熱処理される。これにより、安定な鎖状粒子の分散液が得られる。これは、水熱処理工程において、適切な量の溶解性シリカが生じ、安定性が保たれる程度の連結数の鎖状粒子が形成されるためと考察している。そのため、アンモニア量を0.1質量%以下に除去することが好ましい。0.08質量%以下がより好ましく、0.06質量%以下が更に好ましい。また、アンモニア量の下限は、上述のように、水熱処理によって所望する連結数の鎖状粒子を形成させるために、0.01質量%が好ましく、0.02質量%がより好ましい。
【0030】
所定のアンモニア量まで低減できれば除去方法に制限はない。なお、アンモニアは加水分解時に粒子に取り込まれて存在していることから、アンモニア量を0.3質量%以下とするには、液相中だけでなく粒子内部のアンモニアも除去する必要がある。この粒子内部のアンモニアは、通常の限外膜処理等ではほとんど除去されない。このため、シリカ粒子からアンモニアを粒子外(分散液中)に排出させる方法が好ましい。
例えば、加熱処理や減圧処理等は、分散液の液相中にアンモニアを排出でき、これと同時に、限外膜処理等で除去しにくい粒子表面に吸着しているアンモニアも、分散液の液相中に拡散できる。具体的には、限外濾過膜やイオン交換樹脂等を用いて、液相中からアンモニアを除去した後、加熱処理と減圧処理の少なくとも一方の処理により、粒子内部に残存するアンモニアを分散液の液相中に排出し、この液相中に排出されたアンモニアを限外濾過膜やイオン交換樹脂等を用いて除去する。
【0031】
なお、本工程において、アンモニアの除去と同時にシリカ粒子分散液の溶媒中の有機溶媒を水(純水)に置換することができる。もちろん、水置換工程を独立して設けてもよい。
【0032】
[水熱処理工程]
本工程では、アンモニアが除去されたシリカ粒子の分散液を150℃以上250℃未満で水熱処理する。この水熱処理によって、シリカ粒子(一次粒子)を連結させる。水熱温度が150℃未満では、一次粒子の連結が十分に進まず鎖状粒子とならない。逆に、250℃以上では、一次粒子の連結は進むものの、制御できない程に連結が進んでしまい、所望の均一な鎖状粒子が得られにくい。また、場合によっては、分散液がゲル化してしまう。水熱処理温度は、170~230℃が好ましく、180~220℃がより好ましい。鎖状粒子を構成する一次粒子の平均粒子径は、分散液調製工程で得られた分散液中のシリカ粒子の平均粒子径とほぼ同一となる。
水熱処理はシリカ濃度12質量%以上の分散液に対して行う必要がある。そのため、アンモニア除去工程の後で、分散液のシリカ濃度が12質量%未満の場合には、水熱処理時にシリカ濃度が12質量%以上になるように調整する(シリカ濃度調整工程)。例えば、水熱処理工程前に、シリカ濃度を12質量%以上に調整する。12質量%未満であると、アンモニア量及び水熱処理条件を最適にしても、所望の鎖状粒子が得られない。なお、水熱処理を施す分散液のシリカ濃度は、15質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。また、その上限は特に制限されず、例えば40質量%でも問題はない。
【0033】
水熱処理時の圧力は、通常、各処理温度での飽和圧力である。ただし、粒子の連結が制御できる範囲であれば、更に加圧しても構わない。
また、水熱処理の時間は、粒子の連結が制御できれば特に制限されない。ただし、処理時間が短すぎると、粒子の連結が十分に進まず、鎖状粒子とならないおそれがある。鎖状粒子になったとしても、粒子の連結の制御は困難である。処理時間が長すぎると、粒子の連結は進むものの制御できない程に連結が進んでしまい、所望の均一な鎖状粒子が得られにくい。また、分散液がゲル化するおそれがある。そのため、処理時間は、水熱処理を行う際の温度や圧力にもよるが、例えば、1~24時間が好ましく、3~15時間がより好ましい。
【0034】
さらに、水熱処理中にアルコキシシランを添加しないので、未反応物が生成しない。また、水熱処理は従来よりも低温で行われるので、粒子からのシリカの溶解を抑制できる。これにより、自己核生成による小粒子や、オリゴマー成分としての残留等を抑制できる。このため、製造される鎖状粒子分散液には未反応物が少ない。
【0035】
また、この工程で得られる鎖状粒子分散液中のアンモニア量は、上述のアンモニア除去工程後のものとほぼ同様である。すなわち、アンモニア量は、上述したシリカ濃度調整工程や水熱処理工程で特に変化しない。
ところで、水熱処理後であれば、アンモニアが添加されても本発明による鎖状粒子分散液は、安定性が損なわれない。例えば、研磨材への加工等、必要に応じて、アンモニアを添加できる。すなわち、アンモニア量が、分散液中のシリカに対して0.3質量%を超えても構わない。
【0036】
また、この工程で得られる鎖状粒子分散液のシリカ濃度は12質量%以上である。すなわち、シリカ濃度は、水熱処理の前後で特に変化しない。ただし、水熱処理工程中に何らかの意図で分散液を濃縮あるいは希釈する場合は、その限りではない。
ところで、水熱処理後であれば、必要に応じて、鎖状粒子分散液に水やアンモニア等を添加してもよい。すなわち、シリカ濃度が12質量%未満となっても構わない。逆に、安定性を損なわない範囲で、更に濃縮してもよい。
【0037】
上述した各工程により、一次粒子の平均連結数が7以上の鎖状粒子が得られやすい。また、屈曲した鎖状粒子が得られやすい。そのため、この鎖状粒子を用いた研磨材は、研磨速度が速い。また、この鎖状粒子を多孔質粉体形成用の一次粒子として用いる場合には、多孔質乾燥粉体の細孔容積を大きくすることができる。
【0038】
さらに、この鎖状粒子分散液は、未反応物が少ない。分散液中の未反応物の含有量は、200ppm以下が好ましい。未反応物が少ないと、研磨材に用いた場合に、基板への付着物が減り、また、研磨材に添加される各種薬品の吸着や各種薬品との反応が抑制されるため、各種薬品の効果が有効に発揮できる。この未反応物含有量は、150ppm以下がより好ましい。
【0039】
この未反応物とは、分散液中に存在するシリカ粒子以外の「珪素を含む化合物」を意味する。この「珪素を含む化合物」には、製造目的とするシリカ粒子まで反応が進んでいないものも含んでおり、未反応の原料アルコキシシランやその低分子加水分解物(オリゴマー)等が例示できる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。
[実施例1]
〈鎖状シリカ粒子分散液の製造〉
はじめに、水とメタノールの混合溶媒(水/メタノールの質量比2/8)2450gにテトラエトキシシラン(多摩化学工業(株)製 エチルシリケート28、SiO2として28質量%)を532.5g溶解した混合溶液を用意する。純水139.1gとメタノール169.9gの混合溶媒を60℃に保持し、これに前述の混合溶液2982.5gと濃度0.25質量%のアンモニア水596.4gを同時に20時間かけて添加した。添加終了後、さらにこの温度で3時間熟成した。その後、限外濾過膜で未反応のテトラエトキシシラン、メタノール、アンモニアを除去した。
【0041】
次いで、純水を加えて一旦希釈し、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下で濃縮を行った。これにより、粒子内部に残存するアンモニア分を除去し、20質量%のシリカ粒子水分散液を得た。シリカに対するアンモニアの量は、0.05質量%であった(粒子内部も含む分散液中のアンモニア濃度 100ppm)。
その後、200℃のオートクレーブ中で10時間、水熱処理を行い、鎖状シリカ粒子を含む、固形分濃度20質量%の分散液を得た。なお、
図1に示した電子顕微鏡写真は本実施例で得られた鎖状粒子を撮影したものである。各工程の処理条件、及びシリカ粒子又は分散液の性状、並びに製造された鎖状シリカ粒子の性状を表1に示す。各性状は以下の方法で測定した。
【0042】
(1)シリカ粒子(一次粒子)の平均粒子径
シリカ粒子の電子顕微鏡写真を撮影し、任意の100個の粒子について、各粒子の面積を求め、その面積から円相当径を求めた。その円相当径の平均値をシリカ粒子の平均粒子径とした。
(2)シリカ粒子(一次粒子)のアスペクト比
走査型電子顕微鏡で粒子を観察する。ここで、1個の粒子について、粒子に接するように長方形で囲んだ時、長辺をb、短辺をaとする。この短辺aと長辺bとの比(b/a;ただしb≧a)を100個の粒子について測定し、その平均値をアスペクト比とした。
(3)シリカ粒子(一次粒子)の変動係数(CV値)
変動係数は、「(標準偏差/平均粒子径)×100」で表される。これは、シリカ粒子の平均粒子径の測定方法に基づき算出される。
(4)シリカ粒子の平均連結数
走査型電子顕微鏡で粒子を観察し、100個の粒子について連結数(連結した一次粒子の個数)を確認し、その平均値をシリカ粒子の平均連結数とした。このとき、連結していない一次粒子が確認された場合には、その連結数を1とした。
(5)シリカ粒子の連結粒子割合
走査型電子顕微鏡で粒子を観察し、100個の粒子について連結数を確認し、2個以上連結している粒子(鎖状粒子)の割合を求めた。
(6)シリカ濃度
分散液のサンプル5gを150℃で1時間乾燥させ、乾燥前後の質量からシリカ濃度を算出した。
【0043】
(7)分散液中のアンモニア量
分散液に20質量%NaOH水溶液を加えて、シリカ粒子を溶かしながら蒸留した。出てきたアンモニアを0.05モル/Lの硫酸で捕集し、0.1NのNaOHで滴定して、消費された硫酸量を求め、液中に含まれる全アンモニア量を求めた。
【0044】
(8)分散液中の未反応物量
日立工機株式会社製の小型超遠心機CS150GXLを用いて、分散液を設定温度10℃、1,370,000rpm(1,000,000G)で30分遠心処理した。この処理液の上澄み中に存在するシリカ粒子以外の「珪素を含む化合物」(未反応物)を、株式会社島津製作所製のICP発光分析装置ICPS-8100でSiとして測定した。この測定値から、分散液中のSiO2濃度に換算した。
【0045】
〈研磨材の製造〉
鎖状シリカ粒子分散液500gに、濃度30質量%の過酸化水素水333g、蓚酸アンモニウム5gおよび水162gを混合し、シリカ濃度10質量%、過酸化水素10質量%、蓚酸アンモニウム0.5質量%の研磨材を調製した。この研磨材を用いて研磨試験を行った。
【0046】
(9)研磨試験
研磨用基板を研磨装置(ナノファクター(株)製 NF300)にセットし、基板加重5psi、テーブル回転速度50rpm、スピンドル速度60rpmで、研磨材を60ml/分の速度で絶縁膜上の犠牲層(厚さ0.2μm)が無くなるまで研磨を行った。このときの研磨時間は92秒であった。研磨速度を表1に示す。
【0047】
ここで用いた研磨用基板は以下の通りである。窒化ケイ素からなる絶縁膜(厚さ0.2μm)、シリカからなる絶縁膜(厚さ0.4μm)、窒化ケイ素からなる絶縁膜(厚さ0.2μm)が順次積層されたシリコンウエハー(8インチウエハー)基板上にポジ型フォトレジストを塗布し、0.3μmのラインアンドスペースで露光を行った。次いでテトラメチルアンモニウムハイドライド(TMAH)の現像液で露光部分を除去した。次に、CF4とCHF3の混合ガスを用いて、下層の絶縁膜にパターンを形成した後、O2プラズマによりレジストを除去し、幅(WC)が0.3μmで、深さが0.6μmの配線溝を形成した。この配線溝を形成した基板にCVD法で薄層の銅(Cu)の成膜をし、さらに電界メッキ法で成膜を行い絶縁膜上の銅層(犠牲層)の合計の厚さが0.2μmの銅の成膜を行い、研磨用基板とした。
【0048】
以下の実施例や比較例でも実施例1と同様にして、各特性を評価した。
[実施例2]
水熱処理前のシリカに対するアンモニア量を0.08質量%に変更した以外は実施例1と同様にして、鎖状粒子分散液を製造した。
【0049】
[実施例3]
水熱処理前のシリカに対するアンモニア量を0.1質量%に変更した以外は実施例1と同様にして、鎖状粒子分散液を製造した。
【0050】
[実施例4]
水熱処理前のシリカに対するアンモニア量を0.3質量%に変更した以外は実施例1と同様にして、鎖状粒子分散液を製造した。
【0051】
[実施例5]
水熱処理温度を150℃に変更した以外は実施例1と同様にして、鎖状粒子分散液を製造した。
【0052】
[実施例6]
水熱処理時の分散液のシリカ濃度を12質量%に変更した以外は実施例1と同様にして水熱処理まで行い、その後20質量%に濃縮して、鎖状粒子分散液を製造した。
【0053】
[実施例7]
水熱処理前のシリカに対するアンモニア量を0.03質量%に変更した以外は実施例1と同様にして、鎖状粒子分散液を製造した。
【0054】
[実施例8]
水熱処理時の分散液のシリカ濃度を15質量%に変更した以外は実施例1と同様にして水熱処理まで行った。その後濃縮して、20質量%の鎖状粒子分散液を製造した。
【0055】
[実施例9]
水熱処理時の分散液のシリカ濃度を40質量%に変更した以外は実施例1と同様にして、シリカ濃度40質量%の鎖状粒子分散液を製造した。また、この鎖状粒子分散液を250g用いた以外は実施例1と同様にして研磨材を調製した。
【0056】
[実施例10]
水熱処理温度を170℃に変更した以外は実施例1と同様にして、鎖状粒子分散液を製造した。
【0057】
[実施例11]
水熱処理温度を180℃に変更した以外は実施例1と同様にして、鎖状粒子分散液を製造した。
【0058】
[実施例12]
水熱処理温度を220℃に変更した以外は実施例1と同様にして、鎖状粒子分散液を製造した。
【0059】
[実施例13]
水熱処理温度を230℃に変更した以外は実施例1と同様にして、鎖状粒子分散液を製造した。
【0060】
[実施例14]
水熱処理温度を245℃に変更した以外は実施例1と同様にして、鎖状粒子分散液を製造した。
【0061】
[実施例15]
水熱処理時間を1時間に変更した以外は実施例1と同様にして、鎖状粒子分散液を製造した。
【0062】
[実施例16]
水熱処理時間を3時間に変更した以外は実施例1と同様にして、鎖状粒子分散液を製造した。
【0063】
[実施例17]
水熱処理時間を15時間に変更した以外は実施例1と同様にして、鎖状粒子分散液を製造した。
【0064】
[実施例18]
水熱処理時間を24時間に変更した以外は実施例1と同様にして、鎖状粒子分散液を製造した。
【0065】
[比較例1]
水熱処理前に減圧濃縮を行わずにシリカに対するアンモニア量を0.90質量%とし、分散液のシリカ濃度を1質量%とし、水熱処理温度を300℃にした以外は実施例1と同様にして、鎖状粒子分散液を製造した。
【0066】
[比較例2]
比較例1において、シリカに対するアンモニア量を1.5質量%とし、水熱処理温度を200℃とした以外は同様にして分散液を製造した。得られた分散液中のシリカ粒子は球状であった。
【0067】
[比較例3]
水熱処理前に減圧濃縮を行わずにシリカに対するアンモニア量を0.90質量%とした以外は実施例1と同様にして、分散液を製造した。この分散液はゲル化したため、研磨材の評価は行わなかった。
【0068】
[比較例4]
水熱処理温度を250℃とした以外は実施例1と同様にして、分散液を製造した。この分散液はゲル化したため、研磨材の評価は行わなかった。
【0069】
[比較例5]
水熱処理時の分散液のシリカ濃度を10質量%に変更した以外は実施例1と同様にして水熱処理まで行い、その後20質量%に濃縮して、分散液を製造した。得られた分散液中のシリカ粒子は球状であった。
【0070】