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特許7157772エレベーター制御装置及びエレベーター制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-12
(45)【発行日】2022-10-20
(54)【発明の名称】エレベーター制御装置及びエレベーター制御方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 1/30 20060101AFI20221013BHJP
   B66B 3/00 20060101ALI20221013BHJP
【FI】
B66B1/30 B
B66B3/00 R
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020002560
(22)【出願日】2020-01-10
(65)【公開番号】P2021109737
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】特許業務法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 真輔
(72)【発明者】
【氏名】大沼 直人
(72)【発明者】
【氏名】保立 尚史
(72)【発明者】
【氏名】高山 直樹
(72)【発明者】
【氏名】中川 公人
(72)【発明者】
【氏名】宮前 真貴
(72)【発明者】
【氏名】近藤 健史
【審査官】加藤 三慶
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/027463(WO,A1)
【文献】特表2000-509003(JP,A)
【文献】特開2012-056689(JP,A)
【文献】国際公開第2013/094255(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 1/30
B66B 1/00
B66B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
速度指令に応じてエレベーターの巻上機の速度を制御するエレベーター制御装置において、
乗りかごは振動センサを有し、
前記巻上機のトルク指令を生成して出力すると共に、トルク指令を出力した際に得た速度情報とトルク指令との組み合わせから、前記振動センサから得られる上下振動量が最も小さくなるトルク指令を、強化学習により決定する非線形制御を行う第1制御部と、
線形制御により前記巻上機のトルク指令を生成して出力する第2制御部と、
前記トルク指令または前記巻上機の速度を監視する監視処理部と、
前記監視処理部での監視に基づいて、前記第1制御部が出力するトルク指令と前記第2制御部が出力するトルク指令の内のいずれか一方を選択して、前記巻上機の駆動回路に供給する選択部と、を備え、
前記選択部により、前記エレベーターの巻上機の速度制御を、前記非線形制御と前記線形制御のいずれかを選択して行えるようにした
エレベーター制御装置。
【請求項2】
前記選択部が前記第1制御部からのトルク指令を選択した上で、前記監視処理部は、前記第1制御部が出力するトルク指令が、エレベーターの通常走行で取り得るトルク指令を基準にして設定した上限値及び下限値の範囲内にあるかを判断し、
トルク指令が前記上限値または前記下限値の範囲を超えたとき、前記選択部は、前記第1制御部から前記第2制御部のトルク指令に切替える処理を行う
請求項1に記載のエレベーター制御装置。
【請求項3】
巻上機の駆動によって走行した乗りかごが停止したとき、前記選択部は、前記第1制御部が出力するトルク指令に切替える
請求項1に記載のエレベーター制御装置。
【請求項4】
前記上限値及び前記下限値の範囲は、前記巻上機により走行する乗りかごの走行モードにより設定する
請求項2に記載のエレベーター制御装置。
【請求項5】
前記走行モードは、加速中の走行モードと、一定速度での走行モードと、減速中の走行モードとを少なくとも有する
請求項4に記載のエレベーター制御装置。
【請求項6】
エレベーターの通常走行でとり得るトルク指令を基準にして設定した前記上限値及び前記下限値の範囲は、予めデータベースに登録される
請求項2に記載のエレベーター制御装置。
【請求項7】
前記監視処理部は、乗りかごを走行させる行程情報を取得し、前記行程情報から得られる出発階から停止階までの距離に応じて、前記上限値及び前記下限値の値を可変に設定する
請求項2に記載のエレベーター制御装置。
【請求項8】
前記監視処理部は、前記巻上機の回転速度の検出信号を取得して、前記巻上機の回転速度が設定した範囲を超えたとき、前記選択部で、前記第1制御部から前記第2制御部のトルク指令に切替える処理を行う
請求項1に記載のエレベーター制御装置。
【請求項9】
前記第1制御部には、乗りかごに設置された振動センサの出力が供給され、前記振動センサの出力に基づいた学習処理による非線形制御を行って、前記巻上機のトルク指令を生成する
請求項1~8のいずれか1項に記載のエレベーター制御装置。
【請求項10】
速度指令に応じてエレベーターの巻上機の速度を制御するエレベーター制御方法において、
前記巻上機のトルク指令を生成して出力すると共に、トルク指令を出力した際に得た速度情報とトルク指令との組み合わせから、乗りかごに設置された振動センサから得られる上下振動量が最も小さくなるトルク指令を、強化学習により決定する非線形制御処理と、
線形制御により前記巻上機のトルク指令を生成して出力する線形制御処理と、
前記トルク指令または前記巻上機の速度を監視する監視処理と、
前記監視処理による監視に基づいて、前記非線形制御処理で出力するトルク指令と、前記線形制御処理で出力するトルク指令の内のいずれか一方を選択して、前記巻上機の駆動回路に供給する選択処理と、を含み、
前記エレベーターの巻上機の速度制御を、前記非線形制御と前記線形制御の双方で行えるようにした
エレベーター制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーター制御装置及びエレベーター制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベーターなどの昇降機は、巻上機であるモータで主ロープを駆動することで昇降(走行)する。
従来は、走行速度であるメインロープの巻上げ速度は、比例動作と積分動作を組み合わせたPI制御(Proportional-Integral制御)で制御され、巻上機は、適切かつ安定な速度で運転されている。
これに対して、近年、AI(artificial intelligence)技術による制御やモデル予測制御等の非線形制御により、巻上機の速度を制御することが提案されている。非線形制御で巻上機の速度を制御することで、例えば乗りかご内の乗客に与える振動を最小限にしながら、乗りかごの高速走行を実現するような高性能な運転制御が可能になる。
【0003】
特許文献1には、学習機能を備えたエレベーター制御装置において、走行制御などの走行制御パラメータの変動が許容範囲外になると、エレベーターに異常が発生しているとして、サービスを停止する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5289574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、AI技術などの学習機能を適用した非線形制御によりエレベーターの速度を制御することで、従来の制御では不可能であった高性能な運転制御が可能になる。
しかしながら、学習機能を使った非線形制御では、学習結果に基づいた計算値や予測値で制御されるため、安定性が保証されていないという問題がある。つまり、学習結果に基づいた計算値や予測値が正しければ、高性能な運転制御が行われる一方、学習結果に基づいた計算値や予測値が誤ったものであるときには、乗りかご内の乗客に不快な振動を与えることや、着床誤差が生じる等の不具合が発生してしまう。
【0006】
ここで、従来は、特許文献1に記載されたように、学習機能を使った非線形制御で得た走行制御パラメータの変動が許容範囲外であるとき、つまり予測結果が適正でないとき、エレベーターが異常状態にあるとしてサービスを停止させるようにしていた。
しかしながら、エレベーターが運行停止になるのは、エレベーターが設置されたビルや施設の利用者から見て好ましいとはいえず、極力運転を継続することが望まれている。
【0007】
本発明は、AI制御やモデル予測制御等の非線形制御を適用した場合に、エレベーターの異常時にも、サービスを停止することなく運転を継続して行うことができるエレベーター制御装置及びエレベーター制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
本願は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、速度指令に応じてエレベーターの巻上機の速度を制御するエレベーター制御装置において、乗りかごは振動センサを有し、巻上機のトルク指令を生成して出力すると共に、トルク指令を出力した際に得た速度情報とトルク指令との組み合わせから、振動センサから得られる上下振動量が最も小さくなるトルク指令を、強化学習により決定する非線形制御を行う第1制御部と、線形制御により巻上機のトルク指令を生成して出力する第2制御部と、トルク指令または巻上機の速度を監視する監視処理部と、監視処理部での監視に基づいて、第1制御部が出力するトルク指令と第2制御部が出力するトルク指令の内のいずれか一方を選択して、巻上機の駆動回路に供給する選択部と、を備えて、選択部により、エレベーターの巻上機の速度制御を、非線形制御と線形制御のいずれかを選択して行えるようにした。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、非線形制御による巻上機の制御を行っている状態で、何らかの要因でトルク指令値が異常な値となったとき、線形制御に切り替わり、巻上機の制御状態が不安定になるのを効果的に阻止できるようになる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施の形態例によるエレベーター制御装置の構成例を示すブロック図である。
図2】本発明の一実施の形態例による第1制御部が学習処理で受け取る情報と指令の例を示す図である。
図3】本発明の一実施の形態例によるエレベーター制御装置のハードウェア構成例を示すブロック図である。
図4】本発明の一実施の形態例による制御処理全体の流れを示すフローチャートである。
図5】本発明の一実施の形態例による制御処理(行程によって可変させる例)の流れを示すフローチャートである。
図6】本発明の一実施の形態例によるトルク指令の時間変化の例を示すグラフである。
図7】本発明の他の実施の形態例によるエレベーター制御装置の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態例(以下「本例」と称する)を、図1図6を参照して説明する。
[エレベーター制御装置の構成]
図1は、本例のエレベーター制御装置10の構成の構成を示す。
まず、エレベーター制御装置10の構成を説明する前に、乗りかご21を走行させる構成であるエレベーター機構部20側の構成を簡単に説明する。
【0012】
乗りかご21は、網車24に巻き掛けられた主ロープ23の一端に接続され、主ロープ23の他端にはウェイト22が接続されている。網車24は、巻上機32による駆動で回転し、その回転で主ロープ23に接続された乗りかご21が走行する。
乗りかご21には、乗りかご21の上下振動を検出する振動センサ25が取り付けられ、振動センサ25で得られた上下振動の検出信号が、エレベーター制御装置10側に供給される。
【0013】
巻上機32は、三相交流モータ等で構成され、インバータ等で構成される駆動回路31からの駆動電源の供給で作動する。駆動回路31による駆動電源の生成は、エレベーター制御装置10を構成する後述の第1制御部(非線形制御部)12または第2制御部(PI制御部)15により制御される。
この場合、巻上機32には、ロータリーエンコーダ33が取り付けられ、ロータリーエンコーダ33が巻上機32の回転速度を検出する。ロータリーエンコーダ33が検出した回転速度の検出信号は、第1制御部12及び第2制御部15に供給される。
【0014】
次に、巻上機32の駆動を制御するエレベーター制御装置10の構成を説明する。
エレベーター制御装置10は、第1制御部(非線形制御部)12、第2制御部(PI制御部)15及び監視処理部13を備える。
また、エレベーター制御装置10は、選択部16、範囲設定部17及びデータベース部18を備える。
【0015】
第1制御部12には、速度指令入力端子11に得られる巻上機32の速度指令が供給される。また、速度指令入力端子11に得られる巻上機32の速度指令が、減算器14を介して第2制御部15に供給される。
第1制御部12と第2制御部15は、それぞれ供給される速度指令に基づいて、巻上機32のトルク指令を生成する。
【0016】
第1制御部12は、AI(artificial intelligence)技術を適用した強化学習による非線形制御処理で、トルク指令を決定する。また、第1制御部12には、速度指令入力端子11に得られる速度指令の他に、ロータリーエンコーダ33が検出した回転速度の情報と、乗りかご21に取り付けられた振動センサ25が検出した振動検出信号が供給される。なお、第1制御部12が強化学習で出力を決定する構成については、図2で後述する。加えて、本実施の形態例では非線形制御処理としてAI技術を適用した場合について示しているが、その他の例としてモデル予測制御等、理論的に制御安定性が保証されていないものであれば、いずれを適用してもよい。
【0017】
第2制御部15は、比例動作と積分動作を組み合わせた線形制御処理であるPI制御(Proportional-Integral制御)により、トルク指令を決定する。なお、第2制御部15に供給される速度指令は、速度指令入力端子11に得られる速度指令からロータリーエンコーダ33で検出された回転速度を減算器14で減算した差分の速度指令である。第2制御部15は、この差分の速度指令から巻上機32のトルク指令を生成する。第2制御部15で行われる線形制御は、エレベーター用巻上機の制御として従来から一般的に実行されているものである。
【0018】
第1制御部12で得られたトルク指令と、第2制御部15で得られたトルク指令は、選択部16に供給され、いずれか一方のトルク指令が選択されて、駆動回路31に供給される。駆動回路31は、供給される指令に対応した駆動用電源を生成して、巻上機32に供給する。これにより、巻上機32は、選択部16が出力するトルク指令に対応したトルクで作動するようになる。
【0019】
選択部16でのトルク指令の選択は、監視処理部13により制御される。
監視処理部13は、第1制御部12が出力するトルク指令を監視する処理を行う。そして、監視処理部13が監視したトルク指令が適正であるとき、選択部16は第1制御部12が出力したトルク指令を、駆動回路31に供給する。また、監視処理部13が監視したトルク指令が適正でない場合、選択部16は第2制御部15が出力したトルク指令を、駆動回路31に供給する。
【0020】
監視処理部13は、第1制御部12が出力するトルク指令を監視する際には、トルク指令が範囲設定部17で設定された上限値と下限値の範囲内にあるかを監視する。範囲設定部17がトルク指令の範囲を設定する際には、範囲設定部17は、走行制御情報入力端子19に得られる走行制御情報と、データベース部18に記憶された過去の範囲設定情報を参照して設定する。
すなわち、範囲設定部17は、走行制御情報入力端子19に得られる走行制御情報を、監視処理部13経由で取得する。走行制御情報入力端子19に得られる走行制御情報には、乗りかご21の走行モード情報や、出発階から停止階までの距離の情報等が含まれる。走行モード情報には、加速中、定速走行中、減速中等が示される。なお、データベース部18には、例えば、エレベーターの通常走行でとり得るトルク指令を基準にして設定した上限値及び下限値の範囲は、予め登録しておく。
【0021】
[第1制御部が強化学習を行う構成]
図2は、第1制御部12が強化学習を行う構成の例を示す。
本例の場合、強化学習を行う第1制御部12がエージェントとなり、制御対象であるエレベーター機構部20に対して、第1制御部12がトルク指令を送る。そして、第1制御部12に、エレベーター機構部20の振動センサ25から上下振動量が報酬として与えられる。
また、第1制御部12には、エレベーター機構部20からの測定情報が供給される。この測定情報としては、例えばロータリーエンコーダ33が検出した巻上機32の速度情報がある。
【0022】
第1制御部12は、エレベーター機構部20から得られた測定情報とトルク指令との組み合わせから、報酬である乗りかご21の上下振動量が最も小さくなるトルク指令を、何度も学習を繰り返すことで決定する。
【0023】
[エレベーター制御装置のハードウェア構成例]
図3は、エレベーター制御装置10をコンピュータ装置100で構成した場合のハードウェア構成例を示す。
図3に示すコンピュータ装置100は、バスにそれぞれ接続されたCPU(Central Processing Unit:中央処理ユニット)101と、ROM(Read Only Memory)102と、RAM(Random Access Memory)103を備える。さらに、コンピュータ装置100は、不揮発性ストレージ104と、ネットワークインタフェース105と、入出力部106を備える。
【0024】
CPU101は、トルク指令を生成させる処理を実行するソフトウェアのプログラムコードをROM102から読み出して実行する演算処理部である。
RAM103には、演算処理の途中に発生した変数やパラメータ等が一時的に書き込まれる。
【0025】
不揮発性ストレージ104には、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)などの大容量の情報記憶部が用いられる。不揮発性ストレージ104には、制御履歴などのデータが格納される。また、データベース部18に格納される情報についても、不揮発性ストレージ104に格納される。さらに、トルク指令を生成させる処理を実行するソフトウェアの一部又は全てを不揮発性ストレージ104が格納してもよい。
【0026】
ネットワークインタフェース105には、例えば、NIC(Network Interface Card)などが用いられ、外部機器と各種情報の送受信処理を行う。
入出力部106は、トルク指令を駆動回路31に出力する処理を行うと共に、ロータリーエンコーダ33や振動センサ25の出力の入力処理を行う。
【0027】
なお、エレベーター制御装置10を図3に示すコンピュータで構成するのは一例であり、コンピュータ以外のその他の演算処理を行う装置で構成してもよい。例えば、エレベーター制御装置10が行う機能の一部又は全部を、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのハードウェアによって実現してもよい。
また、ここではエレベーター制御装置10を1つのコンピュータとしたが、例えば第1制御部12、第2制御部15をそれぞれ別のコンピュータ(またはFPGA、ASICなどのハードウェア)で構成してもよい。
【0028】
[制御処理の流れ]
図4は、本例のエレベーター制御装置10がトルク指令を生成する際の処理の流れを示すフローチャートである。
巻上機32による乗りかご21の走行開始時には、選択部16は第1制御部12を選択して、第1制御部12での強化学習による制御でトルク指令を生成する処理を行い、トルク指令を駆動回路31に供給して巻上機32を駆動させる(ステップS11)。
そして、監視処理部13がステップ11で生成されるトルク指令の監視処理を実行する(ステップS12)。ここで、監視処理部13は、監視しているトルクが、範囲設定部17で設定された上限値と下限値との間の幅に収まっているか否かを判断する(ステップS13)。
【0029】
ステップS13で、監視しているトルクが設定された幅に収まっている場合(ステップS13のYes)には、ステップ11の処理に戻って、第1制御部12でのトルク指令の生成を継続して行う。
一方、ステップS13で、監視しているトルクが設定された幅を超えた場合(ステップS13のNo)には、選択部16は、出力するトルク指令を第1制御部12の出力から第2制御部15の出力に切り替え、第2制御部15による制御を実行する(ステップS14)。この切り替えが行われることで、駆動回路31に供給されるトルク指令が、強化学習による非線形制御に基づいた指令から、PI制御による線形制御に基づいた指令に切替わる。
【0030】
そして、選択部16は、速度指令入力端子11に得られる速度指令等から乗りかご21が停止したか否かを判断する(ステップS15)。このステップS15で、乗りかご21が停止していない場合(ステップS15のNo)、ステップS14での第2制御部15による制御を継続させる。
そして、ステップS15で、乗りかご21が停止したと判断した場合(ステップS15のYes)、選択部16は、第1制御部12を選択した状態に戻し、ステップ11の処理に戻って、第1制御部12でのトルク指令の生成を行う。
【0031】
図5は、監視処理部13がトルク指令を監視する際の、範囲設定部17での範囲設定処理を示すフローチャートである。
まず、範囲設定部17は、走行制御情報入力端子19に得られる走行制御情報から、乗りかご21の出発階から停止階までの距離情報を取得する(ステップS21)。この距離情報から、範囲設定部17は、乗りかご21を走行させる際の走行速度(最高速度)を判断する。例えば、範囲設定部17は、出発階から停止階までの距離(階数)が長距離であるとき、高速走行を行うと判断し、出発階から停止階までの距離が短距離であるとき、低速走行を行うと判断する。
【0032】
また、範囲設定部17は、加速中の走行モードでの走行状態と、定速走行中の走行モードでの走行状態と、減速中の走行モードでの走行状態を判断する(ステップS22)。
そして、範囲設定部17は、ステップS21で判断した距離や速度に適した各走行モードでのトルク指令値の上限値と下限値で決まる範囲を設定する(ステップS23)。このトルク指令値の範囲を設定する際には、例えばデータベース部18に記憶された、過去の同様の状況で設定した範囲を参照する。
【0033】
[走行時のトルク指令と上限値、下限値との関係の例]
図6は、乗りかご走行時の巻上機のトルク指令と上限値、下限値との関係の例を示す。図6の縦軸はトルク指令の値、横軸は時間である。この図6に示すトルク指令T1は、強化学習を適用した非線形制御である第1制御部12が出力するトルク指令である。
図6に示すように、最初に乗りかごが加速する加速区間taがあり、その後、定速区間tbになり、最後に減速区間tcになって停止する。定速区間tbの長さ(時間)は、乗りかごが走行する距離によって変化し、加速区間taや減速区間tcの長さについても定速運転時の速度によって変化する。
【0034】
そして、図6に示すラインTHは、トルク指令として通常取り得る値の上限値を示す。また、ラインTLは、トルク指令として取り得る値の下限値を示す。
こられの上限値THと下限値TLは、範囲設定部17が走行モードの情報やデータベース部18に蓄積された過去のデータ等を参照して、現在の走行時に適切と思われる値を設定する。言い換えると、上限値と下限値の範囲内であるとき、エレベーターの走行として許容できる状態であり、この範囲を超えたとき、乗客に不快な振動を与えるといったことや、エレベーターの走行制御として正常な状態になく、着床誤差が発生したり、目的階に対して著しい行き過ぎ・手前止まり等が発生する可能性がある状態である。
上限値THと下限値TLは、図6に示すように、加速区間ta、定速区間tb、減速区間tcによって変化する値であり、加速区間taや減速区間tcについては、区間内でも変化する。
【0035】
そして、監視処理部13は、第1制御部12が出力するトルク指令T1が、この上限値THと下限値TLで示される範囲内に入っているか否かを監視する。
図6の×印は、エレベーターが想定する正常な走行から外れた場合であり、定速区間tbの途中でトルク指令T1が下限値TLより低くなった状態が発生したことを示す。
このような状態が発生したとき、本例の場合には、監視処理部13は、選択部16を第2制御部15側に切り替える処理を実行する。これにより、理論的に制御安定性の保証された線形制御である第2制御部15が出力するトルク指令により、巻上機32が駆動されるようになる。
【0036】
以上説明したように、本例のエレベーター制御装置10によると、通常時は非線形制御処理が行われる第1制御部12が出力するトルク指令で、乗りかご21の振動が少ない高精度な走行制御が可能なる。そして、稀ではあっても発生する可能性が排除できない非線形制御の誤動作時には、線形制御処理が行われる第2制御部15に切り替わり、乗客に不快な振動等を与えることなく目的階に到着できるようになる。乗りかご21が停止した後は、再び第1制御部12の制御に切り替わるため、誤ったトルク指令の原因が一時的な誤った演算結果に基づくものであれば、その後は元の高精度な走行制御に復帰することができる。
【0037】
[エレベーター制御装置の他の構成例]
なお、監視処理部13が監視を行う上で、図1に示す構成では、第1制御部12が出力するトルク指令に対し、設定した範囲内にあるか否かを監視するようにした。これについて、監視処理部13は、巻上機32の回転状態が、設定した範囲内にあるか監視してもよい。
図7は、巻上機32の回転状態が設定した範囲内にあるかどうかを監視するための構成を示している。図7において、図1で説明した構成と同一箇所には同一符号を付す。
【0038】
図7に示す監視処理部13′は、ロータリーエンコーダ33が検出した巻上機32の回転速度の情報を取得する。そして、取得した巻上機32の回転速度が、設定した範囲内にあるか否かを監視する。監視処理部13′が監視する場合の回転速度の上限値と下限値は、図1の例と同様に、範囲設定部17で設定した上限値と下限値を使用する。
図7のその他の構成については、図1に示すエレベーター制御装置10と同様に構成する。
【0039】
このように、第1制御部12が出力するトルク指令で巻上機32を作動させた結果としての回転速度情報を、監視処理部13′が取得して、設定した範囲内であるかを監視することでも、第1制御部12が出力するトルク指令に異常があったことを監視できる。したがって、図7に示す構成の場合には、異常時に回転速度情報が範囲を超えることになり、上述した実施の形態例と同様の効果が得られる。
【0040】
[その他の変形例]
本発明は、上述した各実施の形態例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、範囲設定部17がトルク値(または回転速度)の範囲を設定する際には、乗りかご21の走行距離(行程)だけでなく、積載量の情報を取得して、積載量に応じて適切な範囲を算出してもよい。また、範囲設定部17には、エレベーター機構部20を構成する各機構のイナーシャ等の情報を持たせて、エレベーター機構部20を構成に基づいて、より正確なトルク値または回転速度の上限値及び下限値を算出するようにしてもよい。
【0041】
また、走行モードの情報については、例えば加速区間を、加速前半区間と加速後半区間等のように、より多くの区間(走行モード)に分けて、判断してもよい。
また、データベース部18が保存する上限値や下限値の情報は、実際の運用で範囲設定部17が演算で得た上限値や下限値に基づいて、逐次更新してもよい。逆に、範囲設定部17は、常に行程や積載量などの情報を取得して、上限値や下限値を演算する場合、データベース部18は省略してもよい。
【0042】
また、上述した実施の形態例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、図1図7に示す構成図では、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものだけを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。また、図4図5に示すフローチャートにおいて、実施の形態例の処理結果に影響がない範囲で、一部の処理ステップの実行順序を入れ替えたり、一部の処理ステップを同時に実行したりするようにしてもよい。
【0043】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD等の記録装置、又は、ICカード、SDカード、光ディスク等の記録媒体に置くことができる。
【符号の説明】
【0044】
10…エレベーター制御装置、11…速度指令入力端子、12…第1制御部、13、13′…監視処理部、14…減算器、15…第2制御部、16…選択部、17…範囲設定部、18…データベース部、19…走行制御情報入力端子、20…エレベーター機構部、21…乗りかご、22…ウェイト、23…主ロープ、24…網車、25…振動センサ、31…駆動回路、32…巻上機、33…ロータリーエンコーダ、100…コンピュータ装置、101…中央処理ユニット(CPU)、102…ROM、103…RAM、104…不揮発性ストレージ、105…ネットワークインタフェース、106…入出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7