(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-12
(45)【発行日】2022-10-20
(54)【発明の名称】船舶用の、特に大型船用の、硬帆、及び硬帆を具備した船舶
(51)【国際特許分類】
B63H 9/08 20060101AFI20221013BHJP
B63H 9/061 20200101ALI20221013BHJP
B63H 9/072 20200101ALI20221013BHJP
B63H 9/10 20060101ALI20221013BHJP
【FI】
B63H9/08
B63H9/061
B63H9/06 D
B63H9/10 A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020022693
(22)【出願日】2020-02-13
【審査請求日】2020-05-25
(31)【優先権主張番号】20 2019 100 897.0
(32)【優先日】2019-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】20 2019 102 941.2
(32)【優先日】2019-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520052813
【氏名又は名称】ベッカー マリーン システムズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Becker Marine Systems GmbH
【住所又は居所原語表記】Blohmstrasse 23, 21079 Hamburg, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】ヘニング クールマン
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0033998(US,A1)
【文献】特開2012-240539(JP,A)
【文献】実開昭59-11100(JP,U)
【文献】特開昭58-12895(JP,A)
【文献】特開2015-174604(JP,A)
【文献】特開昭61-200091(JP,A)
【文献】特開昭57-114793(JP,A)
【文献】特開昭57-194187(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 9/04- 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶(10)用の硬帆(100)であって、マスト(14)と、前記マスト(14)に取り付けられて底部(15)及び頭部(17)を具備した第1の翼帆体(12)と、を備え、前記マスト(14)が前記第1の翼帆体(12)内に前記底部(15)を貫通して挿入されて前記第1の翼帆体(12)内に配設されている、硬帆(100)において、前記マスト(14)が、前記底部(15)から始まり、前記第1の翼帆体(12)の最大高さ(21)までは延びておらず、前記第1の翼帆体(12)は所定の破断箇所(46)を有することを特徴とする硬帆(100)。
【請求項2】
前記マスト(14)は、前記最大高さ(21)の50%未満まで延びていることを特徴とする、請求項1に記載の硬帆(100)。
【請求項3】
前記マスト(14)は、第1の端部(27)が前記第1の翼帆体(12)内で第1の軸受(28)内に取り付けられ、及び/又は、前記マスト(14)は
、前記底部(15)の領域内に配設された、第2の軸受(29)内に取り付けられていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の硬帆(100)。
【請求項4】
旋回装置(31)が設けられ、前記マスト(14)は、前記第1の翼帆体(12)と反対側の、第2の端部(30)が前記旋回装置(31)内に取り付けられ、前記旋回装置(31)は、前記マスト(14)を、船舶(10)に配設されたとき、垂直姿勢から角度をとるように旋回させるようになっていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の硬帆(100)。
【請求項5】
前記角度は少なくとも80°であることを特徴とする、請求項4に記載の硬帆(100)。
【請求項6】
前記マスト(14)は前記第2の端部(30)に横軸(32)を有し、前記横軸(32)は前記旋回装置(31)の軸受容部(33)内に回転自在に取り付けられていることを特徴とする、請求項4又は5に記載の硬帆(100)。
【請求項7】
前記旋回装置(31)は、前記マスト(14)の前記第2の端部(30)に配設された部分リングギア(34)と、前記船舶(10)に配設可能であって前記部分リングギア(34)に係合する駆動手段(36)を備え、及び/又は、前記旋回装置(31)は流体圧シリンダを備えることを特徴とする、請求項4乃至6のいずれか一項に記載の硬帆(100)。
【請求項8】
前記第1の翼帆体(12)は前縁(22)及び後縁(23)を有し、第2の翼帆体(13)が、前記第1の翼帆体(12)の前記後縁(23)に回転自在に配設されていることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の硬帆(100)。
【請求項9】
前記第2の翼帆体(13)は複数のセグメント(26、26a、26b)を有することを特徴とする、請求項8に記載の硬帆(100)。
【請求項10】
前記複数のセグメント(26、26a、26b)は、前記第1の翼帆体(12)に関して、互いに個別に旋回可能であることを特徴とする、請求項9に記載の硬帆(100)。
【請求項11】
前記第2の翼帆体(13)は伸縮可能であり、ある上側セグメント(26、26a)は隣接して配設された下側セグメント(26、26b)内に引込可能であることを特徴とする、請求項9又は10に記載の硬帆(100)。
【請求項12】
前記複数のセグメント(26、26a、26b)はレール・システム(45)によって案内されることを特徴とする、請求項11に記載の硬帆(100)。
【請求項13】
前記第1の翼帆体(12)はリブ(49)及び/又は支柱(50)を有することを特徴とする、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の硬帆(100)。
【請求項14】
前記第1の翼帆体(12)及び/又は前記第2の翼帆体(13)は外殻(38)を有し、前記外殻(38)はアルミニウム・サンドイッチ構造(41)及び/又はファイバグラス構造を備えることを特徴とする、請求項1乃至13のいずれか一項に記載の硬帆(100)。
【請求項15】
前記硬帆は、前記頭部(17、20)に向かう方向において徐々に細くなっていることを特徴とする、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の硬帆(100)。
【請求項16】
前記第1の翼帆体(12)及び/又は前記第2の翼帆体(13)は、所定の破断箇所(46)を、前記マスト(14)の上方に、有することを特徴とする、請求項1乃至15のいずれか一項に記載の硬帆(100)。
【請求項17】
請求項1乃至16のいずれか一項に記載の硬帆(100)を具備した船舶(10)。
【請求項18】
請求項1乃至16のいずれか一項に記載の硬帆(100)のための旋回装置(31)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶用の、特に、ばら積み貨物船、タンカ、自動車運搬船、又は、ばら積み船などの大型船用の、硬帆であって、マストと、マストに取り付けられて底部及び頭部を具備した第1の翼帆体と、を備え、マストが第1の翼帆体内に底部を貫通して挿入されて第1の翼帆体内に配設されている、硬帆に関する。更に、本発明は、硬帆を具備した船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
硬帆は、翼帆とも称し、補助推進システムとして、大型船用にも、より頻繁に提案されるようになっている。硬帆すなわち翼帆は、翼帆体を備えている。翼帆体とは、従来の帆の代わりに、船舶に取り付けられる空力構造のことである。硬帆すなわち翼帆は、航空機の翼と同様に作用し、通例、硬質すなわち頑丈な外殻を有する。硬帆すなわち翼帆を、船に、特に大型船に、用いることにより、追加の推進力が提供可能となり、燃料消費及び船の排気物質を低減することができるようになる。
【0003】
WO2014/001824A1は、前翼帆部と後翼帆部と支柱とを備え少なくとも一つの翼帆部が旋回可能な翼帆すなわち硬帆を開示している。翼帆は、少なくとも一つの翼帆部の支柱に対して個別に角度調整するために、制御システムを備えている。
【0004】
WO2018/087649A1は、少なくとも部分的に帆によって推進される船であって、帆が、回転可能に配設された二重帆を有する、船を開示している。二重帆は、間隙を隔てた前翼及び後翼を備えている。
【0005】
WO2014/053029A1は、船舶に取り付けられる硬帆すなわち硬翼を開示している。硬帆は、一対の長尺の硬質パネルとヒンジ部とを備え、ヒンジ部は、パネルを互いに結合し、二枚のパネルを相互に旋回可能とするようになっている。
【0006】
EP2366621A2は、複数の硬帆部を具備した硬帆アセンブリを備えた帆ユニットに関する。硬帆部は、翼断面が中空であり、最下部以外、上部が下部内に引込可能となるように、上下に積み重ねて配設されている。
【0007】
US2015/0158569A1によると、帆とマストとを備え、マストが推進翼の前縁を形成した、船舶用の推進翼が知られている。マストと推進翼とは分割されている。推進翼は、少なくとも二枚の可動フィンを有する。
【0008】
大型船のために設けられる硬帆すなわち翼帆は、対応して寸法が大きくなる。その結果、硬帆は著しく大きな空力荷重にさらされる。したがって、従来は、硬帆の翼帆体の全高に亘って延びた、特に安定したマストが用いられてきた。これにより、硬帆の総重量が増大する結果となった。更に、大型で高い硬帆により、混雑した海域に跨って設置された橋梁、電線、又は同様の構造下を、通過することができなくなっていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、総重量が少なく、製造の際に費用対効果が高く、混雑した海域に跨って設置された橋梁、電線又は同様の構造下を通過することに悪影響がない、硬帆すなわち翼帆を提供することにある。更に、本発明の目的は、上述の利点が得られる硬帆すなわち翼帆を具備した船舶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明における問題を解決するため、船舶用の、特に、ばら積み貨物船、タンカ、自動車運搬船、又はばら積み船などの大型船用の、硬帆であって、マストと、マストに取り付けられて底部及び頭部を具備した第1の翼帆体と、を備え、マストが第1の翼帆体内に底部を貫通して挿入されて第1の翼帆体内に配設され、マストが、底部から始まり、第1の翼帆体の最大高さまでは延びていない、特に最大高さの75%未満まで延びている、硬帆が提案される。
【0011】
本発明の文脈において、「硬帆」、「翼帆」又は「翼状帆」なる用語は、同義で使用可能である。
【0012】
硬帆は、底部及び頭部を具備した第1の翼帆体を備えている。底部は、基底とも称し、頭部の反対側に配設されている。船舶に取り付けられたとき、硬帆は、通例、垂直に配設され、底部は垂直方向下方の船体近傍に配設され、頭部は底部の垂直方向上方に配設される。
【0013】
硬帆すなわち翼帆を船舶に配設するためにマストが設けられていて、マストは船舶に結合可能である。そして、第1の翼帆体がマストに配設されている。この目的のために、マストは、第1の翼帆体内に底部すなわち底部の下部底板を貫通して挿入されて、第1の翼帆体内に取り付けられている。第1の翼帆体には、最大高さがある。この最大高さは、通例、翼帆体における底部すなわち底部の底板と頭部との間の距離である。ただし、翼帆体の具体的な設計に応じて、最大高さは様々な寸法となり得る。
【0014】
本発明の特に有利な点は、マストが、第1の翼帆体の最大高さまでは延びていないこと、特に、それにより最大高さの75%未満まで延びていること、によりもたらされる。換言すれば、最大高さが翼帆体における底部から頭部までであるならば、翼帆内に配設されたマストは、翼帆体の頭部までは延びず、それにより特に底部から始まって最大高さの75%未満までだけ延びている。したがって、マストは、頭部までの最大高さの残りの部分には配設されず、特に最大高さの残り25%の部分には配設されない。通例、翼帆体内に配設されたマストの第1の上端から第1の翼帆体の頭部まで延びた領域である上部領域は、マストにより支持又は安定的に固定されてはいない、翼帆体の自立領域すなわち自己支持領域である。この方策により、硬帆すなわち翼帆の総重量を低減し、製品を安価にすることができる。更に、翼帆体の最大高さの上方には配設されないマストは、マストに対する曲げ圧力を低減して、マストをより少ない重量且つより少ない材料で作製可能とすることができる。翼帆体の最大高さまでは延びていないマストの更なる利点は、翼帆体の上部の自立領域すなわち自己支持領域において、材料を、及びそれによる重量を、ほとんど外殻に配分可能であり、そしてそれにより屈曲又は曲げ圧力に耐えるために最も好適なところに配分可能であることである。
【0015】
翼帆体が、下部の高応力領域では曲げトルクに耐えるのに十分には強くない場合、マストは、翼帆体の下部領域を追加的に支持するように作用する。翼帆体の最大高さまでは延びていないマストの配設により、マストに用いる材料を低減すると共に、翼帆体の外殻に用いる材料を低減することになる。なぜなら、翼帆体の最大高さまで延びているマストの配設によれば、翼帆体の外殻を、当てはまる場合は、翼帆体の下部領域において大幅に補強する必要があるためである。
【0016】
好ましくは、硬帆は、船舶に配設されたとき、特にマストの長軸の回りを、少なくとも180°、更に好ましくは少なくとも270°、特に好ましくは少なくとも330°、最も好ましくは360°、回転可能である。このように特に自由に回転可能であることから、帆は、船舶に対して最大の推進力を達成するため、あらゆる卓越風条件下での風に最適に配置することができる。
【0017】
更に、現在の卓越風条件を測定可能な、センサ、特に風センサ、が設けられ得る。更に、制御装置が設けられ得る。制御装置は、センサ、特に風センサ、により取得したデータを処理し、制御命令を硬帆に、すなわち硬帆を制御する装置に、送信する。例えば、風に対する硬帆の迎角を制御装置により決定することができ、それに応じて硬帆を、好ましくはモータにより、風に対して配置することができる。
【0018】
マストは、好ましくは円形又は矩形断面の、実質的に中空な筒として形成され得る。
【0019】
マストは、金属、特に鋼鉄、若しくは複合材、若しくはカーボン・ファイバ材を含んでもよく、又はそれのみからなってもよい。
【0020】
帆の最低高さは、好ましくは帆の底部から、船に配設された場合には船のデッキから、帆の先端まで測定され、好ましくは10m、更に好ましくは20m、特に好ましくは少なくとも30mである。帆の最小面積は、好ましくは少なくとも200m2、更に好ましくは少なくとも300m2、最も好ましくは少なくとも400m2である。硬帆は、高さが、特に最大高さが、少なくとも50m、好ましくは少なくとも70m、特に好ましくは少なくとも80mであってもよい。
【0021】
硬帆の効率は、空力揚抗比、すなわち揚力係数と抵抗係数との商で定量化され得る。
【0022】
好ましくは、硬帆は、空力揚抗比が、少なくとも4、好ましくは少なくとも7、特に好ましくは少なくとも10である。
【0023】
更に、硬帆の(帆面積[m2])1/2/(重量[t])1/3の比は、少なくとも9、好ましくは少なくとも11、特に好ましくは少なくとも13とされ得る。
【0024】
更に有利な態様では、マストは、最大高さの50%未満まで、好ましくは40%未満まで、特に好ましくは35%未満まで、延びているものとされ得る。この方策により、硬帆の重量及びマストに対する曲げ圧力を、更に低減することができる。
【0025】
底部から測定した最大高さの下側1/3にのみマストが延びていれば、特に有利である。
【0026】
マストは、第1の端部が第1の翼帆体内で第1の軸受内に取り付けられ、及び/又は、マストは、特に底部の領域内に配設された、第2の軸受内に取り付けられていることが好ましい。
【0027】
好適な第2の軸受は、翼帆体の底部に直接配設される必要はなく、より第1の軸受に近接した底部の上方、例えば、最大高さの5%から、好ましくは10%から、30%までの間に、配置され得る。第1の軸受及び第2の軸受は、翼帆体に対して2点支持を供することが好ましい。
【0028】
更に、旋回装置が設けられ得る。マストは、第1の翼帆体と反対側の、第2の端部が旋回装置内に取り付けられ、旋回装置は、マストを、船舶に配設されたとき、垂直姿勢から角度をとるように旋回させるようになっている。
【0029】
マストを旋回装置内に取り付けるために、第3の軸受が設けられ得る。旋回装置により、硬帆が、特に第1の翼帆体が、垂直姿勢から旋回すなわち傾斜し得る。これにより、船のデッキから垂直方向に測定された硬帆の垂直高を、低減可能となる。旋回装置により、硬帆を、特に第1の翼帆体を、少なくとも部分的に下降させることができ、船舶に、橋梁や電線などの海域上に配設された構造物下の通過を可能とする。
【0030】
マストの第2の端部は、特にマストの長手方向で見て、マストの第1の端部の反対側に配設されることが好ましい。
【0031】
好適には、前記角度は、少なくとも45°、好ましくは少なくとも60°、特に好ましくは少なくとも80°、最も好ましくは実質的に90°である。
【0032】
前記角度が少なくとも45°、60°、80°、又は実質的に90°であれば、硬帆は、特に第1の翼帆体は、船舶の高さが著しく低減して海域における橋梁や電線などの下の通過が可能となるように、垂直姿勢から旋回可能である。特に、角度が少なくとも80°又は好ましくは実質的に90°であれば、硬帆は、ほぼ完全に下降可能である。
【0033】
特に有利な態様では、マストは第2の端部に横軸を有し、横軸は旋回装置の軸受容部内に回転自在に取り付けられたものとされ得る。
【0034】
横軸は、筒すなわち中空筒として形成され得る。横軸は、マストの下側の第2の端部に、好ましくはマストの長軸を横切って直角に、配設される。この端部において、横軸は、軸受容部内に回転自在に取り付けられ得るものであり、例えば、硬帆が、特に第1の翼帆体が、旋回装置により横軸の回りを旋回可能となるように、旋回装置の軸受内に取り付けられ得る。
【0035】
横軸は、マストの一部あるいは旋回装置の一部とみなされ得る。
【0036】
旋回装置は、マストの第2の端部に配設された部分リングギアと、船舶に配設可能であって部分リングギアに係合する駆動手段、特に歯車又はチェーン、とを備えたものとされることが好ましい。
【0037】
部分リングギアは、半円形、三分の一円形、又は四分の一円形、のリングギアとして形成され得る。船に取り付けられたとき、部分リングギアは、あてがわれた駆動手段、特に船に結合した歯車又はチェーン、と係合する。駆動手段を、特に歯車又はチェーンを、動作させることにより、部分リングギアが動いて、部分リングギアに結合した硬帆のマストが旋回することにより、硬帆を下降すなわち旋回させることが可能となる。
【0038】
更に、旋回装置が二つ以上の部分リングギアを有し、二つ以上の部分リングギアは、互いに隣接して配設され、及び/又は互いに平行に配設されることが好ましい。
【0039】
基本的に、旋回装置は、マストすなわち硬帆を旋回可能にする流体圧シリンダ、ロープ・ウィンチなどを備え得る。
【0040】
更に、旋回装置は、部分リングギアのガイドを有し得る。これにより、特に、硬帆にトルクがかかってマストが歪むことで部分リングギアが歪み得ることが、解決し得る。
【0041】
硬帆を下降させるためには、旋回装置を動作させる前に、まず硬帆を船舶の長軸に対して90°となるまで回転させることが好ましい。
【0042】
硬帆の第1の翼帆体は前縁及び後縁を有し、第2の翼帆体が、特にフィンが、第1の翼帆体の後縁に回転自在に配設されることが好ましい。
【0043】
原理上は更に複数の翼帆体が設けられ得るが、硬帆は、ただ一つの、すなわち第1の、翼帆体、又は、互いに旋回するただ二つの翼帆体、すなわち第1の翼帆体及び第2の翼帆体、を備えていることが好ましい。第1の翼帆体の前縁には更なる翼帆体が配設されておらず第1の翼帆体の前縁に対して直接風が流れること、及び/又は、第2の翼帆体の後縁には更なる翼帆体が配設されていないこと、が特に好ましい。
【0044】
第2の翼帆体を、具体的にはフィンを、第1の翼帆体の後縁に旋回自在に配設することにより、硬帆の揚力及びそれによる推進力を様々な風の条件に対して最適化可能である。
【0045】
また、第2の翼帆体にも、前縁及び後縁があり得る。更に、第2の翼帆体は、第1の翼帆体と共に、旋回装置により、下降すなわち旋回可能である。
【0046】
第2の翼帆体を第1の翼帆体に対して旋回させることは、対応する調整機構により可能となり得る。調整機構は、電動機又は内燃機関を備え得る。更に、調整機構は、ギアリング、歯車、チェーン、流体圧シリンダ、ロープ牽引などを有してもよい。
【0047】
第2の翼帆体は、マストに配設されないで第1の翼帆体にのみ配設されていることが好ましい。第1の翼帆体の断面弦に沿って見たときに、マストは第1の翼帆体の中央又は前側半分内に配置されていることが好ましい。特に好ましくは、マストは、前縁から、断面弦長の約25%乃至40%、更に好ましくは30%乃至35%、離して配設されている。
【0048】
第1及び/又は第2の翼帆体は、対称又は非対称の輪郭、特にNACA輪郭、を持ち得る。更に、第1及び/又は特に第2の翼帆体は、帆布を備え得るか、あるいは帆布として形成され得る。
【0049】
第1の翼帆体と第2の翼帆体との間に、第1の翼帆体の後縁及び/又は第2の翼帆体の前縁と実質的に平行な間隙が設けられ得る。更に、この間隙は、第2の翼帆体を旋回させてもそのままであることが好ましい。間隙を設けることにより、特に極端な迎角や強風の場合にも、第1の翼帆体及び/又は第2の翼帆体における失速を防ぐことができる。
【0050】
また、第2の翼帆体は、底部及び頭部を有してもよい。
【0051】
第1の翼帆体及び/又は第2の翼帆体の頭部に、小翼や同様のものが配設されていないことが、特に好ましい。
【0052】
更に有利な態様では、第2の翼帆体は、複数のセグメントを有するものとされ得る。第2の翼帆体の底部から頭部への方向で見たときに、複数のセグメントがそれぞれ積み重ねられて配設されていることが好ましい。複数のセグメントが第1の翼帆体に関して互いに個別に旋回可能であれば、特に有利となる。
【0053】
船舶上の上部構造により、流れの条件は、上下方向において、硬帆の、具体的には第1の翼帆体及び/又は第2の翼帆体の、高さに亘って見渡すと変化し得るものであり、複数のセグメントが個別に制御されて最適な揚力及び推進力が得られると特に有利である。
【0054】
更に好ましくは、第2の翼帆体は伸縮可能であり、好ましくは、上側セグメントは隣接して配設された下側セグメント内に引込可能であるものとされ得る。
【0055】
複数のセグメントは、船に配設された状態において隣接セグメントの上又は下に配設されている、上側セグメント及び下側セグメントであると理解される。第2の翼帆体を入れ子式に縮めるために、すなわち上側セグメントをそれぞれ隣接する下側セグメント内に引き込ませるために、各セグメントは中空体として形成されることが好ましい。
【0056】
第2の翼帆体の底部を特に含む最下部のセグメントのみは、他のセグメント内に収納不能である。ただし、一般に、この最下部のセグメントが船体内に収納可能であることが考えられ得る。
【0057】
第2の翼帆体の、具体的にはフィンの、伸縮能力により、帆の全面積が著しく減少する。第2の翼帆体のみが伸縮可能であれば、伸縮機構が故障しないように第1の翼帆体が常に曲げ荷重のほとんどを受けるので、硬帆の機構が全体的に簡潔になり得る。完全に伸縮可能な硬帆に対し、第2の翼帆体のみが伸縮可能である硬帆は、機構の複雑性が低い。
【0058】
同様に、第1の翼帆体も、複数のセグメントを有してもよい。第2の翼帆体と同様に、第1の翼帆体の複数のセグメントは個別に独立して旋回してもよい。更に、第1の翼帆体も、第1の翼帆体の複数のセグメントが相互に引込可能となるように伸縮してもよい。この場合、第1の翼帆体の複数のセグメントも中空体であり得る。
【0059】
ただし、第1の翼帆体は、互いにしっかりと結合した複数のセグメントを有するものとされ得ることが好ましい。複数のセグメントを具備した第1の翼帆体の実施形態は、生産の観点でも好ましい。これは、個々のセグメントが互いに独立して生産されて互いに取り付けられることが可能であるためである。
【0060】
有利な態様では、複数のセグメントは、特に第2の翼帆体の複数のセグメントは、レール・システムによって案内されるものとされ得る。
【0061】
レール・システムは、第2の翼帆体内の第2の翼帆体の前縁に、又は第1の翼帆体の後縁に、配設可能である。第2の翼帆体の複数のセグメントは、レール・システムに沿って伸縮する。レール・システムが第2の翼帆体内に配設される場合、レール・システムも伸縮可能であるものとされ得る。また、固定したレール、その上を第2の翼帆体の伸縮可能な複数のセグメントが移動する、が第1の翼帆体の後縁に配設されてもよい。
【0062】
更に有利な態様では、第1の翼帆体及び/又は第2の翼帆体が、リブ及び/又は支柱を有する。第1及び/又は第2の翼帆体は、航空機の翼と同様に構築され得ることが好ましい。複数のリブは、第1及び/又は第2の翼帆体の断面弦と平行に延び、少なくとも1m、好ましくは少なくとも1.5m、特に好ましくは少なくとも2m、の間隔で配設可能である。複数の長尺の支柱が、各リブと垂直に配設されることが好ましく、少なくとも1m、好ましくは少なくとも2m、の距離をとり得る。二本、三本又はそれ以上の支柱が設けられ得る。
【0063】
リブ及び/又は支柱は、マストが第1の翼帆体内に配設された領域における最大高さについて配設されることが好ましい。
【0064】
そして、リブ及び支柱は、この領域内にある程度の補強を提供する。更に、リブ及び/又は支柱は、第1及び/又は第2の翼帆体の高さ全体に亘って配設され得るものであり、それにより、第1及び/又は第2の翼帆体の全体を補強することが好ましい。複数の支柱が、又は少なくとも一本の支柱が、第1及び/又は第2の翼帆体の高さ全体に亘って、更に特に第1及び/又は第2の翼帆体の頭部まで、配設されることが特に好ましい。
【0065】
そのうえ、更なる補強具が、特にマストの領域内に、設けられ得る。
【0066】
第1の翼帆体及び/又は第2の翼帆体は、外殻を有し得る。外殻は、特に固く、アルミニウム・サンドイッチ構造又はファイバグラス構造を備えるようになっていることが、更に好ましい。外殻は、翼帆体のそれぞれの側壁を形成する。
【0067】
アルミニウム・サンドイッチ構造の場合、外殻は、2枚の外板、具体的にはアルミニウム板、を有し、これら2枚の間に、波板の形状に設計された他のアルミニウム構造が介在する。
【0068】
特に、アルミニウム・サンドイッチ構造は、特に高度の強度及び/又は安定性を有すると同時に、著しく低重量である。
【0069】
ただし、原理上は、第1の翼帆体及び/又は第2の翼帆体の外殻が、鋼鉄若しくは複合材若しくはカーボン・ファイバ材、又は例えばキャンバスなどの布地、からなるものであることも考えられ得る。
【0070】
硬帆は、具体的には第1の翼帆体及び/又は第2の翼帆体は、頭部に向かう方向において徐々に細くなることが好ましい。
【0071】
側面視において、硬帆は、少なくとも部分的には略三角形状である。第1及び/又は第2の翼帆体をテーパ状に設計することにより、空力的な利点が得られる。特に、楕円揚力分布が得られ、これにより、高い推進力と同時に低い曲げ荷重が実現する。
【0072】
硬帆は船舶に組込可能であり、船橋が船の前側すなわち船首領域に配設されることが好ましい。
【0073】
更に有利な態様では、第1の翼帆体及び/又は第2の翼帆体は、所定の破断箇所を有する。所定の破断箇所は、特にマストの上方に、更に具体的には第1の軸受の上方に、配設されている。
【0074】
硬帆の帆面積を広くすると、強風時に、帆に対して強い曲げ荷重がかかり得る。これにより、船舶の構造を損傷する結果となり得る。また、船舶が転覆する危険もある。そのため、所定の破断箇所が提供され得る。これにより、硬帆が、具体的には第1の翼帆体及び/又は第2の翼帆体の上部が、著しく強い曲げ圧力下で確実に分離し、船又は船舶の構造への損傷や船又は船舶の転覆が避けられる。
【0075】
例えば、所定の破断箇所は、穿孔部分又は材料薄化部分により提供され得る。
【0076】
第1の翼帆体が底部に底板を有し、第2の翼帆体が底部に底板を有し、第2の翼帆体の底板は第1の翼帆体の底板に対して角度がついていることが、特に好ましい。
【0077】
これにより、第2の翼帆体下におけるクリアランス高が増え、船舶上のデッキ構造との衝突を避けることになる。更に、第2の翼帆体の底部を傾斜させることにより、硬帆を、最初に回転させる必要なく垂直位置から小さい角度で旋回させることができる。
【0078】
本発明における課題に対する他の解決策は、船舶に上述の硬帆を設けることである。
【0079】
特に、船舶は、複数の硬帆を有してもよい。
【0080】
更に、旋回装置は、場所を取らない配設が可能であるように少なくとも部分的に船体内に配設され得る。
【0081】
船舶は、タンカ、ばら積み貨物船、自動車運搬船、又は、ばら積み船などの大型船であることが、特に好ましい。特に、船舶は、コンテナ船ではないことが好ましい。
【0082】
他の解決策は、上述の硬帆のための上述の旋回装置を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0083】
本発明を、添付の図面に基づいて、より詳細に説明する。各図は、以下の通りである:
【発明を実施するための形態】
【0084】
図1は、硬帆100を示し、これは船舶10に配設されている。船舶のうち、船のデッキ11のみが図示されている。硬帆100は、側面図として図示されており、第1の翼帆体12と、第2の翼帆体13と、を備えている。第1の翼帆体12は、マスト14を介して船のデッキ11と結合されている。第1の翼帆体12は、第1の底板16を具備した第1の底部15と、第1の頭部17と、を備えている。同様に、第2の翼帆体13は、第2の底板19を具備した第2の底部18と、第2の頭部20と、を備えている。マスト14は、第1の底部15すなわち第1の底板16を貫通して、第1の翼帆体12内へと導入され、この第1の翼帆体12内に配設されている。マスト14は、第1の底部15から始まり、第1の底部15と第1の頭部17との間で計測した最大高さ21の約3分の1に亘って延びている。更に、第1の翼帆体12及び第2の翼帆体13は、前縁22、24と、後縁23、25と、を有する。第2の翼帆体13は、第1の翼帆体12の後縁23に、旋回可能に配設されている。ここで、第2の翼帆体13は、単に、第1の翼帆体12に取り付けられており、特に、マスト14には取り付けられていない。第2の翼帆体13は、複数のセグメント26を有し、これらは、
図5に示すように伸縮可能である。マスト14は、第1の端部27が第1の翼帆体12内で第1の軸受28内に取り付けられている。更に、マスト14は、第1の翼帆体12の第1の底部15の領域内で第2の軸受29内に取り付けられている。第2の翼帆体13の複数のセグメント26は、第1の翼帆体12に関して、相互に個別に旋回可能である。更に、硬帆は、マスト14の回りを360°回転可能である。
【0085】
マスト14の第1の端部27の反対側にある第2の端部30に、旋回装置31が配設されている。旋回装置31は、少なくとも部分的に船のデッキ11の下に配設されている。マスト14を旋回装置31に取り付けるために、マスト14は、第2の端部30に横軸32を有する。横軸32は、旋回装置31の軸受容部33内に回転自在に取り付けられている。更に、マスト14の第2の端部30に、部分リングギア34が配設されていて、この部分リングギア34は、少なくとも一つの歯車35を備えた駆動手段と係合している。駆動手段36を動作させることにより、部分リングギア34が軸受容部33の回りを回転し、部分リングギア34に結合したマスト14も、またそれにより硬帆100全体が、横軸32すなわち軸受容部33の回りを旋回する。これにより、硬帆100が下降する。硬帆100を倒すには、硬帆100を、具体的には第1の翼帆体12又は第2の翼帆体13を、最初に、
図1に示す姿勢からマスト14の回りに90°回転させる。次いで、旋回装置31により、硬帆100を90°まで下降させることができる。特に、旋回を小さくしてデッキ構造物による障害を避けるため、第2の翼帆体13の第2の底部18は傾斜している。すなわち、第2の翼帆体13の第2の底板19は、第1の翼帆体12の第1の底板16に対して、角度がつけられている。また、第1の翼帆体12は複数のセグメント37を有するが、これらは互いにしっかりと固定されている。更に、第1の翼帆体12及び第2の翼帆体13の双方とも、外殻38を有する。第1の翼帆体12及び第2の翼帆体13は、それぞれの頭部17、20へ上がるにつれて細くなる翼輪郭を有する。
【0086】
図2は、
図1におけるA-A面に沿った断面図である。第1の翼帆体12は前縁22と後縁23とを有し、両者の間に断面弦39が通っている。第2の翼帆体13は、第1の翼帆体12の後縁23に配設されている。第1の翼帆体12と第2の翼帆体13との間に、間隙40が形成されている。
【0087】
図3は、第1の翼帆体12の外殻38を貫く、
図2における領域B内の断面図である。外殻38はアルミニウム・サンドイッチ構造41を備え、この中で、アルミニウム波板43が2枚のアルミニウム板42の間に配設されている。
【0088】
図4は、硬帆100の背面図である。硬帆100は、具体的には第1の翼帆体12及び第2の翼帆体13は、正面の輪郭においても、頭部17、20に向かって徐々に細くなっている。
【0089】
図5は、硬帆100の他の側面図である。第2の翼帆体13は伸縮自在になっており、上側セグメント26aがそれぞれ下側セグメント26b内に挿入され得る。このために、複数のセグメント26、26a、26bは、中空体44として形成されている。各上側セグメント26a及び各下側セグメント26bを動作させて挿入するために、同様に伸縮可能なレール・システム45が、第2の翼帆体13の前縁24に設けられている。その代わりに、固定したレール、その上を伸縮可能なセグメント26、26a、26bが移動する、が第1の翼帆体12の後縁23に配設されてもよい。更に、
図1及び
図5に示すように、少なくとも第1の翼帆体12及び第2の翼帆体13には、マスト14の第1の端部27すなわち第1の軸受28の上方に、所定の破断箇所46がある。所定の破断箇所46は、例えば、第1の翼帆体12又は第2の翼帆体13の穿孔部分47として実装され得る。
【0090】
再び
図1を参照すると、第1の翼帆体12用の補強部48が示されている。補強体48は、第1の翼帆体12の前縁22から後縁23へと配設されたリブ49として、そして、上下に延びてマスト14に略平行に配向された支柱50として、形成されている。リブ49及び支柱50は、マスト14の領域内の下側3分の1にのみ図示されている。しかしながら、リブ49及び支柱50が第1の翼帆体12の頭部17まで延びて密度を減少させることが好ましく、第2の翼帆体13がリブ及び/又は支柱を有する場合には、これらも第2の翼帆体13の頭部20まで延びていることが好ましい。
【0091】
図6は、旋回装置31を示す。マスト14は、第1の翼帆体12の第1の底部15の第1の底板16を貫通して案内されている。中空筒51の形態をとる横軸32が、マスト14の第2の端部30に配設されている。この端部において、中空筒51は軸受容部33内に配設されている。更に、マスト14の第2の端部30には、部分リングギア34がある。また、旋回装置31は、歯車35を具備した駆動手段36を備えている。歯車35を駆動することにより、部分リングギア34が軸受容部33に取り付けられた横軸32の回りを回転し、これにより、マスト14及びマスト14に取り付けられた第1の翼帆体12も、そこに取り付けられた第2の翼帆体13と共に、下降する。
【符号の説明】
【0092】
100 硬帆
10 船舶
11 船のデッキ
12 第1の翼帆体
13 第2の翼帆体
14 マスト
15 第1の底部
16 第1の底板
17 第1の頭部
18 第2の底部
19 第2の底板
20 第2の頭部
21 最大高さ
22 前縁
23 後縁
24 前縁
25 後縁
26 セグメント
26a 上側セグメント
26b 下側セグメント
27 第1の端部
28 第1の軸受
29 第2の軸受
30 第2の端部
31 旋回装置
32 横軸
33 軸受容部
34 部分リングギア
35 歯車
36 駆動手段
37 セグメント
38 外殻
39 断面弦
40 間隙
41 アルミニウム・サンドイッチ構造
42 アルミニウム板
43 アルミニウム波板
44 中空体
45 レール・システム
46 所定の破断箇所
47 穿孔部分
48 補強体
49 リブ
50 支柱
51 中空筒