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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-12
(45)【発行日】2022-10-20
(54)【発明の名称】コンディショニングシャンプー組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/46 20060101AFI20221013BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20221013BHJP
   A61K 8/20 20060101ALI20221013BHJP
   A61K 8/31 20060101ALI20221013BHJP
   A61K 8/44 20060101ALI20221013BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20221013BHJP
   A61K 8/891 20060101ALI20221013BHJP
   A61K 8/92 20060101ALI20221013BHJP
   A61Q 5/02 20060101ALI20221013BHJP
【FI】
A61K8/46
A61K8/06
A61K8/20
A61K8/31
A61K8/44
A61K8/73
A61K8/891
A61K8/92
A61Q5/02
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020519332
(86)(22)【出願日】2018-08-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-24
(86)【国際出願番号】 MY2018050057
(87)【国際公開番号】W WO2019070113
(87)【国際公開日】2019-04-11
【審査請求日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】PI2017703730
(32)【優先日】2017-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】MY
(73)【特許権者】
【識別番号】517182169
【氏名又は名称】ケーエル‐ケポン オレオマス スンディリアン ブルハド
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100192603
【弁理士】
【氏名又は名称】網盛 俊
(72)【発明者】
【氏名】クラルチェフスキー,ペーター アタナソフ
(72)【発明者】
【氏名】スタニミロヴァ,ルミアナ ドブレヴァ
(72)【発明者】
【氏名】ペトコフ,ヨルダン トドロフ
(72)【発明者】
【氏名】シイ,フイ
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/098639(WO,A1)
【文献】特表2013-508511(JP,A)
【文献】Organic Daily Shampoo, Crai Secom, 2015年12月, Mintel GNPD [online],[検索日2022.03.22], インターネット,<URL:https://portal.mintel.com>, ID#:3606161
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
12~20個の炭素原子(C12~C20)の鎖長を有する脂肪酸のスルホン化メチルエステルを2つ以上含むスルホン化メチルエステル化合物の混合物と、
双性界面活性剤と、
油相と、
カチオンポリマーと、
を含み、
スルホン化メチルエステル化合物の前記混合物と前記双性界面活性剤が、組成物の重量で10%~15%の総重量で存在し、
スルホン化メチルエステル化合物の前記混合物と前記双性界面活性剤が、重量で5~7.5:1の組み合わせ比率で存在する、
基質への油滴の沈着を増強するためのシャンプー組成物。
【請求項2】
スルホン化メチルエステル化合物の前記混合物が、C14スルホン化メチルエステルとC16スルホン化メチルエステルの間の混合物、C14スルホン化メチルエステルとC18スルホン化メチルエステルの間の混合物、又は、C16スルホン化メチルエステルとC18スルホン化メチルエステルの間の混合物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
スルホン化メチルエステル化合物の前記混合物が、55%~95%のC16スルホン化メチルエステルと5%~45%のC18スルホン化メチルエステルを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が無機電解質をさらに含む、請求項1~3のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項5】
前記無機電解質が塩化ナトリウムまたは塩化カリウムである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記双性界面活性剤がアルキルベタインである、請求項1~5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記アルキルベタインがコカミドプロピルベタインである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記カチオンポリマーがグアーガムである、請求項1~7のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項9】
前記油相がシリコン油、鉱油、植物油、又はそれらの水中油型エマルションである、請求項1~のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項10】
油滴の基材への付着を増強するためのシャンプー組成物の使用であって、
前記組成物が、
12~20個の炭素原子(C12~C20)の鎖長を有する脂肪酸のスルホン化メチルエステルを2つ以上含むスルホン化メチルエステル化合物の混合物と、
双性界面活性剤と、
油相と、
カチオンポリマーと、
を含み、
スルホン化メチルエステル化合物の前記混合物と前記双性界面活性剤が、組成物の重量で10%~15%の総重量で存在し、
スルホン化メチルエステル化合物の前記混合物と前記双性界面活性剤が、重量で5~7.5:1の組み合わせ比率で存在する、
シャンプー組成物の使用。
【請求項11】
スルホン化メチルエステル化合物の前記混合物が、C14スルホン化メチルエステルとC16スルホン化メチルエステルの間の混合物、C14スルホン化メチルエステルとC18スルホン化メチルエステルの間の混合物、又は、C16スルホン化メチルエステルとC18スルホン化メチルエステルの間の混合物である、請求項10に記載のシャンプー組成物の使用。
【請求項12】
スルホン化メチルエステル化合物の前記混合物が、55%~95%のC16スルホン化メチルエステルと5%~45%のC18スルホン化メチルエステルを含む、請求項10に記載のシャンプー組成物の使用。
【請求項13】
前記組成物が無機電解質をさらに含む、請求項10~12のいずれか一つに記載のシャンプー組成物の使用。
【請求項14】
前記無機電解質が塩化ナトリウムまたは塩化カリウムである、請求項13に記載のシャンプー組成物の使用。
【請求項15】
前記双性界面活性剤がアルキルベタインである、請求項10~14のいずれか一つに記載のシャンプー組成物の使用。
【請求項16】
前記アルキルベタインがコカミドプロピルベタインである、請求項15に記載のシャンプー組成物の使用。
【請求項17】
前記カチオンポリマーがグアーガムである、請求項10~16のいずれか一つに記載のシャンプー組成物の使用。
ー組成物の使用。
【請求項18】
前記油相がシリコン油、鉱油、植物油、動物油又はそれらの水中油型エマルションである、請求項10~17のいずれか一つに記載のシャンプー組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンディショニングシャンプーまたはクレンジング組成物に関する。より具体的には、本発明は、天然由来のスルホン化メチルエステル(SMEs)を含み、改善されたコンディショニング効果を有するシャンプーまたはクレンジング組成物に関する。このシャンプー組成物は、髪と皮膚、特に髪と頭皮のクレンジングとコンディショニングでの使用に適している。
【背景技術】
【0002】
業界において、ヘアケア及びスキンケア製品の製剤には、一般的に、髪と皮膚を整える小さな油滴(small oil drops)が含まれている。シャンプー、クレンジング組成物、ボディウォッシュ、及びその他のパーソナルケア製品には、アニオン界面活性剤も含まれており、アニオン界面活性剤は、吸着して、髪や頭皮などの基質及び油滴に負の表面電荷を付与する。その結果として生じる静電反発力は、基質への油滴の沈着(deposition)を抑制する。
【0003】
この望ましくない影響を克服するため、シャンプーやクレンジング組成物などのパーソナルケア組成物のそれぞれの製剤には、液滴を基質に付着させる仲介役として機能するカチオンポリマーも添加されている。溶液の大部分(In the bulk of solution)において、界面活性剤とポリマーは、「コアセルベート」としても知られる結合凝集体(joint aggregates)を形成する。したがって、界面活性剤とポリマーの両方が、油滴の表面と固体基質に吸着する可能性がある。それらは、油滴と基質の間に介在する湿潤膜(wetting films)にも存在する。その大部分及び薄い液体膜における(in the bulk and in the thin liquid films)界面活性剤とポリマーの相互作用は、油滴沈着プロセスにとって最も重要である。より高い濃度では、パーソナルケア製剤中の界面活性剤は、カチオンポリマーと油滴を親水化する。基質からパーソナルケア製剤をすすぎ落すと、油滴に吸着(adsorb)する一方でその付着(adhesion)を基質に仲介する比較的疎水性の高いポリマー分子を除き、ほとんどの界面活性剤が洗い流される。その結果、パーソナルケア組成物中の界面活性剤がある程度希釈されると、油滴沈着または付着が発生すると考えられる。
【0004】
この技術分野では、分光法による沈着した油の量の決定することに関連した多くの研究がある。これらの方法は、沈着プロセスの最終結果としての油の総量を明らかにする。しかしながら、それらは、油滴沈着プロセスの発生、特に、油滴沈着が始まる希釈の程度についての情報を提供しない。油滴沈着は、髪や頭皮などの基質上への油滴の沈着または付着を、そこに運ばれる有効成分も同様に、決定するため、パーソナルケア組成物の基質へのコンディショニング効果に影響を与える。しかしながら、基質に対するこれらの関連するコンディショニング効果の観点から、シャンプーやクレンジング組成物などのパーソナルケア組成物に使用される異なる界面活性剤の油滴沈着効果は、これまで業界で調査されていない。
【0005】
この技術分野では、様々なタイプのコンディショニングシャンプーやクレンジング組成物が存在し、ラウリルエーテル硫酸ナトリウム(sodium lauryl ether sulfate(SLES))を主な界面活性剤として利用している。例えば、SLESのようなアニオン界面活性剤を5%から50%含有するヘアコンディショニングシャンプーは、国際公開番号WO9308787A2に開示されている。このヘアコンディショナルシャンプーは、その製剤中にカチオン性ポリマーとベタインなどの双性界面活性剤(zwitterionic surfactant)を任意に含むことができる。この公報はまた、コンディショニング剤としてのシリコンオイルの混合を使用することを開示しており、シリコン樹脂が組成物の沈着効率を高めるために添加されている。しかしながら、この公報は、油滴の沈着を増強する、特定のタイプのアニオン界面活性剤の使用を開示するものではない。SLESの油滴沈着能力もまた、先行技術のいずれにおいても調査されない。
【0006】
SMEは、α-スルホ脂肪酸メチルエステル(α-sulfo fatty acid methyl ester)またはメチルエステルスルホネート(methyl ester sulfonates(MES))とも呼ばれ、パーソナルクレンジング液、シャンプー組成物、洗濯洗剤及び食器洗い洗剤を含む多くの産業用及び家庭用の用途において、洗浄剤や湿潤剤としてますます使用されているアニオン界面活性剤の一種である。パーム油などの天然の再生可能な資源に由来するSME(SMEs)は、生分解性で再生可能であることが知られており、環境に優しい代替の界面活性剤と考えられている。しかしながら、SME(SMEs)は、ヘア用及び頭皮用のシャンプーやクレンジング組成物における主要な界面活性剤として、業界では一般的に使用されていない。
【0007】
ヨーロッパ特許番号EP0796084 A2には、泡立ち合成界面活性剤(lathering synthetic surfactant)を含有する皮膚クレンジング液が開示されている。この泡立ち合成界面活性剤は、イセチオン酸アシル(acyl isethionates)、サルコシン酸アシル(acyl sarcosinates)、スルホン酸アルキルグリセリルエーテル(alkylglycerylether sulfonates)、乳酸アシル(acyl lactylate)などのアニオン界面活性剤とすることができる。この公報では、クレンジング液が、皮膚1平方センチメートルあたりの脂質について、5~1000μgの特定の脂質沈着値(Lipid Deposition Value(LDV))を持っていることを開示している。また、この公報には、組成物が、皮膚への液体沈着を増加させるために、結晶性エチレングリコール脂肪酸エステル(crystalline ethylene glycol fatty acid ester)などの安定剤を必要とすることも開示している。SMEは、皮膚クレンジング液に使用できる数あるアニオン界面活性剤の中の一種として開示されているだけである。しかしながら、この公報には、ヘア及び頭皮のコンディショニングに適した製剤において、特定のSME化合物(SME compound)や特定のSME混合物(mixture of SME)を使用することについて開示されていない。界面活性剤の特定の油滴沈着効果も、この公報には開示されていない。
【0008】
特定のSME化合物を含有するコンディショニングシャンプーやクレンジング組成物の先行技術には、異なるタイプの界面活性剤の存在下における、コンディショニング効果と油滴沈着との関係についてなんら開示がない。従って、新しい技術的側面からコンディショニング効果が改善された、シャンプーやクレンジング組成物が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的の一つは、毛髪及び頭皮のクレンジング及びコンディショニングに使用するためのシャンプーまたはクレンジング組成物を提供することであり、それにより、基質(すなわち、毛髪及び頭皮)への油滴の沈着を増強し、それによりコンディショニング効果を改善することができる。
【0010】
本発明はまた、SMEなどの天然で環境に優しいアニオン界面活性剤を含有するシャンプーまたはクレンジング組成物を提供することを目的とし、これはまた、基質への油滴沈着の改善された頑強性を与えることができ、より効果的なコンディショニング組成物を生み出すために、幅広い範囲の油滴付着値(Cadh)を達成する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
手続きの対象(proceeding objects)の少なくとも1つは、全体的または部分的に、本発明によって満たされ、本発明の一実施形態は、12~20個の炭素原子(C12~C20)の鎖長を有する脂肪酸のSME(SMEs)を2つ以上含むSME化合物の混合物と、双性界面活性剤と、油相と、カチオンポリマーと、を含む、基質への油滴の沈着を増強するためのシャンプー組成物を記載する。
【0012】
本発明の一実施形態によれば、SME化合物の混合物は、C12 SMEとC18 SMEとの間の混合物、C14 SMEとC16 SMEとの間の混合物、C14 SMEとC18 SMEとの間の混合物、又はC16 SMEとC18 SMEとの間の混合物である。
【0013】
本発明の別の実施形態によれば、SME化合物の混合物は、55%~95%のC16 SME及び5%~45%のC18 SMEを含む。
【0014】
特定の実施形態では、組成物は、油滴沈着の増強剤として無機電解質をさらに含む。好ましくは、無機電解質は、塩化ナトリウム(NaCl)または塩化カリウム(KCl)とすることができる。
【0015】
本発明の一実施形態は、双性界面活性剤がアルキルベタインであることを開示する。好ましくは、双性界面活性剤は、コカミドプロピルベタイン(CAPB)である。一方、本発明の別の実施形態は、カチオンポリマーがグアーガムであることを開示する。
【0016】
本発明の好ましい一実施形態によれば、SME化合物の混合物と双性界面活性剤は、重量で5~7.5:1の組み合わせ比率で存在する。好ましくは、SME化合物の混合物と双性界面活性剤は、組成物の重量で6%から20%の総重量で存在する。
【0017】
一実施形態では、油相が、シリコン油、鉱油、植物油、動物油またはそれらの油の水中油型エマルションを含むこともまた開示されている。
【0018】
基質への油滴の沈着を増強するためのシャンプー組成物の使用も、本発明のさらなる実施形態の一つに開示され、組成物は、12~20個の炭素原子(C12~C20)の鎖長を有する脂肪酸のSME(SMEs)を2つ以上含むSME化合物の混合物と、双性界面活性剤と、油相と、カチオンポリマーを含む。好ましくは、組成物は、SME化合物の特定の混合を含む。
【0019】
本発明の好ましい実施形態は、添付の図面で以下に十分に説明または図示され、特に、添付の特許請求の範囲に規定される新規の特徴及び構成の組み合わせからなる。本発明の範囲から逸脱することなく、または本発明の利点を犠牲にすることなく、詳細部分における様々な変更が、当業者によってもたらされ得ることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本発明の理解を容易にするために、添付の図面に、以下の説明を関連させて考慮したときの調査からの好ましい実施形態が示されており、本発明、その構成及び動作、ならびにその利点の多くは、容易に理解及び評価される。
図1図1(a)~(d)は、本発明の一実施形態に係る、液滴/基質の付着の存在下、初期に圧縮された油滴の引き離しの連続する段階を示す。
図2図2(a)~(d)は、本発明の一実施形態に係る、液滴/基質の付着の非存在下、初期に圧縮された油滴の引き離しの連続する段階を示す。
図3図3(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係る、3つの異なるアニオン性界面活性剤:SLES-1EO、C14 SME及びC16 SMEを含む混合物における、付着濃度Cadh対CAPBのモル分率XCAPBを示すグラフである。ここで、(a)は疎水化ガラス基質であり、(b)は親水性ガラス基質である。線はグラフを見やすくするためのものである。
図4図4は、蛍光色素ボディピー(Bodipy)を含むシリコンオイルに浸され、その後、C16-SMEとジャガー(Jaguar(登録商標))-C-13-S(左)の溶液、またはSLES-1EOとジャガー(Jaguar(登録商標))-C-13-S(右)の溶液に浸された人の髪の毛の反射光の顕微鏡写真を示す。付着濃度の閾値は、C16-SME及びSLES-1EOの場合、それぞれ1重量%及び0.25重量%であることが分かる。起源を同じくする異なる髪が、異なる濃度で使用されている。
図5図5は、本発明の一実施形態に係る、付着濃度Cadh対カチオンポリマー(ジャガー(Jaguar(登録商標))-C-13-S)の濃度を示すグラフであり、そこでは、SME化合物の混合物(C16-C18 SME)が主要な界面活性剤として使用されている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を、本発明の好ましい実施形態に従って、添付の説明及び図面を参照して説明する。しかしながら、説明を本発明の好ましい実施形態及び図面に限定することは、単に本発明の議論を促進するためのものであり、当業者は、添付の請求項の範囲から逸脱することなく、様々な修正を考え得ることが想定されている。
【0022】
本発明は、毛髪及び頭皮などの基質への油滴の沈着を増強するためのパーソナルケア組成物、すなわちシャンプーまたはクレンジング組成物を開示する。シャンプー組成物は、主要な界面活性剤としてSME化合物の混合物を含む。SME化合物の混合物は、長鎖SME(SMEs)、例えば、12~20個の炭素原子(C12~C20)の鎖長を有する脂肪酸のSME(SMEs)を2つ以上含む。コンディショニングシャンプーとして、組成物は、双性界面活性剤(zwitterionic surfactant)、油相(oil phase)、カチオンポリマーも含む。
【0023】
本発明の一実施形態によれば、SME化合物の混合物は、C12 SMEとC18 SMEとの間の混合物、C14 SMEとC16 SMEとの間の混合物、C14 SMEとC18 SMEとの間の混合物、またはC16 SMEとC18 SMEとの間の混合物とすることができる。例えば、SME化合物の混合物は、SME化合物の重量の55%~95%のC16 SMEと5%~45%のC18 SMEを含むC16 SMEとC18 SMEの混合物である。別の例では、SME化合物の混合物は、60%~90%のC16 SMEと10%~40%のC18 SMEの混合物、または65%~85%のC16 SMEと15%~35%のC18 SMEの混合物とすることができる。あるいは、SME化合物の混合物は、90%~95%のC16 SMEと5%~10%のC18 SMEの混合物にすることもできる。
【0024】
一般に、C16及びC18 SMEは、パーム油を含む、植物油(植物油(vegetable oils))や動物油脂などの天然資源に由来することができる。具体的には、C16 SMEは、パルミチン酸から取得できる。一方、C18 SMEは、パーム油のステアリン酸から取得できる。これらのSMEは両方とも、メチルエステルのスルホン化(sulfonation of methyl ester)によって得られた。C16 SME及びC18 SMEは、それぞれ、以下の式(I)及び式(II)に示すような分子構造を持つ。
【0025】
【0026】
本発明の一実施形態では、双性界面活性剤が、アルキルベタイン(alkyl betaine)、またはベタイン(betaines)、特にCAPBであることを開示する。好ましくは、界面活性剤の混合物(すなわち、SME化合物と双性界面活性剤の混合物)の総量は、組成物の重量で6%~20%の量で存在する。例えば、SME化合物の混合物(例えば、C16及びC18 SMEの混合物)とCAPBの総量は、組成物の重量で10%~15%の量で存在することができる。より具体的には、界面活性剤の混合物の総量は、シャンプー組成物の重量で約12%~13%で存在することができる。双性界面活性剤はまた、特定の条件下で両性界面活性剤(amphoteric surfactant)として記載され得ることが、当該分野では理解されるべきである。
【0027】
本発明の好ましい一実施形態によれば、SME化合物の混合物とCAPBなどの双性界面活性剤は、特定の組み合わせ比、すなわち重量で5~7.5:1で存在すべきである。 CAPBの含有量が少ないと、組成物の油滴沈着が多くなるが、シャンプーの泡立ちは少なくなる。逆に、CAPBの含有量が多いと、泡立ちがよくなるが、組成物の油滴沈着が減少する。したがって、最適なコンディショニング性能のために、油滴沈着効果の抑制を回避しながら、洗浄作用に対して同等の泡立ちと洗浄力を備えたシャンプー組成物を製造するため、SME化合物の混合物とCAPBの組み合わせ比率を適切に調整されることが重要である。
【0028】
本発明の他の実施形態において開示されるように、シャンプー組成物は、グアーガムであり得るカチオンポリマーを含む。より具体的には、グアーガムは、グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド(guar hydroxypropyltrimonium chloride)であり得る。それは、ジャガー(Jaguar(登録商標))の商品名、例えば、ジャガー(Jaguar(登録商標))C-13-S、ジャガー(Jaguar(登録商標))C-14-S、ジャガー(Jaguar(登録商標))C-17、ジャガー(Jaguar(登録商標))エクセル、または同様の化学組成の他のカチオンポリマーとして市販されている。ポリマーは、シャンプー組成物中の油滴に不可逆的に吸着することができ、シャンプー組成物のすすぎプロセス中に界面活性剤のように洗い流されないように、界面活性剤より大きくて相対的により疎水性であるべきである。カチオンポリマーの濃度は、シャンプー組成物に使用されるために当業者により適切に調整され得る。それは、シャンプー組成物の総界面活性剤濃度に基づいて調整することもできる。
【0029】
理論に拘束されるものではないが、組成物の油滴沈着は、静電力、疎水性、及びポリマー架橋表面力(polymer-bridging surface forces)によって支配されると考えられている。アニオン界面活性剤(すなわち、SME化合物)及びカチオンポリマー(例えば、グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド)は、油滴の表面に吸着する。SMEベースの界面活性剤は、高濃度のシャンプー組成物である間、カチオン性ポリマー及び油滴を親水化するので、シャンプー組成物をクレンジングまたは洗浄(washing)のために基質に適用したとき、油滴の堆積は観察されない。希釈されると(シャンプー組成物を洗い流すと)、SME(SMEs)のほとんどが洗い流されるが、一方で、カチオンポリマーは、まだ油滴に吸着している。このような吸着は、油滴ならびにその中に含まれる有効成分や栄養素の基質への吸着、すなわち毛髪及び頭皮への吸着付着を仲介する。
【0030】
SME化合物は、製剤中の分散した油滴とポリマー凝集体の安定化に重要な役割を果たす。低い界面活性剤濃度では、ポリマー架橋(polymer bridging)が発生するため、油滴凝集(flocculation)が起こると考えられている。その結果、すすぎ時にほとんどの界面活性剤が洗い流されるが、その一部はまだ油滴に吸着しており、基質への付着に影響を与える可能性がある。
【0031】
特定の実施形態では、シャンプー組成物は、無機電解質を含み得る。例えば、無機電解質は、NaClや、KClや、製剤中で沈殿を引き起こさない別の電解質であり得る。アニオン界面活性剤とCAPBの濃縮混合ミセル溶液に、NaClなどの無機電解質を添加すると、粘度が上昇する可能性がある。つまり、NaClは、シャンプー組成物の増粘剤として使用できる。
【0032】
本発明では、NaClは、油滴沈着の増強剤として、本発明のシャンプー組成物に加えることができる。実験データによれば、SME含有シャンプー組成物は、特にNaClを添加すると、油滴付着値(Cadh)が0.01%wt~1.00%wtになる強力な油滴沈着効果を引き起こすことができる。NaClを添加しなくても、SMEベースのシャンプー組成物は、他のタイプの主な界面活性剤、たとえばSLESを含むシャンプー組成物よりも優れた又は増強された油滴沈着効果と高いCadh値を与える。理論に拘束されないが、NaClの存在下における油滴付着の増加は、塩析効果と静電二重層反発力の遮蔽(screening of the electrostatic double-layer repulsion)を原因とする、水中における炭化水素鎖のセグメント間の引力における塩の強化効果によって引き起こされると考えられる。さらに、液滴と基質との間の静電反発を抑制し得る他の無機電解質もまた、NaClと同様の効果を生み出すことができる。
【0033】
本発明の別の実施形態で開示されるように、シャンプー組成物の油相は、シリコン油、鉱油(mineral oil)、植物油(vegetable oil)、動物油、または、シリコン油、鉱油、植物油、又は動物油を含む水中油型エマルションなどのそれらの水中油型エマルションを含む。使用される油は、シャンプー組成物に存在する炭化水素鎖界面活性剤(hydrocarbon chain surfactants)の界面活性剤ミセル(surfactant micelles)において可溶化するべきでなく、すすぎ中に界面活性剤溶液とともに洗い流されるべきではない。さらに、使用される油は容易に酸化されてないことが必要である。好ましくは、シリコンオイルがシャンプー組成物に使用される。
【0034】
特定の実施形態では、シャンプー組成物は、毛髪及び頭皮に有益な有効成分を含み得る。そのような有効成分は可溶化され、油滴によって、界面活性剤と他の担体によって運ばれる。有効成分は、ビタミンやミネラルなどの栄養成分、エッセンシャルオイルを含む天然由来の植物油(plant oils)、バイオフラボノイド、及び抗酸化剤とすることができる。例えば、ビタミン及びミネラルは、ビタミンE(トコトリエノール、トコフェロールまたはそれらの組み合わせ)、ビタミンA、シリカ、マグネシウム、カルシウム、カリウム、亜鉛、銅、セレン、クロム及び硫黄とすることができる。天然由来の植物油は、アルゴンオイル(argon oil)、ミントリーブオイル(mint leave oil)、マルラオイル(marula oil)、オリーブオイル、ティーツリーオイル(tea tree oil)、ココナッツシアーオイル(coconut sheer oil)、ナタネオイルなどとすることができる。
【0035】
特定の実施形態では、シャンプー組成物は、特定のヘアケア効果を提供する添加剤、例えば、毛髪保湿剤または水和剤、油制御剤、脱毛制御剤、黒髪剤(hair darkening agent)、縮れ防止剤(anti-frizz agent)、毛髪緩和剤(hair relaxing agent)、栄養剤、又は髪色保護剤(hair colour protecting agent)をさらに含むことができる。さらに、シャンプー組成物は、防腐剤、安定剤、香料、着色剤、またはそれらの任意の2つ以上の組み合わせを含むこともできる。
【0036】
本発明のさらなる実施形態によれば、組成物は、ココ脂肪酸モノエタノールアミド(coco-fatty-acid-monoethanolamide(CMEA))などの非イオン性界面活性剤を含まない。CMEAはまた、アニオン界面活性剤とCAPBの濃縮混合ミセル溶液に対する粘度調整剤であることが知られているが、シャンプー組成物へのCMEAの添加は、組成物の基質への油滴沈着を抑制し得る。理論に拘束されるものではないが、CMEAなどの非イオン性界面活性剤は、炭化水素鎖に結合してそれらをより親水性にし、シャンプー組成物の界面活性剤システム内において、セグメント間の疎水性引力とポリマー架橋の効果を抑制すると考えられる。
【0037】
基質への油滴沈着を増強するためのシャンプー組成物の使用も、本発明のさらなる実施形態の1つに開示されており、組成物は、14~20個の炭素原子(C14~C20)の鎖長を有する脂肪酸のSME(SMEs)を2つ以上含むSME化合物の混合物と、双性界面活性剤と、カチオンポリマーを含む。好ましくは、組成物は、SME化合物の特定の混合物を含む。例えば、SME化合物の特定の混合物は、SME化合物の重量で55%~95%のC16 SMEと5%~45%のC18 SMEの混合物である。
【0038】
上記の説明で述べたように、プレスドドロップ法(Pressed Drop Method (PDM))は、固体基質への油滴付着の調査に使用できる。この方法は、油滴沈着プロセスの発生とメカニズムに関する情報を提供する。PDMの例示的な方法は、実施例1でさらに詳述される。この実験データに基づけば、異なるタイプの界面活性剤によって示される油滴沈着効果は変化する。特に、C14-SME及びC16-SMEの存在下ではCadhが高くなり、SLESの存在下ではCadhが低いことがデータに示されており、これは、SMEベースの組成物において、油滴沈着がより容易に強化されることを示している。SMEの炭素鎖長も、シャンプーの油滴沈着効果に影響を与える可能性がある。したがって、特定のSME化合物の混合物を使用することが好ましく、例えば、C16とC18 SME(SMEs)の混合物が、本発明のシャンプー組成物で使用される。
【0039】
シャンプー組成物を基質からすすぎ落すと、界面活性剤濃度と油滴濃度は同じ割合で減少する。油滴沈着が油滴濃度に比例している場合、実験データから導き出されるように、SLESがC16-SMEに置き換えられると、組成物のCadh値は約3~4倍(300%~400%)増加すると考えられる。
【0040】
異なる基質、つまり実験で使用された疎水性基質と親水性基質に基づくと、疎水性ガラスへの油滴の付着は、予想されていたとおり、親水性ガラスと比較して容易であると結論付けることができる。しかしながら、組成物にSMEベースの界面活性剤を使用することにより、両方のタイプの基質上で油滴沈着を達成することができる。
【0041】
前述の説明で述べたように、シャンプー組成物の油滴は、異なるタイプの油を含むことができる。シリコンオイルとヒマワリ種子油(sunflower seed oil)などの植物油からの油滴を使用した実験結果では、それらのCadh対XCAPBの実験曲線で示されているように、油滴沈着効果について同じ結果を生成していることが示されている。これは、油滴が、その起源に関係なく、どちらも界面活性剤とポリマーの高密度吸着層(dense adsorption layer)で覆われるため、基質が油相自体よりもむしろ吸着層と相互作用するためである。言い換えれば、液滴と基質の付着は、液滴と基質との間に介在する水性フィルム(界面活性剤及びポリマーは安定化)における引力によって支配される。水分の蒸発後、油と基質の直接接触が起こる。実験データに基づけば、Cadhは、さまざまな種類の油に対して過敏でなく、影響を受けないことが示されている。
【0042】
比較実験により、シリコン油滴とシリコン油の水中油型エマルジョンを別々に使用することの違いを研究することもできる。水中油型エマルションは、また、個別のシリコン油滴によって得られるものと同様の、同等のCadh値を生成できることが、例示的な実験結果に示されている。
【0043】
より高い界面活性剤濃度では、シャンプー組成物は、洗浄作用を示す。つまり、髪や頭皮などの基質のクレンジング組成物として、基質に沈着した油滴を除去(剥離)する。Cadhの強化された値によって特徴付けられるように、SMEベースのシャンプー組成物の油滴付着は、ある程度の希釈の後、より低い界面活性剤濃度で発生し、髪と頭皮にコンディショニング効果を与える。強化された油滴沈着効果は、人間の髪を基質として使用した比較実験でさらに示すことができ、シャンプー製剤からの髪への油滴沈着の強化について、SME(SLESの代わりに)の有用性が証明できる。有用性の比較実験は、実施例3でさらに詳述されており、ジャガーC-13-S及びC16-SMEまたはSLES-1EOを含むシャンプー製剤の効果が人の髪で示されている。
【0044】
実施例4は、油滴沈着のための最適なカチオンポリマー濃度を決定する実験を示し、SME化合物の混合物(C16~C18 SME)が主要な界面活性剤として適用されている。カチオンポリマーの濃度は、シャンプー組成物の必要な特性に応じて調整することができる。
【0045】
実施例1 プレスドドロップ法(PDM)で使用される界面活性剤の種類
水溶液中の固体基質への油滴の沈着(付着)に対する界面活性剤/ポリマーの濃度の影響を調査するために、さまざまなアニオン界面活性剤(C14-SME、C16-SME及びSLES)、アニオン性/双性界面活性剤混合物、他の界面活性剤及び塩添加剤を含む、いくつかの界面活性剤をテストした。
【0046】
実験で使用されたミリスチン酸及びパルミチン酸(C14及びC16)のSME(SMEs)は、マレーシアのパーム油委員会(Malaysian Palm Oil Board (MPOB))及びKLK OLEOから取得した。C14-SME(Mw=344g/mol)及びC16-SME(Mw=372g/mol)は乾燥粉末として供給された。電気伝導度測定(electric conductivity measurements)によって得られたC14-及びC16-SMEの臨界ミセル濃度(critical micelle concentrations(CMC))は、それぞれ4.0及び1.1mMである。一方、使用されたSLESには1つのエチレンオキシド基があり、分子量は332.4 g/molであった。これは、ステパン社(Stepan Co.)からSTEOL CS-170の名称で市販されており入手可能である。STEOL CS-170の臨界ミセル化濃度は、25℃での導電率と表面張力の両方の測定によって決定された0.7 mMである。STEOL CS-170には、C10~16の範囲のアルキル鎖が含まれている。
【0047】
使用した双性界面活性剤はCAPBであり、これはテゴベタインF50(Tego(登録商標)) Betain F50)の商品名でエボニック(Evonik)の製品である。分子量は356g/molである。CAPBのCMCは0.09mMであり、25℃での表面張力測定によって決定された。カチオンポリマーは、ソルベイ(Solvay)の高分子量ポリマー製品である、ジャガーC-13-S(Jaguar(登録商標)C-13-S)であった。イオン強度(ionic strength)は、ドイツのシグマ(Sigma)から市販されているNaClの添加により変化した。水溶液は脱イオン水で調製した。すべての実験は25℃の温度で行われた。使用したシリコンオイルは、動粘度(kinematic viscosity)が100cStであり、質量密度(mass density)が0.97g/cmであるビニル末端ポリジメチルシロキサン(ゲレスト社(Gelest Inc.))であった。ヒマワリ種子油(Sunflowerseed oil (SSO))も比較として使用された。
【0048】
実験で使用した基質には、親水性顕微鏡スライド(ガラスプレート)と親水性顕微鏡スライド(これは、ヘキサメチルジシラザン(hexamethyldisilazane (HMDS))による疎水化(シラン化)を受けた親水性スライド)が含まれる。
【0049】
実施例2 プレスドドロップ法(PDM)
PDM実験は、先行技術であるDanov, et al., 2016.に記載されているように、キャピラリーメニスカスダイナモメトリー法(capillary meniscus dynamometry method)から変更された実験モデルに基づいて設定された。実験では、油滴が外径1.83mmの金属キャピラリー(中空針)の先端に形成された。金属キャピラリーは、液滴の量を正確に制御するために、ピエゾ駆動膜(piezo-driven membrane)でアップグレードされたDSA30装置(クルス社(Kruss GmbH)、ドイツ)に取り付けられた。その量を増加させると、試験された水溶液で満たされたガラスキュベットの底に置かれた、基質に液滴が押し付けられた。キュベット内の水相の量を一定に保ちながら、溶液の一部を純水で交換することにより、初期溶液のさまざまな程度の希釈が実現された。
【0050】
まず、キュベットは、界面活性剤または界面活性剤とポリマーの濃縮溶液で満たされた。 適用されたSLES及びCAPBの初期合計濃度は6重量%で、初期ポリマー濃度は0.1重量%のジャガーC-13-S(Jaguar(登録商標)C-13-S)であった。ポリマーと界面活性剤の溶液中で、キャピラリーの先端に油滴が形成された。液滴を最初に基質に押し付け、基質と10分間接触させ続けた後、そこから引き離した。引き離しの間に、液滴プロファイル(すなわち、油滴の形状の変化)は、基質への液滴付着があったか(またはなかったか)どうかを示す。図1図2は、それぞれ、液滴/基質の付着がある場合とない場合の、最初に圧縮された油滴の引き離しの連続した段階を示している。実験結果の再現性を確認するために、数回、油滴を押して基材から引き離すことができる。
【0051】
実験は、希釈の程度を変えて繰り返された。これにより、液滴付着の閾値濃度Cadhを決定できる。初期界面活性剤濃度は比較的高かった(6重量%)ので、段階的に減少させた。各ステップでは、液滴の引き離しを行い、液滴が付着しているかどうかを確認した。より高い界面活性剤濃度では、液滴は付着しなかったが、より低いものでは付着した。液滴付着の兆候(図1)が観察された初期(最高)界面活性剤濃度は、液滴付着の閾値濃度Cadhであるとした。
【0052】
基質(ガラス板)の親水性/疎水性の程度を特徴付けるために、その表面に1滴の純水を置き、デバイスDSA30(クルス社(Kruss GmbH)、ドイツ)を使用して三相接触角(three-phase contact angle)を測定した。多くのプレートを使用した測定の平均接触角は、親水性(未処理)ガラスプレートでは23.1度±5度であり、疎水化ガラスプレートでは87.7度±5度である。比較のために、髪の前進接触角は103度(バージンヘア)から70度(化学的に損傷した髪)の間である。つまり、疎水化プレートの接触角はこの角度の範囲の真ん中にある。
【0053】
これらの実験では、双性界面活性剤は、アニオン界面活性剤C14-SME、C16-SME及びSLESの1つとの混合溶液で使用されたCAPBであった。合計初期界面活性剤濃度は6重量%に固定された。一方、界面活性剤混合物中のCAPBの重量分率は、XCAPB= wCAPB/(wCAPB+wanionic)であった。ここで、wCAPBとwanionicは、それぞれCAPBとアニオン界面活性剤の重量濃度である。すべての溶液には、0.1重量%の同じ初期濃度のジャガーC-13-S(Jaguar(登録商標)C-13-S)が含まれていた。
【0054】
図3(a)は、C14-SME、C16-SME及びSLESの3つのアニオン界面活性剤について、シリコンオイルと疎水化ガラス基板のCadh対XCAPBのプロットを示している。すべてのケースにおいて、100%のアニオン界面活性剤(XCAPB=0)で最高のCadh(最も簡単な油滴沈着)が観察されたが、100%のCAPB(XCAPB=1)では、Cadhが最低であった。Cadhは、XCAPBの上昇とともに単調に減少する。さらに、C16-SMEの存在下では、Cadhが最も高く(油滴沈着が最も簡単)、SLESの存在下で最も低く、C14-SMEのCadh値は中間である。
【0055】
図3(b)に示す親水性ガラス基質の場合、Cadh対XCAPB依存性の関係の挙動は、図3(a)に示すように疎水化ガラスの場合と同様であり、Cadh値のみが約2倍低い。 言い換えると、親水性ガラスへの油滴付着は、予想されていた通り、疎水性ガラス(θ=23.1)の場合よりも難しい。
【0056】
界面活性剤及びポリマーの溶液に対する2つの油の界面張力は同一ではない。たとえば、6重量% 3:1 C14-SME:CAPB + 0.1重量% ジャガーC-13-S(Jaguar(登録商標)C-13-S)の場合、界面張力は、シリコンオイル及びSSOでそれぞれ3.50及び2.25mN/mであった。それにもかかわらず、シリコンオイルとSSOからの液滴による実験では、Cadh対XCAPB実験曲線と同じ結果が得られた。
【0057】
実施例3 基質としてのヒトの毛髪を用いた比較実験
比較実験は、人間の髪の毛(基質として)と、ジャガーC-13-S及びC16-SMEまたはSLES-1EOを含むシャンプー製剤を使用して行われた。他のすべての条件は、実施例2のPDM方法で述べたものと同じであった。シリコンオイルには、蛍光マーカー(染料)Bodipy(ジフルオロ{2- [1-(3,5-ジメチル-2H-ピロール-2-イリデン-N)エチル] -3,5-ジメチル-1H-ピロラト-N}ボロン)シグマ社(Sigma)、CAS:121207-31-6が含まれている。髪を最初にシリコンオイルに浸し、次に界面活性剤とポリマーの溶液にさまざまな希釈の程度で浸した。
【0058】
図4に示されるように、より高い濃度では、髪に沈着したままの油滴はないが、より低い濃度では、多くの沈着した油滴が観察された。液滴沈着の閾値濃度は、SLES-1EOと比較してC16-SMEの方が約4倍高くなっている。閾値付着濃度は、C16-SME及びSLES-1EOの場合、それぞれ約1重量%及び約0.25重量%である。
【0059】
実施例4 油滴沈着のための最適なジャガーC-13-S濃度
PDM実験により、閾値付着濃度Cadhは、ジャガーC-13-S(Jaguar(登録商標)C-13-S)の濃度の関数として測定された。得られた依存性(図5に示す)は、0.075重量%のジャガーC-13-Sではっきりとした最大値を示す。これは、6重量%の全界面活性剤濃度(1:1 C16-C18-SME:CAPB)での油滴沈着に対するこのカチオンポリマーの最適濃度を表している。この実験は、(i)ポリマーと界面活性剤の最適な比率の存在、及び(ii)PDMがこの最適な比率を決定するための適切な方法であることを示している。
図1
図2
図3
図4
図5