(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-12
(45)【発行日】2022-10-20
(54)【発明の名称】安定性および反応性が改善されたイソシアネート組成物、並びにこれを用いた光学レンズ
(51)【国際特許分類】
C07C 265/14 20060101AFI20221013BHJP
C07C 263/18 20060101ALI20221013BHJP
C08L 75/04 20060101ALI20221013BHJP
C08K 5/03 20060101ALI20221013BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20221013BHJP
C08K 5/29 20060101ALI20221013BHJP
C08G 18/00 20060101ALI20221013BHJP
C08G 18/38 20060101ALI20221013BHJP
C08G 18/75 20060101ALI20221013BHJP
【FI】
C07C265/14
C07C263/18
C08L75/04
C08K5/03
C08K5/09
C08K5/29
C08G18/00 L
C08G18/38 055
C08G18/75 080
(21)【出願番号】P 2020531638
(86)(22)【出願日】2018-12-26
(86)【国際出願番号】 KR2018016621
(87)【国際公開番号】W WO2019132491
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-06-09
(31)【優先権主張番号】10-2017-0180889
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】508148079
【氏名又は名称】エスケイシー・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SKC CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】シン、ジョンファン
(72)【発明者】
【氏名】ミョン、ジョンファン
(72)【発明者】
【氏名】ハン、ヒョクヒ
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公告第01254690(GB,A)
【文献】米国特許第03660456(US,A)
【文献】特開平05-078304(JP,A)
【文献】特開2014-234429(JP,A)
【文献】特開平07-033851(JP,A)
【文献】特開2001-354640(JP,A)
【文献】特開2014-055229(JP,A)
【文献】特開2004-285359(JP,A)
【文献】国際公開第2015/046369(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
JSTPlus(JDreamIII)
JMEDPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素系保存安定剤および水添キシリレンジイソシアネート(H
6XDI)を含み、
イソシアネート組成物に含まれる塩素の含有量が22ppm~
370ppmであり、
全体の組成物中に含まれているNCO基の含有量が42重量%~45重量%であり、
前記塩素系保存安定剤が塩素イオンを含み、
前記塩素系保存安定剤が、ベンゾトリクロリド、ベンジルクロリド、ベンゾイルクロリド、およびC
1-10アルカノイルクロリドからなる群より選択される1種以上を含み
、
前記イソシアネート組成物が80℃の温度で6ヶ月間放置される際、発生する沈殿物の量が組成物の総重量を基準に1重量%以下であり、
初期組成物内のNCO基の含有量と、80℃の温度で6ヶ月間放置された後の組成物内のNCO基の含有量との差が5重量%以下である、イソシアネート組成物。
【請求項2】
前記イソシアネート組成物が、前記組成物と接触する部位が塩素と反応性のない容器に密封され、80℃の温度で6ヶ月間放置される際、初期組成物内のNCO基の含有量と、前記条件で6ヶ月間放置された後の組成物内のNCO基の含有量との差が4重量%以下である、請求項1に記載のイソシアネート組成物。
【請求項3】
(1)ジメチルシクロヘキシルアミンからイソシアネート合成工程により水添キシリレンジイソシアネート(H
6XDI)を含有する組成物を調製する段階と、
(2)前記水添キシリレンジイソシアネートを含有する組成物に含まれている塩素の含有量を22ppm~
370ppmになるように調節する段階とを含み、
前記段階(2)は、前記水添キシリレンジイソシアネートを含有する組成物にベンゾトリクロリド、ベンジルクロリド、ベンゾイルクロリド、およびC
1-10アルカノイルクロリドからなる群より選択される1種以上、又は塩素イオンを含む塩素系保存安定剤を添加して行われ、
前記組成物が80℃の温度で6ヶ月間放置される際、発生する沈殿物の量が組成物の総重量を基準に1重量%以下であり、
初期組成物内のNCO基の含有量と、80℃の温度で6ヶ月間放置された後の組成物内のNCO基の含有量との差が5重量%以下である、イソシアネート組成物の調製方法。
【請求項4】
前記段階(2)が、前記H
6XDI含有組成物を加熱蒸留する段階をさらに含む、
請求項3に記載のイソシアネート組成物の調製方法。
【請求項5】
イソシアネート組成物およびチオール系化合物を含み、
前記イソシアネート組成物は、塩素系保存安定剤および水添キシリレンジイソシアネート(H
6XDI)を含み、
前記イソシアネート組成物に含まれる塩素の含有量が22ppm~
370ppmであり、前記イソシアネート組成物内に含まれているNCO基の含有量が42重量%~45重量%であり、
前記塩素系保存安定剤が塩素イオンを含み、
前記塩素系保存安定剤が、ベンゾトリクロリド、ベンジルクロリド、ベンゾイルクロリド、およびC
1-10アルカノイルクロリドからなる群より選択され、
前記イソシアネート組成物が80℃の温度で6ヶ月間放置される際、発生する沈殿物の量が組成物の総重量を基準に1重量%以下であり、
初期組成物内のNCO基の含有量と、80℃の温度で6ヶ月間放置された後の組成物内のNCO基の含有量との差が5重量%以下である、重合性組成物。
【請求項6】
イソシアネート組成物およびチオール系化合物を含む重合性組成物が硬化して形成されたポリチオウレタンを含み、
前記イソシアネート組成物は、塩素系保存安定剤および水添キシリレンジイソシアネート(H
6XDI)を含み、
前記イソシアネート組成物に含まれる塩素含有量が22ppm~
370ppmであり、前記イソシアネート組成物内に含まれているNCO基の含有量が42重量%~45重量%であり、
前記塩素系保存安定剤が塩素イオンを含み、
前記塩素系保存安定剤が、ベンゾトリクロリド、ベンジルクロリド、ベンゾイルクロリド、およびC
1-10アルカノイルクロリドからなる群より選択され
、
前記イソシアネート組成物が80℃の温度で6ヶ月間放置される際、発生する沈殿物の量が組成物の総重量を基準に1重量%以下であり、
前記イソシアネート組成物は、初期組成物内のNCO基の含有量と、80℃の温度で6ヶ月間放置された後の組成物内のNCO基の含有量との差が5重量%以下である、光学レンズ。
【請求項7】
前記光学レンズが、1~20の黄色度(YI)および550nmの波長で85.0%~99.9%の光透過率を有する、
請求項6に記載の光学レンズ。
【請求項8】
前記光学レンズが、30~45のアッベ数および75℃~120℃のガラス転移温度を有する、
請求項6に記載の光学レンズ。
【請求項9】
(A)イソシアネート組成物を提供する段階と、
(B)チオール系化合物を提供する段階と、
(C)前記イソシアネート組成物と前記チオール系化合物とを含む重合性組成物を提供する段階と、
(D)前記重合性組成物を硬化させる段階とを含み、
前記イソシアネート組成物は、塩素系保存安定剤および水添キシリレンジイソシアネート(H
6XDI)を含み、
前記イソシアネート組成物に含まれる塩素含有量が22ppm~
370ppmであり、前記イソシアネート組成物内に含まれているNCO基の含有量が42重量%~45重量%であり、
前記塩素系保存安定剤が塩素イオンを含み、
前記塩素系保存安定剤が、ベンゾトリクロリド、ベンジルクロリド、ベンゾイルクロリド、およびC
1-10アルカノイルクロリドからなる群より選択され
、
前記イソシアネート組成物が80℃の温度で6ヶ月間放置される際、発生する沈殿物の量が組成物の総重量を基準に1重量%以下であり、
前記イソシアネート組成物は、初期組成物内のNCO基の含有量と、80℃の温度で6ヶ月間放置された後の組成物内のNCO基の含有量との差が5重量%以下である、光学レンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実現例は、安定性および反応性が改善されたイソシアネート組成物、並びにこれを用いた光学レンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチック光学材料は、ガラスのような無機材料からなる光学材料に比べて軽量でありながら、割れにくく染色性に優れているので、眼鏡レンズ、カメラレンズ等の光学材料として広く利用されている。最近では、高透明性、高屈折率、低比重、高耐熱性、高耐衝撃性などの光学材料の高性能化が求められている。
【0003】
プラスチック光学材料のうちポリチオウレタンは、優れた光学特性および機械的物性を有し、光学材料として広く使用されている。ポリチオウレタンは、チオールとイソシアネートとを反応させて調製することができ、前記チオールおよび/またはイソシアネートの物性は、調製されるポリチオウレタンの物性に大きく影響を与え得る。一般に、ポリチオウレタンから製造されたレンズは、屈折率が高く軽量で、比較的耐衝撃性が高いので広く使用されているが、チオールおよびイソシアネートの重合反応時に気泡の発生や、反応性の低下、副反応の発生、重合速度制御が容易ではないという短所がある。
【0004】
ポリチオウレタンの原料となるチオールおよび/またはイソシアネートは、種類、含有量などを調節する方法により光学特性を向上させようとする研究が続いており、例えば、チオールの水分含有量を調節して重合時の重合速度を制御することにより、レンズの透明性を向上させようとする試みがあった(特許文献1)。
【0005】
この外、イソシアネートの種類や物性などを制御して重合反応を制御する方法も広く知られている。ポリチオウレタン重合時に使用されるイソシアネートは、一般に脂肪族または芳香族アミンをホスゲン(phosgene)と反応させて調製し得るが、例えば、キシレンジアミン、シクロヘキシルジメチルアミンなどをホスゲンと反応させて、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)等が得られる(ホスゲン法)。または、ホスゲンの外に、アルキルカルボン酸またはハロアルキルカルボニル基を有する化合物と反応させて得ることもできる(非ホスゲン(non-phosgene)法)。
【0006】
ホスゲン法により得られたイソシアネートは、通常の方法により蒸留して精製する。これは、反応直後に生成されたイソシアネートの不純物の除去のみならず、イソシアネートのNCO基の自己反応により生成された二量体(dimer)または三量体(trimer)に副反応が伴わないようにするためである。
【0007】
例えば、キシリレンジイソシアネートは、硬化速度が速く、レンズ製造時の黄変の発生が少ないので、広く使用されている原料であるが、前術のようなNCO基の高い反応性により製品の製造時に均一な特性を実現するのが難しく、副反応に起因して長期間の保存時に本来の物性を失い易いという欠点がある。また、NCO基の自己反応に起因する副反応が伴われるだけでなく、これによってNCO基の含有量も異なり得るので、反応性に影響を与え得る。その結果、固相の物質が析出されるか、または外部から流入された水分との反応により、このような現象がさらに加速化する問題がある。これを防止あるいは遅延させるために、様々な安定剤を使用したりもするが、これは黄変を誘発したり、反応性に影響を与えたりして、ポリウレタンの調製時、さらに別の問題を発生させたりもする。また、キシリレンジイソシアネートの場合、他種のイソシアネートとは異なり、添加剤の種類および含有量による副作用がはるかに大きく表れるため、好適な配合を見出すのに難しさがあり、このような欠点を補う安定性の高いイソシアネートに対する要求が大きくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】韓国公開特許公報第2012-0076329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
キシリレンジイソシアネートを用いて光学材料を調製する際、高い反応性のため、様々な種類の副反応が誘発されることがあり、これは固相物質を発生させ、光学特性に致命的な影響を与え得る。これを解決するために、キシリレンジイソシアネート内の反応性に影響を与え得る不純物を極微量に減らそうとする試みはあるが、不純物の含有量を最大に下げることは、商業的に非常に難しく、管理にもコストが多くかかる。そこで、本発明者らが研究した結果、水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)組成物が一定量の塩素を含有すると、安定性が改善され、反応性の低下を防止できることを見出した。
【0010】
したがって、実現例により、塩素含有量を特定の範囲に調節して、安定性および反応性が改善されたイソシアネート組成物、並びにその調製方法を提供することとする。
【0011】
また、実現例により、前記イソシアネート組成物を用いた重合性組成物、光学材料、およびプラスチック光学レンズの製造方法を提供することとする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一実現例によると、塩素系保存安定剤および水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)を含み、全体の組成物内に前記塩素系保存安定剤に由来する塩素の含有量が22ppm~500ppmであり、全体の組成物内に含まれているNCO基の含有量が42重量%~45重量%であるイソシアネート組成物を提供する。
【0013】
他の実現例によると、塩素系保存安定剤および水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)を含み、全体の組成物内に含まれているNCO基の含有量が42重量%~45重量%であり、前記組成物が、前記組成物と接触する部位が塩素と反応性のない容器に密封され80℃の温度で6ヶ月間放置される際、初期組成物内のNCO基含有量と、前記条件において6ヶ月間放置された後の組成物内のNCO基含有量との差が4重量%以下である、イソシアネート組成物を提供する。
【0014】
また他の実現例によると、(1)ジメチルシクロヘキシルアミンからイソシアネート合成工程により水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)を含有する組成物を調製する段階と、(2)前記水添キシリレンジイソシアネートを含有する組成物に含まれている塩素の含有量を22ppm~500ppmになるように調節する段階とを含み、前記H6XDI含有組成物が80℃の温度で6ヶ月間放置される際、初期組成物内のNCO基含有量と、前記条件において6ヶ月間放置された後の組成物内のNCO基含有量との差が4重量%以下である、イソシアネート組成物の調製方法を提供する。
【0015】
また他の実現例によると、イソシアネート組成物およびチオール系化合物を含み、前記イソシアネート組成物は、塩素系保存安定剤および水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)を含み、前記イソシアネート組成物内に前記塩素系保存安定剤に由来する塩素含有量が22ppm~500ppmであり、前記イソシアネート組成物内に含まれているNCO基の含有量が42重量%~45重量%である、重合性組成物を提供する。
【0016】
また他の実現例によると、イソシアネート組成物およびチオール系化合物を含む重合性組成物が硬化して形成されたポリチオウレタンを含み、前記イソシアネート組成物は、塩素系保存安定剤および水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)を含み、前記イソシアネート組成物内に前記塩素系保存安定剤に由来する塩素含有量が22ppm~500ppmであり、前記イソシアネート組成物内に含まれているNCO基の含有量が42重量%~45重量%である、光学レンズを提供する。
【0017】
また他の実現例によると、(A)イソシアネート組成物を提供する段階と、(B)チオール系化合物を提供する段階と、(C)前記イソシアネート組成物と前記チオール系化合物とを含む重合性組成物を提供する段階と、(D)前記重合性組成物を硬化させる段階とを含み、前記イソシアネート組成物は、塩素系保存安定剤および水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)を含み、前記イソシアネート組成物内に前記塩素系保存安定剤に由来する塩素含有量が22ppm~500ppmであり、前記イソシアネート組成物内に含まれているNCO基の含有量が42重量%~45重量%である、光学レンズの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
実現例によるイソシアネート組成物は、一定量の塩素を含有して安定性が向上されたので、長期間の保管時にも反応性の低下を防止することができる。
【0019】
したがって、実施例によるイソシアネート組成物は、調製後に長期間保管された後で使用されても、チオールと重合して屈折率、アッベ数、透明度、ガラス転移温度、黄色度などの物性に優れたポリチオウレタン系光学材料として調製され得るので、眼鏡レンズ、カメラレンズ等の分野において有用である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実現例により本発明を詳細に説明する。実現例は、以下に開示した内容に限定されるものではなく、発明の要旨が変更されない限り、様々な形態に変形され得る。
【0021】
本明細書において「含む」ということは、特別な記載がない限り、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0022】
また、本明細書に記載された構成成分の量、反応条件などを表すすべての数字および表現は、特別な記載がない限り、すべての場合に「約」という用語で修飾されるものと理解するべきである。
【0023】
一実現例は、塩素系保存安定剤および水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)を含み、全体の組成物内に前記塩素系保存安定剤に由来する塩素の含有量が22ppm~500ppmであり、全体の組成物内に含まれているNCO基の含有量が42重量%~45重量%であるイソシアネート組成物を提供する。
【0024】
具体的に、前記塩素系保存安定剤は、前記H6XDIの反応性をより安定化させ、H6XDIの保存安定性を向上させることができる。
【0025】
前記塩素系保存安定剤は、塩素イオンであってもよく、または下記化学式1または2で表される化合物であり得る。
【0026】
[化1]
[化2]
前記式において、nは1~3の整数であり、R1はハロゲン、ヒドロキシ、またはアミノで置換または非置換されたC
6-10アリールであり、R2はC
1-10アルキレンであり、R3はハロゲン、ヒドロキシ、またはアミノで置換または非置換されたC
6-10アリール、もしくはハロゲン、ヒドロキシ、またはアミノで置換または非置換されたC
1-10アルキルである。
【0027】
具体的に、前記塩素系保存安定剤は、ベンゾトリクロリド(下記化学式3)、ベンジルクロリド(下記化学式4)、ベンゾイルクロリド(下記化学式5)、およびC1-10アルカノイルクロリド(下記化学式6)からなる群より選択される1種以上の塩素系保存安定剤を含み得る。
【0028】
[化3]
[化4]
[化5]
[化6]
この際、前記化学式6においてR4はC
1-10アルキルである。
【0029】
前記イソシアネート組成物は、前記組成物内に含まれる塩素含有量を適切なレベルに調節することが重要である。
【0030】
具体的に、前記イソシアネート組成物に含まれる塩素の含有量、すなわち、前記塩素系保存安定剤に由来する塩素の含有量は、約22ppm~600ppm、約22ppm~500ppm、約24ppm~500ppm、約30ppm~500ppm、または約50ppm~500ppmであり得る。前記イソシアネート組成物内の塩素含有量が前記範囲を有するとき、長期保存安定性および光学特性の面からより優れる。より具体的に、前記イソシアネート組成物内の塩素含有量が前記範囲未満であると、H6XDIの高い反応性を効果的に抑制できず、組成物内のNCO間の自己反応などの副反応が起こり、長期間保存する際に白濁や沈殿物が発生することがあり、前記範囲を超えると、過量の塩素または塩素系化合物に起因する黄変が発生し得る。
【0031】
前記塩素含有量は、前記イソシアネート組成物内に含有された塩素成分、すなわち、塩素保存安定剤に由来する塩素イオンおよび塩素系化合物に含まれている塩素成分の合計含有量を意味するものであり、燃焼イオンクロマトグラフィーなどの方法により測定され得る。
【0032】
前記イソシアネート組成物は、前記組成物内に含まれているNCO基の含有量が42重量%~45重量%、または43重量%~45重量%であり得る。前記イソシアネート組成物内に含まれているNCO基の含有量の範囲は、組成物内でNCO間の自己反応が起きていない状態における理論的NCO含有量に近いものであり、前記範囲内のときに、一実現例に係るイソシアネート組成物の物性が低下しないであろう。
【0033】
前記NCO基の含有量(NCO%)は、組成物内に含まれている自由NCO(反応性NCO)基の重量を百分率に換算した値であり、塩酸を用いた逆滴定などの方法により測定され得る。
【0034】
このように塩素含有量が調節された前記イソシアネート組成物は、保存安定性が非常に優れている。
【0035】
例えば、前記イソシアネート組成物は、80℃の温度で6ヶ月間放置される際、発生する沈殿物の量が組成物の総重量を基準に1重量%以下、0.5重量%以下、または0.3重量%以下であり得る。
【0036】
また、前記イソシアネート組成物は、初期組成物内のNCO基の含有量と、80℃の温度で6ヶ月間放置された後の組成物内のNCO基の含有量との差が5重量%以下であり、好ましくは4重量%以下、3重量%以下、2重量%以下、または1重量%以下であり得る。
【0037】
さらに、前記イソシアネート組成物は、塩素と反応性のない保管容器に保管することにより、組成物の長期保存安定性をより向上させ得る。具体的に、前記イソシアネート組成物は、前記組成物と接触する部位が塩素と反応性のない容器に密封され、80℃の温度で6ヶ月間放置される際、初期組成物内のNCO基の含有量と、前記条件で6ヶ月間放置された後の組成物内のNCO基の含有量との差が4重量%以下であり、好ましくは、3重量%以下、2質量%以下、または1重量%以下であり得る。
【0038】
この際、前記保管容器は、塩素と反応性のないエポキシ系、ポリエチレン系、フッ素系(テフロンなど)、シリコーン系、フェノール系、アルキド系、ポリエステル系、アクリル系、アミノ系、ビニル系コーティング剤などのポリマーコーティング剤;またはモリブデン系、リン酸系、亜鉛系コーティング剤などの無機金属系などが1種以上コーティングされた容器であり得る。
【0039】
したがって、一実現例は、塩素系保存安定剤およびH6XDIを含み、全体の組成物内に含まれているNCO基の含有量が42重量%~45重量%であり、前記組成物が、前記組成物と接触する部位が塩素と反応性のない容器に密封され80℃の温度で6ヶ月間放置される際、初期組成物内のNCO基の含有量と、前記条件で6ヶ月間放置された後の組成物内のNCO基含有量との差が4重量%以下であるイソシアネート組成物を提供する。
【0040】
前記イソシアネート組成物内のH6XDIの含有量は、90重量%以上、95重量%以上、99重量%以上、90重量%以上100重量%未満、95重量%以上100重量%未満、または99重量%以上100重量%未満であり得る。
【0041】
さらに、一実現例は、(1)ジメチルシクロヘキシルアミンからイソシアネート合成工程により水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)を含有する組成物を調製する段階と、(2)前記H6XDIを含有する組成物に含まれている塩素の含有量を22ppm~500ppmになるように調節する段階とを含み、前記組成物が80℃の温度で6ヶ月間放置される際、初期組成物内のNCO基の含有量と、前記条件で6ヶ月間放置された後の組成物内のNCO基の含有量との差が4重量%以下である、イソシアネート組成物の調製方法を提供する。
【0042】
具体的に、前記調製方法によると、前記段階(1)においては、ジメチルシクロヘキシルアミン、具体的に(3-(アミノメチル)シクロヘキシル)メタンアミンをイソシアネート合成工程(ホスゲン法または非ホスゲン法)によりH6XDIを含有する組成物を得ることができる。
【0043】
例えば、具体的に(3-(アミノメチル)シクロヘキシル)メタンアミンを、ホスゲン、ハロC1-10アルキルクロロホルメート、またはハロジC1-10アルキルカーボネートと反応させて、H6XDIを含有する組成物を得ることができる。
【0044】
ホスゲン法の一例によると、下記反応式1に示すように、(3-(アミノメチル)シクロヘキシル)メタンアミンをエステル系溶媒中で、30℃以下の温度で塩酸と反応させてアミン塩酸塩を得た後、これを120℃~170℃の温度にてホスゲンと反応させてH6XDIを合成することができる。
【0045】
【0046】
非ホスゲン法の一例によると、下記反応式2に示すように、(3-(アミノメチル)シクロヘキシル)メタンアミンを、ハロC1-10アルキルクロロホルメートまたはハロジC1-10アルキルカーボネートと反応させてビスカルバメートを調製し、触媒および130℃~250℃の高温条件下の溶媒中で熱分解してH6XDIを合成することができる。
【0047】
[反応式2]
前記反応式2において、RはハロC
1-10アルキルである。
ここで、前記ハロはF、Cl、Br、またはIであり得る。
【0048】
以上の方法により、H6XDIを含有する組成物が調製され、この際、前記ホスゲン法によっては、水素化が可能な塩素イオンがともに生成され、前記非ホスゲン法によっては、水素化が可能な塩素イオンが生成されないため、組成物内の塩素含有量を人為的に調節する必要がある。
【0049】
前記段階(2)においては、前の段階で得るH6XDIを含有する組成物に塩素系保存安定剤を添加して、組成物内に含まれている塩素の含有量を22ppm~500ppmになるように調節することにより、組成物の保存安定性を高めることができる。
【0050】
例えば、前記段階(2)は、前記段階(1)で得られた組成物に、ベンゾトリクロリド、ベンジルクロリド、ベンゾイルクロリド、およびC1-10アルカノイルクロリドからなる群より選択される1種以上、または塩素イオンを含む塩素系保存安定剤を添加して、塩素の含有量を調節することができる。前記組成物に前述のような塩素系保存安定剤を添加して、20℃~50℃の間で撹拌して混合することにより行うことができる。この際、前記塩素系保存安定剤は、前記で例示した種類の化合物を、必要量をもって適宜使用し得る。
【0051】
または、前記段階(2)は、前記段階(1)で得られた組成物に塩素系保存安定剤として塩素を添加して塩素の含有量を調節することができる。塩素を使用する場合、前記工程は、前記組成物を常温で撹拌しながら塩素ガスを注入して溶解した後、減圧下で非溶解状態の塩素ガスを除去することにより行うことができる。
【0052】
前記段階(2)を行う際、前記塩素系保存安定剤が過剰に存在/投入された場合には、これを除去する工程がさらに行われ得る。すなわち、前記段階(2)の以降、前記組成物内に存在する過量の塩素イオンまたは塩素系化合物を除去するために加熱蒸留して、組成物内の塩素含有量を22ppm~500ppmに調節する段階をさらに含み得る。また、各塩素の添加/除去工程後に組成物内の塩素含有量を測定して、塩素含有量を22ppm~500ppmに調節することができる。この際、必要に応じて、前記工程をさらに追加して行うこともできる。
【0053】
前述のようなイソシアネート組成物は、塩素と反応しない容器に保管して保存することができる。
【0054】
具体的に、一実現例は、塩素系保存安定剤およびH6XDIを含み、全体の組成物内に含まれているNCO基の含有量が42重量%~45重量%であるイソシアネート組成物および前記イソシアネート組成物を収容する容器を含むイソシアネート組成物の貯蔵体を提供し得る。この際、前記イソシアネート組成物と接触する容器の部位は、塩素と反応性がない。
【0055】
イソシアネート組成物内の塩素成分が金属等の反応性物質と接触する場合、時間の経過によりイソシアネート組成物内に金属イオン等の不純物の濃度が高くなって変質のおそれがあり、さらには、レンズ製造時の反応性および光学特性に致命的な影響を与え得る。したがって、実現例による貯蔵体は、塩素と反応性のない接触部を有する容器を用いて、容器の腐食による金属イオン等の溶出を防止することができる。
【0056】
例えば、前記容器において、前記イソシアネート組成物と接触する部位は、非金属からなり得る。具体的に、前記容器において前記組成物と接触する部位は、塩素と反応性のないエポキシ系、ポリエチレン系、フッ素系(テフロン等)、シリコーン系、フェノール系、アルキド系、ポリエステル系、アクリル系、アミノ系、ビニル系コーティング剤などのポリマーコーティング剤;またはモリブデン系、リン酸系、亜鉛系コーティング剤などの無機金属系などが1種以上コーティングされたものであり得る。
【0057】
このような前記貯蔵体は、容器と組成物との間で反応を起こさないので、長期間保管しても、容器から組成物に溶出される物質がほとんどない。
【0058】
一例として、前記イソシアネート組成物は、前記容器に密封され80℃の温度で6ヶ月間放置される際、初期組成物内のNCO基の含有量と、前記条件で6ヶ月間放置された後の組成物内のNCO基の含有量との差が4重量%以下であり、前記容器から溶出された物質の総含有量が0.8ppm以下、0.6ppm以下、または0.4ppm以下であり得る(試験例1および2を参照)。
【0059】
別の例として、前記イソシアネート組成物は、前記容器に密封され80℃の温度で1ヶ月間放置される際、初期組成物内のNCO基の含有量と、前記条件で1ヶ月間放置された後の組成物内のNCO基の含有量との差が4重量%以下であり、前記容器から溶出された物質の総含有量が0.8ppm以下、0.6ppm以下、または0.4ppm以下であり得る。
【0060】
また、一実現例は、イソシアネート組成物およびチオール系化合物を含み、前記イソシアネート組成物は塩素系保存安定剤およびH6XDIを含み、前記イソシアネート組成物内に前記塩素系保存安定剤に由来する塩素含有量が22ppm~500ppmであり、前記イソシアネート組成物内に含まれているNCO基の含有量が42重量%~45重量%である重合性組成物を提供する。
【0061】
前記重合性組成物は、前記イソシアネート組成物およびチオール系化合物を混合した状態、または分離された状態で含み得る。すなわち、前記重合性組成物内で、前記イソシアネート組成物およびチオール系化合物は、互いに接触して混合された状態であるか、または分離されて互いに接触していない状態であり得る。
【0062】
前記重合性組成物内のSH基/NCO基のモル比は、0.5~3.0、または0.8~1.3であり得る。
【0063】
前記チオール系化合物は、チオールオリゴマーまたはポリチオールであり得、1種または2種以上を混合して使用し得る。
【0064】
前記チオール系化合物の具体例としては、3,3'-チオビス[2-[(2-メルカプトエチル)チオ]-1-プロパンチオール]、ビス[2-(2-メルカプトエチルチオ)-3-メルカプトプロピル]スルフィド、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、2,3-ビス(2-メルカプトエチルチオ)プロパン-1-チオール、2,2-ビス(メルカプトメチル)-1,3-プロパンジチオール、ビス(2-メルカプトエチル)スルフィド、テトラキス(メルカプトメチル)メタン、2-(2-メルカプトエチルチオ)プロパン-1,3-ジチオール、2-[2,3-ビス(2-メルカプトエチルチオ)プロピルチオ]エタンチオール、ビス(2,3-ジメルカプトプロパニル)スルフィド、ビス(2,3-ジメルカプトプロパニル)ジスルフィド、1,2-ビス[(2-メルカプトエチル)チオ]-3-メルカプトプロパン、1,2-ビス[2-(2-メルカプトエチルチオ)-3-メルカプトプロピルチオ]エタン、2-(2-メルカプトエチルチオ)-3-2-メルカプト-3-[3-メルカプト-2-(2-メルカプトエチルチオ)-プロピルチオ]プロピルチオ-プロパン-1-チオール、2,2-ビス-(3-メルカプト-プロピオニルオキシメチル)-ブチルエステル、2-(2-メルカプトエチルチオ)-3-(2-{2-[3-メルカプト-2-(2-メルカプトエチルチオ)-プロピルチオ]エチルチオ}エチルチオ)プロパン-1-チオール、(4R、11S)-4,11-ビス(メルカプトメチル)-3,6,9,12-テトラチアテトラデカン-1,14-ジチオール、(S)-3-[(R-2,3-ジメルカプトプロピル)チオ]プロパン-1,2-ジチオール、(4R、14R)-4,14-ビス(メルカプトメチル)-3,6,9,12,15-ペンタチアヘプタン-1,17-ジチオール、(S)-3-({R-3-メルカプト-2-[(2-メルカプトエチル)チオ]プロピルチオ}プロピルチオ)-2-[(2-メルカプトエチル)チオ]プロパン-1-チオール、3,3'-ジチオビス(プロパン-1,2-ジチオール)、(7R、11S)-7,11-ビス(メルカプトメチル)-3,6,9,12,15-ペンタチアヘプタデカン-1,17-ジチオール、(7R、12S)-7,12-ビス(メルカプトメチル)-3,6,9,10,13,16-ヘキサチアオクタデカン-1,18-ジチオール、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)、ビスペンタエリスリトールエーテルヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)、1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,1,2,2-テトラキス(メルカプトメチルチオ)エタン、4,6-ビス(メルカプトメチルチオ)-1,3-ジチアン、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、2-[2,2-ビス(メルカプトジメチルチオ)エチル]-1,3-ジチアン等が挙げられる。
【0065】
この外にも、前記重合性組成物は、必要に応じて、内部離型剤、紫外線吸収剤、重合開始剤、熱安定剤、色補正剤、鎖延長剤、架橋剤、光安定剤、酸化防止剤、充填剤などの添加剤をさらに含み得る。
【0066】
前記内部離型剤としては、パーフルオロアルキル基、ヒドロキシアルキル基、またはリン酸エステル基を有するフッ素系非イオン界面活性剤、ジメチルポリシロキサン基、ヒドロキシアルキル基またはリン酸エステル基を有するシリコーン系非イオン界面活性剤;トリメチルセチルアンモニウム塩、トリメチルステアリルアンモニウム塩、ジメチルエチルセチルアンモニウム塩、トリエチルドデシルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、ジエチルシクロヘキサドデシルアンモニウム塩のようなアルキル第4級アンモニウム塩;酸性リン酸エステルの中から選択された成分が1種または2種以上使用され得る。
【0067】
前記紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチレート系、シアノアクリレート系、オキサニリド系などが使用され得る。
【0068】
前記重合開始剤としては、アミン系、リン系、有機スズ系、有機銅系、有機ガリウム、有機ジルコニウム、有機鉄系、有機亜鉛、有機アルミニウムなどが使用され得る。
【0069】
前記熱安定剤としては、金属脂肪酸塩系、リン系、鉛系、有機スズ系などを1種または2種以上混合して使用可能である。
【0070】
一実現例は、イソシアネート組成物およびチオール系化合物を含む重合性組成物が硬化して形成されたポリチオウレタンを含み、前記イソシアネート組成物は塩素系保存安定剤およびH6XDIを含み、前記イソシアネート組成物内に前記塩素系保存安定剤に由来する塩素含有量が22ppm~500ppmであり、前記イソシアネート組成物内に含まれているNCO基の含有量が42重量%~45重量%である、光学レンズを提供する。
【0071】
前記光学レンズの原料となるポリチオウレタンは、前述のように、塩素含有量が調節されたイソシアネート組成物とチオール系化合物とが重合(および硬化)されて調製され得る。この際、前記重合反応においてSH基/NCO基のモル比は、0.5~3.0、または0.8~1.3であり得る。
【0072】
また、前記重合反応時に反応速度を調節するために、ポリウレタンの調製に通常用いられる反応触媒が添加され得る。前記触媒は、重合開始剤および硬化触媒の役割を同時に果たせ得る。前記触媒はスズ系触媒を使用することができ、例えば、ジブチルスズジクロリド、ジブチルスズジラウレート、ジメチルスズジクロリドなどを使用され得る。
【0073】
前記光学レンズは、より優れた光学特性を示す。
具体的に、前記光学レンズは、ガラス転移温度(Tg)に優れている。例えば、前記光学レンズは、ガラス転移温度(Tg)が75℃以上、80℃以上、85℃以上、または88℃以上であり得る。具体的に、75℃~120℃の範囲、80℃~120℃の範囲、95℃~120℃の範囲、80℃~100℃の範囲、85℃~100℃の範囲、または85℃~90℃の範囲であり得る。
【0074】
さらに、前記光学レンズは無色透明で、屈折率とアッベ数などの光学特性に優れている。
【0075】
前記光学レンズは、屈折率が1.50~1.75の範囲、1.50~1.70の範囲、1.50~1.65の範囲、または1.55~1.65の範囲であり得る。
【0076】
前記光学レンズは、アッベ数が20以上であり得、より具体的に30以上であり得る。例えば、前記光学レンズは、アッベ数が20~50の範囲、25~50の範囲、30~45の範囲、30~43の範囲、35~43の範囲、36~43の範囲、37~43の範囲は、36~40の範囲、または37~40の範囲であり得る。
【0077】
前記光学レンズは、光透過率、例えば、550nmの波長における光透過率が85.0%~99.9%であり得、より限定すると、87.0%~99.0%、または87.0%~95.0%であり得る。
【0078】
前記光学レンズは、黄色度(YI)が25以下、または20以下であり得る。具体的には、1~25の範囲、1~20の範囲、3~20の範囲、または5~15の範囲であり得る。
【0079】
一例によると、前記光学レンズは、1~20の黄色度(YI)および550nm波長において85.0%~99.9%の光透過率を有し得る。また、前記光学レンズは、30~45のアッベ数および75~120℃のガラス転移温度を有し得る。
【0080】
さらに、一実現例は、(A)イソシアネート組成物を提供する段階と、(B)チオール系化合物を提供する段階と、(C)前記イソシアネート組成物と前記チオール系化合物とを含む重合性組成物を提供する段階と、(D)前記重合性組成物を硬化させる段階とを含み、前記イソシアネート組成物は、塩素系保存安定剤およびH6XDIを含み、前記イソシアネート組成物内に前記塩素系保存安定剤に由来する塩素含有量が22ppm~500ppmであり、前記イソシアネート組成物内に含まれているNCO基の含有量が42重量%~45重量%である光学レンズの製造方法を提供する。
【0081】
前記イソシアネート組成物は、(1)ジメチルシクロヘキシルアミンからイソシアネート合成工程によりH6XDIを含有する組成物を得る段階と、(2)前記段階(1)で得られたH6XDI含有組成物に塩素系保存安定剤を添加して、H6XDI含有組成物内に含まれている塩素の含有量を22ppm~500ppmに調節する段階とを行って得られる。
【0082】
この際、前記各段階(1)および(2)は、先般H6XDI組成物の調製方法の段階(1)および(2)において説明したような条件および手順どおりに行われ、必要に応じて前記で例示したように、加熱蒸留により過量の塩素を除去する工程が追加されることもある。
【0083】
以降、前記H6XDI含有組成物をチオール系化合物と混合し、金型にて加熱硬化させて光学レンズを製造することができる。そのために、まず、H6XDI含有組成物をチオール系化合物と混合して重合性組成物を調製し、前記重合性組成物を減圧下で脱気(degassing)した後、光学レンズ成形用金型に注入する。このような脱気および金型の注入は、例えば、20℃~40℃の温度範囲で行われ得る。
【0084】
金型に注入した後は、通常通り、低温から高温に徐々に加熱して重合を行う。前記重合反応時の温度は30℃~150℃、または40℃~130℃であり得る。また、反応速度を調節するために、ポリウレタンの調製に通常用いられる触媒を添加することができ、その具体的な種類は前記で例示したとおりである。
【0085】
前記のような方法により得られたポリチオウレタン成形物を金型から分離して光学レンズを得ることができる。
【0086】
前述のように、実現例によるイソシアネート組成物は、一定量の塩素を含有して安定性が向上されたので、長期間の保管時にも反応性の低下を防止することができる。したがって、実現例によるイソシアネート組成物は、調製後、長期間保管された後で使用されても、チオール系化合物と重合して屈折率、アッベ数、透明度、ガラス転移温度、黄色度などの物性に優れたポリチオウレタン系光学材料として調製され得るので、眼鏡レンズ、カメラレンズ等の分野において有用である。
【0087】
(実施例)
前記内容を以下の実施例により、さらに詳細に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示するためのものであるのみ、実施例の範囲はこれらにのみ限定されるものではない。
【0088】
(実施例1:イソシアネート組成物の調製)
(1)材料の準備
[3-(アミノメチル)シクロヘキシル]メタンアミン5重量部をo-ジクロロベンゼン78重量部に溶解してアミン溶液を調製した。以降、o-ジクロロベンゼン52重量部にホスゲン44重量部を溶解した溶液をブラインコンデンサにより10℃に冷却して反応容器に入れ、これに前記調製したアミン溶液を50℃以下の温度にて徐々に添加した。この際、アミン溶液の添加量は、アミン1モルに対してホスゲン5モルとなるようにした。その後、反応容器を密封して2時間反応溶液を撹拌した。140℃の温度および3kg/cm2の圧力条件で3時間さらに反応を行った後、反応で生成された塩酸ガスを放出した。反応が完了した後、過量のホスゲンを蒸留工程により除去した。生成物を減圧下における分別蒸留により精製してH6XDI含有組成物を得た。
【0089】
(2)塩素含有量の調節
前記で得られたH6XDI含有組成物に、下記表1に示すような塩素系保存安定剤を添加して、塩素含有量が多様に調節されたイソシアネート組成物1~7を調製した。
【0090】
具体的に、塩素イオンを添加する工程は、H6XDI含有組成物を常温で撹拌しながら塩素ガスを注入して1時間溶解させ、その後、減圧下で約30分間溶解されていない塩素ガスを除去することにより行われた。また、塩素系保存安定剤を添加する工程は、下記の表1に記載の各々の塩素系保存安定剤を添加して35℃にて1時間ほど十分に撹拌させることにより行われた。
【0091】
以降、組成物内の塩素の含有量を燃焼イオンクロマトグラフィーにより測定して過量が存在する場合、組成物を80℃にて蒸留して塩素イオンおよび/または塩素系化合物を除去した。そして、さらに塩素含有量を測定し、必要に応じて前記の工程を繰り返した後、組成物内の最終的な塩素含有量を表1にまとめた。
【0092】
(実施例2:光学レンズの製造)
前記実施例1と同様の方法によりイソシアネート組成物を調製するが、下記評価例1に記載のような塩素系保存安定剤を使用した。
【0093】
具体的に、前記イソシアネート組成物520gに、チオール系化合物として3,3'-チオビス[2-[(2-メルカプトエチル)チオ]-1-プロパンチオール]を479.3g、硬化触媒としてジブチルスズジクロリドを0.15g、および内部離型剤としてStepan社のZelec(登録商標)UN 0.80gをさらに添加し、均一に混合して重合性組成物を調製した。次いで、窒素雰囲気下で30分間の減圧撹拌により気泡を除去し、3μmのテフロンフィルターでろ過した。ろ過された重合性組成物を粘着テープにより組み立てられたガラスモールドに窒素圧力を利用して注入した。重合性組成物が注入されたガラスモールドを強制循環式オーブンに入れ、25℃から120℃まで5℃/分の速度で昇温させ、120℃にて18時間重合させた。以降、重合された樹脂を130℃にて4時間さらに硬化し、ガラスモールドからレンズを離型させて、中心厚さ1.2mmのそれぞれの光学レンズを得た。
【0094】
[評価例]
<評価例1:イソシアネート組成物の評価>
前記実施例1で調製したイソシアネート組成物について、以下のような方法で保存安定性を評価した。その結果を下記表1~3に示した。
【0095】
(1)塩素含有量によるイソシアネート組成物の保存安定性の評価
前記実施例1において塩素含有量が多様に調節されたイソシアネート組成物1~7について、組成物内の初期NCO基の含有量(NCO%)を逆滴定(back titration)法により測定した。まず、理論的NCOに対して過量のn-ブチルアミンを投入して反応させ、残留する過量のn-ブチルアミンを0.1N濃度の塩酸試薬で分析した。その結果を表1にまとめた。
【0096】
また、各イソシアネート組成物の初期の色、白濁の発生有無、および沈殿物の存在有無を表1にまとめた。白濁および沈殿物の有無は、透明なガラス瓶にイソシアネート組成物を入れ、窒素を充填して密封した後に一日以上放置して、外観および底に沈んだ沈殿物の有無を観察して判定した。この際、組成物を入れたガラス瓶が透明または沈殿が発生していない場合は×、濁っているか沈殿が発生した場合は○として評価した。また、発生する沈殿物の量が組成物の総重量を基準に1%以下である場合は×、1%を超える場合は○として評価した。
【0097】
以降、イソシアネート組成物1~7を80℃の温度で6ヶ月間保管し、前記と同様の方法によりイソシアネート組成物1~7についてNCO%を測定し、色、白濁の発生有無、および沈殿物の存在有無を確認した。評価方法および評価基準は、前記で説明した通りである。その結果を下記表1に示した。
【0098】
【0099】
前記表1を見ると、塩素含有量が22ppm~500ppm以内であるイソシアネート組成物(組成物2~5)は、いずれも6ヶ月保存後にNCO%の変動がほとんどなく、透明色を保持しており、白濁や沈殿が発生していないので、長期間保存時にも安定性が優れているものと確認された。
【0100】
一方、塩素含有量が22ppm未満であるか、500ppmを超えるその他のイソシアネート組成物は、6ヶ月保存後に黄変が発生したり、白濁や沈殿が発生したりして、長期保管時に安定性が低下することを確認した。
【0101】
(2)保管容器によるイソシアネート組成物の保存安定性の評価
前記実施例1において、塩素含有量が多様に調節されたイソシアネート組成物1~7について、これらの初期金属イオン濃度を分析した後、互いに異なる材質の容器に80℃の温度条件で6ヶ月間保管した後、残留金属イオンの濃度を分析した。
【0102】
表2はステンレス鋼(SUS304)容器で、表3はポリエチレンにより内部がコーティングされたスチール容器で保管したサンプルを分析した結果である。
【0103】
【0104】
【0105】
前記表2および3を見ると、イソシアネート組成物をステンレス鋼容器で保管する場合、組成物内の塩素含有量が増加するほど、溶出される金属の量が大幅に増加した。しかし、ポリエチレンにより内部がコーティングされたスチール容器に保管する場合には、組成物内の塩素含有量が増加しても、検出される金属が非常に少量であることを確認できる。
【0106】
<評価例2:光学レンズの評価>
前記実施例2において製造した光学レンズについて、以下のような方法により物性を評価した。その結果を下記表4に示した。
【0107】
(1)屈折率およびアッベ数
光学レンズについて、Atago社製のアッベ屈折計であるDR-M4モデルを使用して、20℃における屈折率およびアッベ数を測定した。
【0108】
(2)黄色度(YI)および光透過率
光学レンズについて、ミノルタ社の色彩色差計CT-210を使用して色度座標xおよびyを測定した後、測定値を下記の数学式1に適用して黄色度を計算した。また、同一機器を使用して得たスペクトルで550nm波長における透過度を透過率として示した。
[数1]
Y.I.=(234x+106y+106)/y
【0109】
(3)ガラス転移温度(Tg、℃)
光学レンズについて、熱機械分析装置(TMA Q400、TA Instruments社)を用いたペネトレーションテスト(50g荷重、ピン先端0.5mmΦ、加熱速度10℃/分)によりガラス転移温度を測定した。
【0110】
(4)脈理
光学レンズ100枚を水銀ランプの下で肉眼により観察し、不均一相が確認されたレンズは脈理があるものと分類して百分率を算出した。その結果、脈理の発生率が5%未満の場合に良好と判定し、5%以上の場合に不良と判定した。
【0111】
【0112】
前記表4を見ると、塩素含有量が22ppm~500ppmであるイソシアネート組成物(組成物2~5)は、6ヶ月の保管後レンズの製造に使用しても、そこから製造されたレンズの屈折率、アッベ数、透過率、Tg、および黄色度がいずれも優れていた。一方、塩素含有量が22ppm未満であるか、500ppmを超える場合のイソシアネート組成物(組成物1、6および7)は、6ヶ月の保管後レンズの製造に使用すると、それにより製造されたレンズの屈折率、アッベ数、透過率、Tgおよび黄色度、脈理のいずれか1つ以上の試験結果が低調に表れた。
【0113】
このような結果は、塩素の含有量がH6XDIの反応性に大きく影響を与えるからである。具体的に、イソシアネート組成物内の塩素含有量が22ppm未満の場合は、H6XDIの過剰な反応性に起因して組成物の保存安定性が低下し、これによってレンズ製造時に反応が早くなり過ぎて光学特性が不均一となったものであり、塩素含有量が500ppmを超える場合は、H6XDIの反応性遅延効果が過度であるため、レンズ製造時に未反応および/または未硬化が発生するので、光学特性が低下して低調な結果を示したものと予想される。