(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-12
(45)【発行日】2022-10-20
(54)【発明の名称】ガスノズルおよびガスノズルの製造方法ならびにプラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20221013BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20221013BHJP
B05B 1/14 20060101ALI20221013BHJP
C23C 16/455 20060101ALI20221013BHJP
C04B 35/50 20060101ALI20221013BHJP
【FI】
H01L21/302 101G
H01L21/31 C
B05B1/14 Z
C23C16/455
C04B35/50
(21)【出願番号】P 2020557687
(86)(22)【出願日】2019-11-22
(86)【国際出願番号】 JP2019045873
(87)【国際公開番号】W WO2020110964
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-05-21
(31)【優先権主張番号】P 2018220559
(32)【優先日】2018-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野口 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】左橋 知也
【審査官】高柳 匡克
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-286069(JP,A)
【文献】特開2017-091779(JP,A)
【文献】特開2006-196491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H01L 21/31
B05B 1/14
C23C 16/455
C04B 35/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを案内する管状の供給孔と、該供給孔に接続する
、前記供給孔よりも内径の小さい噴射孔とを備え、該噴射孔より前記ガスを噴射する、希土類元素の酸化物、フッ化物もしくは酸フッ化物、またはイットリウムアルミニウム複合酸化物を主成分とするセラミックスまたは単結晶からなるガスノズルであって、前記供給孔を形成する内周面の算術平均粗さRaは、前記ガスの流入側より流出側の方が小さい、ガスノズル。
【請求項2】
ガスを案内する管状の供給孔と、該供給孔に接続する噴射孔とを備え、該噴射孔より前記ガスを噴射する、希土類元素の酸化物、フッ化物もしくは酸フッ化物、またはイットリウムアルミニウム複合酸化物を主成分とするセラミックスまたは単結晶からなるガスノズルであって、前記供給孔を形成する内周面の算術平均粗さRaは、前記ガスの流入側より流出側の方が小さく、
前記内周面の算術平均粗さRaは、前記ガスの流入側より流出側に向かって漸減している
、ガスノズル。
【請求項3】
前記ガスの流入側より流出側に向う、前記算術平均粗さRaの漸減は、指数関数的または1次関数的である、請求項2に記載のガスノズル。
【請求項4】
前記ガスの流入側における前記算術平均粗さRaは、2.5μm以下である、請求項1~3のいずれかに記載のガスノズル。
【請求項5】
前記内周面の算術平均粗さRaの歪度Skが0以上である、請求項1~4のいずれかに記載のガスノズル。
【請求項6】
前記供給孔と前記噴射孔との間に、前記ガスを一時的に貯留する環状の貯留部が備えられてなる、請求項1~5のいずれかに記載のガスノズル。
【請求項7】
希土類元素の酸化物、フッ化物もしくは酸フッ化物、またはイットリウムアルミニウム複合酸化物を主成分とする顆粒を加圧成形して成形体を得る工程と、
前記成形体に切削加工を施して供給孔用下穴および噴射孔用下穴が形成された前駆体を得る工程と、
前記前駆体を焼成して焼結体を得る工程と、
前記焼結体の少なくとも前記供給孔を形成する内周面を砥粒流動研磨法によって研磨する工程と、
を含む
請求項1~6のいずれかに記載のガスノズルの製造方法。
【請求項8】
希土類元素の酸化物、フッ化物もしくは酸フッ化物、またはイットリウムアルミニウム複合酸化物を主成分とする顆粒を加圧成形して成形体を得る工程と、
前記成形体に、螺旋状の溝が設けられた第1シャンクを有する第1切削工具を用いて供給孔用下穴および噴射孔用下穴を形成した後、第2シャンクの先端側に、第2シャンクの径よりも大きい径を有する円板状のチップが装着された第2の切削工具を用いて少なくとも供給孔用下穴を形成する内周面を切削加工した前駆体を得る工程と、
前記前駆体を焼成して焼結体を得る工程と、
を含む
請求項1~6のいずれかに記載のガスノズルの製造方法。
【請求項9】
希土類元素の酸化物、フッ化物もしくは酸フッ化物、またはイットリウムアルミニウム複合酸化物を主成分とする円柱状の単結晶インゴットを育成する工程と、
前記単結晶インゴットにホーニング加工、超音波ロータリー加工または研削加工を施して前記供給孔および前記噴射孔を形成する工程と、
前記単結晶インゴットの少なくとも前記供給孔を形成する内周面を砥粒流動研磨法を用いて研磨する工程と、
を含む
請求項1~6のいずれかに記載のガスノズルの製造方法。
【請求項10】
請求項1~6のいずれかに記載のガスノズルを含むプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガスノズルおよびプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体・液晶製造におけるエッチングや成膜などの各工程において、プラズマを利用して被処理物への処理が施されている。この工程には、反応性の高いフッ素系、塩素系等のハロゲン元素を含む腐食性ガスが用いられている。したがって、半導体・液晶製造装置に用いられる腐食性ガスやそのプラズマに接触する部材には高い耐食性が要求される。このような部材として、特許文献1では、腐食性ガスの流れる内面が焼成したままの面であり、腐食性ガスあるいは腐食性ガスのプラズマに曝される外表面が粗面化されているY2O3焼結体ガスノズルが提案されている。この外表面の粗面化は、ブラスト処理によってなされることが記載されている。
【0003】
特許文献2では、CIP成形法によって得られる成形体を大気雰囲気中にて1400℃以上1700℃以下で焼成した後、研削加工で貫通孔を形成したイットリアを主成分とするガスノズルが記載されている。そして、特許文献2では、貫通孔は、管状の供給孔と、供給孔に接続する噴射孔とからなり、噴射孔は供給孔よりも短径であることが
図2で示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-63595号公報
【文献】国際公開2013/065666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示されるように、研磨粒子によるブラスト処理によって外表面を粗面化したガスノズルは、ガスノズルの貫通孔内に入り込んだ研磨粒子が内表面に固着しやすい。そのため、腐食性ガスが貫通孔内を通過すると、この研磨粒子が新たにパーティクルとなってプラズマ空間を浮遊するという問題がある。
【0006】
特許文献2に示されるガスノズルは、供給孔から噴射孔に流入する付近でガスの通気抵抗が上昇する。そおため、この通気抵抗の上昇に伴って、供給孔を形成する内周面からパーティクルが発生して、プラズマ空間を浮遊するおそれがある。さらに、供給孔が長尺化すると、供給孔を研削加工によって形成することが困難になるという問題がある。
【0007】
一方、昨今、半導体の高集積化に伴い、半導体の内部構造の微細化が進み、メモリ配線幅が、例えば、10nm以下と狭くなってきている。メモリ配線幅が10nm以下になると、今まで注目されていなかった、直径が0.2μm以下の微細なパーティクルがメモリ配線や半導体素子に損傷を与えている。このような問題に伴い、特許文献1および2で提案されたガスノズルから生じるパーティクルよりもさらに微細なパーティクルの発生を低減させなければならなくなっている。
【0008】
本開示は、微細なパーティクルの発生、特に、ガスが供給孔から噴射孔に流入する付近での微細なパーティクルの発生を低減することが可能なカスノズルおよびプラズマ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のガスノズルは、ガスを案内する管状の供給孔と、該供給孔に接続する噴射孔とを備え、該噴射孔より前記ガスを噴射する、希土類元素の酸化物、フッ化物もしくは酸フッ化物、またはイットリウムアルミニウム複合酸化物を主成分とするセラミックスまたは単結晶からなるガスノズルであって、前記供給孔を形成する内周面の算術平均粗さRaは、前記ガスの流入側より流出側の方が小さい。
【0010】
本開示のガスノズルの製造方法は、希土類元素の酸化物、フッ化物もしくは酸フッ化物、またはイットリウムアルミニウム複合酸化物を主成分とする顆粒を加圧成形して成形体を得る工程と、前記成形体に切削加工を施して供給孔用下穴および噴射孔用下穴が形成された前駆体を得る工程と、前記前駆体を焼成して焼結体を得る工程と、前記焼結体の少なくとも前記供給孔を形成する内周面を砥粒流動研磨法によって研磨する工程とを含む。
【0011】
本開示のガスノズルの製造方法は、希土類元素の酸化物、フッ化物もしくは酸フッ化物、またはイットリウムアルミニウム複合酸化物を主成分とする顆粒を加圧成形して成形体を得る工程と、前記成形体に、螺旋状の溝が設けられた第1シャンクを有する第1切削工具を用いて供給孔用下穴および噴射孔用下穴を形成した後、第2シャンクの先端側に、第2シャンクの径よりも大きい径を有する円板状のチップが装着された第2の切削工具を用いて少なくとも供給孔用下穴を形成する内周面を切削加工した前駆体を得る工程と、前記前駆体を焼成して焼結体を得る工程と含む。
【0012】
本開示のガスノズルの製造方法は、希土類元素の酸化物、フッ化物もしくは酸フッ化物、またはイットリウムアルミニウム複合酸化物を主成分とする円柱状の単結晶インゴットを育成する工程と、前記単結晶インゴットにホーニング加工、超音波ロータリー加工または研削加工を施して前記供給孔および前記噴射孔を形成する工程と、前記単結晶インゴットの少なくとも前記供給孔を形成する内周面を砥粒流動研磨法を用いて研磨する工程とを含む。
【0013】
本開示のプラズマ処理装置は上記ガスノズルを含む。
【発明の効果】
【0014】
本開示のガスノズルは、微細なパーティクルの発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示の一実施形態に係るガスノズルを用いたプラズマ処理装置の一例を示す断面図である。
【
図2】
図1に示すプラズマ処理装置に用いられる一実施形態に係るガスノズルを示し、(a)は斜視図であり、(b)は(a)のA1-A1線における断面図である。
【
図3】
図1に示すプラズマ処理装置に用いられる他の実施形態に係るガスノズルを示し、(a)は斜視図であり、(b)は(a)の底面図であり、(c)はB1-B1線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本開示のガスノズルおよびプラズマ処理装置について詳細に説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係るガスノズルを用いたプラズマ処理装置の一例を示す断面図である。
【0017】
図1に示すプラズマ処理装置1は、例えば、半導体ウェハ、ガラス基板等の基板5にプラズマCVD法によって薄膜を形成したり、その薄膜にエッチング処理したりする装置である。プラズマ処理装置1は、薄膜を形成するための反応室2と、反応室2にプラズマ生成用ガス、エッチングガス等のガスを導入するガス導入管3と、反応室2の内部でガス導入管3に接続するガスノズル4と、基板5が載置される、内部電極6を備えた静電チャック等の基板保持部7と、内部電極6に電気的に接続されるバイアス電源8と、反応室2の内部にプラズマを生成するためのコイル9および電源10とを備えている。バイアス電源8、コイル9および電源10は、いずれも反応室2の外部に設けられている。バイアス電源8は、内部電極6に高周波電力を供給する電源である。コイル9および電源10は、反応室2に供給されたガスに放電する放電手段である。
【0018】
このようなプラズマ処理装置1において、基板5の上方では、ガスノズル4から導入されたガスは、コイル9および電源10によってプラズマ化される。プラズマ化されたガスによって、基板5上に薄膜が形成されたり、その薄膜がエッチング処理されたりする。例えば、基板5上に酸化ケイ素(SiO2)からなる薄膜を形成するときは、シラン(SiH4)ガス、アルゴン(Ar)ガスおよび酸素(O2)ガス等のプラズマ生成用ガスが供給され、エッチング処理するときは、SF6、CF4、CHF3、ClF3、NF3、C3F8、C4F8、HF等のフッ素系ガス、Cl2、HCl、BCl3、CCl4等の塩素系ガス等のエッチングガスが供給される。
【0019】
図2は、
図1に示すプラズマ処理装置に用いられる、一実施形態に係るガスノズルの一例を示す、(a)は斜視図であり、(b)は(a)のA1-A1線における断面図である。
図3は、
図1に示すラズマ処理装置に用いられる、一実施形態に係るガスノズルを示し、(a)は斜視図であり、(b)は(a)の底面図であり、(c)はB1-B1線における断面図である。
【0020】
図2および3に示すガスノズル4は、ガスを案内する管状の供給孔11と、供給孔11に接続する噴射孔12とを備え、噴射孔12からガスを噴射する、希土類元素の酸化物、フッ化物もしくは酸フッ化物(以下、「希土類元素の酸化物、フッ化物および酸フッ化物」を「希土類元素の化合物」と記載する場合がある)、またはイットリウムアルミニウム複合酸化物を主成分とするセラミックスまたは単結晶からなるガスノズルである。
【0021】
ガスノズル4は、例えば、円柱状に形成されており、供給孔11は、ガスノズル4の軸心に沿って円周上に複数(
図2に示す例では4本)設けられ、それぞれの供給孔11に噴射孔12が接続されている。供給孔11は、ガスが供給される供給口13を、噴射孔12はガスが噴射される噴射口14をそれぞれ有する。供給孔11は、ガスノズル4の全長の60%以上の長尺状である。供給孔11は、例えば、長さが10mm以上100mm以下であり、直径が1mm以上20mm以下である。
【0022】
噴射孔12は、その軸心がガスノズル4の外周側に向かって傾斜するように供給孔11に接続している。噴射孔12は供給孔11よりも短い。噴射孔12の直径は、供給孔11の直径よりも小さい。噴射孔12は、例えば、長さが1mm以上10mm以下であり、直径が0.1mm以上2mm以下である。ガス導入管3から、供給口13に導入されたガスは、供給孔11および噴射孔12を介して、噴射口14から反応室2の内部に噴射して拡散される。
【0023】
図3に示すガスノズル4は、噴射口14側が半球状に形成された円柱状である。半球状の部分の半径は、例えば、20mm~50mmである。供給口13側の軸心には、凹部15が形成されており、この凹部15は、反応室2に装着されるためのものである。
図3に示すガスノズル4は、
図2に示すガスノズル4の構成に加え、供給孔11と噴射孔12との間に、ガスを一時的に貯留する環状の貯留部16が備えられている。貯留部16が備えられていると、供給孔11に対する噴射孔12の位置決めが容易になり、さらに供給口13に供給されたガスの逆流を防ぐことができる。
【0024】
ここで、本開示における主成分とは、セラミックスまたは単結晶を構成する成分100質量%のうち、90質量%以上の成分をいう。
【0025】
希土類元素の化合物、特に、酸化イットリウム、酸化イッテルビウム、酸化ホルミウム、酸化ジスプロシウム、酸化エルビウム、フッ化イットリウム、フッ化イッテルビウム、フッ化ホルミウム、フッ化ジスプロシウム、フッ化エルビウム、酸フッ化イットリウム、酸フッ化イッテルビウム、酸フッ化ホルミウム、酸フッ化ジスプロシウムおよび酸フッ化エルビウムは、プラズマ生成用ガスGに対して高い耐食性を有する成分である。本開示のガスノズルは、希土類元素の化合物の含有量が高いほど、耐食性が高くなる。特に、希土類元素の化合物の含有量は、98.0質量%以上、99.5質量%以上、さらに99.9質量%以上としてもよい。
【0026】
本開示のガスノズルを形成するセラミックスまたは単結晶は、主成分以外に、例えば、珪素、鉄、アルミニウム、カルシウムおよびマグネシウムのうち少なくとも1種を元素として含んでいてもよい。珪素の含有量がSiO2換算で300質量ppm以下、鉄の含有量がFe2O3換算で50質量ppm以下、アルミニウムの含有量がAl2O3換算で100質量ppm以下、カルシウムおよびマグネシウムの含有量がそれぞれCaOおよびMgO換算した合計で350質量ppm以下としてもよい。さらに、炭素の含有量を100質量ppm以下としてもよい。
【0027】
セラミックスまたは単結晶を構成する成分は、CuKα線を用いたX線回折装置(XRD)を用いて同定した後、蛍光X線分析装置(XRF)またはICP発光分光分析装置(ICP)を用いて、元素の含有量を求め、同定された成分の含有量に換算すればよい。炭素の含有量については、炭素分析装置を用いて求めればよい。
【0028】
本開示のガスノズル4は、供給孔11を形成する内周面の算術平均粗さRaは、ガスの流入側より流出側の方が小さい。このような構成であると、ガスの流出側(噴射孔12への接続部近傍)で内周面の表面性状に起因するガスの通気抵抗の上昇が抑制される。そのため、内周面を起点とする微細なパーティクルの発生を低減することができる。
【0029】
ここで、内周面におけるガスの流入側と流出側と算術平均粗さRaの差は、0.06μm以上、特に0.8μm以上であるとよい。内周面の算術平均粗さRaは、ガスの流入側より流出側に向かって漸減していてもよい。このような構成であると、内周面の算術平均粗さRaがガスの流入側より流出側に向かって段階的に減少している場合よりも供給孔11内におけるガスの流れは層流に近くなる。そのため、内周面を起点とする微細なパーティクルは、さらに発生しにくくなる。
【0030】
ガスの流入側より流出側に向かう算術平均粗さRaの漸減は、指数関数的または1次関数的であってもよい。このような構成であると、算術平均粗さRaの漸減が規則的になるので、供給孔11内におけるガスの流れは層流により近くなる。そのため、内周面を起点とする微細なパーティクルは、さらに発生しにくくなる。
【0031】
ここで、算術平均粗さRaは、JIS B 0601:2013に準拠した測定モードを有するレーザー顕微鏡装置を用いて求めればよい。測定するサンプルは、例えば、供給孔11の供給口13近傍、噴射孔12への接続部近傍および中央部の少なくとも3サンプルとすればよい。近似関数(指数関数、1次関数等)を設定する場合および後述する算術平均粗さRaの歪度を算出する場合には、供給孔11の供給口13近傍、噴射孔12への接続部近傍を両端とし、各サンプル間の間隔を均等にして10サンプル以上にするとよい。
【0032】
算術平均粗さRaの漸減を示す近似関数(指数関数、1次関数等)は、Excel(登録商標、Microsoft Corporation)に備えられているグラフツールを用いて設定した後、相関係数Rを算出する。そして、r表(相関係数検定表)を用いて、有意水準5%(両側確率)で相関係数Rを検定する。有意であれば、算術平均粗さRaの漸減を示す近似関数(指数関数、1次関数等)が決定される。
【0033】
ガスの流入側における算術平均粗さRaは2.5μm以下であってもよい。ガスの流入側における算術平均粗さRaがこの範囲であると、内周面全体がより平坦になるため、表面性状に起因するガスの通気抵抗の上昇が抑制される。そのため、内周面を起点とする微細なパーティクルの発生を低減することができる。
【0034】
ここで、供給孔におけるガスの流入側の算術平均粗さRaは、噴射孔におけるガスの流入側の算術平均粗さRaよりも小さく、その差は0.2μm以上であるとよい。内周面の算術平均粗さRaの歪度が0以上であってもよい。内周面の算術平均粗さRaの歪度がこの範囲であると、算術平均粗さRaの最頻値(モード)が算術平均粗さRaの平均値よりも小さくなる。そのため、内周面を起点とする微細なパーティクルが発生する部分を減少させることができる。
【0035】
歪度Skとは、分布が正規分布からどれだけ歪んでいるか、すなわち、分布の左右対称性を示す指標(統計量)である。歪度Sk>0である場合、分布の裾は右側に向かう。歪度Sk=0である場合、分布は左右対称となる。歪度Sk<0である場合、分布の裾は左側に向かう。内周面の算術平均粗さRaの歪度Skは、Excel(登録商標、Microsoft Corporation)に備えられている関数SKEWを用いて求めればよい。
【0036】
次に、本開示の一実施形態に係るガスノズルの製造方法について説明する。まず、ガスノズルがセラミックスからなる場合、純度が99.9質量%以上の希土類元素の化合物またはイットリウムアルミニウム複合酸化物を主成分とする粉末に純水と分散剤を加える。その後、ビーズミルで粉砕し混合してスラリーを得る。希土類元素の化合物またはイットリウムアルミニウム複合酸化物を主成分とする粉末のの平均粒径は、1.2μm以下である。
【0037】
次いで、スラリーに有機バインダーを添加し撹拌した後、スラリーを噴霧乾燥して、希土類元素の化合物またはイットリウムアルミニウム複合酸化物を主成分とする顆粒を得る。この顆粒を成形型に充填した後、1軸加圧成形法または冷間静水圧加圧成形法(CIP成形法)等の成形法を用いて円柱状に加圧成形して成形体を得る。
【0038】
この成形体に切削加工を施して供給孔用下穴および噴射孔用下穴が形成された前駆体を得る。この前駆体を順次、脱脂して焼成することで、焼結体を得ることができる。ここで、焼成雰囲気は大気雰囲気、焼成温度は1500℃以上1800℃以下とし、保持時間は2時間以上4時間以下とすればよい。前駆体を脱脂した後、焼成雰囲気を窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気またはヘリウムガス雰囲気、焼成温度を1500℃以上1800℃以下、保持時間を2時間以上4時間以下、圧力を20Mpa以上25MPa以下として加圧焼結してもよい。
【0039】
焼結体の少なくとも供給孔を形成する内周面を砥粒流動研磨法を用いて研磨することによって、本開示のガスノズルを得ることができる。具体的には、レオペクチック流体と研磨粒子とを含む粘弾性媒体を供給口側から供給孔の内部に向って加圧しながら導入すればよい。レオペクチック流体とは、加圧すると時間とともに増粘する流体を言う。研磨粒子としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、ステンレス、ガラス等からなる修正モース硬度が12以下である球状粒子を用いればよい。
【0040】
内周面の算術平均粗さRaが、ガスの流入側より流出側に向かって漸減しているガスノズルを得るには、例えば、平均粒径が90μm以上350μm以下である上記球状粒子を用い、粘弾性研磨媒体100体積%における粒子の濃度を2体積%以上16体積%として研磨すればよい。
【0041】
ガスの流入側より流出側に向う算術平均粗さRaの漸減が、指数関数的または1次関数的であるガスノズルを得るには、例えば、平均粒径が150μm以上350μm以下である上記球状粒子を用い、粘弾性研磨媒体100体積%における粒子の濃度を2体積%以上16体積%として研磨すればよい。
【0042】
ガスの流入側における算術平均粗さRaが、2.5μm以下であるガスノズルを得るには、例えば、平均粒径が302.5μm(粒度#60)である酸化アルミニウムの球状粒子を用い、粘弾性研磨媒体100体積%における粒子の濃度を8体積%として、5分以上研磨すればよい。
【0043】
内周面の算術平均粗さRaの歪度Skが0以上であるガスノズルを得るには、例えば、平均粒径が302.5μm(粒度#60)である酸化アルミニウムの球状粒子を用い、粘弾性研磨媒体100体積%における粒子の濃度を8体積%として7分以上研磨すればよい。
【0044】
上述した製造方法で得られる、供給孔を形成する内周面の算術平均粗さRaは、例えば、ガスの流入側(供給孔の供給口近傍)が1.84μm、中央部が0.61μm、ガスの流出側(噴射孔への接続部近傍)が0.56μmである。
【0045】
以上、供給孔を形成する内周面を砥粒流動研磨法によって研磨した場合を示した。しかし、砥粒流動研磨法を用いずに、切削加工を2段階に分けて行ってもよい。この場合、具体的には、上記成形体に、螺旋状の溝が設けられた第1シャンクを有する第1切削工具を用いて供給孔用下穴および噴射孔用下穴を形成する。その後、第2シャンクの先端に、第2シャンクの径よりも大きい径を有する円板状のチップが装着された第2切削工具を用いて少なくとも供給孔用下穴を形成する内周面を切削加工した前駆体を得ればよい。
【0046】
第1シャンクは、供給孔用下穴および噴射孔用下穴の各径に応じて、異なる径のものを用いればよい。第1シャンクは、供給孔用下穴を形成する場合には供給口側から、噴射孔用下穴を形成する場合には噴射口側から、それぞれ挿入すればよい。第2シャンクも供給口側から挿入すればよい。
【0047】
第1シャンクに設けられた螺旋状の溝は、切削屑を排出するためのものである。第2シャンクの径よりも大きい径を有する円板状のチップを装着された第2切削工具を用いることによって、チップの切削加工面とは反対側に切削屑の排出をより効率的に行うための空間が形成されるので、内周面の表面性状は良好になる。
【0048】
2段階の切削加工によって得られた前駆体は、上述した方法で脱脂して焼成することで、焼結体であるガスノズルを得ることができる。必要に応じて、得られたガスノズルの両端面に研削加工を施してもよい。
【0049】
上述した製造方法で得られる、供給孔を形成する内周面の算術平均粗さRaは、例えば、ガスの流入側(供給孔の供給口近傍)が1.92μm、中央部が1.39μm、ガスの流出側(噴射孔への接続部近傍)が1.02μmである。成形体に噴射孔用下穴を切削加工で形成せず、焼結体にホーニング加工、超音波ロータリー加工または研削加工を施して噴射孔を形成してもよい。
【0050】
本開示のガスノズルが単結晶からなる場合、まず、希土類元素の化合物またはイットリウムアルミニウム複合酸化物を主成分とする、円柱状の単結晶インゴットを育成する。単結晶インゴットは、例えばCZ法(チョクラルスキー法、引き上げ法)、FZ(フローティングゾーン)法等の単結晶育成法により形成すればよい。この単結晶インゴットに、ホーニング加工、超音波ロータリー加工または研削加工を施して供給孔および噴射孔を形成した後、少なくとも供給孔を形成する内周面を上述した砥粒流体研磨法を用いて研磨することにより、本開示のガスノズルを得ることができる。
【0051】
上述した製造方法のいずれかによって得られるガスノズルは、ガスの流出側(噴射孔への接続部近傍)で内周面の表面性状に起因するガスの通気抵抗の上昇が抑制される。その結果、内周面を起点とする微細なパーティクルの発生を低減することができる。
【0052】
本開示は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更、改良、組合せ等が可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 プラズマ処理装置
2 反応室
3 ガス導入管
4 ガスノズル
5 基板
6 内部電極
7 基板保持部
8 バイアス電源
9 コイル
10 電源
11 供給孔
12 噴射孔
13 供給口
14 噴射口
15 凹部
16 貯留部