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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-12
(45)【発行日】2022-10-20
(54)【発明の名称】介助装置
(51)【国際特許分類】
   A61G 5/14 20060101AFI20221013BHJP
   A61G 5/12 20060101ALI20221013BHJP
   A61G 7/10 20060101ALI20221013BHJP
【FI】
A61G5/14
A61G5/12
A61G7/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021513111
(86)(22)【出願日】2019-04-11
(86)【国際出願番号】 JP2019015753
(87)【国際公開番号】W WO2020208771
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】株式会社FUJI
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 聡志
(72)【発明者】
【氏名】中根 伸幸
【審査官】内山 隆史
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-000570(JP,A)
【文献】国際公開第2017/134815(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 5/12、5/14
A61G 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被介助者の座位姿勢から起立姿勢への起立動作を介助する介助装置であって、
基台と、
前記基台に対して少なくとも上下方向に動作可能な動作部材と、
前記動作部材に対して所定の取り付け角度で取り付けられ、前記被介助者の上体の前面と接触して前記被介助者を支持する支持部材と、
前記被介助者が前記支持部材に接触する以前の初期状態において、前記取り付け角度を調整する角度調整部と、を備え
前記角度調整部は、側方から見て楔形状であって、前記動作部材に設けられた取り付け座と前記支持部材との間に着脱可能に挿入されるスペーサを含む、
介助装置。
【請求項2】
前記被介助者の肥満の程度に応じて、前記スペーサの挿入個数が可変とされている、請求項に記載の介助装置。
【請求項3】
前記被介助者の肥満の程度に応じて、楔形状の厚みが相違する複数種類の前記スペーサのいずれかが選択されて挿入される、請求項に記載の介助装置。
【請求項4】
被介助者の座位姿勢から起立姿勢への起立動作を介助する介助装置であって、
基台と、
前記基台に対して少なくとも上下方向に動作可能な動作部材と、
前記動作部材に対して所定の取り付け角度で取り付けられ、前記被介助者の上体の前面と接触して前記被介助者を支持する支持部材と、
前記被介助者が前記支持部材に接触する以前の初期状態において、前記取り付け角度を調整する角度調整部と、を備え
前記支持部材は、角度規定部により前記取り付け角度が規定されるとともに、前記取り付け角度を一端とする動作角度範囲内で前記動作部材に対して揺動可能であり、
前記角度調整部は、前記角度規定部を調整して前記取り付け角度を調整する、
介助装置。
【請求項5】
前記角度調整部は、胸囲と比較して相対的に腹囲が大きな肥満体型の前記被介助者に対して、前記支持部材が前記被介助者の胸部に接近するように、または、前記支持部材が前記被介助者の腹部から遠ざかるように前記取り付け角度を調整する、請求項1~4のいずれか一項に記載の介助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、被介助者の起立動作を介助する介助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会の進展に伴い、介助装置のニーズが増大している。介助装置は、一般的に、被介助者の身体の一部を支持した支持部材を動作させて介助を行う。介助装置の導入によって、介助者および被介助者の身体的な負担が軽減されるとともに、介助者の人手不足も緩和される。介助装置の一例として、被介助者の座位姿勢からの起立動作を介助する装置がある。この種の介助装置に関連する技術例が特許文献1、2に開示されている。
【0003】
特許文献1には、基台と、基台に対して少なくとも上下動可能な動作部材と、動作部材に設けられて被介助者の上体を支持する支持部材とを備え、支持部材が下方の使用位置と上方の逃げ位置との間で自由傾動可能に動作部材に設けられた介助装置が開示されている。これによれば、支持部材が自由傾動可能に設けられるので、支持部材が下方の物体に突き当たったときの衝撃が緩和される、とされている。上記した物体には被介助者の脚部が含まれており、被介助者の脚部は、支持部材と基台の間に挟まれない。
【0004】
また、特許文献2には、被介助者を保持する保持具と、保持具の下端部の上下方向位置を維持しつつ変位させて被介助者の背筋を伸ばす延伸手段と、背筋が伸びた被介助者を持ち上げるリフト手段と、を備える介助装置が開示されている。これによれば、保持具の下端部と被介助者の当接位置がずれず、被介助者に不快感を与えない、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/134815号
【文献】特開2013-90842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1、2の構成に限らず一般的に、介助装置は、複数の被介助者に共用される場合が多い。そして、複数の被介助者の様々な体型に適合するように、被介助者を支持する支持部材(保持具)の構成に工夫が凝らされている。例えば、支持部材は、弾性変形可能な材料によって形成され、被介助者の体圧が一箇所に集中しないようになっている。しかしながら、支持部材の構成が被介助者の体型のばらつきに対応しきれず、被介助者の使用快適性が低下する場合がある。特に、胸囲と比較して相対的に腹囲が大きな肥満体型の被介助者は、腹部の圧迫感などを訴える場合が多い。このため、支持部材に関連する構成をさらに改良することが必要である。
【0007】
本明細書では、複数の被介助者の様々な体型に対応して、良好な使用快適性を確保することができる介助装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書は、被介助者の座位姿勢から起立姿勢への起立動作を介助する介助装置であって、基台と、前記基台に対して少なくとも上下方向に動作可能な動作部材と、前記動作部材に対して所定の取り付け角度で取り付けられ、前記被介助者の上体の前面と接触して前記被介助者を支持する支持部材と、前記被介助者が前記支持部材に接触する以前の初期状態において、前記取り付け角度を調整する角度調整部と、を備える介助装置を開示する。
【発明の効果】
【0009】
本明細書で開示する介助装置では、角度調整部により、支持部材の動作部材への取り付け角度が調整可能となっている。このため、複数の被介助者のそれぞれの上体前面の状態に適合するように支持部材の取り付け角度を調整して、各被介助者と支持部材の位置関係を良好にすることができる。これにより、各被介助者は、良好な使用快適性を感じる。したがって、介助装置は、複数の被介助者の様々な体型に対応して、良好な使用快適性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態の介助装置の初期状態を示す側面図である。
図2】角度調整部が、支持部材の取り付け角度を標準体型用角度に調整した場合の側面図である。
図3】角度調整部が、支持部材の取り付け角度を肥満体型用角度に調整した場合の側面図である。
図4】角度調整部の構成を模式的に示す側面部分断面図である。
図5】介助を受ける準備をする標準体型の被介助者と、支持部材との位置関係を模式的に表す側面図である。
図6】介助を受ける準備をする肥満体型の被介助者と、取り付け角度の調整が行われなかった支持部材との位置関係を模式的に表す側面図である。
図7図6に続いて、肥満体型の被介助者が起立動作している状況を表す側面図である。
図8図7の起立動作の後に、肥満体型の被介助者が着座動作している状況を表す側面図である。
図9】介助を受ける準備をする肥満体型の被介助者と、取り付け角度の調整が適切に行われた支持部材との位置関係を模式的に表す側面図である。
図10図9に続いて、肥満体型の被介助者が起立動作している状況を表す側面図である。
図11図10の起立動作の後に、肥満体型の被介助者が着座動作している状況を表す側面図である。
図12】第2実施形態の介助装置の初期状態を示す側面図である。
図13】第2実施形態の角度調整部を概念的に説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.第1実施形態の介助装置1の構成
第1実施形態の介助装置1の構成について、図1図4を参考にして説明する。介助装置1は、例えば、被介助者のベッドと車椅子と間の移乗や、車椅子と便座の間の移乗など、異なる二箇所の間の移乗に利用される。介助装置1は、被介助者の上体を支持して、座位姿勢から起立姿勢への起立動作、および起立姿勢から座位姿勢への着座動作を介助する。
【0012】
ここで、起立姿勢は、臀部が座面から浮いて脚部が伸びた姿勢を意味し、立位姿勢および中腰姿勢を含む。つまり、起立姿勢は、上体が概ね直立した立位姿勢、および上体が前傾した中腰の前かがみの姿勢などを含む。また、介助装置1は、移乗する二箇所が離れている場合に、起立姿勢の被介助者を移送することができる。介助装置1は、基台2、動作部材3、支持部材4、アクチュエータ5、膝当て部材6、位置調整部7、角度調整部8、および図略の制御部などで構成される。
【0013】
基台2は、足載置台21、基台ロッド25、取り付け板26、および前輪28などで形成される。足載置台21は、床面Fに近接して概ね水平に配置される。足載置台21は、被介助者が足を載せる部位である。足載置台21の上面の前側寄りに、アクチュエータ支持部22が上向きに設けられる。左右一対の後輪23は、足載置台21の下面の後部の左右に設けられる。左右一対の中輪24は、足載置台21の下面の前側寄りの左右に設けられる。
【0014】
左右一対の基台ロッド25は、足載置台21の前側の左右にそれぞれ設けられる。基台ロッド25は、前方に延び、さらに上方へ向かって屈曲している。基台ロッド25の屈曲した上部に、左右一対の取り付け板26がそれぞれ垂直に設けられる。左右一対の取り付け板26の上部の前側に、揺動支持座27がそれぞれ設けられる。左右一対の取り付け板26の下部の前側に、左右一対の前輪28が設けられる。前輪28および後輪23の転舵機能により、介助装置1は、直進移動および旋回移動だけでなく、横移動および超信地旋回が可能となっている。さらに、前輪28は、移動を規制するロック機能を備える。
【0015】
左右一対の取り付け板26の上方に、位置調整部7が配置される。位置調整部7は、被介助者の体格などに合わせて、膝当て部材6の前後方向の位置を調整する手動調整機構である。膝当て部材6は、被介助者の膝が当接する部材である。膝当て部材6が膝の位置を定めることにより、被介助者の起立動作や着座動作が安定化する。膝当て部材6は、ベースプレート61、支持ロッド62、硬質緩衝部材63、および軟質緩衝部材64などで形成される。
【0016】
ベースプレート61は、図1に示されるように、垂直方向よりも少しだけ前傾して配置される。また、ベースプレート61は、左右方向に延在し、左右両側が後向きに斜めに屈折している。ベースプレート61の前面の左右に、前向き斜め下方向に延びる一対の支持ロッド62が設けられる。ベースプレート61および支持ロッド62は、アルミなどの金属材料を用いて形成される。
【0017】
硬質緩衝部材63は、ベースプレート61の後側に接して配置される。軟質緩衝部材64は、硬質緩衝部材63の後側に接して配置される。硬質緩衝部材63および軟質緩衝部材64は、ベースプレート61と同様、左右両側が後向きに斜めに屈折している。硬質緩衝部材63および軟質緩衝部材64は、弾性変形可能な材料、例えばウレタンフォームを用いて形成される。ただし、軟質緩衝部材64は、硬質緩衝部材63と比較して低反発性であり、弾性変形しやすい。軟質緩衝部材64の後面に、被介助者の両方の膝が当接する。硬質緩衝部材63および軟質緩衝部材64は、布製や皮製の保護カバー65で覆われている。
【0018】
位置調整部7は、左右一対のスライド支持部71、スライド移動部72、および位置決めピン73で構成される。スライド支持部71は、前後方向に延びる金属製円筒状の部材であり、取り付け板26の上方に固定される。スライド支持部71の後部の上面に、ピン孔74が穿孔されている。スライド移動部72は、前後方向に延びる金属製丸棒状の部材であり、膝当て部材6の支持ロッド62の前側に固定されている。スライド移動部72は、スライド支持部71の内部を前後方向にスライド移動する。スライド移動部72の上面には、前後方向に並ぶ複数の位置決め孔が設けられる。位置決めピン73は、スライド支持部71のピン孔74に挿入され、さらに、スライド移動部72のいずれかの位置決め孔に挿入される。これにより、膝当て部材6の前後方向の位置が調整される。
【0019】
動作部材3は、基台2に対して少なくとも上下方向に動作可能である。動作部材3は、図1に示されるように、側方から見て途中で屈折したアーム形状に形成される。動作部材3の下部に、左右一対の揺動軸32が設けられる。揺動軸32は、取り付け板26の揺動支持座27に揺動可能に支持される。動作部材3の揺動角度範囲を規制するために、図略のストッパ機構が揺動支持座27の近傍に設けられる。これにより、動作部材3は、基台2に対して上前方向および下後方向に揺動可能となっている。動作部材3の上前方向への揺動(図1における時計回りの揺動)は、被介助者の起立動作を介助する。また、動作部材3の下後方向への揺動は、被介助者の着座動作を介助する。
【0020】
動作部材3の内部には、図略のバッテリおよびリンク機構が収納される。バッテリは、アクチュエータ5および制御部の電源となる。なお、本願出願人は、リンク機構の詳細な構成例を国際公開第2018/167856号に開示している。動作部材3の上部の後側に符号略の揺動支持部が設けられ、揺動支持部に揺動部材45が設けられる。揺動部材45は、動作部材3に対して揺動する。ただし、被介助者が支持部材4に接触する以前の初期状態において、揺動部材45は、リンク機構に規制されて揺動しない。
【0021】
図1図3に示されるように、揺動部材45は、後側にベースプレート42を有する。ベースプレート42は、金属製や樹脂製の剛性の大きな板材を用いて概ね矩形に形成される。ベースプレート42は、動作部材3に設けられて支持部材4が取り付けられる取り付け座に相当する。ベースプレート42は、ハンドル46を前面に有する。ハンドル46は、概ね四角形の枠形状に形成され、動作部材3の上方に延在する。ハンドル46は、被介助者が把持する部位であるとともに、介助装置1を移動させるために介助者が把持する部位でもある。
【0022】
支持部材4は、被介助者の上体の前面と接触して被介助者を支持する。支持部材4は、上体支持部材41および左右一対の脇支持部材47を含んで形成される。上体支持部材41は、角度調整部8を介して、ベースプレート42の後面に取り付けられる。なお、図2において、角度調整部8を構成する後述のスペーサ81は用いられていない。上体支持部材41は、初期状態において前傾した取り付け角度となっている。支持部材4の全体は、ベースプレート42および揺動部材45を介して動作部材3の揺動支持部に連結され、揺動支持部を中心にして揺動する。支持部材4の前方への揺動(図1における時計回りの揺動)は、被介助者の起立動作を介助する。また、支持部材4の後方への揺動は、被介助者の着座動作を介助する。
【0023】
図1図4に示されるように、上体支持部材41は、硬質緩衝部材43、および軟質緩衝部材44などで形成される。硬質緩衝部材43は、ベースプレート42に近接して配置される。軟質緩衝部材44は、硬質緩衝部材43の後側に接して配置される。硬質緩衝部材43および軟質緩衝部材44は、弾性変形可能な材料、例えば、ウレタンフォームを用いて形成される。ただし、軟質緩衝部材44は、硬質緩衝部材43と比較して低反発性であり、弾性変形しやすい。軟質緩衝部材44の後面に、被介助者の上体の前面、換言すると胸部から腹部の辺りが接触する。
【0024】
左右一対の脇支持部材47は、ベースプレート42に取り付けられ、上体支持部材41の左右両側に配置される。脇支持部材47は、鈍角に屈曲するL字状に形成される。脇支持部材47は、図略の芯部材および外周部材などで形成される。芯部材は、例えば、金属製または硬質樹脂製の丸棒やパイプが屈曲されて形成される。外周部材は、クッション材を用いて、芯部材の外周を覆う筒状に形成される。脇支持部材47の取り付け側の基端から屈曲位置までの短い直線状部分は肩受け部となり、屈曲位置から先端までの長い直線状部分は脇進入部となる。肩受け部は、被介助者の肩の前面を支持する。脇進入部は、被介助者の脇に進入して上体を支持する。上体支持部材41および脇支持部材47は、布製や皮製の保護カバーで覆われていてもよい。
【0025】
アクチュエータ5は、伸縮アクチュエータであり、本体部51、可動部52、およびモータ53などで構成される。本体部51は、上下に長い太径の円筒状の部材であり、上方に開口する開口部を有する。本体部51の下端は、基台2のアクチュエータ支持部22に支持される。可動部52は、上下に長い細径の丸棒状の部材である。可動部52の上端は、動作部材3のリンク機構に接続される。可動部52の下部は、本体部51の開口部に嵌入している。
【0026】
モータ53は、本体部51の下部の前側に取り付けられる。モータ53は、図略の制御部によって流れる電流の方向が制御され、可動部52の伸び動作および縮み動作を駆動する。モータ53からの駆動により、可動部52は、本体部51に対して伸縮動作する。図1は、可動部52が縮んでアクチュエータ5が短縮長さとなった初期状態を示している。なお、アクチュエータ5は、モータ53に代えて油圧や空気圧を用いた圧力駆動源などの別種の駆動源を用いることができる。
【0027】
アクチュエータ5は、短縮長さから所定の途中長さまで伸びる第一伸び動作、途中長さから伸長長さまで伸びる第二伸び動作、および、伸長長さから途中長さを経て短縮長さまで縮む縮み動作を行う。アクチュエータ5の第一伸び動作は、リンク機構を介して揺動部材45に伝達される。これにより、支持部材4は、揺動部材45とともに前方に揺動する。アクチュエータ5の第二伸び動作は、リンク機構を介して動作部材3に伝達される。これにより、動作部材3は、上前方向に揺動する。アクチュエータ5の縮み動作により、まず動作部材3が下後方向に揺動し、続いて支持部材4が後方に揺動する。
【0028】
図略の制御部は、操作器および制御本体部などで構成される。操作器は、アクチュエータ5を操作する上昇ボタンおよび下降ボタンを有する。操作器は、介助者によって操作される。制御本体部は、CPUを有してソフトウェアで動作するコンピュータ装置を用いて構成される。制御本体部は、上昇ボタンおよび下降ボタンの操作情報に応じて、アクチュエータ5のモータ53に流れる電流の有無、および流れる方向を制御する。これにより、アクチュエータ5の動作および停止、ならびに伸び動作と縮み動作の切り替えが制御される。
【0029】
2.角度調整部8の構成
次に、角度調整部8の構成について詳述する。角度調整部8は、被介助者が支持部材4に接触する以前の初期状態において、動作部材3に対する支持部材4の取り付け角度を調整する。したがって、調整終了後の介助装置1の介助動作の進行に伴う支持部材4の角度変化や、被介助者からの作用による支持部材4の角度変化は、取り付け角度の調整に含まれない。
【0030】
角度調整部8は、側方から見て楔形状であって、動作部材3に設けられた取り付け座と支持部材4との間に着脱可能に挿入されるスペーサ81を含む。図4に示されるように、スペーサ81は、下側が尖り、上側が厚みWを有する楔形状に形成されている。また、スペーサ81は、左右方向に延在して、上体支持部材41と同程度の幅寸法を有する。スペーサ81の有無に関わらず、支持部材4を安定的にベースプレート42に取り付けるため、上体支持部材41の前側の上部および下部に面ファスナー85が設けられる。
【0031】
面ファスナー85は、フック状の起毛を有するフック面86、および、ループ状の起毛を有するループ面87からなる。上部の面ファスナー85において、フック面86およびループ面87の一方は、上体支持部材41からスペーサ81の上方およびベースプレート42の上方を経由し、前方に延在する。また、フック面86およびループ面87の他方は、上体支持部材41からスペーサ81の上方を経由し、ベースプレート42に設けられた貫通穴を通り、前方に延在する。そして、ベースプレート42の前側で、フック面86およびループ面87が屈曲されて相互に重ねられ、密着結合される。
【0032】
下部の面ファスナー85において、フック面86およびループ面87の一方は、上体支持部材41からスペーサ81の下方およびベースプレート42の下方を経由し、前方に延在する。また、フック面86およびループ面87の他方は、上体支持部材41からスペーサ81の下方を経由し、ベースプレート42に設けられた貫通穴を通り、前方に延在する。そして、ベースプレート42の前側で、フック面86およびループ面87が屈曲されて相互に重ねられ、密着結合される。
【0033】
したがって、スペーサ81は、上下の面ファスナー85の間に安定的に保持され、脱落が防止される。加えて、スペーサ81の着脱作業は、上部の面ファスナー85のみを操作すればよいので容易であり、かつ短時間で済む。また、スペーサ81が用いられない場合、支持部材4とベースプレート42の間に隙間が生じないように、上部の面ファスナー85の密着箇所が調整される。さらに、上下の面ファスナー85を開くことにより、上体支持部材41の全体を取り外すことができる。
【0034】
図2は、標準体型の被介助者に対応して、角度調整部8により支持部材4の取り付け角度が標準体型用角度に調整された場合を示している。図示されるように、角度調整部8としてのスペーサ81は用いられていない。なお、本明細書において、標準体型とは、胸囲と腹囲の間に大きな差が無い体型を意味する。
【0035】
一方、図3は、肥満体型の被介助者に対応して、角度調整部8により支持部材4の取り付け角度が肥満体型用角度に調整された場合を示している。図示されるように、ベースプレート42と上体支持部材41の間に、スペーサ81が挿入される。これにより、支持部材4の取り付け角度は、前傾程度が減少して直立方向に近付く。なお、本明細書において、肥満体型とは、胸囲と比較して相対的に腹囲が大きな体型、例えば内臓脂肪型の肥満体型を意味する。したがって、身長と比較して胸囲および腹囲の両方が大きな肥満状態は、肥満体型にあてはまらない。
【0036】
角度調整部8は、スペーサ81を用いるか否かを選択して、支持部材4の2種類の取り付け角度を選択的に調整する。これに限定されず、角度調整部8は、被介助者の肥満の程度に応じて、3種類以上の取り付け角度のいずれかに調整するようにしてもよい。例えば、厚みWが小さなスペーサ81の複数個を予め準備しておくことにより、角度調整部8は、スペーサ81の挿入個数を可変に調整することができる。また例えば、厚みWが相違するスペーサ81の複数個を予め準備しておくことにより、角度調整部8は、いずれかのスペーサ81を選択することができる。
【0037】
3.第1実施形態の介助装置1の動作
次に、第1実施形態の介助装置1の動作について説明する。以降では、被介助者の座位姿勢からの起立動作を介助する場合について説明する。介助者は、まず、アクチュエータ5を短縮長さまで戻して、図1に示される初期状態とする。続いて、介助者は、ハンドル46を把持して介助装置1を移動させ、座位姿勢の被介助者に接近させる。次に、介助者は、角度調整部8を操作し、被介助者の体型に合わせて支持部材4の取り付け角度を調整する。また、介助者は、位置調整部7を操作し、被介助者の体格などに合わせて膝当て部材6を適正な位置に配置する。これにより、介助装置1を使用する準備が整う。
【0038】
被介助者は、下半身を支持部材4の下方の領域に進入させ、両足を足載置台21に載置する。被介助者は、膝を膝当て部材6に当接させることで、安定した姿勢が得られる。続いて、被介助者は、上体を上体支持部材41に寄り付かせて面接触させるとともに、両脇で脇支持部材47にもたれかかって、上体を預ける。このとき、上体支持部材41は起立した方向(図1の反時計回りの方向)に揺動しているので、上体の前傾角度は小さくて済む。また、脇支持部材47がほぼ水平か僅かに後下がりとなるので、被介助者は、脇支持部材47に容易にもたれかかることができる。
【0039】
続いて、介助者は、操作器の上昇ボタンを押して、介助動作を進める。アクチュエータ5が第一伸び動作を行うと、支持部材4は前方に揺動する。この動作は、アクチュエータ5が所定の途中長さまで伸びるまで継続される。このとき、脇支持部材47が前下がりとなるので、被介助者は、後方への移動が規制されて支持部材4から脱落しない。
【0040】
さらに、アクチュエータ5が第二伸び動作を行うと、動作部材3は、上前方向に揺動する。この動作は、動作部材3の揺動がストッパ機構によって規制される終期状態まで継続される。これにより、被介助者は、臀部が座面から大きく上昇して、脚部が伸びた起立姿勢となる。
【0041】
4.角度調整部8の作用
次に、角度調整部8の作用について詳述する。図5は、胸囲K1と腹囲H1の間に大きな差が無い標準体型の被介助者M1が介助を受ける準備をする状況を示している。標準体型の被介助者M1に対し、角度調整部8としてのスペーサ81は不要である。図示されるように、標準体型の被介助者M1の腹部が上体支持部材41の下部に接触するとき、被介助者M1の胸部と上体支持部材41の上部の離間距離L1は小さい。したがって、被介助者M1は、上体をわずかに動かすだけで支持部材4に寄り付ついて、上体を預けることができる。
【0042】
一方、図6は、胸囲K1と比較して相対的に腹囲H2が大きな肥満体型の被介助者M2が介助を受ける準備をする状況を示している。肥満体型の被介助者M2に対して、角度調整部8は、本来スペーサ81を用いて支持部材4の取り付け角度を調整すべきであるが、ここでは取り付け角度を調整しなかった場合(スペーサ81を用いない場合)を想定する。この場合、肥満体型の被介助者M2の腹部が上体支持部材41の下部に接触するとき、被介助者M2の胸部と上体支持部材41の上部の離間距離L2が大きくなる。このため、被介助者M2は、上体を大きく動かさないと支持部材4に寄り付つくことができず、上体を預けることが難しい。つまり、被介助者M2の準備動作時の使用快適性が低下する。
【0043】
また、図7に示されるように、支持部材4および動作部材3の揺動(矢印R1参照)による起立動作時に、肥満体型の被介助者M2の胸部と、上体支持部材41の上部との間に比較的大きな隙間が残る。このため、被介助者M2の体圧が腹部に集中しがちとなる。そして、被介助者M2の腹部は、上体支持部材41の下部から圧迫される(矢印P1参照)。つまり、被介助者M2の起立動作時の使用快適性が低下する。
【0044】
さらに、図8に示されるように、支持部材4および動作部材3の逆方向の揺動(矢印R2参照)による着座動作時に、やはり、肥満体型の被介助者M2の胸部と、上体支持部材41の上部との間に比較的大きな隙間が残る。このため、被介助者M2の腹部は、上体支持部材41の下部によって挟まれるように圧迫される。つまり、被介助者M2の着座動作時の使用快適性が低下する。
【0045】
上記した使用快適性の低下は、角度調整部8が適切に機能しなかったことに起因して発生する。なお、角度調整部8を備えない従来構成の介助装置では、標準体型の被介助者M1を想定して支持部材4の取り付け角度が定められる。このため、肥満体型の被介助者M2が従来構成の介助装置を使用すると、上記した使用快適性の低下がいつも発生する。以降では、角度調整部8が適切に機能した場合の作用について述べる。
【0046】
角度調整部8が適切に機能すると、図3および図9に示されるように、肥満体型の被介助者M2に対して、スペーサ81が用いられる。換言すると、角度調整部8は、支持部材4が被介助者M2の胸部に接近するように調整する。肥満体型の被介助者M2の腹部が支持部材4の下部に接触するとき、被介助者M2の胸部と上体支持部材41の上部の離間距離L3は、図6と比較して小さくなり、または無くなる。詳細には、離間距離L3は、図6の離間距離L2よりも概ねスペーサ81の厚みWの分だけ小さくなる。このため、被介助者M2は、上体をわずかに動かすだけで支持部材4に寄り付ついて、上体を預けることができる。つまり、被介助者M2の準備動作時の使用快適性が良好となる。
【0047】
また、図10に示されるように、支持部材4および動作部材3の揺動(矢印R1参照)による起立動作時に、肥満体型の被介助者M2の胸部と、上体支持部材41の上部との隙間は、図7と比較して小さくなり、または無くなる。このため、被介助者M2の体圧の腹部への集中が抑制される。そして、被介助者M2の腹部が上体支持部材41の下部から受ける圧迫は抑制される。つまり、被介助者M2の起立動作時の使用快適性が良好となる。
【0048】
さらに、図11に示されるように、支持部材4および動作部材3の逆方向の揺動(矢印R2参照)による着座動作時に、やはり、肥満体型の被介助者M2の胸部と、上体支持部材41の上部との隙間は、図8と比較して小さくなり、または無くなる。このため、被介助者M2の腹部が上体支持部材41の下部によって挟まれる圧迫は抑制される。つまり、被介助者M2の着座動作時の使用快適性が良好となる。
【0049】
第1実施形態の介助装置1では、角度調整部8により、支持部材4の動作部材3への取り付け角度が調整可能となっている。このため、複数の被介助者(M1、M2)のそれぞれの上体前面の状態に適合するように支持部材4の取り付け角度を調整して、各被介助者(M1、M2)と支持部材4の位置関係を良好にすることができる。これにより、各被介助者(M1、M2)は、良好な使用快適性を感じる。したがって、介助装置1は、複数の被介助者(M1、M2)の様々な体型に対応して、良好な使用快適性を確保することができる。
【0050】
5.第2実施形態の介助装置1A
次に、第2実施形態の介助装置1Aについて、第1実施形態と異なる点を主にして説明する。図12に示されるように、第2実施形態の介助装置1Aは、基台2A、動作部材に相当する昇降部材3Aおよびアーム部材3B、支持部材4A、角度調整部8A(図13参照)、および図略の制御部などで構成される。基台2Aは、床面Fに平行配置される足載置台21、左右一対の後輪23、および左右一対の前輪28を備える。基台2Aの上面の前輪28の間に、支柱29が立設されている。支柱29の下部から後方に向けて、膝当て部材6Aが高さ調整可能に設けられる。
【0051】
昇降部材3Aは、支柱29の後面に設けられ、図略の直動装置によって昇降駆動される。昇降部材3Aの後側の上部に、アーム部材3Bが設けられる。アーム部材3Bは、図略の駆動装置に駆動されて、上前方向および下後方向に揺動する。アーム部材3Bは、概ね四角形の枠形状に形成されたハンドル46Aを有する。ハンドル46Aの取り付け位置は調整可能とされている。アーム部材3Bの後端に、揺動支持部33が設けられる。
【0052】
上体支持部材41および左右一対の脇支持部材47を有する支持部材4Aは、揺動支持部33に揺動可能に取り付けられる。支持部材4Aの初期状態における取り付け角度は、図13に示されるように、ハンドル46Aの下部によって規定される。つまり、支持部材4Aは、自重の作用により揺動支持部33の周りを下方に揺動してハンドル46Aに当接した取り付け位置で安定する。したがって、ハンドル46Aは、支持部材4Aの取り付け角度を規定する角度規定部を兼ねている。これに限定されず、専用の角度規定部が設けられてもよい。
【0053】
支持部材4Aは、取り付け角度を一端とする動作角度範囲内で、アーム部材3Bに対して揺動可能である。したがって、被介助者の脚部が下方から支持部材4Aに衝突したとき、支持部材4Aは、図示された取り付け角度の位置から上方の逃げ位置に自由揺動する(図13の矢印R3参照)。このため、被介助者の脚部は、支持部材4Aと基台2Aの間に挟まれない。
【0054】
角度調整部8Aは、図13に実線で示されるハンドル46Aの標準体型用位置を、破線で示される肥満体型用位置に調整する。これにより、支持部材4Aの取り付け角度は、直立方向に近づく。つまり、角度調整部8は、支持部材4Aが肥満体型の被介助者M2の腹部から遠ざかるように調整する。なお、角度調整部8Aは、上体支持部材41だけでなく脇支持部材47の取り付け角度を併せて調整している。第2実施形態の角度調整部8Aの作用は、図9図11を用いて説明した第1実施形態の作用と同様である。
【0055】
6.実施形態の変形および応用
なお、支持部材(4、4A)の構造は変形可能であり、変形に応じてスペーサ81の形状および挿入箇所を変更することが可能である。また、角度調整部(8、8A)は、第1および第2実施形態の態様に限定されない。例えば、アクチュエータを使用した角度調整機構により、角度調整部を構成することができる。さらに、動作部材3(昇降部材3A、アーム部材3Bを含む)および支持部材(4、4A)の動作は、説明した態様に限定されず、例えば、動作部材によって支持部材が単純に上下動するだけの態様でもよい。その他にも、本実施形態は、様々な変形や応用が可能である。
【符号の説明】
【0056】
1、1A:介助装置 2、2A:基台 3:動作部材 3A:昇降部材 3B:アーム部材 4、4A:支持部材 41:上体支持部材 46A:ハンドル(角度規定部) 5:アクチュエータ 6、6A:膝当て部材 7:位置調整部 8、8A:角度調整部 81:スペーサ 85:面ファスナー M1:標準体型の被介助者 M2:肥満体型の被介助者
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13