(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-12
(45)【発行日】2022-10-20
(54)【発明の名称】樹脂組成物、樹脂組成物の製造方法及び絶縁電線
(51)【国際特許分類】
C08L 79/08 20060101AFI20221013BHJP
C08K 5/23 20060101ALI20221013BHJP
C08K 9/10 20060101ALI20221013BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20221013BHJP
H01B 3/30 20060101ALI20221013BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20221013BHJP
【FI】
C08L79/08
C08K5/23
C08K9/10
C08G73/10
H01B3/30 G
H01B7/02 Z
(21)【出願番号】P 2021528585
(86)(22)【出願日】2019-06-20
(86)【国際出願番号】 JP2019024609
(87)【国際公開番号】W WO2020255360
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2021-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】309019534
【氏名又は名称】住友電工ウインテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 秀明
(72)【発明者】
【氏名】山内 雅晃
(72)【発明者】
【氏名】菅原 潤
(72)【発明者】
【氏名】古屋 雄大
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健吾
(72)【発明者】
【氏名】畑中 悠史
【審査官】岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-059379(JP,A)
【文献】特開平06-102667(JP,A)
【文献】特開2018-154129(JP,A)
【文献】特開2009-244479(JP,A)
【文献】特開2004-285129(JP,A)
【文献】特開2011-133699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 79/08
C08K 5/23
C08K 9/10
C08G 73/10
H01B 3/30
H01B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミック酸と溶媒とを含有する樹脂組成物であって、
上記ポリアミック酸が分子鎖中に下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有し、
上記分子鎖の一端又は両端が下記一般式(2)で表される構造であり、
下記一般式(1)で表される繰り返し単位1モルに対する下記一般式(2)で表される構造の割合が0.001モル以上0.1モル以下であ
り、
上記ポリアミック酸の重量平均分子量が15,000以上である樹脂組成物。
【化1】
(上記一般式(1)中、R
1は4価の有機基である。R
2は2価の有機基である。)
【化2】
(上記一般式(2)中、R
1は上記一般式(1)中のR
1と同義である。上記一般式(2)中のR
1は上記一般式(1)中のR
1と同一であってもよく又は異なってもよい。R
3は炭素数15以下の有機基である。上記分子鎖の両端が上記一般式(2)の構造である場合、2つのR
1及び2つのR
3はそれぞれ同一であってもよく又は異なってもよい。*は上記分子鎖中の一般式(2)で表される構造とは異なる部分との結合部位を示す。)
【請求項2】
上記ポリアミック酸の数平均分子量に対する重量平均分子量の比が2.3以下である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
上記ポリアミック酸の数平均分子量が8,000以上である請求項1
又は請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
上記ポリアミック酸が上記R
1がベンゼン-1,2,4,5-テトライル基である繰り返し単位の重合体である請求項1から
請求項3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
上記ポリアミック酸が上記R
1がベンゼン-1,2,4,5-テトライル基である繰り返し単位と、上記R
1がビフェニル-3,3’,4,4’-テトライル基である繰り返し単位との共重合体である請求項1から
請求項3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
上記R
1がベンゼン-1,2,4,5-テトライル基である繰り返し単位と上記R
1がビフェニル-3,3’,4,4’-テトライル基である繰り返し単位との平均モル比が、2:8以上4:6以下である
請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
上記分子鎖の両端がアミノ基であるポリアミック酸及び遊離ジアミン化合物
が含まれない請求項1から
請求項6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
上記ポリアミック酸の濃度が25質量%以上である請求項1から
請求項7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
上記溶媒が非プロトン性極性溶媒である請求項1から
請求項8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
空孔形成剤を含有する請求項1から
請求項9のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
上記空孔形成剤が化学発泡剤である
請求項10に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
上記空孔形成剤が熱膨張剤を含む芯材と上記芯材を包む外殻とを有する熱膨張性マイクロカプセルである
請求項10に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
上記芯材の
最も含有量の多い成分がアゾビスイソブチロニトリル又はアゾジカルボジアミドである
請求項12に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
上記外殻の
最も含有量の多い成分が塩化ビニリデン―アクリロニトリル共重合体である
請求項12又は請求項13に記載の樹脂組成物。
【請求項15】
上記空孔形成剤がコアシェル構造の中空形成粒子である
請求項10に記載の樹脂組成物。
【請求項16】
上記中空形成粒子のコアが熱分解性樹脂を
最も含有量の多い成分とし、
上記中空形成粒子のシェルの
最も含有量の多い成分の熱分解温度が上記熱分解性樹脂の熱分解温度より高い
請求項15に記載の樹脂組成物。
【請求項17】
上記中空形成粒子のシェルの
最も含有量の多い成分がシリコーンである
請求項16に記載の樹脂組成物。
【請求項18】
上記空孔形成剤が上記溶媒より沸点の高い高沸点溶媒である
請求項10に記載の樹脂組成物。
【請求項19】
上記高沸点溶媒の沸点が180℃以上300℃以下である
請求項18に記載の樹脂組成物。
【請求項20】
熱分解性樹脂を含有する請求項1から
請求項9のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項21】
上記熱分解性樹脂が(メタ)アクリル系重合体の架橋物である
請求項20に記載の樹脂組成物。
【請求項22】
上記熱分解性樹脂が球状の樹脂粒子であり、
上記樹脂粒子の平均粒子径が0.1μm以上50μm以下である
請求項20又は請求項21に記載の樹脂組成物。
【請求項23】
中空フィラーを含有する請求項1から
請求項9のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項24】
上記中空フィラーが有機樹脂バルーン、ガラスバルーン又はそれらの組み合わせである
請求項23に記載の樹脂組成物。
【請求項25】
ポリアミック酸と溶媒とを含有し、上記ポリアミック酸が、分子鎖中に下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有し、上記分子鎖の一端又は両端が下記一般式(2)で表される構造である樹脂組成物の製造方法であって、
下記一般式(3)で表される酸二無水物及び下記一般式(4)で表されるジアミン化合物を、非プロトン性極性溶媒及び反応制御剤の存在下で重合する工程を備え、
上記重合する工程で、上記反応制御剤の含有量を、上記酸二無水物100モルに対して0.1モル以上300モル以下と
し、上記ポリアミック酸の重量平均分子量を15,000以上とする樹脂組成物の製造方法。
【化3】
(上記一般式(1)中、R
1は4価の有機基である。R
2は2価の有機基である。)
【化4】
(上記一般式(2)中、R
1は上記一般式(1)中のR
1と同義である。上記一般式(2)中のR
1は上記一般式(1)中のR
1と同一であってもよく又は異なってもよい。R
3は炭素数15以下の有機基である。上記分子鎖の両端が上記一般式(2)の構造である場合、2つのR
1及び2つのR
3はそれぞれ同一であってもよく又は異なってもよい。*は上記分子鎖中の一般式(2)で表される構造とは異なる部分との結合部位を示す。)
【化5】
(上記一般式(3)中、R
1は上記一般式(1)中のR
1と同義である。)
【化6】
(上記一般式(4)中、R
2は上記一般式(1)中のR
2と同義である。)
【請求項26】
上記重合する工程で、上記酸二無水物及び上記ジアミン化合物
のモル量の比を99:101以上101:99以下とする
請求項25に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項27】
上記R
1がベンゼン-1,2,4,5-テトライル基である
請求項25又は請求項26に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項28】
上記R
1がベンゼン-1,2,4,5-テトライル基及びビフェニル-3,3’,4,4’-テトライル基である
請求項25又は請求項26に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項29】
上記R
1がベンゼン-1,2,4,5-テトライル基である酸二無水物と上記R
1がビフェニル-3,3’,4,4’-テトライル基である酸二無水物とのモル比が、2:8以上4:6以下である
請求項28に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項30】
上記重合する工程後の反応混合物に、空孔形成剤を分散させる工程を備える
請求項25から請求項29のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項31】
上記重合する工程後の反応混合物に、熱分解性樹脂を混合する工程を備える
請求項25から請求項29のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項32】
上記重合する工程後の反応混合物に、中空フィラーを分散させる工程を備える
請求項25から請求項29のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項33】
線状の導体と、上記導体を直接又は他の層を介して被覆する絶縁層とを有する絶縁電線であって、
上記絶縁層が請求項1に記載の樹脂組成物により形成されている絶縁電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂組成物、樹脂組成物の製造方法及び絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
電線の絶縁被覆等に用いられる樹脂組成物(ワニス)の塗膜物性を悪化させずに、ワニスに含まれるポリアミック酸の分子量を制御する方法として、酸二無水物1モルに対し0.99モル未満のジアミン化合物を反応させた後、アルコールにより個々の分子末端を封止し、さらに酸二無水物と等量となるようにジアミン化合物を添加する方法が開示されている(特開平9-59379号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様に係る樹脂組成物は、ポリアミック酸と溶媒とを含有する樹脂組成物であって、上記ポリアミック酸が分子鎖中に下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有し、上記分子鎖の一端又は両端が下記一般式(2)で表される構造であり、下記一般式(1)で表される繰り返し単位1モルに対する下記一般式(2)で表される構造の割合が0.001モル以上0.1モル以下である。
【化1】
(上記一般式(1)中、R
1は4価の有機基である。R
2は2価の有機基である。)
【化2】
(上記一般式(2)中、R
1は上記一般式(1)中のR
1と同義である。上記一般式(2)中のR
1は上記一般式(1)中のR
1と同一であってもよく又は異なってもよい。R
3は炭素数15以下の有機基である。上記分子鎖の両端が上記一般式(2)の構造である場合、2つのR
1及び2つのR
3はそれぞれ同一であってもよく又は異なってもよい。*は上記分子鎖中の一般式(2)で表される構造とは異なる部分との結合部位を示す。)
【発明を実施するための形態】
【0005】
[本開示が解決しようとする課題]
特許文献1に記載の方法ではワニス合成が多段階となるため、ポリアミック酸を含有する樹脂組成物の生産性が劣る。また、特許文献1に記載の方法で製造された樹脂組成物は、分子量が比較的低く、絶縁電線等の製造効率を高めるために高濃度化することが難しい。
【0006】
本開示は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、硬化後の塗膜物性に優れ生産性の高い高濃度のポリアミック酸を含有する樹脂組成物の提供を目的とする。
【0007】
[本開示の効果]
本開示の樹脂組成物は、硬化後の塗膜物性に優れ生産性が高く、高濃度化が可能である。従って、当該樹脂組成物は、絶縁電線の絶縁層の形成に好適に用いることができる。
【0008】
[本開示の実施形態の説明]
本開示の一態様に係る樹脂組成物は、ポリアミック酸と溶媒とを含有する樹脂組成物であって、上記ポリアミック酸が分子鎖中に下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有し、上記分子鎖の一端又は両端が下記一般式(2)で表される構造であり、下記一般式(1)で表される繰り返し単位1モルに対する下記一般式(2)で表される構造の割合が0.001モル以上0.1モル以下である。
【化3】
(上記一般式(1)中、R
1は4価の有機基である。R
2は2価の有機基である。)
【化4】
(上記一般式(2)中、R
1は上記一般式(1)中のR
1と同義である。上記一般式(2)中のR
1は上記一般式(1)中のR
1と同一であってもよく又は異なってもよい。R
3は炭素数15以下の有機基である。上記分子鎖の両端が上記一般式(2)の構造である場合、2つのR
1及び2つのR
3はそれぞれ同一であってもよく又は異なってもよい。*は上記分子鎖中の一般式(2)で表される構造とは異なる部分との結合部位を示す。)
【0009】
当該樹脂組成物は、繰り返し単位1モルに対する上記一般式(2)で表される構造の割合を上記範囲内とすることにより、高分子量のポリアミック酸を容易に得ることができる。従って、当該樹脂組成物は、容易かつ確実に高濃度化することができる。また、当該樹脂組成物は、一段階の反応工程で得られるため生産性が高い。
【0010】
ここで、「有機基」とは、少なくとも1個の炭素原子を含む基をいう。また、「繰り返し単位1モルに対する上記一般式(2)で表される構造の割合」は以下のようにして求められる量である。まず、樹脂組成物をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)で希釈し、スターラーで撹拌させながらアセトン中に滴下する。これにより得られた固形分を回収し、真空下で12時間以上乾燥させる。上記固形分を約30mg取り、ジメチルスルホキシド-d6(DMSO-d6)に溶解させ、1H NMRにより定量モードで測定し、スペクトルを得る。なお、測定条件としては、Flip Angle=13.0μs、PD=70s、積算回数=64回、室温(25℃)とする。次に、得られた上記スペクトルに現れるベンゼン環に由来するプロトン数(Aとする)と、上記スペクトルに現れるR3に由来するプロトン数(Bとする)とを求める。上記繰り返し単位1モル当たりの上記スペクトルに現れるプロトン数及び上記一般式(2)で表される構造の1モル当たりの上記スペクトルに現れるプロトン数は算出可能であるから(それぞれNA[モル]、NB[モル]とする)、このNA及びNBを用いて、繰り返し単位1モルに対する上記一般式(2)で表される構造の割合は、(B/NB)/(A/NA)で求められる。
【0011】
上記ポリアミック酸の数平均分子量に対する重量平均分子量の比としては、2.3以下が好ましい。このように上記比を上記上限以下とすることで、ポリアミック酸の分子量の分散が低くなるので、当該樹脂組成物を硬化させる際に高分子量体を容易に得ることができる。従って、硬化後の塗膜物性を向上できる。ここで、「重量平均分子量」、「数平均分子量」とは、JIS-K7252-1:2008「プラスチック-サイズ排除クロマトグラフィーによる高分子の平均分子量及び分子量分布の求め方-第1部:通則」に準拠し、ゲル浸透クロマトグラフィーによりポリスチレン換算で測定した値をいう。
【0012】
上記ポリアミック酸の重量平均分子量としては、15,000以上が好ましい。このように上記ポリアミック酸の重量平均分子量を上記下限以上とすることで、例えば絶縁電線の絶縁層を形成する際の被膜伸びを確保し易くできる。
【0013】
上記ポリアミック酸の数平均分子量としては、8,000以上が好ましい。このように上記ポリアミック酸の数平均分子量を上記下限以上とすることで、機械強度に優れる絶縁層を得ることができるとともに、高熱環境下においても絶縁層の皮膜強度を確保し易くできる。
【0014】
上記ポリアミック酸が上記R1がベンゼン-1,2,4,5-テトライル基である繰り返し単位の重合体であるとよい。このように上記ポリアミック酸を上記重合体とすることで、硬化後の耐熱性が向上する。
【0015】
上記ポリアミック酸が上記R1がベンゼン-1,2,4,5-テトライル基である繰り返し単位と、上記R1がビフェニル-3,3’,4,4’-テトライル基である繰り返し単位との共重合体であるとよい。このように上記ポリアミック酸を上記共重合体とすることで、硬化後の耐熱性及び耐湿熱劣化性が向上する。
【0016】
上記R1がベンゼン-1,2,4,5-テトライル基である繰り返し単位と上記R1がビフェニル-3,3’,4,4’-テトライル基である繰り返し単位との平均モル比としては、2:8以上4:6以下が好ましい。このように上記平均モル比を上記範囲内とすることで、硬化後の耐熱性及び耐湿熱劣化性をさらに向上させることができる。ここで、「平均モル比」とは、樹脂組成物全体におけるR1がベンゼン-1,2,4,5-テトライル基である繰り返し単位と上記R1がビフェニル-3,3’,4,4’-テトライル基である繰り返し単位との比をいう。ここで、上記平均モル比は、1H NMRにより定量モードで測定したスペクトルを解析して決定することができる。
【0017】
上記分子鎖の両端がアミノ基であるポリアミック酸及び遊離ジアミン化合物が実質的に含まれないとよい。このように分子鎖の両端がアミノ基であるポリアミック酸及び遊離ジアミン化合物を含めないことで、硬化時の耐熱性の低下を抑止できる。なお、「遊離ジアミン化合物」とは、樹脂組成物中に含まれる未反応のジアミン化合物を指す。
【0018】
上記ポリアミック酸の濃度としては、25質量%以上が好ましい。このように上記ポリアミック酸の濃度を上記下限以上とすることにより、絶縁層を形成する樹脂組成物として当該樹脂組成物を使用する際の作業性が向上する。ここで、「ポリアミック酸の濃度」とは、樹脂組成物を250℃で2時間乾燥させ、乾燥前の質量Wb及び乾燥後の質量Waから、Wa/Wb×100[質量%]で算出した濃度をいう。
【0019】
上記溶媒が非プロトン性極性溶媒であるとよい。この非プロトン性極性溶媒は、ポリアミック酸の原料となる酸二無水物及びジアミン化合物と反応せず、上記ポリアミック酸に対して好適な溶媒として機能できる。
【0020】
当該樹脂組成物は、空孔形成剤を含有するとよい。このように空孔形成剤を含有させることで、絶縁層を形成する樹脂組成物として用いた際、絶縁層に気孔を含めることができる。このため、絶縁層の低誘電率化を実現でき、コロナ放電開始電圧が向上する。従って、絶縁層の絶縁破壊を発生し難くすることができる。
【0021】
上記空孔形成剤が化学発泡剤であるとよい。このように上記空孔形成剤を化学発泡剤とすることで、硬化時に容易に気孔を形成することができる。
【0022】
上記空孔形成剤が熱膨張剤を含む芯材と上記芯材を包む外殻とを有する熱膨張性マイクロカプセルであるとよい。このように上記空孔形成剤を熱膨張性マイクロカプセルとすることで、気孔の大きさの制御性を高められる。
【0023】
上記芯材の主成分としては、アゾビスイソブチロニトリル及びアゾジカルボジアミドが好ましい。アゾビスイソブチロニトリル及びアゾジカルボジアミドは、加熱によりN2ガスを発生するので、熱膨張性マイクロカプセルの化学的安定性を維持しつつ、熱膨張させることができる。ここで、「主成分」とは、最も含有量の多い成分であり、例えば50質量%以上含有される成分である。
【0024】
上記外殻の主成分としては、塩化ビニリデン―アクリロニトリル共重合体が好ましい。塩化ビニリデン―アクリロニトリル共重合体は延伸性に優れ、熱膨張性マイクロカプセルの膨張時に破断することなく膨張し、発生したガスを包含するマイクロバルーンを形成し易い。
【0025】
上記空孔形成剤がコアシェル構造の中空形成粒子であるとよい。コアシェル構造の中空形成粒子は、当該樹脂組成物の硬化後にコアの熱分解により得られる気孔及び外殻を備えるため、気孔の形成時にも気孔の連通が抑制される。このため、絶縁層を形成する樹脂組成物として用いた際、絶縁層の絶縁破壊電圧を高め易い。ここで、「コアシェル構造」とは、粒子のコアを形成する材料とコアの周囲を取り囲むシェルの材料が異なる構造をいう。
【0026】
上記中空形成粒子のコアが熱分解性樹脂を主成分とし、上記中空形成粒子のシェルの主成分の熱分解温度が上記熱分解性樹脂の熱分解温度より高いとよい。このように上記中空形成粒子を構成することで、加熱により内部が中空となった外殻のみで構成される中空粒子とできるので、気孔を容易に形成することができる。ここで、「熱分解温度」とは、窒素雰囲気下で室温から10℃/分で昇温し、質量減少率が50%となるときの温度を意味する。
【0027】
上記中空形成粒子のシェルの主成分がシリコーンであるとよい。このように中空形成粒子のシェルの主成分をシリコーンとすることで、シェルに弾性を付与すると共に絶縁性及び耐熱性を向上させ易く、その結果、中空形成粒子による独立気孔がより維持され易くなる。
【0028】
上記空孔形成剤が上記溶媒より沸点の高い高沸点溶媒であるとよい。このように上記空孔形成剤を高沸点溶媒とすることで、硬化時に容易に気孔を形成することができる。
【0029】
上記高沸点溶媒の沸点としては、180℃以上300℃以下が好ましい。このように上記高沸点溶媒の沸点を上記範囲内とすることで、気孔の大きさの制御性を高められる。
【0030】
当該樹脂組成物は、熱分解性樹脂を含有するとよい。このように熱分解性樹脂を含有させることで、絶縁層を形成する樹脂組成物として用いた際、硬化時の加熱により上記熱分解性樹脂が熱分解し、絶縁層の形成時に熱分解性樹脂が存在していた部分に気孔を容易に形成することができる。
【0031】
上記熱分解性樹脂が(メタ)アクリル系重合体の架橋物であるとよい。(メタ)アクリル系重合体は、ポリアミック酸の海相に微小粒子の島相となって均等分布し易い。また、架橋物とすることで、ポリアミック酸との相溶性に優れると共に、球状にまとまり易い。従って、上記熱分解性樹脂を(メタ)アクリル系重合体の架橋物とすることで、硬化後に球状の気孔を均等に分布させることができる。
【0032】
上記熱分解性樹脂が球状の樹脂粒子であるとよく、上記樹脂粒子の平均粒子径としては、0.1μm以上50μm以下が好ましい。上記樹脂粒子の平均粒子径を上記範囲内とすることで、均一な分布の気孔が得易い。ここで、「平均粒子径」とは、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した粒度分布において、最も高い体積の含有割合を示す粒子径を意味する。
【0033】
当該樹脂組成物は、中空フィラーを含有するとよい。このように中空フィラーを含有させることで、絶縁層を形成する樹脂組成物として用いた際、この中空フィラーの内部の空洞部分が気孔となる。また、得られる絶縁層の可撓性及び機械的強度が制御し易い。
【0034】
上記中空フィラーが有機樹脂バルーン、ガラスバルーン又はそれらの組み合わせであるとよい。有機樹脂バルーンは、得られる絶縁層の可撓性を高め易い。また、ガラスバルーンは、得られる絶縁層の機械的強度を高め易い。従って、上記中空フィラーを有機樹脂バルーン、ガラスバルーン又はそれらの組み合わせとすることで、得られる絶縁層の可撓性及び機械的強度の制御性を高められる。
【0035】
本開示の別の一態様に係る樹脂組成物の製造方法は、ポリアミック酸と溶媒とを含有し、上記ポリアミック酸が、分子鎖中に下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有し、上記分子鎖の一端又は両端が下記一般式(2)で表される構造である樹脂組成物の製造方法であって、下記一般式(3)で表される酸二無水物及び下記一般式(4)で表されるジアミン化合物を、非プロトン性極性溶媒及び反応制御剤の存在下で重合する工程を備え、上記重合する工程で、上記反応制御剤の含有量を、上記酸二無水物100モルに対して0.1モル以上300モル以下とする。
【化5】
(上記一般式(1)中、R
1は4価の有機基である。R
2は2価の有機基である。)
【化6】
(上記一般式(2)中、R
1は上記一般式(1)中のR
1と同義である。上記一般式(2)中のR
1は上記一般式(1)中のR
1と同一であってもよく又は異なってもよい。R
3は炭素数15以下の有機基である。上記分子鎖の両端が上記一般式(2)の構造である場合、2つのR
1及び2つのR
3はそれぞれ同一であってもよく又は異なってもよい。*は上記分子鎖中の一般式(2)で表される構造とは異なる部分との結合部位を示す。)
【化7】
(上記一般式(3)中、R
1は上記一般式(1)中のR
1と同義である。)
【化8】
(上記一般式(4)中、R
2は上記一般式(1)中のR
2と同義である。)
【0036】
当該樹脂組成物の製造方法は、非プロトン性極性溶媒及び反応制御剤の存在下、酸二無水物及びジアミン化合物を重合するので、製造を一工程で行うことができ、生産性が高い。また、当該樹脂組成物の製造方法は、分子鎖末端を適量の反応制御剤に由来するR3を含む上記一般式(2)で表される構造で封止する。このため、当該樹脂組成物の製造方法では、ポリアミック酸の分子量を容易に制御しつつ、分子量を高めることができる。
【0037】
上記重合する工程で、上記酸二無水物及び上記ジアミン化合物を実質的に等モル量とするとよい。このように上記重合する工程で、上記酸二無水物及び上記ジアミン化合物を実質的に等モル量とすることで、ポリアミック酸の分子量をさらに高めることができる。ここで、「実質的に等モル量」とは、両者の比が99:101以上101:99以下、好ましくは99.9:100.1以上100.1:99.9以下の範囲をいう。
【0038】
上記R1がベンゼン-1,2,4,5-テトライル基であるとよい。このように上記R1をベンゼン-1,2,4,5-テトライル基とすることで、得られる樹脂組成物の硬化後の耐熱性を向上できる。
【0039】
上記R1がベンゼン-1,2,4,5-テトライル基及びビフェニル-3,3’,4,4’-テトライル基であるとよい。このように上記R1をベンゼン-1,2,4,5-テトライル基及びビフェニル-3,3’,4,4’-テトライル基とすることで、ポリアミック酸として、上記R1がベンゼン-1,2,4,5-テトライル基である繰り返し単位と、上記R1がビフェニル-3,3’,4,4’-テトライル基である繰り返し単位との共重合体が得られる。上記ポリアミック酸を上記共重合体とすることで、得られる樹脂組成物の硬化後の耐熱性及び耐湿熱劣化性を向上できる。
【0040】
上記R1がベンゼン-1,2,4,5-テトライル基である酸二無水物と上記R1がビフェニル-3,3’,4,4’-テトライル基である酸二無水物とのモル比としては、2:8以上4:6以下が好ましい。上記モル比を上記範囲内とすることで、得られる樹脂組成物の硬化後の耐熱性及び耐湿熱劣化性をさらに向上させることができる。
【0041】
上記重合する工程後の反応混合物に、空孔形成剤を分散させる工程を備えるとよい。このように得られる樹脂組成物に空孔形成剤を含めることで、絶縁層を形成する樹脂組成物として用いた際、絶縁層に気孔を含めることができる。このため、絶縁層の低誘電率化を実現でき、コロナ放電開始電圧が向上する。従って、絶縁層の絶縁破壊を発生し難くすることができる。
【0042】
上記重合する工程後の反応混合物に、熱分解性樹脂を混合する工程を備えるとよい。このように得られる樹脂組成物に熱分解性樹脂を含めることで、絶縁層を形成する樹脂組成物として用いた際、硬化時の加熱により上記熱分解性樹脂が熱分解し、絶縁層の形成時に熱分解性樹脂が存在していた部分に気孔を容易に形成することができる。
【0043】
上記重合する工程後の反応混合物に、中空フィラーを分散させる工程を備えるとよい。このように得られる樹脂組成物に中空フィラーを含めることで、絶縁層を形成する樹脂組成物として用いた際、得られる絶縁層の可撓性及び機械的強度が制御し易い。
【0044】
また、本開示のさらに別の一態様に係る絶縁電線は、線状の導体と、上記導体を直接又は他の層を介して被覆する絶縁層とを有する絶縁電線であって、上記絶縁層が本開示の樹脂組成物により形成されている。
【0045】
当該絶縁電線は、当該樹脂組成物により形成された絶縁層を有しているので、生産性が高く、絶縁層の皮膜伸びに優れる。
【0046】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示に係る樹脂組成物、樹脂組成物の製造方法及び絶縁電線の実施形態について詳説する。
【0047】
〔第1実施形態〕
<樹脂組成物>
当該樹脂組成物は、ポリアミック酸と溶媒とを含有する樹脂組成物である。また、当該樹脂組成物は、空孔形成剤を含有する。
【0048】
当該樹脂組成物の30℃における粘度の下限としては、10,000cpsが好ましく、15,000cpsがより好ましく、21,000cpsがさらに好ましい。また、当該樹脂組成物の30℃における粘度の上限としては、100,000cpsが好ましく、80,000cpsがより好ましい。当該樹脂組成物の30℃における粘度が上記下限未満であると、当該樹脂組成物を均一に塗布することが困難となり、絶縁電線の被覆が不十分となるおそれがある。一方、当該樹脂組成物の30℃における粘度が上記上限を超えると、当該樹脂組成物の塗工が困難となるおそれがある。なお、当該樹脂組成物の粘度は、後述する当該樹脂組成物の製造方法で、反応制御剤の量と、酸二無水物及びジアミン化合物の反応時の反応温度とを調整することで制御できる。
【0049】
当該樹脂組成物は、上記分子鎖の両端がアミノ基であるポリアミック酸及び遊離ジアミン化合物が実質的に含まれないとよい。このように当該樹脂組成物に分子鎖の両端がアミノ基であるポリアミック酸及び遊離ジアミン化合物を含めないことで、硬化時の耐熱性の低下を抑止できる。
【0050】
(ポリアミック酸)
上記ポリアミック酸は、分子鎖中に下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有し、上記分子鎖の一端又は両端が下記一般式(2)で表される構造である。
【化9】
【化10】
【0051】
上記一般式(1)及び上記一般式(2)中、R1は4価の有機基である。上記R1としては、例えばベンゼン-1,2,4,5-テトライル基、ビフェニル-3,3’,4,4’-テトライル基、ベンゾフェノン-2,2’,3,3’-テトライル基、ベンゾフェノン-3,3’,4,4’-テトライル基、ジフェニルエーテル-3,3’,4,4’-テトライル基、2,2-ジフェニルプロパン-3,3’,4,4’-テトライル基、2,2-ジフェニルプロパン-2,2’,3,3’-テトライル基、1,1-ジフェニルエタン-3,3’,4,4’-テトライル基、1,1-ジフェニルエタン-2,2’,3,3’-テトライル基、ジフェニルメタン-3,3’,4,4’-テトライル基、ジフェニルメタン-2,2’,3,3’-テトライル基、ジフェニルスルホン-3,3’,4,4’-テトライル基、ナフタレン-1,2,5,6-テトライル基、ナフタレン-2,3,6,7-テトライル基などを挙げることができる。これらの中でも、耐熱性が向上するベンゼン-1,2,4,5-テトライル基及び耐湿熱劣化性が向上するビフェニル-3,3’,4,4’-テトライル基が好ましい。なお、上記R1は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。つまり、上記一般式(1)及び上記一般式(2)において、分子鎖のR1は分子鎖間で異なる有機基であってもよく、1つの分子鎖にあっては、分子鎖内で異なる有機基であってもよい。
【0052】
上記一般式(1)中、R2は2価の有機基である。上記R2としては、例えばm-フェニレン基、p-フェニレン基、2,2-ジフェニルプロパン-4,4’-ジイル基、2,2-ジフェニルプロパン-3,3’-ジイル基、2,2-ビス(4-フェノキシフェニル)プロパン-4,4’-ジイル基、ジフェニルメタン-4,4’-ジイル基、ジフェニルメタン-3,3’-ジイル基、ジフェニルスルフィド-4,4’-ジイル基、ジフェニルスルフィド-3,3’-ジイル基、ジフェニルスルホン-4,4’-ジイル基、ジフェニルスルホン-3,3’-ジイル基、ジフェニルエーテル-4,4’-ジイル基、ジフェニルエーテル-3,3’-ジイル基、ビフェニル-4,4’-ジイル基、ビフェニル-3,3’-ジイル基、3,3’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジイル基、3,3’-ジメトキシビフェニル-4,4’-ジイル基、p-ビス(1,1-ジメチルペンチル)ベンゼン-5,5’-ジイル基、ナフタレン-1,5-ジイル基、ナフタレン-2,6-ジイル基、m-キシレン-2,5-ジイル基、p-キシレン-2,5-ジイル基、m-キシリレン基、p-キシリレン基、1,3,4-オキサジアゾール-2,5-ジイル基、3,3’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジイル基、2,2’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジイル基などを挙げることができる。なお、上記R2は単独で用いても2種以上を併用してもよい。つまり、上記一般式(1)において、分子鎖のR2は分子鎖間で異なる有機基であってもよく、1つの分子鎖にあっては、分子鎖内で異なる有機基であってもよい。
【0053】
上記一般式(2)中、R3は炭素数1以上15以下の有機基である。上記R3としては、エチル基、メチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、t-ブチル基、n-ブチル基、n-ペンチル基等の1価の炭化水素基や、これらの炭化水素基が有する水素原子の一部又は全部を水酸基で置換して得られる基、例えばヒドロキシルエチル基、ヒドロキシプロピル基、1,3-ジヒドロキシプロピル基、1,2-ジヒドロキシプロピル基などを挙げることができる。これらの中でも反応性及びコストの観点からエチル基及びメチル基が好ましい。
【0054】
上記ポリアミック酸が、上記R1がベンゼン-1,2,4,5-テトライル基である繰り返し単位の重合体であるとよい。このように上記ポリアミック酸を上記重合体とすることで、硬化後の耐熱性が向上する。
【0055】
また、他の実施形態として、上記ポリアミック酸が、上記R1がベンゼン-1,2,4,5-テトライル基である繰り返し単位と、上記R1がビフェニル-3,3’,4,4’-テトライル基である繰り返し単位との共重合体であるとよい。このように上記ポリアミック酸を上記共重合体とすることで、硬化後の耐熱性及び耐湿熱劣化性が向上する。
【0056】
上記R1がベンゼン-1,2,4,5-テトライル基である繰り返し単位と上記R1がビフェニル-3,3’,4,4’-テトライル基である繰り返し単位との平均モル比の下限としては、10:90が好ましく、20:80がより好ましい。一方、上記平均モル比の上限としては、40:60が好ましく、50:50がより好ましい。上記平均モル比が上記下限未満であると、当該樹脂組成物を硬化して形成した絶縁層の耐湿熱劣化性が不十分となるおそれがある。逆に、上記平均モル比が上記上限を超えると、当該樹脂組成物を硬化して形成した絶縁層の耐熱性が不十分となるおそれがある。
【0057】
上記一般式(2)で表される構造は、上記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリアミック酸の分子鎖末端を封止している。このようにポリアミック酸の分子鎖末端を封止することで、ポリアミック酸の分子量を制御することができる。
【0058】
上記一般式(1)で表される繰り返し単位1モルに対する上記一般式(2)で表される構造の割合の下限としては、0.001モルであり、0.002モルがより好ましい。一方、上記一般式(2)で表される構造の割合の上限としては、0.1モルであり、0.07モルがより好ましい。上記一般式(2)で表される構造の割合が上記下限未満であると、分子鎖が長くなり、当該樹脂組成物の粘度が高まり過ぎるおそれがある。逆に、上記一般式(2)で表される構造の割合が上記上限を超えると、当該樹脂組成物を硬化させる際の鎖伸長反応が阻害され十分な高分子量体が得られないおそれがある。
【0059】
上記ポリアミック酸の分子量は、反応制御剤の量と、酸二無水物及びジアミン化合物の反応時の反応温度とを調整することで制御できる。
【0060】
上記ポリアミック酸の重量平均分子量(Mw)の下限としては、15,000が好ましく、16,000がより好ましい。また、上記ポリアミック酸の重量平均分子量の上限としては、100,000が好ましく、50,000がより好ましい。上記ポリアミック酸の重量平均分子量が上記下限未満であると、絶縁電線の絶縁層を形成する際の皮膜伸びが不十分となるおそれがある。一方、上記ポリアミック酸の重量平均分子量が上記上限を超えると、当該樹脂組成物の粘度が高まり過ぎるおそれがある。
【0061】
上記ポリアミック酸の数平均分子量(Mn)の下限としては、8,000が好ましく、10,000がより好ましく、15,000がさらに好ましい。また、上記ポリアミック酸の数平均分子量の上限としては、100,000が好ましく、50,000がより好ましい。上記ポリアミック酸の数平均分子量が上記下限未満であると、低分子量成分が増えるため、得られる絶縁層の機械強度が低下するおそれや、高熱環境下において絶縁層の被膜強度が維持できなくなるおそれがある。一方、上記ポリアミック酸の数平均分子量が上記上限を超えると、当該樹脂組成物の粘度が高まり過ぎるおそれがある。
【0062】
また、ポリアミック酸の数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)の上限としては、2.3が好ましく、2.1がより好ましい。上記比(Mw/Mn)は、ポリアミック酸の分子量の多分散性を表す指標となる。上記比(Mw/Mn)が上記上限を超えると、ポリアミック酸の分子量が低分子量側に広がる傾向となり、当該樹脂組成物を硬化させる際に十分な高分子量体が得られないおそれがある。
【0063】
当該樹脂組成物全体に対する上記ポリアミック酸の濃度の下限としては、25質量%が好ましく、26質量%がより好ましい。一方、上記ポリアミック酸の濃度の上限としては、35質量%が好ましく、34質量%がより好ましい。上記ポリアミック酸の濃度が上記下限未満であると、絶縁電線の絶縁層用の樹脂組成物として使用する際の作業性が低下するおそれがある。一方、上記ポリアミック酸の濃度が上記上限を超えると、当該樹脂組成物の粘度が高まり過ぎるおそれがある。
【0064】
(溶媒)
上記溶媒としては、各種の有機溶剤を用いることができるが、上記溶媒が非プロトン性極性溶媒であるとよい。この非プロトン性極性溶媒は、ポリアミック酸の原料となる酸二無水物及びジアミン化合物と反応せず、上記ポリアミック酸に対して好適な溶媒として機能できる。
【0065】
上記繰り返し単位100モルに対する上記非プロトン性極性溶媒の量の下限としては、500モルが好ましく、800モルがより好ましい。一方、上記非プロトン性極性溶媒の量の上限としては、1500モルが好ましく、1200モルがより好ましい。上記非プロトン性極性溶媒の量が上記下限未満であると、ポリアミック酸の原料となる酸二無水物とジアミン化合物との重合反応が急速に進み、当該樹脂組成物の粘度が高まり過ぎるおそれがある。逆に、上記非プロトン性極性溶媒の量が上記上限を超えると、絶縁電線の絶縁層用の樹脂組成物として使用する際、多量の溶媒を揮発させる必要があり、絶縁層の形成に時間を要するおそれがある。
【0066】
上記非プロトン性極性溶媒としては、例えばN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)等を挙げることができる。これらは単独で使用しても2種以上の混合物として使用してもよい。
【0067】
(空孔形成剤)
当該樹脂組成物に上記空孔形成剤を含有させることで、絶縁層を形成する樹脂組成物として当該樹脂組成物を用いた際、絶縁層に気孔を含めることができる。このため、絶縁層の低誘電率化を実現でき、コロナ放電開始電圧が向上する。従って、絶縁層の絶縁破壊を発生し難くすることができる。
【0068】
上記空孔形成剤としては、化学発泡剤、熱膨張性マイクロカプセル、コアシェル構造の中空形成粒子、高沸点溶媒等を挙げることができる。
【0069】
〈化学発泡剤〉
当該樹脂組成物の導体への塗布及び硬化により絶縁電線の絶縁層を形成する際、化学発泡剤は、焼付けによる硬化時の加熱により発泡し、絶縁層中に気孔を生じさせる。このように上記空孔形成剤を化学発泡剤とすることで、焼付けによる当該樹脂組成物の硬化時に容易に気孔を形成することができる。
【0070】
この化学発泡剤としては、例えば加熱により窒素ガス(N2ガス)を発生するアゾビスイソブチロニトリル、アゾジカルボジアミド等の熱分解性を有する物質が好適に用いられる。
【0071】
上記化学発泡剤の発泡温度の下限としては、180℃が好ましく、210℃がより好ましい。一方、上記発泡温度の上限としては、300℃が好ましく、260℃がより好ましい。上記発泡温度が上記下限未満であると、焼付け前に発泡が生じ易く、絶縁層の厚さの
調整が困難となるおそれがある。逆に、上記発泡温度が上記上限を超えると、焼付け温度の上昇や焼付け時間の長大化を招き、絶縁電線の製造コストが増加するおそれがある。ここで「発泡温度」とは、発泡剤が発泡を開始する温度である。また、「焼付け時間」とは、当該樹脂組成物が塗布された導体を焼付け温度で保持する時間である。
【0072】
〈熱膨張性マイクロカプセル〉
熱膨張性マイクロカプセルは、熱膨張剤を含む芯材と上記芯材を包む外殻とを有する。熱膨張性マイクロカプセルは、上述の焼付けの加熱により上記芯材に含まれる上記熱膨張剤が膨張又は発泡し、上記外殻を押し広げることで気孔が形成される。従って、上記空孔形成剤を熱膨張性マイクロカプセルとすることで、気孔の大きさの制御性を高められる。
【0073】
上記熱膨張剤は、加熱により膨張又は気体を発生するものであればよく、その原理は問わない。上記熱膨張剤としては、例えば低沸点液体、化学発泡剤又はこれらの混合物を使用することができる。上記低沸点液体としては、例えばブタン、i-ブタン、n-ペンタン、i-ペンタン、ネオペンタン等のアルカンや、トリクロロフルオロメタン等のフレオン類などが挙げられる。また、上記化学発泡剤としては、加熱によりN2ガスを発生するアゾビスイソブチロニトリル、アゾジカルボジアミド等の熱分解性を有する物質が挙げられる。
【0074】
上記芯材は上記熱膨張剤を主成分とするとよく、中でも上記芯材の主成分としては、アゾビスイソブチロニトリル及びアゾジカルボジアミドが好ましい。アゾビスイソブチロニトリル及びアゾジカルボジアミドは、加熱によりN2ガスを発生するので、熱膨張性マイクロカプセルの化学的安定性を維持しつつ、熱膨張させることができる。
【0075】
上記熱膨張剤の膨張開始温度、つまり低沸点液体の沸点又は化学発泡剤の熱分解温度としては、後述する熱膨張性マイクロカプセルの外殻の軟化温度以上とされる。より詳しくは、上記熱膨張剤の膨張開始温度の下限としては、60℃が好ましく、70℃がより好ましい。一方、上記熱膨張剤の膨張開始温度の上限としては、200℃が好ましく、150℃がより好ましい。上記熱膨張剤の膨張開始温度が上記下限未満であると、絶縁層の形成時、輸送時又は保管時に熱膨張性マイクロカプセルが意図せず膨張してしまうおそれがある。逆に、上記熱膨張剤の膨張開始温度が上記上限を超えると、熱膨張性マイクロカプセルを膨張させるために必要なエネルギーコストが過大となるおそれがある。
【0076】
上記外殻の材質は、上記熱膨張剤の膨張時に破断することなく膨張し、発生したガスを包含するマイクロバルーンを形成できる延伸性を有する材質とされる。この外殻の主成分としては、通常は、熱可塑性樹脂等の樹脂組成物が用いられる。上記熱可塑性樹脂としては、例えば塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、アクリル酸、メタアクリル酸、アクリレート、メタアクリレート、スチレン等の単量体から形成された重合体、あるいは2種以上の単量体から形成された共重合体を挙げることができる。
【0077】
中でも上記外殻の主成分としては、塩化ビニリデン―アクリロニトリル共重合体が好ましい。塩化ビニリデン―アクリロニトリル共重合体は延伸性に優れ、熱膨張性マイクロカプセルの膨張時に破断することなく膨張し、発生したガスを包含するマイクロバルーンを形成し易い。上記外殻の主成分に塩化ビニリデン―アクリロニトリル共重合体を用いる場合、上記熱膨張剤の膨張開始温度は、80℃以上150℃以下とされる。
【0078】
〈中空形成粒子〉
コアシェル構造の中空形成粒子は、上述の焼付けの加熱によりコアをガス化し除去することで、中空粒子を得る。上記中空形成粒子は、当該樹脂組成物の硬化後にコアの熱分解により得られる気孔及び外殻を備えるため、気孔の形成時にも気孔の連通が抑制される。このため、絶縁層を形成する樹脂組成物として用いた際、絶縁層の絶縁破壊電圧を高め易い。
【0079】
上記中空形成粒子のコアは、熱分解性樹脂を主成分とするとよい。熱分解性樹脂としては、特に限定されないが、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの片方、両方の末端又は一部をアルキル化、(メタ)アクリレート化又はエポキシ化した化合物;ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸プロピル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチルなどの炭素数1以上6以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルの重合体;ウレタンオリゴマー、ウレタンポリマー、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ε―カプロラクトン(メタ)アクリレートなどの変性(メタ)アクリレートの重合物;ポリ(メタ)アクリル酸;これらの架橋物;ポリスチレン、架橋ポリスチレン等が挙げられる。これらの中でも、絶縁層に気孔を形成させ易い点において、炭素数1以上6以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルの重合体が好ましい。このような(メタ)アクリル酸エステルの重合体として、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)が挙げられる。
【0080】
コアの形状は、球状が好ましい。コアの形状を球状とするために、例えば球状の熱分解性樹脂粒子をコアとして用いるとよい。球状の熱分解性樹脂粒子を用いる場合、この樹脂粒子の平均粒子径の下限としては、特に制限はないが、例えば0.1μmが好ましく、0.5μmがより好ましく、1μmがさらに好ましい。一方、上記樹脂粒子の平均粒子径の上限としては、15μmが好ましく、10μmがより好ましい。上記樹脂粒子の平均粒子径が上記下限未満であると、この樹脂粒子をコアとする中空形成粒子が作製し難くなるおそれがある。逆に、上記樹脂粒子の平均粒子径が上記上限を超えると、この樹脂粒子をコアとする中空形成粒子が大きくなり過ぎるため、絶縁層内における気孔の分布が均一になり難くなり、誘電率の分布に偏りが生じ易くなるおそれがある。
【0081】
上記シェルの主成分としては、熱分解温度が上記熱分解性樹脂の熱分解温度より高いものを用いるとよい。このように上記中空形成粒子を構成することで、加熱により内部が中空となった外殻のみで構成される中空粒子とできるので、気孔を容易に形成することができる。また、上記シェルの主成分として、誘電率が低く、耐熱性が高いものが好ましい。上記シェルの主成分として用いられるこのような材料としては、例えばポリスチレン、シリコーン、フッ素樹脂、ポリイミド等の樹脂が挙げられる。ここで、「フッ素樹脂」とは、高分子鎖の繰り返し単位を構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも1つが、フッ素原子又はフッ素原子を有する有機基(以下「フッ素原子含有基」ともいう)で置換されたものをいう。フッ素原子含有基は、直鎖状又は分岐状の有機基中の水素原子の少なくとも1つがフッ素原子で置換されたものであり、例えばフルオロアルキル基、フルオロアルコキシ基、フルオロポリエーテル基等を挙げることができる。なお、絶縁性を損なわない範囲で上記シェルに金属が含まれてもよい。
【0082】
上記シェルの主成分としては、これらの中でも、シリコーンが好ましい。その結果、上記中空形成粒子による独立気孔がより維持され易くなる。このように、中空形成粒子のシェルの主成分をシリコーンとすることで、シェルに弾性を付与すると共に絶縁性及び耐熱性を向上させ易く、その結果、中空形成粒子による独立気孔がより維持され易くなる。
【0083】
上記シェルの平均厚さの下限としては、特に制限はないが、例えば0.01μmが好ましく、0.02μmがより好ましい。一方、上記シェルの平均厚さの上限としては、0.5μmが好ましく、0.4μmがより好ましい。上記シェルの平均厚さが上記下限未満であると、気孔の連通抑制効果が十分に得られないおそれがある。逆に、上記シェルの平均厚さが上記上限を超えると、気孔の体積が小さくなり過ぎるため、絶縁層の気孔率を所定以上に高められないおそれがある。なお、上記シェルは、1層で形成されてもよいし、複数の層で形成されてもよい。上記シェルが複数の層で形成される場合、複数の層の合計厚さの平均が、上記範囲内であればよい。
【0084】
上記中空形成粒子のCV値の上限としては、30%が好ましく、20%がより好ましい。上記中空形成粒子のCV値が上記上限を超えると、絶縁層にサイズが異なる複数の気孔が含まれるようになるため、誘電率の分布に偏りが生じ易くなるおそれがある。なお、中上記空形成粒子のCV値の下限としては、特に制限はないが、例えば1%が好ましい。上記中空形成粒子のCV値が上記下限未満であると、上記中空形成粒子の製造コストが高くなり過ぎるおそれがある。ここで、「CV値」とは、JIS-Z8825(2013)に規定される変動変数を意味する。
【0085】
なお、上記中空形成粒子は、上記コアを1個の熱分解性樹脂粒子で形成する構成としてもよいし、上記コアを複数の熱分解性樹脂粒子で形成し、上記シェルがこれらの複数の熱分解性樹脂粒子を被覆する構成としてもよい。
【0086】
また、上記中空形成粒子の表面は、凹凸がなく滑らかであってもよいし、凹凸が形成されてもよい。
【0087】
〈高沸点溶媒〉
上記高沸点溶媒は、上述の当該樹脂組成物の溶媒より沸点が高く、気泡形成用に用いられる。上記高沸点溶媒の沸点の下限としては、180℃が好ましく、210℃がより好ましい。一方、上記高沸点溶媒の沸点の上限としては、300℃が好ましく、260℃がより好ましい。上記高沸点溶媒の沸点が上記下限未満であると、当該樹脂組成物の溶媒を揮発させる際に揮発する量が増加し、気泡が十分に形成できないおそれがある。逆に、上記高沸点溶媒の沸点が上記上限を超えると、上記高沸点溶媒が揮発し難くなり、気泡が十分に形成できないおそれがある。
【0088】
上記高沸点溶媒としては、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル等を用いることができる。気泡径のばらつきが小さい点においてトリエチレングリコールジメチルエーテルが好ましい。これら以外にも、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等を使用することもできる。
【0089】
上記高沸点溶媒は、1種を単独で用いてもよいが、気泡が広温度範囲で発生する効果が得られる点で、2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。2種以上を組み合わせて用いる場合の好ましい組み合わせとしては、テトラエチレングリコールジメチルエーテルとジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテルとトリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテルとテトラエチレングリコールジメチルエーテル、及びトリエチレングリコールブチルメチルエーテルとテトラエチレングリコールジメチルエーテルを含む組み合わせが挙げられ、より好ましく組み合わせは、ジエチレングリコールジブチルエーテルとトリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテルとテトラエチレングリコールジメチルエーテルを含む組み合わせである。
【0090】
上述のように上記高沸点溶媒は当該樹脂組成物の溶媒より沸点が高いが、1種の高沸点溶媒を用いる場合、その沸点の差の下限としては、10℃が好ましい。なお、1種で使用する場合、上記高沸点溶媒は気泡核剤と発泡剤の両方の役割を有することが分かっている。一方、2種以上の高沸点溶媒を用いる場合は、最も高い沸点を有する高沸点溶媒(以下、「最高沸点溶媒」ともいう)が発泡剤として作用し、他の高沸点溶媒は気泡核剤として作用する。この場合、最高沸点溶媒と当該樹脂組成物の溶媒との沸点の差の下限としては、20℃が好ましく、30℃がより好ましい。一方、上記沸点の差の上限としては、60℃が好ましい。また、他の高沸点溶媒と当該樹脂組成物の溶媒との沸点の差の下限としては10℃が好ましい。
【0091】
2種以上の高沸点溶媒を用いる場合、最高沸点溶媒と他の高沸点溶媒(2種以上ある場合はその合計)との比率の下限としては、質量比で1:99が好ましく、1:10がより好ましい。一方、上記比率の上限としては99:1が好ましく、10:1がより好ましい。上記比率を上記範囲内とすることで、気泡の生成が容易に行える。
【0092】
また、最高沸点溶媒に対するポリアミック酸の溶解度よりも他の高沸点溶媒に対するポリアミック酸の溶解度の方が大きいとよい。ポリアミック酸の溶解度が上述の関係にある場合、均一な気泡を形成させ易い。
【0093】
(利点)
当該樹脂組成物は、繰り返し単位1モルに対する上記一般式(2)で表される構造の割合を上記範囲内とすることにより、分子量が制御された高分子量のポリアミック酸を容易に得ることができる。従って、当該樹脂組成物は、容易かつ確実に高濃度化することができる。また、当該樹脂組成物は、一段階の反応工程で得られるため生産性が高い。
【0094】
<樹脂組成物の製造方法>
当該樹脂組成物の製造方法は、ポリアミック酸と溶媒とを含有し、上記ポリアミック酸が、分子鎖中に下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有し、上記分子鎖の一端又は両端が下記一般式(2)で表される構造である樹脂組成物、すなわち当該樹脂組成物を製造することができる。当該樹脂組成物の製造方法は、重合する工程と、空孔形成剤を分散させる工程とを備える。
【化11】
(上記一般式(1)中、R
1は4価の有機基である。R
2は2価の有機基である。)
【化12】
(上記一般式(2)中、R
1は上記一般式(1)中のR
1と同義である。上記一般式(2)中のR
1は上記一般式(1)中のR
1と同一であってもよく又は異なってもよい。R
3は炭素数15以下の有機基である。上記分子鎖の両端が上記一般式(2)の構造である場合、2つのR
1及び2つのR
3はそれぞれ同一であってもよく又は異なってもよい。*は上記分子鎖中の一般式(2)で表される構造とは異なる部分との結合部位を示す。)
【0095】
(重合する工程)
上記重合する工程では、下記一般式(3)で表される酸二無水物及び下記一般式(4)で表されるジアミン化合物を、非プロトン性極性溶媒及び反応制御剤の存在下で重合する。
【化13】
(上記一般式(3)中、R
1は上記一般式(1)中のR
1と同義である。)
【化14】
(上記一般式(4)中、R
2は上記一般式(1)中のR
2と同義である。)
【0096】
上記酸二無水物としては、例えばピロメリット酸二無水物(PMDA)、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等などを挙げることができる。上記酸二無水物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0097】
上記酸二無水物がピロメリット酸二無水物、つまり上記R1がベンゼン-1,2,4,5-テトライル基であるとよい。このように上記R1をベンゼン-1,2,4,5-テトライル基とすることで、得られる樹脂組成物の硬化後の耐熱性を向上できる。
【0098】
また、他の実施形態として、上記酸二無水物がピロメリット酸二無水物及びビフェニルテトラカルボン酸二無水物、つまり上記R1がベンゼン-1,2,4,5-テトライル基及びビフェニル-3,3’,4,4’-テトライル基であるとよい。このように上記R1をベンゼン-1,2,4,5-テトライル基及びビフェニル-3,3’,4,4’-テトライル基とすることで、ポリアミック酸として、上記R1がベンゼン-1,2,4,5-テトライル基である繰り返し単位と、上記R1がビフェニル-3,3’,4,4’-テトライル基である繰り返し単位との共重合体が得られる。上記ポリアミック酸を上記共重合体とすることで、得られる樹脂組成物の硬化後の耐熱性及び耐湿熱劣化性を向上できる。
【0099】
上記R1がベンゼン-1,2,4,5-テトライル基であるピロメリット酸二無水物と上記R1がビフェニル-3,3’,4,4’-テトライル基であるビフェニルテトラカルボン酸二無水物とのモル比の下限としては、2:8が好ましく、1:3がより好ましい。一方、上記平均モル比の上限としては、4:6が好ましく、1:2がより好ましい。上記平均モル比が上記下限未満であると、得られる樹脂組成物を硬化して形成した絶縁層の耐湿熱劣化性が不十分となるおそれがある。逆に、上記平均モル比が上記上限を超えると、得られる樹脂組成物を硬化して形成した絶縁層の耐熱性が不十分となるおそれがある。
【0100】
上記ジアミン化合物としては、芳香族ジアミン又はその誘導体が使用される。このようなジアミン化合物としては、例えばm-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノ-ジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノ-ジフェニルプロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’-ジアミノ-ジフェニルメタン、3,3’-ジアミノ-ジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-ジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノ-ジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノ-ジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノ-ジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノ-ジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノ-ジフェニルエーテル、ベンジジン、3,3’-ジアミノ-ビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシ-ベンジジン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノ-ナフタレン、2,6-ジアミノ-ナフタレン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレン-ジアミン、p-キシリレン-ジアミン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、m-トリジン、o-トリジン等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、上記ジアミン化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0101】
上記反応制御剤としては、炭素数が1以上15以下のアルコールを挙げることができる。具体的には、エタノール、メタノール、n-プロピルアルコール、i-プロピルアルコール、t-ブチルアルコール、n-ブチルアルコール、n-ペンチルアルコールなどの1価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール等が挙げられる。これらの中でも反応性及びコストの観点からエタノール及びメタノールが好ましい。
【0102】
上記非プロトン性極性溶媒としては、上述した当該樹脂組成物の非プロトン性極性溶媒と同様とできるので詳細説明を省略する。
【0103】
この重合する工程は、具体的には、例えば以下の手順で行える。まず、非プロトン性極性溶媒と反応制御剤とを混合し、この非プロトン性極性溶媒及び反応制御剤にジアミン化合物を溶解する。次に、上記非プロトン性極性溶媒及び反応制御剤にジアミン化合物を溶解した溶液中に、酸二無水物を投入し、酸二無水物及びジアミン化合物を重合する。
【0104】
以下、非プロトン性極性溶媒及び反応制御剤にジアミン化合物を溶解した溶液中に酸二無水物を投入する場合を例にとり説明するが、非プロトン性極性溶媒及び反応制御剤に酸二無水物を溶解した溶液に、ジアミン化合物を投入する方法で重合することもできる。
【0105】
上記酸二無水物の投入は、上記溶液を撹拌しながら、一定速度で行うことが好ましい。酸二無水物を一定速度で投入することで、重合反応を容易に制御することができる。
【0106】
上記重合反応時の温度及び上記酸二無水物の投入時間は、当該樹脂組成物を製造する量などに応じて適宜決定される。
【0107】
上記酸二無水物100モルに対する上記反応制御剤の含有量の下限としては、0.1モルである。一方、上記反応制御剤の含有量の上限としては、300モルである。上記反応制御剤の含有量が上記下限未満であると、ポリアミック酸の分子鎖の末端が上記一般式(2)で表される構造となるまでに酸二無水物及びジアミン化合物の反応が進み過ぎ、当該樹脂組成物の粘度が高まり過ぎるおそれがある。逆に、上記反応制御剤の含有量が上記上限を超えると、ポリアミック酸の分子鎖末端が速やかに上記一般式(2)で表される構造となり過ぎ、当該樹脂組成物を硬化させる際の鎖伸長反応が阻害され十分な高分子量体が得られないおそれがある。
【0108】
また、上記重合する工程で、上記酸二無水物及び上記ジアミン化合物を実質的に等モル量とするとよい。このように上記重合する工程で、上記酸二無水物及び上記ジアミン化合物を実質的に等モル量とすることで、ポリアミック酸の分子量をさらに高めることができる。
【0109】
(空孔形成剤を分散させる工程)
上記空孔形成剤を分散させる工程では、上記重合する工程後の反応混合物に、熱分解性樹脂を混合する工程を備えるとよい。このように得られる樹脂組成物に熱分解性樹脂を含めることで、絶縁層を形成する樹脂組成物として用いた際、硬化時の加熱により上記熱分解性樹脂が熱分解し、絶縁層の形成時に熱分解性樹脂が存在していた部分に気孔を容易に形成することができる。
【0110】
上記空孔形成剤としては、上述した当該樹脂組成物の空孔形成剤と同様とできるので詳細説明を省略する。
【0111】
上記空孔形成剤の含有量は、形成される絶縁層の気孔率が所望の値となるように当該樹脂組成物の固形分を基準として適宜決定される。
【0112】
形成される絶縁層の気孔率の下限としては、5体積%が好ましく、10体積%がより好ましい。一方、上記気孔率の上限としては、80体積%が好ましく、50体積%がより好ましい。上記気孔率が上記下限未満であると、絶縁層の誘電率が十分に低下せず、コロナ放電開始電圧を十分に向上できないおそれがある。逆に、上記気孔率が上記上限を超えると、絶縁層の機械的強度を維持できないおそれがある。
【0113】
(利点)
当該樹脂組成物の製造方法は、非プロトン性極性溶媒及び反応制御剤の存在下、酸二無水物及びジアミン化合物を重合するので、製造を一工程で行うことができ、生産性が高い。また、当該樹脂組成物の製造方法は、分子鎖末端を適量の反応制御剤に由来するR3を含む上記一般式(2)で表される構造で封止する。このため、当該樹脂組成物の製造方法では、ポリアミック酸の分子量を容易に制御しつつ、分子量を高めることができる。
【0114】
<絶縁電線>
当該絶縁電線は、線状の導体と、この導体を直接又は他の層を介して被覆する絶縁層とを有する。
【0115】
(導体)
上記導体は、通常金属を主成分とする。上記金属としては、特に限定されないが、銅、銅合金、アルミニウム、又はアルミニウム合金が好ましい。導体に上記金属を用いることで、良好な加工性や導電性等を兼ね備えた絶縁電線を得ることができる。
【0116】
なお、上記導体は、上記主成分の金属以外に公知の添加剤等の他の成分を含有していてもよい。
【0117】
上記導体の断面形状は、特に限定されず、円形、方形、矩形等の種々の形状を採用することができる。また、導体の断面の大きさも、特に限定されず、直径(短辺幅)を例えば0.2mm以上2.0mm以下とすることができる。
【0118】
(絶縁層)
上記絶縁層は、上記導体を被覆するように上記導体の周面側に積層される。上記絶縁層は、他の層を介して被覆してもよい。具体的には、導体の被覆層が上記絶縁層以外の層を含む多層構造であってもよい。
【0119】
上記絶縁層は、当該樹脂組成物を塗布、硬化(焼付け)して形成することができる。つまり、上記絶縁層は、本開示の樹脂組成物により形成されている。当該絶縁電線は、絶縁層が本開示の樹脂組成物により形成されているので、生産性が高く、絶縁層の皮膜伸びに優れる。
【0120】
上記絶縁層の平均厚さは、特に限定されないが、通常2μm以上200μm以下とされる。
【0121】
(絶縁電線の製造方法)
当該絶縁電線は、塗布する工程及び絶縁層を形成する工程を備える製造方法により効果的に得ることができる。
【0122】
上記塗布する工程では、上記導体の外周に直接又は他の層を介して、当該樹脂組成物を塗布する。当該樹脂組成物を導体外周面側に塗布する方法としては、例えば当該樹脂組成物を貯留した液状組成物槽と塗布ダイスとを備える塗布装置を用いた方法を挙げることができる。この塗布装置によれば、導体が液状組成物槽内を挿通することで当該樹脂組成物が導体外周面側に付着し、その後塗布ダイスを通過することで当該樹脂組成物がほぼ均一な厚みに塗布される。
【0123】
上記絶縁層を形成する工程では、上記塗布する工程で導体に塗布された当該樹脂組成物を加熱することにより、硬化させて絶縁層を形成する。この加熱により、当該樹脂組成物中の溶媒が揮発すると共に、ポリアミック酸が硬化し、ポリイミドが形成される。このようにして電気特性や機械特性、熱特性等に優れた絶縁層が得られる。
【0124】
上記絶縁層を形成する工程で用いる装置としては、特に限定されないが、例えば導体の走行方向に長い筒状の焼付炉を用いることができる。加熱方法は特に限定されないが、熱風加熱、赤外線加熱、高周波加熱など、従来公知の方法により行うことができる。
【0125】
また、加熱温度としては、例えば350℃以上500℃以下とすることができ、加熱時間としては5秒以上1分以下とできる。上記加熱温度又は上記加熱時間が上記下限未満であると、溶媒の気化や絶縁層の形成が不十分となり、絶縁電線の外観や電気特性、機械特性、熱特性等が劣るおそれがある。逆に、上記加熱温度が上記上限を超えると、過度の急加熱により絶縁層の発泡や機械特性の低下を招くおそれがある。また、上記加熱時間が上記上限を超えると、絶縁電線の生産性が低下するおそれがある。
【0126】
上記塗布する工程と上記絶縁層を形成する工程とは、通常、複数回繰り返される。このようにすることで、絶縁層の厚みを増加させていくことができる。このとき、塗布ダイスの孔径は繰り返し回数にあわせて適宜調整される。
【0127】
〔第2実施形態〕
<樹脂組成物>
当該樹脂組成物は、ポリアミック酸と溶媒とを含有する樹脂組成物である。また、当該樹脂組成物は、熱分解性樹脂を含有する。
【0128】
当該樹脂組成物の30℃における粘度は、第1実施形態の樹脂組成物と同様とできる。また、当該樹脂組成物は、上記分子鎖の両端がアミノ基であるポリアミック酸及び遊離ジアミン化合物が実質的に含まれないとよい。
【0129】
(ポリアミック酸)
上記ポリアミック酸は、分子鎖中に下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有し、上記分子鎖の一端又は両端が下記一般式(2)で表される構造である。
【化15】
【化16】
【0130】
上記ポリアミック酸は、第1実施形態のポリアミック酸と同様とできるので、詳細説明を省略する。
【0131】
(溶媒)
上記溶媒は、第1実施形態の溶媒と同様とできるので、詳細説明を省略する。
【0132】
(熱分解性樹脂)
当該樹脂組成物に上記熱分解性樹脂を含有させることで、絶縁層を形成する樹脂組成物として用いた際、硬化時の加熱により上記熱分解性樹脂が熱分解し、絶縁層の形成時に熱分解性樹脂が存在していた部分に気孔を形成することができる。
【0133】
上記熱分解性樹脂としては、当該樹脂組成物の硬化時の加熱温度よりも低い温度で熱分解する樹脂が好適に用いられる。上記熱分解性樹脂としては、特に限定されないが、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの片方、両方の末端又は一部をアルキル化、(メタ)アクリレート化又はエポキシ化した化合物、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸プロピル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸の炭素数1以上6以下のアルキルエステル重合体、ウレタンオリゴマー、ウレタンポリマー、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ε―カプロラクトン(メタ)アクリレートなどの変性(メタ)アクリレートの重合物、ポリ(メタ)アクリル酸、これらの架橋物、ポリスチレン、架橋ポリスチレン等が挙げられる。
【0134】
中でも上記熱分解性樹脂としては、(メタ)アクリル系重合体の架橋物が好ましい。(メタ)アクリル系重合体は、ポリアミック酸の海相に微小粒子の島相となって均等分布し易い。また、架橋物とすることで、ポリアミック酸との相溶性に優れると共に、球状にまとまり易い。従って、上記熱分解性樹脂を(メタ)アクリル系重合体の架橋物とすることで、硬化後に球状の気孔を均等に分布させることができる。
【0135】
上記架橋ポリ(メタ)アクリル系重合体は、例えば(メタ)アクリル系モノマーと多官能性モノマーとを乳化重合、懸濁重合、溶液重合等により重合することで得られる。
【0136】
上記(メタ)アクリル系モノマーとしては、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルなどが挙げられる。
【0137】
上記多官能性モノマーとしては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどが挙げられる。
【0138】
なお、架橋ポリ(メタ)アクリル系重合体の構成モノマーとしては、(メタ)アクリル系モノマー及び多官能性モノマー以外に他のモノマーを使用してもよい。他のモノマーとしては、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のグリコールエステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類、酢酸ビニル、酪酸ビニルなどのビニルエステル類、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミドなどのN-アルキル置換(メタ)アクリルアミド類、アクリロニトリル、メタアクリロニトリルなどのニトリル類、スチレン、p-メチルスチレン、p-クロロスチレン、クロロメチルスチレン、α-メチルスチレンなどのスチレン系単量体等が挙げられる。
【0139】
上述のように、球状の気孔を均等に分布させることができることから、上記熱分解性樹脂が球状の樹脂粒子であることが好ましい。上記樹脂粒子の平均粒子径の下限としては、0.1μmが好ましく、0.5μmがより好ましく、1μmがさらに好ましい。一方、上記樹脂粒子の平均粒子径の上限としては、100μmが好ましく、50μmがより好ましく、30μmがさらに好ましく、10μmが特に好ましい。上記樹脂粒子は絶縁層を形成する際に熱分解して存在していた部分に気孔を形成する。そのため、上記樹脂粒子の平均粒子径が上記下限未満であると、絶縁層内に気孔が形成され難くなるおそれがある。逆に、上記樹脂粒子の平均粒子径が上記上限を超えると、絶縁層内における気孔の分布が均一になり難くなり、誘電率の分布に偏りが生じ易くなるおそれがある。
【0140】
<樹脂組成物の製造方法>
当該樹脂組成物の製造方法は、ポリアミック酸と溶媒とを含有し、上記ポリアミック酸が、分子鎖中に下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有し、上記分子鎖の一端又は両端が下記一般式(2)で表される構造である樹脂組成物、すなわち当該樹脂組成物を製造することができる。当該樹脂組成物の製造方法は、重合する工程と、熱分解性樹脂を混合する工程とを備える。
【化17】
(上記一般式(1)中、R
1は4価の有機基である。R
2は2価の有機基である。)
【化18】
(上記一般式(2)中、R
1は上記一般式(1)中のR
1と同義である。上記一般式(2)中のR
1は上記一般式(1)中のR
1と同一であってもよく又は異なってもよい。R
3は炭素数15以下の有機基である。上記分子鎖の両端が上記一般式(2)の構造である場合、2つのR
1及び2つのR
3はそれぞれ同一であってもよく又は異なってもよい。*は上記分子鎖中の一般式(2)で表される構造とは異なる部分との結合部位を示す。)
【0141】
(重合する工程)
上記重合する工程では、下記一般式(3)で表される酸二無水物及び下記一般式(4)で表されるジアミン化合物を、非プロトン性極性溶媒及び反応制御剤の存在下で重合する。
【化19】
(上記一般式(3)中、R
1は上記一般式(1)中のR
1と同義である。)
【化20】
(上記一般式(4)中、R
2は上記一般式(1)中のR
2と同義である。)
【0142】
上記重合する工程は、第1実施形態の重合する工程と同様であるので、詳細説明を省略する。
【0143】
(熱分解性樹脂を混合する工程)
上記熱分解性樹脂を混合する工程では、上記重合する工程後の反応混合物に、熱分解性樹脂を混合する。
【0144】
上記熱分解性樹脂としては、上述した当該樹脂組成物の熱分解性樹脂と同様とできるので詳細説明を省略する。
【0145】
上記熱分解性樹脂の含有量は、形成される絶縁層の気孔率が所望の値となるように当該樹脂組成物の固形分を基準として適宜決定される。なお、上記気孔率としては、第1実施形態の空孔形成剤を分散させる工程で述べた気孔率と同様とできる。
【0146】
(利点)
当該樹脂組成物及び当該樹脂組成物の製造方法では、樹脂組成物に熱分解性樹脂を含めることで、絶縁層を形成する樹脂組成物として用いた際、硬化時の加熱により上記熱分解性樹脂が熱分解し、絶縁層の形成時に熱分解性樹脂が存在していた部分に気孔を容易に形成することができる。
【0147】
〔第3実施形態〕
<樹脂組成物>
当該樹脂組成物は、ポリアミック酸と溶媒とを含有する樹脂組成物である。また、当該樹脂組成物は、中空フィラーを含有する。
【0148】
当該樹脂組成物の30℃における粘度は、第1実施形態の樹脂組成物と同様とできる。また、当該樹脂組成物は、上記分子鎖の両端がアミノ基であるポリアミック酸及び遊離ジアミン化合物が実質的に含まれないとよい。
【0149】
(ポリアミック酸)
上記ポリアミック酸は、分子鎖中に下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有し、上記分子鎖の一端又は両端が下記一般式(2)で表される構造である。
【化21】
【化22】
【0150】
上記ポリアミック酸は、第1実施形態のポリアミック酸と同様とできるので、詳細説明を省略する。
【0151】
(溶媒)
上記溶媒は、第1実施形態の溶媒と同様とできるので、詳細説明を省略する。
【0152】
(中空フィラー)
当該樹脂組成物に上記中空フィラーを含有させることで、絶縁層を形成する樹脂組成物として用いた際、この中空フィラーの内部の空洞部分が気孔となる。また、当該樹脂組成物に上記中空フィラーを含有させることで、得られる絶縁層の可撓性及び機械的強度が制御し易い。
【0153】
上記中空フィラーとしては、例えばシラスバルーン、ガラスバルーン、セラミックバルーン、有機樹脂バルーン等が挙げられる。中でも、上記中空フィラーが有機樹脂バルーン、ガラスバルーン又はそれらの組み合わせであることが好ましい。有機樹脂バルーンは、得られる絶縁層の可撓性を高め易い。また、ガラスバルーンは、得られる絶縁層の機械的強度を高め易い。従って、上記中空フィラーを有機樹脂バルーン、ガラスバルーン又はそれらの組み合わせとすることで、得られる絶縁層の可撓性及び機械的強度の制御性を高められる。
【0154】
上記中空フィラーの平均粒子径の下限としては、1μmが好ましく、5μmがより好ましい。一方、上記中空フィラーの平均粒子径の上限としては、100μmが好ましく、50μmがより好ましく、30μmがさらに好ましい。上記中空フィラーの平均粒子径が上記下限未満であると、個々の中空フィラーで気孔となる空洞部分の体積が小さくなるため、絶縁層内の気孔率を確保し難くなるおそれがある。逆に、上記中空フィラーの平均粒子径が上記上限を超えると、絶縁層内における気孔の分布が均一になり難くなり、誘電率の分布に偏りが生じ易くなるおそれがある。
【0155】
<樹脂組成物の製造方法>
当該樹脂組成物の製造方法は、ポリアミック酸と溶媒とを含有し、上記ポリアミック酸が、分子鎖中に下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有し、上記分子鎖の一端又は両端が下記一般式(2)で表される構造である樹脂組成物、すなわち当該樹脂組成物を製造することができる。当該樹脂組成物の製造方法は、重合する工程と、中空フィラーを分散させる工程とを備える。
【0156】
【化23】
(上記一般式(1)中、R
1は4価の有機基である。R
2は2価の有機基である。)
【化24】
(上記一般式(2)中、R
1は上記一般式(1)中のR
1と同義である。上記一般式(2)中のR
1は上記一般式(1)中のR
1と同一であってもよく又は異なってもよい。R
3は炭素数15以下の有機基である。上記分子鎖の両端が上記一般式(2)の構造である場合、2つのR
1及び2つのR
3はそれぞれ同一であってもよく又は異なってもよい。*は上記分子鎖中の一般式(2)で表される構造とは異なる部分との結合部位を示す。)
【0157】
(重合する工程)
上記重合する工程では、下記一般式(3)で表される酸二無水物及び下記一般式(4)で表されるジアミン化合物を、非プロトン性極性溶媒及び反応制御剤の存在下で重合する。
【化25】
(上記一般式(3)中、R
1は上記一般式(1)中のR
1と同義である。)
【化26】
(上記一般式(4)中、R
2は上記一般式(1)中のR
2と同義である。)
【0158】
上記重合する工程は、第1実施形態の重合する工程と同様であるので、詳細説明を省略する。
【0159】
(中空フィラーを分散させる工程)
上記中空フィラーを分散させる工程では、上記重合する工程後の反応混合物に、中空フィラーを分散させる。
【0160】
上記中空フィラーとしては、上述した当該樹脂組成物の中空フィラーと同様とできるので詳細説明を省略する。
【0161】
上記中空フィラーの含有量は、形成される絶縁層の気孔率が所望の値となるように当該樹脂組成物の固形分を基準として適宜決定される。なお、上記気孔率としては、第1実施形態の空孔形成剤を分散させる工程で述べた気孔率と同様とできる。
【0162】
(利点)
当該樹脂組成物及び当該樹脂組成物の製造方法では、樹脂組成物に中空フィラーを含めることで、絶縁層を形成する樹脂組成物として用いた際、得られる絶縁層の可撓性及び機械的強度が制御し易い。
【0163】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0164】
上記実施形態では、当該樹脂組成物がそれぞれ空孔形成剤、熱分解性樹脂及び中空フィラーを単独で含有する場合を説明したが、これらのうちの2種あるいは3種すべてを含有してもよい。
【0165】
また、空孔形成剤、熱分解性樹脂及び中空フィラーのいずれも含まない樹脂組成物も本発明の意図するところである。このような樹脂組成物を絶縁層を形成する樹脂組成物として用いた際は、気孔を含まない中実の絶縁層が形成される。
【0166】
上記実施形態では、線状の導体及びこの導体を直接又は他の層を介して被覆する絶縁層を有する絶縁電線について説明したが、さらに絶縁層の外周側に上塗層を有してもよい。特に潤滑性を付与するための上塗層を有することにより、コイルの巻数や占有率を上げるための圧縮加工時に絶縁電線間の摩擦によって生じる応力及びこの応力による絶縁層の損傷を低減できる。上塗層を構成する樹脂としては、潤滑性を有するものであればよく、例えば流動パラフィン、固形パラフィン等のパラフィン類、各種ワックス等を挙げることができる。
【0167】
また、上記実施形態では、絶縁電線の絶縁層を当該樹脂組成物の塗布及び焼付けにより製造する方法を説明したが、絶縁層が多層構造である場合、共押出しにより製造することも可能である。共押出しにより絶縁層を製造することで、多層の絶縁層を一度に製造することができるので、製造効率がよい。
【実施例】
【0168】
以下、本開示の樹脂組成物を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0169】
[No.1]
まず撹拌翼を備えた1Lフラスコを用いて非プロトン性極性溶媒としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)と反応制御剤としてのメタノールとを室温で混合し、この溶液にジアミン化合物である4,4’-ジアミノ-ジフェニルエーテル(ODA)を溶解した。その後、上記溶液を200rpmで撹拌しながら酸二無水物であるPMDAをほぼ等量に2分割し、分割したそれぞれのPMDAを10分の間隔を空けて、すなわち投入時間10分で加え、上記溶液を2時間室温で放置した。なお、PMDA及びODAの混合比(モル比)は表1に示すとおりであり、反応制御剤の混合比は、60とした。また、得られるポリアミック酸の濃度が26質量%となるようにNMPの量を調整した。
【0170】
このようにして得られた樹脂組成物を導体平均径(平均直径)1mmの導線の表面に常法によって塗布、焼付けを行い、平均厚さ40μmの絶縁層を形成し、絶縁電線を作製した。
【0171】
[No.2、3、6、9]
ポリアミック酸の濃度を表1のとおりとし、反応制御剤の混合比を70(No.2)、100(No.3)、310(No.6)、120(No.9)とした以外は、No.1と同様にして絶縁電線を作製した。
【0172】
[No.4、5]
反応制御剤を用いず(混合比0)、ポリアミック酸の濃度を表1のとおりとした以外は、No.1と同様にして樹脂組成物を得た。No.4の樹脂組成物は粘度が高過ぎたため、塗工を行うことができず、絶縁電線は作製できなかった。また、No.5の樹脂組成物はゲル化したため、塗工を行うことができず、絶縁電線は作製できなかった。
【0173】
[No.7、8、18]
反応制御剤をエタノールとし、エタノールの混合比を60(No.7)、350(No.8)、100(No.18)とした以外は、No.1と同様にして絶縁電線を作製した。
【0174】
[No.10]
非プロトン性極性溶媒をNMPとDMAcとの混合溶媒(混合比20:80)とし、ポリアミック酸の濃度を表1のとおりとし、反応制御剤の混合比を100とした以外は、No.1と同様にして絶縁電線を作製した。
【0175】
[No.11~13]
酸二無水物をPMDAとBPDAとの混合物(混合比35:65)とし、ポリアミック酸の濃度を表1のとおりとし、反応制御剤の混合比を100(No.11)、210(No.12)、300(No.13)とした以外は、No.1と同様にして絶縁電線を作製した。
【0176】
[No.14~17]
ジアミン化合物をODAと、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)との混合物(混合比70:30)とし、ポリアミック酸の濃度を表1のとおりとし、反応制御剤の混合比を30(N0.14)、60(No.15)、100(No.16)、200(No.17)とした以外は、No.1と同様にして絶縁電線を作製した。
【0177】
[No.19]
反応制御剤を1-プロパノールとし、混合比を100とした以外は、No.1と同様にして絶縁電線を作製した。
【0178】
[No.20]
反応制御剤を1-ブタノールとし、混合比を100とした以外は、No.1と同様にして絶縁電線を作製した。
【0179】
[No.21]
No.1と同様の組成で同様の方法で重合して得られる反応混合物に、空孔形成剤としての化学発泡剤(アゾジカルボジアミド)を10phrの割合で分散させ、化学発泡剤を含む樹脂組成物を得た。なお、上記樹脂組成物において、得られるポリアミック酸の濃度が29質量%となるようにNMPの量を調整した。ここで「phr」とは樹脂100質量部当たりの質量部をいう。
【0180】
このようにして得られた樹脂組成物を導体平均径(平均直径)1mmの導線の表面に常法によって塗布、焼付けを行い、平均厚さ40μmの絶縁層を形成し、絶縁電線を作製した。
【0181】
[No.22]
化学発泡剤に代えて、熱膨張性マイクロカプセル(芯材:アゾジカルボジアミド、外殻:塩化ビニリデン―アクリロニトリル共重合体)を10phrの割合で分散させた以外は、No.21と同様にして絶縁電線を作製した。
【0182】
[No.23]
化学発泡剤に代えて、球状の中空形成粒子(平均粒子径3μm、コア:(メタ)アクリル系重合体架橋物、シェル:シリコーン)を30phrの割合で分散させ、また得られるポリアミック酸の濃度が28質量%となるようにNMPの量を調整した以外は、No.21と同様にして絶縁電線を作製した。
【0183】
[No.24]
No.1と同様の組成で同様の方法で重合して得られる反応混合物に、中空フィラーとしてのガラスバルーン(平均粒子径18μm)を30phrの割合で分散させ、ガラスバルーンを含む樹脂組成物を得た。なお、上記樹脂組成物において、得られるポリアミック酸の濃度が28質量%となるようにNMPの量を調整した。
【0184】
このようにして得られた樹脂組成物を導体平均径(平均直径)1mmの導線の表面に常法によって塗布、焼付けを行い、平均厚さ40μmの絶縁層を形成し、絶縁電線を作製した。
【0185】
[評価]
上記No.1~No.24で得られた樹脂組成物について、粘度、平均分子量及び末端構造割合を測定した。なお、ゲル化したNo.5については粘度及び平均分子量は測定していない。
【0186】
また、No.1~No.3及びNo.6~No.24で得られた絶縁電線について、皮膜伸び及びガラス転移温度を測定し、これらに巻線外観観察を含めて判定を行った。この結果を表1に示す。
【0187】
なお、上述の評価量は、以下の手順で測定及び判定した。
【0188】
<粘度>
粘度は、B型粘度計(東機産業株式会社の「RB-80L」)を用いて測定温度30℃、回転数6rpmで3分間回転させたときの粘度として測定した。
【0189】
<平均分子量>
樹脂組成物を東ソー株式会社の「GPCシステム」で分析することによりポリアミック酸の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を算出した。分析時の展開溶媒としては、リン酸30mモル及びリチウムブロマイド10mモルを溶解させたN-メチル2-ピロリドンを用い、標準物質としては、ポリスチレンを用いた。また、分析時のカラムは、東ソー株式会社の「TSKgeI GMH HR-H」を2本直列接続したものを用い、ガードカラムとしては「TSK Guard Colum HHR-Hを用いた。測定は、流速0.5mL/分、測定時間60分で行った。
【0190】
<末端構造割合>
まず、対象の樹脂組成物をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)で希釈し、スターラーで撹拌させながらアセトン中に滴下した。これにより得られた固形分を回収し、真空下で12時間以上乾燥させた。上記固形分を約30mg取り、ジメチルスルホキシド-d6(DMSO-d6)に溶解させ、1H NMR(ブルカー社製の「Ascend500を用いたAVANCE III HD」)により定量モードで測定し、スペクトルを得た。なお、測定条件としては、Flip Angle=13.0μs、PD=70s、積算回数=64回とした。
【0191】
次に、得られた上記スペクトルから、化学シフトδ6ppm以上δ9ppm以下(以下、「δ6以上δ9以下」のように記載する)に現れるベンゼン環に由来するプロトン数(Aとする)と、3δ以上5δ以下に現れるR3に由来するプロトン数(Bとする)とを求めた。上記繰り返し単位及び上記末端構造の1モル当たりのプロトン数を算出し(それぞれNA[モル]、NB[モル]とする)、このNA及びNBを用いて、繰り返し単位1モルに対する末端構造の割合(上述の一般式(2)で表される構造の割合)を(B/NB)/(A/NA)で求めた。ここで、本明細書中で用いる化学シフトδ[ppm]は、テトラメチルシランのプロトンを基準とする値である。
【0192】
なお、繰り返し単位1モル当たりのδ6以上δ9以下に現れるプロトン数NAは、以下の通り算出した。
【0193】
(No.1~No.10、No.18~No.24)
PMDAのベンゼン環に由来し、δ6以上δ9以下に現れるプロトン数は、PMDA1分子当たり2個である。また、ODAのベンゼン環に由来し、δ6以上δ9以下に現れるプロトン数は、ODA1分子当たり8個である。繰り返し単位1モル当たりには、PMDA及びODAが1モルずつ含まれるから、繰り返し単位1モル当たりのプロトン数NAは、2+8=10モルである。
【0194】
(No.11~No.13)
BPDAのベンゼン環に由来し、δ6以上δ9以下に現れるプロトン数は、BPDA1分子当たり6個である。PMDA及びODAについては上述の通りである。繰り返し単位1モル当たりには、PMDAが0.35モル、BPDAが0.65モル、ODAが1モル含まれるから、繰り返し単位1モル当たりのプロトン数NAは、0.35×2+0.65×6+8=12.6モルである。
【0195】
(No.14~No.17)
BAPPのベンゼン環に由来し、δ6以上δ9以下に現れるプロトン数は、BAPP1分子当たり16個である。PMDA及びODAについては上述の通りである。繰り返し単位1モル当たりには、PMDAが1モル、ODAが0.7モル、BAPPが0.3モル含まれるから、繰り返し単位1モル当たりのプロトン数NAは、2+8×0.7+16×0.3=12.4モルである。
【0196】
また、末端構造の1モル当たりのδ3以上δ9以下に現れるプロトン数NBは、反応制御剤にメタノールを用いる場合NB=3、エタノールを用いる場合NB=2である。
【0197】
<皮膜伸び>
皮膜伸びは、得られた絶縁電線から導体を取り除いてチューブ状の絶縁層としたものを引張試験機(株式会社島津製作所製のオートグラフAGS-X)を用いてチャック間距離20mm、10mm/分の速度で引張試験を行い、皮膜伸び(破断伸び)を測定した。
【0198】
<ガラス転移温度>
ガラス転移温度は、得られた絶縁電線から導体を取り除いてチューブ状の絶縁層としたものを動的粘弾性測定装置(DMS)(ヤマト科学株式会社製のEXSTAR DMS6100)を用いて温度範囲20℃~500℃、昇温速度10℃/分でガラス転移温度を測定した。
【0199】
<判定>
皮膜伸び、ガラス転移温度及び巻線外観観察から絶縁電線について以下の基準で判定を行った。
A:皮膜伸び、ガラス転移温度共に良好で巻線外観も正常である。
B:皮膜伸び、ガラス転移温度共に良好であるが、巻線外観に発泡が見られる。
C:皮膜伸び又はガラス転移温度が不十分である。
【0200】
【0201】
なお、表1で酸無水物、ジアミン、反応制御剤のモル比は、酸二無水物の合計モル量を100とした場合の相対値を表す。また、表1の絶縁電線評価結果中の「-」は未測定又は測定不能であることを意味する。
【0202】
表1からNo.1~No.3、No.7、No.9~No.16、No.18~No.20の樹脂組成物は、高濃度でありながら適度な粘度を有しており、これを用いた絶縁電線の絶縁層は、皮膜伸びが100%以上と優れる。また、これらの樹脂組成物を用いた絶縁電線の絶縁層は、ガラス転移温度の低下が見られないことから、硬化後のポリイミドの性能低下が小さいことが分かる。
【0203】
これに対し、分子鎖の末端が上述の一般式(2)の構造でないNo.4の樹脂組成物は、重合反応が過度に進み分子量が増大し粘度が高くなり過ぎたため、塗工を行うことができなかった。また、同様に分子鎖の末端が上述の一般式(2)の構造でないNo.5の樹脂組成物は、ゲル化したため、塗工を行うことができなかった。上記末端構造の量が分子鎖の繰り返し単位1モルに対して0.1モル以上であるNo.6及びNo.17の樹脂組成物は粘度が低過ぎるため、皮膜伸びが不足する結果となった。反応制御剤の含有量が酸二無水物100モルに対して300モル超であるNo.8の樹脂組成物についても、分子量が小さ過ぎるため、皮膜伸びが不足する結果となった。
【0204】
以上から、樹脂組成物のポリアミック酸を、上述の一般式(1)で表される繰り返し単位1モルに対する上述の一般式(2)で表される構造の割合を0.001モル以上0.1モル以下とすることで、樹脂組成物を高濃度でありながら適度な粘度とすることができ、これを用いた絶縁電線の絶縁層は、皮膜伸びが100%以上と優れると言える。
【0205】
また、空孔形成剤又は中空フィラーを加え、絶縁層の内部に気孔を含める構成とするNo.21~No.24の樹脂組成物においても高濃度でありながら適度な粘度を有しており、これを用いた絶縁電線の絶縁層は、皮膜伸びが90%以上と優れることが分かる。