(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】インサート成形品及びインサート成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20221014BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
B29C45/14
B29C45/26
(21)【出願番号】P 2019048412
(22)【出願日】2019-03-15
【審査請求日】2021-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠田 耕至
【審査官】清水 研吾
(56)【参考文献】
【文献】独国実用新案第202014100008(DE,U1)
【文献】実開平01-132810(JP,U)
【文献】特開平07-174128(JP,A)
【文献】特開2006-321061(JP,A)
【文献】特開2015-095354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端部のみが閉塞された筒部を有する有底筒状部品と、
前記筒部の外周面に接触する筒状保持部を有し、前記筒部の開口端を開放させた形態で前記有底筒状部品と一体化された樹脂成形部とを備え、
前記筒部は、前記筒部の外周面から突出した形態であり、前記筒状保持部の先端面に接する受圧部を有し、
前記受圧部は、前記筒部の軸線方向において、前記筒部の前記開口端よりも前記筒状保持部側の位置に配され、
前記筒部のうち前記受圧部よりも前記開口端側の部位が、突起状の環状取付部となって
おり、
前記受圧部の外周面が露出した状態である
インサート成形品。
【請求項2】
金型に、一端部のみが閉塞された筒部を有する有底筒状部品をセットし、
前記金型内に溶融樹脂を射出することにより、前記筒部の外周面に接触する筒状保持部を有する樹脂成形部を成形するとともに、前記筒部の開口端を開放させた形態で前記樹脂成形部と前記有底筒状部品とが一体化されたインサート成形品を製造する方法であって、
前記筒部の外周面から、前記筒状保持部の先端面を接触させる受圧部を突出させ、
前記金型に、前記筒状保持部の先端面との間で前記受圧部を挟むことが可能な支持部を形成した上で、
前記受圧部が前記支持部に接触する状態で、前記有底筒状部品を前記金型内にセットし、
前記受圧部の外周面を前記金型に接触させ、
射出圧を、前記支持部とは反対側から前記受圧部に付与するインサート成形品の製造方法。
【請求項3】
金型に、一端部のみが閉塞された筒部を有する有底筒状部品をセットし、
前記金型内に溶融樹脂を射出することにより、前記筒部の外周面に接触する筒状保持部を有する樹脂成形部を成形するとともに、前記筒部の開口端を開放させた形態で前記樹脂成形部と前記有底筒状部品とが一体化されたインサート成形品を製造する方法であって、
前記筒部の外周面から、前記筒状保持部の先端面を接触させる受圧部を突出させ、
前記金型に、前記筒状保持部の先端面との間で前記受圧部を挟むことが可能な支持部を形成した上で、
前記受圧部が前記支持部に接触する状態で、前記有底筒状部品を前記金型内にセットし、
前記金型に形成した位置決め突起を、前記筒部内に進入させ、
射出圧を、前記支持部とは反対側から前記受圧部に付与するインサート成形品の製造方法。
【請求項4】
金型に、一端部のみが閉塞された筒部を有する有底筒状部品をセットし、
前記金型内に溶融樹脂を射出することにより、前記筒部の外周面に接触する筒状保持部を有する樹脂成形部を成形するとともに、前記筒部の開口端を開放させた形態で前記樹脂成形部と前記有底筒状部品とが一体化されたインサート成形品を製造する方法であって、
前記樹脂成形部が、板状基部から前記筒状保持部を突出させた形態であり、
前記筒部の外周面から、前記筒状保持部の先端面を接触させる受圧部を突出させ、
前記金型に、前記筒状保持部の先端面との間で前記受圧部を挟むことが可能な支持部を形成した上で、
前記受圧部が前記支持部に接触する状態で、前記有底筒状部品を前記金型内にセットし、
前記金型のゲートを、前記板状基部の外周縁と対応する位置に設けた上で、前記溶融樹脂を、前記ゲートから前記板状基部の板面に沿って射出し、
射出圧を、前記支持部とは反対側から前記受圧部に付与するインサート成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インサート成形品及びインサート成形品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1にはインサート成形品の製造方法の発明が記載されている。インサート成形品は、有底筒状の袋状金属部材をインサート部品として射出成形されるものである。インサート成形では、固定側の金型と可動側金型とが用いられる。固定側の金型には突出パイプ部が形成されている。インサート成形品工程では、突出パイプ部に袋状金属部材の有底孔を嵌合し、有底孔の開口端を固定側の金型によって塞ぐ。そして、固定側の金型と可動側金型を型締めして構成されたキャビティ内に、溶融樹脂が射出される。溶融樹脂が固化すると、袋状金属部材と一体化されたインサート成形品が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-321061号公報
【文献】特開2012-232430号公報
【文献】特開2006-142513号公報
【文献】特開平10-138285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
固定側の金型と可動側金型を型開きしたときに、袋状金属部材を固定側の金型から離脱できるようにするため、有底孔の内周面と突出パイプ部の外周面との間にはクリアランスを確保する必要がある。しかし、クリアランスを確保すると、袋状金属部材の外周面に対して径方向に作用する射出圧により、袋状金属部材が突出パイプ部に対して傾き、有底孔内の開口端と固定側の金型との間に隙間が生じるおそれがある。有底孔内の開口端と固定側の金型との間に隙間が空くと、溶融樹脂が有底孔内に侵入するため、袋状金属部材が本来の機能を発揮できなくなる。そのため、従来の製造方法では不良品を発生させる可能性がある。
【0005】
本開示は、上記のような事情に基づいて完成されたものであって、不良品の発生を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の開示のインサート成形品は、
一端部のみが閉塞された筒部を有する有底筒状部品と、
前記筒部の外周面に接触する筒状保持部を有し、前記筒部の開口端を開放させた形態で前記有底筒状部品と一体化された樹脂成形部とを備え、
前記筒部は、前記筒部の外周面から突出した形態であり、前記筒状保持部の先端面に接する受圧部を有している。
【0007】
第2の開示の有底筒状部品は、
筒状保持部を有する樹脂成形部と一体化されることでインサート成形品を構成するものであって、
一端部のみが閉塞された形態の筒部を有し、
前記筒部の外周面は、前記筒状保持部の内周面と接触可能であり、
前記筒部の開口端は、前記樹脂成形部と一体化された状態で外部に開放されるようになっており、
前記筒部は、前記筒部の外周面から突出した形態であり、前記筒状保持部の先端面と接触可能な受圧部を有している。
【0008】
第3の開示のインサート成形品の製造方法は、
金型に、一端部のみが閉塞された筒部を有する有底筒状部品をセットし、
前記金型内に溶融樹脂を射出することにより、前記筒部の外周面に接触する筒状保持部を有する樹脂成形部を成形するとともに、前記筒部の開口端を開放させた形態で前記樹脂成形部と前記有底筒状部品とが一体化されたインサート成形品を製造する方法であって、
前記筒部の外周面から、前記筒状保持部の先端面を接触させる受圧部を突出させ、
前記金型に、前記筒状保持部の先端面との間で前記受圧部を挟むことが可能な支持部を形成した上で、
前記受圧部が前記支持部に接触する状態で、前記有底筒状部品を前記金型内にセットし、
射出圧を、前記支持部とは反対側から前記受圧部に付与する。
【発明の効果】
【0009】
第1の開示、第2の開示及び第3の開示によれば、有底筒状部品内への溶融樹脂の侵入に起因する不良品の発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1のインサート成形品の断面図である。
【
図2】実施例1の袋ナット(有底筒状部品)を底面側から視た斜視図である。
【
図3】インサート成形品の使用例をあらわした断面図である。
【
図4】インサート成形品の製造方法をあらわした断面図である。
【
図5】実施例2の袋ナット(有底筒状部品)を底面側から視た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
第1の開示のインサート成形品は、
(1)一端部のみが閉塞された筒部を有する有底筒状部品と、
前記筒部の外周面に接触する筒状保持部を有し、前記筒部の開口端を開放させた形態で前記有底筒状部品と一体化された樹脂成形部とを備え、
前記筒部は、前記筒部の外周面から突出した形態であり、前記筒状保持部の先端面に接する受圧部を有している。
【0012】
第1の開示の構成によれば、インサート成形によって樹脂成形部と有底筒状部品を一体化させる工程では、筒状保持部を成形するための射出圧が受圧部に作用する。受圧部は筒部の外周面から突出した形態なので、射出圧によって有底筒状部品が金型に押し付けられ、金型内における有底筒状部品の姿勢が安定する。有底筒状部品の姿勢が安定すると、有底筒状部品の開口端と金型との間に隙間が生じないので、有底筒状部品内に溶融樹脂が侵入するおそれがない。したがって、第1の開示のインサート成形品によれば、有底筒状部品内への溶融樹脂の侵入に起因する不良品の発生を防止できる。
【0013】
(2)前記受圧部は、前記筒部の軸線方向において、前記筒部の前記開口端よりも前記筒状保持部側の位置に配され、前記筒部のうち前記受圧部よりも前記開口端側の部位が、突起状の環状取付部となっていることが好ましい。この構成によれば、有底筒状部品に他部材を取り付ける場合に、他部材を、受圧部には接触させずに環状取付部の先端面に接触させるようにすれば、他部材における受圧部との対向面を有効活用できる。
【0014】
(3)前記受圧部の外周面が露出した状態であることが好ましい。この構成によれば、インサート成形の工程で、受圧部の外周面を金型に接触させることができるので、有底筒状部品が径方向に位置決めすることができる。これにより、金型内における有底筒状部品の姿勢が安定する。
【0015】
第2の開示の有底筒状部品は、
(4)筒状保持部を有する樹脂成形部と一体化されることでインサート成形品を構成するものであって、
一端部のみが閉塞された形態の筒部を有し、
前記筒部の外周面は、前記筒状保持部の内周面と接触可能であり、
前記筒部の開口端は、前記樹脂成形部と一体化された状態で外部に開放されるようになっており、
前記筒部は、前記筒部の外周面から突出した形態であり、前記筒状保持部の先端面と接触可能な受圧部を有している。
【0016】
第2の開示の構成によれば、インサート成形によって有底筒状部品を樹脂成形部と一体化させる工程では、受圧部は、筒状保持部を成形するための射出圧を受ける。受圧部は筒部の外周面から突出した形態なので、有底筒状部品は射出圧によって金型に押し付けられ、金型内における有底筒状部品の姿勢が安定する。有底筒状部品の姿勢が安定すると、有底筒状部品の開口端と金型との間に隙間が生じないので、有底筒状部品内に溶融樹脂が侵入するおそれがない。したがって、第2の開示の有底筒状部品によれば、有底筒状部品内への溶融樹脂の侵入に起因する不良品の発生を防止できる。
【0017】
(5)前記受圧部は、前記筒部の軸線方向において、前記筒部の前記開口端よりも閉塞端部側の位置に配され、前記筒部のうち前記受圧部よりも前記開口端側の部位が、突起状の環状取付部となっていることが好ましい。この構成によれば、有底筒状部品に他部材を取り付ける場合に、他部材を、受圧部には接触させずに環状取付部の先端面に接触させるようにすれば、他部材における受圧部との対向面を有効活用できる。
【0018】
(6)前記受圧部の外周面が、前記樹脂成形部と一体化された状態で露出可能となっていることが好ましい。この構成によれば、インサート成形の工程で、受圧部の外周面を金型に接触させることができるので、有底筒状部品が径方向に位置決めされる。これにより、金型内における有底筒状部品の姿勢が安定する。
【0019】
第3の開示のインサート成形品の製造方法は、
(7)金型に、一端部のみが閉塞された筒部を有する有底筒状部品をセットし、
前記金型内に溶融樹脂を射出することにより、前記筒部の外周面に接触する筒状保持部を有する樹脂成形部を成形するとともに、前記筒部の開口端を開放させた形態で前記樹脂成形部と前記有底筒状部品とが一体化されたインサート成形品を製造する方法であって、
前記筒部の外周面から、前記筒状保持部の先端面を接触させる受圧部を突出させ、
前記金型に、前記筒状保持部の先端面との間で前記受圧部を挟むことが可能な支持部を形成した上で、
前記受圧部が前記支持部に接触する状態で、前記有底筒状部品を前記金型内にセットし、
射出圧を、前記支持部とは反対側から前記受圧部に付与する。
【0020】
第3の開示の構成によれば、インサート成形によって樹脂成形部と有底筒状部品を一体化させる工程では、溶融樹脂の射出圧を、支持部とは反対側から受圧部に付与する。受圧部は筒部の外周面から突出した形態なので、射出圧によって有底筒状部品を金型に押し付け、金型内における有底筒状部品の姿勢を安定させることができる。有底筒状部品の姿勢が安定すると、有底筒状部品の開口端と金型との間に隙間が生じないので、有底筒状部品内に溶融樹脂が侵入するおそれがない。したがって、第3の開示のインサート成形品の製造方法によれば、有底筒状部品内への溶融樹脂の侵入に起因する不良品の発生を防止できる。
【0021】
(8)前記受圧部の外周面を前記金型に接触させることが好ましい。この構成によれば、受圧部の外周面を金型に接触させることにより、有底筒状部品を径方向に位置決めすることができる。これにより、キャビティ内における有底筒状部品の姿勢を安定させることができる。
【0022】
(9)前記金型に形成した位置決め突起を、前記筒部内に進入させることが好ましい。この構成によれば、位置決め突起を筒部内に進入させることにより、金型内における有底筒状部品の姿勢を安定させることができる。
【0023】
(10)前記樹脂成形部が、板状基部から前記筒状保持部を突出させた形態であるインサート成形品を製造する方法であって、前記金型のゲートを、前記板状基部の外周縁と対応する位置に設けた上で、前記溶融樹脂を、前記ゲートから前記板状基部の板面に沿って射出することが好ましい。この構成によれば、板状基部の寸法が大きくても、溶融樹脂を金型内に円滑に充填することができる。板状基部用のキャビティ内における溶融樹脂の流動方向は、有底筒状部品の筒部の径方向と平行な方向である。そのため、有底筒状部品が射出圧によって傾くことが懸念される。しかし、筒状保持部用のキャビティ内における溶融樹脂の流動方向は、筒部の軸線方向と平行な向きになるので、受圧部には、金型に押し付けられる向きの射出圧が付与される。
【0024】
[本開示の実施形態の詳細]
[実施例1]
以下、本開示のインサート成形品10、袋ナット11及び製造方法を具体化した実施例1を
図1~
図4を参照して説明する。本実施例1で開示するインサート成形品10は、
図1に示すように、複数の金属製の袋ナット11と、金型30を用いて射出成形された樹脂成形部21とを備えている。インサート成形品10は、インサート成形により袋ナット11と樹脂成形部21を一体化させたものである。袋ナット11は、請求項に記載の有底筒状部品に相当する。尚、以下の説明において、上下の方向については、
図1,3にあらわれる向きを、そのまま上方、下方と定義する。
【0025】
袋ナット11は、樹脂成形部21と一体化されるのに先立ち、予め製造されたものである。
図1,2に示すように、袋ナット11は、筒部12と閉塞端部13と受圧部17と環状取付部20とを有する単一部品である。筒部12は、全体として軸線を上下方向に向けた円筒形をなす。
図1に示すように、筒部12の下端部(上下両端部のうち一方の端部)は、その全領域が閉塞端部13によって閉塞されている。筒部12の上端部(上下両端部のうち他方の端部)は、開口端14となっている。筒部12の内部空間は、開口端14において外部へ開放されている。筒部12の内周面には、筒部12と同軸状の雌ネジ部15が形成されている。
【0026】
図2に示すように、筒部12の軸線方向(上下方向)における中央部には、ローレット加工等により回り止め部16が形成されている。回り止め部16を含む筒部12の外周面には、樹脂成形部21の筒状保持部24が密着状態で一体化される。回り止め部16が筒状保持部24の内周に食い込んでアンカー効果を発揮することにより、筒部12(袋ナット11)と筒状保持部24(樹脂成形部21)が離脱規制状態で一体化されている。
【0027】
筒部12の外周面には受圧部17が一体に形成されている。上下方向(筒部12の軸線方向)において、受圧部17は、開口端14よりも下方であり、且つ回り止め部16より上方の位置に配されている。受圧部17は、筒部12の外径より大径であり、且つ筒部12と同心状の円板形(フランジ状)をなす。受圧部17の外面のうち閉塞端部13側に臨む領域(
図1,3における下面及び
図4における上面)は、受圧面18となっている。受圧面18は、樹脂成形部21の筒状保持部24の先端面(
図1,3における上端面)が密着状態で一体化されている。
【0028】
受圧面18の外面のうち開口端14側に臨む領域(
図1,3における上面及び
図4における下面)は、突当面19となっている。突当面19は、筒部12の軸線と直角な平面で構成されている。突当面19は、インサート成形工程において、金型30の支持部38と対向して接触する。筒部12のうち開口端14側の端部は、受圧部17の突当面19よりも上方(開口端14側)へ突出した形態の環状取付部20が形成されている。環状取付部20は開口端14を構成している。
【0029】
図1,3に示すように、樹脂成形部21は、水平な平板状をなす板状基部22と、板状基部22の外周縁から立ち上がった周壁部23と、複数の筒状保持部24とを有する単一部材である。筒状保持部24は、板状基部22の上面から上方へ突出した形態である。筒状保持部24は、袋ナット11(筒部12)と同軸状の円筒形をなす。筒状保持部24と袋ナット11の軸線は、板状基部22の板面と直角をなす。筒状保持部24の下端部は板状基部22によって閉塞された形態である。
【0030】
筒状保持部24は、筒状保持部24の外周面と閉塞端部13の外面(下面)に接触している。筒状保持部24の上端面は、受圧部17の受圧面18に接触している。筒状保持部24の外径は受圧部17の外径と同じ寸法である。したがって、筒状保持部24の外周面と受圧部17の外周面は、面一状をなして上下に隣接するように連続している。受圧部17の外周面と突当面19と環状取付部20は、インサート成形品10の外面に露出した状態である。筒状保持部24は、受圧部17よりも下方に位置するので、袋ナット11の上端の開口端14はインサート成形品10の外面に露出している。したがって、樹脂成形部21を構成する樹脂部位は、筒部12の内部(雌ネジ孔内)には存在していない。
【0031】
図3に示すように、インサート成形品10は、回路基板25及びカバー26と一体化されることで、車載電子機器27を構成する。回路基板25は、インサート成形品10に対し環状取付部20の上端面に載置した状態で組み付けられる。回路基板25に貫通させたビス28を雌ネジ部15にねじ込むと、回路基板25とインサート成形品10が組み付けられた状態に固定される。回路基板25とインサート成形品10を組み付けた後、周壁部23の上端縁部にはカバー26が組み付けられる。カバー26とインサート成形品10とで構成されたハウジング29内に、回路基板25が収容される。
【0032】
図4に示すように、金型30は、固定側の下型31と、可動側の上型32とを備えて構成されている。下型31の上面は、板状基部22の内面(
図1,3における上面であり、
図5における下面)を成形するための第1成形面33となっている。下型31の外周面は、周壁部23の内周面を成形するための第2成形面34となっている。上型32の下面には、板状基部22の外面(
図1,3における下面であり、
図5における上面)と、周壁部23の外周面を成形するための第3成形面35が形成されている。
【0033】
下型31には、その上面を凹ませた形態の複数の成形凹部36が形成されている。成形凹部36は、筒状保持部24を成形するとともに、筒状保持部24と袋ナット11を一体化させるための成形空間として機能する。成形凹部36の平面視形状は、筒状保持部24の外径と同じ寸法の円形である。成形凹部36内には、成形凹部36の底面から上方へ突出した形態の位置決め突起37が設けられている。位置決め突起37は、成形凹部36と同軸状の円柱形をなす。位置決め突起37の外径は、雌ネジ部15の内径と同じ寸法か、それよりも少し小さい寸法である。
【0034】
成形凹部36の底面には、成形凹部36と同心の円形をなす支持部38が形成されている。支持部38は、成形凹部36の底面における外周縁部を、底面の中心部よりも段差状に高くした形態である。支持部38の上面は、支持面39となっている。支持面39は、成形凹部36及び位置決め突起37の軸線と直交する平面で構成されている。支持部38(支持面39)の外周縁は、成形凹部36の内周面に対し直角に繋がっている。支持部38(支持面39)の内径は、環状取付部20の外径と同じ寸法である。成形奥部の底面のうち位置決め突起37と支持部38との間の領域は、支持面39より低くなった円環形の位置決め凹部40となっている。
【0035】
上型32には、型締め状態の金型30内に溶融樹脂Rを充填するためのゲート41が設けられている。ゲート41は、上下方向(成形凹部36の軸線方向)においては、板状基部22と対応する高さに配されている。ゲート41は、水平面上においては、板状基部22の外周縁に隣接する位置に配されている。ゲート41は、板状基部22の板面に沿って水平方向に溶融樹脂Rを射出する。ゲート41からの射出方向は、袋ナット11の筒部12の軸線と直角な方向である。
【0036】
次に、インサート成形の製造方法を説明する。まず、袋ナット11を、
図1,3とは上下反転した姿勢で下型31り成形凹部36内にセットする。セットした状態では、筒部12が位置決め突起37に外嵌され、雌ネジ部15の内周が位置決め突起37の外周に接触し、受圧部17の外周面の全領域が成形凹部36の内周面に接触する。これらの接触により、袋ナット11が下型31に対し水平方向(袋ナット11の軸線と直角な方向)に位置決めされる。突当面19が、その全周にわたり、支持面39に対して筒部12の軸線方向に突き当たる。環状取付部20は位置決め凹部40に嵌入する。
【0037】
成形凹部36に袋ナット11をセットした状態では、成形凹部36の内周面と袋ナット11の筒部12の外周面との間に、筒状保持部24用のキャビティ42が形成される。このキャビティ42は、筒部12の軸線方向と同軸状の円筒形である。したがって、このキャビティ42内に流入した溶融樹脂Rも、受圧部17(受圧面18)に向かって筒部12の軸線方向と平行に流れる。
【0038】
袋ナット11を下型31にセットした後、下型31の上に上型32を被せることにより、金型30を型締めする。型締め状態では、第1成形面33と第3成形面35との間に板状基部22用のキャビティ43が形成され、第2成形面34と第3成形面35との間に周壁部23を成形するためのキャビティ44が形成される。筒状保持部24を成形するためのキャビティ42は、板状基部22を成形するためのキャビティ43と連通する。
【0039】
型締めした後、ゲート41から上記キャビティ42,43,44内に溶融樹脂Rが射出される。筒状保持部24用のキャビティ42内では、溶融樹脂Rの射出圧が、筒部12(袋ナット11)の軸線方向と平行に受圧面18に付与される。受圧面18に対する射出圧は、受圧面18に対し全周にわたって均一に付与されるので、袋ナット11の突当面19は、金型30の支持面39に対し全周にわたって均一に押し付けられる。この全周にわたる均一な押圧力により、袋ナット11は金型30に対し傾くことなく適正な姿勢に保持される。また、筒部12が位置決め突起37に外嵌されることによっても、金型30に対する袋ナット11の姿勢の傾きが規制されている。
【0040】
本実施例1のインサート成形品10は、一端部のみが閉塞された筒部12を有する袋ナット11(有底筒状部品)と、樹脂成形部21とをインサート成形により一体化したものである。つまり、袋ナット11は、樹脂成形部21と一体化されることでインサート成形品10を構成するものである。樹脂成形部21は、筒部12の外周面に接触する筒状保持部24を有する。樹脂成形部21と袋ナット11が一体化された状態では、筒部12の開口端14と筒部12内の雌ネジ部15が、インサート成形品10の外部へ開放された形態となる。筒部12は、筒部12の外周面から突出した形態の受圧部17を有する。受圧部17の受圧面18は、筒状保持部24の先端面に接している。
【0041】
インサート成形によって樹脂成形部21と袋ナット11を一体化させる工程では、筒状保持部24を成形するための溶融樹脂Rの射出圧が、受圧部17に対し袋ナット11(筒部12)の軸線方向と平行に作用する。受圧部17は筒部12の外周面から突出した形態なので、射出圧によって袋ナット11が金型30に押し付けられ、金型30内における袋ナット11の姿勢が安定する。袋ナット11の姿勢が安定すると、袋ナット11の開口端14(環状取付部20の先端面)と金型30の位置決め凹部40の底面との間に隙間が生じないので、袋ナット11内に溶融樹脂Rが侵入するおそれがない。したがって、本実施例1のインサート成形品10によれば、袋ナット11内への溶融樹脂Rの侵入に起因する不良品の発生を防止できる。
【0042】
受圧部17は、筒部12の軸線方向において、筒部12の開口端14よりも筒状保持部24側(閉塞端部13側)の位置に配されている。筒部12のうち受圧部17よりも開口端14側の部位が、突起状の環状取付部20となっている。袋ナット11に回路基板25(他部材)を取り付ける場合に、回路基板25を、受圧部17には接触させず、環状取付部20の先端面に接触させている。これにより、回路基板25のうち受圧部17との対向面(
図3における下面)を、プリント回路を配置したりするために有効活用できる。
【0043】
受圧部17の外周面は、インサート成形品10の外面に露出した状態となっている。インサート成形の工程では、受圧部17の外周面を金型30に接触させることができるので、袋ナット11を径方向に位置決めすることができる。これにより、金型30内における袋ナット11の姿勢が安定する。
【0044】
インサート成形品10の製造は、金型30に、一端部のみが閉塞された筒部12を有する袋ナット11をセットし、金型30内に溶融樹脂Rを射出する。溶融樹脂Rの射出により、筒部12の外周面に接触する筒状保持部24を有する樹脂成形部21を成形するとともに、筒部12の開口端14を開放させた形態で樹脂成形部21と袋ナット11とを一体化させる。本実施例1の製造方法においては、筒部12の外周面から、筒状保持部24の先端面を接触させる受圧部17を突出させている。金型30には、筒状保持部24の先端面との間で受圧部17を挟むことが可能な支持部38を形成している。その上で、受圧部17が支持部38に接触する状態で、袋ナット11を金型30内にセットし、筒状保持部24を成型するための溶融樹脂Rの射出圧を、支持部38とは反対側から受圧部17に付与するようにしている。
【0045】
この製造方法によれば、受圧部17が筒部12の外周面から突出した形態なので、支持部38とは反対側から受圧部17に付与する射出圧により、袋ナット11を金型30に押し付けることができる。これにより、金型30内における袋ナット11の姿勢を安定させることができる。さらに、金型30の位置決め突起37を筒部12内に進入させることによっても、金型30内における袋ナット11の姿勢を安定させることができる。袋ナット11の姿勢が安定すると、袋ナット11の開口端14と金型30との間に隙間が生じないので、袋ナット11の内部(雌ネジ部15内)に溶融樹脂Rが侵入するおそれがない。したがって、本実施例1の製造方法によれば、袋ナット11内への溶融樹脂Rの侵入に起因する不良品の発生を防止できる。
【0046】
樹脂成形部21は、板状基部22から筒状保持部24を突出させた形態である。金型30のゲート41は、板状基部22の外周縁と対応する位置に設けられ、溶融樹脂Rを、ゲート41から板状基部22の板面に沿って(板面と平行に)射出するようになっている。この構成によれば、板状基部22の寸法が大きくても、溶融樹脂Rを金型30内に円滑に充填することができる。板状基部22用のキャビティ43内における溶融樹脂Rの流動方向は、袋ナット11の筒部12の径方向と平行な方向である。そのため、袋ナット11が射出圧によって傾くことが懸念される。しかし、筒状保持部24用のキャビティ42内における溶融樹脂Rの流動方向は、筒部12の軸線方向と平行な向きになるので、受圧部17には、金型30に押し付けられる向きの射出圧が付与される。
【0047】
[実施例2]
本開示を具体化した実施例2を、
図5を参照して説明する。本実施例2は、袋ナット50(有底筒状部品)を上記実施例1とは異なる構成としたものである。その他の構成については上記実施例1と同じであるため、同じ構成については、同一符号を付し、構造、作用及び効果の説明は省略する。
【0048】
上記実施例1の袋ナット11は、1つの受圧部17が筒部12の外周から全周にわたって張り出した形態であるのに対し、本実施例2の袋ナット50は、複数(例えば、4つ)の受圧部52が、筒部51の外周面のうち周方向に間隔を空けた複数位置から突出した形態である。筒部51の外周には回り止め部53が形成されている。受圧部52の受圧面54には、樹脂成形部(図示省略)の筒状保持部(図示省略)の先端面が密着する。また、実施例2の袋ナット50を用いたインサート成形(図示省略)を成形するための金型(図示省略)は、実施例1のものと同じ構造である。周方向に隣り合う受圧部52の間に筒状保持部の先端部が入り込む。
【0049】
実施例2においても、実施例1と同様、インサート成形によって樹脂成形部と袋ナット50を一体化させる工程では、筒状保持部を成形するための溶融樹脂Rの射出圧が、複数の受圧部52に対し袋ナット50(筒部51)の軸線方向と平行に作用する。複数の受圧部52は、筒部51の外周面のうち周方向に間隔を空けた複数箇所から突出した形態なので、射出圧によって袋ナット50が金型に押し付けられ、金型内における袋ナット50の姿勢が安定する。
【0050】
[他の実施例]
本発明は、上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示される。本発明には、特許請求の範囲と均等の意味及び特許請求の範囲内でのすべての変更が含まれ、下記のような実施形態も含まれることが意図される。
上記実施例1,2では、受圧部の受圧面が、筒部の軸線と直角な平面で構成されているが、受圧面は、筒部の軸線に対して傾斜した平面や、曲面で構成してもよい。受圧面に、筒状保持部に食い込む突起を形成してもよい。
上記実施例1,2では、受圧部の突当面が、筒部の軸線と直角な平面で構成されているが、突当面は、筒部の軸線に対して傾斜した平面や、曲面で構成してもよい。
上記実施例1,2では、受圧部を、筒部の開口端よりも筒状保持部側(閉塞端部側)の位置に配し、筒部の開口端側の端部に突起状取付部を形成したが、受圧部を筒部の開口端に配し、受圧部の端面と筒部の開口端面とが面一状に連続するようにしてもよい。
上記実施例1,2では、金型に位置決め突起を設けたが、金型は位置決め突起を有しない形態であってもよい。
上記実施例1,2では、有底筒状部品と樹脂成形部を一体化させた状態において、受圧部の外周面の全領域が露出するようにしたが、受圧部の外周面の一部又は全領域が樹脂成形部で覆われるようにしてもよい。
上記実施例1,2では、金型のゲートを、板状基部の外周縁と対応する位置に設け、溶融樹脂がゲートから板状基部の板面に沿って射出されるようにしたが、ゲートを筒部の閉塞端部と対向するように配置し、溶融樹脂がゲートから閉塞端部の外面に向かって射出するようにしてもよい。
上記実施例1,2では、有底筒状部品が、内周に雌ネジ部が形成された袋ナットであるが、有底筒状部品は袋ナット以外の部品であってもよい。
上記実施例1,2では、有底筒状部品に回路基板が取り付けられるようになっているが、有底筒状部品の取付け対象は回路基板以外の部品でもよい。
【符号の説明】
【0051】
10:インサート成形品
11、50:袋ナット(有底筒状部品)
12、51:筒部
13:閉塞端部
14:開口端
15:雌ネジ部
16、53:回り止め部
17、52:受圧部
18、54:受圧面
19:突当面
20:環状取付部
21:樹脂成形部
22:板状基部
23:周壁部
24:筒状保持部
25:回路基板
26:カバー
27:車載電子機器
28:ビス
29:ハウジング
30:金型
31:下型
32:上型
33:第1成形面
34:第2成形面
35:第3成形面
36:成形凹部
37:位置決め突起
38:支持部
39:支持面
40:位置決め凹部
41:ゲート
42:キャビティ
43:キャビティ
44:キャビティ
R:溶融樹脂