(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】車両前部構造
(51)【国際特許分類】
B60R 19/04 20060101AFI20221014BHJP
B62D 25/08 20060101ALI20221014BHJP
B60R 19/34 20060101ALI20221014BHJP
B60R 19/52 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
B60R19/04 M
B62D25/08 D
B60R19/34
B60R19/52 C
(21)【出願番号】P 2018238699
(22)【出願日】2018-12-20
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】八代 裕直
(72)【発明者】
【氏名】後藤 陽一
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-206431(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102006041095(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 19/04
B62D 25/08
B60R 19/34
B60R 19/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バンパ本体の背面側に車幅方向に配置されるバンパメンバと、このバンパメンバの後方に位置するラジエータの両側に配置され、前記バンパメンバを支持した一対のラジエータサポートメンバとを備えた車両前部構造において、前記バンパメンバの前面車幅方向に沿って衝撃吸収部材を配置し、該衝撃吸収部材は前記バンパメンバの上面および底面に接合される上面部及び底面部を有し、かつ前記バンパ本体の背面側に向けて延出した前面部とからなり、該前面部と前記衝撃吸収部材の上面部とは、前下がりの傾斜面で接続され、かつ該前面部と前記衝撃吸収部材の底面部とは、前上がりの傾斜面で接続されて形成され、前記衝撃吸収部材と前記バンパメンバとの間に間隙部を設け、該衝撃吸収部材の前面部が、平面視で車幅方向中央側ほど、前側に突出して、前記傾斜面は車幅方向中央側ほど上下方向に広く形成されていることを特徴する車両前部構造。
【請求項2】
前記バンパメンバは、前部材と、後部材の2部材を接合して閉じ断面形状が形成されており、前記前部材及び後部材の上部フランジはいずれも車両後方に折り返されて形成されており、前記衝撃吸収部材の上面が前記上部フランジ部に接合されている請求項1に記載の車両前部構造。
【請求項3】
前記バンパメンバの前方に配置されているバンパ本体には、ラジエータグリルを含み、該ラジエータグリルは前記衝撃吸収部材の上面部から前面部に繋がる上側傾斜面よりも上方に延びる延長面部を有し、該延長面部は、前記上側傾斜面と背面側が対面する膨出部を含む請求項1または2に記載の車両前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両中央部位における衝撃荷重をより確実に吸収可能な構造にすることができる車両前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車体前面からの衝撃荷重に対して車体への衝撃を吸収するため、鋼鉄製のバンパービーム本体(バンパメンバ)の前面に衝撃吸収部材を結合したバンパービームの構造が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、車両前部の構造としては、車両前部中央にラジエータ、フードラッチ等の剛体が配置されていることから、特に車両中央部位における衝撃をより確実に吸収可能な構造について改善の余地があった。
【0005】
本発明は、車両前方側から加わる衝撃荷重で、特に車両中央部位における衝撃荷重をより確実に吸収可能な構造にすることができる車両前部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、バンパ本体の背面側に車幅方向に配置されるバンパメンバと、このバンパメンバの後方に位置するラジエータの両側に配置され、前記バンパメンバを支持した一対のラジエータサポートメンバとを備えた車両前部構造において、前記バンパメンバの前面車幅方向に沿って衝撃吸収部材を配置し、該衝撃吸収部材は前記バンパメンバの上面および底面に接合される上面部及び底面部を有し、かつ前記バンパ本体の背面側に向けて延出した前面部とからなり、該前面部と前記衝撃吸収部材の上面部とは、前下がりの傾斜面で接続され、かつ該前面部と前記衝撃吸収部材の底面部とは、前上がりの傾斜面で接続されて形成され、前記衝撃吸収部材と前記バンパメンバとの間に間隙部を設け、該衝撃吸収部材の前面部が、平面視で車幅方向中央側ほど前側に突出して傾斜面は車幅方向中央側ほど上下方向に広く形成されていることにある。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、衝撃吸収部材の前面部が、平面視で車幅方向中央側ほど、前側に突出して、前記傾斜面は車幅方向中央側ほど上下方向に広く形成されているので、車両前方側から加わる衝撃に対して、特に車両中央部位における衝撃をより確実に吸収可能な構造にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の形態による車両前部構造を、フロントバンパ本体を外して示す分解斜視図である。
【
図2】
図1の車両前部構造を、フロントバンパ本体を外して示す正面図である。
【
図3】
図1の車両前部構造を、ラジエータを外した状態で示す斜視図である。
【
図6】衝突による衝撃吸収効果を説明するための概念断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の実施の形態による車両前部構造を、フロントバンパ本体を外して示す分解斜視図である。
図2は、フロントバンパ本体を外して車両前部を示す正面図である。
図3は
図1の車両前部構造を、ラジエータを外した状態で示す斜視図である。
図4は、
図1のA-A線で断面にして示す図である。
図5は
図1のB-B線で断面にして示す図である。
【0010】
図1ないし
図5において、1は車両の前面に配設されるフロントバンパ本体で、このフロントバンパ本体1の中央部には、フロントバンパ本体1の後方側に配置されるラジエータ(後述する)を冷却するために冷却風を取り入れるための格子状のラジエータグリル部1Aが設けられている。このラジエータグリル部1Aは、フロントバンパ本体1の中央部の上部側と下部側に分けられており、上部側にアッパグリル部1A
1が、下部側にロアグリル部1A
2が設けられている。
【0011】
前記フロントバンパ本体1の後方側には、エンジンルームを構成する車体前部2が設けられており、この車体前部2は、車両の前後方向にそれぞれ配設された左右のサイドメンバ3,3と、車両の前端部の左右に上下方向に配設され、前記サイドメンバ3,3の先端部に後面部側中間位置をそれぞれ支持されたラジエータサポートメンバ4,4と、車幅方向に配設され、前記ラジエータサポートメンバ4,4の上端部相互間を連結したアッパメンバ5と、下面側車幅方向に配設され、前記ラジエータサポートメンバ4,4の下端部相互間を連結したロアメンバ6と、前記バンパ本体1の背面側に車幅方向に配置され、前記ラジエータサポートメンバ4,4の前端部中間位置にそれぞれ両端部を支持されたバンパメンバ7で構成されている。このバンパメンバ7の後方には、エンジンルーム内のエンジンを冷却するラジエータ8が前記アッパメンバ5とロアメンバ6に支持されて配設されており、このラジエータ8は、図示しない冷却ファンおよび前記グリル部1Aを通して導入される冷却風によって冷却される。
【0012】
前記バンパメンバ7は、車幅方向に長尺の板状の前部材71および後部材72の2部材を接合して閉じ断面形状S1が形成されている。前記前部材71及び後部材72の上部フランジ部71a,72aはいずれも車両後方に折り返されて互いにスポット溶接等により接合して形成されている。また、下部フランジ部71b,72bは、下方向に折り曲げて下方向に延出して互いにスポット溶接等により互いに接合されている。
前記バンパメンバ7の前面には、車幅方向に沿って長尺の衝撃吸収部材9がスポット溶接により接合されている。この衝撃吸収部材9は、前方に向けて凸状の略台形状断面に形成されており、後方側に開口部を有し、衝撃吸収部材9の上面側の上部フランジ部9aが前記前部材71及び後部材72の上部フランジ部71a,72aと共に3枚のプレートでスポット溶接され、下部フランジ部9bが前記前部材71及び後部材72の下部フランジ部71b,72bと共に3枚のプレートでスポット溶接されている。この衝撃吸収部材9は、前記バンパメンバ7との間に閉じ断面形状S2が形成されている。
【0013】
前記衝撃吸収部材9は、
図1および
図2並びに
図5に示すように前面部9cの上端と上部フランジ部9aとの間に前下がりの上側傾斜面9dが設けられており、前面部9cの下端と下部フランジ部9bとの間に後ろ下がりの下側傾斜面9eが設けられている。上側傾斜面9d及び下側傾斜面9eは前面部9cの車幅方向中央部9fが最も前に突出するように上側傾斜面9d及び下側傾斜面9eの車幅方向中央部9fまでの長さL1が長く形成されている。上側傾斜面9d及び下側傾斜面9eの車幅方向中央部9fまでの長さL1を長く形成しているので、前面部9cの車幅方向中央部9f付近が最も上下幅H1が短く、前面部9cの車幅方向両側部9g付近の上下幅H2が長い、(車幅方向中央部付近の上下幅)H1<(車幅方向両側付近の上下幅)H2の関係に形成されている。すなわち、上側傾斜面9dと前面部9cとで形成される稜線及び下側傾斜面9eと前面部9cとで形成される稜線は、前面部9cの車幅方向中央部9fから車幅方向両側部9gに向かってそれぞれ上方ないし下方に湾曲する円弧状に形成されている。
【0014】
前記衝撃吸収部材9は、
図1に示すように前面部9cの車幅方向中央部9fが最も前に突出するように形成されているため、
図5に示すようにフロントバンパ本体1の前方への突出部分1aの背面に上側傾斜面9dが僅かの間隙Gを開けて配置されている。アッパメンバ5にはフードラッチ10が設けられており、このフードラッチ10の前方位置まで、前記アッパグリル部1A
1が、上方に延出されている。前記アッパグリル部1A
1は、前記衝撃吸収部材9の上側傾斜面9dよりも上方に延びる延長面部1A
3を有し、この延長面部1A
3には、上側傾斜面9dと対面する膨出部1A
4が設けられている。
【0015】
次に上記構成の作用を説明する。
車両前方側から加わる衝撃荷重に対して、フロントバンパ本体1が車体後方に移動すると、フロントバンパ本体1の背面がバンパメンバ7の前面の衝撃吸収部材9の前面部9cの車幅方向中央部9fに当たる。衝撃吸収部材9の前面部9cの車幅方向中央部9fが、まず変形して衝撃を吸収し、続いて衝撃吸収部材9の前面部9cの車幅方向両側9g付近が変形して衝撃を吸収していく。そして、衝撃吸収部材9の前記バンパメンバ7との間に設けられた閉じ断面形状S2が潰れて衝撃を吸収していく。そして、バンパメンバ7が衝撃を受け止めてサイドメンバ3,3に衝撃を伝えながら衝撃を車体全体へと伝達していく。
このように実施の形態によれば、
図3に示すように衝撃吸収部材9の前面部9cが、平面視で車幅方向中央側ほど、前側に突出して、上側傾斜面9dは車幅方向中央側ほど上下方向に広く形成されているので、車両前方側から加わる衝撃荷重に対して、潰れやすい傾斜面が車幅方向中央側ほど広く形成され、車幅方向中央側の荷重吸収性が高まっている。
こうして、特に車両中央部位における衝撃をより確実に吸収可能な構造にすることができる。衝撃吸収部材9の前面部9cの車幅方向中央部9fで衝撃を受けることができるので、特に車両中央部位における衝撃をより確実に吸収可能な構造にすることができる。このため、車両前側の軽微の衝撃荷重が加わった際に、ラジエータ等の中央側に位置する車両前部構造に対する衝撃荷重の影響が軽減される。
【0016】
前記バンパメンバ7は、
図5に示すように前部材71と後部材72の2部材を接合して閉じ断面形状S1が形成されており、前記前部材71及び後部材72の上部フランジ部71a,72aはいずれも車両後方に折り返されて形成されており、前記衝撃吸収部材9の上面側の上部フランジ部9aが前記上部フランジ部71a,72aに接合されている。バンパメンバ7と、衝撃吸収部材9の接合部を、バンパメンバ7よりも後方で、かつ車両前後方向に延びる面で形成することで、衝撃吸収部材9の後方における前方からの荷重に対する耐性を高め、衝撃吸収部材9がより確実に潰れるようにしている。また、バンパメンバ7の前部材71及び後部材72の上部フランジ部71a,72aを後方に折り返した構成にすることで、バンパメンバ7の前部材71と後部材72の2部材を接合して形成される閉じ断面形状S1をより上方に位置させることができる。
【0017】
前記バンパメンバ7の前方に配置されているフロントバンパ本体1には、ラジエータグリルラジエータグリル部1Aを含み、該ラジエータグリル部1Aは前記衝撃吸収部材9の上部フランジ部9aに続く上面部から前面部9cに繋がる上側傾斜面9dよりも上方に延びる延長面部1A3を有し、該延長面部1A3は、前記上側傾斜面9dと背面側が対面する膨出部1A4を含んでいる。このように、フロントバンパ本体1側に衝撃吸収部材9の上側傾斜面9dと対応する形状を設けたことによって、衝撃荷重の初期入力時において、フロントバンパ本体1から衝撃吸収部材9に伝達する荷重を上側傾斜面9dに沿って上側に逃がしつつ、衝撃吸収部材9が潰れることによって緩やかに荷重を吸収できる。本構成では、フロントバンパ本体1に設けられたラジエータグリル部1Aの上側を延長していることで、フロントバンパ本体1の意匠面の形状に制約を与えず、荷重伝達効果が得られる。
【0018】
図6は歩行者保護脚部の衝突体Iとの関係を
図5の拡大図を用いて説明したもので、Iyは衝突体Iの関節部の位置を示している。前記バンパメンバ7の上端位置Ixと衝突体Iの関節部位置Iyとの距離が40mm以上に設定されている。これにより、前記衝撃吸収部材9の上側傾斜面9dに下向きに角度をつけることで、衝撃吸収部材9を確実に潰すことにより、衝撃を吸収させることができる。こうして、障害値を低減させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
なお、本発明は、上記実施の形態のみに限定されるものではなく、例えば、
図5に示すように前記衝撃吸収部材9は、前面部9cの上端と上部フランジ部9aとの間に前下がりの上側傾斜面9dと、前面部9cの下端と下部フランジ部9bとの間に後ろ下がりの下側傾斜面9eとが設けられている。上側傾斜面9dと、下側傾斜面9eの傾斜角度については、バンパメンバ7の上下幅と、衝撃吸収部材9の前面部9cの上下幅によって決まってくるもので、上側傾斜面9dおよび下側傾斜面9eの斜面を広くするためには、上側傾斜面9dと、下側傾斜面9eの傾斜角度を小さくすればよい。等、その他本発明の技術的範囲を変更しない範囲内で適宜変更して実施し得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0020】
1 フロントバンパ本体(バンパ本体)
1A ラジエータグリル部
1A1 アッパグリル部
1A2 ロアグリル部
1A3 延長面部
1A4 膨出部
2 車体前部
3 サイドメンバ
4 ラジエータサポートメンバ
5 アッパメンバ
6 ロアメンバ
7 バンパメンバ
71 前部材
72 後部材
8 ラジエータ
9 衝撃吸収部材
9a 上部フランジ部
9b 下部フランジ部
9c 前面部
9d 上側傾斜面
9e 下側傾斜面
9f 車幅方向中央部
9g 車幅方向両側部