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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】ケイ素含有テトラアルキルホウ酸塩
(51)【国際特許分類】
   C07F 19/00 20060101AFI20221014BHJP
   C07F 9/54 20060101ALI20221014BHJP
   C07F 7/08 20060101ALI20221014BHJP
   C07F 5/02 20060101ALI20221014BHJP
   C07C 211/63 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
C07F19/00
C07F9/54
C07F7/08 Z
C07F5/02 A
C07C211/63
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018201059
(22)【出願日】2018-10-25
(65)【公開番号】P2020066605
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-07-30
(73)【特許権者】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004374
【氏名又は名称】日清紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南条 真佐人
(72)【発明者】
【氏名】増田 現
【審査官】安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-001762(JP,A)
【文献】特開2017-052859(JP,A)
【文献】国際公開第2018/105482(WO,A1)
【文献】Howells, Dean et al.,Reactions of silyl-stabilized sulfur ylides with organoboranes: enantioselectivity, mechanism, and understanding,Organic & Biomolecular Chemistry,2008年,(2008), 6(7), 1185-1189
【文献】Utimoto, Kiitiro et al.,Reaction of lithium lithioethynyltrialkylborates with alkyl halides. A facile route to lithium trialkyl-1-alkynylborates,Tetrahedron Letters,1976年,(1976), (44), 3969-70
【文献】Yandulov, Dmitry V. et al.,Conventional Lithium Bases as Unconventional Sources of Methyl Anion: Facile Me-Si and Me-C Bond Cleavage in RLi, R2NLi, and BR4- by an Electrophilic Osmium Dihydride,Organometallics,2002年,(2002), 21(20), 4030-4049
【文献】van den Broeke, Joep et al.,Designing ionic liquids: 1-butyl-3-methylimidazolium cations with substituted tetraphenylborate counterions,European Journal of Inorganic Chemistry,2003年,(2003), (15), 2798-2811
【文献】増田現 他、,脂肪族アンモニウム塩系イオン液体とその物性,高分子学会予稿集,VVol.55, No.2 Disk1, Page.2L03 (2006),2006年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるアニオン、及び下記式(2)で表されるリン原子含有有機カチオン又は下記式(3)で表される窒素原子含有有機カチオンを含み、融点が100℃以下のイオン液体であるケイ素含有テトラアルキルホウ酸塩。
【化1】
(式中、R1~R3は、全てメチル基である。R4~R6は、同一の炭素数のアルキル基である。nは、1~6の整数である。)
【化2】
(式中、R 11 は、炭素数1~20のアルキル基である。R 12 は、炭素数1~20のアルキル基又は-(CH 2 ) k -ORで表されるアルコキシアルキル基である。kは、1又は2である。Rは、メチル基又はエチル基である。)
【化3】
(式中、R 21 ~R 24 は、それぞれ独立に、炭素数1~20のアルキル基、又は-(CH 2 ) k -ORで表されるアルコキシアルキル基である。kは、1又は2である。Rは、メチル基又はエチル基である。また、R 21 ~R 24 のいずれか2つが、互いに結合してこれらが結合する窒素原子とともに環を形成してもよい。更に、R 21 ~R 24 のいずれか2つが互いに結合してこれらが結合する窒素原子とともに環を形成し、残りの2つも互いに結合して窒素原子をスピロ原子とするスピロ環を形成してもよい。)
【請求項2】
カチオンが、式(2)で表されるリン原子含有有機カチオンである請求項1記載の塩。
【請求項3】
12がアルキル基であって、R11とR12とが異なる構造であり、炭素数の差が4以上である請求項2記載の塩。
【請求項4】
カチオンが、式(3)で表される窒素原子含有有機カチオンである請求項1記載の塩。
【請求項5】
窒素原子含有有機カチオンが、下記式(3-1)若しくは(3-2)で表される4級アンモニウムイオン、又は下記式(3-3)若しくは(3-4)で表されるピロリジニウムイオンである請求項4記載の塩。
【化4】
(式中、R及びkは、前記と同じ。R 201 ~R 204 は、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基である。R 205 及びR 206 は、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基である。また、R 205 及びR 206 は、互いに結合してこれらが結合する窒素原子とともに環を形成してもよい。)
【請求項6】
nが、1、2又は3である請求項1~のいずれか1項記載の塩。
【請求項7】
融点が、25℃以下のイオン液体である請求項記載の塩。
【請求項8】
カチオンが、オクチルトリブチルホスホニウムカチオン、テトラブチルホスホニウムカチオン又はテトラブチルアンモニウムカチオンである請求項1記載の塩。
【請求項9】
オクチルトリブチルホスホニウム(トリメチルシリルメチル)トリエチルボラート、テトラブチルアンモニウム(トリメチルシリルメチル)トリエチルボラート、テトラブチルアンモニウム(トリメチルシリルメチル)トリブチルボラート、テトラブチルアンモニウム(トリメチルシリルメチル)トリイソブチルボラート、又はテトラブチルホスホニウム(トリメチルシリルメチル)トリエチルボラートである請求項1記載の塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素含有テトラアルキルホウ酸塩に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン液体とは、イオンのみから構成される塩であって、一般に融点が100℃以下のものをいう。イオン液体は、その特性から様々な応用研究がなされている。これまで知られているイオン液体の多くは、アニオンにフッ素原子等のハロゲン原子を含んでいることから、環境負荷という点で依然として問題があり、ハロゲンフリーのイオン液体が望まれていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、ハロゲン原子を含まないイオン液体となり得る新規な塩を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、トリアルキルシリル基を有するテトラアルキルホウ酸塩によって前記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0005】
すなわち、本発明は、下記ケイ素含有テトラアルキルホウ酸塩を提供する。
1.下記式(1)で表されるアニオン、及びカチオンを含むケイ素含有テトラアルキルホウ酸塩。
【化1】
(式中、R1~R3は、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基である。R4~R6は、それぞれ独立に、炭素数1~8のアルキル基である。nは、1~6の整数である。)
2.R1~R3が、同一の基である1の塩。
3.R1~R3が、全てメチル基又はエチル基である2の塩。
4.R1~R3が、全てメチル基である3の塩。
5.R4~R6が、炭素数2~6のアルキル基である1~4のいずれかの塩。
6.R4~R6が、同一の基である1~5のいずれかの塩。
7.nが、1、2又は3である1~6のいずれかの塩。
8.カチオンが、有機カチオンである1~7のいずれかの塩。
9.カチオンが、リン原子含有有機カチオンである8の塩。
10.カチオンが、窒素原子含有有機カチオンである8の塩。
11.融点が、100℃以下のイオン液体である1~10のいずれかの塩。
12.融点が、25℃以下のイオン液体である11の塩。
【発明の効果】
【0006】
本発明のケイ素含有テトラアルキルホウ酸塩は、カチオンの種類によってイオン液体となり、ハロゲンフリーであるため環境負荷が小さい。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例1で作製したオクチルトリブチルホスホニウム(トリメチルシリルメチル)トリエチルボラートの1H-NMRスペクトルである。
図2】実施例1で作製したオクチルトリブチルホスホニウム(トリメチルシリルメチル)トリエチルボラートの13C-NMRスペクトルである。
図3】実施例1で作製したオクチルトリブチルホスホニウム(トリメチルシリルメチル)トリエチルボラートの11B-NMRスペクトルである。
図4】実施例1で作製したオクチルトリブチルホスホニウム(トリメチルシリルメチル)トリエチルボラートのTG-DTAチャートである。
図5】実施例1で作製したオクチルトリブチルホスホニウム(トリメチルシリルメチル)トリエチルボラートのDSCチャートである。
図6】実施例2で作製したテトラブチルアンモニウム(トリメチルシリルメチル)トリエチルボラートの1H-NMRスペクトルである。
図7】実施例2で作製したテトラブチルアンモニウム(トリメチルシリルメチル)トリエチルボラートの13C-NMRスペクトルである。
図8】実施例2で作製したテトラブチルアンモニウム(トリメチルシリルメチル)トリエチルボラートの11B-NMRスペクトルである。
図9】実施例2で作製したテトラブチルアンモニウム(トリメチルシリルメチル)トリエチルボラートのTG-DTAチャートである。
図10】実施例2で作製したテトラブチルアンモニウム(トリメチルシリルメチル)トリエチルボラートのDSCチャートである。
図11】実施例3で作製したテトラブチルアンモニウム(トリメチルシリルメチル)トリブチルボラートの1H-NMRスペクトルである。
図12】実施例3で作製したテトラブチルアンモニウム(トリメチルシリルメチル)トリブチルボラートの13C-NMRスペクトルである。
図13】実施例3で作製したテトラブチルアンモニウム(トリメチルシリルメチル)トリブチルボラートの11B-NMRスペクトルである。
図14】実施例3で作製したテトラブチルアンモニウム(トリメチルシリルメチル)トリブチルボラートのTG-DTAチャートである。
図15】実施例3で作製したテトラブチルアンモニウム(トリメチルシリルメチル)トリブチルボラートのDSCチャートである。
図16】実施例4で作製したテトラブチルアンモニウム(トリメチルシリルメチル)トリイソブチルボラートの1H-NMRスペクトルである。
図17】実施例4で作製したテトラブチルアンモニウム(トリメチルシリルメチル)トリイソブチルボラートの13C-NMRスペクトルである。
図18】実施例4で作製したテトラブチルアンモニウム(トリメチルシリルメチル)トリイソブチルボラートの11B-NMRスペクトルである。
図19】実施例4で作製したテトラブチルアンモニウム(トリメチルシリルメチル)トリイソブチルボラートTG-DTAチャートである。
図20】実施例4で作製したテトラブチルアンモニウム(トリメチルシリルメチル)トリイソブチルボラートのDSCチャートである。
図21】実施例5で作製したテトラブチルホスホニウム(トリメチルシリルメチル)トリエチルボラートの1H-NMRスペクトルである。
図22】実施例5で作製したテトラブチルホスホニウム(トリメチルシリルメチル)トリエチルボラートの13C-NMRスペクトルである。
図23】実施例5で作製したテトラブチルホスホニウム(トリメチルシリルメチル)トリエチルボラートの11B-NMRスペクトルである。
図24】実施例5で作製したテトラブチルホスホニウム(トリメチルシリルメチル)トリエチルボラートのTG-DTAチャートである。
図25】実施例5で作製したテトラブチルホスホニウム(トリメチルシリルメチル)トリエチルボラートのDSCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[ケイ素含有テトラアルキルホウ酸塩]
本発明のケイ素含有テトラアルキルホウ酸塩は、下記式(1)で表されるアニオン、及びカチオンを含むものである。
【化2】
【0009】
式(1)中、R1~R3は、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基である。前記アルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基等が挙げられる。
【0010】
これらのうち、R1~R3としては、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、炭素数1~3の直鎖アルキル基がより好ましく、メチル基又はエチル基が更に好ましい。また、R1~R3は、全て同一の基であることが好ましく、全てメチル基又はエチル基であることがより好ましく、全てメチル基であることが更に好ましい。
【0011】
式(1)中、R4~R6は、炭素数1~8のアルキル基である。前記アルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、前述した炭素数1~4のアルキル基のほか、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、イソペンチル基等が挙げられる。
【0012】
これらのうち、R4~R6としては、炭素数2~6のアルキル基が好ましく、炭素数2~4のアルキル基がより好ましく、エチル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基が更に好ましい。また、R4~R6は、全て同一の基であることが好ましい。
【0013】
式(1)中、nは、1~6の整数であるが、1、2又は3が好ましい。
【0014】
本発明のケイ素含有テトラアルキルホウ酸塩に含まれるカチオンは、特に限定されないが、1価のものが好ましい。また、前記カチオンは、無機カチオンであっても、有機カチオンであってもよいが、有機カチオンが好ましい。
【0015】
前記無機カチオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等のアルカリ金属イオン、マグネシウムイオン、銀イオン、亜鉛イオン、銅イオン等の金属イオンが挙げられる。
【0016】
前記有機カチオンとしては、リン原子含有有機カチオンや窒素原子含有有機カチオンが好ましく、具体的には、4級ホスホニウムイオン、4級アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン等が好ましい。
【0017】
前記リン原子含有有機カチオンとしては、例えば下記式(2)で表される4級ホスホニウムイオンが好ましい。
【化3】
【0018】
式(2)中、R11は、炭素数1~20のアルキル基である。前記炭素数1~20のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、前述した炭素数1~8のアルキル基のほか、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコシル基等が挙げられる。
【0019】
式(2)中、R12は、炭素数1~20のアルキル基又は-(CH2)k-ORで表されるアルコキシアルキル基である。kは、1又は2である。Rは、メチル基又はエチル基である。前記炭素数1~20のアルキル基としては、前述したものが挙げられる。前記アルコキシアルキル基としては、メトキシメチル基、エトキシメチル基、メトキシエチル基及びエトキシエチル基が挙げられる。前記アルコキシアルキル基のうち、好ましくはメトキシメチル基又はメトキシエチル基である。
【0020】
式(2)で表される4級ホスホニウムイオンのうち、R12が-(CH2)k-ORで表されるアルコキシアルキル基であるものはイオン液体を形成しやすい。R12がアルキル基の場合は、R11とR12とが異なる構造のものはイオン液体を形成しやすい。この場合、炭素数の差が1以上あることが好ましく、より好ましくは2以上、更に好ましくは4以上である。
【0021】
前記窒素原子含有有機カチオンとしては、例えば下記式(3)で表されるものが好ましい。
【化4】
【0022】
式(3)中、R21~R24は、それぞれ独立に、炭素数1~20のアルキル基、又は-(CH2)k-ORで表されるアルコキシアルキル基である。kは、1又は2である。Rは、メチル基又はエチル基である。前記炭素数1~20のアルキル基及びアルコキシアルキル基としては、前述したものと同様のものが挙げられる。
【0023】
また、R21~R24のいずれか2つが、互いに結合してこれらが結合する窒素原子とともに環を形成してもよい。更に、R21~R24のいずれか2つが互いに結合してこれらが結合する窒素原子とともに環を形成し、残りの2つも互いに結合して窒素原子をスピロ原子とするスピロ環を形成してもよい。この場合、前記環としては、アジリジン環、アゼチジン環、ピロリジン環、ピペリジン環、アゼパン環等が挙げられるが、ピロリジン環、ピペリジン環等が好ましく、ピロリジン環等がより好ましい。また、前記スピロ環としては、1,1'-スピロビピロリジン環が特に好ましい。
【0024】
21~R24がすべてアルキル基の場合は、少なくとも1つがその他のものと異なる構造であるものはイオン液体を形成しやすく、この場合、炭素数の差が1以上であることが好ましく、より好ましくは2以上、更に好ましくは4以上である。
【0025】
式(3)で表される窒素原子含有有機カチオンとして具体的には、下記式(3-1)又は(3-2)で表される4級アンモニウムイオン、下記式(3-3)又は(3-4)で表されるピロリジニウムイオン等が挙げられる。
【化5】
【0026】
式(3-1)~(3-4)中、R及びkは、前記と同じ。R201~R204は、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基である。R205及びR206は、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基である。また、R205及びR206は、互いに結合してこれらが結合する窒素原子とともに環を形成してもよい。前記炭素数1~4のアルキル基としては、前述したものと同様のものが挙げられる。
【0027】
前記窒素原子含有有機カチオンとしては、例えば下記式(4)で表されるイミダゾリウムイオンも好ましい。
【化6】
【0028】
式(4)中、R31及びR32は、それぞれ独立に、炭素数1~20のアルキル基、又は-(CH2)k-ORで表されるアルコキシアルキル基である。R及びkは、前記と同じである。前記炭素数1~20のアルキル基及びアルコキシアルキル基としては、前述したものと同様のものが挙げられる。この場合、R31とR32とは異なる基である方が、イオン液体を形成しやすい。
【0029】
前記窒素原子含有有機カチオンとしては、例えば下記式(5)で表されるピリジニウムイオンも好ましい。
【化7】
【0030】
式(5)中、R41は、炭素数1~8のアルキル基、又は-(CH2)k-ORで表されるアルコキシアルキル基である。R及びkは、前記と同じである。前記炭素数1~8のアルキル基及びアルコキシアルキル基としては、前述示したものと同様のものが挙げられる。
【0031】
本発明のケイ素含有テトラアルキルホウ酸塩は、カチオンの種類によってはイオン液体となる。例えば、カチオンが式(3-4)で表されるものはイオン液体になりやすく、また、式(2)で表されるもののうち、R11とR12とが異なる構造のものはイオン液体になりやすい。本発明においてイオン液体とは、イオンのみから構成される塩であって、融点が100℃以下のものを意味する。本発明のケイ素含有テトラアルキルホウ酸塩からなるイオン液体は、融点が室温(25℃)以下(すなわち、室温で液体)であるものが好ましい。本発明のケイ素含有テトラアルキルホウ酸塩からなるイオン液体は、ハロゲンフリーであるため環境負荷が小さい。
【0032】
[ケイ素含有テトラアルキルホウ酸塩の製造方法]
本発明のケイ素含有テトラアルキルホウ酸塩は、例えば、下記スキームAに従って製造することができる。
【化8】
(式中、R1~R6及びnは、前記と同じ。E+は、1価のカチオンである。X-は、ハロゲン化物イオンである。)
【0033】
まず、化合物(1A)と化合物(1B)とを反応させ、化合物(1C)を合成する(第1工程)。ここで、前記式中n=1のとき、化合物(1C)は空気中で不安定なため、不活性ガス下で反応を行うことが好ましい。なお、化合物(1A)は、対応するハロゲン化物から公知の方法、例えば、実験化学講座(第4版)24巻(丸善出版)第1章記載の方法で合成できる。
【0034】
第1工程の反応は、化合物(1A)の溶液及び化合物(1B)の溶液を混合することで進行させることができる。このとき、溶液の溶媒としては、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等の有機溶媒を使用することができる。
【0035】
第1工程の反応において、式(1A)で表される化合物と式(1B)で表される化合物との使用比率は、モル比で5:1~1:5程度とすることができるが、コスト面を考慮すると、1:1に近い比率で行うことが好ましい。
【0036】
第1工程の反応は、30~90℃で行うことが好ましく、50~70℃で行うことがより好ましい。反応時間は、通常4~8時間程度である。
【0037】
得られた化合物(1C)は、通常の後処理を行って回収し、次工程に使用することができる。
【0038】
次に、第2工程として、化合物(1C)と化合物(1D)とのイオン交換反応を行う。これによって、式(1)で表されるアニオンを含む塩を得ることができる。
【0039】
イオン交換反応は、例えば、化合物(1C)の水溶液及び化合物(1D)の水溶液を混合することで行うことができる。このときの反応温度は、10~50℃で行うことが好ましく、室温付近で(25℃前後)で行うことが更に好ましい。反応時間は、通常1~2時間程度である。なお、化合物(1C)及び化合物(1D)を混合するときは、水溶液に限定されず、両者を溶かすものであれば有機溶媒を用いてもよい。
【0040】
第2工程の反応において、式(1C)で表される化合物と式(1D)で表される化合物との使用比率は、モル比で5:1~1:5程度とすることができるが、コスト面を考慮すると、1:1に近い比率で行うことが好ましい。
【0041】
反応終了後は、通常の後処理を行って目的物を得ることができる。
【0042】
本発明のケイ素含有テトラアルキルホウ酸塩は、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、レドックスキャパシタ、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウム空気電池、プロトンポリマー電池等の蓄電デバイスの電解液溶媒、電解質や電解質用添加剤としても使用できる。また、本発明のケイ素含有テトラアルキルホウ酸塩は、潤滑剤としても使用できる。更に、本発明のケイ素含有テトラアルキルホウ酸塩は、ゴム、プラスチック等の高分子材料に添加する帯電防止剤や可塑剤等としても使用できる。また、本発明のケイ素含有テトラアルキルホウ酸塩からなるイオン液体は、ハロゲンフリーのイオン液体であるため、環境負荷の少ないグリーン溶媒として有用である。
【実施例
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。なお、実施例等で使用した分析装置及び条件は以下のとおりである。
[1]核磁気共鳴(1H-NMR、13C-NMR、11B-NMR)スペクトル
装置:日本電子(株)製ECP-500
溶媒:重水、重ジメチルスルホキシド又は重クロロホルム
[2]融点
(実施例1のみ)
装置:セイコーインスツル(株)製DSC6200
測定条件:20~40℃まで毎分10℃昇温、40℃で1分間保持後、40~-100℃まで毎分1℃降温、-100℃で1分間保持後、-100~100℃まで毎分1℃昇温の条件で測定した。
(実施例2~5)
装置:(株)リガク製Thermo plus EVO II DSC
測定条件:30~100℃まで毎分5℃昇温、100℃で1分間保持後、100~30℃まで毎分5℃降温の条件で測定した。
[3]分解点
装置:(株)リガク製Thermo plus EVO II TG-DTA
測定条件:空気雰囲気下、室温~500℃まで毎分10℃昇温の条件で測定し、10%重量減少した温度を分解点とした。
【0044】
[実施例1]オクチルトリブチルホスホニウム(トリメチルシリルメチル)トリエチルボラートの合成
[実施例1-1]リチウム(トリメチルシリルメチル)トリエチルボラートの合成
この実験操作は、全て真空ライン又はグローブボックス内で行い、系内に空気が入らないように注意して行った。また、溶媒は、全て凍結脱気し、乾燥させたものを用いた。
磁気攪拌子を備えたナス型シュレンクフラスコにトリエチルボランのヘキサン溶液10.0mL(10.0mmol)を入れ、ここにアルゴン気流下、室温で(トリメチルシリル)メチルリチウムのヘキサン溶液10.0mL(9.53mmol)を加えた。このとき、シュレンクフラスコ内は瞬時に白濁した。この固体をライン操作でろ過し、得られた固体をヘキサンで洗浄後、真空乾燥することでリチウム(トリメチルシリルメチル)トリエチルボラートを空気に不安定な無色結晶として得た。収量1.59g(8.23mmol)、収率86.4%。
【0045】
[実施例1-2]オクチルトリブチルホスホニウム(トリメチルシリルメチル)トリエチルボラートの合成
この実験操作は、全て真空ライン又はグローブボックス内で行い、系内に空気が入らないように注意して行った。また溶媒は、全て凍結脱気したもの用いた。
臭化オクチルトリブチルホスホニウム0.72g(1.81mmol)とリチウム(トリメチルシリルメチル)(トリエチル)ボラート0.29g(1.52mmol)を別々のナス型シュレンクフラスコに入れ、それぞれに水5mLを加えた。臭化オクチルトリブチルホスホニウム水溶液を、シリンジを用いてもう一方のナス型シュレンクフラスコに加えた、このとき、フラスコ内は瞬時に白濁した。1時間攪拌後、フラスコ内は二層の液体に分かれた。この上層を2回水で洗浄し、真空乾燥することで、オクチルトリブチルホスホニウム(トリメチルシリルメチル)トリエチルボラートを無色粘性液体として得た。収量0.42g(0.85 mmol)、収率55.6%。
得られたオクチルトリブチルホスホニウム(トリメチルシリルメチル)トリエチルボラートの1H-NMRスペクトルを図1に、13C-NMRスペクトルを図2に、11B-NMRスペクトルを図3に、TG-DTAチャートを図4に、DSCチャートを図5に示す。
【0046】
[実施例2]テトラブチルアンモニウム(トリメチルシリルメチル)トリエチルボラートの合成
臭化オクチルトリブチルホスホニウムのかわりに臭化テトラブチルアンモニウムを用いた以外は、実施例1-2と同様の方法でテトラブチルアンモニウム(トリメチルシリルメチル)トリエチルボラートを白色固体として得た。
得られたテトラブチルアンモニウム(トリメチルシリルメチル)トリエチルボラートの1H-NMRスペクトルを図6に、13C-NMRスペクトルを図7に、11B-NMRスペクトルを図8に、TG-DTAチャートを図9に、DSCチャートを図10に示す。
【0047】
[実施例3]テトラブチルアンモニウム(トリメチルシリルメチル)トリブチルボラートの合成
トリエチルボランのヘキサン溶液のかわりにトリブチルボランのヘキサン溶液10.0mL(10.0mmol)を用いた以外は、実施例1-1と同様の方法でリチウム(トリメチルシリルメチル)トリブチルボラートを得た。
次に、臭化オクチルトリブチルホスホニウムのかわりに臭化テトラブチルアンモニウムを用い、リチウム(トリメチルシリルメチル)(トリエチル)ボラートのかわりにリチウム(トリメチルシリルメチル)トリブチルボラートを用いた以外は、実施例1-2と同様の方法でテトラブチルアンモニウム(トリメチルシリルメチル)トリブチルボラートを白色固体として得た。
得られたテトラブチルアンモニウム(トリメチルシリルメチル)トリブチルボラートの1H-NMRスペクトルを図11に、13C-NMRスペクトルを図12に、11B-NMRスペクトルを図13に、TG-DTAチャートを図14に、DSCチャートを図15に示す。
【0048】
[実施例4]テトラブチルアンモニウム(トリメチルシリルメチル)トリイソブチルボラートの合成
トリエチルボランのヘキサン溶液のかわりにトリイソブチルボランのヘキサン溶液を用いた以外は、実施例1-1と同様の方法でリチウム(トリメチルシリルメチル)トリイソブチルボラートを得た。
次に、臭化オクチルトリブチルホスホニウムのかわりに臭化テトラブチルアンモニウムを用い、リチウム(トリメチルシリルメチル)(トリエチル)ボラートのかわりにリチウム(トリメチルシリルメチル)トリブチルボラートを用いた以外は、実施例1-2と同様の方法でテトラブチルアンモニウム(トリメチルシリルメチル)トリイソブチルボラートを白色固体として得た。
得られたテトラブチルアンモニウム(トリメチルシリルメチル)トリイソブチルボラートの1H-NMRスペクトルを図16に、13C-NMRスペクトルを図17に、11B-NMRスペクトルを図18に、TG-DTAチャートを図19に、DSCチャートを図20に示す。
【0049】
[実施例5]テトラブチルホスホニウム(トリメチルシリルメチル)トリエチルボラートの合成
臭化オクチルトリブチルホスホニウムのかわりに臭化テトラブチルホスホニウムを用いた以外は、実施例1-2と同様の方法でテトラブチルホスホニウム(トリメチルシリルメチル)トリエチルボラートを白色固体として得た。
得られたテトラブチルホスホニウム(トリメチルシリルメチル)トリエチルボラートの1H-NMRスペクトルを図21に、13C-NMRスペクトルを図22に、11B-NMRスペクトルを図23に、TG-DTAチャートを図24に、DSCチャートを図25に示す。
【0050】
DSC及びTG-DTA測定より求めた得られた各ケイ素含有テトラアルキルホウ酸塩の融点及び分解点を、表1に示す。
【0051】
【表1】
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