(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】作業場の解体処理方法
(51)【国際特許分類】
B09B 5/00 20060101AFI20221014BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20221014BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
B09B5/00 Z
B05D1/36 Z
B05D7/00 K
(21)【出願番号】P 2019060580
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2022-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(73)【特許権者】
【識別番号】304045147
【氏名又は名称】株式会社染めQテクノロジィ
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】後藤 幸宏
(72)【発明者】
【氏名】小倉 正裕
(72)【発明者】
【氏名】清水 由章
(72)【発明者】
【氏名】松本 忠雄
(72)【発明者】
【氏名】西村 裕太
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 洋平
(72)【発明者】
【氏名】関口 有佳里
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-187456(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0017986(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B
B05D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PCBが取り扱われた作業場に設置されている設置物であり、且つ、PCBで汚染されているPCB汚染物である前記設置物を処理対象とし、
前記設置物を前記作業場で解体する解体工程と、
該解体工程で解体された後の前記設置物を前記作業場から搬出する搬出工程とが実施される作業場の解体処理方法であって、
前記設置物の表面に塗料を塗布して前記設置物を塗膜で覆い、該塗膜の表面におけるPCB濃度を該塗膜が形成される前の前記設置物の表面におけるPCB濃度よりも低下させる塗膜形成工程をさらに実施し、
該塗膜形成工程では、前記設置物の表面に接する第1層と、直接又は他の層を介して前記第1層に重なる第2層とを含む2層以上の積層構造を有する前記塗膜を形成し、且つ、
該塗膜形成工程では、前記第1層を形成させる第1塗布処理の後に前記第2層を形成させる第2塗布処理を実施し、
前記第1塗布処理では、前記塗料を塗布するための塗布部材を前記設置物の表面に接触させて前記第1層を形成し、
前記第2塗布処理では、前記第1層が形成されている前記設置物に対して非接触となる方法で、前記第1塗布処理と同じか又は異なる塗料を用いて前記第2層を形成させ、
前記搬出工程では、該塗膜形成工程が行われた後の前記設置物を前記作業場から搬出する作業場の解体処理方法。
【請求項2】
前記第1層が形成される前記
設置物の表面が非多孔質である請求項1記載の
作業場の解体処理方法。
【請求項3】
前記第2塗布処理では、前記第1層とは異なる色調の前記第2層を形成させる請求項1又は2記載の
作業場の解体処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCBで汚染された汚染物の処理方法及び作業場の解体処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PCB(ポリ塩化ビフェニル)は、安定性、不燃性、電気絶縁性に優れていることから過去においては、コンデンサやトランス等の電気機器の絶縁油として利用されていたが、後に、その難分解性と毒性とが明らかとなって現在では使用が制限されている。
そして、その使用を規制するとともにPCBを使用した電気機器ついては回収措置がとられ、管理区域が設けられた特別な施設において無害化処理がなされている。
【0003】
ところで、PCBを使用した電気機器の長年の無害化処理により、処理対象となる機器の数も減少してきており、無害化処理のための施設の幾つかはその使命を終えつつある。
このような電気機器の無害化処理に利用されてきた作業場には、内壁面を構成するパネル(側壁パネル、天井パネル等)、場内に配された配管、作業台、棚などといった種々の設置物が備えられている。
そしてこれらの設置物は、微量のPCBを含む室内の空気に長年晒されてきていることから表面にPCBが蓄積されている場合がある。
【0004】
このような作業場を別目的で再利用したり解体処理したりする場合、PCBで汚染された汚染物(以下「PCB汚染物」ともいう)となった前記のような設置物に対しては、何等かの処理を施すことが求められ、表面に付着しているPCBによる悪影響が周囲に及ばないように対策することが求められている。
【0005】
表面にPCBが付着しているPCB汚染物の処理方法としては、例えば、下記特許文献1に記載されているように洗浄による除染方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような洗浄による除染を行う場合、PCBを含有する多量の洗浄廃液が発生するおそれがあり、廃液処理に多大な手間が発生するおそれがある。
洗浄による除染では、除染対象となるPCB汚染物が配管などの長尺物であったり、作業場の側壁パネルのような大面積のものであったりした場合、これらを密閉された空間内に収容して洗浄することは難しいため、解放空間においてノズルで洗浄液を吹き付けるような作業が必要になると考えられる。
【0008】
上記のような除染を行うと洗浄液の飛散を十分防ぐことが難しく、洗浄液とともにPCBが周囲に飛散してしまうおそれがある。
洗浄槽などに収容可能な大きさにまでPCB汚染物を解体することで解放空間での洗浄作業が必要になることを防止することも可能であるが、この場合PCB汚染物の解体に際してPCBが周囲に拡散してしまうおそれがある。
即ち、PCB汚染物の従来の処理方法やPCBが取り扱われた作業場を解体処理する従来の方法においては、PCB汚染物から周囲へのPCBの拡散を十分抑制することが難しいという問題を有する。
そこで、本発明はこのような問題を解決することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、本発明者は、PCB汚染物の表面に塗料を塗布して前記PCB汚染物を塗膜で覆い、該塗膜の表面におけるPCB濃度を該塗膜が形成される前のPCB汚染物の表面におけるPCB濃度よりも低下させるようにすればPCBの周囲への拡散が抑制されることを見出した。
また、本発明者は、単に塗膜を形成させるだけでは、塗膜の一部が剥がれて脱落する際に剥がれた塗膜に付着したPCBが周囲に拡散してしまうおそれがあるものの特定の方法で塗膜を形成させれば塗膜の剥がれが抑制され得ることを見出して本発明を完成させるに至った。
【0010】
上記のような課題を解決すべく本発明は、
PCBで汚染されているPCB汚染物の処理方法であって、
前記PCB汚染物の表面に塗料を塗布して前記PCB汚染物を塗膜で覆い、該塗膜の表面におけるPCB濃度を該塗膜が形成される前の前記PCB汚染物の表面におけるPCB濃度よりも低下させる塗膜形成工程を実施し、
該塗膜形成工程では、前記PCB汚染物の表面に接する第1層と、直接又は他の層を介して前記第1層に重なる第2層とを含む2層以上の積層構造を有する前記塗膜を形成し、且つ、
該塗膜形成工程では、前記第1層を形成させる第1塗布処理の後に前記第2層を形成させる第2塗布処理を実施し、
前記第1塗布処理では、前記塗料を塗布するための塗布部材を前記PCB汚染物の表面に接触させて前記第1層を形成し、
前記第2塗布処理では、前記第1層が形成されている前記PCB汚染物に対して非接触となる方法で、前記第1塗布処理と同じか又は異なる塗料を用いて前記第2層を形成させるPCB汚染物の処理方法、を提供する。
【0011】
上記のような課題を解決すべく本発明は、また、
PCBが取り扱われた作業場に設置されている設置物であり、且つ、PCBで汚染されているPCB汚染物である前記設置物を処理対象とし、
前記設置物を前記作業場で解体する解体工程と、
該解体工程で解体された後の前記設置物を前記作業場から搬出する搬出工程とが実施される作業場の解体処理方法であって、
前記設置物の表面に塗料を塗布して前記設置物を塗膜で覆い、該塗膜の表面におけるPCB濃度を該塗膜が形成される前の前記設置物の表面におけるPCB濃度よりも低下させる塗膜形成工程をさらに実施し、
該塗膜形成工程では、前記設置物の表面に接する第1層と、直接又は他の層を介して前記第1層に重なる第2層とを含む2層以上の積層構造を有する前記塗膜を形成し、且つ、
該塗膜形成工程では、前記第1層を形成させる第1塗布処理の後に前記第2層を形成させる第2塗布処理を実施し、
前記第1塗布処理では、前記塗料を塗布するための塗布部材を前記設置物の表面に接触させて前記第1層を形成し、
前記第2塗布処理では、前記第1層が形成されている前記設置物に対して非接触となる方法で、前記第1塗布処理と同じか又は異なる塗料を用いて前記第2層を形成させ、
前記搬出工程では、該塗膜形成工程が行われた後の前記設置物を前記作業場から搬出する作業場の解体処理方法、を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明ではPCB汚染物が塗膜で覆われ、しかも、この塗膜が剥がれ落ちてしまうことが抑制されるため、PCB汚染物から周囲へPCBが拡散することを抑制させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】PCBで汚染された汚染物が取り扱われた作業場の一例を示した概略図。
【
図3】塗膜形成後のPCB汚染物(壁パネル)の表面状態を示した概略断面図(
図2のIII-III線矢視断面図)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態について以下に説明する。
なお、以下においては、PCBが周囲へ拡散することを抑制する処理を行う処理対象物が、これまで長年に亘ってPCBが取り扱われてきた作業場に設置されている設置物である場合を例にして本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
図1は、PCBで汚染されているPCB汚染物である前記設置物に対してPCBの拡散抑制のための処理が実施される作業場を示したものであり、図にも示されているように、本実施形態における前記作業場100は、横長な直方体状の内部空間(作業空間)を有している。
前記作業場100は、直方体状の前記作業空間の底面を画定する床壁11と、該床壁11の4辺よりそれぞれ垂直に立上り作業空間の側面を画定する側壁12と、前記床壁11よりも上方に配され、作業空間の上面を画定する天井壁13とを備えている。
【0016】
前記側壁12において作業場100の内壁面を構成する部位は複数のパネル(以下「側壁パネル12a」ともいう)によって構成されている。
該側壁パネル12aは、長方形の金属板である。
本実施形態において作業場100の内壁面を構成する前記金属板は、表面の平滑性に優れ非多孔質なものである。
従って、本実施形態の側壁パネル12aの表面は、メタノールなどの粘度の低い液体を滴下してもコンクリートや木材のように含浸することがない。
具体的には、側壁パネル12aは、表面上にメタノールを数滴滴下させた後、滴下させたメタノールを素早く濾紙に吸い取らせた場合に、その99質量以上が濾紙に吸い取られてしまうような非多孔質なものとなっている。
然しながら、本実施形態での側壁パネル12aは、PCBを含む場内空気に長年に亘って晒されて来たために微量のPCBが表面に蓄積されてしまっている。
【0017】
前記側壁12は、輪郭形状が矩形となる開口部が形成されており、該開口部にはドアパネル12bが組み込まれている。
本実施形態においては、前記ドアパネル12bも側壁パネル12aと同様に長期に亘ってPCBを含む場内空気に暴露されてきたものであり、その表面にPCBが付着したPCB汚染物である。
【0018】
前記天井壁13は、前記側壁12と同様に前記作業場100の内壁面を構成する部位は複数のパネル(以下「天井パネル13a」ともいう)によって構成されている。
【0019】
本実施形態の前記作業場100には作業空間を通るように配された配管20が備えられており、該配管20も長期に亘ってPCBを含む場内空気に暴露されたことでPCB汚染物となっている。
【0020】
本実施形態の前記作業場100には、工具や備品を保管するための保管棚30、作業台40、グローブボックス50などがさらに備えられている。
以上のように本実施形態の作業場100には、側壁パネル12a、天井パネル13a、配管20などの比較的構造が単純な設置物の他に保管棚30、作業台40、グローブボックス50などといった形状が複雑は設置物が存在している。
また、設置物には、特段の作業を行うことなく作業場100から移動可能なものの他にアンカーボルトなどで躯体に取り付けられていて躯体から取り外す作業を行うことなく移動することが困難なものも存在する。
【0021】
PCB汚染物となっているこれらの設置物の内、側壁パネル12a、天井パネル13a、配管20、保管棚30、作業台40などは、PCBの表面付着量(「ふきとり試験法」での付着量)が0.1μg/100cm2以上1000μg/100cm2未満の低濃度PCB含有廃棄物に該当するものである。
一方で、グローブボックス50はPCBの表面付着量が1000μg/100cm2以上となる高濃度PCB含有廃棄物に該当するものである。
【0022】
本実施形態では、例えば、
図2に示されるように前記側壁パネル12aを処理対象とすることができる。
前記側壁パネル12aから周囲へのPCBの拡散を抑制するための処理方法では、PCB汚染物である前記側壁パネル12aの表面に塗料を塗布して前記側壁パネル12aを塗膜で覆い、該塗膜の表面におけるPCB濃度を該塗膜が形成される前の前記側壁パネル12aの表面におけるPCB濃度よりも低下させる塗膜形成工程を実施する。
即ち、塗膜が形成された後の側壁パネル12ax(以下「塗膜付側壁パネル12ax」ともいう)は、初期の側壁パネル12a(以下「初期側壁パネル12a」ともいう)からなるパネル本体12a
0と、該パネル本体12a
0の表面上に形成された塗膜12a
1とを有している。
【0023】
前記塗膜形成工程では、
図3に示されているように前記側壁パネル12a(パネル本体12a
0)の表面に接する第1層L1と、直接又は他の層を介して前記第1層L1に重なる第2層L2とを含む2層以上の積層構造を有する前記塗膜12a
1を形成し、且つ、該塗膜形成工程では、前記第1層L1を形成させる第1塗布処理(
図2(1)~(2))の後に前記第2層L2を形成させる第2塗布処理(
図2(3)~(4))を実施し、前記第1塗布処理では、前記塗料を塗布するための塗布部材を前記側壁パネル12aの表面に接触させて前記第1層L1を形成し、前記第2塗布処理では、前記第1層L1が形成されている前記側壁パネル12a’に対して非接触となる方法で前記第2層L2を形成する。
【0024】
この非接触となる方法とは、PCB汚染物に塗布部材などを接触させずに塗膜を形成させることを意味し、例えば、PCB汚染物から離れた位置において塗料を噴射し、この噴射した塗料によって塗膜を形成させる方法などのことを意味する。
塗料を噴射することで前記第2層L2を形成させる方法としては、例えば、PCB汚染物に向けて塗料を噴射してPCB汚染物に直接的に塗料を吹き付ける方法や、PCB汚染物とは別の方向に塗料を噴射して塗料によるミストを発生させ、該ミストをPCB汚染物に付着させる方法などが挙げられる。
本実施形態においては、前記第1層L1が形成されている前記側壁パネル12a’に対して前記第1塗布処理と同じか又は異なる塗料を吹き付けて前記第2層L2を形成する。
前記第1層L1及び前記第2層L2を形成するためのそれぞれの塗料は、本実施形態においては常温において液状であり硬化反応を示すものである。
【0025】
前記第1塗布処理で用いる塗布部材としては、
図4に示したように、刷毛BL、ペイントローラーRL、コテ刷毛PBなどが利用可能である。
前記刷毛BLとしては、複数の毛が束ねられてなる毛束やスポンジなどといった塗料が含浸可能な部材で構成された塗料担持部BL1と、該塗料担持部BL1を保持するための取手BL2とを備えた一般的なものと採用することができる。
ペイントローラーRLとしては、取手RL2と、取手RL2の先端に軸周りに回転可能なように取り付けられた円筒状の塗料担持部RL1とを有する一般的なものを採用することができる。
コテ刷毛PBについても同様に取手PB2と、取手PB2の先端に取り付けられた板状の塗料担持部PB1とを有する一般的なものを採用することができる。
【0026】
前記第2塗布処理の塗料の吹き付けには、塗料タンクSP1と、該塗料タンクSP1に収容されている塗料を霧状にして吐出するノズルSP2とを備えたスプレーガンSPなどが用いられ得る。
【0027】
第1塗布処理では、例えば、前記ペイントローラーRLの塗料担持部RL1に塗料を十分含浸担持させた状態にした上で該塗料担持部RL1を側壁パネル12aの表面に当接させて回転させつつ側壁パネル12aの表面に対して相対移動させることでウェット状態の第1層L1’を側壁パネル上の全面に形成させることができる。
第1塗布処理は、このウェット状態の第1層L1’を乾燥固化させて皮膜化させるような方法で実施することができる。
前記ペイントローラーRLではなく、刷毛BLやコテ刷毛PBを用いる場合も、塗料を含浸させた塗料担持部RL1,PB1を側壁パネル12aの表面に摺接させつつ側壁パネル12aの表面に対して相対移動させることによってウェット状態の第1層L1’を側壁パネル上の全面に形成させた後、このウェット状態の第1層L1’を乾燥固化させて皮膜化させるような方法で実施することができる。
【0028】
続く第2塗布処理では、例えば、前記ノズルSP2から霧状になって噴出される塗料を乾燥固化した第1層L1の表面に吹き付けて第1層L1の全面を覆うようにウェット状態の第2層L2’を形成させたることができる。
第2塗布処理は、このウェット状態の第2層L2’を乾燥固化させて皮膜化させるような方法で実施することができる。
乾燥固化した第2層L2と、その直下の第1層L1との2層の積層構造を有する塗膜12a1は、塗布部材を側壁パネル12aの表面に接触させて前記第1層L1が形成されることから前記パネル本体12a0から脱落し難い。
しかも、前記塗膜12a1は、第2層L2の表面におけるPCB濃度を該塗膜12a1が形成される前の初期側壁パネル12aの表面におけるPCB濃度よりも十分低減させることができる。
そのため塗膜12a1が形成された後の塗膜付側壁パネル12axは、周囲へのPCBの拡散が抑制されたものとなる。
【0029】
塗膜形成工程を実施する前の前記側壁パネル12aの表面には、PCBや埃などの堆積によって一種の皮膜状のものが形成されている場合がある。
本実施形態においては刷毛BLやペイントローラーRLなどの塗布部材を接触させる形で第1塗布処理が実施されて前記側壁パネル上に前記第1層L1が形成されるため、塗布部材の当接力によってPCBや埃などによる皮膜を打破して塗料を側壁パネル12aの表面に直接接触させ易くなる。
尚、そのことで元々側壁パネル12aの表面に存在していたPCBが第1層L1の表面に浮き出た状態になり易くなるものの、本実施形態においては塗料の吹き付けによって第2層L2が形成される。
この第2層L2の形成(第2塗布処理)に際しては、仮に第1層L1の表面にPCBが浮き出た状態であっても塗布部材を接触させたりしないため第2層L2の内側にPCBを閉じ込め易い。
そのため、本実施形態では、塗膜表面のPCB濃度を十分低減することができ、塗膜12a1が形成された後の側壁パネル12axを、低濃度PCB含有廃棄物に該当しない状態(0.1μg/100cm2未満)にまで到達させ得る。
【0030】
前記第1層L1を形成させる際には、刷毛などの塗布部材にPCBが付着してしまうおそれがある。
そして、PCBが付着した刷毛を塗料に浸すと刷毛に付着したPCBで塗料までもが汚染されるおそれがある。
そのようなことを回避するためには、塗料を小分けにして用い、小分けに用いた容器や刷毛などは小まめに取り替えることが望ましいが、本実施形態では前記第1層L1にPCBが含まれている場合でも、前記第2層L2によってPCBの封じ込めが行われるため、小分け容器や刷毛などを小まめに取り替える必要性を低減させ得る。
【0031】
前記第1塗布処理と前記第2塗布処理との間には、前記第1層L1を乾燥させる乾燥工程を設けてもよい。
該乾燥工程は、特段の処理をせずに一定時間(例えば、5分以上)放置するだけの自然乾燥や、風を当てたり、輻射式オーブンによって第1層L1を加熱したりする強制乾燥によって実施することができる。
このような強制乾燥は、前記第2層L2の形成後にも行うことができる。
【0032】
本実施形態における前記側壁パネル12aのようなものではなく、前記第1層が形成されるPCB汚染物の表面が多孔質なものである場合、そもそも第1層には高いアンカー効果が作用することを期待できるため、そもそも塗膜剥がれの懸念が低い。
そのような観点からは、非多孔質な表面を有する側壁パネル12aを処理対象にしている本実施形態においては本発明の効果がより顕著に発揮されているといえる。
【0033】
前記側壁パネル12aと同様に非多孔質なものとしては、例えば、床、柱、梁、デッキ、ケーブルラックなどの建築構造物;オイルパン等のパン類;塔槽類;設備・機械類;操作盤・制御盤ケーシング;工具類などが挙げられる。
一方で、表面が多孔質なものとしては、ALCパネル、石膏ボード、コンクリートブロック、テラコッタパネルなどの窯業製品;コンパネ合板、スノコなどの木製品;壁紙などの紙製品;織布、不織布などの繊維製品などが挙げられる。
【0034】
本実施形態における前記第2塗布処理では、前記第1層L1とは異なる色調の前記第2層L2を形成させることが好ましい。
そのことにより前記第2層L2を形成させるための塗料を第1層L1の表面に塗布する際に塗りムラが生じたり、塗り残した箇所が生じたりすることを防止することができる。
なお、一般には、JIS Z8730:2009の7.1.1項に規定の色差(ΔE*ab)の値が0.5以上であると異なる色として認識されるとされている。
したがって、前記第1層L1と前記第2層L2とは色差計によって色差を測定した際に、0.5以上の色差を有することが好ましい。
前記第1層L1と前記第2層L2との色差は、1.0以上であることがより好ましく、3.0以上であることが特に好ましい。
【0035】
第1層L1や第2層L2の形成には、エポキシ樹脂を含む塗料が用いられることが好ましい。
該塗料は、変性ポリアミド樹脂をさらに含有することが好ましい。
該変性ポリアミド樹脂は、前記エポキシ樹脂との反応性を有するものが好ましく、例えば、フェノール性水酸基やアミノ基などの活性水素を有する官能基を備えていることが好ましい。
即ち、前記塗料は、反応硬化型塗料であることが好ましい。
【0036】
前記塗料は、無機フィラーを含有することが好ましい。
前記塗料は、例えば、タルク、クレイ、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、マイカ、アルミナなどの体質顔料として機能する無機フィラーを含有することが好ましい。
また、前記塗料は、酸化チタン、酸化鉄などの着色顔料として機能する無機フィラーを含有することが好ましい。
前記塗料は、シリカ、ダイアトマイト(珪藻土)、ドロマイト、ムライト、モンモリロナイト、セリサイト、スメクタイト、バーミキュライト、アパタイト、雲母などを無機フィラーとして含有してもよい。
該無機フィラーは、塗料が乾燥固化して塗膜を形成した状態において、10質量%以上70質量%以下の割合となるように前記塗料に含有させることが好ましい。
【0037】
前記塗料は、第1層中でのPCBの固定化を容易にさせるような成分を含有することが好ましい。
このような点において、PCBとの親和性に優れたPCB吸着成分が前記塗料に含有されていることが好ましい。
PCBの溶解度パラメータ(Sp値)は、10.8~13.5程度であると考えられることから、前記PCB吸着成分はSp値が8.0~11.0であることが好ましい。
なお、本明細書でのSp値とは、Fedorsの推算法から算出した値を意味する。
具体的な算出式を下記に示す。
δ=[ΣEcoh/ΣV]1/2
ここで、δ[(cal/cm3)1/2]はSp値を、ΣEcoh[cal/mol]は凝集エネルギーを、ΣV[cm3/mol]はモル分子容を意味する。
【0038】
本実施形態において好ましく用いられ得る前記PCB吸着成分としては、例えば、アクリル酸イソブチル、t-ブチルアクリレート、イソステアリルメタクリレート、スチレン、ジビニル化合物などが挙げられる。
該PCB吸着成分は、前記エポキシ樹脂100質量部に対して1質量部以上20質量部以下となる割合で前記塗料に含有されることが好ましい。
【0039】
本実施形態においては、前記無機フィラーをそのままの状態で、或いは、表面処理を施してPCB吸着成分として利用することも可能である。
なかでも、珪藻土、タルク、クレイなどは安価に入手可能であるばかりでなく、PCBの吸着性にも優れており、PCB吸着成分として好適である。
【0040】
PCB吸着成分としては、1μm以下の粒径を有する無機フィラー(ナノ粒子)であって、1nm以上750nm以下の外径を有するナノ細孔を備えているナノ粒子も好適である。
前記ナノ粒子は、表面に疎水コーティング層を有していてもよく、オイル、溶媒、アルコール、界面活性剤、および、それらの組み合わせからなる群より選択される1以上の収容物が前記ナノ細孔に収容されていてもよい。
前記収容物は、表面張力、ファンデルワールス力および、それらの組み合わせによって前記ナノ細孔中に固定されていることが好ましい。
前記ナノ細孔は、5nm以上500nm以下であることがより好ましく、10nm以上400nm以下であることがさらに好ましい。
【0041】
前記疎水コーティング層は、フッ素化有機物や単分子膜によって形成させることができる。
前記単分子膜は、「Xy(CH3)(3-y)SiLR」で表されるケイ素化合物を珪藻土などの表面に塗布した後で熱処理することによって形成することができる。
(ここでy=1~3;XはCl、Br、I、H、HO、R’HN、R’2N、イミダゾール、R’C(O)N(H)、R’C(O)N(R”)、R’O、F3CC(O)N(H)、F3CC(O)N(CH3)、またはF3S(O)2Oであって、R’は炭素1~4の直鎖または分枝鎖炭化水素、またR”はメチル基またはエチル基;連結基となるLは、CH2CH2、CH2CH2CH2、CH2CH2O、CH2CH2CH2O、CH2CH2C(O)、CH2CH2CH2C(O)、CH2CH2OCH2、CH2CH2CH2OCH2であって;Rは(CF2)nCF3または(CF(CF3)OCF2)nCF2CF3であるが、nは0から24の値を取るものとする。)
好ましいケイ素化合物はy=3を持つ。
これらケイ素化合物は、珪藻土などの表面にある複数のOH基に接合可能であるため、内側に親水基、外側に疎水器を配した状態で単分子膜を形成し得る。
【0042】
前記塗料は、例えば、鏡面加工され、且つ、十分に脱脂処理されたステンレス板(例えば、SUS304板)に対して約100μm厚みとなるように塗膜を形成した際に、該塗膜に10N/mm2以上の付着性(JIS K5600-5-7:2004、プルオフ法)が発揮されるようなものが好ましい。
前記塗膜の付着力は、15N/mm2以上であることがより好ましく。20N/mm2以上であることがさらに好ましい。
塗膜の前記付着力については、前記第1層形成後、及び、前記第2層形成後のそれぞれにおいてプルオフ試験を実施した際にも発揮されることが好ましい。
【0043】
第1層L1や第2層L2のそれぞれの厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、10μm以上500μm以下の範囲の内の何れかとされ得る。
尚、第1層L1や第2層L2は、それぞれ厚みや形成に用いる塗料が共通していても異なっていてもよい。
上記においては、塗膜が第1層L1と第2層L2との2層構造である場合を例にしているが、本実施形態における塗膜は、第1層L1と第2層L2との間に1以上の中間層を有していてもよい。
但し、過度な層数を有する塗膜を形成させようとすると作業が煩雑になってしまうおそれがあることから前記塗膜は4層以下の積層数であることが好ましく、3層以下の積層数であることがより好ましい。
即ち、第1層L1と第2層L2との間に中間層が設けられるにしても、該中間層は2層以下とされることが好ましい。
【0044】
中間層を設け得るのと同様に、前記塗膜には、前記第2層L2の外側にさらに1以上の保護層を設けるようにしてもよい。
該保護層を設ける場合も中間層と同様に層数は2層以下であることが好ましい。
【0045】
本実施形態の塗膜には、前記中間層と前記保護層とをさらに設けるようにしてもよい。
即ち、本実施形態の塗膜は、内側から外側に向けて第1層L1、中間層、第2層L2、及び、保護層の順となる4層以上の積層構造を有していてもよい。
【0046】
PCB汚染物から周囲にPCBが拡散することを抑制するための上記のような処理方法は、作業場の解体処理方法の一環として実施してもよい。
解体処理がされる前記作業場100としては、例えば、PCBを含む絶縁油が収容されたコンデンサやトランスなどの電気機器を無害化するために前記電気機器を分解して素材ごとに分別したり、分解された部品を洗浄したりする作業が行われた作業場などが挙げられる。
【0047】
本実施形態ではこのようにしてPCBが取り扱われた作業場に設置されている設置物であって、且つ、表面にPCBが付着しているPCB汚染物である前記設置物が当該解体処理方法における処理対象となる。
本実施形態における作業場の解体処理方法では、前記設置物を前記作業場で解体する解体工程と、該解体工程で解体された後の前記設置物を前記作業場から搬出する搬出工程とが実施される。
本実施形態の作業場の解体処理方法においては、前記のように側壁パネル12aなどの設置物の表面に塗料を塗布して当該設置物を塗膜で覆い、該塗膜の表面におけるPCB濃度を該塗膜が形成される前の前記設置物の表面におけるPCB濃度よりも低下させる塗膜形成工程がさらに実施される。
本実施形態の作業場の解体処理方法では、前記解体工程が実施される前、又は、前記解体工程が実施された後の前記設置物(以下「解体物」ともいう)に対して前記塗膜形成工程が実施される。
該塗膜形成工程では、前記の通り前記設置物の表面に接する第1層L1と、直接又は他の層を介して前記第1層L1に重なる第2層L2とを含む2層以上の積層構造を有する前記塗膜12a1を前記パネル本体12a0などの表面上に形成する。
そして、本実施形態の該塗膜形成工程では、前記第1層L1を形成させる第1塗布処理の後に前記第2層L2を形成させる第2塗布処理を実施し、前記第1塗布処理では、前記塗料を塗布するための塗布部材を前記設置物の表面に接触させて前記第1層L1を形成し、前記第2塗布処理では、すでに前記第1層L1が形成されている前記設置物に対して前記第1塗布処理と同じか又は異なる塗料を吹き付けて前記第2層L2を形成させる。
さらに、本実施形態の前記搬出工程では、前記塗膜形成工程が行われた後の前記解体物を前記作業場から搬出することができる。
【0048】
前記塗膜形成工程後、且つ、前記搬出工程前には、前記解体物を梱包する梱包工程をさらに実施してもよい。
該梱包工程では、シート状の包装材(包装用シート)で1又は複数の解体物を包み込んで包装体を形成し、この包み込まれた状態が解除されないようにテープや紐を包装用シートの上から掛け回し、これらで包装体を縛るような一般的な方法を採用することができる。
本実施形態の解体物には、塗膜に優れた接着性が発揮されるため、包装体を強く縛っても塗膜が解体物から剥がれることが抑制される。
また、本実施形態の解体物には前記塗膜が強固に接着しているため、梱包せずに解体物を搬送しても途中でPCBが付着した塗膜が剥がれ落ちるおそれが低い。
従って、本実施形態においては、前記のような梱包工程を実施する必要性を低減させることができ、作業場の解体・搬送における作業効率を向上させ得る。
【0049】
前記側壁パネル12aを側壁12から取り外して作業場100から搬出する場合、前記側壁パネル12aに対して第1層L1や第2層L2を形成させるのは、複数の側壁パネル12aが作業場100の側壁12を構成している集合状態で実施しても、側壁12が解体されて個々の側壁パネル12aに分けられた分解状態で行ってもよい。
前記側壁パネル12aの解体・搬送に際しては、要すれば、前記集合状態において前記塗膜形成工程での前記第1塗布処理を実施し、前記分解状態において前記第2塗布処理を実施してもよい。
即ち、本実施形態の解体処理方法では、個々の側壁パネル12aへの解体は、前記第1層L1の形成後且つ前記第2層L2の形成前に実施して、前記第2層L2の形成後に前記梱包工程や前記搬出工程を実施してもよい。
このような手順で解体処理を行うと、前記第1塗布処理の作業効率を良好なものとすることができるとともに隠ぺい箇所や狭小箇所といった第1塗布処理の時点では塗膜を形成させることが難しい部位に対して後から実施される前記第2塗布処理で塗膜形成をさせることができる。
即ち、このような手順で解体処理を行うと、PCBの拡散抑制処理を効率よく実施することができる。
【0050】
なお、本実施形態においては、処理対象となるPCB汚染物として専ら側壁パネル12aを例示しているが、天井パネル13aなどを処理対象とする場合も上記と同様にしてPCBの拡散防止を図ることができる。
さらに、配管20や保管棚30などといったその他の設置物についても上記と同様にしてPCBの拡散防止を図ることができ、PCBの拡散防止を図った上で必要に応じて解体・梱包して作業場から搬出することができる。
また、本実施形態の処理方法は、これら以外のものが処理対象となってもよい。
即ち、本発明は上記例示に何等限定解釈されるべきものではない。
【実施例】
【0051】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
まず、ふきとり試験において35μg/100cm2のPCB付着量が認められるステンレス板を試験体作製用の基板として用意した。
次いで、このステンレス板の表面に塗膜を形成させて試験体を作製するために用いる塗料としては、以下のようなものを用意した。
(製造メーカー)株式会社 染めQテクノロジィ
(商品名)「油封じ込め塗料1225」
(主剤)エポキシ樹脂(50-60質量%)、酸化チタン(1-20質量%)
(硬化剤)変性ポリアミド樹脂ワニス(20-30質量%)、体質顔料(60-70質量%)
【0052】
ステンレス板の表面に刷毛塗りやスプレーによる吹き付けなどによって塗膜を形成して試験体を作製した。
該試験体は、塗膜が十分乾燥固化した状態でふき取り試験によるPCB付着量の計測を実施した。
その結果、刷毛塗りによる単層の塗膜を形成させた試験体であっても、吹き付けによる単層の塗膜を形成させた試験体であってもふき取り試験PCB付着量は0.05μg/100cm2未満となった。
次いで、刷毛塗りによる単層の塗膜を形成させた試験体(試験体A)、吹き付けによる単層の塗膜を形成させた試験体(試験体B)、及び、刷毛塗りによる第1層と吹き付けによる第2層との積層構造を有する塗膜を形成させた試験体(試験体C)について、プルオフ法での塗膜の付着力試験を実施した。
また、試験体A、試験体B、試験体Cの塗膜の表面をマイナスドライバーで引っ掻いて傷付きの程度を観測した。
試験結果は、下記表の通りとなった。
【0053】
【0054】
以上の結果からも、本発明によればPCB汚染物から周囲へPCBが拡散することを抑制できることがわかる。
【符号の説明】
【0055】
11 床壁
12 側壁
12a 側壁パネル
12a0 パネル本体
12a1 塗膜
13 天井壁
13a 天井パネル
20 配管
30 保管棚
40 作業台
50 グローブボックス
100 作業場
RL ペイントローラー
SP スプレーガン