IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 東京医科歯科大学の特許一覧 ▶ 株式会社ジャパン・メディカル・カンパニーの特許一覧

<>
  • 特許-ヒト頭部模型 図1
  • 特許-ヒト頭部模型 図2
  • 特許-ヒト頭部模型 図3
  • 特許-ヒト頭部模型 図4
  • 特許-ヒト頭部模型 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】ヒト頭部模型
(51)【国際特許分類】
   G09B 23/30 20060101AFI20221014BHJP
【FI】
G09B23/30
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022021588
(22)【出願日】2022-02-15
【審査請求日】2022-06-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】518194246
【氏名又は名称】株式会社ジャパン・メディカル・カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100138519
【弁理士】
【氏名又は名称】奥谷 雅子
(74)【代理人】
【識別番号】100210675
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 潤
(72)【発明者】
【氏名】菅原 貴志
(72)【発明者】
【氏名】大野 秀晃
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンキャスペル 愛美
(72)【発明者】
【氏名】白川 勇仁
【審査官】宇佐田 健二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/144806(WO,A1)
【文献】特開2021-105677(JP,A)
【文献】特開2004-347623(JP,A)
【文献】特開2020-067494(JP,A)
【文献】特表2014-512025(JP,A)
【文献】亀井 聡,“細菌性髄膜炎の症状・原因・予後”,Medical Note,日本,株式会社メディカルノート,2017年11月28日,pp.1-7,https://medicalnote.jp/contents/171127-001-XS,[2022年7月12日検索]
【文献】奥田武司,経鼻的内視鏡手術におけるトレーニングシステムの開発,脳神経外科速報,日本,メディカ出版,2013年03月,vol.23 no.3,第331~336頁
【文献】株式会社ジャパン・メディカル・カンパニー,“頭蓋底右側+硬膜+血管+神経”,INTERNETARCHIVE waybackmachine,日本,Internet Archive,2020年09月24日,pp.1-6,http://web.archive.org/web/20200924232043/https://www.kezlex.com/products/skull/a24-2/,[2022年7月6日検索]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 9/00,23/28-23/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト頭蓋内における疾患の開頭手術の訓練用または教育用のヒト頭部模型であって、
前頭骨の少なくとも一部分と、蝶形骨洞後壁の少なくとも一部分と、を含むヒト頭蓋部と、
蝶形骨洞後壁の一部または全部に少なくとも部分的に接着している、骨膜硬膜に対応する第1の薄層と、
第1の薄層の一部または全部に少なくとも部分的に接着している、固有骨膜に対応する第2の薄層と
を含み、
第1の薄層が、ヒト頭蓋部と第2の薄層の間に配置され、
第2の薄層が、第3の接着剤を介して、第1の薄層の一部または全部に少なくとも部分的に接着しており、
第1の薄層の色と第2の薄層の色が異なる、
ヒト頭部模型。
【請求項2】
第1の薄層が、第1の接着剤を介して、蝶形骨洞後壁の一部または全部に少なくとも部分的に接着する、請求項1に記載のヒト頭部模型。
【請求項3】
第1の接着剤が、酢酸ビニル樹脂系の接着剤またはでんぷん含有の接着剤を含む、請求項2に記載のヒト頭部模型
【請求項4】
3の接着剤が、酢酸ビニル樹脂系の接着剤またはでんぷん含有の接着剤を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のヒト頭部模型。
【請求項5】
第1の薄層が紙からなる、請求項1~のいずれか一項に記載のヒト頭部模型。
【請求項6】
第2の薄層が紙からなる、請求項1~のいずれか一項に記載のヒト頭部模型
【請求項7】
形骨洞後壁の少なくとも一部が、トルコ鞍、後床突起および斜台を少なくとも含む、請求項1~のいずれか一項に記載のヒト頭部模型
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト頭部模型に関する。より詳細には、本発明は、ヒト頭蓋内における骨膜(例えば、骨膜硬膜)と硬膜(例えば、固有硬膜)が関与し得る領域(例えば、海綿静脈洞)における三次元構造を学習しうる、および/または骨膜(例えば、骨膜硬膜)と硬膜(例えば、固有硬膜)が関与し得る領域(例えば、海綿静脈洞)における外科手術の訓練や教育に有用な、ヒト頭部模型に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト頭蓋底(前頭蓋底、中頭蓋窩、後頭蓋窩)は、複雑な膜構造で覆われている。この膜構造を構成する代表的な膜として、ヒト頭蓋に少なくとも一部が接している骨膜(例えば、骨膜硬膜)と、骨膜に少なくとも一部が接している硬膜(例えば、固有硬膜)が知られている。そして、骨膜と硬膜の間には、海綿静脈洞などの領域が存在することが知られている。
【0003】
海綿静脈洞には、三叉神経などの脳神経、内頚動脈などの動脈、上眼静脈などの静脈が張り巡らされている。海綿静脈洞などの骨膜(例えば、骨膜硬膜)と硬膜(例えば、固有硬膜)が関与し得る領域に腫瘍等が発生した場合、外科的に開頭し、脳神経や内頚動脈等に過度なダメージを与えないように、骨膜(例えば、骨膜硬膜)や硬膜(例えば、固有硬膜)などを剥離等し、腫瘍等を除去する場合がある。そのため、このような外科手術にあたっては、ヒト頭蓋内の骨膜(例えば、骨膜硬膜)と硬膜(例えば、固有硬膜)が関与し得る領域(例えば、海綿静脈洞)周辺における膜構造や骨構造、脳神経、動脈および静脈等の三次元的な理解が極めて重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ヒト頭蓋内の骨膜(例えば、骨膜硬膜)と硬膜(例えば、固有硬膜)が関与し得る領域(例えば、海綿静脈洞)周辺における膜構造や骨構造などは、専門書等で二次元的に言及されているものの、三次元的に理解できる書籍や模型は公知ではなかった。そのため、外科手術の経験が浅い医師や医学生等は、外科手術の経験が豊富な医師等による実際の手術を見学するなどして、ヒト頭蓋内の骨膜(例えば、骨膜硬膜)と硬膜(例えば、固有硬膜)が関与し得る領域(例えば、海綿静脈洞)周辺における膜構造や骨構造などを三次元的に学習するほかなかった。また、ヒト頭蓋内の骨膜(例えば、骨膜硬膜)と硬膜(例えば、固有硬膜)が関与し得る領域(例えば、海綿静脈洞)では、骨膜や硬膜を剥離する際の感覚(力加減など)を熟知することが重要であるところ、外科手術の経験が浅い医師や医学生等は、このような感覚を学習、訓練する機会がなかった。したがって、ヒト頭蓋内の骨膜と硬膜が関与し得る領域(例えば、海綿静脈洞)周辺は、ヒトの生命活動の維持に重要な神経や血管が多数張り巡らされており、外科手術時の誤った操作が患者の生命活動の維持に重大な影響を与えうるにもかかわらず、これらの三次元構造を学習する機会や、ヒト頭蓋内の外科手術の訓練をする機会がほとんどない、との課題があった。
【0005】
したがって、本発明は、ヒト頭蓋内における骨膜(例えば、骨膜硬膜)と硬膜(例えば、固有硬膜)が関与し得る領域(例えば、海綿静脈洞)における三次元構造を学習しうる、および/または骨膜(例えば、骨膜硬膜)と硬膜(例えば、固有硬膜)が関与し得る領域(例えば、海綿静脈洞)における外科手術の訓練や教育に有用な、ヒト頭部模型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み、本発明者らは、ヒト頭蓋内の外科手術における長年の経験を総動員し、鋭意検討を重ねたところ、意外にも、ヒト頭蓋部と、蝶形骨洞後壁の少なくとも一部に少なくとも一部が接着している第1の薄層と、第1の薄層の少なくとも一部に接着している第2の薄層とを含むヒト頭部模型とすることで、骨膜(例えば、骨膜硬膜)と硬膜(例えば、固有硬膜)が関与し得る領域(例えば、海綿静脈洞)における三次元構造を学習しうる、および/または骨膜(例えば、骨膜硬膜)と硬膜(例えば、固有硬膜)が関与し得る領域(例えば、海綿静脈洞)における外科手術の訓練や教育に有用な、ヒト頭部模型を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
よって、本発明は、要旨、以下のものを提供する。
〔1〕 ヒト頭部模型であって、
前頭骨の少なくとも一部分と、蝶形骨洞後壁の少なくとも一部分と、を含むヒト頭蓋部と、
蝶形骨洞後壁の一部または全部に少なくとも部分的に接着している第1の薄層と、
第1の薄層の一部または全部に少なくとも部分的に接着している第2の薄層と
を含み、
第1の薄層が、ヒト頭蓋部と第2の薄層の間に配置される、
ヒト頭部模型。
〔2〕 第1の薄層が、第1の接着剤を介して、蝶形骨洞後壁の一部または全部に少なくとも部分的に接着する、〔1〕に記載のヒト頭部模型。
〔3〕 第1の接着剤が、酢酸ビニル樹脂系の接着剤またはでんぷん含有の接着剤を含む、〔2〕に記載のヒト頭部模型。
〔4〕 第2の薄層が、第3の接着剤を介して、第1の薄層の一部または全部に少なくとも部分的に接着している、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のヒト頭部模型。
〔5〕 第3の接着剤が、酢酸ビニル樹脂系の接着剤またはでんぷん含有の接着剤を含む、〔4〕に記載のヒト頭部模型。
〔6〕 第1の薄層が紙からなる、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のヒト頭部模型。
〔7〕 第2の薄層が紙からなる、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のヒト頭部模型。
〔8〕 第1の薄層の色と第2の薄層の色が異なる、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のヒト頭部模型。
〔9〕 蝶形骨洞後壁の少なくとも一部が、トルコ鞍、後床突起および斜台を少なくとも含む、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のヒト頭部模型。
〔10〕 ヒト頭蓋内における疾患の手術訓練用または教育用の、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載のヒト頭部模型。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ヒト頭蓋内における骨膜(例えば、骨膜硬膜)と硬膜(例えば、固有硬膜)が関与し得る領域(例えば、海綿静脈洞)における三次元構造を学習しうる、および/または骨膜(例えば、骨膜硬膜)と硬膜(例えば、固有硬膜)が関与し得る領域(例えば、海綿静脈洞)における外科手術の訓練や教育に有用な、ヒト頭部模型を提供することができる。
【0009】
さらに、本発明によれば、第1の薄層および/または第2の薄層を剥離する際の感覚が、実際の臨床においてヒト頭蓋内における骨膜(好ましくは骨膜硬膜)や硬膜(好ましくは固有硬膜)を剥離等する際の感覚を反映しうる、ヒト頭部模型を提供することができる。そのため、本発明は、ヒト頭蓋内における骨膜(好ましくは骨膜硬膜)と硬膜(好ましくは固有硬膜)の間に存在する領域(好ましくは、海綿静脈洞)への外科手術アプローチを訓練するうえで有用であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本明細書中に記載のヒト頭部模型の一例の正面図を示す。
図2】本明細書中に記載のヒト頭部模型の一例の左側面図を示す。
図3】本明細書中に記載のヒト頭部模型の一例の右側面図を示す。
図4】本明細書中に記載のヒト頭部模型の一例の背面図を示す。
図5】本明細書中に記載のヒト頭部模型の一例の平面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書中に記載のヒト頭部模型の構成
【0012】
本発明の一実施態様では、
ヒト頭部模型であって、
前頭骨の少なくとも一部分と、蝶形骨洞後壁の少なくとも一部分と、を含むヒト頭蓋部と、
蝶形骨洞後壁の一部または全部に少なくとも部分的に接着している第1の薄層と、
第1の薄層の一部または全部に少なくとも部分的に接着している第2の薄層と
を含み、
第1の薄層が、ヒト頭蓋部と第2の薄層の間に配置される、
ヒト頭部模型を提供する。
【0013】
[ヒト頭蓋部]
ヒト頭蓋部は、前頭骨の少なくとも一部分と、蝶形骨洞後壁の少なくとも一部分と、を少なくとも含む。ヒト頭蓋部は、正面視左右両方を含んでいてもよいし、左右いずれか片側であってもよいし、片側の一部であってもよい。ヒト頭蓋部は、鼻腔を備えてもよい。鼻腔は、鼻腔外壁によって周囲が覆われ、鼻中隔によって左右2室に仕切られていてもよい。また、ヒト頭蓋部は、鼻腔の上方に位置し、後方に向かって窪んだ眼窩が形成されてもよい。さらに、ヒト頭蓋部は、扇形状前頭蓋底と、前頭蓋底の後方に位置する蝶形状中頭蓋窩と、中頭蓋窩の後方に位置する台形状後頭蓋窩とが形成されていてもよい。
【0014】
蝶形骨洞後壁は、蝶形骨のうち、鼻腔の後方に位置する蝶形骨洞の後側を覆う部分である。蝶形骨洞後壁は、中頭蓋窩の中央に位置して下方に向かって窪んだトルコ鞍と、トルコ鞍の左右両側に位置していて前頭蓋底の後端から後方に突出した前床突起と、トルコ鞍の後端から上方に突出した後床突起と、後床突起の下側から後方に向かって下方に傾斜して延びる斜台とが形成されていてもよい。
【0015】
本発明の一実施態様では、蝶形骨洞後壁の少なくとも一部分が、トルコ鞍、後床突起および斜台を少なくとも含む。
【0016】
蝶形骨洞前壁は、蝶形骨のうち、鼻腔の後方に位置する蝶形骨洞の前側を覆う部分である。蝶形骨洞は、副鼻腔の1つであって蝶形骨内に存在する空洞である。
【0017】
ヒト頭蓋部は、鼻骨またはその一部、涙骨またはその一部、頭頂骨またはその一部、側頭骨またはその一部、後頭骨またはその一部、頬骨またはその一部(例えば、本体部、頬弓)、上顎骨またはその一部、下顎骨またはその一部、口蓋骨またはその一部、篩骨またはその一部(例えば、上鼻甲介、中鼻甲介、垂直板)、下鼻甲介またはその一部、鋤骨またはその一部、のいずれか1つ以上をさらに含んでいてもよい。
【0018】
鼻腔外壁は、眼窩間に位置する鼻骨と、鼻骨の上方に位置する前頭骨と、鼻骨の後方に位置する上顎骨と、上顎骨の後方に位置する篩骨の上鼻甲介および中鼻甲介と、中鼻甲介の下方に位置する下鼻甲介と、中鼻甲介および下鼻甲介の後方に位置する口蓋骨と、口蓋骨の後方に位置する蝶形骨の蝶形骨洞前壁および翼状突起と、から構成されていてもよい。鼻中隔は、前端に位置する鼻中隔軟骨と、鼻中隔軟骨の後上方に位置する篩骨の垂直板と、鼻中隔軟骨の後下方に位置する鋤骨とから構成されていてもよい。
【0019】
ヒト頭蓋部の材質は、特段限定されるものではないが、例えば、粉末焼結材料を使用してもよい。粉末焼結材料としては、これらに限定されるものではないが、例えば、ポリアミド(ナイロン)、ポリカーボネイト、ポリエステル、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリブチレン、ABS樹脂、セルロース系樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂及びフッ素樹脂などの比較的剛性の合成樹脂粉末、タルク、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、シリカ、クレー、カオリン、硫酸バリウム、ウォラストナイト、雲母、酸化チタン、珪藻土、ヒドロキシアパタイト、金属粉末などの無機充填剤などが挙げられる。
【0020】
本明細書中に記載のヒト頭部模型を外科的手術の訓練や教育に用いる場合には蝶形骨の一部(例えば、前床突起)などを切削してもよいため、粉末焼結材料は、ヒトの骨に近似した切削性を有することが好ましい。そのため、粉末焼結材料は、合成樹脂粉末と無機充填剤粉末とを含むことが好ましい。合成樹脂粉末と無機充填剤の比率は、ヒトの骨に近似した切削性の点から、合成樹脂粉末が約30~約90重量%、無機充填剤が約10~約70重量%であってもよく、合成樹脂粉末が約50~約80重量%、無機充填剤が約20~約50重量%であることが好ましい。
【0021】
粉末焼結材料は、ヒト頭蓋部を粉末焼結積層造形法により製造する場合、成形性、強度及び硬度の点から、ポリアミド(好ましくは、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、より好ましくは、ナイロン12)を含むことが好ましい。また、粉末焼結材料は、ヒトの骨の切削性の観点から、ガラスビーズを含むことが好ましい。
【0022】
[第1の薄層]
第1の薄層は、蝶形骨洞後壁の少なくとも一部または全部に少なくとも部分的に接着しており、好ましくは骨膜(例えば、骨膜硬膜)を反映している。第1の薄層は、蝶形骨洞後壁の少なくとも一部分に接着さえしていればよい。そのため、第1の薄層が蝶形骨洞後壁の少なくとも一部分に接着しているかまたは蝶形骨洞後壁の少なくとも一部分を覆う範囲は、本発明の目的を達成することができる限り特段限定されるものではない。第1の薄層は、好ましくは蝶形骨洞後壁のトルコ鞍を覆っており(好ましくは接着しており)、より好ましくは前頭骨の一部分および蝶形骨洞後壁のトルコ鞍を覆っており(好ましくは接着しており)、さらに好ましくは前頭骨の一部分ならびに蝶形骨洞後壁のトルコ鞍および後床突起を覆っている(好ましくは接着している)。
【0023】
第1の薄層は、単層であってもよいし、複数の層が積層されたものであってもよい。第1の薄層の材質は、本発明の目的を達成することができる限り特段限定されるものではないが、例えば、段ボール、和紙などの紙製、合成樹脂製、ゴム製、繊維製、またはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0024】
第1の薄層が複数の層である場合、各層は、必要に応じて、接着剤等で接着させてもよいし、加熱や加圧等で接着させてもよい。第1の薄層が複数の層である場合、各層は、接着剤(例えば、酢酸ビニル樹脂系(例えば、酢酸ビニル樹脂系溶剤形、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形)、アクリル樹脂系(例えば、アクリル樹脂系エマルジョン形)、クロロプレン系、SBR系、ゴム系(例えば、ゴム系ラテックス形、ゴム系溶剤形)、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系(例えば、ポリウレタン樹脂系)、シリコーン樹脂系(例えば、変性シリコーン樹脂系)、でんぷん含有(例えば、変性でんぷん含有)の接着剤、またはこれらの組み合わせ、好ましくは、でんぷん含有(例えば、変性でんぷん含有)の接着剤)を介して接着されていることが好ましい。第1の薄層は、好ましくは、最下層(ヒト頭蓋部に接する層)が紙製(好ましくは、段ボールまたは和紙、より好ましくは、和紙)である。第1の薄層は、好ましくは、最上層(ヒト頭蓋部に接する層とは反対側の層)が紙製(好ましくは、段ボールまたは和紙、より好ましくは、和紙)である。
【0025】
第1の薄層が単層である場合、本発明の一実施態様では、第1の薄層は、紙製(好ましくは、段ボールまたは和紙、より好ましくは、和紙)である。
【0026】
第1の薄層が複数の層である場合、本発明の一実施態様では、第1の薄層の最下層は、紙製(好ましくは、段ボールまたは和紙、より好ましくは、和紙)であり、第1の薄層の最上層は、紙製(好ましくは、段ボールまたは和紙、より好ましくは、和紙)である。
【0027】
第1の薄層の厚さは、本発明の目的を達成することができる限り特段限定されるものではないが、例えば、約0.001~約1mm、好ましくは約0.005~0.5mm、より好ましくは約0.01~約0.3mm、さらに好ましくは約0.01~約0.2mmである。あるいは、第1の薄層が紙(例えば、和紙)等の場合には、第1の薄層の厚さは、例えば、約1~約20匁、好ましくは、約1~約15匁、より好ましくは約2~約10匁、よりさらに好ましくは、約2~約6匁である。約3匁以下は、例えば、透ける程度の厚さであり得る。約3~約6匁は、例えば、一般的な障子紙程度の厚さでありうる。約6匁を超えると、例えば、しっかりとした厚さでありうる。
【0028】
第1の薄層は、不透過性でない色および/または厚さであることが好ましい。第1の薄層が「不透過性でない」とは、第1の薄層を蝶形骨洞後壁の一部または全部に少なくとも部分的に接着した際に、蝶形骨洞後壁を含むヒト頭蓋部の少なくとも一部が、第1の薄層を通して全く視認不可ではない(すなわち、少なくとも、わずかに視認可能である)ことを意味する。
【0029】
本発明の好ましい一実施態様では、第1の薄層は、厚さ約0.01~約0.2mmの紙製(好ましくは、段ボールまたは和紙、より好ましくは和紙)である。あるいは、本発明の好ましい一実施態様では、第1の薄層は、厚さ約2~約6匁の紙製(好ましくは、段ボールまたは和紙、より好ましくは和紙)である。
【0030】
第1の薄層は、蝶形骨洞後壁の一部または全部に少なくとも部分的に接着しており、好ましくは、蝶形骨洞後壁のトルコ鞍に接着しており、より好ましくは、蝶形骨洞後壁のトルコ鞍および前頭骨の一部に接着しており、さらに好ましくは、蝶形骨洞後壁のトルコ鞍および後床突起の一部ならびに前頭骨の一部に接着している。第1の薄層を蝶形骨洞後壁の一部または全部に少なくとも部分的に接着する方法は、本発明の目的を達成することができる限り特段限定されるものではないが、例えば、第1の接着剤、加熱、加圧等であってもよい。第1の接着剤としては、ヒト頭蓋部(例えば、蝶形骨洞後壁の少なくとも一部)と第1の薄層とを接着可能なものである限り特段限定されるものではないが、例えば、酢酸ビニル樹脂系(例えば、酢酸ビニル樹脂系溶剤形、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形)、アクリル樹脂系(例えば、アクリル樹脂系エマルジョン形)、クロロプレン系、SBR系、ゴム系(例えば、ゴム系ラテックス形、ゴム系溶剤形)、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系(例えば、ポリウレタン樹脂系)、シリコーン樹脂系(例えば、変性シリコーン樹脂系)、でんぷん含有(例えば、変性でんぷん含有)の接着剤、またはこれらの組み合わせが挙げられる。第1の接着剤としては、好ましくは、酢酸ビニル樹脂系の接着剤またはでんぷん含有の接着剤を含み、より好ましくは、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形の接着剤または変性でんぷん含有の接着剤を含む。
【0031】
本発明の好ましい一実施態様では、第1の薄層は、第1の接着剤よりも第1の薄層とヒト頭蓋部とを強固に接着可能な第2の接着剤を介して、蝶形骨洞後壁の一部(好ましくは、少なくとも前床突起近傍を含む)に少なくとも部分的に接着している。「第1の接着剤よりも第1の薄層とヒト頭蓋部とを強固に接着可能」な第2の接着剤とは、第1の接着剤を使用した時よりも、第1の薄層とヒト頭蓋部とが剥離しにくい接着剤を意味する。このような構成とすることで、蝶形骨洞後壁の一部(好ましくは、前床突起近傍を含む)においては、他の部分と比較して、ヒト頭蓋部と第1の薄層とがより強固に接着し、ヒト頭蓋部と第1の薄層とを剥離する際の感覚が、実際の臨床において、ヒト頭蓋と骨膜(好ましくは骨膜硬膜)を剥離する際の感覚により一層近くなりうる。第2の接着剤としては、特段限定されるものではなく、第1の接着剤の種類に応じて適宜選択することができる。第2の接着剤としては、これらに限定されるものではないが、例えば、酢酸ビニル樹脂系(例えば、酢酸ビニル樹脂系溶剤形、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形)、アクリル樹脂系(例えば、アクリル樹脂系エマルジョン形)、クロロプレン系、SBR系、ゴム系(例えば、ゴム系ラテックス形、ゴム系溶剤形)、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系(例えば、ポリウレタン樹脂系)、シリコーン樹脂系(例えば、変性シリコーン樹脂系)、でんぷん含有(例えば、変性でんぷん含有)の接着剤、またはこれらの組み合わせが挙げられる。第2の接着剤としては、好ましくは、酢酸ビニル樹脂系(より好ましくは、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形)の接着剤を含む。
【0032】
本発明の一実施態様では、第1の薄層は、第1の接着剤を介して、蝶形骨洞後壁の一部または全部に少なくとも部分的に接着している。本発明の一実施態様では、第1の薄層は、酢酸ビニル樹脂系の接着剤(好ましくは酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形の接着剤)またはでんぷん含有の接着剤(好ましくは変性でんぷん含有の接着剤)を介して、蝶形骨洞後壁の一部または全部に少なくとも部分的に接着している。本発明の一実施態様では、第1の薄層は、第1の接着剤よりも第1の薄層とヒト頭蓋部とを強固に接着可能な第2の接着剤を介して、蝶形骨洞後壁の一部(好ましくは、少なくとも前床突起近傍を含む)に少なくとも部分的に接着し、蝶形骨洞後壁のその他の部分の一部または全部においては第1の接着剤を介して少なくとも部分的に接着する。本発明の好ましい一実施態様では、第1の薄層は、酢酸ビニル樹脂系の接着剤(好ましくは、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形の接着剤)を介して、蝶形骨洞後壁の一部(好ましくは、少なくとも前床突起近傍を含む)に少なくとも部分的に接着し、蝶形骨洞後壁のその他の部分の一部または全部においてはでんぷん含有の接着剤(好ましくは、変性でんぷん含有の接着剤)を介して少なくとも部分的に接着する。
【0033】
[第2の薄層]
第2の薄層は、第1の薄層の一部または全部に少なくとも部分的に接着しており、好ましくは硬膜(例えば、固有硬膜)を反映している。第2の薄層は、第1の薄層の少なくとも一部に接着さえしていればよい。第2の薄層が第1の薄層に接着しているかまたは第1の薄層を覆う範囲は、本発明の目的を達成することができる限り、特段限定されるものではない。そのため、第2の薄層は、第1の薄層の全範囲を覆っていなくてもよいし、略全範囲を覆っていてもよい。第2の薄層が第1の薄層を超えている部分において、第2の薄層は、その一部または全部がヒト頭蓋部に接着していてもよい。第2の薄層は、好ましくは蝶形骨洞後壁のトルコ鞍を覆っており、より好ましくは前頭骨の一部分および蝶形骨洞後壁のトルコ鞍を覆っており、さらに好ましくは前頭骨の一部分ならびに蝶形骨洞後壁のトルコ鞍および後床突起を覆っている。
【0034】
第1の薄層と第2の薄層は、一部が接着しており、全範囲が接着していなくてもよい。第1の薄層と第2の薄層の全範囲が接着しないことで、第1の薄層と第2の薄層の間に、間隙が形成されてもよい。このように形成された間隙は、例えば、静脈洞などを反映していてもよい。このような間隙がトルコ鞍近傍において形成される場合には、該間隙は海綿静脈洞を反映していてもよい。
【0035】
第2の薄層は、単層であってもよいし、複数の層が積層されたものであってもよい。第2の薄層の材質は、本発明の目的を達成することができる限り特段限定されるものではないが、例えば、段ボール、和紙などの紙製、合成樹脂製、ゴム製、繊維製、またはこれらの組み合わせが挙げられる。第2の薄層が硬膜(例えば、固有硬膜)を反映する場合には、ゴム製などの伸縮性の材質は好ましくない。
【0036】
第2の薄層が単層である場合、本発明の一実施態様では、第2の薄層は、紙製(好ましくは、段ボールまたは和紙、より好ましくは和紙)である。
【0037】
第2の薄層が複数の層である場合、各層の間は、必要に応じて、接着剤等で接着させてもよいし、加熱や加圧等で接着させてもよい。第2の薄層が複数の層である場合、各層は、接着剤(例えば、酢酸ビニル樹脂系(例えば、酢酸ビニル樹脂系溶剤形、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形)、アクリル樹脂系(例えば、アクリル樹脂系エマルジョン形)、クロロプレン系、SBR系、ゴム系(例えば、ゴム系ラテックス形、ゴム系溶剤形)、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系(例えば、ポリウレタン樹脂系)、シリコーン樹脂系(例えば、変性シリコーン樹脂系)、でんぷん含有(例えば、変性でんぷん含有)の接着剤、またはこれらの組み合わせ、好ましくは、でんぷん含有(例えば、変性でんぷん含有)の接着剤)を介して接着されていることが好ましい。第2の薄層は、好ましくは、最下層(ヒト頭蓋部に接する層)が紙製(好ましくは、段ボール、和紙、より好ましくは、和紙)である。第2の薄層は、好ましくは、最上層(第1の薄層に接する層とは反対側の層)が紙製(好ましくは、段ボール、和紙、より好ましくは、和紙)である。
【0038】
第2の薄層が複数の層である場合、本発明の一実施態様では、第2の薄層の最下層は、紙製(好ましくは、段ボールまたは和紙、より好ましくは和紙)であり、第1の薄層の最上層は、紙製(好ましくは、段ボールまたは和紙、より好ましくは和紙)である。
【0039】
第2の薄層の厚さは、本発明の目的を達成することができる限り特段限定されるものではないが、例えば、約0.001~約1mm、好ましくは約0.005~0.5mm、より好ましくは約0.01~約0.3mm、さらに好ましくは約0.01~約0.2mmである。あるいは、第2の薄層が紙(例えば、和紙)等の場合には、第1の薄層の厚さは、例えば、約1~約20匁、好ましくは、約1~約15匁、より好ましくは約2~約10匁、よりさらに好ましくは、約2~約6匁である。約3匁以下は、例えば、透ける程度の厚さであり得る。約3~約6匁は、例えば、一般的な障子紙程度の厚さでありうる。約6匁を超えると、例えば、しっかりとした厚さでありうる。
【0040】
本発明の好ましい一実施態様では、第2の薄層は、厚さ約0.01~約0.2mmの紙製、好ましくは、段ボールまたは和紙、より好ましくは和紙)である。あるいは、本発明の好ましい一実施態様では、第2の薄層は、厚さ約2~約6匁の紙製(好ましくは、段ボールまたは和紙、より好ましくは和紙)である。
【0041】
第2の薄層は、不透過性でない色または厚さであることが好ましい。第2の薄層が「不透過性でない」とは、第2の薄層を第1の薄層の一部または全部に少なくとも部分的に接着した際に、第1の薄層、脳神経、内頚動脈、静脈および/または蝶形骨洞後壁を含むヒト頭蓋部の少なくとも一部が、第2の薄層を通して全く視認不可ではない(すなわち、少なくとも、わずかに視認可能である)ことを意味する。
【0042】
第1の薄層と第2の薄層は、同一でない色であることが好ましい。第1の薄層の色と第2の薄層の色が同一ではないことで、例えば本明細書中に記載のヒト頭部模型を用いて手術の訓練をする際に、第1の薄層と第2の薄層を容易に区別することができる。そのため、本発明の一実施態様では、第1の薄層の色と第2の薄層の色は、同一ではない。
【0043】
本発明の好ましい一実施態様では、第1の薄層は、厚さ約0.01~約0.2mmの紙製(好ましくは、段ボールまたは和紙、より好ましくは、和紙)であり、かつ第2の薄層は、厚さ約0.01~約0.2mmの紙製(好ましくは、段ボールまたは和紙、より好ましくは、和紙)である。あるいは、本発明の好ましい一実施態様では、第1の薄層は、厚さ約2~約6匁の紙製(好ましくは、段ボールまたは和紙、より好ましくは、和紙)であり、かつ第2の薄層は、厚さ約2~約6匁の紙製(好ましくは、段ボールまたは和紙、より好ましくは、和紙)である。
【0044】
第2の薄層を、第1の薄層の一部または全部に少なくとも部分的に接着する方法は、本発明の目的を達成することができる限り特段限定されるものではないが、例えば、第3の接着剤、加熱、加圧等であってもよい。第3の接着剤としては、第2の薄層と第1の薄層とを接着可能なものである限り特段限定されるものではないが、例えば、酢酸ビニル樹脂系(例えば、酢酸ビニル樹脂系溶剤形、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形)、アクリル樹脂系(例えば、アクリル樹脂系エマルジョン形)、クロロプレン系、SBR系、ゴム系(例えば、ゴム系ラテックス形、ゴム系溶剤形)、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系(例えば、ポリウレタン樹脂系)、シリコーン樹脂系(例えば、変性シリコーン樹脂系)、でんぷん含有(例えば、変性でんぷん含有)の接着剤、またはこれらの組み合わせが挙げられる。第3の接着剤としては、好ましくは、酢酸ビニル樹脂系の接着剤またはでんぷん含有の接着剤を含み、より好ましくは、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形の接着剤または変性でんぷん含有の接着剤を含む。
【0045】
本発明の好ましい一実施態様では、第2の薄層は、第3の接着剤よりも第2の薄層と第1の薄層とを強固に接着可能な第4の接着剤を介して、第1の薄層の一部(好ましくは、少なくとも海綿静脈洞部近傍を含む)に少なくとも部分的に接着している。「第3の接着剤よりも第2の薄層と第1の薄層とを強固に接着可能」な第4の接着剤とは、第3の接着剤を使用した時よりも、第2の薄層と第1の薄層とが剥離しにくい接着剤を意味する。このような構成とすることで、第1の薄層の一部(好ましくは、少なくとも海綿静脈洞部近傍を含む)においては、他の部分と比較して、第2の薄層と第1の薄層とがより強固に接着し、第2の薄層と第1の薄層とを剥離する際の感覚が、実際の臨床において骨膜(好ましくは骨膜硬膜)と硬膜(好ましくは固有硬膜)を剥離する際の感覚により一層近くなりうる。第4の接着剤としては、特段限定されるものではなく、第3の接着剤の種類に応じて適宜選択することができる。第4の接着剤としては、これらに限定されるものではないが、例えば、酢酸ビニル樹脂系(例えば、酢酸ビニル樹脂系溶剤形、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形)、アクリル樹脂系(例えば、アクリル樹脂系エマルジョン形)、クロロプレン系、SBR系、ゴム系(例えば、ゴム系ラテックス形、ゴム系溶剤形)、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系(例えば、ポリウレタン樹脂系)、シリコーン樹脂系(例えば、変性シリコーン樹脂系)、でんぷん含有(例えば、変性でんぷん含有)の接着剤、またはこれらの組み合わせが挙げられる。第4の接着剤としては、好ましくは、酢酸ビニル樹脂系(より好ましくは、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形)の接着剤を含む。
【0046】
本発明の一実施態様では、第2の薄層は、第3の接着剤を介して、第1の薄層の一部または全部に少なくとも部分的に接着している。本発明の一実施態様では、第2の薄層は、酢酸ビニル樹脂系の接着剤(好ましくは酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形の接着剤)またはでんぷん含有の接着剤(好ましくは、変性でんぷん含有の接着剤)を介して、第1の薄層の一部または全部に少なくとも部分的に接着している。本発明の一実施態様では、第2の薄層は、第3の接着剤よりも第2の薄層と第1の薄層とを強固に接着可能な第4の接着剤を介して、第1の薄層の一部(好ましくは、少なくとも海綿静脈洞部近傍を含む)に少なくとも部分的に接着し、第1の薄層のその他の部分の一部または全部においては第3の接着剤を介して少なくとも部分的に接着する。本発明の好ましい一実施態様では、第2の薄層は、酢酸ビニル樹脂系の接着剤(好ましくは、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形の接着剤)を介して、第1の薄層の一部(好ましくは、少なくとも海綿静脈洞部近傍を含む)に少なくとも部分的に接着し、第1の薄層のその他の部分の一部または全部においてはでんぷん含有の接着剤(好ましくは、変性でんぷん含有の接着剤)を介して少なくとも部分的に接着する。
【0047】
本発明のより好ましい一実施態様では、第1の薄層は、厚さ約0.01~約0.2mmの紙製、好ましくは、段ボールまたは和紙、より好ましくは和紙)であり、かつ第2の薄層は、厚さ約0.01~約0.2mmの紙製、好ましくは、段ボールまたは和紙、より好ましくは和紙)であり、第2の薄層は、酢酸ビニル樹脂系の接着剤(好ましくは、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形の接着剤)またはでんぷん含有の接着剤(好ましくは、変性でんぷん含有の接着剤)を介して第1の薄層の一部または全部に少なくとも部分的に接着している。あるいは、本発明のより好ましい一実施態様では、第1の薄層は、厚さ約2~約6匁の紙製、好ましくは、段ボールまたは和紙、より好ましくは和紙)であり、かつ第2の薄層は、厚さ約2~約6匁の紙製、好ましくは、段ボールまたは和紙、より好ましくは和紙)であり、第2の薄層は、酢酸ビニル樹脂系の接着剤(好ましくは、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形の接着剤)またはでんぷん含有の接着剤(好ましくは、変性でんぷん含有の接着剤)を介して第1の薄層の一部または全部に少なくとも部分的に接着している。このような構成とすることで、第1の薄層と第2の薄層を剥離する際の感覚が、実際の臨床において骨膜(好ましくは骨膜硬膜)と硬膜(好ましくは固有硬膜)を剥離する際の感覚により一層近くなる。そのため、骨膜(好ましくは骨膜硬膜)と硬膜(好ましくは固有硬膜)の間に存在する領域(好ましくは、海綿静脈洞)へのアプローチを訓練するうえでより好適である。
【0048】
本発明のさらに好ましい一実施態様では、第1の薄層は、厚さ約0.01~約0.2mmの紙製、好ましくは、段ボールまたは和紙、より好ましくは和紙)であり、かつ第2の薄層は、厚さ約0.01~約0.2mmの紙製、好ましくは、段ボールまたは和紙、より好ましくは和紙)であり、第1の薄層は、酢酸ビニル樹脂系の接着剤(好ましくは、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形の接着剤)を介して、蝶形骨洞後壁の一部(好ましくは、少なくとも前床突起近傍を含む)に少なくとも部分的に接着し、蝶形骨洞後壁のその他の部分の一部または全部においてはでんぷん含有の接着剤(好ましくは、変性でんぷん含有の接着剤)を介して少なくとも部分的に接着しており、第2の薄層は、酢酸ビニル樹脂系の接着剤(好ましくは、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形の接着剤)を介して、第1の薄層の一部(好ましくは、少なくとも海綿静脈洞部近傍を含む)に少なくとも部分的に接着し、第1の薄層のその他の部分の一部または全部においてはでんぷん含有の接着剤(好ましくは、変性でんぷん含有の接着剤)を介して少なくとも部分的に接着している。あるいは、本発明のさらに好ましい一実施態様では、第1の薄層は、厚さ約2~約6匁の紙製、好ましくは、段ボールまたは和紙、より好ましくは和紙)であり、かつ第2の薄層は、厚さ約2~約6匁の紙製、好ましくは、段ボールまたは和紙、より好ましくは和紙)であり、第1の薄層は、酢酸ビニル樹脂系の接着剤(好ましくは酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形の接着剤)を介して、蝶形骨洞後壁の一部(好ましくは、少なくとも前床突起近傍を含む)に少なくとも部分的に接着し、蝶形骨洞後壁のその他の部分の一部または全部においてはでんぷん含有の接着剤(好ましくは、変性でんぷん含有の接着剤)を介して少なくとも部分的に接着しており、第2の薄層は、酢酸ビニル樹脂系の接着剤(好ましくは、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形の接着剤)を介して、第1の薄層の一部(好ましくは、少なくとも海綿静脈洞部近傍を含む)に少なくとも部分的に接着し、第1の薄層のその他の部分の一部または全部においてはでんぷん含有の接着剤(好ましくは、変性でんぷん含有の接着剤)を介して少なくとも部分的に接着している。
【0049】
[脳神経、動脈、静脈]
ヒト頭部模型は、脳神経、動脈および/または静脈を備えていてもよい。脳神経、動脈および/または静脈の全長又は一部は、第2の薄層の内側に配置されていてもよいし、第2の薄層と第1の薄層の間に配置されていてもよい。脳神経、動脈および/または静脈の全長又は一部は、蝶形骨洞後壁のトルコ鞍、後床突起および/または斜台の近傍に配置されていてもよい。
【0050】
脳神経としては、例えば、動眼神経、滑車神経、三叉神経(視神経、上顎神経、下顎神経)などが挙げられる。脳神経の材質は、特段限定されるものではないが、例えば、合成樹脂、ゴム、金属等が挙げられる。脳神経の太さは、特段限定されるものではなく、本明細書中に記載のヒト頭部模型の大きさや用途(例えば、手術訓練の対象となる疾患)等に応じて適宜変更することができる。
【0051】
動脈は、1本であっても複数本であってもよいし、分枝を含むものであってもよい。動脈としては、これらに限定されるものではないが、内頚動脈、中硬膜動脈等が挙げられる。動脈の材質は、特段限定されるものではないが、例えば、合成樹脂、ゴム、金属等が挙げられる。動脈は、中空に形成されてもよい。動脈が中空の場合には、内部に液体(無色または有色)が充填されていてもよい。内部に液体が充填されていることで、手術訓練中に出血の有無を確認することができる。動脈の内部に予め所定量の液体が充填されていてもよいし、動脈を液体供給手段(ポンプ等)に連結して、必要な時に液体供給手段を操作することで液体を動脈に供給してもよい。動脈の太さは、特段限定されるものではなく、本明細書中に記載のヒト頭部模型の大きさや用途(手術訓練の対象となる疾患)等に応じて適宜変更することができる。
【0052】
静脈は、1本であっても複数本であってもよいし、分枝を含むものであってもよい。静脈としては、これらに限定されるものではないが、例えば、上眼静脈、下眼静脈等が挙げられる。静脈の材質は、特段限定されるものではないが、例えば、合成樹脂、ゴム、金属等が挙げられる。静脈は、中空に形成されてもよい。静脈が中空の場合には、内部に液体(無色または有色)が充填されていてもよい。内部に液体が充填されていることで、手術訓練中に出血の有無を確認することができる。静脈の内部に予め所定量の液体が充填されていてもよいし、静脈を液体供給手段(ポンプ等)に連結して、必要な時に液体供給手段を操作することで液体を静脈に供給してもよい。静脈の太さは、特段限定されるものではなく、本明細書中に記載のヒト頭部模型の大きさや用途(手術訓練の対象となる疾患)等に応じて適宜変更することができる。
【0053】
脳神経、動脈および/または静脈は、各々別個の材質、太さおよび/または色であってもよい。材質、太さおよび/または色を各々別個にすることで、脳神経、動脈および/または静脈を区別しやすくなる。
【0054】
本明細書中に記載のヒト頭部模型は、上記外の構成を含んでいてもよい。例えば、鼻腔外壁の内外面及び鼻中隔の表面は、例えばヒトの粘膜を模した弾性膜(例えば、シリコンゴム等のゴム材料など)によって覆われていてもよい。
【0055】
本明細書中に記載のヒト頭部模型は、ヒトの胴体の一部又は全部の模型などと組み合わせて(人体模型などとして)使用してもよい。
【0056】
本明細書中に記載のヒト頭部模型の製造方法
【0057】
[ヒト頭蓋部の製造方法]
ヒト頭蓋部は、これらに限定されるものではないが、例えば、ヒト頭部の断層撮影情報から生成される3次元画像データに基づき粉末焼結材料などから粉末焼結積層造形法により製造されてもよい。粉末焼結積層造形法自体は公知の造形法であるので、その詳細な説明は本明細書においては省略する。
【0058】
[第1の薄層の接着]
上記のとおり製造したヒト頭蓋部において、蝶形骨洞後壁の一部に少なくとも接するように所望の材質、大きさ、厚さの第1の薄層を(例えば、接着剤等を介して)接着することができる。
【0059】
[脳神経、動脈および静脈の配置]
上記のとおり製造したヒト頭蓋部において、必要に応じて、三叉神経や動眼神経などの脳神経を配置してもよい。また、上記のとおり製造したヒト頭蓋部において、必要に応じて、中硬膜動脈、内頚動脈などの動脈を配置してもよい。さらに、上記のとおり製造したヒト頭蓋部において、必要に応じて、上眼静脈、下眼静脈などの静脈を配置してもよい。脳神経、動脈および/または静脈は、ヒトの解剖学上適切な位置に配置されていてもよい。
【0060】
[第2の薄層の接着]
上述した第1の薄層の上側(ヒト頭蓋部とは反対側の面)に少なくとも一部が接するように、所望の材質、大きさ、厚さの第2の薄層を(例えば接着剤等を介して)接着し、本明細書中に記載のヒト頭部模型を製造することができる。
【0061】
本明細書中に記載のヒト頭部模型の用途
【0062】
本明細書中に記載のヒト頭部模型は、例えば、ヒト頭蓋内における疾患の手術訓練用又は教育用の模型として使用することができる。したがって、本発明の一実施態様では、ヒト頭蓋内における疾患の手術訓練用又は教育用の、本明細書中に記載のヒト頭部模型を提供する。
【0063】
ヒト頭蓋内における疾患としては、これらに限定されるものではないが、例えば、海綿静脈洞腫瘍、中脳海綿状血管腫、海綿静脈洞血管腫などの腫瘍、内頚動脈海綿静脈洞部未破裂脳動脈瘤、内頚動脈海綿静脈洞部破裂脳動脈瘤、内頸動脈脳動脈瘤、脳底動脈動脈瘤、硬膜動静脈瘻などの血管障害などが挙げられる。
【0064】
本明細書中に記載のヒト頭部模型は、例えば、以下のようにヒト頭蓋内の外科手術の訓練や教育などに使用することができる。
【0065】
ヒト頭部模型を任意の角度に傾け(例えば、頬骨を略天井方向に向かせ、頭蓋底を使用者(訓練者)が目視できる角度に傾け)、任意の箇所から第1の薄層および/または第2の薄層をメス等の手術具で剥離を開始してもよい。第1の薄層をヒト頭蓋部から剥離する場合には、第2の薄層を伴って第1の薄層がヒト頭蓋部から剥離してもよい。そして、第1の薄層をヒト頭蓋部から任意の位置まで剥離した後に、メス等の手術具を用いて第2の薄層を第1の薄層から剥離してもよい。なお、第1の薄層および/または第2の薄層の剥離だけでなく、ヒト頭蓋部を構成する骨(例えば、蝶形骨)の一部を切削具等で切削してもよい。
【0066】
以下、図面を用いて本明細書中に記載のヒト頭部模型をより詳細に説明する。ただし、本明細書中に記載のヒト頭部模型を何ら限定することを意図するものではない。
【0067】
図1図5は、本明細書中に記載のヒト頭部模型の一実施態様を示す。ヒト頭部模型1は、前頭骨2の一部および蝶形骨洞後壁3の一部を少なくとも含むヒト頭蓋部4と、蝶形骨洞後壁3に少なくとも一部が接着している第1の薄層5と、第1の薄層5の少なくとも一部に接着している第2の薄層6を含んでおり、第1の薄層5がヒト頭蓋部4と第2の薄層6の間に配置されている。図1図5では、ヒト頭蓋の片側(半分)の場合の実施態様を示しているが、本明細書中に記載のヒト頭部模型は、ヒト頭蓋の両側を備えていてもよい。
【0068】
図1に示す一実施態様では、ヒト頭蓋部4は、正面視左右方向中央側且つ上下方向下側に位置する鼻腔7(図示されていない)の上方に位置していて後方に向かって窪んだ眼窩8が形成されている。鼻腔7は、鼻腔外壁9によって周囲が覆われ、鼻中隔10によって左右2室に仕切られていてもよい。また、図5に示す一実施態様では、ヒト頭蓋部4は、平面視において前側に位置する扇形状前頭蓋底11と、前頭蓋底11の後方に位置する蝶形状中頭蓋窩12と、中頭蓋窩12の後方に位置する台形状後頭蓋窩13とが形成されている。また、頬骨37が形成されている。
【0069】
図2に示す一実施態様では、ヒト頭蓋部4における蝶形骨洞後壁3は、中頭蓋窩12の中央に位置して下方に向かって窪んだトルコ鞍14と、トルコ鞍14の左右両側に位置していて前頭蓋底11の後端から後方に突出した前床突起15(図示されていない)と、トルコ鞍14の後端から上方に突出した後床突起16と、後床突起16の下側から後方に向かって下方に傾斜して延びる斜台17とが形成されている。
【0070】
図1および図2に示す一実施態様では、鼻腔外壁9は、鼻骨18と、鼻骨18の上方に位置する前頭骨2と、鼻骨18の後方に位置する上顎骨19と、上顎骨19の後方に位置する篩骨20の上鼻甲介20a及び中鼻甲介20bと、中鼻甲介20bの下方に位置する下鼻甲介21と、中鼻甲介20b及び下鼻甲介21の後方に位置する口蓋骨22と、口蓋骨22の後方に位置する蝶形骨23の蝶形骨洞前壁24及び翼状突起25とから構成されている。蝶形骨洞前壁24は、蝶形骨23のうち、鼻腔7の後方に位置する蝶形骨洞26の前側を覆う部分である。蝶形骨洞26は、副鼻腔の1つであって蝶形骨23内に存在する空洞である。一方、鼻中隔10は、図5に示す一実施態様では、前端に位置する鼻中隔軟骨27(図示していない)と、鼻中隔軟骨27の後上方に位置する篩骨20の垂直板20cと、鼻中隔軟骨27の後下方に位置する鋤骨28とから構成されている。蝶形骨23は、棘孔29、正円孔30、卵円孔31および上眼窩裂32(図示していない)を含んでいる。また、頭頂骨38が形成されている。
【0071】
図1~5に示す実施態様では、第1の薄層5(骨膜を反映することが好ましい。なお、図1~5に示す実施態様では、第1の薄層5と第2の薄層6を区別しやすいように、第1の薄層5を濃い灰色で着色しているが、第1の薄層5の色を限定するものではない。)は、前頭骨2から少なくとも蝶形骨洞後壁3のトルコ鞍14にわたる範囲を覆うように配置されている。第1の薄層5は、前頭骨2から少なくとも蝶形骨洞後壁3のトルコ鞍14にわたる範囲の少なくとも一部において(好ましくは、前頭骨2から少なくとも蝶形骨洞後壁3のトルコ鞍14にわたる範囲の略全面において)、接着(好ましくは、第1の接着剤を介して接着、より好ましくは、第1の接着剤と第2の接着剤を介して接着)していてもよい。
【0072】
図1~5に示す実施態様では、第2の薄層6(硬膜を反映することが好ましい。なお、図1~5に示す実施態様では、第1の薄層5と第2の薄層6を区別しやすいように、第2の薄層6を薄い灰色で着色しているが、第2の薄層6の色を限定するものではない。)は、第1の薄層5の略全面を覆うように配置されている。第2の薄層6は、前頭骨2から少なくとも蝶形骨洞後壁3のトルコ鞍14にわたる範囲を覆うように(前頭蓋底11から後頭蓋窩13にわたる範囲を覆うように)配置されている。第2の薄層6は、第1の薄層5を超える範囲ではヒト頭蓋部4を直接覆っている。第2の薄層6は、第1の薄層5の少なくとも一部において(好ましくは、第1の薄層5を覆う範囲の略全面において)、接着(好ましくは、第3の接着剤を介して接着、より好ましくは、第3の接着剤と第4の接着剤を介して接着)している。第2の薄層6は、第1の薄層5を超える範囲ではヒト頭蓋部4に接着(例えば、第3の接着剤を介して接着)していてもよく、この場合には、骨膜と硬膜が癒着した層(骨膜と硬膜が分離不可な層)を反映していてもよい。
【0073】
図1~5に示す実施態様では、ヒト頭蓋部4と第2の薄層6の間に、脳神経33として三叉神経33aと動眼神経33bを備えている。動眼神経33bは、第1の薄層5と第2の薄層6の間に配置されている。三叉神経33aと動眼神経33bは、蝶形骨洞後壁3のトルコ鞍14、後床突起16および/または斜台17の近傍に配置されている。三叉神経33aは、途中で3本(視神経33c、上顎神経33d、下顎神経33e)に分枝している。視神経33cは、眼窩8に至るまで延長している。上顎神経33dは、蝶形骨23の正円孔30を通過するように延長されている。下顎神経33eは、蝶形骨23の卵円孔31を通過するように延長されている。
【0074】
図1~5に示す実施態様では、ヒト頭蓋部4と第2の薄層6の間に、動脈34として内頚動脈34aおよび中硬膜動脈34bを備えている。内頚動脈34aの少なくとも一部は、ヒト頭蓋4と第1の薄層5の間に配置され、蝶形骨23近傍を貫通している。内頚動脈34aは、蝶形骨洞後壁3のトルコ鞍14、後床突起16および/または斜台17の近傍に配置されている。中硬膜動脈34bの一部は、ヒト頭蓋部4と第1の薄層5の間に配置されている。また、中硬膜動脈34bは、蝶形骨23の棘孔29を通過するように延長されている。
【0075】
図1~5に示す実施態様では、ヒト頭蓋部4と第2の薄層6の間に、静脈35として上眼静脈35aおよび下眼静脈35bを備えている。これら静脈35の少なくとも一部は、第1の薄層5と第2の薄層6の間に存在する領域(好ましくは、海綿静脈洞36)を通過している。また、これら静脈35は、眼窩8を起点として、蝶形骨洞後壁3のトルコ鞍14、後床突起16および/または斜台17の近傍に至るまで延長されている。
【0076】
ヒト頭蓋部4は、一体の部材であってもよいし、例えば、扇形状前頭蓋底11と、蝶形状中頭蓋窩12と、台形状後頭蓋窩13とが別個の部材であってもよい。別個の部材の場合には、ネジや磁石などによって各々が着脱可能であってもよいし、接着剤等によって接着されることにより着脱不可となっていてもよい。
【0077】
次に、ヒト頭部模型1を用いた際のヒト頭蓋内の外科手術の訓練、教育方法について説明する。
【0078】
例えば、図5のAの位置から開始する場合、第1の薄層5とヒト頭蓋部4の間にメス等を入れ、少しずつ第1の薄層5をヒト頭蓋部4から剥離することができる(この場合、第1の薄層5は、第2の薄層6を含めてヒト頭蓋部4から剥離することになる)。第1の薄層4の剥離を進めると、中硬膜動脈34b、蝶形骨23の棘孔29、正円孔30、卵円孔31および/または上眼窩裂32などが確認できる。この際、蝶形骨洞後壁3側にある第1の薄層5(第1の薄層5a)と眼窩8側から延長された第1の薄層5(第1の薄層5b)の合流点が目視できるまで、第1の薄層5(第1の薄層5a)を剥離することが好ましい。第1の薄層5aと第1の薄層5bの合流点近傍を起点として、第1の薄層5と第2の薄層6の剥離を開始してもよい。このように第1の薄層5と第2の薄層6の剥離を進めることで、第1の薄層5と第2の薄層6の間にある領域(例えば、海綿静脈洞36)へのアプローチを訓練、教育することができる。
【0079】
実際の外科手術では、ヒト頭蓋内の骨膜や硬膜を剥離する際に、蝶形骨の一部(前床突起など)が障害となりうるため、蝶形骨の一部(前床突起など)を切削具等で切削する場合がある。そのため、ヒト頭部模型1を用いて訓練や教育をする際にも、任意のタイミングで必要に応じて蝶形骨23の一部(例えば、前床突起15等)等を切削具等で切削することが好ましい。発生した切削屑は、吸引具により吸引してもよい。本明細書中に記載のヒト頭部模型は、蝶形骨の一部等の切削も訓練、教育することができるため、実際の外科手術における作業手順(膜の剥離作業、切削具等の器具の持ち替え、切削作業など)を反映した訓練、教育が可能となる。
【実施例
【0080】
以下の実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるもの
ではない。
【0081】
[本明細書中に記載のヒト頭部模型の製造]
(1)ヒト頭蓋部の製造
ヒト頭蓋部は、人体頭部の断層撮影情報から生成される3次元画像データに基づき、公知の方法により、粉末焼結材料から粉末焼結積層造形法により製造した。本実施例では、材料としてポリアミドとガラスビーズ(株式会社アスペクト製、製品名:ASPEX-GB)を使用し、頭蓋の略半分(左半分)を製造した。本実施例においては、図1図5に対応するヒト頭蓋部を製造した。本実施例におけるヒト頭蓋部は、前頭骨の一部、蝶形骨洞後壁(トルコ鞍、前床突起、後床突起、斜台を含む)の一部を備えている。また、本実施例におけるヒト頭蓋部は、扇形状前頭蓋底と、前頭蓋底の後方に位置する蝶形状中頭蓋窩と、中頭蓋窩の後方に位置する台形状後頭蓋窩とが形成されている。さらに、本実施例におけるヒト頭蓋部は、鼻骨、上顎骨、篩骨の垂直版、上鼻甲介及び中鼻甲介、下鼻甲介、口蓋骨、蝶形骨の蝶形骨洞前壁及び翼状突起、ならびに鋤骨を備えている。本実施例におけるヒト頭蓋部は、蝶形骨洞前壁および蝶形骨洞後壁を備えていることから、これらに囲まれた蝶形骨洞も備えている。また、蝶形骨には、棘孔、正円孔、卵円孔、上眼窩裂を設けた。
(2)第1の薄層の接着
上記のとおり製造したヒト頭蓋部において、蝶形骨洞後壁の一部に少なくとも接するように和紙製(株式会社田中和紙製、商品番号:S-16-C、落水紙。これを2枚重ね、変性でんぷん含有の接着剤(リンテックコマース株式会社製、製品番号:HT110)で接着したもの。厚さ約0.2mm以下、約2~6約匁)の第1の薄層を変性でんぷん含有の接着剤(リンテックコマース株式会社製、製品番号:HT110)を介して接着した(第1の薄層a)。なお、前床突起近傍においては、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形の接着剤(コニシ株式会社製、製品番号:10822)を介して第1の薄層とヒト頭蓋部とを接着した。本実施例においては、和紙製の第1の薄層aは、前頭骨、蝶形骨洞後壁(前床突起、後床突起、斜台およびトルコ鞍を含む)に接着している。さらに、眼窩の内壁全体を覆うように、眼窩奥に向かって和紙製の第1の薄層を、変性でんぷん含有の接着剤(リンテックコマース株式会社製、製品番号:HT110)を介してヒト頭蓋部に接着した(第1の薄層b)。第1の薄層aと第1の薄層bは、上眼窩裂近傍で合流させた。合流させた部位において、第1の薄層aと第1の薄層bは、変性でんぷん含有の接着剤(リンテックコマース株式会社製、製品番号:HT110)を介して接着させた。第1の薄層aは、薄い黄色の和紙を使用し、第1の薄層bは、濃い黄色の和紙を使用した。前頭骨から蝶形骨洞後壁にいたる骨膜と眼窩側の骨膜の合流点は、硬膜(固有硬膜)と骨膜(骨膜硬膜)の間に存在する領域(特に、海綿静脈洞)へのアプローチの起点として重要でありうるため、第1の薄層aと第1の薄層bの色を分けることで、第1の薄層aと第1の薄層bの合流点を目視しやすくすることは有益である。
(3)脳神経、動脈および静脈の配置
上記のとおり製造したヒト頭蓋部において、三叉神経(視神経、上顎神経および下顎神経)および動眼神経を配置した。動眼神経は、眼窩を起点とし、トルコ鞍近傍に至るまで延長させた。動眼神経は、眼窩を通過した後、第1の薄層と第2の薄層の間の領域(特に、海綿静脈洞)を通るように配置した。三叉神経は、第2の薄層とヒト頭蓋部の間に配置されており、途中で3本の神経(視神経、上顎神経および下顎神経)に分枝させた。視神経は、眼窩に至るまで延長させた。上顎神経は、正円孔を通過するように配置した。下顎神経は、卵円孔を通過するように配置した。これら神経は、ポリアミド(株式会社アスペクト製、製品名:ASPEX-PA2Neo)と、ポリアミドとガラスビーズの混合物(株式会社アスペクト製、製品名:ASPEX-GB)とを用いて、3Dプリンター(株式会社アスペクト製、粉末床溶融結合装置RaFaEl(ラファエロ)II550)により製造した(各神経の太さは約3~約8mm、各神経の色は黄色)。なお三叉神経の3本の神経(視神経、上顎神経および下顎神経)が合流する部位(神経節)は、各神経よりも太くした。
また、上記のとおり製造したヒト頭蓋部において、中硬膜動脈および内頚動脈を配置した。
中硬膜動脈は、第1の薄層とヒト頭蓋部の間に配置し、蝶形骨の棘孔を通過させた。中硬膜動脈は、太さ約1mmの赤く着色された合成樹脂を用いて製造した。内頚動脈は、蝶形骨の後床突起近傍を起点とし、蝶形骨近傍を貫通するように配置した。内頚動脈は、太さ約4mmの赤色に着色された中空の合成樹脂製チューブを用いて製造し、中空には針金を通した。
さらに、上記のとおり製造したヒト頭蓋部において、上眼静脈および下眼静脈を配置した。上眼静脈および下眼静脈は、眼窩を起点とし、第2の薄層とヒト頭蓋部の間(好ましくは第2の薄層と第1の薄層の間)を通過し、蝶形骨の後床突起ないし斜台近傍に至るまで延長するように配置した。これら静脈は、太さ約1mmの針金を用いて製造した。
このように、各神経、動脈および静脈の色、太さ、材質等を適宜変えることで、本明細書中に記載のヒト頭部模型を用いて手術訓練をする際に、各神経、動脈および静脈の位置関係等を目視しやすくなる。
(4)第2の薄層の接着
上述した第1の薄層の上側(ヒト頭蓋部とは反対側の面)に少なくとも一部が接するように、和紙製の第2の薄層(株式会社田中和紙製、商品番号:S-16-C、落水紙。これを2枚重ね、変性でんぷん含有の接着剤(リンテックコマース株式会社製、製品番号:HT110)で接着したもの。厚さ約0.2mm以下、約2~約6匁)を変性でんぷん含有の接着剤(リンテックコマース株式会社製、製品番号:HT110)を介して接着した。なお、海綿静脈洞部近傍においては、第1の薄層と第2の薄層を酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形の接着剤(コニシ株式会社製、製品番号:10822)を介して接着した。このようにして、本実施例のヒト頭部模型を製造した。本実施例では、第1の薄層と第2の薄層を区別しやすいように、各々色が異なる和紙を使用した(第1の薄層:黄色系、第2の薄層:茶色系)。なお、第1の薄層と第2の薄層の間に存在する領域である海綿静脈洞には、青色に着色された綿状のものを充填した。このように、海綿静脈洞に固形物や液体等を充填することで、本明細書中に記載のヒト頭部模型を用いた手術訓練時に、海綿静脈洞へのアプローチが達成できたかを確認することができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本明細書中に記載のヒト頭部模型は、第1の薄層(例えば、骨膜(好ましくは、骨膜硬膜))と第2の薄層(例えば、硬膜(好ましくは固有硬膜))の間に存在する領域(好ましくは、海綿静脈洞)へのアプローチを訓練する際に有用であることから、産業上十分に利用可能なものである。さらに、本明細書中に記載のヒト頭部模型は、第1の薄層および/または第2の薄層が接着剤により接着された場合には、第1の薄膜および/または第2の薄層を剥離する際の感触が、実際の手術時の感触を反映し得ることから、産業上十分に利用可能なものである。

【符号の説明】
【0083】
1:ヒト頭部模型
2:前頭骨
3:蝶形骨洞後壁
4:ヒト頭蓋部
5:第1の薄層
5a:蝶形骨洞後壁側から延長された第1の薄層
5b:眼窩側から延長された第1の薄層
6:第2の薄層
8:眼窩
9:鼻腔外壁
10:鼻中隔
11:前頭蓋底
12:中頭蓋窩
13:後頭蓋窩
14:トルコ鞍
16:後床突起
17:斜台
18:鼻骨
19:上顎骨
20:篩骨
20a:上鼻甲介
20b:中鼻甲介
20c:垂直板
21:下鼻甲介
22:口蓋骨
23:蝶形骨
24:蝶形骨洞前壁
25:翼状突起
26:蝶形骨洞
28:鋤骨
33:脳神経
33a:三叉神経
33b:動眼神経
33c:視神経
33d:上顎神経
33e:下顎神経
34:動脈
34a:内頚動脈
34b:中硬膜動脈
35:静脈
35a:上眼静脈
35b:下眼静脈
36:海綿静脈洞
37:頬骨
38:頭頂骨
【要約】      (修正有)
【課題】ヒト頭蓋内における骨膜(例えば、骨膜硬膜)と硬膜(例えば、固有硬膜)が関与し得る領域(例えば、海綿静脈洞)における三次元構造を学習しうる、および/または骨膜(例えば、骨膜硬膜)と硬膜(例えば、固有硬膜)が関与し得る領域(例えば、海綿静脈洞)における外科手術の訓練や教育に有用な、ヒト頭部模型1を提供する。
【解決手段】ヒト頭部模型1であって、前頭骨2の少なくとも一部分と、蝶形骨洞後壁の少なくとも一部分と、を含むヒト頭蓋部4と、蝶形骨洞後壁の一部または全部に少なくとも部分的に接着している第1の薄層と、第1の薄層の一部または全部に少なくとも部分的に接着している第2の薄層6とを含み、第1の薄層が、ヒト頭蓋部4と第2の薄層6の間に配置される、ヒト頭部模型1。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5