(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】ガス濃度測定装置およびガス濃度連続測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/65 20060101AFI20221014BHJP
【FI】
G01N21/65
(21)【出願番号】P 2018162558
(22)【出願日】2018-08-31
【審査請求日】2021-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000144991
【氏名又は名称】株式会社四国総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(72)【発明者】
【氏名】朝日 一平
(72)【発明者】
【氏名】杉本 幸代
(72)【発明者】
【氏名】市川 祐嗣
(72)【発明者】
【氏名】荻田 将一
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-038069(JP,A)
【文献】特開2004-309367(JP,A)
【文献】国際公開第2009/101659(WO,A1)
【文献】特開2013-167497(JP,A)
【文献】特開2012-037344(JP,A)
【文献】特表2006-502401(JP,A)
【文献】特開昭52-152780(JP,A)
【文献】特公昭49-048794(JP,B1)
【文献】米国特許第04679939(US,A)
【文献】特表2005-513445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/74
G01J 3/00- 3/52
G02B 1/00- 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルスレーザー光を出射する発振器を備えたレーザー装置と、
被照射空間の測定対象ガスからのラマン散乱光を検出する光センサを備えた検出装置と、を備え、
前記レーザー装置から出射される前記パルスレーザー光の光軸と、前記検出装置の受光光学系の光軸とが交差するように、前記レーザー装置と前記検出装置とを離して配置したバイスタティックライダータイプの構成を有
し、
前記レーザー装置から出射される前記パルスレーザー光の光軸と、前記検出装置の受光光学系の光軸とがなす角度が70~110°となる位置で、前記レーザー装置と前記検出装置とを保持して固定する支持具を有するガス濃度測定装置。
【請求項2】
前記支持具が、前記レーザー装置から出射される前記パルスレーザー光の光軸と、前記検出装置の受光光学系の光軸とがなす角度が
80~100°となる
位置で、前記レーザー装置と前記検出装置とを保持
して固定する、請求項1に記載のガス濃度測定装置。
【請求項3】
前記検出装置の受光光学系は、前記被照射空間と前記光センサとを結ぶ直線上、かつ、前記被照射空間で焦点が合焦する位置に配置され、前記被照射空間で発生したラマン散乱光を集光する集光光学系を有する、請求項1または2に記載のガス濃度測定装置。
【請求項4】
前記検出装置は、前記被照射空間と前記光センサとを結ぶ直線上にピンホールを有する、請求項1ないし3のいずれかに記載のガス濃度測定装置。
【請求項5】
前記検出装置は、前記ピンホールよりも前記被照射空間側に集光光学系を有し、
前記集光光学系の焦点位置に前記ピンホールが配置される、請求項4に記載のガス濃度測定装置。
【請求項6】
前記ピンホールの開口径または設置位置を変えることで、測定対象ガスの濃度を測定する空間分解能を調整可能な、請求項4に記載のガス濃度測定装置。
【請求項7】
測定対象ガスの濃度を500Hz超の周波数で連続測定可能な、請求項1ないし6のいずれかに記載のガス濃度測定装置。
【請求項8】
測定対象ガスを数センチメートル以下の空間分解能で測定可能な、請求項1ないし7のいずれかに記載のガス濃度測定装置。
【請求項9】
測定対象ガスを数ミリメートル単位で測定可能な、請求項8に記載のガス濃度測定装置。
【請求項10】
レーザー装置から
パルスレーザー光を被照射空間
に出射し、
前記レーザー光の光軸と交差する光軸を有する光センサを備えた検出装置により被照射空間の測定対象ガスからのラマン散乱光を検出する、ガス濃度連続測定方法
であって、
前記レーザー装置から出射される前記パルスレーザー光の光軸と、前記検出装置の受光光学系の光軸とがなす角度が70~110°となる位置で、前記レーザー装置と前記検出装置とを保持して固定する支持具を提供し、
前記パルスレーザー光の光軸と前記検出装置の受光光学系の光軸とがなす角度が70~110°となる位置で、前記レーザー装置から前記パルスレーザー光を被照射空間に出射して前記被照射空間の測定対象ガスからのラマン散乱光に基づいてガス濃度を連続測定する、ガス濃度連続測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラマン散乱光を利用して、非接触によりガスの濃度を測定するガス濃度測定装置およびガス濃度連続測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非接触によりガスの濃度を測定可能なガスセンサとして、レーザー光をガスに照射し、これにより発生したラマン散乱光を検出する技術が知られている。ラマン散乱は、単色光を分子に照射したときに、散乱光の周波数が分子の振動周波数だけ変移する現象であり、この散乱光の周波数変移量は、照射した単色光の周波数に無関係で、物質に固有の量である。そのため、特定波長のレーザー光を測定対象の物質に照射すると、レーザー光が当たった物質から、レーザー光の波長と異なる波長のラマン散乱光が発生する。また、その散乱光の強度は、その物質の密度に比例することが知られている。
【0003】
上述のラマン散乱光を利用して、たとえば、特許文献1では、監視対象空間にレーザー光を照射し、測定対象ガスに応じた波長のラマン散乱光を集光し、集光したラマン散乱光の空間強度分布を画像化することで、漏洩ガスを可視化するガス漏洩監視方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では、照射するレーザー光の光軸と、検出するラマン散乱光の光軸とが一致(または平行)するように、レーザー光の照射位置と当該レーザー光により発生したラマン散乱光の検出位置とを同じ位置に配置(併置)した、いわゆるモノスタティックライダータイプの構成を有している。この場合、1パルス間に照射されたレーザー光により生じたラマン散乱光を、1パルスの分だけ検出することとなるため、ガスの濃度を測定可能な空間の最小範囲(空間分解能)はパルスレーザー光のパルス幅に依存してしまうという問題があった。たとえば、パルスレーザー光のパルス幅が5ナノ秒である場合はガスの濃度を測定可能な空間分解能は75cm程度となり、ガスをピンポイント(たとえばミリメートル単位の空間分解能)で測定することができないという問題があった。また、流れを伴う環境においてガスの濃度を非接触で高速連続測定可能とする技術も求められている。
【0006】
本発明は、ガスの有無やその濃度をピンポイント(ミリメートル単位の空間分解能)で測定することができるガス濃度測定装置およびガス濃度連続測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るガス濃度測定装置は、パルスレーザー光を出射する発振器を備えたレーザー装置と、被照射空間の測定対象ガスからのラマン散乱光を検出する光センサを備えた検出装置と、を備え、前記レーザー装置から出射される前記パルスレーザー光の光軸と、前記検出装置の受光光学系の光軸とが交差するように、前記レーザー装置と前記検出装置とを離して配置したバイスタティックライダータイプの構成を有し、前記レーザー装置から出射される前記パルスレーザー光の光軸と、前記検出装置の受光光学系の光軸とがなす角度が70~110°となる位置で、前記レーザー装置と前記検出装置とを保持して固定する支持具を有する。
上述したガス濃度測定装置において、前記支持具が、前記レーザー装置から出射される前記パルスレーザー光の光軸と、前記検出装置の受光光学系の光軸とがなす角度が80~100°となる位置で、前記レーザー装置と前記検出装置とを保持して固定するように構成することができる。
上述したガス濃度測定装置において、前記検出装置の受光光学系は、前記被照射空間と前記光センサとを結ぶ直線上、かつ、前記被照射空間で焦点が合焦する位置に配置され、前記被照射空間で発生したラマン散乱光を集光する集光光学系を有するように構成することができる。
上述したガス濃度測定装置において、前記検出装置は、前記被照射空間と前記光センサとを結ぶ直線上にピンホールを有するように構成することができる。
上述したガス濃度測定装置において、前記検出装置は、前記ピンホールよりも前記被照射空間側に集光光学系を有し、前記集光光学系の焦点位置に前記ピンホールが配置されるように構成することができる。
上述したガス濃度測定装置において、前記ピンホールの開口径または設置位置を変えることで、測定対象ガスの濃度を測定する空間分解能を調整可能なように構成することができる。
上述したガス濃度測定装置において、測定対象ガスの濃度を500Hz超の周波数で連続測定可能なように構成することができる。
上述したガス濃度測定装置において、測定対象ガスを数ミリメートル単位で測定可能なように構成することができる。
【0008】
本発明に係るガス連続測定方法は、レーザー装置からパルスレーザー光を被照射空間に出射し、前記レーザー光の光軸と交差する光軸を有する光センサを備えた検出装置により被照射空間の測定対象ガスからのラマン散乱光を検出する、ガス濃度連続測定方法であって、前記レーザー装置から出射される前記パルスレーザー光の光軸と、前記検出装置の受光光学系の光軸とがなす角度が70~110°となる位置で、前記レーザー装置と前記検出装置とを保持して固定する支持具を提供し、前記パルスレーザー光の光軸と前記検出装置の受光光学系の光軸とがなす角度が70~110°となる位置で、前記レーザー装置から前記パルスレーザー光を被照射空間に出射して前記被照射空間の測定対象ガスからのラマン散乱光に基づいてガス濃度を連続測定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ガスをピンポイントで連続して測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】モノスタティックライダータイプのガス濃度測定装置によるガスの濃度の測定方法を説明するための図である。
【
図2】本実施形態に係るバイスタティックライダータイプのガス濃度測定装置によるガスの測定方法を説明するための図である。
【
図3】本実施形態に係るガス濃度測定装置を示す構成図である。
【
図4】本実施形態に係る受光光学系の配置を示す図である。
【
図5】本実施形態に係るガス濃度測定装置で測定した水素ガス由来のラマン散乱光の信号強度の時間波形の一例を示す図である。
【
図6】本実施形態に係るガス濃度測定装置で測定した水素ガスの濃度とラマン散乱光の信号強度との関係の一例を示す図である。
【
図7】本実施形態に係るガス濃度測定装置における空間分解能を特定する試験方法を説明するための図である。
【
図8】本実施形態に係るガス濃度測定装置の空間分解能の一例を示す図である。
【
図9】本実施形態に係るガス濃度測定装置を用いて開放空間のCO
2ガスの濃度を測定した場合の測定結果を示すグラフである。
【
図10】パルスレーザー光の光軸L1と受光光学系の光軸L2との角度と、被照射空間(空間分解能)との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、図に基づいて、本実施形態に係るガス濃度測定装置を説明する。本実施形態では、測定対象とする水素ガスの濃度を測定するガス濃度測定装置を例示して説明するが、本発明において、測定対象とするガスは水素ガスに限定されず、たとえばCO2,O2,CO,N2,H2S,CH4,NH3を測定対象とすることができる。また、本実施形態では、ガスの濃度を測定するガス濃度測定装置を例示して説明するが、本発明は、ガス濃度を測定する装置に限定されず、たとえば測定対象箇所に存在するガスを特定する装置、または測定対象とするガスが存在するかを監視する装置としても適用することができる。
【0012】
まず、
図1および
図2を参照して、本実施形態に係るガス濃度測定装置によるガスの測定方法について説明する。なお、
図1は、従来のモノスタティックライダータイプのガス濃度測定装置によるガスの測定方法を説明するための図であり、
図2は、本実施形態に係るバイスタティックライダータイプのガス濃度測定装置によるガスの濃度の測定方法を説明するための図である。
【0013】
図1(A)に示すように、従来のガス濃度測定装置は、パルスレーザー光を照射するレーザー装置と、ラマン散乱光を検出する光検出装置とが同じ位置に配置(併置)されており、レーザー装置から照射されるパルスレーザー光の光軸と、光検出装置が検出するラマン散乱光の光軸とが一致(または平行)する、いわゆるモノスタティックライダータイプの構成を有している。この場合、
図1(B)に示すように、P1に存在するガスから生じたラマン散乱光も、P2に存在するガスから生じたラマン散乱光も、1パルス間で照射されたパルスレーザー光により検出されたラマン散乱光として検出される。ここで、たとえばパルスレーザー光のパルス幅が5ナノ秒である場合には、5ナノ秒の間、パルスレーザー光が照射されることとなり、この1パルスの間に照射されたパルスレーザー光により生じたラマン散乱光は、約75cmの範囲に存在するガスから生じたものとなる。このように、従来のガス濃度測定装置の空間分解能(ガスの濃度を測定できる空間の最小範囲)は、パルス幅に依存することとなり、ミリメートル単位の空間分解能を得るためには、レーザー装置においてレーザー光のパルス幅をさらに短くする必要があったが、ミリメートル単位の空間分解能が得られるパルス幅のパルスレーザー光を照射可能なレーザー装置は費用や技術の面から搭載が困難であった。
【0014】
これに対して、本実施形態に係るガス濃度測定装置は、
図2(A)に示すように、パルスレーザー光を照射するレーザー装置と、ラマン散乱光を検出する光検出装置とが離れて配置されており、レーザー装置から照射されるパルスレーザー光の光軸と、光検出装置の受光光学系の光軸とが交差する、いわゆるバイスタティックライダータイプの構成を有している。この場合、
図2(B)に示すように、パルスレーザー光を1パルスのパルス幅で照射した場合も、被照射空間のうち、たとえばP3において生じたラマン散乱光RL1のみを検出することができるため、既存のライダー装置を用いて、ガスの濃度を測定する際の空間分解能をミリメートル単位とすることができる。なお、ラマン散乱光RL3のように、測定対象箇所P3以外の箇所P4で生じたラマン散乱光も光検出装置に向かって射出されるが、後述するように、本実施形態に係るガス濃度測定装置では、受光光学系の光学配置と光検出装置に設けたピンホールにより、測定対象箇所P3以外の箇所P4で生じたラマン散乱光RL3を遮断し、測定対象箇所P3で生じたラマン散乱光RL1のみを検出することが可能となっている。
【0015】
また、本実施形態において「ミリメートル単位の空間分解能」とは、奥行き、高さ、幅がいずれもがミリメートル単位である空間を測定できる能力を意味する。後述するように、パルスレーザー光のビーム径は1mmφであるため、奥行きおよび高さは、従来においてもミリメートルとなっており、本実施形態では、空間分解能のうち幅の分解能をミリメートル単位とすることを目的としている。なお、以下においては、説明の便宜から、幅についての空間分解能を単に空間分解能として説明する。
【0016】
図3は、本実施形態に係るガス濃度測定装置1の構成図である。なお、
図3に示すガス濃度測定装置1では、ガス測定対象空間として、ガスセル内に充填した被照射物(水素ガス)を検出する構成を例示しているが、ガス測定対象空間を開放空間とすることも可能である。
図3に示すように、本実施形態に係るガス濃度測定装置1は、レーザー装置10および光検出装置20を有し、レーザー装置10により発振したパルスレーザー光を、ガスセル内の水素ガスに照射し、これにより生じたラマン散乱光を、光検出装置20で検知する。以下に、各構成について説明する。
【0017】
レーザー装置10は、被照射物に照射するためのパルスレーザー光を発振し、照射する。本実施形態では、レーザー装置10のレーザー光源11としてNd:YLFレーザーを使用しているが、レーザー光源11はこれに限定されない。本実施形態において、Nd:YLFレーザーは、第3高調波である349nmのパルスレーザー光を、数ns~数十nsのパルス幅、且つ、10Hz~数kHzの繰り返し周波数で出力する。また、レーザー装置10は、レーザー光源から射出されたパルスレーザー光のビーム径が測定箇所(ガスセル内の箇所)において1mmφとなるように、球面平凹レンズと球面平凸レンズからなるビームエキスパンダー12を有している。レーザー装置10から照射されたパルスレーザー光は、ガスセルへと照射される。
【0018】
光検出装置20は、
図3に示すように、レーザー装置10から照射されたパルスレーザー光が測定対象のガスに衝突して生じたラマン散乱光を受光する光センサ26を備えている。この光センサ26は、一つの光センサから構成されたもの(例えば、アバランシェフォトダイオードまたは光電子倍増管)であってもよいし、複数の光センサによって構成されたマルチチャンネル型センサ(たとえば、CCDセンサまたはCMOSセンサ)であってもよい。なお、本実施形態では、光センサ26として光電子倍増管を用いている。
【0019】
図3に示すように、光検出装置20は、レーザー装置10から照射されるパルスレーザー光の光軸L1と、光検出装置20の受光光学系の光軸L2とが交差するように、レーザー装置10から離れた位置に配置された、いわゆるバイスタティックライダータイプの構成を有している。具体的には、本実施形態において、光検出装置20は、
図3に示すように、レーザー装置10から照射されるパルスレーザー光の光軸L1と、光検出装置20の受光光学系の光軸L2とが90°の角度で交差するように配置される。なお、図示していないが、本実施形態に係るガス濃度測定装置1は、レーザー装置10から照射されるパルスレーザー光の光軸L1と、光検出装置20の受光光学系の光軸L2とが90°の角度で交差するように、レーザー装置10と光検出装置20との位置を固定する支持具または治具を有する。
【0020】
また、光検出装置20は、
図3および
図4に示すように、受光光学系21~26を有している。
図4は、光検出装置20の受光光学系21~26の配置を示す図である。集光光学系21は、測定対象ガスから放出されたラマン散乱光を集光するための光学系である。集光光学系21は、特に限定されず、天体望遠鏡などを用いることができるが、本実施形態では、装置の小型化の観点から、フレネルレンズを用いている。また、集光光学系21としては、測定対象ガス由来のラマン散乱光の波長域を透過するものが好ましい。たとえば、レーザー光源11の照射波長が349nmの場合、測定対象ガスが水素ガスの場合はラマン散乱光の波長域は408.3nmとなり、測定対象ガスが窒素ガスの場合はラマン散乱光の波長域は379.9nmとなり、測定対象ガスが酸素ガスの場合はラマン散乱光の波長域は369.0nmとなる。本実施形態では、水素ガス由来のラマン散乱光を検出するために、近紫外線の透光性の高いアクリル製のレンズを用いている。
【0021】
集光光学系21の焦点位置には、ピンホール22が配置される。ピンホール22は、所定の開口径の孔を有する部材であり、開口径は、必要とする空間分解能に応じて適宜設定することができる。たとえば、
図4に示すように、測定対象箇所から集光光学系21までの距離をLmとし、集光光学系21からピンホール22までの距離をLpとし、ピンホール22の開口径をApとした場合、測定対象箇所の視野径Amは下記式1により求めることができる。
【数1】
【0022】
たとえば、集光光学系21であるフレネルレンズの焦点距離が230mmである場合、測定対象箇所から集光光学系21までの距離Lmを750mmとし、集光光学系21からピンホール22までの距離Lpを330mmとし、ピンホール22の開口径Apを1mmφとすることで、上記式1から測定対象箇所の視野径Amは2.3mmとなる。すなわち、この場合、論理上、測定対象箇所の水素ガスの空間分解能を2.3mmとすることができる。ただし、後述するように、測定対象箇所の実際の空間分解能は、論理上の空間分解能に比べて多少大きくなる傾向にあり、必ずしも一致しない場合がある。
【0023】
本実施形態において、ピンホール22よりも後方(測定対象箇所と反対側)には、集光したラマン散乱光を平行光とする凸レンズ23が配置され、さらにその後方には、ラマン分光用エッジフィルタ24が配置される。ラマン分光用エッジフィルタ24は、パルスレーザー光の波長に対応する光を遮断する一方、ラマン散乱光に応じた波長の光を透過するフィルタである。このようなラマン分光用エッジフィルタ24として、たとえばパルスレーザー光の波長である349nmにおける透過率が10-6未満であり、かつ、360nm以上の波長の光の透過率が約95%であるフィルタを用いることができる。さらに、ラマン分光用エッジフィルタ24の後方であって、光センサ26の前方には、測定対象のガス(本実施形態では水素ガス)のラマン散乱光を選択的に受光するためのバンドパスフィルタ25が配置されている。たとえば、測定対象のガスが水素ガスである場合には、水素ガスのラマン散乱光の波長は408.3nmであるため、このようなバンドパスフィルタ25として、たとえば中心波長が410nmであり、半値全幅が10nmのものを用いることができる。
【0024】
なお、バンドパスフィルタ25は、
図3に示すように、複数枚の異なる透過中心波長を有するフィルタが装着可能なフィルタホイール27に実装することができる。この場合、異なる種類のガスに由来するラマン散乱光の波長に対応する透過波長帯域のバンドパスフィルタを別のポジションに実装しておきホイールを回転させることにより、水素ガス以外の分子(たとえば窒素ガスや酸素ガス)の測定も可能となる。
【0025】
バンドパスフィルタ25を通過したラマン散乱光は、光センサ26により受光される。光センサ26は、ラマン散乱光の強度に応じた信号強度の受光信号をオシロスコープなどの測定装置30に出力する。また、本実施形態において、ガス濃度測定装置1は、一定の周期(たとえば1kHzに対応する1ミリ秒周期)で、パルスレーザー光の照射およびラマン散乱光の検出を行っており、複数回分の検出結果の平均値(たとえば1秒間で検出した1000回分の検出結果の平均値)を、ラマン散乱光の受光信号強度として出力することができる。
【0026】
次に、本実施形態に係るガス濃度測定装置1の検出特性について説明する。
図5は、本実施形態に係るガス濃度測定装置1で検出されたラマン散乱光の受光信号強度の時間波形の一例を示すグラフである。より具体的には、
図5は、本実施形態に係るガス濃度測定装置1を用いて水素ガスから生じたラマン散乱光を検出した場合の、ラマン散乱光の受光信号強度と時間との関係を示している。なお、
図5に示す例では、ガスセルに既知濃度の低濃度水素混合ガスを充填し、パルス幅が5ナノ秒のパルスレーザー光を照射してラマン散乱光を検出した。また、
図5に示す例で用いた低濃度水素混合ガスは、窒素との混合ガスであり、かつ、水素ガス濃度が1000ppmの標準ガスであり、ガスセル内における低濃度水素混合ガスの充填圧力を変化させて、ガスセル内の水素ガスの濃度を200ppm,600ppm,1000ppmに調整し、ラマン散乱光を検出した。なお、
図5に示すラマン散乱光の受光信号強度は、窓材による反射などを理由とする外乱を除去するために、水素ガスを充填していない場合のブランクで検出された受光信号強度を、水素ガスを充填した場合の受光信号強度から差し引いたものを示している。また、ラマン散乱光は、微弱な光であるため、
図5では、ラマン散乱光の検出を1000回行った受光信号強度の積算値(積算時間1秒)を表示している。
【0027】
パルス幅が5ナノ秒のパルスレーザー光を照射した場合、論理上、当該パルスレーザー光により生じたラマン散乱光も5ナノ秒の時間幅で検出されると考えられる。しかしながら、
図5に示すように、ラマン散乱光の信号強度の時間幅(半値幅)は、パルス幅の約2倍の10ナノ秒程度となった。これは、パルス幅が5ナノ秒のパルスレーザー光が測定対象箇所に入射し、通過し終えるまでに要する時間と同程度の時間であり、パルスレーザー光が測定対象箇所を通過するまでの間、ラマン散乱光が検出された結果であると考えられる。また、
図5に示す時間波形では、受光信号強度が小さい複数のピークが存在しているが、これらピークは、光源のパルス発振に起因する電気的なノイズの影響であると考えられる。
【0028】
図6は、本実施形態に係るガス濃度測定装置1で検出されたラマン散乱光の受光信号強度と水素ガスの濃度との関係の一例を示す図であり、
図5に示すようなラマン散乱光の受光信号強度の時間波形の最大値を、水素ガスの各濃度でプロットしたグラフである。
図6に示すように、水素ガスの濃度が高くなるほど、ラマン散乱光の受光信号強度が高くなっており、水素ガスのガス濃度とラマン散乱光の受光信号強度とには線形の相関関係があることが分かる。このことから、本実施形態に係るガス濃度測定装置1を用いることで、検出したラマン散乱光の受光信号強度から、水素ガスのガス濃度が測定できることが分かった。
【0029】
次に、本実施形態に係るガス濃度測定装置1の空間分解能を確認するために、
図7に示すように、ガス測定対象空間として内径1mmφのガス放出ノズルを配置し、ガス放出ノズルをパルスレーザー光の光軸方向に0.5mmずつスライドさせながら、ガス放出ノズルから1mm上方にパルスレーザー光を照射し、ラマン散乱光の受光信号強度を各ノズルの位置で測定した。また、
図7に示す例では、水素ガス濃度が5000ppm(窒素ガスバランス)の標準ガスを使用し、放出量を100ml/分としてノズルから大気空間へ自由放出した。その結果を
図8に示す。なお、
図8に示す例においては、各ノズル位置においてラマン散乱光の検出を25回繰り返し行い、受光信号強度の時間波形の最大値の平均値を求めてプロットするとともに、その標準偏差をバーで表示している。
【0030】
図8に示す例では、水素ガスのラマン散乱光の受光信号強度が幅7mm(ノズルからの距離が-3.5mm~+3.5mm)にわたって観測され,そのうち幅2.5mmにおいてほぼ一定の値を得た。ここで、
図8に示す例においても、
図4に示すように受光光学系21~26を配置しており、本実施形態に係るガス濃度測定装置1の視野径(空間分解能)は、上述したように論理上、2.3mmとなるはずである。しかしながら、
図8に示す例では、論理値よりも広い範囲でラマン散乱光が測定され、空間分解能が論理値よりも低くなっている。これは、理論値である空間分解能2.3mmは、ピンホール22が設置された位置(焦点距離330mm)に焦点を有するラマン散乱光のみを考慮して算出しているが、実際には、ピンホール22の前後に焦点を有するラマン散乱光の一部もピンホール22を通過するためと考えられる。また、ピンホール22の加工精度や設置位置の精度も空間分解能に影響を与える要因であり、これらの要因も起因しているものと考えられる。しかしながら、本実施形態に係るガス濃度測定装置1では、論理値(設計値)と略同じ程度で、空間分解能を得られることが分かった。
【0031】
また、
図9(A)および(B)は、本実施形態に係るガス濃度測定装置1を用いて開放空間のCO
2ガスの濃度を測定した場合の測定結果を示すグラフである。
図9に示す例では、
図7に示す例と同様の配置関係において、ガス放出ノズル、レーザー装置10、および受光光学系21~26を配置するとともに、
図7に示す例とは異なり、ガス放出ノズルを固定し、レーザー装置10と受光光学系21~26とを架台に設置し、レーザー装置10および受光光学系21~26が一体的にガス放出ノズルに対して相対移動できるように構成した。
【0032】
そして、内径10mmのガス放出ノズルから100%の濃度のCO2ガスを30L/分の流量で放出し、ガス放出ノズルの中心軸(CO2ガスの放出軸)、および、CO2ガスの放出軸からパルスレーザーの光軸L1に沿って2mmずつずれた各位置(放出軸から2mm、4mm、6mm、8mmの位置)において、1kHzの周期でCO2ガスの濃度を測定した。
【0033】
図9(A)では、測定開始から4秒までの計測結果を示し、
図9(B)では、測定開始から0.05秒までの計測結果を示している。
図9(A)に示すように、ガス放出ノズルの放出軸上が最もCO
2ガスの濃度が最も高く、放出軸から離れるほどCO
2ガスの濃度が低下していることが分かる。また、
図9(B)に示す各プロットは、0.001秒ごとのCO
2ガスの濃度を示しており、1kHzの周期という高速でガス濃度を測定できることが分かる。
【0034】
以上のように、本実施形態に係るガス濃度測定装置1では、レーザー装置10から出射されるレーザー光の光軸L1と、光検出装置20の受光光学系の光軸L2とが交差するように、レーザー装置10と光検出装置20とを離して配置したバイスタティックライダータイプの構成とすることで、パルスレーザー光のパルス幅に依存せずに、測定対象ガスの濃度をピンポイント(数センチメートル以下の空間分解能、より好ましくはミリメートル単位の空間分解能)で測定することができる。また、本実施形態に係るガス濃度測定装置1では、ラマン散乱光の受光信号強度に基づいて測定対象ガスの濃度を直接算出することができるため、測定対象ガスの濃度を高速で連続して測定することもできる。なお、高速連続測定とは、たとえば、測定対象ガスの濃度を500Hz超の周波数で、好ましくは1kHz以上、より好ましくは3kHz以上、さらに好ましくは5kHz以上の周波数で連続測定することができる。
【0035】
また、本実施形態に係るガス濃度測定装置1では、レーザー装置10から出射されるパルスレーザー光の光軸L1と、光検出装置20の受光光学系の光軸L2とがなす角度が90°となるように、レーザー装置10と光検出装置20とを離して配置している。これは、パルスレーザー光と受光光学系の視野との重なりを極力小さくするためで合える。ここで、
図10(A)は、パルスレーザー光の光軸L1と受光光学系の光軸L2との角度が90°よりも小さい場合の被照射空間(空間分解能)を説明するための図であり、
図10(A)は、パルスレーザー光の光軸L1と受光光学系の光軸L2との角度が90°である場合の被照射空間(空間分解能)を説明するための図である。
図10(A)および(B)に示すように、パルスレーザー光の光軸L1と受光光学系の光軸L2との角度が90°よりも小さい場合(またはパルスレーザー光の光軸L1と受光光学系の光軸L2との角度が90°よりも大きい)と比べて、パルスレーザー光の光軸L1と受光光学系の光軸L2との角度を90°とした場合には、被照射空間が小さくなり、その分だけ、測定対象ガスの濃度を測定する空間分解能を高くすることができる。
【0036】
さらに、本実施形態に係るガス濃度測定装置1において、光検出装置20は、被照射空間と光センサ26とを結ぶ直線上、かつ、被照射空間に焦点が合焦する位置に、被照射空間で発生したラマン散乱光を集光する集光光学系21を有するように構成することで、被照射空間に存在する測定対象ガスをピンポイントで測定することができる。また、本実施形態に係るガス濃度測定装置1において、光検出装置20は被照射空間と光センサ26とを結ぶ直線上にピンホール22を有する構成としている。これにより、
図2(B)に示すように、測定対象箇所ではない位置(たとえば位置P4)から光センサ26に向けて放射されたラマン散乱光(たとえばRL3)などの外乱を検出してしまうことを抑制することができ、測定対象ガスの濃度を測定する空間分解能を向上させることができる。加えて、本実施形態に係るガス濃度測定装置1において、光検出装置20は、ピンホール22よりも被照射空間側に集光光学系21を有し、集光光学系21の焦点位置にピンホール22が配置されるため、測定対象箇所から放射されたラマン散乱光を効率良く集光することができ、測定対象箇所で生じたラマン散乱光を高い強度で検出することが可能となる。その結果、測定対象ガスの濃度の測定精度を高めることができる。径の異なる複数のピンホールが設けられたピンホールホイールを設け、ピンホールホイールを回転させることでピンホール径を可変に構成してもよい。
【0037】
加えて、本実施形態に係るガス濃度測定装置1は、流れを伴う環境下において、ピンポイントかつ高速でガスの濃度を連続して非接触測定することができるため、たとえば、ガスタービン内の気流のガス濃度測定を高速で連続測定するなど、噴流中の濃度変動の経時変化を連続的に測定することができる。
【0038】
以上、本発明の好ましい実施形態例について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態の記載に限定されるものではない。上記実施形態例には様々な変更・改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態のものも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0039】
たとえば、上述した実施形態では、水素ガスのラマン散乱光の受光信号強度と既知の水素ガスの濃度との関係を予め調べておくことで、測定対象箇所で検出した水素ガスのラマン散乱光の受光信号強度から、測定対象箇所の水素ガスの濃度を測定する構成を例示したが、この構成に限定されず、たとえば、大気中の窒素ガス(濃度が約80%)のラマン散乱光の受光信号強度を同時に測定し、窒素ガスと水素ガスとのラマン散乱光の受光信号強度の強度比から、測定対象箇所の水素ガスの濃度を測定することもできる。なお、大気中の窒素ガスのラマン散乱光の受光信号強度は、窒素ガスのラマン散乱光の波長である379.9nmを選択的に透過するバンドパスフィルタ25を用いることで得ることができる。
【0040】
また、上述した実施形態に係るガス濃度測定装置1では、1点の測定対象箇所のガスの濃度を測定する構成を例示して説明したが、複数の測定対象箇所のガスの濃度を測定する場合には、測定対象箇所の数に応じて、光検出装置20(必要があればレーザー装置10も)を増設した構成としてもよい。たとえば、
図2(B)に示す例において、測定箇所P4に存在するガスの濃度を測定したい場合には、測定箇所P4に対応する光検出装置20を設置する構成とすることができる。
【0041】
さらに、上述した実施形態では、レーザー装置10から出射されるパルスレーザー光の光軸L1と、光検出装置20の受光光学系の光軸L2とがなす角度が90°となるように、レーザー装置10と光検出装置20とを離して配置したが、レーザー装置10から出射されるレーザー光の光軸L1と、光検出装置20の受光光学系の光軸L2とがなす角度が90°±20°(すなわち、70~110°)の範囲では一定の効果を奏することができる。ただし、数センチメートル以下の高い分解能を得るためには、光軸L1と光軸L2とがなす角度が90°±10°(すなわち、80~100°)となるように構成することが好ましい。この場合も、支持具によりレーザー装置10および光検出装置20の位置を固定することができる。
【0042】
また、レーザー装置10から出射されるパルスレーザー光の光軸L1と、光検出装置20の受光光学系の光軸L2とがなす角度を90°とした場合、ラマン散乱光をパルスレーザー光の偏光面に対して垂直方向から観測する必要がある。そのため、たとえば、
図3に示す構成に代えて、光検出装置20をガス測定対象空間(たとえば、ガスセルまたはガス放出ノズル)の下方に配置した構成の場合には、レーザー光源11とビームエキスパンダー12との間に、パルスレーザー光の偏光方向を変えるλ/2波長板を配置し、偏光方向を水平方向にする必要がある。
【符号の説明】
【0043】
1…ガス濃度測定装置
10…レーザー装置
11…レーザー光源
12…ビームエキスパンダー
20…光検出装置
21…集光光学系
22…ピンホール
23…凸レンズ
24…ラマン分光用エッジフィルタ
25…バンドパスフィルタ
26…光センサ
27…フィルタホイール
30…測定装置