(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】CDCA増加促進用組成物、FXR増加促進用組成物及びFXR活性化促進用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/125 20160101AFI20221014BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221014BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20221014BHJP
A61K 31/7004 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
A23L33/125
A61P43/00 111
A61P3/06
A61K31/7004
(21)【出願番号】P 2018224010
(22)【出願日】2018-11-29
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】金崎 茜
(72)【発明者】
【氏名】北村 範子
【審査官】楠 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-530600(JP,A)
【文献】特開2010-018528(JP,A)
【文献】国際公開第2013/035479(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/115409(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/125
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
D-プシコースを有効成分とする、体内CDCA増加促進用組成物。
【請求項2】
D-プシコースを有効成分とする、体内FXR増加促進用又は活性化促進用組成物。
【請求項3】
D-プシコースを有効成分とする、体内CDCA増加促進を介してのFXR増加促進用又は活性化促進用組成物。
【請求項4】
D-プシコースを1日に15g以上摂取させるための請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
D-プシコースを少なくとも14日以上継続して摂取させるための請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
D-プシコースを有効成分とする、CDCA増加促進剤。
【請求項7】
D-プシコースを有効成分とする、FXR増加促進又は活性化促進剤。
【請求項8】
D-プシコースを有効成分とする、CDCA増加促進を介してのFXR増加促進又は活 性化促進剤。
【請求項9】
D-プシコースを1日に15g以上摂取させるための請求項6~8のいずれか一項に記 載の剤。
【請求項10】
D-プシコースを少なくとも14日以上継続して摂取させるための請求項9に記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、D-プシコースを有効成分とする、CDCA増加促進用組成物、FXR増加促進用組成物及びFXR活性化促進用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
胆汁酸は、胆汁の主成分として含まれる有機酸であり、肝臓でコレステロールから合成される。肝臓で合成された胆汁酸は、胆汁として一旦胆嚢で貯蔵され、胆嚢は、食事摂取により収縮して胆管を通じて十二指腸・小腸にその胆汁を分泌する。十二指腸・小腸に分泌された胆汁酸は、食事由来のコレステロールや脂質をミセル化して生体内に取り込むのに重要な役割を果たすとともに、門脈を経て肝臓に吸収され、再度胆汁の主成分となる。一方、小腸から吸収されなかった胆汁酸は、糞便として排泄される。
【0003】
以上が胆汁酸の腸肝循環の概要であるが、その胆汁酸の肝臓における濃度は、以下のように調整されている。まず、肝臓内で生成された胆汁酸は、リガンド依存性核内受容体であるファルネソイドX受容体(以下、「FXR」という。)に結合する。そして、(1)チトクロームP450 7A1(CYP7A1)を減少させることにより胆汁酸の生合成を低下させ、(2)ナトリウムタウロコール酸共輸送ポリペプチド(NTCP)を減少させて胆汁酸の取り込みを抑え、(3)胆汁酸輸送体(BSEP)を増加させて胆汁酸の排泄を促進し、肝内の胆汁酸が低下するように作用する。つまり、肝臓内胆汁酸濃度は、胆汁酸により活性化されたFXRを介して調節されている。
【0004】
このFXRは、小腸においても発現し、胆汁酸結合タンパク質(I-BABP)の発現を促進することが知られ、胆汁酸がI-BABPと結合することにより胆汁酸の取り込みを促進していると考えられる。
【0005】
このように、FXRは胆汁酸センサーとして機能し、体内の胆汁酸濃度を調節することによって、コレステロールや脂質の体内への取り込みを調節している。したがって、FXRの増加又は活性化を促すことは、血中脂質濃度上昇に起因する動脈硬化や高脂血症の治療につながると考えられる。そして、胆汁酸のひとつであるケノデオキシコール酸(以下、「CDCA」という。)が、その他の胆汁酸に比してFXRを顕著に活性化することが報告されているため(非特許文献1)、このCDCAを増加させることができれば、コレステロール・脂質異常症などの疾患の効率的な治療、予防及び改善が期待できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Makishima M, et al:Science. 1999;284(5418): 1362-5.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、CDCA増加促進用組成物、FXRの増加促進用組成物及びFXRの活性化促進用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、種々検討した結果、D-プシコースを含む組成物を動物に継続的に摂取させることにより、糞便中CDCAが増加すること、及び肝臓中FXRが増加することを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、以下の[1]~[11]から構成されるものである。
[1]D-プシコースを有効成分とする、体内CDCA増加促進用組成物。
[2]D-プシコースを有効成分とする、体内FXR増加促進用又は活性化促進用組成物。
[3]D-プシコースを有効成分とする、体内CDCA増加促進を介してのFXR増加促進用又は活性化促進用組成物。
[4]D-プシコースを1日に15g以上摂取させるための上記[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5]D-プシコースを少なくとも14日以上継続して摂取させるための上記[4]に記載の組成物。
[6]D-プシコースを有効成分とする、CDCA増加促進剤。
[7]D-プシコースを有効成分とする、FXR増加促進又は活性化促進剤。
[8]D-プシコースを有効成分とする、CDCA増加促進を介してのFXR増加促進又は活性化促進剤。
[9]D-プシコースを1日に15g以上摂取させるための上記[6]~[8]のいずれかに記載の剤。
[10]D-プシコースを少なくとも14日以上継続して摂取させるための上記[9]に記載の剤。
[11]D-プシコースを経口摂取することによる、体内のCDCA若しくはFXRの増加又はFXRの活性化の促進方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のD-プシコースを有効成分として含む組成物を摂取すれば、体内のCDCAを増加させることができ、ひいては、FXRを増加又は活性化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
肝臓においてコレステロールから生成される胆汁酸を一次胆汁酸といい、具体的には、コール酸(CA)及びケノデオキシコール酸(CDCA)をいい、これらのグリシン抱合体(GCA及びGCDCA)及びタウリン抱合体(TCA及びTCDCA)も含む。これら一次胆汁酸は、腸内に分泌されて腸内細菌に代謝されると、CAはデオキシコール酸(DCA)に、CDCAはリトコール酸(LCA)に変換され、また、GCDCAはウルソデオキシコール酸(UDCA)に、TCDCAはタウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)に変換されて、いわゆる二次胆汁酸となる。
【0012】
本発明におけるCDCAの「増加」とは、被験試料摂取後に体内のCDCA量が相対的に増加することをいう。具体的には、一定期間の被験試料摂取前後に採取した被験者の糞便又は肝臓中のCDCA濃度を液体クロマトグラフ-四重極飛行時間型質量分析装置(以下、「LC-QTOF/MS」という。)などにより測定し、その濃度が被験試料摂取前に比して摂取後に上昇した場合をいう。
【0013】
本発明におけるFXRの「増加」とは、被験試料摂取後に体内のFXR濃度が相対的に増加することをいう。具体的には、一定期間の被験試料摂取前後に採取した被験者の肝臓または肝臓細胞内のFXR濃度を測定キット、例えば、ELISA Kit for FarnesoidX Receptor (FXR)(Cloud-Clone社製)などを用いて測定し、その濃度が被験試料摂取前に比して増加した場合をいう。
【0014】
本発明におけるFXRの「活性化」とは、被験試料摂取後に体内CDCA量が増加すればFXRに対する結合量は多くなり、最終的にFXRが活性化されることになるので、体内CDCA量の増加により推定される効果をいう。
【0015】
本発明におけるD-プシコースは、もっとも簡便には、D-フラクトースを原料に酵素(エピメラーゼ)によって生産されるが、酵素的に生産されたものに限らず、化学的に生産されたものでもよい。
【0016】
本発明の有効成分であるD-プシコースの摂取量は、少なくとも一日あたり0.08g/kg体重が必要であり、好ましくは0.08g~0.8g/kg体重、より好ましくは0.1~0.5g/kg体重、さらに好ましくは0.1~0.3g/kg体重である。また、本発明の有効成分としてのD-プシコースの摂取方法は、経腸摂取及び経口摂取のいずれでも構わないが、経口摂取がより好ましい。したがって、本発明の組成物又は剤におけるD-プシコースの含量は、その目的、用途、形態、剤型、症状、体重等に応じて任意に定めることになるので、特に限定されるものではないが、食品組成物として摂取する場合は、その組成物中におけるD-プシコースの含量は1~100質量%とするのがよく、好ましくは10~90質量%、より好ましくは30~80質量%とするのがよい。また、剤の場合、摂取の利便性を考慮すれば、50~100質量%とするのがよく、より好ましくは70~95質量%とするのがよい。標準的な成人(体重60kgを想定)であれば、一日当たり少なくとも5g、好ましくは10g、より好ましくは15gであるので、本発明の組成物又は剤は、当該用量を摂取できるよう設計されるのがよい。
【0017】
本発明における組成物又は剤の摂取期間は、少なくとも14日以上であり、好ましくは30日以上である。
【0018】
本発明における組成物又は剤の形状は、特に限定されないが、例えば、水溶液、錠剤、顆粒等の形状により摂取することが可能である。また、摂取タイミングは、食事前、食事中、食事後のいずれでも構わないが、食事前又は食事中が好ましく、食事前であることがより好ましい。
【0019】
本発明における組成物又は剤は、飲食品に配合することもできる。例えば、ベーカリー、麺、お好み焼き、たこ焼き、ホットケーキ、バッター等の穀類を主成分とする製品やそれら製造のためのミックス粉、和菓子、水練り製品、畜肉製品、米飯加工品のほか、ヨーグルト、プリン、ゼリー、アイスクリームなどのデザート類、マヨネーズやソースを含むたれ・ドレッシング類、あんかけ類、嚥下剤、又は粉末飲料、清涼飲料、炭酸飲料などのドリンク類などへの配合が例示されるが、これらに特に限定されるものではない。
【0020】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
(ヒトにおけるD-プシコース継続摂取試験)
(1)被験者
被験者は25歳以上63歳以下の男性であって、高コレステロール血症の未治療者(120mg/dl≦空腹時LDL-C<160mg/dl:7名)及びLDLコレステロール値の上昇が予想される糖尿病境界型の未治療者(110mg/dl≦空腹時血糖値<126mg/dl、又は6.2≦HbA1c(NGSP)<6.5:7名)を選定した。
(2)試験方法
試験方法は、非盲検試験(オープンテストともいう)にて行った。
(3)被験食品
被検食品は、D-プシコース15gを1日1回とし、水などと共に摂取した。なお、摂取する時間帯は特に限定せず、食前や食後などいずれでもよいとした。
(4)便検体の採取
上記被験者を7名ずつ、事前検査における高コレステロール血症の未治療者及び糖尿病境界型の未治療者の2群(A群、B群)に割付け、各群に被験食品を1日1回摂取させた。全摂取期間は4週間(28日間)とし、摂取期間開始前5日間以内及び摂取期間終了後5日間以内にそれぞれ1回、糞便を採取した。採取した各被験者の糞便は、胆汁酸濃度の測定に用いた。
【0022】
(胆汁酸の測定及び結果)
各被験者から採取した糞便(以下、「試料」という。)を、ビーズチューブに100mg精秤し、9倍量の酢酸ナトリウムバッファー/エタノール混合溶液を加えて試料を破砕した後、85℃、30minにて熱処理を行った。遠心分離機で遠心後(14000rpm、10min)、その上清を超純水(MilliQ)で4倍希釈し、Bond Elute C18カートリッジ(アジレント・テクノロジー社製)に供し固相抽出を行った。得られた抽出液は蒸発乾固後に、50%エタノールに溶解し、孔径0.2μmの親水性PTFEフィルターでろ過し、ろ過後の抽出液に内部標準液(d4-コール酸:C24H36D4O5)を加えて試料溶液とした。その試料溶液を用いて、LC-QTOF/MSにより胆汁酸濃度の測定を行った。測定対象は、表1に示す一次胆汁酸及び二次胆汁酸の全成分とし、分析条件及び測定条件は、以下の表2及び表3に示した。
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
上述の手順により測定した各胆汁酸の濃度(μmol/g試料)のうち、全被験者(14名)のCDCA濃度の平均値を算出した。結果を表4に示す。
【0027】
【0028】
CDCA濃度は、D-プシコース摂取前と比較して、D-プシコース摂取後に上昇する傾向を示した。
【0029】
(ラットの飼育1)
次に、D-プシコース摂取による体内のFXR濃度の変動を確認するため、ラットで試験を行った。5週齢の雄性Sprague-Dawleyラット(以下、「SDラット」という。)12匹を、コントロール摂取群及び3%D-プシコース摂取群の2群(1群あたり5匹又は6匹)に分け、被験飼料と水を自由摂取として2週間飼育した。与えた餌の組成を表5に示す。
【0030】
【0031】
(ラット肝臓内タンパク質の抽出)
飼育したSDラットを解剖して肝臓を摘出し、市販のタンパク抽出キット(Minute Total Protein Extraction Kit:インヴェント バイオテクノロジー社製)を用いてタンパク質を抽出した。
【0032】
(ラット肝臓内FXR濃度の測定及び結果)
抽出したタンパク質について、市販キット(ELISA Kit for Farnesoid X Receptor (FXR):Cloud-Clone社製)を用いてFXR濃度(μg/g肝臓)を測定し、摂取群ごとの平均値を算出した。その結果を表6に示す。
【0033】
【0034】
D-プシコース3%摂取群では、コントロール摂取群と比較して、肝臓FXR濃度が上昇傾向を示した。
【0035】
なお、飼育したSDラットは、一日当たり平均135kcal/kg体重の餌を摂取しており、その一日当たりの摂取エネルギーは、ヒト(体重60kg)の約9.5倍と算出された。飼育したSDラットは、一日当たり平均2.5g/kg体重のD-プシコースを摂取しており、これは、ヒト(体重60kg)がD-プシコースを15g/日摂取した場合の摂取量(0.25g/kg体重)の10倍である。よって、飼育したSDラットのD-プシコース摂取量は、前述のヒト試験におけるD-プシコース摂取量と同等であったといえる。
【0036】
(ラットの飼育2)
上述のラット試験においては、解剖前までに絶食期間を設けなかった。そこて、より正確な数値を確認するために、新たにラットを飼育し、その肝細胞を分離後、FXR濃度の測定をすることとした。
【0037】
まず、7週齢の雄性SDラット6匹を、コントロール摂取群及び3%D-プシコース摂取群の2群(1群あたり3匹)に分け、被験飼料と水を自由摂取として2週間飼育した。なお、与えた餌の組成は表5と同じである。
【0038】
(ラット肝細胞の培養及びタンパク質抽出)
飼育後のSDラットを解剖し、肝細胞を分離した。分離した各肝細胞は、ウィリアムE培地で48時間培養した。その後、市販キット(Minute Total Protein Extraction Kit:インヴェント バイオテクノロジー社製)を用いて、培養した肝細胞からタンパク質を抽出した。
【0039】
(ラット肝細胞内FXR濃度の測定及び結果)
抽出したタンパク質について、市販キット(ELISA Kit for FarnesoidX Receptor (FXR):Cloud-Clone社製)を用いてFXR濃度を測定し、摂取群ごとの平均値を算出した。その結果を表7に示す。
【0040】
【0041】
その結果、D-プシコースを摂取することにより、肝細胞のFXR濃度が上昇することがわかった。
【0042】
以上より、D-プシコースは、体内のCDCAとFXRを増加させるので、D-プシコースを有効成分とする体内CDCA増加促進用組成物、FXR増加促進用組成物又はFXR活性化促進用組成物を提供することができる。