(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】シャント抵抗器に用いられる抵抗合金、抵抗合金のシャント抵抗器への使用及び抵抗合金を用いたシャント抵抗器
(51)【国際特許分類】
H01C 13/00 20060101AFI20221014BHJP
C22C 9/05 20060101ALI20221014BHJP
H01C 7/00 20060101ALI20221014BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20221014BHJP
C22F 1/08 20060101ALN20221014BHJP
【FI】
H01C13/00 J
C22C9/05
H01C7/00 400
C22F1/00 623
C22F1/00 650Z
C22F1/00 661B
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686B
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
C22F1/08 B
C22F1/08 N
(21)【出願番号】P 2020145278
(22)【出願日】2020-08-31
【審査請求日】2022-06-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】粂田 賢孝
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 忠彦
【審査官】北原 昂
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-174272(JP,A)
【文献】特開昭54-6810(JP,A)
【文献】国際公開第2018/150705(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 13/00
C22C 9/05
H01C 7/00
C22F 1/00
C22F 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流検出用のシャント抵抗器に用いられる抵抗合金であって、
マンガンを4.5から5.5質量%、シリコンを0.05から0.30質量%、鉄を0.10から0.30質量%、残りが銅で構成され、比抵抗が15~25μΩ・cmである抵抗合金。
【請求項2】
TCRが100×10
-6/K以下である、
請求項1に記載の抵抗合金。
【請求項3】
対銅熱起電力が±1μV/K以内である、
請求項1又は2に記載の抵抗合金。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の抵抗合金の、電流検出装置に用いられるシャント抵抗器の抵抗体への使用。
【請求項5】
抵抗体と電極とからなる電流検出用のシャント抵抗器であって、
前記抵抗体は、マンガンを4.5から5.5質量%、シリコンを0.05から0.30質量%、鉄を0.10から0.30質量%、残りが銅で構成され、比抵抗が15~25μΩ・cmである抵抗合金により形成される、
電流検出用のシャント抵抗器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャント抵抗器に用いられる抵抗合金、抵抗合金のシャント抵抗器への使用及び抵抗合金を用いたシャント抵抗器に関する。
【背景技術】
【0002】
電流検出等に用いられ、電極と抵抗体とからなるシャント抵抗器用の抵抗合金としては、銅-マンガン系合金(銅-マンガン-ニッケル合金など)、銅-ニッケル系合金、ニッケル-クロム系合金、鉄-クロム系合金等がある。シャント抵抗器の抵抗合金は、高い検出精度を得るために、抵抗温度係数(以下、「TCR」とも称する。)が低く、銅に対して小さい熱起電力である銅-マンガン系合金を用いることが多い。一般的な銅-マンガン系合金(銅-マンガン-ニッケル系合金)としては、29μΩ・cmの比抵抗を持つ銅-マンガン-スズ系合金が存在する。
この抵抗合金を用いて小型かつ低抵抗のシャント抵抗器を設計することを想定する。その場合、低抵抗化のために板厚を厚くする必要があり、そうするとプレス加工等の加工性が低下する。一方、低抵抗化のために電極間距離を小さくすると、シャント抵抗器全体として電極分のTCRの寄与が大きくなる。つまりシャント抵抗器全体としてのTCR(製品TCR)が増加する。
低い抵抗値を有する抵抗材料、例えば比抵抗が20μΩ・cmの銅-ニッケル系合金を使用して、小型かつ低抵抗のシャント抵抗器を設計することを想定する。その場合、抵抗合金が持つTCRが大きく、製品TCRも大きくなる。さらに対銅熱起電力も大きいことから、シャント抵抗器の抵抗合金としては用途や使用条件が限定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-329421号公報
【文献】国際公開WO2016/111109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電流検出用抵抗器を、例えば1000A等の大電流の検出に用いたいという要求がある。これに対応するため、シャント抵抗器の抵抗値は100μΩ,50μΩ,25μΩ,10μΩというように低抵抗化が進んできている。
上記の抵抗合金を使用してシャント抵抗器(電流検出用抵抗器)を構成する場合、抵抗体の両端に銅の電極を溶接する。銅は約4,000ppm/K(25~100℃)と高いTCRを有する。シャント抵抗器を小型化あるいは低抵抗化した場合に、このような銅電極のTCRがシャント抵抗器の抵抗値に寄与する割合が増加する。このため、シャント抵抗器としてのTCRが増加し、電流検出の精度が悪化する。
【0005】
上記特許文献1には、抵抗器の形状によりTCRを調整する技術が開示されている。しかしながら、電極への加工により抵抗器の実抵抗が増加するという課題がある。また、抵抗器を小型化した場合の加工や調整が困難である等の課題がある。
また、シャント抵抗器を低抵抗化かつ小型化した場合、抵抗器のTCRは大きくなり検出精度が低下するという課題もある。また、電流検出装置の信頼性を確保する必要もある。
さらに、製品仕様によってシャント抵抗器の厚みおよび幅が固定化されている場合があり、以下のような問題が生じうる。
【0006】
図10は、シャント抵抗器において、電極間距離を変更した場合の斜視図である。ここでは、抵抗体が電極端に対して持ち上げられた持ち上がり構造を例にして説明する。
図10(a)は、シャント抵抗器X1において、配線121a,121bに接続される電極1115a,115b間の距離(電極間距離=抵抗体111の長さ)L103を短くしたシャント抵抗器の一構成例を示す斜視図である。
図10(b)は、シャント抵抗器X2で、配線121a,121bに接続される電極115a,115b間の電極間距離(抵抗体111の長さ)L113を長くしたシャント抵抗器の一構成例を示す斜視図である。尚、L101,L102,L111,L112は、それぞれのシャント抵抗器において変更できる幅に対応する幅である。
【0007】
図10(a)、(b)を参照して以下において説明する。
図10(a),
図10(b)は、以下の本発明の実施の形態においても説明に使用する。
1)シャント抵抗器の電極のサイズを一定にした場合、シャント抵抗器の抵抗値を小さくするには、抵抗体の厚みを厚くする必要がある。しかしながら、抵抗体の板厚が厚くなると、プレス加工(打ち抜き)などを行う場合に、切断部分がダレたり綺麗な形状が保てなくなるという問題がある。
【0008】
2)
図10(b)に示すシャント抵抗器の構造、すなわち、電極間距離L113が長い(持ち上がり部分の電極幅L111、L112が相対的に短い)構造と比べて、
図10(a)に示すように、電極のうち持ち上がり部分の電極幅L101,L102を相対的に長くし、電極間距離L103を短くする(抵抗体111の長さを短くする)ことによりシャント抵抗器X1の抵抗値を低くすることが可能である。従って、抵抗値の低いシャント抵抗器が実現できる。しかしながら、電極115a、115bの長さが抵抗体111の長さに対して相対的に大きくなるため、電極材料である銅のTCRの影響によりシャント抵抗器X1のTCRが高くなる。つまり、
図10において、
図10(a)の構造の方が
図10(b)の構造に比べて、矢印部分で示すように銅電極115a、115bが抵抗体111に対して相対的に大きくなるため、TCRが高くなるという問題がある。
【0009】
また、
図10(a)に示すように、抵抗体111の長さL103が短くなると、抵抗体111と電極115a,115bとの溶接が難しくなる。従って、シャント抵抗器X1の低抵抗化には限界がある。すなわち、溶接には一定幅の余裕が必要とされるため、抵抗体111の長さを短くしすぎると、実抵抗体部分が小さくなってしまう。例えば、電子ビーム溶接等により抵抗体と電極とを溶接しようとすると、溶接痕の幅を考慮する必要がある。従って、抵抗体の長さを短くする工程には加工寸法の限界がある。
【0010】
3)シャント抵抗器の抵抗値を小さくする別の手段として、抵抗体を構成する抵抗体合金の比抵抗を低くすることが考えられる。
例えば、TCRが低くなり、比抵抗が小さくなる抵抗体合金としてCu-7Mn-2.3Sn合金がある。比抵抗は29μΩ・cmであり十分に低いとは言えない。比抵抗が20μΩ・cmである抵抗合金としてCu-Ni系合金があるが、TCRの性能はおよそ330ppm・Kであり優れていない。また銅に対する熱起電力が大きくなり、電流検出の精度への影響が大きい。
【0011】
特許文献2は、Cuと、6.20質量%以上7.40質量%以下のMnと、0.15質量%以上1.5質量%以下のSiとを含有するCu合金から構成され、25℃から150℃までのTCRの絶対値が15ppm/K以下である抵抗合金を開示する。
これにより、広い温度範囲でTCRの絶対値を小さくすることができる。しかしながら、特許文献2は、低いTCRを達成するものの、比抵抗、対銅熱起電力も低くすることを開示していない。この点については後述する。
【0012】
本発明は、シャント抵抗器などの電流検出用の抵抗器において、低いTCRを維持しつつ、低い比抵抗を達成すること、小さい対銅熱起電力を達成することを目的とする。
また、そのようなシャント抵抗器に用いる抵抗合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一観点によれば、電流検出用のシャント抵抗器に用いられる銅-マンガン系の抵抗合金であって、マンガンを4.5から5.5質量%、シリコンを0.05から0.30質量%、鉄を0.10から0.30質量%、残りが銅で構成され、比抵抗が15~25μΩである抵抗合金が提供される。
上記の抵抗合金において、TCRが100×10-6/K以下(0~100×10-6の範囲)であることを特徴とする。
【0014】
また、上記のいずれか1に記載の抵抗合金において、対銅熱起電力が±1μV/K以内であることを特徴とする。
これにより、例えば銅電極で形成されるシャント抵抗器におけるTCRの値を小さくしつつ、TCR、対銅熱起電力を低減することができる。
【0015】
また、本発明は、上記のいずれか1に記載の抵抗合金の、電流検出装置に用いられるシャント抵抗器の抵抗体への使用である。
また、本発明は、抵抗体と電極とからなる電流検出用のシャント抵抗器であって、前記抵抗体は、マンガンを4.5から5.5質量%、シリコンを0.05から0.30質量%、鉄を0.10から0.30質量%、残りが銅で構成され、比抵抗が15~25μΩである抵抗合金により形成されるシャント抵抗器である。
【0016】
また、本発明は、抵抗体と電極とからなる電流検出用のシャント抵抗器であって、前記抵抗体は、マンガンを4.5から5.5質量%、シリコンを0.05から0.30質量%、鉄を0.10から0.30質量%、残りが銅で構成され、比抵抗が15~25μΩである抵抗合金により形成される、電流検出用のシャント抵抗器である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の抵抗合金を用いれば、電流検出装置に用いられるシャント抵抗器のTCRを小さくしつつ、低い比抵抗を達成し、小さい対銅熱起電力を達成することができる。
また、本発明の抵抗合金を用いれば、シャント抵抗器の電流検出の信頼性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施の形態による銅とマンガン-鉄-シリコンを含む抵抗体用の抵抗合金の四元系合金の相図である。
【
図2】本実施の形態による抵抗器用の抵抗合金の評価用素子の形状を示す図である。
【
図3】本実施の形態による抵抗合金の比抵抗とTCRの関係を示す図であり、表1のCu-Mn合金(Feを添加した試料を含む)における試料1から試料6までに対応する値を示す図である。
【
図4】本実施の形態による抵抗合金におけるFeの組成と対銅熱起電力との関係を示す図であり、表1のCu-Mn合金(Feを添加した試料を含む)における試料2,試料4-6までに対応する値を示す図である。
【
図5】
図2に示す評価用素子により高温放置試験を行った際の、XRD(X線回折装置)による、抵抗合金にSiを添加した場合の分析結果を示す図である。
【
図6】
図2に示す評価用素子により高温放置試験を行った際の、Siの添加の影響を調べた図であり、Si添加量とCu
2Oの111面の回折強度(縦軸:カウント数)との関係を示す図である。
【
図7】本実施の形態による抵抗合金における抵抗材のTCRと比抵抗との関係を示す図である。
【
図8】
図8(a)は、本発明の第2の実施の形態による抵抗器用の合金を用いたシャント抵抗器の一構成例を示す斜視図である。
図8(b)は、シャント抵抗器の平面図と側面図である。
図8(b)には、寸法(mm)を示している。
【
図9A】本発明の第3の実施の形態によるシャント抵抗器の製造工程の一例を示す図である。
【
図9B】本発明の第3の実施の形態によるシャント抵抗器の製造工程の一例を示す図であり、
図9Aに続く図である。
【
図9C】本発明の第3の実施の形態によるシャント抵抗器の製造工程の一例を示す図であり、
図9Bに続く図である。
【
図9D】本発明の第3の実施の形態によるシャント抵抗器の製造工程の一例を示す図であり、
図9Cに続く図である。
【
図9E】本発明の第3の実施の形態によるシャント抵抗器の製造工程の一例を示す図であり、
図9Dに続く図である。
【
図9F】本発明の第3の実施の形態によるシャント抵抗器の製造工程により製造したシャント抵抗器の断面図である。
【
図10】シャント抵抗器において、電極間距離を変更した場合の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明者は、特許文献2に記載されているようなCu-Mn-Si系の合金を用いた抵抗材料において、さらに、適量のFeを含むことで、低いTCR(100×10-6/K以下など)を保持しつつ、低い比抵抗(例えば15~25μΩ・cm)を達成することができる。
さらに、小さい対銅熱起電力を有するように組成等を調整することができる。
【0020】
以下に本発明の実施の形態によるシャント抵抗器に用いられる抵抗合金、それを用いたシャント抵抗器等について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
まず、本発明に関する発明者の考察について簡単に説明する。
1)発明者の着眼点として、電極として用いられる銅の高いプラスのTCRの寄与を補償するため、抵抗体にマイナスのTCRを示す抵抗合金を混合して使用することが重要である。ところが、大きなマイナスのTCRを有する抵抗合金に関する報告は少ない。
2)低TCRかつ長期安定性に優れた銅-ニッケル合金が存在するが、これらの合金は対銅熱起電力40μV/Kと大きい。従って、大電流を流す電流検出装置に用いるシャント抵抗器ではペルティエ効果により検出精度が低下する。
3)マイナスのTCRを有する合金として、ニッケル-クロム系合金がある。しかしながら、ニッケル-クロム系合金は、比抵抗が銅-ニッケル合金や銅-マンガン合金と比較すると2倍以上である。そのため、シャント抵抗器の低抵抗化を実現するのが難しい。
【0022】
本実施の形態では、低い比抵抗(例えば15~25μΩ・cm)を達成することができる抵抗体用の抵抗合金を提供する。
さらに、低いTCR(100×10-6/K以下)、十分に小さい対銅熱起電力(1.0μV/K以下)を有するように合金の組成等を調整した結果を示す。
【0023】
(第1の実施の形態)
以下の本発明の実施の形態について具体的に説明する。
本実施の形態による合金は、低いTCRを有する抵抗合金であり、銅-マンガン-シリコン-鉄から構成される四元系合金である。この抵抗合金をシャント抵抗器の抵抗材料として用いることができる。
図1は、本実施の形態による銅-マンガン-シリコン-鉄を含む抵抗体用の合金の四元系合金の相図である。
ここで、銅の質量分率が左上辺側の軸上に示され、シリコン+鉄の質量分率が右上辺側の軸上に示されている。一方、マンガンの質量分率が、底辺側の軸上に示されている。
【0024】
図1には、本発明による抵抗合金を特徴付ける黒塗りの領域Rを示しており、領域Rにおけるマンガンの質量分率は4.5%から5.5%であり、領域Rにおけるシリコン+鉄の質量分率は0.15%から0.60%である。より詳細には、シリコンは0.05%から0.30%の質量分率、鉄は、0.10%から0.30%の質量分率である。残りは銅である。
マンガンの代表値は5.0質量%である。シリコンの代表値は、0.15質量%である。鉄の代表値は0.2質量%である。残りが銅である。
【0025】
図2は、本発明の実施の形態による抵抗器用の合金の評価用素子の形状を示す図である。
図2に示すように、抵抗器用の合金の評価用素子Xは、両端の電極部(電流を流す部分)1,3と、電極部1,3間に延在する抵抗体5と、抵抗体5の両端よりも中央側に位置する電圧検出部7,9とを有している。電極部1,3間の距離は50mmであり、電圧検出部7,9間の距離は20mmである。
【0026】
次いで、評価用サンプルの製造工程の一例について簡単に説明する。
1)原材料を秤量する。
2)1)の材料を溶解する。
3)冷間圧延機により所定の厚みのフープ材にする。
4)真空・ガス置換炉で、N
2雰囲気で500~700℃、1~2時間の熱処理を行う。
5)フープ材より、プレス加工により
図2の形状の評価用素子を作成する。
6)真空・ガス置換炉で、N
2雰囲気で200~400℃、1~4時間の熱処理(低温熱処理)を行う。
【0027】
上記の領域Rにおける合金成分の各質量分率は、抵抗合金が、以下の特性(適正条件)を有するように互いに調整される。
【0028】
(適正条件)
1)比抵抗が15μΩ・cm以上であり、かつ、25μΩ・cm以下である。
2)TCRは、25℃基準とし、100℃で100×10-6/K以下(0から100×10-6/K程度)である。
3)対銅熱起電力は、±1μV/K以内である。
【0029】
以上のように、本発明では、以上の課題を解決するため、低い比抵抗(20μΩ・cm程度:15~25μΩ・cmの範囲)、低いTCR(100×10-6/K以下)、小さい対銅熱起電力(±1μV/K以内)を有する抵抗合金が提供される。
なお、本明細書においては、シャント抵抗器が小型とは、チップのサイズが6.3×3.1mm以下のものをいう。また低抵抗とは、製品における0.5mΩ以下であることをいう。
【0030】
(抵抗合金試料に関する詳細な説明)
以下に示すような各種抵抗合金を作成した。
それらの抵抗合金の組成と諸特性とを表1に示す。
【0031】
【0032】
表1は、本実施の形態による抵抗合金(実施例1及び2)と、比較例1(Cu-14Ni)、比較例2(Cu-Mn-Sn合金)を含む抵抗合金の組成、並びに、それらの電気的特性(比抵抗、TCR、対銅熱起電力)を示す表である。さらに、表1には、本発明における抵抗合金の組成範囲(含有範囲)を検証し見極めることを目的とした試料1から試料7までも含めている。
【0033】
抵抗材料の比抵抗については、実施例1,2の試料について、市販材料である比較例1,2と同等の値(15~25μΩ・cm)が得られている。対銅熱起電力(0~100℃)については、0.2μV/K以下であり適正条件を十分に満たす。
【0034】
表1に示すデータ、特に、実施例1、2及び試料1から7までの値を考察するとこにより、以下のことがわかる。
1)低い比抵抗を維持しながら他の性能を調整すること
FeもSiも含まない試材1~3の結果と比べると、CuMn合金は比抵抗とTCRの特性については、本発明の適正条件(特性要求)を実現することは可能であるが、対銅熱起電力が1μV/Kを超える場合がある。そのため対銅熱起電力を下げ、TCRが悪化しない(大きくならない)元素を添加する必要がある。
【0035】
2)TCR等の改善、Feの添加の影響について
CuMn合金に他の元素、ここではFeを添加すると、TCRは低下するが比抵抗は増加する傾向がある。そのため、TCRを低下させる効果を評価するためには、比抵抗とTCRとの両方を考慮する必要がある。
【0036】
図3は、Cu-Mn系合金の比抵抗とTCRの関係を示す図である。表1のCu-Mn合金(Feを添加した試料を含む)における試料1から試料6までに対応する値を示している。
図3において、Cu-Mn合金とCu-5Mn-Fe合金との値を示している。図中における各プロットにおいて、MnとFeの組成を数値で示している。
【0037】
図3に示すように、Cu-Mn合金において、Mnの組成が5.0質量%、5.5質量%と大きくなるにつれて、TCRを徐々に小さくすることができることがわかる。
また、Cu-5Mn-Fe合金においては、Feの組成が高くなると、TCRが高くなる(悪化している)と評価することができる。特に、Feの組成が0.5質量%を超えると1.0質量%にかけてTCRは急激に高くなる。
但し、Feの組成が0.5質量%よりも小さく、例えば、0.2質量%程度であれば、TCRが急激に高まることはないこともわかる。
いずれの範囲でも、TCRは100×10
-6/K以下である。
【0038】
図4は、Feの組成と対銅熱起電力との関係を示す図である。表1のCu-Mn合金(Feを添加した試料を含む)における試料2,試料4-6までに対応する値を示している。
試料4(Fe:0.2質量%)からわかるように、Feの添加量が少量であっても、対銅熱起電力を大きく下げる効果がある。また、試料2,4-6の値から、Feを0.1~0.3質量%添加することで、対銅熱起電力は±0.5μV/K程度の範囲に収まることがわかる。また、前述の
図3からもわかるように、TCRに対するFeの添加の効果は、試料2,4-6の結果から、0.5質量%までのFe添加量であればTCRを100×10
-6/K以下にすることができることがわかる。
以上のように、Cu-Mn合金において、鉄を0.10から0.30質量%添加した抵抗合金であれば、対銅熱起電力を±1μV/K以内、TCRを100×10
-6/K以下にすることができる。
【0039】
3)Siの添加の影響について
Cu-Mn系の合金材料において、組成がCu100%に近くなると、Cuの酸化が問題となることが予想される。そこで、Cuの酸化を抑制することも重要である。
図2に示す評価用素子を用いて、表1の実施例1、2の試料及び試料4について(実施例1、2の試料は、Siを添加している。)耐熱性試験を行った。
【0040】
図5は、Si添加によるXRD(X線回折装置)による分析結果を示す図であり、175℃での高温放置試験、3000時間後の試料の測定結果である。
図5の上側から順番に、実施例2、実施例1、試料4の測定結果を示す。
また、
図6は、同様の高温放置試験を行った際の、Si添加量とCu
2Oの111面の回折強度(縦軸:カウント数)のSi組成依存性を示す図である。
【0041】
高温放置試験後のXRDデータ(
図5、
図6)から、Cu
2Oの生成がSiの添加によって抑えられていることがわかる。すなわち、Cu
2Oのピークが(
図5の×印で示す)、Siの添加量が増加するに従って小さくなっている。尚、●印は基準として示すCuのピークである。
この現象は、Siの添加により抵抗合金の材料表面にSi酸化物が形成されることに起因するCuの酸化を抑制する効果に基づくものであると推定される。
【0042】
図7は、抵抗材のTCRと比抵抗との関係を示す図である。
図4と対応する特性を示す図である。
図7では、Cu-MnとCu-5Mn-0.2Fe-Si(試料4、実施例1、実施例2)との値を示している、
図7に示すように、TCRに対する影響については、実施例1,2と試料4の結果から、Siの添加量として0.2質量%程度であれば、TCRが高くならないことがわかる。発明者の実験等によれば、Siの添加量として0.05から0.30質量%の範囲が好ましい。
【0043】
(本発明の有効性の詳細な説明)
以下に、本発明の有効性について詳細に説明する。
本発明は、電流検出用シャント抵抗器の抵抗合金であって、Mnを4.5から5.5質量%、Feを0.10から0.30質量%、Siを0.05から0.30質量%、残りをCuとした抵抗合金である。
この抵抗合金は、比抵抗が15から25μΩ・cmの範囲にある。
また、この抵抗合金は、TCRが100×10-6/K(25-100℃)以下である。
また、この抵抗合金は、対銅熱起電力が±1μV/K以内である。
以上の特性を有することで、小型かつ低抵抗のシャント抵抗器に適した抵抗合金であり、かつ、低TCR値も実現することできる。シャント抵抗器を用いた電流検出装置の電流検出精度が良好となり、シャント抵抗器の小型化により、電流検出装置の省スペース化が可能になる。
【0044】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。
図8(a)は、本発明の第2の実施の形態による抵抗器用の合金を用いたシャント抵抗器の一構成例を示す斜視図である。
図8(b)は、シャント抵抗器の平面図と側面図である。
図8(b)には、寸法(mm)を示している。
図8(a),(b)に示すシャント抵抗器Aは、プレス等により個片状の抵抗体11を作成し、その両端にCuの電極15a,15bを突合せ溶接した構造である。
【0045】
抵抗体11と電極15a,15bは、EB(電子ビーム)溶接、LB(レーザービーム)溶接等で接合することができる。
図8に示すシャント抵抗器Aは、比較的大型のシャント抵抗であり、一個ずつ作ることがある。抵抗体の材料は、第1の実施の形態で説明したマンガンが4.5~5.5質量%、鉄が0.10~0.30質量%、シリコンが0.05~0.30質量%、残りは銅であるものを用いることができる。その他、第1の実施の形態で説明した合金を、目的に応じて使用することができる。
【0046】
本発明の抵抗合金をシャント抵抗器の製品に使用した場合の効果を確認するため、実施例1と比較例2のそれぞれの抵抗体を使用してシャント抵抗器を作成した。
【0047】
【0048】
表2は、比較例2と実施例1を対比させたものであり、サイズ、抵抗値、TCRを示す表である。
シャント抵抗器の外形サイズは6.3mm×3.1mm、抵抗体の厚さは1mm、シャント抵抗器の定格抵抗値は0.2mΩである。
表2に示すように、実施例1の抵抗合金を使用した場合のシャント抵抗器は、比較例2の抵抗合金を使用した場合に比べて、定格抵抗値は同じであっても、比抵抗を小さくすることができるため、抵抗体の長さを2mmから3mmまで長くすることができる。従って、
図10(a)を参照して前述したように、TCRを低くすることができる。
【0049】
本実施の形態によるシャント抵抗器は、比較的高い比抵抗の抵抗体を使うことで、シャント抵抗器の設計上の自由度を確保することができる。
また、比較的高い比抵抗の抵抗合金を使用することで、電極として使われるCuの抵抗器全体におけるTCRの寄与を相対的に小さくすることができる。このため、抵抗合金の特性を活かしたシャント抵抗器を実現することができる。
【0050】
ここで、本実施の形態では、抵抗材料のTCRがマイナス側になるように調整した。このため、銅電極を接合した抵抗器自体のTCRを小さくできる。
また、
図8(b)に示す構造・寸法のシャント抵抗器Aにおいて、TCRを測定した。抵抗材料として比較例1を用いたシャント抵抗器は、TCRが76ppm/Kであった。これに対して、試料1を用いたシャント抵抗器では、TCRが50ppm/Kであった。このように、本実施の形態の抵抗合金を使用すると、TCRが0に近くなる方向に改善されることがわかる。
【0051】
(第3の実施の形態)
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。抵抗体と電極を接合した長尺状の接合材を作成して、打ち抜き切断して製造する例である。これにより、比較的小型のシャント抵抗器を大量生産することができる。
以下に、そのような製造工程の一例を示す。
図9Aから
図9Fまでは、本実施の形態によるシャント抵抗器の製造工程の一例を示す図である。
【0052】
図9Aに示すように、例えば、長尺の平板状等の抵抗材21と、抵抗材21と同様の長尺の平板状の第1の電極材25a、第2の電極材25bを準備する。抵抗材21は、第1,第2の実施の形態で説明した合金材料を用いる。
図9Bに示すように、抵抗材21の両側に第1の電極材25aと第2の電極材25bとをそれぞれ配置する。
【0053】
図9Cにも示すように、例えば電子ビームやレーザービームなどで溶接して1枚の平板とする(L11、L12で接合する)。このとき、電子ビーム等の照射部位は、
図9C(a)もしくは
図9C(b)とする。
図9C(a)は、電極材25a、25bと抵抗材21とによる平坦面側に電子ビーム等を照射した例である。
図9C(b)は、電極材25a、25bと抵抗材21とによる凹みの内側に電子ビーム等を照射した例である。電極材25a、25bにおける抵抗材21より突出した面には、電子ビーム等が照射されないようにして影響を少なくする。
抵抗材21と電極材25a、25bとの厚さ
の差により、抵抗値を調整することもできる。また、
図9Fにおいて後述する段差(Δh
2)を形成することができる。接合位置により、抵抗値や形状に関する種々の調整を行うことも可能である。
【0054】
次いで、
図9D(a)に示すように、
図9Bの状態から、符号17で示すように、抵抗材21の領域を含むように、くし歯状に、平板を打ち抜くなどにより取り除く。次いで、第1の電極材25a、第2の電極材25bの一部をプレスなどで曲げ加工することで、
図9D(b)に断面図で示すような断面形状を有する構造を形成する。尚、符号21a、bは溶接部であり、電子ビーム照射などで接続されている部分である。
【0055】
次いで、
図9Eに示すように、電極の切り離されていない他端側(35b)を、L31に沿って、残りの領域(基部)25b’から切り離す。第1の実施の形態による電流検出装置に用いる突合せ構造の抵抗器を形成することができる。本実施の形態による製造方法を用いると、電極35a、35bと抵抗体31とからなる抵抗器の量産化が可能となるという利点がある。
【0056】
なお、
図9Fの断面図に示すように、抵抗器には溶接痕43a、43bが形成される。一般に電子ビーム等による溶接痕の表面は荒れた状態になる。精密な電流検出のためには、ボンディングワイヤーをなるべく抵抗体に近い位置に固定するのが好ましいが、このとき溶接痕が邪魔になることがある。本実施例によれば、
図9Cの説明で詳述した方法により、ボンディング面となる領域35a-2、35b-2に溶接痕が形成されることを避けることができる。したがって、抵抗体に近い位置にワイヤを固定することができるという利点がある。
【0057】
本実施の形態によるシャント抵抗器は、比抵抗が15から25μΩ・cmの範囲にある。
また、この抵抗合金は、TCRが100×10-6/K(25-100℃)以下である。
また、この抵抗合金は、対銅熱起電力が±1μV/K以内である。また、対銅熱起電力を、±0.5μV/K以内、さらに、±0.2μV/K以内にすることもできる。
以上の特性を有することで、小型かつ低抵抗のシャント抵抗器に適した抵抗合金であり、かつ、低TCR値も実現することできる。シャント抵抗器を用いた電流検出装置の電流検出精度が良好となり、シャント抵抗器の小型化により、電流検出装置の省スペース化が可能になる。
【0058】
上記の実施の形態において、図示されている構成等については、これらに限定されるものではなく、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
また、本発明の各構成要素は、任意に取捨選択することができ、取捨選択した構成を具備する発明も本発明に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、抵抗器用の合金として利用可能である。
【符号の説明】
【0060】
X 抵抗器用の合金の評価用サンプル
R 適用領域
1,3 両端の電極部(電流を流す部分)
5 抵抗体
7,9 電圧検出部
A シャント抵抗器
11 個片状の抵抗体
15a,15b 電極
21 長尺の平板状等の抵抗材
25a 長尺の平板状の第1の電極材
25b 長尺の平板状の第2の電極材
35b 電極の切り離されていない他端側
43a,43b 溶接痕