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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】バインダ溶液および塗液
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20221014BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20221014BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20221014BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20221014BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01G11/86
H01G11/30
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022073352
(22)【出願日】2022-04-27
(62)【分割の表示】P 2018054627の分割
【原出願日】2018-03-22
(65)【公開番号】P2022109283
(43)【公開日】2022-07-27
【審査請求日】2022-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2017059380
(32)【優先日】2017-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 宗紀
(72)【発明者】
【氏名】繁田 朗
(72)【発明者】
【氏名】越後 良彰
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特許第6065150(JP,B1)
【文献】特開2015-117278(JP,A)
【文献】特表2015-526561(JP,A)
【文献】特開2013-155329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/139
H01G 11/86
H01G 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イミド系高分子(PI)と溶媒とからなる蓄電素子電極形成用のバインダ溶液であって、前記PIが、テトラカルボン酸として芳香族テトラカルボン酸、ジアミンとしてダイマジアミンを用いたPIであり、前記溶媒が、エーテル系溶媒、炭化水素系溶媒、ケトン系溶媒、アルコール系溶媒、エステル系溶媒から選ばれる少なくとも一種を全溶媒質量に対し、70質量%以上含むことを特徴とする蓄電素子電極形成用バインダ溶液。
【請求項2】
請求項1に記載のバインダ溶液に、蓄電素子電極の活物質を配合してなる蓄電素子電極形成用塗液。
【請求項3】
請求項2に記載の塗液の蓄電素子電極への使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、リチウム二次電池、キャパシタ、コンデンサ等の蓄電素子電極製造に有用なバインダ溶液、およびこのバインダ溶液を用いて得られる蓄電素子電極形成用塗液に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池等の蓄電素子電極は、集電体となる銅箔、アルミ箔等の金属箔表面に、電極形成用塗液を塗布、乾燥することにより製造される。電極形成用塗液は、活物質、バインダおよび溶媒からなるものである。
ここで、活物質は、リチウム二次電池の場合、リチウムイオンを吸蔵、放出できる材料が用いられ、キャパシタ、コンデンサの場合は、活性炭等が用いられる。バインダは、これらの活物資を集電体上に固着させて、電極とするために用いられる。バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体等のポリフッ化ビニリデン(PVDF)系のバインダが多用されている。これらのPVDF系バインダは、力学的特性、耐熱性等が充分ではなく、安全性、信頼性等において改良すべき点があった。
【0003】
このような問題を解決するため、特許文献1~3には、イミド系高分子(PI)を、バインダとして用いる方法が提案されている。PIは、PVDF系のバインダと比較して、耐熱性が高く、良好な力学的特性を有するので、広範な実用化が期待されるバインダである。これらのPIは、特許文献1~3の実施例等に記載されているように、これを溶解する溶媒として、NMP等のアミド系溶媒が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-158277号公報
【文献】特開2009-283284号公報
【文献】特開2016-058191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PIをアミド系溶媒に溶解したバインダ溶液に活物質粒子を配合した塗液を、集電体表面に塗布、乾燥して得られる電極においては、前記したPVDF系バインダを用いた電極と比較して、充分なサイクル特性が得られない場合があった。
【0006】
そこで本発明は、前記課題を解決するものであって、サイクル特性が良好な活物質層が形成できるPIバインダ溶液、およびこのバインダ溶液に活物質粒子を配合した塗液の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
アミド系溶媒の濃度を特定の濃度以下とした新規なPIバインダ溶液により、前記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
本発明は下記を趣旨とするものである。
【0009】
<1> PIと溶媒とからなる蓄電素子電極形成用のバインダ溶液であって、前記PIが、テトラカルボン酸として芳香族テトラカルボン酸、ジアミンとしてダイマジアミンを用いたPIであり、前記溶媒が、エーテル系溶媒、炭化水素系溶媒、ケトン系溶媒、アルコール系溶媒、エステル系溶媒から選ばれる少なくとも一種を全溶媒質量に対し、70質量%以上含むことを特徴とする蓄電素子電極形成用バインダ溶液。
<2> 前記バインダ溶液に、蓄電素子電極の活物質を配合してなる蓄電素子電極形成用塗液。
<3> <2>記載の塗液の蓄電素子電極への使用。
【発明の効果】
【0010】
本発明のバインダ溶液は、アミド系溶媒含有量が低減されているので、活物質粒子を配合した塗液におけるアミド系溶媒含有量を低減させることができる。さらに、この塗液を用いて得られる電極は、活物質層中のアミド系溶媒量が低減されているので、サイクル特性が良好であり、リチウム二次電池等蓄電素子の電極として好適に用いることができる。 なお、このようなPIをバインダとして用いた電極中のアミド系溶媒量低減によりサイクル特性が改善されるという効果は従来知られていなかった。これはPIの場合は、前記したPVDFとは異なり、PIとアミド系溶媒とが強く溶媒和しているため、乾燥条件等を工夫しても、電極中の残留アミド系溶媒量を充分に低減させることは困難であったためである。 そのため、PIをバインダとして用いた電極では、電極中の残留アミド系溶媒量が充分に低減されたものは知られていなかった。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明のバインダ溶液はPIを含有する。PIは、主鎖にイミド結合を有する耐熱性高分子であり、ポリイミド(ポリアミック酸等のポリイミド前駆体を含む)、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド等をいう。これらは、例えば、溶媒中で、テトラカルボン酸(その誘導体を含む)および/またはトリカルボン酸(その誘導体を含む)とジアミン(その誘導体を含む)とを反応させて得ることができる。本発明のバインダ溶液を構成するポリイミドは、テトラカルボン酸として芳香族テトラカルボン酸、ジアミンとして脂肪族ジアミンを用いることが好ましい。このようにすることにより、PIの溶解性が向上し、蓄電素子電極用のバインダ溶液として用いた場合、バインダ溶液中のアミド溶媒量を低減させることができる。
【0013】
脂肪族ジアミンの具体例としては、例えば、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン、4,4′-メチレンビスシクロヘキシルアミン、ダイマジアミン(炭素数24~48のダイマ酸から誘導される脂肪族ジアミンであり、「DDA」と略記することがある)等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、DDAが好ましい。なお、DDAは、商品名「プリアミン1074、同1075」(クローダジャパン社製)、「バーサミン551、同552」(コグニスジャパン社製の商品名)等の市販品を用いることができる。
【0014】
脂肪族ジアミンは、芳香族ジアミン(複素環式ジアミンを含む)と混合して用いることができる。芳香族ジアミンの具体例としては、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル、2′-メトキシ-4,4′-ジアミノベンズアニリド、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2′-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2′-ジメチル-4,4′-ジアミノビフェニル、3,3′-ジヒドロキシ-4,4′-ジアミノビフェニル、4,4′-ジアミノベンズアニリド、ビスアニリンフルオレン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[1-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[1-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4,4′-(4-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、ビス[4,4′-(3-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、9,9-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、2,2-ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4′-メチレンジ-o-トルイジン、4,4′-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4′-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、4,4′-ジアミノジフェニルプロパン、3,3′-ジアミノジフェニルプロパン、4,4′-ジアミノジフェニルエタン、3,3′-ジアミノジフェニルエタン、4,4′-ジアミノジフェニルメタン、3,3′-ジアミノジフェニルメタン、4,4′-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3′-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4′-ジアミノジフェニルスルホン、3,3′-ジアミノジフェニルスルホン、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、3,4′-ジアミノジフェニルエーテル、ベンジジン、3,3′-ジアミノビフェニル、3,3′-ジメチル-4,4′-ジアミノビフェニル、3,3′-ジメトキシベンジジン、4,4″-ジアミノ-p-テルフェニル、3,3″-ジアミノ-p-テルフェニル、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4′-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4′-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、これらのジイソシアネート誘導体等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ここで、芳香族ジアミンの混合比率は、ジアミンの全モル数に対し、60モル%以下とすることが好ましく、40モル%以下とすることがより好ましい。
【0015】
芳香族テトラカルボン酸の具体例としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,3,3′,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、4,4′-オキシジフタル酸無水物、3,3′,4,4′-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、PMDA、BPDA、BTDAが好ましい。
【0016】
本発明のバインダ溶液を構成するポリアミドイミドは、トリカルボン酸として無水トリメリット酸(TMA)と脂肪族ジカルボン酸との混合物、ジアミン誘導体として、ジイソシアネートを用いることが好ましい。脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、アジピン酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカ二酸、ドデカン二酸、2-メチルコハク酸、ダイマ酸を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、ダイマ酸が好ましい。ダイマ酸は、商品名「PRIPOL1009」(クローダジャパン社製)等の市販品を用いることができる。
【0017】
これら脂肪族ジカルボン酸の混合比率は、カルボン酸成分の全モル数に対し、20モル%以上とすることが好ましく、40モル%以上とすることがより好ましい。
【0018】
ジイソシアネートの具体例としては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルスルホンジイソシアネート、トリフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、3-イソシアネートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、3-イソシアネートエチル-3,5,5-トリエチルシクロヘキシルイソシアネート、ジフェニルプロパンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、MDIが好ましい。
【0019】
ポリアミドイミドの成分を前記のようにすることにより、ポリアミドイミドの溶解性が向上し、蓄電素子電極用のバインダ溶液として用いた場合、バインダ溶液中のアミド溶媒量を低減させることができる。
【0020】
本発明のバインダ溶液を構成する溶媒中のアミド系溶媒含有量は、全溶媒質量に対し、30質量%以下であり、10質量%以下であることが好ましく、1質量%以下とすることがより好ましい。すなわち、アミド系以外の溶媒の含有量は、全溶媒質量に対し、70質量%以上であり、90質量%以上であることが好ましく、99質量%以上とすることがより好ましい。このようにすることにより、活物質層を形成した際、活物質層中のアミド系溶媒残留量を低減させることができる。
【0021】
アミド系以外の溶媒としては、その種類に制限はないが、例えば、エーテル系溶媒、炭化水素系溶媒、ケトン系溶媒、アルコール系溶媒、エステル系溶媒、水等を用いることができる。エーテル系溶媒の具体例としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、グライム、ジオキサン、ジグライム、トリグライム等を挙げることができる。炭化水素系溶媒の具体例としては、n-ヘキサン、シクロヘキサン、n-ヘプタン、石油エーテル、ベンゼン、トルエン、キシレン(o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン)等を挙げることができる。ケトン系溶媒の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等を挙げることができる。アルコール系溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、エチレングリコール等を挙げることができる。エステル系溶媒の具体例としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、γ-ブチロラクトン(GBL)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、ジ-n-プロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチル-n-プロピルカーボネート、エチル-n-プロピルカーボネート等を挙げることができる。これらの中では、ジクライム、トリグライム、シクロヘキサノン、GBL、トルエンが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上を組み合わせて用いる場合は、エーテル系溶媒と炭化水素系溶媒との組み合わせ、またはエステル系溶媒と炭化水素系溶媒との組み合わせが好ましい。
【0022】
バインダ溶液としてのポリイミド溶液を得るには、公知の方法を用いることができる。すなわち、例えば、溶媒中、0℃~50℃の温度で、略等モルのテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて、ポリアミック酸を得た後、これを50℃~200℃の温度で、脱水閉環することによりポリイミドとすればよい。用いる溶媒に制限はないが、キシレン(o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン)、メシチレン等の炭化水素系溶媒、DMF、DMAc、NMP等のアミド系溶媒、炭化水素系溶媒とアミド系溶媒との混合溶媒等が好ましく、炭化水素系溶媒とアミド系溶媒との混合溶媒がさらに好ましい。脱水閉環する際は、イミド化による生成する水を、共沸等により反応系外に除去してもよい。また、脱水閉環する際は、無水酢酸、ジシクロヘキシルカルボジイミド等公知の脱水剤を用いてもよい。
【0023】
ポリアミック酸を脱水閉環するための溶媒としては、前記したようなアミド系溶媒を含む高沸点溶媒を用いることが好ましいので、非アミド系溶媒を含むポリイミド溶液とするには、溶媒置換を行えばよい。そのためには、高沸点溶媒を含むポリイミド溶液を減圧で加熱して、高沸点溶媒を除去した後、非アミド系溶媒を加えて、再溶解すればよい。また、高沸点溶媒を含むポリイミド溶液を、攪拌下で、ポリイミドに対する貧溶媒中に加えて、ポリイミドを沈殿させた後、濾過、乾燥することにより固体としてポリイミドを採取した後、非アミド系溶媒を加えて、再溶解してもよい。
【0024】
バインダ溶液としてのポリアミドイミド溶液を得るには、溶媒中、100℃~200℃の温度で、略等モルの無水トリメリット酸およびジカルボン酸と、ジイソシアネートとを反応させればよい。
【0025】
本発明のバインダ溶液におけるPI濃度に制限はないが、1~50質量%とすることが好ましく、5~30質量%とすることがより好ましい。
【0026】
PI(ポリイミド、ポリアミドイミド等)の重量平均分子量(Mw)は、5000以上、100000以下とすることが好ましく、20000以上、80000以下とすることがより好ましい。このようにすることにより、良好な成型性と接着性とを確保することができる。ここで、Mwは、例えば、下記のような条件で、GPCを測定することにより、確認することができる。
<GPC測定条件>
カラム:昭和電工社製 Shodex(R) GPC KF‐803×1本, GPC KF‐804×2本 (3本連結)
溶離液:THF
温度:40℃
流量:1.0mL/分
検出器:UV検出器
【0027】
前記のようにして得られた非アミド系溶媒を含むPI溶液(バインダ溶液)に、正極または負極用の活物質粒子を均一に配合して、本発明の電極形成用塗液とすることができる。これらの塗液を、集電体表面に塗布、乾燥することにより、活物質層を形成させることができる。ここで、活物質層は、蓄電素子(例えばリチウム二次電池)電極の集電体表面に形成された層であり、正極活物質層と負極活物質層の総称である。用いられる活物質粒子の種類に制限は無く、公知の活物質を用いることができる。
【0028】
正極用活物質粒子としては、リチウムイオンを吸蔵保存できるものが好ましく、例えば、酸化物系(LiCoO、LiNiO等)、リン酸鉄系(LiFePO等)、高分子化合物系(ポリアニリン、ポリチオフェン等)等の活物質粒子を挙げることができる。この中でも、LiCoO、LiNiO、LiFePOが好ましい。正極活物質層には、その内部抵抗を低下させるため、カーボン(黒鉛、カーボンブラック等)粒子や金属(銀、銅、ニッケル等)粒子等の導電性粒子が、1~30質量%程度配合されていてもよい。
【0029】
負極活物質粒子としては、リチウムイオンを吸蔵保存できるものが好ましく、例えば黒鉛、アモルファスカーボン、シリコン系、錫系等の活物質粒子を挙げることができる。この中でも黒鉛粒子、シリコン系粒子が好ましい。シリコン系粒子としては、例えば、シリコン単体、シリコン合金、シリコン・二酸化珪素複合体等の粒子を挙げることができる。これらシリコン系粒子の中でも、シリコン単体の粒子(以下、「シリコン粒子」と略記することがある)が好ましい。シリコン単体とは、純度が95質量%以上の結晶質または非晶質のシリコンをいう。負極活物質層には、その内部抵抗を低下させるため、カーボン(黒鉛、カーボンブラック等)粒子や金属(銀、銅、ニッケル等)粒子等の導電性粒子が、1~30質量%程度配合されていてもよい。
【0030】
活物質粒子の形状に制限はなく、不定形状、略球状、板状、柱状、針状、ウィスカー状、繊維状等の活物質粒子を用いることができる。
【0031】
活物質粒子の平均粒子径は、0.01μm以上、20μm以下であることが好ましく、0.1μm以上、10μm以下であることがより好ましい。平均粒子径はレーザ回折散乱法に基づく測定装置により測定することができる。
【0032】
活物質粒子は、その表面が、界面活性剤やシランカップラのような表面処理剤で処理されていてもよい。
【0033】
塗液中の活物質配合量としては、PI質量に対し、200質量%以上、5000質量%以下とすることが好ましく、300質量%以上、2000質量%以下とすることがより好ましい。
【0034】
バインダ溶液に活物質粒子を均一に分散させる方法としては、公知の攪拌機、分散機、粉砕機等を用いることができる。
【0035】
このようにして得られた塗液には、本発明の効果を損なわない範囲で、界面活性剤やシランカップラ等の添加剤や他の重合体等が配合されていてもよい。
【0036】
本発明の塗液は、集電体の表面に塗布、乾燥し、必要に応じて熱プレスすることによって、集電体の表面に積層一体化された活物質層を形成させ、蓄電素子電極とすることができる。
【0037】
集電体としては、銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔、アルミ箔等の金属箔を使用することができる。正極にはアルミ箔が、負極には銅箔が好ましく用いられる。これらの金属箔の厚みは5~50μmが好ましく、9~18μmがより好ましい。これらの金属箔の表面は、活物質層との接着性を向上させるための粗面化処理や防錆処理がされていてもよい。
【0038】
活物質層の厚みに制限はないが、通常、2~200μm程度である。また、電極活物質層の気孔率は、正極、負極いずれも5~50体積%が好ましく、10~40体積%がより好ましい。
【0039】
本発明の塗液を集電体表面(両面または片面)に塗布する方法としては、公知の塗布法を用いることができる。 具体的には、例えば、グラビアコータ法、リバースロールコータ法、トランスファロールコータ法、キスコータ法、ディップコータ法、ナイフコータ法、エアドクタコータ法、ブレードコータ法、ロッドコータ法、スクイズコータ法、キャストコータ法、ダイコータ法、スクリーン印刷法、スプレ塗布法等の方法を用いることができる。
【0040】
本発明の塗液を使用して得られる電極が用いられた蓄電素子は、前記電極および電解液を備えてなる。具体的には、正極と負極の間に電極を配置し、これに電解液を含浸させることによって蓄電素子とすることができる。
【0041】
本発明の蓄電素子電極形成用バインダ溶液は、前記したように電極活物質粒子を配合した塗液として用いることができるが、電極活物質粒子以外に、酸化アルミ、酸化ケイ素等の粒子を配合した塗液とすることもできる。これらの塗液を電極活物質層表面に、塗布、乾燥することにより、電極活物質層表面にPIからなる絶縁性の多孔質被膜を形成させることができる。このような塗液の具体的な使用方法については、例えば、特開2011-233349号公報を参照することができる。
【実施例
【0042】
以下に、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお本発明は実施例により限定されるものではない。
【0043】
<実施例1>
ディーンスタークトラップとコンデンサとを取り付けた反応容器に、0.60モル(177g)のBPDA、0.59モルのDDA(プリアミン1075:325g)、400gのNMP、800gのp-キシレンを投入し、40℃で1時間攪拌して、ポリアミック酸溶液を得た。この溶液を昇温し、還流下で20時間加熱、攪拌して、イミド化による発生する水を共沸除去することにより反応を進め、イミド化を完結した。冷却後、この溶液を、攪拌下で、大量のメタノール中に投入して、ポリイミドを再沈殿し、これを、濾過、洗浄、乾燥することにより、固体状のポリイミドを得た。これを、ジグライムとトルエンとからなる混合溶媒(ジグライム/トルエン質量比:60/40)に再溶解して、濃度が15質量%のポリイミド溶液(P-1)を得た。このポリイミドの重量平均分子量(Mw)は、58600であった。次に、P-1に、負極活物質である黒鉛粒子(平均粒径8μm)と、導電助剤のカーボンブラック(アセチレンブラック)と、前記混合溶媒とを加え、ボールミルを用いて混合し、塗液(C-1)を得た。 C-1のポリイミド濃度は、塗液質量に対し2質量%、黒鉛粒子濃度は塗液質量に対し26質量%、カーボンブラック濃度は、塗液質量に対し2質量%、NMP濃度は、全溶媒質量に対し0.1質量%未満であった。なお、NMP濃度は、ガスクロマトグラフ法で確認した。
【0044】
<実施例2>
BPDAをPMDAとしたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリイミド溶液(P-2)を得た。このポリイミドの重量平均分子量(Mw)は、62100であった。P-2に、実施例1と同様にして黒鉛粒子およびカーボンブラックを配合して、塗液(C-2)を得た。C-2中のNMP濃度は、全溶媒質量に対し0.1質量%未満であった。
【0045】
<実施例3>
BPDAをBTDAとしたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリイミド溶液(P-3)を得た。このポリイミドの重量平均分子量(Mw)は、65100であった。P-3に、実施例1と同様にして黒鉛粒子およびカーボンブラックを配合して、塗液(C-3)を得た。C-3中のNMP濃度は、全溶媒質量に対し0.1質量%未満であった。
【0046】
<実施例4>
固体状のポリイミドを再溶解するための溶媒を、THF/トルエン(質量比:30/70)からなる混合溶媒としたこと以外は、実施例2と同様にして、塗液(C-4)を得た。C-4中のNMP濃度は、全溶媒質量に対し0.1質量%未満であった。
【0047】
<実施例5>
固体状のポリイミドを再溶解するための溶媒を、トルエンのみとしたこと以外は、実施例1と同様にして、塗液(C-5)を得た。C-5中のNMP濃度は、全溶媒質量に対し0.1質量%未満であった。
【0048】
<実施例6>
固体状のポリイミドを再溶解するための溶媒を、トルエンとNMPとからなる混合溶媒(トルエン/NMP質量比:95/5)としたこと以外は、実施例1と同様にして、塗液(C-6)を得た。C-6中のNMP濃度は、全溶媒質量に対し5.1質量%であった。
【0049】
<実施例7>
固体状のポリイミドを再溶解するための溶媒を、トルエンとDMAcとからなる混合溶媒(トルエン/DMAc質量比:80/20)としたこと以外は、実施例1と同様にして、塗液(C-7)を得た。C-7中のNMP濃度は、全溶媒質量に対し0.1質量%未満、DMAc濃度は、全溶媒質量に対し20質量%であった。 従い、アミド系溶媒の濃度は、全溶媒質量に対し20.0質量%であった。
【0050】
<実施例8>
固体状のポリイミドを再溶解するための溶媒を、GBLとしたこと以外は、実施例1と同様にして、塗液(C-8)を得た。C-8中のNMP濃度は、全溶媒質量に対し0.1質量%未満であった。
【0051】
<実施例9>
固体状のポリイミドを再溶解するための溶媒を、GBLとしたこと以外は、実施例1と同様にして、塗液(C-9)を得た。C-9中のNMP濃度は、全溶媒質量に対し0.1質量%未満であった。
【0052】
参考例1
コンデンサを取り付けた反応容器に、0.5 モル( 96g)のTMA、0.5モル(281g)のダイマ酸(PRIPOL1009)、1.0モル(250g)のDM、1900g のGBLを投入し、攪拌下、160℃まで昇温した後、4時間反応させて、ポリアミドイミド溶液を得た。この溶液をGBLで希釈して、濃度が15質量%のポリアミドイミド溶液(P -10)を得た。このポリアミドイミドの重量平均分子量(Mw)は、59500であった。次に、P-10に、負極活物質である黒鉛粒子(平均粒径8μm)と、導電助剤のカーボンブラック(アセチレンブラック)と、前記混合溶媒とを加え、ボールミルを用いて混合し、塗液(C-10)を得た。C-10 のポリアミドイミド濃度は、塗液質量に対し2質量%、黒鉛粒子濃度は塗液質量に対し26質量%、カーボンブラック濃度は、塗液質量に対し2質量%であり、NMPは、含有されていなかった。
【0053】
参考例2
ポリアミドイミド重合後の希釈溶媒として、GBLおよびNMPからなる混合溶媒を用いたこと以外は、参考例1と同様に行い、塗液(C-11)を得た。C-11中のNMP濃度は、全溶媒質量に対し9 質量% であった。
【0054】
<比較例1>
固体状のポリイミドを再溶解するための溶媒を、NMPとしたこと以外は、実施例1と同様にして、塗液(R-1)を得た。
【0055】
<比較例2>
固体状のポリイミドを再溶解するための溶媒を、DMAcとしたこと以外は、実施例1と同様にして、塗液(R-2)を得た。
【0056】
<比較例3>
固体状のポリイミドを再溶解するための溶媒を、NMP/トルエン(質量比:50/50)からなる混合溶媒としたこと以外は、実施例1と同様にして、塗液(R-3)を得た。R-3中のNMP濃度は、全溶媒質量に対し49.9質量%であった。
【0057】
<比較例4>
ポリアミドイミド重合後の希釈溶媒として、NMPを用いたこと以外は、実施例10と同様に行い、塗液(R-4)を得た。R-4中のNMP濃度は、全溶媒質量に対し46質量%であった。
【0058】
<比較例5>
DDAを、4,4′-ジアミノジフェニルエーテルとしたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリイミド溶液を得ようとしたが、均一な溶液を得ることができなかった。
【0059】
<比較例6>
DDAを、2,2′-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンとしたこと以外は、実施例2と同様にして、ポリイミド溶液を得ようとしたが、均一な溶液を得ることができなかった。
【0060】
<実施例12>(ただし、A―10、A-11にあっては参考例)
実施例1~9、参考例1~2で得られた塗液(C-1~C-11)を厚み18μm の電解銅箔の表面に、均一に塗布した後、150 ℃ で20分間乾燥し、集電体( 電解銅箔) 上に、厚みが40μmの活物質層が形成された負極(A-1~A-11)を得た。活物質層を、過剰のDMFを用いて再分散し、PIを再溶解するために用いた溶媒の残留量をガスクロマトグラフ法で確認したところ、A-1~A-11のいずれのサンプルにおいても、その残留量は、活物質層に対し、1質量%未満であった。
【0061】
<比較例7>
比較例1~4で得られた塗液(R-1~R-4)を、実施例9と同様にして、厚み18μmの電解銅箔の表面に、均一に塗布した後、150℃で20分間乾燥し、集電体(電解銅箔)上に、厚み40μmの活物質層が形成された負極(L-1~L-4)を得た。活物質層を、過剰のDMFを用いて再分散し、PIを再溶解するために用いた溶媒の残留量をガスクロマトグラフ法で確認したところ、L-1~L-4のいずれのサンプルにおいても、活物質質量に対し、2~5質量%のアミド系溶媒(NMPまたはDMAc)が残留していた。
【0062】
<実施例13>(ただし、A―10、A-11にあっては参考例)
実施例12で得られた負極(A-1~A-11)を用いて、試験セルを下記のようにして作成した。すなわち、この負極を、10mm×40mmの矩形状に裁断し、10m×10mm の活物質面積を残して融着フィルムで被覆した。対極として、厚み1mmのリチウム板を、30mm×40mmの矩形状に裁断し、厚み0.5mmのニッケルリード(5mm×50m m)に二つ折りにして圧着した。負極のみを、袋状のセパレータ(30mm×20mm)に入れた後、対極と向き合わせ、電極群を得た。セパレータには、矩形状のポリプロピレン樹脂製多孔質フィルム(厚み25μm)を用いた。この電極群を二枚一組の矩形状のアルミラミネートフィルム(50mm×40mm)で覆い、その三辺をシールした後、袋状アルミラミネートフィルム内に電解液1mLを注入した。電解液には、ECと、DECと、EMCとを、体積比1:1:1で混合した混合溶媒にLiPF6を1モル/Lの濃度で溶解したものを用いた。その後、残りの一辺をシールして、袋状アルミラミネートフィルム内を密封した。また、袋状アルミラミネートフィルム内の密封の際には、負極およびニッケルリードの一端を外側に延出し、端子とした。このようにして、試験セルを得た。これらの操作のすべてを、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。得られた試験セルを用い、測定温度:30℃、電圧範囲:0.01~2V、充電電流および放電電流:500mA/g-負極活物質層の充放電条件で繰り返しの充放電を行い、50回目放電容量の2回目放電容量に対する比率(放電容量維持率)を求めた所、95%以上であり、良好なサイクル特性が確認された。
【0063】
<比較例8>
比較例7で得られた負極(L-1~L-4)のサイクル特性を、実施例13と同様にして測定した。その結果、50回目放電容量の2回目放電容量に対する比率(放電容量維持率)は、90%以下であり、良好なサイクル特性は得られなかった。
【0064】
実施例、比較例で示したように、本発明の塗液から形成される電極には、アミド系溶媒が残留しにくい。このため、サイクル特性が良好な蓄電素子電極とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のPIバインダ溶液に、蓄電素子電極の活物質を配合して蓄電素子電極形成用塗液は、電極中にアミド系溶媒が残留しにくいので、これを用いて得られる電極はサイクル特性が良好である。従い、本発明のPIバインダ溶液は蓄電素子電極形成用のバインダ溶液として好適に用いることができる。