IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 関西電力株式会社の特許一覧 ▶ オルガノ株式会社の特許一覧

特許7158129水力発電用液体供給システム及び水車発電機への液体の供給方法
<>
  • 特許-水力発電用液体供給システム及び水車発電機への液体の供給方法 図1
  • 特許-水力発電用液体供給システム及び水車発電機への液体の供給方法 図2
  • 特許-水力発電用液体供給システム及び水車発電機への液体の供給方法 図3
  • 特許-水力発電用液体供給システム及び水車発電機への液体の供給方法 図4
  • 特許-水力発電用液体供給システム及び水車発電機への液体の供給方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】水力発電用液体供給システム及び水車発電機への液体の供給方法
(51)【国際特許分類】
   F03B 11/08 20060101AFI20221014BHJP
   B01D 24/36 20060101ALI20221014BHJP
   B01D 24/00 20060101ALI20221014BHJP
   B01D 24/46 20060101ALI20221014BHJP
   B01D 29/66 20060101ALI20221014BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20221014BHJP
   F03B 11/06 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
F03B11/08
B01D29/08 510B
B01D29/08 520A
B01D29/08 540A
B01D29/38 510B
B01D29/38 520A
C02F1/44 A
F03B11/06
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2016243179
(22)【出願日】2016-12-15
(65)【公開番号】P2018096315
(43)【公開日】2018-06-21
【審査請求日】2019-09-17
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000156938
【氏名又は名称】関西電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】服部 修
(72)【発明者】
【氏名】余田 充
(72)【発明者】
【氏名】瀧口 佳介
(72)【発明者】
【氏名】梅丸 剛
【合議体】
【審判長】柿崎 拓
【審判官】冨永 達朗
【審判官】長馬 望
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-95565(JP,A)
【文献】特開2013-116457(JP,A)
【文献】特開平10-122117(JP,A)
【文献】特開2004-141804(JP,A)
【文献】特開平10-309592(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03B 11/08
F03B 11/06
C02F 1/44
B01D 24/36
B01D 24/00
B01D 24/46
B01D 29/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水をろ過して、前記原水に含まれる異物の少なくとも一部が除去されたろ過水を作るろ過装置と、
原水源を前記ろ過装置に接続し、前記原水源で取水された原水を前記ろ過装置に供給する第1の配管と、
前記ろ過装置を水車発電機に接続し、前記ろ過水を前記水車発電機の水車用軸受または水車用軸封装置に供給する第2の配管と、
前記第2の配管に接続され、前記ろ過水に該ろ過水の粘性を増加させる薬液を注入する薬液注入装置と、を有し、
前記ろ過装置は砂ろ過装置、精密ろ過膜装置または限外精密ろ過膜装置であり、前記原水に含まれる粒径5~75μm且つモース硬度6以上の異物の少なくとも一部を除去する、水力発電用液体供給システム。
【請求項2】
原水をろ過して、前記原水に含まれる異物の少なくとも一部が除去されたろ過水を作るろ過装置と、
原水源を前記ろ過装置に接続し、前記原水源で取水された原水を前記ろ過装置に供給する第1の配管と、
前記ろ過装置を水車発電機に接続し、前記ろ過水を前記水車発電機の水車用軸受または水車用軸封装置に供給する第2の配管と、
前記水車発電機で加熱された前記ろ過水を前記第1の配管に戻す戻り配管と、
前記戻り配管上に設けられた前記ろ過水の冷却装置と、を有し、
前記ろ過装置は砂ろ過装置、精密ろ過膜装置または限外精密ろ過膜装置であり、前記原水に含まれる粒径5~75μm且つモース硬度6以上の異物の少なくとも一部を除去する、水力発電用液体供給システム。
【請求項3】
前記ろ過装置は、単層または複層で充填された粒状ろ材を備えた砂ろ過装置である、請求項1または2に記載の水力発電用液体供給システム。
【請求項4】
前記砂ろ過装置は複層の粒状ろ材を備えており、
通水を継続しながら前記粒状ろ材の抑留量が多い層を部分的または選択的に洗浄する洗浄手段を備えている、請求項に記載の水力発電用液体供給システム。
【請求項5】
原水をろ過して、前記原水に含まれる異物の少なくとも一部が除去されたろ過水を作るろ過装置と、
原水源を前記ろ過装置に接続し、前記原水源で取水された原水を前記ろ過装置に供給する第1の配管と、
前記ろ過装置を水車発電機に接続し、前記ろ過水を前記水車発電機の水車用軸受または水車用軸封装置に供給する第2の配管と、
前記第1の配管から分岐し、前記ろ過装置をバイパスするバイパス配管と、を有し
前記ろ過装置は砂ろ過装置、精密ろ過膜装置または限外精密ろ過膜装置であり、前記原水に含まれる粒径5~75μm且つモース硬度6以上の異物の少なくとも一部を除去する、水力発電用液体供給システム。
【請求項6】
前記第1の配管の前記バイパス配管の分岐部と前記ろ過装置との間に位置する第1の弁と、
前記バイパス配管上に位置する第2の弁と、
前記第1の配管に設けられ、原水中の前記異物の粒度分布または前記原水の濁度、色度若しくは差圧を測定する第1の測定手段と、前記水車発電機の水車用軸受または水車用軸封装置の圧力を測定する第2の測定手段と、
前記第1及び第2の測定手段の測定結果に応じて前記第1の弁と前記第2の弁の開度を制御する制御手段と、を有する、請求項に記載の水力発電用液体供給システム。
【請求項7】
前記第1の配管の前記ろ過装置の上流に設けられた沈降分離槽と、前記第1の配管の前記ろ過装置の上流に設けられた遠心分離装置の少なくともいずれかを有する、請求項1からのいずれか1項に記載の水力発電用液体供給システム。
【請求項8】
前記第2の配管の前記ろ過装置の下流に設けられたろ過水槽を有する、請求項1からのいずれか1項に記載の水力発電用液体供給システム。
【請求項9】
原水源で取水された原水をろ過して、前記原水に含まれる異物の少なくとも一部が除去されたろ過水を作ることと、
前記ろ過水を水車発電機の水車用軸受または水車用軸封装置に供給することと、を有し、
前記ろ過水を作る際に、砂ろ過装置、精密ろ過膜装置または限外精密ろ過膜装置によって、前記原水に含まれる粒径5~75μm且つモース硬度6以上の異物の少なくとも一部が除去され
前記原水源で取水された原水中の前記異物の粒度分布または前記原水の濁度、色度若しくは差圧を測定することと、
前記異物の粒度分布または前記原水の濁度、色度若しくは差圧の測定結果に応じて、前記原水の少なくとも一部をろ過することなく前記水車発電機の前記水車用軸受または前記水車用軸封装置に供給することと、をさらに有する、水車発電機への液体の供給方法。
【請求項10】
前記水車発電機の前記水車用軸受または前記水車用軸封装置の圧力を測定することと、
前記水車用軸受または前記水車用軸封装置の圧力測定結果に応じて、前記異物の粒度分布または前記原水の濁度、色度若しくは差圧の測定結果を補正し、前記原水の少なくとも一部をろ過することなく前記水車発電機の前記水車用軸受または前記水車用軸封装置に供給することと、を有する、請求項に記載の水車発電機への液体の供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水力発電用液体供給システムと水車発電機への液体の供給方法に関し、特に水車発電機の水車用軸受または水車用軸封装置に供給する液体の供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水車発電機の主軸の軸受潤滑方式として油潤滑方式と水潤滑方式が知られている。油潤滑方式は河川への油の漏洩により周辺環境が汚染されるリスクがある。このため、近年では、軸受の潤滑に河川水を使用し、上記リスクを回避することが可能な水潤滑方式が採用されることがある。
【0003】
水潤滑方式では、軸受の潤滑材として河川水が直接使用されるため、軸受の摺動部への異物混入を防止する必要がある。特許文献1には、沈降分離設備と遠心分離設備を備えた液体供給システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4628252号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、気候変動の影響によって、短時間での集中的な豪雨が発生しやすくなっている。また、突然の火山の噴火によって、噴出物が河川へ流入することがある。このため、河川水中の異物の性状が変化し、沈降分離設備と遠心分離設備だけで軸受への異物混入防止を図ることが困難な状況となっている。沈降分離設備は異物の沈降速度の違いにより分離し、遠心分離設備は回転により作用する角運動量の差から分離を行うが、いずれも異物の粒径が小さいほど、水と異物が分離しづらいという原理的な課題を有するためである。その結果、河川の濁度が高い時は、磨耗防止のために発電の中断もしくは停止を余儀なくされ、また発電を継続した場合には、軸受への異物混入による水車の主軸の摩耗が発生しやすくなり、大がかりな補修、交換作業を行う頻度が増加する傾向にある。軸受を収容する軸受水槽の軸封止部も主軸との間に微小な隙間が設けられており、隙間への異物の侵入は主軸の摩耗を招く。
【0006】
また、水車発電機の運転中は、主軸および軸受に冷却水を常時連続供給する必要があるが、前述の如く河川水中の異物の性状が大きく変動するため、一定の処理水質を有する冷却水を安定して連続供給することができないという課題があった。
【0007】
本発明は、水車発電機の主軸の異物による摩耗を低減するとともに、一定の処理水質を有する冷却水を安定して連続供給することができる水力発電用液体供給システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の水力発電用液体供給システムは、原水をろ過して、原水に含まれる異物の少なくとも一部が除去されたろ過水を作るろ過装置と、原水源をろ過装置に接続し、原水源で取水された原水をろ過装置に供給する第1の配管と、ろ過装置を水車発電機に接続し、ろ過水を水車発電機の水車用軸受または水車用軸封装置に供給する第2の配管と、を有している。ろ過装置は砂ろ過装置、精密ろ過膜装置または限外精密ろ過膜装置であり、原水に含まれる粒径5~75μm且つモース硬度6以上の異物の少なくとも一部を除去する。
一態様では、水力発電用液体供給システムは、第2の配管に接続され、ろ過水に該ろ過水の粘性を増加させる薬液を注入する薬液注入装置を有している。他の態様では、水力発電用液体供給システムは、水車発電機で加熱されたろ過水を第1の配管に戻す戻り配管と、戻り配管上に設けられたろ過水の冷却装置と、を有している。さらに他の態様では、水力発電用液体供給システムは、第1の配管から分岐し、ろ過装置をバイパスするバイパス配管を有している。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、原水に含まれる異物の少なくとも一部がろ過装置で除去されるため、水車発電機の主軸の異物による摩耗を低減することができる水力発電用液体供給システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明が適用される水車発電機の概略構成図である。
図2】本発明の一実施形態に係る水力発電用液体供給システムの概略構成図である。
図3】遠心分離装置出口水に含まれる異物の粒径分布の測定例である。
図4】遠心分離装置出口水の光学顕微鏡による観察例である。
図5】差圧上昇速度に応じた逆洗運用例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る水力発電用液体供給システムについて説明する。図1は、本発明が適用される水車発電機の概略構成を例示している。図2は水力発電用液体供給システム(以下、システム100という)の概念を示している。
【0012】
図1を参照すると、水車発電機1はランナ3が取り付けられた主軸2を有している。ランナ3は水圧鉄管4(図2参照)に接続されたケーシング5に収容されている。主軸2の上端部には、カップリング6を介して発電機7が取り付けられている。水圧鉄管4から供給された河川水がケーシング5の内部のランナ3を回転させることによって、発電機7による発電が行われる。水圧鉄管4には水車発電機1のメンテナンス時に河川水の供給を止めるための入口弁8(図2参照)が設けられている。
【0013】
主軸2は水中軸受(以下、軸受9という)で支持されている。軸受9は軸受水槽10に収容されている。軸受9は滑り軸受であり、主軸2に取り付けられたカラー11と軸受9の滑り面9aとの間に微小なギャップ12が設けられている。軸受水槽10は河川水が充填されており、ギャップ12に流入した河川水が軸受9を潤滑するとともに、軸受9と主軸2を冷却する。軸受水槽10には河川水の供給配管(第2の配管L2)と、河川水の排出配管L7が接続されており、河川水が供給配管(第2の配管L2)から軸受水槽10に連続的に供給されるとともに、温度が上昇した河川水が軸受水槽10から河川に連続的に排出される。軸受水槽10の主軸2の貫通部には水車用軸封装置(以下、軸封装置13という)が設けられている。軸封装置13は軸受水槽10内の河川水の漏えいを防止する。
【0014】
以下、水圧鉄管4から供給される河川水を「原水」といい、水圧鉄管4を「原水源」という。本明細書では、便宜上、後述する第1の配管L1を流れる水も「原水」と称する。すなわち、第1の配管L1上に設置された沈降分離装置22やストレーナ23等の何らかの処理装置で処理された水も「原水」という。同様に、本明細書では、便宜上、後述する第2の配管L2を流れる水を「ろ過水」と称する。すなわち、第2の配管L2上に設置された脱塩装置30等の何らかの処理装置で処理された水も「ろ過水」という。換言すれば、本願発明において特徴的な装置であるろ過装置28を基準として、ろ過装置28の上流側を流れる水を「原水」と総称し、ろ過装置28の下流側を流れる水を「ろ過水」と総称する。原水には通常、石英、長石などの鉱物の微粒子が含まれている。これらの微粒子に代表される、原水中に含まれる固体を「異物」という。
【0015】
システム100は原水をろ過するろ過装置28を有している。原水に含まれる異物の少なくとも一部が除去されてろ過水が作られ、ろ過水が水車発電機1の軸受9及び軸封装置13が収容される軸受水槽10に供給される。ろ過装置28は第1の配管L1によって原水源4に接続され、第2の配管L2によって軸受水槽10に接続されている。従って、原水源4から取水された原水は第1の配管L1を通ってろ過装置28に供給されてろ過水となり、ろ過水が第2の配管L2を通って軸受水槽10に供給される。ろ過装置28の下流には脱塩装置30が設けられている。脱塩装置としては、例えばイオン交換樹脂が充填されたカートリッジポリッシャーを用いることができる。ろ過水に含まれるイオン成分を除去することで、主軸2のさびの発生を抑制することができる。
【0016】
第1の配管L1に沿って沈降分離装置22が設けられている。沈降分離装置22は比較的粒径の大きい異物を重力によって沈降させ、除去する。沈降分離装置22と原水源4の間には弁21が設けられている。弁21を閉じることで、沈降分離装置22のメンテナンス時に原水が沈降分離装置22に流入することが防止される。
【0017】
第1の配管L1の沈降分離装置22の下流にはストレーナ23が設けられており、沈降分離装置22で分離されなかった、比較的大きな粒径の異物が除去される。第1の配管L1のストレーナ23の下流には遠心分離装置25が設けられている。遠心分離装置25は遠心分離作用によって、ストレーナ23で除去できなかった、比重が水の比重である1より大きな異物を原水から分離する。分離された異物は配管を通って河川に排出される。遠心分離装置25の入口側には弁24が設けられている。弁24を閉じることで、遠心分離装置25のメンテナンス時に原水が遠心分離装置25に流入することが防止される。
【0018】
第1の配管L1の遠心分離装置25の下流で、バイパス配管L3が第1の配管L1から分岐している。バイパス配管L3はろ過装置28をバイパスし、後述するろ過水槽36に接続されている。第1の配管L1の、遠心分離装置25の下流側の端部はろ過装置28に接続されている。
【0019】
第2の配管L2のろ過装置28の下流側には弁31を介してろ過水槽36が設けられている。ろ過水槽36はろ過装置28でろ過されたろ過水を貯蔵する。これによって、原水の供給量が変動した場合や、ろ過水槽36の上流側の設備(沈降分離装置22、遠心分離装置25、ろ過装置28等)が一時的に運転を停止した場合にも一定期間、ろ過水を軸受水槽10に供給することができる。ろ過水槽36に貯留されているろ過水からさらに異物を取り除くため、ろ過水をろ過水槽36とろ過装置28の間で循環させてもよい。この目的で、ろ過水槽36には戻り配管L4が接続されており、戻り配管L4の他端は第1の配管L1のろ過装置28の入口側に合流している。ろ過水の循環を制御するため、戻り配管L4には弁33とポンプ34が設置されている。第2の配管L2のろ過水槽36の下流側の端部は軸受水槽10に接続されている。これにより、第2の配管L2はろ過水を水車発電機1の軸受9及び軸封装置13に供給する。
【0020】
本願発明者は、既存の水車発電機における主軸の摩耗状況を調査した。調査対象の水車発電機が設置されている水力発電設備はろ過装置が設けられていない。河川水の濁度が高くなったときに軸受水槽内のろ過水を分析したところ、粒径0.5mm以下の透明、白色及び茶色の鉱物が検出された。透明な鉱物は主に石英であると考えられ、白色及び茶色の鉱物は主に長石であると考えられる。また、軸受と軸封部には破砕された鉱物片が多数付着していた。これらの鉱物片も主に石英と長石であると考えられる。
【0021】
主軸2の摩耗の原因の一つは粒径である。主軸2と軸受9の間のギャップ12の寸法は一般に数十μmであるが、主軸2が軸受9に対して偏芯することもあるため、最大でギャップ12の寸法の2倍程度の粒径の異物がギャップ12に侵入しうる。同様の理由から数十μmより小さい粒径の異物がギャップ12に入り付着残存することもあり得る。これらの理由から、概ね粒径5~75μm程度の異物を除去することで、主軸2の摩耗を抑えることができると考えられる。すなわち、粒径5μm未満の異物はギャップ12に侵入しても残存する可能性が小さく、粒径75μmを上回る異物はギャップ12に侵入する可能性が小さいので、これらの異物は本発明にとって重要ではない。また、図3には既存の水車発電機に備えられた遠心分離設備25の出口水に含まれる異物の粒度分布の測定例を、図4には出口水の光学顕微鏡による観察結果を示している。なお、遠心分離設備25の上流側には沈降分離設備22が設けられている。図4では、1目盛が100μmであり、色が濃い部分は粒径5~75μm程度の異物が存在している部分を示しており、もやがかった若干色が濃い部分は、細かい粒子が集合している部分を示している。以上のことから、粒径5~75μm程度の異物は既存の遠心分離設備25や沈降分離設備22では除去することが困難であることを確認した。
【0022】
粒径5~75μm程度の異物は、質量が小さいため、遠心分離時に、作用する遠心力が小さくなる。それにより、水との分離がうまくできず、出口水に残ってしまうことを確認した。これまで水車発電機は、粒径が小さな異物に対して遠心分離設備25により、最終段の異物の除去を行ってきたが、本発明が課題とする、異物による磨耗の低減の効果が、不十分であることを確認した。
【0023】
主軸2の摩耗のもう一つの原因は異物の硬度である。異物の硬度が主軸2の材料である鋼(スチール)の硬度を上回る場合、主軸2に異物による傷がつきやすくなる。鋼のモース硬度は5~6であり、長石のモース硬度は6、石英のモース硬度は7である。従って、主軸2の摩耗に寄与する異物の種類は、モース硬度の観点からは主に石英であり、次に長石であると考えられる。
【0024】
以上より、ろ過装置28は、原水に含まれる主軸2の摩耗の原因となる異物を除去できれば、特に限定されず、砂ろ過装置や、無機膜または有機膜を備えた精密ろ過膜装置(孔径は概ね0.05~10μm)、または限外精密ろ過膜装置(孔径は概ね0.01~0.001μm)を用いることができる。また、ろ過装置28は原水に含まれる粒径5~75μm且つモース硬度6以上の異物の少なくとも一部を除去する性能を有していることが望ましい。なお、分析の結果、粒径75μm以下の異物の中には石英の粒子が多数含まれることが分かっており、粒径5~75μmの粒子を除去することで、石英の粒子を効果的に除去することができる。以上の観点から、好適に利用できるろ過装置28は砂ろ過装置である。砂ろ過装置は粒状ろ材が単層または複層で充填されたろ過装置であり、粒径5~75μm程度の粒子を効率よく除去する。粒状ろ材の間に水が通る流路が形成されるため、圧力損失も小さい。本発明では、ろ過装置28は、一定の処理水質を得るため、ろ過層全体を3次元的に有効利用できる複層とすることが望ましい。例えば、比重が小さくて粒径の大きなろ過材と比重が大きくて粒径の小さなろ過材を形成することで、大きな粒子から順に小さな粒子へと効果的に除去することができる。また、粒径5~75μmの粒子は土砂の分類上ではシルトと呼ばれ、表面に電荷を有するが、ろ過設備28の前段で凝集剤等を注入し、シルト表面の電荷を中和して粒子同士を結合、凝集させることで除去効率を高めることもできる。
【0025】
ろ過装置28の逆洗のため戻り配管L4から分岐し、ろ過装置28に接続された逆洗配管L5が設けられている。逆洗配管L5上にはろ過水の流れを制御するための弁32が設けられている。ろ過水槽36に貯蔵されたろ過水を通常の原水の流れと逆方向にろ過装置28に供給することで、捕捉された異物をろ過装置28から取り除くことができる。砂ろ過装置は一般に急激な差圧上昇が少ないため、逆洗の頻度を低減することができる。なお、逆洗の必要性を判定するため、ろ過装置28の入口側と出口側の差圧を測定する差圧計29が設けられており、差圧計29で測定した差圧が一定の値を超えた場合、逆洗を行うようにすることができる。また、差圧上昇速度(所定時間に対する差圧の上昇率)から逆洗頻度を自動的に切り替えることで、差圧上昇による流量低下を生じること無く、冷却水を安定して連続供給することができる。例えば、差圧上昇速度が増加した場合に逆洗頻度を増やし、差圧上昇速度が低下した場合は逆洗頻度を減らすようにする。具体的には、図5で示したように、通常の差圧上昇速度が40kPa/日の場合において逆洗頻度を1回/日としていた場合、差圧上昇速度が60kPa/日となったときには、逆洗頻度を2回/日とし、差圧上昇速度が80kPa/日となったときには、逆洗頻度を3回/日とするように制御する。
【0026】
また、本発明では、冷却水を安定して連続供給するため、通水を継続しながら抑留量が多いろ過層を部分的または選択的に洗浄できる手段を設けることもできる。例えば、抑留量の多いろ過層の表層部を洗浄できるように洗浄配管及び洗浄排水配管を設け、ろ過通水を行いながら、洗浄配管から洗浄水を供給して、通水を停止させることなく部分洗浄を行う。
【0027】
原水中の異物の含有量が少ない場合、一部または全部の原水を、ろ過装置28を通さずに水車発電機1に供給することもできる。この目的で、第1の配管L1には、原水中の異物の粒度分布を測定する第1の測定手段39(センサー)が設けられている。また、第1の配管L1の、バイパス配管L3の分岐部とろ過装置28との間に第1の弁26が設けられ、バイパス配管L3上に第2の弁27が設けられている。センサー39で測定された粒度分布に基づき、制御手段38は第1の弁26と第2の弁27の開度を制御する。通常は第1の弁26が全開、第2の弁27が全閉であり、原水の全量がろ過装置28に通される。制御手段38は、上述の粒径5~75μmの粒子がほとんど原水中に含まれていないと判断した場合、全量をバイパスするため第1の弁26を全閉し、第2の弁27を全開する。センサー39で測定された粒度分布によって、遠心分離装置25を出た原水の一部だけがバイパス配管L3を通るように第1の弁26と第2の弁27の開度を調整してもよい。異物の粒度分布に代えて、または異物の粒度分布に加えて、原水の濁度、色度あるいは差圧を測定してもよい。また主軸2と軸受9の間のギャップ12を定量的に監視するため、軸受水槽10内、より具体的には軸受9と軸封装置13の少なくとも一方の圧力を測定する第2の測定手段40(センサー)が設けられている(図1参照)。センサー40で圧力低下を検知した場合、摩耗により隙間が大きくなっていること、すなわちギャップ12が増加していることを示唆する。センサー40と前述のセンサー39を組み合わせることで、センサー40の測定結果から全量処理、もしくはバイパス処理を判断するセンサー39の粒度分布の数値を補正して、摩耗低減に効果的な運転に変更することができる。
【0028】
軸受9の潤滑性能を高めるために、ろ過水の粘度を増加させることができる。水潤滑方式の水車発電機で軸受の潤滑材として使用される水は、油潤滑方式の水車発電機で軸受の潤滑材として使用されるタービン油などと比べ、動粘度がはるかに小さい。このため、起動・停止時や低速回転中に十分な潤滑性と水膜厚さが得られない可能性があり、油潤滑方式の水車発電機と比べて、軸受の摺動面での摩耗や焼付きが発生しやすい。従って、水潤滑方式の水車発電機で軸受の潤滑材として使用されるろ過水は、より優れた摺動特性と自己潤滑性を備えることが望ましい。この目的で、ろ過水に粘性を増加させるための薬液を注入する薬液注入装置37が第2の配管L2に接続されている。薬液としては例えばキサンタンガムを用いることができる。キサンタンガムは液体に粘り気を与える増粘剤であり、軸受9のギャップ12に形成される水膜の厚さを増加させる。キサンタンガムは土壌に生息する微生物から作られる多糖類からなるため、そのまま河川に排出しても環境への負荷が小さい。しかし、本実施形態では、キサンタンガムを効率的に使用するため、軸受9で加熱されたろ過水を第1の配管L1に戻す戻り配管L6が設けられており、キサンタンガムを含むろ過水を循環させることができる。軸受9を通って加熱されたろ過水を冷却するため、戻り配管L6上にろ過水の冷却装置35が設けられている。ろ過水の循環運転の際にろ過水を冷却するための熱源としては、遠心分離装置25の出口水を利用することができる。図2には、遠心分離装置25の出口と冷却装置35を接続する冷却水供給配管L8が設けられている。冷却装置35でろ過水を冷却した遠心分離装置25の出口水は河川に排出することができる。
【0029】
以上説明したように、本発明の水力発電用液体供給システム100によって、水車発電機の軸受及び軸封装置に混入する可能性のある異物をあらかじめ原水から除去することができるため、主軸の摩耗を抑えることができる。また、水力発電用液体供給システム100は無人運転が可能である。すなわち、上述したろ過装置28への全量通水運転、部分通水運転、バイパス運転、逆洗、循環運転などは全て制御手段38によって自動で行うことができる。このため、通常無人運転が行われる水力発電設備に本システムを導入しても、水力発電設備の無人運転は引き続き可能である。
【0030】
さらに、ろ過装置を用いることでシステム全体を小型化することができる。水力発電設備では平坦な敷地を確保することが難しい場合があり、大きな平面積を必要とする沈降分離装置の設置が困難となる場合がある。また、沈降分離装置の平面積が大きいほど小さな粒径の異物を除去できる(沈降させる)ことから、実施形態で説明した粒径5~75μmの異物を除去するために、既設の沈降分離装置の平面積を拡大することも考えられるが、同様の理由から困難な場合がある。例えば粒径10μmの異物を沈降分離装置で除去する場合、原水の流量が2m/hであれば平面積4mの、原水の流量が12m/hであれば平面積24mの沈降分離装置が必要となる。これに対し、ろ過装置として砂ろ過装置を用いる場合、原水の流量が2m/hであれば平面積0.4mの、原水の流量が12m/hであれば平面積2.4mの砂ろ過装置で十分である。
【符号の説明】
【0031】
1 水車発電機
2 主軸
9 軸受
10 軸受水槽
12 ギャップ
13 軸封装置
22 沈降分離装置
25 遠心分離装置
28 ろ過装置
36 ろ過水槽
100 水力発電用液体供給システム
L1 第1の配管
L2 第2の配管
図1
図2
図3
図4
図5