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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】推進装置及び航空機
(51)【国際特許分類】
   B64C 29/00 20060101AFI20221014BHJP
   B64C 21/00 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
B64C29/00 Z
B64C21/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017214702
(22)【出願日】2017-11-07
(65)【公開番号】P2019084967
(43)【公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-11-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年5月9日発行の日本機械学学会 ロボティクス・メカトロニクス講演会 2017 講演概要集 第82頁 平成29年5月9日発行の日本機械学学会 ロボティクス・メカトロニクス講演会 2017 講演論文集(DVD媒体) IP2-F01 平成29年5月11日にロボティクス・メカトロニクス講演会2017(ビックパレットふくしま、福島県郡山市南二丁目52番地)にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】517389274
【氏名又は名称】神山 昂大
(74)【代理人】
【識別番号】100180275
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 倫太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161861
【弁理士】
【氏名又は名称】若林 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100194836
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 優一
(72)【発明者】
【氏名】神山 昂大
(72)【発明者】
【氏名】清水 昭博
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2002/0125366(US,A1)
【文献】特開2008-290709(JP,A)
【文献】特開昭52-149799(JP,A)
【文献】米国特許第09045227(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 21/00
B64C 29/00
B64C 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面が所定の翼型で環形状の推進翼部と、
流体供給部と、
前記流体供給部から供給された流体の流れを前記推進翼部の内側から前記推進翼部に当てるように形成されたノズルとを有し、
前記翼型は、前記流体が前記推進翼部の翼面に沿って流れることにより、鉛直上側に揚力が発生するような形状となっており、
前記翼型は、単体では鉛直上側の面の頂点部分に前記流体の流れの剥離点が発生して失速現象が発生する形状であり、
前記推進翼部の前記剥離点に、電気的に前記流体の流れる方向を制御する流体制御装置が配置されており、
前記流体制御装置は、前記推進翼部の前記鉛直上側の面における前記流体の流れを、前記剥離点で剥離させずに、前記剥離点以後においても前記鉛直上側の面に沿って流れるように制御する
ことを特徴とする推進装置。
【請求項2】
前記流体制御装置のパワーを調節することで当該推進装置の姿勢を制御することを特徴とする請求項1に記載の推進装置。
【請求項3】
1又は複数の推進装置を備えた航空機において、それぞれの前記推進装置として請求項1又は2に記載の航空機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、推進装置及び航空機に関し、例えば、ドローン等の航空機に適用し得る。
【背景技術】
【0002】
従来の航空機における回転翼は推進力のみならず必要不可欠な揚力を確保するための基本的な要素として航空技術の黎明期から多大な寄与をなしてきた。技術が発展した現代においても固定翼機回転翼機双方において大きく貢献している。
【0003】
特に、現在、航空機としてドローン(無人航空機)の数が急速に増加しており、一般的にドローンの有力な推進装置としては回転翼(いわゆるロータ)が用いられる(特許文献1参照)。すなわち、現在、ほとんどのドローンが回転翼機となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-208501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の回転翼機において露出し高速回転する翼はそれ自体が大きな破壊力を持つため接触すれば翼破損により一瞬で揚力を失う危険性がある。また回転翼に巻き込まれ人命が失われる事態も世界中で発生しており、小型のドローンでもその例外でない。
【0006】
そのため、回転翼を用いずに推力(水平方向の推力及び又は垂直方向に推力)を得ることが可能な推進装置及び航空機が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の本発明の推進装置は、断面が所定の翼型で環形状の推進翼部と、流体供給部と、前記流体供給部から供給された流体の流れを前記推進翼部の内側から前記推進翼部に当てるように形成されたノズルとを有し、前記翼型は、前記流体が前記推進翼部の翼面に沿って流れることにより、鉛直上側に揚力が発生し、かつ、鉛直上側の面の頂点部分に剥離点が発生するような形状となっており、前記推進翼部の前記剥離点に、電気的に前記流体の流れる方向を制御する流体制御装置が配置されており前記流体制御装置は、前記推進翼部の前記鉛直上側の面における前記流体の流れを、前記剥離点で剥離させずに、前記剥離点以後においても前記鉛直上側の面に沿って流れるように制御することを特徴とする。
【0008】
第2の本発明の航空機は、1又は複数の推進装置を備えた航空機において、それぞれの前記推進装置として第1の本発明の推進装置を適用したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、回転翼を用いずに推力を得ることが可能な推進装置及び航空機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態に係る推進装置の斜視図である。
図2】第1の実施形態に係る推進装置の底面図である。
図3】第1の実施形態に係る推進装置の側面図である。
図4】第1の実施形態に係る推進装置の端面図(図2のA-A線端面図)である。
図5】第1の実施形態に係る翼型を描画するためのZ平面について示した図である。
図6】第1の実施形態に係る翼型を描画するためのZ平面の一部を拡大して示した図である。
図7】第1の実施形態に係る翼型の例について示した図である。
図8】第1の実施形態に係る翼型の翼幅を所定の単位長さで形成した直線翼について示した図である。
図9】第1の実施形態に係る翼型で直線翼を形成した場合の翼投影面積と、第1の実施形態に係る翼型で円環形状の翼を形成した場合の翼投影面積について示した図である。
図10】第1の実施形態に係る翼型において仰角を0度とした場合の翼弦長について示した図である。
図11】第1の実施形態に係る翼型で直線翼を形成し、仰角をα度とした場合の翼投影面積について示した図である。
図12】第1の実施形態において、a=bとした場合の翼型について示した図である。
図13】第1の実施形態において、a<bとした場合の翼型について示した図である。
図14】第1の実施形態に係る各翼型の仰角ごとの揚力係数について示したグラフである。
図15】第1の実施形態における第1~第4の翼型について示した図である。
図16】第1の実施形態の推進装置に、カバーを取り付けた状態で示す側面図である。
図17】第2の実施形態に係る推進装置の斜視図である。
図18】第2の実施形態に係る推進装置の底面図である。
図19】第2の実施形態に係る推進装置の側面図である。
図20】第2の実施形態に係る推進装置の端面図(図2のB-B線端面図)である。
図21】第1の実施形態の変形例(第1の変形例)に係る航空機の斜視図である。
図22】第1の実施形態の変形例(第1の変形例)に係る航空機の底面図である。
図23】第1の実施形態の変形例(第3の変形例)に係る推進装置の側面図である。
図24】第1の実施形態に係る推進翼部で剥離が発生する翼型の例について示した説明図である。
図25】第1の実施形態の変形例(第4の変形例)に係る推進装置に搭載される推進翼部の構成例について示した説明図である。
図26】第1の実施形態の変形例(第4の変形例)に係る推進装置の斜視図である。
図27】第1の実施形態の変形例(第4の変形例)の推進装置におけるノズル部及び推進翼部の端面図である。
図28】第1の実施形態の変形例(第5の変形例)に係る推進装置の斜視図である。
図29】第1の実施形態の変形例(第5の変形例)の推進装置の端面図である。
図30】第2の実施形態の変形例(第6の変形例)に係る推進装置の斜視図である。
図31】第2の実施形態の変形例(第6の変形例)に係る推進装置において、1つの翼部片が動作した状態について示す斜視図である。
図32】第2の実施形態の変形例(第6の変形例)に係る推進装置の底面図である。
図33】第1の実施形態の変形例(第7の変形例)に係る推進装置の斜視図である。
図34】第1の実施形態の変形例(第7の変形例)の推進装置の端面図である。
図35】第1の実施形態の変形例(第8の変形例)に係る推進装置の斜視図である。
図36】第1の実施形態の変形例(第8の変形例)に係る推進装置の平面図である。
図37】第1の実施形態の変形例(第8の変形例)に係る推進装置から、被運搬物を除去した状態で示す斜視図である。
図38】第1の実施形態の変形例(第8の変形例)に係る推進装置の断面図(図36のC-C線矢視断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(A)第1の実施形態
以下、本発明による推進装置及び航空機の第1の実施形態を、図面を参照しながら詳述する。
【0012】
(A-1)第1の実施形態の構成
図1は、推進装置1の全体構成を示す斜視図である。
【0013】
図2は、推進装置1の底面図である。図3は、推進装置1の側面図である。図4は、推進装置1の端面図(図2のA-A線矢視端面図)である。
【0014】
図1図3に示すように、推進装置1は、大別するとガスを供給(噴出)するガス供給部20と、ガス供給部20から供給(噴出)されたガス(ガスの流れ)を受けて図1の方向Xの方向に推進力を発生させる推進機構部10とを有している。
【0015】
推進装置1は、例えば、ドローン等の航空機の推進装置として利用することができる。なお、推進装置1で発生させる推進方向Xは、垂直方向(鉛直方向と逆方向)だけでなく、水平方向(鉛直方向と交差する方向)としてもよい。なお、以下では説明の便宜上、X方向を「上側」又は「上方向」とも呼び、X方向と反対の方向を「下側」又は「下方向」とも呼ぶものとする。
【0016】
推進機構部10は、ガス供給部20から噴出されたガス(ガスの流れ、ガスの圧力)を受けて、推進方向Xに推進力を発生させる推進翼部12と、ガス供給部20から供給されたガス(ガスの流れ)が所定の角度(仰角)で推進翼部12にあたるように制御するノズル部11とを有している。
【0017】
ガス供給部20は、推進機構部10に推進力の源となるガス(ガスの流れ)を所定の圧力及び流量で供給(噴出)する手段(ガス供給手段)である。ガス供給部20が供給するガスの種類は限定されないものであるが、例えば、空気(例えば、大気中の空気又は、大気中の空気と同成分のガス)や窒素ガス等のガスを適用することができる。ガス供給部20としては、所定の圧力及び流量でガスを供給(噴出)することができるものであれば、具体的な構成は限定されないものである。例えば、ガス供給部20としては、大気中の空気を取り込み圧縮して噴出するエアコンプレッサーや、圧縮ガス(例えば、圧縮空気や圧縮窒素)が充填された容器(例えば、金属製のボンベやペットボトル等)を適用するようにしてもよい。
【0018】
図1図4に示すように、推進翼部12は、所定の翼型(翼断面形状)で環形状(例えば、円環形状又は角環形状)に形成された翼である。第1の実施形態では、推進翼部12は、所定の翼型で円環形状に形成されているものとする。
【0019】
ノズル部11は、環形状の推進翼部12の内側(内側の孔)に配置されており、推進翼部12の内側から推進翼部12(推進翼部12の内周)に向けて、ガス供給部20から供給されたガス(ガスの圧力)が噴出するように制御する。
【0020】
ノズル部11から噴出されたガスが推進翼部12に当たると、ガスが推進翼部12においてX方向に推力(揚力)が発生するように、推進翼部12の翼型(翼断面形状)及び、推進翼部12に対してガスが当たる位置及び方向(翼型に対する仰角)が設定されているものとする。また、この実施形態の推進機構部10では、推力の発生する発生する方向Xは、推進翼部12(環形状)の中心軸と並行であるものとする。また、この実施形態において、推進機構部10で発生する推力の推進軸SRは、推進翼部12(環形状)の中心軸と一致するものとして説明する。
【0021】
図4に示すように、ガス供給部20とノズル部11との間は、ガス供給管30で接続されている。ガス供給部20から噴出するガスはガス供給管30を介してノズル部11に供給される。ノズル部11には、ガス供給管30を挿入するための開口部111が設けられている。また、ガス供給管30の外周面は、ノズル部11の開口部111(開口部111の内面)に固定されている。すなわち、ガス供給管30は、ノズル部11をガス供給部20に固定(支持)させる固定部材(支持部材)としても機能する。
【0022】
図3図4に示す通り、ガス供給管30の外周には、輪形状の支持部材31が固定されている。そして、支持部材31は、複数の支柱部40により、推進翼部12に固定(支持)されている。図1図3に示すように、それぞれの支柱部40は、支持部材31を中心として異なる方向に伸びており、推進翼部12(図1図2の方向から見て上面)に固定されている。この実施形態では、推進装置1は、8つの支柱部40が設けられている。推進翼部12にX方向の推力(揚力)が発生した際に、推進翼部12の推力の推進軸が安定的にSR(円環形状の中心軸)となるように構成されていれば、支柱部40の数や固定位置(すなわち、推力のバランスや重心のとりかた)は限定されないものである。具体的には、推進軸SR(支持部材31)を中心として等角度の間隔で一様に支柱部40が配置されることが望ましい。
【0023】
次に、ノズル部11の形状について説明する。
【0024】
ノズル部11は、ガス供給部20(ガス供給管30)から供給されたガスを、所定の角度(仰角)で推進翼部12に向かって噴出する制御ができればよい。図4に示すように、この実施形態のノズル部11には、推進翼部12に対向する位置に、供給されたガスを推進翼部12に向かって噴出するための開口部111が設けられている。また、図4に示すように、この実施形態では、ノズル部11は、略円盤形状となっており、ノズル部11の全周(円盤形状の全周)にわたってスリット形状の開口部111が設けられている。図4に示すように、ノズル部11の内部では、ガスが供給される開口部111から開口部111(スリット)に向かって、幅(図4では推進軸SR方向の寸法)が狭められた略テーパ形状となっている。ノズル部11では、このテーパ形状により、開口部111から供給されたガスの流れを加速させて推進翼部12の方向に噴出する構成となっている。なお、ノズル部11の上板112と下板113との間は、ノズル部11の内部又は外部に図示しない固定(支持)部材(例えば、図示しない1又は複数の支柱)により、開口部111の寸法(幅)を保った状態で固定(支持)することができる。
【0025】
推進装置1を構成する各部品の素材は限定されないものであるが、可能な限り高剛性で軽量な素材であることが望ましい。推進装置1を構成する部品としては、例えば、アルミニウムやチタン等の軽量な金属系素材の他、エポキシ樹脂等の樹脂系素材を適用することができる。特に、推進装置1を構成する各部品としては、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を適用することができるため、3Dプリンター等を用いて容易に部品形成を行うことが可能である。
【0026】
次に、推進翼部12における翼断面形状の設計について説明する。
【0027】
また、推進装置1を構成する各部品同士を固定する方式についても限定されないものであるが、種々の接着剤や嵌合部材(連結部材)や篏合構成等を用いて固定するようにしてもよい。
【0028】
上述の通り、推進翼部12における翼型(翼断面形状)は、ノズル部11から噴出されたガスの流れ(圧力)を受けて、X方向に推力(揚力)が発生する形状であればよい。
【0029】
ところで、現代における航空機をはじめとする翼型の主流は、曲線で構成された前後非対称な厚翼である。このような翼型の多くはZhukovsky翼と呼称される理論翼をベースに製作されており、Kutta-Zhukovskyの理論を用いて複素関数の等角写像によって生成される。
【0030】
この実施形態においても、推進翼部12における翼型(翼断面形状)を、Kutta-Zhukovskyの理論に基づいた形状とするものとして説明する。
【0031】
次に、Kutta-Zhukovskyの理論に基づいた翼型の設計アプローチについて説明する。
【0032】
ここでは、図5に示すように、翼型設計のアプローチとして、対象となる任意の円柱をZ平面に描画し、写像関数を用いてそれをζ平面へ写像するプロセスを用いる。
【0033】
まず図5に示すように、翼型を表すZ平面上に、円柱の断面を配置(描画)する。なお、C~CはそれぞれO~Oを中心とする円であり、全ての円は点PAで交わる。翼型にはCが写像される。また、図6図5の一部を拡大し、円C~Cの中心座標O~Oの位置関係について示している。
【0034】
~Cの半径をR~Rとすると、R~Rはそれぞれ、以下の(1-1)~(1-3)式のように示すことができる。(1-1)~(1-3)式におけるa、b、dは、それぞれZhukovsky翼を設計する際に任意の値に設定されるパラメータである。図7に示すように、4aは翼弦長、2bは矢高(キャンバー)に、dは翼厚を表す。
【0035】
実際の翼型の生成では、翼の迎角αも加味して計算する必要がある。その上で、Z平面の円をζ平面に写像する関数(複素関数)は以下の(2)式で表される。そして、以下の(2)式に対して、極方程式を用いると、その極方程式の各項は以下の(3)式のように示すことができる。
【数1】
【0036】
そうすると、(2)式の複素関数は、(3)式に基づき、以下の(4)式のように表すことができる。そして、(4)式を成分ごとに整理すると以下の(5)式のように表すことができる。
【0037】
したがって、Z平面上の円Cは、円周上の各座標について以下の(6)式のように写像できる。(6)式を用いて、ζ平面上にCを写像すると、例えば、図7に示すような翼型が写像される。
【数2】
【0038】
一般的に翼に働く揚力は、以下の(7)式を用いることで求められる。
【0039】
(7)式において、Lは揚力、ρは密度、Uは流速、Sは翼の投影面積、Cは揚力係数をそれぞれ表している。
【0040】
一方、翼理論においてはKutta-Zhukovskyの定理を用いると、揚力係数に頼らずに揚力を導出できることが分かっている。この定理では、物体に働く揚力はその周りに存在する流れによって生まれる循環に依存するとしている。以下の(8)式は、Kutta-Zhukovskyの定理に基づき、循環Γに基づき揚力Lを求める式である。また、以下の(9)式は、Zhukovsky翼の循環Γを求める式である。
【0041】
なお、Kutta-Jukovskyの定理では、成立する条件として、図8のように所定の単位長さの翼幅を備える直線翼を前提としている。
【数3】
【0042】
ところで、(7)式の場合、翼の投影面積S(図9参照)が自由に設定できるため、設計の際には当式が有用である。
【0043】
しかし、(7)式では、翼型や迎角に依存する揚力係数Cがこの式単体では不明であるため、Kutta-Jukovskyの定理((8)式)を用いてこれを導出する。導出は、Kutta-Jukovskyの定理((8)式)で前提とされる図8の形状に対し、(7)式で自由に設定可能な翼の投影面積を図9(a)のように設定することで、条件を合わせて行う。具体的には(7)式における翼投影面積Sを、図9(a)のように「S=l×単位長さ」で表すことで、(7)式で導出される揚力と、(9)式で導出される揚力が理論的に同値となる。
【0044】
なお、ここでのlは翼の投影面積を翼幅(単位長さ)と共に構成する、翼幅と直交する方向に伸びる辺であり、必ずしも翼弦長ではない。
【0045】
そうすると、(7)式、及び(8)式を用いると、揚力係数Cは、以下の(10-1)式より、(10-2)式のように表すことができる。
【数4】
【0046】
ここで、翼の全長lについて検討する。迎角が0[°]の時のlは、翼の全長として翼弦長4aと近似である。しかしながら、実際には翼弦長4aは、翼型の後縁から前縁までを繋ぐ直線(翼の全長)よりも短く、前縁までを完全に満たすに至らない(図10参照)。そのため、この実施形態では、特殊な翼型を扱う関係上、この微小な幅Aを加味して、翼型決定に係る計算を行うものとする。
【0047】
この微小な幅Aは理論的に算出が可能であり、その値は、以下の(10-3)式のように求めることができる。そうすると、図10における翼の全長Dは、以下の(10-4)のように表すことができる。なお、(10-4)式におけるDは、迎角0度の時の、lに相当する。
【数5】
【0048】
ここでさらに、翼の全長Dに、さらに迎角を反映させることを検討する。
【0049】
例えば、図11に示すように、迎角をα度つけた際のlは、図9(a)におけるlとは一致しない。そこで一般化のため、翼の全長を用いると、迎角α時のlの値は、(11-1)式のように表すことができる。よって(10-2)式は、以下の(11-2)式のように表すことができる。
【数6】
【0050】
(11-1)式、(11-2)式において、Aから置き換えた項は、翼弦長パラメータaと翼厚パラメータdから構成されているため、翼厚の増加には対応することができるが、キャンバーに係るパラメータbの極端な増加には対応することができない。まず、図7に示す通り、キャンバー2bは翼の中心を通る弧を描くパラメータであり、翼弦長4aに対して矢高(キャンバー)2bで定義される。このため、a=bのパラメータを設定すると、矢高(キャンバー)2bを表す円弧は、図12のように翼の中心を通る線は円弧となるため、実際にはa=bを設定することはできない。
【0051】
一方、a<bのパラメータを設定すると、キャンバーパラメータが描く弧は図13のようになる。
【0052】
図13の状態では、(10-2)式中のlの値が投影面積に反映されないことが分かる。また図12の状態では、本来ならば淀み点となるはずの前縁が完全に真下を向き、図中左方向からの流れに対して淀み点となりえない。円弧の方向に関しては、図13のパターンでも同じことが言え、翼型の内側を向くというより顕著な問題点が見て取れる。このことから、翼型生成の際には、キャンバーパラメータbは翼弦長パラメータaよりも小さい値をとることが望ましいと言える。
【0053】
以上より、この実施形態の推進翼部12の翼型では、a>bであることが必要である。例えば、[a=10,b=10,d=10],[a=10,b=20,d=20],[a=10,b=10,d=1],[a=10,b=20,d=1]のようなパラメータの組み合わせは生成条件(a>b)から外れることになる。一方、例えば、[a=10,b=5,d=1.5],[a=10,b=7.5,d=1.5],[a=10,b=5,d=8],[a=10,b=7,d=8]のようなパラメータの組み合わせは、生成条件(a>b)に該当することになる。
【0054】
そして、この実施形態の推進翼部12の翼型に基づく揚力係数の評価式は、以下の(12)式のようになる。
【数7】
【0055】
以下では、[a=10,b=5,d=1.5]のパラメータに基づく翼型を「第1の翼型」と呼び,[a=10,b=7.5,d=1.5]のパラメータに基づく翼型を「第2の翼型」と呼び,[a=10,b=5,d=8]のパラメータに基づく翼型を「第3の翼型」と呼び,[a=10,b=7,d=8]のパラメータに基づく翼型を「第4の翼型」と呼ぶものとする。
【0056】
図14は、第1~第4の翼型のそれぞれについて、迎角ごとの揚力係数C(上記の(12)式に基づく結果)を示したグラフである。
【0057】
図15は、第1~第4の翼型のそれぞれの形状(断面形状)について示した図である。図15(a)~図15(d)は、それぞれ、第1~第4の翼型のそれぞれの形状(断面形状)について示している。
【0058】
以上のように、推進装置1では、生成条件(a>b)に該当する翼型から設計上必要となる揚力係数Cを得られる翼型(翼型に係るパラメータa、b、dの組み合わせ)を選択することが望ましい。
【0059】
(A-2)第1の実施形態の動作
次に、以上のような構成を有する第1の実施形態の推進装置1の動作を説明する。
【0060】
上述の通り、推進装置1は、ガス供給部20からガスが噴出すると、そのガスがガス供給管30を経由してノズル部11内に供給される。ノズル部11の内部では、開口部111から供給されたガスを圧縮若しくは加速して、全周囲に設けられた開口部111から推進翼部12の方向に噴出する。
【0061】
ノズル部11からに噴出されたガスは、所定の仰角で、円環形状の推進翼部12の内周面に当り、そのガスが推進翼部12の上面と下面を通過することによりX方向への推力(揚力)が発生する。
【0062】
そして、推進翼部12は、支点としてのガス供給管30(支持部材31)に支柱部40で固定されている。さらに、ノズル部11は、ガス供給管30に固定されている。したがって、推進装置1全体は、推進翼部12で発生した推進軸SR(ガス供給管30)を中心とした推力によりX方向に推進されることになる。
【0063】
(A-3)第1の実施形態の効果
第1の実施形態によれば、以下のような効果を奏することができる。
【0064】
推進装置1では、ガス供給部20を用いて圧縮ガス(例えば、圧縮空気)による流れ(高速流)を得て、そのガスの高速流の向きをノズル部11により制御して、円環形状の推進翼部12の内側に向けて噴射することで、X方向への推進力(揚力)を発生させることができる。
【0065】
従来の航空機では翼自体が空気に対し何らか形で動作を行い、揚力を得ているが、推進装置1では、空気を動作させることで、推進翼部12が静止した固定翼であっても揚力の発生が可能となっている。また、一般的な固定翼機であれば推力の増加が意図しない揚力の増加にも繋がるためこの二つのバランスが重要視されるが、推進翼部12では、例えば、図16に示すように環形状の推進翼部12の周囲の一部(例えば、推進方向Xと逆の側の面)を図示しないカバー50で覆い、推進翼部12を外界の阻害要因(例えば、大気中の空気や雨等)から遮断された管理可能な空間に収めたまま動作させることができる。
【0066】
図16は、推進装置1に、推進機構部10全体を上側(X方向側)から覆うカバー50を取り付けた状態で示す側面図である。なお、図16において、カバー50内の点線は、カバー50内に収容されている要素を表している。
【0067】
図16に示すように、カバー50は、下側に開口部51が形成された半球形状となっている。なお、開口部51の部分は、通気できれば良く、図示しない網等で覆う構成としてもよい。カバー50には、半球形状の頂点部分(中心部)に、ガス供給管30を貫通させるための孔52が設けられている。カバー50は、孔52(孔52の内周面)で、ガス供給管30の外周面と固定されている。
【0068】
言い換えると、第1の実施形態では、推進翼部12の周囲の一部を図示しないカバー(例えば、図16のカバー50)で覆うことで、推進翼部12を、一般的な自然の空気中に広げられた状態とは異なり、ある程度外界と遮断され管理容易な空間(例えば、ガスの流れの状態を管理し易い空間)に収めることができる。
【0069】
また、第1の実施形態の推進装置1では、推進翼部12(環形状)の全周にわたって支柱部40を配置することで、一般的な航空機(固定翼機や回転翼機等、一点で翼を支持する構造)と比較して、翼が強固に固定することができるという効果も奏する。
【0070】
一方で、第1の実施形態の推進装置1では、推進翼部12の翼型は、一般的な航空機の翼型と比較すると特殊な形状であるため動作が制限されるうえ、流量の自然な確保もできないという欠点もあるが、推力(揚力)は流量に依存しないため、一性能特化型の特殊翼を採用しやすい点で利点が大きい。
【0071】
(B)第2の実施形態
以下、本発明による推進装置及び航空機の第2の実施形態を、図面を参照しながら詳述する。
【0072】
(B-1)第2の実施形態の構成
図17は、第2の実施形態に係る推進装置1Aの全体構成を示す斜視図である。図18は、推進装置1Aの底面図である。図19は、推進装置1の側面図である。図20は、推進装置1Aの端面図(図18のB-B線矢視端面図)である。
【0073】
以下では、第2の実施形態について、第1の実施形態との差異を中心に説明する。
【0074】
第2の実施形態の推進装置1Aでは、推進翼部12Aの形状が異なっている点で第1の実施形態と異なっている。
【0075】
図17図18に示すように、推進装置1Aでは、推進機構部10が推進機構部10Aに置き換わっている点で第1の実施形態と異なっている。
【0076】
推進機構部10Aは、ノズル部11A及び推進翼部12Aを有しており、ノズル部11A及び推進翼部12Aの形状は第1の実施形態と異なっている。
【0077】
図17図18に示すように、推進翼部12Aは、角環形状となっている点で第1の実施形態と異なっている。具体的には、推進翼部12Aは、内周が正六角形で、外周が略六角形の角環形状となっている。なお、推進翼部12Aを構成する角環形状(多角形)の辺の数は6に限定されず種々の辺の数(種々の多角形)を適用することができる。
【0078】
図17図18に示すように、推進翼部12Aは、所定の翼型で所定の長さに形成された複数の翼部片121と、各翼部片121Aとの間を連結する連結部122とが組み合わさった構成となっている。
【0079】
推進翼部12Aにおいて、各翼部片121は角環形状の各辺を形成している。したがって、推進翼部12Aは、6個の翼部片121と、6個の連結部122を有している。各連結部122は、三角形の2つ辺が、それぞれ隣接する翼部片121の端面(翼端面)に固定(連結)されている。
【0080】
また、推進装置1Aでは、角環形状(6角形)の各辺(6つの辺)に対応する6個の支柱部40Aを有している。第2の実施形態では、各支柱部40Aは、ガス供給部20の外周に固定された支持部材31から伸びており、各連結部122に固定されている。すなわち、ガス供給部20(支持部材31)及びノズル部11Aは、各支柱部40A及び各連結部122を介して推進翼部12Aに支持されている。
【0081】
第2の実施形態では、推進翼部12Aが角環形状となったため、ノズル部11Aの形状(外周の形状)も多角形となっている。ノズル部11Aの外周の各辺は、推進翼部12Aの内周の各辺(各翼部片121)と対向するように配置されている。言い換えると、ノズル部11Aの外周の多角形(六角形)は、推進翼部12Aの内周の多角形(六角形)と相似形となるように配置されている。推進翼部12Aの外周の各辺において、対向する各翼部片121の翼型に向かって所定の仰角でガスを噴出するように開口部111A(上板112の形状、及び下板113Aの形状)の形状が調整されているものとする。
【0082】
(B-2)第2の実施形態の動作
次に、以上のような構成を有する第2の実施形態の推進装置1Aの動作を説明する。
【0083】
上述の通り、推進装置1Aは、ガス供給部20からガスが噴出すると、そのガスがガス供給管30を経由してノズル部11A内に供給される。ノズル部11Aの内部では、開口部111Aから供給されたガスを圧縮若しくは加速して、全周囲に設けられた開口部111から推進翼部12A(各翼部片121)の方向に噴出する。
【0084】
ノズル部11からに噴出されたガスは、所定の仰角で、円環形状の推進翼部12Aの内周面(各翼部片121)に当り、そのガスが推進翼部12A(各翼部片121)の上面と下面を通過することによりX方向への推力(揚力)が発生する。
【0085】
そして、推進翼部12Aは、支点としてのガス供給管30(支持部材31)に支柱部40Aで固定されている。さらに、ノズル部11Aは、ガス供給管30に固定されている。したがって、推進装置1A全体は、推進翼部12Aで発生した推進軸SR(ガス供給管30)を中心とした推力によりX方向に推進されることになる。
【0086】
(B-3)第2の実施形態の効果
上述の通り、第2の実施形態の推進装置1Aのように推進翼部12Aを角環形状としても、第1の実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0087】
また、第2の実施形態では、推進翼部12Aとして、所定の翼型で所定の長さに成型された複数の翼部片121を用いて構成することができるため、推進翼部12Aの製作(形成)が容易となる。
【0088】
(C)他の実施形態
本発明は、上記の各実施形態に限定されるものではなく、以下に例示するような変形例(変形実施形態)も挙げることができる。
【0089】
(C-1)第1の変形例
上記の各実施形態では、本発明の推進装置をドローン等の航空機に適用可能である旨を説明したが、具体的には、図21図22に示すように適用することができる。
【0090】
図21は、第1の実施形態に係る推進装置1を適用したドローン1000の斜視図である。また、図22は、ドローン1000の底面図である。
【0091】
図21図22に示すように、ドローン1000は、四角形の板形状の胴体部1001と、胴体部1001の下面に付けられた4つの推進装置1とを有している。なお、ドローン1000において、各推進装置1のガス供給部20は、共通のものを用いるようにしてもよい。
【0092】
ドローン1000では、胴体部1001の下面に付けられた4つの推進装置1のそれぞれの推力(具体的には、例えば、ガス供給部20から供給されるガスの流量や流速度等)を制御することで、既存のドローン等と同様に移動する姿勢や方向を制御することができる。
【0093】
(C-2)第2の変形例
上記の各実施形態では、本発明の推進装置を航空機に適用する例について説明したが、本発明の推進装置は航空機以外にも種々の物体の荷重軽減に適用するようにしてもよい。
【0094】
例えば、車両(例えば、自動車、二輪車等)等に本発明の推進装置をとりつけて揚力を発生させることで、当該車両の荷重を軽減するようにしてもよい。
【0095】
(C-3)第3の変形例
上記の各実施形態では、本発明の推進装置の推力の源となる流体をガスとして説明したが、本発明の推進装置の推力の源となる流体は、ガス以外にも水(水を主成分とする液体(例えば、海水等)を含む)等の液体であってもよい。例えば、上記の実施形態では、本発明の推進装置を、大気中で揚力を発生させる装置として説明したが、本発明の推進装置を水中において推力を発生させる装置として構築するようにしてもよい。
【0096】
具体的には、図23に示すように、上記の実施形態におけるガス供給部20を液体供給部20B(例えば、水等の液体を噴出する装置)に置き換えた推進装置1Bを構築するようにしてもよい。
【0097】
図23は、第1の実施形態における推進装置1を、水中で使用可能(水中で推力の発生が可能)な構成とした推進装置1Bの側面図である。
【0098】
図23に示す推進装置は、水中(水面Kの下側)で、X方向(水面Kと並行の方向)に推力を発生させる装置となっている。図23に示す液体供給部20Bでは、外部(水中)の水を取り込んでノズル部11に供給する構成となっている。
【0099】
(C-4)第4の変形例
上記の各実施形態では、推進翼部12について剥離(表面における流体の剥離)を起こさない翼型の使用を前提としているが、電気的な流体制御装置(例えば、プラズマアクチュエータ)等を併用し、単体では剥離が発生し得る翼型を使用してもよい。
【0100】
例えば、図24に示すように、単体では流れが剥離し、失速現象が発生する翼型である推進翼部12を想定する。そして、図25では、図24に示す翼型の推進翼部12に対して、上面の剥離点に流体制御装置60を設置した推進翼部12Cについて示している。
【0101】
図24に示す推進翼部12の翼型は上面に流れの剥離が発生する形状となっている。そして、図25に示す推進翼部12Cの翼型は、図24と同様の形状であるが、上面の剥離点の位置に、板形状の流体制御装置60が配置されている。
【0102】
これにより、図25に示す推進翼部12Cの翼型では、正常な翼まわりの流れを作り、揚力を得ることができる。
【0103】
図26は、第1の実施形態の推進装置1に流体制御装置60を追加した推進装置1Cの斜視図である。図27は、推進装置1Cにおけるノズル部11及び推進翼部12Cの端面図である。
【0104】
図27は、図26に示す推進装置1Cにおける推進翼部12C及びノズル部11を、推進軸SR(中心軸)を通る線で切断した場合の端面図である。推進装置1Cでは、例えば、図示しない制御部(例えば、マイクロコンピュータや電源制御回路等を用いた制御手段)を用いて流体制御装置60を駆動する電力のパワー(電圧又は電流)を調節するようにしてもよい。また、推進翼部12Cにおいて、流体制御装置60を複数の区画に区切って、各区画に供給する電力のパワー(電圧又は電流)を調節(流れの剥離度合を調節)することで、推進装置1C全体の姿勢を制御可能とするようにしてもよい。
【0105】
例えば、図27に示す断面で考えた場合、流体の制御強度を左右で個別に調節することで、推進装置1Cにおいて、左右方向の姿勢制御を行うことができる。
【0106】
以上のように、推進装置1Cでは、(C-1)(図21図22)に示すような複数の推進装置1Cを用いなくても、単体の推進装置1Cで姿勢制御を行うことができる。
【0107】
(C-5)第5の変形例
上記の実施形態では、推進翼部12の周囲の一部を図示しないカバー(例えば、図16のカバー50)で覆い、推進翼部12を外界の阻害要因(例えば、大気中の空気や雨等)から遮断することについて説明したが、本発明におけるカバーを、地表若しくは水面との間に流体を保持する形状としてもよい。すなわち、推進装置1を、いわゆるホバークラフトとして機能するようにカバーを構成してもよい。具体的には、カバー50を図28図29に示すようなカバー50Dに置き換えるようにしてもよい。図28図29では、カバー50がカバー50Dに置き換えられた推進装置1Dの構成が図示されている。
【0108】
図28は、推進装置1Dの斜視図である。図29は、推進装置1Dを推進軸SR(中心点)を通る線で切断した場合の端面図である。
【0109】
図28図29に示すカバー50Dでは、ノズル部11から噴出し、推進翼部12を通過した流体(例えば空気等のガス)を推進装置1の下部に保持し、地面効果を発生し得る構造となっている。図28図29に示すカバー50Dでは、下側(地面Gと対向する部分)に、外側(推進翼部12の環形状の中心と逆の方向)から内側(推進翼部12の環形状の中心方向)に向けて湾曲した湾曲部501が設けられている。推進装置1Dでは、カバー50Dに湾曲部501を設けることで、上側のノズル部11から噴出したガスを内側(推進翼部12の環形状の中心方向)に誘導して、地面効果を発生させ、推進装置1Dをわずかに地面Gから浮遊させることができる。
【0110】
(C-6)第6の変形例
(C-1)(図21図22)では、複数の推進装置1を用いた被運搬物の制御手法を説明したが、単体の推進装置1で姿勢制御可能な構造としてもよい。
【0111】
具体的には、例えば、図30図33に示す推進装置1Eのように、角環状形を形成する各翼部片121を動作可能とし、ノズル部11Aからのガスの流れに対する仰角を変更可能とするようにしてもよい。
【0112】
図30は、第2の実施形態の推進装置1Aにおいて、各翼部片121を動作可能とした構成の推進装置1Eの斜視図である。図31は、推進装置1Eにおいて、1つの翼部片121が動作した状態について示す斜視図である。図32は、推進装置1Eの底面図である。
【0113】
例えば、図30に示す推進装置1Eのように、各連結部122に、一方に隣接する翼部片121を動作させるモータ123を備え、翼部片121の仰角(ノズル部11Aからのガスの流れに対する仰角)を調整可能とするようにしてもよい。図31では、推進装置1Eにおいて、図30と比較して1つの翼部片121が下方向に傾いた状態となっている。
【0114】
そして、推進装置1E(推進翼部12E)において、例えば、図示しない制御部(例えば、マイクロコンピュータや電源制御回路等を用いた制御手段)を用いてモータ123を駆動することで、各翼部片121の仰角を制御可能(推進装置1E全体の姿勢を制御可能)とするようにしてもよい。すなわち、推進装置1Eでは、各翼部片121の仰角を制御可能とすることで、全体(構造体)に働く合力のベクトルを制御し、全体の姿勢を制御することが可能となる。
【0115】
(C-7)第7の変形例
上記の各実施形態では、推進装置一つにつき一つのノズルと、一つの推進翼部を用いて構成する例について説明したが、本発明の送信装置では、複数の推進翼部と、それぞれの推進翼部に対応するノズルを備えた構造とし、得られる推進力を増加させるようにしてもよい。
【0116】
具体的には、例えば、図33図34に示す推進装置1Fのように、第1の実施形態の推進装置1において、推進機構部10の下側に、第2の推進機構部70を追加(連結)するようにしてもよい。推進機構部70は、第2の推進翼部72と、第2の推進翼部72に対応する第2のノズル部71を有している。
【0117】
図33は、第1の実施形態の変形例に係る推進装置1Fの斜視図である。図34は、図33に示す推進装置1Fを推進軸SR(中心点)を通る線で切断した場合の端面図である。
【0118】
図33図34に示すように、第1の推進機構部10と第2の推進機構部70とは、互いに干渉しない構造とする必要がある。具体的には、ガス供給部20から供給されるガス(流体)を分割して各ノズル部11、71に供給し、それぞれのノズル部11、71を用いて各推進翼部12、72に噴出する構造としてもよい。図33図34に示すように、推進装置1Fでは、ガス供給部20から第2のノズル部71の内部にガスを供給するための第2のガス供給管90が設けられている。ガス供給管90の位置は限定されないものであるが、ここでは、ガス供給管90は、ガス供給管30の内側に配置されているものとする。図33図34に示すように、ガス供給管90は、第1のノズル部11を貫通して第2のノズル部71に到達している。また、図33図34に示すように、推進装置1Fでは、上段の推進翼部12の後縁の延長線と下段の推進翼部72の前縁が一致するように推進翼部72の位置、迎角を調整し、第1の推進翼部12を通過した流体を、第2の推進翼部72に供給する流体に追加できる構造としている。
【0119】
以上にように、本発明の推進装置において、複数の推進機構部(ノズル部及び推進翼部)を推進軸方向に複数連結(例えば、図33図34に示すように連結)することで、得られる推力を増加させることができる。
【0120】
(C-8)第8の変形例
上記の各実施形態の推進装置推進翼部の形状を円環状や角環状等の単純な形状として説明したが、当然のことながら推進翼部の形状は環形状であればその具体的な輪郭の形状は限定されないものである。例えば、本発明の推進装置において、推進翼部を被運搬物(推進装置が運搬する対象の物体)の形状に沿った形状としてもよい。具体的には、図35図38に示す推進装置1Gに示すように、被運搬物200の形状に沿った形状に形成された推進翼部12G及び、推進翼部12Gの形状(内側の形状)に沿った形状のノズル部11Gを備えるようにしてもよい。
【0121】
図35は、第1の実施形態の変形例に係る推進装置1Gの斜視図である。図36は、推進装置1Gの平面図である。図37は、推進装置1Gから被運搬物200を除去した状態で示す斜視図である。図38は、推進装置1Gの断面図(図36のC-C線矢視断面図)である。
【0122】
図35図38に示すように、推進装置1Gでは、直方体の被運搬物200の下面で、被運搬物200の縁に沿った環形状(四角環形状)の推進翼部12Gが配置されている。推進装置1Gでは、被運搬物200の下面の縁に複数(16本)の支柱100が並べて配置されており、これらの支柱100により推進翼部12Gは、被運搬物200の下側で固定(支持)されている。
【0123】
図35図38に示すように、被運搬物200の下面の中央部には、直方体のガス供給部20が配置されている。そして、ガス供給部20の周側面の全周には、四角環形状の推進翼部12Gに対向する位置にノズル部11Gが配置されている。ガス供給部20は周側面に配置されたノズル部11Gにガスを供給する。そして、図38に示すように、ノズル部11Gの全周囲には、ガス供給部20から供給されたガスを、外側の四角環形状の推進翼部12Gに向かって所定の仰角で噴出するめの溝形状の開口部112Gが形成されている。なお、ノズル部11Gの内部を複数の区画に区切って(例えば、それぞれの区画との間に壁を設けて区切って)、それぞれの区画にガス供給部20からガスを供給するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0124】
1…推進装置、20…ガス供給部、10…推進機構部、11…ノズル部、111…開口部、112…上板、113…下板、112…噴出口、12…推進翼部、30…ガス供給管、31…支持部材、40…支柱部、SR…推進軸。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15
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