(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 11/11 20060101AFI20221014BHJP
B23K 11/24 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
B23K11/11 540
B23K11/24 335
B23K11/24 336
(21)【出願番号】P 2017254211
(22)【出願日】2017-12-28
【審査請求日】2020-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180644
【氏名又は名称】▲崎▼山 博教
(72)【発明者】
【氏名】木許 圭一郎
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-095572(JP,A)
【文献】特開2013-111633(JP,A)
【文献】特開2014-057979(JP,A)
【文献】特開昭59-001073(JP,A)
【文献】実開昭49-049124(JP,U)
【文献】特開2013-121616(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0045597(US,A1)
【文献】特開2014-147964(JP,A)
【文献】特開2006-055893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00 - 11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接対象を加圧すると共に前記溶接対象に電流を印加する電極と、
前記電極を駆動させる駆動装置と、
前記電極に電流を印加する電源供給装置と、
前記溶接対象における通電経路の抵抗値を測定する抵抗測定器と、
前記電極が前記溶接対象を加圧する際に前記電極が前記溶接対象の板厚方向に移動した変位量を測定する変位量測定器と、
前記駆動装置および前記電源供給装置の動作を制御する制御装置と
を有し、
前記制御装置は、
測定された抵抗値に応じた印加条件で電流を印加するものであり、第1の電流値の電流を前記電極から印加しながら前記抵抗値の測定及び前記変位量の測定を行うことにより仮溶接を行い、前記仮溶接により前記抵抗値が一定の値以下になり、かつ、前記変位量が一定の値以上になった後に、
測定された前記抵抗値に応じて最適な電流の印加条件により、前記第1の電流値と異なる第2の電流値の電流を所定の時間印加して本溶接を行う溶接動作を行うように前記電源供給装置の動作を制御する
ものであり、
前記仮溶接に連続して前記本溶接が行われることを特徴とする溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被溶接材を溶接する溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数枚の板材等の被溶接材を重ねた溶接対象を接合する場合、スポット溶接により接合される場合がある。スポット溶接は、抵抗発熱を利用して金属の接合を行う抵抗溶接法の一種である。スポット溶接の内のインダイレクト溶接では、被溶接材を重ね合わせた状態で、電極により溶接対象を加圧し、さらに電極から溶接対象を介してアースに電流を流し、溶接部を抵抗発熱によって加熱して局部的に溶接対象を溶融させて、溶接対象を冶金的に接合する。スポット溶接において、溶融凝固した部分は、「ナゲット」と称され、ナゲットにおいて溶接対象が接合される。
【0003】
インダイレクト溶接に用いられる溶接装置は、電極と、溶接対象に接続されるアースと、電極に電流を印加するトランスと、電極を移動させるロボットとを備える。電極は、溶接対象の表面に接するように配置され、溶接対象を加圧可能な構成である。また、電極は、圧接される溶接対象に任意の電流を印加することが可能な構成である。アースは、電極が配置される溶接対象の表面に対する裏面に接続される。溶接対象の表裏面それぞれに電極またはアースが接続され、電極に電流を印加することにより、電極からアースに向けて溶接対象を介して電流が流れる。そして、溶接対象に電流を流すことにより、溶接部を加熱・溶融させて、溶接対象を接合する。
【0004】
このように、従来のインダイレクト溶接は、重ね合わせた複数の被溶接材からなる溶接対象に、電極とアースを接続し、溶接対象に所定の通電時間で所定の電流値の電流を流すことにより、被溶接材間を溶融接合するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のインダイレクト溶接では、接合される被溶接材間における隙間の有無や、被溶接材間の接触面積が異なると、溶接時に流れる電流の電流密度が異なる。接触面積や電流密度が異なることにより、被溶接材間の溶接品質が安定しない場合があった。そして、溶接品質が安定しないことにより、過剰な強度で接合された場合は溶接が行われた製品等に強度ばらつきが生じたり製品の外観不良が生じたり、接合強度が不足した場合は接合不良が生じる場合があった。
【0007】
例えば、被溶接材に反りがある場合や被溶接材の接合面の平坦性が低い場合、溶接部において被溶接材間に隙間が生じる。また、溶接対象に対して複数箇所に溶接を行う場合、先の溶接の影響で被溶接材間に隙間が生じる場合がある。溶接対象の1カ所にインダイレクト溶接を行う場合、電極が溶接対象を加圧しながら溶接を行うため、電極が圧接される被溶接材の周囲が反る場合がある。そのため、先の溶接箇所の周囲において、被溶接材間に隙間が生じる。
【0008】
以上のように、被溶接材間の隙間の有無により、被溶接材間の接触面積が一定とならず、溶接品質が安定しない場合がある。
【0009】
本発明の溶接装置は、上記問題点を解決するために、溶接品質を安定させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ここで、本発明者らが鋭意検討したところ、溶接対象を電流が流れる通電経路の抵抗値に着目することにより、被溶接材間の接触面積の大きさ等、被溶接材間の接触状況を推測し、溶接の品質向上に貢献できることを見いだした。しかしながら、さらに鋭意検討を重ねたところ、稀なケースではあるかも知れないが、溶接予定箇所以外の場所において溶接対象である被溶接材同士が接触しているケース等においては、接合箇所における接触面積が予定された面積に達していないにもかかわらず、抵抗値のみが所定の値以下になる現象が起こりうるのではないかとの知見に至った。そのため、溶接を開始するための開始条件として、前述した抵抗値に関する条件に加え、溶接予定箇所以外の場所において被溶接材同士が接触することによる抵抗値の低下現象を考慮に入れた溶接開始条件も検討すれば、接合箇所における接触面積が予定された面積に達しているか否かをより一層正確に推測して溶接を行えるようになり、ひいては溶接品質のさらなる向上に貢献できるのではないかとの考察を得た。
【0011】
かかる考察のもと、さらに検討を行ったところ、溶接の開始条件として、上述した溶接対象を電流が流れる通電経路の抵抗値に関する条件に加え、溶接に備えて溶接対象を加圧している間における電極の変位量に基づく開始条件を加えるのが良いのではないかとの知見に至った。具体的には、溶接予定箇所において被溶接材同士が十分な接触面積で接触した状態になった場合には、溶接に備えて溶接対象を加圧している間に電極が所定量以上変位するのに対し、溶接予定箇所以外の場所において溶接対象である被溶接材同士が接触しているケースでは前述したような電極の変位量の変化が起こりにくいとの知見を得た。そのため、溶接対象を電流が流れる通電経路の抵抗値に関する開始条件と、電極の変位量に関する開始条件の少なくとも双方を満足することを溶接の開始条件とすれば、より一層確実に接合箇所における接触面積が予定された面積に達した状態で溶接を開始できるようになり、良好な溶接品質が得られる溶接装置を提供できると考えられる。
【0012】
かかる知見に基づいて提供される本発明の溶接装置は、溶接対象を加圧すると共に前記溶接対象に電流を印加する電極と、前記電極を駆動させる駆動装置と、前記電極に電流を印加する電源供給装置と、前記溶接対象における通電経路の抵抗値を測定する抵抗測定器と、前記電極が前記溶接対象を加圧する際に前記電極が前記溶接対象の板厚方向に移動した変位量を測定する変位量測定器と、前記駆動装置および前記電源供給装置の動作を制御する制御装置とを有し、前記制御装置は、前記抵抗値が一定の値以下になり、かつ前記変位量が一定の値以上になった後に、溶接を行うように前記電源供給装置の動作を制御することを特徴とする。
【0013】
かかる構成によれば、確実に接合箇所における接触面積が予定された面積に達した状態で溶接を開始でき、良好な溶接品質が得られる溶接装置を提供できる。
【0014】
また、本発明の溶接装置は、前記制御装置が、前記溶接時の電流の印加時間を制御することが好ましい。
【0015】
このように、電極が一定以上の変位量移動し、通電経路の抵抗値が所定の値以下になったことにより、電極から印加する電流の量や電流を印加する時間を最適に調整するように制御装置が電源供給装置を制御する。これにより、被溶接材の接触面積に応じて最適な電流の電流密度で最適な時間電流の印加を行うことができ、溶接品質を安定させることができる。
【0016】
また、本発明の溶接装置は、第1の電流値の電流を前記電極から印加した状態で前記抵抗値を測定し、前記電極の変位量が一定の値以上となり、かつ、前記通電経路の抵抗値が一定値以下になった後、前記第1の電流値と異なる第2の電流値の電流を所定の時間印加するように、前記制御装置が、前記電源供給装置を制御しても良い。
【0017】
かかる構成によれば、被溶接材間の接触面積が所定の面積になってから、本格的な溶接作業を行うことができる。その結果、適切な電流の印加条件で溶接を行うことができるため、溶接品質を安定させることができる。
【0018】
また、本発明の溶接装置は、所定の電流値の電流を前記電極から印加し、前記変位量が一定の値となった際に前記抵抗値を測定し、前記測定値に応じた印加条件で電流を印加するように、前記制御装置が、前記電源供給装置を制御しても良い。
【0019】
このように、まず、所定の電流値の電流を印加し、変位量が所定の値となった際の抵抗値を測定する。その後、測定された抵抗値に応じた印加条件で電流の印加を行う。これにより、被溶接材間の接触面積が溶接に適した面積に近い状態で、被溶接材間の接触面積に応じた最適な電流の印加条件で溶接作業を行うことができる。その結果、適切な電流の印加条件で溶接を行うことができるため、溶接品質を安定させることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、被溶接材間の隙間の有無や被溶接材同士の接触状況に起因する溶接不良を最小限に抑制し、高品質で安定した溶接品質で溶接可能な溶接装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】本発明の溶接装置における電極部分の構成と電極の変位について説明する図
【
図4】被溶接材間の隙間の有無と接触面積との関係を説明する図
【
図5】複数回の溶接を行った際の通電経路と抵抗値の変化を示す模式図
【
図6】複数回の溶接を行った際の通電経路と抵抗値の変化を詳細に示す模式図
【
図7】実施例1における溶接中の抵抗値の変化と電流の印加条件との関係を示す図
【
図8】実施例1における溶接方法の工程を示すフロー図
【
図9】実施例2における溶接中の抵抗値の変化と電流の印加条件との関係を示す図
【
図10】実施例2における溶接方法の工程を示すフロー図
【発明を実施するための形態】
【0022】
まず、
図1,
図3を用いて本発明の溶接装置の構成例について説明する。
【0023】
図1は本発明の溶接装置の概略構成を例示する図、
図3は本発明の溶接装置における電極部分の構成と電極の変位について説明する図である。
【0024】
図1に例示するように、本発明の溶接装置1は、電極4と、電極4と対をなすアース6と、電極4を保持して稼働自在なロボットアーム20を備えるロボット8と、電極4とアース6との間に電流を印加するトランス10と、トランス10に供給する電流を制御するタイマー12と、溶接対象18を流れる電流の抵抗を測定する抵抗測定器14と、電極4が所定の位置から溶接対象18の板厚方向に移動した距離である変位量を測定する変位量測定器15と、タイマー12およびロボット8の動作を制御する制御装置16とを備える。
【0025】
溶接装置1において、電極4は、溶接対象18を加圧すると共に溶接対象18に所定の電流を印加することで、電極4から溶接対象18を通ってアース6に電流を流す。溶接対象18は、複数の被溶接材が重ねられたものである(詳細の構成例は後述する)。溶接対象18において、隣り合う被溶接材間が溶接により接合される。電極4は、溶接対象18を加圧すると共に、溶接対象18に所定の電流を流すことにより、電極4とアース6との間の溶接対象18を加熱・溶融させて溶接対象18を溶接する。電極4に印加される電流の電流値は、溶接対象18の厚さや、被溶接材それぞれの厚さ、必要な溶接強度等に応じて定めることができ、トランス10によって調整される。
【0026】
トランス10は、タイマー12を介して供給された電流を、所定の電流値に変換した上、変換された電流を電極4に印加する。例えば、タイマー12を介して供給された400Vで数Aの電流を、3~5Vで15000Aの電流に変換して電極4に印加する。タイマー12は、トランス10を介して電極4に電流を供給するタイミングを制御する。トランス10は、制御装置16により制御され、制御装置16はタイマー12を介してトランス10を制御することもできる。
【0027】
ロボット8は、電極4およびロボットアーム20を含んで構成される。ロボット8はロボットアーム20により、電極4を所定の範囲内で任意の位置に移動させることが可能な構成であり、電極4を所定の溶接位置に移動させる。
【0028】
ロボット8は、一定の空間座標を認識しており、あらかじめ教示された座標に電極4が移動するようにプログラムされる。例えば、溶接を開始する際には、電極4の先端が、溶接対象18の溶接箇所から一定の距離だけ離れた座標や、溶接対象18の溶接箇所に接すると予定される座標等が仮溶接開始座標として教示される。次に教示される座標として、溶接箇所において、被溶接材間が適切な接触面積で接すると想定される本溶接開始座標が教示される。そして、ロボット8は、この順で電極4を教示された座標に移動させる。
【0029】
変位量測定器15は、電極4が仮溶接開始座標に移動してから、溶接対象18を加圧中に電極4が移動する変位量を測定する。
【0030】
ここで、
図2を用いて、電極4の周辺の構成と、溶接対象18を加圧する際の電極の変位について説明する。
【0031】
まず、
図2(a)に示すように、電極4は、シリンダー21を介してロボットアーム20に接続される。シリンダー21は、シリンダー本体17とシリンダーヘッド19とから構成される。シリンダー本体17はロボットアーム20に固定され、シリンダーヘッド19に電極4が固定される。シリンダーヘッド19は伸縮可能な構成であり、シリンダー本体17からの距離が可変である。このような構成により、電極4は、シリンダー本体17から離間し、またシリンダー本体17に近接する方向に移動可能である。溶接対象18を加圧する際には、ロボットアーム20による電極4の移動、またはシリンダー21の伸縮、あるいはこの両方により、溶接対象18を加圧する。また、シリンダー21により、電極4による溶接対象18への加圧力が調整される。
【0032】
また、上述のようにロボット8は、あらかじめ教示された座標に電極4を移動させる。溶接の際には、まず、仮溶接開始座標に電極4を移動させる。仮溶接開始座標は、
図2(b)に示すように、溶接対象18の被溶接材22と一定の距離を隔てると想定される座標23や、溶接箇所において被溶接材22と接すると想定される座標25である。この仮溶接開始座標から、電極4により溶接対象18の加圧が開始される。
【0033】
次に、
図2(c),(d)に示すように、仮溶接開始座標から本溶接開始座標に電極4を移動させるか、仮溶接開始座標からシリンダー21を伸長されるか、あるいはこの両方を行うことにより、電極4で被溶接材22を加圧し、被溶接材22と被溶接材24とを適切な接触面積で接触させる。
【0034】
この際、変位量測定器15は、溶接対象18への加圧が開始されてから電極4が溶接対象18の板厚方向に移動した変位量を測定する。このように仮溶接開始座標である座標23または座標25から電極4が変位量Δx移動した場合に、被溶接材22と被溶接材24との接触面積が溶接に適した面積となると想定される。
【0035】
このようなロボット8を備える溶接装置1における制御装置16は、ロボット8の動作を制御すると同時に、タイマー12の動作を制御する。制御装置16は、抵抗測定器14から測定された抵抗値を受信すると共に、変位量測定器15から変位量を受信する。そして、制御装置16は、受信した抵抗値と変位量とに応じてタイマー12を制御する。タイマー12は、制御装置16の指示により電極4から溶接対象18に印加する電流を制御するように、トランス10を制御する。
【0036】
ここで、詳細な説明は後段に譲るが、抵抗溶接において、被溶接材間に隙間等があると、溶接中において被溶接材間の接触面積等の接触状況が変化し、安定した接合が行われない。例えば、被溶接材間の接触面積が大きいと、電流密度が小さくなって、溶接箇所が十分に加熱されず、ナゲットの形成が阻害される。ナゲットが十分な大きさに成長しないと、溶接強度が不足し、溶接不良となる。さらに、被溶接材間の隙間や、被溶接材間の接触面積等の接触状況に起因して、溶接箇所における接触面積が所定の面積になっていなかったり、溶接箇所以外に予定外の箇所で被溶接材間が接触したりし、溶接対象18の溶接箇所を流れる電流の電流密度が一定の値にならない場合がある。電流密度が高いと溶接部の発熱量が大きくなり溶融接合が促進され、電流密度が低いと溶接部の発熱量が小さくなり溶融接合が低減される。そのため、想定された電流密度に比べて、電流密度が高すぎると接合力が基準より過多になり、電流密度が低すぎると接合力が不足し、接合品質が不安定になる。また、溶接対象18を流れる電流の電流密度は、通電経路の抵抗値に比例する。
【0037】
そのため、本発明の溶接装置1では、仮溶接として、抵抗測定器14により通電経路の抵抗値を測定し、抵抗値から被溶接材間の接触状況(以下、本実施形態では接触面積を例として説明する)を求める。同時に、変位量測定器15により、溶接対象18を加圧中の電極4の変異量を測定する。そして、制御装置16は、被溶接材間の接触面積が溶接に適した接触面積となるために最低限必要な変位量以上となり、かつ、抵抗値が適切な被溶接材間の接触面積に対応する値以下となった際に、本溶接を開始する。本溶接では、電極4から溶接対象18に印加する電流の電流値や電流の印加時間等の印加条件が、溶接に最適な条件となるように、タイマー12およびトランス10を介して制御する。
【0038】
このように、本発明の溶接装置1では、仮溶接において、溶接対象18を通電経路の抵抗値を測定すると共に、電極4の移動量を測定する。そして、抵抗値が所定の値以下となり、かつ変位量が所定の値以上となることにより、溶接箇所における接触面積が溶接に適切な接触面積となったとして本溶接を開始する。そのため、被溶接材間の接触面積が溶接に適した状態になってから、その接触面積に対応した最適な電流の印加条件で溶接作業を行うことができ、安定した溶接品質で溶接を行うことができる。
【0039】
なお、溶接装置1は、さらに冷却装置を有することが好ましい。冷却装置は、電極4を冷却する装置であり、電極4から溶接対象18に電流を印加する際に電極4を冷却する。溶接の際には、電極4に電流が流れるので、電極4が加熱されて軟化する。この際、電極4は溶接対象18を加圧しているので、軟化された電極4は溶接対象18からの力を受ける。そのため、電極4の先端は、溶接を繰り返すことにより、変形したり破損したりする。電極4の先端形状は、溶接対象18と接する面積により、溶接対象18に供給される電流の電流密度や溶接対象18への加圧力に影響を及ぼす。電流密度や加圧力は溶接精度に影響を及ぼすため、溶接中に電極4を冷却している。冷却は、例えば、電極4中に冷却水を流通させることにより行うことができる。
【0040】
また、
図1では、電極4への電流の供給に係るタイマー12と、制御装置16等とを、別の電源から電力を供給する構成として例示しているが、共通の電源から電力を供給しても良く、また、各機器それぞれが、必要に応じて別電源から電力の供給を受けても良い。
【0041】
また、電極4の駆動は、制御装置16の指示を受けてロボット8が駆動装置として機能して行われる。
【0042】
また、タイマー12およびトランス10は、電極4に電流を供給する電源供給装置として機能する。電源供給装置は、電極4に所定の印加条件の電流を供給できれば、これ以外の構成とすることもできる。また、制御装置16にタイマー12の機能を持たせて、タイマー12がない構成とすることもできる。
【0043】
次に、
図3を用いて本発明の溶接装置によって溶接される溶接対象の構成例について説明する。
【0044】
【0045】
前述したように、溶接対象18は複数の被溶接材を重ね合わせたものである。
図3で示した例では、溶接対象18は、被溶接材22と被溶接材24とから構成され、被溶接材22と被溶接材24とが、溶接箇所26にて溶接により接合される。例えば、被溶接材22は平板である。被溶接材24は、立体的に形成され、同じく立体的に形成された被溶接材28の一面が解放された空間内部に接合されている。そして、溶接箇所26において、被溶接材24の被溶接材22と接する面に対する裏面は、被溶接材28と被溶接材24とで形成される空間内に閉じられている。溶接に際し、被溶接材28と被溶接材24とで形成される空間内に電極4を設けることができないため、被溶接材22と被溶接材24とはインダイレクト溶接により接合される。インダイレクト溶接では、溶接箇所26において、被溶接材22の被溶接材24と接する面に対する裏面側に電極4が配置され、被溶接材24と電気的に導通するようにアース6が配置される。そして、電極4から所定の電流が印加され、被溶接材22、被溶接材24を介してアース6に至る通電経路30を通って電流が流れる。流れる電流により、溶接箇所26において、被溶接材22と被溶接材24とが接合される。
【0046】
次に、
図4~
図6を用いて、溶接の際の被溶接材間の接合面積と被溶接材間を流れる電流の通電経路における抵抗値の変化について説明する。
【0047】
図4は被溶接材間の隙間の有無と接触面積との関係を説明する図であり、
図4(a)は隙間がない場合、
図4(b)は隙間がある場合、
図4(c)は予定外の接触箇所を含む場合を示す。
図5は複数回の溶接を行った際の通電経路と抵抗値の変化を示す模式図であり、
図5(a)は先の溶接により隙間が生じた溶接対象に対してさらに溶接を行う様子を示す図、
図5(b)はその際の抵抗値の変化を示す図、
図5(c)は予定外の接触箇所を含む通電経路を示す図である。
図6は複数回の溶接を行った際の通電経路と抵抗値の変化を詳細に示す模式図であり、先の溶接により隙間が生じた溶接対象に対してさらに溶接を行う様子と抵抗値の変化を経時的に示す図である。
【0048】
図4(a)に示すように、被溶接材22と被溶接材24との間に隙間がない場合、溶接の際に電極4を溶接対象18に加圧すると、電流が流れる被溶接材22と被溶接材24との接触面32が適正で、電流密度は適切となる。この状態で電極4からアース6に電流を流すと、接触面32近傍の被溶接材22および被溶接材24が溶融し、接触面32の周辺に十分な大きさのナゲット34が成長する。例えば、接触面32の接触面積が1000mm2であるとし、電極4から1000Aの電流を所定の時間印加した場合、接触面32を流れる電流の電流密度は1.0A/mm2となる。このような条件の場合に、適切にナゲット34が成長し、被溶接材22と被溶接材24とが最適に接合されるとする。
【0049】
これに対して、
図4(b)に示すように、被溶接材22と被溶接材24との間に隙間tがある場合、溶接の際に、電極4を溶接対象18に押しつけて被溶接材22をたわませることにより初めて、被溶接材22と被溶接材24とが接触する。電極4による加圧力は一定であるので、電流が流れる被溶接材22と被溶接材24との接触面38は、隙間がない場合の接触面32に比べて狭くなる。この状態で電極4からアース6に電流を流すと、隙間がない場合の接触面32に比べて接触面38が狭くなり、電流密度が過大になる。そのため、ナゲット40が大きくなり過ぎて溶接箇所が溶け落ちたり割れたりし、溶接不良が生じる場合がある。例えば、接触面38の接触面積が100mm2であるとし、電極4から1000Aの電流を所定の時間印加した場合、接触面38を流れる電流の電流密度は10A/mm2となる。このような条件の場合に、接触面38の接触面積は、想定された接触面積より小さいため電流密度が想定以上に高くなり、ナゲット40が大きくなり過ぎて溶接箇所が溶け落ちたり割れたりし、溶接不良となる。また、接触面38の接触面積が想定された面積より大きくなると、接触面38を流れる電流の電流密度が想定以上に小さくなる。この場合、被溶接材22または被溶接材24が薄板の場合、ナゲット40が被溶接材22または被溶接材24に届かずに接合強度が不足し、溶接不良が生じる場合がある。
【0050】
さらに、
図4(c)に示すように、溶接箇所における接触面38の接触面積が適切な面積になっていないにもかかわらず、予定外の箇所で被溶接材間が接触して接触面39が形成される場合がある。このとき、溶接箇所における接触面38の接触面積は十分でないため、被溶接材間の接合面積が不足し、溶接不良となる場合がある。また、予定外の通電経路に電流が分散され、溶接箇所における電流密度に過不足を生じ、適切な溶接が行われない場合がある。
【0051】
以上のように、従来の溶接装置において、被溶接材間に隙間がないことを前提として、被溶接材間が適切に接触している場合に最適な溶接が行われるように、電極4に印加される電流の印加条件があらかじめ定められている。なお、あらかじめ定められる印加条件については、後段で詳細に説明する。ここで、被溶接材間の隙間の有無は接触面積に影響を及ぼし、接触面積に比例して流れる電流の電流密度が変化する。電流の電流密度は、印加された電流の電流値が一定の場合、通電経路における抵抗値に比例する。これに対応して、まず、本発明の溶接装置1(
図1参照)は、通電経路の抵抗値を測定し、測定された抵抗値から被溶接材間の接触面積が適切な接触面積となったことを確認する。この場合においても、上述のように、溶接箇所における接触面積が適切な面積になっていないにもかかわらず、予定外の箇所で被溶接材間が接触し、その部分にも電流が流れることにより、抵抗値が下がる場合がある。そのため、本発明の溶接装置1(
図1参照)は、さらに、電極4の変位量により、溶接箇所における接触面積が十分に確保されるだけ加圧が行われていることを確認する。そして、変位量が適切な値以上になった状態において、抵抗値が適切な値以下となった場合に限り、本溶接を行う。このように、被溶接材間の接触状況が適切になってから溶接を行うことで、安定した溶接品質の溶接を行うことができる。
【0052】
また、
図5(a)に示すように、溶接対象18の複数箇所に溶接を行う場合、先の溶接により被溶接材22がたわみ、被溶接材22と被溶接材24との間に隙間が形成される。そのため、溶接の初期の段階では、電極4が配置される溶接箇所の近傍において、被溶接材22と被溶接材24とが接触しない。被溶接材22と被溶接材24とが接触しない状態で電極4から電流が印加されると、溶接対象18を流れる電流は、主に電極4から、被溶接材22、先の溶接により形成された溶接部42、被溶接材24を順に流れてアース6に至る、通電経路Aを流れる。その後、電極4による被溶接材22の加圧が進むと、被溶接材22がたわんで被溶接材24に接触する。被溶接材22と被溶接材24とが接触することにより、溶接対象18を流れる電流は、通電経路Aに加えて、電極4から、被溶接材22と被溶接材24との接触箇所を通って、被溶接材22および被溶接材24をまっすぐ通り、アース6に至る通電経路Bを流れる。このように、電流が通電経路Aに加えて通電経路Bを流れるようになるため、電極4からアース6に電流が流れる通電経路における抵抗値は、
図5(b)に示すように、通電経路Aのみを流れる溶接の初期段階に比べて小さくなる。
【0053】
あらためて、複数箇所に溶接を行う場合について、
図6を用いて詳細に説明する。
【0054】
上述のように、溶接対象18は先の溶接により被溶接材22が反り、被溶接材22と被溶接材24との間に隙間が形成されている。この状態で溶接を開始すると、溶接部である電極4の配置位置において、被溶接材22と被溶接材24とは接触していない。そのため、電極4からアース6に至る通電経路は通電経路Aのみとなる。そして、この際の溶接対象18を電流が流れる通電経路の抵抗値は比較的高い状態となる(
図6のIの状態)。
【0055】
次に、電極4による被溶接材22への加圧が進むと、被溶接材22がたわんでいき、被溶接材22と被溶接材24とが接触する。被溶接材22と被溶接材24とが接触することにより、溶接対象18を流れる電流は、通電経路Aに加えて、電極4から、被溶接材22と被溶接材24との接触箇所を通って、電極4の直下において被溶接材22および被溶接材24をまっすぐ通り、アース6に至る通電経路Bを流れる。被溶接材22と被溶接材24とが接触した瞬間においては、被溶接材22と被溶接材24との接触面32の接触面積は比較的狭い。接触面32が狭いため、接触面32における抵抗値は高く、通電経路は通電経路Aが支配的である。その後、電極4による被溶接材22への加圧がさらに進むと、被溶接材22と被溶接材24との接触面38は接触面32に比べて面積が大きくなる。接触面38の面積が大きくなるにつれて通電経路Bを流れる電流が増大していき、通電経路Aと通電経路Bとを合わせて溶接対象18を電流が流れる通電経路の抵抗値が下がっていく(
図6のIIの状態)。
【0056】
そして、接触面38の面積が十分に大きくなると、通電経路Aと通電経路Bとを流れる電流が均一化され、溶接対象18を電流が流れる通電経路の抵抗値は一定となる(
図6のIIIの状態)。
【0057】
また、
図5(c)に示すように、電極4により被溶接材22を加圧することにより被溶接材22が被溶接材24に接触するのに加え、別の箇所でも被溶接材22と被溶接材24とが接触することがある。この場合、溶接対象18を流れる電流は、通電経路Aと通電経路Bとに加えて、通電経路Cを流れる。このような状況において、溶接箇所では被溶接材22と被溶接材24との接触面積は適切な接触面積となっていないにもかかわらず、通電経路A,B,Cを電流が流れるため、測定された抵抗値が低下する場合がある。
【0058】
以上のように、被溶接材間の隙間の有無や、被溶接材間の接触面積によって、電流が流れる通電経路の抵抗値が変化する。抵抗値の変化は、通電経路を流れる電流の電流密度に依存する。電流密度は、溶接の強度や溶接範囲、被溶接材22または被溶接材24の表面状態等の溶接品質に影響を与える。電流の印加条件は、想定される被溶接材間の接触状況や、要求される溶接品質に応じてあらかじめ設定されている。そのため、被溶接材間に想定外の隙間が生じていたり、溶接箇所における被溶接材間の接触が不十分である等の想定外の状態になったような場合、溶接品質を確保できない場合がある。そのため、本発明の溶接装置1(
図1参照)は、電流が流れる通電経路の抵抗値を測定し、測定された抵抗値により、被溶接材間が接触したことを検出する。さらに、
図5(c)のように溶接箇所の接触面積が不足しているにもかかわらず他の箇所で被溶接材間が接触することにより抵抗値が所定の値以下になった状態を排除するため、電極4の変位量を測定する。そして、抵抗値が所定の値以下になったとしても、電極4の変位量が所定の値に達していない場合は、溶接箇所の接触面積が適切な面積に達していないとして本溶接を開始しない。抵抗値が所定の値以下になり、かつ、電極4の変位量が所定の値以上になって初めて、適切な電流の印加条件で本溶接を開始する。このように、通電経路の抵抗値と電極4の変位量とで、溶接箇所の被溶接材間の接触面積が適切な面積になったことを判断し、最適な電流の印加条件で本溶接を開始することで、安定した溶接品質の溶接を行うことができる。なお、最適な電流の印加条件は、例えば、電流の電流値や電流の導通時間、あるいはこれらの両方等を最適化することにより行われる。また、電流の電流値を多段階に変化させても良い。
【0059】
以下、本発明の溶接装置における、具体的な実施例について説明する。
【0060】
(実施例1)
図1および
図7,
図8を用いて、実施例1における溶接装置の溶接動作について説明する。
【0061】
図7は実施例1における溶接中の抵抗値の変化と電流の印加条件との関係を示す図であり、
図7(a)は隙間に応じた抵抗値の変化を示すグラフ、
図7(b),(c)は隙間に応じた電流の印加条件を示すグラフである。
図8は実施例1における溶接方法の工程を示すフロー図である。
【0062】
実施例1における溶接装置の溶接動作では、まず、仮溶接として、電極4から溶接対象18に一定の電流値I0の電流を印加しながら、抵抗測定器14により溶接対象18を電流が流れる通電経路の抵抗値を測定する。同時に、電極4の変位量を測定する。そして、電極4の変位量が所定の値Δx以上となり、かつ抵抗値がR0以下となることを検出するまで電流値I0の電流を印加する。抵抗値R0は、被溶接材間が接触し、接触面の接触面積があらかじめ定められた面積になった場合に想定される抵抗値である。また、所定の変位量Δxは、接触面の接触面積があらかじめ定められた面積になると想定される電極4の変位量である。仮溶接は、実際に被溶接材間を接合する本溶接の電流値に比べて低い電流値I0の電流を印加して行われ、被溶接材間の接触面積が所定の面積になることを検出するために行うものである。
【0063】
例えば、被溶接材間に隙間がない場合、
図7(a)の抵抗変化44に示すように、電流を印加し始めてからすぐに抵抗値が低下し、通電時間T1において抵抗値がR0となる。また、被溶接材間に隙間がある場合、
図7(a)の抵抗変化46に示すように、電流を印加し始めた後しばらくは抵抗値が一定で、抵抗値が下がり始めてからも、被溶接材間に隙間がない場合と比べて抵抗値の低下速度が遅い。そのため、T1より遅い通電時間T2において抵抗値がR0となる。これは、被溶接材間に隙間がある間は抵抗値が一定となり、被溶接材間が接触しても、電極4によって溶接対象18が加圧されて被溶接材間の接触面積が所定の面積になるまで時間を要するためである。同時に電極4の変位量を確認することにより、予定外の箇所で被溶接材間が接触して抵抗値のみが低下している状態を排除し、より確実に、被溶接材間の接触面積が所定の面積になることを検出することができる。
【0064】
次に、抵抗値がR0となると、本溶接を行う。本溶接においては、上述の所定の面積で、被溶接材間が接触している場合に適切な溶接が行われるように、あらかじめ定められた印加条件で、電極4から溶接対象18に電流が印加される。
【0065】
例えば、被溶接材間に隙間がない場合、
図7(b)に示すように、電極4の変位量が所定の値Δx以上となり、かつ抵抗値がR0となって所定の面積で被溶接材間が接触した時点である通電時間T1から、あらかじめ定められた印加条件で電極4から溶接対象18に電流が印加される。また、被溶接材間に隙間がある場合、
図7(c)に示すように、電極4の変位量が所定の値Δx以上となり、かつ抵抗値がR0となって所定の面積で被溶接材間が接触する通電時間T2まで電流値I0での電流の印加を継続し、通電時間T2からあらかじめ定められた印加条件で電極4から溶接対象18に電流が印加される。
【0066】
次に、実施例1における溶接装置の動作フローを整理する。
【0067】
まず、仮溶接として、電極4は、溶接対象18を所定の力で加圧しながら、溶接対象18に電流値I0の電流を印加し始める(
図8のステップ1)。次に、電流値I0の電流が印加された状態で、変位量測定器15により、仮溶接開始座標から電極4が移動した変位量を測定する(
図8のステップ2)。
【0068】
次に、制御装置16は、測定された変位量を確認し、変位量があらかじめ定められたΔx以上であるか否かを判断する(
図8のステップ3)。変位量がΔx以上である場合はステップ4に処理を移行し、変位量がΔx以上でない場合は、変位量がΔx以上となるまで、変位量がΔx以上であるか否かの判断を繰り返す。
【0069】
次に、電流値I0の電流が印加された状態で、抵抗測定器14により溶接対象18を電流が流れる通電経路の抵抗値を測定する(
図8のステップ4)。そして、制御装置16は、測定された抵抗値を確認し、抵抗値がR0以下であるか否かを判断する(
図8のステップ5)。抵抗値がR0以下である場合はステップ6に処理を移行し、抵抗値がR0以下でない場合は、抵抗値がR0以下となるまで、抵抗の測定と抵抗値がR0以下であるか否かの判断を繰り返す。抵抗値がR0以下となった時点で、電極4からの加圧を制御し、電極4から溶接対象18に加わる圧力を一定とすることが好ましい。これにより、以後被溶接材間の接触面積が変化することを抑制することができる。
【0070】
次に、抵抗値がR0以下となった時点で本溶接を行う。制御装置16は、タイマー12を制御して、あらかじめ定められた印加条件で電極4から溶接対象18に電流を印加させる。具体的には、制御装置16は、通電時間T1から電流値I1の電流を時間Taの間印加させる(
図8のステップ6)。その後、制御装置16は、電流値I2の電流を時間Tbの間印加させる(
図8のステップ7)。
【0071】
このように、実施例1における溶接装置では、被溶接材間の接触面積が所定の面積である場合の電流の印加条件をあらかじめ定めておく。また、所定の接触面積において、あらかじめ定めた一定の電流値の電流が溶接対象18を流れた場合の抵抗値を求めておく。さらに、被溶接材間の接触面積が所定の面積となるのに必要な電極4の変位量をあらかじめ想定しておく。そして、仮溶接にて一定の電流値の電流を流して、電極4の変位量が所定の値以上となり、かつ抵抗値が所定の抵抗値以下になる通電時間を検出し、この時間に被溶接材間の接触面積が所定の面積になったと想定する。この時間以後、あらかじめ定められた電流の印加条件で、電極4から溶接対象18に電流を印加する。これにより、被溶接材間の接触面積が所定の面積になったことを検出し、この接触面積に適した印加条件の電流を印加して溶接を行うため、常に適切な電流の印加条件で溶接を行うことができ、溶接品質を安定させることができる。
【0072】
なお、実施例1における説明では、電極4の変位量が所定の値以上となることを確認してから、抵抗値が所定の値以下となることを確認したが、変位量の測定と抵抗値の測定の順番は任意である。また、本溶接を、電流値I1の電流を時間Taの間印加し、電流値I2の電流を時間Tbの間印加させて2段階の溶接を行ったが、本溶接の電流の印加条件は任意である。例えば、一定の電流値の電流を一定時間印加するだけでも良いし、断続的に3段階や7段階等の、多段階の溶接を行っても良く、あるいは連続的に電流値を変化させて溶接を行っても良い。
(実施例2)
【0073】
図1および
図9,
図10を用いて、実施例2における溶接装置の溶接動作について説明する。
【0074】
図9は実施例2における溶接中の抵抗値の変化と電流の印加条件との関係を示す図であり、
図9(a)は隙間に応じた抵抗値の変化を示すグラフ、
図9(b),(c)は隙間に応じた電流の印加条件を示すグラフである。
図10は実施例2における溶接方法を示すフロー図である。
【0075】
実施例2における溶接装置の溶接動作では、まず、仮溶接として、電極4から溶接対象18に一定の電流値I0の電流を印加しながら、電極4の変位量を測定する。そして、変位量があらかじめ定めた変位量Δxとなった時点で、抵抗測定器14により溶接対象18を電流が流れる通電経路の抵抗値を測定する。変位量Δxとなった通電時間をT0とする。ここで、溶接対象18における通電経路の抵抗値は、電流の電流値が一定の場合、電流の電流密度に比例し、電流密度は被溶接材間の接触面の接触面積に比例する。そのため、あらかじめ、通電経路の抵抗値と被溶接材間の接触面の接触面積との関係を求めておくことにより、通電時間T0における抵抗値を求めて、その時点での被溶接材間の接触面の接触面積を算出することができる。なお、変位量Δxは、被溶接材間が接触して、溶接をかいしするのに最適な接触面積となると想定される電極4の変位量である。仮溶接は、実際に被溶接材間を接合する際の電流値に比べて低い電流値I0の電流を印加して行われ、通電時間T0における被溶接材間の実際の接触面の接触面積を求めるために行うものである。
【0076】
例えば、被溶接材間に隙間がない場合、
図9(a)の抵抗変化44に示すように、電流を印加し始めてからすぐに抵抗値が低下していく。また、被溶接材間に隙間がある場合、
図9(a)の抵抗変化46に示すように、電流を印加し始めた後しばらくは抵抗値が一定で、抵抗値が下がり始めてからも、被溶接材間に隙間がない場合と比べて抵抗値の低下速度が遅い。そのため、通電時間T0においては、被溶接材間に隙間がある場合の方が被溶接材間に隙間がある場合より抵抗値が高くなる。これは、被溶接材間に隙間がある間は抵抗値が一定となり、被溶接材間が接触しても、電極4によって溶接対象18が加圧されて被溶接材間の接触面積が拡大するのに時間を要するためである。
【0077】
次に、測定された抵抗値から求められる被溶接材間の接触面積に応じて、本溶接を行う。本溶接においては、被溶接材間の接触面積に応じて、それぞれに最適な電流の印加条件があらかじめ規定されている。そして、測定された抵抗値に応じて最適な電流の印加条件が選択され、選択された印加条件で、電極4から溶接対象18に電流が印加される。
【0078】
例えば、被溶接材間に隙間がない場合、
図9(b)に示すように、通電時間T0において抵抗値がR1であるので、抵抗値がR1である場合に最適な電流の印加条件で電極4から溶接対象18に電流が印加される。具体的には、通電時間T3から通電時間T4まで電流値I3の電流を印加し、通電時間T4から通電時間T5まで電流値I4の電流を印加する。また、被溶接材間に隙間がある場合、
図9(c)に示すように、通電時間T0において抵抗値がR2であるので、抵抗値がR2である場合に最適な電流の印加条件で電極4から溶接対象18に電流が印加される。具体的には、通電時間T6から通電時間T7まで電流値I5の電流を印加し、通電時間T7から通電時間T8まで電流値I6の電流を印加する。
【0079】
次に、実施例2における溶接装置の動作フローを整理する。
【0080】
まず、仮溶接として、電極4は、溶接対象18を所定の力で加圧しながら、溶接対象18に電流値I0の電流を印加する(
図10のステップ1)。次に、電流値I0の電流が印加された状態で、変位量測定器15により、仮溶接開始座標から電極4が移動した変位量を測定する(
図10のステップ2)。
【0081】
次に、制御装置16は、測定された変位量を確認し、変位量があらかじめ定められたΔxであるか否かを判断する(
図10のステップ3)。変位量がΔxである場合はステップ4に処理を移行し、変位量がΔxでない場合は、変位量がΔxとなるまで、変位量がΔxであるか否かの判断を繰り返す。ここで、変位量がΔxとなった通電時間を通電時間T0とする。
【0082】
次に、制御装置16は、抵抗測定器14により測定された抵抗値を確認し(
図10のステップ4)、測定された抵抗値に応じて最適な電流の印加条件を選択する(
図10のステップ5)。制御装置16は、あらかじめ定められた複数の印加条件から、測定された抵抗値における印加条件として最適な印加条件を選択する。通電時間T0となった時点で、電極4からの加圧を制御し、電極4から溶接対象18に加わる圧力を一定とすることが好ましい。これにより、以後被溶接材間の接触面積が変化することを抑制することができる。
【0083】
次に、選択された電流の印加条件で本溶接を行う。制御装置16は、タイマー12を制御して、選択された印加条件で、電極4から溶接対象18に電流を印加させる(
図10のステップ6)。
【0084】
このように、実施例2における溶接装置では、複数の被溶接材間の接触面積それぞれに対応する最適な電流の印加条件を、測定された抵抗値と紐付けてあらかじめ定めておく。さらに、被溶接材間の接触面積が所定の面積となるのに必要な電極4の変位量をあらかじめ想定しておく。そして、仮溶接にて、一定の電流値の電流を流して、電極4の変位量が一定の値となった時点における抵抗値を測定し、測定された抵抗値に対応する電流の印加条件を選択する。その後、選択された電流の印加条件で、電極4から溶接対象18に電流を印加する。これにより、電極4の変位量が所定の値となって、被溶接材間の接触面積が溶接に適した面積に近い状態における通電経路の抵抗値を測定し、抵抗値に対応する被溶接材間の接触面積に対して最適となる印加条件で電流を印加し、溶接を行うため、常に適切な電流の印加条件で溶接を行うことができ、溶接品質を安定させることができる。
【0085】
なお、実施例2における説明では、抵抗値を複数想定し、それぞれの抵抗値に対応する電流の印加条件をあらかじめ定めた構成としたが、制御装置16が、測定された抵抗値に応じた最適な電流の印加条件をその都度自動的に設計する構成としても良い。例えば、制御装置16に、測定された抵抗値に応じた最適な電流の印加条件を設計するプログラムを備えても良い。測定された抵抗値に応じた最適な電流の印加条件をその都度自動的に設計することにより、測定された抵抗値に応じたより最適な電流の印加条件で溶接を行うことができる。そのため、より安定した溶接品質の溶接を行うことが可能となる。
【0086】
また、本溶接として、2段階の溶接を行ったが、本溶接の電流の印加条件は任意である。例えば、一定の電流値の電流を一定時間印加するだけでも良いし、3段階や7段階等の、印加時間と電流値の組合せを複数設ける多段階の溶接を行っても良い。
なお、以上の説明は、インダイレクト溶接を例に説明したが、ダイレクト溶接やシリーズ溶接等の、他の抵抗溶接においても実施することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 溶接装置
4 電極
6 アース
14 抵抗測定器
15 変位量測定器
16 制御装置
17 シリンダー本体
19 シリンダーヘッド
21 シリンダー
22 被溶接材
23 座標
24 被溶接材
25 座標
26 溶接箇所
28 被溶接材
39 接触面