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特許7158153ホットスタンプ成形品の製造方法、ホットスタンプ成形品用金型及び該金型を用いて成形されたホットスタンプ成形品
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  • 特許-ホットスタンプ成形品の製造方法、ホットスタンプ成形品用金型及び該金型を用いて成形されたホットスタンプ成形品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】ホットスタンプ成形品の製造方法、ホットスタンプ成形品用金型及び該金型を用いて成形されたホットスタンプ成形品
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/38 20140101AFI20221014BHJP
   B21D 22/20 20060101ALI20221014BHJP
   B21D 24/00 20060101ALI20221014BHJP
   B21D 22/26 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
B23K26/38 A
B21D22/20 H
B21D22/20 G
B21D24/00 F
B21D22/26 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018022175
(22)【出願日】2018-02-09
(65)【公開番号】P2019136742
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】和泉 俊介
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-145168(JP,A)
【文献】再公表特許第2016/088665(JP,A1)
【文献】特開2016-087656(JP,A)
【文献】特開2009-072801(JP,A)
【文献】特開2013-146779(JP,A)
【文献】特開2012-206166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/38
B21D 22/20
B21D 24/00
B21D 22/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス成形されたホットスタンプ材の一部をレーザにより切断したホットスタンプ成形品の製造方法であって、
前記ホットスタンプ材を金型で所定の形状にプレス成形する際に、該ホットスタンプ材の所定領域の板厚をその周辺領域よりも薄くなるようにプレスするプレス工程と、
前記ホットスタンプ材の前記所定領域にレーザを照射して切断する切断工程と、を含み、
前記プレス工程は、前記ホットスタンプ材の前記所定領域を前記金型の内面に形成された凸部に位置させてプレスすることにより、前記ホットスタンプ材の一方の表面にのみ凹部を形成して前記所定領域の板厚を薄くし、前記凹部は、製品側よりもトリム側の方の深さが浅くなる傾斜状又は段差状の底面を有し、
前記切断工程において、前記凹部が形成された面と反対側の面からレーザを照射することを特徴とするホットスタンプ成形品の製造方法。
【請求項2】
前記凸部は、プレス成形によってホットスタンプ材の板厚が増加する領域に形成されることを特徴とする請求項1に記載のホットスタンプ成形品の製造方法。
【請求項3】
レーザにより切断されたホットスタンプ材は、端縁部に前記凹部による窪み部を有し、
前記切断工程後、前記ホットスタンプ材と他の鋼板材とを前記窪み部が該鋼板材に対向した状態で積層し、該窪み部の非形成領域で前記ホットスタンプ材と前記鋼板材とを溶接する溶接工程を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のホットスタンプ成形品の製造方法。
【請求項4】
固定用金型と、該固定用金型と対向する移動用金型と、を備えたホットスタンプ成形品用金型であって、前記固定用金型及び前記移動用金型のうちの一方の金型の内面であって該金型内に載置されるホットスタンプ材の所定領域と対応する領域に、前記ホットスタンプ材の板厚よりも高さの低い凸部が設けられ、前記凸部は、前記ホットスタンプ材の製品側よりもトリム側の方が、突出高さが低くなる傾斜状であるホットスタンプ成形品用金型を用いて成形されたホットスタンプ成形品であって、
表面にめっき皮膜を有し、レーザ切断された端縁部の板厚が、その周辺領域の板厚よりも薄く、該端縁部は、端縁に向かって板厚が大きくなる傾斜状であることを特徴とするホットスタンプ成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形されたホットスタンプ材の一部をレーザにより切断するホットスタンプ成形品の製造方法、ホットスタンプ成形品用金型、及び該金型を用いて成形されたホットスタンプ成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間プレスされたホットスタンプ材は、高強度部材であるため、プレス加工後のトリミングや穴抜き加工を金型によるせん断加工によって実施すると金型寿命が著しく低下する。それ故、一般的にはレーザによる切断が行われている(例えば、特許文献1)。
【0003】
レーザ切断では、せん断加工によって生じるせん断用金型のメンテナンスを無くすことができる。また、せん断時の残量応力に基づくホットスタンプ成形品の遅れ破壊の発生を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-101604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、プレス成形によってホットスタンプ材の板厚が変化し、プレス加工後の切断部の板厚が増加してしまうと、レーザ切断時のドロス発生量の増加や、切断不良が発生してしまう。
【0006】
このような問題の対応策として、切断速度を低下したり、レーザ出力を増加したりすることが挙げられる。しかしながら、切断速度を遅くすると生産性が低下してしまうため、生産性を維持するための設備増加が必要となる。また、レーザ出力を増加するためには高価な設備投資が必要となる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、板厚が比較的大きなホットスタンプ材に対し、生産性を維持し且つコストを抑えながら、レーザ切断時のドロスの発生や、切断不良を防止することのできるホットスタンプ成形品の製造方法、ホットスタンプ成形品用金型、及び該金型によって成形されたホットスタンプ成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載のホットスタンプ成形品の製造方法は、プレス成形されたホットスタンプ材の一部をレーザにより切断したホットスタンプ成形品の製造方法であって、前記ホットスタンプ材を金型で所定の形状にプレス成形する際に、該ホットスタンプ材の所定領域の板厚をその周辺領域よりも薄くなるようにプレスするプレス工程と、前記ホットスタンプ材の前記所定領域にレーザを照射して切断する切断工程と、を含み、前記プレス工程は、前記ホットスタンプ材の前記所定領域を前記金型の内面に形成された凸部に位置させてプレスすることにより、前記ホットスタンプ材の一方の表面にのみ凹部を形成して前記所定領域の板厚を薄くし、前記凹部は、製品側よりもトリム側の方の深さが浅くなる傾斜状又は段差状の底面を有し、前記切断工程において、前記凹部が形成された面と反対側の面からレーザを照射することを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、プレス工程において、ホットスタンプ材の所定領域、すなわち、レーザ切断する領域の板厚を薄く形成してから、該領域をレーザ切断するので、板厚が比較的大きなホットスタンプ材に対して、生産性を維持し且つ設備投資等のコストを抑えながら、レーザ切断時のドロスの発生や、切断不良を防止することが可能である。
【0011】
また、この構成によれば、金型の内面に形成された凸部にホットスタンプ材の所定領域を位置させてプレスすることで、レーザ切断する所定領域の板厚を簡易に薄くすることができる。
また、この構成によれば、レーザ切断した際に発生したドロスをホットスタンプ材の凹部内に入り込ませることができ、その結果、ドロスによる板厚の増加に伴う不具合を抑制することができる。
また、この構成によれば、レーザ切断によって発生したドロスを、製品から除去されるトリム側に流れるようにして、製品にドロスが付着することを防止することができる。
【0012】
また、請求項に記載の発明は、請求項に記載の製造方法において、前記凸部は、プレス成形によってホットスタンプ材の板厚が増加する領域に形成されることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、プレス成形によってホットスタンプ材が屈曲されることで板厚が変化し、レーザ切断する領域の板厚が増加する場合に、金型の凸部によってレーザ切断する領域の板厚を適切な薄厚に設定することができる。
【0018】
また、請求項に記載の発明は、請求項1又は2に記載の製造方法において、レーザにより切断されたホットスタンプ材は、端縁部に前記凹部による窪み部を有し、前記切断工程後、前記ホットスタンプ材と他の鋼板材とを前記窪み部が該鋼板材に対向した状態で積層し、該窪み部の非形成領域で前記ホットスタンプ材と前記鋼板材とを溶接する溶接工程を含むことを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、ホットスタンプ材の窪み部を他の鋼板材と対向させた状態で積層し、溶接するので、窪み部が製品表面に現れることがなく、製品の美観を良好に保つことができる。また、レーザ切断により発生したドロスは窪み部に収まるので、他の鋼板材と積層した際に、ドロスが該鋼板材と接触して溶接不良を起こすことを防止できる。
【0021】
この構成によれば、ホットスタンプ材をプレス成形した際に、金型の内面に形成された凸部によって、ホットスタンプ材の所定領域に凹部を形成し、該所定領域の板厚を薄く形成することができる。
【0022】
また、請求項に記載の発明は、固定用金型と、該固定用金型と対向する移動用金型と、を備えたホットスタンプ成形品用金型であって、前記固定用金型及び前記移動用金型のうちの一方の金型の内面であって該金型内に載置されるホットスタンプ材の所定領域と対応する領域に、前記ホットスタンプ材の板厚よりも高さの低い凸部が設けられ、前記凸部は、前記ホットスタンプ材の製品側よりもトリム側の方が、突出高さが低くなる傾斜状であるホットスタンプ成形品用金型を用いて成形されたホットスタンプ成形品であって、表面にめっき皮膜を有し、レーザ切断された端縁部の板厚が、その周辺領域の板厚よりも薄く、該端縁部は、端縁に向かって板厚が大きくなる傾斜状であることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、レーザ切断されたホットスタンプ成形品の端縁部の板厚が薄くなっているので、めっき皮膜を有していないレーザ切断部の面積を少なくして耐食性を向上することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るホットスタンプ成形品用金型、及び該金型によって成形されたホットスタンプ成形品によれば、板厚が比較的大きなホットスタンプ材に対し、生産性を維持し且つコストを抑えながら、レーザ切断時のドロスの発生や、切断不良を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施の形態であるホットスタンプ成形品の断面図。
図2図1に示すホットスタンプ成形品の要部拡大断面図。
図3】本発明の一実施の形態であるホットスタンプ成形品用金型の説明図。
図4】プレス成形されたホットスタンプ材を示す斜視図。
図5】ホットスタンプ成形品の切断工程を説明する図。
図6】切断工程におけるホットスタンプ材の要部拡大断面図。
図7】ホットスタンプ成形品の溶接工程を示す断面図。
図8】ホットスタンプ成形品の変形例を示す要部拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は本発明の一実施の形態であるホットスタンプ成形品の断面図であり、図2図1に示すホットスタンプ成形品の要部拡大図である。ホットスタンプ成形品10は、熱間プレス加工によって所定の形状に成形された鋼板12で構成され、その両面に、例えばアルミニウム等によるめっき皮膜14,15を有する。なお、図1,3-5,7では、めっき皮膜14,15の記載を省略している。本実施の形態のホットスタンプ成形品10は、長尺状に形成され、長手方向と直交する断面形状がハット(鍔付き帽子)形状になっている。このようなホットスタンプ成形品10は、例えば、車両のリンホースメント(補強部材)として好適に用いることができる。
【0027】
ホットスタンプ成形品10は、レーザ切断された端縁部の板厚h1が、その周辺領域16の板厚h2よりも薄くなっている。本実施の形態では、ホットスタンプ形成品10の一方の面(以下、第1面10aという)の端部が平坦に形成され、他方の面(以下、第2面10bという)の端縁部が窪み部11によって、その周辺領域16よりも窪んだ形状に形成されることによって、板厚h1が薄くなっている。
【0028】
ホットスタンプ成形品10は、図3に示すホットスタンプ成形品用金型20(以下、単に「金型20」という)を用いて基材となるホットスタンプ材30をプレス成形した後、その一部をレーザ切断することによって形成される。なお、図3(a)は金型20の断面図であり、図3(b)は金型20を型締した状態を示している。
【0029】
金型20は、下金型(固定用金型)21と、下金型21と対向配置される上金型(移動用金型)25とを備える。
【0030】
下金型21の内面21aであって、ホットスタンプ材30の所定領域と対応する領域には、凸部22,23が形成されている。ここで、ホットスタンプ材30の所定領域とは、ホットスタンプ材30をプレス成形した後にレーザ切断される領域であり、以下の説明では、この所定領域を切断領域と記載する。
【0031】
本実施の形態において凸部22,23が設けられた領域は、ホットスタンプ材30をプレス成形した際に、曲げ変形によってホットスタンプ材30の板厚が増加する領域と対応している。凸部22,23の高さは、それぞれ、プレス成形前のホットスタンプ材30の板厚よりも小さく設定されている。また、凸部22,23の幅は、後述するレーザ切断装置50による切断幅よりも大きく設定されている。
【0032】
上金型25は、図示しないプレス装置によって下金型21に対して接近・離間するように上下移動可能に構成される。上金型25の内面25aにおいて、下金型21の凸部22,23及びその周辺部と対向する領域は、凹凸のない平面状に形成される。
【0033】
次に、図3図7を用いてホットスタンプ成形品10の製造方法を詳説する。
【0034】
まず、図3(a)に示すように、上金型25を上昇させた状態で、高温に加熱されて軟化したホットスタンプ材30を下金型21の内面21aに載置する(載置工程)。ホットスタンプ材30は両面にめっき皮膜を有する鋼板からなり、後述の切断工程において切断される切断領域と下金型21の凸部22,23とが対向するように載置される。
【0035】
その後、図3(b)に示すように、上金型25を下降させてホットスタンプ材30をプレス成形する(プレス工程)。ホットスタンプ材30は成形と同時に金型20内で冷却され、焼き入れされる。
【0036】
図4に示すように、プレス成形後のホットスタンプ材30の切断領域には、金型20の凸部22,23と対応する凹部32,33が形成され、凹部32,33では板厚がその周辺領域よりも薄くなっている。図示例の凹部32,33は、断面が略矩形状の溝であり、この凹部32,33はホットスタンプ材30の切断ラインに沿って延在している。
【0037】
プレス成形されたホットスタンプ材30は、レーザ切断装置50によってレーザ加工して、その一部を除去する(切断工程)。図5はホットスタンプ材30の切断工程を説明する図であって、凹部32,33のうち、一方の凹部32における切断の様子を示している。なお、他方の凹部33についても同様にレーザ切断される。
【0038】
レーザ切断装置50は、図示していないレーザ発振器及び駆動部に接続されたレーザ加工ヘッド54を備える。レーザ加工ヘッド54は駆動部によってホットスタンプ材30の切断領域へ移動され、レーザ発振器によって発生されたレーザ56を先端部に取付けられたノズル54からホットスタンプ材30へ照射する。図5(a)に示すように、レーザ56は、凹部32が形成された面30bと反対側の面30aに照射され、図5(b)に示すように、凹部32が形成された領域で製品となるホットスタンプ成形品10と、製品から除去されるトリム部40とに分離される。ホットスタンプ成形品10及びトリム部40の端縁部には、それぞれ、凹部32の一部である窪み部11,42が形成され、端縁の板厚が薄くなっている。
【0039】
次に、図6を用いてホットスタンプ材40のレーザ加工について詳説する。図6(a)はレーザ切断前のホットスタンプ材30の要部断面図、図6(b)は切断後のホットスタンプ材30の要部断面図である。
【0040】
既述のとおり、ホットスタンプ材30の凹部32の幅W1は、照射されるレーザ56の幅W2よりも広く設定される。また、ホットスタンプ成形品10における窪み部11の幅寸法Dが、所定寸法以下になるように設定される。この所定寸法は、例えば、1~5mmであって、レーザ切断後の製品(すなわち、ホットスタンプ成形品10)の端縁17から、スポット溶接等を施す溶接部までの寸法よりも小さくなるように設定される。
【0041】
図6(b)に示すように、レーザ加工では、切断部付近にホットスタンプ材30の溶融物が再凝固して付着したドロス19が発生することがある。本実施の形態では、凹部32と反対側の面30aからレーザ56を照射することで、発生したドロス19を凹部32内、すなわち、窪み部11及び/又は窪み部42内)に入り込ませることができる。
【0042】
上述したホットスタンプ成形品10の製造方法では、プレス工程において、ホットスタンプ材10の切断領域をその周辺領域よりも薄厚にしてからレーザ加工を行っているので、板厚が比較的大きなホットスタンプ材に対して、レーザ切断速度を低下させたり、別途、高出力のレーザ切断装置を増設したりすることなく、良好なレーザ加工を施すことができる。これにより、高価な設備投資や人員増加等の製造コスト増加を抑えながら、レーザ加工における切断不良を防止し、生産性を維持することができる。
【0043】
また、ホットスタンプ材30の凹部32,33は、金型20に凸部を形成する簡易な構造で形成することができ、さらに、プレス工程において、ホットスタンプ材30は加熱されて軟化した状態にあるため、凹部32,33を容易に形成することができる。
【0044】
また、板厚の増加に伴うレーザ加工時のドロスの発生を防ぐことができる。特に、ホットスタンプ材30のプレス成形では、ホットスタンプ材30を屈曲させることによる部分的な板厚の増加や減少が発生するが、板厚が増加する領域とホットスタンプ材30の切断領域とが重なる場合であっても、上述の金型20を用いることで、切断領域の板厚をレーザ加工に適した厚さに調節することが可能である。
【0045】
さらに、レーザ加工において、レーザ56を凹部32と反対側の面30aから照射することで、発生したドロス19を凹部32内に入り込ませることができる。これにより、ドロス19によるホットスタンプ成形品10の溶接時の不具合を防止することが可能である。
【0046】
図7は、ホットスタンプ成形品10を他の鋼板材60と溶接する溶接工程を示す断面図である。ホットスタンプ成形品10は、窪み部11を鋼板材60に対向させた状態で鋼板材60と積層され、第1電極62と、第1電極62と対向配置される第2電極63とを備えたスポット溶接装置によって溶接接合される。溶接は窪み部11の非形成領域で行われる。本実施の形態のホットスタンプ成形品10では、端縁部の窪み部11にドロス19が収まるので、鋼板材60と溶接接合する際に、ドロス19が鋼板材60の表面60aと接触して部材間の面接触を妨げ、溶接不良を起こすことを防止することができる。また、窪み部11が製品表面に現れることがないので、製品の美観を良好に保つことができる。
【0047】
なお、上述の実施の形態では、ホットスタンプ材30においてトリミングを行う領域に凹部32,33を形成しているが、これに代えて、又はこれとともに、ホットスタンプ材30において穴抜き加工を行う切断領域に、金型20によって凹部を設けて薄厚にしてから、レーザ切断を行ってもよい。
【0048】
(変形例)
次に、本発明のホットスタンプ成形品10の変形例を説明する。なお、図8(a)及び(b)は、それぞれ、ホットスタンプ成形品10の変形例を示す要部拡大断面図である。なお、図8において、上述した実施の形態と同様の要素には、同一の符号を付し、その説明を省略する。図8ではレーザ切断後の状態を実線で示しており、切断前のホットスタンプ材30の形状を破線で示している。
【0049】
図8(a)に示す変形例1では、金型20に設けた凸部22の形状により、ホットスタンプ材30の凹部32の底面を傾斜状に形成している。この傾斜底面は、製品側からトリム側に向かって深さが浅くなるように傾斜している。ホットスタンプ材30に対し、凹部32と反対側の面10aからレーザ56を照射すると、溶融物が凹部32の傾斜面に沿ってトリム側に流れ、トリム部40の窪み部42にドロス19が付着する。これにより、製品となるホットスタンプ成形品10にドロス19が付着することを防止することができる。
【0050】
図8(b)に示す変形例2では、金型20に設けた凸部22の形状により、ホットスタンプ材30の凹部32の底面を段差状に形成している。この段差底面は、製品側からトリム側に向かって深さが浅くなる段差形状を有している。ホットスタンプ材30に対し、面10aからレーザ56を照射すると、溶融物が凹部32の段差に沿ってトリム側に流れ、トリム部40の窪み部42にドロス19が付着する。これにより、製品となるホットスタンプ成形品10にドロス19が付着することを防止することができる。
【0051】
なお、本発明は上述した実施の形態や変形例に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0052】
例えば、上述の実施の形態では下金型21に凸部22,23を設けているが、これに代えて、上金型25の内面25aに凸部を設け、これと対向する下金型21の内面21aを平面状にしてもよい。また、これに代えて、上金型25と下金型21の両方に凸部を設けてホットスタンプ材30の切断領域を薄厚に形成してもよい。
【符号の説明】
【0053】
10 ホットスタンプ成形品
11 窪み部
20 金型(ホットスタンプ成形品用金型)
21 下金型
22,23 凸部
25 上金型
30 ホットスタンプ材
32,33 凹部
50 レーザ切断装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8