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  • 特許-タッチペン 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】タッチペン
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/03 20060101AFI20221014BHJP
   G06F 3/041 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
G06F3/03 400Z
G06F3/041 495
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018156025
(22)【出願日】2018-08-23
(65)【公開番号】P2020030633
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】森谷 直彦
(72)【発明者】
【氏名】神谷 俊史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 等
【審査官】星野 裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-168729(JP,A)
【文献】実開平05-092842(JP,U)
【文献】特開2015-064647(JP,A)
【文献】特開2015-032285(JP,A)
【文献】特開2016-091089(JP,A)
【文献】特開2014-102788(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/03
G06F 3/041
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペン軸本体と、前記ペン軸本体に取り付けられたペン先とを有し、
前記ペン先が、熱可塑性樹脂およびカーボンナノチューブの混合物を加熱した焼結体からなり、
前記熱可塑性樹脂がポリエチレンパウダーであることを特徴とするタッチペン。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブの配合量が、熱可塑性樹脂およびカーボンナノチューブの合
計中、5~20wt%であることを特徴とする請求項1に記載のタッチペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量式タッチペンに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンやタブレットPC等の携帯電子機器の画面を専用のタッチペンで操作する形式が急速に普及しており、なかでも静電容量方式のタッチパネルに対応したタッチペンが多く提案されている。
【0003】
このようなタッチペンとしては、パネルに損傷を与えないように導電性ゴム材料を中空状に成型して先端に挿着し、ペン本体と導通させるようにしたものが知られている。例えば、特許文献1では、エピハロヒドリン系ゴムに対して、カーボンナノチューブを少なくとも4.8wt%分散させて導電性ゴム材料をペン先に用いたタッチペンが開示されている。引用文献1のタッチペンは、ゴム製のペン先にカーボンナノチューブを分散させることにより、ペン先の硬度を50°以下にして柔軟性を維持しつつ、導電性は高く、体積抵抗率は低く、細いペン先であってもパネルに対して良好な摺動性を有している。しかしながら、ゴム材料でできたペン先は、パネルに接触または押圧されると、凹んだ状態に変形したり、繰り返し使用し続けると、磨耗が発生するなど、耐久性が充分とはいえない。
【0004】
一方、特許文献2では、タッチパネルに対する接触位置を電位により検出するためのタッチ用入力ペンとして、検出部をカーボンブラックと熱可塑性樹脂との配合で構成した形態が開示されている。しかしながら、熱可塑性樹脂にカーボンブラックを配合したものは、導電性を付与するために必要なカーボンの配合量が多くなるため、ペン先をパネルに接触させたときの感触が硬くなる傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-91089号公報
【文献】実開平5-92842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、タッチパネルに損傷を与える虞がなく、長期に渡って使用しても、ペン先が磨耗したり、変形したりすることのない、静電容量方式のタッチペンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のタッチペンは、ペン軸本体と、前記ペン軸本体に取り付けられたペン先とを有し、前記ペン先が、熱可塑性樹脂およびカーボンナノチューブの混合物を加熱した焼結体からなり、前記熱可塑性樹脂がポリエチレンパウダーであることを特徴とする。
このような構成を備えることで、本発明のタッチペンは耐久性を有しながら、パネルに
接触させたときにスムーズな感触を損なわない特性を持つことができる。
前記カーボンナノチューブの配合量は、熱可塑性樹脂およびカーボンナノチューブの合
計中、5~20wt%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、タッチペンのペン先として、熱可塑性樹脂、具体的にはポリエチレンと、所定量のカーボンナノチューブとの混合物からなる焼結体を用いることで、耐久性が向上しつつ、かつ、パネルに接触させたときにスムーズな感触が得られる静電容量方式のタッチペンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明のタッチペンの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のタッチペンは、ペン軸本体と、該ペン軸本体に取り付けられたペン先とを有し、該ペン先が、熱可塑性樹脂およびカーボンナノチューブの混合物の焼結体からなる。
以下、本発明に係るタッチペンおよびペン先の実施形態について説明する。本発明のタッチペンは、図1に示すように、ペン先2、ペン軸本体3およびキャップ4で構成され、前記ペン軸本体3の一端の窪みにペン先2が装着され、他端にキャップ4が装着された構造を有する。なお、図1は、タッチペンの形態の基本的構成を示すものであり、このような形態以外に、様々な構成で配置または設計されうる。
本明細書では、タッチペンを構成する部材のうち、主にペン先2について詳細に説明し、その他の部材については説明を省略する。
【0011】
熱可塑性樹脂は、加工しやすく、また、価格も比較的安いことから、ペン先の材料として好適である。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS樹脂)、およびポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA樹脂)等が挙げられる。
【0012】
特に、ポリエチレンパウダーは、その平均粒子径が100~350μmであることが好ましい。平均粒子径は、JIS Z8815に準拠したふるい分け試験方法により求められる。
【0013】
カーボンナノチューブは、電気伝導性および熱伝導性に優れた材料である。カーボンナノチューブには、炭素原子が網状に結合し、一層グラフェンシートが筒状になったシングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)、層間が0.35~0.40nmで二層が筒状になったダブルウォールカーボンナノチューブ(DWCNT)、および、グラフェンが筒状に丸まったものが同心円状に複数重なったマルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)等がある。本発明では、SWCNT、DWCNTおよびMWCNTのいずれのカーボンナノチューブを用いてもよいが、比較的安価な多層のカーボンナノチューブが用いられる。
【0014】
カーボンナノチューブの長さは、0.1~100μmが好適であり、0.1~50μmがより好適であり、0.1~30μmがさらに好適である。カーボンナノチューブの直径は、5~200nmが好適であり、8~160nmがより好適であり、9~120nmがさらに好適である。
【0015】
前記カーボンナノチューブの配合量は、熱可塑性樹脂およびカーボンナノチューブの合計中、5~20wt%が好適であり、7~15wt%がより好適である。カーボンナノチューブの配合量が20wt%を超えると、ペン先をパネルに接触させたときの感触が硬くなる傾向がある。一方、カーボンナノチューブの配合量が5wt%に満たないと、タッチペンとして必要な導電性が充分に得られないことがある。
【0016】
なお、熱可塑性樹脂およびカーボンナノチューブの混合物中には、本発明の効果を損ねない範囲内で、他の成分、例えば酸化防止剤および光安定剤などを含んでもよい。これらの他の成分の含有割合は、熱可塑性樹脂およびカーボンナノチューブの合計に対して、0.001~1wt%であることが好ましい。
【0017】
本発明で用いられるペン先は、熱可塑性樹脂およびカーボンナノチューブの混合物を加熱した焼結体からなる。焼結体は、熱可塑性樹脂およびカーボンナノチューブを混合後、これらの材料の融点よりも低い温度で該混合物を加熱することによって、両材料の粒子が固まって得られる緻密な物質である。加熱前には、本発明の効果を損なわない範囲内で、混合物中に、ポリオキシエチレンラウリルエーテルおよびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の界面活性剤などを添加して、両材料のなじみを良くしてもよい。
【0018】
焼結体は、熱可塑性樹脂およびカーボンナノチューブの混合物をペン先形状の金型に入れて、電気炉等の加熱装置内で175~190℃および30~60分の条件下に加熱することによって得られる。前記加熱は、大気中で行ってもよいし、窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気下に行ってもよい。
【0019】
さらに、得られたペン先をペン軸本体に挿着することで、タッチペンが得られる。ペン軸本体には汎用品が使用可能であり、該ペン軸本体の形状に合わせて、ペン先の形状を適宜成型する。
【0020】
本発明で用いられるペン先の硬度(ショアA硬度)は50~90°、具体的には60~80°である。硬度が前記範囲内であるとき、タッチペンをパネルに接触させたときに、良好な摺動性を維持するのに充分な柔軟性を有するといえる。
また、このようなペン先の体積抵抗率は、1~106Ω・cm、具体的には10~104Ω・cmである。体積抵抗率が前記範囲内であるとき、パネル上の接触位置を検出するのに必要な導電性をタッチペンに付与することができる。
【0021】
本発明のタッチペンは、ガラス板に荷重0.5Nで接触させ、その状態でスライドさせたときに、抵抗値がほぼ0.5Nを維持することから、すべり性が良好であるといえる。また、前記タッチペンをガラス板に荷重1.0Nで接触させ、その状態で1000mの往復運動を行った後も、外観に形状の変化が認められないことから、耐久性も良好である。
【実施例
【0022】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、下記実施例により制限されるものではない。
【0023】
[実施例1]CNT:10質量%
ポリエチレン粉(平均粒子径120μm;旭化成社製)27質量部、カーボンナノチューブ(直径9.5nm、長さ1.5μm、アスペクト比158;ナノシル社製)3質量部、およびポリオキシエチレンラウリルエーテル0.5質量部を蒸留水70質量部に混合・攪拌して分散体を得た。上記分散体をペン先形状の金型に入れ、電気炉内で180℃で40分間加熱して金型内で焼結し、焼結体を得た。
【0024】
[実施例2]CNT:5質量%
実施例1において、ポリエチレン粉を27質量部から28.5質量部に変更し、カーボンナノチューブを3質量部から1.5質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、焼結体を得た。
【0025】
[実施例3]CNT:20質量%
実施例1において、ポリエチレン粉を27質量部から24質量部に変更し、カーボンナノチューブを3質量部から6質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、焼結体を得た。
【0026】
[比較例1]カーボンブラック
実施例1において、カーボンナノチューブの代わりに導電性CB(VULCAN P;キャボット社製)に変更した以外は、実施例1と同様にして、焼結体を得た。
【0027】
[比較例2]ゴム
エピハロヒドリン系ゴムを89質量%、カーボンナノチューブ(直径9.5nm、長さ1.5μm、アスペクト比 158;ナノシル社製)を10質量%、加硫剤を1質量%の割合で混合した後、射出成型によりペン先を製造した。なお、エピハロヒドリン系ゴム、カーボンナノチューブおよび加硫剤の合計を100wt%とする。
【0028】
タッチペンのすべり性および耐久性について評価した。評価方法および結果を以下に示す。
[すべり性]
ガラス板にタッチペンを荷重0.5Nで接触させ、その状態でスライドさせてその抵抗値を計測した。荷重0.5N以下であれば良好であるとした。
実施例1のタッチペンは、0.33N、実施例2のタッチペンは0.48N、実施例3のタッチペンは0.3Nと良好なすべり性を示した。比較例1のタッチペンは、導電性が不足して反応が得られなかった。比較例2のタッチペンは0.28Nであった。
[耐久性]
ガラス板にタッチペンを荷重1.0Nで接触させ、その状態で1000mの往復運動を行った。外観の形状変化が認められなければ良好であるとした。
実施例1~3のタッチペンでは、試験前後の外観に変化がほとんど認められなかった。比較例2のタッチペンでは、磨耗による外観の変化が認められた。
【符号の説明】
【0029】
1 タッチペン
2 ペン先
3 ペン軸本体
4 キャップ
図1